「You me」と一致するもの

Pop Smoke - ele-king

 2020年2月19日、午前4時半頃。フードを被った4人の男がハリウッド・ヒルズのある邸宅に侵入。豪邸が立ち並ぶ明け方の街に、数発の銃声が鳴り響く。複数の銃弾を受けた20歳の男、Bashar Barakah Jackson は、シダーズ・サイナイ医療センターに搬送されるも、命を落とす。

 ブルックリン出身の Jackson は、“Pop Smoke” というステージ・ネームを名乗っていた。

 99年、ジャマイカ系の母とパナマ系の父のもとに生まれたという彼は、パナマ系の名前が「パッパ(Poppa)」であり、それがいつしか「ポップ(Pop)」と呼ばれるようになった、と語っている。仲間を「パパ」とは呼びたくないからだろう、と。

 その Pop Smoke がラッパーとして注目を集めたのは、2019年4月にリリースした “Welcome to the Party” という曲だった。この原稿を書いている時点では YouTubeで3,300万回、Spotify で2,400万回以上聴かれている(前週にもチェックしたが、いずれも数百万回単位で増えている)。Complex や XXL といったメディアが昨年のベスト・ソングに選んだ “Welcome to the Party” は、2019年を代表する一曲として受け止められ、ニッキー・ミナージュによるリミックスも注目を集めた。あの曲が Pop Smoke という名前とブルックリン・ドリルのサウンドを街の外に知らしめた、と言っていいだろう。Pop の重要性は、“Welcome to the Party” をヒットさせ、ブルックリンの顔役としてドリル・シーンを牽引してきたことにある。

 同年7月、Pop は〈ビクター/リパブリック〉からデビュー・ミックステープ『Meet the Woo』をリリース。その後もブロンクスの Lil Tjay が客演した “War”など、休みなくシングルを発表しつづけ、年末には Travis Scott の JACKBOYS からもフックアップされる。注目を集めるなかで今年2月にリリースされたのが、この『Meet the Woo 2』だった。

 そもそもシカゴのサウス・サイドのギャングスタ・ラップとして先鋭化したドリルは、ロンドンを中心とするイギリスのロード・ラップ・シーンに輸入され、同地でグライムやUKガラージなどと交雑し、やがてUKドリルとして特異化した。英国のプロデューサーたちが生み出す独自のスタイルとリズムを持ったドリル・ビートは、タイプ・ビート・カルチャーが発展するなかでブルックリンの若いラッパーたちによって注目され、海を越えてオンライン上で取り引きされるようになる。ブルックリンのMCたちが 808 Melo や AXL Beats といったプロデューサーたちのビートを買い、その上でラップをしたことで、ブルックリン・ドリルのシーンは独自の展開を見せていく。

 シカゴ南部、ロンドンのブリクストン、そしてNYのブルックリン……。言葉とビート、スタイルとフロウがいくつものフッドを経由し、複雑に交錯した結果生まれた混血の音楽──それがブルックリン・ドリルだ、とひとまず言うことができるだろう(そのあたりのことは、FNMNLの「ブルックリンドリルの潮流はいかにして生まれたか?」にも詳しい)。

 低くハスキーにかすれた声を持ち、まるで言葉を吐き出すような独特の発声、狼の雄叫びのようなアド・リブ(“woo”)をシグネイチャーとする Pop は、ドリルのビートにのせてブルックリンのストリート・ライフをレプリゼントしていた。たとえば、『Meet the Woo 2』からカットされたシングル “Christopher Walking”は、ニューヨークを舞台とするクリストファー・ウォーケン主演のマフィア映画『キング・オブ・ニューヨーク』にかけたものだし(「俺がニューヨークの王だって、彼女は知っている」)、JACKBOYS との “GATTI”では「俺はフロス(ブルックリンのカナージー)から来た」とラップしながら、自身のクルー “Woo” と敵対関係にあるライバルの “Cho” をこき下ろす。

 Migos の Quavo や A Boogie wit da Hoodie といった売れっ子、ブルックリンの同胞である Fivio Foreign などが参加した『Meet The Woo 2』は、シーンの急先鋒を行く者として、Pop の立ち位置を決定的なものにする作品になる、はずだった。だがいまでは、「フロッシー(カナージー)に来るなら、銃を持っておいたほうがいい」「空撃ちか? 俺が怖いのか?」(“Better Have Your Gun”)というラインも、「無敵に感じるんだ」(“Invincible”)という豪胆さも、「俺は武装していて危険だ」(“Armed n Dangerous (Charlie Sloth Freestyle)”)という虚栄も、なにもかもがむなしく感じられる。

 Pop の殺害は当初、強盗目的だとも考えられていた。が、実はそうではなく、計画的なものだったと見られている。死の直前にはニューヨークでのショーへの出演をキャンセルするなど、彼は敵対していたギャングとのトラブルの渦中にいたからだ。

 暴力と金銭欲を礼賛し、称揚していた Pop の死を、自業自得だというのは易い(Pop の死後、Cho のメンバーたちが彼の死を嘲り笑う投稿がソーシャル・メディア上で散見されたことは、指摘しておく必要があるだろう)。しかし、パーコセットとコデインの過剰摂取で亡くなった Juice WRLD にしても、彼らの死の背後には、ひとびとの憎しみと欲望が渦巻く社会があり、システムがあり、歴史がある。特に、武装権と絡み合った市民の銃所持、それとコンフリクトする銃規制の議論は、アメリカという国の重要な一側面を象徴する問題である。一方でギャングスターたちのひとりひとりが背負っているのは、壊れた街を舞台とする、生々しい暴力である。

 21 Savage は、こうラップしていた。“How many niggas done died? (A lot)”と。そして Childish Gambino は、こうラップしていた。“This is America / Guns in my area”と。

 わたしは、何度もじぶんをかえりみ、みずからに問いかける。アメリカ社会の異常さを知りながら、銃声を模したアド・リブや発砲音、「グロックがどうだ」というリリックが詰め込まれたラップ・ミュージックを「リアル」だとして享受し、消費しているわたしはなんなのだろう、と。答えはでない。

 Pop の音楽には、いくつもの可能性があったはずだ。そもそも、きわめてドメスティックだったアメリカのラップ・シーンと英国のそれとが直接的に交差したことは、(近年、カナダの Drake が積極的に試みてきたにせよ)それ自体が珍しいことだったし、“Welcome to the Party” をロンドンの Skeptaリミックスしたことは、そういったカルチャーのクロスを象徴していた。

 またそのリズムとグルーヴには、トラップ・ビートが一般化したアメリカのポップ・ミュージックの現況を相対化する力が宿っていた。トラップ・ビートが前提条件となり、一種の「環境」と化した今、超低音のサブ・ベースとキックとが同時に鳴らされることでベースラインはほとんど消失し、グルーヴは均一化されている。そういった状況において、UKベースの伝統に由来するドリルの跳ね回るリズムや太くうねるベースラインは、トラップ一辺倒のシーンに異論をなげかける、オルタナティヴになりうる。ドリル・ビートがアメリカのポップ・ミュージックにグルーヴを取り戻す、新しいグルーヴを提示する、というのはいいすぎだろうか。

 そういったブルックリン・ドリルの可能性は、Pop 亡きいま、同地の仲間たちが担っていくことになるだろう。先に挙げた Fivio Foreign はもちろん、Sheff G、22Gz、Smoove’L、PNV Jay……すでに多くのラッパーたちが活躍している(Woo と Cho との対立は温存されたままではあるものの)。さらに、アメリカのプロデューサーたちもドリル・タイプのビートをつくりはじめている。シーンとは無関係だったラッパーたちもドリル・ビートにラップをのせはじめているし(Tory Lanez の “K Lo K”などがそれにあたる)、これが一過性のブームに終わるか、ラップ・ミュージックのスタイルとビート/リズムの発展に寄与するかは、もうすこし見守ってみないとわからない。

