「iLL」と一致するもの

Bill Lewis & Khan Jamal - ele-king

Oneohtrix Point Never - ele-king

 喜びたまえ。現代を代表する電子音楽家、大いなる期待を集める最新アルバム『Again』のリリースを今週金曜に控えるワンオートリックス・ポイント・ネヴァー。4度目の来日公演の決定である。しかも、ソウル、ベルリン、マンチェスター、ロンドン、パリ、ニューヨークとつづくワールド・ツアーのスタートにあたる公演とのことで、つまりOPNの最新パフォーマンスを世界最速で堪能できるってこと。
 ちなみに前回の来日は5年前、『Age Of』(2018)リリース後で、バンドやダンサーを引きつれてのライヴだった。はたして今度はどんなパフォーマンスを披露してくれるのか──まずは9月29日発売の『Again』を聴いて、妄想を膨らませておきたい。
 日程は来年2月28日@六本木 EX THEATRE と2月29日@梅田 CLUB QUATTRO の2公演。時期はまだ少し先だけれど完売必至と思われるので、ご予約はお早めに。

 なお、今週木曜9月28日には新宿の映画館で新作のプレミア試聴会&トーク・イヴェントが開催されます(https://twitter.com/beatink_jp/status/1703980222692106661)。そちらもぜひ。

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー
ニューアルバム『Again』をひっさげ待望の来日ツアー決定!
圧巻の最新ライブセットがここ日本で世界初披露!
アルバムはいよいよ今週発売!

TOKYO 2024/2/28 (WED) EX THEATRE
OSAKA 2024/2/29 (THU) 梅田 CLUB QUATTRO

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(以下OPN)が音響アート/ミュージック・コンクレートのひとつの到達点とも言うべき、衝撃のニューアルバム『Again』をいよいよ9月29日に発売!音楽ファンやミュージシャンはもちろん、多種多様のアーティストやクリエイターからも大きな注目が集まる中、待望の来日公演が決定!ここ日本で最新ライブセットが世界初披露されることが明らかとなった。

テンションにテンションを重ねた得も言われぬ解放感とイマジネーションを拡張する圧倒的な世界観、息をのむ美しさ。名作『R plus Seven』を壮大なスケールにアップデートしたような大傑作だ。バラバラに散らばった断片たちが、時間を逆流し緻密且つ巨大な美しいアートピースを完成させるさま、カオスからコスモスへ、聴く者たちをカタルシスへ導く逆流アートの到達点がここに誕生した。

電子音楽、ヴェイパーウェイブ、ノイズ、アンビエント、コラージュ、カットアップ、ミュージック・コンクレート、、、当初はマニアックな実験音楽やサブカルチャーのカリスマだったワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(OPN)ことダニエル・ロパティンは、自身の作品のみならず、音楽プロデューサーとしてアノーニやザ・ウィークエンドを手がけ、映画『Good Time』(2017)ではカンヌ映画祭最優秀サウンドトラック賞を受賞するなど活躍の場をひろげて来た。2021年にはザ・ウィークエンドによるスーパーボウル・ハーフタイムショーの音楽監督を務め、シャネル 2021/22年 メティエダールコレクションショーでも音楽とパフォーマンスを担当。世界チャート1位を獲得したザ・ウィークエンドの『Dawn FM』では、エグゼクティブ・プロデューサーを務め、アルバム収録曲の大半で演奏も行っている。

今週ついにその全貌が明らかとなる最新作『Again』をひっさげたOPNの最新のライブセットが、ここ日本を皮切りに、ソウル、ベルリン、マンチェスター、ロンドン、パリ、ニューヨークという世界の主要都市をツアーすることが発表された。妥協なき美意識にもとづくその高い芸術性で、今や音楽カルチャーのあらゆる分野で引く手あまたの、現代を代表する音楽家、作曲家、プロデューサーとなったOPNことダニエル・ロパティンが魅せる圧巻のライブ・パフォーマンス!これは絶対に見逃せない!

公演詳細 >>> https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13709

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ONEOHTRIX POINT NEVER
JAPAN TOUR
出演:ONEOHTRIX POINT NEVER(サポートアクト:TBC)

[東京]
公演日:2024年2月28日(水)
会場:EX THEATRE
OPEN:18:00 START : 19:00
チケット料金:前売 1階スタンディング¥8,000(税込) 2階指定席¥8,000(税込)
*1ドリンク別途 
特記: 別途1ドリンク代 ※未就学児童入場不可

[大阪]
公演日:2024年2月29日(木)
会場:梅田CLUB QUATTRO
OPEN:18:00 START : 19:00
チケット料金:前売¥8,000(税込) オールスタンディング / 1ドリンク別途 
特記: 別途1ドリンク代 ※未就学児童入場不可

企画・制作 BEATINK www.beatink.com
INFO BEATINK www.beatink.com / E-mail: info@beatink.com

【TICKET INFO】
★ビートインク主催者WEB先行:9/29(金)10:00~
[TOKYO] https://beatink.zaiko.io/e/opn2024tokyo
[OSAKA] https://beatink.zaiko.io/e/opn2024osaka

[東京]
イープラス最速先行受付:10/3(火)12:00~10/9(月)23:59 [https://eplus.jp/opn-2024/]
一般発売:10/21(土)~ イープラス、LAWSON、BEATINK

[大阪]
イープラス最速先行受付:10/3(火)12:00~10/9(月)23:59 [ https://eplus.jp/opn-2024/]
一般発売:10/21(土)~ イープラス、LAWSON、チケットぴあ、BEATINK

Oneohtrix Point Never - A Barely Lit Path
YouTube >>> https://youtu.be/_kyFqe36BqM
配信リンク >>> https://opn.ffm.to/ablp

9月29日にリリースされる待望の最新作『Again』。Pitchforkが選ぶ「この秋最も期待できる47アルバム」で大きく取り上げられ、CRACK MAGAZINE最新号の表紙を飾るなど、アルバムへの期待は加速的に高まっている。本作についてダニエルは、現在の視点を通して、当時の自分の音楽的アイデンティティを捉えた瞑想であり「観念的自伝」だと説明する。現在公開中の新曲「A Barely Lit Path」は、ロバート・エイムズの指揮と編曲、ノマド・アンサンブルの演奏によるオーケストラをバックに、アルバムのクライマックスを飾る。合わせて公開されたミュージックビデオは、ダニエルがビデオ・アーティストのフリーカ・テットと書いた原案をもとに、フリーカ・テットが監督したもので、擬人化された2人の衝突実験用ダミーの悲惨な物語が描かれている。

OPN待望の最新アルバム『Again』は、9月29日 (金) にCD、LP、デジタル/ストリーミング配信で世界同時リリース!国内盤CDにはボーナストラックが追加収録され、解説書と歌詞対訳が封入される。LPは通常盤(ブラック・ヴァイナル)に加え、限定盤(ブルー・ヴァイナル)、日本語帯付き仕様盤(ブルー・ヴァイナル/歌詞対訳・解説書付)の3形態となる。さらに、国内盤CDと日本語帯付き仕様盤LPは、Tシャツ付きセットの発売も決定。

label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never (ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー)
title: Again (アゲイン)
release: 2023.9.29 (FRI)

商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13613

Tracklist:
01. Elseware
02. Again
03. World Outside
04. Krumville
05. Locrian Midwest
06. Plastic Antique
07. Gray Subviolet
08. The Body Trail
09. Nightmare Paint
10. Memories Of Music
11. On An Axis
12. Ubiquity Road
13. A Barely Lit Path
+ Bonus Track

国内盤CD+Tシャツ

限定盤LP+Tシャツ

通常盤LP

限定盤LP

Shin Sasakubo & Jamael Dean / Daniel Villarreal - ele-king

 原雅明主宰のレーベル〈rings〉から最新作2枚が同時発売される。1枚は、秩父の個性的な音楽家、笹久保伸とLAのジャズ・ピアニスト、ジャメル・ディーンによる共作。もう1枚は、ドラマーのダニエル・ヴィジャレアルによるラテン・グルーヴあふれるインプロヴィゼーション作品で、昨年の『Panama 77』に収めきれなかった演奏が収録される。ジェフ・パーカーも参加しています。好きな音楽の幅を広げてくれるかもしれない2枚、チェックしておきましょう。

SHIN SASAKUBO(笹久保伸) & JAMAEL DEAN 『Convergence』
2023.10.25 CD Release

笹久保伸の38作目となるアルバム『Convergence』は、ロサンゼルス出身の天才ジャズピアニストでありビートメイカーでもあるJamael Dean(ジャメル・ディーン)とのコラボレーション作品。独創的な音楽世界観を持つ2人が出会い、そして融合した、聴く者を魅了する多彩な音楽性を放つ傑作!!

