「iLL」と一致するもの

Sarah Davachi - ele-king

 カナダのカルガリー出身の音楽家/作曲家サラ・ダヴァチーの新作がリリースされた。サラ・ダヴァチーは、近年重要な新世代のドローン・アーティスト/音楽家である。今作『Antiphonals』は、サラの2021年新作である。本作もまたバロック音楽とミニマル・ミュージックとドローン音楽の領域を融解させるようなアルバムに仕上がっている。

 サラ・ダヴァチーの音楽は、アルバムをリリースするごとに音楽的・音響的な境地が深まっていった。特に2018年に〈Students Of Decay〉から発表された『All My Circles Run』、同年の〈Ba Da Bing!〉から出た『Gave In Rest』以降から、サラ・ダヴァチーのサウンドのテクスチャーから「硬さ」がとれはじめ音が柔らかくなり、ドローン作家として個性が自律してきたように思う。
 加えて作曲家としての深度・練度も深まってきた。まるでバロック音楽を思わせるような優美な音楽性を纏いはじめているのである。バロック音楽的な古典的な技法を駆使した音楽性や響きに、現代的なドローンを対置する手法がより際立ってきたのだ。
 じっさい2018年の『For Harpsichord / For Pipe Organ And String Trio』や、2020年の『Cantus, Descant』などの楽曲には、クラシック音楽の伝統を継承しつつも、サウンドとして刷新するような面が多くみられた。
 それもそのはずでサラ・ダヴァチーは哲学を学んだのち、カリフォルニア州「Mills College」で電子音楽やレコーディング・メディアの修士号を修了し、現在は「カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)」にて、ポピュラー、実験音楽、古楽などにおける楽器と音色の美学的影響についての研究を行なっているというのだ。いわば研究者である。
 もしかすると初期のドローン・サウンドの「硬さ」は、バロック音楽のチェンバロや弦楽器の音を引き伸ばしたようなものとも言えるかもしれない。そこから彼女は、より親密な音響空間をめざして、サウンドの研磨していったのだろう。毎年複数枚リリースされるアルバムも、その研究成果の途中報告という意味合いもあるのかもしれない。むろん、創作への意欲の結晶といえるだろう。

 ともあれサラ・ダヴァチーは多作なのである。2013年に最初のアルバム『The Untuning Of The Sky』以降、毎年欠かすことなくアルバムを発表しているし、2015年以降は、年に二作の以上もリリースしている。
 2018年には『For Harpsichord / For Pipe Organ And String Trio』、『Gave In Rest』、『Let Night Come On Bells End The Day』など代表作ともいえるアルバムも3作も送り出し、2019年は、Ariel Kalmaとの共作『Intemporel』、『Pale Bloom』などの傑作を、2020年には『Figures In Open Air』、『Gathers』、『Cantus, Descant』など充実した3作のアルバムをリリースしたのである。最初に書いたように、ここ数年、その作品の成熟度、充実度・達成度には目をみはるものがある。
 2020年は、サラ・ダヴァチーは自ら主宰するレーベル〈Late Music〉を設立した。過去作に加えて、『Figures In Open Air』や『Cantus, Descant』などのアルバムをリリースした。新作『Antiphonals』もまた〈Late Music〉からのリリースだ。

 『Antiphonals』ではこれまで追及・実践・実験されてきた「バロック音楽(古楽)とドローン/ミニマル音楽などの現代音楽の交錯」がいよいよ完成の域に達してきたような印象を持った。これまでの作風を継承しつつ、その音楽世界を深めているのである。2枚組『Cantus, Descant』の中で自らの音楽技法を試行錯誤した結果、より浄化された音楽が生れてきたとでもいうべきか。
 じじつ、『Antiphonals』冒頭、“Chorus Scene” ではヨハン・セバスチャン・バッハのような、もしくはバロック音楽のごとき楽曲を展開している。しかも微妙な半音の使い方には、楽曲の調性を浮遊させるような効果があり、現代音楽的ともいえる響きの残滓を、バロック的な楽曲に忍び込ませているのだ。実に秀逸な曲だと思う。ギターのための曲というのも興味深い。
 同時にまるでコリン・ブランストーンなどの70年代のシンガーソングライター・アルバムのようなムードも醸し出している(歌のないシンガーソングライティング・アルバムのように?)。続く2曲目 “Magdalena” では、透明なカーテンのゆらぎのようにアンビエンスな音が往復し、次第に、より大きなアンビエント・ドローンに変化していく。これも見事な曲である。

 この冒頭の2曲は本アルバムの個性をよく表している。簡素な楽器による古楽的な楽曲と霞んだ質感のドローン風の楽曲の往復だ。まるで西洋音楽史の300年を往復するようにアルバムは構成されていくのである。余談だが古楽とドローンの交錯という意味では、アンビエント・ドローンの名匠とも言えるドイツのシュテファン・マシューの楽曲に通じるように感じられた。
 加えて楽曲の向こうでかすかに聴こえる(鳴っている)小さな音のノイズも良い。まるでカセットを再生したときのような小さなヒスノイズがどの曲にも流れているのだ。本作特有の霞んだ音色の音響空間が、このノイズによって巧みに演出されていることはいうまでもない。録音には名機 RE-501 Chorus Echo と TEAC A-234 が用いられ、ミックスをサラ・ダヴァチー本人が手がけている。マスタリングは〈Recital〉主宰するカリフォルニアのアンビエント作家のシーン・マッキャンが行なっていることも忘れてはならないトピックだろう。

 このアルバムは単に実験的であったり、高尚で堅苦しい音楽ではまったくない。「プログレッシヴ・ロックのキーボード・パートのみで構成されているアルバム」とアナウンスされているように、本作にはバロック的・クラシック的な楽曲のみならず、ドローンやエクスペリメンタルな楽曲にもある種の親しみやすさ、聴きやすさがあるのだ。クラシカルな音楽がよりシンプルな音像のドローンへと変化したような楽曲とでもいうべきか。このような傾向は新世代のドローン音楽家全般に見られる。例えばスウェーデンのストックホルムを拠点とするカリ・マローンのオルガン・ドローンを思い出して欲しい。
 新しい世代の音楽家にとってはなにより「音楽」であることが重要なのであり、実験も古典も分け隔てなく存在するのかもしれない。このフラットな感性にこそ新しい時代/世代の知性を感じる。
 いずれにせよ、ドローンとしての透明な魅力と、モダン・クラシカルとしての曲の練度など、この『Antiphonals』は、2010年後半以降のエクスペリメンタル・ミュージックとモダン・クラシカルの交錯の結果として生まれた素晴らしい作品である。2019年にリリースされたカリ・マローンの『The Sacrificial Code』と並べつつ、何度も繰り返し聴きたい名品だ。

Jamire Williams - ele-king

 新世代のジャズ・ドラマーとして頭角を現し、ジェフ・パーカーやヴルフペックの作品に参加、プロデューサーとしてもソランジュなど、多くの作品に関わってきたジャマイア・ウィリアムス。彼の5年ぶりとなるソロ・アルバム『But Only After You Have Suffered』が11月24日にリリースされる。ここ5年の彼の試みを凝縮した、集大成に仕上がっているようだ。カルロス・ニーニョやサム・ゲンデルらも参加。チェックしておきましょう。

JAMIRE WILLIAMS『But Only After You Have Suffered』

ソランジュ、モーゼス・サムニー、ブラッド・オレンジ等の作品にも名を連ね、パット・メセニ ーからロバート・グラスパー・トリオまで、数々のライヴで圧巻のプレイを見せてきた現在のジャズ・シーンでも圧倒的な存在感を誇るジャマイア・ウィリアムス。自身のサウンドの頂点を目指した、音楽の旅の集大成となる5年振りのアルバムが、日本限定盤ハイレゾMQA対応仕様のCDでリリース!!

