「You me」と一致するもの

Abraxas - ele-king

 PiLのマスターピース『Metal Box』(79)に収録された“Radio 4”はキース・レヴィンがひとりで多重録音したもので、2016年のデラックス・ヴァージョンに収録されたレコーディング・テイクを聞くと、当初はカウボーイ・インターナショルのケン・ロッキーがドラムを叩いていたことも明らかになった(尺も倍近い→https://www.youtube.com/watch?v=se-Z6EO5pfA)。ベースもわざわざジャー・ウォッブルをマネて弾いたものだとレヴィンは述懐していて、広いスタジオでポツンと作業していた「冷たさ」が曲のムードに反映されているという。そして、最終的にドラムを抜いて短くエディットしたものが『Metal Box』のラストに収められ、それはまるでビートルズ“Good Night”と同じくチル・アウト効果をもたらすことになる。『Metal Box』という複雑怪奇な迷宮に鮮やかな出口を用意してくれたというか。“Radio 4”はビニール袋のようなものが膨らんだり縮んだりするようなイメージを繰り返す。それはオーケストラが短いコードしか弾かないとどうなるかというアイディアから出発した結果だそうで、ドラムを抜くことでその効果は最大限まで引き上げられた。『Metal Box』はどの曲も印象深く、いまだに得体の知れない感じがあり、とりわけ“Radio 4”はミステリアス度が高い。

 チリからフアン・マッジョーロ(Juan Maggiolo)とドイツ系らしきヴェルナー・ハインツ(Werner Heinz)によるデビュー作を聴いた時、それはまるで“Radio 4”が8つのヴァリエーションに増幅されて蘇ってきたという印象を僕は持った。かすかにジャー・ウォッブルのようなベース・ラインが聞き取れる曲もある。スピーディーなアンビエント・ドローンを基本にポップな味付けが多種多様に施されたカラフルな展開。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインが“Radio 4”をカヴァーしたり、リミックスしたり、様々な手法を用いてカスタマイズしたような……。ドローンといっても大して持続せず、細切れになっているせいでそう感じるだけかも知れない。とはいえ、キース・レヴィンのいう「冷たさ」も似通っているし、頻繁に転調するのも一因をなしている。何度も聴き込んでいるうちにやはり違うとは思うものの、初期イメージから脱却したくない気分も手伝って、いまのところ『Abraxas』は僕にとっては43年後の“Radio 4”である。アブラクサスとはちなみにグノーシス思想における偽神で、選ばれし者を天国に連れていくというニューエイジのフェイクのような存在。その姿はヒトの体にライオンの頭と下半身は蛇。



 南米のアンビエント・ミュージックはどうも得体が知れない。フアン・ブランコであれ、トマス・テロであれ、アカデミックな手法を使ってもその様式美に呑み込まれないという共通点があり、アブラクサスの2人がアカデミックなキャリアを持っているかどうかも想像がつかない。ついでにいえばアロンドラ・デ・ラ・パーラのようなクラシックの人でさえ、指揮をしながら踊りだしたり、パリの観客が手拍子を始めるなどアカデミックの枠組みは崩壊している。アブラクサスの背景にはなんとなくクラブ・カルチャーが横たわっているような気もするけれど、ヴィラロボスやアトム・ハートが撒いてきた種が花開いたにしてはタイミングが遅いし、そもそもドイツ資本とつながりがあるのかないのかよくもわからない。ここにあるのはイメージ豊かな曲の数々と曲の雰囲気には悪い予感のかけらもないこと。チリは一時期はコロナによって危機的状況を呈したものの、現在では南半球でもっともコロナの危険から遠い国という評価を受け(新自由主義に基づく税制に改められたことで連日のようにデモが起こったコロンビアとは対照的)、フランツ・エデルマン賞まで受賞している。そういった国の気分が感じられる作品でもある。つーか、『アンビエント・ディフィニティヴ 増補改訂版』を校了した10日後にリリースされやがった。く~。

Caterina Barbieri - ele-king

 〈Editions Mego〉からリリースされた2019年の前々作『Ecstatic Computation』が高い評価を獲得したミラノのプロデューサー、カテリーナ・バルビエリ。ロックダウン中に録音されたという新作『Spirit Exit』が7月8日にリリースされる。なんでも詩や哲学にインスパイアされたそうで、バルビエリ本人のコメントによれば「世界の終わり、もしくはテレパシーのいち形態へのラヴ・ソング」だという。最終曲 “The Landscape Listens” は、イーノの人気曲 “An Ending (Ascent)” のような上品さと穏やかさで死にアプローチしている曲らしい。現在 “Broken Melody” が先行公開中です。


artist: Caterina Barbieri
title: Spirit Exit
label: light-years
format: digital / 2LP / CD
release: July 8, 2022

tracklist:
01. At Your Gamut
02. Transfixed
03. Canticle of Cryo
04. Knot of Spirit (Synth Version)
05. Broken Melody 04:26
06. Life at Altitude
07. Terminal Clock
08. The Landscape Listens

