「iLL」と一致するもの

Carl Michael Von Hausswolff - ele-king

 この『Addressing The Fallen Angel』は、スウェーデンのストックホルムを拠点とするヴェテラン・サウンド・アーティストにして、アート・キュレイターとしても著名なカール・ミカエル・フォン・ハウスウォルフ(1956年生まれ)が、2019年にリリースしたアルバムである。
 「CM von Hausswolff」名義でも知られる彼は80年代から活動を開始し、あの〈sub rosa〉、〈touch〉、〈raster-noton〉、〈iDEAL〉などの錚々たるレーベルからアルバムを発表してきた才人。本作『Addressing The Fallen Angel』はトミ・グロンルンドと故ミカ・ヴァイニオ主宰によるテクノイズ・レーベルの老舗〈Sähkö〉からリリースされた作品だ。
 くわえてカール・ミカエル・フォン・ハウスウォルフは音源作品のみならず、インスタレーション作品も制作し、「ドクメンタ」や「サンタ・フェ・ビエンナーレ」などの国際美術展などに参加している。『Addressing The Fallen Angel』もまたブルックリン「ピエロギ・ギャラリー」、メキシコ「ルフィーノ・タマヨ博物館」、ドイツ「カールスルーエ・アート・アンド・メディア・センター」で展示されたインスタレーション作品の音源化という。

 ハウスウォルフは、「電気および嗅覚などの刺激から、音響に加えて光などを組み合わせることで、観客の感覚を変化させる作品」を制作してきた。ゆえにこの種のエクスペリメンタルな音楽作品の中でも音楽から限りなく離れた音響作品となっている。いわば音の彫刻であり、音響によるアブストラクト・アートである。
 もちろん本作『Addressing The Fallen Angel』もまた極度に削ぎ落された痩せたドローンが持続するサウンドとなっている。テープが経年劣化で変化を遂げていったような音響は、ほかのドローン作家の作品にはないマテリアルな幽玄性とでもいうべきムードを放っている。音の肌理と変化に聴き入っていると、覚醒と陶酔の「はざま」の状態へと導かれていくかのようになる。
 本アルバムにもそのような硬派なサウンドオブジェが2曲収録されている。18分19秒におよぶ1曲め “Addressing The Fallen Angel (part one)” は、ドローン(持続音)に加えてテキストのリーディングが重ねられている。15分4秒ほどの2曲め “Addressing The Fallen Angel (part two)” は、機械的な持続音が次第にノイジーな響きへと変化するトラックだ。2曲それぞれドローンの向こうにラジオのノイズのようなサウンドが微細に重ねられたり、音量を微細に変化させたりするなど、シンプルながら効果的な手法を駆使している。近年の作品ではマニアの評価の高い『Squared』(2015/〈Auf Abwegen〉)や『Still Life - Requiem』(2017/〈Touch〉)に匹敵するテクノイズ/音響作品の傑作といえよう。
 これらのアルバムも含めてハウスウォルフの音響作品は、「無常/無情の世界」というか、「人間以降の荒野」というか、「ヒトのいない世界」というか、とにかく無機質な叙情が漂っている。なかでもテクノイズの総本山(?)〈Sähkö〉からのリリース作である本作『Addressing The Fallen Angel』は、非人間的な世界を感じさせてくれるようなミニマルかつハードコアな音響空間を構築していた。ドローンとノイズ、マシンとヒト、無常と無情の世界。
 その結果、ハウスウォルフのサウンドは、「聴いたはずなのに聴き終わった感覚が希薄」な音響の持続になっているように思えるのだ。何回聴いても聴き終えた感覚が希薄なドローン音響。もしくは音響の記憶喪失。そう、ドローンが永遠に続く感覚とでもいうべきか。だからこそ “Addressing The Fallen Angel (part one)” における「声」の存在が、より際立ってもくる。まるで人間とマシンの対比のように。

 ちなみに2019年のハウスウォルフは、コラボレーションも旺盛だった。ジム・オルークとのアルバム『In, Demons, In!』(〈iDEAL〉)、シガー・ロスのヴォーカル・ギタリストであるヨンシーとのユニット Dark Morph 『Dark Morph』(自主レーベル)などをリリースした。これらのコラボレーションでも彼の「無常/無情の音響世界」が見事に作用している。本作『Addressing The Fallen Angel』と共にぜひとも聴いて頂きたい逸品だ。

Jeff Parker - ele-king

 前作『The New Breed』の成功でもはやトータスのメンバーとして以上に、むしろソロ・アーティストとして牢固たる地位を確立した感のあるジャズ・ギタリスト、ジェフ・パーカー。その新作が出るというのだから見逃せない。『The New Breed』がジェフの父へのトリビュート作だったのにたいし、今回のタイトルは『Suite for Max Brown』で、彼の母に捧げる作品となっている。日本での発売は1月29日。原盤はマカヤ・マクレイヴンなどで知られる〈International Anthem〉と〈Nonesuch〉の共同リリースとなっており、そのマカヤ・マクレイヴンや盟友ロブ・マズレクらが参加している。収録曲にはコルトレーンやジョー・ヘンダーソンのカヴァーも含まれているようで、もうとにかく楽しみだ。
 なおジェフは、2月9日から11日にかけ、トータスの一員として来日することが決まっている。そちらの情報はこちらから。

Jeff Parker & The New Breed “Suite for Max Brown”
ジェフ・パーカー『スイート・フォー・マックス・ブラウン』

フォーマット:CD
商品番号:IARC-J029 / HEADZ 244 (原盤番号:IARC0029)
価格:¥2,100+税
発売日:2020.1.29 ※オリジナル(US)盤発売日:2019.1.24
原盤レーベル:International Anthem Recording Co. / Nonesuch Records Inc.
バーコード:4582561391378

01. Build a Nest (feat. Ruby Parker) 2:13
 ビルト・ア・ネスト(フィーチャリング・ルビー・パーカー)
02. C'mon Now 0:25
 カモン・ナウ
03. Fusion Swirl 5:32
 フュージョン・スワール
04. After the Rain 4:45
 アフター・ザ・レイン
05. Metamorphoses 1:48
 メタモルフォーゼズ
06. Gnarciss 2:12
 ナールシス
07. Lydian Etc 0:55
 リディアン・エトセトラ
08. Del Rio 1:38
 デル・リオ
09. 3 for L 4:47
 スリー・フォー・L
10. Go Away 4:58
 ゴー・アウェイ
11. Max Brown 10:36
 マックス・ブラウン
12. Blackman 2:56
 ブラックマン

Total Time 42:50
       
※ track 12 … 日本盤のみのボーナス・トラック(from 7" phonograph flexi disc:IARC0021)

All songs composed by Jeff Parker (umjabuglafeesh music, BMI);
except “After The Rain” by John Coltrane, and “Gnarciss” which contains elements of “Black Narcissus” by Joe Henderson.

“C’mon Now” features samples from the Otis Redding recording “The Happy Song (Dum-Dum).” Produced under license from Atlantic Recording Corp. By Arrangement with Rhino Entertainment Company, a Warner Music Group Company.

All arrangements by Jeff Parker.

Engineered and edited by Jeff Parker at Headlands Center For The Arts, Sausalito, California and at home in Altadena, California.
Engineered, edited and mixed by Paul Bryan in Pacific Palisades, California.
Mastered by Dave Cooley at Elysian Masters, Los Angeles, California.

Produced by Paul Bryan and Jeff Parker.

“Build a Nest (feat. Ruby Parker)”
Jeff Parker - drums, vocals, piano, electric guitar, Korg MS20
Ruby Parker - vocals

“C’mon Now”
Jeff Parker - sampling, editing

“Fusion Swirl”
Jeff Parker - electric guitar, bass guitar, samplers, percussion, vocals

“After the Rain”
Paul Bryan - bass guitar
Josh Johnson - electric piano
Jeff Parker - electric guitar and percussion
Jamire Williams - drums

“Metamorphoses”
Jeff Parker - glockenspiel, sequencer, sampler, MS20

“Gnarciss”
Paul Bryan - bass guitar
Josh Johnson - alto saxophone
Katinka Kleijn - cello
Rob Mazurek - piccolo trumpet
Makaya McCraven - drums and sampler
Jeff Parker - electric guitar, JP-08, sampler, midi strings

“Lydian, Etc”
Paul Bryan - bass guitar
Jeff Parker - electric guitar, pandeiro, midi programming, etc.

“Del Rio”
Paul Bryan - bass guitar
Jeff Parker - electric guitar, mbira, sampler, Korg MS20, drums, electric piano

“3 for L”
Jay Bellerose - drums and percussion
Jeff Parker - electric guitar, Korg MS20

“Go Away”
Paul Bryan - bass guitar and vocals
Makaya McCraven - drums
Jeff Parker - electric guitar, vocals and sampler

“Max Brown”
Paul Bryan - bass guitar
Josh Johnson - alto saxophone
Jeff Parker - guitar, Korg MS20, JP-08
Nate Walcott - trumpet
Jamire Williams - drums

“Blackman”
Produced, Performed & Recorded by Jeff Parker.
Vocals by Ruby Parker.
Mixed by Paul Bryan.
Mastered by David Allen.