Brandon Owens – bass guitar / Carlos Niño – percussion / Chassol – keyboards, synthesizer, programming / Corey King – vocals / Jason Moran – piano / Josh Johnson – mellotron, synthesizer, programming / Matthew Stevens – lead guitar / Sam Gendel – guitar synthesizer, alto saxophone / etc.......

ジャズ・ドラマーとしてNYで活躍していた頃から、ジャマイア・ウィリアムスは自身の表現領域を拡張し、深化させてきた。このアルバムには、作曲家/プロデューサーとしての彼が到達した、複合的で美しいアートが刻まれている。ジェイソン・モランやコーリー・キングからサム・ゲンデルやシャソルまで、彼が歩んできた音楽の旅で出会った才能が、このアルバムを更に輝かせている。(原雅明ringsプロデューサー)

アーティスト : JAMIRE WILLIAMS(ジャマイア・ウィリアムス)
タイトル : But Only After You Have Suffered(バット・オンリー ・アフター・ユー・ハヴ・サファード)
発売日 : 2021/11/24
価格 : 2,800円 + 税
レーベル/品番 : rings (RINC81)
フォーマット : MQA-CD
バーコード : 4988044070271

*MQA-CDとは?
通常のプレーヤーで再生できるCDでありながら、MQAフォーマット対応機器で再生することにより、元となっているマスター・クオリティのハイレゾ音源をお楽しみいただけるCDです。

Official HP : https://www.ringstokyo.com/jamirewilliams

Anthony Naples - ele-king

 夏も終わろうとしている。じょじょにではあるが気温も下がり、肌が冷たくなるのを感じる。UKとは違い、こと日本において「夏の狂騒」なるものはほぼなかった(というか禁止された)わけだが、それでもやはり、こうして季節の節目を予感すると、なにか僕のなかの気分も変わってゆくような……。クレイジーなクラブ・バンガーもおおいに結構だけれど、いまは少し落ち着きたい。良質なハウスを提供していたアンソニー・ネイプルズが、こうしてアンビエント、あるいはダウンテンポへ急接近したことは、まさにいまの移ろいにフィットする。『Chameleon』は来る秋のための、あるいは夏に失望させられたひとのためのサウンドトラックになりうる作品だ。

 ニューヨークのアンソニー・ネイプルズは、〈Mister Saturday Night〉や〈The Trilogy Tapes〉などからいくつかの12インチをドロップ。現在は自身のレーベル〈Incienso〉と〈ANS〉を拠点に、前者ではDJパイソンダウンステアズJのような才能を紹介しつつ、後者では自身の近年作をリリースしている。フォー・テットによる〈Text Records〉からドロップされた2015年の『Body Pill』にはじまり、自身の〈ANS〉における2019年の『Fog FM』までを俯瞰すると、彼のフルレングス作品はクラブ/フロアから得られた反応をアルバムへ落としこんだ印象が強かったが、『Chameleon』では大胆と言えるほどにダンス・ミュージックから離れており、彼にとって初めて、シンセサイザー、ギター、ベースやドラムといった楽器の生演奏を主軸に制作されたという。

 全編を通して落ち着いたアンビエンスが充満しているものの、それは聴き手の邪魔をしないサウンドに終始するのでなく、ベースとの絶妙な絡み合いを生み出しながら、ときにエレクトリック・ギターは躍動し、ドラムは有機的に働き、そして随所にシンセのデジタルな音が散りばめられている。そのなかでもとりわけ、エレクトリック・ギターを中心に作られたサウンドスケープが驚きをもって迎えられるべき点だろう。タイトル・トラックの “Chameleon” ではフェイザーをぐっとかけたギターの反復が重要な役割を果たしているし、“Massive Mello” におけるギターのストロークとベースのコンビネーションは素晴らしく、後半における短いギター・ソロでは、万華鏡のようなサイケデリアすら感じさせる。

 近い雰囲気を持つアルバムとして2018年の『Take Me With You』がある。しかしそれはクラブで踊ったあと、友人たちと誰かの家でくつろぐムードを表現した、アフターアワーのための音楽であった。むしろ『Chameleon』において、クラブやそれに付随するあれこれはもはや無関係と言える。インタヴューによれば、いくつかの曲はホルガー・シューカイやハルモニアなどのクラウト・ロックから影響を受けたと語るし、ロックダウンで長らくすみに追いやられていた過去のレコードをたくさん聴いたとも。そこにはA.R.ケーン、コクトー・ツインズ、コナン・モカシン、はてはニール・ヤングまでもが含まれている。この取り留めのない聴取の経験がサウンドそのものに影響を与えたとは感じないが、今作がフロアにまったく縛られていないことはこの事実からもひしひしと感じる。アンソニー・ネイプルズは今作において、DAWを立ち上げたモニターを前に座るハウス・プロデューサー然とした態度を選ばなかった。その代わり、小さなループ・ペダルと OB-6 のシーケンサーを手に取り、ひとりで自由なジャム・セッションらしきもの──本人はそれについて、楽器を嗜んでいた子どものころを思い出したと語る──をえんえんと続けた。その結実が『Chameleon』の音世界なのだ。

 また、『Chameleon』には言葉が見当たらない。もちろん歌詞はないし、それぞれのタイトルの多くがひとつの単語のみであり、音楽において一般的に具わる、言葉を通した聴き手への語りかけはほとんどない。いや、むしろ言葉がないからこそ、僕はこの音楽に耳をそばたて、ひとり目を閉じながら想像をふくらませるのかもしれない。しかし、それでもなお言葉に着目するならば、クローザーにおける “I Don’t Know If That’s Just Dreaming”、「夢を見ているのかどうか、私にはわからない」と。これはひとつの手がかりになるだろう。つまり、今作は夢見心地のアンビエントやダウンテンポではなく、夢にいるのかどうか、そのはざまで揺れ動き、聴き手の想像力を喚起しながら、いつのまにかどこかへ連れていってしまう音楽なのだ。写真家であり妻のジェニー・スラッテリーとダウンステアズJによるアートワークも示唆に富む。秋に咲く彼岸花の写真は意図的にゆがみ、ねじ曲げられている。それは少なからず音楽の危機を感じた今夏を経た僕(ら)にとって、これからのゆくすえを考えさせるような意味を持たせる。ほんとうに、聴いていると、思いもよらぬ考えごとや空想があれやこれやと押し寄せてくるじゃないか。

映画の歴史を変えた男、ジョージ・A・ロメロとは何者だったのか

『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)、『ゾンビ』(1978年)、『死霊のえじき』(1985年)の「ゾンビ」三部作により、映画の世界に「ゾンビ映画」という映画史に残る大発明をした男、ジョージ・A・ロメロ。

このたび、お蔵入りとなっていた幻の非ゾンビ映画『アミューズメント・パーク』が発掘され、一般公開されることに。デビュー作『ナイト~』とブレイク作『ゾンビ』の間をつなぐ時期にあたる1973年に撮影された本作を基点に、改めてロメロという映画作家の本質に迫ります!