Sonic Youth - ele-king

 サーストンには2014年の『The Best Day』の来日時取材したし、その4年後のキムのファースト・ソロ『No Home Record』は待った甲斐のあったというしかない力作だった。リーはリーとてポップ・ソングから実験作まで意欲的で、リリースした作品のいくつかにはスティーヴ・シェリーの名前もみえる──と、ソロ活動もすっかりイタについたいま、それぞれの事情もふまえると再結成の可能性は遠のいたにちがいないが、ソニック・ユースと聞くとパブロフの犬のごとき反応をみせるものもすくなくない。かくいう私がそのくちで『In/Out/In』と題した未発表曲集のリリースを知るやいなや5曲45分ほどの音源に耳を傾け、ソロ作ともことなるソニック・ユースという集団に固有の磁場とも空間性ともいえるものを再認識したのだった。
 『In/Out/In』は2000年から2010年にかけて録音した楽曲を編んだコンピレーションで企画盤への既出音源をふくむ。SYは2011年に活動を休止したので、2000年代の十年紀はSYの最後の10年にほぼかさなっている。アルバムでいえば、2000年の『NYC Ghosts & Flowers』から2009年のラスト・アルバム『The Eternal』まで、いわば成熟期の背景を記録したのが本作といえるであろう。
 30年を超えるSYの活動歴をステージごとに区切ると、81年の結成から88年の『Daydream Nation』にいたるアングラ期、90年代の幕開けをつげた『Goo』以降のオルタナ期と、2000年代以降の成熟期となろうか。とりわけ本作の射程となる成熟期は編成的にも音楽的にも実験性が高く、大作志向から楽曲主体まで作品の傾向も多様性に富む。収録曲の内訳をみると、1曲目の “Basement Contender” と3曲目の “Machine” が2008年、2曲目の “In & Out” は2010年と本作中もっとも新しい。レコードではB面にあたる後半の2曲 “Social Static” と “Out & In” は2000年で、タイトルの由来となった “In & Out” と “Out & In” は本作のリリース元である〈Three Lobed Recordings〉のオムニバス『Not The Spaces You Know, But Between Them』でいちど世に出ている。発掘作の例にもれず、本作もアイデアスケッチのきらいはあれど、おのおのの素描にはこの時期特有のタッチがある。ラスト・アルバム『The Eternal』と相前後する前半の3曲は中平卓馬にならえば「原点復帰」となる2000年代後半らしくソリッドなバンド・スタイルを深い諧調のギターで肉づけする方向性をとっている。変則チューニングをとりいれたリフと分散和音のコンビネーションはサーストンとリーの専売特許だが、『Rather Ripped』(2006年)のツアーを境にペイヴメント~フリー・キトゥンのマーク・イボルドが加入を経てキムをふくめたトリプル・ギター体制へと編成の選択肢の幅はひろがり『The Eternal』を基礎づける変化となった。前半の3曲はその前段階だが、気心しれた四者のリラックスした音のやりとりからSYというほかないサウンドがたちあがるのが興味深い。反復フレーズを土台に多彩な音色を交換するなかで加速度を増す冒頭の “Basement Contender”、つづく“In & Out” はよく似たムードの対になる2曲だが、前者が2008年当時マサチューセッツ州ノーサンプトンにかまえていたサーストンとキムの自宅地下での録音であるのにたいして、後者は2010年のポモナでのサウンドチェック音源に手を加えたものと、時期的な隔たりがある。一方で『The Eternal』のセッション時のアウトテイクとなる3曲目の “Machine” は先の2曲とは対照的に構成もかたまっておりアルバムに入ってもよかった気もするが陽の目をみなかった。もうひとひねりほしいと判断したと思しいが、ベースレスながら分厚いサウンドは『The Eternal』のみならず、その先の展開までも彷彿させただけに活動休止はなんとももったいない──と嘆息をもらす一方で、形式としてのロックの可能性をためしつづけた30年の道のりには頭がさがるばかり。
 後半の2曲は遠大なSY史において実験性がピークをむかえたころの楽曲で、不動の4人にジム・オルークを加えた布陣による。録音はいずれも2000年、この年SYはアルバム『NYC Ghosts And Flowers』をリリースし『Murray Street』(2002年)、『Sonic Nurse』(2004年)とつづくNY三部作の端緒をひらいた。他方前年の1999年にはケージ、カーデュー、ウォルフ、ライヒ、小野洋子や小杉武久ら20世紀前衛の作品をとりあげた『Goodbye 20th Century』を自主レーベル〈Sonic Youth Records〉から世に問うている。“Social Static” “Out & In” と題した2曲の背後には上記のようなながれがあり、それを反映するようにこの2曲では実験的な要素が前面に出ている。ただし楽曲の出自にはちがいがある。本作中もっともアブストラクトな4曲目の “Social Static” はクリス・ハビブとスペンサー・チュニクによる同名の短編映画のサウンドトラック。私は全編は未見ながら動画共有サイトにアップした抜粋版──大勢の男女が全裸でダイインする──から想像するに、政治的意図をもった実験映画との印象をもった。制作の過程はさだかではないが、おそらくフリーフォームの即興音源(の断片など)を映像にあわせてエディットしたのであろう。スーパー8の質感がノイジーなサウンドにマッチしている。サウンドは出だしこそSYらしさを感じさせるが、楽器の記名性はまもなく後景にしりぞき、中盤以降はピエール・シェフェールとアルヴィン・ルシエをかけあわせてノイズ化したような展開をみせる。つづく “Out & In” はバンド・サウンドではあるものの、前半とはうってかわって、どんよりとした展開にさまざまな音楽的情景が去来する構成をとっている。ともすれば単調になりがちな10分を超える長尺曲を持続させる手法にはスティーヴ・シェリーのドラミングもあいまってクラウトロックを想起するが、SYはさらにそこに音の襞にわけいるような響きをつけくわえる。『Murray Street』に入っていてもおかしくない仕上がりにうなりつつ、このような音源が眠っているなら出し惜しみしないでほしいと思ったのだった。

Soccer Mommy - ele-king

 グラミーにもノミネイトされたことのあるUSのシンガーソングライター、ソフィー・アリソンによるプロジェクト=サッカー・マミーが6月24日に新アルバム『Sometimes, Forever』を発売する。プロデューサーは意外なことに、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー。ポップなロック・サウンドと10年代を代表するエレクトロニック・プロデューサーの組み合わせ、どんな化学反応が起きるのか注目です。

米シンガー・ソングライター、サッカー・マミーがワンオートリックス・ポイント・ネヴァーをプロデューサーに起用した新アルバムから2ndシングルをリリース!
米シンガー・ソングライター、サッカー・マミーが6月24日にリリースする新アルバム『Sometimes, Forever』からの2ndシングル「Unholy Affliction」をリリースしました。この曲は、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーのダニエル・ロパティンをプロデューサーに起用し、サッカー・マミーことソフィー・アリソンが持っている美しいテクスチャーと不穏な雰囲気を同時に表現しています。

ソフィーはシングル「Unholy」について「スタジオでのレコーディングは当初思い描いていたものとは全く違って本当に楽しかった。ダンがデモ・ボーカルでとてもクールなシークエンスを作ってくれて、それが曲の大部分になったの。2つの異なるバージョンの曲が混ざり合っているのも気に入っている」とコメントしています。

“悲しみも幸せも永遠ではない” というアルバムのコンセプトを掲げ、『Sometimes, Forever』は、レトロなサウンド、個人的な動揺、現代社会から影響される障害など、様々なアイディアを統合してオリジナルな作品に仕上げています。アルバム・タイトルの『Sometimes, Forever』は、良い感情も悪い感情も循環しているという考え方にちなんでいます。「悲しみや虚しさは過ぎ去りますが、喜びと同じように必ず戻ってくるのです」とソフィー・アリソンはコメントしています。

ニューウェーブやゴスといったシンセ系のサブジャンルを巧みに取り入れた今作で、ソフィーは彼女のビジョンをサポートするために、プロデューサーにワンオートリックス・ポイント・ネヴァーのダニエル・ロパティンを起用しました。この組み合わせは意外に思われるかもしれませんが、実際に聴いてみると、2人のアーティストが同じような創造性を持っていることがわかります。アルバムでダニエル・ロパティンは無数のシンセサイザーと緻密なアレンジを駆使し、ソフィーが行った素晴らしいライブ・テイクを卓越したスタジオ技術でミックスし壮大な作品に仕上げています。新アルバムは、これまでで最も大胆で冒険的な作品であり、現代のロック・シーンの中で最も才能あるソングライターの一人としてのソフィー・アリソンの地位を確固たるものにするでしょう。

サッカー・マミーは、2020年にグラミー賞にノミネートされ、高い評価を受けた2ndアルバム『color theory』をリリース。このアルバムのリリース後、アリソンはバーニー・サンダースのオープニングを務めるなどして大絶賛を浴び、グラストンベリーなどの大型フェスティバルに出演。『color theory』は、ビルボードチャート「トップ・ニュー・アーティスト・アルバム」と「オルタナティブ・ニュー・アーティスト・アルバム」の2部門で1位を獲得しています。

先行シングル「Shotgun」のMVはこちら
https://youtu.be/I1xOoqD8jkI

[アルバム情報]

アーティスト:Soccer Mommy (サッカー・マミー)
アルバム:Sometimes, Forever (サムタイムス、フォーエヴァー)
レーベル:Loma Vista Recordings
発売日:2022年6月24日(金)

トラックリスト
01 Bones
02 With U
03 Unholy Affliction
04 Shotgun
05 newdemo
06 Darkness Forever
07 Don’t Ask Me
08 Fire in the Driveway
09 Following Eyes
10 Feel It All The Time
11 Still

