「You me」と一致するもの

Battles - ele-king

 00年代半ばに登場し、いわゆるマスロックの文脈に大きな衝撃を与え、10年代以降も革新的な試みを続けてきたNYの実験的ロック・バンド=バトルスが、通算4枚目となるオリジナル・アルバム『Juice B Crypts』をリリースする。前作『La Di Da Di』が2015年だから、4年ぶりのスタジオ盤だ。いつの間にかデイヴ・コノプカが脱退し、イアン・ウィリアムスとジョン・ステニアーのデュオになってしまった彼らだけれど、ゆえにもしかしたら方法論も変化しているかもしれない。イエスのヴォーカリストや台湾の落差草原 WWWW、シャバズ・パレセズにチューン・ヤーズから鼓童のメンバーまで、相変わらず独特のゲストたちが参加している模様。アナウンスとともに新曲“Titanium 2 Step”が公開されている。いまバトルスが打ち鳴らそうとする音楽とは、はたしてどのようなものなのか? リリースは10月11日(日本先行発売)。うーん、秋まで待ちきれないぞ。

[9月27日追記]
 2週間後に待望の新作『Juice B Crypts』の発売を控えるバトルスが、同アルバムより新たに“A Loop So Nice…”とセニア・ルビーノスをフィーチャーした“They Played it Twice”の2曲を公開。相変わらずかっこいいわー。11月の来日情報はこちらから。

[10月31日追記]
 まもなく来日公演を迎えるバトルズが、最新作『Juice B Crypts』より新たに“Fort Greene Park”のMVを公開した。ディレクターを務めたのは、スケートボード・ヴィデオの制作で知られる映像作家のコリン・リード。なお29日には彼らのボイラー・ルームでのパフォーマンス映像も公開されており、“Ice Cream”や“Atlas”などトリオ~クァルテット期の代表曲も演奏されている。いやー、ライヴが楽しみです。

interview with South Penguin - ele-king

 South Penguin の名をはじめて耳にしたのは、おそらく2015年頃、Taiko Super Kicks のメンバーからだったと思う。そのときの会話は才能豊かな若者の登場を私に強く印象付けるものだったと記憶している。後に人を介して邂逅することのできたリーダーのアカツカ氏は、当時大学生だったにもかかわらず、懐の大きさと人懐こさを抱えた好人物であった。その際に、岡田拓郎氏をプロデューサーに迎えデビューEP(「alaska」)を制作している旨も聞いていたのだが、果たして仕上がった作品を聴いてみて、非常に繊細な美意識に貫かれた高クオリティのインディー・ポップぶりに、その磊落(そうにみえる)な人柄とのギャップに少し驚きを覚えたりもしたのだった。
 以来 South Penguin というバンド並びにアカツカ氏は、私の音楽地図の中で不思議な存在感を占めている。2017年には、メンバーの大量脱退という決して慶賀すべきでないエポックを経ることで、一時期は音楽活動に膿み沈潜する期間もあったと言うが、見事な出来栄えのセカンドEP「house」が届けられると、やはりその妙味溢れるインディー・ポップに魅せられもした(また、活動の本格再開を陰ながら願ったりもした)。その後再びアカツカ氏に会うことになるのが確か昨年の秋ころで、プロデューサーの岡田拓郎氏とともに筆者が駐在する某スタジオへレコーディングに現れたのだった。そのとき、いよいよファースト・フル・アルバムを制作中であること、充実のサポート・メンバーを得てライヴ活動も順風におこなっていること、そしてアジア各国でにわかに人気者になっている、というようなことを聞いたのだった。冗談なのか本気なのかわからない皮肉を小気味よく繰り出す様に、かえってその活動の充実を感じ、ささやかながらのいちファンとして安堵するとともに、アルバムへの期待感を高めることにもなった。

 果たしてここに完成したアルバム『Y』は、これまでの South Penguin の堂々たる集大成にして、新たなスタートの門出を飾るに相応しい素晴らしい内容になっている。これまでの作品に聴かれたような内外のインディー・ロック~ポップの前線との共振や様々な音楽遺産への確かなパースペクティヴは更にその深度を増し、作曲、作詞、アレンジ、演奏、歌唱のあらゆる面で格段の音楽的伸長が認められる。
 繊細と磊落、緊張感とリラクゼーション、妙なる機微と豪放なダイナミズムが不思議にバランスするような本作はどのようにして制作されたのか。また今回再び音楽と対峙するに至るまで、アカツカ氏がどのような彷徨を経てきたのか、単なる「サポート」の仕事を超えて取材にまで参加してくれたサポート・メンバーたちを交えながら、じっくりと話を聞いた。

日本ってなんだかんだ集団意識がすごく強くある気がしていて。音楽をいわゆる「シーン」みたいなものとして捉えがちというか。大づかみのふわっとした空気感が支配力をもって、気づくとみんながそっちに引き寄せられていく。いま日本は、音だけで勝負していくのは難しい環境にあると思います。

まずは新作に至るまでのお話を訊きたいんですが、2017年に一旦アカツカさん以外の全メンバー脱退という転機を経ていますよね。辛い思い出だったら話さなくてもいいんですけど、なぜそういったことが起きたんでしょう……?

アカツカ:ア~、思い出すのも辛い……話すのやめておこうかな……っていうのは嘘で、単純にそのときのメンバーが仕事を始めたりして忙しくなってしまったっていうのだけですね。

Twitterでアカツカさんが、このアルバム作る以前、一時は音楽活動をやめようかと思っていた、と投稿していたのを見ました。

アカツカ:そのときの一斉脱退があって、思うようにバンド活動ができない状態が続いたので、「このまま普通に仕事して社会の歯車として経済を回していこうかな」とか考えていた時期があったんです。

そこから今回のリリースに至るまでになったわけですけど、やっぱり現在のサポート・メンバーと出会って再びライヴをできるようになったっていうのが大きかったんでしょうか?

アカツカ:そうですね。以前もサポート・メンバーに何人か入ってもらってその都度その都度流動的なメンツで活動したりもしたんですけど、みんな急遽集まって演奏を合わせるには僕の楽理的な知識や技量が足りなくて。だから、サポート・メンバーとはいえどもパーマネントな布陣で続ける方が自分にあっているかなって思っていたんです。そんな中でいまのメンバーと出会って、それからはずっとこのメンツですね。

確かに、アルバムからも「サポート・メンバー」というより更にコミット度合の深いアンサンブルを感じました。どういう出会いだったんでしょうか?

額賀涼太(bass):僕は学生時代からアカツカくんの友達で、South Penguin の発足から一緒にやっていて。

ニカホヨシオ(keyboard):僕はさっきアカツカの話にあった、うまく活動できていなかったっていうタイミングからの付き合いですね。前作EPの「house」のレコーディングに参加したのがきっかけでズルズルと……

アカツカ:まさに終わりの始まり……(笑)。元々みんな知り合いだったわけじゃなくて、音楽活動の中で出会った人が多いですね。

メンバーの中で誰々がバンマスとかありますか?

アカツカ:さっきも言った通り僕があまり譜面とか楽理的なことがわからないので、主にニカホくんにそういう面をクリアにしてもらっている感じです。自分が弾いているギターのコードが何なのかも良くわかってないし、そもそも一小節がどれくらいの長さなのかわからないというプチ問題をかかえていて……。

ニカホ:プチではないね(笑)。僕だけじゃなくて、それぞれアレンジもできるし、みんなバンマス感のあるメンバーですね。

このところ、いま South Penguin は中国とかアジア各地ですごく人気になっているって聞いたんですが。それこそ向こうだと tofubeats と同じくらいの集客力がという噂も……。

アカツカ:いやいや!(笑)。それは大きな間違いですね。

そうなんですか? 前お会いしたとき、「中国だったら300人お客さん来てくれるけど、東京だったら3人」って言ってませんでしたっけ?(笑)

アカツカ:あ~、そんなこと言った気がするなあ(笑)。完全に中国での集客数は盛ってますね。なんなら東京での集客も盛ってます……。

(笑)。

アカツカ:でもまあ、これまでアジアで度々ライヴをさせてもらっているし、ありがたいことに熱心に聴いてくれるお客さんがいることは事実ですね。

アジアと日本国内のシーンってやはり雰囲気が違う?

アカツカ:うーん、どうだろう。日本で僕らの活動を知ってくれている人ってまだまだかなり少ないっていう感覚があるんですけど、中国とか台湾に行くと、向こうのお客さんは僕らのことを僕らが思っている以上にちゃんと知ってくれた上で足を運んでくれているし、熱心に音楽聞いているということをアピールしてくれる人が多い気がします。日本でライヴをやるときよりも、向こうのお客さんと話したり、ライヴへのレスポンスを観ているときのほうが、みんな僕らのことを好きでいてくれているんだという実感はありますね。

なぜそういった違いがあるんだと思いますか?

アカツカ:そうですねえ~。僕らって基本的に捻くれた人間なんですけど、海外に行くとその要素に言語のフィルターがかかってあまり伝わらないから、とかかな(笑)。日本だとつい言動や挙動でにじみ出ちゃうというか……(笑)。

ニカホ:いやいや(笑)。単純に中国や台湾のお客さんはホットな人が多いよね。

アカツカ:日本ってなんだかんだ集団意識がすごく強くある気がしていて。「こういう人たちと一緒によくライヴしているこういう人たち」みたいに、音楽をいわゆる「シーン」みたいなものとして捉えがちというか。もちろん音楽自体も聴いているとは思うんですけど、「こういう感じでいま盛り上がっているよね」っていう、大づかみのふわっとした空気感が支配力をもって、気づくとみんながそっちに引き寄せられていくっていうのがよくある気がしていて。でも海外の人たちは、遠く海を隔ててそういう「シーン」みたいな空気感から離れているし、自然ときちんと音で判断してくれる環境になっているっていうのはある気がしますね。まあ、本来こういう話はあまり音楽をやってる側が言うべきことじゃないとは思うんですけど……いま日本は、「あのバンドいまグイグイ来ているよ」みたいな感じがないと、音だけで勝負していくのは難しい環境にあると思います。色々なカルチャーの中で特にいまポップ・ミュージックっていうのがそういう傾向にあるなあと思っていて。

昔から普通に美しいものに惹かれるところがあって。箱根駅伝とか、スポーツのキラキラした素直な感動のドラマみたいなのも好きで、それをよくある感じに斜に構えて見たりもしないし。普通にめちゃくちゃ美しいなって思う。

以前SNSで「日本の音楽業界には失望している」って言ってましたよね? 具体的にはどんな部分が……?