内容
・ジョージ・A・ロメロ伝
・スザンヌ・ロメロ(ジョージ・A・ロメロ財団)インタヴュー
・パオロ・ゼラティ(「Twilght of the Deat」脚本家)インタヴュー
・大槻ケンヂ、ロメロの魅力を語る
・幻の未公開作『アミューズメント・パーク』
・全作品レヴュー
・ロメロの遺伝子──ロメロの影響下にある作品紹介

執筆者
伊東美和、稲継美保、ノーマン・イングランド、氏家譲寿(ナマニク)、宇波拓、恵木大(ヒロシニコフ)、上條葉月、木津毅、キヒト、児嶋都、児玉美月、後藤護、高橋ヨシキ、てらさわホーク、とみさわ昭仁、麓隆次、真魚八重子、森本在臣、山崎圭司、山崎朋

目次

●レポート Living Dead Museum(ノーマン・イングランド)
●アミューズメント・パーク
 イラスト 児嶋都
 雇われ仕事でもやるなら徹底的に。アミューズメント・パークという名の地獄の楽園(ナマニク)
●クロスレビュー『ザ・クレイジーズ』&『マーティン』
 何ひとつ噛み合わない人びとの営み、ひたすら拡大し続ける混沌。そこに不気味なリアリティがある(てらさわホーク)
 連鎖する赤と狂気(木津毅)
 居場所のない絶望(キヒト)
 散種されたクィアな “ヴァンパイア” の魂(児玉美月)
●ジョージ・A・ロメロ バイオグラフィー(伊東美和)
●インタヴュー
 スザンヌ・デスロチャー・ロメロ「ホラーというジャンルもリスペクトされるべき」(ノーマン・イングランド/翻訳 児嶋都)
 パオロ・ゼラティ「ジョージがゾンビ・サーガの決着をどうつけるつもりだったのか伝えたい」(ノーマン・イングランド/翻訳 児嶋都)
 大槻ケンヂ、ロメロの魅力を語る
●作品レヴュー
 68年のインディペンデント映画としての『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(上條葉月)
 ホラーの巨匠が若き日に挑んだ異色のロマンティック・コメディ『There's Always Vanilla』(児玉美月)
 『悪魔の儀式』と「ルーシー・ジョーダンのバラード」(高橋ヨシキ)
 熱力学と人間嫌悪に抗して──『ゾンビ』(後藤護)
 ゴブリンによる音楽がアルジェント版『ゾンビ』に与えたもの(てらさわホーク)
 ドラゴンと戦い続けるために──『ナイトライダーズ』は走り続ける(高橋ヨシキ)
 ロメロとキングのECコミック偏愛──『クリープショー』(森本在臣)
 製作過程の紆余曲折が生んだポリティカルな寓話──死霊のえじき(ヒロシニコフ)
 異常心理の世界に挑む──『モンキー・シャイン』(山崎圭司)
 ロメロのアンビバレンツを内包した映画『ダーク・ハーフ』(麓隆次)
 「お呼びとあれば!」メジャーに牙剥く、ロメロの頑固な恨み節──『URAMI~怨み~』(ナマニク)
 ロメロのゾンビが帰ってきた!──『ランド・オブ・ザ・デッド』(てらさわホーク)
 失われることのないプロトタイプの強靭さ──『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』(真魚八重子)
 インディペンデント映画の雄による白鳥の歌──『サバイバル・オブ・ザ・デッド』(宇波拓)
 短編・CM・MV──ロメロのお仕事アラカルト(山崎圭司)
 ロメロの素顔とホラー映画への理解が深まるドキュメンタリー4作(山崎圭司)
 玉石混交? リメイク作品の数々(伊東美和)
●論考
 ロメロ以前のゾンビ映画からみるロメロの革新性(キヒト)
 ライブラリ音楽と創造性(宇波拓)
 ゾンビウォークからゾンビハンドへ──ゾンビの左手、人間の右手(後藤護)
 ゾンビを演じる(稲継美保+山崎朋)
●ロメロの遺伝子
●プロフィール

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Billie Eilish - ele-king

 いまや世界一注目されるスーパー・ポップ・スターであるビリー・アイリッシュが繰り広げてきたダークなファンタジーは彼女がベッドルームで作り上げたものだということはよく言われるが、そこで自分が気になるのは、そのベッドルームが実家にあったということだ。いやもちろん、ティーンとしては一般的なことだろう。ここで言いたいのは、アイリッシュの歌──自傷や死の夢想、パラノイア──が家族に守られてきたことである。
 たとえばいまどきのアメリカのメジャーなアニメ映画などを観ていると、ジェンダーや人種のダイヴァーシティの意識が現代的に更新されていても、すごく古風に「家族」という価値観が守られているように感じられることが多い。ソニー制作で Netflix で配信されている『ミッチェル家とマシンの反乱』ではソーシャル・メディアに支配された現代を批評しつつ、クィアのキャラクターを自然に登場させ、強い父親がひとりで一家を守るのではなくメンバーが助け合う共同体としての家族が描かれていた(要は意識が高い)が、それでも「家族は素晴らしいし、支え合うものだ」という価値に揺らぎはない。いっぽうで、よりインディペンデントなアメリカ映画では、『フロリダ・プロジェクト』や『荒野にて』や『足跡はかき消して』のように……何なら今年アカデミー賞作品賞を獲った『ノマドランド』を加えてもいいが、緊密な関係にある家族を描きながら、それがもう壊れていることを露にしていた(これらの映画の背景にあるのは、容赦のない貧困である)。それこそ『大草原の小さな家』のようなアメリカの古き良き家族像の教科書だった作品にもまた反先住民的、反黒人的描写があるといって文学賞から外される現代にあって、よき家族とはどのようなものか、アメリカ社会は惑っているように見える。
 ビリー・アイリッシュの場合はどうか。彼女の歌がそもそも兄フィニアスとの非常に緊密な共同作業から生まれていることはよく知られているし、ドキュメンタリー『ビリー・アイリッシュ 世界は少しぼやけている』を観たりインタヴューを読んだりしていると、彼女の表現にとっていかに家族の支えが重要だったかが繰り返し強調されている。かつて「お騒がせアイドル」として世間に消費されていたブリトニー・スピアーズが現在、実父と財産や虐待の問題で揉めていることから、現在ではスピアーズに対する擁護の声が大きくなっていることを踏まえてもいいが、ポップ・スターにおける家族との関係性の理想像が時代とともにまた変化しているようにも思える。しばしば評されるようにアイリッシュがZ世代ならではのメンタルヘルスの問題を表象しているとして、それをケアするのは何よりも絶対的に信頼できるものとしての家族なのである(これは、アイリッシュの人気を広めるきっかけのひとつとなった Netflix のドラマ『13の理由』にも見られるテーマだ)。それはアメリカが古くから美化し理想化してきた家族像から大きくは外れておらず、その点でアメリカで支持されている部分もかなりあるのではないか。新世代のポップ・スターとして現代的なモチーフやテーマを背負いながら、同時にアイリッシュは伝統的な価値観とも連なってきた。
 だから、破格の成功を収めたデビュー・アルバムののちの正念場となる本セカンド作『Happier Than Ever』において、ジャケットではオールド・ハリウッドにおける美のイメージが引用され、音楽的にはフランク・シナトラやペギー・リーが参照されているのは合点がいく。実際にシナトラ的な要素が音楽のなかにあるのと同じくらい、彼女自身が影響を口にしていることが重要だ。それは、自分が必ずしもアメリカのポップ・カルチャーにおける鬼っ子ではなく、ゆるやかな継承者であるという態度表明である(METガラでマリリン・モンローのスタイルを採用したのも話題となったばかりだ)。
 とはいえもちろん、単純なレトロ回帰ではなく、“My Future” のようにジャジーな曲、“Your Power” のようにフォーキーな曲とともに “Not My Responsibility” の時空がねじれるアンビエント・ポップ、重たいビートが両足を掴むような “NDA” のノイジーなトラック、そしてベース・ミュージックをより密室的な響きで封じこめたような “Oxytocin” など、アメリカン・スタンダード再訪と新しい時代感覚のポップスが共存しているところがこのアルバムの面白さだろう。減退したとはいえトラップ以降の感覚はベースになっているだろうし、何よりポップ・シーンでプロデューサーとして頭角を現しはじめている兄フィニアスのセンスを信じて託している部分も大きい。