ストリーミング・リンク:https://found.ee/pGb6O

バイオグラフィー

アメリカ、ナッシュビル育ち、ソフィー・アリソンによるソロ・プロジェクト、サッカー・マミー。Tascamのデジタル・レコーダーを買ってレコーディングした楽曲がBandcamp内でバズが起き始め、いくつかのライブか決定、最終的にはレコードの発売契約とともに、2017年賞賛の声を集めたベッドルーム・レコーディングのコンピレーションへの参加を果たした。その後、ベッドルームを飛び出しフルバンドを率いて、初のスタジオ・アルバム『クリーン』を2018年にリリース。2019年には初来日を果たす。2020年にセカンド・アルバム『color theory』をリリース、ビルボード「トップ・ニュー・アーティスト・アルバム」と「オルタナティブ・ニュー・アーティスト・アルバム」の2部門で1位を獲得。第64グラミー賞「最優秀ボックスセット/スペシャル・リミテッド・エディション・パッケージ」にノミネート。今までスティーヴン・マルクマス、ミツキ、フィービー・ブリジャーズ、ケイシー・マスグレイヴスなどと共にツアーを周っている。

The Smile - ele-king

 昨年より大きな話題を集めていた新バンド、トム・ヨーク、ジョニー・グリーンウッドトム・スキナーからなるザ・スマイルがついにアルバムをリリースする。告知にあわせ、新曲 “Free In The Knowledge (知のなかの自由)” のMVも公開された。
 6月15日に発売される同名のアルバムには、これまで単発で発表されてきた5曲すべてが収録される。プロデューサーはおなじみのナイジェル・ゴドリッチ。フル・ブラス・セクションも参加しているという。どんな作品に仕上がっているのか、楽しみに待っていよう。

The Smile - Free In The Knowledge

THE SMILE
トム・ヨーク×ジョニー・グリーンウッド×トム・スキナー
ザ・スマイル待望のデビュー・アルバム
『A LIGHT FOR ATTRACTING ATTENTION』発売決定!!

レディオヘッドのトム・ヨークとジョニー・グリーンウッド、フローティング・ポインツやムラトゥ・アスタトゥケのバックを務め、現在はサンズ・オブ・ケメットで活躍する天才ドラマー、トム・スキナーによる新バンド、ザ・スマイルが待望のデビュー・アルバム『A Light For Attracting Attention』を〈XL Recordings〉よりリリース。新曲 “Free In The Knowledge” とレオ・リー監督による同曲のMVが公開された。

今回公開された “Free In The Knowledge” は2021年12月にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行われたイベント「Letters Live」の一環として、パンデミック以降初めてトム・ヨークが観客を前に演奏して話題を呼んでいた。ザ・スマイルはこれまでにシングル “You Will Never Work in Television Again”、“The Smoke”、“Skrting On The Surface” を連続リリースし、4月3日に発表された “Pana-vision” は英人気BBCドラマ「ピーキー・ブラインダーズ」の最終回に起用された。

アルバムは5つのシングルを含む全13曲を収録し、盟友ナイジェル・ゴドリッチがプロデュースとミキシングを務め、名匠ボブ・ラドウィッグがマスタリングを担当。収録曲にはロンドン・コンテンポラリー・オーケストラによるストリングスや、バイロン・ウォーレン、テオン&ナサニエル・クロス、チェルシー・カーマイケル、ロバート・スティルマン、ジェイソン・ヤードといった現代のUKジャズ奏者たちによるフル・ブラス・セクションが参加。5月13日(金)にデジタル配信され、日本盤CDは6月15日(水)、輸入盤CD/LPは6月17日(金)に発売。

本作の日本盤CDは高音質UHQCD仕様で解説および歌詞対訳が封入され、ボーナス・トラックを追加収録。輸入盤は通常盤CD/LPに加え、限定イエロー・ヴァイナルが同時リリース。本日より各店にて随時予約がスタートする。

label: BEAT RECORDS / XL RECORDINGS
artist: The Smile
title: Free In The Knowledge
release date: 2022/06/15 WED ON SALE

CD 国内盤
XL1196CDJP
(解説・歌詞対訳付/ボーナストラック追加収録/高音質UHQCD仕様)
2,600円+税

CD 輸入盤
XL1196CD(6/17発売予定)
1,850円+税

LP 限定盤
XL1196LPE(6/17発売予定/限定イエロー)
4,310円+税

LP 輸入盤
XL1196LP(6/17発売予定/通常盤)
2,600円+税

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12758

Sote - ele-king

 いま聴いても名作だと思う。ソテことアタ・エブテカールの前々作『並行ペルシア(Parallel Persia)』は、2010年代末期の見過ごせないリリースのひとつだ。パウウェルの〈Diagonal〉から送り出されたそれは当時、ホーリー・ハーンダンなどと並ぶエレクトロニック・ミュージックの最新型の1枚として注目を集め、高い評価を獲得するに至った。リミキサーにラシャド・ベッカーマーク・フェルのようなヴェテランが配されたことも、同作がどのような流れで受容されたのかをよく物語っている。
 複雑な構造を持つソテの音楽についてはこれまで、クセナキスオウテカフロリアン・ヘッカーロレンツォ・センニなどが引き合いに出されてきた。あまりドラム音を用いず高音部で展開を進めていくところは、たしかに似ているかもしれない(が、シングル曲などではしっかりキックを入れていたりもする)。ちょうど20年前、〈Warp〉からドリルンベース~ブレイクコアのフォロワーとして登場してきた彼は、2010年代、よりハイブロウに寄った電子音楽の領域で再浮上を果たしたのだった(まあオウテカはちょっと文脈が異なるけれど)。

 ただしこれはあくまで彼のいち側面のみを強調した描写にすぎない。ことはそう単純ではない。テヘラン在住の音楽家たるソテ最大の特徴は、それら現代エレクトロニック・ミュージックの尖鋭性をイランの伝統音楽とぶつけるところにある。おもに欧米で発展を遂げた電子音楽と、西アジアの伝統音楽とのあいだで折りあいをつけること──そこにはふたつの対話が潜んでいる。ひとつは「中心」と「周縁」との水平的・地政学的な対話。もうひとつは「現在」と「過去」との垂直的・歴史的なそれだ。
 会合は穏便には済まされず、むしろ爆撃機が去ったあとのような混沌を生み出している。イランの伝統音楽についてぼくはまったくの無知だけれど、その衝突のすさまじさにいつも強く惹きつけられてしまう。彼は無難な異国情緒、雰囲気としての東洋には訴えない。ソテは西洋とアジアを、最新テクノロジーと伝統を喧嘩させてみせる。そこで飛び散った火花の美しい集積が『並行ペルシア』だった。
 混沌は、彼がイランの電子音楽家の第二世代に属することに由来している。テヘラン在住の建築と音楽の研究家、カームヤール・サラヴァティが『The Quietus』に記しているところによれば、旋律やリズム、コンセプトなどを古典音楽にもとめていたのが第一世代で、逆に国際的なネットワークにこそ居場所を見出し、古典音楽からは切り離されているのが第三世代だという(https://thequietus.com/articles/31219-sote-majestic-noise-made-in-beautiful-rotten-iran-review)。どちらか一方に振り切れるのではなく、伝統にも最尖端にもアプローチすること。それが第二世代たるソテのやり方だ。〈Mego〉の故ピタに捧げられた今回の新作『美しくも腐りきったイラン産の厳かなるノイズ』はどうか。