 皮肉なことに、Pop が亡くなってから、彼のシングル “Dior” が初めて Billboard Hot 100 にチャート・インした。典型的なブルックリン・ドリルのサウンドとスタイルを伝えるこの曲は、これからも広く聞かれていくことになるだろう。

 いずれにせよ、Pop の死を典型的なギャングスタ・ラップの伝説として、素朴に消費してはならない。

 RIP Pop Smoke

Squarepusher - ele-king

 仕事が早い! 5年ぶりの最新アルバム『Be Up A Hello』を送り出したばかりのスクエアプッシャーが、なんと、もう新作をリリースする。タイトルは「Lamental EP」で、3月20日に日本先行発売。アルバム収録曲の別ヴァージョンやアウトテイクに加え、2016年に発表された静かな炎 “MIDI Sans Frontières” およびそのリミックス・ヴァージョンも収録されるとのこと。
 また同時に、いよいよ1ヶ月に迫った来日公演のサポート・アクトも発表された。“Terminal Slam” の強烈なMVを手がけていた真鍋大度である。これは相性バツグンでしょう。とうわけで、新作EPをチェックしつつ、過去のスクエアプッシャーの代表作も復習しながら、4月の来日にそなえておこう。

⇨ スクエアプッシャーの最新インタヴューはこちらから。
⇨ 必聴盤9枚でたどるスクエアプッシャーの歴史はこちらから。

最新アルバム『Be Up A Hello』が賞賛を集める中、
早くも新作「Lamental EP」のリリースを発表!
EU離脱に対する怒りとして発表した “MIDI Sans Frontières” の
セルフリミックス・バージョンを公開!
いよいよ来月に迫った来日ツアーでは、
MVを手がけた真鍋大度の出演が決定!

5年ぶりの最新アルバム『Be Up A Hello』が、オリコン洋楽チャート10位に初登場し、UKとUSで過去最高チャートを記録するなど、賞賛を集めているスクエアプッシャーが、早くも新作「Lamental EP」を完成させた。来日公演を直前に控えた3月20日に日本先行でリリースされる。

今作にはアルバム収録曲 “Detroit People Mover” の別バージョンでもある、スペーシーで躍動感溢れるテクノ・トラック “The Paris Track” と、アルバム・バージョンの “Detroit People Mover”、そしてアルバムからのアウトテイクで、スクエアプッシャーのメランコリックでメロディアスな面を打ち出した “Les Mains Dansent”、また2016年にイギリスのEU離脱を問うた国民投票の結果に対する抗議の意思として発表した “MIDI Sans Frontières” と、そのセルフリミックス・バージョン “Midi Sans Frontieres (Avec Batterie)” の5曲が収録される。12インチ盤には、“Les Mains Dansent” を除いた4曲が収録される。

Midi Sans Frontieres (Avec Batterie)
https://youtu.be/X_k2lih0T6U

また今回の発表に合わせ、各国で予定されているヘッドラインツアーのサポートアクトが発表された。日本では、超近未来の東京を舞台にした破壊的映像が話題となっている “Terminal Slam” のミュージックビデオを手がけた真鍋大度(Rhizomatiks)の出演が決定! 名古屋、大阪、東京の全公演でサポートアクトを務める。

Terminal Slam (Official Video)
https://youtu.be/GlhV-OKHecI

なお、ミュージックビデオの制作の裏側を明かす特設ページが現在公開中。
https://research.rhizomatiks.com/s/works/squarepusher/

『Be Up A Hello』に続く新作「Lamental EP」は、3月20日(金)に日本先行リリース。

待望の来日ツアーに真鍋大度の出演も決定!
前売りチケットは絶賛発売中!

SQUAREPUSHER JAPAN TOUR 2020
SUPPORT ACT: DAITO MANABE

2020年4月1日(水) 名古屋 CLUB QUATTRO
2020年4月2日(木) 梅田 CLUB QUATTRO
2020年4月3日(金) 新木場 STUDIO COAST

TICKETS : ADV. ¥7,000+1D
OPEN 18:00 / START 19:00
※ 未就学児童入場不可

詳細 ⇨ https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10760

チケット情報
【絶賛発売中】
名古屋: イープラスチケットぴあ (Pコード: 176-074)、LAWSON (Lコード: 42831)、LINE TICKET [https://ticket.line.me]、BEATINK、クアトロ店頭 他
大阪: イープラスチケットぴあ (Pコード: 175-878)、LAWSON (Lコード: 53383)、BEATINK
東京: イープラスチケットぴあ (Pコード: 176-570)、LAWSON (Lコード: 73049)、BEATINK、GAN-BAN店頭 他

label: Warp Records / Beat Records
artist: Squarepusher
title: Lamental EP
release date: 2020.03.20 FRI ON SALE

国内盤CD BRE-59 ¥900+税

BEATINK.COM
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10684

TACKLISTING
01. The Paris Track
02. Detroit People Mover
03. Les Mains Dansent
04. Midi Sans Frontieres (Avec Batterie)
05. Midi Sans Frontieres

label: Warp Records / Beat Records
artist: Squarepusher
title: Be Up A Hello
release date: 2020.01.31 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-624 ¥2,200+税
国内盤CD+Tシャツ BRC-624T ¥5,500+税

国内盤特典:ボーナストラック追加収録/解説書封入/NTS MIX 音源DLカード封入
(Tシャツセットには限定ボーナストラックDLカードも封入)

各CDショップでの購入特典もチェック!

 Tower Records:四角缶バッヂ

 disk union:丸缶バッヂ

 Amazon:マグネット

 その他CDショップ:ステッカー

Nervelevers (Official Audio)
https://youtu.be/qtSJA_U4W1U

Vortrack (Original Mix)
https://youtu.be/s3kWYsLYuHc

Vortrack (Fracture Remix)
https://youtu.be/59ke5hp-p3E

satohyoh - ele-king

 ちょっとせつなくて、でもやさしくて、あたたかい音楽……。サンクラで展開中の「音メモ」シリーズで話題を集めた秋田の音楽家、サトウヨウが3月11日にセカンド・アルバムをリリースする。2017年に〈PROGRESSIVE FOrM〉から発表されたファースト『inacagraphy+』に続くフルレングスで、ピアノをはじめとするアコースティック楽器とサンプルを組み合わせた、イメージ喚起力の高い情緒的なトラックが並んでいる。なお明日3月4日から OTOTOY にてハイレゾ(24khz/48bit)での先行配信がスタート。もうすぐ春、ですね。

発売日: 2020年3月11日(水曜日)
アーティスト: satohyoh (サトウヨウ)
タイトル: feel like, feel right (フィールライクフィールライト)
発売元: PROGRESSIVE FOrM
販売元: ULTRA-VYBE, INC.
規格番号: PFCD96
価格(CD): 税抜本体価格¥2,200
収録曲数: 15曲
JAN: 4526180513858

◆Tracklisting

01. same old tomorrow's glow
02. 天気雨
03. toro
04. astraea
05. rain is always looking for clouds
06. bange feat. kota okuyama
07. alphabetagammadelta
08. ongoing
09. rufous scene
10. ランプを灯せば
11. little sense monologue
12. break in the parking
13. reprize
14. ただ広い暗闇、欠伸をした信号機
15. the hot-air balloon floating in the chilly sky

M2/4/10/14 vocal by airi hashimoto

◆【feel like, feel right】紹介文

時に優しく、時にせつなく、美しい調べがこだまする。
秋田県在住、風景の音にアコースティックな音を添えサンプリング等の手法を交えて公開する「音メモ」シリーズで SoundCloud を通じて海外でも多くのファンを獲得してきた satohyoh、2017年4月にリリースした初流通作品となる 1st アルバム『inacagraphy+』より約2年、音楽的な成熟度もぐっと増した satohyoh 待望の2ndアルバムが完成!