Graduated studies of sampling, cycles & soulful jazz harmonics mix Monkian miniatures into a fusion-swirled dedication.

2020年2月に1998年の名盤『TNT』の完全再現公演で来日するポストロックの代表バンド、トータスのメンバーであり、平行してジャズ・ギタリストとしても活躍するジェフ・パーカーの名盤の誉れ高き、2016年のリーダー作『The New Breed』(NPR、Observer、New York Times、Los Angeles Times、Jazz Standard、Bandcamp 等にて、2016年の年間ベストに選出。日本盤は2017年リリース)に続く、新作アルバム『Suite for Max Brown』が遂に完成。

ジェフと並ぶ看板アーティストでもあるドラマーのマカヤ・マクレイヴンのリーダー作等で近年日本でも注目されているシカゴの新興ジャズ・レーベル、〈International Anthem〉とあの〈Nonesuch Records〉との共同リリースの第一弾アルバム(第一弾は2019年12月2日にリリースされたジェフのアルバムの先行シングル「Max Brown - Part 1」)となる本作は、『The New Breed』の姉妹作(『The New Breed』はジェフの亡き父親に捧げられたアルバムで、アルバムのアートワークにもフィーチャーされていたが、本作はジェフの母親の19歳の頃の写真がジャケットにフィーチャーされている。まだご存命の母親へ捧げられたアルバムで、アルバム・タイトルも母親の旧姓に因んでいる。)ともいえる作品で、前作同様にジェフがマルチ・インストゥルメンタリストやビートメーカーとして一人で制作した楽曲と The New Breed というグループ名でライブ活動をするまでに発展した前作のレコーディング・メンバーが再び集結して制作された楽曲が違和感なく収録されている。

『The New Breed』と同様プロデュースはジェフ自身と、エイミー・マン、アラン・トゥーサン、ノラ・ジョーンズの作品等で有名なポール・ブライアン(2018年のグラミーでエイミー・マンの2017年のアルバム『Mental Illness』のプロデューサーとして「Best Folk Record」を受賞)が担当(ミックスも担当し、ベースでも参加。ミシェル・ンデゲオチェロやルーファス・ウェインライトのライブにも参加するなどプレイヤーとしても活躍している)。

エスペランサ・スポルディングやミゲル・アトウッド・ファーガソン、カルロス・ニーニョ、キーファー、リオン・ブリッジズとも共演してきたサックス奏者のジョシュ・ジョンソン、ロバート・グラスパー・トリオのメンバーで、先鋭的ジャズ・コレクティヴ、エリマージを率いる新世代ドラマー、ジャマイア・ウィリアムス(モーゼス・サムニーの2017年作『Aromanticism』にはドラマーとして、ソランジュの2019年作『When I Get Home』にはプロデューサーの一人として参加している)が脇を固めている。本作には更に二人のドラマーが参加しており、一人はレーベルメイトで何度も共演していて、日本でも人気上昇中のマカヤ・マクレイヴン(『The New Breed』の日本盤のボーナス・トラックとして収録されたリミックスも担当)、もう一人は『The New Breed』にも参加していたジェイ・ベルローズ(ポール・ブライアン関連作のみならず、ポーラ・コールの作品を中心に、エルトン・ジョン、ロバート・プラントとアリソン・クラウスのグラミー受賞作『Raising Sand』他、ジャンルに関係なく活躍)。

シカゴ・アンダーグラウンド・オーケストラ以降、何度も共演を重ねてきた盟友ロブ・マズレクがピッコロ・トランペット、ブライト・アイズ(コナー・オバーストのソロ作も)やエンジェル・オルセンの2019年作『All Mirrors』にも参加しているネイト・ウォルコットがトランペットで参加している。

また、ジェフのバークリー音楽院時代の同級生で、現在は Chicago Symphony Orchestra に在籍しているチェリスト、Katinka Klejin (2019年末来日したラリー・ウォーカーと共演作をリリースしている)も参加している。

アルバムの冒頭を飾る “Build a Nest” には、前作収録の “Cliche” に引き続き Chicago High School of the Arts の学生でもある17歳のジェフの愛娘、ルビー・パーカーのヴォーカルをフィーチャーしている。

ジェフのオリジナル楽曲とともに、ジョン・コルトレーンの1963年作『インプレッションズ』収録の “After the Rain” のカヴァー、ジョー・ヘンダーソンの “ブラック・ナルシサス” をジェフ流に解釈した “Gnarciss” を収録している。

マスタリングも前作同様、J・ディラ『Donuts』を手掛けたデイヴ・クーリーが担当している。

ヒップホップにインスパイアされた現在進行形のサウンドと、古き良きジャスがバランスよくブレンドされた、ジェフのミュージシャンやコンポーザーとしての懐の深さを感じさせる、『The New Breed』を更新・進化させた正にマスターピース。

日本盤には2018年5月21日に7インチのソノシートのみでフィジカル・リリースされた、Madlib とのコラボでも知られるジョージア・アン・マルドロウ(〈ストーンズ・スロウ〉初の女性アーティストとしてデビューし、現在は〈ブレインフィーダー〉所属)の “Blackman” (1st フル・アルバム『Olesi: Fragments of an Earth』収録曲)のカヴァー曲をボーナス・トラックとして収録(アルバム用にリマスタリングされている)。

ライナーノーツは、Jazz The New Chapter の柳樂光隆が担当。
日本盤のみ歌詞・対訳付。

Banter × Thomas Fehlmann - ele-king

 大ヴェテラン、トーマス・フェルマンが2月15日に来日する。会場は表参道の VENT。今回のパーティは、Moss と SITH のふたりから成るオーディオ・ヴィジュアル・ユニット Banter による初の作品「THER」のリリース・パーティとして企画されたもので、同作にフェルマンがリミキサーとして参加したことがきっかけになった模様。目も耳も思うぞんぶん楽しめる一夜になりそうだ。

リビング・レジェンド、Thomas Fehlmann が Banter 初作品のリリースパーティーに登場

デトロイト~ベルリンの架け橋としてベルリンのテクノ・シーンの礎を築き上げ、The Orb の長年のコラボ・メンバーとしても活躍してきたリビング・レジェンド、Thomas Fehlmann (トーマス・フェルマン)。Banter の初のリリース作品にリミキサーとして起用された Thomas Fehlmann と共に、リリース・パーティーを2月15日に開催!

Thomas Fehlmann は、79年に Holger Hiller や Moritz Von Oswald と共に伝説のニューウェイヴ・バンド Palais Schaumburg を結成。バンド解散後、ソロ活動を開始してからは、盟友 Moritz Von Oswald とのプロジェクト 2MB、3MB でデトロイト・テクノのオリジネーター Blake Baxter や Eddie Fowlkes や Juan Atkins と邂逅、デトロイトとベルリンの架け橋としてベルリンのテクノ・シーンの礎を築いた人物と言って過言ではないだろう。その後、The Orb の長年のコラボレーション・メンバーとして積極的にリリースに関わる。ソロ作品は〈R&S〉や〈Tresor〉、〈KOMPAKT〉などの名門レーベルからリリースし、多くの映像作品用にも楽曲を提供してきた。

今回のパーティーを仕掛ける Banter は、サウンド・プロデューサーの Moss と VJ の SITH aka So In The House が2017年に結成したミニマルでアシッドなオーディオ・ビジュアル・ユニットだ。Moss が生み出す緻密なサウンドに SITH がビジュアルをシンクロさせ、オーディエンスの聴覚と視覚を揺れ動かしてきた。Banter 初のリリース作品「THER」がこの度リリースされることになり、リミキサーとして Thomas Fehlmann が起用されている。

静逸なアンビエントからミニマル&テクノまでを自在に操り、ドイツのクラブ・シーンに非常に大きな貢献を残した Thomas Fehlmann と、日本発のアップカミングな才能である Banter が、共に創り出した作品のリリースパーティーで相見える一夜は注目に値するだろう!

[イベント概要]
- Thomas Fehlmann at Banter Vol. 7 -
DATE : 02/15 (SAT)
OPEN : 23:00
DOOR : ¥3,600 / FB discount : ¥3,100
ADVANCED TICKET : ¥2,750
https://jp.residentadvisor.net/events/1373267

=ROOM1=
Thomas Fehlmann (Kompakt, DE)
Banter - Audio & Visual Live Set (Moss / Sith)
RAHA (Beat In Me)
SAYA SATURN (Banter)
VJ DRAKHMA

=ROOM2=
BLACK NICO (L...deep)
erica
STONEVIBES
MAL

※ VENTでは、20歳未満の方や、写真付身分証明書をお持ちでない方のご入場はお断りさせて頂いております。ご来場の際は、必ず写真付身分証明書をお持ち下さいます様、宜しくお願い致します。尚、サンダル類でのご入場はお断りさせていただきます。予めご了承下さい。
※ Must be 20 or over with Photo ID to enter. Also, sandals are not accepted in any case. Thank you for your cooperation.

