「You me」と一致するもの

New Sounds of Tokyo - ele-king

 ラウドで、ダーーーークで、挑発的。鋭く尖った音は未来に突き刺さる。覚悟しとけよ。
 愛情の問題もある。黎明期のテクノがいまだ特別な美をほこるのも、その純粋さと関係なくはないだろう。このレポートのモチベーションのひとつもそこにある。
もうひとつ、ここ10年ほどの欧米のエレクトロニック・ミュージック……たとえばUK(インスト)グライム、ダーク・アンビエントやインダストリアル、まあなんでもいいのだが……こうした比較的新しい、若い世代が主導した、刺々しい海外の動向とリンクする音源を探したくなった。 
 2008年~2009年あたりに欧米の四方八方で発展した「新しい」流れも、気が付けば、行くところまで行っている。サウンドトラックがカンヌで賞を取ったOPN、ケンドリック・ラマーとツアー予定のジェイムス・ブレイク、世界各国のフェスを飛び回るザ・xx、アナログ盤化される昔のヴェイパーウェイヴ、歌モノをやるアルカやローレル・ヘイロー、ストーンズ・スロウから新作を出したウォッシュト・アウト……などなど……などなどに象徴されるように。はじまったと思っていたら、おー、もうこんなになっている。じゃ、日本は?
 今日もまたひどい日だった。新しい景色に飢えていた。ぼくは、いま東京でもっとも尖っている音楽を作っている、若い人間の話を無性に聞いてみたくなった。

■「覚悟しとけよ」──Double Clapperz


ShintaとUKDによるDouble Clapperz。

俺はすげーカッコいいことやってるつもりなんだけど、なかなか理解されなかったり、ブッキングされなかったり、ムカつくからタイトルはこれでいいやって。

 彼らは若い。速いし、突風だ。ダブル・クラッパーズ(略称:ダブクラ)は、すでに名前が知られている。どこまでかって? ロンドンにまで。
いまの彼らの音楽は、現代のもっともエネルギッシュな英国ブラック・ミュージック=グライムに、すさまじく強い影響を受けている。
さて、DJのSintaとトラックメイカーのUKDが出会ったのは2012年。「最初にクラブで会ったとき、ようやく音楽の話が合うヤツがいたと思ったんですよ」とUKD。「グライムの話もしたけど、それだけじゃなかったよね。トラップとか……」とSinta。
 UKDにとって最初の影響はDex Pistolsだった。Bボーイ風なUKDは柔らかい声で話す。「18歳のときにDexのミックスCDを聴いて、それでメジャー・レイザーを知って、ディプロ知って、レゲエやダンスホールを聴くようになった」
 続いて、C.E.のTシャツを着た長身のSinta。StormzyやNovelist、Skeptaについて日本でもっとも熱く語れるライターとしても活躍している米澤慎太朗が言う。「俺は日本語ラップ。高校時代は日本語ラップおたくみたいな感じで、そこからR&Bっぽいところとダンスっぽいところがあったんで2ステップ・ガラージが好きになって。そのあとにガラージ。まだグライムもガラージも明確な違いがなかったような時代でしたね」
「グライムのことも最初は、新しいダンスホールと思って聴いましたから」とUKD。「そこは大事っぽい話ですね」とすかさずSintaが言うとUKDが相づちを打つ。「グライムって、ダンスホール・レゲエの一種かなと」。ふたたび間髪おかずにSinta。「つまりグライムをグライムとしてガッツリ入っていったわけじゃないというか、流れというか。レゲエのMCとか、好きなポイントがあったんだよね」。「あったね。早口のパトワが好きだった」とUKD。「Riko Danとか、あとはPay As You GoとかあのへんのサウンドとMCが好きだよね。レゲエ、ジャマイカンのノリがずっと好きだよね。でもどう考えてもいろんな意味でスケプタはデカいんじゃない? ファッションと音楽を結びつけたのもスケプタだし、UKDはファッションも音楽も好きだし、そういうのもあるとは思うけど。最初のきっかけは音楽がカッコいいし、見た目もカッコいいしってところだよね」とSintaがまとめる。
 ふたりの音楽制作は、「WarDub」が契機になっている。

Shinta:ワーダブっていうオンラインでやっていたグライムのコンペというか、MCたちがバトルで相手を口撃するように、DJたちもDJ同士で相手を攻撃しあう企画があったんですよ。

UKD:曲を送りあうんですよね。Twitterで@マークをつけて送るんですけど」

Shinta:けっこう毎年やっているっすけど、すごかったのは2013年ですね。グライムがまたおもしろくなってきたというのもそのへんからで、そこでいま活躍しているアーティストがほぼ全員参加しているんですよね……まあ、曲を作ってSound Cloudに出しただけなんですけど。そんなことしてもまず話題にもならないんですけど、マーロ(Murlo)っていうプロデューサーがいて、ロンドンのリンスFMで番組をやっているんですけど、その人が〈Butterz〉のショウに(ダブル・クラッパーズの)曲を送ったんですよ。Twitterで「曲をくれ」っていう@マークが来たんで送ったら、それをリンスFMでかけてくれたんですよ。そこからSoundcloudにDMがガーッと来たりしましたね」

このリアクションが、「日本でもやるけどUKとかを通じて世界中のリスナーにも届けたいという活動スタイルの原点」となった。で、その曲こそが、後にダブル・クラッパーズの最初のEPになる「Say Your Prayers」のオリジナル。

UKD:「Say Your Prayers」とは「覚悟はいいか」っていう意味ですね。

シンタ:「覚悟しとけ」みたいな(笑)。「お前の祈っている奴に言っとけ」って意味。しかも当時はジャージー・クラブとかの影響もめっちゃあったよね。聴いてもらったらわかるっすけど、グライムだけじゃないんですよ。

 この話は、ゴス・トラッドがUKで受け入れられた話を彷彿させる。たまたま自分が好きなことをやったらダブステップのシーンで受けたように、ダブル・クラッパーズもダンスホールやジャジー・クラブ、ボルチモアを自分たちなりに咀嚼したらそれがグライムのシーンで受けたというわけだ。
 ゴス・トラッドがディストピアを表現していたとしたら、ダブル・クラッパーズはより直球にダンスフロアに突き刺さるサウンドを目指している。“Say Your Prayers”の新ヴァージョンを収録した2016年に自主で制作した12インチには、なかばブートのような作りで、そのB面にはUKのグライム集団、Ruff Sqwadの曲のリメイクが収録されているが、すでにSintaはロンドンのギグに呼ばれているし、スケプタとも共演している。今年初頭には、ディジー・ラスカル以来の天才と言われる若きMC、カニエ・ウエストもお気に入りのノヴェリストを日本に招聘している。

 しかしながら、グライムとはUKならではの、ローカル色がもっとも強いスタイルだ。ぼくが今回もっとも聴きたかったのは、彼らが〈東京のサウンド〉をどう思っているのかということだ。「俺はその答えを持っているけど」とSintaが言う。「それは……俺たちがこれから作るモノ」
 こうした彼らの強気な姿勢、若さゆえの良き暴走は10月にリリース予定のセカンド・シングル「Get Mad」に集約されている。印象的なメロディとハードなドラミングで、人を駆り立てるような迫力満点のこの曲は、ある程度名前が浸透してからのダブル・クラッパーズの最初のシングルになる。 

「UKDが最初に出してきた曲が“Get Mad”って名前なんですけど、だからそもそもなにかしらブチ切れているんですよね(笑)」とSintaがが曲名について説明する。「Madというのはふたつの意味があるというか、『この曲はMadだね』と言ったら『ヤバい!』という意味だけど、“Get Mad」”と言ったら『キレる』って意味もあるじゃないですか。しかし……なんでそんなタイトルつけたんだろうって思うけどね」
「僕はけっこう承認欲求とかが強くて」とUKDが答える。その場は笑いに包まれたが、彼は冷静に話しを続けた。「俺はすげーカッコいいことやってるつもりなんだけど、なかなか理解されなかったり、ブッキングされなかったり、全然注目されないというのが、(だんだん認められて)自信がついてくると『なんでだろう?』って。けっこう頑張ってるのになと思って、あの曲を作ったんですよ。ムカつくからタイトルはこれでいいやって」
「というかまずあのヴァイオリンのリフが出来ていて、その時点でこれは狂気だなと思って(笑)。BoylanっていうUKのプロデューサーを起用したんですけど、そのときヴァイオリンのリフが超マッドだから使おうってことになって……」

