「You me」と一致するもの

Elements Of Life - ele-king

 Kenny Dope とのユニット「Masters At Work」でも知られる Louie Vega が2000年にスタートさせたプロジェクト「Elements Of Life」(以下 EOL)。日本でのバンド公演は2003年以来、なんと17年ぶり(!?)の来日ということで、当時生で聴いた方やそうでない方も長く待ち望んでいた再来日になった。

 初期のプロジェクトからすでに20年が経過するバンドだが、決して彼らの活動が停止していたわけではなく。過去の作品を調べると、結成時からコンスタントに作品をリリースしており、06、07年では今回のバンド・メンバーとしても参加しているパーカッショニスト Luisito Quintero のソロ・アルバムのプロデュースや EOL のメイン・ヴォーカルとも言える Anané、そして Blaze の Josh Milan らを招き、数多くの作品をリリース。ハウス・ミュージックのプロデューサーとして数多くのリリースを築き上げてきた Louie Vega が、自身の持つラテンアメリカのルーツをより全面的に押し出した一面がこの EOL で表現されていると言っても過言ではない。


 2020年の2月4日のセカンドショーは沖野修也氏のDJと共に幕開け。小気味良いラテン・トラックからその場で生のハイハットが混ざり、音が切れることなくライヴに転換。打ち合わせをおこなったかは定かではないが、こういった「DJ的」な流れで空気を作るのは流石の両雄。トレードマークのハットを被り、カジュアルな出で立ちの Louie の熱いMCと共にいきなり未発表の新曲からスタート。ハイハットとジャズのベースにピアノとコーラスが絡み合うクラシックなジャズ・ナンバー・スタイルで会場を温めていく。そのままのスムーズな流れで EOL の代名詞トラック “ELEMENTS OF LIFE” に突入。ここで序盤から会場のボルテージは最大に。終盤でかかるかなと予想していたオーディエンスも多かったようで、サプライズ的なスタートは衝撃的だった。続いて Nina Simone “FEELIN GOOD” を EOL スタイルで披露。バック・ヴォーカルのひとり、Ramona Dunlap をフィーチャーし会場を甘い雰囲気で包み込む。Louie Vega 本人の叔父でもあり、自身がラテン・ミュージックに大きな影響を受けた Héctor Lavoe の賛辞を添えて「ラテン・ジャズの世界に案内しよう!」と言った Louie は次に未発表の新曲、若き天才キーボーディストと言われる Axel Tosca がアレンジを務めたラテン・ナンバー “CALLEJON” を披露。彼のファンキーなルックスからは想像もつかない繊細かつダイナミックな美しいピアノ・パフォーマンスに酔いしれる。


 そして満を辞して EOL のメイン・ヴォーカル Anané が登場。西アフリカの孤島カーボベルデをルーツに持つ彼女が「よく母が歌ってくれた」と言いながら地元の歌手 Adriano Gonçalves こと Bana の “TERRA LONGE” を披露。どこかメロディックで悲しげな感じ(原曲も非常に哀愁漂うナンバー)で前半の熱量とはトーンも変わりブルーを基調としたライティングの中、会場は甘い雰囲気に包まれていく。会場の暖かい拍手と共に「次はブラジルに連れていくよ、踊るのを怖がらなくていいからね」と Louie のMC。次に披露したのは Webster Lewis の “BARBARA ANN”。ブラジリアン・フュージョンの名曲ということで、MCの紹介と共にコアな観客からも歓声が湧き上がる。新曲とクラシックを交互に織り交ぜるスタイルの EOL。続いてはラテン・フュージョンの未発表曲 “DREAMER”、そして Johnny Hammond の “FANTASY” を。パワフルなコーラスと共に壮大にカヴァー。どれも原曲のエッセンスを残しつつ、EOL らしい絶妙なフュージョン感を持ったアレンジは流石のパフォーマンス。


 僕自身期待していた EOL のヒット曲はまだか……と思っていたが、Dawn Tallman のパワフルな美声と共に EOL の代名詞ハウス・チューン “INTO MY LIFE” をついに披露。ここで座っていたオーディエンスもほぼスタンディングに。そして会場も待ちに望んでいた Josh Milan がついにマイクを取る。ここまで控えめにキーボードを弾いていた Josh の存在感はやはり圧巻。EOL と共に生み出した “CHILDREN OF THE WORLD” そして “YOUR BODY” とどちらも高い熱量で歌い上げ、会場のボルテージも上がってきたところで、Louie の「Nuyorican Soul の時代に戻ってみよう」というMCと共に “I AM THE BLACKGOLD OF THE SUN” のピアノ・フレーズが。この瞬間、会場の熱気は最高潮に。ミラーボールを中心としたライティングはまさにクラブのような雰囲気となり、オーディエンスも総立ちで一気にフィナーレへ駆け抜けていく。

 「最後にもう少しだけ、君たちを教会に連れていくよ」と Louie Vega のMCと共に、往年のゴスペル・ナンバー “STAND ON THE WORD”、そしてエンディングに “YOU BROUGHT THE SUNSHINE” を披露。彼のルーツであるラテンからアフリカ、そしてニューヨークまで約1時間半の演奏の数多の国境を越えていく展開はまさしく「ミュージック・ジャーニー」。各パートにレジェンド級のミュージシャンが揃ったバンド達の17年ぶりの圧倒的なパフォーマンスを目の当たりにできたことはいちオーディエンスとしても非常に貴重な体験だったと思う。

 自身が培ったルーツと衰えることない音楽性を結成からここまで継続的に披露しながら、カヴァーと新曲を織り交ぜることで過去と未来そして様々なジャンルの音楽を自在に横断する EOL のプレイはDJ/プロデューサー、そしてバンドのコンダクターとしての Louie Vega ならではのアイデアとパフォーマンスと言えよう。当日のMCでも2020年の冬に新しいアルバムを控えているとのことで、さらに進化した彼らのサウンドをこの耳で繰り返し聴けるのが本当に楽しみである。


gummyboy - ele-king

 先週、新曲 “thinking?” のMVが公開され話題を集めた Mall Boyz の gummyboy が、ついにファースト・ミックステープ『The World of Tiffany』を本日 2/19 にリリースする。昨年の Tohji 『angel』に続いて、2020年を代表する1枚になりそうな予感がひしひし。これまでなかなか聞くことのできなかった gummyboy のサウンドや、アーティストとしての深化に注目だ。

[3月17日追記]
 先月リリースされた gummyboy の新作『The World of Tiffany』だけれども、急遽そのリリース・パーティの開催が決定している。3月22日、会場は恵比寿 BATICA。ほかに MonyHorse、KENSEI、HERON らが出演予定。詳しくは下記より。

gummyboy の『The World of Tiffany』リリースパーティが3/22に開催決定。MonyHorse、KENSEI、HERON などが出演。

これまでに見られなかった幅広いサウンドや、持ち味の内省的なリリックが遺憾無く発揮され、ソロ活動が一気に加速した gummyboy の 1st Mixtape 『The World of Tiffany』。注目度の高い本作のリリースパーティが3月22日(日)EBISU BATICA で開催される。

今回のリリースパーティには 1st ソロアルバム『TBOA JOURNEY』の記憶も新しい MonyHorse、Mall Boyz とも親交の深い BRIZA から KENSEI、昨年よりゆるふわギャングのバックDJを務める HERON らが参加する。

一見意外なラインナップではあるが、全員が普段から親交のあるクルーやチームからの参加ということもあり、当日は高い熱量が期待できる。

また、このリリースパーティ直前の3月18日には『The World of Tiffany』に関連するサプライズ楽曲の発表も予定されているとのこと。売り切れ必至のチケットを手に入れることはもちろん、リリースパーティまで gummyboy の動きから目が離せない……!

[公演タイトル]
“TWOT” Release Party

[出演]
gummyboy
MonyHorse
KENSEI
HERON

[日時]
2020年3月22日(日)
19:00 (open)
19:30 (start)

[会場]
EBISU BATICA

〒150-0022
東京都渋谷区恵比寿南3-1-25
ICE CUBE 1F/2F
恵比寿駅西口ゑびす像より徒歩3分

[チケット購入ページ]
https://eplus.jp/sf/detail/3262090001-P0030001

Ronin Arkestra - ele-king

 勢いが止まらない。去る2019年、ソロ浪人アーケストラにと精力的に活動を繰り広げ、果敢に今日のジャズを拡張し続けているマーク・ド・クライヴ=ロウが、後者、すなわち浪人アーケストラとして初めての公演をおこなう。4月15日、会場は渋谷 WWW。彼と彼のもとに集った日本の精鋭たちによるプレイ──これは必見です。

伝統的なジャズからクラブ・ソウルミュージックと多岐なシーンで長年活躍を続け、現在はLAのジャズ/ビート・シーンの中心にいるキーボード奏者/プロデューサー "MARK DE CLIVE-LOWE" の呼びかけで、ジャズを中心とした日本の精鋭プレイヤーが集結した "RONIN ARKESTRA" の初公演が開催決定!

