「You me」と一致するもの

Paulius Kilbauskas - ele-king

 まるでスティーヴ・ライヒとデリック・メイを同時に聴いているみたいだ。ガムランの響きに始まり、トライバル・ドラムが絡み、以後も同様な曲が続くものの、ところどころでクラブ・ミュージックのクリシェが面白いようにミニマル・ミュージックに加えられ、ライヒとは異質の高揚感が湧き出してくる。リトアニアにニュー・ウェイヴを紹介してきたゾーナ・レコーズから1年前にリリースされたエディションにオープニング曲を加えた8曲入りがライセンス盤として出回り始めたようで、シンプルな“Space”から始まる構成が余計にそうした演出度を高めてくれる。どこまでいっても低音は響かず、ガムランの音が密度を変化させながら空間性を担保していく。ブラシの抜き差しはどうしてもデリック・メイを強く想起させ、これで影響を受けていないといわれたら嘘でしょうとしかいえない。正月からデザイナーの祖父江慎がデリック・メイで朝の5時まで踊ったというから、余計にそう思えてしまうのかもしれない(なんて……しかし、祖父江さん、何歳よ~)。

 後半はデリック・メイをまさにガムランでカヴァーしていると捉えた感じになっていく。チャカポコという響きがほんとにそれらしく、デトロイト・テクノをここまでオーガニックに聴かせた例はないのではないかと思ったり。“Seven”にはハープ奏者も加わり、瑞々しさは一層増していく。“Space”と”Fire”にはゴングとメタロフォンという楽器で実際にインドネシアのガムラン奏者である通称バロットも参加し、とくに”Fire”は華やかで音が自由に乱舞しまくり(イントロとアウトロでポクポクと打ち鳴らされるのは木魚だろうか)。ぜんぜん知らなかった人なので、調べてみるとパウリウスはどうもリトアニアのギタリストで、リトアニア語をグーグル翻訳で読んだのではっきりしたことはわからなかったけれど、小学校もロクに行かなかったらしく、4弦ギターと出会うことから彼の人生は変わり始めたらしい。93年に結成されて、ドラムとキーボードが死んだために01年に解散せざるを得なくなったエンプティ(Empti)というバンドでプログラムなども手掛けていたそうで、それまではアシッド・ジャズの流れでトリップホップとかブロークン・ビートとカテゴライズされる音楽性を追求していたという(フェスティヴァル・オブ・ワースト・グループで優勝したとも)。ソロ活動は07年に『バンゴ・コレクティヴ』と題されたダンスホールとブレイクビーツを組み合わせたようなアルバムからスタート(これがまたなかなか)。続く『ペピ・トゥリー』(09)ではゲーム音楽、マリウスくんたちと取り組んだ『スタジオ・ジャム』(09)はいわゆるインプロヴィゼイション・ジャズと、音楽的にはなんの脈絡もない。2014年には2枚のサウンドトラック・アルバムを手掛け、それらがロックンロールだったり、現代音楽だったりするのは映画の種類に合わせたものだから仕方がないとしても、ダブリケイトの名義ではハードコアから発達したジャンプスタイルにもチャレンジしているらしく、これは昨年、イタリアのアドヴァンスド・オーディオ・リサーチが『ファースト・グレード』で極めて面白い展開を見せたジャンルとしても気になっていたので、がぜん興味が増してくる。これを2013年にはすでにやっていたとは。『Elements』に通じる作品としては09年の『スケッチ・トゥ・ペインティング』やマーク・マッガイアーをユルくしたような3枚のライヴ・アルバムがオーガニックなギター・アンビエンスを展開していて(『LRTオーパス・オーレ・ライヴ』“Part 2”の前半はベイシック・チャンネル風)、この辺りから少し『Elements』へと通じるものが見えてくる。しかし、決定的だったのは1年間、家族4人でバリに住んだことらしい。それはゴミが燃え、犬が飛び、色が現れる世界だたっという。

 バリで受けた影響は曲名が地水火風に基づいていることや「空気を吹き付けるような音楽を探していた」という表現などニューエイジに向かってもおかしくはないはずなのに、時間がなくてガムランをベースに音楽を組み立てるまでには至らず、ガムランに多大なインスピレーションを受けながらも伝統音楽との間に距離を感じたままのレコーディングとなったらしい。そのことがむしろ幸いしたのだろう。中途半端にクラブ・ミュージックの要素が残ったことが新たな道筋を切り開いたという気がしてしまう。彼はすでに次のアルバムのことも考えていて、ニューエイジに近づきかねない「軽くて明るい音楽」というヴィジョンを語っているから、良かったのはここまでだったということになりかねない恐れはあるものの、この瞬間が素晴らしいことはとにかく間違いがない。

interview with Gang Gang Dance - ele-king

 いまから振り返って、ゼロ年代に盛況を見せたブルックリン・シーンはブッシュ政権に代表されるような強くて横暴なアメリカに対する意識的/無意識的な違和感や抵抗感を放つ磁場として機能していたのではないだろうか。古きアメリカをサウンドや音響の更新でモダンに語り直そうとしたアメリカーナ勢が注目されるいっぽうで、ブルックリンのエクスペリメンタル・ポップ・アクトたちは「非アメリカ」を音にたっぷり注ぎこむというある種わかりやすくアーバンなやり方で旧来的な「アメリカ」に抗したと言える。だとすると、トライバルなリズムと異国の旋律や和声を生かしながら、それをミックスしグツグツと煮詰めてポップにしたギャング・ギャング・ダンスは、ブルックリン・シーンにおける「非アメリカ」を象徴する存在だった。ブルックリンの街の風景がそうであるように、「アメリカ以外」が当たり前に混ざっていることこそが現代の「アメリカ」なのだと。いまでこそ多様性という価値観でマルチ・カルチュラル性を標榜することは浸透したが、当時の内向きな情勢にあって、外の世界を積極的に見ようとした彼らの功績はいま振り返っても大きい。
 10年代に入るとブルックリン・シーンは次第に拡散し、ニューヨークの地価と物価は上がり続けた。金のないアーティストたちはブルックリンを離れ、そして、ギャング・ギャング・ダンスも11年の充実作『アイ・コンタクト』から沈黙した。それぞれソロや別名義の活動を続けつつ、中心メンバーのブライアン・デグロウは山に住居を移して瞑想をしていたという。ニューエイジを聴きながら……。

 ブルックリンという地域性はなくなったものの、当時そこで活躍したインディ・ロック・アクトが近年再び活躍を見せはじめているのは、アメリカの社会情勢の混乱と無関係だとは思わない。他国の音楽をその境界がわからなくなるまでリズムや和声に溶けこませたグリズリー・ベア。あるいは、(現在はブルックリンを離れているという)ダーティ・プロジェクターズの前向きな気持ちが詰まった新作『ランプ・リット・プローズ』も、現在を覆い尽くす恐怖や不安に対抗するものだったという。ブライアン・デグロウはニューヨークの街に戻り、そして、ギャング・ギャング・ダンスは2018年に7年ぶりの作品をついにリリースした。
 そのアルバム、『カズアシタ』はGGDらしいトライバルなリズムとエキゾチックな旋律を持ついっぽうで、ニューエイジ色を非常に強めたものとなっている。近年の都市部でのマインドフルネスの流行を一瞬連想するが、サウンドはもっと深いところで、アルバムを通して瞑想的な平安を希求する。リジー・ボウガツォスの湿り気のある歌が陶酔的な響きを持つ“J-Tree”や“Lotus”、“Young Boy”などには現行のオルタナティヴなR&Bとシンクロするようなポップさがあるが、それも全体の一部として溶けこませるようにサウンドの統一感が演出されている。いくつかのアンビエント・トラックを通して内的世界に潜りこみ、『カズアシタ』は“Slave on The Sorrow”の壮大なサウンドスケープに包まれて何やらエクスタティックに終わりを迎える。
 怒りと怒りがぶつかり合う時代にこそ、GGDはスピリチュアルな探求を選んだ。越境する音が混ざり合うことで得られるピースフルな精神。来る日も来る日も報じられ続ける狂ったニュースに我を失いそうになったら、テレビを消して、インターネットの画面を閉じて、『カズアシタ』の音の揺らぎに身を任せるといいだろう。