 このアルバムで描かれているのはアイリッシュが実際に直面したポップ・ワールドのえげつなさで、「ダーク」なのはベッドルームで見た夢ではなく外界のほうだった……という感覚がシェアされている。遊ぶ相手に機密保持契約を結ばせる経験(“NDA”)などはポップ・スター以外が共感するのは難しいだろうが、ソーシャル・メディアで身体が不特定多数にジャッジされること(“Not My Responsibility”)や特権的な力を振りかざす男たち(“Male Fantasy”)に対する怒りなど、アイリッシュのファンのメイン層だろう同世代の女性たちにとってとりわけ切実なモチーフが選択されているように見える。それはある意味、現代の10代らしい意識の高さの表れだが、アイリッシュは同時に、恋愛相手に振り回されるなど「正しく」振る舞えずに惑う自分自身も正直に描いている。「政治的な妥当性(PC)」では必ずしも掬えない感情の揺らぎや戸惑いにこそ、わたし(たち)のリアリティがあるのだと。それは政治的妥当性を優先しがちな現代のポップ・シーンへの批評としても結果として機能している。
 アルバムのハイライトである表題曲 “Happier Than Ever” のギターの爆発はグランジを連想させる。これはメディアから「新世代のカート・カバーン」などと短絡的なコピーをつけられたことへの皮肉である……というのはさすがに自分の穿った意見だとは思うが、ともかく、かつてのニルヴァーナの楽曲のように、良識を食い破っていく若者の感情の生々しさを捕まえることにアイリッシュは相変わらず腐心している。
 意識の高さや新しさだけでは自身の表現のリアリティを保てないと理解しているところにアイリッシュのクレバーさはあって、積極的にアメリカの過去に遡ってみせた本作でその志向が見えやすくなったように思う。たとえば、ここで彼女が参照しているオールド・ハリウッドは現代的な価値観でジャッジすると「政治的に妥当ではない」要素を数多く孕んでいるが、そこにも現代の我々が惹かれる美が宿っていることを彼女は知っている。そしてまた、それら古典を独善的に「アップデート」するのではなく、そうした割り切れなさが新世代にも──もしかすると、かつてよりもいっそう複雑な形で──偏在していることを仄めかすのである。ラナ・デル・レイほどその風刺に意識的ではなく、どこか直感的なところを残しているからこそ若い世代にも伝わりやすいのかもしれない。
 自分の関心は彼女の表現が家族の庇護を離れたときにどうなるか、にあるが、変わらず兄や両親の支えとともに「世界」に対峙してみせた本作もまた、現時点の彼女のリアリティに他ならない。(アメリカの)伝統と革新のせめぎ合い、あるいは混在を率直に体現しているからこそ、ビリー・アイリッシュは現代のポップ・アイコンにふさわしい。

DJ Seinfeld - ele-king

 はじまりは、彼女に振られた傷を癒やすためだった。アメリカのシットコム『となりのサインフェルド』をビンジ・ウォッチしたのち、DJサインフェルドを名乗ったスウェーデンはマルメに住む音楽一家の青年、アーマンド・ヤコブソンが2017年に “U” をドロップすると、ロウな質感を伴ったメランコリックな響きを持つその4つ打ちはまたたく間に広まり、それは同世代のロス・フロム・フレンズ──不思議な偶然。彼もアメリカのシットコム(『フレンズ』)から名前を拝借している──、モール・グラブ、DJボーリングといった面々と並列されながら、主にユーチューブのレコメンド・アルゴリズムを契機とした、インターネット発のローファイ・ハウスなるタームを生み出した。

 しかし、そんなネット発でバズったジャンルにまとめられた彼らも、いまや、「悲しさ」や「メランコリー」といったローファイ・ハウスの陳腐なクリシェからの飛躍を試み、それぞれが自己のアーティスト性を高めようと動いている。それは、DJサインフェルドも例外ではなく、人気コンピ・シリーズ『DJ Kicks』へのミックス提供、エイフェックス・ツインが彼の “Sakura” をスピンしたことなど、彼がこのジャンルの枠組みに収まらないことは、これらの事実が端的に物語っている。

 〈Ninja Tune〉からの初リリースとなる『Mirror』でもローファイ・ハウス感は抑えられており、その代わり、UKガラージ、イタロ、ダウンテンポなどを援用した、彼の音楽的な多彩さを感じさせるダンス・ミュージックに仕上がっている。同ジャンルの文脈から語られることもあったフォラモアは、〈FHUO Records〉からリリースした『The Journey』ではポップス(売れ線)に寄りすぎて残念だったのだが、DJサインフェルドはその点において絶妙な着地点を見つけたように思う。つまり、誰にでも開かれたフレンドリーなサウンドでありながら、アンダーグラウンドなダンス・ミュージックの出自もきっちりと感じさせるようなアルバム。僕のようなミュージック・ナードが惹かれるような部分もありつつ、音楽に対して深く入れ込んでいないようなひとにも……たとえば、さまざまな趣味嗜好を持った友人たちとドライヴしているときにかけたってなんら不自然ではない、誰だって入り込めるようなアルバムにもなっている。

 テイラを2曲でフィーチャリングしたことをはじめとして、『Mirror』にはヴォーカルがあり、それが作品としての開かれた感覚に一役買っているのだろう。しかしそれは、DJがたくさんのヴォーカリストを招聘して歌を乗せるだけのポップス・アルバムなどではなく、ヴォーカルはサウンドのいち部分として、深いリヴァーブをかけ、ときにはサンプリングの作法に倣うような手法を用いつつ、声を中心に置くのでなく、あくまでDJサインフェルドによって創造されたサウンドスケープを軸に展開されている。また、「いまのダンス・ミュージックで興奮していること」、との問いに対して「UKガラージのリヴァイヴァル」と短く回答したのは、今作のムードを形作るひとつの要素として、UKガラージの存在があることもほのめかす。“Walking With Ur Smile” のビートがまさにそうであるし、R&Bのヴォーカルを乗せた “Someday” もこの手のジャンルが好きならばたまらない。これらの2曲だけでもリズム面において飽きさせない効果をもたらすし、さらにダウンテンポなインタールード “Home Calling”、イタロ調のサマー・アンセム “U Already Know” など、かつてないほどに作品としての充実を感じさせる。

 先行シングルの “These Things Will Come To Be”、クローザーの “Song For The Lonely” など、彼の出自たるローファイ・ハウスの刻印は残っているものの、それはわずかばかりの残余であり、「より良いプロデューサーになりたい」と語るDJサインフェルドによって繰り出されるこれらの音は、すくなくともこのジャンルにはとうてい収まりきらない、より広い聴衆へのリーチを試みる進取の気性に富んだ作品に結実している。

 アルバムのタイトルは、アルゼンチンのフリオ・コルタサルによる詩から着想を得たという。「あなたはいつも私の鏡だった。私自身を見るために、私はあなたを見ている」(原題『Bolero』)と。「ベリアルの真似事」をやっていた青年が、傷心を癒やすためベッドルームで音楽を作り、それがローファイ・ハウスにおけるクラシックとしての、メランコリックで陰鬱な音を伴った “U” になったこと。そして、今作において多くの時間をマルメの実家で過ごし、家族や友人と幸せな関係を築くことの大切さに気づいたことで、来るものを拒まないフレンドリーな『Mirror』になったこと。そう、彼が作ってきた音楽は、彼を移す鏡のようなものだった。もはや傷心した青年の姿はもうなく、『Mirror』がそこに映し出しているのは、これからもっと大きくなることを予感させる、素晴らしい才能に満ちたアーティストの姿なのだ。

ISSUGI & DJ SHOE - ele-king

 さまざまなタイプの楽曲を収録したミックス・アルバム『Both Banks』が話題の ISSUGI & DJ SHOE。同作収録曲の、DJミックスされていないヴァージョンを集めたEP「Both Banks EP」が、本日配信にてリリースされた。タイトル曲や MONJU 名義の曲、PUNPEE のリミックスなど、『Both Banks』のなかでもとくに要注目の曲たちがコンパイルされている。
 またこのタイミングで、新たなパフォーマンス映像も公開となった。仙人掌と Mr.PUG も登場するところは胸が熱くなります。合わせてチェックを。

[2022年1月6日追記]
 配信でリリースされていた上述「Both Banks EP」が、なんとアナログでも発売されます。2022年1月26日リリース、完全限定生産。ジャケも変わっています。
 また、 ISSUGI & DJ SHOE『Both Banks』と、MONJU『Proof Of Magnetic Field』、MASS-HOLE『ze belle』のトリプル(!)・リリース・パーティが1/22(土)福岡にて開催されます。詳しくは下記より。

ISSUGIとDJ SHOEによるミックスアルバム『Both Banks』からprod.Gwop Sullivanによるタイトル曲やMONJU名義の楽曲、PUNPEE"Pride" feat.ISSUGIの16FLIPリミックスなどの新録曲をコンパイルしたアナログ盤が完全限定プレスでリリース!