伝統的なジャズからクラブ・ソウルミュージックと多岐なシーンで長年活躍を続け、現在はLAのジャズ/ビート・シーンの中心にいるキーボード奏者/プロデューサー "MARK DE CLIVE-LOWE"。

今年1月には自身が主催する、セッション・イベント「CHURCH」のライヴを収めた『CHURCH Sessions』をリリースするなど精力的に活動を続ける彼の呼びかけで、ジャズを中心した日本の精鋭プレイヤーが集結し、昨年9月にはデビューアルバム『Sonkei』をリリースした "RONIN ARKESTRA" の初公演が開催決定!
                      
日程:2020年4月15日(水)
会場:WWW
タイトル:「RONIN ARKESTRA LIVE IN TOKYO
時間:open 18:30 / start 19:30
料金:前売¥3,800 / 当日券¥4,300 (税込 / ドリンク代別 / オールスタンディング)

RONIN ARKESTRA
Member:
Mark de Clive-Lowe - keyboards, electronics
Kohei Ando - alto sax
Wataru Hamasaki - tenor sax
Hiroyuki Ishikawa - trumpet
Tsuyoshi Kosuga - guitar
Kenichi Ikeda - bass
Nobuaki Fujii - drums

チケット発売日:2月26日(水)10:00
e+ / チケットぴあ / ローソンチケット / iFLYER / WWW店頭
問合:WWW 03-5458-7685
公演詳細ページ:https://www-shibuya.jp/schedule/012392.php


                                
マーク・ド・クライヴ・ロウが『Heritage』に続いて、自身のルーツである「日本」にフォーカスしたプロジェクトが、浪人アーケストラです。
LAから東京へと場所を移し、日本人のプレイヤーたちと作り上げたアルバムは、日本のジャズの歴史に新しいページを刻む作品となりました。(原 雅明 rings プロデューサー)

アーティスト : RONIN ARKESTRA (浪人アーケストラ)
タイトル : Sonkei (ソンケイ)
発売日 : 2019/9/25
価格 : 2,800円+税
レーベル/品番 : rings (RINC56)
フォーマット : CD
JAZZ / SOUL / CLUB

!!! (Chk Chk Chk) - ele-king

 昨年の来日公演でもサイコーのパフォーマンスを披露してくれたチック・チック・チックが、今年も日本へやってくる!!! 今回は5月23日~24日にかけて横浜赤レンガ倉庫野外特設会場で開催される《GREENROOMFESTIVAL ’20》への出演というかたちだ!!! またみんなでダンスに明け暮れようぜ!!!

GREENROOMFESTIVAL ’20に !!! (Chk Chk Chk)が出演決定!!!
最強&狂のライブバンドが赤レンガ倉庫をダンスフロアに変える!
最新作『WALLOP』好評発売中!

毎年国内外から豪華アーティストが集結する「GREENROOM FESTIVAL ’20」の第2弾出演アーティストが発表され、!!! (chk chk chk) の出演が決定! NYの馬鹿げたダンス規制法を痛烈に批判し一躍脚光を浴びた名曲 “Me And Giuliani Down By The School Yard (A True Story)” から16年、突き抜けてエネルギッシュかつ痛快に反体制の姿勢を示し続けているチック・チック・チック。最新作『Wallop』をひっさげ、〈Warp〉30周年の一環として敢行された来日ツアーでも集まったファンを踊り狂わせた最狂のライブバンドが、今度は赤レンガ倉庫をダンスフロアに変える!

GREENROOM FESTIVAL ’20
場所:横浜赤レンガ倉庫野外特設会場
日時:2020年5月23日(土)、24日(日)

第2弾出演アーティスト
Tash Sultana
!!!
Oscar Jerome
ASIAN KUNG-FU GENERATION
Suchmos
EGO-WRAPPIN'
PUFFY
SPECIAL OTHERS
D.A.N.
LUCKY TAPES
TRI4TH
TENDER
showmore
みゆな

5月23日(土)、24日(日)に開催となる GREENROOM FESIVAL に第2弾として新たに14組のアーティストの出演が決定しました! パワフルなラインナップの発表とともに、完売必至のチケットの先行販売も開始! 今後も MUSIC に加え、ART や FILM の発表がありますので、どうぞお見逃しなく。パワーアップし続ける「GREENROOM FESTIVAL ’20」に是⾮ご期待ください!

事務局一般先行チケット販売開始!
[1日券各日] 価格 ¥12,000
[2日通し券] 価格 ¥19,000
https://greenroom.jp/tickets/

Lineup
MGMT / Tash Sultana / !!! / Sigrid / Oscar Jerome
ASIAN KUNG-FU GENERATION / Suchmos / never young beach / EGO-WRAPPIN’
佐野元春 & THE COYOTE BAND / RHYMESTER / PUFFY / 平井大 / SIRUP / LOVE PSYCHEDELICO
GLIM SPANKY / SPECIAL OTHERS / TENDRE / LUCKY TAPES / D.A.N. / TRI4TH / showmore / みゆな and more...

label: WARP RECORDS/BEAT RECORDS
artist: !!!
title: Wallop

国内盤CD BRC-608 ¥2,200+tax
国内盤特典: ボーナストラック追加収録/解説・歌詞対訳冊子封入

[ご購入はこちら]

Nightmares On Wax - ele-king

 これはたまらない。昨年はリカルド・ヴィラロボスによるリミックス盤を発表、12月の来日公演も記憶に新しいナイトメアズ・オン・ワックスだけれど、なんと、1995年の名作『Smokers Delight』の25周年記念盤が4月3日にヴァイナルでリリースされることになった。ザ・KLFの『Chill Out』をヒップホップで再現するというコンセプトにもとづいて制作されたこのセカンド・アルバムは、それまでのブリープ~ハウス路線から一気にスモーキーかつソウルフルなダウンテンポへと舵を切った転機作で、現在われわれがよく知るNOWサウンドの原点にあたる。今回の記念盤には、2曲の新曲を含む計4曲がボーナストラックとして収録されるとのことで、そちらのほうも楽しみ。

[3月11日追記]
 発売が近づいてきた『Smokers Delight』の25周年アニヴァーサリー盤より、ボーナストラックとして収録される新曲2曲のうちの1曲 “Aquaself” が公開されました。ん~、気持ちいい~。安心のNOW印、炸裂です。

NIGHTMARES ON WAX
歴史的傑作『SMOKERS DELIGHT』のリリース25周年を記念し、
新曲を追加収録した再発盤のリリースが決定!

マッシヴ・アタック『Blue Lines』、ポーティスヘッド『Dummy』、トリッキー『Maxinquaye』と並び、その時代を象徴する名盤として絶大なる評価を受けているナイトメアズ・オン・ワックスの歴史的名盤『Smokers Delight』。リリースから25周年となる今年、新曲を追加収録した25周年記念盤が、4月3日に発売決定!