Thundercat - ele-king

 前作『Drunk』でも大成功を収めたベーシスト、サンダーキャットが3年ぶりとなるニュー・アルバムを〈Brainfeeder〉よりリリースする。フライング・ロータスとの共同プロデュースで、さらに信じられないくらい豪華なゲストたちが大勢参加している。現在スティーヴ・レイシーとスティーヴ・アーリントンを迎えた新曲 “Black Qualls” が公開中なので、まずはそちらをチェック。

[2月18日追記]
 4月に来日公演も決定しているサンダーキャットが、待望の新作より新たに “Dragonball Durag” を公開。曲名どおり、『ドラゴンボール』からインスパイアされた曲である。「俺にはドラゴンボールのタトゥーがある……ドラゴンボールは全てをつかさどるんだ。ドラゴンボールは人生だ、という格言もあるんだぜ」とのこと。プロデュースは本人とフライロー、演奏にはカマシも参加。なお、来日公演のチケットの一般発売はいよいよ今週末22日から。こちらをチェック。

[2月28日追記]
 くだんの “Dragonball Durag” のMVが公開されました。サンダーキャットのコメントと、歌詞の一部も翻訳されています。

この世界には2種類の人間がいる。ドゥーラグをしている奴と、ドゥーラグが何か知らない奴だ。ドゥーラグにはスーパーパワーがあるのさ。スワッグ(イケてる度)を上げるためのな……ドゥーラグには効果があるんだ、自分を変えてくれるっていう効果が。クローゼットに一つあれば、今夜していこうかと考える。でも何が起こるか分からないからドゥーラグがはずれちまうことだってあるかもしれないぜ。 ──Thundercat

俺のビデオゲームとか漫画とか、別に好きにならなくていいよ/ベイビー・ガール、俺のドゥーラグ似合ってるかな?/うまく結べてる?/そのドレス、俺だけのために着てくれたの?/なぜなら俺はそのドレスを引きちぎろうとしてるから/ベイビー・ガール、俺は自分のドゥーラグにブチ込むよ/それしかないから ──“Dragonball Durag” の歌詞より

[3月18日追記]
 まもなくリリースを控えるニュー・アルバムより、新たに新曲 “Fair Chance” が公開されました。タイ・ダラー・サイン、リル・Bが参加。国内盤CDの特典も決定していますので、下記をチェック。

4月3日リリースの最新作『It Is What It Is』より、
タイ・ダラー・サイン、リル・B参加の新曲 “Fair Chance” を公開!
国内盤CD各種購入特典も決定!

唯一無二のキャラクターで多くの音楽ファンを虜にし、アーティストやセレブリティーからも熱い視線を集めるアーティスト、サンダーキャット。LAの人気姉妹バンド、ハイム、R&Bシンガーのカリ・ウチス、コメディアンのクインタ・ブランソンが出演した “Dragonball Durag” (ドラゴンボール・ドゥーラグ)のミュージックビデオの公開も話題となった彼が、4月3日発売の最新作『It Is What It Is』より新曲 “Fair Chance (feat. Ty Dolla $ign & Lil B)” を公開!

Thundercat - Fair Chance (feat. Ty Dolla $ign & Lil B)
https://www.youtube.com/watch?v=IoFOXgIme9M

楽曲にはファンク・バンドのメンバーとして活動していた父と、アイズレー・ブラザーズのメンバーとして活躍する叔父を持つという、サンダーキャット同様に音楽一家で生まれ育った人気シンガー/プロデューサーのタイ・ダラー・サインと、いち早くアンビエントやニュー・エイジを取り入れたノン・ビートのプロダクションでラップをするなど、アヴァンギャルドな作風で注目を集めるラッパー、リル・Bが参加している。

これはマックについての曲なんだ……。彼が逝った時、周りのアーティスト達はみんなショックに陥った。タイはタフな奴だよ、彼が曲を聴いた時、それがどうあるべきか既にわかっていた。俺は彼がレコーディングしているときに一緒に居たんだ。俺たちはそのことについて話し合ったし、彼は自分自身が正しいと感じたことをやって、俺もそれを気に入ったんだ。 ──Thundercat

THUNDERCAT
『Drunk』より3年、サンダーキャット待望の最新作『It Is What It Is』が遂に完成!

フライング・ロータスとサンダーキャットが共同プロデュースした本作に、超豪華アーティストが再び集結!

チャイルディッシュ・ガンビーノ|スティーヴ・レイシー|スティーヴ・アーリントン|カマシ・ワシントン|リル・B|タイ・ダラー・サイン|バッドバッドノットグッド|ルイス・コール|ザック・フォックス

伝説のファンク・バンド、スレイヴのスティーヴ・アーリントンと、若き天才プロデューサー、スティーヴ・レイシーが参加した新曲 “Black Qualls” を公開!

国内盤にはマイケル・マクドナルド参加のボーナストラックを追加収録!
Tシャツ・セットの発売も決定!

サンダーキャットが待望の新作をひっさげて帰ってきた! その年を代表する傑作として名高い2017年の『Drunk』で、超絶技巧のベーシストから正真正銘の世界的アーティストへと飛躍を遂げた以降も、フライング・ロータスの『Flamagra』やトラヴィス・スコットの『Astroworld』、故マック・ミラーの『Swimming』への参加、ここ日本でもフジロック、サマーソニックへの出演や、渡辺信一郎が監督を務めたアニメ『キャロル&チューズデイ』への楽曲提供、さらにフライング・ロータス来日公演に飛び入りで参加するなど、常に注目を集めてきたサンダーキャットが、遂に待望の最新作『It Is What It Is』を4月3日(金)にリリースすることを発表! あわせて、新曲 “Black Qualls (feat. Steve Lacy & Steve Arrington)” を公開した。

Black Qualls (feat. Steve Lacy & Steve Arrington)
https://thundercat.lnk.to/it-is-what-it-is/youtube

ザ・インターネットの中心メンバーで、ソロ・デビュー作がグラミー賞ノミネートを果たしたスティーヴ・レイシーと、伝説のファンク・バンド、スレイヴのヴォーカル、スティーヴ・アーリントンが参加した本楽曲は、自身の持つ音楽の血統に焦点をあて、インスピレーションの源となったミュージシャンたちに敬意を表したいという、サンダーキャットの思いを具現化した楽曲となった。アーリントンが十代の終わりに作った作品を発見し、たちまち夢中になったサンダーキャットは「ベースのトーンや、彼の感じ方、動き、それがおれの全身に響き渡ったんだ」と語る。また楽曲誕生のきっかけはスティーヴ・レイシーとのセッションだったと明かし、レイシーを「オハイオ・プレイヤーズが一人の肉体に宿った化身。心底ファンキーなヤツだね」と評している。

盟友フライング・ロータスとサンダーキャット自身による共同プロデュースで完成した最新作『It Is What It Is』には、スティーヴ・レイシーとスティーヴ・アーリントンの他にも、チャイルディッシュ・ガンビーノ、カマシ・ワシントン、リル・B、タイ・ダラー・サイン、バッドバッドノットグッド、ルイス・コール、ザック・フォックスら、超豪華アーティストが勢揃い! 国内盤には前作の大ヒット・シングル「Show You The Way」でも共演したマイケル・マクドナルド参加のボーナストラックも追加収録決定!

このアルバムで表現しているのは、愛、喪失、人生、それに伴う浮き沈みだ。 皮肉っぽいところもあるけど、誰だって人生のさまざまな時点で、必ずしも理解できるとは限らない出来事に遭遇する…… そもそも理解されることを意図していないこともあるしね。 ──Thundercat

待望の最新作『It Is What It Is』は4月3日(金)に世界同時リリース! 国内盤CDにはボーナストラック “Bye For Now (feat. Michael McDonald)” が収録され、歌詞対訳と解説書が封入される。また数量限定でTシャツ付きセットも発売決定。アナログ盤は、レッド・ヴァイナル仕様、クリーム・ヴァイナル仕様、特殊パッケージ入りクリア・ヴァイナル仕様、特殊パッケージ入りピクチャーディスク仕様の4種類が発売される。

label: BEAT RECORDS / BRAINFEEDER
artist: Thundercat
title: It Is What It Is
release date: 2020/04/03 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-631 ¥2,200+税
国内盤特典:ボーナストラック追加収録/解説書・歌詞対訳封入

Tシャツ付きセットも発売決定!
詳細は後日!