 まず注目しておくべきは最初の2曲だろう。“いないことにされている(Forced Absence)” ではきれいなハープのような音が、容赦なく降り注ぐ弾丸の嵐から逃亡を図っている。つづく “やってはいるんだけど、親父、連絡がつかないんだよ(I'm trying but I can't reach you father)” も過激だ。ミニマルな電子音の反復をバックに、声や笛のような音の断片が全力で駆け抜けていく。どうしようもない切迫感。これら2曲を聴くとやはり「戦争」の二文字を思い浮かべてしまうが、他方それらはどこかヴィデオ・ゲーム的でもある。もしくはネット越しに眺める戦争?
 なんにせよ激しいのはここまでで、3曲め “暮らし/人生(Life)” はメロディにフォーカスし、さびしげではあるもののどこか生を肯定するようなポジティヴな音世界を演出していく。似た情景を出現させる4曲め “不可解な存在(Arcane Existence)” も、もの悲しさのうちに力強さを携えている。本作の制作過程は「自己療法」でもあったという。攻撃的な曲と私的な記憶を喚起させる曲との同居から推すに、これはエイフェックスでいうところの『Drukqs』にあたるアルバムなのかもしれない。
 が、アルバムは中盤以降また異なる表情を見せていく。サイレンのような高音部がやり場のない遠吠えのごとく轟く5曲め “イヌども(Dogs)” や、ベースが不安感を煽りながら昇降する7曲め “苦悶の弦(Strings of Agony)” など、まるでひとつのことばで整理されることを拒むかのような構成だ。この混沌こそ彼の本懐だろう。ソテの音楽は、わかりやすい整理をこそ拒んでいる。
 そもタイトルからしてアンビヴァレントだ。ノイズなのに、威厳に満ちている。美しいのに、腐ってる。今回ソテはあからさまにイランの伝統的な要素を導入しているわけではない。にもかかわらず本作は、西洋やブラックの文脈からはけっして出てこないだろう、特異な電子音楽を打ち鳴らしている。

 革命後のイランでは音楽、とりわけロックが規制されてきた。禁止されているわけではないものの、許可が必要なのだ。やっていい音楽と、ダメな音楽がある。エレクトロニック・ミュージックはどうか? おそらくはその抽象性ゆえだろう、意外なことにほぼ検閲を気にしなくていい状況にあるらしい。先述のサラヴァティによれば、むしろフェスが開催されたり賞が設けられたり、活況を呈しているという。
 とはいえ大学の協力を得て実践されるそれは十中八九、アンダーグラウンドなレイヴとはまた別次元にあるエレクトロニック・ミュージックに違いない。当初ジャングルのリズムを用いてデビューしてきたソテは、そのことについてどう考えているのだろう。ダンスが規制される地で音楽をやるためには、うまくハイ・カルチャーに順応しなければならない? ここにもまた単純な図式からは見えてこない、複雑な事情が横たわっている。
 あるいはこんな話もある。つい最近ロシアに追い抜かれるまで、国際社会からもっとも制裁を食らっていたのはイランだったらしい。二か月前、いったいだれがそんな事実を気にとめただろう? それに、制裁のあおりを受け苦しむのはいつの世も一般人、とりわけ貧者と相場が決まっている。「いないことにされている」ものはたくさんある。
 政治上さまざまな問題を抱えるイランではあるが、ソテの音楽は「正義対悪」のような単純化から百万光年離れている。『美しくも腐りきったイラン産の厳かなるノイズ』が響かせるサウンドの冒険は、世界の難しさをそのまま呈示しようとしているかのようだ。

!!! (Chk Chk Chk) - ele-king

 まもなく新作『Let It Be Blue』のリリースを控えるチック・チック・チックから嬉しいお知らせの到着だ。9月3日(土)と9月4日(日)の2日間にわたって横浜赤レンガ地区野外特設会場で開催されるフェス《LOCAL GREEN FESTIVAL’22》への出演が決定したとのこと。パワフルなライヴで知られる彼ら、パンデミックを経ていったいどんなパフォーマンスを披露してくれるのか。いまから楽しみだ。

史上最狂のディスコ・パンク・バンド
チック・チック・チックが LOCAL GREEN FESTIVAL’22出演決定!!!

待望の最新作『LET IT BE BLUE』は4月29日(金)日本先行発売!!!
数量限定のオリジナルTシャツ付セットや日本語帯付ヴァイナルも発売決定!!!

4月29日(金)に9枚目となる待望の最新アルバム『Let it Be Blue』のリリースを控える史上最狂のディスコ・パンク・バンド、チック・チック・チックが、2022年9月3日(土)、9月4日(日)の2日間に渡り、横浜赤レンガ地区野外特設会場にて開催する「Local Green Festival’22」に出演決定!

アルバムからはこれまでに “Storm Around The World (ft. Maria Uzor)” と “Here's What I Need To Know” の2曲が公開されている。

Storm Around The World (ft. Maria Uzor)
https://youtu.be/PVYddYDjBMc

Here's What I Need To Know (Official Video)
https://youtu.be/k3oKGyATLx4


Local Green Festival’22
開催日程:2022年9月3日(土)、 9月4日(日)
開催場所:横浜赤レンガ地区野外特設会場
主催:ローカルグリーンフェスティバル実行委員会
後援:横浜市文化観光局/スペースシャワーTV/J-WAVE
WEB : https://localgreen.jp/

ダンス・カルチャーを規制したニューヨーク市長に中指を立てた名曲 “Me And Giuliani Down By The School Yard (A True Story)” や、フジロックやソニックマニアを含め世界中の音楽フェスを熱狂させてきた “Must Be The Moon” “One Girl/One Boy” といった大ヒット・アンセム、そして他の追随を許さないパワフルなライヴ・パフォーマンスで知られる彼ら。芸術を作るということにおいて大切なのは、まず自らを奮い立たせ楽しむために、自らを改革し、常に挑戦し続けること。常に挑戦者の気持ちで自分自身の最高傑作を更新すること。チック・チック・チックの歩みを振り返れば、彼らは実に25年にもわたってその姿勢を貫いてきたことがわかるだろう。バンドの9枚目のアルバム『Let it Be Blue』は、その絶え間ない変化の感覚を、未開拓の新たな領域へと導いている。大音量でかけて人々を解放へ導くダンス・ミュージック、そういった類の音楽だ。

長年のコラボレーターであるパトリック・フォードがプロデューサーを務めた本作は、未来のダンスフロアを夢見て、2年間に渡って温められてきたという。その結果生まれた楽曲は、バンドがかつてないほど制作に力を注いだ作品となった。サブベースとドラムビートにあふれ、ダンス~パーティ・ミュージックをゴッタ煮したチック・チック・チック独自のグルーヴが表現されているが、これまでと比べて隙間のある作品となっている。それはバンドにとってエキサイティングな挑戦だった。ニック・オファーが「7、8人のバンドとしてスタートして、これまでは全員ですべてを詰め込んで、できるだけ多くのパーツをはめ込もうとしていた」と語るように、初期作品では音数の多さとある種の複雑さが魅力の一つだったが、今作はより洗練されたプロダクションとなっている。しかし、ミニマルなアプローチだからといって、代名詞のカオティックなエネルギーはまったく失われていないどころかむしろ熱量を増している。レゲトン、アシッド・ハウス、エイサップ・ファーグ、〈Kompakt Records〉作品、スーサイド、アコースティック……といった様々な要素が散りばめられたパンドラの箱のような作品だ。また、このアルバムには、ブルーでメランコリックな一面と希望的な感覚を同時に持ち合わせている。それはアルバム・タイトルにも反映されている。“Let It Be” という悟りではなく、“Let It Be Blue” というのはこれから待ち受ける様々なことを受け入れるという意味が込められている。憂鬱や悲劇は一時的なものであり、物事は過ぎ去る。しかし、何より本作『Let it Be Blue』は、これまで以上に踊り出したくなる作品だ。

