「iLL」と一致するもの

Jeff Mills - ele-king

 ジェフ・ミルズは前へ進み続ける。

 去る9月11日、東京フィルハーモニー交響楽団とともに『題名のない音楽会』に出演し、大きな話題を集めたジェフ・ミルズだが、このたび彼の新たな公演が、表参道のイベント・スペースVENTにて開催されることが決定した。11月18日(金)23時、オープン。
 今回の公演は、AACTOKYOが手がけるジェフ・ミルズのシネミックス(映像体験作品)最新作の、日本プレミア上映会のアフターパーティーとして開催される。
 詳細は以下を。

【テクノの革命家Jeff Mills(ジェフ・ミルズ)、表参道VENTに降臨!】

 未来、宇宙のメッセージを込めたテクノ・ミュージックを表現し続け20年強、今年の東京フィルハーモニー交響楽団との共演コンサートや『題名のない音楽界』への出演も衝撃的だったJeff Millsが、別次元の良質なサウンドを提案する、期待のニュースポットVENTで体感できるまたとないチャンス到来!

 ハードミニマルテクノというジャンルを確立し、デトロイトから全世界のダンス・ミュージックを革新してきたJeff Mills。テクノのDJやプロデューサーとしての活動は、自身の作品のリリース、クラシック音楽の楽団とのコンサート、宇宙飛行士、毛利衛とのコラボ作品など多岐にわたる。初期Wizard名義のDJ時代にはEMINEMやKID ROCKなど他ジャンルのミュージシャンにまで影響を与えてきたという生きる伝説の存在と言ってもいいだろう。

 今回は『AACTOKYO』が手がけるプロジェクト第1弾として、Jeff Millsのシネミックス(映像体験作品)最新作の日本プレミア上映会のアフターパーティーとして行われる。衰えることなく進化を続ける、他の追随を許さない圧巻のDJプレイをVENTの誇るサウンドシステムで体感できる奇跡のパーティー!

《Dekmantel Festival 2016 でのJeff Millsのプレイの映像》

《イベント概要》
" AACTOKYO presents JEFF MILLS “THE TRIP” After Party "

DATE : 11/18 (FRI)
OPEN : 23:00
DOOR : ¥4,000 / FB discount : ¥3,500

=ROOM1=
JEFF MILLS
HARUKA (FUTURE TERROR)
DSITB (RESOPAL SCHALLWARE / SNOWS ON CONIFER)

=ROOM2=
YONENAGA (R406 / SELECT KASHIWA)
NAOKI SHIRAKAWA
SHINING STAR (UTOPIA)
MASA KAAOS (PYROANIA / PHONOPHOBiA)

※VENTでは、20歳未満の方や、写真付身分証明書をお持ちでない方のご入場はお断りさせて頂いております。ご来場の際は、必ず写真付身分証明書をお持ち下さいます様、宜しくお願い致します。尚、サンダル類でのご入場はお断りさせていただきます。予めご了承下さい。

※Must be 20 or over with Photo ID to enter. Also, sandals are not accepted in any case.
Thank you for your cooperation.

Facebookイベントページ
https://www.facebook.com/events/1331989146852699/

《INFO》
VENT
URL: https://vent-tokyo.net/
Facebook: https://www.facebook.com/vent.omotesando/
Twiter: https://twitter.com/vent_tokyo/
Instagram: https://www.instagram.com/vent.tokyo/

Jeff Mills

1963年デトロイト市生まれ。
Jeff Millsがテクノ・プロデューサー/DJとして世界で最も優れた人材であることはすでに説明の必要もない。
高校卒業後、ザ・ウィザードという名称でラジオDJとなりヒップホップとディスコとニューウェイヴを中心にミックスするスタイルは当時のデトロイトの若者に大きな影響を与える。1989年にはマイク・バンクスとともにアンダーグラウンド・レジスタンス(UR)を結成。1992年にURを脱退し、NYの有名 なクラブ「ライムライト」のレジデントDJとしてしばらく活動。その後シカゴへと拠点を移すと、彼自身のレーベル〈アクシス〉を立ち上げる。1996年には、〈パーパス・メイカー〉、1999年には第3のレーベル〈トゥモロー〉を設立。現在もこの3レーベルを中心に精力的に創作活動を行っている。
Jeff Millsのアーティストとしての活動は音楽にとどまらない。2000年、フリッツ・ラングの傑作映画『メトロポリス』に新しいサウンドトラックをつけパリ、ポンピドゥーセンターで初公開して以来、シネマやビジュアルなど近代アートとのコラボレーションを積極的に行ってきている。 2004年には自ら制作したDVD『Exhibitionist』を発表。このDVDはHMV渋谷店で洋楽DVDチャート1位を獲得するなどテクノ、ダンス・ミュージックの枠を超えたヒットとなった。これらの幅広い活動が認められ2007年、フランス政府が日本の文化勲章にあたるChavalier des Arts et des Lettresを授与。
2004年渋谷Wombのレジデンシーから始まったSFシリーズ「Sleeper Wakes」は2016年リリースの『Free Fall Galaxy』で9作目を迎える。
2012年、主宰〈AXIS RECORDS〉の20周年記念として300ページにおよぶブック『SEQUENCE』を出版。2013年には日本独自企画として宇宙飛行士、現日本未来館館長毛利衛氏とのコラボレーション・アルバム『Where Light Ends』をリリース。同時に未来館の新しい館内音楽も手がけた。『Where Light Ends』はオーケストラ化され、2016年3月には文化村オーチャードホールにて東京フィルとの公演を実現させている。
2014年、Jeff Mills初の出演、プロデュース映像作品「Man From Tomorrow」が音楽学者でもあるジャクリーヌ・コーの監督のもとに完成。パリ、ルーブル美術館でのプレミアを皮切りにニューヨーク、ロンドンの美術館などでの上映を積極的に行なう。
第1弾から11年の年月を経て2015年に発表された『Exhibitionist 2』DVDには、DJテクニックのみならずスタジオ・レコーディングの様子やRoland TR909をライヴで即興使用する様子などが収められおり、同じく「即興性」をテーマにゲストミュージシャンを招待して東京と神戸で2015年9月に行われたライヴは「Kobe Session」として12インチでリリースされた。
2016年、初めてオーケストレーションを念頭におき作曲したアルバム『Planets』がポルト交響楽団とのコラボレーションによりリリースされる。

interview with The Orb (Alex Paterson) - ele-king


The Orb
Cow / Chill Out, World!

Kompakt/ビート

Ambient

Amazon Tower

 KLFの歴史的アンビエント作品『チル・アウト』のパロディのようなアルバム名が発表されたときは呆然としたものだ。とうぜん、彼ら流のブラックなユーモアだろうとは思ったが。
 しかし、このジ・オーブの新作「アンビエント作品」は、一聴すれば誰もがわかるように、(KLFとジ・オーブの関係? という、いささかスキャンダラスな)話題性などを遥かに超えて、現代社会への警告のようなものを強く感じるシリアスな作品であった。しかも、カジュアルで、このうえなく美しいアース・ミュージック/アンビエント・アルバムでもある。

 そう、「アンビエント・ミュージックとは何か?」。そんな命題に、彼らは彼らなりに、自分たちが背負っているものを認めながらも、なおもピュアに、音も遊びのように、しかし強いメッセージを持って、アンビエントに向かい合っている。そこが何より感動的だった。その根底に流れているのは、音楽の悦びと深い信頼ではないかと思う。
 本作はかつての『オルヴス・テラールム』(1995)のような睡眠に落ちる直前のような意識がトバされる瞬間は希薄だ。そのかわりに、もっとナチュラルに、カジュアルに、この世界や地球の音/環境の素晴らしさを意識の中に送り込んでくれる楽曲を多く収録している。その繊細で知的なサウンド・メイクは、トーマス・フェルマンがメインになって制作された楽曲が多いのではと思ってしまうが、じっさいユースも参加し、3人での作業が進められたという。制作期間は6ヶ月といわれているが、インタヴュー中でも語られているように、ジ・オーブは結成30周年を迎えつつあり、本作には30年近くに及ぶ彼らのアンビエント観/感が凝縮されているともいえる。まさに濃縮アンビエント。

 制作に困難を極めた(実に6年!)という名作『ムーンビルディング 2703 AD』から1年ほどで、これだけのアルバムを軽々と生み出したジ・オーブは、今、何度目かの黄金期にいる。そこにアンビエントというタームが重要なものとしてあるのはいうまでもない。なるほど、今、世界はチル・アウトをする必要があるし、同時に、アンビエント的な感覚も強く希求されているのだろう。
 じっさい今回のインタヴューで、アレックス・パターソンから得た回答や言葉の数々は「アンビエント」というものを考えるための、素晴らしいヒントやアイデアに満ちていた。ユーモアと真摯さ。ピュアと皮肉。私は本作を聴きながら、英国的だなと思ったものだが、彼の発言はやはり英国人的なのだろう。だが、これが不思議なのだが、本作は日本の光景にも強く(淡く)リンクする。本作を聴きながら日本の景色を観てほしい。まるで世界が柔らかくなったような不思議な質感が満ちてくるはずだ。そんなとき、このインタヴューでのアレックスの発言、たとえば「良いアンビエント作品ならどれでも、必ずどこかにとても綺麗なコードが含まれているものなんだよ。すぐ、ここで変化するとは分かりにくくても、聴き直すうちに気づかされる」という言葉が不意に脳裏に浮かんでくる体験も、なかなか良いものだと思う。

良いアンビエント作品ならどれでも、必ずどこかにとても綺麗なコードが含まれているものなんだよ。すぐ「ここで変化する」とは分かりにくくても、聴き直すうちに気づかされる、という。

新作『COW / チル・アウト,ワールド!』を聴かせていただいて、とても感動しました。まさかのアンビエント作品で、感覚的でもあり知的でもある。そのうえユーモアも感じる音作りで、しかし、まったく雰囲気に流されていない。私は「ジ・オーブの最高傑作ではないか!」と思わず興奮してしまったのですが、もしかしたら、あなたがたも本作を最高傑作と自負されているんじゃないかと思ってしまいました。いかがですか?