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10772

TRACKLISTING
01. Lost In Space / Great Scott / 22-26
02. Innerstellar Love
03. I Love Louis Cole (feat. Louis Cole)
04. Black Qualls (feat. Steve Lacy, Steve Arrington, & Childish Gambino)
05. Miguel's Happy Dance
06. How Sway
07. Funny Thing
08. Overseas (feat. Zack Fox)
09. Dragonball Durag
10. How I Feel
11. King Of The Hill
12. Unrequited Love
13. Fair Chance (feat. Ty Dolla $ign & Lil B)
14. Existential Dread
15. It Is What It Is
16. Bye For Now (feat. Michael McDonald) *Japanese Bonus Track

Stormzy - ele-king

 Stormzy の『Gang, Signs & Prayers』以来の2年ぶりのニュー・アルバム『Heavy Is The Head』が届けられた。前作リリース時には Spotify とのパートナーシップで、アルバム・カヴァーが街中に貼られ、彼自身もTVトークショーに出演するなど、一般人にも広く存在が広まった。この2年でも “Vossi Bop” や Ed Sheeran への客演でヒットを飛ばしてきた。

 待望の本作のアルバム・カヴァーには、UKの有名音楽フェスティヴァル《Glastonbury Festival》のヘッドライナーを務めた際に着用していた Banksy 制作の防刃ジャケットを見つめる若きラップスターが映されている。防刃であることがイギリスの都市で問題となっているナイフ犯罪へのアンサーであるだけでなく、ブラックで描かれたユニオンジャックはイギリスにおける「黒人」のあり方を問いかけるなどさまざまな意味を含んでいる。国旗をモチーフにしたアルバム・カヴァーという意味では、昨年リリースされたUKラップの傑作 slowthai 『Nothing About Britain』を思い出させた。

 ブラス・サウンドで幕を明ける本作。1. “Big Michael”はこの2年で成し遂げた功績を紹介するような1曲で、フェスティヴァルのヘッドライナーとして出演したことや、出版社ペンギンブックスとのパートナーで自身の出版レーベルを立ち上げたことを曲で誇っている。UKドリルのトップ・アーティスト Headie One を迎えた 2. “Audacity” では、Stormzy のストレートなフローと直接的なリリックに対して、Headie One は有名人や歴史上の人物を比喩に取り上げながらリリカルに展開し、勢いに乗る Headie One が一本取ったようだ。

 3. “Crown” ではアルバム・タイトルの「Heavy is the Head」の意味が、世間からの期待や止むことのない批判や重圧へのオマージュであることが明かされる。特に抜粋したラインは Stormzy の「優等生」を期待する声や批判への応答である。

Heavy is the head that wears the crown
王冠を被っている頭が重いんだ……

They sayin’ I’m the voice of the young black youth,
And I say “Yeah Cool” then I bun my zoot And I’m...

あいつらは俺が「黒人の若者の声」だって
だから俺は「あぁ、いいね」って言った後にズートに火を付ける

I done a scholarship for the kids, they said it’s racist
That’s not anti-white, it’s pro-black

俺はキッズのために奨学金を作ったのに、
やつらはそれを人種差別だって言いやがる
これは「アンチ・ホワイト」じゃなくて、「プロ・ブラック」なんだ

“Crown”

 静かに意見を表明する曲は続く。4. “Rainfall” では、アメリカの警察の黒人に対する暴力事件として知られ、後の Black Lives Matter 運動のきっかけとなった射殺事件の被害者トレイボン・マーティンへ哀悼の意を示し、「鎖につながれない黒人がどうなったか」を示したと再提起している。自制的に淡々と意見を表明していくラップには、かえって「静かな怒り」を感じる。アルバム中盤は家族などの身の回りの人々へ送る曲が並び、コーラスワークや弦楽器使いが光っている。姉へのリスペクトや家族とのストーリーを歌った 5. “Rachel’s Little Brother” に続き、J Hus の Snapchat をイントロに用いた 6. “Handsome” も実の姉でDJの Rachael Anson へのリスペクトを送る1曲で、彼のラップスキルが光る。7. “Do Better” は元彼女の Maya Jama へ送るラヴソングにも聞こえる。

 インタールードを挟み、アルバム後半ではシンガーの H.E.R を迎えた 9. “One Second” で物怖じしない姿勢でメンタルヘルスの問題を取り上げたり、テレサ・メイ前首相への痛烈な批判を加えたりする。マンチェスター出身の MC Aitch を迎えた 10. “Pop Boy” ではトライバルなダンス・トラックに乗せて、「ポップスター」であるという批判にクレバーに応答し、Ed Sheeran と Burna Boy というスターを迎えた 11. “Own It” でそのヒットメイカーぶりをまざまざと証明する。終盤は再びハードなチューンが並ぶ。グライム・チューンとしてヒットとなっている 12. “Wiley Flow” では、Wiley と自分を重ねるようにして、むしろグライムの「生みの親」の Wiley を持ち上げる1曲だ。しかし、アルバム・リリース後に Wiley と Stormzy の間にビーフが勃発した後で、Stormzy はこの曲をどのように思っているのだろう。邪推だが、Wiley は 13. “Bronze” で Stormzy が自身を「King of Grime」と名乗ったのが許せなかったのかもしれない。

Wiley へのディス曲 “Still Disappointed”

 ビーフの内容は脇に置くとして、数字面だけを見れば Stormzy の人気は圧倒的だ。アルバムを締めるダーティなクラブ・チューン 16. “Vossi Bop” は公開10ヶ月で YouTube で7000万回以上に達している。淡々としているが単調にはならないラップは唯一無二のスキルである。音楽的にはトラップやグライムだけでなく、中盤のピアノと弦楽器を基調としたトラックもあり、ゴスペルの要素も彷彿とさせる。家族や友人、人種や政治といった問題に応える Stormzy の良いサウンドトラックになっている。本作は商業面での期待に応えながら、自分に向けられた批判に直接的に応答する形で問題を提起する。そのふたつのバランス感が彼らしい、ユニークな一作だ。

NYクラブ・ミュージックの新たな波動 - ele-king

 ホームNYのみならず、世界中のダンス・ミュージック・フリークから注目を集める野外レイヴ・パーティ「Sustain-Release」の国外初となるサテライト・イベント「S-R Meets Tokyo」がいよいよ今月25日(土)に開催される。「Sustain-Release」を主宰するDJ/プロデューサーの Aurora Halal をはじめ、前編・中編にわたって紹介してきた DJ Python や Beta Librae、Galcher Lustwerk ら“NYサウンドの新世代”が東京・渋谷「Contact」に一堂に会す。これだけは冒頭でちゃんと述べたいが、もし今のクラブ・シーンを見にNYへ行ったとしてもこれほど旬なラインナップのパーティなんてそうそう出合えない。それほど「S-R Meets Tokyo」は、スペシャルなのである。

 2014年にスタートしてから今では1000人限定の“特別なパーティ”となるまでに大成した「Sustain-Release」は、今年で開催7回目。参加者の友人1人まで招待できる完全招待制という崇高なシステムを導入していながらもチケットは毎度たった10分でソールドアウト、オンラインメディア「Resident Advisor」の月間「Top 10 Festivals」において4年連続で1位を獲得するほど、多くの人々がそのドリームチケットを羨むような新時代のレイヴだ。

©Raul Coto-Batres

 そんなビッグ・パーティを成功させた Aurora Halal は、毎週世界のどこかでプレイする人気DJとしてアメリカとヨーロッパで知られているものの日本ではまだまだミステリアスな存在。だからこそ、今のNYのダンス・ミュージック・シーンにおいてキーパーソンである彼女のバックグラウンドを紹介したい。


Aurora Halal のセルフレーベル〈Mutual Dreaming〉のEP「Liquiddity」。
収録された “Eternal Blue” には Wata Igarashi のリミックス・ヴァージョンも

 Aurora Halal がダンス・ミュージックに打ち込むようになったのは、まだ大学生だった2004年ごろのこと。地元ワシントンD.C.を拠点に00年代後半から活動するDJユニット Beautiful Swimmers の Andrew Field-Pickering がペンシルバニアにあるゲティスバークの森で開いていたハウス・パーティがきっかけだった。そこで流れる「Paradise Garage」のようなクラシックなディスコや、当時「Cybernetic Broadcasting System(CBS)」と呼ばれていたオランダの「Intergalactic FM(IFM)」のようなコズミック・ディスコ、 Newworldaquarium こと Jochem Peteri、Arthur Russell などのジャンルにとらわれないギークでおもしろいサウンド、そして何よりそのパーティでの体験が、のちに「Sustain-Release」となる前身のパーティ「Mutual Dreaming」へと発展させることに。
 大学を卒業してからブルックリンへ移り住んだ Aurora Halal は2010年、かつてイーストウィリアムズバーグにあったクラブハウスのような独特な雰囲気のスペース「Shea Stadium」でパーティをスタート。あえてクラブでなく、これまで一度もダンス・パーティが開催されたことのないようなスペースをその時々で選んでは、借りてきたスピーカーを持ち込んで、ブースを設置。さらに当初は、彼女が集めていた70年代のビデオアートがライティングの代わりに投影された。一から十までくまなく手がかけられた「Mutual Dreaming」は、「自分たちと同世代がやりたいことをやれるような場所が当時のNYには少なかった」と話す、Aurora Halal 自身が行きたいと思うパーティのカタチをDIYで組み立てていったのだ。