 彼らの音楽に直結する強い気持ちは、彼らが所属する世代、20代半ばという若さと結びついている。たしかに90年代の東京には、20代が安く借りられてパーティできる場所がまだあった。新しいことをやる実験の場と週末の夜の娯楽の場とのバランスが取りやすかった。
 もちろん500人以上の集客を義務づけられているような商業クラブがあることが必ずしも悪いことではない。が、そればかりというのはまずい。自分がいま20代だったら、自分がかつて20代のときだったように、毎週末をクラブで過ごしたいと思っただろうか。
「だからぼくらが変えていくしかない」とSintaが言う。彼らは去る8月の半ばに「Get Mad」のリリース・パーティを終わらせたばかりだ。「ぼくらのリリース・パーティに集まっている子ってそういう(クラブで盛り上がった世代の下の下の)世代だし、遠慮なく楽しめるし。お金を持っていないと楽しめないみたいなパーティばっかりになっているから、ぼくらのリリース・パーティはエントランス・フリーでやった。そうしたら平日の夜なのに40人ぐらい集まって、20枚ぐらいのTシャツが売れた(笑)」
 実際のリリースまでまだ3ヶ月もあるのに、リリース・パーティをやるには早するだろう(※この取材は8月末)。「いや、それがいいんですよ」と彼らは不敵な笑いを見せる。最後にぼくは彼らの当面の目標を訊いてみた。「とくにああいう風になりたいというのはないんですけど……」こう前置きしたうえでUKDが力強く答える。「ゴス・トラッドさんの次に続くのは俺らでありたいと思いますね」
ダブル・クラッパーズの時代が近づいていると思うのはぼくだけじゃないだろう。

※出演情報
10/27 (金) 23:00- @Circus Tokyo dBridge & Kabuki pres. New Form
https://circus-tokyo.jp/event/dbridge-kabuki-pres-new-forms-tokyo/
11/3 (金) 23:00- @恵比寿Batica
Newsstand 2nd Anniversary


ようやくリリースされた待望の2nd EP「GET MAD」。
取扱店はDisc Shop Zero,Dubstore 、Naminohana Records、Disk Union Jet Set。Bandcamp : https://doubleclapperz.bandcamp.com/

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■ダブの新解釈──Mars89 

新しい動きとして面白いと思うのは、食品まつりさん。DJでは、セーラーかんな子ちゃんがおもしろいですね。彼女のDJは、毎回そう来るかという驚きがあって。DJとしてすごくユニークですね。

 パッションの塊のようなダブル・クラッパーズに対し、飄々としているのがMars89。彼は台湾で買ったという台湾語がデザインされた鮮やかなオレンジ色のTシャツを着て自転車に乗って現れた。待ち合わせ場所は都内の図書館の入口。ぼくは彼の顔を(そして電話番号も)知らない。しかし、彼が現れた瞬間に彼だとわかった。
 下北のレコード店、ZEROのカウンターに「Lucid Dream EP 」は売っていた。このカセットテープがMars89にとって2作目らしい。
 ちなみにブリストルのレーベル〈Bokeh Versions〉は、最近は、EquiknoxxのTime CowとLow Jackによる「Glacial Dancehall 2」、70年代末から80年代にかけて活躍したUKのレゲエ・バンド、 Traditionによる『Captain Ganja And The Space Patrol』のリイシュー盤を出している。
 Mars89の音楽もドープな残響音が拡がるダブだ。ヤング・エコー的な折衷を感じる。
「影響を受けているというか、毎回新鮮なインスピレーションをもらうのはOn-U Soundsとかですね」、彼はオールドスクーラーの名前を挙る。「アフリカン・ヘッドチャージは大好きだし、(トレヴァー・ジャクソンが監修した)『Science Fiction Dancehall Classics』というコンピレーションも好きですね。レゲエは好きだけど、実験的なダブが好きなわけで、ブリストル・サウンドも好きですけど、そんなに意識しているわけじゃない」

 Mars89がDJをはじめたきっかけは、兵庫県にいたときの「最初に遊びにいったパーティでやってたDJがめちゃくちゃヘタクソで。これでステージ立ってるんだったら自分がやったほうがいい」と思ったからだった。18か19で、エレクトロのパーティだった。いざやってみると自分よりもうまいDJが多いことに気が付いて、それならまだ誰も知らないような音楽をかけようとUKのアンダーグラウンド・ミュージックに手を出すようになった。
 ただし、「クラブ・ミュージックにいく前は、クラウトロックやポストパンク、ノイズ/インダストリアル、民族音楽系のエスノサイケとか、そういうのを聴いていた」。こうした感覚が、2010年代の〈L.I.E.S〉やLivity Sound、あるいはアイク・ヤードなどとリンクしたのだろう。

 彼と話しているとじつにたくさんのアーティスト名やジャンル名が出てくる。わずか10分も話せば、彼がどうしようもないほど音楽にどっぷりつかった人間であることがわかる。しかし、「境界線はない」とMars89は言う。「雑食的なんですよ。和ものも聴きますよ。浅川マキも好きだし、グループ・サウンズとかも好きだったんで、ブルー・コメッツとか聴いてましたね。ドラムとかがすごくファンキーなのがよくて。テクノ・ポップ系というか、YMOの派生系のものも好きですね」
 ポップという言葉ほど彼の作品から遠く感じられるのは事実だが……

 「僕の作品は、DJとしても使いにくいし、リスニングとしても多くの人に向いているわけではないと思うんですけど」と彼も認める。「ただ、メディテーションになるかもしれないですね(笑)」
 Mars89が曲を作りはじめたのは2年前だった。「本当に軽いノリだったんですけど、知り合いが新宿のDuusraaでビート・バトルみたいなイベントをやっていて、優勝したらヴァイナルを100枚刷れたんですね。それに参加してみなよと言われて、ノリで参加してみて初めて曲を作りましたね」
 彼はその後自主でカセットテープ作品をリリースして、〈Diskotopia〉のパーティで知り合ったAquadab & MC Aに渡したカセットが〈Bokeh Versions〉の手に渡り、気に入られて、今回のリリースとなった。幻想的なアートワークは画家をやっている彼の弟によるもの。

 Mars89にとっての音楽は、すなわちレベル・ミュージックである。踊って自由になることが重要、それがメッセージになればいいと彼は言う。
 音楽以外では映画からの影響が大きい。「曲を作るときにストーリーを与えないと曲が作れなくて。それこそ映画のサントラとかああいう感じのイメージじゃないと作れないんですよね。そのときに夢なのか現実なのかわからないような世界とか、知らない街にいるような感じをイメージしていて。夢のなかでいま夢だとわかっている状態とかそういう世界をイメージしていましたね」

 彼にも訊いてみよう。東京のサウンドってあると思う?
 彼は答える。「いまはなくて、これからできてくるかなと思いますね」
 この答えは、ダブル・クラッパーズのShintaと同じ。Mars89はさらに具体名を挙げて説明する。「新しい動きとして面白いと思うのは、食品まつりさんですかね」
日本からシカゴのフットワークへの回答のように捉えられた食品まつりだが、圧倒的なオリジナリティでいまや国際舞台でもっとも評価されているプロデューサーのひとり。
 Mar89は続ける。「DJでは、セーラーかんな子ちゃんがおもしろいですね。彼女のDJは、毎回そう来るかという驚きがあって。DJとしてすごくユニークですね。ほかにDJでは、年上ですけど、100madoさんも好きです」
 若い世代に絞って言うと、他に彼は〈CONDOMINIMUM〉も面白いと言う。「なかでも名古屋の人なんですけど、CVNって人の音が好きですね。アジアだったらTzusing(ツーシン)っていう上海のテクノの人ももしかしたら歳が近いかもしれない。〈L.I.E.S〉からよく出している人で、すごくアジア的なサウンドをうまく使いながらカッコいい曲を作っていて。BPM90~130くらいまでいろんな曲を作っていてカッコいいですよ」

 かつてはほとんど客がいないForestlimitで、1 Drinkと数時間ぶっ通しのバック2バックをやった経験もあるMars89は、「DJをやるといつも最年少だった」というが、最近はようやくダブル・クラッパーズのような彼より年下が出てきた。「ずっと自分が一番下だったというのもありましたし、年は気にしなかったんですけど、最近は少し意識するようになりましたね」

  Mars89は現在、UKDやKNK WALKSらといっしょに渋谷のRubby Roomで定期的にパーティをやっている。
「トライバル・ミュージックとか民族音楽的なものを含んだダンス・ミュージックをやっているパーティがあったら面白いんじゃないかと思ってはじめましたね。ダンスホール系とか、アフロ系の音ですね。クンビアとか、南米のローカル・ダンス・ミュージック的なものを取り入れて、それをUKやUSのダンス・ミュージックと同列で扱うようなパーティがやりたかったんですよね。アフロのパーカッションを聴くと絶対だれでも踊りたくなるし。そのへんで飲んでいる人がフラッと入ってきたりすることも多いですよ」

  渋谷の道玄坂の脇道からダンスホールが聴こえたら、冒険心を出して入ってみよう。東京の未来が鳴っている。

※出演情報
毎月第一水曜日 Noods Radio ( https://www.noodsradio.com/ )
毎月第二木曜日 Radar Radio ( https://www.radarradio.com/ )

酎酎列車 vol.7 @galaxy銀河系
11.25(sat)17:00~23:00
door/2000(+1D)
LIL MOFO
Mars89
speedy lee genesis
荒井優作

セーラーかんな子
テクノウルフ+テンテンコ

ブリストルのレーベルから出た、Mars89「Lucid Dream EP」。

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■クソヤバいものをブチ聴かす──Modern Effect