チック・チック・チック待望の最新アルバム『Let it Be Blue』は、CDとLPが4月29日に日本先行で発売され、5月6日にデジタル/ストリーミング配信でリリースされる。国内盤CDにはボーナストラック “Fuck It, I'm Done” が収録され、歌詞対訳・解説が封入される。LPはブラック・ヴァイナルの通常盤と、日本語帯・解説書付の限定盤(ブルー・ヴァイナル)で発売される。また国内盤CDと日本語帯付限定盤LPは、オリジナルTシャツ付セットも発売される。

label: Warp Records / Beat Records
artist: !!! (Chk Chk Chk)
title: Let it Be Blue
release: 2022.04.29 FRI ON SALE
2022.05.06 (Digital)

国内盤CD BRC697 ¥2,200+税
解説+歌詞対訳冊子/ボーナストラック追加収録
国内盤CD+Tシャツセット BRC697T ¥6,000+税

帯付限定輸入盤1LP(ブルー・ヴァイナル)
WARPLP339BR
帯付限定輸入盤1LP(ブルー・ヴァイナル)+Tシャツセット
WARPLP339BRT

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12382

TRACK LIST
01. Normal People
02. A Little Bit (More)
03. Storm Around The World (feat. Maria Uzor)
04. Un Puente (feat. Angelica Garcia)
05. Here's What I Need To Know
06. Panama Canal (feat. Meah Pace)
07. Man On The Moon (feat. Meah Pace)
08. Let It Be Blue
09. It's Grey, It's Grey (It's Grey)
10. Crazy Talk
11. This Is Pop 2
12. Fuck It, I'm Done *Bonus Track

Monkey Timers - ele-king

 結成13年、すでにDJ/プロデューサーとして大きなキャリアを有するユニット、来る RAINBOW DISCO CLUB への出演も決まっている Monkey Timers が初のフル・アルバム『KLUBB LONELY』をリリースする。Take と Hisashi から成るこのデュオはDJハーヴィイジャット・ボーイズといったハウス~ディスコ・ダブを音楽的背景に持ち、Force of Nature や瀧見憲司、Keita Sano らの系譜に連なる活動を展開している。
 その記念すべきファースト・アルバムでは、ミックスとマスタリングをチック・チック・チックやアウト・ハッドの創設メンバーとしても知られ、レーベル〈My Rules〉を主宰するジャスティン・ヴァンダーヴォルゲンが担当、アートワークは〈C.E〉の Sk8Thing が手掛けている。アナログ2枚組、発売は4月20日。
 現在、アルバムに先がけリード曲 “That’s The Kind Of Love I’ve Got for You” (ダスティ・スプリングフィールドのカヴァー)が配信中。また、収録曲 “Less” のMVも公開されている。日本産ディスコ・ダブの現在を聴こう。

Monkey Timers が待望のデビュー・アルバム『KLUBB LONELY』を4月20日にリリース! リード・シングル「That’s The Kind Of Love I’ve Got for You featuring Lisa Tomlins」を先行配信。

DJ Harvey~Idjut Boys などが先陣を切ったニューハウス~ディスコ・ダブを源流とするアンダーグラウンド・カルチャーをバックグラウンドに、ダンス・ミュージック・シーンのネクスト・フェイズを切り開くDJ/プロダクション・ユニットとして国内外で支持を集める Monkey Timers が、結成13年目にして待望のフル・アルバム『KLUBB LONELY』を、〈DISKO KLUBB〉と〈Sound Of Vast〉とのコラボレーションによる2枚組アナログ/全世界500枚限定セットでリリース。
Lord Echo や Recloose 作品のヴォーカルでお馴染みの Lisa Tomlins をヴォーカルにフィーチャリングした Dusty Springfield「That’s The Kind Of Love I’ve Got for You」のカヴァーをはじめ、ベルリンを拠点にヨーロッパのシーンをリードする才人 Mr. Ties、ワールドワイドな注目を集める岡山の才能 Keith
Sano、日系アメリカ人の新鋭ヒップホップ・ユニット MIRRROR、DJ Sammo Hung Kam-Bo(思い出野郎Aチーム)、cero、KIRINJI などのサポート・メンバーとして活躍するマリンバ奏者角銅真実など、国内外のヴォーカリスト/プロデューサー/ミュージシャンとのコラボレーションを展開。
ミキシング/マスタリングは Justin Van Der Volgen(MY RULES)。ジャケット・デザインはC.E デザイナー Sk8Thing が手がけている。
Monkey Timers 自身が主宰を務める〈DISKO KLUBB〉とアムステルダム発の日本人主宰レコード・レーベルとして世界中から信頼を集める〈Sound Of Vast〉とのコラボレーション・プロダクトとして限定リリースとなります。

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アルバム発売に先んじて、1978年にリリースされた Dusty Springfield の名曲 “That’s The Kind Of Love I’ve Got for You” のオフィシャル・カヴァー曲を各種サブスクリプション・サーヴィスで先行配信! Lord Echo や Recloose 作品のヴォーカルでお馴染みの Lisa Tomlins をフィーチャリング。

Monkey Timers - That’s The Kind Of Love I’ve Got for You featuring Lisa Tomlins
Link:
https://music.apple.com/jp/album/thats-the-kind-of-love-ive-got-for-you-single/1614239008
https://open.spotify.com/album/3g8eWm4zAhT2OjbV0x3sev?si=b_nZfsQ_TIGgsptCw09XYA

アーティスト: Monkey Timers
タイトル: KLUBB LONELY (Limited Double Vinyl Edition)
レーベル: DISKO KLUBB / Sound Of Vast
フォーマット: 2LP (フルカラーアートワーク / 500枚限定)
税込価格: ¥4,950
発売予定日: 2022年4月20日(水)
Mixing & Mastering by Justin Van Der Volgen (MY RULES)
Artwork by Sk8Thing (C.E)

Track List
A1. Ventura
A2. Less featuring Mr. Ties
A3. Night Clubbing
B1. Hometown featuring Keita Sano
B2. Monk Episode 2
C1. Sick Boy
C2. That’s The Kind Of Love I’ve Got for You featuring Lisa Tomlins
C3. Cold Days, Warm Heart featuring DJ Sammo Hung Kam-Bo & Manami Kakudo
D1. Call Me featuring MiRRROR
D2. Long Vacation
D3. Disko (not Disko)

 初めて聴いたとき、背筋がぞわぞわした。そんな感覚を味わったのは久しぶりだった。ブラジル音楽あるいはフラメンコ、そのどちらでもありどちらでもないような不思議な時間を刻む、ギターにドラム。けれども軸はあくまでインディ・ロック。2019年、アフロなどからの影響をさりげなく、だが斬新にとりいれたグリズリー・ベアの意欲作『Painted Ruins(彩られた廃墟)』の、さらに先を冒険する音楽がここに鳴り響いている。バンド・サウンドのように聞こえるが、これをほぼひとりでつくり上げたというのだからおそろしい。
 アニマル・コレクティヴダーティ・プロジェクターズと並び、00年代後半のブルックリン・シーンを代表するバンドがグリズリー・ベアだ。そこにギタリスト兼ヴォーカリストとして最後に加わったメンバーであり、もともとはデパートメント・オブ・イーグルスでロウファイなサンプリング音楽を実践していたダニエル・ロッセンは、2012年にも一度ソロEP「Silent Hour / Golden Mile(静かな時間/洋々たる前途)」を発表している。それは、第四のメンバーであるはずの彼がじつはグリズリーにおいて大きな役割を果たしていたことに気づかせてくれる、サイケデリックな小品だった。
 それからちょうど10年。時代は変わった。グリズリーも変わった。ロッセンも変わったのだろう。長きインターバルを経てついにお目見えとなるファースト・アルバム『You Belong There(そこがきみの居場所)』はグローバル・ミュージックを独自に消化しつつ、『Painted Ruins』においてもやはり彼の貢献度が高かったことをほのめかしている。と同時に、SNSやトレンドから自由であることがいかに音楽を豊かにするのか、みごとに証明してくれてもいる。
 かねてグリズリー・ベアを愛聴しつづけてきた森は生きているのふたり、ギタリストの岡田拓郎と大分在住のドラマー増村和彦が、ロッセンの新たな旅路を祝福する。

“SNS的なもの” から離れた音楽は可能なのか、という問いが本人の意思はさておき音楽で体現されているように感じました。(岡田)

グリズリー・ベアも含め、『Yellow House』からぜんぶ聴き直して、ダニエル・ロッセンのグリズリーへの貢献度の大きさを感じましたね。それを今回ぜんぶ咀嚼していると思った。(増村)

最初に新作『You Belong Here』を聴いたときの印象はどうでした?