アレックス・パターソン(以下、AP):まあ、それ(=ジ・オーブの最高傑作だとの意見)は、とても、とてもデカイ意見だなぁ……。うん、そういわざるをえないよ。ただ、それはとてもナイスで嬉しい意見でもあるから、こちらとしても非常に謙虚な思いにもなってしまう。俺たちとしては、(これが最高ではなく)もっと「これから」があるだろう、とそう思っているんだけどね。俺たちは今、そこに向かいつつある、と。それに適した動き方を見つけるのに、俺たちはかなりの歳月、数年を費やすことになったわけだけどね。ただ、来年になって、今度は逆にアンビエント作品じゃないものを作ってみんなを驚かせる、なんてこともあるかもしれないよね(笑)。
 でも、俺から見ればアンビエント音楽というのは、2~3年くらい考え抜いて作る、そういう風に作るべきじゃないだろう、と思う。そうではなく、自然な勢いでやるべきものだ、と。その意味で、ここで俺たちのやっていることのいい基準になると思う。だから、1年以内で音源を聴き返したところで、そこからミックスに取り組む。ミックスはその場ですぐ終わらせて、ハイ、じゃあ次のトラックに、という具合。そうしたセッションをふたりで5回やった程度でアルバムができ上がっていた。6ヶ月そこそこの期間で完成した。だから、この作品がとてもフレッシュに聞こえるのは、まさにそこが理由でもあると思う。
 というのも、作品の大半は今年完成したものだし、しかも年内に発表される。でも、それってまた、すごくいいことでもあってね。だからこういう動き方をしていると、かつて自分がインディペンデント・レーベルをやっていた頃を思い出すんだ。で、もちろん〈コンパクト〉はそういうインディ・レーベルなわけで。だから彼(=ウォルフガング・ヴォイト)に作品をプッシュすれば、「分かりました、こちらで出しましょう」ってことになる。
 それにタイミングが良い、というのもあるね。今は10月の時点でまだ2016年だし、この作品は自分たちには6ヶ月前から分かっていたようなものだから。今年の3月にはこのアルバムのレコーディングをやっていた。ある意味、あの時点で作品はフィニッシュしていた、みたいな。で、俺たちも「モノにできたぞ」って具合でどっしりと構えていた。いや、というか、あれは3月ですらなかったっけ。ってのも、すべての作業が終わったのは今年の5月だったし。思いっきり厳密に言えば、この作品ができ上がったのは4ヶ月前の話。

通訳:なるほど。

AP:俺たちはノース・キャロライナで開催される「モーグ・フェスト」(2016年版は5月19〜22日開催)に出演してね。あそこで俺は色んなことを発見させてもらったんだけど、やっぱりアッシュヴィルとはまったく違ってね(註:「モーグ・フェスト」は、2016年にかつてのアッシュヴィルから同じくノース・キャロライナのダーラムへと開催地を移した)。アッシュヴィルは、ノース・キャロライナの中でも本当に素晴らしい街だったから、残念なことに以前のような雰囲気は期待できなくなってしまったけれども、それでもやっぱりとても良いエリアでであって。
 で、その際に俺は「イーノ川」という名の川があるのを発見したんだよ(註:イーノ川はオレンジ郡からダーラム郡にかけて流れる川で、ノース・キャロライナ州立公園区として自然保護されている)。
音楽を知っている人間なら誰でも、それ(9曲め“9エルムス・オーヴァー・リヴァー・イーノ”)を聴いて、即座に「おっ!」と思うだろうし、そこで「これはブライアン・イーノとなにか関係があるんですか?」という話になるだろうけれど、あれはブライアン・イーノとはまったく関係なし。単に、「イーノ」という名前の川のことなんだ。で、川のサウンドをあそこでレコーディングして、ほかにも日中に、街中に出て電車の通過音をフィールド・レコーディングしてね。
 で、続いて「モーグ・フェスト」の会場に向かったところ、出店していたポップアップのレコード・ショップで、とても奇妙でユーモラスなレコードの数々に出くわした。何もかもがそんな具合で、その場で瞬時にぱっぱっとモノになっていった。「直感に従う」という風だったんだ。だから、考えてはいったん脇に置き、また改めて考えては中断、という具合に繰り返し吟味する作り方とは違うんだ。

前作『ムーンビルディング 2703 AD』(2015)が6年の制作期間。対して本作は約6ヶ月の制作期間。私は、この振れ幅が凄いと思ったんです。本作の制作期間は、作品のどのような部分に影響を与えましたか?

AP:俺たちは『ムーンビルディング』制作時の経験をすべてここで活かしたかったしね。かつ、それらをビートのないアンビエントな雰囲気へと広げていきたいと思っていた。だからビートを用いることなく、でも音楽は変化し続ける。そういう発想を使おうとした。それは優れたアンビエント作品が持つアイデアにとても近い。良いアンビエント作品ならどれでも、必ずどこかにとても綺麗なコードが含まれているものなんだよ。すぐ「ここで変化する」とは分かりにくくても、聴き直すうちに気づかされる、という。
 自分の頭の中で設計図的に使っていたのは、ブライアン・イーノの『アンビエント 4: オン・ランド』。それにイーノとダニエル・ラノワの『アポロ: アトモスフィアズ・アンド・サウンドトラックス』まで含むかもしれないな。そのダニエル・ラノワとは、今話したノース・キャロライナでの「運命的な」日に、なんと実際に対面する機会にも恵まれたっていうね!
 というのも「モーグ・フェスト」でダニエル・ラノワとレクチャーをやったんだよ。その場で彼のスライド・ギターとアンプなんかを使っていくつか即興演奏をやってね。あれはほんと奇妙な経験だったな……。

それはなんとも歴史的な邂逅、演奏で非常に興味深いです。さて、大胆なアルバム・タイトルで発売前から話題になりましたが、同時にジ・オーブらしいユーモアとも思いました。とはいえ、本作とKLF『チル・アウト』とは、発表された時代なども違いますし、当然、音楽性も異なります。そこで、あなたがたにとって『COW / チル・アウト,ワールド!』とKLF『チル・アウト』の、もっとも「違う」点は、どのようなところだと考えていますか?

AP:まあ、自分が真っ先に上げる点と言えば、「今回、『COW』ではデカいサンプルは使っていない」。そこだね。『チル・アウト』というのは別の時代、80年代と呼ばれる、今とは違う時期に作られたものなんだよ。で、俺はあのアルバムにもかなり関わっていた。だから多くの意味で、いずれ自分はあの作品のとばっちりを受けるんだろうな、と。たとえそれが、今回、俺たちが『チル・アウト,ワールド!』というタイトルを使った、という程度のものであってもね。
 このアルバム・タイトルに関しては、俺たちもかなり話し合ったんだよ。というのも、このタイトルを使えば、やはりおのずとKLF好きな連中を呼び込むことになるだろう。連中は『チル・アウト,ワールド!』と聞いて、間違いなく「おっ! 『チル・アルト/ワールド』か」と思うだろうし。
 でも、俺はこのタイトルでGOすることにしたんだ。ってのも、このアクロニム(=頭文字を繋げた言葉。ここではC-O-W)は自分としても本当に気に入っていたし。だからとにかく、「このアルバムは『カウ(COW)』と呼びたいな」、そう考えたわけ。ところが、そこでまた、なんというか、奇妙なことに、そこで今度は、「じゃあ、これはピンク・フロイド(の『牛』)を意識しているんですか?」という話も出てきたりして。でも、それは違うんだよ! とにかく「偶然の重なり」、というかな?
 ほんと、それだけのこと。俺だったら、あのアルバムを『チル・アウト』ではなく『Chilling』って呼んでいただろうから。ただ、ほかの連中に押されて、(当時は)その意見は通らなかったっていう。

通訳:それで、今回は「COW」を押し通したと。

AP:この「COW」のアクロニムにはやられちゃったね。あの頭字語、「C-O-W」を目にした途端、「これだろ!」と。とにかく、あれを使わずにいるのはもったいないし、自分でも「最高だな」と(笑)。俺は牛が大好きだし、40年近く牛のことはよく知ってきた。だから、あのタイトルについてはとてもハッピーなんだよ。

2曲め“ワイヤレスMK2”と10曲め“ザ・10・スルターン・ラドヤード (Moo Moo Mix)”に、ロジャー・イーノさんが参加されていますね。彼が参加した理由を教えてください。

AP:あれもかなりのシンクロニシティ(=偶然に何かが同期すること)だったんだよ。(プロデュースで参加した)ユースと俺は、とても長い付き合いの友人同士でね。それこそもう、ガキだった頃にまで遡る。それくらい古い友だち。高校時代以来かな? うん、ほんと、あいつとはそれくらい長い歴史があって。
 で、あるとき俺たちは一緒にレコード探しをしていた。とあるレコード・ショップにいたときだったんだけど、俺たちはまったく同時に、それぞれ偶然に、ロジャー・イーノのレコードを引っ張り出したんだ。俺がロジャー・イーノ作品を1枚引き出して、同時に彼も、ロジャーの別の作品を引き抜いていた、と。
 お互いに「こんなレコードを見つけたんだけど」って具合に収穫を見比べてみたところ、ユースの奴は、「こうなったら、彼(ロジャー・イーノ)を見つけなくちゃいけないな!」って調子になった。で、ユースは実際にそれをやってのけた。彼にスタジオに来てもらい、ユースがそこに俺を引っ張ってきた。彼にいくつか音楽を聞かせてね。その時点で聴いてもらったのは、俺たちが前の年にスペインで制作したスケッチ程度のものだったんだけど。あのときの音源の多くは、「これは来年ちゃんと取り組もう」と思っているもので、だから未完成なんだけどね。リズムのあるチューンでベースも入っていたし。俺としては、ちょっとそれが自然な感じのドラム・サウンドっぽく聞こえているんだけど。それを部分的に使った。でも、その全部を使っているわけじゃないんだよ(笑)。

ロジャー・イーノさん(の音楽性)のどういった点に惹かれていますか?

AP:まあ、俺は恵まれた立場にいたんだよね。というのも、80年代に〈EGレコーズ〉で働いていたころ、俺たちはロジャー・イーノのアルバム群を出す機会に恵まれたんだ。だから俺はある意味、彼については知り尽くしていた。彼がさまざまなレコードで、ヴォーカル他で参加していたのを俺は知っていたし、クレジット表記は「ブライアン・イーノ作」ではあっても、それらの多くにロジャーが関わっていたことも俺は認識していた。それに彼が本当にナイスな人だってのも知っていたからね。実際にアプローチしてみれば、とても接しやすい人なんだよ。
 なんで俺がそういうところを知っていたかと言えば、〈EG〉にいたころ、俺はロバート・フリップと非常に強い関係を築いていてね。さらにはペンギン・カフェ・オーケストラのサイモン・ジェフリーズとも仲が良くて。レーベルでA&Rをやっていた時代を通じて、そういう、大きなコネができたんだ。
 俺が〈EG〉で働くかたわらジ・オーブで音楽をやり続ける、その自信をもたらしてくれたのもまさに彼らみたいな人たちだった。だからキャリアの早い時点で、俺は彼らみたいな人たちを通じて発見したんだよ。「ほとんどのミュージシャンは音楽が好きだし、だからこそ彼らは音楽を作っているんだ」っていう事実をね(笑)。

通訳:つまりロジャー・イーノさんは、「音楽的な同胞」みたいな存在と?

AP:いや、彼は、ブライアンと並んで、俺からすれば、「こちらからわざわざアプローチする必要はないだろう(それだけ彼らは事足りている)」、そう感じてきた人たちだった。ロジャーが90年代初頭に、他のアーティストたちとコラボレーションしたのは俺も承知していた。あのときは「なんだって、俺は(遠慮せずに)一番乗りして彼と一緒にやらなかったんだ!?」と、われながらちょっとイラついたりした(笑)。
 それが、こうしてやっと、自分たちも素敵な「50代のオヤジ」になったところで、ついに彼にリーチできたわけだ。しかしそこで、ロジャー・イーノと自分が同い年だってことを知ってね。それに彼が実に素晴らしい人間であることも発見した。彼とは、本当にものすごくウマが合ったんだ。
 俺は先月、9月にスペインでDJギグをやったんだけど(註:ユースがスペインのグラナダにあるスタジオで開催したPuretone Resonate Festivalのことと思われる)、そこで俺たちと一緒にガウディ(註:イタリア人ミュージシャンで、ジ・オーブとも長くコラボしている)とロジャー・イーノがキーボードを弾いてくれて。で、その場で聴いていた連中はみんなハッとして、「これって、もしかして新たなピンク・フロイドじゃないの!?」って反応だったんだけど、「あー、またかよ!」みたいな(笑)。でも、あれはやっていてかなり楽しかったね。

[[SplitPage]]

「アンビエントはこういうもの」って風に固まった概念は存在しない。アンビエント・ミュージックというのは「雲」みたいなもので、「これ」というひとつの形状/フォーメイションは定まっていないんだ。

先ほども話に出ましたが、今回は「盟友」ユースさんも参加されていますね。久しぶりの彼との作業はいかがでしたか?