後ろ向きなModern Effectのふたり。

言葉の入っている音楽をあんまり聴きたくないというのがいまは強くなってきている。

 今回のレポートで紹介するなかで、あらゆる集団からもっとも孤絶しているのが、目黒/世田谷の外れで日夜音に埋没しているModern EffectのBack Fire CaffeとDocumentary aka Smoke Fable。ドレクシアの“リヴィング・オン・ジ”がお似合いの、ふたりである。
 なにしろ彼らときたら16ヶ月間ただひたすら作り続け、アルバム16枚分の曲が貯まったものの、自分たちの音源をどう発表すればいいのかわかっていなかった。

「ただひたすら作ってましたね」とBack Fire Caffe。彼は声が大きい。その人柄は、表面上では、作品のダークさの真逆と言えそうだ。「歩いているときもiPhoneでフィールド・レコーディングして、それを家に帰ってからピッチを変えたりして曲にしちゃおうとか」
「それは1日のサイクルですよね」とDocumentaryが静かに付け足す。「仕事が終わって空いた時間はできるだけこっちに来てもらって。作る以外でも映画を見るでも美術館に行くでも」

 ふたたびBack Fire Caffeがしゃべり出す。「全部音を作るために生活しているという感覚になっていちゃったよね!」
  彼の声は、取材に使った喫茶店の全席に響き渡ったことだろう。「もうひとりルームシェアしているやつがいて、そいつと作っていて。自分も初めはiPadのアプリで作りはじめて、そこから突拍子もないものができたんですけど。それがとにかく攻撃的だったんで“アタック”っていうジャンルをつけたんですね。その“アタック”っていうジャンルでやろうよ、というところからはじまりましたね」
 こういうベッドルーム・テクノ話が、お茶の時間を楽しんでいるご婦人たちやカップルたちの耳に入ってしまうのが、公共的喫茶店の面白さだ。

 それはさておき、こう見えても、Modern Effectには閉塞的な傾向がある。SNSの類はいっさいやらないというModern Effectの音楽をぼくが聴けたのは、ある偶然からぼくの手元に届いた、ヤバいものでも入っているんじゃないかというそのパッケージにそそのかされたらであるが、聴いて最初に感じたのは、何もかもを拒絶している感覚だ。誰も信用しない、絶対に希望はない、清々しいまでのネガティヴィティ……見せかけの繋がりは要らないと。ふたりにはクラブやレイヴで遊んでいた過去を持っているが、それがつまらないと感じたからこそ彼らはそれらの場から離れ、そして孤絶した現在を選んだ。

 ここで彼らに影響を与えたと思わしき音楽/好きな音楽をいくつか列挙してみよう。D/P/I(彼らにとっての大きな影響)、OPN(ただし『Replica』以前、ぎりぎり許せるのは『R Plus Seven』まで)、ARCA(とくに『ミュータント』)、Emptyset(音源を送ったら返事をもらった)、デムダイク・ステア、ティム・ヘッカー、〈Triangle Recordings〉や〈Subtext Recordings〉から出ている音源……彼らは最近のベリアルも気に入っている。
 彼らが目指すのは「クソヤバいものをブチ聴かす」こと。Back Fire Caffeが静かに言う。「クソヤバいものをブチ聴かすというのと、無国籍なものを考えていきたいと思っていますね」

 それぞれ別の飲食店で働きながら生活費を得ているふたりだが、在日インド人の下でハードに働くDocumentaryは、その環境を楽しんでいる。日本のなかの日本らしくない場所が彼らには居心地がいいのだ。
 Documentaryが続ける。「言葉の入っている音楽をあんまり聴きたくないというのがいまは強くなってきている。言葉の意味が出てくると音を純粋に追えないというか。もともとは歌や言葉が入っているものが好きだったんですけどね」

  現在のModern Effectは、自分たちの音楽をどのように届けるのかを模索中だ。初期ヴェイパーウェイヴのように、彼らにはまだ、自分たちの作品を売る気がない。値段付けられずに悩んでいるのだ。たしかなのは、作り続けること。HDの容量の限界まで。
 こうした悶々とした現状を変えようと、最近彼らは自分たちのホームページを立ち上げた(https://www.moderneffect.net/)。ここで彼らの音源は聴けるし、bandcanpでも彼らの音源は無料で聴ける(https://moderneffect.bandcamp.com/)。これらの作品のいくつかはUSBにコピーされて、ビニールにパックされるわけだが、リスナーがそれを購入できる機会がこの先どのような形で実現されるのかは神のみぞ知るだ。
 これからどうなるのか予測のできないModern Effectだが、彼らは音楽を作る上でもっとも重要なことを知っている。好きだからやる。たとえダンスフロアから人が逃げだそうと、彼らにとって最高の音が鳴っていればいいのだ。

※今後の予定
1年で365作品アップ(予定だそうです)

彼らのUSB作品の数々。この怪しげなデザインに注目。

(※この取材は8月下旬にほぼおこなっています。筆者の怠惰さゆえに掲載が遅れたことを、協力してくれた3組のアーティストにお詫びします)
(※※もちろん、今回取り上げた3組以外にもいるでしょう。いまいちばん尖っている音を出している人〈DJ以外〉をご存じの方は、ぜひぜひ編集部にご一報をー)

Moses Sumney - ele-king

 ある日、ジャスティス“Pleasure”のMVを観た。ダフト・パンクのヘルメットをデザインしたことでも知られるアレキサンドラ・コルテスによって制作されたそれは、“愛”という言語化が困難な感情をロマンティックに描いてる。互いを求めあい、気づかい、触れあうことを繰りかえすなかで愛情が最高値まで達し、最終的にはビッグバンが起こり新たな命を生みだす。言葉にするとなんて大仰なと我ながら思ってしまうが、そういうストーリーなのだからしょうがない。

 次に観たのは、カリフォルニア生まれのシンガー・ソングライター、モーゼス・サムニーによる“Lonely World”のMV。このMVは、サムニー自ら演じる男がとある惑星で人魚に出逢うところから始まる。最初は愛しあう素振りを見せる男と人魚だが、それは徐々に揉みあいへと変化し、最終的に2人は海の中に消えていくというのがおおまかなストーリーだ。筆者からするとそれは、愛が憎しみに変わっていく様を表現しているように感じられ、“Pleasure”のMVとは違う視点から“愛”を描いた作品に見えた。
 同時に思ったのは、ここ1~2年で“愛”、あるいはそれを育むための相互理解がテーマの表現が増えてきたことだった。たとえばフェニックスは、アルバム・タイトルで『Ti Amo(イタリア語で“愛してる”を意味する)』という言葉を掲げ、黒沢清監督は映画『散歩する侵略者』で愛が未来を変える可能性を示した。どうしてこのような表現が増えたのか?と考えると、反移民などを筆頭とした排斥的価値観が世界中で台頭している影響というありきたりな結論に至ってしまうが、アメリカではドナルド・トランプが大統領に選ばれ、オーストリアでは反難民を打ち出した中道右派の自由党が第1党になってしまった。こうした現実は、愛することや相互理解の意味を掘りさげた表現が増える理由としては十分すぎるだろう。

 なんてことが頭に過ぎったあと、サムニーのデビュー・アルバム『Aromanticism』を聴いてみた。ネットにアップしたジェイムス・ブレイク“Lindisfarne”のカヴァーがキッカケで知名度を高め、そのジェイムス・ブレイクやスフィアン・スティーヴンスのアメリカ・ツアーでオープニングを務めた男のアルバムだから、とても楽しみにしていた。
 端的に言うと、瞬く間に惹かれた。従来のフォークにくわえ、ソウル、R&B、ジャズ、ヒップホップといった要素がより濃くなったサウンドをバックに、中性的かつ甘美な歌声をサムニーが響かせる。2014年に発表したフリーEP「Mid-City Island」でも、ブラック・ミュージックに根ざした折衷的サウンドは見られたが、それが見事に深化していた。このことに驚いてクレジットを見ると、サンダーキャットやラシャーン・カーターといったジャズ界隈の注目株、さらにはミゲル・アトウッド・ファーガソンやキングのパリス・ストローザーというR&B/ソウル界隈のアーティストが名を連ねていた。これだけの手練れを従えていれば、そりゃあ深化するはずだと合点がいった。
 その深化をもっとも明確に示すのが、4曲目の“Quarrel”だ。サムニーの艶やかな歌声で幕を開けるこの曲は、ハープやアコースティック・ギターの静謐な音色を前面に出しているが、4:20あたりでジャマイア・ウィリアムスによるドラミングが突如始まり、スリリングな展開になる。このような挑戦的アレンジができるのも、着実に経験を重ねてきたサムニーの技量と、その技量に応えられるゲスト陣あってこそ。

 そうしたサウンドに乗せて紡がれる歌詞も面白い。“Don't Bother Calling”など、他者への目線を描いた歌もあるが、他者と交わることは決してないのだ。全編にわたって、愛することや他者と交わることの大切さは身に沁みてるのに、それをすることの難しさが横たわっている。そこに見いだせるのは、愛を知ること以上に、知ったうえで誰かにあたえることはとても難しいという事実。このような複雑さをサムニーは真摯に見つめている。
 とはいえ、そこから重苦しい雰囲気は伝わってこない。フェニックスのように前向きな気持ちで“Ti Amo(愛してる)”と叫ぶ姿はないが、複雑さを見つめることから始めるという意味では確かな一歩だからだ。そしてこの一歩は、サムニーと同じように愛することの難しさを考える人たちに寄りそう暖かみで満ちている。