Mutual Dreaming 2011 Flyer

 そうやって手探りで始めたパーティはトライアンドエラーを繰り返しながらも、新しいスタイルを求めていたオーディエンスをはじめ、パーティに必要不可欠なサウンドシステムやライティングのチーム、Beautiful Swimmers や〈L.I.E.S. Records(以下、L.I.E.S.)〉のファウンダー Ron Morelli、Traxx、Steve Summers、DJ Sotofett を筆頭とするプレイヤーなど、さらなるレベルへと押し上げる多くの人々の協力を得ることでより新鮮で強いエネルギーを放つコミュニティへ成長。それは、ちょうど「Bossa Nova Civic Club」がオープンしたばかりで、〈L.I.E.S.〉や〈White Material〉などのレーベルが軌道に乗り始めたころと同時期だった。NYのファンジン『Love Injection』のインタヴューで当時のことを Aurora Halal はこう語る。「私のコンセプトは、自分が考えていることの可能性を実行し、リアルなパーティを作ることだった。〈L.I.E.S.〉や〈White Material〉などのアーティストは、それまでにあったNYのダンス・ミュージック・シーンの一部ではなかったし、その一部になりたいと望んでもいなかった。だから、ブルックリンに新しいタイプのカルチャーが生まれたの。それがこのシーンの始まりで、そのころの記憶にある強烈な新鮮味と情熱はいまだに忘れられない」。

©Raul Coto-Batres

 それから2年が過ぎた2014年。「森のなかで、もっと大きな『Mutual Dreaming』をやりたかった」と話す彼女は、ついに「Sustain-Release」を実行する。ここでもう一度言うならば、「Sustain-Release」は、いわゆるヨーロッパの花形“フェス”でなく、 Aurora Halal を初心にかえさせるゲティスバーグの森に強くインスパイアされた“レイヴ”だ。「Freerotation」というイギリスのフェスに何年も通っていた初期のチームメイト Zara Wladawsky と初めて会った2013年から一緒に空き地を探し始め、ようやく見つけたロケーションで、500人限定の最初の「Sustain-Release」をローンチ。2016年にはNY市から車で2時間ほどの場所にある現在のキャンプ場「Kennybrook」に開催地を移し、2017年には Zara Wladawsky から Ital や Relaxer などの名義で知られる Daniel Martin-McCormick が共同ディレクターへ。毎年、回を重ねるごとに少しずつマイナーチェンジを行い、9月の週末を大自然に囲まれたアップステートの野外で快適に過ごすことができる現在の環境を作り上げた。

©Raul Coto-Batres

 これまでの出演者を振り返ると、ヨーロッパからは DJ Sprinkles、Lena Willikens、Optimo、PLO Man、Helena Hauff、LEGOWELT、DJ Stingray、DVS1、Vladimir Ivkovic など、日本からは DJ Nobu、Wata Igarashi、POWDER など、ホームNYからは Aurora Halal をはじめ、Anthony Naples、Huerco S.、 DJ Python、Galcher Lustwerk、Umfang、Beta Librae、Hank Jackson、DJ Healthy などそうそうたるラインナップだ。こうやって出演者を羅列するとめちゃくちゃ豪華に感じるけれど、各年にフォーカスすると一概に「豪華」というにはかなり語弊がある。なぜなら、彼女が本当におもしろいと思えるプレイヤーを「Sustain-Release」ならではの審美眼で選んだユニークなラインナップだといえるからだ。


Sustain-Release YEAR SIX flyer


©Raul Coto-Batres
The Bossa stage

 過去4年間、キャンプ場にある屋内競技場を利用したメインステージはテクノが中心の巨大なレイヴ・パーティのヴェニューに、「Bossa Nova Civic Club」にちなんだ半屋内の「Bossaステージ」はブルックリンのローカルDJを中心にハウスやトリッピーなダンス・ミュージックがかかるワイルドなフロアに変わる。もちろんここにあるのはダンス・フロアだけじゃなくて、野外の森には、落ち葉とウッドチップが重なり合うフカフカの地面に敷いたマットに寝そべりながらアンビエントやエクスペリメンタル、リスニング・ミュージックを聴けるチルな「The Groveステージ」も。

©Raul Coto-Batres
The Grove stage

 さらに敷地内にはバスケットボールコートとプール、小さな湖があって、開催初日の昼はバスケットボールトーナメント、土曜の昼はプールサイドで1日限りの「Saturday Pool Party」を開催。踊り狂うもよし、プールで泳ぐもよし、カヌーに乗るもよし、疲れたら昼寝するもよし、大自然のなかで人々の声欲(しょうよく)を満たすプログラムが62時間にわたってしっかり組み込まれているのだ。

©Raul Coto-Batres


©Raul Coto-Batres
バスケットボールのコートサイドでプレイする DJ Python

 ロケーションやサウンド、プログラムのほかに、「Sustain-Release」においてライティングも重要なパートのひとつ。森の木々を幻想的に照らし出すブルーやパープル、ピンクなどのカラーライト、ダンス・フロアの天井に張り巡らされた光のライン、時折視界に射し込んでくるレーザーの強い光線。「Sustain-Release」での体験をより印象的なものにするライティングには、電気工学を学び、数々のライブパフォーマンスやイベントデザインを手がけてきた Michael Potvin 率いる団体「NITEMIND」と、彼らが輩出したアーティストの Kip Davis が任されている。

©Raul Coto-Batres Instagram: @rl.ct.btrs
The Main stage

 「NY」とか「新しい世代」とか「レイヴ・パーティ」とか、やっぱり日常的になじみの薄い言葉を字詰めするとただの夢物語に感じさせるかもしれない。そして、できることなら現地の「Sustain-Release」に遊びに行ってもらいたいのだが、東京にいながらこのシーンの一部を体験できるのが「S-R Meets Tokyo」だ。いろいろ考えてみても、文化の水準が違う日本で、アメリカと同じように自由なクラブ・シーンは生まれにくいだろう。だけど、少なくとも東京とNYにいる人たちの交流を通じて文化をシェアしていけたら、これから日本やアメリカで始まる新しい何かにつながるかもしれない。

Sustain-Release presents “S-R Meets Tokyo”

2020年1月25日(土)東京・Contact
OPEN 22:00
出演
Aurora Halal (NY)
Galcher Lustwerk (NY)
Wata Igarashi (Midgar | The Bunker NY)

DJ Python (NY)
Beta Librae (NY)
AKIRAM EN
JR Chaparro

Mari Sakurai
Ultrafog
Kotsu (CYK | UNTITLED)
Romy Mats (解体新書)
Celter (Eclipse)

OFFICIAL GOODS
Boot Boyz Biz (NY)×葵産業

NEON ART
Waku

料金
BEFORE 11PM ¥2500 | UNDER 23 ¥2500 | ADVANCE ¥2500 | GH S MEMBERS ¥3500 | W/F ¥3500 | DOOR ¥4000
詳細:https://www.contacttokyo.com/schedule/sustain-release-presents-s-r-meets-tokyo/

DJ HOLIDAY - ele-king

 大好評だった『ARIWA tunes from my girlfriend’s console stereo』の続編『Still listening to Ariwa's tunes~』が昨年のクリスマスにリリースされていて、こちらも評判を呼んでいる。
 ラヴァーズ・ロックとは80年代のUKで生まれたレゲエのサブジャンルで、もともとはジャマイカ移民の子たちのハートにぐさっと突き刺さる胸きゅんなポップ・レゲエを指している。サッチャー政権のど真ん中のポストパンク以降のヒリヒリとした時代において、移民たちのオアシスのような音楽として機能していたわけだが、聴けばわかるように、音楽的な魅力に溢れるこのスタイルが移民コミュニティの外でも大いに愛されることになったのは必然だった。日本でも昔からコンピが編まれたり、中古で人気だったり、地味にずっと愛され続けているジャンルである。で、2018年にSFPの今里くんがDJ HOLIDAY名義でミックスCDを手掛け、またさらにファンを増やしていると。
 2018年には石井“EC”志津男さんが手掛けた『The ROCKSTEADY BOOK』というジャマイカ音楽のメロウ・サイドを紹介するディスクガイドも評判となっているが、なんか最近、じわじわとレゲエ熱が来ているようだ。クラバーの話では、最近はダブステップのDJもハウスもDJも、レゲエやダブをかけることが多くなったそうで、久しぶりにレゲエが盛り上がってくれるかもしれない。このメロウなミックスCDをSFPの今里くんが手掛けていることも大きいですよね。今回も素晴らしい選曲のたまらくメロウな時間が待っています。アートワークもキュートだし、藪下さんのライナーも親切だし、これはもうぜひチェックしましょう。


V.A.
DJ HOLIDAY A.K.A. 今里 FROM STRUGGLE FOR PRIDE
── Still listening to Ariwa's tunes from my girlfriend's console stereo.

ARIWA/OCTAVE-LAB
Amazon

The Orb - ele-king

 ヴェテラン、ジ・オーブが通算17枚目となるニュー・アルバムを〈Cooking Vinyl〉よりリリースする。発売は3月27日。タイトルは『Abolition of the Royal Familia』で、2018年の前作『No Sounds Are Out Of Bounds』と対になる作品だという。興味深いのはテーマで、イギリス王室が18~19世紀に東インド会社のアヘン貿易を支持していたことに抗議する内容に仕上がっているそう。東インド会社といえば、いまわたしたちが当たり前のものだと思っている株式会社のルーツのひとつであり、ようするに資本主義~帝国主義の加速に大きな影響を与えた存在で、いまそこを突くというのはなかなかに勇敢な試みである(香港の歴史を思い出そう)。アルバムにはユース、ロジャー・イーノ、ゴング~システム7のスティーヴ・ヒレッジやミケット・ジローディらが参加しているとのこと。要チェック。

[2月6日追記]
 現在、来月発売の新作より “Hawk Kings (Oseberg Buddhas Buttonhole)” のMVが公開中です。

[2月7日追記]
 MVの公開につづいて、なんと、ジ・オーブの来日公演が決定! 秋なのでまだまだ先だけど、いまから予定を空けておこう。詳しくは下記をば。

The Master Musicians of Joujouka & The Orb Japan Tour 2020

2020.10.31(土) - 11.1(日)
FESTIVAL de FRUE 2020
場所:静岡県掛川市 つま恋リゾート彩の郷
(静岡県掛川市満水(たまり)2000)
LINEUP:
The Master Musicians of Joujouka
The Orb
plus many more artists to be announced.