英 Fact Magazine が「80年代後半のレイヴ・シーンの黎明期を生んだムーヴメントが、リラックスした部屋の中でも、イビザの夕暮れにも合うようにと、CDウォークマン世代にとってのセカンド・サマー・オブ・ラブを再定義した作品」と称賛した本作『Smokers Delight』は、当時まだ新興レーベルだった〈Warp〉周辺の勢力図を大きく塗り替え、〈Warp〉初期を支えたロングセラー作品であり、UKでシルバーディスクの認定を受けている大名盤であると同時に、デビュー作『A Word of Science』でジャンルを横断した独特なエレクトロニック・サウンドで注目を集めていたナイトメアズ・オン・ワックスが、ソウル、ヒップホップ、ダブからの影響を吸収したチル〜ダウンテンポの巨匠として歩み始めるキャリアの礎となった代表作。

バックボーンは、レゲエ、ソウル、そしてサンプリングとディギングを通したヒップホップだった。だからダブの影響や、ラヴァーズ・ロックのソウルフルな影響が感じられるんだよ。俺を音楽に向かわせたすべてのDNAが詰まってる。当時みんなから、ナイトメアズのサウンドを見つけたな、と言われたけど、「本当? なにそれ?」って感じだった。でも今振り返ると、感覚だったり、スピリチュアルな意味合いで、その意味がわかる気がするよ。そのゾーンに入った瞬間に自分でもわかるんだ。 ──George Evelyn (Nightmares On Wax)

今回25周年記念盤をリリースするにあたって、ジョージは再び「ゾーン」に入り、“Let’s Ascend” と “Aquaself” という2曲の新曲、“Dreddoverboard” のファンク・ヴァージョン、“Nights Introlude” のライヴ・ヴァージョンが追加収録される。赤と緑のカラー盤となる2LP盤は、シルバーのゲートフォールド・ミラーボード・スリーブに収納され、アルバムとボーナストラックがダウンロードできるダウンロード・コード付となっている。

label: WARP RECORDS
artist: Nightmares On Wax
title: Smokers Delight (25th Anniversary Edition)
release date: 2020.04.03 FRI ON SALE

輸入盤2LP WARPLP36RX

BEATINK:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10846

Tracklisting
A1. Nights Introlude
A2. Dreddoverboard
A3. Pipes Honour
B1. Me And You
B2. Stars
B3. Wait A Minute / Praying For A Jeepbeat
B4. Groove St.
C1. Time (To Listen)
C2. (Man) Tha Journey
C3. Bless My Soul
C4. Cruise (Don't Stop)
D1. Mission Venice
D2. What I'm Feelin (Good)
D3. Rise
D4. Rise (Reprise)
D5. Gambia Via Vagator Beach

*Bonus tracks on download card
01. Aquaself
02. Let’s Ascend
03. Dreddoverboard (Funk Mix)
04. Nights Introlude (Live In Chicago)

DJ Marcelle & Kampire (Nyege Nyege) - ele-king

 これまで20回以上開催されてきた WWW のレジデント・パーティ《Local World》ですが、今年もやる気満々です。今回は、これまで都内のクラブで開催されてきた YELLOWUHURU 主宰の《FLATTOP》と Celter 主宰の《Eclipse》との共同パーティで、話題のウガンダのフェス/コレクティヴ〈Nyege Nyege〉主宰の Kampire と、そのレジデントでもあるアムステルダムの DJ Marcelle を初来日で迎えます(Marcelle は大阪公演も)。これまたすごい一夜になりそうです。

Local XX2 World FLATTOP x Eclipse - Super Freedom -

新しい伝統と自由への狂騒。アフリカからダンス・ミュージックの未来を切り開くウガンダの新興フェスティバル/コレクティブ〈Nyege Nyege〉主宰の Kampire と、そのレジデントでもあり、今最も “越境する” 奇矯のアーティストとして話題の DJ Marcelle を初来日で迎え、Local World、FLATTOP、Eclipse によるハイブリッド共同パーティ “Super Freedom” が開催。

Local XX2 World FLATTOP x Eclipse - Super Freedom -
2019/03/28 sat at WWW / WWWβ
OPEN / START 23:30
Early Bird @RA ¥1,800
ADV ¥2,300@RA | DOOR ¥3,000 | U23 ¥2,000

【詳細】https://www-shibuya.jp/schedule/012322.php
【前売】https://www.residentadvisor.net/events/1386693

DJ Marcelle / Another Nice Mess [Netherlands]
Kampire [Nyege Nyege / Uganda]
YELLOWUHURU [FLATTOP / GHPD]
Celter [Eclipse]

+ many more

※ You must be 20 or over with Photo ID to enter

【DJ Marcelle 大阪公演】

AltPass feat. DJ MARCELLE
2020.3.27.fri. 22:00-7:00 at Club Daphnia
ADV ¥2,500 | DOOR ¥3,000

GUEST DJ:
DJ MARCELLE / ANOTHER NICE MESS
(JAHMONI) from Nederland

DJ:
Toshio Bing Kajiwara
7e
Gyoku
Gunilla
KA4U

LIVE:
USK

Visual Effect:
catchpulse

and more act.

FOOD: カカト飯店

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Local 1 World EQUIKNOXX
Local 2 World Chino Amobi
Local 3 World RP Boo
Local 4 World Elysia Crampton
Local 5 World 南蛮渡来 w/ DJ Nigga Fox
Local 6 World Klein
Local 7 World Radd Lounge w/ M.E.S.H.
Local 8 World Pan Daijing
Local 9 World TRAXMAN
Local X World ERRORSMITH & Total Freedom
Local DX World Nídia & Howie Lee
Local X1 World DJ Marfox
Local X2 World 南蛮渡来 w/ coucou chloe & shygirl
Local X3 World Lee Gamble
Local X4 World 南蛮渡来 - 外伝 -
Local X5 World Tzusing & Nkisi
Local X6 World Lotic - halloween nuts -
Local X7 World Discwoman
Local X8 World Rian Treanor VS TYO GQOM
Local X9 World Hyperdub 15th
Local XX World Neoplasia3 w/ Yves Tumor Local XX1 World AI2X2X w/ ???


■DJ Marcelle / Another Nice Mess [Netherlands]

「異なるカルチャーに対してオープンでありながらも、そこのオーディエンスや自分の期待感に意識を向けすぎないこと。自分の道を進むためにね」@RA https://jp.residentadvisor.net/podcast-episode.aspx?id=679

アムステルダムを拠点にDJ、プロデューサー、ラジオ放送、ミュージシャンと多岐に渡って活動を続けるベテランDJ Marcelle / Another Nice Mess。

サプライズ、アドベンチャー、エンターテイメント、教育:オランダのDJ/プロデューサーの DJ Marcelle / Another Nice Mess を説明するためによく使用される4つのキーワードであり、ライブ(およびスタジオ内)では3つのターンテーブルとレコードを使用して、ミックスの可能性を高みに引き上げる稀有なDJであり、またそれ以上のミュージシャンでもある。 2016年以降、ドイツのレーベル〈Jahmoni〉から「In The Wrong Direction」、「Too」、「Psalm Tree」、「For」(Mark. E. Smith へのオマージュ)の一連のEPリリースを経て、昨年最新LP『One Place For The First Time』をリリース。2008年から2014年の間には、ドイツの〈Klangbad〉から伝説のクラウトロック・バンド Faust の創設メンバーである Hans-Joachim Irmler によってセットアップされた4枚のダブル・バイナルのアルバムをリリースしている。

異なるスタイルの音楽を異なるコンテキストに配置することにより、個々のスタイル変化させ、他に類を見ない音楽スタイルを融合し、3つのターンテーブルと膨大なコレクションであるレコードを使いながらオーディエンスに3つの同時演奏ではなく1つのトラックであると感じさせる。そのスタイルは環境音、アバンギャルド・ノイズ、動物の音、レフトフィールド・テクノ、フリージャズ、奇妙なヒップホップ、最先端のエレクトロニカ、新しいアフリカのダンス・ミュージック、ダブステップ、ダンス・ホールなどと組み合わせれている。

独創的で熟練したミキサーであり、独自のスタイルを持ち、ほとんどのDJのクリシエやこれまでのルールを回避し、フラクサス、ダダなどのアバンギャルドな芸術運動やモンティパイソンの不条理な現実に触発されるように、ダブ、ポスト・パンク、最新のエレクトロニック/ダンス・ミュージックの進化など、常に、非常に、密接に、音楽の発展を追い続け、革新的な “新しい” サウンドに耳を傾けている。創造と発展の芸術性と高まりを強く信じ、約2万枚のレコードと数えきれないほどの膨大なレコード・コレクションは過去と現代のアンダーグラウンド・ミュージックに関する強力な歴史的知識を体現している。

ステージにおいてはマルセルは開放と自由を超越し、しばしば「圧倒的な豊かさ」、「真の耳を開ける人」、「真の開拓者」と表現されている。ヨーロッパ中のクラブ、美術館、ギャラリーを回りながら、ウィーン、ベルリン、ミュンヘン、バーゼル、チューリッヒなど、多くの都市のレジデントDJ、 2015年と2016年には Barcelona circus / performance group のライブDJを務め、ウガンダの Nyege Nyege フェステイバルでは「ライフタイムのレジデントDJ」として任命され、最近では欧州の Dekmantel、Unsound、USの Sustain Release 等のフェステイバルに出演しワールドワイドな活躍を展開。