 そんな本作は、“愛”を扱ってるという意味では立派なラヴ・ソング集とも言える。愛しあう喜びを歌ったものだけがラヴ・ソングではないのだ。

Mount Kimbie × Kelly Lee Owens - ele-king

 ほらね。彼らがアルバムだけで終わるはずがないと思っていたんだ。そしたらやっぱり来ました。マウント・キンビー最新作『Love What Survives』収録の“You Look Certain (I'm Not So Sure)”を、なんとケリー・リー・オーウェンスがリミックスしています。マウント・キンビーのふたりは今回のアルバムを制作する前にかなりの量の音楽を聴き込んでいたようだけれど、その新作収録曲のリミキサーに、今年出たデビュー・アルバム『Kelly Lee Owens』で高い評価を得た彼女を起用するあたり、かれらの音楽に対する探究心はいまだ衰えていないようである(ケリー・リー・オーウェンスは、これから始まるマウント・キンビーの欧州ツアーのサポート・アクトにも抜擢されている)。要チェック。

label: WARP RECORDS
artist: Mount Kimbie
title: You Look Certain (I'm Not So Sure)

iTunes: https://apple.co/2l7iEdd
Apple Music: https://apple.co/2z0nyyS
Spotify: https://spoti.fi/2xYKK02

label: BEAT RECORDS / WARP RECORDS
artist: Mount Kimbie
title: Love What Survives

release date: 2017/09/08 ON SALE
BRC-553 ¥2,200(+税)
国内盤特典:ボーナストラック追加収録/解説・歌詞対訳付き

beatkart: https://shop.beatink.com/shopdetail/000000002180
amazon: https://amzn.asia/hYzlx5f
iTunes Store: https://apple.co/2uiusNi
Apple Music: https://apple.co/2t3YEeV
Spotify: https://spoti.fi/2uiwx

アルバム詳細はこちら:
https://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/Mount-Kimbie/BRC-553

- ele-king

 いきなり音楽がハード・ミニマルで始まる。映し出されているのは自然の景色。完全にミスマッチを狙ったものだろう。
 大森立嗣監督の新作『光』は音楽をジェフ・ミルズが手掛けている。数年前、ジェフの音楽は断片的でも効果的だし映画音楽に向いているんじゃないかと言ったら、「場面に合わせて音楽をつくるのは好きじゃないから、映画音楽はやらない」と言ってたのに、全編これ、ジェフ・ミルズである。ジェフ・ミルズがルーブル美術館のキュレーターを勤めていた際に大使館で大駱駝艦を紹介されたことから、その主催者である麿赤兒の長男・大森立嗣とはいつか手を組むラインが引かれていたのだろう。自分には理解できないものだから使ってみたと監督自身は話し、実際に作品を観てみるとかなり実験精神を賭けたものだということは伝わってくる。

 邦画でテクノだけが流れるというのは思ったよりも妙な体験で、大雑把にいうと、音楽の役割として邦画は叙情性、洋画は叙事性が勝ると思っていたその通り、ジェフ・ミルズの曲は誰の内面に立つこともなく、登場人物の外側でしか鳴らないことがまずは異様な雰囲気をもたらした。音楽が叙事性に徹するというスタイルは洋画では慣れているはずなのに、邦画ではやはり体に馴染みが薄く(武満徹の記憶などはとうに失われている)、近年の邦画がいかに人の心を表す上で音楽を説明的に使っているかを思い知らされたともいえる。
 ただし、「音楽がジェフ・ミルズ」という先行情報が耳に入っているということは映画を観ている上で音楽だけを過剰に意識させてしまうところがあり、僕の中ではオープニングからしばらくはひとつの作品として一体化してくれなかった。大森監督は『まほろ駅前』の2作目もそうだったけれど、僕には1カットがやや長く感じられるところがあるので、なかなかストーリーに引き込まれず、余計に映像と音楽が分離してしまう傾向にあった。音楽が流れてから、ああ、そうか、ジェフ・ミルズだったと思い出すようになるのは中盤に入ってから。「家族」ということが意識されるシークエンスで3フェイズ“ダー・クラン・ダー・ファミリエ(der klang der familie)”をアレンジしたような曲が流れたりするのはさすがでしたけれど。テクノのことはよく知らないという人には、むしろどんな体験になるのか知りたい気も。

 物語は離島の学校から始まり、黒川信之と篠浦未喜(ともに14歳)は恋仲であるかのように示唆される。10歳の黒川輔(たすく)はいつも信之につきまとい、信之が灯台にコンドームを買いに行く時もしつこく付いてくる(コンドームを売ってくれる灯台守の役はなんと足立正生)。信之が未喜にデートをドタキャンされて山をぶらついていると、未喜が宿泊所の客とセックスをしているところに出くわしてしまう。未喜の「助けて」というひと言を聞いた信之は躊躇の末、レイプではないと弁明する男を殺し、輔は男の死体を写真に撮る。その後、島は地震に襲われ、ほとんどの島民は津波に呑み込まれてしまう。誰もがここで東日本大震災のことを思い浮かべるだろう。島の名前も美浜島と名付けられているので、余計にそのことは考えたくなる。そして、25年後。
 井浦新演じる黒川信之は市役所に勤め、妻と娘がいる。鬱屈として閉塞感に満ちた団地からすぐにも引っ越したがっている妻は真面目に話を聞いてくれない信之に腹を立て、浮気をしている。そして、瑛太演じる浮気相手が溶接工場で働いていると、同僚に「客」が来ていると紙を見せられ、表に出てみるとそこには黒川信之が立っていた。浮気相手の労働者は輔で、「島を出て以来だな」と再会を喜ぶ間もなく、輔は金目当てで信之の妻を誘惑していたことが暴露される。妻が浮気していることを同僚にバラされたら困るだろうと輔は脅迫するものの、金だったら直接、妻に言えと信之はその場をさっさと立ち去ってしまう。

 大森立嗣の作品はこれまでふたりの男を中心にすえた「ブロマンス」が多かった。むしろ、ほとんどがそれだった。『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(10)では体目当てで接触したはずのカヨちゃんを男ふたりが高速道路のサービスエリアに置き去りにして爆笑し、ヒット作となった『まほろ駅前』シリーズ(11・14)でも探偵ふたりは仲がよく、元妻はやっかいな存在、『セトウツミ』(16)では男子高校生ふたりが土手で最初から最後までダベっているだけである。この世界に男がふたりいるだけで、どれだけ幸せかと訴え続けてきた監督なのである。大森立嗣とは。それが『光』では少し様相が異なってくる。25年ぶりに再会した信之と輔は島で育った頃の関係性を喪失し、いわゆる険悪なムードで話は進んでいく。これに名優・平田満演じる輔の父が絡んでくることで映画全体のムードはどんどん絶望的なものになり、長谷川京子演じる篠浦未喜がいまは芸能界で活躍する売れっ子だということがわかってくるあたりから、しばらくすると男ふたりではなく、ついに男と女の恋愛に大森監督は乗り換えたのかというストーリー展開になっていく。意外な男女の組み合わせを題材にした『さよなら渓谷』(13)ですでに乗り換えていたのかもしれないけれど。(ここからは完全にネタバレです。公開が楽しみな人は読まないように)。しかし、信之と輔の関係は後半に入っていくと、これまでになく複雑で凝ったものだということがわかってくる。思い出したくない過去を共有しているという意味で『まほろ駅前』の「啓介と春彦」にも多少の屈託はあったけれど、「ケンタとジュン」や「想と小吉」に比べて、「信之と輔」には助けてやりたいのか邪魔なのか、憎んでいるのか慕っているのか、単純には割り切れない感情がぶつかりあう場面が多々あり、男ふたりの関係を描くという意味ではいままでのものよりもはるかに凝った心理劇を見ている思いがあった。いわゆるセックス表現もなく、ゲイの紋切り型に陥るわけでもなく、ボーイズラヴの成熟した発展形になっているのではないかと。そういう意味では音楽はジェフ・ミルズとマイク・バンクスのふたりでやって欲しかったかもしれない(ウソ)。

『光』よりも一週間早く公開されるトム・フォードの新作『ノクターナル・アニマルズ』は女性に対する否定的感情が激し過ぎて僕にはゲイの嫌な面が印象に残った作品だった。『光』にもこれと重なるところがあり、信之と輔の関係性が濃密に描かれれば描かれるほど、篠浦未喜という女が貶められていくというのか、男性たちの純粋さに水を差した存在に見えてくる。ここまで書いてきたこととは裏腹に、本来、この作品で問われているのは「暴力」であり、その起源は女性にあり、女さえいなければ男たちは島という楽園でいまでも幸せに暮らしていたとまでは言わないけれど、女さえいなければこんなことにはならなかったと言いたげな映画にはなっている。実際には黒川輔は父による幼児虐待の犠牲者で、黒川信之は14歳で人を殺す。女が具体的に暴力を振るう場面は信之の妻が娘を張り飛ばすシーンだけで、この世にあふれる暴力はほとんどが男性の手によって引き起こされている事実に変わりはない。しかし、それは表面的にそうなっているというだけであって、男たちにそうさせているのは女なのだと訴えているようなのである。パンフレットを読むと、島を襲った津波は篠浦未喜にもその爪痕を残しているという設定になっている。とはいえ、そのことはあまり時間をかけて描写されていない。秘書が言葉で説明するだけである。それはあまりに簡単すぎる。篠浦未喜にはもう少し時間をかけても良かった気がする。