AP:まあ、表立った形でなければ彼とはしょっちゅうやってきたし、お互い一緒に過ごすのはいつも楽しい。そういう間柄なんだよ。さっきも言ったように、あいつは学生時代からのとても古い友人だし、この間の土曜は俺の誕生日だったから(註:この取材がおこなわれたのは10月17日月曜日)、家族と彼がご馳走に連れ出してくれてね。それくらい、彼はもう「俺のファミリーの一員」だってこと。お互いにそうで、俺も彼にとってそういう存在なんだ。
 彼とやる際は、ほんと何もかも、完全にナチュラルだね。対してトマス(トーマス・フェルマン)との作業は、メカニカル/機械的なんだよな。彼はドイツ人だから。ほんと自然にメカニカルになるっていう。それはそれで、かなり素敵なんだ。俺はトマスに対して最上級の敬意を抱いているからね! 彼をリスペクトしているのは間違いないから誤解しないでほしい。その点は、このインタヴューから省かないでもらいたいな。
 ただ、とにかく、あのふたり(ユース&トマス)を一緒に作業させようとすると、大変で。俺としては「あー、まったく! お前ら、どこかおかしいんじゃないのか?」みたいな。ってのも、ふたりともそれぞれに違うスタイルを持つプロデューサーだからさ。
 でも、俺は果敢に彼らとの作業を続けていくつもりだし、できれば来年、ふたりが一緒に参加したアルバムを出せればいいなと思っているよ。そこにはロジャー・イーノなんかも含まれるだろう。っていうか、俺たちもう、(ジャー・)ウォブルとは1曲作ったんだよな。それは、このアルバムには収録されなかったんだけども。

通訳:やはり、ダブっぽいトラックなんですか?

AP:そのとおり。ただし、ダブとは言っても、俺たちがリー“スクラッチ”ペリーとやった時のような、あそこまでラディカルなダブではないんだけどね。ウォブルは、ああいうことをやるにはまだちょっと早い、そういう状態だと思うし。それでも、もっとぐっとベーシック・チャンネル的で、よりヘヴィでアトモスフェリック。そういうダブだね。サイエンティストみたいな。

通訳:お話を聞いていると、あなたの旧友たちが再び集まって音楽ギャング団を組んでいるようです。

AP:たしかに、そうだよな。でも、それにしたってやっぱり「やってもいいじゃん?」という。ってのも、あいつらは俺の友人なんだし。お互いに長いこと知り合いでもある。ここ数年、俺はジ・オーブで活動するかたわら他の連中の手伝いも色々とやってきたわけだしさ。
 今年の夏、俺たちはブリクストンで1枚めのアルバムの25周年記念ギグをやってね(註:7月29日開催、「THE ORB - ADVENTURES BEYOND THE ULTRAWORLD - 25th Anniversary show / Performed Live in Full with the original family」と題されたショウ。このロンドン公演の成功を受け、同主旨のUKツアーが11〜12月にかけて予定されている)。その際、俺はあのファースト・アルバムに参加してくれたソングライターたちを招いたんだ。あれは素晴らしかったよ! 本当に良い体験をさせてもらったな。あのショウをやったおかげで、俺とトマスのふたりっきりというのではなく、大勢の人間をステージに上げてライヴをやるってアイデアに再び夢中になっているくらいなんだ。だから、そこは今後考えるべき課題だな、と。 俺は明日からアメリカ入りで、トマスとふたりでアメリカ・ツアーを回るんだけど、「自分たちがいつもやるようなことは、これからはやらないだろう」と、そこは分かっているというか。でも、それがどういうものになるか、はっきりしたヴィジョンは自分にもまだ見えていないから、今の時点ではここまでにしておくよ。
 とにかく、今はエキサイティングなタイミングだよ。ってのも、俺たちはこうして実に良い、本当に良いアルバムをモノにしたところだし。自分たちが思うに、俺たちのファンにとってかなりエモーショナル、かつ心に触れる作品なのはもちろんのこと、長年のジ・オーブのファン以外の層にも感動をもたらすものなんじゃないか? と。
 その点、俺にはひそかに分かっていてね。というのも、この夏、俺はフジ・ロックのキャンドル・ステージ(註:ピラミッド・ガーデンのこと)で演ったセットで、このアルバムからの曲をいくつかプレイしたんだよ。あれは土曜の晩で、深夜12時から2時までの時間帯だったな。で、とある曲をプレイしていたとき、ふとオーディエンスを見渡したら、その曲が広がっている最中に、とある若者の姿が目に入ったんだ。彼は涙を流していてね。音楽のピュアなエモーションに揺さぶられて、彼は泣いていたっていう。
 それを見た瞬間、俺も「このアルバムは、かなりエモーショナルなものになるぞ!」と気づいた。あの光景を見ることができたのは素敵だった。っていうのも、誰もが自分自身のエゴや感情だのに何らかの形で対処しないといけないわけだけど、音楽はそのためのひとつの手段を与えてくれているわけで。あの泣いている若者を見て、音楽というのは唯一の……いや、ほかにも色々とやり方はあるだろうけれども、そうやって感情を解放させてくれる自然なパワーを誰かにもたらす、数少ない何かのひとつなんだと分かったから。

今回のアルバムは、アンビエントといってもサイケデリックな感覚は希薄で、とても美しい音のつらなりながら、どこか地球そのものに寄り添っている、オーガニックで自然とシンクロした音作りに感じましたが……。


The Orb
Cow / Chill Out, World!

Kompakt/ビート

Ambient

Amazon Tower

AP:うんうん。この質問、すごいね。とても良い解釈だよ。俺たちとしては、この作品をサイケデリックな側面からは引き離しておきたかったんだ。いわゆる「サイケ・トランス」みたいなノリ、それはウウゥ〜ッ! ごめんだな、と。俺とトマスのふたりには、そういうのは必要ないからね。俺たちの趣味じゃないんだよ。
 じゃあ俺たちがクリエイトしたのは実際何なのかと言えば、ヒップホップのベーシックな要素がまずあって、それらをアンビエントな世界に引っ張ってきて、その上で(ヒップホップの)ビートの要素を切り捨ててしまったものである、と。でもそこには独自のリズムがある。そこにちょっとした心地よい響きだのを色々と振りかけてある。繰り返しになるけれども、アンビエント・ミュージックというのは周到に考えて作るものではなく、偶然出くわしたものから生まれるんだよ。あまりに素晴らしくて無視するわけにはいかない、そういう事柄に出くわすことはたまにあるわけでさ。その意味で俺たちは今回非常に運が良かったんだよ。俺たちはまず、1曲めの“ファースト・コンサイダー・ザ・リリス”からスタートしたんだ。ちなみにあの曲は、女性解放運動について触れたものでね。リリーというのは、古代神話において最初の女性解放運動者とみなされている存在なんだ(註:アダムの妻とされるリリスのことか?)。
 あの曲では本当にラッキーだったんだ。あれは、いわゆる「昔のジ・オーブっぽい、12分台の大きなエピック」みたいなものになりつつあったけれど、そこは俺たちもトーン・ダウンしようと思った。俺たちのどちらも、ああいう曲は聴き手をアルバムの中に引き込むのにすごく良いんじゃないか、そう考えたんだ。たとえば(『オルヴス・テラールム』の)“プラトー”みたいにね。

かつてのサイケデリアとは違うこの作品を聴いて、あなたがたの「アンビエント観」に大きな変革が起きたのでは? と思ってしまいましたが、いかがでしょうか?

AP:アンビエント・ミュージックというのは間違いなく変わってきた。俺が今「最高だな」と思うアンビエント・ミュージックは、〈コンパクト〉の出している「ポップ・アンビエント」シリーズに見出せるね。あのシリーズに含まれているアーティストたち、たとえばあのシリーズの2作めに入っているノヴィサッド(Novisad)なんか、他にないくらい最上に美しいギターの調べが聴ける曲だ(註:“Sommersonnenschein”と思われる)。
 そんなことを知っているのも、俺の〈コンパクト〉というレーベルに関する知識、そして彼らに対して抱いているリスペクトを示す良い例だよね。ウォルフガング・ヴォイトが「ポップ・アンビエント」というシリーズを企画していること、そうやって彼が自分の主義を20年も守り通している点を俺はリスペクトしているんだ。それってアメイジングなことだよ! 本当に驚異的だ。それに彼がGASみたいなプロジェクトをやっていること。GASとしての1枚めに収録されている1曲めは、21世紀アンビエント音楽の(いや、90年代発表だから20世紀後半のアンビエント・ミュージックってことになるけど)、そんな基準のひとつになるトラックだと思う。だから、あれは21世紀のアンビエント・ミュージックの可否を判断する。その基準になっている。
 それとウールフ・ローマン(Ulf Lohmann)というアーティスト。彼も〈コンパクト〉発で非常に良い音楽をやっているよね。ほかにも色んなレーベルに良いアクトが散らばっていて、メタモノ(Metamono)とか、色々ね。あと、ダニエル・ラノワのアルバムもチェックしてみるべきだと思うよ。あれも実に良い作品だから。
 だから「アンビエントはこういうもの」って風に固まった概念は存在しない。アンビエント・ミュージックというのは「雲」みたいなもので、「これ」というひとつの形状/フォーメイションは定まっていないんだ。だからこそ、次にどんな形をとるのかも決して分からない。アンビエント・ミュージックは、そうあるべきなんだ。アンビエントは、ポップ音楽メディアにはどうしたって分析不可能なものなんだよ。そもそもポップ・ミュージックじゃないからさ!
 だから「チル・アウト」でもいいし、「リラクゼーション」だとか、「ラウンジ・ミュージック」とか、そういうあらゆる類いの語句を用いて音楽を形容し、分類箱にフィットするようにそれらを使うことは可能だけれども、だからといってアンビエントを分析したことにはならないわけ。たとえば、あのゾッとするようなひどい言葉……「ニューエイジ」ってのがあったけど、あれなんて今や死に絶えたわけだよね? まったく神様ありがとう! ってなもんだよ。ここであの言葉を持ち出しちゃったのは俺自身だよな。あーあ、言わなきゃ良かった!

「ノー・サンプリング」と発言されていますが、サンプリング風に聴こえるループなどは、自分たちで演奏されたものですか?