ジャズ・ピアニストのジャメル・ディーンとそのアルター・エゴであるビートメイカー/ラッパーのジラは、LAのジャズとヒップホップをナイジェリアのヨルバの伝統歌へと繋げた。そして、秩父の笹久保伸の音楽と結びついた。端正なビートとアルカイックなドラム、鍵盤、ギター、歌、サンプリング音が織り成す、真に融和的で研ぎ澄まされた世界がここにはある。2人のルーツの出会いが生んだ、この上なくリアルで美しい音楽だ。(原 雅明ringsプロデューサー)

【リリース情報】
アーティスト名:SHIN SASAKUBO & JAMAEL DEAN
アルバム名:Convergence
リリース日:2023年10月25日
フォーマット:CD
レーベル:rings / chichibu label
品番:RINC111
JAN: 4988044093393
価格: ¥3,080(tax in)

販売リンク:
https://rings.lnk.to/qrAn5Rjl
オフィシャル URL :
http://www.ringstokyo.com/shinsasakubo-jamael-dean-convergence/

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Daniel Villarreal『Lados B』
2023.10.25 CD Release

2020年にドラマーのダニエル・ビジャレアル、ギタリストのジェフ・パーカー、ベーシストのアンナ・バタースが、2日間のレコーディングで完成させ高い評価を集めた『Panama 77』に収めきれなかった即興演奏の数々を、『Lados B』としてアルバム・リリース!!異なる音楽的影響を持つ3人が創り出す、美しく鮮やかな音の色彩は圧巻!!

グルーヴ感溢れる『Panama 77』をリリースしたパナマ出身のドラマー、ダニエル・ビジャレアルのBサイドと言えるインプロヴィゼーションにフォーカスしたのが本作。ジェフ・パーカーのギターとアンナ・バタースのベースという、LAジャズの最前線にいて、ポップスのフィールドでも引く手あまたの二人を迎え、自由度の高い、素晴らしいトリオでの演奏を聴ける。ラテンのグルーヴとジャズのインプロヴィゼーションの、幸福な出会いから生まれたアルバムだ。(原 雅明 ringsプロデューサー)

【リリース情報】
アーティスト名:Daniel Villarreal(ダニエル・ビジャレアル)
アルバム名:Lados B(ラドス・B)
リリース日:2023年10月25日
フォーマット:CD
レーベル:rings / International Anthem
品番:RINC112
JAN: 4988044093409
価格: ¥2,970(tax in)

販売リンク:
https://ringstokyo.lnk.to/xrleJTUP
オフィシャル URL :
http://www.ringstokyo.com/daniel-villarreal-lados-b/

Christopher Willits & Chihei Hatakeyama - ele-king

 およそ20年にわたり〈12k〉や〈Ghostly International〉といったレーベルからリリースを重ねてきたエレクトロニカ~アンビエント作家のクリストファー・ウィリッツテイラー・デュプリー坂本龍一とのコラボでも知られる彼だが、このたび2019年以来となる来日公演が決定している。今回の公演では最新アルバム『Gravity』からの楽曲に加え、未発表の新曲も披露する予定とのこと。岐阜・大禅寺と神田・POLARISでの2公演、いずれも畠山地平との共演だ。この秋注目のアンビエント・ライヴのひとつ、見逃せません。

 ちなみに、10月20日発売の別エレ最新号『アンビエント・ジャパン』には畠山地平のインタヴューを掲載しています。ぜひそちらもチェックを。

Christopher Willits – Japan Live Performances – October 2023

クリストファー・ウィリッツの2019年以来となる来日が決定致しました。昨年Ghostly Internationalから最新アルバム『Gravity』をリリースしましたが、そこからの楽曲に加え、未発表の新曲も披露する予定です。
また、日本での公演は、複数のアルバムで共演した故・坂本龍一氏の友情と指導に捧げられているとのことです。

2004年の初来日イベントから、ウィリッツは日本で熱心なリスナーの支持を集めてております。彼の日本への愛と尊敬は、天河寺、伝書会館、大島洞窟、坂本さんとの複数のコラボレーションなど、これまでの公演で示されているように、心からの生涯の旅路です。

Christopher Willits – Japan Live Performances – October 2023

▶︎7th October @DAIZENJI Gifu

▶︎14th October @POLARIS Tokyo

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LISTENING IN THE TEMPLE
『大禅寺でリスニング』

日程:10月7日(土)
会場:岐阜・大禅寺

時間:17:00 – 21:00
料金:ADV ¥5,500

LIVE:
Christopher Willits
Chihei Hatakeyama

チケット:https://listening-in-the-temple.peatix.com/

クリストファー・ウィリッツと畠山地平のライブセットによる世界最高峰の没入型アンビエント・ミュージック・イベントを岐阜県の歴史ある大禅寺で体験しませんか?

この魂の癒しとなるイベントは、大禅寺住職の根本一徹紹徹上人の指導による瞑想で調和のとれた夕べのはじまりを迎えます。畠山地平につづきクリストファー・ウィリッツの上演は彼の親愛なる友人である坂本龍一氏へのトリビュート・ライブパフォーマンスを披露。両公演とも、原音に忠実な四音没入型サウンドで、深遠なリスニング体験に最適な音の聖域を作り上げることでしょう。

ライブ終了後には、軽食を囲んで談話などのために集まります。この親密なイベントが、みなさんとのつながりや絆を感じるひとときとなることを楽しみにしています。

「やわらかくしなやかなに流れるものは、硬く強固なものに勝る」– 老子

Sponsored by Envelop (https://envelop.us/)

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Christopher Willits / Chihei Hatakeyama

日程:10月14日(日)
会場:POLARIS, Tokyo

時間:OPEN 19:30 / START 20:00
料金:ADV ¥4,000 / DOOR ¥4,500 *別途1ドリンク代金必要

LIVE:
Christopher Willits
Chihei Hatakeyama

チケット:https://polaris231014.peatix.com/view

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CRISTOPHER WILLITS:
クリストファー・ウィリッツ(Christopher Willits)はミズーリ州はカンザスシティ出身で、現在はサンフランシスコを拠点に活動しているミュージシャン/アーティストである。彼は地元カンザスシティのアート研究所で絵画、写真、ビデオ/インスタレーション・アート、サウンド・アートを学んでおり、ミルズカレッジではフレッド・フリス(Fred Frith)やポーリン・オリヴェロス(Pauline Oliveros)に師事し、電子音楽の修士号も取得している。多岐に渡るその活動はコンポーザー、プロデューサーに留まらず、フォトグラファー、フィル ムメイカー、システム・デザイナーにまで及ぶマルチぶりだ。電子音楽とギターを融合させるスタイルのパイオニアであり、自身が作成したソフトウェアを駆使 して、複雑に練り込まれたパターン、テクスチャー、ハーモニーなどで彩り豊かな視聴覚パフォーマンスをみせ、音と光が重なり合い、没入させる独特のサウン ドを構築している。それはかつてピッチフォークに「ギターでペイントをしているようだ」、Nownessに「魅惑的で複雑なエレクトロニック・サウンドス ケイプ」と称された。90年代後半から音楽活動を開始し、自身のソロだけでなく、坂本龍一やブルックリンのサウンド・アーティスト、テイラー・デュプリー(Taylor Duepree)等とのコラボ、マトモス(Matmos)とのサブコンシャス・アトラクション・ストラテジーズ(Subconscious Attraction Strategies)、ヘラ(Hella)のドラマーで、先日惜しくも解散したデス・グリップス(Death Grips)のメンバーでもあった、ザック・ヒル(Zach Hill)とブレイクコアのパイオニア的存在、キッド606(Kid 606)とのトリオ編成によるフロッシン(Flossin)などのプロジェクトがあり、これまでに20枚以上の作品をリリースしている。それらは自身の主宰するOverlapをはじめ、テイラーの12K、Fällt、Sub Rosa、Nibble Records、Ache Recordsなど様々なレーベルから発表されており、近年はGhostly Internationalに所属している。2014年には、これまでの集大成とも言えるオーディオ・ヴィジュアル・プロジェクト作品『OPENING』をリリース。そして2017年には『Horizon』、2019年には『Sunset』をリリース。収録曲は数千万再生を記録している。2022年には現時点での最新作である『Gravity』をリリースし、深いリスニングへの意図を持ったスローダウンし、感じ、癒すためのツールだという極上のアンビエント・ミュージックを披露し、幅広いリスナーに支持されている。

