「You me」と一致するもの

Ulapton(CAT BOYS) - ele-king

なつかしの90年代HIP HOP

昨年リリースしたセカンドアルバムのカセットバージョンが3/24リリースされます。

CAT BOYS new7inch "LOVE SOMEBODY"
Release 0422

interview with YURUFUWA GANG - ele-king

いい意味でぶっ壊したかなとは思います。──Ryugo
うん。ぶっ壊した。──Sophiee


ゆるふわギャング
Mars Ice House

SPACE SHOWER MUSIC

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 ele-king読者の耳にはもう届いているに違いない。ゆるふわギャング(Ryugo IshidaとSophiee、ビートを手掛けるAutomaticのユニット)の1stアルバム『Mars Ice House』が4月5日にリリースされる。クラウドファンディングで制作資金を募集するや即座に目標金額を上回り、すでに話題沸騰のゆるふわギャング。フロント・メンバー、Ryugo IshidaとSophiee、インタヴューでこちらの質問に答えるふたりを見ていると、いつの間にかその場の空間全体を俯瞰しているもうひとりの視点に気付かされる。あるいは映画をVRで見ているような感覚に陥るとでも言えばいいのか。ふたりの紡ぎだす空気はまるで映画のようだ。「ね?」とSophieeが横のRyugo Ishidaに微笑みかけると、「うん」とRyugo Ishidaが答える。言葉は少ないがこのやりとりが醸す空気は雄弁で温かい。新作アルバムの話からふたりの生い立ちにまで遡ってのロング・インタヴュー!

昔から学校嫌いで、小学校5年生ぐらいから学校行ってない……学校はとりあえず嫌いでしたね。中学校いっても、常にひとりでいるのが好きだったから、保健室にいるかどっかで寝てるか。──Ryugo

ゆるふわギャングの1枚目ですね。

Ryugo Ishida(以下、Ryugo):やっと……

Sophiee:やっと……

Ryugo:……できたっていう。

ゆるふわギャングのはじまりは去年(2016年)の夏……でしたよね? 

Ryugo:……ぐらいにふたりで“Fuckin’ Car”という曲を作ったのがきっかけです。PVも撮ったんですけど、この曲をゆるふわギャングで出そうというのがきっかけで、そこから色々曲ができていって、名前もそのままゆるふわギャングでという感じです。

ゆるふわギャング“FUCKIN CAR "

でも、楽曲ができたのとゆるふわギャングの結成はほとんど同時で……と、そこからのアルバムと考えると早いですよね。

Ryugo:早いんですけど……やっぱり1枚目だし、ちゃんとした形でリリースするのは初めてだから嬉しいですね。いままでとは全く違うっていうか、気持ちが……

Sophiee:ね? 気持ちが全然違うっていうか、アーティストだ! っていう(笑)。

Ryugo:まず最初のクラウドファンディングでふたりで出したやつよりもこれは自信が違う。俺たちはこれっていう……

Sophiee:うちらがこうです! みたいな……たぶん一番クラシックだと思う。次に何が出ても(笑)。

Ryugo:それはある。

Sophiee:固い……

Ryugo:すべての始まりでもある……

Sophiee:まだ序章に過ぎない……

Ryugo:実際のところこのアルバムができてからも、別の曲もバンバン作っちゃってるから、俺たちの中では初めてだけど、もう古いというか(笑)。どんどん自分たちがアップグレードしていってるから。

Sophiee:ネクストレベル。常に先を見て曲を作ってる。

Ryugo:でもなんか戻れる場所がちゃんとあるっていうか、このアルバムを聞けばこの感じだなっていうか。わかるというか。

Sophiee:たしかに。

バンバン作ってるということですが、もう何曲くらい録りましたか?

Ryugo:10曲いかないくらいはもう録りましたね。

Sophiee:10曲くらいは作ってるか……曲作りの仕方自体はあまり……スタイルは変わらないんですけど、気持ちも変わったし、前よりも全然楽に曲を作れるようにもなった。いい意味で。

それはコミュニーケーションがよりスムーズに取れるようになったということですか?

Ryugo:コミュニーケーションというよりは感覚というか、自分たちの曲を何か作ろうと思った時の曲作りの仕方が決まったというか。いままではリリックを書くのも大変とかもあったけど、いまはもうないもんね。よっぽど集中力が切れてなければリリックが出てこないっていうことは滅多にないし。曲を作ろうってなったときには、大体自分たちの力がバーンって、100%出せるようになったというか。どのタイミングでも。いまなんかその調整をしているというか。

Sophiee:ね。何か細かいところまで目がいくようになった。前はリリックを書くのに精一杯、でもいまはもっと余裕ができて、音の聞こえ方だったり声の出し方だったりとか、そういうところまでちゃんと気を使えるようになった。そういう意味でも100%の自分で曲を作れるようになった。

このアルバムを作ったのが大きかったんですね。

Ryugo&Sophiee:ですね。

Ryugo:これを作って、スーパーモードになったっす。サイヤ人モードに常に入れるようになったっす。

Sophiee:ワンナップキノコみたいな。このCDが(笑)。

アルバムの内容に踏み込む前に、ここで一度生い立ちまで遡って少しお話を聞かせてください。まずRyugoさんの地元は土浦でしたよね。

Ryugo:土浦ですね。

ご兄弟はいらっしゃいますか?

Ryugo:妹と弟がふたりいます。4人兄弟の長男です。

土浦にいたときはずっと実家にいたんですか?

Ryugo:そうですね。自分でアパート借りたりとかもあったけど、基本的には実家ですね。

どういう子供でしたか?

Ryugo:昔から学校嫌いで、小学校5年生ぐらいから学校行ってない……学校はとりあえず嫌いでしたね。中学校いっても、常にひとりでいるのが好きだったから、保健室にいるかどっかで寝てるか。高校は仲良い先輩が行ってて、誰でも入れる高校だったからただちょっとノリでいって、適当に卒業したって感じなんですけど。そうですね……遊ぶのは好きだったけど、とりあえず勉強とかもすごい嫌いだったし……っていうのはありますね。あんまり人と関わりたくなかった。グレてたし。

いつ頃からグレてました?

Ryugo:自分は中1ぐらいですかね。サッカーをやってたんですけど、サッカー辞めて、中1ぐらいの時に本格的にグレ始めた感じですね。

グレるというのは具体的にどんな感じだったんですか? 

Ryugo:学校は嫌いだったけど、先生がいちばん仲良かったから、グレてても何してても絶対怒られなかったというか、逆に(笑)。もうそれでいいからみたいな。放っといてくれたというか……どうグレてたんだろう? とりあえず先生も仲が良い先生としかいなかったし……それ以外の先生とか先輩が嫌いでしたね。

上下関係みたいなのが気持ち悪いんですかね。

Ryugo:そうですね。ちょっとあんまり得意じゃないですね。難しいです。

サッカーが好きだったんですか?

Ryugo:サッカーはすごい好きでしたね。小学校のとき少年団に入ってサッカーやってました。フォワードやってましたね。下手くそだったんですけど足が速かったんで(笑)。

ああ、足速そうです。

Ryugo:100m11秒台でした。

それは速いですね。

Ryugo:そうなんですよ。めちゃめちゃ速かったんです。100m走で県大会の決勝戦まで行きました。だからサッカー下手くそでも足速かったんで選抜チームにも入ってましたね。

ボール持ってゴールまで運ぶ感じですね。

Ryugo:そういう系ですね。それしかできなかった逆に。

なかなかかっこいい不良ですね。

Ryugo:でも不良ってわけでもないんですけどね。ただなんかちょっとヤンチャなだけだったというか。とりあえず昔っから人が嫌いだったというか。目が悪かったからよく喧嘩とかも売られてたけど、喧嘩はそういうときにするぐらいでした。

暴走族とかはやってないんですか?

Ryugo:自分たちの地元に暴走族もなかったし、バイクにも興味なかったんですよ。どっちかっていうとそのときギャングの方が興味があって、上下のディッキーズとか着て溜まってるのが好きだったというか。

Sophiee:カルチャー?。

Ryugo:そうですね。カルチャーにすごい憧れていたんですよね。従兄弟がちょっとやんちゃだったんですけど、そういうファッションをしていて、それにすごい憧れてたから。従兄弟は2つか3つ上なんですけど、ヒップホップが好きで、俺もそれに憧れて改造した制服を着たり、ディッキーズとか着て街でたむろってるのが好きでした。

それが中学ですか?