 DOGEAR RECORDSの中心的存在MONJUやSICK TEAMのメンバーであり、BES & ISSUGIを始めとする様々な名義でも楽曲をリリースし続ける東京のラッパー、ISSUGIと福岡~九州を拠点に活動し、ISSUGI作品にも度々参加してきたDJ SHOEとのジョイントで昨年リリースされたミックスアルバム『Both Banks』。同作に収録されているGwop SullivanやCRAM、EL moncherie(弗猫建物)のプロデュースによるISSUGIとしての新曲やMONJU名義の楽曲(MONJUの新作EP『Proof Of Magnetic Field』には未収録)、さらにはPUNPEE名義で2017年に発表された"Pride" feat. ISSUGI(Prod by Nottz)の16FLIP Remixの新録5曲をコンパイルしたアナログ盤『Both Banks EP』が完全限定プレスでリリース! アートワークをSPECDEE(SOUL NEWS PAPERZ)が担当し『Both Banks』とは違うデザインに仕上がっており、こちらもファン必携のプロダクトとなるはずだ。
 またISSUGI & DJ SHOE『Both Banks』とMONJU『Proof Of Magnetic Field』、MASS-HOLE『ze belle』のTRIPLE RELEASE PARTYが1/22(土)に福岡The Voodoo Loungeにて開催! 会場にてこのアナログ盤『Both Banks EP』を数量限定で先行販売する予定です。

[作品情報]
アーティスト: ISSUGI & DJ SHOE
タイトル:  Both Banks EP
レーベル: P-VINE, Inc. / Dogear Records
発売日: 2022年1月26日(水)
仕様: EP(完全限定生産)
品番: P12-7177
定価: 3.300円(税抜 3.000円)

Stream/Download/Purchase:
https://p-vine.lnk.to/6grb2z

*ISSUGI & DJ SHOE / Both Banks
https://youtu.be/DLGHcDnuF-A

[トラックリスト]
Side A
1. Both Banks - ISSUGI & DJ SHOE
 Prod by GWOP SULLIVAN
2. Woowee ft Vany, MASS-HOLE - ISSUGI & DJ SHOE
 Prod by EL moncherie
3. D.OGs - ISSUGI & DJ SHOE
 Prod by CRAM
Side B
1. Pride (16flip Remix) ft ISSUGI – PUNPEE
 Remix by 16FLIP
2. In The City – MONJU
 Prod by 16FLIP

MONJU「Proof Of Magnetic Field」
ISSUGI & DJ SHOE「Both Banks」
MASS-HOLE「ze belle」
TRIPLE RELEASE PARTY in FUKUOKA

presented by DARAHA beats & G.E.R.U

2022.01.22 (SAT)
at The Voodoo Lounge
OPEN 21:00 CLOSE 5:00
ADV: 3,500yen (1D ORDER) *LIMITED
来場先着100名限定プレゼント: DJ GQ & DJ SHOE MIX CD

■RELEASE LIVE:
MONJU
ISSUGI & DJ SHOE
MASS-HOLE

■SPECIAL GUEST:
EL moncherie
DJ I.D.E
FREEZ
DJ GQ

■DJ:
GERMM
KAYO
DBK
YMG
QICKDUMP & KRZT

■LIVE:
LAF feat. PMF
REIDAM
EVIL ZUUM

[TICKET SHOP]
DARAHA beats 福岡市中央区今泉1-23-4 remix天神 406 / 092-287-5880
2DC BASE 筑紫野市二日市中央6-2-18 浪花通り2F 121-2F号室
ALCO/HOLIC 福岡市中央区大名1-15-15 092-751-4040
APPLE BUTTER STORE 福岡市中央区薬院2-4-13 / 092-791-8837
FAT POCKETS 福岡市中央区大名1-11-25 駒屋ビル 1F / 092-791-3949
FRESH&HAPPINESS 福岡市中央区今泉2-3-19 トキワビル501
LATITUDE 福岡市中央区赤坂1-10-16 ソピア赤坂ビル 5F / 092-406-4997
SEXTANS 福岡市中央区舞鶴1-3-11リフレ庵2F
SQUASH DAIMYO 福岡市中央区大名1-12-36 ニューアイランド大名 206 / 092-724-9552
SQUASH IMAIZUMI 福岡市中央区今泉1-2-8 ANDON 1E / 092-734-3037
Stockroom 福岡市中央区大名1-8-42-412 / 080-8359-3051
TICRO MARKET 福岡市中央区大名1-15-30 天神ミーズビル203 / 092-725-5424
& 出演者, 会場

*会場の感染症対策にご協力をお願い致します。

[the Voodoo Lounge]
福岡市中央区舞鶴1-8-38第19ラインビル4F
092-732-4662 // thevoodoolounge.fukuoka@gmail.com
https://voodoolounge.jp

 以下は、2021年9月1日時点での情報です。

ISSUGIとDJ SHOEによる最新ミックスアルバム『Both Banks』からMONJU名義の新曲やPUNPEE "Pride" feat. ISSUGIの16FLIPリミックスなどの新録曲のNo DJヴァージョンをコンパイルしたEPが本日より配信開始! また両者をフィーチャーしたニューコンテンツ「SKILLS」でのパフォーマンス映像も公開!

DOGEAR RECORDSの中心的存在MONJUやSICK TEAMのメンバーであり、BES & ISSUGIを始めとする様々な名義でも楽曲をリリースし続ける東京のラッパー、ISSUGIと福岡~九州を拠点に活動し、ISSUGI作品にも度々参加してきたDJ SHOEとのジョイントでリリースされた最新のミックスアルバム『Both Banks』。同作に収録されているGWOP SULLIVANやCRAM、EL moncherie(弗猫建物)のプロデュースによるISSUGIとしての新曲やMONJU名義の新曲、さらにはPUNPEE名義で2017年に発表された "Pride" feat. ISSUGI(Prod by Nottz)の16FLIP Remixといった新録5曲のNo DJヴァージョン(DJミックスされていないヴァージョン)をコンパイルしたデジタルEP『Both Banks EP』が本日より配信開始!