2020.11.3(火・祝)
The Master Musicians of Joujouka & The Orb
場所:渋谷WWWX
開場:17:00 / 開演:18:00

詳細:https://frue.jp/joujouka_orb2020/

エレクトロニックの巨人、ジ・オーブの17枚目のアルバム『アボリション・オブ・ザ・ロイヤル・ファミリア』が完成。高い評価を獲得した前作『ノー・サウンズ・アー・アウト・オブ・バウンズ』とペアになる作品で、マイケル・レンダールがメイン・ライティング・パートナーとして参加した初のアルバム。

★The Orb: Pervitin (Empire Culling & The Hemlock Stone Version)
https://youtu.be/llGe4H1hwqw

★Hawk Kings - Oseberg Buddhas Buttonhole
https://twitter.com/Orbinfo/status/1214939783597703168

2020.3.27 ON SALE[世界同時発売]

アーティスト:THE ORB (ジ・オーブ)
タイトル:ABOLITION OF THE ROYAL FAMILIA (アボリション・オブ・ザ・ロイヤル・ファミリア)
品番:OTCD-6794
定価:¥2,400+税
その他:世界同時発売、付帯物等未定、ボーナス・トラック等未定
発売元:ビッグ・ナッシング / ウルトラ・ヴァイヴ

収録曲目:
1. Daze - Missing & Messed Up Mix
2. House of Narcotics - Opium Wars Mix
3. Hawk Kings - Oseberg Buddhas Buttonhole
4. Honey Moonies - Brain Washed at Area 49 Mix
5. Pervitin - Empire Culling & The Hemlock Stone Version
6. Afros, Afghans and Angels - Helgö Treasure Chest
7. Shape Shifters (in two parts) - Coffee & Ghost Train Mix
8. Say Cheese - Siberian Tiger Cookie Mix
9. Ital Orb - Too Blessed To Be Stressed Mix
10. The Queen of Hearts - Princess Of Clubs Mix
11. The Weekend it Rained Forever - Oseberg Buddha Mix (The Ravens Have Left The Tower)
12. Slave Till U Die No Matter What U Buy - L’anse Aux Meadows Mix

●『Abolition Of The Royal Familia』は Alex Paterson によるプロジェクト、The Orb の17枚目のアルバムで2020年3月37日にリリースされる。これは高い評価を獲得した前作『No Sounds Are Out Of Bounds』とペアになる作品で、Michael Rendall がメイン・ライティング・パートナーとして参加した初のアルバムだ。

●18世紀と19世紀にインドに大きな損害を与え、中国との2つの戦争を引き起こした東インド会社のアヘン取引に対しての王室の支持にアルバムは触発されており、それを遡及的に抗議した内容となっている。アルバムからのファースト・シングルは “Pervitin - Empire Culling & The Hemlock Stone Version”。その他、Steven Hawking (公演で Alex Paterson に会った際、The Orb の曲を聴いていたと公言)へのトリビュート曲 “Hawk Kings - Oseberg Buddhas Buttonhole” 等、全12曲が収録される。また、Youth、Roger Eno、Steve Hillage (Gong、System 7)、Miquette Giraudy (Gong、System 7)、Gaudi、David Harrow (On U-Sound) 他、多くのゲストもフィーチャーされている。

●付帯物等未定、ボーナス・トラック等未定。


【The Orb / ジ・オーブ】

The Orb は1988年に Killing Joke のローディーであった Alex Paterson と The KLF の Jimmy Cauty により、ロンドンで結成された。1990年には Jimmy Cauty が脱退。以降は Alex Paterson を中心に、Thomas Fehlmann 等と活動が行われている。アンビエント・ハウスやプログレッシヴ・ハウスを確立したエレクトロニック・ミュージック・グループとして、今尚、絶大な人気を誇る。1991年にデビュー・アルバム『The Orb's Adventures Beyond the Ultraworld』を〈Big Life〉よりリリース。翌1992年のセカンド・アルバム『U.F.Orb』はUKチャートの1位を獲得する。その後、グループは〈Island〉へ移籍。1993年のライヴ・アルバム『Live 93』、1994年のミニ・アルバム『Pomme Fritz』を経て、『Orbus Terrarum』(1995年)、『Orblivion』(1996年)、『Cydonia』(2001年)とアルバムをリリース。2004年には〈Cooking Vinyl〉より『Bicycles & Tricycles』、2005年には〈Kompakt〉より『Okie Dokie It's the Orb on Kompakt』、2008年には〈Liquid Sound Design〉より『The Dream』、2009年には〈Malicious Damage〉より『Baghdad Batteries (Orbsessions Volume III)』とレーベルを変えながらアルバムをリリース。2010年には Pink Floyd の David Gilmour をフィーチャーしたアルバム『Metallic Spheres』を〈Columbia〉よりリリースし、UKチャートの12位を記録した。その後、〈Cooking Vinyl〉より『The Orbserver in the Star House』(2012年)、『More Tales from the Orbservatory』(2013年)と2枚のアルバムをリリース。この2枚では Lee “Scratch” Perryがフィーチャーされた。2015年には10年振りに〈Kompakt〉よりアルバム『Moonbuilding 2703 AD』をリリース。翌2016年には『COW / Chill Out, World!』、2018年には『No Sounds Are Out Of Bounds』をリリースした。

■More info: https://bignothing.net/theorb.html

そこではいったい何が起きていたのか - ele-king

 世界は熱くなっているというのに、イギリスは冷えている──保守党の党色である青に塗られたイギリスの地図を見てそう思わずにいられなかった。総選挙ショックから1週間後、ボリス・ジョンソン英首相は議会演説で自身の率いる政権を「イギリスの新たな黄金時代の始まり」とブチ上げた。

 この選挙の保守党の主要スローガンは「Get Brexit done(ブレクジットを済ませよう/片をつけよう)」。その通り、保守党が圧倒的な過半数を占める新議会はイギリスが後戻りするルートを早々と断ち切った。泣いても笑っても2020年1月31日午後11時にブレクジットが起きる。2016年の国民投票から3年半以上、離脱賛成派は求めてきたものをやっと手に入れる。

 クリスマス休暇や師走のあれこれに紛れ、複雑な交渉/外交のディテールはしばし厚いカーテンの向こうに追いやられている──「ブレクジットはややこしいから、もう国民の皆さんをわずらわせません。後は我々政治のプロにお任せください」とばかりに。ジョンソンは選挙キャンペーン中に「ブレクジットはもう準備が整っていて、オーヴンに入れさえすれば出来上がり」(日本的に言えば「レンジでチン!」ですね)というレトリックを使っていたが、いったいどんな料理が出て来るのやら。

 ブレクジットが最終的にどんな形に収まるのか、実はまだ誰にも分かっていない。交渉はこれから本格化するし、入り混じる楽観/悲観双方の予測、どちらを信じるかはその人間次第。1月31日という日付はある意味象徴的なもので、そこから離脱プロセスの完了まで11ヶ月間の交渉&準備&推移期間が置かれている。しかしジョンソンはその準備期間の延長を断固はねつける姿勢で、最悪のシナリオ=「Hard Brexit(合意無しの離脱)」も再浮上している。北アイルランドの立場やスコットランド独立気運の再燃も始め見通しの立ちにくい状況は続くだろうし、英音楽界への影響も当然のごとく不安視されている。

 本来ブレクジットが起こるはずだった昨年3月末を前に『New Statesman』誌が掲載した記事(「The Lazarus Effect」by Andrew Harrison)に、2016年の国民投票時に〈ミュート〉のヘッドであるダニエル・ミラーがスタッフを集め「どう投票するか指図するつもりはないが、離脱賛成に投票した人間はカルネの記入をやってくれないと」と言った、との逸話があった。カルネはかつてミュージシャンがツアーする際に提出を求められた、各国間を移動する物品(楽器、各種機材、ケーブル1本1本に至る仕事道具)を逐一記入する面倒な書類。EU単一市場圏から離脱すると関税同盟から除外扱いになるのでこのカルネが復活し、ツアーのハンデが増える可能性を覚悟せよ、という含みのある発言だ。

 人気アクトには煩雑な法手続きをこなす専門家を雇う経済的余裕があるだろう。だがインディな若手や自腹でツアーしている面々に、書類記入や入国許可他の手続き・コストが増えかねないこの状況はきつい。作品を発表しライヴでプロモートするという伝統的なスタイルが逆転し、音源よりもチケット代やツアー・マーチャン販売が重要な収入源にシフトした昨今であれば尚更だ。アメリカのアーティストはヴァンに乗って広い自国内をDIYツアーすることが可能だが、小さな島国イギリス出身のアクトにとって目の前に広がる欧州大陸は遠くなるかもしれない(逆に、欧州勢がイギリスを敬遠する可能性も指摘されている)。