Ryugo:はい。高校の頃はもう割と落ち着いちゃってて、その頃には音楽のことばっか考えてました。

Ryugo Ishida "Fifteen"

ラップをはじめたのは15歳とおっしゃってましたね。

Ryugo:中学校終わるぐらいの頃にはラップが好きになってたから、みんなは高校に入ると同時にバイクに走っていくけど、俺はクラブ遊びに走っちゃって……ハマっちゃってというか。そうですね……って感じでした。

DEAR’BROさん(※ディアブロは土浦のラッパー。Ryugo Ishidaがラップをはじめるキッカケとなった)と会ったのは?

Ryugo:中2か中3どっちかですかね。そのときは……初めてクラブに行って、クラブから自転車に乗って帰ろうとしたときに、いきなり「おまえ待て」って言われて、「おまえいくつだ?」って。「14です」って言ったら、「俺の曲聴け」って言われて、怖って(笑)……思ったのがきっかけだったんですけど。なんだこのおっさんはって思って。帰って先輩の家でもらったCD聴いたらめちゃめちゃかっこいいと思って、CDの裏に書いてあった番号に速攻電話して、で、その次の日に飯に連れてってもらったんです。1週間後ぐらいには「俺のステージ立て」って言われて、サイドMICとかをやってたりとかしたのがはじまりで、あとは自分の同級生に音楽を勧めて、「一緒に曲をやろうよ」って言ったりして、やったりとかもしてたんですけどね。いつの間にかみんないなくなっちゃって……って感じでした。結局先輩と一緒にいるか……って感じでしたね。仲良いのは地元の1個上の人たちで、3人仲良い人がいるんですけど。その人たちとしかほとんど遊ばなかったです。この先輩たちはいまも仲良いですね。だから孤立はしてたかもしれないです、常に。グレてるときもひとりだったし。

そういうひとりのときって何を考えてたんですか?

Ryugo:クソだな〜と。毎日つまらないなーと思ってました。ずっと。なんか面白いことないかなぁーと思って。だから学校の先生が鍵をいっぱい持ってるんですけど、それを盗んでひとりで学校を冒険したりしてました。みんなが勉強をしている間とかにひとりで鍵のかかった部屋に忍び込んだり、ひとりでサボってましたね。

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Sophieeはお兄ちゃんがギャングスターで、悪いんですよ。地元でけっこうボス的なお兄ちゃんがいて、妹もいて……妹はまったく真逆で超まじめで勉強もできる。でも私は何もできなかったんですよ。──Sophiee


ゆるふわギャング
Mars Ice House

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音楽を最初にかっこいいと思ったのはいつなんですか? 最初にCDを買った音楽というか。

Ryugo:ああ。小学校6年生ぐらいの時に同級生がロスだかどっかに行ったときに2パックのCDを買ってきてくれたんですよ。「好きそうだよ」って。それがはじまりだったかもしれないですね。いちばん最初のCDはそれで、あと従兄弟がヒップホップを聴いてたんですけど、その影響でZEEBRAの『STREET DREAMS』とかEMINEMの『カーテンコール』を聴いたり。それで学校には行かずに夕方まで寝て、夜中はどっか遊びに行くかみたいな感じでしたね。ずっとそんな感じでした。

2パックが原体験というのは少し秘密に触れた感じがしますね。では、ここからはSophieeさんにはお話を伺いたいです。Sophieeさんはどんな子供でしたか?

Sophiee:Sophieeはお兄ちゃんがギャングスターで、悪いんですよ。地元でけっこうボス的なお兄ちゃんがいて、妹もいて……妹はまったく真逆で超まじめで勉強もできる。でも私は何もできなかったんですよ。なんかもう本当に……なんていうんだろう? 悪さしかしないし、親にもずっと怒られてた。けど、お兄ちゃんとは気が合ってて……って感じで。学生のときもとくにやりたいこととかもなくて、私も毎日つまんないなって感じでした(笑)。

ずっと品川ですか?

Sophiee:品川ですね。本当東京にしかいなくて、ずーっと。地方遊びに行ったりとかも全くなかったし、東京から出なくて、地元で遊ぶとかもなくて、遊ぶってなると渋谷とか、ほんと東京のただの女の子みたいな感じなんですけど。

品川の、駅でいうとどの辺りになるんですか?

Sophiee:駅だと天王洲アイルっていうところですね。お父さんは離婚していなくなったんですけど、それまでは親もずっと喧嘩してるし、なんか部屋でずっとぼーっとしてるとかそんな感じでしたね。

地元の中学校に通ってたんですか?

Sophiee:地元の中学に行ってて、昔からずっと海外に興味があって。そのときくらいから日本を出たいなと思いはじめて、それで自分でバイトをして海外行こうと思って、そのためにバイトを中学生からしてました。Sophieeもけっこうひとりが好きで、そうやって貯めたお金でひとり旅とかしに行ってましたね。最初に行ったのがスペインなんですけど、それが高校1年生の頃です。あとはニューヨーク行きたいなと思って、そのためにまたアルバイトしてお金貯めてニューヨーク行ったりとか。

英語やスペイン語が話せるんですか?

Sophiee:海外にはずっとすごい興味があったから英語の授業だけはめっちゃ真面目にやってて、自分でネットを使って海外の人とSkypeしたりして喋ったりして……独学? で、英語は多少、ほんとちょっとだけど喋れるようになりました。でもスペインに行ったときに痛感したのは、スペインは英語が全く通じないんですよ。英語で喋りかけてもスペイン語で返してくるし、意地悪でした。あっちの人はプライド高いっていうか、スペインだったらスペイン語話せよみたいな。すごい冷たくされて。そういう国なんだなと思って、それでちょっとスペイン語も勉強しなきゃなと思って、スペインにいる間は自分でスペイン語の本を買って読んだり、それでちょっとですけど覚えましたね。高校で選択授業というのがあって、何か国語の中から選択して自分で勉強できるコースがあって、それで私はスペイン語を選択して、ちょっと勉強したりとかしてました。

スペインに行ったのは高校1年の夏休みとかですか? どのくらい行ってたんですか?

Sophiee:2週間くらいですね。夏休みとかじゃなかった気がしますね。普通に高校に行かないで行ったと思います。それで高校も途中で辞めたんです。ひとり旅が楽しくなっちゃって。別に高校行ってるんだったら、海外遊びに行ったほうが面白いかなと思って。友だちとかも普通に仲良かったし、成績もそんなに悪くなかったし、先生ともそんなに仲悪くなかったけど、いきなり友だちとかにも言わないで高校辞めちゃって。けっこうびっくりされたんですけど。「辞めたの?」みたいな。突発的なんですよ。行動が。あんまり先を考えない。高校も辞めるって言ったら辞めるし、親も私がなんかやるとか辞めるとか言ったら、もう聞かないってわかってるから。(高校を辞めるって言ったときも)「はい、わかりました」みたいな感じでした(笑)。

それが高校何年の時ですか?

Sophiee:2年生に上がってすぐですね。けっこう変わってましたね。友だちを作ろうともあんまり思ってなかったけど、自然にできて。高校の友だちとかも普通に仲良かった。周りにも変わってる友だちしかいなかったですけど。でもそんなに派手ではなかったですね。

少し話戻りますけど、海外に行きたくて中学2年からアルバイトしてたんですよね。

Sophiee:お兄ちゃんの仲良い友だちがやってるピザ屋に年齢嘘ついてアルバイトやったりとかしてて、もう15歳くらいからけっこう六本木で遊んだりしてました。クラブに行ったりとか。そのときはIDチェックとかもあまり厳しくなかったから。でもそういう話を高校ではしなかったですね。なんか夜遊ぶ友だちと学校の友だちみたいな感じで分けてました。

ニューヨークはいつ行ったんですか?

Sophiee:ニューヨークは高校辞めてすぐですね。ニューヨークは初めて行ったアメリカだからかもしれないけど、すごい好きなんです。音楽とかヒップホップを知りはじめてすぐ行って、ビギーの映画を見てかっこいいなと思ったり……すごい影響を受けましたね。アメリカの音楽がずっと前から好きだったから、日本人の音楽はあんまり知らないんですよね。今もアメリカの音楽しかあんまりわからないです。

Sophieeさんは独特の言語感覚がある気がしますね。

  起きてる時間を今日と呼ぶなら
  今日は続くよね all night long “Go! Outside”

  ミシュランにも載らないようなメニューで
  星じゃ表せられないようなテイスト
  処女みたいなpureな心
  見る世界はゴミの紙袋
“Dippin’ Shake”

ゆるふわギャング "Dippin' Shake"

こういったリリックにそれを感じます。日本語だけどメタファーが日本語の感覚にとどまっていないというか。

Sophiee:英語とかだといろんな言い方があるじゃないですか。アメリカの音楽が好きなのも歌詞とか上手いなと思って。言い方とか伝え方が、日本人ってけっこうストレートじゃないですか。そっちの方が伝わりやすいのもあるし。Sophieeはアメリカの言い回し方が好きで、ちょっとくどい言い方みたいなのを日本語でもできたらいいなと常に思ってて、けっこうリリックもくどい言い方をしているんですけど。そういうのは常に意識してます。

昔からそういうのが自然な感じでしたか?