AP:(小声で)やろうと思えば、やれたかもね? うん、やろうと思えばやれた。だから俺たちからすれば、他のドラムなりのちょっとしたサンプル音源からあれらのループをまとめるのはかなり楽にできる。そうやって、「それ」とは想像もつかない、同じようには聞こえないループを作ることができるわけだ(笑)。
 ああ、でもひとつだけ、あまりにミエミエなものがあってね。〈コンパクト〉から注文されたのも唯一それだったんだよ。「お願いですから、このループは外してください」って言われた(笑)。でも、それ以外はすべて「Okely Dokely!」(註:アニメ『ザ・シンプソンズ』のキャラであるネッド・フランダースのキャッチフレーズ)(笑)。OK、他はすべてオーライ、大丈夫、と。

通訳:なるほど。あなたがたは、いわゆる「マイクロ・サンプリング」で有名なので、今回はどうなのかな? と思ったんです。

AP:それがまさに前作『ムーンビルディング』において、俺たちが4年にわたって潜ってきた「愛/憎」のプロセスだったんだ。「マイクロ・サンプリング」というテクニックについての、ね。
でも、マイクロ・サンプリングは、やっていて楽しいんだよ。“リトル・フラッフィ・クラウド”(1990)を作ったときとなんら変わりはない。ただ、“リトル・フラッフィ・クラウド”では、8小節分をサンプリングさせてもらった。そこだけが今と違うってこと。あそこからは教訓を学んだよ。「我々の手にはサンプルを使うテクノロジーがある、だったらなんでその事実を無視しようとするんだ?」という。その一方で、「レッド・ツェッペリンみたいな古いロック・バンドのようにプレイし続けてほしい、そういうのを恋しがる声が存在する」なんて言う人もいるけど、「未来のテクノロジーがあるのになんで?」と思う。俺としては「んなことないだろ!」と。
 マイクロ・サンプリングってのは本当にもう、やっていて楽しい行為なんだよ。だから、一緒に作業するためにスタジオに来てくれたミュージシャン相手にあれをやると、みんなニッコリ嬉しそうに笑ってくれる。かつ、その結果を聴いてとても喜んでくれるオーディエンスたちもたくさんいる。というわけで、マイクロ・サンプリングというのは、運良く「見つからず」に済む限り、俺としては続けるのは一向に構わない。そういう作業だね。俺からすれば「いっちょ上がり!」だ。

通訳:なるほど(笑)。

AP:でもさ、来年で、ジ・オーブも28歳なんだぜ? それってクレイジーだよな。「俺たちはもうじき30歳になります」って。そういう風に考えた方が、実年齢を考えるよりいいよ(苦笑)。

通訳:その長い歳月の間、あなたたちはうまくバレずにやってのけてきた、と。

AP:それはもう、俺たちのすべてにおいてだよ! ただ、俺にはそもそも失うものもないから、別に問題じゃない、と。

[[SplitPage]]

そこがテクノロジーの「美しさ」なんだよ! それを使って遊んでみようと思えばみんなにやれる。誰にでも与えられたものなんだ。別に俺にしかできないことじゃない。誰にだってやれることなんだ。


The Orb
Cow / Chill Out, World!

Kompakt/ビート

Ambient

Amazon Tower

フィールド・レコーディングされたと思える環境音がたくさん使われていました。水の音や鳥の声など、本当に心地よく聴きました。環境音はアンビエント・ミュージックにどういった効果を与えるものとお考えですか?

AP:あー、そこね。たとえば自分の家の庭に目をやるとするよね。これが日本だと、よっぽどバカみたいに大金持ちでもない限り、いわゆる「ガーデン」は持てないんだろうけど……。
 でもまあ、俺の家は庭付きで、すごく良い飼い犬もいて、スズメもたくさん飛び回っているし、お隣にはキツネも来るって具合なんだ。野性動物や自然が常に俺の周囲を飛び交っている。それに今年は、庭のもっとも大きな樹の一本にアオガラ(註:スズメ目。イギリスの庭でよく見られる小鳥の一種)が巣をかけて、ヒナたちを育てているっけ。
 で、俺はそういった環境音をサンプルとして拾い、その小さな断片をアレンジの中に散りばめているんだ。たとえば「プルップッ・プップップッ……(と、汽船の煙突が発するようなサウンドを口真似する)」という感じの水音は、あれは、俺が庭の池で飼っている魚を録ったものなんだ。あれは鯉とまではいかないんだけど、金魚だね。とてもサイズの大きな金魚。でも、見た目はほとんど鯉に近い。
 俺はあの手のアンビエントなノイズには目がないんだよ。自然に存在するナチュラルなノイズにね。このアルバムで、ある曲で使ったサンプルには、他にも面白いものがあって。それは俺たちがイスタンブールのレストランでメシを食っている時の様子を録音したものだったりするし。
 というのも、その場のアンビエンスが素晴らしくて非常に豊かなものだったんだよ。テーブルがあって席についた。そのテーブルの上には水が流れていた。噴水みたいなものが据えてあった。しかもギター奏者が音楽を演奏していて、まわりの人間たちがトルコ語で会話する様子も盛んに聞こえてきた。とても雰囲気が強力だったんだ。だからそうしたアンビエンスをすべてピックアップして、音楽に含めた。

通訳:そういった環境音は、どのような役割を担っているのでしょうか。

AP:その曲のイントロみたいな存在だね。アート・オブ・ノイズのアルバムみたいな感じというのかな。彼らは導入部とエンディングを作り出すのに長けていたし、俺たちもユニットとして長い間、かなり学んできた。だから、これまたさっき話したようなことで、瞬間的に反応するんだ、このスマートフォンでね。今こうして君と会話するのに使っている、このスマートフォンを使って、環境音のサンプル音源、アルバムで使ったものをすべて録ったんだ(笑)。
 そこがテクノロジーの「美しさ」なんだよ! それを使って遊んでみようと思えばみんなにやれる。誰にでも与えられたものなんだ。別に俺にしかできないことじゃない。誰にだってやれることなんだ。そうやって自然に生まれたものをとっさに捉えることができる。しかもその上に、さらに音楽をクリエイトして重ねていっても、そこに独特なアトモスフィアをもたらしてくれる。そこはまあ、「誰にでもできる」芸当ではないかもしれないけど。
 でも、そういった色んな音を収めた、ほかの人間に使ってもらうためのアルバムもあるからね。2、3年前にキャロライナ出身の人に会ったことがあるけど、彼はこれまでの生涯かけてずっと、昆虫の出す音を収集してきたそうだ。その目的は、いつの日にか昆虫のあの「キッキッキッキッ……!」みたいな啼き声の数々を使ってアンビエントな昆虫ノイズを作り出すこと。で、それらをリズムに作り替えて、レコードにしたいんだそうだよ。俺はそれを聞いて、「はぁ?」みたいな、「……そりゃヘンだな!」と思ったっけ(笑)。

たしかに(笑)。「声」といえば、2曲め“ワイヤレスMK2”、3曲め“サイレン33 (オルフェ・ミラー)”など、アルバム中、ときおり挿入される「声」は、誰の「声」ですか? あなた自身の声ですか?

AP:いやいや、俺の声じゃないよ。あれはどちらも、ユーリ・ガガーリンに話しかけているコメンテーターの声。だから、彼が初めて宇宙に行った時にどんな気がしたか? とか、そういうことを訊ねている。けど、あの「声」はなんというか、宇宙へのリファレンスでもある。面白いものだからね、宇宙ってのは。

また、「声」を散りばめた理由なども教えてください。

AP:人間の声に備わったトーンには、とてもエモーショナルなものがあるしね。それに、この作品の中にはドイツ語のユーモアすら、ちょっとばかり含まれていてね。ドイツ人にしか通じないユーモアがあるっていう。ところが、今のところまだ誰もそれに気づいていないんだよね! 今回はまだドイツ人相手のインタヴューは1本もやっていないから、彼らが気づいてくれているのかどうか、俺にも分からないんだけどさ。ってのも、ドイツ人は決して「ユーモア精神が旺盛な人々」としてよく知られている、とは言えないし。だからたぶん、彼らにもあのユーモアは通じないんだろうなぁ(爆笑)。

通訳:えーっと、トマスさんは?

AP:(即答して)彼はスイス人。

(笑)。では話を変えて:4曲め“4am エクスエール(チル・アウト・ワールド!)”の冒頭は、何か動物の鳴き声でしょうか?

AP:それは、聴き返さないと分からないかもしれない(笑)。動物? 鳴き声? サウンドをオフにしたところだったから音を出して聴いてみよう。この電話がかかってきたとき、ちょうどセット・リストを組んでいたところだったから。えーと……よし、“4am エクスエール”の冒頭の部分だよね?(トラックを流してしばし耳を傾けている)……この「ンンンンン〜ムムム〜……」みたいな音のことかな?
 でも、そうじゃないんだ、それだとあまりにミエミエだろ! そうじゃなくて、これはシンセ・ノイズ。シンセを使ってこの雰囲気を作り出している。

このアルバムのテーマは「動物たち」では? と思ってしまいました。いかがでしょう?

AP:特にそれはないな。ただ、今そう言われたのはなんともおかしいな。ってのも、ちょうど庭を眺めていたところなんだけど、うちの犬が寄って来て窓ガラスに頭をくっつけてきてさ。まさに「動物」だよな、フム……みたいな。でまあ、俺は彼女(=飼い犬)から実に多くのことをやるインスピレーションをもらっている、というか。一緒に散歩して健康を維持する、というだけではなくてね。とにかく参るよ、ほんとに愛らしいんだから! 彼女は実に可愛いい犬だよ(と、携帯のカメラでスナップを撮っている模様)。次のアルバムのジャケット写真はこれで決まりだなぁ、悪いけど(親バカめいた口ぶりに、少々照れくさそうに)。
 ともあれ、自然のサウンドに対する強い願望というのは、自分の中に常に存在してきたものなんだ。君はさっき『チル・アウト』を引き合いに出していたけれど、ここのところ俺が話をしてきた人々の多くはまた、ジ・オーブの最初のシングル「ア・ヒュージ・エヴァー・グローウィング・パルサティング・ブレイン」に似ているとも指摘してくれている。ほかにも俺たちがロバート・フリップと作った『FFWD』というアルバムがある。あれは「現在入手不可能」みたいな作品なんだけど、ダウンロードで入手した人だの売買している人はいて、要するに世間には流出している。
 それらを聴けば、あのアルバムとKLF、“ラヴィン・ユー”、そして『チル・アウト』との間の類似性がわかると思うよ。だから『チル・アウト』と『チル・アウト,ワールド!』だけではなく、ほかにも近いものはあるってこと。それに、“ア・ヒュージ・エヴァー~”は、ジミー(・コーティ)と作った曲だしね。で、ジミーは『チル・アルト』を、俺とビル・ドラモンドと一緒に作ったわけで。

本作をどういったシチュエーションで聴いてほしいとお考えですか?

