「iLL」と一致するもの

interview with KILLahBEEN - ele-king

 KILLahBEENのライヴを体験した事があるだろうか?

「理屈は誰にでも振り回せる
切れる刃物だからリアル重んじる」
アルバム『夜襲』収録 "2014"


KILLahBEEN
夜襲

APOLLO REC

Hip Hop

Amazon

 バッチバチの言葉が舞う。ファースト・アルバム『公開』リリースの数年前に出会ったKILLahBEENは、アンダーグラウンドでは知らなければならない人物のひとりだった。初めて池袋bedで見たそのライヴはMCも含め、圧倒的以外の何ものでもなかった。
 ONE-LAWやKING104、そして何よりもBLYYの導きによって出会ったKILLahBEENは、厳格でいて、人のことをしっかりと見るMCだった。徹底的な現場主義という言葉通り、20年近いキャリアのなかでリリースした作品は2枚のアルバムと客演作品。彼はライヴでその名前を知らしめて来た。
 ファーストの『公開』から3年、約1年のライヴをやらない期間を経て、セカンド・アルバムとなる『夜襲』をリリース。この作品は、CLUBでのDJプレイやEATやGUINESSといったアーティストへのトラック提供やプロデュースを手掛け、2014年にEP「CIRKLE」をリリースしているNOZによるサポートがあって完成したとも聞いた。そんな事情もあって、取材にはNOZにも同席してもらった。
 このインタヴューが鋭利な言葉と音の裏側への手がかりになれば嬉しく思う。

DISPECT

いまでも若い頃見たZEEBRAになりたい。初めて誰かになりたいと思わされ、衝撃的だったあの日のZEEBRAになりたいと思ってる。これまではフロアーと向き合ったライヴという音楽それだけだった。

自己紹介をお願いします。

KILLahBEEN:KILLahBEENです。ラップを始めて20年です。ソロでは3年前にアルバム『公開』とその前にMIX CD『公開前』をリリース。昔にWAQWADOM ( KILLah BEEN / CASPER ACE / COBA 5000 / 本田Qによるグループ。2007年に出したアルバムはアンダーグラウンドクラッシックとヘッズ/アーティスト双方からの大きな支持を受けている。)でアルバムを1枚リリースしてます。

NOZ:NOZです。2014年の5月にEP 「CIRKLE"」 ( febbや仙人掌等が参加したEP。AKIYAHEADとDMJを迎えた“MICHI"は是非とも聴いて欲しい)をリリースしました。その前にEATの"THE EAT" ( EATは最近ではRYKEYのセカンド・アルバムやCENJUのファースト・アルバムに客演でも参加したNOZとは同郷の青森の怪人ラッパー )、GUINESSのアルバム『ME AND THE PAPES』の制作に関わってます。

EATのアルバムも制作にも関わってるんですね

N:がっつりっていう形ではないですが、何だかんだで関わってますね。

今回、NOZがKILLaHBEENのアルバムの制作面をサポートするっていうのはどういった経緯からですか?

K:俺はライヴばっかりじゃん。レコーディングに向けての姿勢とかマイクとの向き合い方とかイマイチわかってなくてさ。ライヴでフロアーしか相手にして来てないから。そこでひとり、楽曲制作の時にその辺示唆してくれる人が欲しくて。一度きりのライヴじゃなく、ずっとこの先残っていく楽曲を作る際、「今のバース良かったけど、ここをもうちょい」とか「もう一回」とか、そういう感じで指示出ししてもらったりでアルバムを完成させた。BIGGIEで言うところのPUFF DADDYみたいな感じの。

監修的なプロデュースですね。それってどちらからオファーしたんですが?

K:元々NOZがビートをやりたいって言ってくれて、1曲作った時点で自分っぽくないからもう1曲やらせてくれって、それでアルバムには2曲入れてるんだけど。まあ、両方ともNOZらしくないビートなんだけど(笑)。2曲作ってるし、普段も音楽を聴き合う仲ってのもあって、やろうと。過去にもEATの作品のときにスタジオにお邪魔した際も、指示出しとかしてたのも知ってたから。録音に集中する為の環境を作ってもらってた感じだね。

トラック提供が先でプロデュースする流れになったんですね。じゃあ今回いちばん最初に作った曲はやはり。

K:NOZとの曲だね。まず家でプリプロって感じで録って。俺のレコーディングの仕方なんだけど人によっては1曲1曲間隔開けながらスタジオ入って、一定の期間を持って録っていくみたいなのもあると思うんだけど、俺はまず全曲プリプロしてみてアルバム全体像ハッキリさせた上で、2日とか3日で全曲いっきに録っちゃう。ドーンって。自分はそのやり方でしか録音したことないし、それで間に合ってるから。

アルバムの緊張感はそういう制作状況も影響してるんですね。前作はプロデューサー的な人はいたんですか?

K:前作では、レコーディングを手伝ってくれたエンジニアが意見するっていう場面はあったけど、プロデューサーってのはいなかったね。音のことだけじゃなく、音に向き合う姿勢というかそういう部分で共有し合える間柄では無かったんだよね。金に邪魔されてたカンジよ。

録音をしてる状態だとあまり厳しい意見とかは言わない事が多いですよね。

K:言えないんだろね。そういったこともあり、今回は友人で、音楽を共有し合える仲、厳しくも意見を言えるNOZってなったんだろうね。JAY-Zが「音楽に嘘付く奴をスタジオに入れるな」って感じのことを言ってて。そういうこと。

NOZの視点としてはどの様にKILLahBEENを捉えて作ったんですか?

N:根本的にはBEENさんが持ってくるトラックありきの制作のなかで意見を言うという感じですね。ファーストも聴いてるので、まったく新しいものを作り上げようというよりは、その延長線上のセカンドを作ろうと思いましたね。BEENさんの持ってきたもののなかから新しいBEENさんを作るというか。ラップの手法というか録音の仕方だったり、そういう部分について言わせてもらいましたね。自分の曲も含めて新しい事はやりたい。そういうのはあって、延長線上とは言ったんですが、BEENさんの内面も含めて新しいものを出したいと思って作りましたね。

プロデューサー視点からのこの作品の聴きどころはどこになりますか?

N:まったりして聴くというよりは攻めてるというか。ヒップホップ全体もそういうものだと思うんですけど。普段の生活で攻めてるというか。そういう人に聴いて欲しいっていうのはありますね。何かわからないけど戦ってる人というか(笑)。

K:リスナーと共有できる話。レペゼンって言葉も曲で言ったりしてるけど。最近本質がわかってきて、レペゼンってものが。誰しもわかる話というか、怖い人でも優しい人でも、男でも女でも人として分かち合える普遍的な道理を代表してラップすることがレペゼン。

地元だったりとか、そういった意味でのレペゼンとは違う?

K:まぁ地元にも反りが合わない奴とかいたりって考えてくと、それは絶対とは言えなくなるじゃない。レペゼンBROOKLYNとか言ってるのを真似するタイプじゃないし、俺は。レペゼンの本質は地域というよりコミュニティの中にあるし、何より人に有り。

地元っていう考え方だと矛盾抱えてますもんね。

K:うん。俺は生まれは東京、育ちは福岡で、NOZは青森じゃん。だけど、同じ街の知らない奴をレペゼンする前に隣に居る奴とのことをレペゼンする。そしたらもう地元=レペゼンって概念はそこですでに崩れているワケよ。そういった事実をこのアルバムの中にあちこち忍ばせてあるのね。リリックで"いざという時夢のデカさがものを言うからいつでもガムシャラ"って言ってるけど、夢をデカく持ってるといちいちヘコたれないし、愚痴も出ない、困難すらも夢の通り道だとすればヨシヨシって思えてくる。夢のサイズがデカいことで、レペゼンというものやHIP HOPってものをより大きく捉える事が出来ている。

その"夢"っていう具体的に言える範囲でありますか?

K:ZEEBRAになる(笑)。これねぇ、どっかの楽屋で言ったら 「まだ誰かになりたいわけ?」って言われたんだけどさ。でもいまでも若い頃見たZEEBRAになりたい。初めて誰かになりたいと思わされ、衝撃的だったあの日のZEEBRAになりたいと思ってる。これまではフロアと向き合ったライヴという音楽それだけだった。でも、作品をリリースする度に、携わってくれる人も増えて、ひとりじゃないって思えたことで必然とやりたいことのスケールも大きくなっている。

N:BEENさんもそうですけど、ビートメーカーというよりはプロデュースする形で関わる作品、仕事を増やして行きたいですね。いまは、形になってはいないすけど、水面下でいろいろと仕込んでますね。

K:NOZは人の見えないところでやってる。遊ぼうって連絡しても「今日は1日ビート作る気分で過ごしてるから無理です!」って言われることもよくある。この先もデカくありたいからその為にお互い長い目での運び方を知ってるんだろうね。前はライヴで派手に一期一会だったけど。今は一年間通して集中した生活をして、一年後に報われる瞬間をステージで迎えられるような。その為の我慢はもはや苦じゃなくなってるね。

[[SplitPage]]

「お前がピンチなときこそ男を上げるチャンスなんだ」って。お金や地位といったものより、人種や性別などすら超えた根っこの部分。精神論なのかもしれないが、そういうものって息も長いし、いつの世にも存在しているものだから。


KILLahBEEN
夜襲

APOLLO REC

Hip Hop

Amazon

以前に比べればだいぶライヴの本数は減ったと思うんですが、そのことはやはり影響してますか? MONSTER BOX ( 池袋のBEDで毎月第二金曜日に行われているアンダーグラウンドを代表するMC / DJによるイベント。今までのレギュラーを並べてみればどんなイベントか分かるので調べて欲しい)のレギュラーをやめたのが。

K:9ヶ月前かな。

ビートだったり今回のアルバムのプランはその前からあったと思うんですけど、実際レコーディングという意味での制作期間はライヴはやってないんですよね?

K:そうだね。たまたまなんだけど、月いちレギュラーでライヴやっててそれなりに責任感も出て来て。いままで人のイベント枠内でのレギュラー出演ってやったことがなくて。作品出してなかったけど、何時もゲスト・ライヴって枠内ばかりでここまで来たから。人のイベントのレギュラー出演するのって、実はMONSTER BOXが初めてだったんだよね。結局、途中で必要以上の責任を感じ出したりして、結果やめたんだけど。とくに制作に関しては……意識してないかな。

ライヴをやってるかやってないかはあまり影響してない?

K:影響はあると思う。俺さ、分かんない事は自分の友人や先輩、後輩とかに相談するわけよ。そうしたらファーストはやりたいようにやれと。やりたい放題作った。ただセカンドはどうしよう?って時、ペンは走ってるんだけど、まだ見ぬリスナーを想い制作に入れるようになったから、ライヴ感という事に関してはファーストよりかは感じにくいかもね。もっと、ガッチリ曲というかクラブ以外の場所でも聴ける音楽を意識してセカンドは出来た。

NOZの方ではどういうイメージでこのアルバム『夜襲』を捉えている?

