ラスヴェガスで暮らすヨガの先生がフライング・ロータスやその仲間たちと一緒にアルバムを作った――君はいったいどんな音楽を想像する?
彼の名前はゴンジャスフィ(この名前の意味を、君はこの先のインタヴューで知ることになる。そう、素晴らしいその意味をね)、そして僕たちの多くは彼の歌をフライング・ロータスのセカンド・アルバム『ロスアンジェルス』に収録された"Testament"によって知しっている。フライング・ロータスはその歌を「時間を超越した、驚くべき汚物である」と表現しているが、聴けばわかるように、それはたしかにソウルフルだがまるで亡霊の声のようでもある。
Gonjasufi A Sufi & A Killer Warp / Beat |
この度〈ワープ〉からリリースされるゴンジャスフィのデビュー・アルバム『ア・スーフィ&ア・キラー(A Sufi & A Killer)』が話題だ。『ガーディアン』は発売前から「今年何回も繰り返し聴くであろうアルバム」と賞賛し、あるいはまたゴンジャスフィを「電子のヘンドリックス」として再三にわたって紹介している。〈ストーンズ・スロウ〉以降におけるポスト・ヒップホップの音の冒険、〈ワープ〉におけるIDMの実験、この両者のおそるべきドラッギーな結合によって生まれらこの音楽は、さまざまな文化の衝突(イスラム教、トルコ、インド、ブルース、レゲエ等々)という文脈からTV・オン・ザ・レイディオやM.I.A.などとも比肩されている。が、そのどれとも違っている。西海岸のBボーイたちの実験とアシッド・ロックとの接続は、ヨガとイスラム教のスーフィという管を通して......とにかく世にも奇妙なサイケデリック・サウンドを創出したのである。
最初にのめり込んだのは、アイス・キューブやトゥー・ショートなんかの90年代の西海岸ヒップホップだったよ。ラップに誠実さや愛を感じて、すごく魅了されたんだ。
普段はヨガの先生をしているってホントですか?
ゴンジャスフィ:そうだよ、期間でいうと1年で半年間くらいは教えているんだけど、いまはちょうどこれから自分の修行にまた戻ろうかなと思ってる。すごく好きなんだ。
アルバムの話の前に、あなたのプロフィールについて教えてください。生まれはサンディエゴですよね。メキシコ人の母とエチオピア人の父のあいだに生まれている。あってますか?
ゴンジャスフィ:あってるよ。
ご両親からの影響について教えてください。
ゴンジャスフィ:父はマイルズとかジャズをよく聴いていて、母はスペインやメキシコのラヴ・ソングをよく聴いていて、ふたりからの音楽的影響はとても大きいよ。
どんな10代を過ごされたのですか?
ゴンジャスフィ:学校に行って、普通にスポーツとかもしていたんだけど、マリファナを吸い出してから音楽の世界へ完全にのめり込んだね。そこから完全に音楽が人生の中心になっていったよ。
あなたの音楽との出会いについて教えてください。どんな音楽が好きになって、そしてどういう経緯で歌い、演奏し、音楽制作をするようになったのか?
ゴンジャスフィ:いろいろ音楽は聴いていたけど、最初にのめり込んだのは、アイス・キューブやトゥー・ショートなんかの90年代の西海岸ヒップホップだったよ。ラップに誠実さや愛を感じて、すごく魅了されたんだ。そして彼らを聴くにつれて、自分のなかから表現したい音や歌が生まれてきて、それを制作するようになったんだ。いまはレコーディングの知識もつけたし、いろいろできる幅が増えてきたと思うよ。
とても素敵な声をしていますが、影響を受けたヴォーカリストはいますか?