AP:フロート・タンク(アイソレーション・タンク)の中(笑)。じっさい、この作品を自分で聴き返していても、とても魅力的だ。俺からすれば「ビートのないヒップホップ」、そういう世界に連れて行ってくれるもので、ある種、未来的だ。「チル・アウト、マン!」、「落ち着けよ!」と言っているんだ。タイトルも含めてこの作品で俺が意味したのもそういうことで、フロート・タンクを買って半分水に浸かった状態になるのもいいだろうし。あるいは泳ぎに出かけて、スパに行くのでもいい。チル・アウトしようぜ、と。日本はそこらへんが優れているよね、スパがたくさんあってさ。で、スパにのんびり浸かりながら、小型のBOSEスピーカーを通して音楽に耳を傾ける。でも、本当にチル・アウトして頭を冷やしてもらいたいのは、俺にとってはアメリカだね。どうもあちらは、ちょっとクレイジーな状況になっているみたいだし。でも、アメリカからはアルバムに対してとてもポジティヴな反応をもらっているんだ。

通訳:チル・アウトが必要だと、彼らも承知しているからかもしれませんね。

AP:確かに必要だろうね。でも、今起きている事態というのは何も一般大衆のせいではないんだよ。どうしてああなっているのか、その原因の先入観めいたものを俺たちは抱いているわけだけど、それは日本人に対する誤解と少し似ているかもね。基本的に人々はマスコミの報じることをキャッチしているだけ。だから誤解も生まれるけど、俺は日本に何度も行ったことがあるし、日本がどういう国かも理解している。とても素敵な日本の人たちにたくさん出会ってきたからね。っていうか、俺たちイギリス人だって日本人みたくなれるはずなんだけどね。もしも俺たちが右翼な政府からひどく抑圧されてさえいなければ、の話だけど。言うまでもなく、奴らのせいでまたひどいことになっているし。

通訳:日本も右寄りな傾向を高めているようで、世界的な風潮かもしれません。

AP:そうだね、だから1ヵ所だけの話じゃない。ジェレミー・コービン(註:現イギリス労働党党首)は右翼サークルから相当嫌われているしね(笑)。彼はガチガチの左翼人だし……今どき、大したもんだよな! 新たな社会主義者っていうよりむしろ新共産主義者めいていて、ありゃかなり変わっているよ。

本作はどこか人間へのレクイエムのようにも聴こえました。そこで、本作を感情に例えると、どのような状態だとお考えですか?(嬉しい? 悲しい? もしくは怒っている?)

AP:まあ、アルバムのタイトルがすべてを言い表していると思うけどね。これは「アンチ・プロテスト音楽」みたいなものであって。だから状況に対して「怒る」のではなく、そうした思いが頭の中に入り込んでこないようにする。さまざまなことにイライラさせられないようにしようと。そんな風に苛立つのは、誰にとっても良くないよって。
 今の政治家たちっていうのは、人々を怒らせることで、実際に何が起きているのか彼らに見えなくさせてしまう。その術に非常に長けている。だから政治においては、何がなんだか分からない混乱の世界が生まれているんだ。それを始めたのは15年前のプーチンで、以来、世界中の政治が分裂している。あれはちょっとばかし怖い話だね。それこそもう投票で政権を握った人間が、こっちが思っていたものとは違う何かに、「えっ?」と思うようなものに変化してしまう。「こいつら、いったい何をやっている?」と感じたね。投票してくれた人間にあんなことをさせるなんて、連中のやり方は間違っているよ。

通訳:状況に対してあなたは悲観的なのでしょうか?

AP:まあ、国連の全メンバーにこのアルバムを送りつけるのは悪くないアイデアなんじゃないかな? そうすれば彼らも何かしら恩恵を受けるんじゃないかな。今の質問に対する答えはそういうことにしておこうか。で、EUの全メンバーを知っている連中に、確実に最初に送りつけるようにしよう、と(笑)。

本作を作るにあたって、音楽以外で、イマジネーションのソースになったような本、映画などはありますか?

AP:あー、そりゃもう、俺の犬!

通訳:そうなんですか!(笑)。

AP:いや、これはかなりマジな話、そうなんだ。彼女の遠吠えは世界一だよ。彼女はワンワン吠えたりしない犬でね。アラスカン・マラミュート種なんだけど。ネットで調べてごらん。シベリアン・ハスキーに少し似ていて、ああ、日本にもこれとかなり似たタイプの犬がいるはずだよ。かなりの大型犬で、うん、ほんとデカい。で、彼らはアラスカの原住民たちとともに棲息してきたっていう。だから、マイナス40℃くらいの気候だとハッピーな種、っていう。

アルバム名にもなっている「牛」は穏やかで、とてもアンビエント的な動物ですよね。では、逆にアンビエント的ではない動物とは何になるでしょうか?

AP:非アンビエントな動物ねぇ。インドネシアのバリにいるオスのボスザル。あいつらはかなり攻撃的だな。剥き出した歯もデカイし、鼻面も大きくて。

通訳:人間に襲いかかったりもするんですか?

AP:どうだろう? 野性状態だったら、そういうケースもあるんじゃないかと思うけど。それくらい歯も立派にデカいし。バリに行ったときに、一度見かけたことがあってね。奴は家の屋根のてっぺんから、俺に向かって威嚇してきたんだ。「ウギァァァァァァァ〜〜ッ!!」ってもんで。で、屋根から飛び降りてきて俺を見上げて、なんというか、ガンをつけてきたんだ。でも、すぐクルッと後ろを向いて、俺にケツを見せつけたっていう。こっちは「……ありがとさーん!」みたいな。

通訳:そのサル、あなたが本当に気に食わなかったんでしょうね。

AP:(笑)。うんうん、相手にタフに向かう、と。それってもう、「なんだ、マザーファッカーな野郎が来たようだな。おい、俺の縄張りで何してやがるんだ?」みたいな(笑)。

通訳:あなたがウェスト・ノーウッドにあるブック・アンド・レコード・バーというショップ(古本とアナログを販売するカフェ)で、あなたがDJをやっているというのを知って、いつか行きたいなと思っています。

AP:DJを聴きたいなら、WNBCのラジオを聴いてもらうのが早いんじゃないかな(https://www.mixcloud.com/wnbclondon/stream/)? もちろん、あの店に君が来てくれるのは歓迎だよ。ラジオ・ショウは毎週やっているんだけど、これから俺はアメリカ・ツアーだから、しばらく欠席になるね。

通訳:毎月第一土曜日あたりに、あなたはあのショップで生DJを披露しているんですよね。

AP:いや、あれは日曜。夏季限定のイベントで、「ケーキラボ(Cakelab)」ってタイトル(註:手作りケーキが供されるDJイベント)。でも、あれはもう終了したんだ。ってのも、夏も終わって寒くなってきたし、寒い屋外で、座ってケーキを食べながら音楽を聴いたって楽しくないだろ(笑)?
 で、俺たちが次に企画しようとしているのは「フィルムラボ(Filmlab)」ってイベントでね。たぶん、この冬の間に3回くらいやれればいいなと思っているけど、あの店内で俺たちのお気に入りの映画を上映するっていう。上映用のスクリーンもあるから、ばっちりセットアップできるだろう、と。だから、WNBCのウェブサイト(https://wnbc.london/)にアクセスしてくれれば、いずれその上映企画に関するインフォもアップされるんじゃないかな。
 今、俺たちがやろうとしているのは昔っぽい新聞を作りたいな、と。その月に俺たちが企画しているイベントをすべて、見開きのニュース・リーフレットみたいに仕立てたいな、と。オールド・スクールだけど、形式はPDFのニュー・スクールという。そんなわけで、実際あのショップに足を運んでくれるのもいいし、でも、ラジオは24/7で聴けるから。
 そこを聞いてもらえたのは嬉しいね。ってのも、俺はインタヴューを受ける場面で「自分はこの、ロンドンのラジオ局で放送しています」って点について触れるのが好きでね。日本からのリスナーも多いし、そこで、俺はアンビエント・ミュージックをたくさんプレイしているからさ!
 まあ、俺のやるライヴ・セッションは大概(イギリス時間で)木曜の深夜12時から朝6時にかけて、みたいなスケジュールだから、それって日本のリスナーからすればかなり奇妙だろうけどね。もろに日中の時間帯だから。朝まで踊っていてアンビエントで休みたいって手合いのクラバーにはいいだろうけど、そうじゃないと、「ええっ?」みたいな(笑)。

ISSUGI 、格好良すぎるぜ! - ele-king

 ISSUGIや仙人掌って、夜の10時の取材にスケートに乗って来るような連中で、で、12時過ぎに、「じゃ」「お疲れっす」と言って、スケートに乗って帰って行くんですよ。なんかこう、その感じが格好いいんだよね。で、そんなライフスタイル、そんなアーバン・リアリティが彼らの音楽にはよく出ている。
 ヒップホップの文化には、でかいところを相手にぶんどるっていうのがあって、“ペイド・イン・フル”とか、持って行くだけ持って行く金銭闘争というか上昇志向というか、90年代はとくにヒップホップといえばメジャーを相手にそんな格闘をしていたようなところがあるんですけど、DJシャドウ周辺のインディ・ヒップホップと呼ばれるような連中は、パワーゲームには参加せず、好きなことを好きなようにやっていく潮流を作っていった。DOGEAR RECORDS/DOWN NORTH CAMPも大きくはそんな流れにあると思う。過剰にはならない。ビートは黙々と刻まれ、言葉が自然と溢れてくる。
 さて、そのクルーのひとり、ISSUGIやが待望のニュー・アルバム『DAY and NITE』をリリースする。5lack や仙人掌、KID FRESINO、BES が参加。プロデューサーはブルックリン在住のGRADIS NICE。ストリート系とはまさにこのこと。ひとりでも多くの人に聴いて欲しい。

ISSUGI FROM MONJU - DAY and NITE
DOGEAR/Pヴァイン・レコード
Amazon

<トラックリスト>
1. Intro Cut by DJ Scratch nice
2. Navy Nubak
3. Flowr(album version)
4. Skit(PM)
5. Time feat Kid Fresino, 5lack Cut by DJ K-flash
6. Heat Haze feat Mr.Pug
7. How Ya Livin feat BES
8. Water Point(Remix) Cut by DJ Bress & DJ Shoe
9. Midnite Move feat. 仙人掌
10. Interlude(AM)
11. Nite Strings
12. Outro(In the evening)
All Track prod by Gradis nice
#3 "Flowr" prod by Gradis nice & Kid Fresino

ISSUGI - Profile

 MONJU / SICKTEAM / DOWN NORTH CAMP のメンバー。仙人掌、 Mr.PUG と共に MONJU として『CONCRETE GREEN』を始めとする数々の CD への参加で注目を集め、2006 年にファースト EP『103LAB.EP』、2008 年 にはセカンド EP『Blackde.ep』をリリース。2009 年にはソロとしてのファースト・ア ルバム『Thursday』をリリース。16FLIP と共に作られた音楽性は ISSUGI のス タイルや空気を一枚で浮かび上がらせ、音源を通して各地に届くようになる。
 以降は東京内外でライブする中、繋がっていった BEATMAKER達と 2010 年にセカンド・アルバム『The Joint LP』をリリース。BUDAMUNKY(a.k.a. BUDAMUNK)、MASS-HOLE、PUNPEE、Malik、K-MOON as Gradis Nice をプロデュースに迎えた『The Joint LP』は自身の内面をより深く 投影した作品で着実に強度を増した音楽性を示した。2011年にはJAZZYSPORTからBUDAMUNK、S.L.A.C.K.(5lack)とのユニット、SICK TEAMとしてのアルバムや現在NYに渡っているDJ SCRATCH NICE とのミッ クステープ『WHERE OWN WONDER』をドロップ。SICK TEAM のアルバム 『SICKTEAM』では BUDAMUNK、S.L.A.C.K.、ISSUGI、この3人での化学反応や feat に EVIDENCE、ILLA J、ROC MARCIANO を起用するなど話題を集め、海外の HipHop サイトなどでも紹介されることとなった。
その後2013 年 2 月にリリースしたサード・アルバム『EARR』は再び全曲16FLIP と共に作り上げ、ALBUMとしての世界観や中毒性のある BEAT達が高く評価され、Complex UK のサイトでは「The Best Of Japanese Hip-Hop: 25 Artists You Need To Know」の記事に ALBUM とともに記載され、同作は「驚異的な作品(Phenomenal)」とも評された。同年 11 月には以前から数々のJOINTを生み出してきた盟友 BUDAMUNKとのタッグ、ISSUGI & BUDAMUNK名義(II BARRET)でフルアルバム『II BARRET』をリリース。2014 年には SICK TEAM 名義で『SICK TEAM 2』をリリ ースするなどマイペースながらも精力的に活動。2015 年 4 月には ISSUGI & DJ SCRATCH NICE 名義で待望の 4th ALBUM 『UrabanBowl Mixcity』をリリース。2016 年、2 月には ISSUGI×JJJ 名義の FREEMIXTAPE“LINK UP 2 EXPERIMENT"を Dogearrecords の homepage で公開している。そして現在サイゾー動画と連動した自身の番組、"7INCTREE"(毎月 7inch をリリ ースするプロジェクト)を開始。すでに7枚の7inch をリリース中。
https://soundcloud.com/issugi