また Red Light Radio、FSK、DFM など、ヨーロッパのさまざまなラジオ局向けにウィークリーおよびマンスリーのラジオ番組も開催し、インターネット上の John Peel ディスカッション・グループでは「best post-Peel DJ」と評される。マルセルにとって、何らかの緊急性や固定する必要がない限り、音楽形式は意味をなさない。分類が難しいことでブッカー、ジャーナリスト、オーディエンスを最初は混乱させられる。もしマルセルを適切な言葉で説明するのであれば「アバンギャルド・エスノ・ベース」と言えるだろう。

https://soundcloud.com/marcelle


■Kampire [Nyege Nyege / Uganda]

「私が望むのは、ジェンダーや性的指向に関わらず、その人となりの本質をしっかり見極め、誰もが平等にチャンスを得られるようになること」@i-d https://i-d.vice.com/jp/article/kzvn4v/uganda-dj-kampire-interview

東アフリカで最もエキサイティングなDJであり、ウガンダはカンパラの Nyege Nyege コレクティブのコアメンバーであるKampire。活気に満ち溢れたそのサウンドは世界中のクラブやフェスティバルへの出演を呼ぶ。Mixmag 2018年のトップ10のブレイクスルーDJに選出され、Nyege Nyege フェスティバルでの Boiler Room での放送は合法的な「インターネットの瞬間」であり、SNSで何千ものシェアをされ、オンラインで視聴している世界中の電子音楽ファンからフォローされる。

Kampire のDJミックスは Resident Advisor、Dekmantel、Fact Magazine で紹介され、Pitchfork & Fact の年末のリストで2019年のベスト・ミックスにも選出。Rinse FM ラジオのレジデンシーは、Hibotep、Faisal Mostrixx、Catu Diosis など、東アフリカのDJやアーティストにフォーカスしている。

2019年には4大陸でツアーを行い、ヨーロッパ全土のすべての有力フェスティバルに出演、ニューヨークの Redbull Music Festival の Nyege Nyege のショーケースでアメリカでデビューを果たし、Best friend & Nyege Nyege day one Decay と共に2020年の夏には、彼らのショー「Bunu Bop」でヨーロッパのフェスティバル・ステージにウガンダの最高のパーティー・カルチャーをもたらすであろう。

科学、文化、芸術として “黒髪” を探求するアート・インスタレーション「Salooni」の共同設立者であり、その体験プロジェクトは La Ba Arts Festival、ウガンダ、ガーナ、Chale Wote Street Art Festival、East African Soul Train (E.A.S.T) のレジデンシー、ケニア、Africa Utopia、ロンドン、キガリ、ルワンダ、 Women’s day、Burkina Faso and N’GOLÁ Biennial、São Tomé e Príncipe などで展開されている。

https://soundcloud.com/kkaybie


■YELLOWUHURU [FLATTOP / GHPD]

棍底にHOUSEを抱えながら電子音と生音を有機的に混ぜる男。

https://soundcloud.com/yellowuhuru


■Celter [Eclipse]

2019年2月より自身の主宰するイベント “Eclipse” をCONTACTにて始動。エクスペリメンタル、アバンギャルドを軸としたプレイを得意とする。

https://soundcloud.com/cel_ter

Answer To Remember - ele-king

 何となくチック・コリアのリターン・トゥ・フォーエヴァーを連想させてしまう語呂のアンサー・トゥ・リメンバー。リリース元のレコード会社は「今までに聴いたことがない新しいエクスペリメンタル・ミュージック・プロジェクト」と紹介しているが、これは日本の若手ジャズ・ドラマーの中でもっとも才能溢れるひとりと言われる石若駿によるニュー・プロジェクトである。

 石若駿は日野皓正などに見いだされて本格的なジャズ・ドラマーの道を志し、バークリー音楽院に学んで東京芸大の打楽器専攻科を首席で卒業するなど、音楽家としてのエリート・コースを進んできたと言える。プロ・デビュー後は日野皓正、大西順子、TOKU やジェイソン・モランなど国内外のトップ・ミュージシャンと共演してきたが、その中でもテイラー・マクファーリンカート・ローゼンウィンケルとの共演がいろいろと話題を呼んだ。彼らとの共演を通して日本から登場した世界基準の新世代ジャズ・ドラマーと脚光を集め、また純粋なジャズの枠にとどまらない幅広い音楽の可能性も示唆することになる。自身の活動ではリーダー作の『クリーンアップ』(2015年)や石若駿トリオ名義で作品をリリースするほか、芸大時代の同級生だった常田大希らとジャズ、オルタナ・ロックなどのミクチャー・バンドの King Gnu (キング・ヌー)の前身である Srv.Vinci (サーヴァ・ヴィンチ)を結成し、小西遼や小田朋美らとのポップ・ユニットの CRCK/LCKS (クラック・ラックス)でも演奏する。WONK、MELRAW(安藤康平)、桑原あいなど同世代の若いジャズ・バンドやミュージシャンとのセッションも活発で、くるり、ものんくる、森山直太朗の作品にも参加するなどジャズ界にとどまらない活躍を見せる。『ソングブック』というシリーズ・プロジェクトは、「うた」をテーマに石若駿がさまざまなアーティストたちとコラボレーションを行ったセルフ・プロデュース作品集である。

 2019年もクリーンアップ・カルテットを組んで久しぶりのリーダー・アルバム『CLNUP 4』をリリースしたほか、『ソングブック』の第4集や CRCK/LCKS でのリリースがあり、くるりのツアー・ドラマーにも抜擢され、マーク・ド・クライヴ・ローによるローニン・アーケストラや SOIL & “PIMP” SESSIONS、日野皓正らの新作への参加、〈ブルーノート〉の企画アルバムやサントラへの参加と多方面での活動が続いていたが、そんな多忙な中でアンサー・トゥ・リメンバーをスタートさせた。レコーディングは ATR バンドという石若駿をリーダーとするハウス・バンドが中心となり、ニューヨークで活躍するジャズ・トランペッターの黒田卓也、米津玄師から mabanua らも注目する話題のシンガー・ソングライター/ピアニストの中村佳穂と彼女のバンド、フラッシュバックスのメンバーとしても活動してきたラッパー/トラックメイカーのキッド・フレシノのほか、ermhoi (エルムホイ)、Karai、Jua などのシンガーやラッパーが参加している。

 先行シングルとなった “トーキョー” は ermhoi のフェアリーな歌声がフィーチャーされたプログレとジャズの融合的なナンバーで、まさに新時代のリターン・トゥ・フォーエヴァーとでも言いたくなる趣もあり、現在ならばサンダーキャットスクエアプッシャーあたりの作品にも比類するのだが、中でも立体的で息をつかせないほどに叩きまくる石若駿のドラムが素晴らしい。『ソングブック』ではシンガーの歌声を生かすため、プロデューサー的な立場からシンプルなドラムにしている面も見られるが、ここではとにかく極限まで振り切れたような演奏で、ドラマーとしての可能性を追求している様子が伺える。“スティル・ソー・ワット” はローニン・アーケストラでの演奏に通じるジャズ・ファンク系のインスト曲で、ピアノやホーン・アンサンブルはじめ ATR バンドによる緊密なインタープレイを聴かせる。アグレッシヴなドラムがまわりの楽器を引っ張り、躍動感と高揚感に満ちた演奏を繰り広げるナンバーだ。そうしたダイナミックなジャズ・ロック演奏とキッド・フレシノのクールなラップが結びついたのが “ラン”。ハードバップ調の演奏に Jun のラップを乗せた “410” と共に、日本語ラップとジャズがここまで見事に一体化したナンバーもそうはないだろう。もともとインストのトラックに後からキッド・フレシノがラップを乗せたそうだが、石若駿の手数の多いドラム音とまるで呼吸をするかのようにラップがシンクロしている。中村佳穂バンドと共演した “ライフ・フォー・キッス” は、冒頭にある「今までに聴いたことがない新しいエクスペリメンタル・ミュージック・プロジェクト」を示すような楽曲。ジャズともオルタナ・ロックともインディ・ポップとも何とも形容ができない構成で、どこに向かうのかわからない面白さのある曲だ。比較的オーソドックなジャズ演奏の “GNR” がある一方、こうした実験性に富む “ライフ・フォー・キッス” は石若駿のジャズだけにとどまらないスケールの大きさを再認識させてくれる。

ジョジョ・ラビット - ele-king

 2010年代で最も面白かったコメディ映画はタイカ・ワイティティ監督『シェアハウス・ウイズ・バンパイア』だと思っていた。ワイティティの新作『 ジョジョ・ラビット 』を観るまでは。