N:曲にもよりますけど、水泳選手とかスタートする直前までイヤホンで聴いてるじゃないですか、そういうシュチュエーションですかね。一例ではありますけど。

K:ここ一番。そうだね。今回はいままで以上に身を削いだことから生まれた言葉を紡いで歌にしたから。自分が聞いても勇気が沸く音楽。ファーストから一貫して、ヒップホップは自分にとって勇気が湧く音楽なんだ。

そういうイメージで頭に浮かぶアーティストっていますか?

K:GZAとRAEKWONだね。このふたりのリリックはとくに勇気が湧く。「お前がピンチなときこそ男を上げるチャンスなんだ」って。お金や地位といったものより、人種や性別などすら超えた根っこの部分。精神論なのかもしれないが、そういうものって息も長いし、いつの世にも存在しているものだから。

そういうのって言葉にすると野暮になったり、しつこくなったりすることもあると思うんですよ。KILLahBEENのラップはしつこく聴こえない。

K:言葉って強制力が強いからクラッちゃうんだよね。視野が狭くなってしまいがち。だから自分はボカすではないけど、完全にこれとは言い切らないような表現を目指している。

この間のPV ( DISPECT )もラップしてる映像でっていうイメージでしたけど、ラップしてるイメージなんですよね。KILLahBEENのラップは。

K:昔仲間に言われてさ、「俺等は音楽のなかで生きてき過ぎた」って。でも、いまは「生活のなかから生まれてくる音楽」をやっていきたいんだ。そのあたりりがリリックに表れてる。あえて作品として作っていないというか。結局街のなかに転がってる話の延長にあるものというか。

スッとやってるイメージがありますね。

K:スッとしたラップを聴いたソイツのなかで熱くなったりすることはあっても、俺の熱さを全開で表現したからといってソイツの中で同等の熱さが芽生えるかというとそれは違うと思うんだ。

音楽はライヴでも音源でも外に出せば、最終的には聴く方に委ねられてると思うんです。

K:俺もリスナーに委ねている。だけど、発した言葉に責任はあって、だからこっちで最終決定したいっていう思いはいつもあるんだ。聴く側に強制する様な形じゃなくても伝わるんだよ普遍的なことは。まぁだからと言って委ねられても、「面倒臭いだろ。じゃ俺に委ねとけって」(笑)、主観的にこう思ってくれというよりは、自分も客観視できるひとりで、俺のことだけじゃなく誰もが思うだろうことを主に歌ってる。さっきも言ったけど、レペゼンだね。代弁、代表。俺のラップに答えがあるんじゃなくて、それを聴いた人が答えを見い出す。そういう余力のある作風に努めている。自分の理想だけだと100点満点までしかないから、101点以上のものを生むのにひとりで考えてないね。

昔仲間に言われてさ、「俺等は音楽のなかで生きてき過ぎた」って。でも、いまは「生活のなかから生まれてくる音楽」をやっていきたいんだ。そのあたりりがリリックに表れてる。あえて作品として作っていないというか。結局街のなかに転がってる話の延長にあるものというか。

NOZは聴いてる側に対してどういうスタンスで観てるんですか?

N:イメージ的には、重た過ぎるメッセージに関してのバランスは考えてて。

完成したアルバムを聴いたときには重いという印象はなかっですが。

K:作ってる途中、6曲くらいできたときに聴いてみたら凄く重たくて、NOZにも「お腹いっぱいです」って言われてさ。だから何か削るってワケじゃないが、その時点から少なからずアルバム全体像を意識して作ったね。

WAQWADAM(CASPERR ACE, 本田Q, COBA5000,GREENBEE,NOSYとKILLahBEENによるグループ)がfeatされてるけど、これはどういう意図で?

K:WAQWADAMは解散したって言われてるけど、ガキの頃からずっと一緒に育ってるみたいな。KILLahBEENなんかよりもグループは人気があるんだろうけどさ(笑)。ワクワダムには絶対的な支柱があって、いまも家族ぐるみで繋がってる関係だからさ。さっきの重くならないようにって話とも少し被るけど、featってどっかにあると華が出るじゃん。

alled ( BLYY ) がプロデュースしてる曲もalledの声をスクラッチで使ってるじゃないですか。そういう風に別の人の声が入ってるのが印象に残りました。

K:他の声が入るといっきに空気が変わる。昔からやりたかったんだよ。身内の声をそういう風に使うっていう。GANG STARRがGROUP HOMEでサビをコスってるのとかさ。そういうのがやりたくて意図して作ったんだ。DJ SHINJI ( BLYY ) にまず俺のラップ聞かせて後はalledのまだ世に出てない楽曲の中からお任せって丸投げした。あのスクラッチ収録もNOZの自宅兼スタジオにDJ SHINJIを招いて録ったんだよね。

アルバムはNOZのスタジオで録ってるんですか?

K:プリプロは全曲そうだけど本録に関しては別の場所。これまでほとんどライヴしかして来なかったから、レコーディング作業ってのをあまり分かってないのね、俺自身。

でもディスコグラフィーを見ると客演を含めるとかなりレコーディングしてますよね?

K:客演に関してもここ4年位での中の話だからね。

そうか、キャリアは20年でそこから見ると少ないですね。たしかに。

K:2016年で活動20年目になるそのうちの4年、まだわかってないよね。だからスタジオ行く時は今もド緊張する。

もっとトラック選びとかも含めプロデュースって考えてないですか?

K:今回、俺の魅せ方を分かってるNOZだったからこそ成し得たワケで。俺もビートとかには結構うるさいよ。

制作中にぶつかったりしなかったんですか?

K:今回は俺の持つアイデアを具現化していき、さらにアレンジを加え、肉付けしていくという立ち位置で作業したから。NOZはクラブDJで、新譜もCLASSICも知ってる。俺の周りの人間でここまで偏りなく音楽に執着している人間はいないね。そこが大きい。あとは、ラッパーとは違ったグルーヴ操作方法みたいなものを心得ているのがクラブDJ。ブレンドとかミックスがわかる人って、魅せ方わかってるんだよね。どんな良い絵も額縁や飾りどころが悪かったら絵は死んじゃう。その額縁選びに始まり、飾りどころをNOZを中心に繊細に練って実行した。示唆する存在があるとラップに集中できる。迷いがあったとて、良いものにしたい気持ちは一緒だったからNOZの意見やアイデアも取り込もうとする。

プロデューサーって日本だとあまり馴染みない感じもあるけど。そこって大切ですよね。

K:重要だし、可能性のあるポジション。NOZに妥協はない。

N:プロデューサーだとDJってついてても全く音作らない人とか普通に海外だといるじゃないですか。そういうかっこ良さというか。

たしかにプロデュースってそう言う感じですよね。

K:ファーストのビートは意外と身内感が強いけど、セカンドは人選の窓口は広がっている。NOZやDOPEY、MASS-HOLE、JUCOにしても。俺のなかでいまをときめくプロデューサー。知らない奴は知ってくれって意味も込めている。今回ビートメーカーのほとんどは、有りものビートから選んだわけじゃなく、自身のアルバムのために新たに用意してもらった。大先輩であるDJ YAS、SOUTHPAW CHOPもいて、そのなかでこれもある。俺がやれる立ち位置に居て、そこでやってること、やるべきことがビートからも滲み出ていることだろう。YAS氏も20年前、初めて福岡でDJしたときかな、朝方、牛丼食いに行こうっみたいになって、自分も「『証言』みたいなビートでいつかやってみたいです」って言ってた記憶があって。それから19年経ってひとつの夢が実現した。SOUTHPAW CHOP氏は「もう1回懲役行ったらやってやる」って言われたんだけど、「一回行ったらやるって話だったじゃないすか?」って流れでやってもらったんだよね(笑)。今回のはクレジット見たらある程度わかることあるじゃん、俺のスタンスを感じてもらえる作品となった。

では最後にアルバム『夜襲』を一言で言うと。

K:完全にお昼聴く音楽ではない、かな。俺が夜に襲うってイメージを持ってる人が多いと思うけど、俺も含め、夜巻き起こるグルーヴの渦に襲われるというか。

N:同じような感じになっちゃいますけどね。ファースト聴いた人にはまた違ったKILLahBEENの一面を見れるだろうし。初めての人には入りやすいKILLahBEENになってると思う。最新という表現とは違う、日本では希有な音楽だと思う。

K:数字は持ってないけど、人は持ってるぜ。アーィ!!

Millie & Andrea - ele-king

  現代のエレクトリック・ミュージックを代表するレーベルのひとつ、UKの〈モダン・ラヴ〉に所属するアンディ・ストットとデムダイク・ステアのマイルズ・ウィテカーによるプロジェクト、ミリー&アンドレアの来日公演が決定した。
2014年のアルバム『ドロップ・ザ・ヴァウェルズ』はインダストリアルかつ、ふたりのジャングルのバックグラウンドもかいま見える傑作。そのリリース後にアンディとデムダイクは来日ツアーも行ったものの、ミリー&アンドレアとしてステージに上がることはなかった。
この約2年の間にも数々のリリースでシーンを沸かせてきたふたりが、今回の来日でどのようなライヴ・セットを披露するのかに期待しよう。東京公演にはヤジとハルカによるツイン・ピークスや、国内でのライヴは久しぶりのエナ、独自のテクノ/ノイズ観を探求するコバらが出演。

root & branch presents UBIK
Millie & Andrea

日程:2016年2月26日金曜日
会場:東京 代官山 UNIT
時間:Open/ Start 23:30
出演:
Millie & Andrea (Modern Love, UK) Live
Twin Peaks (Future Terror, Black Smoker) 3 Hours Set
ENA (7even, Samurai Horo) Live
Koba (form.)
料金:¥3,500 (Advance) 1.23 sat on SALE!!
Information: 03-5459-8630 (UNIT)
https://www.unit-tokyo.com/
Ticket Outlets:
PIA (287-002), LAWSON (70967), e+ (eplus.jp), diskunion CLUB MUSIC SHOP (渋谷, 新宿, 下北沢), diskunion 吉祥寺, TECHNIQUE, JET SET TOKYO, DISC SHOP ZERO, clubberia, RA Japan, UNIT

【Millie & Andrea 大阪公演】
日程:2016年2月27日土曜日
会場:大阪 心斎橋 CIRCUS
出演:Millie & Andrea (Modren Love, UK)
more acts to be announced!!
時間:Open/ Start 23:00
料金:¥2,500 (Advance), ¥3,000 (Door)
Information: 06-6241-3822 (CIRCUS)
Ticket: https://peatix.com/event/141308


Millie & Andrea (Modern Love, UK)


2008年に結成されたMILLIE & ANDREAは、MODERN LOVE傘下のヴァイナル・レーベルDAPHNEからハンドメイド仕様ヴァイナルを2008年から2010年の間にゲリラ的に限定リリースして、カルトな話題を集めた。作品をリリースする度にその評価を拡大させ続けているANDY STOTTは、2014年11月にリリースした『Faith In Strangers』でポスト・インダストリアル・ブームを凌駕する充実度と多面性を以て圧倒的存在感を示した。MILES WHITTAKERは、DEMDIKE STAREで幽玄的なインダストリアル・サウンドの美学を追究、多くのリスナー層に訴求するその普遍性を兼ね備えた作品は世界中で賞賛されている。2014年初頭、500枚限定ヴァイナルでリリースされ即日完売となった最新ベースサウンド~トラップに挑んだ作品「Stage 2」で更なる注目を集めた。同年4月には満を持してアルバム『Drop The Vowels』をリリースした。制作に2年の歳月を掛けたこのアルバムは、彼等の飽くなきビートの追求が結実した傑作として、ダブ~ミニマル~ベースミュージック~インダストリアルを通過した孤高のストリート・ベース・サウンドの金字塔として大きな話題となった。多忙な個々の活動の為、中々実現しなかったMILLIE & ANDREAとしての超レアなライヴ・セット、お見逃しのない様に!