畠山地平:
1978年生まれ、神奈川県出身、東京在住の電子音楽家。2006年にKrankyより1stソロ・アルバム『Minima Moralia』を発表。以降、デジタル&アナログ機材を駆使したサウンドで構築するアンビエント・ドローン作品を世界中のレーベルからリリース。そのサウンドはリスナー個々人の記憶を呼び覚まし、それぞれの内的なストーリーを喚起させる。2013年より音楽レーベル『white Paddy Mountain』を主宰。2023年には音楽を担当した映画『ライフ・イズ・クライミング!』が公開。近年は海外ツアーにも力を入れており、2022年には全米15箇所に及ぶUS Tourを敢行した。またマスタリングエンジニアとしても活躍中。

interview with Loraine James - ele-king

 ある意味、このアルバムを紹介するのは簡単だ。まずは1曲目を聴いてくれ。その曲の、とくに2分ぴったりに入るドラミングに集中して欲しい。もちろん同曲は、入りのシンセサイザーの音色もその沈黙も美しい。だが、ドラムが入った瞬間にその曲“Gentle Confrontation(穏やかな対決)”には風が吹き抜け、宙に舞い、曲は脈動する。彼女は「私はものすごく疲れているし、退屈だ」と繰り返しながらも、そのサウンドは唐突に走り出し、ものすごいスピードで駆け抜ける。スクエアプッシャーとエイフェックス・ツインのドリルンベースを受け継いで、独自に発展させたのがロレイン・ジェイムスであることにいまさら驚きはないが、あらためてここには彼女の魅力が凝縮されている。夢見る旋律と躍動するリズムが合成され、世界が開けていくあの感覚だ。
 ロレインの音楽にはつねにメランコリアがつきまとっている。今作はまさにその内的な「穏やかな対決」がサウンドと言葉に、さらに繊細に表れている。ロンドンの、ストリートやその地下からわき上がるグライムやドリルのリズムは、ここではアンビエント/エレクトロニカのフィルターを通り、ほかのものに生まれ変わっている。ときにはジャジーに、ときにはソウルに聞こえるが、しかしその背後には必ずロンドンの薄暗い香気が漂っているのだ。“Glitch The System”などはまさにそれで、このグライム化したドリルンベースは、90年代の〈Warp〉が踏み込めなかった領域である(もっとも、ブレア以前のロンドンには今日ほどの格差はなかったろうし、今日ほどの荒廃はなかっただろう)。
 それはそうと、ここでぼくがあえて特筆したいのは、モーガン・シンプソンとの共演、“I DM U”なる曲だ。ブラック・ミディがまさかここにいるとは想像だにしなかったが、彼がドラムをたたくその曲“I DM U”は90年代なかばくらいのジャズに傾倒したカール・クレイグを彷彿させる。“Cards With The Grandparents” のちょっとしたリズムの遊びも素晴らしいし、ハードコアなリズムとドリームポップが併走する“While They Were Singing ft Marina Herlop”もまた素晴らしい。
 エレクトロニック・ミュージックがいまも進化しているのだとしたら、多かれ少なかれ埃にまみれながら、ロレインのアルバムのように一歩踏み出すのだろう。言うまでもなく、この音楽はベッドルームから路上に繋がっているし、路上から夢想へと、そしてその夢想からまたリアルなこの薄汚れた世界へと繋がっている。彼女は疲れてもいるが、動いてもいるし、退屈だが、夢見てもいるのだ。「穏やかな対決」という、すなわち相反するモノ同士が同居する両義性を秘めたこのアルバムをぜひ聴いて欲しい。今年のベストな1枚だ。

100万回聴いたことがあるようなものは作りたくないなって。ただどっかで聴いたことがあるようなものがやりたいときもあるけどね。そこに自分なりのひねりを加えるのが好きだから。

昨年のあなたの東京でのライヴは素晴らしく、オーディエンスの反応もとても良かったと思いますが、日本での思い出を聞かせてください。

ロレイン:驚きがいっぱいあって、たくさんのものを見聞きして、日本語が喋れないから覚えたいなあと思った。とにかくすごく美しくて、会った人はみんな優しくしてくれて、オーディエンスも音楽を楽しんでくれてる感じだったし、ライヴ後にちょっと話したりサインしたりして、本当に楽しかった。

あなたの新譜がこんな早く聴けるとは思っていなかったので、これは嬉しい驚きでした。ライヴやツアーで忙しいなか、よくこんなにそれぞれが凝っている曲が16曲も入ったアルバムを完成させましたね。これら楽曲はおそらく作り貯めていたもので、それをいっきにブラッシュアップしてしまった感じですか?

ロレイン:何というか、いつも、ある日アルバムを作りはじめようと思い立って、あまり時間をかけるのが好きじゃなくて最長半年くらいで作るんだけど、その期間は書ける時に書くという感じ。今回は確かにライヴで忙しかったからいつもよりも少し大変というか、時間がかかったかもしれないけどね。

そして、1曲目の“Gentle Confrontation”を聴いたとき、これは素晴らしいアルバムに違いないと確信しました。美しくて、力強くて、エモーショナルです。とくにこのドラム・プログラミングが自分には突き刺さりました。そしてアルバムを最後まで聴いたら、作品全体が、自分がそのとき予感した以上に素晴らしくて、すっかり打ちのめされてしまいました。レーベルのプレス資料には「10代のロレインが作りたかったであろうレコードだ。アルバムの音楽的傾向も、その時代を反映している」と書かれています。たしかにここにはDNTEL、ルシーンテレフォン・テル・アヴィヴといった10代のあなたの影響を与えた人たちのサウンドが入っていますが、それだけではないでしょう? 2曲目の“2003”の歌詞にあるように、自分のルーツを見つめたかったというのはあったと思いますが。

ロレイン:たしかに“2003”はこれまででもっとも自分の弱い部分が出ているというか、あれは父についての曲で、これまで彼について曲を書いたことがなかったから。もちろんDNTEL、ルシーンといったサウンド以上のものが含まれているし、あれはティーンエイジャーの頃に通学のときに聴いてたりしたもので、音楽の部分での今の自分を形成したもので。彼らの音楽については、ソフトでエモーショナルなものを感じていて、そういう部分を自分自身のなかから引き出して音楽に取り入れるのを助けてくれたというか。何だろう、去年はいろいろ考えることが多くて……家族とか、人生ってあっという間だなとか。今回のアルバムは7歳くらいの頃から現在の27歳までに受けてきた影響が入っている、ある意味タイムカプセルみたいなもの。DNTEL、テレフォン・テル・アヴィヴはもちろんロックやR&Bもあるというね。

ぼくは、ワットエヴァー・ザ・ウェザー名義の作品やジュリアス・イーストマンにインスパイアされた『Building Something Beautiful For Me』を発表した後に続くアルバムとしては、ものすごく自然に感じました。(ドラムベースからIDM、アンビエント、ベース・ミュージック、R&B、シンセポップ、エレクトロニック・ミュージックのいろんなスタイルが混在し、またときに生演奏も取り入れながら、あなたの自身のサウンドとなって展開されている)あらためてこのアルバムのコンセプト、生まれた経緯などについて話してもらえますか?

ロレイン:まず作りはじめたのが去年の5月くらいで、その時点ではまだどういう感じにしたいのかは自分でもわかっていなくて。というか毎回、アルバムが何についてのアルバムになるか、最初は全然わかってない。ただ今回は、いつもコンピュータ内で作ることが多いから、ちょっとそこから出たいなっていうのはあった。だからペダルを買って、いままでアルバムで使ったことはなかったけど使ってみたりした。テクニカル面でいうと自分が最後まで面白がって作れるものがやりたいというのがあったと思う。実験的なものというか。参加してほしい人のアイデアもいろいろあって、でもそれが途中で変わったりもして。とにかく、いろんなものを入れるんだけど、その辻褄が合うように、ランダムにならないようにしたいっていうのは思ってた。そこは実際まあまあ達成できたんじゃないかなと思ってる。ひとつのアルバムに全部入れて融合させるっていうね。16曲もあるから実はちょっと心配だったんだけど、「そこは気にせず楽しもう」ということにして(笑)。新しいことをやってみたり、自分にとっては作っていて一番楽しいアルバムだったよ。

まだ聴けてないのですが、mouse on the keysとも一緒にやったそうですね。その曲はどんな風に作られていったのでしょうか?

ロレイン:mouse on the keysはずっと大ファンで、10年くらい前にロンドンで観たことがあって。それで、メッセージを送ってみたらどうなるかやってみようと(笑)。「あなたたちの大ファンです。アルバムに参加してくれませんか?」という感じで。実は去年の東京でのライヴで2秒くらい会ったんだけどね。とにかくまずこちらからキーボードを演奏したものを送って、そしたら彼らから音源が送られてきて、それを合体させたという。もしよかったら取材のあとその曲送るね。

通常のドリルの感じも好きだけどね。でも自分はそれを再現できないのがわかっているというか、元々の文脈があるわけで、自分がそこに属していないのに、そこで生まれたものをそのまま盗むっていうことはできないし。

最初は1曲目の“Gentle Confrontation”が圧倒的に好きだったんですが、アルバムを何回も聴いていると、中盤に集めた、実験色が強いいくつかの楽曲が好きになりました。“Glitch The System”、“I DM U”や“One Way Ticket To The Midwest ”、“Cards With The Grandparents”のような曲ですが、これらは、それぞれ曲のコンセプトも違っていて、たとえば“I DM U”ではブラック・ミディのMorgan Simpsonの生ドラムとの共演があって、“One Way Ticket〜 ”は穏やかなアンビエント風で、“Cards With〜”はラップが入ったコラージュ的で実験的な曲です。実験的なドラムンベースとアンビエントと歌のコラージュの“While They Were Singing ft Marina Herlop”も素晴らしい。こうした曲を聴いていると、あなたには、エレクトロニック・ミュージックのなかで、何か斬新なことをやろうという野心があるんだなと思うのですが、今回あなたがやった音楽的探求について話してもらえますか? 個人的に“I DM U”は、とくに好きです。シンプルだけど、ものすごい推進力があって、深いエモーションも感じます。

ロレイン:“I DM U” はライヴのドラマーが欲しいと思っていて、モーガンのことは大ファンだし、彼のドラムって普通じゃないというかクレイジーでしょ(笑)。元々あの曲には電子ドラムを使っていたんだけど、なんかもっとライヴ感が欲しいと思ってそれで彼にお願いした。“Cards With The Grandparents” は私と祖父母がカードゲームをしているところを録音してカードを切ってる音をスウィープサウンドっぽくしたり、曲にテクスチャーと動きを出して、それを楽器みたいにするのが面白かった。それからマリーナ・ハーロップとの曲は、たとえばいい感じのシンセがあって、でもドラムが必ずしも1,2,3,4じゃなくてちょっと動くとか、そこで一瞬だけ混乱させたりして。そこにマリーナの歌が重なって、その軽やかさとドラムのハードな感じがミックスされるっていう。とにかく実験しつつ遊びながらやってみて、「ああこのリズムパターンはいままでやったことないかも」ということが起こったり、たまに自分自身も混乱しちゃったりして、でもそれも面白いっていう、一番はそこだった。

野心についてはどうですか?