岡田:今回ダニエル・ロッセンが外界とのアクセスやノイズを遮断してつくったというのは音を聴いただけの時点でも感じました。トレンドで溢れている時代に、そこから離れた視点を持つのってなかなか難しいことだと思う。みんなそうありたいけどなかなかできない。ダニエル・ロッセンは、森は生きているのときからずっと大好きで、グリズリー・ベアをいかに我々が学ぶべきかということを増村くんの家のこたつで説法するくらいだった(笑)。だから彼の動きはネットとかでつねに気にしていたけど、あるときぱたりとSNSから消えてしまって。グリズリーの前作『Painted Ruins』以降は、ネット上でもぜんぜん情報が出てこなくなってしまった。一度レコード・ストア・デイに「Deerslayer」というシングルが出たけど、それくらいしか情報がなかった。そこからひさびさの新作になるわけですが、“SNS的なもの” から離れた音楽は可能なのか、という問いが本人の意思はさておき音楽で体現されているように感じました。

増村:なるほど。

岡田:2010年代は音楽のトレンドが出続けていて、サウンドも言説も2010年代後半に向けてどんどん過激になっていった印象があります。そこが面白かったところでもあるけど、逆にそれがキツいと感じるひともいたと思う。それまでグリズリー・ベアのアルバムは『ピッチフォーク』でいつも「ベスト・ニュー・ミュージック」に選ばれていたのに、『Painted Ruins』は7.3点という半端な評価だった。そういう時代のなかで、外界から切り離されたロッセンの音楽が、いまの僕にはすごくクリティカルに響きました。

増村:SNSという視点は思い浮かばなかったけど、やっぱり圧倒的にすごいアルバムでありながら、素朴でリスナーとしては気持ちよく聴ける感じも同居している。それはたぶん、その(SNS的なものから)切り離されたところから来ているんだろうね。ニューメキシコ州のサンタフェに住んでいるらしい。人口6万人くらいの田舎です。

岡田:砂漠地帯みたいなところでしょ。

増村:そうそう。6万人の都市に住んでいる僕としては、ちょっと他人事としては聴けないなと思って。

岡田:ははは、ほんとそうだね(笑)。

増村:今回グリズリー・ベアも含め、『Yellow House』からぜんぶ聴き直して、ダニエル・ロッセンのグリズリーへの貢献度の大きさを感じましたね。それを今回ぜんぶ咀嚼していると思った。それも、トレンドとかではなくて、田舎にいて自分の家庭を背負っていることとかも含めて、メインストリームを全身で経験しているひとが距離を置いたところで制作して、かたちにして出したようなロマンがある。それって渦中にいたらなかなかできる作業ではないのかなと。まあグリズリーはトレンドをつくってきたひとたちでもあるけれど。でも、『Painted Ruins』にはダニエル・ロッセンはそんなに参加してなかったらしいよね。

岡田:参加してないって言ってたけど、じつはごまかしてるんじゃないの(笑)。

増村:今回のアルバムにもやっぱ『Painted Ruins』のビート感はあるよね。

岡田:ビートもだし、和声もすごく由来する感じがした。

増村:『Painted Ruins』にはあんまり参加してないのにバンドの影響が感じられるところも興味深い。もともとの貢献度が高いからそうなるんだろうね。ぜんぶ聴き直したけど、やっぱグリズリーでは『Painted Ruins』がいちばん好きやったな。

岡田:いいアルバムだよね。ビートの感じとかはマスくんがかなり好きそう。

これまでのグリズリーの音楽性が、ロッセンの新作に詰め込まれていると。

増村:たぶんロッセンが自分を振り返ったのかなと。『Painted Ruins』のビート感にはフールズ(ドラムのクリストファー・ベアのソロ・プロジェクト)の感じもあったから。今回のロッセンの新作にもベアが1曲だけ参加してるけど、ほとんどはロッセン自身でドラムを叩いてるんですよ。これがまた、ドラマーとしてはへこむくらいの完成度なんやけど(笑)。

岡田:ははは。

増村:それができたのは、田舎の環境にいるからかなと強く感じました。宅録の音だけど、そこにいまの音が混ざっているようで気持ちよくも聴けるし。

岡田:ドラムとヴォーカルだけ近所のスタジオで録り直したとは言ってたね。

増村:たしかにそういう音だね。

岡田:現代的な音のよさとか関係なく、いい演奏でいい音ってことだよね。

現代的な音って、たとえばどういうのですか?

岡田:たとえばサブスクのプレイリストとかには、この音圧でこういう帯域感で、こうするとプレイリストのなかでもバキッと前に出るみたいな、ある種の音のテンプレがある。そういう音ではなく、ちゃんとダイナミクスがあり、小さいところはちゃんとミクロだなと。もともと音楽ってそうだったはずだけど、それをいまポップスでやるのはなかなか厳しい。それこそメインストリームの商業的な世界にいるひとは、いまさらやろうとも思わないだろうし。プレイリスト的かそうでないかの基準が生まれたことで、ポップスにおけるサウンド・デザインはそれ以前に戻れなくなってしまったという感じはしますね。

ぼくはやはりリズムが面白いなと思ったんですが、そのあたり増村さんはドラマーとしてどう聴きました?

増村:面白かったです。1曲目 “It's A Passage” で小気味よい三拍子のギターから、いきなり攻撃的というか、ドーンと四拍子になったり、イントロでもうやられましたね。あのビートも三拍子と四拍子でおそらくオン・タイムではない。そこも、いまのDAWありきのきっちりしたものから切り離されているというか。全体的にリズムはヴァリエイションがあって、4曲目の “Unpeopled Space” は少しアフロっぽい。

岡田:1曲目のバンドインはほんとうにびっくりした。変なよじれ方というか、わざとなのかわからないようなよじれ方をしている。そういうこと、忘れてたよなって思った。

増村:おそらくバンドで録ったわけではないけど、バンド・アンサンブルでしかできないリズムやBPMの変化のようなものがある。バンドで「せーの!」でやるときの変化。たしかに岡田くんがいうように「音楽ってもともとそうだったよねえ」って思い出させてくれるよね。7曲目はけっこうグリズリーっぽいかも。グリズリーって速いビートが多いじゃないですか。

岡田:迫りくるようなね。

増村:あれは当時けっこう憧れたね。だけど、手法は同じかもしれないけどロッセンのこのアルバムではもっと柔らかく聞こえるから、その変化は面白い。同じようなことをやってるように見えるかもしれないけど、確実に変化はある。まえのソロEP「Silent Hour / Golden Mile」はもうちょっとグリズリーに近い攻撃的なビートだったし、バンドはもうフェラ・クティじゃないけど集団戦のようなイメージで(笑)。今回は以前と同じ感じはありつつも、もうちょっと気持ちよくなれる。そういうリズムの変化は聴いていて楽しかった。マニアックな聴き方だけど(笑)。