ENA (7even, Samurai Horo)

Drum & Bassから派生した独自な音楽の評価が高く、ジャンルを問わないTop DJからのサポートを受け、Resident AdvisorのPodcastに自身の曲を中心としたMixを提供。多数のレーベルからリリースを重ねると同時に、楽曲のクオリティの高さからミキシング/マスタリングの評価も高く、様々な作品にエンジニアリングでも参加。7even Recordings, Samurai Horoなどヨーロッパを中心に多数の作品をリリース。
https://ena-1.flavors.me/

Twin Peaks (Future Terror, Black Smoker)

Black Smoker RecordsのYaziとFuture TerrorのHarukaの友情に基づいたコンビ。様々な手法、機材を導入したそのセットはDJとライブのハイブリッド。それぞれの音楽的な背景を活かしてはいるが、どちらのDJともかけ離れた世界観を提示。

Koba (form.)

線の細いキック、マシンノイズが混じったハードウェア産ベースライン、硬質なハイハット、ダブルアクションのスネア。徹底したマテリアルの配置と、その裏側から大きくうねり次第に厚みを増していくグルーヴに抱き合わせた「緊張感」と「高揚感」を投げ込むDJ / Producer。「温度」に固執した楽曲の選定は、ミニマルミュージックの根底に在る「変化に伴うリズムの層と層の浮き沈み」を簡潔に提示し、そこにオリジナルの素材を組み込む事で確立するサウンドTechno / Dubの解釈を広義に着地させる。2010年より、音楽行為において「演奏」に到達するまでの着想を様々な媒体でコミュニケートする極建設的DJレーベル「form. (フォーム)」を展開。翌2011年には、レーベル初のリリースとなるMIX CD「Thought to Describe」を発表。自身のダブプロダクトを再認識する為のライブレコーディングをコンポジットした。現在は「form.」の企画・運営と、「SOLISTA」にてレジデントDJを勤める。
www.soundcloud.com/koba-form

 トータスによる約7年ぶり7作めのニュー・アルバム『ザ・カタストロフィスト』。多様な音楽性を折衷し、ひとつの時代を築きつつ20年にわたって飽くことなき実験を繰り返してきたバンドによる新作──ヨ・ラ・テンゴのジョージア・ハブリーが歌い、デヴィッド・エセックスのカヴァーまで登場する本作を“読み解く”ために聴いておきたいアルバムを約10枚ご紹介。

Tortoise - Tortoise (Thrill Jockey 1994)


Amazon

 記念すべきファースト・アルバム。「亀」というロックバンドらしからぬ名を冠した彼らの歩みはここからはじまった。ジョン・マッケンタイアの出自であるハードコアやダグ・マッカムな叙情的なメロディが生々しくも未分化まま、乾いた熱量と共に封じ込められている。ポストパンク的ともいえるダビーな処理や電子音への耽溺に加え、サウンドのポスト・プロダクション的実験も行われており、90年代のポスト・ロックの鼓動が聴こえてくる。(D)

Tortoise - Millions Now Living Will Never Die (Thrill Jockey 1996)


Amazon

 トータスの名を一気に広めることになった傑作セカンド。ポスト・プロダクション志向はさらに強まり、演奏と編集、編集と作曲の境界をスムーズに遡行/移行しながら、90年代のポスト・ロックの基本形を完成させた。ジャーマン・ロックや電子音楽の影響を臆さずに導入し、90年代中期のDJモード=リスナー主義的な雰囲気も象徴している。乾いたギターの音色や旋律に、グランジ以降を「生き延びてしまった」ロックの叙情性を感じる。(D)

Tortoise - A Digest Compendium Of The Tortoise's World (Tokuma Japan Communications 1996)


Amazon

 ファースト・アルバム収録曲や95年リリースのリミックス盤、さらには初期7インチ盤などを収録したコンピレーションアルバム。ジャズ、ヒップホップ、テクノ、音響派、電子音楽、映画音楽など多種多様な音楽のショウケースといった趣で、いま聴きなおすとバンドの試行錯誤が刻印されているのがわかる。傑作セカンド・アルバムへと繋がっていくエレメントをはっきりと聴き取ることができる。スティーヴ・アルビニのリミックス曲も注目。(D)

Tortoise - TNT (Thrill Jockey 1998)


Amazon

 トータス初期の歩みの集大成にして彼らの代表作。ハードディスク・レコーディングを大幅に導入し、編集と作曲の境界はさらに滑らかに。シカゴ音響派の代表格といわれる彼らだが、この作品においてストラクチャー志向にモード・チェンジしている点は重要なポイントに思える。ジャズ的なものに接近しているのは本アルバムでジェフ・パーカーが正式メンバーになった影響大か。印象的なアートワークはメンバーのジョン・エルドンの落書き。(D)

Tortoise - Standards (Thrill Jockey 2001)


Amazon

 トータス史上、もっとも過激で、もっとも過剰で、もっとも怒りに満ちているアルバム。『TNT』的洗練への反動か、穏やかなムードをあえて破壊するようなノイジーなサウンドが展開されている。1曲め“Sensca”のエレクトリック・ギターはジミヘンの霊が乗り移ったかのようだし、ドラミングはハードコアの亡霊のよう。機材もハードディスク編集からアナログ機材へと回帰し、その太い音像が魅力的だ。過渡期故の過剰な魅力が本作にはある。(D)

Tortoise - It's All Around You (Thrill Jockey 2004)


Amazon

 前作が「破壊」とするなら、本作は「再生」だろうか。リラクシンなムードが漂う中、緻密に再構成させるサウンドは『TNT』を想像させるが、前作の過剰なポスト・プロダクションを経由したそのサウンドは、トータス史上、最大級に洗練されており、ストラクチャー志向であった『TNT』よりも、サウンド志向の強いアルバムともいえる。本作においてトータスは初めて演奏と音響の融合に成功したといえるのではないか。声の導入もバンド初。(D)

Tortoise - Beacons Of Ancestorship (Thrill Jockey - 2009)


Amazon

 『イッツ・オール・アラウンド・ユー』から5年を経て発表された6枚めのアルバム(06年にボニー・プリンス・ビリーとの競演作を発表していたが)。前作がサウンドなら本作は演奏に焦点を当てたアルバムか。あるい『スタンダーズ』に内包していた過激さの再認識か。プログレッシヴ・ロックを彷彿させる叙情的でダイナミックな演奏はロック・バンド・トータスの面目躍如といった趣。以降、7年間、オリジナル・アルバムのリリースは途絶える。(D)

Various - CHICAGO 2018... It's Gonna Change (Clearspot 2000)


Amazon

 独人ジャーナリスト主導で、現地コーディネーターにジム・オルークと〈スリル・ジョッキー〉のベッティナを立てたオムニバス。『Eureka』と『Insignificance』の狭間にいたジム、ポスト『TNT』としての『Standards』を世に問うたばかりのトータスはもちろん、サム・プレコップ、ケン・ヴァンダーマーク、アイソトープ217など2枚組にぎっしり18組。バンディ・K・ブラウンやプルマン、トー2000など、往時を偲ばせるメンツもふくめ、(はからずも?)90年代オルタナ~ポストロック~音響万博の趣だが、過渡期ならではの多様性はいまもってまぶしい。表題は「2018年――シカゴは変わっているだろう」の意。しかし予言の年を迎える前にシーンは激変した。(松)

Terry Riley - In C (Columbia Masterworks - 1968)


Amazon

 ジェフ・パーカーによれば「Gesceap」は「In C」を参照したとのことだが、同じライリーの「Rainbow In Curved Air」(69年)のラーガ的モードも彷彿させる。「In C」はミニマル・ミュージックの代表作のひとつで、すべてハ長調の短い53個のフレーズをモジュールに見立て、その反復と連動が楽曲を構造化する、ミニマル・ミュージックの代表曲だけあって、ロック畑にも無数に援用(ときに誤用)されてきたが、トータスはミニマルの解釈と更新において頭ひとつ抜けているようだ。(松)

David Essex - Rock On (CBS 1973)


Amazon

 英国のポップ・シンガーの、タイトル曲がビルボードでもヒットしたデビュー作。73年のUKといえば、ボウイは前年の『ジギー・スターダスト』で押しも押されもしない☆となり、ゲイリー・グリッターがチャートを席巻する、グラム全盛の潮流を見越したふしは冒頭の“Lamplight(邦題:魔法のランプ)”にうかがえるが、アメリカン・オールディーズやシングルB面のバラード“On And On”など、音楽性は幅広く、なかでも“Rock On”はつづく“Ocean Girl”と併せ、レゲエ~カリブ音楽の影響大で、幼少期のトータスの面々をとらえたのもむべなるかな。エントロピーが高まる世相のなかで、その引き算の戦略が新鮮かつセクシーだったのだろう、エセックスはのちに俳優業でそれをふるうことになる。(松)

George Lewis - Voyager (Avant 1993)


Amazon

 ジェフ・パーカーのいうシカゴの即興コミュニティとコラボレートした作品とはどのようなものか。発言ではうかがい知れなかったので妄想で、このようなものだったんじゃなかろうかと導き出したのがこちら。アンソニー・ブラクストンと並ぶAACM──ジェフ・パーカーもその一員──の論客であるトロンボニスト、ルイスによる自作即興対応ソフトウェア「Voyager」とのマンマシーン・インプロヴィゼーション集。発表当時は、アカデミシャンだけあって、気宇壮大なこころみのわりにDX7的な音色のダサさに耳がいって仕方なかったが、あらためて聴くとなかなかどうして味わい深い。シンクラヴィアと同じ寝かしどきの問題か、数日前ブーレーズを聴き直したせいか?(松)