Sophiee:アメリカかぶれじゃないけど……とにかくアメリカのカルチャーに憧れてて。だから子供のときは早い段階で@#$%もやったし、お兄ちゃんがギャングスタだったのもあるからその影響で@#$%とかを覚えて一回ちょっと頭おかしくなっちゃったときもあるし。いろいろ乗り越えていまがあるけど、ニューヨークに行ったことがけっこういまの自分に影響しているかもしれないですね。タフだったなぁと思って。

人間の汚さ……ですかね。昔から感じていたことはたくさんありますけどね。なんだろう、やっぱり信用していた、自分たちが心を開いた人が全部嘘だったりするときは、ああ、こんなもんなんだなっていう。──Ryugo
別にうちらワルぶってるわけでもないのに、まぁそう見えるのかもしれないけど……そう見てガッとくる人もいるし、別にそんな何もしてないのに……。──Sophiee

いまお話に出た「早い段階。というのはどのくらいの年の頃なんですか?

Sophiee:うーん。もう中学生のときとかもバンバンいろいろやってたし、だからなんか普通にタメの人とは話合わなかったり。けっこう背伸びしてた時期はありましたね。そんなつまんない遊びしないみたいな。

ずっと何かに「染まる」みたいな感覚が嫌なんですかね。

Sophiee:でもなんかそう、自分の意思は絶対だから、自分の中で。だから人に何を言われても、へーみたいな。そう思うんだぁみたいな。でも私は違うけどみたいなのはありました。

ざっと振り返りましたが、いま聞いたお話だけでもふたりともけっこう共通するものがありますね。ひとりでいるのが好きだったり……

Ryugo:いまはいろんなものを乗り越えたっていうのはあるかな。見たし。

いろいろ……何を見ましたか?

Ryugo:人間の汚さ……ですかね。昔から感じていたことはたくさんありますけどね。なんだろう、やっぱり信用していた、自分たちが心を開いた人が全部嘘だったりするときは、ああ、こんなもんなんだなっていう。そういうことは何度もありました。だから地元でも、こういう人間たちのなかに染まりたくないというのはありましたね。こうなりたくないというか。

Sophiee:ね。なんか……そういう人ってけっこう寂しがりじゃないですか。人に強く当たって満足するじゃないけど、なんかすごい冷めた目で見ちゃうんですよね。別にうちらワルぶってるわけでもないのに、まぁそう見えるのかもしれないけど……そう見てガッとくる人もいるし、別にそんな何もしてないのに……。うちら好きなことやってるだけなのに、何でこうなっちゃうんだろうって思うことはよくあったかもしれないですね。もっとうちらの素直な心を受け取ってほしいなっていう。まぁ別にそんな狭いとこを見てないし。うちらは世界行きたいだけだから。

そういう発想でいた方が絶対良い気がします。いまSophieeさんのリリックに少し触れましたが、Ryugoさんのリリックの持ち味はまたSophieeさんとは違いますね。感じたことをまんま口にしているというか。

Ryugo:そうですね。基本的には、感じたことというか見たものですね。いちばんダイレクトにというのを心がけてるんですけど。

ああ。「感じたこと」と「見たもの」はたしかに違いますね。言葉を工夫しているように聞こえないのがRyugoさんの個性かもしれないです……と思いました。

Ryugo:昔はやっぱり飾ってましたけどね。いろいろ経験してきたことが自分たちの中であって、自分が地元を離れて東京に来て、すべてこうゼロになったとき……ふたりでこうなったときに、今まで飾っていたものは必要ないんだというか。Sophieeのリリックを聞いてからも書き方も全部変わったんですよね。。こういう風に言えばいいんだみたいなのがわかってから、いまみたいなリリックになったんです。それまでは飾ってたやつばっかだったし、だからSophieeに会ってからですかね。こういう風に書けるようになったのは。

  ai ai ai ai 俺らの世界
  でかい海を支配する狙い
  金金金金 財宝全部頂き
  面舵一杯帆を上げな
  風向きに全てお任せな
“パイレーツ”

この曲も勢いあります。

Ryugo:俺はけっこう『グーニーズ』とかキッズが出てくる映画が好きなんですけど、そういうイメージですね。この曲は『パイレーツ・オブ・カリビアン』を見ててそっからできた。船が出てきて宝探しするとかそういうイメージというか。全部奪ってやろうと思って、そういう奴らから。

Sophiee:汚い大人?。

Ryugo:(笑)。

(笑)。とにかくふたりが出会い、ゆるふわギャングになってからRyugoさんも完全にギアチェンジした感じですね。

Ryugo:ですね。

出会いと曲を作りはじめたこと、ゆるふわギャングの結成がほとんど同時なんですもんね。
Ryugo&Sophiee:そうですね、同時です。

ここで話がインタヴューの最初のところまで一周しましたね。では、ここからアルバム『Mars Ice House』を掘り下げさせて下さい。

  好きなことに夢中
  広がる妄想まるで宇宙
  目に見えないことが普通
  でもなぜか見えちゃってる
  それに気づく大人
  もちろん不機嫌な面  “Stranger”

これはRyugoさんのリリックです。この曲はアルバムのなかでも重要な位置付けの曲だと思いました。

Ryugo:“Stranger”はまた悪魔みたいな人が…。

Sophiee:現れて……。

Ryugo:いい加減にもういいなと思って。どこに行ってもこういう人たちはいっぱいいるんだなと思って。ちょうどこの時に『Stranger Things』を見ていたんですけど……。

Sophiee:Netflixのドラマ。うちらあれ大好きで。『Stranger Things』の物語も汚い大人から子供たちが逃げるような物語なんですけど、悪魔とか。それとうちらをシンクロさせて。

Ryugo:遊びに行ってるときにそういう面倒くさいと思うようなことがけっこうあって、リリックが1回書けなくなったんですよ。そのときにKANEさんと会って、“Stranger”が書けたことによって、そこからまったく違うものになった。

なるほど。ある意味ターニングポイントとなる曲ですね。

Ryugo:そうですね。“Stranger”“大丈夫”らへんはターニングポイントにはなってるかなとは思います。

聴いていても“Strangerから“大丈夫”の流れは印象的です。KANEさん(今回のアルバムのジャケットはKANE氏のアートワーク。SDPのグラフィティライター)と会ってリリックが書けるようになったということですが、何か具体的なことがあったのですか?

Ryugo:山梨に『バンコクナイツ』っていう映画を見に行って、そこにすげえいろんな人たちがいたんですけど。みんなが俺たちのことをホメたりとかしてくれてて、号泣しながら帰ったんですよ(笑)。帰りの山梨の高速のパーキングエリアで温かい気持ちになって高まっちゃって……号泣しながら「大丈夫だよ」っていうことを言いたくなった(笑)。

Sophiee:山梨行ったときにKANEさんとかWAXさん(SD JUNKSTA)に会って、KANEさんは前から会って知ってたけど、WAXさんはこのとき初対面で「ゆるふわじゃん!」みたいにすごい温かく迎え入れてくれたんですよね。その山梨の帰り……パーキングに停めた車の中でリューくんがSophieeの方ずっと見て黙ってて。なに? なに? どうしたの? と思って。でもずっと黙ってて、リューくんのその顔を見てたら涙出てきちゃってまずSophieeが号泣して、そうしたらリューくんも号泣しだして。なんでうちら泣いてるんだろう? 1回考えようってなって。これ嬉し涙だって。そっからバーって泣けるだけ泣いて、これ曲作ろうみたいになって。そのとき送られてきていたAutomaticさん(※もうひとりのゆるふわギャング。Ryugo Ishida名義のアルバム『Everyday Is Flyday』から現在のゆるふわギャングのビートまで一貫して手掛けるプロデューサー)ビートでリリックを書いた。そのときSophieeが「大丈夫だよ、大丈夫だよ」ってリューくんにずっと言ってたんです。だから“大丈夫”っていうタイトルをつけた。車を走らせては泣いて、止まって曲書いて、また走らせて泣いて止まって曲書いてみたいな(笑)。

Ryugo:KANEさんと会ったのはいちばんデカかったかな。完璧に変われたっていうか。俺もハタチの頃からずっと自分で店をやったりしていたんですけど、自分がやってきたことを否定され続けてきたんですよね。何やってもダメなんだなぁじゃないけど、自分でこう表現しているのに、けっこうそういうもんなんだな、そっけないなと思っていたんですよ。でもKANEさんみたいに良いって言ってくれる人がいるっていう。それでけっこう変わったかな。ポジティヴなヴァイブスになったというか。いい大人の人たちとちゃんと出会って心を開けるようになったというか、少しづつ柔らかくなってったかなぁなと思います。

そもそもKANEさんとの出会いはいつだったんですか?