※ 以下のインタヴューは、昨年のアルバム発売時におこなわれたものです。

アーティストとか、あんまり金のないひとたちにとっては住みにくいところになったし、すごく金に動かされてる。居住空間が高くなったしね。生活が維持できなくなったんだ。これってニューヨークだけの話じゃなくて、あらゆる場所で起きてることだけど(笑)。

前作『アイ・コンタクト』から本作の間、ブライアンさんがソロを出すなどメンバーそれぞれで活動をされていましたが、あらためてギャング・ギャング・ダンスのアイデンティティについて考えることはありましたか? だとすると、それはどのようなものですか?

ブライアン・デグロウ(Brian Degraw、以下BD):ふむ。僕らは自分たちのサウンドがどんなものか、ある程度意識してると思う。僕らが集まると何をするのか、どういうことが可能なのか。つまり、僕ららしさはつねにあるものなんだ。でも、僕らがそれに頼ってるとは言えない。音楽を作るとき、そういう思考プロセスに頼っているとは思わないからね。より自然なもので、逆にそこに頼らないようにしてるんじゃないかな。たとえば、今回のアルバムはこれまでに比べて前もって考えた部分が大きかったんだけど、とくにこういうサウンドはキープしようとか、そういうのはまったくなかった。たしかに僕ららしいサウンドというのはあるんだろうけど、意図的なものじゃない。だからこそ、それが何か説明できないしね。ギャング・ギャング・ダンスのサウンドの定義なんて絶対できないよ(笑)。

ギャング・ギャング・ダンスとして7年ぶりのアルバムを制作するにあたって、はじめに設定したゴールのようなものはありましたか?

BD:これはきっとほかのどのレコードより、青写真的なものがあったレコードだろうな。普段はそういうものはまったくなしに、そのままスタジオに入って音を鳴らして、何が起こるか見てみようって感じだから。でも今回はそうしなかった。あらかじめどういうレコードにしたいか、よりクリアなアイデアを持っておきたかったんだ。もうちょっと空間があって拡張的なもの、ある意味、よりシンプルなレコードにしたかった。簡単な言い方になっちゃうけど、カオス的なサウンドというよりは、シンプルなレコードだね。そう……落ち着いた、平静なサウンドというか。

本作はリズムよりもサウンド・テクスチャーやメロディに重点があったということですが、逆に言うと、ギャング・ギャング・ダンスにとってリズムのボキャブラリーはすでに身についたという自信の表れでしょうか?

BD:BD:うん、だと思う。あと、いまの音楽のほとんどがリズムをベースにしてる、っていうのとも関係してる。ラジオで流れるようなポピュラー・ミュージックでさえ、多くがリズム中心、ビート・オリエンテッドの曲だったりするよね? ビートを起点にしたエレクトロニック・ミュージックとか。で、僕らには、そのときの流行りがなんであれ、その正反対に行こうとする傾向がある。だから、それも前もって決めたことにかなり関係してると思う。

“( infirma terrae )”や“( birth canal )”のようにインタールード的なアンビエント・トラックが入っている狙いは何でしょうか?

BD:このレコードは、全体をひとつの曲として聴くように作られてるんだ。だから、そういうトラックもレコードのほかの曲と同じくらい重要で。でも、いまの音楽やレーベルのあり方というか、音楽をどう提示するか、っていうところで、レーベルには「レコードとして出すなら、曲を分けてほしい」って言われてね。そうやって見ると、分けるのも可能ではあったし、いくつか独立した曲として出せるものもあった。ただ、君が挙げたようなアンビエントなトラックもあるし、僕にとってはそういう部分こそ、このレコードでいちばんエキサイティングなところなんだ。いつ聴いても僕自身興奮する。まあ、ある意味では曲と曲を繋ぐような役割とも言えるんだけど、僕としてはいちばん聴いてて楽しいんだよね。

アルバム全体で流れがあるいっぽうで、“J-TREE”、“Lotus”、“Young Boy”辺りは独立したポップ・ソングとして完結した強度があるトラックだと思います。ギャング・ギャング・ダンスならいくらでも長尺のジャム・ナンバーが作れると思うのですが、完結したポップ・ソングを作るというのは本作にとって重要でしたか?

BD:僕らはああいう曲、よりポップな曲を作るのも好きなんだ。2005年からはそういうこともやってきたと思う。その頃からはじめたんだけど、それ以前はまったくそういう曲を作ろうとしたこともなかった。純粋に即興で、サウンド・ベースの音楽をやってたから。曲を構築したり、作曲しようとしたりはしてなかったんだ。だから2005年くらいから徐々にはじまって、あるレコードのある部分ではかっちりとした曲を作ろうとしたり、でもほかの部分ではそんなアイデアは捨てて、そうならなくても構わない、って感じだったんじゃないかな。うん、僕らはずっと、いわゆる「ポップ・ソング」を作ることに興味はあった。それがいまのところ、どこまで達成できてるかはわからないけど、ずっとトライはすると思うよ。

そうしたことと関係しているかもしれませんが、“Lotus”や“Young Boy”からはこれまでよりR&Bの要素が聞きとれます。近年のR&Bから刺激を受けるようなことはありましたか?

BD:僕らはこれまでもずっとR&Bに影響されてきた。きっと……90年代あたりからかな。実際、僕ら全員に大きな影響を与えてきたんだ。多くの場合、ある音楽からの影響はメンバーの誰かにはあっても、ほかのメンバーにはなかったりするんだけど、R&Bとヒップホップは僕ら全員が影響としてシェアしてる。ずっと僕らの音楽に影響を与えてきたひとをひとり挙げるとしたら、ティンバランドかな。いっしょに音楽をはじめて以来ずっと彼について話してきたし、リファレンスになってる。ティンバランドと、J・ディラもそう。僕らの話題にずっとあがってきた、ふたりのプロデューサーだね。アリーヤの話もよくするよ。

いっぽうで、“Snake Dub”は本作でももっともエクスペリメンタルなトラックのひとつですが、とくにエディットの緻密さと大胆さに驚かされます。本作のトラックのエディットにおいてもっとも重要なポイントはどういったものでしたか?

BD:“Snake Dub”はかなり最後のほうでできたトラックで。実際、レコード全体の順番、流れを作ってるときだった。その時点で、ほかにもいくつか、レコードに入れるかどうか迷ってるトラックがあったんだ。で、結局、より曲らしい曲を2、3、削ることにした。僕からすると、その時点でレコードとしてのバランスが、ちょっと「曲」、ソングに偏りすぎてたから。もっとルースな抽象性が足りなかった。どんなレコードを作るにせよ、やっぱりそういう部分は欲しいんだよね。だから、レコードの曲順を作ってるとき、最後の段階であのトラックをまとめたんだ。それまでにやってたいろんなインプロヴィゼーションを繋いで、コンピュータでエディットした。それもやっぱり、レコード全体のバランスを考えてやったんだよ。だからエディットの重要性というより、全部をひとつのものとして考えることが第一だった。

よりフィジカルで、ほとんど血管のなかに入って、身体のなかを循環するような感じ。僕にとっては時折、ドローンやアンビエント・ミュージックは僕の体のなかに存在するような気がするんだ。

現在は山のなかで暮らしているということですが、山の暮らしからもっとも学んだことは何でしょう?