Yo La Tengo - Fade (Matador 2013)


Amazon

 ホーボーケンの守り刀にしてUSインディの要石、ヨ・ラ・テンゴのスタジオ作13枚めのプロデュースは20年来の旧友ジョン・マッケンタイア。不変のスタンスはそのままに、しかし3年前の『Popular Songs』以上に濃縮した曲ごとの旨味をジョンマケのツボを押さえた音づくりがひきたてる。ほんのりサイケかつアシッドな風味はジョージアがヴォーカルをとった“Yonder Blue”に3年越しにフィードバックしていくかのよう。ジェフ・パーカーが2曲めで弦アレンジを担当。ロブ・マズレクらの参加も色どりを添えている。(松)

Chicago Underground Duo - Locus (Northern Spy 2014)


Amazon

 そのロブとチャド・テイラーによるシカゴ・アンダーグラウンドのデュオ名義は7作目にあたる最新作で電子音と即興によるこれまでの鋭角的な作風から新世代のジャズを念頭に置いたそれに舵を切った。ボウイの遺作への参加でときのひとになっ(てしまっ)たマーク・ジュリアナのように、抽象と抑制より具体と饒舌を前に、エチオピアン・ジャズやらIDMやらをおりこみながら『ザ・カタストロフィスト』に通ずる音色でコンパクトかつグルーヴィに攻める、なんと巧みで聡明なひとたちであることか。(松)

David Bowie - ele-king

 これはジャズではない。では何か? ただの痛みだ。

 たしかに先行曲ともいえる“スー”は、新世代ジャズ・ラージアンサンブルで知られるマリア・シュナイダーとのコラボレーションが話題になった。アルバム曲には、管楽器にダニー・マッキャスリン、鍵盤にジェイソン・リンドナー、ベースにティム・ルフェーベル、ドラムにマーク・ジュリアナら新世代のジャズ・ミュージシャンを起用している。彼らがアルバム全編にわたって活躍をしており、とくにジュリアナのドラミングの凄まじさは誰しもが驚愕するだろう。だが、それにも関わらず本作はジャズではない。彼らであればいとも簡単に演奏できてしまうであろうジャズ的な和声やリズムを半ば拘束的ともいえるほど禁じているからだ。

 では本作はロックなのだろうか。たしかにときにシンプルな3コードに収まりもするボウイのソングライティングはロック的即物性を兼ね備えてはいる。だが、 ボウイは(少なくともメロディ・和声面での構造では)ビートルズの影響をまったく受けていないように思える。これは60年代以降のロック・ミュージシャンとしては、ルー・リードと並び極めて異例である。

 それでは、そもそもボウイの音楽は何なのだろうか。もともとはアマチュアのジャズのサックスプレイヤーであり、60年代にロック・ミュージシャンとしてデビューをした彼は何者なのだろうか。簡単にいえば、彼は「デヴィッド・ボウイの音楽」を「演じてきた」特異点のような存在なのだろう。むろん、彼の「演技性」と「肉体性」と「ペルソナ」の問題など、ロックの本を紐解けばどこにでも書いているし、そもそもボウイのファンならば当たり前すぎることだ。いまさら語っていいとも思えない。

 私がここでもっとも重要視したいのは2点だ。より正確には後者のひとつだ。まずひとつ。ボウイのソングライティングは、黒人音楽と白人のポピュラー・ミュージックのキマイラのようであり、それは20世紀という時代のモダニズムの象徴である点。そして、もう1点。彼の音楽はロックにテクスチャーの感覚を導入したという点である。もっともそれは彼一代限りのものでない。スコット・ウォーカーからボウイが受け継ぎ、デヴィッド・シルヴィアンに受け継がれていった感覚でもある。
 
 わかりやすい例として有名な『ロウ』を上げよう。ブライアン・イーノも参加したというこの傑作は、イーノ特有のアンビエンス/アンビエント感覚を大胆に導入し、アルバム後半(B面)のインスト曲によって、ボウイはそのテクスチャー感覚を前面化させる。淡い音色によるシンセサイザーの持続音が一定のムードを生成し、そこにリズムやサウンドが絡み合う。このB面のアトモスフィアこそ、後の電子音響からエレクトロニカなどに、たとえば、カールステン・ニコライやクリスチャン・フェネス、インダストリアル/テクノのザ・ストレンジャーまで受け継がれていく感覚でもある。

 そして本作『★』は、そんなボウイのテクスチャー感覚が久しぶりに、それこそ『ロウ』以来、前面化した傑作とはいえないか。コード進行など楽曲の変化は曖昧で、聴き手は掴みきれない曲のテクスチャーを撫でるように聴くことになる。名うてのジャズ・ミュージシャンたちは、ボウイのテクスチャー感覚を生成するために召還されたといっても過言ではないだろう。なぜか。ボウイが欲したのは、彼らジャズ・ミュージシャンの演奏情報量の豊富さであり、それをある一定のトーンに制御することで生まれるムードではなかったか。
 事実、本作において、彼らは意識的にロックの即物性に「拘束」されている。あの複雑なリズムを分割できるマーク・ジュリアナですら、8ビートのリズムを叩いているのだ。しかしそれでも彼らの持っている演奏情報量の複雑さが「漏れでてしまう」。正確に、拘束的にバッキングに徹するなかで、ときにドラムのリズムが、サックスのフレーズが、ベースラインが、ジャズ的な複雑さをもらしてしまう。そこに拘束とから生まれる官能によって、この『★』の音楽に生まれているように聴こえる。本作は非常にマゾヒティックな官能に満ちたアルバムなのだ。
 10分に渡る“★”にせよ、先行曲のリミックス曲“スー”にせよ、まるでジョイ・ディヴィジョンのようなイントロの“ラザルス”にせよ、ジャズ・ミュージシャンに「ロックを演奏させる」拘束を見事に成功している。そこから生まれる拘束の官能性は、本作の色気を象徴しているといっていい。マーク・ジュリアナのビートは複雑なリズムと単純なニュー・ウェイヴ的な8ビートを往復しながら、彼のソロ・アルバムや他の参加作品とは異質の「色気」を放っている。

 では、なぜこのようなコンポジションが可能になったのか。私見だが「拘束の響き」の基調として、本作のどの楽曲にも、(たとえ聴こえていなくとも)ひとつのの持続音が流れているように思えならないのだ。聴いてみればわかるが、管楽器もシンセサイザーもロングトーンを奏でており、ギターのコードのカッティングよりも、そのロングトーンが楽曲の中心であり、ムードを形作っていることがわかるだろう。
 この感覚こそがあの『ロウ』に近いものであり、本作がときに『ロウ』以来の傑作と呼ばれるゆえんに思える。そして、ボウイのヴォーカル・ラインは、そのロングトーンのひとつの変奏として象徴的に響いているのだ。拘束。解放。生(本作は音楽家の受難と解放そのものように聴こえるし、その意味では非常に「西洋音楽」的だ)。
 このロングトーンの感覚は、果たして彼がサックス・プレイヤーであったことに由来するのだろうか。この傑作『★』を繰り返し聴くにつけ、肉体が奏でるロングトーンの揺らぎと拘束こそが、彼の音楽の官能性の根源だったのではないかと思えてならないのだ。
 だからこそ、その拘束が外されたかのように(偽装する?)、最終2曲、“ドラー・デイズ”と“アイ・キャント・ギブ・エブリシング”のメロディは、単なるポップというだけではない死の不穏さを称えているようにすら聴こえてくる。そう、「生」の拘束以降の世界に響く、死後のポップ・ミュージックのように……。

   ***

 ここまで書いたところで、公式サイト、フェイスブック、ツイッターの公式アカウントがこのようなアナウンスをリリースした。本文は、彼の「死」を知る直前に書きあげた記録として「あえて」修正せずに提出させて頂いた。「死」のフィルターを通していないレヴューであるが、確実に「死」の影を感じていたことも事実である……。そこが芸術の力でもあると思う。

January 10 2016 - David Bowie died peacefully today surrounded by his family after a courageous 18 month battle with cancer. While many of you will share in this loss, we ask that you respect the family’s privacy during their time of grief.

https://www.davidbowie.com/news/january-10-2016-55521

interview with Tortoise - ele-king

 彼らが新作を録り終えた情報はつかまえていた。「別冊ele-king」のポストロック号をやっていたときだったので数ヶ月前になるが、おあつらえむきの特集なのにリリースの都合でとりあげられなかったのはいかにも口惜しい。爾来このアルバムは何度も聴いた。冒頭の表題曲のニュース番組を思わせるジングルめいたイントロにつづくトータス節ともいえるリズムの提示、アンサンブルは複雑さよりスペースを求め、打鍵楽器の記名性はこれまでより鳴りをひそめシンセサイザーがムードを演出するこのアルバムは『イッツ・オール・アラウンド・ユー』『ビーコンズ・オブ・アンセスターシップ』の、つまり『TNT』以後の傾向雄の延長線上にあるのはあきらかだが、前作から7年の時間の経過は彼らの、リロイ・ジョーンズいうところの「変わりゆく──」いや、よそう。それより『ザ・カタストロフィスト』にはミシェル・レリスの書名「成熟の年齢」をかぶせたくなるやわらかさとかすかな官能をおぼえる。90年代、私たちはそれをまさにテクノロジーの、つまりポストロックのかもすものとして聴いたが、20年を経て、それがトータスの唯名性だったことにおそまきながら気づきつつある。

 ジョン・マッケンタイア、ジョン・ヘーンドン、ダン・ビットニー、ダグラス・マッカム、ジェフ・パーカー──5人を代表してギタリスト、ジェフ・パーカーにお答えいただいた。

■トータス・Tortoise
1990年に結成されたシカゴのバンド。ダン・ビットニー、ジョン・ハーンドン、ダグラス・マッコームズ、ジョン・マッケンタイア、ジェフ・パーカーの5人からなる、音響的なアプローチを持ったインストゥルメンタル・バンドであり、「シカゴ音響派」等の呼称によって、当時の前衛音楽シーンを象徴・牽引した。のちに「ポストロック」という言葉の誕生、発展、拡散とともにさらに認知度を上げ、多彩な試みをつづけている。今年1月リリースの『ザ・カタストロフィスト』で7作めのアルバムを数えることとなった。