Sophiee:去年(2016年)です。

Ryugo:ですね。

Sophiee:なんか夏に、まだゆるふわギャングでアルバムを出すという話にもなっていない時期に、渋谷でリュー君がライヴに呼ばれていて、そのときにもう“Fuckin’ Car”ができてたんで、ライヴで1曲やろうみたいな。そこにゆるふわギャングで出て、そのライヴの後にKANEさんが声をかけてくれて、「いまのヒップホップってこうなんだ!」みたいな。すごい感動してくれたみたいで。目をキラキラさせながら話しかけてきてくれて。その時PE▲K HOUR(KANE氏プロデュースのブランド)の撮影とインタヴューの話をくれたんですよね。

Ryugo:それでモチベーションがバリ上がって……みたいな。そこからふたりでアルバム作っちゃおうみたいな。

Sophiee:うちらは絶対間違ったことしてないっていう、その自信がすごい湧いてきて。一気にそれから曲も書けるようになったよね。それまで良いものは良いみたいにちゃんと言ってくれる大人の人とかに触れ合うことが少なかったから、すごい嬉しかったんですよ。肥後さん(現ゆるふわギャングのA&R)が声をかけてくれた時もそういう感動があって、そういう人たちとずっと、常に一緒にいたいんで、ヴァイブスも下がんないし、好きなことを突き詰めてできるし。曲もそうだし、だからそういう面ですごい変わって。エネルギーを音楽だけに費やせるようになりました。

お話を伺っていると、KANEさんはゆるふわギャングのキーマンかもしれないですね。

車を走らせてるEvery Night
助手席に座る彼女を見てたい
それだけで景色は2倍
目の前あった霧はもう俺は見えない
アクセルはベタブミであける未来
無理な事なんてほら1つもない   
 “大丈夫”

これもRyugoさんのリリックですね。Ryugoさんは「感じたもの」というより「見たもの」を歌っているとお話していますが、これはまさに「見たもの。」すね。僕は「それだけで景色が2倍」というリリックが好きです。人を好きになるってそういうことだなと。

Ryugo:このリリックはSophieeに対してもあるし、Automaticさんに対してもあるけど、いちばんは地元の後輩でふたり捕まってる子がいて。その子たちがWAXさんのことをすごく好きだったんですよ。WAXさんたちに会った帰りに作った曲だし、ここまで来たんだなって思いもあって……だからみんなに対してありがとうじゃないけど……そういう気持ちが一気にパーンってなって、このリリックができましたね。

Sophiee:“大丈夫”に関しては溢れる想いがこもってる。エネルギーがあるから。

“大丈夫”から後半の高揚感はこのアルバムの聴き所のひとつですね。

Ryugo:そうなんですよ。

Sophiee:後半の曲はどんどん高まって……。

Ryugo:前半の曲っていうか、クラウドファンディングで作った曲は、ほぼノリで作ってる曲だけど、それ以外の新曲は全部意味があって作られてる曲というか……。

Sophiee:前半は本当に遊びの延長線上で作った曲っていうか、ブンブンで飛ばしているような曲ばっかだもんね。

Ryugo:“Stranger”“大丈夫”からの流れで“Escape To The Paradise”は爆発したのかな。

“Escape To The Paradise”は後半のクライマックス的な1曲ですね(インタヴュー後この曲を聴き直すと、この曲のフックは筆者にはOASISのリアム・ギャラガーを彷彿させた。自分の感情のままに歌い上げてしまっている感じだ)。これはどのタイミングでできた曲なんですか?

Ryugo:これはいちばん最後です。

Sophiee:最後に完成した曲です。

いつ頃ですか?

Ryugo:年が明ける前ですね。

  Escape To The Paradise 
  ぶっ飛びたい
  Escape To The Paradise
  これじゃいけない
  Escape To The Paradise
  ドア叩きな
  Escape To The Paradise
  抜け出しな
 “Escape To The Paradise”

ゆるふわギャング "Escape To The Paradise"

……となるとこのアルバムはちょうど2016年下半期の半年間で作り上げた感じですね。長い時間お疲れ様でした。最後にアルバム・タイトル『Mars Ice House』について伺いたいです。

Ryugo:『Mars Ice House』は……宇宙が好きで宇宙の博物館みたいなとこに行って……。

Sophiee:森美術館でやってて(※宇宙と芸術展)。そこにあった夫婦がつくった模型みたいな……。

Ryugo:美術品のタイトルが『Mars Ice House』(※「火星の氷の家。。2015年秋にNASA主催で行われた宇宙探査のための3Dプリント基地考案プロジェクトで優勝した、日本人建築家曽野正之・祐子両名含むニューヨークの建築家チームによる作品)。

Sophiee:火星に人が住めるようにするために研究するラボみたいな、火星移住計画の模型なんですよ。その夫婦ふたりともうふたりで火星で人が住めるように研究するみたいなプロジェクトで。うちらがやっているようなことと似てるなと思って。それにめっちゃくちゃ食らったんですよね。その模型を盗んで帰りたかったくらいなんですけど(笑)。ヤバかったよね。

Ryugo:うん。だから……そうですね。俺たちのプロジェクトにみんなを乗っけて、みんなを俺たちの曲のなかに住ましてあげるっていう(笑)。『Mars Ice House』は夫婦とプロデューサーの4人のチームの作品なんですけど、うちらもAutomaticと……。

Sophiee:肥後さんを入れて4人で。

Ryugo:作品を見たときうちらはまだ3人でしたけど、『Mars Ice House』を見ていて4人のプロジェクトだと気付いて、4人の力ってすごいんだなと思ったんですよ。それからすぐくらいに肥後さんと会った。

そしてジャケットはこのインタヴューでもキーマンとして登場するKANEさんの作品ですね。

Sophiee:KANEさんの絵はエネルギーが出てるのが見えるんですよね。目で。キラキラがすごい出てる。

Ryugo:元々はアートブック(クラウド・ファンディングの出資者へのリターンとして作られた)用に提供してもらった作品だったんですが、KANEさんとの出会いから全部アルバムに繋がったっていうのもあって、ジャケットにさせて貰いました。

Sophiee:ジャケットにさせて下さいって。

Ryugo:あとジャケットにはクラウドファンディングで投資してくれた人たちの名前が入ってます。だからいろんな人のパワーが詰め込まれてるアルバムというか。

Sophiee:投資してくれた人にはすごい感謝してます。

では、この作品について最後に締めの一言をお願いします!

Ryugo:いい意味でぶっ壊したかなとは思います。

Sophiee:うん。ぶっ壊した。

何をぶっ壊したと思いますか?

Ryugo:それは聴いてみて下さい。

オッケーです。ありがとうございました!

Shobaleader One - ele-king

 スクエアプッシャー率いる超絶技巧バンド、ショバリーダー・ワン。3月8日にアルバム『Elektrac』をリリースしたばかりのかれらが、昨日3月23日、ボイラー・ルームにてライヴをおこないました。そのときの映像が YouTube に公開されています。いやー、バカテクですね。来日公演が楽しみです。下記よりチェック。

超 必 見!
スクエアプッシャー率いる超絶技巧バンド、
ショバリーダー・ワンが
3月23日23時にBOILER ROOMに登場!
衝撃のパフォーマンスを披露!
待望の来日ツアーはいよいよ3週間後!

ライヴ・バンドのコンセプトを根底から改革すべく、スクエアプッシャーが招集した、凄腕ミュージシャンたち:STROBE NAZARD(キーボード)、COMPANY LASER(ドラム)、ARG NUTION(ギター)擁するショバリーダー・ワンが3月23日23時にBOILER ROOMに登場! 衝撃のパフォーマンスを披露します!

Shobaleader One @ Boiler Room
https://blrrm.tv/squarepusher

東京公演が即日完売で大きな注目を集めるジャパン・ツアーはいよいよ3週間後! 大阪公演も完売ペース! 東京公演のチケットをゲットできなかったファンは名古屋へGO!