ほんのりラテンも入ってますよね。

増村:うん、ありますよね。どこから来てるんだろうと思って、アルバムをぜんぶ聴き直して初めて気づいたけど、『Yellow House』の頃からアフロやラテンを感じる曲はちょこちょこあるんです。それが表に出たのが『Painted Ruins』だった。彼らにジャンルの分け隔てはそもそもないだろうから、今回もそれを感じられたのはよかったですね。「隔てないわー、深いわー、(音楽)詳しいわー」って。

岡田:「詳しい」って(笑)。

増村:だんだんわかってきたけど、ブラジルやラテンのリズムって、もともとほかのものを隔てているわけではないというか。もちろんそれぞれルーツを大事にしてはいるけど、アフリカだからこう、ブラジルだからこうというふうに壁をつくっているわけではない。今回のアルバムはそういう自由さを教えてくれたというか、思い出させてくれた。ラテンっぽさはありつつも、自由なアイディアが結実している。

岡田:あらためて編集感覚がめちゃくちゃすごいなと。(エグベルト・)ジスモンチのような瞬間があったかと思えば、ロビー・バショウとかエルモア・ジェイムズみたいになったりもするし。あるレコードのある箇所のいい瞬間を模倣していき、ヴォキャブラリーを増やしていくというのは当たり前によくあることですが、ダニエル・ロッセンやグリズリーはそれらの楽曲への落とし込み方の解像度は抜群に高いと思います。あと、ダニエル・ロッセンはグリズリー以前にデパートメント・オブ・イーグルスをやっていましたよね。いまのいわゆるロウファイ・ヒップホップじゃなくて、ほんとうにロウファイなヒップホップみたいな感じの。サンプリング以降の世代の編集感覚、サウンド・デザインという点では、そもそも彼自身の出自がサンプリング・ミュージックだったというのはなんとなくつながりを感じました。

増村:デパートメント・オブ・イーグルスの『Cold Nose』では、2曲目の “Sailing by Night” で YMO の “ライディーン” を弾くんだよ。あれはヤバかったなあ。

岡田:ははは(笑)。ほんのり覚えてる。

増村:ヒップホップやクラブ・ミュージックの感覚があって好きだったな。そのあとグリズリー・ベアをやるわけで、だからもともと音楽性の幅は広かったということ。

岡田:うん。グリズリーのファーストはまさにフリーフォークのお手本みたいな感じだからね。だから、どこでビートに向かっていったのかは興味深いよ。ヒップホップ的なビートというより、もっとワールドワイドな方向のビートにね。そういうことをやるひとたちはロック・バンドにはあまりいなかったじゃん。

やはりグリズリーの延長のイメージが強いですか?

増村:延長でもありつつ、ダニエル・ロッセンのソロだと思いました。

岡田:うん。

増村:比較するとしたら、前回の(ロッセンのソロ)EP「Silent Hour / Golden Mile」と比べるほうが面白いかも。

岡田:EPのほうがわりと、8ビートっぽいイメージがあったかな。

増村:“Silent Song” とかね。

岡田:70年代ロックの文脈でいうところの、ポール・マッカートニー的なフィーリングだよね。グリズリーって70年代ロックの文脈では語りづらいけど、ロッセンの「Silent Hour / Golden Mile」にわりとその感じがあるなとは思った。でも全体像的な音を聴くとグリズリーと近いかなと。

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ポップスでフラメンコってけっこう使いどころが難しいなとギタリストとして思う部分はある。フラメンコって絶対フラメンコになっちゃうからね(笑)。フラメンコのオルタナティヴを提示しているというか、こういうフラメンコの使い方があるんだと(岡田)

ダニエル・ロッセンは、バンドが取り入れるべきクラブ・ミュージックのさらに先を行ってるということだね。(増村)

岡田さんはギタリストとして、今作のギターについてはどう思いました?

岡田:12弦ギターのハープのような速いアルペジオって、昔からのダニエル・ロッセンのシグネチャー・サウンドのようなものですが、それはブラジルだったり、それこそジョン・フェイヒィやロビー・バショウなどから由来していると思った。あと “Unpeopled Space” なんかで聴ける、半音ずつ和声を行き来する進行はフラメンコっぽい感じがありますね。カタルーニャ音響派のギタリストでアルバート・ギメンズ(Albert Gimenez)というひとがいるのですが、彼のコンテンポラリーなフィルターを経由したスペイン音楽なんかを思い出しました。ロッセンは若い頃からクラシック音楽やフラメンコの勉強をしていたそうですが、ポップスでフラメンコってけっこう使いどころが難しいなとギタリストとして思う部分はある。フラメンコって絶対フラメンコになっちゃうからね(笑)。フラメンコのオルタナティヴを提示しているというか、こういうフラメンコの使い方があるんだと、ギタリスト的に面白いと感じました。

増村:たしかにフラメンコ感はあって面白かったよね。なんだろう、アメリカーナ・フラメンコ? 8ビート・フラメンコ? どう言えばいいのかわからないけど、ハマってるよなあ。

岡田:アメリカーナ・フラメンコ(笑)。でも、アメリカのジョン・フェイヒィみたいな音楽ってけっこう馬の足が転がるような感じがあるから、フラメンコのビートとまあ似てると言えば似てる(笑)。

増村:なにか通ずるものを発見したんだろうね。その仲介役がジスモンチだったと。

岡田:グリズリーっぽい幾何学的なコード感はやっぱりブラジル由来だと感じます。逆に言うと、グリズリーのその要素はもともとダニエル・ロッセンの力が大きかったんだなと、今回のアルバムを聴いてると思います。あとやはり12弦ギターが、アルバム全体のダイナミクスの指揮者だなって感じる。コントラバスやチェロ、管楽器も自分で弾いてるけど、それらがぜんぶギターに、植物のようにうねりながらまとわりつく感じ。マジでひとりオーケストラですね。そういう絡みつくような流動性を持たせるためにビートがオーガニックだったり。曲自体を生き物のように動かすというのは、このアルバムのアンサンブルの軸にありそう。逆にひとりじゃなきゃこうしたミクロな波の打ち方はできないと思うし、このうねりを出したくてひとりで演奏するのはすごくわかる。

増村:それで思い出したけど、なぜか今作を聴きながらローレル・ヘイローが「サウンドに呼吸をさせるんだ」みたいなことを言っていたのを思い返してた。深いことばだと思いつつ、「どういうことだろ?」と2年くらいまえに思っていた。いまオカちゃんの言ったことに近いのかも。曲を生き物として捉える、みたいな。ギターという軸はありつつ、そこから派生させてかたちにしていくような作業。そういうことなのかな。

岡田:エレクトロニック系のひとはそういう植物~生き物の状態に憧れるだろうからね。エレクトロニックだと、最初は誰が弾いても同じ音しか出ないから。それをいかに自然の状態、生き物の状態に持っていくかって考えるのはすごく理解できる。逆にここ10年、楽器側やバンドのほうはいかにエレクトロニック的にグリッドさせていくかに腐心していた側面もあるし、それがトレンドにもなっていた。だからいまは同じように考えているひとはすごく多いんじゃないかな、僕も、ここ1~2年は音楽を植物的な状態に近づけることをずっと考えていたりする。

増村:ダニエル・ロッセンは、バンドが取り入れるべきクラブ・ミュージックのさらに先を行ってるということだね。

岡田:かもしれない。

増村:たださっきも言ったように隔てがないからね。基本的に楽器を探求するひとでもあるし。

歌詞についてはどうでしょう。

増村:音とすごくリンクしている。自伝……いや自伝って感じはぜんぜんしない。私小説的だね。「You」といいつつそれはじつは自分というか、けっこう私小説的な詞やなと。このサウンドと歌詞のマッチは感動的やったね。