シカゴ市のための組曲に入れるべく、メンバーそれぞれが1曲ずつ作曲したんだ。


TORTOISE
The Catastrophist

Thrill Jockey / Pヴァイン

Post RockIndieElectronic

Tower HMV Amazon

『ザ・カタストロフィスト』はおよそ7年ぶり7枚めのアルバムですが、これまでのどのアルバムより、作品の間隔が空いた理由について教えてください。

作品の間隔が通常より空いてしまったのにはいくつか理由があるんだ。ひとつはメンバーのうち2人がLAに住んでいて、みんながいっしょに集まることのできる機会を見つけるのが難しくなったこと。もうひとつはそれぞれ別のプロジェクトが忙しかったこと。自分はフリーのジャズ・ミュージシャンとして、ジョン・マッケンタイアはエンジニアやプロデューサー業、マッコームズはブロークバックやイレヴンス・ドリーム・デイで、等々。

『ザ・カタストロフィスト』に着手したきかっけについて教えてください。またいつごろはじまり、終わったのはいつですか。

新しい楽曲には『ビーコンズ・オブ・アンセスターシップ(Beacons Of Ancestorship)』のツアーが終わってからすぐ取り掛かりはじめていたんだ。シカゴ市から新しい作品を依頼されて、シカゴの即興音楽コミュニティのアーティストとコラボレートして組曲を制作した。そのときの楽曲が今作に収録されている曲の元になっているんだ。

本作の制作上のプロセスでいままでと変化したところはありますか。各自がアイデアをもちより、編集的に構築したのか、セッションでつくっていったのか、あえていうならどちらの比重が高かったですか。

今回はあなたの言う両方のプロセスを組み合わせたものだった。メンバーがそれぞれアイディアを持ってきて、それからグループとしてそれを新しいものへと発展させていったんだ。『ザ・カタストロフィスト』は『イッツ・オール・アラウンド・ユー(It’s All Around You)』のスタジオをベースにした制作プロセスにより近いものなんだ。『ビーコンズ~』はライヴや実際の演奏をもとにしたものだよ。

先行シングル“Gesceap”はメロディとリズムを効果的に交錯させた、長さを感じさせないすぐれた楽曲だと思いました。たとえばこの曲を例にとり、完成にいたるまでのプロセスを教えてください

前の質問で言った、シカゴ市のための組曲に入れるべく、メンバーそれぞれが1曲ずつ作曲したんだ。“Gesceap”はジョン・マッケンタイアが作った曲で、彼はテリー・ライリーの“In C”のような感覚をよりトータス的な文脈で表現しようとしていた。アルバムに収録されたバージョンになるまでにかなり多くの回数作り直している。曲の構造はできるだけ単純化して、録音にはたくさんの楽器が重ねられているんだ。

自分たちはまだ「アルバム」を作っているんだ。

『ザ・カタストロフィスト』は多様性に富んだ、しかしとてもまとまりのあるアルバムだと思いました。断片的なアイデアの折衷というより、曲ごとの自律性を重視したつくりになっていると感じました。この意見についてどう思われますか

自分たちはまだ「アルバム」を作っているんだ。偉大な作品というのはリスナーがさまざまなムードや感情を経験することができるものだと思う。同時にグループとしての自分たちの広範な音楽的な興味を反映したものでもあるよ。

サウンド面では、『ザ・カタストロフィスト』は『イッツ・オール・アラウンド・ユー』、『ビーコンズ・オブ・アンセスターシップ』よりエアー感が強いと思いました。今回のアルバムではトータルな音をどのようなイメージに仕上げようと意図したのですか。

今作に関して自分たちは絶対にオープン・サウンドを取り入れようと考えていた。それぞれの楽器のまわりにたくさんのスペースがあるようなサウンドだよ。

音づくりの面で、スタジオの機材およびメンバーの使用機材で、これまでと本作とで顕著なちがいがあれば教えてください。

知っているかもしれないけど、ジョン・マッケンタイアは彼のSoma EMSを15年あった場所から別の場所へと引っ越したんだ。『ザ・カタストロフィスト』はほとんど、もともとあった場所で録音されたんだけど、いくつかは新しい場所でも録音して、ミックスもそこで行われた。

『スタンダーズ(Standards)』以降、初期トータスの代名詞でもあったヴィブラフォン、マリンバの代わりにシンセがアンサンブルを牽引するようになりました。この変化は意図的なものでしたか?

そうだね。自分たちの音楽をより拡張する必要を感じて、シンセサイザーでの実験をよりたくさんするようになったんだ。

“ホット・コーヒー”は『イッツ・オール・アラウンド・ユー』時のアイデアをリサイクルした楽曲だということですが、収録を見送った楽曲を次作以降でとりあげることはままあることなのでしょうか? もしかしたら、トータスの楽曲のためのアイデアのストックはかなりの数にのぼるのでしょうか。

アルバムをリリースするごとにたくさんの「残り物」が出るんだけど、それらはしばしばシングルやコンピレーションとしてリリースしている。時折、それらに立ち返って何か新しいものを作るインスピレーションをもらったりすることもあるんだ。

“ロック・オン”は素晴らしい曲だしメンバーみんなが聴いて育ったんだ。当時としてはとてもユニークな曲だった。

デイヴィッド・エセックスの“ロック・オン”をカヴァーした理由を教えてください。またこの曲にトッド・リットマンを起用したのはなぜですか。

“ロック・オン”は素晴らしい曲だしメンバーみんなが聴いて育ったんだ。当時としてはとてもユニークな曲だった。かなりおもしろいミニマル・サウンドが加えられていたり、ロックンロールについての歌なのにギターが使われていなかったりね。自分たちはみんな長い間トッド・リットマンのファンであり友人で、彼の起用は自然な選択だった。

『ザ・カタストロフィスト』には“ロック・オン”以外にもヨ・ラ・テンゴのジョージア・ハブリーの歌う“ヨンダー・ブルー”を収録しています。なぜヴォーカル曲を2曲も収録したのですか? またこの曲はアシッド・サイケともいいたくなる曲調ですが、この曲の生まれた背景を教えてください

次回作にはヴォーカル曲をいくつか入れようと事前に考えていて、しかも自分たちはトッドと同じように、ヨ・ラ・テンゴのジョージアの曲を敬愛している。“ヨンダー・ブルー”は、曲は先にできていて、ジョージアに興味があるか音源を送ったんだ。そうしたら彼女のヴォーカルと歌詞が付いて戻ってきたんだけど、それを聴いてまったく吹き飛ばされてしまったよ。

ポストロックなることばについては、語ることもあまりないかもしれませんが、日本ではこの20年前にとりざたされたことばに今年復権の兆しがありました。こと日本だけの現象かもしれませんが、かつてトータスの代名詞ともなったこの言葉をもう一度もちだすのだすとしたら、どこに可能性を見出せばよいと思いますか。

新しい可能性というのは僕たちのイマジネーションのなかにあるんだ。可能性に限界はないよ。

今回〈Pヴァイン〉から、過去作品がすべて紙ジャケットで再発されます(それも先の質問と無関係ではありません)が、旧作のなかで現在、もっとも気に入っている作品を一枚あげてください。

すべてのアルバムが好きだけど、今日の1枚を選ぶとすれば『イッツ・オール・アラウンド・ユー』かな。

新作をライヴセットにかけるとしたら、ヴォーカル曲含め、ライヴ用のアレンジが必要になると思いますが、どのようにするおつもりですか。ライヴとスタジオワーク、トータスにとって比重が高いのはどちらですか。

どちらのケースもたくさんの作業を必要とする。よくスタジオで曲を作ってアルバムを完成させてから、ライヴでそれをどう演奏するか考えなければならないこともあるよ。それにもたくさんの時間とクリエイティヴィティを要する。

自分のやることはすべてトータスに反映されるし、トータスとしてやることはその他すべてのことへと還元されるんだ。

それにしても、私は『ザ・カタストロフィスト』はトータスの新局面をあらわす野心的な作品だと思ったのですが、なぜ「Catastrophe」を文字ったタイトルなのでしょう

アルバムのタイトルはジョン・ハーンドンが彼の読んでいた本から思いついたんだ。自分はその本を読んでないんだけど、いまの政治状況や環境のことを含めた日々の生活のことを考えると、興味深いし良いタイトルだと思った。

カヴァーアートには90年代のエイフェックス・ツインのような露悪的な意図をこめていますか? ちがうのであれば、その真意を教えてください

このジャケットは何年か前に撮った写真を使ってメンバーの顔を合成したものなんだ。自分たちの顔をジャケ写にするならこの方法しかないだろうと話していて、ご覧の通りになった。

90年代から2000年代初頭にかけて、トータスはシカゴおよび、インディ・ミュージックのある種の結節点と、すくなくともリスナーである私たちは見なしていました。現在のUSインディおよびシカゴのシーンでトータスはどこに位置づけられると自己評価なさいますか。

トータスはある特定の時代にシカゴのインディ・ミュージック・シーンを代表する存在だったと思う。メンバーはそれぞれさまざまな形でそのシーンに参加していて、それが自分たちの生み出す音楽に反映されていた。いまでは違ったシーンがあるし、自分たちの前の時代もまたそうであったように、すべてはつねに変化していくんだ。

トータスが、現在の5人、不動のメンバーになってから短くない時間が経ちました。ほかのプロジェクトでの活動も多いみなさんにとってトータスというバンドはどのような意味をもちますか。

僕たちは偶然にも同じ時に同じ場所にいた良き友人であり、気の合う仲間なんだ。自分にとってトータスはいつもアイディアを試す場所であり、アーティストとして成長する場所でもある。自分のやることはすべてトータスに反映されるし、トータスとしてやることはその他すべてのことへと還元されるんだ。

トータス約7年ぶりの新譜を祝し、本インタヴューにつづき、第2弾となる特集をお届けいたします!