ロレイン:うーん……頭の隅にはあるかもしれない。というか、100万回聴いたことがあるようなものは作りたくないなって。ただどっかで聴いたことがあるようなものがやりたいときもあるけどね。そこに自分なりのひねりを加えるのが好きだから。

“confrontation(対決)”という言葉があり、アルバムには力強さもありますが、同時にメランコリックで、内省的なところもあると感じました。『Reflection』も内省的でしたが、あのときとは違う感情が注がれていますよね。あなたはいまアーティストとしては順風満帆で、悲しくなるようなことはないと、おそらくあなたの表面しか知らない人間は思うでしょう。じゃあ何があなたをメランコリックな気持ちにさせるのか、話してもらえますか? そしてこの“confrontation”の意味についてもお願いします。

ロレイン:どうだろう、私の心はいつもあっちに行ったりこっちに行ったりしているからなあ……。ああでも父が亡くなって今年で20年だから、去年作っているときも、このアルバムが発売されるのがちょうどその年になるんだなっていうのは意識していたと思う。別にそれについて話そうと思っていたわけじゃないけどね。“2003”を作っているときに、元々はラッパーを起用しようかと思ってたけど、結局は自分ひとりで歌詞を書いて完成させることにして。でもそうだね、子どもの頃のことは結構考えていたかもしれない。よく理解できていなかったこととか、幼すぎてきちんと消化しきれていなかったこととか。だからアルバム制作が進むにつれて、特にメランコリックにしようと思ってないのに気づくとメロディがそうなっていたみたいな部分はあったかもしれない。ああでも元々DNTELとかにもメランコリーな部分があるし、そういうサウンドに惹かれがちなんだと思う。

Confrontationの意味については?

ロレイン:まず過去と向き合うということ。これまでちゃんと向き合ったことがなかったし、自分の気持ちについて語ってこなかったから。音楽はそういう気持ちを吐き出させてくれるものだから、言葉があってもなくてもね。あと時間が経過したことで、自分の気持ちを以前よりも作品に込められるようになってきたのかもしれない。

歌詞を書いて16曲あるうちの9曲であなたは歌を歌っています。言葉でも伝えたいことがあるからだと思いますが、今作でとくに重要な歌詞はどの曲なのでしょうか? やっぱり“2003”ですか?

ロレイン:うん、絶対そうだと思う。実はあの曲を何度かライヴでやったんだけど、何回か、歌わなくていいかってなったんだよね。ちょっと恥ずかしいというか、弱さを曝け出す感じがして、それでインストゥルメンタル・ヴァージョンにしちゃったり。あとクラブとかでやると、曲の内容に対して演奏する状況が合ってないというか、そういうのもあったし。でもアルバムが出たらもっと歌う場面が増えると思うから、まあ楽しみだけど、どうなるんだろう(笑)。

曲名にメッセージがこもったダブステップ風の“I’m Trying To Love Myself”に歌詞/歌がないのは、なぜでしょうか?

ロレイン:何だろう、自分のことが好きになれない時期ってあると思うんだけど、大人になるにつれて少しずつ自信が出てくるっていう。あとはこの曲でDNTELの“Anywhere Anyone”って曲のサンプルを少し使っていて、その曲に“How can you love me if you don’t love yourself”って歌詞があって、その曲を元にしているというか。とにかく口数が多い感じの曲にはしたくないっていうのがあったんだよね。

進化してると思う。たとえばいまドラムンベースの新時代になっていたり……まったくの、本当に新しいっていうものはないと思うけど、20年前のものを、影響を残しつつ新しくするっていうことは起こってるんじゃないかな。

今回のアルバムを制作するに当たって、あなたをもっとも感動させた出来事があれば教えてください。

ロレイン:“Cards with The Grandparents”を作ったこと。ふたりとも高齢で、でもなかなか会えてなくて、特にパンデミック中は彼らを感染させないように、っていうのもあって2年くらい会えてなかったから。曲を作り終わって聴いたときにはグッとくるものがあったし、今後ライヴでやるときもちょっとエモーショナルになりそうな気がする。

“Tired of Me”のリズムはおそらくドリルから来ていると思うのですが、あなたは昔から、ある意味ストリートでもっとも悪評の高いこのスタイルをあえて用いています。それはあなたがドリルの音楽的なおもしろさに着眼しつつも、ドリルにまつわる偏見を打破したいというのもあるんじゃないかと思うのですが、どうなんでしょうか?

ロレイン:そう、別の文脈に嵌めるのがすごく好きだから。もっとエレクトロニックで実験的な感じにするとか。通常のドリルの感じも好きだけどね。でも自分はそれを再現できないのがわかっているというか、元々の文脈があるわけで、自分がそこに属していないのに、そこで生まれたものをそのまま盗むっていうことはできないし。でもサウンドとしてすごく興味深くて、面白いドラムパターンがあったり、もう明らかにドリルだとわかったり。それに対して「これをもっとグリッチっぽくしたらどうなるだろう」とか、「ディストーションかけたらどうなるだろう」とか、そうやっていろんなジャンルの音楽をいじってみるのが楽しい。

“Speechless”のイントロのシンセサイザーの音が大好きで、まさにあなたのサウンドだと思いますが、あなたにとってエレクトロニック・ミュージックは、いったいどんな意味を持っているのでしょうか? 大きな質問ですが、エレクトロニック・ミュージックというのはこんなにも素晴らしいものだということを、あなたの言葉で説明して欲しいのです。

ロレイン:そうだなあ……私にとっては……私は自分が聴いたものを自分自身の音楽に作り替えるのが好きで、これまで刺激を受けてきたたくさんのエレクトロニック・ミュージックもそうだし、たとえば40代の白人男性が作ったものだったり、でも自分は明らかにそうではないから、影響を受けた音楽を自分の人生の視点から再分脈化するというか、つまりそれは彼らとはかなり違う視点だったりする。あと一般的にエレクトロニック・ミュージックっわりと冷たい印象というか、エモーショナルじゃないし無防備でもない感じがあるでしょ。でも自分はそれとは違うことがしたいと思って、そこに自分の気持ちを込めてもいいし、すごく温かいものにだってできるし、真面目なことを語ってもよくて、別に機械的なものである必要はない、コンピュータっぽいものである必要もない。機械的がダメってことではなくて、それ以外のものであってもいいっていうことなんだけど。それでもいいし、それ以上でもいいと思うんだよ。うん、だから、エレクトロニック・ミュージックはこうであるっていうのを広げるというか。だってエレクトロニック・ミュージックはコンピュータだけでも冷たいだけでもなく、それ以上の部分がもっとたくさんあるから。

あなたから見て、エレクトロニック・ミュージックはいまも進化していると思いますか?

ロレイン:進化してると思う。たとえばいまドラムンベースの新時代になっていたり……もちろん自分が好きなもの、好きじゃないものっていうのはあるけど、いま嫌いでも今後大好きになるかもしれないし、あといまって90年代を彷彿させるものだったり、00年代っぽいものが来ていたり、だから新しいけど懐かしい感じのものとか。まったくの、本当に新しいっていうものはないと思うけど、20年前のものを、影響を残しつつ新しくするっていうことは起こってるんじゃないかな。

とにかく、最高のエレクトロニック・ミュージックのアルバムをありがとうと言いたいです。また、お会いできる日を楽しみにしています。さよなら。

ロレイン:来年また行きたいと思ってる。それじゃあ、また。

Creation Rebel - ele-king

 今秋の注目作となりそうなリリース情報をお知らせしよう。もともとは故プリンス・ファーライのバックとして出発したレゲエ・バンド、クリエイション・レベル。エイドリアン・シャーウッド初のプロデュース作品でもある『Dub from Creation』(1978)や『Starship Africa』(1980)といった代表作を持つ彼らは、以降もさまざまな活動をつづけてきた(たとえば故スタイル・スコットはダブ・シンディケートニュー・エイジ・ステッパーズでも活躍している)。
 このたび、エスキモー・フォックス、クルーシャル・トニー、そしてマグーの3人が、40年以上ぶりにクリエイション・レベル名義を復活。シャーウッドとともに7枚目のアルバム『Hostile Environment』を送り出すことになった。かつてバンド・リーダーだったプリンス・ファーライのヴォーカルもフィーチャーされている新作は、力強いメッセージも搭載している。発売は10月6日。

 なお、アフリカン・ヘッド・チャージとの帯同および単独での来日公演を目前に控えるエイドリアン・シャーウッドが、急遽サイン会をやるそうです。詳しくは下記をご確認ください。

CREATION REBEL
クリエイション・レベルが40年振りの新作『HOSTILE ENVIRONMENT』より、プリンス・ファー・ライとダディ・フレディ参加の新曲「THIS THINKING FEELING」を公開!
アルバムのプロデューサーであり、来日間近のエイドリアン・シャーウッドによる解説書付き国内流通仕様盤CDは10月6日発売!