BD:いまはまたニューヨーク・シティに戻ってきてるんだ。どうかな、ほんとにいろんなことを学んだから。ひとつだけ挙げるのは難しいよ。僕はたくさんのことを学んだんだ(笑)。そのほとんどは……うまく言えないけど、いまの僕が生活に対してどうアプローチするようになったかに関わってる。いろんな点で前とは違うんだ。山で暮らすことで、自分の優先順位について考える余地ができたから。僕自身や自分のアートにおいて、何にフォーカスしたいのか。生き方そのものについても考え直したしね。振り返ると、そういうことを僕は一度も考えてこなかったんだよ。長く街中で暮らして、とにかく前に進むことばっかり考えて、立ち止まることがなかった。「何が自分を幸せにするのか」さえ考えてなかったんだ(笑)。ちゃんと自分のこともケアしなかったし、健康にも気をつけてなかったし。だから、音楽やアート以外のこと、それまでネグレクトしてたことを考えられる機会になった。料理やサステイナブルな家、サステイナブルな生活みたいな、ほかの興味にもゆっくり時間をかけられたし、ガーデニングにもかなり夢中になった。だから、いまの僕には音楽やアートの領域以外にも、大事なことがたくさんできたんだ。

いっぽうで、ニューヨークの街はどうでしょう? 前作『アイ・コンタクト』の頃からとくに変わったと感じられることはありますか?

BD:実際、また街に戻って適応するのがかなり大変だったんだよね。最初は時間がかかった。いまはだいじょうぶだけど。前といちばん違うのは、いまは自分のアート・スタジオがあること。長い間住んでたのに、ずっとアート・スタジオを持ってなかったんだ。でもいまはアート・スタジオも音楽スタジオも持ってる。そういう空間があると、僕はずっとクリアにものが考えられる。でも最初に都市を離れて田舎に住もうと決めたときは、そういう場所がなかったんだ。だから、心の平安を見つけるのが難しかった。いまは自分がそこに行って、ちょっとしたものを作れるような空間があれば、街でももっといい生活が送れるんだ、っていうのを発見してるところ。以前はそういう場所がなかったからね。前の僕は小さなアパートメントで暮らして、落ち着かなくなって外に出たら、街中はもっとクレイジーだったりした。でもいまはスタジオ用の部屋があって、そこで落ち着いて考えたり、何か作ったりできる。実際、静かだしね。

通訳:街のほうも変わりましたか?

BD:うん。前とは違うタイプのひとたちが住んでる。ニューヨークはアーティストとか、あんまり金のないひとたちにとっては住みにくいところになったし、すごく金に動かされてる。居住空間が高くなったしね。もちろん、よくなったところもある。ある意味クリーンになったし……まあ、僕はときどき、30年前のクリーンじゃないニューヨークが懐かしくなるけど。でもやっぱり、一番変わったのは物価やコストだろうな。それでアーティストが押し出されて、僕を含め大勢が北部や田舎のほうに引っ越していった。生活が維持できなくなったんだ。とはいえ、これってニューヨークだけの話じゃなくて、あらゆる場所で起きてることだけど(笑)。

[[SplitPage]]

いまってものすごくクレイジーな時代だから、みんなネガティヴになりがちだし、すぐ「もう希望なんてない」って考えてしまうだろう? でも僕は、希望はあると思うんだ。

最近は瞑想に使われるアンビエントやニューエイジ、インド音楽などをよく聴いていたということですが、これらの音楽のどのようなところが面白く感じられたのでしょうか?

BD:まあ、僕としては瞑想するために聴いてたんだ。で、うまく言えないけど、僕にとっては音楽というより非音楽的なものになったっていうか、感覚に訴えるフリーケンシー、周波数になったんだよね。よりフィジカルで、ほとんど血管のなかに入って、身体のなかを循環するような感じ。僕がそれほどアンビエントじゃない音楽、たとえばポップ・ミュージック寄りの音楽を聴くときには、必ずしもそういうふうには消化しない。全然受け入れ方が違うんだよ。そういうタイプの音楽は、自分の外側にあるように思い描く。僕にとっては時折、ドローンやアンビエント・ミュージックは僕の体のなかに存在するような気がするんだ。

『カズアシタ』にはスピリチュアリティが入っていると言えますか?(通訳註:スピリチュアリズムは英語で心霊主義の意味になるので、こう訊きました)

BD:僕としては、聴くひとがそう解釈するなら嬉しいけどね(笑)。僕にとってはスピリチュアルなレコードだから。僕が聴く音楽のマジョリティは、ニューエイジ音楽と分類されるような音楽だったりもする。だから、そういうふうに聴いてもらえるのはポジティヴだと思う。スピリチュアルな効果があるといいよね。それは、さっき言った「自分の体のなかにある音楽」ってことでもあるし。あと、このレコードのナラティヴがそうなんだ。僕にはほかのレコードよりスピリチュアルっていうか……いや、違うな。いまのは言うべきじゃなかった。どのレコードも僕にとってはスピリチュアルなんだけど、今回はナラティヴがよりスピリチュアルな領域に入っていく。ほかのレコードよりね。とくにエンディングがそうなってると思う。

印象的なジャケットのアートワークについて教えてください。SF映画のヴィジュアルを連想させますが、これは本作とどのように関わっているのでしょうか?

BD:あの写真は友人のデヴィッド・シェリーのイメージなんだ。彼は素晴らしい風景写真家で、あれはアメリカの北西部、オレゴンの沿岸で撮った写真なんだよ。うん、僕があのイメージを好きなのは、SFというよりは、世界の終わりであり、世界のはじまりでもあるようなところ。あのイメージには二重性がある気がするんだ。世界の終わり、もしくは始まりであって、同時にその両方でもあるような。その意味で奇妙なフィーリングがある写真なんだよね、僕にとっては。うまく説明できないんだけど……自分でもそのどっちかがわからない。そこが好きなんだ。

サウンド的にもSF映画のスコアを連想させる部分があると感じましたが、『カズアシタ』にSF映画やSF小説からの影響はありますか?

BD:サイエンス・フィクションではないけど、このレコードを映画のスコアとしては考えてたよ。作ってるときには、僕自身ずっと「映画」として話してたんだ(笑)。僕には映画として見えるレコードだから。聴いてると、映画のなかにいるのが想像できる。実際、いまもこのレコードに合わせた長編映画のプロジェクトを手がけてるところなんだ。そういう意味でも、これはとても映画的なレコードだね。

『カズアシタ』というアルバム・タイトルは(元メンバーの)タカ・イマムラの子どもの名前にちなんでいるそうですが、曲単位では“Kazuashita”や“Young Boy”に子どもが登場します。子どもの存在はこのアルバムのテーマに関係していますか?