『シェアハウス・ウイズ・バンパイア』はバンパイアたちがIT社会に順応しようと四苦八苦し、人類との共存を模索してワヤクチャになっていくシチュエーション・コメディで、これがニュージーランドの片隅で生まれた小品であるにもかかわらず、これを観たマーヴェル・スタジオがワイティティに『マイティ・ソー』の舵取りを決断させたのだから、どれだけハリウッドで成功するポテンシャルを秘めた作品だったかは容易に想像できるでしょう。それどころか結果を出しすぎてワイティティは『マイティ・ソー』の続編も任せられることになり、以前から取り組むと公言していた『AKIRA』はいまだクランク・インにたどり着けなくなっている。

『ジョジョ・ラビット』はそんなワイティティが『AKIRA』よりも優先させたナチス映画。ナチスを題材にしたコメディ映画といえば5年前にデヴィッド・ヴェンド監督『帰ってきたヒトラー』があり、ドイツの現在を鋭く風刺したばかりだけれど、ヒトラーとネオナチの違いを鮮明にするという仕掛けが施されていた同作に対して『ジョジョ・ラビット』はナチス自体をコミカルに描き、親しみを感じさせる要素を入れたことは反発も引き起こしている。自身がユダヤ(とアイルランドとマオリ)の血を引くとはいえ、ワイティティはかなり危ない橋を渡ったことは確か。『シン・ゴジラ』にもオマージュとして取り上げられた岡本喜八監督『日本のいちばん長い日』をコメディ仕立でリメイクしたとして、それをアジアの人たちに見せる勇気が日本人にあるだろうかというような。

 ローマン・グリフィン・デイビス演じるジョジョはヒトラー・ユーゲントに入りたくてしょうがない10歳の軍国少年。ビートルズ「Komm Gib Mir Deine Hand(I Want To Hold Your Hand)」に煽られてジョジョたちは勢いよく訓練キャンプに参集し、サム・ロックウェル演じるキャプテン・クレンツェンドルフのハードな訓練生活に突入する。前線で負傷した隻眼の指導教官に扮したロックウェルは陽気な暴力性を期待させる上手い配置。マーティン・マクドナー監督『スリー・ビルボード』の暴力巡査や昨年の個人的なベスト5に入れたいアダム・マッケイ監督『バイス』ではウィル・フェレルを押しのけてジョージ・W・ブッシュを怪演するなど、ロックウェルはこのところ一作も見逃せない役者になりつつある。また、ジョジョの母親を演じるのがスカーレット・ジョハンサン(日本ではなぜかヨハンソン)で、美しくて優しく、そしてオシャレなロージーは政治的にも毅然とした姿勢を崩さないレジスタンスの一員という非人間的な造形。これは『アンダー・ザ・スキン』や『ゴースト・イン・ザ・シェル』、そして何よりもブラック・ウィドウ(『アヴェンジャーズ』)で見せるハードボイルドな役柄に通じるものがあり、こんな人は実在しないよ~とブーたれたいところだけれど、明日はないと覚悟を決めていた戦争末期のドイツ人たちが毎日のようにオシャレをしていたというのは史実に基づくものだという。スカージョのファッションは青のロング・コートやアーミー柄のカーディガン、赤い襟のサマー・セーターなど、どれもナチスの制服姿と際立った対比をなし、自由を手放さない生き方を視覚的にもアピっていく。

訓練中にウサギを殺せと命じられて尻込みをしてしまったジョジョは、2年間音信不通の父親を逃亡兵と決めつけているナチスの党員たちによって「ジョジョ・ラビット」と謗られるようになる。ジョジョにとって父の不在を埋めるものが、そして、想像上の「アドルフ」で、この役は監督自身が演じている(誰も引き受けてくれなかったので自分が演じたそうだけれど、結果的にユダヤ系がヒトラーを演じたことに)。ワイティティ演じる「アドルフ」はいわゆるアグレッシヴなそれではなく、スラップスティックで愛嬌のあるヒトラー。当時の軍国少年にはヒトラーがどのように見えていたかはわからないけれど、戦後と同じようにヒトラーを「怖い」と認識していたとも思えないので、誇張があるとはいえ、軍国少年が指導者を身近に感じていたという感覚を表すものとしてはゼロではないだろう。オウム真理教の信者が麻原彰晃をアニメで描いていたセンスと重なるというか。ちなみにヒトラー・ユーゲントが勢いづくシーンで流れるのはモンキーズ「I’m a Believer」をドイツ語でカヴァーした「Mit All Deiner Liebe」と、これもビートルズ同様、少しブラックな使い方。撮影が実際にナチスの宣伝映画を撮ったプラハのバランドフ・スタジオにセットを組んで行われたというのもなかなかブラックではある。

(以下、ネタバレ)
 ジョジョは、そして、ユダヤ人の娘、エルサ(トーマシン・マッケンジー)が納戸の奥に隠れて暮らしていたのを発見してしまう。母親のロージーが密かに匿っていたのである。エルサはジョジョを脅す。通報すればあなたたち親子も死刑になると。ジョジョはパニックになるも、ユダヤ人の秘密を聞き出してユダヤ人を壊滅させるための本を書こうと考え、エルサの話に耳を傾けていく。この辺りはかなり丁寧な描写が続く。『シェアハウス・ウイズ・バンパイア』の原題は「What We Do in the Shadows」、すなわち「我々は暗闇の中でどうする?」で、陽の光の差し込まないホテルの中で悶々と暮らしていたバンパイアたちが人間たちと友人になり、いわば世界を広げようとする話だったとしたら、『ジョジョ・ラビット』は納戸=暗闇の中に潜んでいるエルサの話を聞き、その過程でナチスによる洗脳がとけていくという展開を指し示す。関心を向けるヴェクトルが逆方向になったのである。バンパイアたちはラストシーンで狼男たちと大乱闘を繰り広げるけれど、狼男は要するにナチスで、暗闇に潜んでいたユダヤ人とナチスが鉢合わせすれば、それは大乱闘にもなるわなと。『シェアハウス・ウイズ・バンパイア』を観て無邪気に笑い転げていた僕は『ジョジョ・ラビット』を観る前にもう一度観ておけばよかったと、いま、痛切な後悔に襲われている。そう、2010年代で最も無責任に楽しめるコメディ映画は『シェアハウス・ウイズ・バンパイア』だと思っていた。『ジョジョ・ラビット』を観るまでは。

『ジョジョ・ラビット』はコメディ映画としては少し弱い。ヘイト・クライムに立ち向かうという社会派的な側面がはみ出し過ぎて、ビルドゥングス・ロマンとしてのファクターも色濃く盛り込んだためコメディの要素はなくてもよかったという気までしてしまう。エンディングでは笑うどころか涙さえ出てしまいそうだった。エルサと別れたくないジョジョは嘘をつき、真実を知ったエルサはジョジョを張り飛ばすも、2人は珍妙なダンスを踊り始め、デヴィッド・ボウイ「ヒーローズ」と共にエンド・ロールへと雪崩れ込む。とても短いシーンだけれど、ローマン・グリフィン・デイビスはほんとに11歳かよと思うほど演技が複雑で素晴らしく、ユーゲント仲間のヨーキーもとてもかわいかった。

三田格
『ジョジョ・ラビット』予告編

プリズン・サークル - ele-king

「法律が変わるまでやめます」と井上陽水は言った記憶がある。大麻所持で逮捕された時のコメントで、法律が変わったらまたやるという意味にも取れる。謝罪はなかったはずで、執行猶予のあいだ(当時は2年)に6作目のアルバム『white』もリリース。留置場でつくった曲も収録され、歌詞は急に難しくなった。