《好きと感じること、正しいと感じること。角度が変われば「正しさ」は変わる。誰かに教えたり、誰かを支えるとき、「正しさ」に迷う。「好きと感じること」を教える、「好きという気持ち」で支える。自ずと「正しさ」に繋がる。》として名付けられた『feel like, feel right』では、ピアノ、ギターやアコースティック楽器の音を中心に、味わい深いサンプルや豊かな景色の音を混ぜ合わせることで、田舎の景色や情緒溢れる日本の原風景に寄り添ったかのようなオリジナリティー溢れるサウンドが展開されている。

叙情的なピアノが導くM1 “same old tomorrow's glow” M15 “the hot-air balloon floating in the chilly sky”、リラックスさが心地良いM3 “toro” M8 “ongoing”、音楽制作仲間である kota okuyama がギターとコーラスで参加したM6 “bange”、ジャジーなアプローチが気持ち良いM7 “alphabetagammadelta”、鍵盤と弦により奏でられるどこまでも美しいM9 “rufous scene” とハーモニカがノスタルジーを広げるM12 “break in the parking” をはじめ聴き所が詰まったアルバムだが特筆すべきは 1st 同様に参加している橋本愛里のボーカル曲であろう。

2010年にデビュー~HMVのキャンペーン「NEXT ROCK ON」で最優秀ルーキーに選出~ガールズバンド「スパンクル」のボーカルであった、わらべ歌と考古学を学んだボーカリスト橋本愛里が歌うM2/4/10/14の4曲では、彼女の透明感ある声を生かした satohyoh のソングライターとしての才能を感じる事が出来、本作の魅力をより一層高みへと導いている。

◆プロフィール satohyoh

秋田出身、在住、ピアノやアコースティック楽器などを中心に風景に根ざしたサウンドを奏でるアーティスト。
2010年、ロックバンド「サキノハカ」とスプリットシングルを制作。
同年、「ukishizumi」名義で OMAGATOKI 制作のジョン・レノン・トリビュートアルバム『#9 DREAM』に参加。
2011年、インディーズレーベル〈clear〉の東日本大震災チャリティー配信アルバム『one for all, all for one』に参加。
2013年、インディーズレーベル〈T RUST OVER 30 recordigs〉の『Free Compilation Vol.1』に参加。
その後故郷秋田へ戻り、satohyoh 名義にて風景の音にアコースティックな楽器を添えた「音メモ」シリーズを公開、soundcloud を通じて海外でもファンを獲得する。
2015年、エフエム秋田30周年コンピレーションに参加。
2017年1月、初の iTunes 配信限定版「inacagraphy2」を発表、まったくの無名、ノープロモーションながら、iTunes インストゥルメンタル部門で最高位4位となる。
2017年4月、初の全国流通版となるデビュー・アルバム『inacagraphy+』を〈PROGRESSIVE FOrM〉よりリリースする。
2017年、秋田県潟上市で開催されたアート展「オジフェス2017 つきぬける」に楽曲提供。
ウェブマガジン「なんも大学」の映像企画「Discover Akita」(石孫本店、永楽食堂、五城目朝市、鳥海山日立舞、じゅんさい)に楽曲提供。
2018年、秋田県鹿角市、社会福祉法人 愛生会の事業紹介映像、並びに制作ラジオ番組に楽曲提供。
秋田県仙北市で開催されたグループ展「ひらふくひらく」内、高橋希・写真展に楽曲提供。
そして2020年3月、約3年振りとなる 2nd フルアルバム『feel like, feel right』をリリースする。

井手健介と母船 - ele-king

 2015年のファースト・アルバムでサイケデリック・フォークの前線を書き換えた井手健介と母船が、じつに5年ぶりの新作を4月29日にリリースする。サウンド・プロデュースは、ゆらゆら帝国や OGRE YOU ASSHOLE などで知られる石原洋(最近23年ぶりのソロ作を発表したばかり)。『エクスネ・ケディと騒がしい幽霊たちからのコンタクト』というタイトルも謎めいているが、以下にアツく記されているように、とてつもないサウンドに仕上がっている模様。もしかしたら今年最大の問題作の登場かも?

井手健介と母船、石原洋のサウンド・プロデュースによる5年ぶりのセカンド・アルバム、4月29日リリース! デカダンスの香りを纏うグラマラスで摩訶不思議な傑作ロック・アルバム!

なにもかもが妖しい! ついに沈黙を破った井手健介と母船、5年ぶりとなるセカンド・アルバムは、石原洋によってサウンド・プロデュースされた畢生の問題作!
聴く者すべてが度肝を抜かれるだろうその革新的サウンドは、夢魔の狂気か桃源郷か! いや、それはまさしく “2020年の神秘” !!
あのファースト・アルバムはほんの予告にしかすぎなかった!

数多くのミュージシャンがその才能を賞賛してやまない、井手健介率いる不定形バンド、井手健介と母船。ファースト・アルバム『井手健介と母船』(2015年)発表以来、約5年ぶりとなる待望久しいセカンド・アルバムをリリース!
しかし、届けられたそれは、誰もが予想だにしなかった官能的でセンセーショナルなコンセプト・アルバムとして結実していた!

クラシック・ギターをベースに、幽玄極まるサイケデリック・サウンドを展開していたファースト・アルバムから一転。本作『Contact From Exne Kedy And The Poltergeists (エクスネ・ケディと騒がしい幽霊からのコンタクト)』は、サウンド・プロデューサーにゆらゆら帝国や OGRE YOU ASSHOLE 等を手がけ、自らも先月、23年ぶりのソロ・アルバム『formula』を発表したばかりの石原洋、レコーディング・エンジニアに中村宗一郎(PEACE MUSIC)を迎え、デカダンスの香りを纏うグラマラスで摩訶不思議なロック・アルバムとして登場した……!

“Exne Kedy And The Poltergeists (エクスネ・ケディ・アンド・ザ・ポルターガイスツ)” なる架空の人物をコンセプトに、井手健介と母船がいま、衝撃的変貌を遂げる。
謎のエクスネ・ケディとはいったい何ものなのか?! そして、本作録音参加者さえも一聴してにわかに信じ難かったという「まさか!」の連続!

ゑでゐ鼓雨磨(ゑでぃまぁこん)との共作 “ささやき女将” や、ファースト・アルバム所収の名曲 “ロシアの兵隊さん” の華麗なる再録ヴァージョン。映画『バンコクナイツ』のトリビュート12インチ「おてもやん・イサーン」としてすでにリリースされていた代表曲 “おてもやん” は、ダークサイドに落ちたアナキン・スカイウォーカーが突如ベルリンのクラブに現れたかのような邪悪なオリジナル・ヴァージョンで収録。
妖精たちの海、洞窟、鏡の中、宇宙の果て──全9曲、ここではない場所から届く、ここにはいない者たちからの陽気で哀しいコンタクト=接触。

母船の新たな乗組員として、北山ゆう子(ドラムス)と mmm (コーラス、フルート)が加入。さらに、ゲスト・ヴォーカル、コーラスに mei ehara、キーボードに大山亮(キイチビール&ザ・ホーリーティッツ)もゲスト参加。
新生・井手健介と母船による、超現実的にして想定外、まさに奇妙な大作というべき『Contact From Exne Kedy And The Poltergeists(エクスネ・ケディと騒がしい幽霊からのコンタクト)』がついにそのベールを脱ぐ!
2020年最大の問題作にして傑作が誕生!