RILLA - ele-king

この時期なので2015年を振り返って

Swindle & Flava D来日公演 - ele-king

 2015年にリリースされた『PEACE,LOVE & MUSIC』で、堂々と新たな一歩を踏み出したスウィンドル。同作は自身のルーツのひとつであるグライムを軸に、ジャズ、ファンク、ワールド系の音までも取り込んだ秀逸な1枚だ。あの壮大な音絵巻をDJでどうやって披露するのか、期待して待ちたい。ともに来日するフレイヴァDのストリート感覚が全面に出た、UKの現在を体現するかのようなセットにも要注目。さらに、東京公演にはふたりが所属するレーベル〈Butterz〉の創設者、イライジャ&スキリアムの出演が急遽決定。UKアンダーグラウンド・シーンを先導するクルーを体感できる貴重な一夜となるだろう。
 スウィンドルとフレイヴァDは東京、名古屋、大阪の3都市をツアーする予定。パーツ―・スタイル、沖野修也、クラナカなど、各公演には強力なゲストDJたちが集う。

SWINDLE (Butterz / Deep Medi Musik / Brownswood, UK)
グライム/ダブステップ・シーンの若きマエストロ、スウィンドルは幼少からピアノ等の楽器を習得、レゲエ、ジャズ、ソウルから影響を受ける。16才の頃からスタジオワークに着手し、インストゥルメンタルのMIX CDを制作。07年にグライムMCをフィーチャーした『THE 140 MIXTAPE』はトップ・ラジオDJから支持され、注目を集める。09年には自己のSwindle Productionsからインストアルバム『CURRICULUM VITAE』を発表。その後もPlanet Mu、Rwina、Butterz等からUKG、グライム、ダブステップ、エレクトロニカ等を自在に行き交う個性的なトラックを連発、12年にはMALAのDeep Mediから"Do The Jazz"、"Forest Funk"を発表、ジャジーかつディープ&ファンキーなサウンドで評価を決定づける。そして13年のアルバム『LONG LIVE THE JAZZ』(Deep Medi)は話題を独占し、フュージョン界の巨匠、LONNIE LISTON SMITHとの共演、自身のライヴ・パフォーマンスも大反響を呼ぶ。14年のシングル"Walter's Call"(Deep Medi/Brownswood)ではジャズ/ファンク/ダブ・ベースの真骨頂を発揮。そして15年9月、過去2年間にツアーした世界各地にインスパイアされた最新アルバム『PEACE,LOVE & MUSIC』(Butterz)を発表、新世代のブラック・ミュージックを提示する。

Flava D (Butterz, UK)
名だたるフェス出演や多忙なDJブッキングでUKベースミュージック・シーンの女王とも言える活躍を見せるFlava Dは2016年、最も注目すべきアーティストの一人だ。
幼少からカシオのキーボードに戯れ、14才からレコード店で働き、16才から独学でプロデュースを開始。当時住んでいたボーンマスでは地元の海賊放送Fire FMやUKガラージの大御所、DJ EZの"Pure Garage CD"を愛聴、NasやPete Rockにも傾倒したという。2009年以降、彼女のトラックはWileyを始め、多くのグライムMCに使用され、数々のコンピに名を残す。12年にはグライムDJ、Sir SpyroのPitch Controllerから自身の名義で初の"Strawberry EP"を発表、13年からは自身のBandcampから精力的なリリースを開始する。やがてDJ EZがプレイした彼女の"Hold On"を聴いたElijahからコンタクトを受け、彼が主宰するButterzと契約。"Hold On/Home"のリリースを皮切りにRoyal Tとのコラボ"On My Mind"、またRoyal T、DJ Qとのユニット、tqdによる"Day & Night"等のリリースで評価を高め、UKハウス、ガラージ、グライム、ベースライン等を自在に行き交うプロダクションと独創的なDJプレイで一気にブレイクし、その波は世界各地へ及んでいる。

ELIJAH & SKILLIAM (Butterz, UK)
UK発祥グライムの新時代を牽引するレーベル/アーティスト・コレクティブ、Butterzを主宰するELIJAH & SKILLIAM。イーストロンドン出身のふたりは05年、郊外のハートフォードシャーの大学で出会い、グライム好きから意気投合し、学内でのラジオやブログを始め、08年にGRIMEFORUMを立ち上げる。同年にグライムのDJを探していたRinse FMに認められ、レギュラー番組を始め、知名度を確立。10年に自分達のレーベル、Butterzを設立し、TERROR DANJAHの"Bipolar"でリリースを開始した。11年にはRinse RecordingsからELIJAH & SKILLIAM名義のmix CD『Rinse:17』を発表、グライムの新時代を提示する。その後もButterzはROYAL T、SWINDLE、CHAMPION等の新鋭を手掛け、インストゥルメンタルによるグライムのニューウェイヴを全面に打ち出し、シーンに台頭。その後、ロンドンのトップ・ヴェニュー、Fabricでのレギュラーを務め、同ヴェニューが主宰するCD『FABRICLIVE 75』に初めてのグライム・アクトとしてMIXがリリースされる。今やButterzが提示する新世代のベースミュージックは世界を席巻している!


Life Force Radio Observatory - ele-king

2015 Chart
(selected by Ginji, MaNA, Cossato, pAradice, INNA)

Season's Greeting and Best Wishes for the New Year!

Upcoming Party
2016/1/23
Life Force Radio Observatory @ Saloon
Live:
YPY (goat/bonanzas/birdfriend/nous)
Cossato
DJ:
pAradice/MaNA/INNA/Ginji
Sound Design:
ASADA
Visual Lighting:
mixer
22:00-
with flyer¥1500 / door¥2000
https://lifeforce.jp
https://soundcloud.com/lifeforce


 師走になりましたね。「そろそろ大掃除に着手しないと!」と思われている読者の方には、ぜひともCDラックをまばたきひとつせず見つめ直し、あなただけの「借りパク音楽」とまっすぐに向き合っていただきたいと思います。そう、あなたには向き合う責任があります。

 と、上から目線ですいません。さっそく本日のCDを紹介しましょう。
 なんと今日は2枚!



注:手書きポップに書かれているイニシャル「W.A」とは僕のこと。このポップを書いた2012年当時は33歳だったが現在はもう少し歳をとっている。以後すべて同。

 まず1枚めはモトリー・クルーの『ドクター・フィールグッド(DR.FEELGOOD)』。そして2枚めはエクストリームのギタリスト、ヌーノ・ベッテンコートのソロ・アルバム『スキゾフォニック(SCHIZOPHONIC)』。ジャケットから湯気が立ち上がってきそうなこれらハードロック・アルバム2枚を貸してくれたのは、予備校時代の友人だった稲葉くん。

 忘れもしない1997年。17歳の僕は大学受験に失敗し、高校時代につづけてきた音楽活動もしばし休止。予備校生として悶々とした日々を過ごすことになったんです。でもまぁ当然勉強ばっかりできるわけもなく、また悪い友だちは悪い友だちとつるんでいくもので。「お前さ、予備校にいったい何しにきてんの!?」ってくらいギャルソンやゴルチェをごりごり着こなす黒ずくめのやつとか、はたまた、予備校デビューである日突然金髪にしてくるやつとか、休憩時簡になったら一目散に公衆電話に走り、ポケベル(←当時)のメッセージをケンシロウばりに猛烈な速度でたたき出すやつとか。そんな自意識過剰な連中の仲間になって、その自意識のシンボルとして多分に「音楽」が使われていくという事態にどっぷりハマっていくわけですよ。たとえばある日、ふと隣の席を見ると分厚いヘッドフォンをしながらリズムに合わせてシャーペンをすごい勢いでカチャカチャ押しているやつがおりまして。そいつに「何聴いてるの?」って尋ねると、無駄に大きい声で「えっ?ハイスタ!」→「ハイスタってなに?」→「ハイスタンダード! メロコアとか聴かんの?メロコアとか!」と言われるわけです。そんな時代ですよ、1997年とは。
 そこで当時渋谷系ドップリであまり激しい系のロックを体験していなかった僕としては、もうちょっといろんなジャンル(とはいえ、大きくは「ロック」の範疇なわけだけど)の音楽を聴きかじろうと思っていた矢先、「隣のクラスにバンドをやっているやつがいて、そいつは相当ロック、詳しいらしい」という噂を聞きつけ、あらためて友人になったのが、今回の貸し主である稲葉くんだったんです。色黒でワイルドで一見近づきがたそうな見た目に反して、とても気さくなキャラの彼。僕は彼にアラニス・モリセットとシェリル・クロウを貸して、そのかわりに貸してくれたのがこの2枚のハードロック・アルバムだったんですが、その結果、なんとお互いが2枚とも借りパクという事態に……。

 僕はね、あくまで返そうと思っていたんですよ。とりわけモトリー・クルーはぜんぜんピンとこなかったから速攻返そうと思っていたくらい。でも、彼はいつしか予備校からフェードアウトしていたんです。まわりに訊いても「ああ、あいつ最近まったく来ないね。もう辞めたんじゃない?」みたいになってしまって……。

 稲葉くんにあらためて訊きたいのは、こっちがアラニスを貸したらヌーノで被せてきたのは、なんとなく理解できた。
 でも、なんでシェリル・クローはモトリー・クルー返しだったの……??

 いま考えてもやっぱりわからない。きみ、ロックに詳しかったし、なんか意図があったんだよね!? なんか意図が……。


Illust:うまの



■借りパク音楽大募集!

この連載では、ぜひ皆さまの「借りパク音楽」をご紹介いただき、ともにその記憶を旅し、音を偲び、前を向いて反省していきたいと思っております。
 ぜひ下記フォームよりあなたの一枚をお寄せください。限りはございますが、連載内にてご紹介し、ささやかながらコメントとともにその供養をさせていただきます。

interview with YOLZ IN THE SKY - ele-king


YOLZ IN THE SKY
HOTEL

Bayon Production/felicity

IDMJunkPost-Punk

Amazon

 ヨルズ・イン・ザ・スカイ……この、一度聴いたら忘れらないバンド名から、人はどんな音を想像するのだろうか。なんとなく広々したイメージを掻き立てるかもしれない。あるいは、“ヨル”、“ソラ”という言葉から、なんとなくロマンティックなものを重ねるかもしれない。しかし、残念。ヨルズ・イン・ザ・スカイは密室的で、アンチ・ロマン的。
 ヨルズ・イン・ザ・スカイ・ウィズ・クレイジー・ダイヤモンドは、柴田健太郎(G)と萩原孝信(Vo)を中心に大阪で結成されている。最初のアルバムは2007年で、その頃は騒々しいギターとハイトーンのヴォーカルのハードなロックをやっている。それが長い歳月をかけながら変化を遂げて、最新作『ホテル』では、アシッド・ハウス・ロックとでも呼ぶべき、微妙にシュールな世界を繰り広げている。
 ベースとドラムが居なくなり、トラックは柴田がひとりで作ることになった。すると……ストラヴィンスキーを愛するこの青年のどこかの回路が1987年のシカゴのDJピエールに通じてしまったのだろう。それはロックの予定調和もハウスの快楽主義も拒否した、世にも奇妙な音楽となっていま存在する。
 地図を描いてみよう。いま、日本には、アンチ・ロック的雑食性としてのポストパンク……とも呼べそうな徒が散在している。広義では、オウガ・ユー・アスホールもゴートもにせんねんもんだいもその部類に入るだろう。メインストリーム(なんてないという意見もある。が、まあ、ここでは敢えて)への対抗勢力になり得ていないのは、良くも悪くも彼らがバラバラにそれぞれやっているし、残念ながらリスナーも重なっていないからだ。もったいない。徒党を組めばいいのにとまでは言わないが、ぼくたちは注視してみよう。いま、1979年のUKのような局面が日本に生まれつつあることは事実であり、それは、売れようが売れまいが、とにかく、自分たちの鳴らしたい音を貫き通している連中がいるということでもある。
 ヨルズ・イン・ザ・スカイはそうしたポストパンクな時代のなかのひとつのバンドではあるが、彼らのジャンクな感覚は、実に独特な空間を創出している。昔、バットホール・サーファーズがザ・ジャックオフィサーズ名義でサイケデリックなエレクトロニクスに挑戦したものだが、もちろんそれとも違う……いったい彼らは……何者……なのか……ああ、たしかに悪ふざけもできない世のなかなんて、冗談じゃないよね。マイノリティとは、屈辱でも蔑称でもない。楽しみ方だ。柴田健太郎に話を訊いた。