 この映画のもうひとつの主役は自然である。津波のように具体的に襲いかかるものでなくても、自然は常に人間にのしかかってくるものとして描写され、断片的なイメージが細かくインサートされる。真っ暗な木の祠や汚く汚れた花びらのアップ。自然を美しいものとして撮らなければいけないというルールがあるわけではないし、これはひとつの撮り方である。もっと突き詰めてもいいかもしれない。そして、このような自然描写は前にどこかで見たことがあるなと思った僕は、大森立嗣も役者として出演していた故・荒戸源次郎の傑作『赤目四十八瀧心中未遂』(03)のことを思い出した。小説を書くことに行き詰まった男とソープに売り飛ばされる運命の女が自殺の名所、三重県の赤目四十八滝に向かう話である。『光』にはあのクライマックスで描かれた滝の風景がどこかでこだましているのではないか。


廻転楕円体 - ele-king

 廻転楕円体は、2015年7月よりブレイクコアのトラックに音声創作ソフトウェアの「ONE(オネ)」を歌わせるコンセプトのもと、創作活動をはじめたアーティストだ。同年にブレイクコアなどを扱うネット・レーベル〈edsillforRecordings〉からEP「双頭の零」をリリースし、同楽曲がブレイクコア文化の発信・啓蒙をしているネット・レーベル〈OthermanRecords〉の「ブレイクコアイヤー2015」ベスト楽曲に選出されている。
 この“双頭の零”は、『初音ミク10周年――ボーカロイド音楽の深化と拡張』に掲載されている対談で語られているように、グランジと変拍子ブレイクコアを合わせ、人工音声をのせた斬新な作品だ。ブレイクコアは、サンプリング素材を細かく切り刻み再構築しためちゃくちゃな音楽、という印象を持つひとが多いだろう。しかしながら、廻転楕円体の作風はどこかスマートだ。壊されていてもその断片が整然としているようで、細部を見れば見るほどすべての音が意図をもってそこに配置されているような印象を受ける。アートのようだ、と言ってしまえばそれまでだが、より具体的に言えばフラクタル図形を見ているような感覚だ。

 フラクタル図形とは、簡単に言ってしまえば一部が全体と自己相似な構造を持っている図形だ。一般的な図形は複雑な形状でも極限まで拡大してしまえば滑らかな形状として観測されるが、フラクタル図形はどれだけ拡大しても同じように複雑な形状が現れる。その中でもより高度なものになると、螺旋や相似といった多様な図形要素で構成されるものもある。
 廻転楕円体の作品の一部分を拡大してみると、その前後で同じものが見られるかというと必ずしもそうではない。ブレイクコアのビートひとつとっても同じビートはなく、拡大する部分によって異なるものが見られる。作品を全体像から細部へと作り込んでいったのか、また細部から全体像を構築していったのかはわからないが、途方もない制作作業であったことは容易に想像できるだろう。
 “双頭の零”をはじめ、こうした作品が多数収録されているのが1stフル・アルバムである『奈落の虹』だ。創作言語と3次元フラクタル映像による“文字禍”や、サイケデリック系の細分化されたジャンルであるpsycoreとブレイクコアを合わせた“幻肢痛”、複雑なビートを追求しながらもはじめから終わりまで連続性が保たれている“白色矮星”、変拍子のビートが歌のメロディに寄り添う“劫の韻律”など、いずれの曲もビートの繊細さとメロディとの対比、そしてそれを邪魔しないONEによる歌・朗読がバランス良く配置されている。

 また、アートワークに関してもアナログとデジタルの技法で幾度も重ね合わせた緻密なデザインが施されており、端々に執念とも思えるような創作へのこだわりがうかがえる。自主制作だからこそ、ここまで徹底的に作り込むことができたのかもしれない。ブレイクコアの新たな世界を切り開くことができると言っても過言ではない傑作だ。

Jessica × Mizuha Nakagawa × Prefuse 73 - ele-king

 近年ジェフ・ミルズカール・クレイグなど、エレクトロニック・ミュージックのビッグ・ネームたちがクラシカルへの接近を試みているが、どうやらその流れはデトロイトに留まるものではなかったようだ。この度、株式会社パブットが起ち上げたレーベル〈good umbrella〉が、クラシカルの新たな再生プロジェクト『RE-CLASSIC STUDIES』シリーズを始動することが発表された。
 その記念すべき第1弾となる作品の題材は、ドビュッシーやラヴェルへと至る道を切り拓いたフランスの作曲家、ガブリエル・フォーレ。個人的にはティッサン=ヴァランタンによる演奏がお気に入りなのだけれど、今回そのフォーレの楽曲に挑んだのは、Ngatariとして〈PROGRESSIVE FOrM〉からもアルバムをリリースしているヴォーカリストのJessicaと、ピアニストの中川瑞葉、そしてなんとプレフューズ73ことスコット・ヘレン(!)の3組。さらにマスタリングはオノ セイゲンが担当しているとのことで、いったいどんな化学反応が起こっているのやら……期待の『RE-FAURÉ』は11月20日発売。

Jessica × Prefuse73 『RE-FAURÉ』

きたる11月20日、クラシックの新たな再生プロジェクト『RE CLASSIC STUDIES』シリーズ、第1弾『RE-FAURÉ』をリリース致します。
シリーズ1作目は、19 世紀のフランス作曲家、ガブリエル・フォーレの歌曲を現代の音楽として翻訳。 日本人として初めてGeorge Crumbの音源をリリースした中川瑞葉をピアニストとして迎え、Prefuse73ことスコット・ヘレンの参加により実現した『RE-FAURÉ』。
美しい和声と、流麗 な旋律を持つフォーレの「歌」は、ヴォーカル音源の破壊と再構築の先駆者であるスコット・ヘレンにより、特異なストーリー性を植え付けられ、今までにない現代の「クラシック音楽作品」となりました。
マスタリングはオノ セイゲン氏が担当。

【コメント】

例えば千年前に書かれた文章は多くの人にとって、「むずかしい」「わからない」。
なぜならいまは使われない言葉や言い回しが使われていたり、もっと言うと読めない字があったりするから。
でもその点をあれこれ工夫して、翻訳、して出したら大抵の人が爆笑してくれた。
なぜならそこには、いつまでも変わらない人の心、文学の神が住んでいるから。
そして音楽も同じであるということをこの度知りました。
美しく精妙でありながら俗情も刺激する歌声に肺腑を抉られました。やられました。
――町田康(小説家・ミュージシャン)

音楽が流れると、私の周りを囲む樹々がより深くなった。それはタイの雨季の終わりを告げる素敵な子守歌のようだ。
このような音楽を聴く機会を作ってくれたことに、感謝したい。
――アピチャッポン・ウィーラセタクン(映画監督)

このプロジェクトの歌を聴いたとき、Jessicaは、本当に美しい声を持っていると感じたんだ。実際、それはとてつもない衝撃だった。
――スコット・ヘレン(Prefuse 73/ミュージシャン)


■Jessica
メジャー・レーベルよりキャリアをスタートさせ、3枚のアルバムと4枚のシングルを発表。その後、Ngatariのヴォーカリストとして、〈PROGRESSIVE FOrM〉よりアルバムをリリース。様々なコンピレーション・アルバムへの参加や、テレビ/ラジオの出演、番組のエンディング曲を担当するなど活動は多岐に渡る。『坂本龍一トリビュート』に楽曲を提供した際には、坂本氏本人より賛辞を贈られた。今回は10年振りのJessicaソロ名義の作品となる。


■Mizuha Nakagawa
桐朋学園大学音楽学部ピアノ科卒業後、渡仏。パリ・エコール・ノルマル音楽院ピアノ科及び室内学科のディプロマを取得。2013年、George Crumbの「Makrokosmos Vol.2」をオノ セイゲンの録音にてリリースするなど、様々な分野を横断し、活動している。


■Prefuse 73 (Guillermo Scott Herren)
ギレルモ・スコット・ヘレン aka Prefuse 73は、21世紀を代表するエレクトロニカのアーティスト。ヴォーカル音源をズタズタに分解し、トラック上で再構築するという画期的な手法を生み出し、エレクトロニカ・ヒップホップの先駆者として、多くのフォロワーを生んだ。深く、鋭利なビートと、重層的な美しい音のレイヤーによって、深淵なグルーヴを構築する。イギリス〈ワープ・レコード〉の先鋭的な音楽家として、また数々の名義(Savath & Savalas、Delarosa and Asora、Piano Overlord、Ahamad Szabo)を使い分けながら、多彩なアルバム/EPをリリースし続けている。〈イエロー・イヤー・レコード〉主宰。