BD:それも、この映画のナラティヴに関係してる。いくつか理由はあると思うけど、ひとつは僕らの年齢だよね。僕らの友人がみんな親になった。子どもを持つようになったんだ(笑)。だから周りに子どもたちがいて、それがレコードに影響を与えてる。周りで次々赤ん坊が生まれて……僕ら自身には子どもがいないんだけど、ここ数年で周りの友人に子どもが生まれたんだよ。で、周りにいる小さい子たちのことを考えるようになった。レコードのナラティヴに関して言うと、曲の“Kazuashita”はタカの子どもがこの世界に生まれたことであり、最終的にはいまのクレイジーで混乱した世界を指し示してる。彼がはじめてその世界を旅してるんだ。だからこそあの曲は“Kazuashita”っていうタイトルだし、“birth canal”っていう曲は彼が生まれる直前、母親の胎内から産道(birth canal)を通ってるところを描いてる。カズアシタが外界に出てこようとしてるんだ。で、“Young Boy”はまた別の話で。あれはリズが書いた曲。ここ数年アメリカで、若者たちに沈黙が向けられてることについて彼女が書いたんだ。

みんなに落ち着いてほしかったんだよ(笑)。攻撃に対して、さらなる攻撃で返したくなかった。むしろ静かな感覚を作り出すことで、カオスに対抗したかったんだよね。聴くひとを助けるっていうか、激しさを鎮めて、混乱を少なくしたくて。

ラストの“Slave on The Sorrow”は非常にスケール感の大きなナンバーで、歌詞も希望を暗示するものになっていると思います。この曲を最後に置いたのはなぜでしょうか?

BD:それはやっぱり、希望があるからだよね。僕はこのレコードをネガティヴな感じで終わらせたくなかった。また別のレイヤーが次に開かれていくような感じにしたかったんだ。世界の次のフェイズにね。だから希望があるし、ポジティヴだし。というのも、いまってものすごくクレイジーな時代だから、みんなネガティヴになりがちだし、すぐ「もう希望なんてない」って考えてしまうだろう? でも僕は、希望はあると思うんだ。僕はこのレコードで、いま起こっていることのあらゆるネガティヴな側面に目を向けたかった。でも最後に希望のある形で締めくくるのは、僕らにとってすごく重要だったんだ。「このフェイズを乗り越えるんだ」って感じられるようにね。この政治的な混乱やドナルド・トランプを乗り越えて、最後には光が見えてくる──っていうフィーリングにしたかった。新しい考え方や、新しい空気が開けてくるんだよ。

ギャング・ギャング・ダンスの音楽はつねに、さまざまな地域の音楽性を越境し、ミックスするものでした。『カズアシタ』にも、そうした多様な音楽性が前提として共存しています。いっぽうで現在、トランプ政権に代表するように、世界が内向きになっている傾向がありますが、そんななか、越境的な音楽はそのような(内向きの)ムードに対抗する力を持てると考えますか?

BD:持てればいいよね。そうあってほしい。これまで僕が話してきたいろんなひとたち、インタヴュアーやこのレコードについて書いてくれたライターのひとたちに関して言えば、そういう効果があったみたいだし。僕にはそう感じられる。それに、そこは僕らのゴールのひとつでもあったんだ。ある意味、落ち着いた感覚を作りだすことがね。このレコード全体がひとつの曲、ひとつのピースである理由もそこにある。アイデアとしては「我慢強くあること」っていうのかな。途中で気を逸らすことなく、最後まで見通すこと。少なくとも、そういうふうに聴いてほしいんだ。何かほかのことをしながら、次々早送りにしたりするんじゃなくて、ちょっとくつろげる場所を見つけて、最初から最後まで聴いてほしい。映画を観るようにね。映画観るときって、みんな途中で別のこと始めたり、バックグラウンドで映画を流したりすることってあんまりないだろう? だから、このレコードもみんなリラックスして聴いて、自分の中に取り込んで、ちょっとした旅に出るような気持ちになってほしい。そう、このあいだ別のインタヴューでも話したんだけど……ちょっと似たような質問が出て。そのときに言ったんだけど、いまみたいな政治的、社会的な状況下だと、音楽もそれと同じリアクションになってしまうことが多いよね。「これだけ社会が怒りに溢れてるんだから、こっちも怒りのある音楽、攻撃的な音楽を作るべきだ」みたいな。でも、僕はそうしたくなかった。そういうとき僕が聴きたかったのは、それとは正反対の音楽だったんだ。みんなに落ち着いてほしかったんだよ(笑)。攻撃に対して、さらなる攻撃で返したくなかった。むしろ静かな感覚を作り出すことで、カオスに対抗したかったんだよね。聴くひとを助けるっていうか、激しさを鎮めて、混乱を少なくしたくて。そういうふうにこのレコードが作用するといいなと思う。

通訳:毎日の生活でもそうですよね。私もニュースを見てものすごく怒ったりするんですけど、それがどんどんエスカレートするような感覚があります。

BD:そう、怒りって伝染するんだよ。怒ったひとたちはそのエナジーを君に投げつけて、怒りやすい環境を作りだす。それは、まさに君を怒らせるためだったりもするんだ。だからこそ、それを思い出して、まったく逆の方向に進まなきゃいけない。他人の攻撃に対抗するタイプの攻撃、アグレッションでは何も成し遂げられないからね。

STUMM433 - ele-king

 こ、これはすごい。昨年より続いている〈MUTE〉のレーベル設立40周年企画、ついにそのメインとなるプロジェクト「STUMM433」が発表されることとなった。ジョン・ケイジの“4分33秒”を〈MUTE〉ゆかりの50組以上のアーティストがそれぞれの解釈で演奏するという内容なのだけれど(ケイジが何をやった人なのかについては、まもなく刊行される松村正人『前衛音楽入門』を参照のこと)、とにかく参加面子がすごいったらない。詳細は下記よりご確認いただきたいが、ア・サートゥン・レイシオ、キャバレー・ヴォルテール、ノイバウテン、去年ともに佳作を発表したクリス・カーターイルミン・シュミット、まもなく 1st がリイシューされるマーク・ステュワート、さらにはデペッシュ・モードやニュー・オーダーまで! 昨年レインコーツのアナ・ダ・シルヴァとの共作を送り出した Phew も参加しています。同プロジェクトの第一弾として現在、ライバッハのムーヴィーが公開中。それらの映像作品を集めたボックス・セットは5月にリリース予定です。

〈MUTE〉レーベル設立40周年企画のメイン・プロジェクト発表!
ジョン・ケージの歴史的作品「4分33秒」を、独自解釈で演奏した映像作品を集めたボックス・セットを今年5月に発売!
ニュー・オーダー、デペッシュ・モードなど、50組以上のレーベル関連アーティストが参加!
第一弾としてライバッハによる映像作品を公開!

「僕らがどこにいようとも、聞こえてくるのはほとんどがノイズなんだ」 ──ジョン・ケージ

〈MUTE〉は、レーベル設立40周年企画「MUTE 4.0 (1978 > TOMORROW) シリーズ」のメイン・プロジェクト「STUMM433」を発表した。
50組以上のレーベル関連アーティストによる新たな作品を集めたボックス・セット「STUMM433」を今年5月に発売することとなった。

レーベル創始者ダニエル・ミラーのプロジェクトでありレーベル第一弾アーティストのザ・ノーマルから、ニュー・オーダー、デペッシュ・モード、そして最新アーティスト K Á R Y Y N (カーリーン)に至るまで、まさに過去・現在・未来の50組以上のアーティストがこのプロジェクトに作品を提供する。また、ポスト・パンク時代の歴史的作品を今月25日に再発するマーク・スチュワートや、〈MUTE〉からアルバム『Our Likeness』(1992年)を発売したPhewも参加する。

内容は、全てのアーティストがそれぞれひとつの楽曲を独自の解釈を持って披露するというもの。その1曲とはジョン・ケージの歴史的な1曲、「4分33秒」である。「4分33秒」はあらゆる現代音楽の中でも最も重要な作品のひとつとされている。発表されたのは1952年で、この曲はあらゆる楽器、もしくはあらゆる楽器構成で披露することができる作品である。というのもこの曲の譜面は、一人の奏者、もしくは奏者たちが演奏時間内(4分33秒)に一切自分の楽器を演奏しないことを記している。初披露されたときはもとより、いまでも挑戦的で前代未聞とされるこの作品は、静寂、サウンド、作曲、そして聞くという一般概念を完璧なまでに変えてしまったのだ。