【バンドのバイオ】
2003年結成。Less Than TVから1stアルバムをリリース後、Fuji Rock、SXSWなどに出没。2009年にはfelicityより2ndアルバム『IONIZATION』を2012年には3rdアルバム『DESINTEGRATION』をリリース。その後もライヴ活動を中心に、多種の音楽性を吸収しながら進化を続ける。たった2人よって作り出される音世界は自由自在、無機質なビート、ロック、テクノ、ミニマル、現代音楽、クラシックなどをブラックホールのように吸収に作り出される自由に踊るための音楽。
https://yolzinthesky.net/

Q:ますますヨルズ・イン・ザ・スカイのアイデンティティがわからなくなってきました。

A:ぼく自身もわからないんですよ。

印象的なバンド名なので、名前は知っていたんです。ぼくみたいに名前は知っているけど聴いたことがないって人は多いと思いますよ。

柴田健太郎(以下、柴田):バンド名を決めるときに、ずっと続けるつもりはまったくなかったんです。とりあえずバンドをやろうという感じでした。だいぶ前なのでこの名前をつけた理由は忘れましたけど、やりはじめたのは大学の3回生のときやから、13、4年前ですかね。

今日は、ヨルズ・イン・ザ・スカイがどういうバンドなのかをしっかり紹介したいと思っているので、よろしくお願いします。まずは、柴田さんが音楽をはじめる、あるいは音楽を続けているモチベーションはどこにあるんですか?

柴田:音楽にしか興味がなかった。他のことをやっていても、結局は音楽に繋がっているような生活スタイルだったというか。音楽をやりたい、というよりも、音楽をやっていました。

このいかにも大阪にいそうな雑食性というか……。

柴田:それは言われたことないな。大阪っぽくないと言われます。そう言われるのは初めてといってもいいくらい、珍しい。

大阪って、独創的なものを生む土壌があるじゃないですか。いろんなものが混ざって、名付けようのないものになってしまった、みたいな。やっぱり東京にはスタイルがありますからね。

柴田:そういう意味では大阪かもしれないですね。やっぱりひとと被ったらいかんみたいな文化がありますからね。ちっちゃいときからそうですね。ひとのマネをしてたらダサい、みたいな。

しかし、いったいどんな人たちが聴いているんでしょうね。基本、ライヴハウスで活動されていたんですよね?

柴田:基本はそうです。

どんなお客さんを相手にしていたんですか?

柴田:あんまり見てないからわからないですね。

音楽をやるときに、自分たちのパッションが掻き立てられるのはどんなところですか?

柴田:自分のなかで新しいものができて、それが積み重なっていくところですかね。

どんな音楽を聴いていたんですか。

柴田:一貫して好きなのが、ストラヴィンスキーの『春の祭典』です。クラシックや現代音楽をよく聴きます。バレー音楽が好きで観に行ったりしてましたよ。

しかし、実際は、どちらかというとジャンクな音楽をやっていますよね。

柴田:どちらかといえばジャンクな音楽はあんまり好きじゃないんですけどね。いうたら、関西でできた音楽もそんなに好きじゃないんですよ。

じゃあ関西人と言われるのは心外ですか?

柴田:そんなことないですよ。まず、あんまり関西人っていわれないですからね。

曲の発想はどんなところから?

柴田:現代音楽の作曲方法で使われる、図形や数列から作曲するやり方に興味があるんですよね。そのすべてがよいとは思わないし、ぼくはけっして詳しいわけじゃないんですけど。

感覚で作るよりも、理屈で作っているんですか?

柴田:いまはそっちの方が多いですね。昔は感覚だけだったんですよ。でもやっていくうちに、決められたうえでやっていく方へシフト・チェンジしていっていますけどね。

ますますヨルズ・イン・ザ・スカイのアイデンティティがわからなくなってきました。

柴田:ぼく自身もわからないんですよ。

現代音楽からの影響は新作のなかに反映されているんですか?

柴田:新作にはまったく反映されていないです。新作は、どちらかといえば感覚的な面も少なからずあって。いや正確に言うと、感覚で良いと思った素材を緻密に作り上げ構築していくというか。その昔、パソコンのデータが消えてしまったときに、それを復元させるソフトを使ったんですよ。そうしたら音楽データがぶつ切りになっていたり、変に復元されていたんですよね。それを思い出して、データを一度消して、また復元させて、意図的にデータをバラバラにしたんです。それでこれは使えるなと思って今回のアルバムで音源として使ったりしました。ギターの音とかでも勝手にバラバラになっているのは、僕もどういう仕組みでそうなっているかはわからないんですけどね。全体ではないんですが、そういう素材を組み立てていったりしました。勝手に離散フーリエして音を分解したみたいな感じになってるのが面白いと思いました。

それをたまたま今回のアルバムでおこなったと。

柴田:そうですね。いま現在は理詰めでやっているんですが、このアルバムに関してはその一歩手前です。

ファースト・アルバムは何年なんですか?

柴田:えーと。ファーストはLESS THAN TVから2007年にリリースされてます。 セカンドが2009年で当時はハードコアやクラウトロックも感じさせるバンドでした。

たしかにヴォーカルにはハードコアの名残があるのかな。

柴田:最初はヴォーカルがいなかったんです。あるとき曲を聴かせたら「俺、コレ歌える」と。ぼくは普通に歌うかと思ったんですよ。それに、普段のあいつはまさかなことをするようなヤツでもないんですよ。そしてたら、まさかの裏声で歌うという。それを聴いて「あ、これはいっしょにやろう」となりました(笑)。

3枚目のアルバムではデザインに『メタル・ボックス』を模していますが、パンクについてはどうなんでしょう?

柴田:初期のパンクも聴いていましたし、好きでした。でもポストパンクの方が雰囲気は好きだったというのもあって、そういう影響が音楽には入っているんですよ。

柴田さんからすると、ポストパンクの魅力って何ですか?

柴田:空気感。熱いんだけれども同時になんか冷たい感じもするんです。それが音の処理とかに出ているんだと思うんですけれども、殺伐とした無機質なイメージがぼくのなかでは強いというか。テクノとはまた違いますよね。テクノも無機質ですが、ポストパンクの場合はひとが関わっているにもかかわらず無機質なのがいいというか。

聴いていてPILがよかったんですか?

柴田:他にどんなのがいましたっけ(笑)?

ディス・ヒートとか、スロッピング・グリッスルとか、たくさんいますよ。

柴田:あー、そのふたつはけっこう近いですね。

当時は、ポストパンクないしはニューウェイヴという、ひとつのムーヴメントとしての括りがあったんです。そのなかにスリッツもポップ・グループもニュー・オーダーも全部入っていたわけです。そのポストパンクの船にたくさんのアーティストが乗っていた時代だった。でも2000年代には大きな船はなくて、みんな小さなボートに乗っている。このひとはインディ・ロック、このひとはポストロック、このひとはディスコとかね。こういう状況で、ポストパンク的なアプローチをするっていうのは空しくないですか? 

柴田:ポストパンクは6、7年前に聴いていたけれど、いま意識しているわけではないですからね。あんまりジャンルを意識しないんですよ。

ジャンルにこだわることによって、未知なるリスナーとの出会いがあると思うんです。例えばテクノにこだわっていれば、どんなに無名な人間でもテクノ好きのところへたどり着ける。あるいは、ポストパンクやニューウェイヴという大きな船があって、ぼくはその船が好きだったからスリッツもスロッピング・グリッスルも聴けた。でもいまそういう聴き方はない。だからヨルズ・イン・ザ・スカイを見ると、「いやぁ、よくやってるなぁ」って思うんです。

柴田:たしかにライヴもやりにくいですからね。

自分たちでムーヴメントを作ってやろうという気持ちにはならないの?

柴田:そういう気持ちにはならないですね。ホンマにひとりよがりというか。周りのことはあんまり考えていない。ひとといっしょに何かをやってよくなりたいとかも思わないですね。そこで誘われて興味をもって何かをやりたくなることはあるんですけれども、自分自身ではただ単に曲を作ったり、こんなライヴができたらいいなとか、そういう発想しかない。

そういう意味では時代に挑戦しているのかな?

柴田:全然意識はないんですけどね。

アップル・ミュージックはだって「あなたの好きなジャンルは?」って最初に質問してくるじゃん。ヨルズ・イン・ザ・スカイは、テクノでもないし、パンクでもない。いまの音楽市場のニーズ分けに当てはまらないことをやっているわけじゃないですか。

柴田:いま言われて、「あっ、そうやな」と思いました。

[[SplitPage]]

Q:友だちがほしいなとは思わないんですか?

A:まったく思わないですね。喋りかけてくれたら話すんですけど。

話題を変えましょう。柴田さんが音楽で一番気持ちよくなくところって、どんなところなんですか?

柴田:やっぱり自分がやりたい理想があって、それができたときがベストですかね。

機材は何を使われているんですか?

柴田:昔はいろんな機材を買っていろいろ試していましたね。

最初の楽器は何だったんですか?

柴田:ギターですね。

そこからエレクトロニクスへいったんですね。転換期は何だったんですか?

柴田:転換期はまさにこのアルバム(『DESINTEGRATION』)を作ったあとです。最初はギターだったんですが、ぼくの世代ってギターの機材にこだわって、ヴィンテージとかを集めてるやつってそこまでいなかったんですよ。だからそこで真新しさを求めることもできたわけです。でもいまってそうじゃない。これはぼくが勝手に思っているんですけど、ギターという表現方法に行き詰まっているからみんな機材の方向に目が向いているように見えるんです。新しく出てくる機材も変なものが増えていったので、ぼく自身はそこに興味がなくなっていったんですよ。ギターやアナログ機材でニュアンスを表現するよさもあるんですけど、数字でピッタリ表現するんだったらパソコンとかで自分で作るしかなくなってしまうんです。

パソコンを使いだしたのはいつからなんですか?

柴田:ちょうどこのあと(『DESINTEGRATION』リリース後)ですね。

じゃあ新作がその変化のあとなんですね。音的には完全にそうですもんね。

柴田:そうなんですよ。機材に関しては自分でプログラミングしてやってます。C言語から作っていったりとか。ひとが作った機材よりも、自分でこうしたいという方向に興味が移っていったんです。

プログラミングは誰かに習っていたんですか?