アカツカ:よく読んでますね(笑)。実はそう思ってしまう結構具体的な経験があって……。僕らが大好きで交流もある海外アーティストの来日公演に僕らが呼んでもらえなかったっていうのがあって。ああ、こういう規模感のところでもやっぱり政治的な部分で動いていくんだなあっていうガッカリ感。もちろん興行なわけでビジネスとしての側面も大切だと思うんですけど、僕らが信じてきた「インディーズ」っていう世界は、そういう政治的な部分じゃなくて、もう少し夢と希望を与えるものであってほしかったなあというのがあって。あと、仲良いと思ってた人からSNSのフォロー外されてたり……「ああ、こういうのも日本の音楽業界のクソな部分だな」って……。

いや、それは関係ないでしょ(笑)。まあ、ある文化圏の中では一種のサンクチュアリであったはずの「インディー」っていう概念自体が産業構造に組み入れられて資本主義の中で洗練されてきてしまった感じはここ数年ありますよね……。

アカツカ:そうなんですよ。実はそういうのに疲れてしまったのもあって、個人的にバンドをやることが億劫になっちゃってたっていうのもあります。まだ若いし(注:アカツカ氏は現在25歳)もう一度固定メンバーを揃えてバンドとしてガッツリやるってのも全然できると思ってたんですけど、一方で、そこまでしてこの日本でバンドをやることって何か意味あるのかな? って考えちゃったり。

そこを経て、いま一度音楽に立ち向かっていった上で完成されたのがこのアルバムですよね。それにあたって強く刺激を受けた人達として、コナン・モカシン、トーキング・ヘッズ、松任谷由実、吉岡里帆、霜降り明星ってツイートされているのを読んだんですが、コナン・モカシンやトーキング・ヘッズは音楽的な要素としてわかるんだけど、吉岡里帆と霜降り明星? って思って。すごいラインナップだなと。

アカツカ:昔から、実は音楽以外のカルチャーへの興味のほうが大きいところがあって。バンドをやる意欲が完全に失われていたときにその二組に大きな刺激をもらったんです。吉岡里帆さんも霜降り明星も僕と歳が近いっていうのがまず大きいかな。今回のアルバムのテーマに「美しさ」っていうのがあるんですけど、昔から普通に美しいものに惹かれるところがあって。箱根駅伝とか、スポーツのキラキラした素直な感動のドラマみたいなのも好きで、それをよくある感じに斜に構えて見たりもしないし。普通にめちゃくちゃ美しいなって思う。だから、同世代ですごく頑張っている人が普通に好き。吉岡里帆さんや霜降り明星は単純に彼らのやっていることに興味をもったのが入り口ですけど、インタヴューを読んだりしてその人たちを深く知っていくことで、同世代でこんなに頑張っていて自分で美しいと思える活動をしている人がいるっていうのにすごく勇気をもらって。

ひねくれていないものに美しさを感じるというのは、これまでのアカツカさんの発言からするとちょっと意外な気も。彼らの魅力って、いわゆる「セルフ・プロデュースに長けている」的なこととも違う?

アカツカ:そう。策略立てて自分を巧いこと見せている、とかとも違う。吉岡里帆さんがテレビでとある詩を朗読していて、その詩の世界に入り込んで泣いてしまっているところを観たんですけど、「この涙はめちゃくちゃ美しい!」と感動しまして。そういえば、(霜降り明星の)粗品さんもめちゃくちゃ泣きますしね。

松任谷由実、コナン・モカシン、トーキング・ヘッズは?

アカツカ:ユーミンとトーキング・ヘッズは単純に自分の音楽的なルーツなので。コナン・モカシンはバンドを始めて色んな音楽をディグっていく中で知った僕にとっての最新のヒーローです。

今回のアルバム制作に関してもそれらの音楽から焚き付けられることも多かった?

アカツカ:超あります。コナンとかトーキング・ヘッズに関しては相当オマージュをささげてます。過去の音楽含め、そういう元ネタみたいなのもめちゃくちゃあるから、どうか皆さんにはうっすらと聴いて欲しい(笑)。

(笑)。そういうルーツ探しも聴く者にとっての大きな楽しみだと思います。曲作りはどんなプロセスでおこなわれているんでしょうか?

ニカホ:アカツカくんがビートとメロディーの乗った簡単なデモを作ってきて、それをひたすらみんなでスタジオで練るっていう比較的オーセンティックなやり方です。

宮田泰輔(guitar):曲によってはデモの段階で相当作り込まれていたり、みんなでアレンジしたり、色々なパターンがありますね。

そうすると、日常的に相当頻繁にスタジオに入っている感じですね。

アカツカ:そうですね。サポート・メンバーとはいえども、ライヴの前に一回合わせてとかではないですね。曲作りの段階から全ての制作の過程に参加してもらっています。具体的なアレンジにもメンバーの意見がかなり入っています。

ニカホ:なんなんだろうね、この関係性って。一般的な「サポート」っていう言い方もしっくり来ない関係だよね。

アカツカ:かといって「ひとつのバンドのメンバー」っていうような一枚岩感があるわけでもなく……(笑)。

ヒップホップでいう「クルー」的な……?

アカツカ:ああ、それが一番近いのかもしれない。

これまで同様、今作にも岡田拓郎くんがプロデューサーとしてガッツリ関わっていますね。盤石の信頼関係なんだろうな、と感じます。

アカツカ:そうですね。やっぱり僕はバンドをやっていく上で、マーケティング的な理由で何かに音楽自体を寄せていくってことをしたくなくて。もちろん売れたいとかバンドの規模を大きくしていきたいっていう気持ちはあるから色々音以外の面で考えることもあるけど、そのために音の方を変えるってのは決してしたくないので、音の面に関しては絶対の信頼を置いている人たちとしかやりたくなくて。

岡田くんも最もそういうマーケティング的発想の音楽作りを嫌う人ですもんね。

アカツカ:そう。「早く売れてよ」とはいつも言ってくれますけどね(笑)。

制作において彼の役割はどんな感じだったんでしょうか?

アカツカ:音を録るときのマイキングとか、エンジニアリング的な舵取りもほとんどやってもらいました。それと、ミックス等のポスト・プロダクションの部分がとても大きいですね。ギターをあえてラインで録って岡田さんの思う音にしてもらったり、レコーディングのときもエフェクターの設定を岡田さんにセッティングしてもらったりとか。僕に関しては岡田さんのギターとエフェクターを全部借りて手ぶらでレコーディングに行くスタイル(笑)。

今回、ドラム・セットでタムを使わないという制限があったとききました。

アカツカ:あ、それは単純に僕がリハーサルのスタジオを狭い所ばっかり取ってて、6人もメンバーがいるんで省スペース化を図らなきゃいけないって思って、じゃあフロア・タムをどかすか、という……(笑)。

本当に?(笑)

ニカホ:荷物の多いメンバーが多いからなあ(笑)。

礒部拓見(drums):一番年下の僕が割を食って。本当は他の人が減らしてほしい……タム使いたい……。

(笑)。

アカツカ:やっぱ年下には先輩っぽいところ出さなきゃなって思ったときに、よし、先輩といえば理不尽なパワハラだろう、と。厳しい上下関係を築くためにまずナメられちゃけないなと。最初のリハのときに「おいお前! 何生意気にタム叩いてんだよ」っていって。俺がタムを蹴破ったんですよね。まあ、というのは冗談で、僕らにはパーカッション・プレイヤー(宮坂遼太郎)もいるので、そこと音域的にもぶつかってしまうのでなくしているというのが大きいですね。

その効果なのか、パーカッションに加えて、ドラム・セットにおいてもスネアとシンバルのサウンドの存在感がぐいっと全面に出てきている気がします。

アカツカ:そうですね。やっぱりあえて何か制限を課すことによって色々アイデアを考えるし、それによって個々人の演奏のポテンシャルを引き出したいっていうのはありますね。ドラム・セットに秘められた潜在能力を……。

ニカホ:アカツカくんがいないところで、礒部くんが「それでもタム叩きたい」と言っているのを聞いたことがあるけど……(笑)。

特に日本に顕著だと思うんですけど、昔ながらのライヴ・ハウス的ロック文化やリハスタ的な文化って、ドラム・セットはドラム・セットとして自明のものとして認識されていたり、ギターだったらJCかマーシャルでキュイーンみたいな、そういう固定化した常識ってありますよね。でも、それを South Penguin は意識的に脱構築しているのかなって。

アカツカ:他の人と違うことをしたいとか、自分たちならではの音を出したいとか、正直ぼくはあんまりないですけど、彼ら(サポート・メンバー)にはあるみたいなんで……(笑)。

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家の中でずっとアイドルの動画を観ているみたいな、一般的にはどろどろしてて気持ち悪いみたいに思われているような人の切なくて儚い感じ。そういう人の心の中にも美しさってあるよなっていう。僕はガチ恋おじさん大賛成。

各曲について話を聞かせて下さい。M1の“air”はネオ・ソウル風なベース・ラインが印象的ですが、一方でコナン・モカシンや、アンノウン・モータル・オーケストラとか、10年代後半以降のメロウなフォーク・ロック~サイケデリック・ロックに通じる美学を感じました。

アカツカ:ベースはスライ&ザ・ファミリー・ストーンの“Thank You For Talking To Me Africa”をオマージュしているんです。全体的にはあまりソウル的なものはイメージしていないけど、メンバーの通ってきた音楽のフィルターを通すことによってこういったテイストになっているんだと思います。僕がデモ作りでよく使う GarageBand の Rock Kit さんていうAIのドラマーがいるんですけど、のっぺりしたロックっぽいフレーズが礒部のフィルターを通すとブラック・ミュージックっぽいドラミングに変換される、みたいな。彼と宮田くんと宮坂くんは学生時代にブラック・ミュージック系のサークルに所属していたってのもあるし、今回の録音ではメンバーそれぞれの個性が出てきているのかなって気がしますね。

Dos Monos の荘子it さんのラップをフィーチャーしようと思ったのは?

アカツカ:サポート・メンバーのみんなともそうだし、僕は基本的に誰かと一緒に何かをやるっていうのが好きなんです。今回のアルバムは自分達的にリスタートの気持ちが強かったから、より一層外的な刺激っていうのを求めてて。僕は偏った音楽しか聞かないからヒップホップやブラック・ミュージック自体もそんなにちゃんと知らないんですが、いま日本で面白いことやっている人がいるんだったらそういう人を交えてなにがしかの化学反応が起きたら嬉しいなっていう気持ちだったんです。Dos Monos は元々知り合いではなくて、彼らの音源を聴いたときに、これはすごいかっこいいって思って。そこから声をかけた感じですね。

Dos Monos も同世代ですよね?