ダニエル・ミラー(レーベル創始者)はこのプロジェクトに関して次のように語っている。「ジョン・ケージの“4分33秒”は自分の音楽人生の中で長い間、重要で刺激を受けた楽曲としてずっと存在していたんだ。〈MUTE〉のアーティストたちがこの曲を独自の解釈でそれぞれやったらどうなんだろう? というアイデアは、実はサイモン・フィッシャー・ターナーと話してるときに浮かんだんだよ。私は即座に、これを〈MUTE〉のレーベル40周年を記念する《MUTE 4.0 (1978 > TOMORROW) 》シリーズでやったら完璧じゃないか、と思ったんだよ」。

このプロジェクトの第一弾としてライバッハが作品を披露した。ザグレブにある HDLU's バット・ギャラリー・スペースでおこなわれたインスタレーション「Chess Game For For」開催中に撮影・録音され、クロアチアのパフォーマンス・アーティストのヴラスタ・デリマーとスロヴェニア製の特製空宙ターンテーブルをフィーチャーした作品だ。

ライバッハ「4分33秒」映像リンク
https://youtu.be/mM90X-9m_Zc

この作品から発生する純利益は英国耳鳴協会とミュージック・マインド・マターへ寄付される。この団体が選ばれた理由として、インスパイラル・カーペッツの創設メンバーでもあるクレイグ・ギルが、自身の耳鳴りの影響による心身の不安から不慮の死を遂げたことが挙げられている。このボックス・セットは2019年5月にリリース予定、詳細はここ数ヶ月後にアップデートされていく。

「STUMM433」参加アーティスト一覧

A Certain Ratio, A.C. Marias, ADULT., The Afghan Whigs, Alexander Balanescu, Barry Adamson, Ben Frost, Bruce Gilbert, Cabaret Voltaire, Carter Tutti Void, Chris Carter, Chris Liebing, Cold Specks, Daniel Blumberg, Depeche Mode, Duet Emmo, Echoboy, Einstürzende Neubauten, Erasure, Fad Gadget (tribute), Goldfrapp, He Said, Irmin Schmidt, Josh T. Pearson, K Á R Y Y N, Komputer, Laibach, Land Observations, Lee Ranaldo, Liars, Looper, Lost Under Heaven, Maps, Mark Stewart, Michael Gira, Mick Harvey, Miranda Sex Garden, Moby, Modey Lemon, Mountaineers, New Order, Nitzer Ebb, NON, Nonpareils, The Normal, onDeadWaves, Phew, Pink Grease, Pole, Polly Scattergood, Renegade Soundwave, Richard Hawley, ShadowParty, Silicon Teens, Simon Fisher Turner, The Warlocks, Wire, Yann Tiersen

MUTE 4.0 (1978 > TOMORROW) シリーズ
https://trafficjpn.com/news/mute40/

MUTE関連情報
1) マーク・スチュワート(ex. ザ・ポップ・グループ)の歴史的デビュー作が、 新たに発掘された10曲の未発表曲を加えた決定版として1/25に再発!
https://trafficjpn.com/news/ms/

長袖Tシャツ付き限定盤も予約受付開始!
https://bit.ly/2TKcCLO

2) ウィンター・セール開催中! 〈MUTE〉作品(ニュー・オーダー、CAN、スワンズ、キャバレー・ヴォルテール、アルカ等)のウィンター・セール開催中!
国内盤CD:1,500円、輸入盤LP:1,300円、輸入盤CD:1,000円など(税別)。お見逃しなく!
https://bit.ly/2TKcCLO

mute.com


Big Joanie - ele-king

 なんとまあ、伸び伸びとした演奏だろうか。「ダーシーキシャツ(アフリカの民族衣装)を着て80年代DIYとriot grrrlを通過したロネッツ」、彼女たちは自らをこう表現している。たしかにビッグ・ジョーニーはジーザス&メリー・チェインとロネッツの溝を埋めるかのようだし、曲によってはニュー・オーダーめいたエレクトロ・ロックだし、あるいは初期のレインコーツみたいだし、アルバムの最後にはバラードまでやっている。ロンドンの移民の娘っこ3人。アルバムには3分ほどの曲が11曲。ラップもないし、R&Bもない。トレンディではないどころか、ある意味黒人らしくもない。そういう意味では、オールド・ファッションでもないしステロタイプでもない。ドラマーのシャーダインは、初期ジーザス&メリー・チェインのように立ってドラムを叩いている。ひと昔前なら、不健康そうに前髪を長く垂らして黒いコートを着て白人の若者がやっていたような音楽を彼女たちはやっている。だからどうしたというわけではない。そもそも今日では、時代錯誤とはタイムリーを意味するし、パンクでありダンス・ミュージックでもあるビッグ・ジョーニーの溌剌とした『シスターズ』がただ素晴らしいというだけのことである。

 「ブラック、フェミニストそしてシスター・パンク」これがビッグ・ジョーニーのモットーだ。それだけ聞くと、ああ、なるほど、わかったようなわからないような、しかし漠然としたイメージは生まれる。「ブラック、フェミニストそしてシスター・パンク」──なるほど。じっさい彼女たちはアナキスト系のDIYスペースに関わっているそうだが、ビッグ・ジョーニーにはTLCのヒット曲“ノー・スクラブ”(デスティニーズ・チャイルドの“ビルズ・ビルズ・ビルズ”とならぶ、現世的な男を見下す生意気娘系の曲として知られる)をカヴァーするくらいの余裕と茶目っ気がある。ミソジニーや階級社会を風刺したポリティカルな歌詞を歌っているらしいのだが、彼女たちの曲はポップスとして成り立っているし、なんといっても堂々とやりたいことをやっている感じが良い。スリーフォード・モッズよりは育ちが良さそうだが(まあ、バンドをやれるくらいだし?)、彼らと同じように流行りに流されている感/やらされている感はない。それは歯並びが良くスマートな体型のアメリカやインスタ文化(などと偉そうに言っているがあまりよくわかってない)が、結果として抑え込んでいるものを解放するかもしれない。君は君自身のままでいいんだよっていうふうにね。

 ささやかな一撃だが、これが時代に馴染めないひとたちを勇気づけて、未来のためのきっかけになることは大いにありえる。2018年の暮れに、ビッグ・ジョーニーのデビュー・アルバム『シスターズ』がサーストン・ムーアのレーベルからリリースされた(レコードにはブックレットが付いている)。

BOOMBOX&TAPES - ele-king

 時代の速度は速い。20年前は可能性のかたまりみたいに賞揚されてきたデジタル・メディア、いまみなさんが見ているインターネットも、いまではフェイクだ宣伝だバイトニュース(アクセス数稼ぎの扇情的な見出し)だ、とか、眼精疲労にもなるし精神的にも中毒性が高いなどなど、むしろバッドな側面のほうが露呈している始末。そんななかでアナログに脚光が当たるのも無理もないというか。カセットテープ愛好家のための同人誌が刊行されました。同人誌といっても、『BOOMBOX&TAPES』(へのへのもへじPRESS刊)。はA4判型/40ページフルカラーのゴージャスな作り。カセット・テープおよびカセットデッキの紹介があり素敵な写真があり、愛好家たちのインタヴュー記事があります。文字も詰まっているし、ヴィジュアルも豊富で、読ませて見せますよ! 限定500部で、すでにけっこう売れているそうなので、うかうかしていると売り切れてしまうかも。
 ele-kingがカセットに着目したのはちょうどいまから10年ほどまえのUSのインディ・シーンがきっかでした。〈Not Not Fun〉のようなレーベルががしがしカセット作品を出してたし、で、しばらくするとヴェイパーウェイヴが出てきてカセット作品&フリー配信というリリース形態を確立しましたよね。まだまだカセットが衝撃だった時代だけど、いまじゃすっかり普及したというか、アナログ盤ほどじゃないにせよ、少なくともVHSビデオカセットや2HDフロッピーよりは(笑)、ほぼ選択肢のひとつとして定着している感はある。じつはあの当時、カセット作品を聴くためにTAEACのカセットデッキを中古で買ったんですけど、数年まえに壊れてしまったしまったんですよね。買い換えようと思っているうちに、中古のカセットデッキも値上がってしまったみたいで、ぼくはもう1台小さいのを持っているからいいんですけど、カセットの良さってやっぱ音質ですよね。あの音質は、ギガバイトの世界にはないので、音好きのひとはカセット聴いて下さい。新しい世界が広がりますよ~。