スクエアプッシャー率いる超絶技巧バンド、ショバリーダー・ワン待望のデビュー・アルバム『Elektrac』は、3月8日日本先行リリース! 国内盤2枚組CD(ブックレット付の特殊パッケージ)には、オリジナルのシースルー・ステッカーが封入される。またスペシャル・フォーマットとして数量限定のTシャツ付セットも販売中。

label: Warp Records / Beat Records
artist: Shobaleader One ― ショバリーダー・ワン
title: Elektrac ― エレクトラック
cat no.: BRC-540
release date: 2017/03/8 WED ON SALE(日本先行発売)
初回生産特殊パッケージ
国内盤2CD(¥2,500+税):オリジナル・シースルー・ステッカー/解説書 封入
国内盤2CD+Tシャツセット(¥6,000+税)

!!! (Chk Chk Chk) - ele-king

 あ、これはヤバいやつだ。公開された !!! (チック・チック・チック)の新曲“The One 2”を一聴して思った。頭で処理しようと思っても、まず先に身体が動いてしまう。ワン・トゥ、ワン・トゥ。かなりディスコ色が強まっている。でも彼ららしさは失われていない。これは素直に、アがる。
 チック・チック・チックが待望のニュー・アルバム『Shake The Shudder』を5月19日にリリースする。タイトルには「恐れを振り払え」というメッセージが込められているそう。かつてジュリアーニを批判する曲で脚光を浴びた彼らのことだ。いまこんなにもソウルフルかつダンサブルなサウンドを鳴らすのにはきっと彼らなりの理由があるのだろう。あー、はやく他の曲も聴きたいぜ。ワン・トゥ、ワン・トゥ。

!!!(チック・チック・チック)が新作とともに帰還!
最新アルバム『Shake The Shudder』完成&新曲公開!
数量限定Tシャツ付セットの販売も決定!

ニューヨークが生んだ最狂のディスコ・パンク・バンド、!!!(チック・チック・チック)が最新アルバム『Shake The Shudder』の完成を発表! アルバムのオープニングを飾る新曲“The One 2”のミュージック・ビデオを公開!

!!! - The One 2
https://www.youtube.com/watch?v=zPn_AnP9N9I

「恐れを振り払え!」というメッセージが込められた今作のタイトル『Shake The Shudder』は、彼らの座右の銘であり、そのキャリアを通して示してきた言葉である。彼らのDIYなパンク・スピリットが炸裂した今作では、ここ最近のお気に入りだというニコラス・ジャーやケイトラナダなどからの影響を反映した様々なエレクトロニック・ミュージックの要素に加え、自由な精神の象徴としてハウス・ミュージックを取り入れ、「ビートに乗ってりゃ何でもあり!」というオープンな姿勢から生まれた痛快なアルバムとなっている。

リスクが大きければ大きいほど、得るものも大きい。そして、究極に楽しい経験になる。改革は次の改革を導き、それが繰り返されるんだ。
- Nic Offer

バンドのホームタウンであるブルックリンでレコーディングされた今作には、UKのシンガー、リー・リー(Lea Lea)、シンガーソングライターで女優でもあるミーア・ペイス(Meah Pace)、グラッサー名義での活動も知られるキャメロン・メジロー(Cameron Mesirow)、チェロ奏者でシンガーでもあるモリー・シュニック(Molly Schnick)といった個性豊かな女性ヴォーカリストが多数参加している。

一貫して変わることのないパンクなアティテュードと、アルバムごとに進化を続け、シーンの変化とも巧みにリンクするサウンド。移り変わりの激しい景観の中、その状況を楽しむかのようにキャリアを重ねてきたチック・チック・チックの最新作は、そのキャリアの全てを反映させた集大成でありながら、歌詞とサウンドの両方にさらにエッジを効かせ、「この打ち砕かれたような状況から、何か美しいものが育ってほしい」という、混迷を極める世界に対するバンドの願いが込められた一撃でもある。

チック・チック・チックの7枚目のアルバムとなる本作『Shake The Shudder』は5月19日(金)に世界同時リリース! 国内盤にはボーナス・トラック“Anybody’s Guess”が追加収録され、歌詞対訳と解説書が封入される。またiTunesでアルバムを予約すると公開された“The One 2”がいちはやくダウンロードできる。またスペシャル・フォーマットとして数量限定のオリジナルTシャツ付セットの販売も決定!

label: Warp Records / Beat Records
artist: !!! ― チック・チック・チック
title: Shake The Shudder ― シェイク・ザ・シャダー

cat no.: BRC-545 / BRC-545T
release date: 2017/04/19 FRI ON SALE
国内盤CD: ¥2,200+税
国内盤2CD+Tシャツセット: ¥5,500+税
国内盤特典: ボーナス・トラック追加収録 / 解説書・歌詞対訳封入

Kiyama Akiko - ele-king

 半野喜弘や田中フミヤら日本人アーティストにとどまらず、リッチー・ホーティンやリカルド・ヴィラロボスといった海外のトップDJたちから高い評価を獲得してきたキヤマアキコが、既存の音楽カテゴリーにとらわれることなく、音そのものがもつ純朴な響きにフォーカスした作品を発表するために始動したケブコ・ミュージック。これまでにカセットテープを中心にリリースを重ねてきた同レーベルがマガムラのアルバムを初めてヴァイナルでリリースする。

 ラドゥ、ペトレ・インスピレスク、ラレッシュらの拠点であり、現在のミニマルテクノ/ハウスを語るうえで避けて通ることのできない東欧シーン。同シーン屈指のレーベルであるオール・インから2013年に発表した「The Orphans」で話題を呼んだコールドフィッシュことローリン・フロストと、彼の盟友ギタリストであるエリル・フョードが結成したマガムラは、テクノ/ハウスに限定されない視点でとらえたエレクトロニックミュージックをフェスティバルやクラブで披露してきた。オフィシャルリリースは今回限りとして特別に発表される「Supernaturals」には、サウンドコラージュやドローンの要素も含んだ多彩な電子音楽が収録。現在ケブコ・ミュージックのバンドキャンプ・ページにて先行予約を受け付け中だ。


Magamura(マガムラ)

古くからの友人であるローリン・フロストとエリル・フョードが既成概念にとらわれない音楽を生み出すべく結成したプロジェクト、マガムラ。ハンガリー出身のふたりが初期電子音楽からの要素を取り入れたサウンドデザインと楽曲構造からは従来の音楽にはないフューチャリスティックなサウンドスケープが描き出される。ライブパフォーマンスに特化した活動を行ってきたマガムラは、様々なジャンルを絶妙なバランスで融合しながら、物語性のある音楽を紡いできた。2011年の結成以来、ライブごとの状況に応じて異なる即興パフォーマンスを繰り広げることで、音源のリリースに頼ることなく、多方面から高い評価を獲得してきた彼ら。2017年、キヤマアキコ主宰ケブコ・ミュージックのビジョンに共鳴したマガムラが待望のアルバム『Supernaturals』を遂にリリース。

CAT BOYS - ele-king

 先日、平凡社から刊行された著書『新 荒唐無稽音楽事典』もあらためて話題になっている音楽家/文筆家の高木荘太。最近まだ目立ってますな。カセット・ストアデイでもひときわ人気を博したのが、高木壮太率いる「CATBOYS」だった。3月24日にはそのセカンド・アルバムがリリースされる。現代の音楽キーワードをシニカルに解説した『新 荒唐無稽音楽事典』の刊行と「CATBOYS」セカンドのリリースを祝して、ここに茨城県の植田氏から届いたライヴレポも掲載しましょう。

 CAT BOYSはラウンジを這い出たのか!  浦元海成(Dr,Vo)、高木壮太(Key,Vo)、NO RIO(Bs,Vo)からなる“午前3時のラウンジ・ファンク・トリオ”CAT BOYSの新作『BEST OF CAT BOYS vol.2』(以下『vol.2』)を一聴して、そう思った。青山の老舗クラブ蜂のハウス・バンドでありながら、思い出野郎Aチーム主催の「SOUL PICNIC」や吉祥寺のローカル・バンドM.O.J.Oのリリース・パーティに出演しキッズも交ざるライヴハウスのフロアを沸かせ、ファースト・アルバム『BEST OF CAT BOYS vol.1』(以下『vol.1』)発表後の3枚の7インチ・シングルでは手練のクラブDJたちにもその名を知らしめた。だから、と結論づけるのはいささか乱暴だけれど、『vol.2』には『vol.1』になかった楽曲の幅があり、密室のラウンジだけでは生まれ得ない緩急がある。そう、この音盤には、彼らのライヴをそのまま再現したような一夜のドラマが刻まれているのだ。ライヴ・レポートを書くように、以下にこのアルバムのレヴューを試みたい。
 