そのISSUGIとDJ SHOEをフィーチャーしたニューコンテンツ「SKILLS」でのパフォーマンス映像も公開! こちらは気鋭のビデオプロダクションユニット「Kook Film」が新たにスタートさせたコンテンツで、MONJUのメンバーである仙人掌とMr.PUGも登場し、同作に収録されているBoth Banks、In The City、Now o r Neverを披露しています。

また『Both Banks』のタイトル曲である "Both Banks" を始めとするISSUGI関連のミュージックビデオが本日よりApple Musicにて解禁になりました。こちらも合わせてチェックしてみてください。

"SKILLS" Vol.1 ISSUGI & DJ SHOE | Show Case
https://www.youtube.com/watch?v=g4MjqSVOQj0

[EP 作品情報]

アーティスト: ISSUGI & DJ SHOE
タイトル:  Both Banks EP
レーベル: P-VINE, Inc. / Dogear Records
発売日: 2021年8月31日(火)
仕様: デジタル
Stream/Download/Purchase:
https://p-vine.lnk.to/6grb2z

[トラックリスト]
1. Both Banks - ISSUGI & DJ SHOE
 Prod by GWOP SULLIVAN
2. Woowee ft Vany, MASS-HOLE - ISSUGI & DJ SHOE
 Prod by EL moncherie
3. D.OGs - ISSUGI & DJ SHOE
 Prod by CRAM
4. Pride (16flip Remix) ft ISSUGI – PUNPEE
 Remix by 16FLIP
5. In The City – MONJU
 Prod by 16FLIP

[アルバム 作品情報]
アーティスト: ISSUGI & DJ SHOE
タイトル:  Both Banks
レーベル: P-VINE, Inc. / Dogear Records
発売日: 2021年7月28日(水)
仕様: CD/デジタル
CD品番: PCD-94042
CD定価: 2.640円(税抜2.400円)
Stream/Download/Purchase:
https://p-vine.lnk.to/wYKZsER6

暇をセレブレートするための5枚 - ele-king

 音楽を含めたエンターテインメントはたぶん無駄で、意味のない、そしてひまなひとのものだと。だからこそ僕は音楽が好きなのに、いまはそれを楽しむにしても相応の理由が要求され、他方で某企業は「暇は犯罪です」と言っている……。そういう世の中の流れは悲しくすこし怖いとも思う。坂本慎太郎は「役に立たないものが存在できない世界は恐ろしい」と言ったが、まさにいま、役に立たないものがなぜ必要なのか? を突きつけられている。とまあ、シリアスな話になってしまったが、そんな昨今の流れで「いま聴くべきダンス・ミュージック」を紹介しようと思う。僕は役に立つと思って、意味を求めて、ひまを無くすためにダンス・ミュージックを聴こうと思ったことはいちどもないし、むしろ無駄、無意味、暇、それらをぜんぶおう歌するために聴いているのだ。意識したわけではないけれど、イヤホンではなくどれも巨大なスピーカーを通して聴きたくなるような音楽が並んだが、それは僕の気分でもあり、同時にこの状況下におけるアーティストやDJたちのフロアに対する渇望があらわれているのかもしれない。ひまや無駄をセレブレートできるひとならば、以下に紹介する音楽たちをぜひ聴いてほしい。


Disclosure - Never Enough EP Universal

 ポップスのフィールドで大成功を収めているUKのローレンス兄弟だが、主要なインスピレーション元であるフロアへの目配せも忘れないところが心憎い。2018年にゲリラ的にリリースした5曲入りのEP「Moonlight」では、ジャズのサンプリング、あるいはソウルのリエディットなどを取り入れた丁寧で踊れる楽曲が並んでいたが、このEPでも彼らは同じようなことをしている。つまり、そこにアメリカのポップスターのフィーチャリングはひとつもなく、4つ打ちを基調とするフロア志向の楽曲があり、そのどれもが彼らのスタジオ・ワークによってのみ繰り出されるサウンドなのだ。「最初にクラブに戻れた瞬間に聴きたいサウンドは?」「グラストンベリーで午前2時にシャングリラにはいるときの気持ちは?」「レディングでヘッドライナーを務めるのはどんな気持ちだ?」、そんな問いかけをしながら制作されたという。ああ、僕は “In My Arms” や “Happening” をクラブ、あるいはフェスで聴いてみたい。


Y U QT - U Belong 2 Me (Piano House Mix) South London Pressing

 希少なダブプレートをふんだんにスピンした『FACT』でのミックスから、ヴァイナルへのストイシズムをむんむんと感じさせるロンドンはリズ・ラ・ティーフによるレーベル〈South London Pressing〉からのリリース。Y U QT による “U Belong 2 Me (Piano House Mix)” は、サマー・アンセム・ヴァージョンとでも形容したくなるようなヴァージョンのミックスで、原曲はUKガラージだが、このミックスでは豪華なストリングスとともに4つ打ちが絡み合いながらピアノが重ってゆく、王道なハウスを展開。このほかにも “4×4 Mix” と、すこしあとに “Homeless Dub Mix” がドロップされたが、圧倒的にこの “Piano House Mix” が最高。ロンドンのクラブ再開に合わせてのリリースは、「夏のダンスに備えろ」というメッセージに思えてならない。


DJ ADHD - Vortex EP Pretty Wired

 インスタグラムにおける現在のフォロワー数は600人(どんどん増えている)ほどで、まだ謎めいたダークホースかと思ったが、すでにフローティング・ポインツ、D-ブリッジ、ハドソン・モホークやダスキーといった面々にプレイされているようだ。ベアリー・リーガルことクロエ・ロビンソンが運営する〈Pretty Wired〉からのリリースで、レーベル名からもおわかりの通り “かなり変” なダンス・ミュージックに仕上がっている。止まったかと思えば突如として落ち着かないビートが再び展開する “Blem” がいちばんのお気に入りだが、UKファンキーめいたリズムが鳴らされる “Wobble” も外せないし、ベース・ヘヴィーな “Vortex” も……まぁ、すべて間違いのないクオリティということ。DJ ADHD を筆頭に、ベアリー・リーガルによる〈Pretty Wired〉周辺には気になる才能が集まっているので、まとめてチェックしておこう。


Willow - Workshop30 Workshop

 ドイツはロウテックとエヴェン・トゥールによって設立された〈Workshop〉、まずカタログのほとんどがナンバリング・タイトルにスタンプ・ラベルというシンプルなスタイルに僕は惹かれたが、その内容もご多分に漏れず素晴らしい。マンチェスターを拠点とするウィロウことソフィー・ウィルソンはすでに『Workshop 21』や『Workshop 23』(ムーヴDによって見いだされた)で登場しているが、今作『Workshop 30』は実に5年ぶりのカムバック。“Sexuall” における怪しげなヴォーカル・サンプルと不気味なコード、そして背後でまとわりつくように鳴らされるパーカッションはこのEPのムードを要約しているように思う。どこまでも反復されるハウス~テック・ハウスで、山場のようなものはないが聴いているうちに不思議な陶酔感をもたらしてくれるようなサウンド。また、アリーヤのサンプルを取り入れた “Strawberry Moon” はビートのアレンジメントがすこし跳ねるような感じでこれも面白い曲だと思った。というわけで僕はA面よりもこれらB面2曲のほうが好みだな。


Sia – Little Man (Exemen Remix) Long Lost Brother

 最後に新譜ではないが紹介させてください。原曲はグラミーも受賞するオーストラリアのポップスター、シーアによるものだが、これを2ステップ~UKガラージにおける重要人物のウーキーが、その弟とのデュオ・プロジェクトであるエクセメンとして最高のUKガラージ・チューンにリミックス。原曲にあるスムースなムードは鳴りを潜め、このジャンルのシグネチャーといえる独特なビートとスティール・パンめいた音などを追加した至高のアンセムに仕上げている。この手のサウンドを通ったひとならば誰もが愛するクラシックがおよそ20年ぶりにリプレスされたのだから、聴き逃すわけにはいかない。いつ鳴らしても色あせない素敵な響きを持っているので、1家に1枚置いておくべき12インチとして、ぜひどうぞ。

