いつもは機材が置かれているところにキッチンが設置された。シンセサイザーの代わりにガスコンロがあった。楽器の代わりにはフライパンや皿が並んでいた。
2011年9月のライヴはリキッドルーム史上初の、ステージ上で豚肉が料理されたライヴだった。コックが肉に火を通すと、フロアの後ろのほうまでそのにおいはした。それはハーバートのライヴのクライマックスだった。いや、本当のクライマックスは、豚肉料理の盛られた皿をコックから差し出されたとき、ハーバートならびに共演者一同が不味そうな表情をでそれを食べなかったときか……。
ハーバートのライヴは彼の音楽と同様に、完璧にコンセプチュアルである。ただ演奏するのではない。コンセプトがあり、誰もがやったことのないアイデアが実践される。
くだんのライヴでは、豚の一生を描いた『ワン・ピッグ』を土台としていた。養豚場で豚が生まれ、そして屠殺されるまでの“音”から生まれたそのアルバムは、ハーバートらしい資本主義への批判精神から来ているものだが、ライヴでは作品の暗い主題はユーモアを持って展開される。2003年の、グローバル資本主義への皮肉を込めた『グッドバイ・スイングタイム』でのライヴもそうだった。
あのときは〈ブルーノート〉での、ビッグ・バンド・スタイルでのライヴだったが、ハーバートらしさは充分に発揮されていた。演奏中、バンドはブレイクと同時にスーツのポケットから新聞紙を取り出し、「こんなものは真実を伝えていない」とばかりに破り捨て、そしていっせいに音を出す。ショーであり、政治的でもある。2001年のレディオ・ボーイ名義での〈リキッドルーム〉のライヴもそうだった。あのときのハーバートはステージ上でマクドナルドやGAPといったグローバル企業の包装紙などを破ってはその音をマイクで拾い、ループさせながらダンス・ミュージックに仕立て上げた。オーディエンスは笑いながら踊り、しかし終わったときには、我々の日常の一部と化したものたちへの疑問を反芻する。音楽が政治的であるとは、必ずしもお決まりのスローガンを叫ぶことではない。ハーバートのように喜劇的な表現で思考を揺さぶり、そして命令するのではなく、リスナー自身に考えさせるというやり方もある。
このところ重たい作品が多かったハーバートだが、今年リリースされた『ザ・シェイクス』では久しぶりに彼の“ポップ”な音楽性を披露している。今回の来日は、このアルバムを土台にしたライヴになるのだろう。『ザ・シェイクス』には相変わらず彼の政治的情熱も込められている。イラクやイスラエルで実際に録られた銃弾や爆弾の音も使われているというが、音楽はハウスを基調としたもので、洒落っけのあるものだった。
そもそも総勢9人体制で、いったいどんなライヴを見せてくれるのか楽しみでならない。二度と同じことはしない。それがハーバートのライヴである。ぼくは、彼のライヴを見て満足しなかったときはいちどもない。どうか見逃さないでほしい。
■2015年8月18日(火)
Hostess Club Presents Herbert
場所:東京・恵比寿リキッドルーム
開場:18:30 open 開演:19:30 start
チケット:
ADV ¥6,000(ドリンク代別途 / オールスタンディング)
イープラス
チケットぴあ:0570-02-9999 / Pコード:270-031
ローソンチケット:0570-084-003 / Lコード:76824
※0570で始まる電話番号は、一部携帯・PHS不可
Hostessオフィシャルサイト:
https://ynos.tv/hostessclub/schedule/20150818.html