アカツカ:そうですね。デザインや映像など含めて、今回のアルバムに関わってくれている人って同世代が多いんですよね。ことさら意識したわけじゃないんですけど、やっぱり自分は同世代でやっているかっこいい人達に惹かれるってのがあるんだと思います。

M2“head”。

アカツカ:この曲は初めて Rock Kit 以外のドラマーでデモを作ったものです(笑)。プリンスの“All the Critics Love U in New York”という曲のドラムをサンプリングしてループさせただけのオケを僕が作って。それがめちゃくちゃかっこよかったんで「あー、このまま出したいな」と思ってたんですけど、それはさすがに難しいんで(笑)、礒部に頑張ってもらいました。

山田光さんによるフリーキーなサックスが印象的です。

アカツカ:激烈ですよね。ジェイムズ・チャンスとか、ファラオ・サンダースのような……。

宮坂:スタジオで「サウンドのイメージとして昇り龍みたいな感じ」とか言ってましたよね(笑)。

この強烈な反復ビートからはダンス・ミュージック的な肉体性も強く感じます。一方でポスト・パンク的というかNYノーウェーヴ的なアヴァンギャルドさもある。

アカツカ:僕は元々ニューウェーヴ大好きっ子なんです。ふつふつとミニマルに盛り上げいくこういう曲に関しては、やっぱりトーキング・ヘッズの影響が大きいですね。そういうアヴァンな一面とかいろんな側面を再始動のアルバムとして出したいなっていう気持ちがあったんで、こういう飛び道具的な曲を収録しました。

M3“alaska”は過去曲のリメイクですね。冒頭のドラム・マシン? の音が印象的です。

ニカホ:岡田くんと ACE TONE とかの昔のリズム・ボックスっぽい音を入れたいねって話をしてて。でも昔のリズム・ボックスってテンポも揺れたりするから実際にレコーディングで使うのって割と難しいんですよ。なので、岡田くんにプロツールスでループを作ってもらって。元々は“Space Commercial”っていうエディ・ハリスの曲から発想を得て。

制作にあたってのそういうリファレンスみたいなものについても日々みんなでコミュニケーションする?

ニカホ:いや、アカツカくんとはあんまりしないです(笑)。サポート・メンバー内や岡田くんとは結構話すかも。これはエディ・ハリスに加えてもう一個リファレンスがあって、Mild High Club の“Skiptracing”も意識しましたね。

M4“ame”。これも過去曲のリメイクですね。あえてリメイクを収録するのはどんな意図があるんでしょう?

アカツカ:単純にファーストEPの時点では音楽的に未熟だったし、いまのメンバーでこの曲をやったらもっと良くなるだろうっていうのが大きいですね。繰り返しになりますが、今回のファースト・フル・アルバムで再スタートを切りたいっていうのがあったので、現時点の自分たちのベスト的な内容にしたいというのもあって。

M5“idol”。曲名が印象的ですが、いわゆる日本のアイドル文化も視野に入っている感じなんでしょうか……?

アカツカ:はい、あやや(松浦亜弥)とかを賛美するつもりで作りました。

ニカホ:本当に?(笑)

MVが不思議ですよね。曲名から連想させるように実際に女の子が出てくるんだけど、そこへ銃火器の映像が挿入されたりと、支離滅裂な感じに批評性を感じて。最近よくある「可愛い女の子出しときゃいいでしょ」的なMVへのアンチテーゼなのかなと思いました(笑)。

アカツカ:そうですね……でもまあMVに関しては監督の Pennacky くんに任せちゃった部分もあるのでなんともいえないのですが。この曲は曲名通り偶像崇拝的なことをテーマにしている曲なんですけど、歌詞も他の曲よりは分かり易く書けたかなと思っていて。アイドル自体についての歌というより、そういう偶像に本気ですがっている人の歌。

ガチ恋おじさん。

アカツカ:あ、まさに。曲名「ガチ恋おじさん」にすればよかったな。

宮田:身も蓋もないな(笑)。

どことなく切なさと美しさを感じます。

アカツカ:そうなんですよ。アルバムのテーマとして考えていた「美しさ」がこの曲にも強く反映されていると思います。家の中でずっとアイドルの動画を観ているみたいな、一般的にはどろどろしてて気持ち悪いみたいに思われているような人の切なくて儚い感じ。そういう人の心の中にも美しさってあるよなっていう。もちろん馬鹿にしたりしているわけじゃなくて、むしろ僕はガチ恋おじさん大賛成。そういう刹那的な美しさみたいなものがこの曲におけるキーになっていると思います。

この曲を聴いて泣いちゃう人もいるかも。

アカツカ:ああ~、その涙が一番美しいですねえ。

日本のオタク文化いじりってどうしても愚弄的だったり自己憐憫的なものが多いけど、そこにある儚さをすくい取ろうとしている感じが素晴らしいですね。トッド・ソロンズの映画に通じる美しさというか。

アカツカ:そういうアイドルオタクの人たちが「避けるべき存在」みたいになってしまうのがすごく嫌で。女性アイドルや男性アイドルだけじゃなくて、みんなすごく好きなミュージシャンとか、いろんな趣味とか、そういうものに過剰に入れ込んで自分の生活の全てになっているような人ってたくさんいると思うんですけど、それって普通の恋愛と変わらないと僕は思うんです。

しかしMVに出ている雪見みとさん、可愛いですねー。ついフルでリピートしてしまいました(笑)。

アカツカ:いや~、本当ですよね。例えば、このMVをきっかけにあの子のことを本気で好きになってくれる人が出てきたら、曲の世界が全うされるなって(笑)。彼女、京都の子なんですけど、先日京都にライヴしに行くってことになったとき「せっかくだからライヴへ遊びにきなよ」って誘ったんですけど、そのときは残念ながら予定があわなくて。メンバーに「みとちゃん来れないっぽいよ」って言ったら、宮田くんが「じゃあ僕京都行かないです」って(笑)。

宮田:だってそんなの行く必要ない……。

アカツカ:そういうところで、「あ、バンドじゃなくてサポート・メンバーなんだなあ」って(笑)。

すごく好きなミュージシャンとか、いろんな趣味とか、そういうものに過剰に入れ込んで自分の生活の全てになっているような人ってたくさんいると思うんですけど、それって普通の恋愛と変わらないと僕は思うんです。

M6“alpaca”。アフロとブラジルの中間を行くようなリズムがカッコいい。

アカツカ:このリズム・パターンを作ったのも Rock Kit さん(笑)。かなりいじった記憶があります。でも僕はドラマーの足や手の動きっていうのを全然理解してないんで、それを礒部になんとかやってくれって頼んで。

礒部:必死にコピーしましたよ。かなり難しかったですね。

でもそれをたんとプレイできるのがスゴイですよね。いわゆるインディー・ポップ的な範疇からはみ出すダイナミズムを感じました。

ニカホ:彼は元々中南米音楽、特にレゲエに思い入れがあるプレイヤーですしね。

アカツカ:これはベース・ラインも僕が作りました。アルバム全ての中で一番僕が主導権を握った曲かもしれないですね。だから手柄は僕のものです。褒めて下さい。

(笑)。M7“spk”は打って変わってマイナー調。メロウだけどヘヴィーという。アルバム後半にかけて割とダウナーな展開になっていきますよね。

ニカホ:あ、いま気づいた。本当だ(笑)。

アカツカ:曲名にもしているんですけど、SPK という精神病患者とその看護師がやっていたオーストラリアのグループからインスピレーションを受けていて。後にその元患者は自殺しちゃうんですけど……SPK って元々はノイズとかインダストリアル系なんですけど、なぜかその死の前にめちゃくちゃポップになってエレ・ポップ路線になったり、相当不思議な魅力のあるバンドで。自分のルーツ的な音楽ですね。ここでは SPK の曲調とかは意識していないんですけど、そういうやるせなさや切なさは意識していますね。

確かに歌詞も鬱々としていますね……。

アカツカ:そうですね。「病葉」って言葉が出てくるんですけど、ユーミンの曲で知った言葉なんです。病床で木から病葉が落ちていくのを見るっていうかなり切ない描写の曲があって、そのイメージが精神病患者が抱いているかもしれない心理と一致して。

M8“aztec”。これもメロウだけどどこか苦い味わいもある。曲順についてはどのように決めていったんですか?

アカツカ:曲順については……あまり正直に話したくないんですけど実は今回曲名の頭文字が「a」の曲が多すぎて。それを固めるんじゃなくてバラけさせたかったというのがあります(笑)。それと、やっぱり全体にちょっと暗い感じの曲が多いなって印象があったんで、このあたりにビートは重めだけどポップな曲をちょっとクッション的に入れておこう、と。

実に美メロだな、と。メロディーメイカーとして個人的に好きなアーティストって誰かいますか?

アカツカ:やっぱりユーミンはメロディーメイカーとしても大好きですね……。他の曲は海外のアーティストの曲を参照して作っているんですが、この曲はわりと日本のポップスを意識しているかもしないですね。

なるほど。いわゆる「ニュー・ミュージック」的なテイストも感じました。

アカツカ:そうですね。そういう日本のポップスに加えて、MGMT の『Congratulations』のタイトル曲も結構意識しましたね。そのふたつの要素を融合したイメージですね。元々この曲はバンド結成の頃一番最初に作った曲なんです。今回そのときのリズムも大きく変更して。

宮田:元々は倍のビートだったんですよね。

アカツカ:この曲は当初上手くアレンジがまとまらなくて、最後まで入れるかどうか迷ってて。そこで MGMT を僕がひっぱりだしてきて、こういう感じでやったらどうかなって提案したんですけど、それがいい感じにハマって。最初にこのアレンジが形になったときは嬉しかったですね。

M9“happy”。終盤にかけてのドラムの音が凶暴で、それこそドゥーム・メタルみたいな……。

アカツカ:(笑)。この曲は他に比べてかなりヘヴィーで凶暴な音の処理になってますね。“aztec”が South Penguin として一番最初に作った曲で、これが一番最後に作った曲なんですが、“aztec”でいままでの僕らを終わりにして、一番新しく作った曲で最後締めることで、これからこのバンドを再びやっていくぞっていう気持ちを込めています。かなり暗い感じだからこれで終わらせるのはどうかなあと思って。だからせめて曲名だけでも“happy”にしました(笑)。ハッピーエンドですね。

そういうことだったんですね(笑)。曲調的に全然ハッピーじゃないよなと思っていました。これまでアカツカさんと話していて面白いなと思ったのが、いろいろ細かいところまで詰めていくのと、他人に任せてしまってあえてタッチしないということ、もっというならテキトーな感じとの不思議なバランス感です。没入して作り込むみたいなところから距離を取りたいという心理があるんでしょうか?

アカツカ:うーん、結構その心理はある気がしますね。それこそ岡田さんとかを見てて思うんですけど、自分の作品も凄く作り込むし、人の作品でももちろん手を抜かないし、すごいプロフェッショナルな仕事をしてくれる人だな、と。そういうのって本当にすごい体力だなって思うんですけど、僕は全然そういうのができない。まあ、それは生まれ持ったものなんで、諦めている部分もあるんですけど。

でも、そういうおおらかさみたいなものって、それこそアカツカさんが尊敬するコナン・モカシンにも通じる気もします。

アカツカ:そうですね、彼の活動にはそれを感じますね。ガチガチじゃないちょっとゆるい雰囲気というか。そっちの方が自分にあっていると思うし、無理のない形でやらないとかえって良いものはできないって常に思っているんで。

だからといって、パーティートライブ的に「ウェーイ!」って感じでもない。

アカツカ:まあ僕は夜な夜なクラブで遊び倒してますけどね。それはもう大変。夜はアヴィーチーしか聴きませんから。

ニカホ:なんでそんな嘘つくんだ(笑)。

ギークやナードな感じへも美しさ見出しつつ、おおらかな美意識を表現していくって稀有なことだと思います。なんだろう、今日のインタヴューではアカツカさんの器の大きさみたいなものを強く感じました(笑)。

アカツカ:いや~、常日頃みんなにそう言われますよ。

ニカホ:そんな場面見たことないけどな(笑)。

South Penguin
ライヴinfo.