Big Red Machine - ele-king

 グレイトフル・デッドの軌跡を追ったドキュメンタリー『グレイトフル・デッドの長く奇妙な旅』を観ると、彼らがかつて試みたことは、音楽(とドラッグ)を通じた大いなる実験だったことがわかる。演奏も即興なら活動自体も即興的。たとえば彼らの活動の中心はライヴだったが、だからと言ってその音源を権利的に囲いこむようなことはせず、オーディエンスに録音を許可した結果ライヴが評判になってさらに人気に火がついたのだという。もちろんコミューンのようなこともトライしているし、ファンと生計をともにすることもあった。いまの感覚で見ると、まあ、大らかな時代だったんだよな……と思うが、しかしそれはそれで、彼らなりの懸命なチャレンジだったのだろうなという感慨も沸く。音楽を愛する者たちで、自分たちで、生活を支えるネットワークを作るという理想は、もちろん失敗も繰り返したが、アメリカの次の世代に大きなヒントを残したのだった。
 それを受け取ったひとりがザ・ナショナルのアーロン・デスナーだったことは、現在のUSインディ・ロック・シーンにとってとても幸運だったのではないだろうか。彼が自身の持つネットワークを駆使して編纂を担当したグレイトフル・デッドのコンピレーション『Day of the Dead』は、何よりもそこに参加した人間の多さ、収録時間の長さでもって、いまもグレイトフル・デッドの精神が形を変えてシーンに受け継がれていることを示していた。わたしたちはシステムに縛られて生きているのかもしれない、けれども、その外を目指して生きることはそれでも可能なのではないか──。あの作品がエレクション・イヤーの2016年に問うていたのはそういうことだったろう。
 あるいは、アーロン・デスナーとともにビッグ・レッド・マシーンの中核にいるボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンが、現在のUSインディ・ロック・シーンにおいてインディペンデントなネットワークを形成することに腐心してきたのは(ヴァーノンはとりわけインディ・ロックの外のシーンへの働きかけが強い)、繰り返し書いてきたことだ。パンデミック以降にボン・イヴェールが発表したシングルは、アメリカで高度に発展した資本主義のシステムのオルタナティヴを模索することを主題としていた。とりわけ2枚目の “AUATC” (https://youtu.be/-DusRnF36UA)は「ate up all their cake(ケーキ全部食べちゃった)」の略で、限られた資本家が資源や富を独占していることを糾弾しつつ、ゴスペル・コーラスにブルース・スプリングスティーンまでを加えたものだ。が、その声は極端に変調されており、リスナーには「あのボス」の声だと判別できない。アメリカを代表する大衆音楽の歴史を、現在の匿名の「声」に織りこむ──そうやってヴァーノンは、いまも現代のコミュニティのあり方を模索している。

 2010年代なかばから〈PEOPLE〉という名のアーティスト・コレクティヴを主宰しているデスナーとヴァーノンによるビッグ・レッド・マシーン(以下 BRM)の2作めとなるこのアルバムは、まったくもって、彼らが15年ほど前から踏みしめてきた道の続きで生まれている。多くの人間が加わって、フォーク・ロックを基調としながら、様々なジャンルを越境してコーラスとアンサンブルを奏でる。そこはボン・イヴェールが『22, A Million』以降に試みていることと同様だが、BRM はボン・イヴェールよりはるかにリラックスしたプロジェクトである。2018年の1作め『Big Red Machine』はヴァーノンとデスナーが得意とする音楽的要素が強いアルバムで、その分どうしてもボン・イヴェールの楽曲に至る前の習作といった印象が拭えなかったが、本作『How Long Do You Think It's Gonna Last?』はよりオーガニックな演奏による歌にフォーカスすることで、大らかな風合いは保ちながらソングライティングの面で魅力的な一枚となった。曲によって参加したミュージシャンのテイストにかなり音楽性が委ねられているのだが、そこが本作のポイントに他ならない。デスナーとヴァーノンが作った場にお客さんが来る、というのではなく、本当にいろいろな人間が出入りする場所として開かれているのだ。
 まず、アメリカーナのシンガーとして知られるアナイス・ミッチェルを迎えたオープニングのバラッド “Latter Days” が素晴らしい。透明感のある鍵盤が鳴るなか、ミッチェルのハスキーな声とヴァーノンのファルセットが柔らかく、熱をもって重なる。レイドバックした70年代的アメリカン・フォーク・バラッドのようで、プロダクションにモダンなタッチを効かせているのはデスナーらしい。あるいはフリート・フォクシーズのロビン・ペックノールドが歌う “Phoenix” はフリート・フォクシーズよりもさらに朗らかなピアノ・バラッドになっているし、スパンク・ロックのナイームが変調した声を独自のフロウとともに聴かせる “Easy to Sabotage” の断片的なエレクトロニクスや、イギリスのインディ・フォーク・シンガーのベン・ハワードとティス・イズ・ザ・キッドがメロウな歌声を聴かせる “June's River” のアブストラクトなタッチもそれぞれユニークだ。それこそボン・イヴェールの諸作と比べて一枚のアルバム作品としての統一感や緊張感はないのだが、そんな風に「バラけている」こと自体が本作のコンセプトである。いろいろな人間(PEOPLE)がここには存在し、それぞれの音を伸び伸びと鳴らしているのだと。
 デスナーが昨年テイラー・スウィフトのフォーク作『folklore』『evermore』をプロデュースした経緯から本作にもスウィフトが参加しているが、そのなかの1曲 “Renegade” のポップぶりにはとりわけ驚かされる。聴いて一発でわかるくらい、ものすごくテイラー・スウィフトのポップ・ソングとして仕上がっているのだ。彼女もまた、このアルバムのなかで生き生きしていることに嬉しくなってくる。ここのところのスウィフトとインディ・ロック・シーンとの交わりは、たんにスーパー・ポップ・スターが下界に降りてきた、というものではない。楽曲の権利の問題で企業と闘争していた彼女にとってはインディペンデントな体制での音楽づくりをやり直すことだったし、デスナーらにとってはメインストリームのポップ・フィメール・シンガーの存在を見くびらずにその声に耳を傾けるということだった。テイラー・スウィフトのドキュメンタリーを見ると、彼女が民主党支持を表明するのをスタッフが必死で止めるくだりがあるが、そもそも個人の意見を表明すらできないスター・システムとは何なのか、という話である。そして彼女はいま、インディ・ミュージシャンたちとともに自分自身の声を出している。それに、このアルバムのタイトルを提案したのはスウィフトだという──「これがいつまで続くと思う?」。トランプ政権末期に制作されていたという本作は、ある意味では、現在のアメリカの左派的なミュージシャンたちの共通する想いを重ね合わせたものだとも言える。
 だがもちろん、必ずしも政治的な動機だけが埋めこまれた作品でもない。ザ・ナショナルのファンにとってはアーロン・デスナーがメインで歌うナンバーが収められていることに喜びを感じられるだろうが、それらはアルバムのなかでもとりわけ素朴な歌となっている。“The Ghost of Cincinnati” はまるでエリオット・スミスのような繊細なフォーク・ソングだし、“Brycie” はデスナーが10代で鬱になったときに支えてくれた弟(でザ・ナショナルのメンバーである)のブライス・デスナーに感謝を伝える温かい曲だ──「きみが僕をここに留まらせてくれた」。まったくパーソナルな経験や記憶が呼び出され、それらはここで共感され、分かち合われる。

 BRM の成り立ちを考えても、本作はシンプルにアルバムとして完結しているのではなく、制作の過程やネットワークの広がりを可視化すること自体を目指したものだ。マーケティングのためのとってつけた「ダイヴァーシティ」ではない。最終曲 “New Auburn” では象徴的に「白人男性だけの100年によって」という言葉が出てくるが、そうやって硬直したシステムを変えていくには、様々な人間の様々な声が──あるいは想いが必要なのだと、態度と音楽で示すのである。
 自分が10代から20代の頃にアメリカのインディ・ロックに胸を打たれたのは、音楽それ自体のチャレンジングなあり方だけではなく、社会とどのように対峙していくかの実践を見せてくれていたからだ。それは党派性に身を捧げることではないし、ましてやソーシャル・メディア上で気の効いた主張を繰り広げることでもなく、この社会のなかでどのように生きたいかを探求し続けることだと教えてくれたのが、自分にとってはアメリカの音楽だった。いまデスナーとヴァーノンが示しているのは人間同士の助け合いが絶対に必要だというシンプルなことで、それに賛同する人間が増え続けていることを頼もしく思う。それに、ここにはとても強くて温かい歌があるから。