 ごあいさつとばかりにイントロから鍵盤が唸る“Fanfare”で夜の幕が開く。そのままミーターズ・スタイルのファンク・チューン“Switch Back”へと繋ぐ展開は完璧な導入だと言っていい。ここまでですでに身体は温まった。Sly&The Family Stoneの“Somebody's Watching you”をさらりと挿み、浦元による自作曲“Strawberry 2 U”でねっとりと揺らされる。まとわりつくようなグルーヴ、メンバーによる軽妙なコーラスもどこか怪しい味付けだ。そして迎える“Last Tango in Paris”。軽業師、高木壮太ここにあり! と思わず合いの手を入れたくなるこのセンス、白眉のカバーであるのは間違いない。『ラストタンゴ・イン・パリ』劇中の性描写を再現するような、なまめかしい鍵盤の調べは見事の一言。さて、この熱演でライヴは中入り。いまのうちにカラカラになった喉をビールで潤しておこう。
 気を取り直して後半戦。人が散り散りになったフロアに呼びかけるように、Booker T.&the MG's“Melting Pot”、Chic“Everybody Dance”とファンク&ディスコ・クラシックを畳み掛ける。グッとフロアの熱を上げたところで披露するのが、“Take Me To the Mardi Gras”。「ねえ、マルディグラに連れてってよ!/そこでは、みんなが歌い演奏してるの/ダンスも素敵なんだって」と呼びかける、ポール・サイモンによるニューオリンズ讃歌でリズムを変える。いきなりのギア・チェンジに戸惑う聴衆を気づかうように、ゆるやかに熱を保つこの選曲はハウス・バンドしての役割を担ってきたCAT BOYSの懐の深さを顕著に示しているように思う。つづく“Stay Cool”はこの夜いちばんのメロウ・チューンだ。ここまで来ると心はホカホカ、短い映画を見終えたような心持ちである。だけれど、まだ夜は終わらない。幻のバンドManzelのカバー“Space Funk”で、彼らはもう一度フロアの熱を上げていく。じっくりと愛撫をするように聴衆の身体を温めるレゲエ調のアレンジが絶妙だ。さあもう一回! もう一回だけ愛し合おうじゃないか。
 もっともっと! と欲しがる相手がいるならば、遠慮はいらない。当然最後はこの曲、文句なしのパーティ・チューン“Funka de Janeiro”――ただしここではリアレンジされ、より都会的に洗練された“Arabella”として演奏される。原曲の野蛮さを流麗なグルーヴに置き換えた創造的な再構成だ。アンコールは大貫妙子“都会”のカヴァーで涼やかに。まるでボーナス・トラックのような演奏になぜだか少しだけセンチメンタルな気分になる。あれだけ熱くなったのに、あんなに激しく踊ったのに。どうしたって夜は終わるのだ。分かっているのに虚しくなる。頼む。朝よ、来ないでくれ。このままずっと酔いつづけていたいんだ……。

 このレヴューを依頼され、『vol.2』を聴き込むほどに浮かぶのはなぜか性的なイメージばかりだった(まったくもって稚拙ですが!)。CAT BOYSはきっとその夜いちばんの女を落とすための演奏をしているんだろう。だから彼らはまた密室に帰る。彼らに、陽の光はまぶしすぎる。酔いの抜けない身体をずりずりとひきずって午前3時のラウンジに這い戻り、懲りない面々の乱痴気騒ぎのアシストをする。そういうバンドであってほしい。2017年にリリース予定の『BEST OF CAT BOYS vol.3』ではどんな夜が描かれるのか、いまから楽しみに待っていよう。


植田浩平(茨城県のつくば市でPEOPLE BOOKSTOREを営んでいます。
https://people-maga-zine.blogspot.jp/


"BEST OF CAT BOYS VOL.2 DIGEST SAMPLER MOVIE"
https://youtu.be/KdVk6FRGQnA"FRGQnA

"MASTERED HISSNOISE"
https://www.msnoise.info/

"新 荒唐無稽音楽事典"
https://www.heibonsha.co.jp/book/b272188.html

La Femme - ele-king

 なんだかよくわからない。なんだかよくわからないが、強烈に惹きつけられる。3月21日、フランスでいま最も注目を集めるバンド、ラ・ファム(La Femme)が昨年リリースされた新作を引っさげて来日する。ジーン・ヴィンセントやヴェルヴェット・アンダーグラウンド、クラフトワークやステレオラブといった名前が引き合いに出されるかれらの音楽を一言で表わすと……ロカビリー? シンセ・ポップ? なんだかよくわからないが、かれらの音楽がエキサイティングであることは間違いない。ジャケも独特の雰囲気を醸し出しているし、何よりこのフランス語のヴォーカルは英米のポップ・ミュージックに慣れ切ってしまったわれわれの耳に新鮮に響く。とにもかくにも3月21日、原宿のAstro Hallへ足を運んでかれらの正体を突き止めよう。

ヴィンテージな雰囲気と尖ったサイケ感が混在する
ローファイ・サーフ・サウンドに世界が大注目!
フランスの異才サイケ・パンク・バンド、ラ・ファムが
待望の2ndアルバムをリリース! 来日も決定!

■フランス屈指のサーファーの聖地ビアリッツでサーフ・ミュージックとヴィンテージ・ロック好きのSacha Got(ギター)とMarlon Magnee(キーボード)が出会い結成、パリ移住後、Sam Lefevre(ベース)、Nunez Ritter(パーカッション)、Noé Delmas(ドラム)、そしてフランス・ギャルやフランソワーズ・アルディなど往年のフレンチ・ポップ・シンガーを彷彿させるClémence Quélennec 嬢が加わり今の布陣となったラ・ファム(フランス語で「女、女性」)。2013 年のデビュー・アルバム『Psycho Tropical Berlin』がフランスのデジタル・チャート1位に登りつめ、多くの雑誌の表紙を飾り、数々の有名フェスにも出演、CMに楽曲が使用されるなど、フランスでいま最も注目を集めるバンドのひとつとなった。
■セカンド・アルバム『Mystère』でもその音楽的多様性は健在だ。シンセ・ポップからサーフ・ロック、ステレオラブっぽいインディ・ロック、バロック調に近いギター・チューン、西部劇のサントラ風、そして牧歌的なサイケ・サウンドまでが溶け合う独特の音世界を作り上げている。セクシャルなキワドイ歌詞も刺激的、そのスタリッシュなレトロ調のヴィジュアル、エネルギッシュでトリッピーなライヴ・パフォーマンスも相まって、パリのインディ・シーンで絶大な人気を誇る彼ら。3月には新作を引っ提げてアジア・ツアーを敢行、ついに来日も実現!

『Mystère』は今年度ベスト・アルバムの1枚。最近のインディ・バンドでは滅多にないクールなヴァイブを本作で放っている。
—『The Guardian』誌

大胆で、想像力に富んだ、そして時には、とても楽しいほど奇妙だ。
— 『Uncut』誌

【来日公演】
■3月21日:東京:Astro Hall


ASIA TOUR 2017 - LA FEMME JAPAN DEBUT
(powered by Kaïguan Culture)

2017年3月21日
HARAJUKU 『ASTRO HALL』
https://www.astro-hall.com/
〒150-0001 
東京都渋谷区神宮前 4-32-12
ニューウェイブ原宿B1
https://www.astro-hall.com/schedule/6001/

18: 00 - Door open - DJ nAo12xu (†13th Moon†)
19:00 - 19:30 : Who the bitch
20:00 - La femme - Live start
ADVチケット: 6,000円 (数量限定) Include 1 DRINK
DOORチケット: 6,500円 Include 1 DRINK

チケット取扱店リスト:
https://la-femme-live-in-tokyo.peatix.com

https://www.lafemmemusic.com

アーティスト:LA FEMME
タイトル:Mystère
レーベル:Disque Pointu
フォーマット:CD / 2LP
品番:ZOD-006 (CD) / BB-086 (2LP)
バーコード:3700551781911 (CD) / 3521381539325 (2LP)

[TRACK LIST]
1. Sphynx
2. Le vide est ton nouveau prénom
3. Où va le monde
4. Septembre
5. Tatiana
6. Conversations nocturnes
7. S.S.D
8. Exorciseur
9. Elle ne t'aime pas
10. Mycose
11. Tueur de fleurs
12. Always In The Sun
13. Al Warda
14. Psyzook
15. Le chemin
16. Vagues

Gaika - ele-king

 こんばんは。良いお天気ですね。水カンのレヴューで盛大にディスられている小林です。どうやら僕は〈Warp〉しか聴いていないそうです。だったらもう開き直って、どんどんその道を突き進んじゃおうと思います。