 ピエール瀧や沢尻エリカがドラッグで逮捕されてから起きた騒ぎが何かに似てるなと思っていたら、ああ、16年前に起きたイラク人質事件だと思い当たった。日本人4人がイラクで武装グループに誘拐され、日本政府が身代金を要求されるや、人質たちに対して異様なほど国内から攻撃の言葉が向けられたのである。元パレスチナ・ゲリラの足立正生さんが知り合いのゲリラ仲間に連絡をとり、そこからなんとか解決に向かう糸口を見つけたそうで、あらゆる立場の人がどんなルートを使ってでも人命を第一に考えるならわかるけれど、それどころか人質たちは同じ日本国民に罵倒され、自己責任論が一気に巻き起こった現象は海外でも大きな話題となり、日本社会の構造があれこれと論じられるきっかけともなった。それから6日後に別な武装グループに誘拐されたイタリア人たちが同じようにして解放されたケースではイタリア人たちが喜びのあまり国を挙げてのパレードを開催したことで、その対比はあまりにもはっきりとしたものになった(ちなみに自己責任論の言い出しっぺは安倍晋三で、ブッシュ政権の国務長官コリン・パウエルが日本人の人質たちを弁護するという奇妙な図式に発展した)。ドラッグに手を出した芸能人をめぐる海外のニュースはイタリアの例と同じトーンで語られていて、最近だと『アベンジャーズ』の看板俳優、ロバート・ダウニー・ジュニアが麻薬更生施設に入ったというニュースが淡々と報道されるのに対し、そうした芸能人たちがドラッグ依存から立ち直ったというニュースが流れるとそのことを祝福するニュースがメディアにあふれかえる。ドラッグ依存に対して「責める」よりは復活を「喜ぶ」声の方が強いのである。アメリカ人はことさらにカムバック・ストーリーが好きだということもあるかもしれないけれど、それにしても武装グループの人質になった人やドラッグ依存の人を糾弾し、「アウト、アウト」と叫ぶ感覚は一体どこからくるのだろう。中東で人質になった人たちは法律を犯したわけではないので、法律を守らないということでもないし、共通点があるとしたら誰にも知られずに好きなことをやっていたというぐらいで、そんな人はしかし、ほかにいくらでもいる。わからない。普通とは違ったことをして、そのことがマイナスに転じた時に容赦なく襲ってくる人やそれを喜ぶマスコミが日本には少なからず存在するとしか言えず、排除の基準には悩むばかりである。あるいは吉田大八監督『羊の木』や白石和彌監督『ひとよ』など、このところ刑務所帰りの人たちがさらに過酷な運命に直面しなければならないという作品が続くのも気になるところで、「禊」という感覚にも違和感が募るばかり。ピエール瀧が『ゾッキ』の撮影に入ることで「瀧ルール」などという言葉まで生まれてしまった(それを言うなら陽水ルール?)。

 坂上香監督『プリズン・サークル』は日本の刑務所に初めてカメラが入ったドキュメンタリー。撮影場所に選ばれた「島根あさひ社会復帰促進センター」では「セラピューティック・コミュニティ」(以下、TC)というリハビリ・プログラムを実施することで再入所率を減少させることに成功し、刑務所=罰を与えるところという概念を変化させているという。内容は専門家のガイドを得ながら囚人同士で話し合うだけのことである。最も驚いた部分を最初に書いてしまうと、裁判所で刑を言い渡されて服役しているにもかかわらず、実は自分のやったことの意味がまるでわかっていないという例があったこと。それがTCという場で周囲の囚人たちと会話を重ねているうちに、自分が何をして、どうして罰せられたのかがやっと理解できたというもので、その場面を見ていて、え、裁判所ってそういうことをわからせるところじゃなかったの? と別な疑問まで湧いてしまった。『プリズン・サークル』はそういったプロセスを4人の囚人をクローズ・アップすることで細かい部分まで明らかにし、それこそホアキン・フェニックスという名優を得ることができれば、さながら4ヴァージョンの『ジョーカー』を観たような気分にさせてくれたようなところがある。『ジョーカー』のアーサーはケン・ローチやポン・ジュノが題材とした下層労働者を普遍化する存在ではなく、京アニの放火犯に近い存在だと思うので、この連想はそれほど遠くかけ離れたものではないだろう。親に虐待されている人を羨ましく思うほど家族とのつながりを欲している健太郎(仮名)など、「親」との関係がいやでも本人にのしかかってくるという構造も『ジョーカー』を思わずにはいられない。TCによって記憶を取り戻す人、親との関係を初めて客体視できるようになったり、それによって考え方が変わっていく人など、どの部分も見応えがあり、「理解」がなければ「反省」にも辿り着かないと言うことがよくわかる。あるいは「反省」だけをさせようとする人は目的がそもそも違うんだなということも。それにしても(たまたまかもしれないけれど)親が原因のほとんどをなしている例が多過ぎる。それ以上の論点には踏み込まないものの、家族主義を弱体化させるだけでどれだけ犯罪が減るんだろうとはやはり思ってしまいます。話を続けることで自分が変われたと自覚した囚人が終盤で感謝の意を込めて監督に握手して下さいというと、刑務官が規則だからといってこれを退けてしまう場面はなかなかに切なかった。彼を犯罪者にした感覚の大半は人との触れ合いが無さすぎたことから発していると思うのに、犯罪者になったことで、やはり禁じられるのが人との触れ合いなのである。エンディング近く、出所した人が「刑務所にいた間は充実していました」とコメントしているのも、おそらく厳罰主義者や犯罪者に「アウト」と叫ぶだけの人たちには気に入らない箇所だろう。京アニの放火犯を『ジョーカー』と同一視して見るのが困難であるように。

RBG』や『マックイーン:モードの反逆児』、『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』や『主戦場』と、昨年は劇映画よりもドキュメンタリーの方が幅も広く、全体にテンションが高いなと感じていた。『プリズン・サークル』と同じくイランで初めて少女鑑別所にカメラが入ったメヘルダード・オスコウイ監督『少女は夜明けに夢を見る』という作品もあった。望月衣塑子をダシにした『i-新聞記者ドキュメント-』は微妙だったけれど、まだまだ観たいものは残っていて、8時間を超えるにもかかわらず山形映画祭ドキュメンタリー部門で大賞と観客賞をダブル受賞したワン・ビン監督『死霊魂』もこの春には控えている。この勢いはまだまだ続くかもしれない。『プリズン・サークル』の撮影対象となった「島根あさひ社会復帰促進センター」は島根県が誘致してつくられた官民連携の新しい刑務所で、その目的は雇用促進というビジネスがベースでもある。矯正とビジネスが結びついて利益共同体と化したアメリカの刑務所に取材し、『監獄ビジネス』(ヒラリー・クリントンはこれで大統領選で黒人票を失ったとも言われている)を著わしたアンジェラ・デイヴィスは『プリズン・サークル』に寄せて「この映画は、静かに、私たちを沈黙という抑圧から解放する。刑務所を、受刑者を、そして観る者を」と賛辞を述べている。
 

『プリズン・サークル』予告編

interview with shotahirama - ele-king

 いったいなにごとかと、そう驚くことになるだろう。これまでノイズ~グリッチの領野でキャリアを重ねてきた孤高のプロデューサー、「きれいなひとりぼっち」こと shotahirama が、突如ヒップホップに開眼したのである。といってもいきなりラップをはじめたわけではなく、またごりごりのギャングスタに転身してしまったわけでもない。昨年末にリリースされたばかりの新作『Rough House』が、ターンテーブルを用いて制作され、無類のビート・ミュージックを打ち鳴らしているのである。
 とはいえそこはやはり shotahirama、前作『Maybe Baby』ほどではないにせよ、グリッチ・ノイズやダブも細やかに取り入れられている。今回の新作がおもしろいのは、にもかかわらず既存のエレクトロニカ~グリッチ・ホップのようなスタイルとは微妙に距離を置きつつ、かといってクリスチャン・マークレーのような前衛に振り切れるわけでもなく、もちろんヒップホップのターンテーブリストたちのスタイルとも異なっているところで、なるほどたしかにこれは彼にしかつくりえないヒップホップといえるだろう。
 このような「転向」のきっかけは2年前。それまでほとんど聴いてこなかったというヒップホップに、まずはリスナーとしてのめりこむことからすべてがはじまった。以下のインタヴューをお読みいただければわかるように、それはもうどっぷりだったのだという。有名どころは無論のこと、ずいぶんマイナーなものにまで関心の矛先は向かったようだ。それこそディギン・イン・ザ・クレイツよろしく掘って掘って掘りまくり、寝ても覚めてもまた掘って……なかでも強く惹きつけられたのは、90年代ニューヨークのアンダーグラウンド・シーンだったという。shotahirama はそこにオーセンティックを見出した。
 今回が彼にとって初めての「アルバム」であるという点も注目しておくべきだろう。いや、もちろん shotahirama はすでに何枚もアルバムを送り出している10年選手なわけだけど、今回の新作『Rough House』は3~5分の曲が10トラックという、わかりやすい「アルバム」のかたちをとっているのである(最後の1曲をのぞく)。これまで長尺の曲ばかりつくってきた彼が、ストレートにアルバムという形態に挑戦──いったいなにごとかと、そう驚くことになるだろう。
 と、このように二重に転機を迎えた shotahirama だけれど、今作に込められているのはたんにヒップホップにたいする熱い想いというよりもむしろ──や、それも当然あるのだけど、それ以上に──ハマったらとにかく一意専心、掘って掘って掘りまくるという、音楽文化そのものにたいする深い敬意と誠実さなのではないかと思う。つまり、至上の愛である。


最近の主流のヒップホップでもなく、逆にテクノとか、ノイズとかグリッチでもなく、そのぜんぶの中間地点というか、どこにも属していないものでできているような音になっていたらいいかな。

前回のアルバムから2年半くらいが経ちましたけれど、この間はなにをされていたのでしょう?

shotahirama(以下、SH):ふたたびレコードを買うことに舞いもどりましたね。リスナーとしてしっかり店に行って、買って。またむかしみたいにディグりはじめているかな。レコードにもう一回興味が出てきた。

おもにどういった方面のものを?