・8/12 (mon) @江ノ島東海岸
TENGA PARK 2019
w/ Helsinki Lambda Club / and more...
start:11:00 close:16:00
Charge Free!!!

・8/31 (sat) @渋谷7th FLOOR
ARAM presents 『リスニング・ルーム』
出演:ARAM / 安楽 / South Penguin
open:18:00 start:18:30
adv:¥2,200 door:¥2,500 (各+1drink)

・9/16 (mon) @下北沢basementbar
Group2 presents『的(TEKI) Vol.3』
出演:Group2 / South Penguin / No Buses
DJ:鳥居正道 (トリプルファイヤー)
open:18:00 start:18:30
adv:¥2,500 door:¥3,000 (各+1drink)

interview with Vityazz - ele-king

インスト・バンドという言葉からはジャンルやサウンド感が伝わるわけではない。でも「インスト=ヴォーカルがいない」、もっと言うと「歌詞がない」という状態を指していて、それである種の線引きができるのでなんとなく納得してしまう。それは、カラオケ文化と無関係ではない気がしていて。

 ヴィチアスのデビュー・アルバム『11034』を私は心待ちにしていた。日本のジャズにまつわる新しい動きを探訪しながら出会ったのがこのヴィチアスで、私は彼らのデモ音源を初期の頃から聴かせてもらい、いつかコンピレーションに収録して世に出せないかと密かに目論んでいた。
 ヴィチアスは、ジャズを学んだメンバー4人からなるグループだが、日本のジャズ・フィールドでの活動は一切していない。その代わりに自らホスト・バンドとなってライヴ企画を打ち、様々なバンドをフィーチャーしたり、映像を駆使した表現方法で新たなジャンルのフィールドを切り開いている。それでもなお彼らの口からは「吉祥寺に今年できたライヴハウス NEPO なんかをみると、ライヴに映像が入ることがデフォルトになってますよね。さらに新しい見せ方を考えないと……」と、常に一歩先を行く話が飛び出してくるのだ。
 また様々な対比が同居した音楽性もヴィチアスの特徴のひとつ。ヴォーカルがある、でもインスト音楽。ジャズの構造でできている、でもメロディーはポップスやロック。印象はというと、密度が詰まって濃い、でも淡い質感。といったように彼らはこの対比を、緻密に計算して楽しんでいるように見える。
 ジャズを学んだ人たちが、様々な経験と人脈を経て生み落とす音楽が、全世界的にいまとても面白いが、彼らの作る音楽は、思えばそんな対比する異なる要素をどう作品に落とし込むか、そのアイディアや処理の仕方が非凡で、音楽理論を踏まえたうえでの遊び心があり大胆だったりすることが多い。面白さのひとつはそんな理由なのかもしれない。彼らの音楽は、ときにどんどん予期しない方向に形を崩していったり、また自身のアイデンティティに立ち戻ってそれを表出させたりと忙しい。それゆえに目が離せない。ヴィチアスはまさにそんなタイプの魅力をもったグループだ。
 6月21日にタワーレコード限定で先行発売された『11034』が反響を集める中、今秋の正規リリースを控え、新たなレコ発の企画も進行中のヴィチアス。リーダーで作編曲を担当する中川能之(ギター)に話をきいた。

本当に理想的な状態だとインスト・バンドという言葉がなくなるくらいになれば良いなと思っています。

まず始めに、バンド結成の経緯を教えていただけますか?

中川能之(以下、中川):僕は音楽学校のメーザーハウスでジャズ・ピアニスト佐藤允彦さんの作・編曲や音楽理論の授業を受けていたんですが、その学校のセッションで知り合ったのがドラムの安倍弘樹くんです。安倍くんは当時、東京キューバンボーイズの2代目のリーダー見砂和照さんにドラムを師事していたり、アントニオ・サンチェスが好きだったり、なんでも叩けるんですけど特にラテンに強いドラマーで。僕はちょうどその頃、曲を作りながらヴィチアスの原型になるような曲をギターのループマシーンを使ってひとりで試行錯誤していた時期で、形が見えてきたので安倍くんと栗山くんというジャズ・ベーシストに声をかけてトリオという形でスタートしたのが2015年くらいですね。その後、いまのベースの笠井トオルさんが入りました。


安倍弘樹(ドラム)

笠井さんもジャズのスキルを持ちながら幅広く活動されている方ですよね。どんなきっかけで出会ったんですか?

中川:僕はメーザーハウスの他にギタリストの市野元彦さんのレッスンも受けていて、笠井さんは市野さんから紹介してもらいました。笠井さんの師匠が、市野さんのバンド(rabbitoo)のベースの千葉広樹さんで、そのつながりもあって。笠井さんは Avocado Boys のメンバーとしても活動されたり、ジャズに限らず色々とサポート仕事も多くされていて、ウッドベースでしっかりジャズが弾ける上で、エレベも弾けてエフェクターの使い方も上手で。シンセベースとか機材系にも強くいろんな引き出しが多い人なので、すごく助かっています。ヴィチアスは楽器隊としてはトリオ編成なので、ベースの持ち替えやエフェクターで曲ごとにヴァリエーションをもたせてくれる笠井さんのスタイルはヴィチアスのサウンドを大きく広げてくれていると思います。あとヴィチアスの曲はリズム的なギミックや複雑なドラムパターンも出てくるので、ベースは一段後ろに下がりつつもツボを押さえたプレイで、バンドの土台をしっかり支えてくれています。


笠井トオル(ベース)

出会いのきっかけになった市野さんのレッスンのことについても伺いたいです。ヴィチアスの音楽はどんな部分で影響をうけていますか?

中川:市野さんは rabbitoo のようにいわゆるジャズだけに収まらない音楽を作られる一方で、レッスンではご自身がバークリー出身ということもあり、オーセンティックなこともしっかり体系立てて教えていただいています。特にコード・ヴォイシングのヴォキャブラリーを増やしてどうプレイに落とし込むかというところの影響が大きいと思います。ヴィチアスの楽曲は、ギターとヴォイスが同じメロディラインをなぞるというところが特徴のひとつとしてあるんですが、編成としてコード楽器がギターしかないという状況で、そういったメロディーとコードをギター1本でどう弾くかがサウンドに直結する部分になっています。コード・ヴォイシングのヴォキャブラリーや、メロディーとポリフォニックに動く内声ラインをどう弾くか、というようなことは、市野さんから学んだことが活かされていますね。

最近では、嘴音杏(しおん・あん)さんがヴォイス担当として加入されましたね。

中川:ヴォイスを入れようとなったときに、何人か候補の方を挙げていったんですが、声質と音域の広さ、楽器的に声を操れるスキルも持っているという点で彼女にお願いしました。杏ちゃんは自身のソロ名義やユニットもいくつかやっていて、安倍くんと笠井さんがサポートで入っていたりしたので、そういうつながりもあって。あと加入後に知ったんですが、彼女はクラシックの声楽の素養もある人なので、まさに楽器的に声を使えるという点でもぴったりでした。
トリオの頃は僕の声をヴォーカル・エフェクターで加工してヴォイスのラインを入れていたのですが、杏ちゃんのおかげで音域という面での自由度がかなり広がったのも大きいですね。ギターで良い音で弾ける音域でメロディーを作ると、メロが盛り上がったところで男では出ない音域になってしまいがちで。僕は男性の中では音域がかなり高い方なんですがそれでも出ないところを杏ちゃんは余裕でピッチも安定して出せるので、作曲上の制約がなくなって広がったということが大きくて、今後の作曲でも新しいものができると思っています。
あとはライヴでの再現性やアレンジの面でも、純粋に人手が増えるのでその部分でも広がっていくだろうなと感じています。4人揃った初ライヴは、8月20日の新宿 MARZ が決まっているので、そこに向けてライヴならではのアレンジなども詰めていきたいですね。


嘴音杏(ヴォイス)

いまジャズは大学などでもアカデミックに研究されているし、YouTube にも山ほど解説動画があって、共通スキル化しやすくなっていると思うんですが、そうなるとそこがスタートラインになってしまうので、そこから先の部分での分化を考えるとジャンルを越えたものになりやすい。

ヴィチアスのコンセプトのひとつとして、いわゆる歌詞が入るヴォーカルとは違うところを目指していますよね。

中川:そうですね。楽器的な声の使い方、スキャットというか歌詞がないスタイルには色々な可能性があると思っているので、今後も追求していきたいです。

ジャズというフィールドとの関係性は意識しますか?

中川:声の楽器的な使い方という点では、いわゆるジャズ的なスキャットや、現代的なジャズ・ヴォーカル、例えばアントニオ・サンチェスのバンドでのタナ・アレクサのヴォイスとサックスとでユニゾンするスタイルや、タチアナ・パーハがピアノと声だけのユニゾンで歌ってるようなスタイルはジャズ・フィールドではもちろん例が多くあるんですが、ヴィチアスは少し立ち位置が違うかなと思っています。
僕たちのやっているものは、曲のフォーム構成やメロディーをポップス寄りなところに落とし込んでいるので、そういうバランスとしてもジャズのスキャットともちょっと違うし、一方で主メロを歌うパートがいるという意味でもいわゆるインスト・バンドとも違うバランスを目指していて。そういった指向性の中でサウンドを構成する要素として、ジャズのコード感であったりポリリズムであったりを作曲の構造の中に取り入れているので、あまりジャズ・シーンに対してどういう立ち位置でいようか、というようなことは考えていないですね。

ヴィチアスは、ジャズというより、新しいインスト音楽という方向性ですね?

中川:自ら新しいインストと名乗るのはおこがましいですが、インスト・バンドってなんだろう? と以前からよく考えることはあって、インスト・バンドっていうのは改めて考えると少し変な言葉なんですよね。僕自身、人に自分の音楽を説明するときに「インスト・バンドやってます」って言っちゃうことが多いんですが、一口にインストと言ってもロックなインストもあればファンクやソウルなインストもあって、インスト・バンドという言葉からはジャンルやサウンド感が伝わるわけではないですよね。でも訊いた方も「あ~そうなんですね」となんとなく納得するという不思議な便利さもあるがゆえに僕もついつい使っちゃうんですけど。でもそれってつまり、「インスト=ヴォーカルがいない」、もっと言うと「歌詞がない」という状態を指していて、訊いた方もそれである種の線引きができるのでなんとなく納得してしまうのではないかと。それは、インスト・バンドという言い方が日本独特なものか分からないですが、いわゆるカラオケ文化と無関係ではない気がしていて。

要するに、リスナーが「歌えるかどうか」、という線引きを音楽に対してしていると。

中川:はい。そういうある種線引きされている、いまインストといわれる音楽の領域をいかに広げられるかということを大げさに言うと考えていて、本当に理想的な状態だとインスト・バンドという言葉がなくなるくらいになれば良いなと思っています。それは歌詞をつけないという僕たちのコンセプトに続いている部分なんですが、「声が入っている状態でリスナーも歌えるようなメロディーがあり、実際に声がメロディーを歌っているんだけど歌詞がないインスト的なサウンド」、という僕たちの音楽をどう聴いてもらえるか、いまの日本の音楽シーンの中でどう評価されるか。それが新しいインストになれるかどうかにつながるんだと思います。

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中川能之(ギター)

自分が日本のインディー、オルタナな音楽シーン、特にライヴハウスで身近に触れていた音楽から得た美意識というか。「これはアリ、これはナシ」といった肌感覚はミクロ的には個人史であり、マクロ的には日本の音楽史の一部でもありという意味ではオリジンになりうるのかなと思っています。

海外の動きは意識していますか?