へのへのもへじ同人誌
猟奇偏愛同人誌(FUNZINE ABOUT SUPER STRANGE LOVE)
創刊号:BOOMBOX&TAPES
価格 : ¥1,500YEN+TAX(500部限定)


【Featuring】松崎 順一(Design Underground代表)/MAMMOTH(日本シンセサイザーノイズHOPグループ)/Geoff Johnson(ラジカセDr.)/五十嵐 慎太郎(MASTERED HISSNOISE代表)/角田 太郎(waltzオーナー)/赤石 悠(toosmell records代表)/糸矢 禅(LIBRARY RECORDS代表)/草野 象(ON SUNDAYSマネージャー)
【2018年11月12日発売/500部限定/日英バイリンガル原稿】
【体裁】A4オールカラー44ページ(オフセット印刷、無線綴じ)

西暦2018年XXX日本。
マーケティングビジネス、ファストファッション、コンビニ、巨大モールが疫病のように蔓延。かっての拘りのある個性ある店や、その良し悪しを教えてくれたちょっと怖い憧れの店員さんは絶滅し、当たり障りの無いお決まりの接客の顔なしのような店員が大量増殖。その結果、我々の審美眼、美意識、パッションは失われ、優秀な人材は海外に流出する始末...。
その一方で。
入手困難、高額、かさばる、不便、手間がかる無用の長物に価値を見出し、その魅力に憑かれてしまった偏愛家と呼ばれる方々がいる。
我々へのへのもへじPRESSは、
憂いを持って、
現状の日本に対するアンチテーゼとして、
御意見無用!の偏愛家たちのパッションとアティチュード、その物の価値体系を記録する同人誌を創刊する事にした。
記念すべき創刊号はカセットテープとラジカセの偏愛について。
カセットデッキにお気に入りのミックステープを突っ込んで、のんびりとご覧下さい。
その心意気はスペインの諺よろしく
「優雅な生活が最高の復讐である」
でどうぞ夜露死苦。

2018 A.D. XXX JAPAN.
Manual marketing business, fast fashion, convenience stores and giant shopping malls plague the landscape.
Shops with originality have all disappeared with knowledgeable enthusiastic sales staff. They are all replaced by faceless robots who just repeat their routine work.
With them, sense of beauty and passion for good taste are all lost. Gone are the talents who can tell what is good and beautiful.
On the other hand…we know there are ‘’maniacs’’ who cannot help seeing charm and beauty in useless, hard to find, rare and pricey, bulky and inconvenient stuff.
We are launching a fanzine titled HENOHENOMOHEJI-PRESS for those maniacs who don’t give a damn to the mainstream rubbish culture. It is an antithesis to the dominant depressing cultural landscape. Our zine is aimed to record the passion, attitudes and values of the fringe maniacs, just like you.
Our first issue features quirky love for cassette tapes and boom box. Play your favorite compilation tape on your boom box to get the max out of the zine!
As they say in Spain, our motto is ‘’an elegant life is the best revenge’’.
Enjoy your elegant life.


■現在の全国販売協力店 14店舗
@museumshop_onsundays (東京/外苑前)
@hmvrecordshop_shibuya (東京/渋谷)
@giftlabgarage (東京/清澄白河)
@toosmellrecords (東京/吉祥寺)
@eadrecord (東京/高円寺)
@newport054 (静岡)
@theapartmentstore.jp(名古屋)
@storeinfactory (名古屋)
@liverary_extra (名古屋)
@c7cgalleryandshop (名古屋)
@library_records (富山)
@eyejackdesignstudio (広島)
@ongakushokudo_ondo (広島)
@shimacoya (香川県直島)

Mira Calix - ele-king

 ミラ・カリックス――紙エレ23号でも少しだけ触れたけれど、彼女はとてもおもしろいアーティストだ。90年代半ばにエレクトロニカの文脈から浮上してきた彼女は、2000年に『One On One』という良作を残し、その後ゼロ年代には現代音楽をおもなレパートリーとするロンドン・シンフォニエッタや、昨年アルバムをリリースしたオリヴァー・コーツ、そしてなんと虫たち(文字どおり虫です)と共演。以降も映画や演劇のスコア、インスタレイションなどをつうじて精力的に活動を続けてきた。
 そんな彼女が久しぶりにフィジカル作品を発表する。〈Warp〉からのリリースは2008年の『The Elephant In The Room』以来じつに10年ぶりだが、公開された新曲“rightclick”は予想以上に低音が効いていて、初期ともゼロ年代とも異なる趣を携えている。これは早くほかの曲も聴きたいですね。ミラ・カリックスの新作EP「utopia」は1月25日、10インチ・ヴァイナルとデジタルにて発売。

mira calix

〈WARP〉初期より活躍する才女、ミラ・カリックスが〈WARP〉からは10年ぶりとなるEPのリリースが決定! 新曲“rightclick”のMVが解禁!

レディオヘッドのサポートアクトへの抜擢やボーズ・オブ・カナダのリミックスなどで話題を呼び、初期より〈WARP〉の屋台骨的な活躍をしてきたミラ・カリックス。〈WARP〉からは10年ぶりとなるEP、「utopia」が1月25日に発売されることが決定し、同時にEPに収録される楽曲“rightclick”のMVが公開された。

mira calix - rightclick
https://www.youtube.com/watch?v=w1mZWs1Neis

このEP制作のように、自分にタイム・リミットや厳しいルール、幅の狭い音の種類を与えること、ライター、プロデューサー、ミュージシャンとして完全に自主的に取り組むことはとても新鮮だった。それはある意味で自分のルーツ、〈WARP〉から初めて10インチのヴァイナルをリリースした時に戻ってくるような感じだけれど、全く新しいもののような遊び心があるようにも感じたわ。 - Mira Calix

彼女の最近のプロジェクトは、野心的な合唱音楽作品やパフォーマンス・アーティスト、独特なスピーカー拡散システムなどを取り入れたサウンド・インスタレーションといった活動が中心になっており、10年ぶりとなる〈WARP〉からのリリースに関しては自身が「全く新しいもののような遊び心があるようにも感じた」と語るように、フレッシュさを感じさせる内容となっている。

待望の10年ぶりとなるEPは1月25日にアナログとデジタル配信でのリリースを予定しており、iTunes Store でアルバムを予約すると公開中の“rightclick”がいち早くダウンロードできる。

label: Warp Records
artist: mira calix
title: utopia
release date: 2019/01/25 FRI ON SALE