発売日:2017年11月20日(月曜日)
アーティスト:Jessica(ジェシカ)
タイトル:RE-FAURÉ(リ・フォーレ)
発売元:good umbrella
販売元:BRIDGE INC.
規格番号:GDUS-001
価格(CD):税抜本体価格¥2,200
収録曲数:20曲
JAN:4582237839517

[Track Listing]
01 Interlude I
02 Clair de lune
03 Après un rêve
04 Interlude II
05 Chanson d'amour
06 La feé aux chansons
07 Mandoline
08 Interlude III
09 Le secret
10 Une Sainte en son aur éole
11 Mai
12 Interlude IV
13 Au bord de l'eau
14 The Fragments of Au bord de l'eau [Prefuse73 remix]
15 Interlude V
16 Tristesse
17 Interlude VI
18 La Lune blanche luit dans les bois
19 Interlude VII
20 Pie Jesu (Requiem)

Prefuse73 tracks - 01, 04, 08, 12, 15, 17, 19 (14 - Prefuse73 Remix)

good-umbrella.com/ja/refaure/

思い出野郎Aチーム - ele-king

 いかにこの夜を楽しむか? 彼らにとってその問いは、「いかに人生を善く生きるか」と同じなのかもしれない。生き急ぐ男たちにもたらされる、ナイト・ライフの祝福。7人組のソウル・ファンク・バンド、思い出野郎Aチームの2ndアルバム『夜のすべて』は、ダンスフロアへの敬虔な信仰にあふれている。

 思い出野郎Aチームは2009年の夏、多摩美術大学の仲間たちで結成された。大学卒業後はそれぞれが働きながら多数のライヴやフェスをこなし、2012年には新人アーティストの登竜門とも呼べるFUJI ROCK FESTIVALのルーキー・ア・ゴー・ゴーに出演。2015年には1stアルバム『WEEKEND SOUL BAND』をリリースした。Ovallのmabanuaプロデュースによる洗練された音の中に泥臭さが残るサウンドで、限られた週末を音楽に捧げる生活への焦燥と愛しさをシャウトに滲ませる。まだ自分たちにもはっきりと掴みきれていないようなバンドの美学を必死に貫こうとしているような、情けなさと気高さが混在する1枚だった。
 『WEEKEND SOUL BAND』が彼らの日々全体のサウンドトラックだったとすれば、2年半ぶりにリリースされた今作『夜のすべて』の舞台は週末のダンスフロアとその周辺だ。終わらない仕事を切り上げた金曜の夜から、再び満員電車に乗って職場へ向かう月曜日の朝までのストーリー。やけのはら、VIDEOTAPE MUSICら多彩なゲストを迎え音楽的にも幅広かった前作に対し、今作はソウル~ファンクで全体を統一し、メンバーのみで作り上げたことで、物語としての没入感を高めている。

 彼らは夜を謳歌する。それが限られていて、人生のすべてではないことを知っているからだ。タイトルトラック“夜のすべて”でヴォーカル・高橋一がしゃがれた声で繰り返す「スゲー自由 朝まで」というフレーズは、自由じゃない時間を予感させるし、昼夜が逆転していく様子を歌ったメロウ・ナンバー“生活リズム”は、規則正しさから逸脱する甘やかな背徳感が最大のスパイスになっている。退屈な毎日は続く。だけど、今だけはそこから逃れられる。有限の逃避行が生み出すのは、ベッドルームにはないグルーヴとドラマだ。だから美しいスウィート・ソウル“ダンスに間に合う”では、手遅れなことで溢れた世界を憂いながら、音楽が鳴り続けているフロアに希望を託す。

 そしてフロアを見渡せば、同じような切実さを抱えた隣人が踊っている。このところ、CM起用されたモデルに人種差別的な誹謗中傷が飛び交ったり、偏見を助長する前時代的なキャラクターをテレビ局が突如復活させたり、本当にうんざりする話ばかり耳にした。そんな中で、思い出野郎Aチームの音楽はダンスフロアを現実に対するシェルターにする。

君が誰でも良いぜ
スポットライトに照らされて
僕らの肌はまだら模様
話す言葉は歌に溶けて
聞いたことのないラブソング
信仰よりもコード進行
右左よりも天井のミラーボール “フラットなフロア”

 ここでは国籍も、人種も、信仰も関係なく、スポットライトに照らされた人々の肌が同じまだら模様に染まる。かつて黒人やゲイたちの解放運動へと結びついたナイトクラブの歴史が、2017年の日本と接続されるように。フロアの亡霊の力を借りて、踊りながら拳を握りしめる。

 抑圧された日常からの解放。その時間はあっという間に過ぎていく。週末のあっけなさを象徴するかのように、アルバムは明るいラウンジ・ファンク調の“月曜日”を最後にたったの42分で終わってしまう。
 10月1日にWWWで行われた彼ら初のワンマン・ライヴでも、高橋は翌日が月曜日であることを嘆いたあとにこの曲をプレイしていた。その嘆きは観客の多くに親しみを感じさせただろうし、バンド・メンバーが働きながら音楽を続けていることは、このアルバムの物語に大きな説得力を与えているだろう。彼らが「週末はソウルバンド」な生活をこれからもずっと続けていくかはわからないが、バンドが着実に成長を遂げていく中で、『夜のすべて』が今の彼らのリアリティを昇華させた1枚であることは間違いない。

 息継ぎのような夜が終われば、再び遠泳のような一週間がはじまる。退屈で、理解しがたいラベリングに溢れ、これがすべてと言い表せない複雑な日常を、どうにかまたやり過ごす。だけどどんなにひどい時代でも、生き抜く人のために輝く時間があり、諦めなければ必ずそれに間に合う。そして遊び疲れた明け方にミラーボールから放たれた光線は、重たいドアの隙間から漏れ出て太陽の光と溶け合い、この日常の中をたしかに照らしているのだ。

Clark - ele-king

 は、早い……。4月にアルバム『Death Peak』を、5月にコム・トゥルーズとのスプリット盤「Bobbie Caris」を、そして9月に「Rellik EP」をリリースしたばかりのクラークが、12月1日に新たな12インチを発売する。先行公開された新曲“Honey Badger”はアルバムのムードを引き継いだ非常にダンサブルかつ複雑な展開を見せるトラックに仕上がっているが、しかしクラークさん……少しは休んでもいいのよ。

〈WARP〉を代表する多作家、クラークが新曲“HONEY BADGER”を公開!
最新12”は12月1日リリース

4月に3年ぶりのオリジナル・アルバム『Death Peak』をリリースし、フジロックにも初出演、TVドラマのサウンドトラックや、劇作品、オーケストラにも楽曲を提供するなど、〈Warp〉きっての多作家であり、近年はレーベルを牽引する存在にまで成長した鬼才プロデューサー、クラーク(Clark)が、新たに新曲“Honey Badger”を公開!

Clark - Honey Badger
https://youtu.be/I70Apni9Coc

『Death Peak』ツアーのハイライトとなっていたダンスフロア志向の2曲を収録した新作「Honey Badger / Pig」は、12月1日に12インチ・ヴァイナルとデジタル配信でリリースされる。

label: WARP RECORDS
artist: CLARK
title: Honey Badger / Pig - Single
release date: 2017/12/01 ON SALE

label: WARP RECORDS / BEAT RECORDS
artist: CLARK
title: DEATH PEAK
release date: 2017/04/07 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-543 定価 ¥2,200(+税)
初回限定生産盤デジパック仕様
ボーナストラック追加収録 / 解説書封入

対談:MIKUMARI x OWLBEATS - ele-king

OWLBEATS ( 以下OB ) :煙草吸いすぎじゃない?

MIKUMARI ( 以下M ) :メンソールだですーっとするでなあ……


MIKUMARI x OWLBEATS
FINE MALT No.7

RCSLUM RECORDING

Hip Hop

Amazon Tower WDsounds

 こんな普通の会話のように、気がつけばOWLBEATSのビートもMIKUMARIのラップも、自然に積み上げられたCDのなかにあり、当たり前のように2人でライヴをする姿を見ていた。2人のライヴを初めて見たのは、中目黒でみんなで馬鹿みたいに飲んで、MIKUMARIが酩酊しながらOWLBEATSの奏でるビートのなかで酔いどれた夢を見せてくれたときだと記憶してる。その記憶は正しいのだろうか?
 RCslumの中核をなすルードボーイ・ラッパー、MIKUMARI。RCslumの多くの作品にトラックを提供、アルバムもリリースする鹿児島のドープ・ビートメーカーOWLBEATS。「裏」サイドの共作を経て、リリースとなったオリジナル・アルバム『FINE MALT No.7』は“「酩酊」という感覚を教えてくるヒップホップ”という、誰かにとってベストでワーストな瞬間を再生してくれる。そして、誰かにとっては、未知の世界を疑似体験させてくれる。そんな作品だ。もちろんVRの機材なんていらない。再生するのに難しいことはない。

狭いっす。もう8畳くらいの1ルームで、ソファーがあって、そこが来た人の寝床で、俺は下に布団敷いて寝てる。(MIKUMARI )

今回のアルバムは最初どういうやりとりで作りはじめたの?