 CD・アナログ盤の価格上昇も予想される。英国内で流通するフィジカル・メディアの多くはEUでプレスされており、特にヴァイナルは(ビスポークなスペシャル版やダブ・プレートといった小規模生産を除き)チェコやポーランドの工場で生産されるケースがほとんど。過去数年の「アナログ人気復活」は英音楽業界の朗報のひとつだが、大手ショップのアナログ・セクションも、実はヘリテージ・アクトの名盤再発、ヒット作が支えている。ビートルズやストーンズ、オアシスやエイミー・ワインハウスの旧カタログの方がインディ・レーベル作品よりも恐らく確実に売れている。

 ゆえにメジャー・レーベルにはまとまったプレス枚数の注文をかけ続ける「腕力」があるが、新人バンドのデビュー作や12インチといった地味なアイテムはそのしわ寄せで後回しになりがち。この影響はブレクジットに関わりなく既に存在してきたとはいえ、アマゾンのように巨大なストックを抱えられない、わずかなマージンと専門的な品揃えで踏ん張っているインディのレコード店にとって倉庫・流通網の安定とグッズのスムーズな移動を妨げかねないブレクジットは遠くからゆっくり迫って来る暗雲のようなものだろう。

 サブスクリプションやネット・ベースの諸アウトレットの浸透で音楽を聴く手段そのものは増え、2019年の英音楽産業は2006年以来の高収益を記録した。だが新作アルバムのCD価格が現在8〜12ポンド、アナログは20〜24ポンド程度であるのに対し、1曲を1回ストリームして生じる実益は0.006ドルから0.0084ドルと言われる(これをレーベル、プロデューサー、アーティスト、音楽出版社、作曲家で分け合う)。ストリームのペイは多くのアーティストにとっていまだ雀の涙だ。

 音楽業界ももちろん黙ってはおらず、政府審議会にミュージシャンを送り込んで現状を訴える等の活動がおこなわれている。だがボリス・ジョンソンの組閣が発表され、ディジタル・カルチャー・メディア・スポーツ部門大臣(Secretary of State for Digital, Culture, Media and Sport)は誰かと思ったら、総選挙前に「ジョンソン政権には入らない」と大見得を切って議員辞職したものの、ドサクサに紛れて返り咲いたニッキー・モーガンだった。「女性閣僚の数を増やして体裁を整えたかっただけ?」と斜に構えたくもなる、胡散臭い選任だ。

 過去に同性愛結婚に反対し、宗教教育の自由に意義を唱えたこともあるコンサバである彼女がプロ・アクティヴに文化行政に取り組むとはちょっと考えにくい。ジョンソン内閣はブレクジット後の音楽やカルチャーに対して「なるようになる」の受け身な姿勢を取りそうな気配。逆に言えば、億産業である英カルチャー・セクターにはまだ充分に余力があるから助け舟を出さなくても大丈夫、ということかもしれない。

 救済措置を急務とする課題は国民医療サーヴィス、住宅難等他にいくらでもあるし、そもそも文化のことなどよく分かっていない政治家に妙に介入されてもうざったいだけ。悲観的な見方をあれこれ並べてきたが、人種や世代やイデオロギーといった壁も越えて響き届くのが音楽の強さなのだし、イギリス音楽界は過去にもしぶとくバウンスバックしてきた。ディジタル・プラットフォームはDIYな活動の幅を広げたし、映画・CM他とのシンクロやブランドとのコラボといった機会も増えている。音楽界のクリエイターたちが貧すれば鈍する、とは限らない。

 そんなディジタル時代のモダンなアーティスト成功例のひとつがグライムのスーパースター:ストームジーだ。ソーシャル・メディアを通じてファン・ベースを築き、クラブ・ファッション・映画他多彩なチャンネルを活用、メジャー〈アトランティック〉と合弁事業の形(通常の「契約」ではない)で発表したデビュー・アルバムで英チャート首位を達成。セカンド発表前にグラストンベリー2019のピラミッド・ステージでトリ──ブラック・ブリティッシュのソロ・アクトでは初──の快挙を成し遂げた#Merky(愛称・キャッチフレーズであり、彼自身のレーベル/フェス/出版社の名称でもある)は、黒人学生向けのケンブリッジ大奨学金を設ける等、敬愛するジェイ–Z型のアイコンへと成長しつつある。

 彼や仲間のミュージシャンたちが総選挙前にジェレミー・コービン/労働党支持を表明し投票を促したのは、今回初投票した若者も含む18〜24歳層に大きく影響したと言われる(他にリトル・ミックスのメンバーやデュア・リパも労働党支持を表明)。俳優スティーヴ・クーガンを筆頭に音楽界からはケイノー、ブライアン・イーノ、マッシヴ・アタック、ロビン・リンボー、ケイト・テンペスト、ロジャー・ウォーターズ、クリーン・バンディッツが連名署名したコービンのマニフェストを支持する文化人集団の公開書状もそれに続き、イーノは総選挙直前に風刺曲“Everything’s On The Up With The Tories”を発表した。しかし大ヒット曲“Vossi Bop”で「Fuck the government and fuck Boris」と歌い、数多い若者の命を奪っているナイフ刺殺事件への怒りをこめてバンクシー作のユニオン・ジャック柄防護ベスト姿でグラストンベリーに登場した26歳のストームジーこそ、これからの世代の不満や不安をヴィヴィッドに反映している。

 『ガーディアン』の日曜版『ジ・オブザーヴァー』紙は、選挙結果が出そろった2日後=12月15日付の付録文化誌『オブザーヴァー・マガジン』の責任編集をストームジーに任せた。労働党が勝利していれば、この号の意味合いは更に感動的だっただろうが──残念ながら現実はそういかなかった。実にほろ苦い。

 選挙結果の分析はプロの政治評論家やジャーナリストに任せるべきだろう。しかしひとつ言えるのは、労働党や「反ブレクジット」を掲げた自由民主党(Liberal Democrats)が議席を獲得したエリアの多くはロンドン圏、および大学があり学生&若者人口率の高いブリストル、マンチェスター/リヴァプール、ニューカッスル等の都市部である点。これらの選挙区は伝統的に左派傾向が強いので不思議はないが、そのコアなメトロポリス部を囲む郊外やカントリー・サイド──特に、過疎化と老化・衰退の進む「取り残されてきた」北部地帯は長年の労働党信仰を捨て、保守党候補に票を投じた。18〜24歳代層の左派支持と60歳以上層の右派支持とは、鏡と言っていいくらい見事に逆になっている。

 「田舎の年寄りは愚かだ」型の単純な話ではない。サッチャーに炭鉱を閉鎖され生活基盤やコミュニティを失った恨みを忘れていないこの世代が保守党に転じたのは重い決断だし、それだけ彼らは逼迫している。2008年の世界金融危機、緊縮政策に苦しみながらも労働党に希望を託し続け、それでも状況が改善しないことに失望した彼らは、その不満の表明としてオルタナティヴ=保守党とブレクジットに賭けてみることにしたのではないか。金持ちへの重税、無料ブロードバンド全国普及といった項目を含むコービンの利他的なマニフェストは「ユートピアン」、「ラディカル過ぎ」と批判されたが、このいわば理想の追求=体力も根気もいる遠いゴールよりも、衣食住・医療・治安の日常的な問題に追われる人々は──ナショナリズムや人種差別といったポピュリズムの常套甘言に乗せられた面もあるだろうが──応急処置を選んだことになる。

 労働党の地方労働者階級支持基盤が崩れ、イギリスの伝統的な「豊かで保守右派の南VS貧しく労働党左派の北」のパラダイムが逆転した2019年総選挙は地殻変動だった。焦点のひとつはブレクジットで「実質的に第二の国民投票」の印象すらあったが、獲得議席数ではなく投票数でカウントすれば、実はEU残留(=再度の投票を求める声からブレクジット帳消しまで様々だが、トータルで言えば離脱阻止の可能性を探る方針)を主張する諸党への支持票が保守党票を上回ったのだ。その民意は政党政治の前に掻き消えたことになる。この厳しい教訓を野党勢が重く受け止め内省し、それぞれが政党としてのアイデンティティを立て直さない限り、国民との乖離はますます広がるだろう。

 一方で、今回ブレクジットという博打に賭けてボリス・ジョンソンに追い風を送った層である、英中部/北部に対する保守党の責任も重い。南北格差の大きい公的資金配分システムを改造する動きも既に出ているそうだが、くも野郎(Boris the Spider)ならぬ嘘つき(Liar)で、前言撤回・有言不実行・不正確なデータ拡散の数々で知られるジョンソンだけに見張り(ウォッチ)を怠ることはできない──「北は忘れない(North remembers)」と思ってしまうのは、まあ、『ゲーム・オブ・スローンズ』の観過ぎかもですが。