ゴンジャスフィ:そうだね、高校にいたときにレゲエ・ムーヴメントがあって、ボブ・マーリーはよく聴いたよ。あとはもちろんジミ・ヘンドリックス。彼はつねにヒーローだ。いまも生きているアーティストでいえば、ベス・ギボンス、ジャック・ホワイト、トム・ヨークの3人かな。
『A Sufi & A Killer』ではいろんな音楽をやっていますね。ヒップホップ的なものだけではなく、"Sheep"のようなアシッド・フォーク調の曲もあるし、"She's Gone"みたいなビートルズ調の曲もある。"Suzie Q"みたいなハード・ロックもあるし、"Stardustin'"みたいなジミヘンみたいな曲もある。あなたにとっての音楽的アイデンティティとは何になるのでしょうか?
ゴンジャスフィ:うーん、もちろんさまざまな音楽に影響を受けてきたんだけど、ヒップホップ以外でいえばレゲエとロックが大きいと思う。1995年から2003年くらいまではすごいレゲエに魅了されていたし、それ以降、とくに最近はロックにはまっているよ。さっき挙げたトム・ヨークやジャック・ホワイトなんかのね。
あなたにとっての最大の音楽的ヒーローは? ジミ・ヘンドリックス?
ゴンジャスフィ:もちろん。ジミは世界いち最高にクレイジーなマザー・ファッカー野郎さ。
ちなみに20代はどのように過ごされていたのですか? マスターズ・オブ・ザ・ユニヴァース(Masters Of The Universe)というヒップホップ・クルーとして活動していたと聞きますが、音楽活動はずっと続けていたのですか?
ゴンジャスフィ:とにかくマリファナを吸いまくった。もうそればかりやっていたし、ドラッグからなにからすべてやり尽くしたね。活動としてはマスターズ・オブ・ザ・ユニヴァースのクルーとしてラップしたり、ビートを作って、CDを自主制作して、それを路上で売ってマリファナを買う足しにしていたよ。Orko(マスターズ・オブ・ザ・ユニヴァース)とThavius Beck(グローバル・フロウテイションズ)と一緒にベイ2に住んでいて、あいつらにMPCの使い方とかを教えてもらったんだ。その頃は、いろんな家のソファを転々としていて、そのときもずっとそのふたりとつるんでいたから本当にかけがえのない仲間だと思ってる。
[[SplitPage]]大学でイスラム教を学びはじめたのと、ムスリムの友人との出会いがきっかけでイスラミズムに興味を抱くようになった。定められたやり方で生きることに疑問を持ちはじめて、人生のより神秘的な側面に注目するようになっていった。
あなたの音楽に強いてジャンル名を付けるとしたら何になるのでしょうか?
ゴンジャスフィ:難しいな(......とても悩んで)、ロック、サーフ、ハードコア、それらのあいだとか。考えた事もないから全然思いつかない。
どういう経緯でメインフレイム(Mainframe)やザ・ガスランプ・キラー(The Gaslamp Killer)たちと出会ったのでしょうか? また、彼らと出会う以前からあなたはヒップホップ的な方法論に関心があって、それを用いて音楽を作っていたのですか? スマック(Sumach)名義でCDRで発表した作品というのはどんなものだったのでしょう?
ゴンジャスフィ:ザ・ガスランプ・キラーはサンディエゴでよくライヴをしていた箱でDJをしていたのと、よく行くレコード・ショップの店員だったから知るようになって、メインフレイムはMHEを通じて知ったんだ。実際フライング・ロータスとはそのふたりを通して出会ったんだよ。19歳の頃からヒップホップは作っていたし、マスターズ・オブ・ザ・ユニヴァースとしても活動していたから、もちろんふたりに会う前からヒップホップは作っていたよ。スマック名義で発表したのはすべてラップとヒップホップだしね。
ヒップホップにおいてあなたがもっとも影響を受けたのは誰ですか?
ゴンジャスフィ:うーん、そうだな(またとても悩んで)。やっぱり俺のクルー(Masters Of The Universe)かな。MPCなんかを教えてくれたのも彼らだし、一緒に生活したり、いろんなところで影響を受けたからね。
フライング・ロータスとはどんなところで意気投合したのですか? 音楽性?