M:なんか何曲かやろうかって言ってて、その流れでトラックが色々入ったCD-Rをもらってて。

それって2人で会ってるときに?

M:OWLBEATSがしょっちゅう来るもんで、会ってるとき。

場所は名古屋ですよね? どれくらいのペースで来てるんですか?

OB:今年やばいっすね。いまのところ7回くらい行ってて(*このインタヴューは9月末に行ってます)。

名古屋ではどこに滞在してるのですか?

M:俺んち。

MIKUMARIの家は広いの?

M:狭いっす。もう8畳くらいの1ルームで、ソファーがあって、そこが来た人の寝床で、俺は下に布団敷いて寝てる。

俺の場合は俺の方がソファーなんですけど、前にYUKSTA-ILLとそういう合宿みたいの俺の家でしてた(笑)。
(*YUKSTA-ILL「TOKYO ILL METHOD」ときもWDsoundsオフィスというかPRESIDENTS HEIGHTSと言われていた自分の家も6畳、2畳の1Kでした。)

OB:もともと自分が住んでいた家が間取りが一緒なんで落ち着くなっていう(笑)。

CD:それは鹿児島のOWLBEATSの部屋ってことですよね?

OB:そうですね。ほとんど同じような構成で。自分はレコードがばーってあって、MIKUMARIはCDがばーってある。

M:ギャングスタ・ラップはCDの方が多いんだよね。レコードはシングルカットとかしかないやん。

レコードよりCDの方が高いものが多いイメージです、ギャングスタ・ラップ。

M:CDでしか出てないっていうのがあるじゃないですか。LPは出てないっていう。

たしかに。レコード屋もCDメインですもんね。じゃあ、名古屋でそのトラックが入ったCD-Rの受け渡しがあったと?

OB:そう。でも、結構前だよね。本格的にやろうってなったのが1年くらい前。ちょうどATOS (*RCslumのオーナー。TYRANT / M.O.S. / INFAMIY FAM)が鹿児島に来ているとき。

M:そう。レコーディングしに行くわ~って言ってそのとき、鹿児島行ったんですけど、何も録らずに帰ってきて。

OB:ちょっと俺怒るみたいな。ずっとご飯しか作らないから(笑)。

鹿児島だとレコーディングはどこでしてるんですか?

OB:LIFESTYLE(鹿児島を代表するハードコア・バンド)の久保さんっているんですけど、その人がやってるスタジオがあって。そこで大体録ってる。

M:名古屋のときは鷹の目のところ(STUDIO NEST)ですね。

RCslumのアルバムもあったり、客演も多いからずっと作ってる印象あるんですけど、前のアルバム( MIKUMARIの1stアルバム『FROM TOP OF OF THE BOTTOM』)のリリースって3年前くらい?

M:2013年すね。リリースしたのが。REMIX(*MIKUMARIのアルバムをOWLBEATSがすべてREMIXした『URA BOTTOM』)が2014年ですね。

その『URA BOTTOM』はアルバムがリリースになって、OWLBEATSの方からオファーして作ったんですか?

OB:そうですね。アルバムにトラック提供したギャラはいらないから、アカペラくれって言ってそれで作ったんだよね。

M:それで、1曲新しい曲を入れたいって話して。じゃあ、OWLBEATSのアルバム(*OWLBEATSの1stアルバム『?LIFE』)に入っているビートでやりたいって曲録って逆にREMIXみたいな感じ。

『?LIFE』は?

OB:2012年。

他にOWLBEATSの名義のリリースって?

OB:ブートでMIXはガンガン出してますね。月に1、2本作ってそれをライヴで売るっていうのをやってます。


 MIKUMARIとOWLBEATSを軸にした作品やライヴはすごく自然に存在していて。そこに世界が広がっている。先述したお互いのファースト・アルバムが交差する線上にあるというよりは、交差した後に生まれたより立体的な空間のなかに生まれた曲たちがある。「酩酊」という自由な空間を通してでしか説明できないように、このアルバムは説明できない必然で生まれたと感じる。熟成されたと感じるけれど、間隔は空いていない。


すごく自然な組み合わせだと思うんですけど、このタイミングで今回2人でのオリジナル・アルバムというパッケージでのリリースにしたのは?

M:俺もOWLBEATSとリミックスでなくてオリジナルで1枚というのは作りたいと思ってて。

前作やいままでのMIKUMARIのラップのイメージってすごくリリカルにトピックをラップするイメージなんだけど、今作はすごく音 / ビートに乗っているっていうのがまず第一に感じてすごく2人で作ってるって思って。単純に載せてるとかじゃない何かを感じました。

M:それはあります。ビートもいままでよりも、民族的なビートが多かったと思ったし。うん。あんまり意識はしてないんですけど、ビートに見合うようなやり方でラップするっていうのは考えた。

それって、スタジオで色々と試しながらって感じですか。このビートでラップするっていう前提でアルバムは作ってるんですか?

OB:うーん。打ち合わせしながらやってるのもある。数曲ボツになったりもしてるし、そもそも、俺のやる気が削がれたり(笑)。

さっきも話してましたね。制作期間はまあまああるんですよね?

M:うん。さっき言った通り、俺も、レコーディングしてなくて怒られたりしてるでね笑 制作は1年くらいで、本格的にやりだしたのは今年の3月からでそこからはタイト。

自分のイメージとしては、最初遊びはじめたときはもっとバカなことばっかしてて、その延長で音楽を作ってるような感覚だったんですけど。『URA BOTTOM』までは。でも、そうじゃなくなってきた。さらに先に行ったというか。(OWLBEATS)

 この2人の組み合わせにはシンプルな表現が多い。細かい部分は曲で伝わってくる。瞬間で作ってるようでもあり、時間がかかってるようでもある。8月に行われたRCslumのイベント「METHOD MOTEL」で会ったときに、MIKUMARIがJEDI MIND TRICKS (*PHILLADELPHIAのハードコア・ヒップホップを代表するグループ)のTシャツを着ていて、意外なようでしっくりきて話したのがすごく印象に残っていて、その事実は個人的にはこのアルバムを聞く中で重要に感じた。


少し話変わるんだけど、JEDIとかARMY OF PHARAOHSとかそういうHIP HOPのイメージを今作で少し感じたんだけど。このあいだMIKUMARIがTシャツ着ててそういう話になったのもあるけど(笑)。なんて言えばいいかわかんないんだけど。意識はしてない?

M:多少は作ってる期間に、新譜が出たとか。その時だと、LA COKA NOSTRAとかVINNY PAZとか。その間にもHORACE ANDYとかレゲエも買ったりして、そういうのを聴いてかっこいいなと思って。多少あるのかなと。

MIKUMARIはギャングスタ・ラップの影響も多いけど、いま言ったようなヒップホップのAPATHYとか、そういうイメージに近いのかなと個人的に最近勝手に感じてる。

M:好きですね。

ちょっと気持ち悪い俺の勝手な思いを話しちゃってすいません(笑)。あらためて、音的なアプローチのイメージに関して聞いていい?

M:そういう最近買ったCDをOWLBEATSにも聴かかせたりして「良いでしょう?」みたいな。

OB:前より、MIKUMARIがギャングスタラップ的な表現と変わってきてるのも感じて、自分なりにも感じた方向にアプローチしてみたのはありますね。

ラップが上手いっていう印象より全体として曲が立ってるように感じました。

M:広がったよね。ビートに交わるようにっていうのは意識した。

OB:自分のイメージとしては、最初遊びはじめたときはもっとバカなことばっかしてて、その延長で音楽を作ってるような感覚だったんですけど。『URA BOTTOM』までは。でも、そうじゃなくなってきた。さらに先に行ったというか。

今回は「DOPE MUSIC」って表現が頭に浮かびました。

M:まあ、言葉とかも昔はチャキチャキしてたと思うすけど、少し緩くなったと思うすね。

そうですか? 緩くとは思わないんですけど変化を感じます。

M:一貫性があると思いますね。

感じます。では、どういうタイミングで曲を完成と区切ってますか?

OB:そんな話し込む感じで作ってないですね。

M:レコーディングが出来たものを送って、それで、OWLBEATSが音を足してきて。

OB:難しい感じじゃなくて、これでOKって。お互い来たもんで対応する。2人でこれを作ろうというよりは送ったトラックに録ったものを聞いて、それを編集して。作ってる。

M:お互いを信用してる感じだよね。

その作り方ってトラック提供だったり、声を吹き込んでもらったりの一回一回のやり取りとは違ったりしますか?

OB:他のアーィストと 俺は違うかな。MIKUMARIの場合は、複雑なんだけど、どこかでわかりやすいリズムがあるイメージで。他のラッパーだったらずらしたりするんだけで、MIKUMARIはドンピシャで頭でキックとって歌う。あくまでそれはずらさない。

M:やってくうちに今回こういうのきたか? って感じでレベルが上がっていくんだよね。

一番レベル高いと思ったのは?