SH:前回の『Maybe Baby』の制作が終わってから、ずっとヒップホップばかり買っていましたね。妻がもともとディスクユニオンのヒップホップ担当だったので、有名どころはすでに家にあったんですよ。でも俺はノイズとかオルタナの人だったから、言い方は悪いけど、「ラップしてんなよ」という感じで(笑)。「ア・トライブ・コールド・クエスト聴いてればヒップホップ知ってるでしょ」くらいの感じだった(笑)。まわりの若い子たちがみんなヒップホップを聴いていて、かっこいいんだなと。それで、ちゃんと聴いてみよう、俺も買おうと思って、自然とヒップホップを探すようになった。一度のめりこむとそれだけになっちゃう性格なんですよね(笑)。じぶんでもとことん調べるし、お店の人や詳しい人に訊いたり。40歳とか45歳くらいの先輩たちは、リアルタイムで通っていた人たちだから。それでもうドハマりして、月いくらまでって制限しないと信じられないくらい買っちゃう(笑)。コレクターって厄介ですよね。音楽はもちろん聴くんだけど、所持してるフィジカルの数が増えていくことじたいにもけっこう昂奮しちゃう。

買ったのに時間なくて聴けていないやつとかありますよね(笑)。

SH:あと、おなじの買っちゃったりね(笑)。

それで今回ヒップホップのアルバムになったと。

SH:こんなにレコード持ってるし、じゃあ使ってみるかということで。がっつりターンテーブルで、マシンドラムと合わせてね。今回はラップトップのソフトウェアとかはあんまり使わないでつくりました。だから、レコードを買うことによって今回のアルバムが生まれたんですよ。

ヒップホップのなかでも、いちばんハマったのはどの辺ですか?

SH:いちばんハマったのは、90年代半ばのニューヨークのアンダーグラウンドのものですね。ロード・フィネスやバックワイルドなどの D.I.T.C. (Diggin’ In The Crates)とか。あとブルックリンだとナチュラル・リソースとか、ハードコアだけど、ヘルター・スケルターとかのブート・キャンプ・クリックとか、その界隈にいるダ・ビートマイナーズとか。彼らがトラックメイクしている12インチをひたすら探した。ビートマイナーズのシーンはめちゃくちゃかっこいいんですよ。とくに、その界隈のシェイズ・オブ・ブルックリンやフィンスタ・バンディはめちゃくちゃハマりましたね。音数が少なくて、ネタが一個あって単純にワン・ループでっていうところがすごく好きで。キックとスネアだけで、音がこもっていて、ラップも暴力的じゃない。俺はこういうのが好きなんだなというのがこの2年間でわかった。

2018年の秋に、アルバムからの先行シングルとして「Cut」を出していますよね。でも音を聴くと、そのあとにけっこう変わったのかなと。今回のアルバムには収録されていないですし。

SH:気持ちが変わった(笑)。気分屋というか気まぐれというか、やっぱりじぶんの思うままにやっていきたいじゃないですか。メジャーでもないし。でも今回も、「Cut」とおなじことはやっています。あれもノイズっぽさとかグリッチな感じはかなりなくしたし、サンプリングをつかっているし。でもまだちょっと『Maybe Baby』が入っちゃっている感じですね。

新作を聴いて、たしかにヒップホップだけど、とはいえやっぱりグリッチだなとも思いました。

SH:ですね。ちょっとハウスっぽくないですか? クリック・ハウスみたいな。ドープな暗いギャングスタではないし、ウェッサイでもないし。ぼくがそういう人じゃないから。そもそも(生まれが)ニューヨークだし。なんとなく怖いという感じにはならないくらいが俺っぽいのかなと。踊れて、かつ聴かせられるようなものをつくりたかった。だからグリッチしちゃうし、ターンテーブルもずっと指でなぞってわざと速度を落としたり。といってもタンテを使っているグリッチの人、たとえばクリスチャン・マークレーとか大友(良英)さんとか、そういう感じでもない。俺だったらどうできるんだろう、というのは考えました。ヒップホップとは言っているけど、shotahirama っぽさはある。当然ヒップホップを意識してつくったんですけど、グリッチとかノイズとかを聴いているひとがたどりついてくれたらいいな。もちろん、ふだんヒップホップしか聴かないひとにも聴いてもらいたいし。

いまの主流のトラップでもないですよね。そっちは肌に合わない?

SH:トラップのシーンをそんなに知らないから簡単にはいえないけど、少なくとも今回やろうとしていたこととはまったくちがうだろうなと。たぶん、前回のアルバムに比べて今回は音がすごく少ないと思うんです。音が多いものだったり速いものだったり、あとエレクトロニックな感じにもあまりしたくなかった。クラブ的というか、ファッショナブルな感じにはしたくなかったんです。きらきらしてつやっぽいものではなく、ハイが削れていて中音域が豊かな、アナログっぽい質感で、ロウで。

ビートがヒップホップだからかもしれませんが、以前よりポップさも増したように思いました。

SH:聴きやすくなっていたら嬉しいな。

むかしの〈Ninja Tune〉に近いのかなとも思いましたね。キッド・コアラとか。

SH:最近の主流のヒップホップでもなく、逆にテクノとか、ノイズとかグリッチでもなく、そのぜんぶの中間地点というか、どこにも属していないものでできているような音になっていたらいいかな。俺じゃないとできない感じ。

どことなくマウス・オン・マーズも思い浮かべました。

SH:マウス・オン・マーズめっちゃ好きですよ! 制作中はぜんぜん頭をよぎらなかったけど、いまそう言われてみて「ああ、俺めっちゃ好きだわ」と思った。それは嬉しいですね。

ナインティーズっていうところに、たぶんじぶんのモードというか、基本的にそこになにか核のようなものがあるのかなって。くすぐられるものがたくさんあるというか。じぶんのなかのオーセンティックが90年代なんですね。

制作過程で〈Anticon〉や〈Definitive Jux〉あたりは聴きました?

SH:少なくともこの2年間では聴いてないですね。たぶん、もともとじぶんが持っていた(グリッチなどの)要素と、新しく掘ったもの(ヒップホップ)が混ざった結果、〈Ninja Tune〉とかマウス・オン・マーズとかにつながっているんだろうな。それはすごくおもしろい。

ちなみにオウテカは?

SH:オウテカはめっちゃヒップホップ好きですよね。でもそういうじぶんに近いところのは聴かなかったですね。オウテカ聴いていたらまたべつな方向にブレただろうし。だからこの間、ギター・サウンドも聴けなかったんですよ。嫌っているわけではなくて、一度ハマるとそればっかりになっちゃうから。

“ROUGH HOUSE” なんかはいわゆるJ・ディラ以降のもたつくビート感に近い瞬間もありますけど、そういうものにも触れなかった?

SH:触れてないですね。ディラもマッドリブも。あー、でもディラは、トライブがらみで少し絡んでいたかも。

そういう話を聞くと、すでにあるグリッチ・ホップなどから影響を受けたのではなくて、かつてそういうものをつくったパイオニアの人たちとおなじように、オーセンティックなヒップホップを聴いて、オリジナルのなにかをつくろうとして、こうなったという流れなんですね。

SH:むかしの偉人たちのインタヴューとかアルバムの解説とかを読むと、たとえばアルバムをつくるためにどこどこへ旅行に行ってとか、その地方の楽器だけ使ってとか、ありますよね。その限定された条件のなかで集中して、たとえばもともとじぶんたちが知っていたギターを弾くようにシタールを弾いてみたり。ラップトップを触るようにターンテーブルを触るとか。そういう感じなんじゃないかな。

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愛が詰まっているんです。「このひと、これが好きなんだな~」っていうのが伝わってくれるといいな。「俺はこういうのを聴いて、こういうふうにつくったんだよ」っていう。

ラッパーを入れることは考えなかったんですか?