中川:ゴーゴー・ペンギンはサウンド感やリズムの仕掛けが好きでよく聴きますね。直接的にそこから何か分析して取り入れたりっていうのはしていないんですが、彼らのインタヴューを見るとDAW上で作ったものを生演奏に置き換えるというプロセスを経ているみたいで、ヴィチアスと似ている部分があるかなと思っています。自分の作曲のやり方として、僕はギタリストですけれど作るときはピアノで作るんですね。ピアノの方がギターよりもヴォイシングや音域の制約が少ないので。なので、ヴォイシング含めてDAW上でスケッチを書いて、そのコード・ヴォイシングとメロディーの流れをギターで置き換えるという作業をしています。もちろんピアノのヴォイシング全てをギターに置き換えるのは構造上無理なので、再現と言うより翻訳に近いですが、一度作品としてカチッと作り上げたものを生に置き換えるというプロセスは似ているかなと思います。

ゴーゴー・ペンギンはアドリブ主体のジャズとはちょっと違って、作品性が先に来ているという感じがしますよね。

中川:そうですね。ものすごく大雑把に、個人のスキル同士がぶつかるというタイプをアメリカ的、構築された作品をどう演奏するかというタイプをUK的とするなら、僕たちも後者なのかなと思います。ゴーゴー・ペンギンとかを聴いていると音響面のテクスチャーのこだわりがすごくあって、リヴァーブ感のこだわりとか録音後のミックス感も含めてかなり詰めてるんだろうなと思います。そういうところの音響的なテクスチャーへのこだわりは、僕たちが声を入れていることにつながるんですが、ヴォイスというのはすごく音響的なテクスチャ・コントロールに優れている楽器だと思っていて、それは他の楽器にはない部分だと思うんです。そういった意味で音響的なテクスチャー含めた作品性を重視するヴィチアスのコンセプトにも近しいものを感じます。

ヴィチアスの音響のこだわりはある種UKっぽいですよね。他にいま盛り上がっているジャズについてどう見ていますか?

中川:UKに限らずですが、折衷感があるものがいま多いですよね。いま、現代的なジャズは大学などでもアカデミックに研究されているし、YouTube にも山ほど解説動画とかあって、それゆえに吸収、共通スキル化しやすくなっていると部分もあると思うんですが、そうなるとそこがスタートラインになってしまうので、そこから先の部分での分化を考えるとジャンルを越えたものになりやすいという側面はあるのかなと思います。そういったジャズをインプットしやすくなっているという状況にあって、自分の中にあるオリジンの部分というのをどうミックスするのか、ジャズにある種のレガシーとして接する人が共通して取り組んでいるところなのかなと思います。

なるぼど。では、ヴィチアスにとっての「オリジンの部分」というのは何ですか?

中川:やはり、楽器を始める前の頃も含めて、僕がいままで聴いてきたポップスやロックのフィールドからの影響がいちばん自然に出るのかな。例えばヴィチアスの曲だとハーモニーの部分では、ポリモーダルや調性を薄めてあったりと、かなりジャズの要素が強いんですが、メロディー自体はポップス的に気持ちいいと思うラインを追っていたり、曲のフォーム構成はポップス的なA‐B‐サビのくくりになっていたりします。あとこれはなかなか言葉では表現しにくいのですが、自分が日本のインディー、オルタナな音楽シーン、特にライヴハウスで身近に触れていた音楽から得た美意識というか。「これはアリ、これはナシ」といった肌感覚はミクロ的には個人史であり、マクロ的には日本の音楽史の一部でもありという意味ではオリジンになりうるのかなと思っています。そういったところをジャズ・プラスアルファのオリジンの部分として追求していきたいと思っています。

歌詞が入っていて音量が小さいと聴いている方としてはストレスになると思うんです。どうしても言葉や内容を聞き取ろうとしてしまうから。僕たちの音楽は歌詞がないので、声とそれ以外の音のミックス・バランスを普通の歌モノとは変えて工夫することができます。

ロックやポップスはどんなものを聴いてきたんですか?

中川:普通に生活していて耳に入るような、いわゆる J-Pop ももちろん聴いていましたが、やはり自分が音楽をやるようになってからライヴハウスとかで生で見たバンドの影響も大きいと思います。地元にはライヴハウスがあんまりなかったので、東京に来て J-Pop とは別のインディー、オルタナな音楽シーンを体感したときの衝撃は大きかったです。初めて Ryo Hamamoto さんや Peridots さんのライヴを生で見たときは衝撃を受けましたし、そんなにライヴは観れてないですがベベチオさんとかも好きでよく聴いてました。シンプルに声とメロディーがいい人が好きで。最近知った方だと阿部芙蓉美さんがとても素晴らしかったです。

中川さんは色々な音楽をインプットしていますよね。ボン・イヴェールの作品をDJでかけたときに好きだとお話したことも印象に残っています。

中川:ボン・イヴェールはエフェクティヴな加工やアレンジが素晴らしい面もありつつ、コアになっているフォーキーな感じも好きです。シンプルに良い声とメロディーが好きってのは、多分いちばん最初まで遡ると親が聴いていたカーペンターズが好きだったみたいなところもあると思います。良い声と良いメロディーってのがコアにあるので、弾き語りスタイルから大胆にアレンジやテクスチャーを変えても通底する良さがある人というのに魅かれているというところはあると思います。

最近はケイトリン・オーレリア・スミスも聴いているんですよね? オーガニックな要素をもつ声とエレクトロニックな人工的な音という対比したサウンドの処理についてはヴィチアスにとってもテーマだと思うのですが、その点で工夫されていることはありますか?

中川:彼女は声とモジュラーシンセを主体にする中での、作曲性とミニマル・ループ感のバランスが素晴らしいなと思います。モジュラーシンセに比べると僕たちは基本はアコースティック寄りではあるんですけと、ギターのエフェクトで高域の倍音成分を出して Pad っぽい音を入れたり、ベースにオクターヴァーをかけて低域を拡張したりといったサウンド処理はしています。

今回のアルバム『11034』についてはどうですか。作品トータルの聴かせ方で意識されていることはありますか?

中川:アルバムに関していえば、いちばん気を使ったのはヴォーカルとのミックス・バランス処理ですね。それをどうするかエンジニアさんと何度もやりとりして詰めていきました。ヴォーカルのリヴァーブ感と音量・音響的なバランスの取り方というのはいちばん気を使っていて、どうしても声が入ると声をメインに聴こうとしてしまうと思うんですよね。そうなったとき、ギターも同じ主旋律を弾いているので、ギターの中にある声と他の音とのバランス感覚が大事になってきます。
あと、先ほど話した歌詞を入れていないことにも通じるのですが、歌詞が入っていて音量が小さいと聴いている方としてはある種ストレスになると思うんです。どうしても言葉や内容を聞き取ろうとしてしまいますから。僕たちの音楽は歌詞がないので、声とそれ以外の音のミックス・バランスを普通の歌モノとは変えて工夫することができます。

曲の構成についての聴きどころや、アルバムのなかで思い入れのある曲について教えてください。

中川:1曲目の“How days slided”はバンドで最初に合わせた曲なのですが、この曲はいわゆる初期モードと呼ばれるワンモード主体の構造になっていて、マイルス・デイヴィスの“So What”とかと作りが似ているんですけど、そういったモーダルな感じともうひとつ、この曲は、5と4のポリリズムになっているのが特徴で。そういった自分の中で実現したかった音楽的な要素を、初めて曲の形にできたという意味では、この曲でユニットの方向性が見えた部分でもあるので思い入れがありますね。

歌詞って映像喚起力が強いと思うんですが、それゆえに歌詞が入るとどうしても言葉の映像喚起力に音楽が勝てないというか、音楽自体が持つ微細な映像喚起力がマスキングされてしまう気がして。

やはりジャズの構造が入っているんですね。影響を受けているジャズはどのあたりです?

中川:ジャズの中でも自分がいちばん好きで影響を受けたのはマイルス・デイヴィスの『ネフェルティティ』あたりのサウンドで、いまでもよく聴き返してます。特にウェイン・ショーター作曲の“Fall”が好きで素晴らしく美しい曲なんですが、その曲のハーモニー、音楽的な用語でいうと4度和音を主体とした非機能的なハーモニーの連結といった部分はヴィチアスの作曲にもかなり影響を受けていると思います。

ポリリズムにこだわっているということですが、ヴィチアス独特のリズムを生み出すドラムについての注目ポイントはありますか?

中川:変拍子やポリリズムを取り入れると勢いプレイヤー視点でのドラミングになりがちだと思うんです。でもドラムの安倍くんはそういったリズム遊びを楽しみつつも、ドラマーのエゴにならないようにあくまで音楽的な流れを重視したプレイができるので、そういったトータルのバランス感がポイントかなと思います。ドラムの音質についてですが、今回のレコーディングでは、60年代のヴィンテージのドラムセットにシンバルはいまっぽい音色のものを組み合わせることで、いまの時代のサウンドの中にも伝統的なジャズっぽさも少し匂わせる工夫をしています。

躍動感を出すためにこだわっている部分や、ダンス・ミュージックとの接点についてはどうでしょう?

中川:5と4のポリリズムを使った曲がいくつかあって、その中でキックの4つ打ちではなく5つ打ちというのをやっていて、それはダンス要素のひとつとして意識的に使っている部分ではあります。キックの4つ打ちはダンス・ミュージックに限らず一時期のロックなどでも多用されたこともあり、ある種の定型感すらありますが、ポリリズム、メトリック・モジュレーションを入れることで新鮮さを出せると思っていて。つまり、定型による既視感と、何か違うぞという違和感が同居するので、5に限らずポリリズムから出てくるキックの変拍子打ちにはまだ掘られていない音楽的な鉱脈があるのではと思っています。

ポリリズムについても以前から研究されていたんですか?