[tracklist]
1. rightclick
2. just go along
3. upper ups
4. bite me

more info:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10043

Mike - ele-king

 クラインに対するブルックリンからのアンサー……といってしまおうか。19歳でニューヨークの新たな前衛とされているDJブラックパワーことマイケル・ジョーダン・ボニーマは昨年5月に『Black Soap』がリリースされた時はどうしてこんなに騒がれるのかと不思議だったのだけれど、基本的にはリリックに対する評価が大きかったようで音楽だけで判断できるものではなかった。マイクはクラウド・ラップとは「別種のインターネット・スター」とまで持て囃されていたものの、僕は1〜2回聴いて、それきりだった。しかし、その後に〈レックス〉からリリースされた『Renaissance Man』と年末に放たれた『War in My Pen』というミックステープで、今度は音楽的に耳が止まり、しばらくして、ああ、『Black Soap』の人かと気づいた次第である。改めて『Black Soap』のレビューを探してみると、彼の親はナイジェリア移民で、彼自身はニュージャージーで生まれ育ち、母親に連れられて5歳でロンドンに渡り、それまで聴いていたラップにはなんの興味もなかったものがロンドンでグライムと出会ったことから始めてラップに興味を持ったのだという。その時の「自分探し」の過程をそのままアルバムのテーマとしたものが『Black Soap』で、これがどうやら大きな共感を得たということらしい。ニール・ゲイマンの『アメリカン・ゴッズ』にアメリカ人は自分探しをせず、「わかったフリをしているだけ」というセリフがあったけれど、彼はむしろそれを大々的にやったということになる。そして彼の思いはナイジェリアヘと飛び、歌詞も一部はヨルバ語で歌われ、西アフリカで普通に見かける石鹸=ブラック・ソープのパッケージをジャケット・デザインに流用したことも「自分探し」のヴィジュアル展開だと。『Black Soap』に続く『Renaissance Man』ではあからさまに「Why I’m Here」「Rebirth」と言った曲名が並び、そして、後半で畳み掛けるように続くのがクラインを思わせるドローンじみたトラックの連打。これはどう考えてもロンドン滞在中に同じナイジェリア系のクラインと接触があったか、少なくとも音源に感化される機会があったとしか思えない。NHK「たぶんそうだったんじゃないか劇場」なら、そう結論づけるだろう。

 そして『Renaissance Man』ではまだ借り物という感じでしかなかったサウンド・プロダクションが『War in My Pen』では確実に自分のものとなっているプロセスを確認することができる。あからさまにクラインの影響がそのまま出ているトラックは姿を消し、冒頭の「Choco」や「Nothin’ to Me」ではドローンがループされ、シンプルに仕上げられているにもかかわらず、どこにも隙間のない濃密な音の洪水が耳に注ぎ込まれる。「なんでトリップしてるんだい 自分の楽しみを見つけなよ 賢いニガーはガキの言うことなんか聞かない」と歌い出しながら、「grabba」、「October Baby」とサイプレス・ヒルよりもむせ返えるスモーカーズ・トラックで攻め立て、「オレは肺がつぶれるほど吸ってる」とか「害を及ぼすことと吸うことは別なこと」などと続けていく。ずばり「smoke」と題された曲では「Listening to smoke」と感覚的な歌詞を繰り返し、ラップにありがちな虚勢よりも自分がどこにいるかと言うことを繰り返し言葉にしているのだろう。規模は小さいけれどノーネームに近い心象風景を題材にしているのかなと思ったり(そこまで英語やスラングのニュアンスは僕にはわからない。「We was」とかどう訳すねん?)。「NeverKnocked」や「Rottweiler」で使われている強烈なグリッチ・サウンドはおそらく2年前にグリッチ・シャンソンのネヴェー・ゲット・ユースド・トゥ・ピープルの影響で流行ったティック・トックのグリッチ・チャレンジをヒップホップ的に展開したものなのだろう。これらはあまりにもサイケデリック。そして、クラインよりもどこか陽気な感じがとてもいい。

 ロンドンでグライムに感化されたマイクは、アメリカに戻ってからスラム(sLUms)というポッシを結成している。ゼロ年代のヒップホップはグループが成り立たず、50セントやエミネムと行ったソロMCの時代だと言われていたけれど、この10年はそういったソロMCがゆるくつながっていたという印象があり、ロサンゼルスのオッド・フューチャー、ニューヨークのエイサップ・モブ、そして、エイサップ・モブとは抗争の相手と化してしまうフロリダのレイダー・クラン(スペースゴーストパープ)が個性的な若手を続々と送り出してきた。ヒップホップに興味を持ったマイクも10歳を過ぎた頃にはオッド・フューチャー(のとくにアール・スウェットシャツ)に強く影響を受けたと語っており、シックスプレスやキング・カーター、メイソン、ジャズ・ジョーディといった6人の迷子が一緒にいることで死が身近にある環境でも音楽によって自由をつくりだすことができるのだという。彼らは政治的な見解が一致し、初期には社会的な不安を、最近では希望をラップし始めている。そう、「Like My Mama」はドン、ドンというドラムの音だけで別世界に連れて行かれる。これに変調された声が蚊のようにクルクルと宙を舞い、「PRAYERS」ではスクリュードされたゴスペルのコーラス、「UCR」はまさにクラインへのアンサーとしか思えないドレムレスの展開に突入し、「Red Sox;babylon」に橋渡しされる流れは鳥肌もの。リル・Bとはかなり仲がいいという噂もなるほどという感じでしょうか。リー・ペリーやマッド・プロフェッサーのファンもこれは唸るんじゃないかな。峠を越えて後半4曲は少し落ち着いた展開に戻り、歌詞も真実だとか歴史といった社会派のニュアンスを醸し出すものに。最後にそして、人生に対して妙に弱気な「For You」ですべては閉じられていく。嫌な終わり方というほどではないけれど、それこそ煙がどこかにかき消えてしまうような感触が残り、夢でも見ていたような気分に。

Mark Stewart - ele-king

 1982年にリリースされたマーク・スチュワート&ザ・マフィアの最初の12インチがどれほどの衝撃だったことか──ひとつにはダブの音響実験がある。プロデューサーのエイドリアン・シャーウッドは、ジャマイカ生まれのダブの技法をこの作品において極限まで拡大して、カット・アップによるサウンド・コーラジュとの境界線を消失させている。演奏しているのはレゲエ・バンドのクリエイション・レベルのメンバーであったり、やがてアフリカン・ヘッド・チャージとして活動するメンバーだったりするのだが、ザ・マフィアの演奏は、シャーウッドのダブ処理において伝統的なレゲエとは切り離され、都市の寒々しい灰色の風景に地響きを与えるものとなった。泣きわめいているマーク・スチュワートの声が、その破壊的なサウンドと一体化したとき、虚飾に満ちた都市の化けの皮は剥がされて、力強いダンス・ミュージックが現出する。これがふたつ目の襲撃だった。
 続いて1983年にリリースされたのが、マーク・スチュワート&ザ・マフィアのデビュー・アルバム『ラーニング・トゥ・コープ・ウィズ・カワディス』だった。ザ・マフィア名義で録音された唯一のアルバム。12インチにも収録された“リヴァティ・シティ”は、2019年の現在聴いても名曲であり続ける。それは不吉な未来に向かっている東京にお似合いの、滅びゆく都市の鎮魂歌のようだ。

 『ラーニング・トゥ・コープ・ウィズ・カワディス』は新たに発掘された10曲(!)の未発表曲集を加えた2枚組として2019年1月25日に発売される。未発表曲もあなどれない。なにしろこの黄金のメンバーで録音された音源であり、マーク・スチュワートもエイドリアン・シャーウッドももっとも過激な実験に取り組んでいた時代の記録なのだから。

 マーク・スチュワート&ザ・マフィアの三つ目の衝撃をいうならそのアートワークである。当時の彼らがCRASSなどのアナルコ・パンクとリンクしていたという事実がうかがえるだろう。日本盤はトラフィック・レーベルから。お楽しみに。