[商品情報]
アーティスト:井手健介と母船
タイトル:Contact From Exne Kedy And The Poltergeists (エクスネ・ケディと騒がしい幽霊からのコンタクト)
レーベル:Pヴァイン
商品番号:PCD-26075
フォーマット:CD
価格:定価:¥2,600+税
発売日:2020年4月29日(水)

収録曲
1. イエデン landline boogie
2. 妖精たち a place for fairies
3. ロシアの兵隊さん russian soldiers
4. ポルターガイスト poltergeist
5. 人間になりたい caveman’s elegy
6. ささやき女将 madam the whisper
7. おてもやん otemoyan
8. 蒸発 swinging lovers (story of joe)
9. ぼくの灯台 lighthouse keeper

参加ミュージシャン:墓場戯太郎、北山ゆう子、清岡秀哉、羽賀和貴、山本紗織、mmm、大山亮、石坂智子、mei ehara
プロデュース:石原洋
録音・ミックス・マスタリング:中村宗一郎(PEACE MUSIC)

井手健介
音楽家。東京・吉祥寺バウスシアターの館員として爆音映画祭等の運営に関わる傍ら、2012年より「井手健介と母船」のライヴ活動を開始。様々なミュージシャンと演奏を共にする。
バウスシアター解体後、アルバムレコーディングを開始。2015年夏、1st AL『井手健介と母船』をPヴァインより発表する。その後、2017年には、12インチ・EP『おてもやん・イサーン』(EMレコード)、1st ALヴァイナル・エディション(Pヴァイン)をリリース。
その他、映像作品の監督、楽曲提供、執筆など多岐に渡り活動を続ける中、2020年4月、石原洋サウンド・プロデュース、中村宗一郎レコーディング・エンジニアのタッグにより制作された、「Exne Kedy And The Poltergeists」という架空の人物をコンセプトとした2nd AL 『Contact From Exne Kedy And The Poltergeists (エクスネ・ケディと騒がしい幽霊からのコンタクト)』をリリース予定。
https://idekensuke.com

角銅真実 - ele-king

 遡ることおよそ三年前の2017年4月15日に、水道橋のCDショップ兼イベント・スペース「Ftarri」にて、英国のサウンド・アーティスト/即興演奏家デイヴィッド・トゥープの来日公演が開催された。トゥープ含め全三組のアーティストがライヴを繰り広げた同イベントで、一セットめに出演した角銅真実のソロ・パフォーマンスがいまだに忘れられない。スピーカーから音を出力することのないキーボードを叩きながらハミングを披露し、カタカタという乾いた打鍵の響きとなんらかの楽曲らしき歌のようなものが聴こえてくる。しばらくすると会場にばらまかれた無線ラジオにつながれたイヤホンから微かに伴奏が漏れ聴こえ、その後ピアノで演奏することで楽曲のサウンドの全体像が明らかになる。さらに、ポータブル・カセット・プレーヤーから同じ楽曲の録音が再生され、キーボードを介した音のない行為と録音された音だけのサウンド、さらに眼前でピアノを介して歌われる音楽という、少なくとも三種類の楽曲のありようが観ること/聴くことの経験のうちに相互に記憶のなかで関係し合い、パフォーマンスにおいてわたしたちがなにを音楽として受け取っているのかということについてあらためて考えさせられる機会となった。そしてこのようなある種コンセプチュアルな試みでありながら、概念が先行する硬直性とは無縁の、行為そのものの楽しさと悦びにあふれていたことがなによりも印象に残っている。

 cero のサポートやドラマー石若駿による Songbook Trio をはじめ、網守将平率いる「バクテリアコレクティヴ」のメンバーとして、あるいは台湾のアーティスト王虹凱(ワン・ホンカイ)による共同制作プロセスを作品化した「サザン・クレアオーディエンス」のリアライズや、坪口昌恭ら気鋭のジャズ・ミュージシャンとともにアンソニー・ブラクストンの楽曲を演奏するプロジェクト、さらにはアジアン・ミーティング・フェスティバル2019への参加まで、打楽器奏者/シンガーソングライターの角銅真実の活動は驚くほど多岐にわたっている。むろん彼女自身のソロ・パフォーマンスやインスタレーション作品、あるいはアンサンブル・ユニット「タコマンションオーケストラ」も見落とすことはできないものの、単にジャンル横断的というよりも、どんな領域でも違和感なく共存できてしまう柔軟性が彼女にはあるように感じられる。サウンド・アーティストの大城真によるレーベル〈Basic Function〉から2017年にファースト・アルバム『時間の上に夢が飛んでいる』を、翌2018年には〈Apollo Sounds〉からセカンド・アルバム『Ya Chaika』をリリースしてきた彼女が、このたびメジャー・デビュー作としてサード・アルバム『oar』を発表することとなった。

 ヴォイスを楽器の一部であるかのように音響素材の一つとして駆使したファーストから、実験的/即興的な感触を残しつつ歌の比重が増したセカンドを経て、サード・アルバムでは歌が全面的に披露されている。大幅なアレンジが施されているものの、浅川マキの “わたしの金曜日” やフィッシュマンズの “いかれたBaby” のカヴァーも収録されており、彼女のこれまでの作品のなかでもっとも「音楽」に近づいたアルバムだと言っていいだろう。洗練された都会的なコード進行や憂いを帯びながらも力強い歌声、あるいは流麗なストリングス・アレンジなどは、ポップ・ソングと呼んでもよい完成度を誇っているものの、そうしたなかでたとえば1曲め “December 13” の冒頭から聴こえてくるイルカの鳴き声と電子音響が混じり合った大和田俊によるサウンド、あるいは雨だれのように物音が乱れ飛ぶ7曲め “Slice of Time” など、節々に音楽というよりも音そのものに対する興味がうかがえるところが、単なるポップ・シンガーというくくりには収めることのできない彼女の広範なバックグラウンドを示しているようにも思う。

 角銅真実が出演するライヴに行くたびに、客層がガラリと変わることにいつも奇妙な違和感を覚えてきた。ノン・ジャンルを標榜するミュージシャンは無数に存在しており、いまの時代にジャンルを越境/横断することそれ自体に特別な価値があるとも思えない。だがたとえば、リスナーがある音楽をポップス/ジャズ/サウンド・アート/エクスペリメンタル/即興……等々に区分することで自らの耳を閉ざしているのに対して、作り手はそうした分断をよそに交流と制作を繰り返していく。もちろんリスナーはどんな音楽に対しても等しく共感する必要はない。しかし同時に、どんな音楽でもこの世界に存在することは認められなければならない。『oar』のオフィシャル・インタヴューで角銅が「本当の真実ってないし、本当に分かち合えることってない。でも、分かり合えない人たちが一緒にいる状況はおもしろい」と語っていたように、異なる人々が異なるままに共感とは別のあり方で共存すること。それはおそらく、彼女の活動を追い続けることで、実体験として感得できる「おもしろさ」であるとともに、音楽のみならず社会の蛸壺化が進行するなかで、他者とともに同時代を生きる術でもあるのではないだろうか。

Squarepusher 9 Essential Albums - ele-king

 もう25年ものキャリアがあって、メイン名義の〈Squarepusher〉のスタジオ作だけでも15枚というアルバムをリリースしているトム・ジェンキンソン。初来日した頃はまだ22歳とかだったので、よくぞここまでいろんな挑戦をしながら自分をアップデートし続けてきたものだと感心する。段々と自分ならではの表現を確立していったミュージシャンならともかく、彼の場合は特に最初のインパクトがものすごかったわけで、正直こんなに長い間最前線で活躍しつづけるとは、当時は予測できなかった。改めて古いものから彼の作品を並べ、順番に聴いてみると、想像以上にあっちゃこっちゃ行きまくって、それでも芯はぶれない彼のアーティストとしての強靱さ、発想のコアみたいなものが見えてくるようだ。
 ここでは、今年1月にリリースされた最新アルバム『Be Up A Hello』に到るまでの重要作9枚を振り返りつつ、スクエアプッシャーという稀代のアーティストのユニークさをいま一度噛みしめてみたい。


Feed Me Weird Things
Rephlex (1996)