M:うーん。最後かあれ、与太ルードボーイ。頭から乗せるとダラダラするやん。だから裏で合わせたみたいな。そういうのなかったってもんで、だから、気に入ってる。良くできたというよりは、考えたっすね。

OB:MIKUMARIには難しいことあんまりしないですね。他の人にはすごく複雑にしたものを渡したりするんですけど。

M:そういうのも最初もらったりしてたんですけど、そういうのは選ばない(笑)。これは違うぞ。

OB:最初はドラムンベースでやってもらおうとかあったんですけど。

やったら面白そうですよね。

M:面白そうなんだけど……タイミングってのもあるし。今回みたいなものにはならないかな。あとVOODOOは上出来だったな。

いま話聞いてて、音源聞いた感じではセッションしてるイメージだったんですけど、実際はお互いで作ってるのに驚きました。

M:基本、名古屋で録って、どうするこうするっていうのは一緒におるときに話して。そんなに細かい話はしてないですね。

OB:友だちの感覚もあるんで、ガッチリやると時間がかかるかもしれないってのは

ありそうですね

OB:終わらないかもしれない。

M:あるかもしれんねえ(笑)。遊んじゃったーとか


「遊びながら作る」それはスタジオでアーティストが作って生まれる曲だったり。トラックを受け取ったラッパーが、好きに曲を書いたり録ったり。アカペラを受け取ったトラックメーカーがリミックスを作ったり。いろいろな方向や可能性がある。今作品は、いままで聞いたように、トラックメーカーとラッパーが2人で作りあげてきた遊びから生まれたコミュニケーションから、アルバムを作るというシンプルな発想にたどり着いたように感じる。OWLBEATSの『?LIFE』はビートアルバムだ。MIKUMARIの『FROM TOP OF THE BOTTOM』は多数のゲストが参加したラップアルバムだ。2人で作る今作は決定的に何かが違う。


今回ゲストアーティストは絞ってると思うんですが(MC KHAZZとハラクダリ)、それは2人で決めた?

M:それは俺が決めました。常にいる長いやつとやるっていうのは俺の決まりで。ハラクダリに関しては、作ってくれって話が結構前からあって、それがこの2人でっていう曲で、あれが一番時間かかったなあ。

OB:あんとき、ハラクダリいなかったんだよね。

最初の方でハラクダリのエピソードがリリックで出てきて、でもその曲にはハラクダリは参加してなくて、後半の曲で参加してるじゃないですか? 自分、それがツボで、聴くたびに、「あ、この曲じゃないんだよな、ハラクダリ入ってるの」って、曲の終わりくらいでいつも思うっていう。

OB:それは狙ったっす。わかってくれて嬉しいっす。

じゃあ、曲順は2人で決めてるの?

OB:ほぼ自分が決めました。

全部曲が揃ってから?

OB:そうですね。

M:それで並べたものを送ってもらって、この曲とこの曲は順番変わってる方がいいなーとか、そういう話をして。

CD:その全曲が揃ってこれをパッケージングしてアルバムにしようっていうその判断はOWLBEATSが決めたの?

OB:はい。そこは元々はDJなんで、その感覚で曲を並べて自分の色を出すのもいいなと思って。

できた曲を聴きながら、流れを作っていく?

OB:そうですね。これとこれはこの順番がいいとか。自分は鹿児島なんで、目の前に桜島があるんですよ。出来た曲を海とかでぼーっと聴いたりして。街中なんですけど、すぐに海があって。そこで聴いて、流れ的なものを考えて。1曲変えると暗くなったりもするし。

M:最初、考えとった曲順とは変わったよね?

どのあたりが?

M:最初は自分の予想通りだったけど、真んなかあたりはOWLBEATSらしさを感じて。後半はイメージにあって。5~10のあたりの曲はすごく癖を感じた。

全体としては30分強で14曲ってかなりコンパクトに作られていると思って。すごく好きなんです。長さは意識しましたか?

M:自分でも丁度いい長さかなって。最初は、できた段階で長さこれしかないって言ってたけど。途中で入っているスキットも含めて全体はバッチリで。

スキットはアルバム収録曲のレコーディングが終わってから作ってるの?

OB:1曲は元々あった曲でこの曲入れたらって思ったものもあれば、作ったものもある。イントロもアウトロもそんな感じ。

すごく自然に作ってるんですね。

M:うん。作ってる段階で、あれ入れようか、これ入れようかって話しながら自然に。

OB:スキットも何回かかえてるもんね。

今回のアルバム聴いてほしいなってすごく思うんですよ。すごくDOPEな作品だと思って。でも、そういう音楽を作っている人って自分で完結していて、リスナーを必要としない人たちもいるじゃないですか? OWLBEATSはどういうタイプ? 変な質問なんだけど。人に聴いてほしいかというか……

OB:インスト基本でやってるんで。インストに関しては歌っているというか自分ですごく個性が出せてると思うんですよ。人と関わることによって、斜めな見方というか、「ラップ乗りそう」とか意見があることによって俺も発見になるんで、知って取り入れて作るみたいな形なんですけど。いまはインストと人の声が乗るものは分けますね。

その基準っていうのはありますか?

OB:音数ですね。音の位置というか、曲ごとで題があるんですけど。ハイハットが前とかそういう。レイヤーですね。

今作はすごく息が合っていると思うし、このために作ったという所が強いと思うんですけど、インストだと考えて作ると違う?

OB:そうですね。歌わせない! というか。その感覚。

 この後に聞いた話も最高に面白かった。でもここでインタヴューを終わらせるのが最高だと勝手に思った。このアルバムには余白がある。詰まっているんだけれど余白がある。
 いま、RCslumのインタヴューをするどんなライターより自分は彼らを知っている。こうした記事を自分が書くことが不適切と言われるくらいに。以前の作品ではリリースにも関わっている。その不公平性をここでしっかりと公言しておく。そんな独白を読んでも、このインタヴューは成り立つ。
 MIKUMARIとOWLBEATSが作るこの作品にある余白は2人だけのものだ。どんな知識や経験よりも勝る感覚がここにある。聴けば聴くほどに「現在のHIP HOPだ」と感じられるこの作品は聴けば聴くほどに聴く者の感覚に委ねられる。「生きたHIP HOPだ」

New Order - ele-king

 おおお、これは……。フッキーの脱退劇を経つつも2012年に復活を遂げ、2015年にはアルバム『Music Complete』を発表したニュー・オーダー。昨年、じつに29年ぶりとなる単独来日公演を行ったかれらですが、今度はなんとライヴ盤をリリースするそうです。タイトルは『NOMC15』で、2015年11月にブリクストン・アカデミーで行われた公演を収録。発売日の12月1日が楽しみですね。

ニュー・オーダー、ライヴ盤『NOMC15』を12/1に発売!
2015年11月、ブリクストン・アカデミーで行われたライヴをフルパック!
ジョイ・ディヴィジョンからニュー・オーダーまで、ベストの選曲、ベストのパフォーマンス!

ニュー・オーダーは、誰も到達することのできないエレクトロ史上最高の名曲で光り輝き、ひとたび求められれば、その曲で聴くものすべてに最高な夜を届けたのであった。
――The Guardian ✶✶✶✶✶

英『ガーディアン』紙で5つ星を獲得するなど、大絶賛を浴びた2015年11月に行われた英ブリクストン・アカデミー公演のライヴ盤(2枚組CD)が12月1日に発売される。本作は今年5月にバンドのネット通販サイトで限定販売されていたが、フィジカルとデジタル含め一般発売されることとなった。

最新作『ミュージック・コンプリート』(2015年)から5曲、“ブルー・マンデー”をはじめとする代表曲から“ユア・サイレント・フェイス”といったファンにはたまらない名曲まで、そしてジョイ・ディヴィジョンの“ラヴ・ティア・アス・アパート”など、まさに前身のジョイ・ディヴィジョンから現在のニュー・オーダーまでのベストが詰め込まれたライヴ盤だ。またアートワークは、ワーグナーの「ラインの黄金」で始まる感動的なオープニングに合わせて映し出された映像から使用されている。

日本において、最新作『ミュージック・コンプリート』はオリコン総合チャートで初のトップ10入りを果たし、翌2016年には実に29年ぶりの単独来日公演が行われ、本作品同様、熱狂のライヴとなった。

[商品概要]
・アーティスト:ニュー・オーダー (New Order)
・タイトル: NOMC15(NOMC15)
・発売日:2017年12月1日(金)
・価格:2,500円(税抜)
・品番:TRCP-224~225
・JAN:4571260587335
・解説:油納将志/歌詞対訳付

[Tracklist]
CD-1
1. Introduction: Das Rheingold – Vorspiel (Wagner)
2. Singularity
3. Ceremony
4. Crystal
5. 586
6. Restless
7. Lonesome Tonight
8. Your Silent Face
9. Tutti Frutti
10. People On The High Line
11. Bizarre Love Triangle

CD-2
1. Waiting For The Siren’s Call
2. Plastic
3. The Perfect Kiss
4. True Faith
5. Temptation
6. Atmosphere
7. Love Will Tear Us Apart
8. Blue Monday

[amazon] https://amzn.asia/8r0yG2K
[iTunes/Apple Music] https://apple.co/2hLFsdn

■最新作『ミュージック・コンプリート』(2015年)まとめ
https://bit.ly/1FHlnZJ

■ニュー・オーダー バイオグラフィ
https://trafficjpn.com/artists/new-order/

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