Binkbeats - ele-king

 これは興味深い。まずはこのエイフェックス“Windowlicker”のカヴァー動画を視聴してみてほしい。あの楽曲を人力で、しかもたったひとりで再構築してしまうこの人物、ビンクビーツ(Binkbeats)というオランダのプロデューサーである。他にもフライング・ロータスラパラックスアモン・トビンなどのエレクトロニック・ミュージックをがしがしひとりでカヴァーしているからすごい。アンダーグラウンドの最尖端に敏感なDJクラッシュの最新作『Cosmic Yard』にもフィーチャーされていたので、それで気になっていた方も少なくないだろう。そんなアナタに朗報です。ちょうど本日1月9日、彼がこれまで発表してきた2枚の12インチを独自にまとめたCDがリリースされます。昨年ソニックマニアで来日した〈Brainfeeder〉のジェイムスズーも参加しているとのことで、おもしろい音楽を探している方は要チェックですぞ。

BINKBEATS

〈Brainfeeder〉総帥 Flying Lotus、Thom Yorke (Radiohead) 率いる Atoms For Peace、そして Aphex Twin や、さらには J. Dilla まで数々のアンセムを人力且つたった一人で再現したライヴ映像で世界中に衝撃を与えたオランダのビート・サイエンティスト BINKBEATS ついに日本デビュー!

LAビート・シーンを牽引する〈Brainfeeder〉総帥 Flying Lotus “Getting There”、Thom Yorke (Radiohead) 率いる Atoms For Peace “Default”、そして Aphex Twin “Windowlicker”といった数々のアンセムやさらには J. Dilla の“Mixtape”を人力且つたった一人で再現したライヴ映像で世界に衝撃を与えたオランダのマルチ・インストゥルメンタリスト BINKBEATS。ROCK、POSTROCK、ELECTRONICA、HIPHOP、JAZZ など幅広い音楽要素を融合し多種多様な楽器/機材を駆使しながら構築する先鋭的なビートや美しくもエモーショナルなメロディ、それらを独創的なサウンド・スタイルで展開した本作は各500枚限定でプレスされた連作EP「Private Matter Previously Unavailable」 PART1 と PART2 の全曲を収録したオリジナル楽曲としては初のCD化!

既に YOUTUBE で公開されているライヴ映像が100万再生を超えているM1 “Little Nerves”は Daedelus や Jameszoo の作品にも参加しLAビート・シーンの重要レーベル〈Alpha Pup〉からも自身の名義でリリースしている注目の若手鍵盤奏者 Niels Broos をフィーチャー、そしてM3 “In Dust / In Us”には〈Brainfeeder〉から発表された 1st『Fool』が高い評価を受けた Jameszoo もプロデュースに加わるなど次世代の注目アーティストが多数参加! 現在ワールドワイドにツアーを行っており、また DJ KRUSH の最新アルバム『Cosmic yard』(2018年3月)にも参加するなど日本国内でも徐々に活動の幅を広げるなど、その唯一無二なパフォーマンスで世界各地に衝撃を与えている今後の活躍が期待されているアーティストである。

タイトル:Private Matter Previously Unavailable / プライヴェート・マター・プリヴィアスリィ・アンアヴェイラブル
アーティスト:BINKBEATS / ビンクビーツ
発売日:2019.1.9
定価:¥2,400+税
PCD-24796 / 4995879-24796-9
日本語解説:原雅明
p-vine.jp/music/pcd-24796

Additional Synths On All Tracks By Niels Broos
Additional Production On In Dust / In Us By Jameszoo
Additional Vocals On Heartbreaks From The Black Of The Abyss By Luwten, The Humming / The Ghost By Maxime Barlag

ZULI - ele-king

 エジプト・カイロを拠点に置くアーティスト、Zuli のデビュー・アルバム『Terminal』が、Lee Gamble が主宰するレーベル〈UIQ〉よりリリースされた。これまで3枚のEPを〈UIQ〉と〈Haunter Records〉からリリースしてきた。その内容はインストゥルメンタルで、グリッチやノイズ、グライムっぽいうねるようなベース音も顔を見せる変則的なダンス・ミュージック。2017年にはベルリンのCTMフェスティヴァルでは地元であるカイロをテーマとした360度ヴィデオのインスタレーションを発表。活躍の舞台を着実に広げ、特に〈UIQ〉からのリリースはレコード店で売り切れるほどの人気ぶりだ。

 Zuli、本名は Ahmed El Ghazoly という。10歳まではイギリスで暮らし、グランジやブリット・ポップ、ケミカル・ブラザーズやプロディジーを聞き、両親の都合でエジプトに戻ってきたという*。所謂エジプトの伝統音楽やポップスに関心が向かず、UKの音楽に影響を受けて制作をしてきたという。また、同志のアーティストと Kairo Is Koming というコレクティヴを作り、ふたつの拠点でラッパーやアーティストとコラボレーションしながら活動をしているという。

 そうした集団での制作も方向性に反映されているのだろうか。今作『Terminal』は、これまでのインストゥルメンタル、変則テクノ的な音楽性から、トラップ、ジューク、ラップとの混交、またラッパー、シンガーとのコラボレーションが際立つ。1曲目から 6. “Stacks & Arrays”までは808ベース、残響音のようなベースとノイズが不規則に鳴らされ、不穏なサウンドスケープが展開される。7曲目の“Kollu I - Joloud feat. MSYLMA”で歌唱が、8. “Akhtuboot feat. Abyusif”でラップが初めて耳に入る。しかしどちらも3~4分の商業的なレコードのフォーマットではなく、断片的に流れていく。9. “Mazen”でも Abyusif のラップが使われているが、切り刻まれ、引き伸ばされ、あるいはピッチを変えられて、声そのものが変態していく。ラップは、11. “Ana Ghayeb feat. Mado $am, Abanob, Abyusif”でようやく聞き取れるレヴェルのラップが一瞬姿を見せる。フリースタイルする(ような)彼らのラップは素晴らしく、ソロ作品を聴きたくなる。

 『Terminal』というアルバム・タイトルから思い起こされるのは空港である。〈NON〉の Chino Amobi が一見無国籍でクリーンな空港という空間に、人種・政治的な関係を見出したのと同じように、このアルバムの不穏さもローカルな状況につなげて考えることができる。Zuli の活動の中心であるエジプトは「アラブの春」に端を発する政治・経済的な混乱が続いていて、混乱の前後でカイロの貧困率は2倍近くに増加したというデータもある。

 切り刻まれ、グリッチされた歌詞の内容は理解不能であるが、音が生み出す不規則・不穏な空気感とカイロの社会的・政治的な状況が重なる。グリッチやノイズは予期せぬ第三者からの干渉の結果に聞こえる。なにかを告発するはずだった通信・録音が遮断され、干渉され、散り散りになったデータとなって再生されているような、または、デジタル情報の残骸のような質感。12. “In Your Head”のビートレスのアンビエント、冷たいピアノの一音がさらにアルバムの緊張感を持続させる。その曲での後ろで響くのは、男の会話ともヒソヒソ声とも取れる音。密告のようにも、心の中の「勘ぐり」にも聴こえてくる。緊張や不安はアルバムの全編を通じて漂い続けている。

 このアルバムを聴くことは、生成されたデジタル情報が捻じ曲げられたり、隠されたりする痕跡を辿っていく行為かもしれない。しかしもう一方では、そうしたデジタル情報が不完全に捻じ曲げられたり、隠されきれなかったりする。そうした人間味を感じさせるサウンドでもある。音が不規則でありながら緊張感が持続する、エレクトロニックながらどこか「生っぽく」感じられる。そういった多面性を持ったアルバムだ。

 * TIGHT Magazine のインタヴューより。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316