8月の終わりのサウンドパトロール - ele-king

 齋藤飛鳥と山下美月の会話をぼんやり聞いていたら、そういえば、ここ数年、誰かが自分を見ているときに「(自分が)見られている」とは言わずに「(相手が)見てくる、見てくる」という言い方をするなーと。行動の主体が相手にあることは同じなのだけれど、「見られている」という言い方をすると自意識も一緒に発動してしまうので、相手の行為を自分がどう受け止めているかはわからなくするために「見てくる」という言い方になっているのかなーと。自意識を隠すということは「自分がどう見られているかは気にしていない人に見られたい」という自意識が複雑に折りたたまれているということだから、結局は「見てくる、見てくる」と嬉しそうに騒ぐ時点で、「(自分は)観られてる~」と喜んでいるのと同じだと思うんだけど、それでもやはり相手が見ているのは相手の問題意識のなかで完結していることだとアピールしておかないと自意識を発動させざるを得なくなってしまい、そのような事態はどうしても避けたいということなんでしょう。マウントを取りたがる人が嫌がられることの裏返しかなとも思いますが、孤独に音楽を聴いている人には関係ない話でしたね。


01 | Bendik Giske - Cruising (Laurel Halo Remixes) Smalltown Supersound Norway

この春、バッテクノことパヴェル・ミリヤコフと不気味なジョイント・アルバムをリリースしたばかりのベンディク・ギスケ(いま流行りの遠心顔)が8月27日にリリース予定のセカンド・アルバム『Cracks』から “Cruising” を先行カット。両サイドと共にローレル・ヘイローのリミックスをフィーチャーし、これが『Pavel Milyakov & Bendik Giske』の、とくに “Untitled 4” を複雑にしたような素晴らしいダブ・テクノに。クラフトワークをスクリュードさせたようなビート・ダウンにプロセッシングされた管楽器が幻のように咲き乱れる。たったの6分で終わりかと思っていると、Bサイドでは左右でエフェクトの種類が分けられた、さらに桃源郷のようなビートレス・ヴァージョンが長尺で控えている。サイケデリック・サマーはこれで決まり。


02 | Quixosis - Micropótamo Eck Echo Records

エクアドルのベース・ミュージックからダニエル・ロフレード・ロータによるデビュー・アルバム『Rocafuerte』の2曲目。オープニングからハープなどの幻想的なメロディが重層的に響き渡り、一気に未知なるトロピカルへと連れ去られる。ハットやタムがしっかりとしたビートを刻んでいるものの、リズムはなぜか途切れがちで、それが妙に良かったり。タイトルは「小川」の意。アンディ・ウェザオールのリミックスを聴いてみたかった感じでしょうか。アルバム・タイトルのロカフェルテというのはエクアドルの都市キトの中心部にある通りの名だそうで、ラテン・アメリカとヨーロッパの音楽を古いも新しいもごった煮にした音楽性と関連づけたものらしい(キトは玉井雪雄『オメガトライブ』でイブ・L・ホークスが幼児期に虐待されていた街というイメージしかないんだけど……)


03 | Faye Webster - I Know I'm Funny Haha Secretly Canadian

2年前に『Atlanta Millionaires Club』(メッシー・テイストのジャケはかなり苦手)で頭角を現したシンガーソング・ライターによる4作目『I Know I'm Funny Haha(=私がヘンなのは知っているわよ草)』のタイトル曲。全体に前作とは異なったサウンド・メイキングで、カーペンターズみたいだったりもしつつ、いくつかの曲でコード進行などがけっこうフィッシュマンズを思わせる。佐藤伸治が生きていたら “A Dream With A Baseball Player” とかつくりそうじゃないですか。あー、ダラダラする。実に夏向き。10曲目の “Overslept(寝坊)” には〈カクバリズム〉からメイ・エハラが参加。今年、フィッシュマンズTを売り出したジャーナル・スタンダードが早くからコラボ・アイエムを手掛けていたり。


04 | Ground - Ozunu Chill Mountain

セカンド・アルバム『Ozunu』からタイトル曲。一時期のデリック・カーターを思わせるファニーなアシッド・ハウス。アルバム前半の8曲は荒廃したレイヴからクラウドをクラブへ呼び戻したイギリス産のアシッド・ハウス・リヴァイヴァル(=アンダーワールドの原液)を現代に着地させたような曲が並び、“追湯” 以降の4曲はその限りではない広がりを感じさせる。前作『Sunizm』(https://www.ele-king.net/review/album/006580/)と比較して明らかにスキルが上昇しまくりで、軽妙洒脱な展開にどんどん引き込まれる。聴けば聴くほど……的な良さが全開。南大阪の言い伝えや伝承にインスパイされたアルバムらしいけれど、それは一体どんな内容なのだろう。役小角とは何か関係があるのだろうか。


05 | Advanced Audio Research - Klɪŋ(ɡ)ɒn Not On Label

ミラノのブレイクコア、ジョルジオ・ディ・サルヴォによるニューEP「High Resolution Music」から2曲目。アシッドでドロドロに溶けてしまった陽気なダブ・テクノ。昨年のセカンド・アルバム『Top Secret』もブレイクコアからはかなり逸脱していたけれど、もはやその残響すら散見できず、後半でビートを刻んでいることさえ奇跡に思えてくる。“Ghost In The Shelter” とかタイトルもすでに溶け始め、バカなものの向こうにホーリーなものが立ち上がってくる境地はなんとも赤塚不二夫っぽい。


06 | Haile - Stay High With You Not On Label

オレゴンのインディー・フォークからセカンド・アルバム『The Bedroom Album』の5曲目。インスタグラムには雪景色の投稿が多く、ダークで閉鎖的な曲調がそれにぴったりマッチしているなか、これはさらにじっくりと陰キャを満喫したアシッド・フォーク。完全にトリップしていて、どうやって録音しているのかナゾだけど、プロセッシングは一切おこなっていないというのが信じられないほどエフェクティヴなオーガニック・サウンドに仕上がっている。グルーパー “Soul eraser” が極悪ノイズに思えてくる柔らかさ(それは言い過ぎ)。


07 | Mori-Ra - Lyon Forest Jams

大阪からマサキ・モリタによるリエディットもののデビュー・アルバム『Japanese Breeze』から12曲目(タイトル通りアルバム全体はシティ・ポップをダンス化したニューディスコがメイン)。Dサイドの3曲は少しコンテンポラリーな感触が強いなか、エンディングにあたる “Lyon” は爽快なトロピカル・ムードがなんとも感動的。ツルンとしてシャキッとしながらメロウにまみれた質感がなかなかです。サンプリング元はすべて日本のもののようで……(なので資料ナシ)。


08 | Fausto Mercier - Overcorp Infinite Machine

ハンガリーのオウテカによるニューEP「I’m Too Sentient」から1曲目。昨年、リリースしたフル・アルバム『FULLSCREEN』とはまったく別次元の内容に驚きつつ、オウテカやエイフェックス・ツインがかつて発揮していた幼児性を存分に楽しませてくれる。ドリルンベースというよりマーチのリズムをとにかく細かく刻んだというか(フィボナッチ数列を応用したとか)。なんでこういうのって飽きないんだろう。メキシコのレーベルから。


extra | 山口百恵 - 夜へ… Sony

なんか、この夏はサイプレス・ヒルと山口百恵ばかり聴いてしまう。山口百恵が77年にレゲエをやっていたり、矢沢に負けじとバリー・ホワイトを取り入れてたのねといったことを再発見しつつバック・カタログをすべて聴いていて、ジャズ・ベースが印象的な “夜へ” が頭から離れなくなってしまった。当時は “夢の恋人” のような甘酸っぱいポップスの方が好みだったのに、いつのまにか趣味は変わっているもんだなと。

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