『Dub from Creation』や『Starship Africa』などの名作を生んだ〈On-U Sound〉の代表的バンド、クリエイション・レベルが、実に40年以上振りとなる最新作『Hostile Environment』から新曲「This Thinking Feeling」を公開!

本楽曲には、バンド・メンバーのエスキモー・フォックスのヴォーカルの他、バンドのかつての師でありバンドリーダーだったプリンス・ファー・ライの歌声、そして世界最速MC、ダディ・フレディのゲスト・パフォーマンスがフィーチャーされている。

Creation Rebel - This Thinking Feeling
https://youtu.be/Rh0qyglLjJI

偉大なる故プリンス・ファー・ライのバックバンドとして結成され、ザ・クラッシュ、ザ・スリッツ、ドン・チェリーらとステージを共にしてきたクリエイション・レベル。最新アルバムのタイトルは、テリーザ・メイ前英国首相の物議を醸した亡命希望者に対する政策と、2018年に起こったウィンドラッシュ事件に対するものであり、歴史的な過ちに対して驚くほど短い記憶しか持たない旧植民地大国の暗い影で一生を過ごしてきたジャマイカ出身のミュージシャン・グループの真に迫ったメッセージが込められている。

クリエイション・レベルの40年振りとなる新作『Hostile Environment』は、CD、LP、デジタル/ストリーミング配信で10月6日 (金) 世界同時リリース!CDにはボーナストラック「Off The Spectrum」が追加収録され、国内流通仕様盤CDには、エイドリアン・シャーウッドによる解説書「The Creation Rebel Story」が封入される。またLPはイエロー・ヴァイナル仕様となっている。

プロデューサーのエイドリアン・シャーウッドは、リー・スクラッチ・ペリーやホレス・アンディのキャリア後期の名盤を手がけ、いよいよ来週アフリカン・ヘッド・チャージと共に来日し、日本のGEZANを迎えて『ADRIAN SHERWOOD presents DUB SESSIONS 2023』を開催、その後には札幌、岡山、東京でソロ公演も行う。

そんなエイドリアン・シャーウッドの来日に合わせて、現在〈On-U Sound〉のGallery & Pop-up Storeが、HMV record shop 渋谷内にオープンしたギャラリースペースBankrobber LABOで開催中。〈On-U Sound〉設立初期にはレーベルの運営にも携わった日本人フォト・ジャーナリスト、キシ・ヤマモトが撮影した当時の貴重な写真や、石井利佳が手掛けたエイドリアンのソロ作のアートワーク、近年の〈On-U Sound〉作品のアートワークやミュージックビデオを手掛けるピーター・ハリスのアートプリント、〈On-U Sound〉緒作品のアートワーク、ポスター、貴重なグッズ等が展示され、〈On-U Sound〉所属で日本が世界に誇るダブバンド、オーディオ・アクティブの展示も登場する。

期間中には〈On-U Sound〉作品のCD/LPはもちろんの事、〈On-U Sound〉Tシャツ、ロゴ・グッズ等が販売され、更にマーク・スチュワートがデザインしたオーディオ・アクティブ『FREE THE MARIJUANA』の復刻ポスターも販売。エイドリアン・シャーウッドととボンジョ(アフリカン・ヘッド・チャージ)のサイン会の開催も決定!

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【サイン会情報】
〈On-U Sound〉Gallery & Pop-up Store開催を記念して
HMV record shop 渋谷店にて、〈On-U Sound〉の総帥エイドリアン・シャーウッドと、
アフリカン・ヘッド・チャージのボンジョによる超貴重なサイン会が緊急開催決定!!!

[開催日時] 2023年9月13日(水) 時 (19時開始予定)
[会場] HMV record shop 渋谷
[出演] (予定)
・エイドリアン・シャーウッド
・ボンジョ・アイヤビンギ・ノア(アフリカン・ヘッド・チャージ)
[イベント内容] サイン会
[対象店舗] HMV record shop 渋谷
[参加方法]
Bankrobber LABO で開催中の〈On-U Sound〉Pop-up Storeで商品をご購入いただいたお客様に先着でサイン会参加券を配布
 *サイン券は無くなり次第終了
[対象商品]
〈On-U Sound〉Pop-up Storeでの販売全商品

【イベント注意事項】
・イベントにお越しいただく際はお渡ししたサイン会参加券を忘れずにお持ちください。
・サイン対象物は参加券1枚につき1点のみとさせて頂きます。当日は忘れずにお持ちください。
・サイン会参加券はいかなる場合も再発行はいたしません。  
・写真撮影・録画・録音行為は禁止とさせて頂きます。
・諸事情により、イベント内容等の変更・中止となる場合がございますので予めご了承ください。

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〈ON-U SOUND〉GALLERY & POP UP STORE
【開催概要】
2023年9月7日(木)~ 9月26日(火)
at Bankrobber LABO Shibuya Tokyo
11:00?21:00
@bankrobber_labo
150-0042 東京都渋谷区宇田川町36-2 ノア渋谷 1F/2F HMV record shop 渋谷
入場料:無料
※ 〈ON-U SOUND〉の一部のグッズは9/9土曜以降に順次販売予定

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label: On-U Sound
artist: Creation Rebel
title: Hostile Environment
release: 2023.10.06

BEATINK.COM: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13571

CD / Digital Tracklist
01. Swiftly (The Right One)
02. Stonebridge Warrior
03. Under Pressure
04. That’s More Like It
05. Jubilee Clock
06. This Thinking Feeling
07. Whatever It Takes
08. Salutation Gardens
09. Crown Hill Road
10. The Peoples’ Sound (Tribute To Daddy Vego)
11. Off The Spectrum *CD Bonus Track

Vinyl Tracklist:
A1 Swiftly (The Right One)
A2 Stonebridge Warrior
A3 Under Pressure
A4 That’s More Like It
A5 Jubilee Clock
B1 This Thinking Feeling
B2 Whatever It Takes
B3 Salutation Gardens
B4 Crown Hill Road
B5 The Peoples’ Sound (Tribute To Daddy Veigo)

Oneohtrix Point Never - ele-king

 2010年代を代表する電子音楽家であり、いまやプロデューサーとしてポップ・フィールドでも活躍するワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティン。先日ニュー・アルバムのリリースがアナウンスされているが……これがまた大いに期待できそうな感じなのだ。

 まずは一昨日公開された新曲 “A Barely Lit Path” を聴いてみよう。加工されたヴォーカルからはじまって……ストリングスの存在感に驚かされる。OPN流モダン・クラシカル? 新機軸といっていいだろう。

 配信リンク >>> https://opn.ffm.to/ablp

 演奏しているのはロバート・エイムズ指揮によるノマド・アンサンブル。エイムズは、アクトレスレディオヘッドフランク・オーシャンなどとのコラボで知られる意欲的な楽団、ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラの創設者だ。そこはやはりロパティン、嗅覚が鋭い。
 新作発表時にはいつも趣向を凝らした映像を投下してくる彼だけれど、今回も例にもれず、なんとも強烈な印象を残すMVが届けられた。いろんなひとに「Oneohtrix Point Never」の読み方を尋ねてまわるティーザー動画も面白かったけれど、こちらは自動車の衝突試験に用いられるダミー人形2体が主人公。最初はドライヴを楽しんでいるように見える彼らだが……

 監督はフリーカ・テット。フランス出身、NYを拠点に活動するディジタル・アーティストで、この6月にはアムニージャ・スキャナーとの連名で〈PAN〉からアルバムを発表してもいる。そこにはディコンストラクティッド・クラブの終焉を宣言する曲が含まれていたりしたから、コンセプチュアルな部分でロパティンと馬があったのかもしれない。このMVの原案は、テットとロパティンふたりによるものだ。

 と、すでにこの1曲だけでわくわくが止まらなくなるわけだけれど、9月29日に発売されるニュー・アルバムのタイトルは『Again』。これまた意味深である。
 インフォメーションによれば、新作は若いころの自身とのコラボレイションであり、「思弁的自伝(speculative autobiography)」なんだそうな。OPNは2015年の『Garden Of Delete』では思春期を振り返り、2021年の『Magic Oneohtrix Point Never』でもOPNというプロジェクトのはじまりに立ち返っていた。『Again』はそれらとどう異なるアプローチをとっているのだろう?
 つねにリスナーを驚かせ、刺戟を与えてくれるOPN。今回も目が離せそうにない。