柴田:独学ですね。自然のなりゆきで勉強も進んだというか。トラックは基本的にぼくが作ってます。

エレクトロニクス・ミュージックをやっていて、C言語というのはまだ少数派でしょうね。

柴田:大変なのはたしかですよ。ノイローゼになるかもしれないです。でもギターはけっこう好きで、まだその可能性を模索しています。今回もビート以外は基本的にギターで作っているんですよ。

ゴート(goat)とは繋がりはないんですか?

柴田:喋ったことはあります。

オウガ・ユー・アスホールとの接点はないんですか?

柴田:対バンをしたことはありますけど、接点というところまではないです。

日本のバンドで共感しているひとたちはいますか?

柴田:あんまりつるまないので、音楽友だちがいないんですよ。

友だちがほしいなとは思わないんですか?

柴田:まったく思わないですね。喋りかけてくれたら話すんですけど。

相当なへそ曲がりですね。その感じが音にも出ているというか。

柴田:そうかもしれないですね。

ヨルズ・イン・ザ・スカイはどこにカタルシスを感じているんですか?

柴田:考えたこともないな……。基本的に飽き性なんですよ。自分で面白いと思ったことにしか興味がいかないんです。これをやったら受けるちゃうか、みたいなことは一切考えないですね。世間的に流行っている作り方があったとしたら、それは絶対にやらないです。

じゃあいまも世の中なんて気にしないで今日もストラヴィンスキーを。

柴田:単純に好きですからね。もちろんそれだけじゃないですけど。

どういうひとがファンなのか気になりますね。

柴田:ハードコアっぽいアルバム出したときのファンは、今回みたいな音を求めてはいないですよね。もちろんずっと好きでいてくれるひともいるんですけど、聴くひとも移り変わっているので、そこでどなっているかはまったくわからないです。

PCを取り入れてギター・サウンドを押し広げたりとか、今回のアルバムを作る上での重要なポイントがいくつか出ました。それに加えて、さっきも言ったように、ぼくはダンス・ミュージックっぽくなっていると感じたんですが……

柴田:ちょっとずつそうなっている感じはあります。それは何かを軸に作っているからかもしれないですね。やっぱりギターなので、基本はドラムありきで考えるんです。最初はスタジオへ行ってあわせるとか。その名残でドラムが主体のノリで作っていることが影響しているのかもしれないですね。とくにダンス・ミュージックを意識しているわけではないんですよ。

過去の作品も抽象的なデザインで、曲のタイトルもアブストラクトなものが多いといいます。新作も……何で『ホテル』というタイトルなんですか?

柴田:よくホテルに泊まっているからです。

ほぉ、ラブホテルに。

柴田:いや……。

ホテルの清潔感というか、無菌室的な感じでしょう? そういうのはサウンドにも出ていますけど。

柴田:ラブホテルばかりに行っているわけじゃないです。

柴田さんのなかには自分のサウンドに対して映像的なものがあるんですか?

柴田:映像はないんですけど、イメージはあります。無菌室的な感じとおしゃっていましたが、音楽の博士が誰とも喋らずにやっているようなイメージがありましたけどね(笑)。

昔の作品だと歌詞カードがついていますけど、メッセージみたいなものをヴォーカリストの萩原さんはもっていらっしゃるんですか?

柴田:あんまりもっていないみたいですよ。

歌詞に関してはおまかせなんですか?

柴田:ぼく、歌詞を知らないんですよ。ぼくが曲を作ったらそれを相手に丸投げするんです。それでヴォーカルが歌詞と歌をつけてくれる。

シュールな世界ですよね。ヴィジュアルにしても、シュールレアリズムですよ。ジャケのインナーには爆弾があって電球がある。これはいったいなんだろう……で、ここに共通を見出せっていわれてもね(苦笑)。

柴田:そこに数式はないですね。最近は音楽の「楽」が「学」になっているんです。ずっとこういう音ばっかりを考えていますからね。ノイローゼになりそうになる。

メンバーのなかで、柴田さんの作業が一番多いんですよね?

柴田:そうですね。ずっと部屋に閉じこもってます。人とも喋らないですからね。

精神のバランスを失いながらやるんですね。

柴田:それはあんまりないですね。どっちかっていうといつも躁状態なんですよ。うつにはまったくならないんです。

サウンドがうつじゃないから。

柴田:悩みごともないんです。今日の飯どうしようかとか、小さい悩みはありますよ。

大きな悩みを抱えている音楽には思えないです。

柴田:だからメッセージを発したくもないというか。

ぼくなんか悩みだらけですけど……。しかし困ったなぁ。読者にヨルズ・イン・ザ・スカイを紹介したくていろんな質問を投げているんですけど、ますますわけがわからなくなってきました。

柴田:すいません。

[[SplitPage]]

Q:大きな悩みを抱えている音楽には思えないです。

A:だからメッセージを発したくもないというか。

目標にしている音楽ってありますか? 理想というかね。

柴田:理想ですかぁ……。

「(理想は)ヨルズ・イン・ザ・スカイに決まってるだろ!」とかって答えないんですか?

柴田:それいいっすね。

志しているところがきっと高いんですね。目標意識というか、自分が作りたいものというか。ぼくはは計り知れないな。ぼくはエレクトロニック系のミュージシャンにインタヴューすることが多いんですが、そういうひとって大体ひとりでやってるんですよね。だからひとりで音をコントロールできる。でもヨルズ・イン・ザ・スカイはバンドじゃないですか? ヴォーカリストもいるし、そこが他とは違いますよね。

柴田:ちょっと気持ち悪い話なんですけど、ヴォーカルは一番の親友なんですよ。

愛し合っているんですね。

柴田:そうなんですよ……っていってみたりして。一番の親友であるところはすごくデカい気がしますね。いっしょに音楽をやりたいっていうところが一番デカい。ひとりだと寂しくなるみたいな。

大阪はどちらにお住まいなんですか?

柴田:天王寺に近いところに住んでます。ヴォーカルの萩原は点々としていて、いまは京都にいます。

大阪の方が住みやすいですか?

柴田:比べたことはないんですけど、住みやすいですね。まぁ、どこでもいいんですけどね。思い入れが強いわけでもないし、大阪を好き嫌いっていう基準で見たことっもないです。

地元でもライヴをやるんですか?

柴田:イベントに誘われたら出るくらいですね。あんまり自分らでやることはないです。4人のときは企画をやったりしていましたけどね。

その当時はどんなイベントをやっていたんですか?

柴田:もう辞めたメンバーがいろいろやってくれていたので、何ともいえませんね……。

マネージャー・タイプの方だったんですね。

柴田:そうですね。経理とかもやっていました。残ったメンバーは何もしません。

ヴォーカルの方も柴田さんと同じようにあんまり音楽を聴かないんですか?

柴田:聴かないですね。まずふたりで音楽の話をしないですね。

どんな話をするんですか?

柴田:どんな話だろう……。

「空がきれいだ」とか?

柴田:まぁ、たわいもない話ですね。家族間で喋るような脳みそをまったく使わない話です。

今回のアルバムでいろんな実験をやっていると思いますが、とくにこだわったところがあれば教えて下さい。

柴田:ギターにはやっぱりこだわっています。ギターってフレットが決まっているじゃないですか? それで弦が6本あって、チューニングがあって……。だから普通に弾いても面白くないんですよ。響きも結局は同じになってくるから、妙なコード進行をしても真新しさは感じられなくて……。そこから数学的に分解していくことを考えて、出る音の組み合わせを増やしていくというか。それはコンピュータでやるしかないんです。伝わりにくいかもしれないんですが、自分でリズムマシーンみたいなものを作って、そこにギターの音を当てはめているんです。それをランダムに鳴らして音を抽出したりもしていました。ずっとランダムなままでも流れができないから、そこでプログラムをしてランダムの範囲を指定したりとか。そうすると結果的に違った響きになるんです。

正直にいって、これまでのアルバムのなかで一番好きです。でも最初の質問に戻ると、この音楽はいったい誰が聴くんだろうとも思いました(笑)。

柴田:そうですよね(笑)。自分の世界を作っていただけですからね。

さて、何か言い残したことはありますか?

柴田:何かあるかな……。

「とにかくこの内ジャケットの謎を解け」とか? 

柴田:うーん。

マスタリングはPOLEなんですね。

柴田:大阪のレコ屋のナミノハナ・レコーズの方に教えてもらったんです。ちなみに、アルバムのタイトルはラブホテルとは関係ありません。

外国人から見るとラブホテルってすごいんですよ。海外にはないものだから、町中にこんなものがあるのかって驚くんです。ヨルズ・イン・ザ・スカイも、ワシントン・ホテルというよりも、そのいかがわしさから言えば、ラブホテルの方が近くないですか?

柴田:なるほど(笑)。

前のアルバムから3年ぶりだから、すごく時間がかかっているんですよね。

柴田:やっぱりドラムが抜けたことが大きかったかもしれないですね。作品の目的に到達するためのプロセスよりも、時間を縦軸で考えるようになったといいますか。決められたことだったら排除してもいいんじゃないかというか。それでいまの瞬間でできることを重要視するようになりました。メンバーが3人から2人に減ってから、そこも考えるようになりましたよね。バンドでやりつつもコンピュータも導入して、面白いことができないか模索してましたね。それで時間がかかりました。

この先はどんな活動をしていくんですか?

柴田:ぼんやりしかないんですけど、先に何かを作って時間差で出して、いまやっていることが次の小節に出てくるというか……。本当にぼんやりなんですけどね。押したら何か音がでるタップゲームみたいなものがあるじゃないですか? それをギターでやってみようかとか、違ったアプローチを考えてますね。

よくわからないですが……。

柴田:それでどうなるかわかんないけどね。普通にギターをジャーンと鳴らすことには興味がないですね。どんどん人気がなくなっていくでしょう。誰が聴くねんっていうか(笑)。


2015年1月31日(日)京都・METRO
僕の京都を壊して~YOLZ IN THE SKY『HOTEL』RELEASE PARTY
OPEN 18:00 / START 18:30
前売 ¥2,500 / 当日 ¥3,000 +1D
LIVE : YOLZ IN THE SKY / group_inou / FLUID
チケット : ぴあ(P:284-164) / ローソン(L:57371) / e+
info:METRO https://www.metro.ne.jp/

2015年2月4日(木) TSUTAYA O-nest 03-3462-4420
YOLZ IN THE SKY『HOTEL』RELEASE PARTY
18:30OPEN 19:00START
前売¥2,800 ドリンク代別途 当日¥3,300 ドリンク代別途
LIVE:YOLZ IN THE SKY / skillkills / 快速東京
チケット 11月14日発売開始
ぴあ(281-981) / ローソン(74125) / e+ / O-nest店頭
info:TSUTAYA O-nest 03-3462-4420



  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196