ゴンジャスフィ:まずザ・ガスランプ・キラーと俺が一緒にプレイしているのをフライング・ロータスが気に入ったんだ。そして彼がメインフレイムにビートを送って、メインフレイムが俺にそのビートを送ってきたんだよ。それに歌を乗っけてできたのが"Ancestor"なんだ。だから"Ancestor"を作った時点では彼とは会ってすらいなかったんだよ。ただ互いの音楽に対する愛や情熱が共鳴して繋がる事ができたと思っているよ。
〈ワープ〉のことは知っていましたか? そして、知っていたとするなら、どのような印象を持っていましたか?
ゴンジャスフィ:知っていたよ。サンディエゴの友人たちが〈ワープ〉のブロードキャストにはまっていたからね。印象としては、個人的にロゴがとにかくかっこいいと思ってたよ。ただまわりに比べたらそこまで〈ワープ〉にのめり込んではいなかったし、当時は〈ワープ〉の存在の巨大さにまったく気づいていなかった。あまりに巨大でナイーヴになることもあったよ。エイフェックス・ツインを聴きはじめたのも、ここ数年の話だしね。
おそらくあなたのコスモポリタン的な感覚から、たまにTV・オン・ザ・レイディオと比較されていますが、彼らの音楽は聴いていますか?
ゴンジャスフィ:全然聴かないな。あまり興味が沸かないからね。いまは最初に挙げたトム・ヨークなんかのほうに傾倒しているのもあるし、彼らを聴くと何か救われる気持ちになるんだ。TV・オン・ザ・レイディオからはそういった気持ちが生まれないし、クソにしか聴こえないよ。
M.I.A.は?
ゴンジャスフィ:聴かない。"Paper Plane"は聴いたけど、アルバムとして聴いたことはないよ。
イスラム教、とくにスーフィとの出会いについて教えてください。
ゴンジャスフィ:サンディエゴの大学でイスラム教を学びはじめたのと、ムスリムの友人との出会いがきっかけでイスラミズムに興味を抱くようになった。それと同時に、なにか箱のようなもののなかに収まって、定められたやり方で生きることに疑問を持ちはじめて、人生のより神秘的な側面に注目するようになっていったんだ。
名義をスマックからゴンジャスフィに変えたのも関係がありますか?
ゴンジャスフィ:その友人がスーフィズムに入ってったこともあって、スーフィズムに本当に心を魅了されたんだ。まさにハマったとも言えるよ。そのときも葉っぱをよく吸っていたし。それで名前をゴンジャスフィ(注:ガンジャ+スーフィ)に変えたんだ。
スーフィは今回のアルバム『A Sufi & A Killer』においてもタイトルになるほど重要な要素だと思いますが、スーフィというのはあなたのこれまでの人生のなかでどのようなものなのでしょうか?
ゴンジャスフィ:自分を変革し、啓蒙してくれるものだよ。スーフィと出会って、さまざまなものが内面から溢れでたとも言える。
スーフィの神秘主義はあなたの音楽にどのような影響を与えましたか?
ゴンジャスフィ:直接的に音楽的に影響を与えたというよりも、自分を何か枠の外へと導いてくれたと思っているんだ。例えばメディア、学校、神もそうだけど人びとが閉じ込められるようなその枠の外へと連れ出す感じさ。
具体的に修行をされたのですか?
ゴンジャスフィ:そうだね、いちばんの修行はヨガをすることだよ。2004年くらいから友人を通じてはじめたんだけど、俺に取ってはヨガもスーフィも同じなんだ。ヨガがいつも、「自分が誰か」、「自分とは何か」を教えてくれるんだ。感情をコントロールすること、怒りやネガティヴな感情を昇華することをヨガを通して学んでいるよ。
[[SplitPage]]まずこの曲は警察について歌った曲なんだ。たったいま俺はカリフォルニアへ行く途中で車を止めて、このインタヴューをしているんだけど、このあいだ(約50分)に俺は5回も警察に職務質問されているんだ。
あなたの音楽における政治性について話してもらえますか?