岡田:グリズリーのアルバムが出たあとはしばらく4年くらいぼんやりしていたらしい。4年もぼんやりしているのもすごいけど……(笑)。ただその期間はなにもしてなかったわけではなく、どうやら外界との接触はほどほどに、ひとりでいろんなことを考えていた。このアルバムはその4年間のドキュメンタリーみたいになっている気はするよね。音楽に付随するメガホン的なイシューが多くの場で期待されている時代に、こういうパーソナルでドキュメンタリー的なものが、こじんまりしたサウンドではなく、こういった内宇宙的なサウンドで示されるのはなんだか励まされるよね。

増村:ドキュメンタリーでもありつつ、それが吹っ切れた感じもする。前回のEPの曲の歌詞も読んだけど、あのときはニューヨークのもっと北のほうの田舎にいたらしい。いま住んでいる田舎とは違うから単純な比較はできないけど、そのときは(トレンドの)渦中にいる感じで、離れられない葛藤や田舎を選びつつもどうしても感じてしまうよくない部分が歌詞にあらわれている感じがした。けれど今回は吹っ切れて、田舎の付き合い方も都会の付き合い方もぜんぶ自分のなかでクリアして、「ついにやれるぞ」という決意表明めいたものを感じました。1曲目の最初が「また戻ってきた」で、いまは安定のなかにいて、それは田舎でただリラックスしてるんじゃなくて、「走っていた」頃を思い返す作業も、走ろうと思っても走れなかった時代も経て、ついに準備が整ったということなのかなとか。そういうところが面白かったね。9曲目 “The Last One” には「なんという躁状態/それが僕を適切な状態に保っていた」とあって、たしかになにかをつくるには一種の躁状態が必要で、いまは新たな環境と方法で、その感覚が「次々と戻ってくる」のだとしたら、生き方や創作のあり方の励みになる作品、勇気の出るアルバムだと僕は思いました。

岡田:大事だな。コロナ禍で結局みんなダニエル・ロッセンの住むサンタフェ状態になったからね。

なにかをつくるには一種の躁状態が必要で、いまは新たな環境と方法で、その感覚が「次々と戻ってくる」のだとしたら、生き方や創作のあり方の励みになる作品、勇気の出るアルバムだと僕は思いました。(増村)

自分で演奏できるとか反則だよ。もう「ひとりグリズリー・ベア」だね(笑)。グリズリーのなかでソロをつくっていちばんグリズリーっぽくなるのは、おそらくダニエル・ロッセンだろうね。(岡田)

ちなみに今回おふたりがいちばん好きな曲は?

増村:3曲目の “You Belong There” から4曲目の “Unpeopled Space” の流れがよかったね。

岡田:そこいいよね。カロリー高いってのもあるけど、1曲目から4曲目までの流れはすごい持ってかれた。

増村:5曲目の “Celia” からは「下がる」というか。

岡田:6曲目の “Tangle” もヤバくない?

増村:“Tangle” のドラムはクリストファー・ベア。

岡田:7曲目の “I'll Wait For Your Visit” のドラムも超すごい。このへんは完全にグリズリーを経由してるね。あれを(クリストファー・ベアではなく)自分で演奏できるとか反則だよ。もう「ひとりグリズリー・ベア」だね(笑)。グリズリーのなかでソロをつくっていちばんグリズリーっぽくなるのは、おそらくダニエル・ロッセンだろうね。

増村:そうだよね。ヴォーカルのエドワード・ドロストはファースト・アルバムがあるし、ベースのクリス・テイラーはカント名義でやってるよね。

岡田:カントの『Dreams Come True』は地味だけどすごい好きだったな。

増村:楽に聴けていいよね。グリズリーやこの(ロッセンの)アルバムとはぜんぜん違う。

岡田:カロリー使わないよね。

増村:やっぱ3~4曲目がね、歌詞の流れもすごいよかったんよね。3曲目がすごく詩的で、そこからカロリー高くなって4曲目に移っていく。「都会と田舎」「メインストリームと素朴」のダイナミクスが今回のアルバムのテーマだと仮定したら、3曲目はまだそのはざまにいて、そこから現実を俯瞰できているのが4曲目。

岡田:3曲目は困惑した感じだよね。

増村:アルバムをつくるときはもうすでに吹っ切れていて、思い出したように書いて、あえて困惑していることを表現した可能性もある。そう捉えるとやっぱり私小説みたいで面白い。

岡田:なるほど。アルバムの音自体にパーソナルなこと、かつて困惑したことも入ってると思うけど、この組み上げ方は明らかにつくってるね。なんの迷いもなさそうだもん。

増村:そうそう。テクニックがちゃんと入ってきているのも私小説的ポイント。

岡田:ははは(笑)。デモとか聴いてみたいね。

増村:うん、2014年~2018年のデモを聴いてみたい。すごい怨念がこもってそうで(笑)。

もしこのアルバムの曲をカヴァーするとしたら、どれから手をつけますか。

岡田:どれもやりたくないよね(笑)。

増村:とんでもないアレンジと、パーソナルな歌詞が刻みこまれてるので(笑)。

岡田:もう「語り継ぐ」型のフォークの時代じゃないんだと思う。

増村:名言や……たしかに。

岡田:これは明確に録音物としてあるものです。“Tangle” はやっぱりヤバすぎたな。

増村:ヤバかった、コントラバスがすごいよね。

岡田:うん、あれは怖かった。迫る感じがある。

増村:最後の曲 “Repeat The Pattern” の歌詞に「長く続くものは何でも 最初から同じパターンを繰り返す」とあって。カヴァーしたいっていうか、これはリピートしたい言葉です。そこは語り継いでもいいのかなと思いました(笑)。自分が卑屈になったときに思い出したら元気が出そうだなと。

(構成:小林拓音)

Shintaro Sakamoto - ele-king

 坂本慎太郎の6年ぶり4thアルバムが6月3日(金)にリリースされることを〈zelone records〉が発表した。タイトルは『物語のように(Like A Fable)』。パンデミック以降に書き下ろされた全10曲収録。まさに待望のアルバムだ。
 前作『できれば愛を』同様、坂本慎太郎バンドのメンバーを中心にレコーディングされ、ドラムは菅沼雄太、ベース&コーラスはAYA、そしてサックス&フルートは西内徹。ゲストプレーヤーとして2曲にトロンボーンでKEN KEN(Ken2d Special, Urban Volcano Sounds)が参加。エンジニア/マスタリングは中村宗一郎。早く聴きたい……

全世界デジタル配信と国内CDにて6月3日 (金)にリリース。
CDはアルバム全収録曲のインストヴァージョン10曲入りCDが付いた2枚組。 
アートワークは坂本慎太郎。

坂本慎太郎 (Shintaro Sakamoto)
物語のように (Like A Fable)

zelone records

1. それは違法でした (That Was Illegal)
2. まだ平気? (You Still OK?)
3. 物語のように (Like A Fable)
4. 君には時間がある (You Have Time But I Don’t)
5. 悲しい用事 (Sad Errand)
6. スター (Star)
7. 浮き草 (Floating Weeds)
8. 愛のふとさ (Thickness of Love)
9. ある日のこと (One Day)
10. 恋の行方 (The Whereabouts Of Romance)

Written & Produced by Shintaro Sakamoto

●品番: zel-026
●CD: 価格: ¥2,600+税 (2枚組/インストBONUS CD付)
●Digital (DL/ST)

official HP: www.zelonerecords.com

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