中川:特別ポリリズムの研究をしていたわけではないですが、サークルの先輩ギタリストが元ティポグラフィカの今堀恒雄さんのローディーをしていたり、周りにそういう音楽が好きな人がたくさんいたので音楽的なトピックとしてポリリズムの構造についての知識はありました。その時点では知識として理解していただけなので、実際にポリリズムの乗り換えができるとか、身についたと言えるようになったのは作曲の中に取り入れてからですね。

ヴィチアスは映像をライヴで取り入れていますよね。そのあたりのこだわりについても教えてください。

中川:そうですね。ライヴVJはチーム内に担当してくれる人がいて結成当初から一緒に活動しています。映像というかライヴでの視覚的な演出との関係は今後も追求したいなと思っています。歌詞って映像喚起力が強いと思うんですが、それゆえに歌詞が入るとどうしても言葉の映像喚起力に音楽が勝てないというか、音楽自体が持つ微細な映像喚起力がマスキングされてしまう気がして。歌詞を付けていないのはそういう意味でもあるんです。音楽の持つ微細な映像喚起力とライヴの視覚的な演出と、どういう形がベストなのかというのは常に摸索しています。

ヴィチアスのネーミングも視覚的な要素と関連しています?

中川:ライヴを見てくれた人から、曲から連想するイメージが青っぽいと言われたことが多かったので、そこから連想して決めました。ちなみに今回のアルバム名は、「ビチアス海淵」の深海の深度から取っています。

対バンはどんなタイプのバンドとやりたいですか?

中川:安倍くんの尊敬するアントニオ・サンチェスの前座をやりたいねというのは冗談ながら話したことはありますが(笑)、サンチェスは無理にしても、そういった編成やスタイルに共通項のあるジャズ系の人たちともやってみたいですし、逆にがっつり歌モノの人ともやってみたいですね。たとえば個人的に青葉市子さんが大好きなんですが、そういった歌がコアにある人たちと並びでやらせてもらっても遜色ないくらいに、ヴィチアスのスタイル=「声が入っているインスト」という音楽性が広く聴いてもらえるようになりたいなと思います。

ポストロックのバンドも良さそうですよね。

中川:そうですね。ベースの笠井さんがポストロック好きで色々詳しくて。僕も downy さんとか大好きで、奇数連符ノリなど凝ったリズムの仕掛けも自然にロックマナーの中でグルーヴさせているのはすごいし、かっこいいなと思います。ヴィチアスも結成当初からポストロックっぽいという感想をいただくことも多いですし、リズムや音響面でこだわりがあるかっこいいバンドも多いので機会あればぜひポストロックの方々ともご一緒したいです。

ヴィチアスは、ポストロックやジャズの要素もあるし、メンバーそれぞれの素養が形になっていますよね。

中川:バンドでの曲のアレンジにしてもやはり自分にないものが入ってくることで良い意味で自分がデモで作ったものとはかなり違う仕上がりになるので、そういう意味ではすごくバンドっぽいなと思います。各メンバーの音楽的なカヴァー領域が共通項もありつつ重なってない部分がかなり広くて。若干宣伝になりますが(笑)、アルバムCD帯から登録できるファンの方々に向けた限定メルマガの中で、メンバーが好きな曲をコメント付きでオススメするっていうのをやっているんですが、僕自身も知らないアーティストや曲がたくさんあっていつも楽しんで聴いています。

最近のギタリストで中川さんが注目している人は誰ですか?

中川:やっぱりジュリアン・レイジや、ニア・フェルダー、ギラッド・ヘクセルマンあたりはすごいなと思います。音楽的に素晴らしいのはもちろんですし、生でライヴとか見ると単純に「楽器が上手いって素晴らしいことなんだ」と改めて思います。その上で、オーセンティックなジャズ・プラスアルファの自分の音楽的なオリジンの部分をちゃんと融合させていて素晴らしいと思います。あと最近ライヴで観た人だと、チック・コリアのバンドにも抜擢されてたチャールズ・アルトゥラもすごかったです。音の粒の揃い方が尋常じゃなく綺麗でした。
特にギラッド・ヘクセルマンはジョン・レイモンド、コリン・ストラナハンとやっているリアル・フィールズも大好きで。フリューゲルホルン、ドラム、ギターのトリオ編成でボン・イヴェールやトム・ヨークの曲もやっているんですがエフェクトのアイディア、ポリフォニックなラインアプローチなどギタリスト目線でも楽しめますし、全体での構成やアレンジもとても素晴らしいと思います。

では最後に、今後の予定を教えてください。

中川:まだ詳細な時期は決まってないですが、アルバムの一般発売とレコ発に向けて色々と進めています。あとは次の作品にむけての楽曲制作も始めているので、ぜひSNS等で続報チェックしてもらえると嬉しいです。

Shuhari × ALTZ.P - ele-king

 2008年に結成され、海外公演も多くこなしてきた東京のインストゥルメンタル・バンド= Shuhari が活動休止を決定、その最後となるライヴを8月12日に表参道 WALL&WALL にておこなう。ポストロックやアンビエントなどを折衷する彼らの競演相手に選ばれたのは、大阪から独特のディスコ・ダブを編み出してきた ALTZ によるバンド・プロジェクト= ALTZ.P (今年頭にアルバム『La Toue』をリリース)。いまたまたま手元に2006年の『リミックス』誌があるのだけど、そこでアルツは「あっち(東京)がああなら、こっち(大阪)はこうだ」と、熱く語っている。両者の掛け算でいったいどんなマジックが生まれるのか?? DJとして hiro と eRee の2組も参加するとのことで、夏休みは WALL&WALL へGOです。

インストゥルメンタルバンド Shuhari の活動休止前ラストライブが競演に ALTZ.P を迎え表参道WALL&WALLにて実現!!

都内ライブハウスを中心に、カナダ・台湾・北京など海外でのツアーや野外イベント「剣乃舞」の主催など精力的に活動してきたインストゥルメンタルバンド、Shuhari。
奇しくも WALL&WALL 初登場であるこのライブを以て無期限の活動休止を発表した。

彼らの新たなる始まりを共に彩るのは、奇才ALTZによるフルバンドユニット、ALTZ.P。
リリースしたばかりのフルアルバム『La Toue』を引っ提げてのステージとなる予定だ。

さらにはDJとして都内クラブや音楽フェスなどでも活躍する hiro と eRee が加わり、空間や時間帯の枠を取り払ったダンスフロアへと誘う。

【公演情報】
- Shuhari x Altz.P -
日時:2019年8月12日(月、祝日)18:00開場/開演
前売り券:2,500円(1D別)https://t.livepocket.jp/e/0812wallwall
当日券:3,000円(1D別)

出演:
LIVE: ALTZ.P / Shuhari
DJ: hiro / eRee

WALL&WALL: https://wallwall.tokyo/schedule/shuhari-x-altz-p/

会場:WALL&WALL (https://wallwall.tokyo/)
東京都港区南青山3-18-19 フェスタ表参道ビルB1F(表参道交差点)

Bibio - ele-king

 春先に喚起力豊かなニュー・アルバム『Ribbons』をリリースしたばかりのビビオが、未発表の新曲“Spruce Tops”を公開した。同作に収録されたサックスの映える素敵な1曲“The Art Of Living”のシングルカットに伴い、B面として採用された次第である。フルートとギターの対比がじつに麗しい。ビビオの旅路はまだまだ続くのだ……

BIBIO

最新アルバム『Ribbons』未収録の新曲“Spruce Tops”をカップリングした2曲入りシングル「The Art Of Living」をリリース!

聴く者の記憶や、心に浮かぶ情景に寄り添う心温まるサウンドで幅広い音楽ファンから支持を集める Bibio が、待望の最新アルバム『Ribbons』に収録された“The Art Of Living”に、アルバム未収録の新曲“Spruce Tops”をカップリングした2曲入りシングルをデジタル・ダウンロードとストリーミングでリリースした。

The Art Of Living
https://youtu.be/NMZ7NKj0wMw

Spruce Tops
https://youtu.be/Q41voFN0e5c

Bibio ことスティーヴン・ウィルキンソンは“The Art Of Living”を制作した際のインスピレーションを次のように語っている。

人生は目的のない旅だ。経験が素晴らしい師となり得る。その経験が辛いものであればあるほど。感動っていうのは、自分の足元にあるものだ。最もインスピレーションを与えてくれるものは、シンプルで身近にあるものだと思う。僕らの体や心には、順応し、回復する機能が備わっている。人生の旅っていうのはAからBに行くっていうようなものではなくて、もっと大きくて、曖昧なものなんだ。それは音楽に関しても言える。この曲は、個人的な経験や観察、そして哲学の教え、詩、その他の僕に影響を与えた色々な考え方を通して感じた可能性というのを反映している。 ──スティーヴン・ウィルキンソン (BIBIO)

新曲となる“Spruce Tops”は、控えめで美しいギターのサウンドが、それとは対照的に優雅なフルートのサウンドと重なり合った、瞑想的でのびのびとしたグルーヴを感じるインストゥルメンタルの楽曲だ。

作曲作詞はもちろん、歌唱、そしてほぼすべての楽器を自ら演奏する Bibio だが、最新作『Ribbons』はさらに独学で学んだマンドリンやバイオリンなどにも挑戦し、作品に新たな色を与えている。国内盤にはボーナストラック“Violet”が追加収録され、歌詞対訳、さらに本人によるセルフライナーノーツを含む解説書が封入される。

電気じかけのサイケデリックな田園空間が花開いていく。家にいながらにして春を味わえる1枚。 ──rockin'on

ビビオのつくりだす手工芸品のような細部は聴くものを魅了し、その儚くも美しい世界がたしかに存在するのを感じさせる ──intoxicate vol:139

フォークミュージックと西海岸のドリーミーさを詰め込んだ力作~。 ──POPEYE 5月号

美しく詩情ゆたかなサウンドは、新たらしい季節をより鮮やかに彩ってくれる ──FUDGE 5月号

label: WARP RECORDS
artist: Bibio
title: The Art Of Living
release: 2019.08.02 FRI ON SALE


label: WARP RECORDS/BEAT RECORDS
artist: Bibio
title: Ribbons

【CD】
cat no.: BRC-593
国内盤CD ボーナストラック追加収録/解説・歌詞対訳冊子封入
2019.04.12 FRI ON SALE

【カセット】
cat no.: BRC-593CS
国内盤カセット ボーナストラック収録
2019.04.12 FRI ON SALE

BEATINK.COM: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10210

WWW & WWW X Anniversaries - ele-king

 渋谷を代表するヴェニューであり、精力的に尖ったイベントを開催し続けている WWW と WWW X が、今年もアニヴァーサリー企画《WWW & WWW X Anniversaries》を大展開。WWW はオープン9周年、WWW X のほうは3周年とのことで、相変わらず興味をひく公演ばかりです。
 9/20は《Local X5 World》としてツーシン(Tzusing)とキシ(Nkisi)待望の初来日公演が開催。9/23は D.A.N. の主催する《Timeless》にデンマークから Erika de Casier が参加。10/5は幾何学模様のライヴ、10/12はシカゴからジャミーラ・ウッズの来日公演。10/18は《Emotions》に KID FRESINO と釈迦坊主、そして先ほどミックステープのリリースがアナウンスされたばかりの Tohji が出演する。今年の秋も WWW と WWW X はすごい!