 いまでも、〈Warp〉からの「Port Rhombus EP」がどかんと東京の街に紫の爆弾を落とした日のことはよく覚えている。CISCO とか WAVE の棚は全部それに占拠され、“Problem Child” の殺人的にファンキーな高速ブレークビーツと、うねりまくるフレットレス・ベースの奏でる自由奔放なベース・ラインがあまりに新鮮でずっと繰り返し店でも流されていた。そして、実は〈Rephlex〉からコイツのアルバムが出てるぞっていうことで皆がこのデビュー作に飛びついたのだった。当時はそんなに意識しなかったが、本作は〈Rephlex〉にしては随分とアダルトな雰囲気がある。冒頭の “Squarepusher Theme” にしても方法論としてはその後一気に知れ渡る彼の十八番ではあるものの、ギターのカッティングから始まり、ジャジーでどちらかというと生っぽくレイドバックした響きをもったこの曲は、既にトム・ジェンキンソンの幅広い趣味を示唆している。次に非常にメランコリックで、時折打ち鳴らされるブレークビーツ以外はチルウェイヴかというような “Tundra”、さらにレゲエ/ダブに倍速のブレークビーツを合体させたレイヴ・スタイルをジャズ的なリズム解釈で徹底的にこじらせたような “The Swifty” が続くという冒頭の展開がダントツにおもしろいが、内省的で墓場から響いてくるような “Goodnight Jade” “UFO's Over Leytonstone” といった後半の曲も魅力的。


Hard Normal Daddy
Warp (1997)

 そして〈Warp〉から満を持してリリースされたのが、この2作目。ダークな装いだった前作に比べると随分とメロディックになって、明るく飄々とした印象で、トム・ジェンキンソン自身のキャラクターがよりサウンドに解放されたのかなとも思う。勝手な印象論だけど、こういうジョーク混じりみたいなノリは〈Rephlex〉が得意で、むしろデビュー作のような叙情性と実験性をうまい具合に配合したようなのは〈Warp〉かなというイメージがあって、当時はちょっと意外に感じた。ただ、カマシ・ワシントンがこれだけ持て囃されるような現代ならともかく、90年代後半にファーストの路線をさらに深化させていくのは得策じゃなかったろう。で、これを出した直後くらいに来日も果たし、ステージでひとりベース弾きまくる、作品よりさらにはっちゃけた印象のトムは、より大きな人気を獲得していくのであった。


Big Loada
Warp (1997)

 レイヴにもよく遊びに行っていたし、〈Warp〉に所属することになったきっかけは(初期) LFO だというトムの享楽的側面やシンプルなダンス・ミュージックの悦びが溢れた初期の重要なミニ・アルバム。クリス・カニンガムが監督した近未来ホラー的なMVが有名なリード・トラック “Come On My Selector” が、チョップと変調を施しまくったサイバー・ジャングルちっくでいま聴いても奔放なかっこよさを誇るのはもちろん、ペリー&キングスレイ的なお花畑エレクトリカル・アンサンブル+ドリルン・ベースな “A Journey to Reedham” も素晴らしい。余談だが、トレント・レズナーの〈Nothing〉からリリースされたアメリカ盤では、「Port Rhombus EP」や「Vic Acid」から選ばれた曲も追加収録されているので、かなりお得な入門盤だった。


Music Is Rotted One Note
Warp (1998)

 そして意表を突くように生演奏をベースにした、ほぼフリー・ジャズなアルバムをリリースしたスクエアプッシャー。どうも初期のトレードマーク的スタイルは『Big Loada』でやり尽くしてしまったから、まったく違うことに挑戦したくなったという経緯らしい。それにしても、全楽器を自分で演奏し、しかもあらかじめ曲を作らずドラムから順に即興演奏して録音していくなんて、アイデアを思いついても実際にやろうとするだろうか。まぁそれを実現できる演奏力や曲のイメージが勝手に湧くという自信があったんだろうけど。デビュー作でちらちらと見せていたアダルトでエクスペリメンタルな側面が一気に爆発したこのアルバム、近寄りがたいところもあり、一番好きな作品だというスクエアプッシャー・ファンはほぼいないだろうが、本作があったからこそ、その後の彼の活動もさらに広がりや説得力を持ちえたのだ。ちなみに、ジャケを飾る妙なオブジェはトム手作りのリヴァーヴ・マシンで、ジャケのデザインも自分で発案したそう。


Selection Sixteen
Warp (1999)

 トムには Ceephax Acid Crew として活躍する弟アンディーがいる(本作にもボーナス曲のリミキサーとして参加)。その弟からの影響、もしくは彼らがレイヴァーだった時代から強く持っているアシッドへの憧憬をさまざまなカタチでアウトプットした意欲的な盤。前作からの流れを引きずっているようなジャズ風味の強いトラックや、“Mind Rubbers” のようにドリルン・ベースが復活したような曲もあるが、全体的にはビキビキと鳴るアナログ・シンセのベース音が主役を張っている。これ以前にも酸味を出したトラックはときたま作っていたものの、ジャコ・パストリアスばりの超技巧ベース奏者という売り文句で世に出たアーティストが、わざわざそれをかき消すようなアシッド・ベースだらけの作品を作ってしまうとは……。テクノのBPMでめっちゃファンキーなブレークビーツ・アシッドを響かせる “Dedicated Loop” が、Da Damn Phreak Noize Phunk 名義の Hardfloor を彷彿させるドープさ。


Go Plastic
Warp (2001)

 全編生演奏だった『Music Is Rotted One Note』に “Don’t Go Plastic” という曲があって、日本語でも「プラスチッキー」と言うと安物、(金属に見せかけたような)粗悪品的なものを指すが、この場合は作り物(シンセ音楽)からの離脱を意図していたと思う。それがここに来て宗旨変え、「作り物がいいじゃん!」という宣言だ。時は2001年、エレクトロニカが大きな潮流となっていく少し前。スタジオの機材を一新したスクエアプッシャーは、コンピュータで細かくエディットしてトラックを弄っていくDAW的な手法ではなく、データを緻密にシーケンサーに打ち込むことでこのマッドな高速ブレークビーツを生み出した。ジャズ/フュージョンやエレクトロニック・ミュージックに惹かれたのは、サウンドに存在する暴力性だと語っていたトムが、その本性を露わにしたアルバムだ。全体を貫くダークで偏執的なまでのミュータントDnBは踊ることはもちろん、アタマで考えることや感じることも拒否するような局面があり、激しい電気ショックを浴びる感覚に近いかも。ただ、最初と最後にレゲエ~ダブを解体した比較的とっつきやすい曲をもってくる辺りに、トムの優しさも垣間見える。


Ultravisitor
Warp (2003)

 Joy Division の “Love Will Tear Us Apart” のカヴァーと、フジロックでのライヴ(海賊盤かというくらい音が悪いのが残念)を収録したボーナス・ディスクが話題になった『Do You Know Squarepusher』を経て、03年にリリースされた傑作との呼び声高い心機一転作。極端に言うと、これまでのスクエアプッシャーが試みてきた様々な要素/手法をすべて注ぎ込んだような混沌としたアルバム。どういうわけか、歓声やMCまで入ったライヴ録音の曲も結構多い。アルバム後半を支配する激しくノイジーなエクスペリメンタル・ブレイクコアと対照的なインタールード的な小曲は、ほぼすべてアコースティックな楽器の演奏でまとめられていて、それもトム得意のフリー・ジャズ的なものではなく、むしろクラシックやクラウトロック等を感じさせる(特にラストの2曲が美しい)。さらに本作の間違いないハイライトである、ゆったりとしたテンポと生ドラムの生み出す心地よいグルーヴに被さる、メランコリックな重層的メロディーが印象的な “Iambic 9 Poetry”。これを中心とした冒頭5曲の完璧な構成と展開は、スクエアプッシャーの才がついに二度目の大輪を咲かせたと感じられた。


Ufabulum
Warp (2012)