 昨年レヴューを書こう書こうと思いながら、なんやかんやあってタイミングを逃してしまった作品のひとつに、ガイカ(Gaika)の「SPAGHETTO」がある(もうひとつはロレンツォ・セニ)。リアーナやドレイクといったメジャー勢をはじめ、ダンス/クラブ系で圧倒的な存在感を放ったイキノックスなど、2016年の音楽シーンを特徴づける潮流のひとつにダンスホールがあったわけだけれど、ガイカの「SPAGHETTO」はまさにそのトレンドを踏まえた12インチで、「いつも少し遅いがポイントははずさない」という〈Warp〉の流儀が見事に詰め込まれた1枚だった(ジャム・シティも参加)。
 ガイカはヒップホップやダンスホールから影響を受けたブリクストンのプロデューサー/ヴォーカリストで、マーケイジ(Murkage)というグループの一員でもある。これまでにケレラやダークスターの作品に客演したり、ミッキー・ブランコやディーン・ブラントとコラボしたりしながら、すでに2本のミックステープを発表している。そんな期待の新人が、来る4月に初の来日を果たす。会場はCIRCUS TOKYO(4月8日)とCIRCUS OSAKA(4月9日)。ロレンツォ・セニとともに今後の〈Warp〉の方向性を占うアーティストである彼のパフォーマンスを、こんなにはやくチェックできる機会に恵まれるとは。

 僕は行きますよ。悪いけど、いまはJ-POPに割いている時間なんてないんでね(でも宇多田は好き)。というか、ナンセンスは結局「ナンセンス」というセンスを持ってしまうんですよ。わかります?

水曜日のカンパネラ - ele-king

(菅澤捷太郎)

 我らがエレキング編集部はJ-POPに疎く──(こういうことを言うと、「敢えて」だそうで、編集長いわく「方針として海外文化の紹介を優先させている」そうであります)、2月の、まだまだ寒い、どんよりした曇りの日のこと、このままでは世間から見はなされるのではないかという不安に駆られたのである。誰が? 編集部の周辺、とくに泉智と野田のあいだでは、宇多田ヒカルvs水曜日のカンパネラという不毛な言い争いがあるようで、もういい加減にして欲しい。ビートルズのTシャツを着ながら言うのもなんだが、ぼくは編集部で唯一の20代だ。少なくとも〈Warp〉しか聴いてないような小林さんよりはJ-POPについて知っている。知っているどころじゃない。コムアイに足を踏まれたこともあるぞ!
 昨年の7月8日、代官山UNITだった。参議院議員選挙に向けたイベント『DON’T TRASH YOUR VOTE』。ぼくはイベントにザ・ブルシットのドラム担当として出演した。終盤ではSEALDsのメンバーがステージに上がり、選挙に向けたスピーチをおこなった。そのとき飛び入りしてマイクを持ったのがコムアイだった。
 で、彼女は開口一番、「さっきまで××に出てたんだけど、いてもたってもいられなくて来ました! こっちのほうが本番でしょ!」と言い放ったのである。その日彼女は某音楽番組に生出演していた。番組終了後イベントに直行した。会場は大盛り上がりだ。まさか、あのコムアイがやって来て、そんなことを口にするとは思ってもいなかったからだ。
 スピーチを終えたコムアイはステージから降りると、ぼくの目の前でしばらく他愛もないような会話をしていた(当然ながら、彼女はぼくのことなぞ知らない)。そして、談笑を終え立ち去ろうとした彼女は、その第一歩目をぼくの足の上に着地させてしまったのである。うぉ。ぼくはその感触をいまでも忘れない、と言ったら変態だろうか。彼女は「あ、すいませーん!」とハニカミながら去った。
 こうして、ぼくは水曜日のカンパネラを意識するようになった。ナンセンスなラップとエキセントリックなキャラクターでのし上がってきた彼女が、あのステージでスピーチをしたこと。しかも「こっちが本番だ」と言ったこと、ぼくと水曜日のカンパネラの距離は縮まったのである。
 さて、それで話題の新作『スーパーマン』である。すでにいろんなメディアに大々的に露出しているので、多くの方もご存じだと思うが、新作には、前作『UMA』でみせた脱J-POPとでも言えるような展開はない。よりポップに、より開かれた音楽として昇華しようとする水曜日のカンパネラのスタンスがはっきりと明示されている。
 サウンドの面だけでない。ナンセンスな歌詞とそれを成立させてしまうコムアイのキャラクターもそうで、“一休さん”のラップには洗練されすぎないことの美学がある。“チンギス・ハン”における(ラム肉料理の)のバカバカしさにもその美学を感じる。
 また、ぼくはコムアイのラップには独特のグルーヴを感じるのだ。例えば、今作における私的ベスト・トラックであるフューチャー・ガラージ調の“オニャンコポン”での弾けるような「ポンポンポポンポン」の言い回し。クワイトのリズムを採り入れた“チャップリン”での後ろにモタるような言葉のはめ方など素晴らしいし、ほかにも随所においてコムアイのスキルが発揮されている。今作の聴きどころのひとつである。
 たまに思うのだが、コムアイが先述のイベントで「こっちのほうが本番でしょ!」と言い放ったことは、果たして本気だったのだろうか。メディアでエキセントリックなキャラクターを演じながら、ナンセンスなラップを繰り返し吐き続ける彼女を見ていると、あの夜に出会った彼女と同一人物だということをつい忘れてしまうときがある。しかし、コムアイは戦略的なナンセンスによって、声を勝ち取ろうとしているのだ。メディアでナンセンスな水カンを見て油断しているぼくらは、思いがけないタイミングで食らわされる政治的発言や行動にノックダウンされる。ナンセンスによってこの社会と繋がる。それが水曜日のカンパネラの戦い方なんですよ、小林さん。わかりましたかぁ?

菅澤捷太郎

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(野田努)

 ハローキティには口がない──と海外のある思想家は指摘する。J-POPエキゾティシズムは、洋学的な広がりからいえば明白に孤立しているが、向こうからみればこっちが孤立しているわけで、兎にも角にも今日の消費社会において、立派に、堂々と、それはひとつの棚を確保している。そんなJ-POPにおける日本のキュート・ポップ文化はいまや世界を一周して、たとえば鏡を見ればケロ・ケロ・ボニトがいる。この──おかしくてキュート、そして清楚な──ポップ文化に、ぼくはときとして笑い、と同時にどこか居心地の悪さも覚える。ハローキティには口がないことに。
 コムアイには口がある。ラップはうまければいいってもんじゃないことも、結果、あらためて証明した。まずは下北ジェットセットに感謝だ。このレコード店で「トライアスロン」の12インチが売られていなかったら、こうしてぼくがレヴューを書くこともなかったのだから。
 コムアイには何かがある。海外で面白がられているエキゾティックでキュートなJ-POPではない何か……、そこからむしろはみ出そうとする型破りな何か……、そのほとんどが旧来の女性像を壊せなかった90年代ディーヴァたちとは違った何か……、90年代的自由奔放さを打ち出したビョークともUAとも違った何か……、ザ・ブルシットの内省とは違った何か……。
 とは言うもの、今回の水曜日のカンパネラが選んだ綱渡りは、音の冒険ではない。言葉の深みでもなければ、もちろん時代や社会の語り部でもない。そうした深刻さ、意味から解放されることなのだろう。ぼくが「トライアスロン」EP収録の“ディアブロ”で大笑いしたのも、世界は重苦しく政治や社会はたいへんで、正直ナンセンスに飢えていたというのもあった。
 そして、だが、新作において水曜日のカンパネラが選んだ綱渡りは、ポップ・チャート・ミュージックとしてのそれだろう。自分たちのサウンドを微調整しながら曲調の幅を持たせてはいるが、本作を聴く限りでは、前作で関わったマシューデイヴィッドやオオルタイチといった連中から何かを吸収したとは思えない。カタチだけ取り入れても意味はないし、毒を抜いた洋楽になるくらいなら……賢明そうな彼らのことだ、そう考えたのかもしれない。
 多くの曲はせっかちなダンス・ミュージックで、その音色においてお茶の間との回路を保ち、基本メロディアスである。当たり前だがMC漢のようなドープネスはなく、背徳のクラブ・ダンスフロアとはまずつながらない。まあ、J-POP的リング上ではある……が……、コムアイはそのなかでもあらがい、どこか異彩を放っているのは事実で、そして彼らはいまもウェットさを拒んでzany(滑稽さ)とnonsense(無意味さ)を追求している。その方向性は、J-POP──拒絶も否定もない特異な文化空間として完結することを裏切らんとし、じつは他との接続を求めているがゆえにほころびを探し、もちろん日本のキュート・ポップ文化から切り離され、数年後のヴァラエティ番組のゲスト席ないしはハローキティと草間彌生の水玉との境界線がぼやけるところを尻目に、ひたすら突っ走っている……のだろう。が、どこに? レイヴ会場? いやまさか。