OPN待望の最新アルバム『Again』は、9月29日(金)にCD、LP、デジタル/ストリーミング配信で世界同時リリース! 国内盤CDにはボーナストラックが追加収録され、解説書と歌詞対訳が封入される。LPは通常盤(ブラック・ヴァイナル)に加え、限定盤(ブルー・ヴァイナル)、日本語帯付き仕様盤(ブルー・ヴァイナル/歌詞対訳・解説書付)の3形態となる。さらに、国内盤CDと日本語帯付き仕様盤LPは、Tシャツ付きセットの発売も決定。

label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never (ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー)
title: Again (アゲイン)
release: 2023.9.29 (FRI)

商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13613

Tracklist:
01. Elseware
02. Again
03. World Outside
04. Krumville
05. Locrian Midwest
06. Plastic Antique
07. Gray Subviolet
08. The Body Trail
09. Nightmare Paint
10. Memories Of Music
11. On An Axis
12. Ubiquity Road
13. A Barely Lit Path
+ Bonus Track

■国内盤CD+Tシャツ

■限定盤LP+Tシャツ

■通常盤LP

■限定盤LP

Colleen - ele-king

 なんというか、どこのシーンにも属さない、しかしどこのシーンからも愛される音楽っていうのがたまにあるけど、コリーンはまさにそれ。フランス人の電子音楽家、セシル・ショットによるプロジェクト、OPNやローレル・ヘイローなどともに、2010年代のエレクトロニック・ミュージック・シーンを併走し、まったく独自の境地を開拓中の彼女が新作を出します。いわく「1台のモジュラー・シンセと2台のエフェクターのみで構築したミニマルでありながらゴージャスで多様性に富んだアルバム」だそうで、リリースに先行して公開されたシングル曲“Subterranean – Movement I – II – III”(https://orcd.co/xor00zp)について彼女はこんなことを言っている。
「潜在意識と感情の深さにちなんで名付けられた“Subterranean”の 3 つの楽章を楽しんでいただければ幸いです。第 1 楽章は再びロック バンドでギターを弾いているような気分になり、第 2 楽章はまるでギターを弾いているような気分になりました ダンスフロアのための音楽(*ほぼ*)、そして3番目は、非常に壊れやすいもの、おそらく壊れる可能性のあるもの、そしてそれが表面に出ようとしていたものに突然触れたような感じでした」

 アルバム『Le jour et la nuit du réel』(「現実の昼と夜」という意味)は9月22日に発売。

Artist: Colleen
Title: Le jour et la nuit du réel
Label: PLANCHA / Thrill Jockey
Cat#: ARTPL-202
Format: CD / Digital
Release Date: 2023.09.22

Billy Wooten - ele-king

創造の生命体 - ele-king

 連載第二回目は、KPTMがBZDによってどのような不調を経験し、やがてそれが処方薬の離脱症状によって引き起こされているということを認識するに至ったのかをたどる。話を聞いていると、BZD問題の極めて難しい点の一つは、そもそもの心身の不調や異常がBZDによって引き起こされていることを認識・自覚することであるようだ。

 どんな症状であれ、何よりもまずは原因を突き止めなければ、それを克服するための根本的な取り組みや努力もできない。しかしながら、BZDの副作用がどのようなものなのかがまだあまり周知されていないために、自覚のないまま原因不明の症状に苦しんでいる人も多い。KPTMもそんな一人だった。では、彼女の場合はどのようにしてそれを自覚するに至ったのか、彼女の体験を共有することが、周知のきっかけになれば幸いだ。

 とはいえ、ひとくちにベンゾジアゼピン系といっても、めまい、耳鳴り、肩こり、睡眠を促すものからパニック障害の緩和等々、様々な用途や強さの薬が様々な症状に対して処方されている。また、薬がどのように作用し、どのような反応を起こすかには個人差があり、長期服用しても離脱症状を経験せずに断薬できる人もいれば、服用し始めてからすぐに副作用を感知する人もいる。そのため、医師にも診断が非常に難しいのが現実である。ここに紹介するのは、KPTM一個人の体験であり、症状や服用歴が同じでも、必ずしも同じ副作用や離脱症状が引き起こされるわけではないことはあらかじめ強調しておきたい。また、これからこの連載でも掘り下げていくが、実際に不調の原因がBZDの副作用や離脱症状だったという判断に至っても、急な断薬や減薬は極めて危険なので、服用中の方はくれぐれも自己判断で行わないようくれぐれもお願いしたい。これは、KPTMが最も伝えたいメッセージの一つでもある。

PTSDとBZD

 BZD服用のきっかけは様々だ。レクリエーション、いわば遊びで気持ち良くなるために飲んでみる人もいれば、この薬なしでは日常生活に支障をきたすという人もいる。KPTMの場合は、海外で「怖い思い」をしたことが引き金となった。どのようなことがあったのかについては、彼女も語りたがらないので聞いていない。ここでは、めまいから始まり、後に「そのことを思い出すとパニック発作のような、胸が締め付けられて血の気が引いていくような」PTSD(心的外傷後ストレス障害)症状を緩和するために飲み始めた、という事実を踏まえるだけで十分だろう。KPTMがこのことを神経内科医に相談したところ、「セパゾン」というBZD系の薬が処方された。

 BZDを服用すると、その症状は抑えられた。それ以外はそれまで通りの生活・活動が続けられた。「私はもともと薬が嫌いなので、お医者さんに『飲みたくない』というと、『これは軽いやつだから、一生飲んでも大丈夫。いつ飲んでもいいし、頓服で使えるよ』って言ってました。『調子悪くなりそうな時に飲んで』みたいな感じでしたね。父が薬剤師なので聞いてみると、『うちの病院でもよく処方される比較的軽い薬だよ』って言ってました」

 これが2005年前後のことだ。当時、少なくとも日本においては、医師も薬剤師も厚労省も、この薬について継続的に服用することの危険性を認識していなかった。「軽い」薬だという説明を受けて、KPTMは1日1錠、これを服用するようになった。そうすることで、PTSD症状を起こす心配をしなくて良くなり、しばらくはまたスムーズに日常生活を送ることができるようになっていた。はじめから「依存したくない」という気持ちが強かったので、あらかじめ1日1錠以上は飲まないと決めていた。

『私に起きたこと①』

  • 1. 元々の私は、ストレスから心身を守ってくれるGABAのおかげで、どんな困難があってもたくましく元気に生きていた
  • 2. あるとき、あまりにも大きすぎるストレスを受けつづけ、私のGABAは働く能力を失ってしまった
  • 3. 長期のストレスでめまいや貧血を起こすようになり
  • 4. 病院に行って相談してみた。薬が嫌いだった私は「副作用が強く依存性のある薬は嫌だ」と医者に伝えると
  • 5. “セパゾン”というベンゾジアゼピン系の薬を処方された。医者が「とても軽くて安心安全なクスリだ」と強調していたのを信じ、中の自分(GABA)は嫌がっているのに、生きるために飲むことにした

何かがおかしい

 しかし、次第に何かがおかしいと感じるようになる。「自分もそうだったんですけど、多分みんな、この薬を飲んでいることをなるべく気にしないようにしているところがあると思います。飲んでいることが、なんとなく良くない気はずっとしているんですよ。ごまかしている感じがずっとある。良くないだろうなと思いながら、止められない。なんか体の調子がおかしいなあと思いながら、それを意識するとよけいに悪化するような気がして、なるべく考えないように、考えないようにしていましたね。多分、この薬を飲んでいる人の多くはそんな感じだと思います。『なんかヘンだな』と思いながら、それがこの薬のせいだという因果関係までは考えないようにして生活していた。(KPTMが牽引した女性アーティスト集団)WAG.のメンバーで、最も親しい友人の一人である○(マル)ちゃんにも言われました『KPTMちゃん、ずっと昔にもこの薬がおかしい気がするんだって言ってたよ』って。だから、やっぱりずっと感じてはいたんですよね」

 薬の作用により、その頃の記憶は混乱している。「離脱症状が出始めた頃の記憶はぐちゃぐちゃです。あまり思い出せません」そして心身の不調はさらに悪化していった。「薬剤師の父も、精神薬系のものは何がどういう症状に効くという情報としては把握していても、なぜその効果がもたらされるのか、『頭がぐちゃぐちゃになる』と訴えてくる患者さんを、どう理解していいのか分からなかった、と言っています。分からないから、やや避けてきたところがあるとも。お医者さんも同じだったのかもしれないと思います」