[8月29日追記]
 本日、情報公開第二弾として、新規公演と追加ラインナップが発表された。詳細は下記を。

「WWW & WWW X Anniversaries」追加ラインナップ
※太字が第二弾発表分

●9/20(金・深)「Local X5 World」@ WWW X
 出演:Tzusing / Nkisi / GAIKA / Fuyuki Yamakawa / Yousuke Yukimatsu / Mars89 / Mari Sakurai / speedy lee genesis
●9/23(月・祝)「Timeless #5」@ WWW X
 出演:D.A.N. / Guest Act: Erika de Casier (from Denmark)
●10/5(土)「Kikagaku Moyo JAPAN TOUR 2019」@ WWW X
 出演:幾何学模様 / Kikagaku Moyo / SPECIAL GUEST: OGRE YOU ASSHOLE
●10/12(土)「Jamila Woods」@ WWW X
 出演:Jamila Woods
10/14(月・祝)「In&Out」@ WWW
 出演:Deca Joins (from Taipei) and more
●10/18(金)「Emotions」@ WWW / WWW X / WWWβ
 出演:dodo / KID FRESINO / LEX / 釈迦坊主 / Tasho Ishi / Tohji / SPARTA / YamieZimmer & Friends / DJ: speedy lee genesis and more (A to Z)

 以下は、第一弾発表分です。

WWW & WWW X Anniversaries ページ
https://www-shibuya.jp/news/011281.php

熱狂のアジア&アフロ・ディアスポラ! ハードに燃え盛る中国地下の先鋭 Tzusing とコンゴ生まれ、ベルギー育ちのアフリカン・レイヴ/IDMなロンドンの新鋭 Nkisi (UIQ) を初来日で迎え、世界各地で沸き起こる“第3の力”をテーマとした WWW のシリーズ・パーティ〈Local World〉がアニバーサリーとして開催。圧倒的な“強さ”を誇る全8組のフル・ラインナップにも乞うご期待!

WWW & WWW X Anniversaries "Local X5 World - Third Force - "
日程:2019/9/20(金・深)
会場:WWW X
出演:Tzusing [Shanghai / Taipei] / Nkisi [UIQ / Arcola / London] / and more
時間:OPEN 24:00 / START 24:00
料金:Early Bird ¥1,800@RA *枚数限定 / limited | ADV ¥2,300@RA | DOOR ¥3,000 | U23 ¥2,000
チケット:https://www.residentadvisor.net/events/1298708

公演詳細:https://www-shibuya.jp/schedule/011423.php
https://localworld.tokyo


毎回国内外の多彩なゲストを呼んで開催される、D.A.N. によるレギュラーイベント "TIMELESS"、#5 の開催が決定! 今回のゲストは、デンマークから初来日となる新星アーティスト・Erika de Casier。コペンハーゲンのハウス・シーンと密接に繋がる彼女のアディクティブなトラックと繊細でセンチメンタルなヴォーカルはコアな音楽ファンの間で大きな話題に。作品毎にチャレンジを続け進化するD.A.N. による、まさにダークホースなゲストを迎えた Timeless をお見逃しなく。

WWW & WWW X Anniversaries "Timeless #5"
日程:2019/9/23(月・祝)
会場:WWW X
出演:D.A.N. / Guest Act: Erika de Casier
時間:OPEN 17:00 / START 18:00
料金:ADV ¥3,800(税込 / ドリンク代別 / オールスタンディング)
チケット:
■先行予約:受付期間:8/3(土)12:00~8/18(日)23:59 ※先着
https://eplus.jp/wwwx-timeless5/
■一般発売:8/24(土)10:00~
e+ / ローソンチケット / チケットぴあ / LINE Ticket / iFlyer

公演詳細: https://www-shibuya.jp/schedule/011417.php

世界各国でソールドアウト公演を連発する幾何学模様/Kikagaku Moyo の2年ぶりとなる日本ツアーが決定! 最新作『マサナ寺院群』は「Discogs で最も集められた日本産レコード 2018/2019前半」の首位を獲得し、今年はアメリカ最大級の音楽フェスティバル「Bonnaroo」、ヨーロッパ3大フェスの1つ「Roskilde」などへの出演に加え、King Gizzard & The Lizard Wizard や Khruanbin といった現在の欧米インディーシーンをけん引するアーティストたちとの交流も深く、まさに日本のサイケデリアを代表する存在となりつつある幾何学模様/Kikagaku Moyo。後日発表となるスペシャルゲストにもご期待ください!

WWW & WWW X Anniversaries "Kikagaku Moyo JAPAN TOUR 2019"
日程:2019/10/5(土)
会場:WWW X
出演:幾何学模様/Kikagaku Moyo + Special Guest: TBA
時間:OPEN 17:00 / START 18:00
料金:ADV¥4,000(税込 / ドリンク代別 / オールスタンディング)
チケット:発売中
e+ / ローソンチケット[L:76545] / チケットぴあ [P:159-853] / iFLYER / WWW店頭

公演詳細:https://www-shibuya.jp/schedule/011360.php

シカゴの知性“Jamila Woods”来日公演決定!
今年5月に絶大な評価を獲得した前作『Heavn』から約3年振りとなる待望の2ndアルバム『LEGACY! LEGACY!』をリリースし、自らのルーツやアイデンティティを深く掘り下げ、詩的に表現して、その評価を決定づけたシカゴのシンガー・詩人“Jamila Woods”の来日公演をお見逃しなく!

WWW & WWW X Anniversaries "Jamila Woods"
日程:2019/10/12(土)
会場:WWW X
出演:Jamila Woods
時間:OPEN 18:00 / START 19:00
料金:ADV ¥6,000 / DOOR ¥6,500 (税込 / ドリンク代別 / オールスタンディング)
チケット:
■先行予約:8/3(土)10:00~8/18(日)23:59 ※先着
https://eplus.jp/wwwx-jamilawoods/
■一般発売:8/24(土)10:00
e+ / ローソンチケット[L:72345] / チケットぴあ[P:161-087] / WWW店頭 / iFLYER

公演詳細: https://www-shibuya.jp/schedule/011424.php



WWW・WWW X・WWWβを舞台に様々な感情や価値観が集い、多様性豊かに彩るフライデーナイトパーティーシリースズ 「Emotions」。出演者第一弾はフリーフォームかつジャンルにとらわれない柔軟な活動が注目を集め、先日の FUJI ROCK FES でもヒップホップの可能性を拡張させるような圧倒的パフォーマンスを披露した“KID FRESINO”、耽美でサイケデリックな世界観を最新型のトラップミュージックとして表現し、自身が主催するイベント「TOKIO SHAMAN」は毎回超満員で狂信的人気を博す“釈迦坊主”、既成概念を軽々と更新し続ける圧倒的な存在感でユースを中心に熱狂的な支持を集め、本日同時に待望の1st Mixtape『angel』の8/7リリースが発表された“Tohji”がラインナップ!
後日発表となるジャンルレスな追加出演者にも乞うご期待!

WWW & WWW X Anniversaries "Emotions"
日程:2019/10/18(金)
会場:WWW / WWW X / WWWβ
出演:KID FRESINO / 釈迦坊主 / Tohji / and more (A to Z)

詳細後日発表

公演詳細:https://www-shibuya.jp/schedule/011425.php

Jlin - ele-king

 もともとの出自たるフットワークの領域をはるかに逸脱し、意欲的な挑戦を続けているジェイリン。彼女は昨年、振付師ウェイン・マクレガーのコンテンポラリー・ダンス作品『Autobiography』のためにスコアを書き下ろしていたけれど、今度はなんとヴィデオ・ゲームである。
 今回ジェイリンがサウンドトラックを手がけることになった『Songs Of The Lost』は、カナダのゲーム・デザイナー、パロマ・ドーキンスが芸術祭《マンチェスター・インターナショナル・フェスティヴァル》の委嘱により制作したマジックリアリズム的ゲームで、プレイヤーは「アポカブリス」なる安全地帯を目指して高速道路を歩き回ったり国境を越えたり森を散策したり、得体の知れない人物と遭遇したりするらしい(ゲームじたいはこちらからダウンロード可能)。
 最近ではホーリー・ハーンダンのアルバム『Proto』への参加も話題となったジェイリン。今後もその動向から目が離せそうにない。

Joe Armon-Jones - ele-king

 UKジャズの躍進は止まらない。そのキイパースンのひとりであり、春にはエズラ・コレクティヴとしても良作を送り出しているジョー・アーモン・ジョーンズが、早くもニュー・アルバムをリリースする(彼の最新インタヴューはこちらから)。ダブにアプローチした最新シングル曲“Icy Roads (Stacked)”が体現していたように、「ジャズ」という枠にとらわれない内容に仕上がっているとのことで、これまた2019年の重要な1枚になりそうな予感がひしひし。ちなみに先行配信された新曲“Yellow Dandelion”には、先日 16FLIP とのコラボも話題になったジョージア・アン・マルドロウが参加。いやー、発売が待ち遠しいぜ!

Joe Armon-Jones
トム・ミッシュも輩出した南ロンドンのUKジャズ・シーンから、新時代をリードする異才ジョー・アーモン・ジョーンズがアルバム『Turn To Clear View』のリリースを発表! さらにアルバムから“Yellow Dandelion feat. Georgia Anne Muldrow”を先行配信!

UKジャズ・シーンでの活躍により、多方面から注目を集める若きキーボーディスト/プロデューサーのジョー・アーモン・ジョーンズが9月20日(金)に最新アルバム『Turn To Clear View』をリリースする。

今年リリースしたデビュー・アルバムが大きな反響を呼んでいるアフロ・ジャズ・ファンク・バンドのエズラ・コレクティヴの一員としても活躍するジョー・アーモン・ジョーンズ。Glastonbury、SXSW、Boiler Room などでのパフォーマンスを果たし、ジャイルス・ピーターソンの Worldwide Awards 2019 ではセッション・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど、新世代ジャズ・シーンを語る上では欠かせない存在となっている。今年、FFKT の出演で来日を果たし、日本でも早耳のリスナーから強く支持されるアーティストだ。

先行配信されている“Yellow Dandelion feat. Georgia Anne Muldrow”
https://www.youtube.com/watch?v=R1Li_bri66k

シングル・リリースされている“Icy Roads (Stacked)”も今作に収録されている。
https://www.youtube.com/watch?v=INGbirNwZAI

今作はジャズという枠にとらわれず、ダブ、ハウス、ヒップホップ、などクラブ・カルチャーに強くインスパイアされた内容のアルバムとなった。参加アーティストも豪華で、〈Brainfeeder〉に所属し、ケンドリック・ラマー、エリカ・バドゥ、ロバート・グラスパーなど名だたるミュージシャンから多くの支持を集めるジョージア・アン・マルドロウは先行配信されている“Yellow Dandelion”でフィーチャリングされている。他にも、ナイジェリア出身の注目シンガーObongjayar、〈YNR Productions〉の設立者でもあるラッパーのジェスト、Maisha でも活躍中のヌビア・ガルシアがアルバムに参加。また、国内盤CDには10インチ限定シングル「Icy Roads (Stacked)」でのみ聴けた“Aquarius”が今回のボーナストラックとして追加収録される。

label: Brownswood / Beat Records
artist: Joe Armon-Jones
title: Turn To Clear View
release date: 2019.09.20 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-610 ¥2,200+税
ボーナストラック追加収録/解説書封入