SH:やってみたいとは思います。やってみたいですけど、こういう性格なので、いっぺんにいろいろはできないんですよね(笑)。なにかにハマったらそれだけになっちゃう。あるひとりのアーティストだけにハマるというわけではないんですけど、そこからその周辺や時代を探っていって。この曲はこの人がプロデュースしてるんだとか、その界隈をずっとぐるぐるまわって、じぶんのなかに落としこんでいく。それがわかるまで聴きつづける。オタク気質なのかな。だからその間はペイヴメントもまったく聴かなかった。

おもしろいのは、今回のヒップホップにせよペイヴメントにせよ、90年代というところですよね。

SH:グランジもですけど、あの時代のニューヨークのヒップホップはすごくおもしろい。

それはやっぱりじっさいそこに住んでいたから、なにかが刷りこまれちゃってるんでしょうか?

SH:そんなかっこいいものではないと思う。ナインティーズっていうところに、たぶんじぶんのモードというか、基本的にそこになにか核のようなものがあるのかなって。くすぐられるものがたくさんあるというか。じぶんのなかのオーセンティックが90年代なんですね。

前半と後半とでちょっと雰囲気が変わりますよね。今回はデジタルのみでのリリースですけど、しっかりA面・B面でわかれているような印象がある。単純に分数で割ったら収まらないかもですが。

SH:前半はまだグリッチも多くて、後半はサンプリングだけでトラックメイクするような感じ。

こういう流れにした狙いは?

SH:“SLACKER” と “SLACK HOUSE” はもともと1曲だったんです。俺の悪い癖で(笑)。だから切ったんですよね。前半4曲くらいはたしか、つくっている時期がおなじだったんじゃないかな。そのころはまだ1曲10数分でアルバム、みたいなことを考えていたと思う。でも意外とさくさくつくれて、その前半4曲とはまったくべつのものができた。この調子で行けば、(長い)この曲もちがう曲になる、あれもちがう曲にできる、という感じで10曲に絞っていた。

そうすることで、いわゆるアルバムの形態になったと。手ごろな長さの曲がしっかり10曲も入っている、こういうかたちは初めてですよね。

SH:そうそう! フル・アルバム。10曲で50分くらいあって。そんなのやったことないですからね。

キャリア10年目にして、ついに。

SH:自分のレーベルをはじめたのが2009年だから。

たしかに。先ほどハウスっぽいという話が出ましたけど、前半の曲のタイトルに「HOUSE」とついているのはそういう理由から?

SH:いや、これはラフ・ハウス・サヴァイヴァーズっていう、ニュージャージーのヒップホップ・トリオからとりました。ふだんヒップホップを聴いているひとでも知らなかったりする、いわゆるマイナー・ヒップですね。ニュースクールっぽい感じです。そのジャケがまたかっこよくて。でもあとで聴きなおしたら “SLACK HOUSE” とかは意外とクリック・ハウスぽい。意識したわけじゃないけど。そもそもハウスとヒップホップは親戚みたいなものだし、ダンス・ミュージックを聴いていたひとがつくったからそうなったのかな。

今回は音数が少なめなのもポイントですかね。

SH:『Maybe Baby』は多かった。『Post Punk』もそうだし。それはヒップホップを聴いた影響じゃないですかね。

以前、トラックは0.1秒ずつつくっていくといっていましたよね。そのペースでざっくり計算してみると、今回はめちゃくちゃはやく仕上がっているのでは?

SH:めっちゃはやいです。今回メインでつかっているのはエレクトロンのデジタクトという機材で、ビートがつくれて、サンプラーにもなっている。『Maybe Baby』のときは使っていなかった。前回は基本的にリアクターっていうソフトとずっとにらめっこしていて。そのちがいじゃないですかね。ノイズっぽいところ、グリッチっぽいところもあるけど、ほんとうにわずかなので。ターンテーブルはビートメイクをするうえで、ほんとうにはやくつくれる。大丈夫かなって思うくらい。前作とはぜんぜん制作期間がちがいますね。『Maybe Baby』は、あれだけ頑張ったのに、結果10数分だった(笑)。今回はこの期間で10曲もできているし、アウトテイクも含めたらもっとある。

あとやはり随所にダブの要素も仕込まれていますよね。最後の曲とか。

SH:これは(リカルド・)ヴィラロボスの影響なんです。あの読み方が難しいアルバムの……

赤いジャケの?(『Fizheuer Zieheuer』)

SH:そう! あのジャケの盤を3枚くらい持っていたんです。何回も再発されて黒いジャケになってるんですけど、赤いジャケありのやつは高いんですよ。

あれはぼくも一時期めっちゃハマりましたけど、3枚はすごい(笑)。

SH:あれをずっとひきずっていて。ほんとうにお気に入りで、いつかああいうのをつくりたいと思っていた。ヒューっていう亡霊みたいな声が入ってくる部分も、じぶんのなかでたまたま近いネタをみつけて、それをピッチダウンしたら幽霊みたいになって、「あれっ、この感じ、発明したかも」と。ヴィラロボスはもっとクリックで、テクノですけど、それをダウンテンポでできるのではないかと思いついた。音数を極端に減らして、たまにディレイをかけて。そういう思い入れもあったので、最後のその曲だけ10分超えてたと思います。

なるほど。ヴィラロボスだったとは。いやー、懐かしい。

SH:呪術的な、すごい妖しい感じでね。アガる声ネタも入っていて、祝祭感もある。トランペットも入っていて、南米のノリですよね。ヴィラロボスはほんとうに好きですね。ぼくのはもうちょっと暗い感じになってる。

この歳になってじぶんの好きな領域がまた増えたというか、かつてギタポを聴いていたときのように、しっかり勉強して買ってという感じになれたので、すごく幸せな2年間でしたね。

今回の制作中に聴いた唯一のヒップホップではない作品?

SH:いや、聴いてはいないですね。じぶんのなかでずっとひきずってきたって感じです。ほんとうに好きな12インチなので。おもしろいですよね。サンプリングしようと思ってつくりながら、「あれ?」という発見がある。「こういうふうに聞こえるんだ」みたいな、そういう発見はめちゃくちゃ楽しいです。それって、0.1秒ずつグリッチさせてノイズつくっていくのよりもはるかに健康的じゃないですか(笑)。

たしかに。ほかに工夫したことはありますか?

SH:たぶんヒップホップのトラックをつくるときって、ふつうはジャズとかソウルから元ネタを引っぱってくると思うんですが、俺は今回、基本的にはヒップホップの12インチを使いましたね。ほんとうはその元ネタを探してつくるんでしょうけど。だから、わかるひとは聴いたらわかるんじゃないかな。ギャングスターも入ってるし。最後の曲の冒頭はジェルー・ザ・ダマジャの “Come Clean” って曲ですね。

デビュー作の。

SH:シェリー・マンっていうドラマーの “Infinity” という曲があるんですけど、その曲で鳴っている、水がしたたるような音をジェルー、正確にはプレミア(プロデュースはギャングスターのDJプレミア)が使っているんです。その12インチをそのまま使って、ピッチを落としてテンポも遅くして、ビートに乗っけて。そのやり方に愛が詰まっているんです。「このひと、これが好きなんだな~」っていうのが伝わってくれるといいな。

孫引きみたいな感じですよね。その場合オリジナル盤じゃないから、それをサンプリングしているほうの微妙な音の感じも入ってくるということですよね。

SH:そうです。さらに指でピッチを変えているし、当然サンプラーでもまためちゃくちゃいじるし。いくつかの過程を経ているので、まったくそのままでは絶対にないはずです。あとはスラム・ブラザーズとか。1曲目の “STOP FRONTING” はスラム・ブラザーズの同名曲からとっていますね。ネタもそのまま。ピッチはだいぶ変えてるけど。だから、「俺はこういうのを聴いて、こういうふうにつくったんだよ」っていうのが伝わるといいな。

まずなにより音楽好きであるというか。

SH:やっぱり音楽オタクなんですね。それで前回のときにはいっさい話していなかったヒップホップにもついにハマってしまったと思ってもらえれば(笑)。とか言いつつ、ちゃっかり去年の(スティーヴン・)マルクマスのライヴにも行ってるんですけどね。この歳になってじぶんの好きな領域がまた増えたというか、かつてギタポを聴いていたときのように、しっかり勉強して買ってという感じになれたので、すごく幸せな2年間でしたね。でも、このインタヴューがきっかけで、じぶんのなかのヒップホップのブームが終わったらと思うと怖いな(笑)。次のアルバムのときはラテンの話をしていたりするかもしれない(笑)。

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