 「離脱症状」と言うと、薬を減らしたり、止めたりした瞬間から始まるのかと思っていたが、そうとは限らない。「私の場合は『常用量離脱』になったんですよね。つまり、それまで飲み続けてきた量では足りなくなる状態です。同じ量を飲んでいても効き目が十分ではなくなり、不調になり、普通は病院に行って処方量を増やしてもらうことになります。少し増やすことで、前と同じような落ち着いた状態に戻ることができるけれど、結局そうやって量は増え続けていくことになるわけです。でも、私の場合は基本的に飲みたくなかったので、1日1錠以上は増やさなかった。『これ以上はイヤだ』という気持ちが強かった。だから足りなくて不調になっていきました。それが薬が足りないせいだと認識していなかったので、もし認識して薬を増やしていれば、もっと状態は楽になったとも言えます。でも増やさなかったので、それによって引き起こされた不調を何年も我慢していた。少し出かけたりすると尋常じゃない疲労感に襲われて、家に帰ると何もできない。それがもう限界になって、動けなくなったのが2014年頃です」

 その状態で広島に帰ってきた。そのころは、自力では体温調整ができなくなっていて、33℃台になったかと思えば、40℃台がずっと続いたりしたという。常用量を増やすことを拒んだせいで離脱症状に苦しむことになったわけだが、では、その頃に医者に言われるがままに常用量を増やしていたとしたら、今頃はどうなっていたのだろうか。思いを巡らせずにはいられない。

 「増やし続けて飲み続けると、ゾンビみたいになってしまう場合がありますね。両親の近くにもそういう人がいて。ずっとボーッとしていて、『心ここに在らず』という状態が長い。意思がなくなって、感情もあまりなくなっていく。時間の経過とか空間の把握もよくわからなくなっていくんですよね。遠近感もぐちゃぐちゃになります。痛いとか辛いとかいう感覚は抑えられるけれど、そのぶん他のすべての感覚も鈍っていってしまうようです。少しオカルトっぽくもあるんですが、ここではない、異次元に入っていってしまうような奇妙な感覚に陥ったりして。自分だけがおかしくなったような感覚で、生きることが苦痛になってしまう。それがなぜ、どのようにしてそうなるなのかはまだ解明されていないようですが、少しでも、この世界にこういうことが起こっている、こういうことを経験している人がいるということだけでも、伝えることは大事なのかなと」

 しかし、先に触れたように個人差がかなりあるのも事実だ。「ラッパーの知り合いの子で、『15年間眠剤を飲み続けていたけど最近止めた』って言ってた人がいて、その人はなんともないって言ってるんですよ。びっくりしました。だから、飲み続けて量を増やしても、大丈夫な人もいるみたいです。かと思えば、私のインタビューを読んだ人から、『私も15年くらいずっと眠剤を飲んでいて、一度止めてみたらリアルに2ヶ月間一睡もできなかった。だから、また飲んでいるけどいずれ止めたい』という人が連絡をくれたりも。実は、密かに悩んでいる人がたくさんいて、『誰にも相談できなかったから、インタビュー読んで救われました』という連絡はいくつかもらいました。薬を飲んでいることって、なかなか人には言えないんですよね。私もほとんど話したことなかったです。『自分の中で何が起こっているんだろう?』って、自分だけで悩んでしまう」

『私に起きたこと②』

  • 6. 1日1粒ずつ飲んでいると、弱ったGABAの代わりにストレスからベンゾジアゼピンが守ってくれて、なんとかやり過ごせるようになったが、いつの間にかないと調子が悪くなるようになり、長期的に服用することになった
  • 7. 10年後、原因不明の高熱や低体温やめまいや貧血や疲労感がしょっちゅう起きるようになり、日常生活が困難になってきた
  • 8. よく観察してみると、守ってくれるはずのベンゾジアゼピンが自分のGABAを殺していて、自分で自分を守る機能がなくなっていることに気がついた
  • 9. これはまずいと思い、自分の機能を取り戻すため、ベンゾジアゼピンを飲むのを中止してみた
  • 10. ストレスから守ってくれていたベンゾがなくなり、自分のGABAも機能せず、誰も助けてくれない状態になり、あらゆる症状がどんどん出てきた
  • 11. この世界の全てがストレスに感じられ、いてもたってもいられない狂気の魔境世界へ突入してしまった。言葉にできない異常で奇妙な体験で、人間が入ってはいけないアンタッチャブルワールドにふみ込んだような感覚だった

常用離脱症状と減薬・断薬による禁断症状

 常用離脱症状は、いろんな形で出た。頭の中が混乱し、めまいも酷く、急激な体温の上昇や下降、神経痛で体のあらゆるところが痛く、内臓もおかしい。「あらゆる病院であらゆる検査をしました。お腹も変になるからエコー検査して、脳波も検査したし、脳脊髄液減少症じゃないかとか... でも検査結果には大した問題がなくて。なんでそんなに調子が悪いのか分からなかった。だから色んな健康に関する情報をチェックするようになって、例えば白砂糖が悪いんじゃないか、って白砂糖を抜いてみたり、色んなものを排除してみることも試したけど、全然良くなってこない。だから調べ続けていたら……出てきたんですよね、ネットで。『BZDの離脱症状』というものを知って、その症状の記述を見たらことごとく一致していた。『これだ』と確信しました」

 不調の原因が見つからぬまま苦しみ続け、消去法で最後に残ったのがBZDだったというわけだ。BZDを飲み続けることが良くないようだということは、ずっと薄々気づいていた。「確信は、多分ずっとあったんだと思います。でも疑いもあったというか」しかし、長かったのはそれを確信してからの道のりだった。この薬を「飲み続けることを止める」とどうなるのか、KPTMが思い知らされる出来事が起こる。

 「広島に弱って帰ってきたあとに、一度東京でWAG.のパーティーを企画したことがあって、ゲストにDJ YASさんが出てくれることになったんです。それで、せっかくのパーティーだし、クリーンな状態で楽しもうと思って、東京に行く7日前くらいに薬を抜いてみたんですよ。で、なんかどんどん体調が悪くなっているのを感じながらも東京へ行き、パーティー中に久しぶりに色んな人に会って、ワーッって楽しくやってるんだけど、だんだん誰が誰だか分からないような変な気分になってきて。どんどん『何かおかしい、ヤバイ!!』って、すごい危険を感じたんですよね。とにかくすごく怖くなって、イベントの途中でその日泊まらせてもらっていた友達の家にタクシーで一人で帰りました。お風呂に入って、BZDを飲んでから寝た。そしたら、次の日はまるで何もなかったみたいにケロッとしてたんですよ。逆に楽しいくらいの気分になっていた。その体験が強烈で。その時に初めて、アンタッチャブルな世界を体験してしまったと思ったんですよね。それが禁断症状というものだった」

 しかし、自分自身でそれを確信しても、それを医者を含む周囲の人に説明し、理解してもらうことが次なるハードルだった。「広島に帰ってきて病院に行って、『この薬を抜くと体が痙攣したり変になるから、この薬の方に問題があると思う』って言ったんですよ。経過報告として。そのころにはBZDの減・断薬に関する本とかも出始めていたので、その本を持っていってお医者さんに見せたりして。そしたら、後になって親に聞いたら、『あの子は総合失調症の気があって、妄想を言っている』ってその先生が言ったらしくて(笑)。それには『オイ!』と思いましたよね。でもそういう診断をされている人もいるかもしれない。本当のことを言っているのに、虚言だと思われてしまう。両親が薬のせいだと相談に行ったのに『時間の無駄だ』と言った医者もいました。この薬の問題点を訴えている人はかなりいるのかもしれないけど、『気が狂ってる』で処理されてきている人が潜在的にかなりいるかもしれないんですよね。でも、本当に妄想を言う人も診療に来るわけだから、お医者さんも難しいだろうなという気もしますが……」

『私に起きたこと③』

  • 12. これはとんでもなくヤバいことが自分に起きてると感じ、ベンゾジアゼピンを飲んで一晩寝ると症状は落ち着いた
  • 13. ベンゾジアゼピンがないと生きられない状態になっていることに愕然とし、自分がどこにもいなくなったように感じた
  • 14. 少し減薬しただけでも離脱症状が起きるため、水溶液タイトレーションという方法で少しずつベンゾジアゼピンを抜きながら自分を取り戻す決意をし、まずは1g(100%)から0.1g(90%)を抜いてみた
  • 15. 10%抜いた分の離脱症状にしばらくの期間耐え、自分の生命力を取り戻し、ある程度楽になるまで地獄の苦しみを我慢
  • 16. 少し離脱症状が落ち着いてから次の減薬に入る。前回と同じ0.1g(10%)ではキツすぎたから0.05g(5%)抜いてみた
  • 17. それでも地獄の苦しみを味わいつづけ、毎日限界で耐えられなかったが、なんとか根性で乗り越えた