 少なくともこの先5年は保証されたジョンソン政権の「黄金時代」。その暗い現実にストームジーを始め多くのミュージシャンが落胆を表明したし、フォー・テットがBBCのポッドキャスト「100 Voice Notes About The Election」(選挙結果に対する若者100人の声)向けに音楽を提供する等、リアクションはこれからも様々な形で現れてくると思う。音楽ファンの中からは「ジャーヴィス・コッカーを2019年のクリスマス・ナンバー・ワンに」というSNSベースの愉快なプチ運動が生まれた。

 ダウンロードやストリーミングで古い曲が復活しチャート・インしやすくなったことで、2009年に「レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの“Killing In The Name”を1位に」の草の根運動が成功した。タレント発掘番組『Xファクター』勝者のシングルがクリスマス週にチャート1位になる……という、当時のイギリスで定番だった出来レースにウンザリしていた音楽ファンによる冗談/真剣半々のサボタージュ兼プロテストだった。その後も同様のアクションは折に触れて起きていたが、このジャーヴィス1位運動の発起人は、総選挙の悲惨な結果に落ち込みつつ、しかし少しでも左派への団結心をユーモラスに表明したい人々のためにこのフェイスブック・グループを立ち上げたという。
 
 選ばれた曲はジャーヴィス・コッカーのデビュー・ソロ『Jarvis』(2006)に隠しトラックとして収録された風刺曲“Running The World”。ミソになるコーラス部の歌詞は以下。

 If you thought things had changed, friend,
 you’d better think again
 Bluntly put, in the fewest of words,
 cunts are still running the world

 もしも事態は変化したなんて思っているのなら、友よ、
 考え直した方がいい
 手加減なしで、単刀直入に言わせてもらおう、
 いまだにこの世を回しているのはムカつかされるくそったれ共だと

 「cunt」は恐らくイギリスでもっとも熾烈な罵倒語のひとつ(くれぐれも安易に使わないように!)なので1位はまずあり得なかったとはいえ──この曲を爆音で流して2019年にわずかでもうっぷん晴らししたい人々の気持ちは理解できる。結果はチャート48位で、ジャーヴィスと〈ラフ・トレード〉は収益をホームレス支援団体に寄付した。

 この曲はアルフォンソ・クアロンのディストピア映画の傑作『トゥモロー・ワールド』のエンディングで、ジョン・レノンの“Bring On The Lucie”に続いて流れたことでも知られる。筆者はクリスマス期になるとついDVDで観返してしまうのだが、13年も前の作品なのにいまだ現在とシンクロする面があることに改めて打たれつつ──今回の観賞はヘヴィだった。と同時に、究極的には希望と人間のオプティミズムを描いている『トゥモロー・ワールド』に励まされもした。“Running The World”は近年のジャーヴィスのライヴでもよく歌われる定番曲だが、ライヴで歌う際に彼は前述の歌詞の後にひと言付け加えるようにしているそうだ──「but not for long(でもそれも長くは続かない)」と。

TSUBAKI FM - ele-king

 東京を拠点にさまざまな音楽を発信しているインターネット・ラジオ「TSUBAKI FM」が2周年を迎える。おのおのに精力的な活動をつづける Masaki Tamura、Souta Raw、Midori Aoyama の3人によって運営され、たんなるラジオに留まらない展開をみせているこの新型プラットフォームについては、ぜひともこちらのインタヴューをご一読いただきたいが、その2周年を記念したツアーが2020年1月末より実施される運びとなった。東京、広島、金沢、京都、静岡、名古屋の6都市で計7公演が開催される。現地からのライヴ配信なども予定されているとのこと。まだ知らないすばらしい音楽に出会えるこの絶好の機会を逃すなかれ。

東京発、インディペンデントミュージックを発信する音楽プラットフォーム『TSUBAKI FM』が2周年を記念したジャパンツアーを開催!!!

東京を拠点にローカルからワールドワイドまでクオリティーの高いアーティスト/DJを招き、毎週日曜日19:00~21:00にしぶや花魁にてライブブロードキャストを行う音楽プラットフォーム TSUBAKI FM。約2年の活動で京都八坂や加賀山代温泉などの出張放送やタイのローカルラジオとのコラボレーションイベントなど着実にその輪を広げるラジオ局が、昨年に引き続きアニバーサリーツアーを実施。

ツアーでは京都を代表する JAZZ / CROSSOVER イベント “Do it JAZZ!” を主催し、現在は Gilles Peterson 率いるラジオステーション “Worldwide FM” の京都サテライト “WW KYOTO” のホストも務める Masaki Tamura。アンダーグラウンドディスコを軸に長年に渡り茶澤音學館のクルーとして Sadar Bahar の来日サポートを務め、毎週火曜日の Aoyama Tunnel をレギュラーに都内を中心に活躍中の Souta Raw。そして東京ハウスミュージックシーンの人気パーティー /レーベル “Eureka!” を仕掛け、TSUBAKI FM の発起人でもある Midori Aoyama の3人を中心に、特定のジャンルに縛られない様々なジャンルを発信する TSUBAKI FM とリンクした全6都市のローカルアーティストがコラボレーション。現地でのライブ配信やイベントなどが融合したツアーショーケースを約1ヶ月通して開催する。

【Tour Schedule】
1/31 (Friday) Tokyo CITAN
2/21 (Friday) Hiroshima ONDO
2/22 (Saturday) Kanazawa Zuiun & DEF
2/23 (Sunday) Kyoto Metro
2/28 (Friday) Shizuoka COA
2/29 (Saturday) Nagoya outecords
3/07 (Saturday) Tokyo TBA
*追加公演や各公演のラインナップアナウンスは2020年1月以降順次リリース予定

【DJ's】

Masaki Tamura
DJ / Architecture Designer。2003年に活動開始以降、新譜・旧譜問わずJAZZを軸とした選曲を得意とし、京都を代表する JAZZ / CROSSOVER イベント “Do it JAZZ!” を中心にDJを行い、LIVEアーティストからの信頼も厚く、選曲の幅を生かしホテル、ラウンジ等のサウンドサポートも行う等、京都・大阪・東京を中心に活躍中。昨年はヨーロッパシーンで活躍する HUGO LX、Aroop Roy そして新世代バンド WONK を招待、Dego や floating points のサポートを務め、今年7月には mixcloud アワードに選ばれた経歴を持つフランスの GONES THE DJ との共作であるジャパニーズ・ジャズのみを選曲した Mix を発表し話題を集める。Gilles Peterson がスタートしたオンライン・ラジオステーション “Worldwide FM” の 京都サテライト “WW KYOTO” のDJを務め京都祇園のニュースポット “Y gion” から毎月第二月曜日に発信中。

Souta Raw
長年に渡り茶澤音學館でのレギュラー、そして7インチレコードに特化した45’sパーティ Donuts#45 のDJ/オーガナイズを担当して来た Souta Raw は、アンダーグラウンドディスコを軸に世界中の新旧問わず点在する辺境ダンスミュージックを織り交ぜるプレイスタイル。現在は毎週火曜日の AoyamaTunnel をレギュラーに都内を中心に DJ/パーティ・オーガナイザーとして活動中。

Midori Aoyama
東京生まれのDJ、プロデューサー。12年に自身がフロントマンを務めるイベント「Eureka!」が始動。青山 Loop での定期開催を経て13年にはUKから Reel People / The Layabouts を招き eleven にて開催。その後も、module、Zero、AIR と様々な会場に場所を移しながら、過去に Kyodai、Detroit Swindle、Atjazz、Lay-Far、Mad Mats、Session Victim など気鋭のアーティストの来日を手がけ東京のハウスミュージックシーンにおいて確かな評価を得る。過去に Fuji Rock や Electric Daisy Carnival (EDC) などの大型フェスティバルでの出演経験もあり、活躍は日本だけに留まらず、ロンドン、ストックホルム、ソウルそしてパリなどの都市やアムステルダムの Claire、スペインはマジョルカの Garito Cafe などのハウスシーンの名門クラブでもプレイ。15年には Eureka! もレーベルとして始動し、スウェーデンの新興レーベル「Local Talk」とコラボレーションし、自身が選曲、ミックスを務めた「Local Talk VS EUREKA! - Our Quality House」を発表。その後も立て続けにリリースを手がけ現在5枚のEPをリリースするなどレーベルの活躍も期待が高まる。現在は新しいインターネットラジオ局 TSUBAKI FM をローンチし、彼の携わる全ての音楽活動にさらなる発信と深みをもたらしている。

【about TSUBAKI FM】
東京発、インディペンデントミュージックを発信する新しい音楽プラットフォーム『TSUBAKI FM』
世界中から集まるクオリティの高いアーティストやリスナーをキュレーションしながら日本のシーンに対して新しい風を送ります。様々なカルチャーや多彩な音楽そしてライブブロードキャストを中心に毎週日曜日19:00~21:00にしぶや道玄坂のウォーム・アップバー「しぶや花魁」から配信中。
Tsubaki FM is a brand new platform for independent music, straight from the heart of Tokyo. We aim to bring new life to the underground music scene in Japan while also helping better connect artists and listeners worldwide. Get fresh tracks from diverse genres, music culture information, live broadcasts, and more.

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