GRADIS NICE - Profile
アメリカ合衆国 ニューヨーク市 ブルックリン区を拠点に活動するプロデューサー。 近年では IO『Soul Long』、C.O.S.A.×KID FRESINO『Somewhere』、KID FRESINO『Conq.u.er』、ISSUGI & DJ SCRATCH NICE『UrbanBowl Mixcity』、 仙人掌『Be in ones element』、5lack『5 sence』、B.D.『BALANCE』、 Flashbacks『Flyfall』等の ALBUM にプロデューサーとして参加している。
https://soundcloud.com/gradisnice
https://www.instagram.com/gradisnice/

cinnabom - ele-king

 君はsugar plantを知っているかい? 90年代の豪華絢爛たるオルタナティヴにおける月光ないしはシェイクスピアで言えばオフェリアのごとき存在、死んだように静かなサウンドと蝋燭の炎のような声……
 sugar plantのヴォーカル、ショウヤマ・チナツのソロ・ユニットcinnabom(チナボン)が『in the garden』以来10年ぶりにソロ・アルバムをリリースした。現在、sugar plantとしてもライブ活動に勤しんでいると聞くが、このタイミングでのソロ・アルバムのリリースは嬉しい。
 ちなみにショウヤマ・チナツはDJ NOBUやYOGURT & KOYASなどの作品にも参加している。
 さて、待望の今作ではボサノバと自身のルーツであるUSインディ的な要素をミックス、ジュリア・ホルターにも通じる深みのあるサウンドが反響する。参加アーティストはギタリストたち青芝和行、石垣窓、井上新、ドラマーとしてkujunを、またパーカッションに高田陽平を迎えている。この機会にぜひ彼女の世界に触れるように。

https://cinnabom.blog.jp

■cinnabom[ちなぼん] 
 1993年オガワシンイチとともにバンドsugar plantを結成。ベースとヴォーカル、作詞作曲担当。2003年までに日本、アメリカ、ヨーロッパで6枚のアルバムをリリース、3度のアメリカ・ツアーを行う。松本大洋原作の映画『ピンポン』のサントラに"rise"(ALBUM「happy」収録)を提供。1994年 詩集「忘却セッケン」で第十回早稲田文学新人賞受賞。2005年、伊藤ゴローのプロデュースで1stアルバム「in the garden」(333DISCS)をリリース。HMV渋谷ワールドミュージックセールスチャートで1位をマーク。2009年、FUTURE TERROR主宰DJ NOBU率いるDAZZ Y DJ NOBUのオリジナル・トラック・アルバム「DIARY」に作詞とボーカルで1曲参加。また曽我部恵一主宰ROSE RECORDSのコンピレーション「Perfect!」に1曲参加。他参加アーティストは七尾旅人、やけのはら、環ROYなど。2010年、The KLF「CHILL OUT」のDJ YOGURT&KOYASによるトリビュート・アルバムにヴォーカルとして参加。

Bonnie 'Prince' Billy - ele-king

 ケンタッキー州はルイヴィル出身。ボニー・プリンス・ビリーの名称以外にパレス・ブラザーズ、パレス・ソングス、パレス、パレス・ミュージック、ひいては本名のウィル・オールダム名義で着々と出しつづけた音盤を、私なぞ日々くりかえしくりかえし聴きつづけてきたせいで干支がひとまわりするまでナマの彼を拝んでいなかったとはにわかに信じられないが来日公演は12年ぶりである。
 米国インディの中堅どころでありフォークロアをたっぷり吸った歌心をもつ楽曲がどこか輪郭がひしゃげた聴き心地なのは、その風貌のせいもあるとの意見を否定するつもりはありませんが、それをしのぐ音楽のナゾめいたものがボニー・プリンス・ビリーの音楽には秘められている、それを確認するかっこうの機会だろう。さらに今回は新作『Epic Jammers and Fortunate Little Ditties』〈Drag City〉を共作したビッチン・バハスが帯同するという。トータスしかり〈オネスト・ジョンズ〉からのトレンブリング・ベルズとの共作しかり、コラボレーターとしても無類の柔軟性と順応性をみせるボニー・プリンス・ビリーが在シカゴのクラウトロック・バンドとどのようにわたりあうか、フリーフォーキーな弾き語りとハルモニア的な天上のドローンとが重なり合い、アシッドでありながらときにローリー・アンダーソン風のアヴァン・ポップ(おもに“You Are Not Superman”の印象です)を思わせる新作に耳を傾けつつ、首を長くして待ちたい。(松村正人)

Bonnie 'Prince' Billy & Bitchin Bajas Japan Tour 2016
ボニー・プリンス・ビリー&ビッチン・バハス ジャパン・ツアー2016

10月26日(水)京都 アバンギルド(075-212-1125)
京都府京都市中京区木屋町三条下ル ニュー京都ビル3階
出演:ボニー・プリンス・ビリー、ビッチン・バハス、風の又サニー
開場 6:30pm/開演 7:30pm
料金 4,500円(予約)/5,000円(当日)*ドリンク代別

10月27日(木)金沢 アートグミ(076-225-7780)
石川県金沢市青草町88 北國銀行武蔵ヶ辻支店3階
出演:ボニー・プリンス・ビリー&ビッチン・バハス、ASUNA quintet(ASUNA+宇津弘基+黒田誠二郎+ショーキー+加藤りま)
出店:喫茶ゆすらご
開場 7:00pm/開演 7:30pm
料金 3,500円(予約)/4,000円(当日)/2,500円(学割)
*学割:学生証など証明となるものをご持参ください。

10月28日(金)名古屋 KDハポン(052-251-1324)
愛知県名古屋市中区千代田5-12-7
出演:ボニー・プリンス・ビリー、ビッチン・バハス、Gofishトリオ(テライショウタ+黒田誠二郎+稲田誠)
開場 6:30pm/開演 7:00pm
料金 4,500円(予約)/5,000円(当日)/3,500円(学割)*ドリンク代別
*学割:学生証など証明となるものをご持参ください。

10月29日(土)東京 O-Nest(03-3462-4420)
東京都渋谷区円山町2-3 O-Westビル6階
出演:ボニー・プリンス・ビリー、ビッチン・バハス、井手健介と母船(墓場戯太郎+清岡秀哉+石坂智子+山本紗織+羽賀和貴+岸田佳也)
開場 6:30pm/開演 7:00pm
料金 5,000円(予約)/5,500円(当日)*ドリンク代別

10月30日(日)東京 7th FLOOR(03-3462-4466)
東京都渋谷区円山町2-3 O-Westビル7階
出演:ボニー・プリンス・ビリー&ビッチン・バハス with 馬頭將器(The Silence / ex: Ghost)、ダスティン・ウォング
開場 6:30pm/開演 7:00pm
料金 5,000円(予約)/5,500円(当日)*ドリンク代別
チケット:予定枚数が終了しましたので、予約受付を終了いたしました。当日券の有無につきましては、公演当日、会場に直接お問い合わせください。

企画・制作:スウィート・ドリームス・プレス
(詳細は以下をご参照ください)
https://www.sweetdreamspress.com/2016/08/bonnie-prince-billy-bitchin-bajas-japan.html

Equiknoxx - ele-king

 〈ソウル・ジャズ・レコ-ズ〉が5年前にコンパイルした『インヴェイジョン・オブ・ザ・ミステロン・キラー・サウンズ(Invasion of the Mysteron Killer Sounds)』はザ・バグことケヴィン・マーティンとレーベル・ボスのスチュワート・ベイカーが当時のシーンからディジタル・ダンスホールと呼べる曲を掻き集めてきたコンピレイションで、伝統にも鑑みつつ、意外性にも富んだ内容となっていた。世の中があまりにも真面目すぎて気が狂いそうになる時はこれを聴くしかないというか。マンガちっくなアートワークも素晴らしく、いまだに文句のつけようがない。ただ、何がきっかけでこの企画が成立したのか、それだけはよくわからない。ディジタル・ダンスホールのピークはメタルとダンスホールが交錯した2001年を最後にリリース量は減るばかり。2011年に『インヴェイジョン~』がリリースされた後も、回復の兆しはどこにも見えず、カーン&ニークやゾンビーの試みも散発的な印象にとどまった。あるいはEDMと結びついたムーンバートン(というジャンル)が少しは目新しかったというか。すでにそれなりの知名度は得ていたディプロやウォード21をフィーチャーしていた『インヴェイジョン~』から、ほかに誰かルーキーが飛び出し、少しでもシーンを活性化させたかというと、そういうこともなく、そういう意味ではノジンジャ(Nozinja)しかアルバムを出さなかったシャンガーン・エレクトロや、実態はファベーラ・ファンクのミュージシャンが名前を変えて作品を提供していただけのバイレ・ファンキのコンピレイションと同じくで、「コンピレイションが出た時点で終わり」みたいなものではあった。それで内容はいいんだから大した編集力だとは言えるけれど(同作にこだわらなければもちろん一定の存在感を示したプロデューサーやMCはいる。MCスームT(MC Soom-T)やトドラ・T(Toddla T)、ミスター・ウイリアムズやスパイス、テリー・リン(Terry Lynn)、エンドゲーム(EndgamE)……ケロ・ケロ・ボニートやビヨンセ、サム・ビンガやジェイミー・XXもアルバムには取り入れていた)。

 要するにダンスホールというジャンルにはもう発展性は望めないのかなと思っていたのである。しかも、ギャビン・ブレア(Gavin Blair)とタイム・カウ(Time Cow)によるイキノックスは、最初はダンスホールを下敷きにしているとは思えないほどトランスフォーメイションが進行し、ダンスホールといえば陽気でハイテンションという枠組みからも逸脱していたために何が起きているのか僕にはわかっていなかった。ワールド・ミュージックは表現する感情が変わってきていると、それは自分でも書いてきたことになのに、先入観というのは恐ろしいもので、そのことに気づくまでに2カ月もかかってしまった。確か最初に「ア・ラビット・スポーク・トゥ・ミー・ウェン・アイ・ウォーク・アップ(A Rabbit Spoke To Me When I Woke Up)」を聴いた時はDブリッジ&スケプティカル「ムーヴ・ウェイ」のパクリかなと思ってしまったほど彼らの音楽はダンスホールと結びつかなかったのである(「ムーヴ・ウェイ」がダンスホールを取り入れてただけなんですけどね)。