精神科医療と精神薬処方

 KPTMは、そもそものメンタル・ヘルスの問題の診断や、薬の処方にまつわる難しさも指摘する。「メンタルのことってお医者さんも患者の言葉を通してしか症状が把握できないので、どの症状をこちらが言うかによって病名や処方される薬が変わってくる場合がある。患者本人が認識していない部分は分かりようがないので、処方の精度というのはその程度なんじゃないかと思うんですよね。私もいろんなお医者さんに診てもらいましたけど、結局、聞かれた質問に答えるから、違うことを聞かれたら他の医者に言ったことと違う答えになるじゃないですか。それで診断が決まっちゃうから『テキトー!!』って思いましたよね。何を引き出す先生かによって、処方される薬も変わる場合がある。『こういう症状の人にはこういう薬』っていうのがあらかじめ決まっているんだと思うから、ある程度目星をつけて、そのパターンに沿うように誘導尋問していくみたいなところもあるのではないか、と。多くの医者の診断って、前例のみに頼っていると思うんですよ。いまここにいる目の前の患者の症状ではなくて、過去を向いているんですよね。そういう意味では、患者だけが最先端を知っている」

 原疾患の診断ですらも難しさが伴うのだから、処方薬の効果や副作用を測ることはさらに輪をかけて難しくなる。薬からの離脱症状は原疾患を増幅させるので、薬を増やすことに繋がりがちになり、そのせいで薬が不調の原因になっている場合でもそれに気づきにくい。「BZDは原疾患を『ないこと』にしてしまう薬だと感じます。ないことにすると、やっぱり怒るんですよ、体が。人間って無視されたら傷つくのと同じで、人間の体の中もそうだと思います。自分の中からの叫びをないことにすると、めちゃめちゃ傷つくし怒るんですよ。(体からの)メッセージですから」

『私に起きたこと④』

  • 18. 抜けば抜くほど耐性がつくのに時間がかかり、少しの減薬でも耐えられないレベルの離脱症状が出るため、0.01g(1%)の極少量ずつ抜く方法にした
  • 19. 2年半の間、減薬しては離脱症状を耐え、また減薬しては離脱症状に耐えるという、先の見えない苦行を繰りかえし、残り50%にまで減らしたが離脱症状がひどくなるばかりで、これ以上減らすことができず身動きがとれずどうしていいかわからなくなった
  • 20. どん詰まりのある時、衝撃的な覚醒体験をして、狂気の世界に突入した
  • 21. 狂っていた私は無敵モードになり、これまで少しずつの減薬を頑張っていたのに、一気に30%も抜いてしまった
  • 22. 当然のごとくものすごい離脱症状が私を襲った。この世界の全てが恐怖に感じ、どんどん魔境へおちいり、異常な神経の痛みで何もかも全てが耐えられない極限状態になった
  • 23. 自我が崩壊し、3次元を認識できなくなり、目もろくに見えず、言葉を失い、痛み以外の全ての感覚がなくなってしまった。身体の中は火傷が剥き出しているような強烈な炎症状態で、家族とも誰とも地球の全てとコミュニケーションをとることができなくなり、まるで冥王星へぶっ飛ばされたような異常世界を1年間彷徨いつづけた

薬物中毒と薬物依存の違い

 薬物中毒と薬物依存の違い薬物依存に関しては、あまり縁のない人にとっては中毒との違いすら分かりにくいかもしれない。中毒となって止められない状態と、依存によって止められない状態は何が違うのだろうか。「普通の薬物中毒の場合は、成分が体から抜けて、いわゆるデトックスができたら終われると思うんですよ。シャブにしても、時間はかかるかもしれないけど、体の中から成分が抜けて、2度と同じものに手を出さなければ離脱症状から解放されるはず。でも、BZDの場合は神経そのものを傷つけてしまってそれが障害を起こすから、早く抜こうとするとよけい大変なことになってしまう。傷が治らないことには、薬だけ抜いても治らないので、傷を治しながら徐々に抜いていかないといけないんです。だから、意思とか気合いの問題ではないんです。我慢できないから飲むというのは精神的薬物依存ですが、飲まないと体がおかしくなってしまう、機能しなくなってしまう状態、要するに離脱症状が出るのが身体的薬物依存です。『(意思が)弱いから薬を飲んでしまう』という精神的依存ではない」と強調する。

周囲に理解者がいることの重要性

 「自分でネットでいろいろ調べて、最初に『アシュトン・マニュアル』(イギリスの精神薬理学者であるヘザー・アシュトン氏がBZDの作用や離脱症状、及びその治療メソッドをまとめた、1999年に発表されたマニュアル)を見つけた時に、『これは誰にも信じてもらえないんじゃないか』って思いましたね。私も基本的にはネットの情報はあまり信用しないようにしているんで、私自身も半信半疑で見ていたら、見事に自分の症状とビンゴで全て当てはまってしまって。でも、やっぱりネットって色んな人が色んな主張をしているから、『薬のせいにして逃げている』みたいな考えもけっこうあるし、これは絶対に親に分かってもらえないからどうしようか、と思いましたね。私は自分で調べた資料をまとめて、親にメモをいっぱい書くなどして伝えたんです。ベンゾの離脱症状だということに理解を示してくれた両親が、『協力するから微量減薬をがんばろう』って言ってくれて、それが一つの大きな安心になりましたよね。そこで分かってもらえなかったら、ずっと大変だったと思います」

 次のステップは、実際に断薬をするために薬を減らしていくことだったが、これが途方もないプロセスだった。意志が弱いから薬を飲んでいたわけではないのと同様に、身体的な薬への依存には、どんなに強い意志を持っていても逆らえない。「急に減らしたり抜いたりすると大変なことになるので、薬を水に溶かして、その水の量を1%ずつ減らして抜いていくという方法を父がネットで発見してくれました。『ワイパックス』の断薬に成功した方の個人ブログがあって、それを参考にしました。そのブログを参考にしている人は多いと思います。その方は、BZD問題を啓蒙する活動をされています。『アシュトン・マニュアル』には、離脱症状の原理みたいな部分は説明されて自分に何が起きているかについては理解できるんですが、具体的にどう抜いていくかという説明は不十分というか、人によってかなり差があるので」

 とにかく、離脱症状を訴えてもお医者さんには信じてもらえず、回復するために参考になるものは『アシュトン・マニュアル』しかなかったという。「両親は、2018年にできた『全国ベンゾジアゼピン薬害連絡協議会』という組織のメーリングリストには入っていたみたいです。私は自分自身にも疑いを持っていたというか、本当は違う理由なのに、『薬のせいにして逃げていないか、自分?』ていう自問自答を繰り返していました。だから、特に外部の組織などに相談を持ちかけることはなく、まず抜いてみてどうなるかを自分で実験してみよう、というところから始めました。減薬を始めた最初の半年くらいは、XX月XX日、これだけ抜いたらXX時にすごい耳鳴りがきた、みたいな記録をノートにびっしり書いたりしていたんですけど、嫌な症状ばかりだから、自分で自分にその記憶を植え付けているような気がしてきて、『これ良くないかも』と思って止めました。でも、記録して研究することで、自分でも私に起きてる体調不良は薬のせいだ、っていう確信を得たかったところもありますね。医者が頼れなかったから、自分で実験してみるしかなくて。バカなものも含め、色んな実験を自分でしてみた。もうトライしてみるしかなくて。『この状況を逆利用してやるわ!』って腹をくくったんです」

こうして、KPTMとBZDの長く壮絶な戦いと、そのための様々な実験が始まった。

『私に起きたこと⑤』

  • 24. あり得ない状態を根性で我慢し、耐え続けて1年後、言葉が少しずつ戻り、それと同時にこの世界を認識できるようになり、人としての自分が戻りはじめてきた。気がついたら身体の中には、激痛を走らせる巨大ムカデが生まれていた。
  • 25. ある日鍼灸師のP先生と出会い、田舎にあるP先生の鍼灸院へ住ませてもらうことになった。自分の意志も感情もわからなくなり、焦燥感と痛みでギリギリの状態の中、身体が勝手に動くことにただ従う日々を送った。
    畑仕事をしたり料理や家事をしたり、自分が何をしているのかわからない狂った状態のまま時間がすぎた
  • 26. 6ヶ月後、ギリギリ状態でもこの時点でまだ残り20%のベンゾジアゼピンを飲みつづけていることに絶望を感じ、強烈な離脱症状の地獄はわかっていたが、薬を抜かないことには自分が戻らないと思って、ある日勇気を持って思い切って完全断薬を決行した
  • 27. やはり地獄の離脱症状はとてつもなかったが、魔境の中で死に引っ張られ続け、強烈な痛みに唸りながらも自分の生命力を信じてなんとか生き続けた
  • 28. 離脱症状に耐え続け、1年後くらいから少しずつ家族のこと、友だちのこと、音楽や自然を感じられるようになってきた。自分がKLEPTOMANIACで絵と音楽をやる人だという本来の自分を思い出してきた
  • 29. 現在、まだまだ続く激しい離脱症状に耐えつづけ、自分の中のベンゾに破壊されたGABA(生命力)を再生しながら、ムカデと共に共存して生き抜くことを決意し、毎日を乗り越えている。歩くのも動くのも困難で、痙攣がたびたび起きる状態の中生き続けていられるのは、長い間応援して協力してくれて助けてくれる家族や友だちの存在のおかげ。遠くで応援してくれるみんなのおかげ。
    本当にありがとう!

■国産エクスペリメンタリズムの臨界 EL NINO がasiaに帰還!KLEPTOMANIACも出演を果たします!
https://clubasia.jp/events/4383

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