 手練れのミュージシャンを従えたセルフ・カヴァーをするバンド、Shobaleader One としての活動を挟みつつ、スクエアプッシャーが新たな次元に突入したことを知らせてくれたアルバム。CDではなく YouTube で音楽を聴き、盤を買うよりライヴやフェスに繰り出す、という近年のリスナーの傾向を写したように全曲にトム自身が作成したLEDの明滅による演出が施された映像が存在する。Shobaleader One ではフランスの〈Ed Banger〉から(Mr. Oizo のリミックス入りで!)リリースするなど抜け目のないところを見せ、今作ではその影響もあってか、エレクトロ・ハウスやEDMに通じるような迫力満点の(だが、彼の前衛性やエクスペリメンタルな面を好むファンからしたら大仰な展開や音色はコマーシャルに感じられてがっかりと受け取られるかもしれない)トラック群を仕上げている。混沌度を増すアルバム後半、電子回路が暴走したように予想のつかない展開でリスナーに襲いかかる “Drax 2” や、ヴェイパーウェイヴ的な美学も感じるラストの “Ecstatic Shock” が白眉。


Be Up A Hello
Warp (2020)

 そして、5年ぶりにリリースされた、スクエアプッシャーの原点回帰とも言える最新アルバム。『Ufabulum』や続く『Damogen Furies』では自作のソフトウェアやテクノロジーを駆使して、いわゆるヴィジュアル・アートや最新の IoT にまで斬り込んでいくのではないかという意欲的な姿勢を見せていたトム・ジェンキンソンが、旧友の突然の死去をきっかけに、デビュー前に使っていたような古いアナログ機材や、コモドールの古い 8bit コンピュータまで動員してメモリアル的に作り上げた。近しいひとの死がテーマになっているアルバムだから当然かもしれないが、かつてのはっちゃけまくったスクエアプッシャーを想起させる音色や曲の構成は随所に感じられるものの、どこか悲しげで暗いトーンに覆われている。そして、常に以前の自分に一度ダメ出しして新たなことに挑戦してきた彼が、敢えて彼の音楽性や名声を確立するに到った初期の手法に立ち返ったのには、やはり大きな意義を感じる。特にUKでここ数年盛り上がっているレイヴやハードコア(初期ジャングル)を復興させようという試みは、おもしろいけれど懐古を完全に超越した新しいムーヴメントを生み出しているかというとそうでもなくて、では90年代初頭にそういう現場の雰囲気やサウンドに囲まれて、そこで多くを吸収してプロになったトムのようなひとが改めて当時と同じ道具を手にしたとき、何を表現するのかというのはとても示唆的だと思うからだ。

 4月に行われることになったこちらも5年ぶりの単独ライヴは、『Be Up A Hello』の内容を考えると、ここしばらく注力してきたような、大型スクリーンと派手に明滅する映像をメインの要素に据えた未来的なプレゼンテーションとは違ったものになるのだろうか。ロンドンで行われたアルバムの発売記念ギグを映像で確認すると、機材の音が剥き出しでそれこそドラムマシンやシーケンサーが奏でるループがどこまでも続けばそれだけで幸せなんだ、というかつてDJ以外の演者が “ライヴPA” などと呼ばれた時代にあった雰囲気を感じるシンプルなものだった。もうほとんどレコードでDJをすることはないし、その感覚を思い出すのに少し時間がかかったとすら言っていたジェフ・ミルズの本当に久々のアナログと909でのセットを昨年11月に聴きにいった。ただの懐古に陥らないための演出や伝説の確認ではなくフレッシュな体験としてそれを受け止める若い聴衆とアーティストのインタラクトがおもしろく、今回も新たな発見がありそうだと期待している。
 かつて一世を風靡した “Come On My Selector” のMVは、日本を舞台にしてる風の配役や設定だったが、その実 “Superdry 極度乾燥しなさい” 的な細かな違和感がありまくりだった。最新のビデオ “Terminal Slam” ではやはり渋谷を中心にした東京の街を舞台にし、「また日本贔屓の海外のアーティストに東京を超COOLに描かれてしまった!」というのが大半の日本人の最初の反応で、実は監督したのが真鍋大度だったので、なるほど、さすが〈Warp〉とスクエアプッシャー、よくわかってる!と思ったものだ。今回の来日ステージでも、もしかしたら日本ならではのなにかを反映した演出を用意してくれるかもね。

5年ぶりとなる超待望の単独来日公演が大決定!!

2020年4月1日(水) 名古屋 CLUB QUATTRO
2020年4月2日(木) 梅田 CLUB QUATTRO
2020年4月3日(金) 新木場 STUDIO COAST

TICKETS : ADV. ¥7,000+1D
OPEN 18:00 / START 19:00
※未就学児童入場不可

MORE INFO: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10760

チケット情報
2月1日(土)より一般発売開始!

Dirty Projectors - ele-king

 一昨年『Lamp Lit Prose』で高らかに生を謳歌したNYインディ・シーンの希望の星、ダーティ・プロジェクターズが1年半ぶりとなる新曲 “Overlord” をリリースしている。耳に残る主旋律とDPらしいコーラスが印象的な1曲だけど、はてさて、これは次なるアルバムへの布石なのかしらん? なお、ヴィデオはデイヴ・ロングストレスみずからが監督を務めているとのこと。

[3月26日追記]
 新情報! 先日公開された新曲は、EPへの布石だったようです。明日3月27日、ダーティ・プロジェクターズの最新EP「Windows Open」がリリースされます。新たに “Search For Life” も公開。楽しみだー。

Dirty Projectors
デイヴ・ロングストレス率いるダーティー・プロジェクターズが
最新EP「Windows Open」を3月27日にリリース!
新曲 “Search For Life” のリリックビデオを公開!

デイヴ・ロングストレス率いるブルックリン出身のバンド、ダーティー・プロジェクターズ。先月1年半ぶりの新曲 “Overlord” を、デイヴ自身が監督として手掛けたミュージック・ビデオと共にリリースし、シーンに戻ってきた彼らが、3月27日に最新EP「Windows Open」をリリースすることを発表! 新章のスタートとなる本作には、『Lamp Lit Prose』ツアーで参加したメンバーが参加し、レイドバックで詩的な魅力に溢れる4曲を収録。その中から新たに “Search For Life” が解禁され、リリック・ビデオが公開された。オリヴァー・ヒルによるストリングスのアレンジが見事なバラードとなっており、今世界を巻き込んでいる危機的な状況の中、本楽曲はより深い響きを放っている。

Search For Life (Official Lyric Video)
https://youtu.be/Oi-iUpec_6M

「Windows Open」ではマイア・フリードマンが全曲でリード・ヴォーカルを務め、作曲、プロデュース、ミックスのすべてをデイヴ・ロングストレスが担当。歌詞はデイヴとマイアが共同で担当し、レコーディングはロサンゼルスで行われた。

label: DOMINO
artist: Dirty Projectors
title: Windows Open
release date: 2020/03/27 FRI ON SALE

TRACKLITSING
01. On The Breeze
02. Overlord
03. Search For Life
04. Guarding The Baby

Dirty Projectors
ブルックリン出身、独創的かつハート・ウォーミングなサウンドで
人気を集めるバンド、ダーティー・プロジェクターズが1年半ぶりとなる
新曲 “Overlord” をMVと共にリリース!

デイヴ・ロングストレス率いるブルックリン出身のバンド、ダーティー・プロジェクターズ。〈Domino〉移籍後、初めて発表した2009年の5作目『Bitte Orca』が、その年の年間チャートを総なめにし、本格的にブレイク。その後もビョークとのチャリティー・コラボ作品のリリース、朝霧ジャムのヘッドライナーとしての出演、そして前作『Lamp Lit Prose』を提げてフジロック・フェスティバルへの出演も果たすなど着実にステップアップを遂げてきた彼らが、前作より1年半ぶりの新曲 “Overlord” をリリース! 同時にデイヴ自身が監督として手掛けたミュージックビデオを公開!