「ああ、そうか」と思うと後はなんでもない。ダンスホールである。確かにダンスホールの要素がここかしこに見つかる。つーか、ダンスホールにしか聴こえない。それもそのはず、ギャビン・ブレアはビーニーマンを始め、スパイスやT.O.K.、あるいはダニエル“チーノ”マクレガーやティファなどジャイマイカのシーンに長いことかかわってきたプロデューサーで、いままでそれしかやってこなかった人物なのである。タイム・カウはケミカル(Kemikal)の名義で比較的最近デビューしたMCらしく、もしかして若いのかなと思って写真を眺めてみるけれど、とくに歳の差があるようには見えない。ふたりの役割分担もよくわからないし、レコード盤(限定でゴールド盤もあるらしい)には作曲のクレジットもない。録音は、古くは2009年に遡るそうで、ミスター・スクラフのジャケットなどを手掛けてきたグラフィック・デザイナーのジョン・クラウスがコンパイルしたものをデムダイク・ステアのレーベルが世に出している(ショーン・キャンティとマイルズ・ウィットテイカーもコンパイル作業にはかかわっていると記してある)。そして、それだけのことはあるというのか、やはり異質であることには変わりなく、「ポーリッジ・シュッド・ビー・ブラウン・ノット・グリーン(Porridge Should Be Brown Not Green)」になると何を聴いていたのか途中でわからなくなり、スネアの連打から始まる「サムワン・フラッグド・イット・アップ!(Someone Flagged It Up!!)」に至っては背景にダブ・テクノがそれとなく織り込まれ、ベーシック・チャンネルへのジャマイカからのアンサーといえるような面も出てくる(マーク・エルネスタスも気に入っているらしい)。

 アルバム・タイトルにも入っている「Bird」というのは、実際に鳥の声を模したような音作りにも反映はされているだけでなく、どうも彼らの音楽はダンスホールだけではなく、ソカにも大きく影響されているということを表しているようで、実際にアフリカン・ドラムとレイヴ・シンセイザーが絡む「リザード・オブ・オズ(Lizaed of OZ)」も耳慣れないサウンド・センスに仕上がっている。

 ここからまたダンスホールが……なんて。

行松陽介 - ele-king

 今年7月に脳腫瘍が発見され入院。2度に渡る摘出手術を行い、今後も治療を行いながら医師の許可のもとDJ活動も再開している行松陽介氏を応援すべく“ゆきまつり”を開催! 本人はもちろん彼と繋がりのある豪華共演者による宴、百戦錬磨の間違いないプレイヤが居ればそこではパーティがはじまる! SALOONは幡ケ谷にある魔境、ForestLimitがプロデュース。こちらもとてつもない予感がプンプンだっ!  10/14 金曜、代官山にてグルーヴィンにエキサイッしてくれ!

YUKIMATSURI 95
2016/10/14(FRI)
@DAIKANYAMA UNIT/SALOON

OPEN/START 23:00
DOOR 2000yen

UNIT :
行松陽介
DJ NOBU
KILLER-BONG
COMPUMA
1-DRINK
CARRE

FORESTLIMIT Presents SALOON FLOOR :
Orhythmo(from OSAKA)
Zodiak(from OSAKA)
OQ(from OSAKA)
SUNGA (COREHEAD/BLACKSHEEP)
テンテンコ
黒電話666
アート倉持
shirakosound
DJSOYBEANS
Color Me Blood Black (CML.tokyo)
AKIRAM EN (FORESTLIMIT)
and more

VJ:浮舌大輔

Deep Medi 10 - ele-king

  去る10月1日、プロデューサーのマーラが2006年にスタートさせたダブステップ・レーベル〈Deep Medi Musik〉 のアニバーサリー・イベントが、彼のホームであるロンドンで開催された。
 多種多様なプレイヤーたちを紹介することにレーベルの目標は置かれ、その範囲はイギリスや同ジャンルのプロデューサーたちに収まるものではない。日本のエレクトロニック・ミュージックを代表するゴス・トラッドは、同レーベルからの諸作品で多くの注目を集め、〈Warp〉の看板ともいえるマーク・プリチャードやドラムンベースの鬼才、カリバーといった面々も、自身の顔のイラストがあしらわれた分厚い12インチをカタログに残している。そのサウンドをアップデートしているのは、若手のスウィンドルやカーン、グライム・シーンを支えるDJ、サー・スパイロらによるリリースだ。
 その飽くなき探究心を鑑みるに、先日、ジャイルス・ピーターソンの〈Brownswood Recordings〉からリリースした『Mirrors』において、ペルーで録音されたサウンド・マテリアルから幻想的な物語を作り上げたマーラ自身の魂は、レーベルに集うエネルギーと共にあると言っていいだろう。
 この夜のために総勢30名に登るDJやMCたちがひとつのステージに集結し、約1700人が入る会場のチケットも当然のごとくソールド・アウトだった。

Sir Spyro - Topper Top ft. Teddy Bruckshot, Lady Chann and Killa P - 2016

 オープン時刻の9時になると会場のエントランスには長蛇の列ができていた。ネットで買ったチケットの購入画面をスキャンし、厳重な荷物&ボディチェックをすませ、開始30分後に会場へ飛び込む。徐々に聴こえてくるのは、A/T/O/Sがシンガーを引き連れて放つ、悲哀に満ちたビートだ。サウンドシステムはヴォイドのインキュバスが設置され、重低音がまだ人がまばらなフロアに地鳴りを起こしていた。
 最初のDJであるサイラスと共に、リュックを背負ったドレッドヘアーのMCサージェント・ポークスもステージに登り、10年以上に渡ってロンドンのダブステップを支え続けてきた声を張り上げる。炎のような男だ。続くKマンがDJデックに立つ頃には、フロアは多くの人々で埋まり、〈Deep Medi〉のイラストを描き続けてきたタンニッジのプレイでこの日最初のリワインド(注:オーディエンスの反応が大きい曲を、DJが巻き戻して最初からプレイし直すこと)が巻き起こった。次の曲のメイン・シーケンスが流れた瞬間に上がる歓声とたくさんの拳。その曲がクラシックではなく今年リリースのこの曲であったことから、ベテランの彼もフロアとともに成長していることがうかがえる。

Dstrict - Drowsy - 2016

 日付が変わる頃には移動するのも困難なほどの数の人々で会場が溢れかえっていた。往年のファンから20代前半の若者まで、多くの世代が入り混じっている。
 ブリストル新世代を代表するカーン&ニーク、リーズ在住のコモドによるバック・トゥ・バックによって、会場はさらなる熱量で包まれた。ニークのシンプルでソリッドな選曲と、カーンのキラー・チューンとが相乗効果を生む。2012年の彼のレーベル・デビュー作である“Dread”がプレイされたとき、フロアは揺れに揺れた。コモドもそこに彼独自の変則的なトライバル・チューンを加えてうねりを生み出し、オーディエンスをロックし続ける。
 カーン&ニークと同じくブリストル出身のライダー・シャフィークが、ここではマイクを握った。ポークスの情熱的なパフォーマンスとは対照的に、彼はクールな立ち振る舞いで呪文を唱えるかのように淡々と言葉を紡ぎ、時に歪んだ声で低音を華麗に乗りこなす。クラブに舞い降りたダブポエットさながらのその姿は、奇しくもその日が命日だったMCスペースエイプに重なっても見えた。豊穣な才能とともに世代は確実に引き継がれているのだろう。続いてステージに上がった、ダブステップにファンクやジャズを持ち込んだ功績を持つシルキーとクエストのセットで、スウィンドルが流れた時も同じことを思った。

Kahn - Dread - 2012

 ゴス・トラッドとトゥルース、そこにマーラが加わって始まった2時15分からの怒涛の1時間、これは間違いなくこの日のピークだろう。マーラは自身のアンセム曲“Changes”でセットをスタートさせ、トゥルースが スクリームの“Midnight Request Line”をかけた時、フロアには狂気が渦巻いていた。僕の記憶が正しければ 、セット前半のゴス・トラッドの選曲はほぼ全てリワインドされていたように思う。“Babylon Fall”がかかったときの会場の一体感も素晴らしかった。
 ダブステップの定義が定まっていない頃に登場したゴス・トラッドのプロダクションは、計り知れない影響をUKのシーンに与え、マーラと初めて顔を合わせたときに彼が口にした「お前を日本に連れて行くから」のひと言は、日本でのダブステップのさらなる拡散に貢献した。人や情報の流れがトランスナショナルになった現在において、住んでいる場所や地域が個人の活動を遮るものではない。それを体現する一例がダブステップというムーヴメントであり、ゴス・トラッドのようなミュージシャンなのだろう。

Goth-Trad - Babylon Fall feat. Max Romeo - 2011

 これ以降も重低音は消えない。スプーキーとサー・スパイロによるMCにレディ・チャンとキラPを向かえたグライム・セット、レーベルの記念すべき第1作目である“Kalawanji” がリワインドされまくったクロームスターとジェイ・ファイヴのバック・トゥ・バック。ハイジャックとベニー・イルが“Cay’s Cray (Digital Mystikz Remix)”をプレイしたとき、終演間際であるにも関わらずフロアには多くの小さな火が灯っていた。

Fat Freddys Drop - Cay’s Crays (Digital Mystikz Remix) - 2006

 〈Deep Medi〉が作品をリリースし続けたこの10年の間に、ロンドンの音楽シーンには実に多くの変化が起きた。オリンピックの再開発などにより高騰した家賃のため、レコード店やクラブが閉鎖し、多くのプロデューサーたちがロンドンを離れている。最近では、ドラッグによる死亡事故が相次いだとはいえ、行政や警察の過剰に見える対応のもと、ロンドンの看板クラブであるファブリックの営業ライセンスが剥奪されてしまった。気のめいる出来事はこれからも続くのかもしれない。
 じゃあ、ここにはどんな希望がるのだろう。プレイの途中で、マーラはこんなことを言っていた。「〈Deep Medi〉は俺のものじゃない。いままで参加したプロデューサー全員のレーベルだ」。これは仲間に向けられた感謝の言葉であり、特定の中心を持たずに拡散していこうとする、ひとつの意思表示でもある。実際のところ、マーラは彼自身がレーベルに関わっていることを、2009年頃まで明らかにはしていなかった。この日のタイムテーブには彼の名前がなかったのだけれども、おそらくそれはそういう意図によるものだ。
 ここで先ほどのゴス・トラッドの例に視点を戻す。東京で実験を繰り広げていた彼がロンドンの地下室で産声を上げたばかりの音楽の一部になったように、世界のどこかで起きていることに関わることができるのは現在を生きる僕たちの権利だ。なんとかファブリックを救おうという活動もネットを介し世界規模で広がり、現在多くの支援金が集まっている。そして何より、10年前にロンドンで生まれたダブステップが今日も健在で、それを支えているのが、世界中でそこに耳を傾けている人々だということも忘れてはいけない。分断の風潮も至るところにある一方、確実に広がるこの水平の繋がりは、自分たちの人生を傾けることができる何かを守る大きな力なのだ。
 これからもダブステップと〈Deep Medi〉には夢を見させてもらおう。終演後、ゴミだらけになった会場でそう思ったのは僕だけだろうか。