ゴンジャスフィ:うーん、政治は大嫌いだし、政治にはいっさい関わりたくないと思っている。アメリカではつねに政治は偽善で、ハリウッドのような腐ったシーンも生み出している。それには常に反抗していたいと思っているよ。
『A Sufi & A Killer』の"A Killer"というのは誰のことを指しているのですか?
ゴンジャスフィ:それはバランスを表しているんだ。誰もが内に持つ二面性。それをこのタイトルで表しているんだよ。だからSufiがKillerでもあるし、KillerがSufiでもあるんだよ。裏返しているだけで本質は同じものさ。
アルバムの1曲目の"(Bharatanatyam)"はスーフィの音楽なんですよね?
ゴンジャスフィ:そうだよ。魂や祖先に対する敬意を払う意味を込めたスーフィのダンス・ミュージックなんだ。
シングルカットされた"Kowboyz & Indians"は何にインスパイアされた曲なんでしょうか?
ゴンジャスフィ:そうだね、何にインスパイアされたかなー。もちろんインドには影響を受けてるよ。ここで歌っていることは、ジョン・ウェインなんかに代表されるハリウッドで作られたカウボーイ・イメージを捨てろってこと、そして本物のカウボーイはヒマラヤ山脈を、牛を引いて歩く小さな少年なんだってことなんだ。これもさっき話したメディアの枠の外へ飛び出すことだから、ヨガやスーフィにインスパイアされたともいえるね。
"Klowds"は何の音楽からの影響なんでしょうか? インド音楽ですか?
ゴンジャスフィ:もちろんインド音楽から影響を受けているし、このサンプルはトルコのサイケバンドをザ・ガスランプ・キラーがリ・エディットしたものなんだ。インド音楽はラビ・シャンカールのような古典も聴くし、ボリウッドのような大衆音楽も聴くよ。
収録曲がだいたい2~3分ですが、これには理由がありますか?
ゴンジャスフィ:とくに理由はないよ。編集したのはザ・ガスランプ・キラー、フライング・ロータス、メインフレイムだしね。
最後の曲"Made"が終わったあとに隠しトラックがありますが、どのような理由からなんですか?
ゴンジャスフィ:まずこの曲は警察について歌った曲なんだ。たったいま俺はカリフォルニアへ行く途中で車を止めて、このインタヴューをしているんだけど、このあいだ(約50分)に俺は5回も警察に職務質問されているんだ。これはそういった腐った奴らに対して歌った歌なんだよ。ボーナス・トラックのつもりで置いたから曲間に空白が入っているんだ。
最後に日本のリスナーにメッセージをお願いします。
ゴンジャスフィ:これはすごい難しいなー。本当に日本の文化に心から感動しているし、尊敬しているんだ。初めてのインター・ナショナル・ショーとして日本に行ったときも、いろんなところで愛を感じながら日本の文化の美しさに魅了されたんだよ。ひとりひとりが互いを尊敬して敬意を払うところや謙虚なところとかね。日本から2年前にアメリカに帰って来たときには、アメリカの仲間にとにかく日本の素晴らしさを伝えたよ。だから日本のファンに伝えるとすれば、これからも俺の手本でいてくれってことかな。かなうものなら心から再来日を果たしたいと思ってる。前にライヴしたときは俺が何をするか全然わからなかっただろうけど、いまはこうしてレコードも多く出てるから、より理解してもらえると思うからさ。もし叶うなら本当に名誉なことだと思うよ。ついでにいまアナログなテープ・マシーンも探してるから、もし誰か持ってる人がいたら連絡して欲しいな!