Dirty Projectors - Overlord (Official Music Video)
https://youtu.be/LzHGYtIqLig

監視資本主義への皮肉? 混乱ばかりを生む世界のリーダーたちへの批判? テクノロジーへの盲目的な過信への警告? アンチ・ファシズムのマニフェスト? そんなことは誰も知る由もないが、“Overlord” はジョニ・ミッチェル “Both Sides Now” の現代版と言っても過言ではない。アコースティックギター、コントラバス、コンガ、ドラム、3部合唱によって紡ぎ出されるリラックスした暖かいサウンドは紛れもなく、アルバム『Swing Lo Magellan』以降のダーティー・プロジェクターズのサウンドとなっている。楽曲中、ギタリストのマイア・フリードマンがリードボーカルを担当し、プロデューサーであるデイヴと共に作詞を行った。他にもフェリシア・ダグラスとクリスティン・スリップがコーラス、ナット・ボールドウィンがコントラバス、マウロ・レフォスコがコンゴとして参加している。

label: BEAT RECORDS / DOMINO
artist: Dirty Projectors
title: Overlord
release date: NOW ON SALE

Pray for Nujabes - ele-king

 去る2月26日。その日はちょうど10周忌だった。ロウファイ・ヒップホップから舐達麻まで、いまなお多大な影響を与え続けている不世出のトラックメイカー、故 Nujabes に捧げる映像作品「Pray for Nujabes」が、渋谷の大型ヴィジョンに映し出されたのである。彼の作風をなぞるかのようにセンティメンタルに仕上げられた同映像は、現在 YouTube でも公開中。

Nujabes10周忌に
渋谷・スクランブル交差点で追悼映像放映!

2020年2月26日19時30分、東京・渋谷のスクランブル交差点の大型ビジョン6面で、10周忌を迎えた今なお世界中で愛されてやまない日本を代表するトラックメイカー、Nujabes に捧ぐ映像作品「Pray for Nujabes」が音楽ストリーミングサービス Spotify の協力を得て、3分間にわたって同時放映されました。

心にしみるメロウ&スピリチュアルな Nujabes のビートが渋谷の街に響きわたり、突然の出来事に信号待ちの人々が、その音楽に身を委ねたり、スマートフォンをかざす姿も多く見られました。

また Spotify では同日、生前の Nujabes が師と仰いだ 橋本徹(SUBURBIA)の選曲による Nujabes 10周忌オフィシャル・プレイリスト「Pray for Nujabes」と、「This Is Nujabes」の2本のプレイリストも公開されました。

Nujabes の音楽は没後10年を経てなお、国内外の音楽ファンに愛されており、世界で2億4,800万人以上が利用する Spotify では、並みいる現役アーティストを抑えて2018年に「世界で最も再生された国内アーティスト」の第3位にランクされています。Nujabes のリスナーは、アメリカ、イギリス、カナダ、フランス、日本の順に多く、ブラジルやメキシコなどの中南米でも多く聴かれています。また10周忌に合わせ、Spotify から過去10年に最も聴かれた Nujabes の楽曲ランキングも発表されました。

[当日の模様]



[放映された映像]
「Pray for Nujabes」(Supported by Spotify)
映像URL:https://youtu.be/-_bx7O3cQD4
音楽:Nujabes「Luv (Sic.) Pt2」~「Luv (Sic.) Pt3」〜「Reflection Eternal」
映像制作:Hydeout Productions
映像協力:haruka nakamura「Lamp」
クリエイティブ・ディレクター:Toru Hashimoto (SUBURBIA)
プロデューサー:Daisuke Matsushita

[公開されたプレイリスト]
「Pray for Nujabes」 https://spoti.fi/PrayforNujabes
「This Is Nujabes」 https://spoti.fi/ThisIsNujabes

[過去10年にSpotifyで最も聴かれたNujabesの楽曲ランキング]
1. Akin, Cise Star, Nujabes - Feather (feat. Cise Starr & Akin from CYNE)
2. Nujabes, Shing02 - Luv(sic.) pt3 (feat. Shing02)
3. Cise Starr, Nujabes - Lady Brown (feat. Cise Starr from CYNE)
4. Nujabes - reflection eternal
5. Nujabes, Uyama Hiroto - Spiritual State (feat. Uyama Hiroto)

[Nujabesプロフィール]
今なお世界中で愛されてやまない日本を代表するトラックメイカー、音楽プロデューサーである瀬葉淳(1974 - 2010)のアーティスト名。〈Hydeout Productions〉を主宰して数多くの心にしみる人気作品を発表するとともに、コムデギャルソンのパリ・コレクションの音楽や渡辺信一郎監督のアニメ『サムライチャンプルー』のサウンドトラックなども手がけていた。2018年に Spotify が発表した「海外で最も再生された国内アーティスト」3位。名作の誉れ高い代表アルバム『Modal Soul』のアナログ盤も2月26日にリリースされたばかり。(公式サイト:www.hydeout.net

Jaga Jazzist - ele-king

 こいつは電撃的なニュースだ。これまで〈Smalltown Supersound〉や〈Ninja Tune〉からリリースを重ねてきたジャズもロックも呑みこむノルウェーの野心的音楽集団=ジャガ・ジャジストが、なんと〈Brainfeeder〉に移籍! そして、じつに5年ぶりの新作を4月24日にリリースする!! トンスベリの異能とLAの異端との邂逅……これはバンドとレーベル、双方にとって転機になる出来事だろう。なお、きたるニュー・アルバムには冨田勲やフェラ・クティへのトリビュートも含まれているらしい。昨年のアムガラ・テンプルの来日公演も良かったし、今回はいったいどんな演奏を聞かせてくれるのか。アルバムめっちゃ楽しみや~。


ノルウェーを代表する異能音楽集団、ジャガ・ジャジストが
フライング・ロータス率いる〈Brainfeeder〉に電撃移籍!
冨田勲に敬意を表し、フェラ・クティに想いを馳せた
初のセルフプロデュース・アルバム『Pyramid』が4月24日にリリース決定!
新曲 “Spiral Era” 本日公開!

1994年に結成され、現代音楽からプログレッシヴ・ロック、ジャズ、エレクトロニカまで様々なスタイルを取り入れながら活動をしているノルウェーが誇る異能音楽集団、ジャガ・ジャジストが、2015年の前作『Starfire』以来となる最新アルバム『Pyramid』を、フライング・ロータス主宰レーベル〈Brainfeeder〉より4月24日(金)にリリース決定! 同時に新曲 “Spiral Era” を公開した。

Jaga Jazzist - Spiral Era
https://www.youtube.com/watch?v=HnLUe4MMraY


バンドの核であり、すべての作曲を手がけるラーシュ・ホーントヴェット率いるジャガ・ジャジストは、本作『Pyramid』で、また新しいコズミック・サウンドを手に入れた。電子音を駆使した80年代のジャズ・バンドや、ノルウェーにおけるシンセ・ミュージックの第一人者ストーレ・ストールロッケンから、現代のテーム・インパラ、トッド・テリエ、ジョン・ホプキンスといったアーティストに敬意を表している。アルバムは4曲の長尺トラックで構成されており、丁寧に練られた楽章に沿って進行し、鮮やかな色彩の糸を紡ぎ出している。

ジャガ・ジャジストにとって初めてのセルフプロデュース・アルバムとなる『Pyramid』。彼らの制作工程は、これまでの環境から大きく変化した。多くのアイデアを自由に出すことができた一方で、どのアイデアを採用するかを、自分たち自身で決断することが必要だった。ドラマーのマーティン・ホーントヴェットは「大変だったけれど、自分たちで作業するのが自然だと感じた。メンバーのうち5人はプロデューサーだし、生業としてレコードを作っているわけだから」と語る。その結果、今までにないほどメンバーの団結力を感じられる作品が誕生した。