詳細はこちら:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10409

iTunes : https://apple.co/2YECpvn
Apple Music : https://apple.co/2YECpvn
Spotify : https://spoti.fi/2OuUgAM

TRACKLISTING
1. Try Walk With Me Ft. Asheber
2. Yellow Dandelion Ft. Georgia Anne Muldrow
3. Gnawa Sweet
4. Icy Roads (Stacked)
5. (To) Know Where You’re Coming From
6. The Leo & Aquarius Ft. Jehst
7. You Didn’t Care Ft. Nubya Garcia
8. Self:Love Ft. Obongjayar
9. Aquarius *Bonus Track For Japan

FEBB - ele-king

 昨年24歳という若さで他界してしまったラッパーにしてプロデューサーの FEBB。彼が2014年に残したファースト・アルバム『THE SEASON』がなんと、リマスタリングを施され新たにデラックス盤として蘇ることになった。お蔵入りとなっていた未発表曲2曲も追加される。これはつまり、かつて「言葉はノイズ」だとラップした異才の鋭い言葉の数々を、いま改めて噛み締めるべき時が来ていると、そういうことなのだろう。リリースは8月21日。心して待て。

[8月22日更新]
 ついに昨日、FEBB の『THE SEASON – DELUXE』が発売となった。それに合わせ、2本の動画が公開されている。1本は、未公開となっていた映像を再編集したトレイラーで、オリジナル盤リリース時に FEBB 本人によるディレクションのもと、映像クリエイターの xtothexx とともに制作された映像が用いられている。もう1本は、2016年11月4日に代官山 UNIT で開催されたパーティ《NEW DECADE Z》における FEBB のライヴ映像で、『THE SEASON』収録曲“Another One”のパフォーマンスが収められている。下記よりチェック。

FEBB 『THE SEASON – DELUXE』 Trailer

FEBB “Another One” Live at NEW DECADE Z

FEBB AS YOUNG MASON のマスターピースなファースト・アルバム『THE SEASON』に未発表楽曲2曲を追加し、新たにリマスタリングしたデラックス盤がリリース!

◆ 2018年2月15日に24歳の若さで亡くなったラッパー/プロデューサー、FEBB AS YOUNG MASON が2014年1月にリリースした恐るべきファースト・アルバム『THE SEASON』。FEBB 自身とともに JJJ や KID FRESINO、DOPEY、GOLBYSOUND、QRON-P、さらには SKI BEATZ や RHYTHM JONES、E.BLAZE といった精鋭たちによるドープなビーツに、“Walk On Fire”での KNZZ のみにゲストを絞ったことで堪能出来る FEBB の圧倒的なフロウはリリースから5年以上の時を経た今でも全く色褪せることのない、正に真のヒップホップ・クラシック。

◆ 同作レコーディング以前に制作にしていたものの、お蔵入りとなって眠っていた未発表楽曲2曲が FEBB の遺した Vault より発掘。「Gone」、「HardWhite」と記された両楽曲はともに FEBB のプロデュースによるものと思われ、その頃の FEBB ワークらしいソウル・サンプルを用いたラフでドープなサウンドであり、ボースト気味なラップも最高。その2曲を追加したデラックス盤が8/21にリリース。

◆ 仙人掌から cero、電気グルーヴ/石野卓球まで数多くのアーティストの作品を手掛けているエンジニア、得能直也氏が全曲をリマスタリング。

◆ ニューヨークのグラフィティ・アーティスト、CHANCE LORD の描いた印象深いジャケットを始め、様々なアーティストの作品をフィーチャーしたアートワークを見開き紙ジャケ仕様で再現。また初回プレス盤にはリリース当時にプロモーション用に制作されたステッカーを縮小版で復刻し、特典として封入。

[アルバム情報]
アーティスト: FEBB (フェブ)
タイトル: THE SEASON – DELUXE (ザ・シーズン:デラックス)
レーベル: P-VINE / WDsounds
品番: PCD-25281
発売日: 2019年8月21日(水)
税抜販売価格: 2,500円

[トラックリスト]
01. No.Musik
 Track by Dopey
02. Time 2 Fuck Up
 Track by E.Blaze
03. Walk On Fire ft. KNZZ
 Track by Febb
04. Time Is Money
 Track by QRON-P
05. Hustla / Rapper
 Track by jjj
06. On U
 Track by Rhythm Jones
07. This Town
 Track by Golbysound
08. Deadly Primo
09. The Test
 Track by Serious Beats
10. PeeP
 Track by Ski Beatz
11. Season A.K.A Super Villain
 Track by Febb
12. Another One
 Track by Febb
13. Step
 Track by Kid Fresino
14. Navy Bars
 Track by Dopey
- Bonus Track -
15. Gone *
 Track by Febb
16. Hard White *
 Track by Febb

* MIXED & ALL REMASTERED BY NAOYA TOKUNOU

CFCF - ele-king

 カナダはモントリオールの才人 CFCF =マイク・シルヴァーの新作『Liquid Colours』は、「ニューエイジ+ジャングル」という「2019年のモード」を感じさせる卓抜なコンセプトを持ちながらも、澄み切ったミネラルウォーターのように体に染み込んでくる洗練されたエレクトロニック・ミュージックでもあった。
 いちど再生してしまえば清流のようにアルバムは流れ、曲はシームレスにつながる。しかし音のトーンは変化し、ラストの曲まで全15曲が時間旅行のように進行する。とにかくリラックスできるし、エレクトロニック・ミュージックならではの快楽にみちてもいる。テクノ・ファンにもIDMファンにもニューエイジやアンビエント・ファンにも広くおすすめできる逸品である。

 『Liquid Colours』は洗練されたエレクトロニック・ミュージックだ。それは「過剰なまでの洗練」と言いかえてもいい。この洗練。この快適さ。この心地よさ。
 まるでどこかの企業のコールセンターに電話したときオペレーターに回線が繋がるまでのあいだに耳元に流れる軽快な音楽、実践的な教習用ビデオの邪魔にならないBGM、巨大なホテルのロビーにうっすらと流れる清潔なサウンド、ショッピングモールに流れる瀟洒な音楽のようにも聴こえる。いわば社会の隅々にまで浸透したバッググラウンド・ミュージックのように極度に洗練されているのだ。完璧に構成された消費社会のための音楽? これは批判ではない。ストレスフルな現在を生きる私たちの心身はこういった音を求めている。

 もっとも CFCF のこのような音楽性は、本作から始まったわけではない。2015年に〈Driftless Recordings〉からリリースされた『Radiance & Submission』、同年〈1080p〉からリリースされた『The Colours Of Life』以降、彼が追求してきた「80年代的な電子音楽を現代のサウンドで再生させる」をコンセプトとサウンドを継承するものといえよう(余談だが、2015年こそ2010年代における先端的な電子音楽を考えるうえで重要な時期だろう)。
 これら『Radiance & Submission』や『The Colours Of Life』で CFCF は失われた80年代をモダンなサウンドでアップデイトした。結果としてヴェイパーウェイヴ・ムーヴメントやニューエイジ・リヴァイヴァルにも共通・貫通する「2010年代的な」音楽となった。「失われた未来を、過去から希求する」ものである。
 しかしマイク・シルヴァーの音楽は、ヴェイパー的な喪失した過去と未来から生まれた濃厚なノスタルジアに浸っている「だけ」ではない。CFCF の音楽は、不思議と「いまここ」に鳴っているのだ。これが彼の独自性に感じられる。
 マイク・シルヴァーは、極度に洗練した消費社会のもろもろの音楽をミニマルで洗練された日用雑貨のように、この現在に再生しようとしている。CFCF の音楽からはヴェイパーウェイヴにあるようなブラックユーモアは希薄になり、ミニマムな空間にマッチするようなアンビエンスをたたえたエレクトロニック・ミュージックとなった。
 その意味で CFCF =マイク・シルヴァーはブライアン・イーノ直系のアンビエント思想を継承するアーティストともいえるし、家具のような音楽という意味でエリック・サティのクラブ・ミュージック経由ヴァージョンといえなくもない。
 つまりマイク・シルヴァーは、オーセンティックな音楽家/作曲家の資質を持っているアーティストなのだ。さすがポスト・クラシカルの巨匠マックス・リヒターのリミックスを手掛けるだけの音楽家である。
 むろん、CFCF の音楽が現代的な批評性を欠いていることを意味するわけではない。彼はこの社会にただ存在する音楽の存在にとりつかれているし、消費社会に存在する幽霊のような音楽を探し続けているアーティストだ。
 CFCF はもろもろの音楽フォームが、全盛期を過ぎて先端性を失い、やがて洗練を極めたBGMになり、ポストモダンな社会に浸透している状態に興味があるのだろう。本作はまるで「存在しない無印良品の店内音楽」のようでもある。ミニマムな製品たちが陳列される空間のための音楽として聴くこと。20年から30年前の音楽を洗練された音楽として再生し、過去と現在の亡霊(?)をこの時代に蘇生すること。

 思うにニューエイジとジャングルを合体・蘇生させた意味もそこにあるのではないか。社会に浸透した音楽。彼はそのために音を洗練させていく。じじつ、アルバムは1曲め“Re-Utopia”から、全15曲、どのトラックの音色もテンポも曲の構造も共通のトーンで進行する。2曲め“Green District”以降もシームレスにトラックは繋がり、まるで良質なミックス音源のようにまったく淀みなく進む。私は本作聴き終えたとき、浮遊するような幸福感を感じた。空間が綺麗になったような感覚である。同時にニューエイジ+ジャングルということは、つまり80年代と90年代を交錯させることを意味するとも思った。
 “Re-Utopia”のマリンバ的な音色などは、まるで坂本龍一『音楽図鑑』や80年代に手掛けたCM音楽を思わせるが、そこに90年代的なジャングル・ビートをレイヤーさせる。つまり80年代と90年代を融合させている。その手腕は実に見事で、異質なはずのものが極めて自然にミックスされている。澄んだ水を飲むように何度も聴けてしまう。
 加えて渋谷系およびネオ渋谷系リヴァイヴァルのごとき9曲め“Oxygen Lounge”に現在のニューエイジ・リヴァイヴァル「以降」の萌芽も聴き取った(次にくるリヴァイヴァルは渋谷系~ネオ渋谷系か?)。

 いろいろと御託を並べてしまったが、心地よく繰り返し何度も聴ける極上のエレクトロニック・ミュージックに仕上がっていることが何より重要である。洗練と極上の結晶。特に静かな盛り上がりを見せる12曲め“Last Century Modern”以降は、現代のエレクトロニック・ミュージックならではのミニマルにしてエモーショナルなサウンドスケープを生んでいた(13曲め“Closed Space”では坂本龍一『エスペラント』収録曲を引用するなど小技も実に効いている)。
 ニューエイジ+ジャングル。それは80年代と90年代の融合であり、洗練された心地よい電子音楽の完成であり、心身をケアする完璧な消費社会への希求である。そう、つまり『Liquid Colours』は、ストレスフルな現代社会に対するシェルターのようなものかもしれない。

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