Supersize me - ele-king

 4月末にリリースされたブライアン・イーノのアルバムは、単にポリティカルなだけではなく、ドローンという手法あるいは分野の可能性を拡張させようとする意欲作でもあった。ここに紹介するSupersize meもまた、そのようにドローンという枠組みを果敢に押し広げようと試みているバンドである。

 Supersize me は京都を拠点に活動しているバンドである。いまだ謎に包まれている部分も多いが、UKの名門レーベル〈FatCat〉がデモ音源を紹介する企画「FatCat Records Demo」にトラックが選出されたり、world's end girlfriend主宰の〈Virgin Babylon Records〉が展開する新人発掘シリーズ「Virgin Babylon Selected Works」からEPがリリースされたりと、すでに玄人筋からの信頼は厚い。
 このたびリリースされたセカンド・アルバム『Slouching Towards Bethlehem』は、その宗教的なタイトルやアートワークからもうかがえるように、内容の方も厳かなムードを醸し出している。
 ドローンとは、さしあたり現代音楽あるいはミニマル・ミュージックの文脈のなかで発展してきた音楽だと言うことができるだろう。しかし本作で聴くことのできるドローンは、どちらかといえばマイ・ブラッディ・ヴァレンタインに代表されるシューゲイズ的サイケデリアとの親和性が高いように思われる。ウィリアム・バシンスキーやフィリップ・グラス、スターズ・オブ・ザ・リッドやグラハム・ラムキン、はたまたエレクトリック・プルーンズやカレント93(デヴィッド・ティベット)といったアーティストの作品から影響を受けているというかれらだが、本作で鳴らされているのは、そのどれとも異なる、決してモノマネではないサウンドである。

 ほとんどの曲では、持続する低音や高音のなかに、あまり自己主張しないヴォーカルが紛れ込んでいる。それはきっちり歌として機能するような、わかりやすい類の「ヴォーカル」ではない。とはいえもちろんそれは、単なる効果音としての「ヴォイス」でもない。興味深いのは、このささやかなヴォーカルがたとえばラ・モンテ・ヤングやホーミーの低音のような持続を追求しているわけではない、というところである。その控えめなヴォーカルは、永遠に生き延びようと奮闘する他の様々な音のなかに静かに侵入し、それら周囲の音と共存しようともがきながら、最終的にはそれら他の音たちの運動についていくことができず、はかなく消え去ってゆく。永遠性のなかを通り過ぎていく一時性。このつつましやかなヴォーカルは、ドローンという持続を志向するはずの運動のなかで、消えていくというまさにそのことによって、「声」が占めている特権的な地位に異議を申し立てようとしているかのようだ。
 本作はネオプラトニズムから影響を受けているそうで、たしかにそのサウンドは、言語には決して還元することのできない超越的な何かを崇拝しているようにも聞こえる。しかし、優艷なドローンのなかに迷い込むヴォーカル、周囲との融合に失敗するヴォーカル、持続という運動に失敗するヴォーカルが、そのような崇拝への意志を見事に裏切っている。

 エクスペリメンタリズムやいわゆるインプロヴィゼイションではなく、シューゲイズ的なサイケデリアをもって宗教的荘厳さやメランコリアを演出しながら、そのなかにはかなく消えていくヴォーカルを滑り込ませてみせるところにこそ、このアルバムの面白さがあるのではないだろうか。
 本作で鳴らされる優美なドローンはたしかに、決して万人から歓迎される類の音楽ではない。Supersize meというバンドはおそらく、媚びるということを知らない。さすが、あの過激でドMなドキュメンタリー映画と同じ名前を持つバンドだけのことはある。Supersize me はドMなのだろうか? そうかもしれないし、そうではないかもしれない。いずれにせよ、この閉鎖的で保守的な日本という国で、あえてバンドという形態で、このように特異なドローンを追求していこうというアティテュードは、素直にかっこいいと思う。この国に Supersize me というバンドがいることを、われわれは誇ろうではないか。

yahyel - ele-king

 さあ、どうだ。やってやったぞ、こんちくしょう。先日こちらでもアナウンスしたヤイエル(yahyel)初のCD作品『Once / The Flare』だが、なんと、即完売だったそうである。おまけにApple Musicの「今週のNEW ARTIST」にも選出されたらしい。僕だけじゃなかった。みんなも「こりゃあイイ!」って思っていたんだ。僕は間違っていなかった。もうそれだけで十分だ……
 なんて満足していたら、今度は待望のデビュー・アルバムのリリースがアナウンスされた。全然十分じゃなかった。ヤイエル、これからである。アルバムはオーウェルの『1984』や『AKIRA』、『マトリックス』や伊藤計劃からインスパイアされたものになっているらしい。ヤイエル、冴えている。気になるデビュー・アルバムの発売は11月23日。それに先がけ、10月22日に開催される〈HOUSE OF LIQUID〉への出演も決まっている。
 まだちゃんと綴れないかもしれない。まだうまく発音できないかもしれない。でもみんな、もうかれらの存在は覚えたでしょう? 時は、満ちた。

限定CD即完も話題の新鋭
yahyel が満を持して放つ待望のデビュー・アルバム
『Flesh and Blood』発売決定!

日本人離れしたヴォーカルと最先端の音楽性、また映像クリエイターを擁する特異なメンバー編成で、今各方面から注目を集める新鋭 yahyel(ヤイエル)が、渾身のデビュー・アルバム『Flesh and Blood』のリリースを発表!

2010年代、インディを中心として海外の音楽シーンとシンクロするアーティストがここ日本でも次々に現れるようになったのを背景に、2015年にバンドを結成。今年1月には、いきなり欧州ツアーを敢行。その後もフジロックフェスティバル〈Rookie A Go Go〉に出演し、METAFIVEのワンマンライブでオープニングアクトを務めるなど、着実にその歩みを進めていった。一方で、先週リリースされた初のCD作品『Once / The Flare』が、発売と同時に売り切れ店舗が続出する盛り上がりを見せ、Apple Musicが今最も注目すべき新人アーティストを毎週1組ピックアップし紹介する企画「今週のNEW ARTIST」にも選出されるなど、予想を遥かに上回る反響を呼んでいる。

yahyel - Once


『AKIRA』や伊藤計劃、ジョージ・オーウェル『1984』、『マトリックス』をインスピレーションに、ディストピア性を押し出した本作『Flesh and Blood』には、全10曲を収録。シングルとしてリリースされた「Once」や、昨年自主制作でリリースされた楽曲も、アルバム用に新たにミックスされたアルバム・ヴァージョンとして収録されている。マスタリングは、エイフェックス・ツインやアルカ、ジェイムス・ブレイク、フォー・テット、FKAツイッグスなどを手がけるマット・コルトンが担当している。

インターネットをはじめとする音楽を取り巻く環境の変化を、ごく自然に吸収してきた世代が、ここ日本でも台頭する中、際立ってボーダーレスな存在であるyahyel。現代のポップ・ミュージックの「いま」を鮮やかに体現するこの新星が放つ待望のデビュー・アルバムは、11月23日(金)リリース! iTunesでアルバムを予約すると、現在発売中のEP収録の「The Flare」がいちはやくダウンロードできる。

なお、yahyelは10月22日(土)に恵比寿LIQUIDROOMにて開催されるHOUSE OF LIQUIDへの出演が決定している。
https://www.liquidroom.net/schedule/20161022/30921/

label: Beat Records
artist: yahyel
title: Flesh and Blood
ヤイエル『フレッシュ・アンド・ブラッド』
cat no.: BRC-530
release date: 2016/11/23 WED ON SALE

【ご予約はこちら】
amazon: https://amzn.to/2dBcCcf
beatkart: https://shop.beatink.com/shopdetail/000000002109
tower records: https://tower.jp/item/4366338/
iTunes: https://apple.co/2dx8RrM

yahyelオフィシャルサイト:https://yahyelmusic.com/
アルバム詳細はこちら:https://www.beatink.com/Labels/Beat-Records/yahyel/BRC-530/

Tracklisting
1. Kill Me
2. Once (album ver.)
3. Age
4. Joseph (album ver.)
5. Midnight Run (album ver.)
6. The Flare
7. Black Satin
8. Fool (album ver.)
9. Alone
10. Why

[今後のライブ]

HOUSE OF LIQUID
featuring live
Seiho
yahyel

featuring dj
Aspara (MAL/Lomanchi)
Licaxxx

2016.10.22 saturday midnight
LIQUIDROOM
open/start 24:00
adv.(now on sale!!!) 2,000yen / door 2,500yen[under 25, house of liquid member→2,000yen]

※深夜公演のため20歳未満の方のご入場はお断り致します。本人及び年齢確認のため、ご入場時に顔写真付きの身分証明書(免許書/パスポート/住民基本台帳カード/マイナンバーカード/在留カード/特別永住者証明書/社員証/学生証)をご提示いただきます。ご提示いただけない場合はいかなる理由でもご入場いただけませんのであらかじめご了承ください。(This event is a late night show, we strictly prohibit entrance of anyone under the age of 20. We require all attendees to present a valid photo ID (Drivers License, Passport, Resident Registration Card, My-number card, Special permanent resident card, Employee ID, Student ID) upon entry. For whatever reason, we will refuse entry to anyone without a valid photo ID.)

info: LIQUIDROOM 03-5464-0800 https://www.liquidroom.net

海外からの来訪者の増加傾向著しい日本の主要都市、東京と大阪。共に、多種多様な文化が集まり交差する拠点としても長らく日本の音楽シーンを牽引し続け、今やオーバーグラウンド/アンダーグラウンド問わず世界のシーンへと飛び出すアーティストたちを多く生み出している。そんな二都から現れた若手最注目株たちがなんと、2016年3回目の開催となるHOUSE OF LIQUIDにて大激突。


yahyel | ヤイエル

2015年3月に池貝峻、篠田ミル、杉本亘の3名によって結成。

古今東西のベース・ミュージックを貪欲に吸収したトラック、ブルース経由のスモーキーな歌声、ディストピア的情景や皮肉なまでの誠実さが表出する詩世界、これらを合わせたほの暗い質感を持つ楽曲たちがyahyelを特徴付ける。

2015年5月には自主制作のEPを発表。同年8月からライブ活動を本格化し、それに伴いメンバーとして、VJに山田健人、ドラマーに大井一彌を加え、現在の5人体制を整えた。映像演出による視覚効果も相まって、楽曲の世界観をより鮮烈に現前させるライブセットは既に早耳たちの間で話題を呼んでいる。

2016年1月には、ロンドンの老舗ROUGH TRADEを含む全5箇所での欧州ツアーを敢行。その後、フジロックフェスティバル〈Rookie A Go Go〉ステージへの出演やMETAFIVEのワンマンライブでオープニングアクトを経て、9月に初のCD作品『Once / The Flare』をリリースすると、発売と同時に売り切れ店舗が続出。Apple Music「今週のNEW ARTIST」にも選出されるなど、今最も注目を集める新鋭として期待されている。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196