彼らは『Pyramid』をコンセプト・アルバムとは形容しないが、各楽曲のタイトルをコンセプチュアルなスタート地点と位置付けており、聴き手は楽曲からどんな物語も描きだすことができる。“Tomita” は、日本人の作曲家でシンセ奏者の冨田勲に捧げられており、“The Shrine” は、フェラ・クティが活動拠点としたライヴ・ハウスに由来する。

このアルバムは、これ自体が一つの交響曲だと思っていて、それぞれのパートに余白を持たせ、自由に広がっていくようにしているんだ。 - Lars Horntveth

ジャガ・ジャジスト待望の最新作は4月24日(金)にリリース! 国内盤CDにはボーナストラックが収録され、解説が封入される。また、輸入盤LPはクリスタル・クリア・ヴァイナル仕様となっている。

label: BRAINFEEDER/BEAT RECORDS
artist: JAGA JAZZIST
title: Pyramid
release date: 2020/04/24 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-636 ¥2,200+税
国内盤特典:ボーナストラック追加収録/解説書封入

BEATINK: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10879
Apple Music: https://apple.co/380lgwr
iTunes Store: https://apple.co/2VooeIu

Jeff Parker & The New Breed - ele-king

 トータス、アイソトープ217、シカゴ・アンダーグラウンドなどで活躍し、そもそもはシカゴ音響派~ポスト・ロックの文脈から登場してきたギタリストのジェフ・パーカー。先日もトータスのメンバーとして来日公演をおこなっていたが、そんなジェフにとって2016年の『ザ・ニュー・ブリード』はヒップホップとジャズの関係を探ったアルバムだった。彼にとってヒップホップとはプロデューサーが作る音楽、ポスト・プロダクションによって再構築された音楽であり、『ザ・ニュー・ブリード』はたとえばJ・ディラあたりから影響を受けたヒップホップ的なビートとジャズ・ギターのインプロヴィゼイションを融合し、トータルなバンド・サウンドとして展開していた。ニューヨーク・タイムズやロサンゼルス・タイムズなど、さまざまなメディアで2016年の年間ベストに選出されたこのアルバムによって、ジェフ・パーカーはソロ・アーティストとしての確固たる地位を築いたが、それから4年ぶりのニュー・アルバムが『スイート・フォー・マックス・ブラウン』である。

 『スイート・フォー・マックス・ブラウン』は『ザ・ニュー・ブリード』の姉妹作というような位置づけで、『ザ・ニュー・ブリード』がジェフの亡き父親に捧げられていたのに対し、存命の母親に捧げたものとなっている(マックス・ブラウンは母親の旧姓で、アルバムのジャケットは若いときの彼女の写真である)。制作メンバーも『ザ・ニュー・ブリード』を引き継ぐ形となり、ジェフとポール・ブライアン(ベース)の共同プロデュースのもと、ジョシュ・ジョンソン(サックス、ピアノ)、ジャマイア・ウィリアムズ(ドラムス)というザ・ニュー・ブリード・バンドが演奏の核となる。ジェフはギターのほかにピアノ、シンセ、ドラムなどをマルチに操り、ヴォーカルやサンプラーも担当している。『ザ・ニュー・ブリード』にはトータスのジョン・マッケンタイアがゲスト参加していたが、今回はシカゴ・アンダーグラウンドやアイソトープ217での盟友のロブ・マズレク(ピッコロ・トランペット)、〈インターナショナル・アンセム〉のレーベル・メイトであるマカヤ・マクレイヴン(ドラムス、サンプラー)、『ザ・ニュー・ブリード』にも参加していたジェイ・ベルローズ(ドラムス)のほか、ネイト・ウォルコット(トランペット)、カティンカ・クレイン(チェロ)が参加している。『ザ・ニュー・ブリード』に続いて、ジェフの娘であるルビー・パーカーも “ビルド・ア・ネスト” という曲でヴォーカルを披露している。

 前回はボビー・ハッチャーソンの “ヴィジョンズ” をカヴァーしていたが、今回はジョン・コルトレーンの “アフター・ザ・レイン” (1963年の『インプレッションズ』収録曲)を演奏するほか、ジョー・ヘンダーソンの “ブラック・ナルキッソス” (1969年の『パワー・トゥ・ザ・ピープル』収録で、1976年の同名アルバムでも再演)をもとにした “グナルシス” を作るなど、往年のジャズの巨星たちの作品を取り上げている。その “アフター・ザ・レイン” はレイドバックした雰囲気の漂う演奏で、バレアリックなスピリチュアル・ジャズとでも言おうか。現在はロサンゼルスを拠点としているジェフだが、同じ地域のミゲル・アットウッド・ファーガソンやカルロス・ニーニョあたりの空気に通じるものを感じさせる。“グナルシス” はループ感のあるヒップホップ・ビートに乗せて、演奏そのものもエディットやサンプリングを交えて再構築し、『ザ・ニュー・ブリード』での方法論をそのまま推し進めたものとなっている。ここでのドラムはマカヤ・マクレイヴンだが、同じくマカヤがドラムを叩く “ゴー・アウェイ” はシカゴやデトロイト的なゲットー・フィーリング溢れるもので、言うなればセオ・パリッシュやムーディーマンのジャズ版とでも言えるだろうか。全体的にミニマルな演奏で、ハンド・クラップを交えたビートもハウスとジャズ・ファンクを混ぜたような感じだ。“フュージョン・スワール” の前半部はこの別ヴァージョン的なトラックで、ドラム・ビートとベースのループにハンド・クラップや掛け声を混ぜ込み、初期シカゴ・ハウスからデトロイト・テクノ的なニュアンスを感じさせる。この曲はジェフがひとりでギターやベース、パーカッションからサンプラー、ヴォーカルを駆使して作っているが、カール・クレイグのインナーゾーン・オーケストラによる “バグズ・イン・ザ・ベースビン” とか、今田勝をサンプリングしたパトリック・パルシンガーの “シティライツ” を連想させる。この “ゴー・アウェイ” や “フュージョン・スワール” を聴く限り、『スイート・フォー・マックス・ブラウン』ではヒップホップからさらに発展した幅広いビートの探求をおこなっていることがわかる。

 『ザ・ニュー・ブリード』のリリース後のインタヴューでは、影響を受けたジャズ・ギタリストの中にジム・ホールやケニー・バレルなどトラディッショナルなプレイヤーの名前も挙げていて意外だなと思ったのだが、“3・フォー・L” はそんな大御所たちから受け継いだブルージーな味わいが光るナンバー。“ビルド・ア・ネスト” もノスタルジックな味わいで、ブルースやゴスペルなど古き良き時代の黒人音楽が持つムードを感じさせる。ちょうどアルバム・ジャケットのマックス・ブラウンのセピア色の写真にピッタリのナンバーで、この曲をジェフの娘のルビー・パーカーが歌っているというのも親子孫3代に渡る絆や歴史を感じさせる。母の名前をタイトルにした “マックス・ブラウン” は10分を超える大作で、ミニマルでシンプルなクラップ・ビートに始まって、ジェフやジョシュ・ジョンソン、ネイト・ウォルコットらがじっくりとそれぞれのソロを展開するという構成。比較的淡々と演奏が進んでいくが、後半にいくにつれてジャマイア・ウィリアムズのドラムが次第にインパクトを広げ、終盤はジェフのギターのフィードバックがループしていくという、トータスあたりの演奏に繋がる曲だ。こうした楽曲の間をさまざまな小曲やインタールード風ナンバーが埋めていくのだが、その中の “カモン・ナウ” や “メタモルフォーシズ” はまったくギターを用いずにサンプラーやシーケンサーなどで作り上げたもの。曲間やスペースをビートのループやアンビントなレイヤーで埋めていき、ジェフのサウンド・プロデューサーぶりにますます拍車が掛かっている。

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