野田努

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(仙波希望)



 もはや「水カン」は社会現象と言っても過言ではない。「ねぇ、水曜日のカンパネラって知ってる?」「知ってる。『いま』流行ってるやつね、なんだっけ、きっびっだーんのやつ」「そうそう」みたいな学校や職場での会話は容易に想像できるし、コムアイは私立恵比寿中学とコラボレーションした『FNS歌謡祭』や『ミュージックステーション』などに登場。音楽番組のみならず、『めざましテレビ』や『スッキリ!!』といった朝の情報番組にも出演を果たした。「J-POPなき後のJ-POP」における、新たなるミューズと化したコムアイの姿は、フォトジェニックな存在として幾多もの雑誌の表紙を飾ることも納得できよう。

 と、このように書くといつの時代の話だ、と錯覚してしまうかもしれない。満を持して発表されたメジャーでのファースト・フル・アルバムとなる『SUPERMAN』。本作のリード・トラック“一休さん”の歌詞にある「レインボー・ブリッジ、封鎖できません」――すなわち『踊る大捜査線』がふたつ目の映画化をはたしてしまった頃、それはJ-POPマーケットがまさに「終わりの始まり」を迎えた時期にあたる。指摘されすぎた事柄でもあるが、一般社団法人日本レコード協会の定点観測によれば、「CDシングル・アルバム」市場はおおよそミレニアムを境目に縮小を続けている。ゴールデン・タイムを占めていた「ランキング型」の音楽番組の多くは、その後を追うかのごとくお茶の間から退出する。例を挙げれば、『THE夜もヒッパレ』が終わったのは2002年、『速報!歌の大辞テン』の終了は2005年。いみじくもその2005年に YouTube は設立される。

 周知の通り、これ以降「J-POP」をめぐる状況は大きく様変わりした。無論それは「J-POP」というカルチャー自体の終焉を示すものではない。

 時代錯誤な用語使用を許してもらえれば、水曜日のカンパネラはたしかに「メディア・ミックス」の寵児だ。だが、彼女たちが遂行してきた戦略自体はアップデートされた「いま」のものである。2012年のβ版の時期から積み重ねられた YouTube 上のオフィシャル・ミュージック・ビデオの数々は、徹底した作りこみ、それぞれが異なる独特な世界観、そして累積された結果としてのアーカイヴ性をもってして、もしかすると新手のマーケティングの教科書に成功事例として掲載されてもおかしくないほどの成功をおさめ(「きっびっだーん」の“桃太郎”は2017年3月現在で1,500万再生にも届こうとしている。およそ8年前、そういえば前作『UMA』に参加した Brandt Brauer Frick も“Bop”のMVが YouTube 上で大変話題になった、しかしこちらは90万回再生)、冒頭に記した「水曜日のカンパネラって知ってる?」という質問に万が一答えられなかった人のためには、Google の検索窓の先に、驚くほど膨大な数のインタヴューが用意されている。水曜日のカンパネラを知らないままではいることのできない状況が広がっている、というのは、やはり過言ではないだろう。

 この「ポストJ-POP」的状況のなかで、水曜日のカンパネラはきわめて戦略的な姿勢を崩さない。Perfume に続くかたちとなったSXSWやシンガポールのフェスへの参加など、グローバル展開への睨みを保ちつつ、他方で3月8日にはアンシャン・レジームの象徴とも言える日本武道館でのライヴを成功裡に導いた。かつてのサクセス・ロードをトレースしつつも、「これまでとは異なる」像を追求し続ける。堅実にも積み重ねられた差異を武器に、「水カン」というムーヴメントはひとつの到達点に近づきつつあるように見える。

 そして『SUPERMAN』は――繰り返しになるが――「満を持して」上梓された。“桃太郎”や“ディアブロ”で見られた過剰さは後退し、全編ケンモチヒデフミが手がけた曲たちは、これまでの水曜日のカンパネラの延長線上に位置する、ビート・ミュージックに目配せしたハウス・トラックとして並んでいる。確かに歌詞は旧来通り風変わりだが、かつてその中身を占めていた「サブカル」要素は影を潜めた。例えば“モスラ”はその名の通り過去の「モスラ」シリーズへの深すぎる言及、“桃太郎”ではレトロ・ゲームからの参照など、楽曲ごとに所定のテーマからの専門用語を偏執的なまでに歌詞へ詰め込むのが「水カン」の常套句となっていたが、本作では“アラジン”でマニアックなホームセンター用品/メーカーが登場するものの、全体としていままでの「サブカル」的ジャーゴンは後景に退いている。「サブカル」の一聖地である下北沢ヴィレッジ・ヴァンガードをホームとした「水カン」の姿はここにはない。そのプロジェクトの性質の色をリプレゼントするように、より「開かれた」かたちとしての「水カン」を聞くことができる。

 しかしこの「開かれた」かたちとは、また同時に「閉じた」ものでもある。いかなる意味か。先ほど登場した Perfume であれば、(パッパラー河合からバトンタッチした)「中田ヤスタカ」というプロデューサーを媒介に、「ポリリズム」発売時に席巻していたエレクトロ・ムーヴメント、もしくは CAPSULE などの別プロジェクトへと容易に遷移することが可能であった。しかし、「水カン」を聞いたうえで、ケンモチヒデフミを通して Nujabes へ、もしくは前作『UMA』に参加した Matthewdavid からLAビート・シーンへ、Brandt Brauer Frick から〈!K7 Records〉へ、Cobblestone Jazz へ、といった聴取姿勢は想定されていないだろう。全ての要素は、「水カン」というプロジェクト自体へと還流される。本作『SUPERMAN』では、コムアイ自身が同作のインタヴューで繰り返す「スーパーマンが不在の現代日本」というイメージのもと、選定された古今東西の「スーパーマン」でさえ、周知の「水カン」色を触媒に、またプロジェクトの内側へと取り込まれている。端的に言えば、水曜日のカンパネラは、音楽的係留点としての機能を追い求めてはいない。

 ここで冒頭の描写に戻りたい。「水カン」はひとつの社会現象であり、コミュニケーションの中継地点であり、メディア環境に点在する存在となりつつある。誰にでも開かれた存在として/それだけで完結した存在として。何かしらのシーンから生み出された存在でなくとも、それ自体がひとつのムーヴメントとして。水曜日のカンパネラはだから、「ポストJ-POP」的時代の最中、また異なる解答を生み出そうとするプロジェクトである。メディアの寵児な「だけ」ではなく、奇抜さや楽曲の本格さ「のみ」を、もしくはコムアイの可憐さ「ばかり」を売りにするものではなく、その道途の先を見据える「異種混肴(heterogeneity)」的な姿勢そのものこそが、「ポストJ-POP」的なるものを内包している。

仙波希望

ハリウッドの地獄から西ドイツ・ベルリンへ、
多くの謎に包まれた1975年から1978年までのデヴィッド・ボウイを追う。
ベルリン3部作の背後に横たわる物語がいま明かされる──

デヴィッド・ボウイが、2016年1月10日、自らの死を想定して作られた新作『ブラックスター』をリリースした2日後に他界し、世界中に衝撃を与えたことは記憶に新しい。

長いキャリアのなかで多くの名作を残しているデヴィッド・ボウイだが、70年代のなかばアメリカに渡り、そして強度のコカイン中毒のなかで衰弱しながら、そしてベルリンへと移住して生まれることになる、通称「ベルリン3部作」──『ロウ』、『ヒーローズ』、『ロジャー』──は、ボウイのキャリアのなかのもうひとつのクライマックスとして知られる。

本書は、そのベルリン時代にスポットを当てた評伝である。じつに深い内容の、ファン待望の1冊と言える。


目次

   INTRODUCTION

 1 地獄から来た男
   THE MAN WHO CAME IN FROM HELL
 2 ボウイ教授のキャビネット
   THE CABINET OF PROFESSOR BOWIE
 3 『ロウ』、あるいはスーパースターの医療記録
   LOW, OR A SUPERSTAR’S MEDICAL RECORDS
 4 新しい街、新しい職
   NEW CAREER, NEW TOWN
 5 崖っぷちのパーティ
   THE PARTY ON THE BRINK
 6 デヴィッド・ボウイを見たかい?
   DID YOU SEE DAVID BOWIE?
 7 ヒーローズ
   HEROES
 8 さらばベルリン
   GOODBYE TO BERLIN

結び 彼は今どこに?
   CODA: WHERE IS HE NOW?


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