「You me」と一致するもの

Vinnie Who - ele-king

 エール・フランスがエール・フランスのCM曲をやってるらしいぞとききつけて「まさか」と思ったが、はたして真実は真実らしいかたちをしていた。

 スタイリッシュでガーリー、透明感にあふれるこの話題のCMで使用されているのはグラス・キャンディ。まあ、そうですよね。しかし勘違いがもつれてそれがエール・フランスだという誤情報に置き換わったことにはどこか得心がいって、また、それがコンピュータ・マジックではなくてグラス・キャンディだというところには、出資側の感性がアンダーグラウンドに寛容であることを垣間見る思いがする。スウェディッシュ・“バレアリック”・ポップと喧伝され、涼やかなシンセジスに甘くけだるい北欧ポップ節をくるみながら、こっそりと世間に中指をたてていたデュオ、エール・フランス。同郷のザ・タフ・アライアンスやエンバシーなどを挙げるまでもなく、2010年をまたぐ前後数年のインディ・シーンにおいて北欧のエレクトロ・ポップはひとかどの存在感を示していた。折しも、エイティーズ・リヴァイヴァルや、チルウェイヴに象徴されるサイケデリックとチルアウトの大きな機運が交差するタイミングでもあった。
 いまその頃の音を聴くとインな感じよりもむしろ懐かしさを覚えてしまうが、ヴィニー・フーのポップ・ソングにもその懐かしさを、そしてまた、おそらくは時代が経っても変わることのない、インディ・ポップというものが常温的に持っている輝きを感じずにはいられない。それは、彼自身が愛している音楽がそうであるように、だ。

 デンマークのシンガー・ソングライター、 ヴィニー・フーことニールス・バゲ・ハンセン(Niels Bagge Hansen)。本作は2010年のデビュー・アルバムから数えて3枚め、〈EMI〉からの2作に次ぎ、ザ・レイト・グレイト・フィツカラルドスなどデンマークのシーンをリードする〈フェイク・ダイアモンド・レコーズ〉から初のインディ・リリースとなる。女性かとまごうほどのアンドロジニーなヴォーカル(メモリー・テープスを思い出す)がまず印象的だが、丁寧なソングライティングには筋の通った音楽好きの表情がありありとうかがわれる。深めのリヴァーブには、ヴィンテージなフォーク・ロックの響きやソフト・サイケの系譜、あるいはセブンティーズの都会的なシンガー・ソングライターたちの仕事がにじむ。冒頭の“マッチ・マッチ・モア”や“セヴン”などがその嚆矢で、“イマジネーション”のタイトなスネアや小作りなストリングスのアレンジも瀟洒で奥ゆかしい。“ファンタイム”“オンリー・ドリーミング”他は〈クレプスキュール〉などエイティーズのインディ・ギターポップ・マナーに及び、イェンス・レクマンの諸作にも比較したくなるだろう。
 ジャケットのアートワークを並べてみればわかるけれど、声におとらず中性的なその容姿を耽美なアート・センスで過剰に押し出す前2作やシングル(メジャーらしいコレクトネスにのっとっている)にくらべて、本作のそれはよりパーソナルで等身の本人像を写しだすかのように感じられる。楽曲のスタイルやプロダクションについてもそうで、ヒット・ナンバーである“39”や“レメディ”などを筆頭としたエレクトロ・ポップはすっと影をひそめ、『ハーモニー』はその中からソウルやオールドなロック・マナーだけを抽出してきたかのようなたたずまいである。
 どちらがいいという話ではなく、彼にはそのいずれにおいてもブレることのない芯──彼が体現する音が彼の愛する音であるという──があるのだから、われわれは今作のよりロウな感触と表出を楽しむだけだ。飛行機の宣伝になるようなキャッチーなシンセ・ポップでこそないが、後期2000年代インディとして理想的な年の積み重ねがあり、北欧ポップ・シーンが湧出のやまない泉であることをあらためて感じさせる良盤ではないだろうか。

AHAU - ele-king

今年作業中に聴いていた音楽の中から選んでみました。順不同。

グラフィックデザイナーです。
今年作業中に聴いていた音楽の中から選んでみました。順不同。

3/29から4/26まで高円寺にあるヒミツキチで
グラフィック作品の展示をしています。
良かったら散歩がてらにでもよろしくお願いいたします。
Terrapin Station
東京都杉並区高円寺南2-49-10
03-3313-1768
https://www.facebook.com/Koenji.TerrapinStation

AHAU EXHIBITION "ROOM"
高円寺 TERRAPIN STATION 2F ヒミツキチ
3.29.SUN-4.26.SUN
12:00-20:00
CLOSE.WED

AHAU(アハウ)、Tomoaki Sugiyama
グラフィックアーティスト、グラフィックデザイナー
1976年横須賀生まれ、東京在住
Facebook
https://www.facebook.com/AHAUts
ahau shop
https://ahau.thebase.in/

interview with QN - ele-king


QN
New Country

SUMMIT

Hip Hop

Tower HMV Amazon iTunes

 以下に掲載するのは、紙版『ele-king Vol.7』(2012年10月20日発行)のQN(現・菊地一谷)のロング・インタヴューの後編、あるいは番外編である。雑誌のほうでは、自身がリーダーを務めていたヒップホップ・ポッセ、シミラボからの脱退の真相やノリキヨとのビーフ、これまでの彼自身の歴史といったディープな話を赤裸々に語ってくれている。

 そういうこともあって、ここに掲載するインタヴュー記事は音楽的な話題に絞ることができた。新しい作品を作るたび、変化と成長を楽しむようにフレッシュなサウンドに挑戦しつづける、ラッパー/プロデューサー、QN/菊地一谷。当時21歳だった若き音楽家が語った言葉は、過去・現在の彼の音楽をより深く聴くための手助けになるのではないだろうか。

 デート・コース・ロイヤル・ペンタゴン・ガーデン(以下、DCPRG)が2012年に発表した『セカンド・リポート・フロム・アイアン・マウンテン・USA』へのゲスト参加や彼らとのライヴ、同年6月に発表したサード・アルバム『New Country』やラウ・デフとのニュー・プロジェクト〈ミュータンテイナーズ〉の興味深いコンセプトについて語ってくれている。最新インタヴューとあわせて楽しんでほしい。

■菊地一谷 / きくちかずや
またの名をQN。2012年までヒップホップ・クルーSIMI LABに在籍。数多くのストリート・ネームを持ち、楽曲も多数手掛けてきた異才にして、理解され難い行動や言動でも記憶されるプロデューサー/ラッパー。前作『DQN忠臣蔵~どっきゅんペチンス海物語~』リリース後、菊地成孔プロデュースによる女優・菊地凛子の「Rinbjö」名義でのデビュー・アルバム『戒厳令』へも参加。2015年、音楽活動を再スタートさせることを宣言し、客演にSEEDA、菊地成孔、NORIKIYO、MARIA、RAU DEF、GIVVN(from LowPass)、田我流、菊丸、高島、北島などを迎えてのアルバム『CONCRETE CLEAN 千秋楽』をリリースした。

きっかけはトロ・イ・モワでしたね。あそこから、アニマル・コレクティヴとかムーとかヤー・ヤー・ヤーズを聴くようになって。あと、ジ・エックス・エックスとか。


DCPRGの『セカンド・リポート・フロム・アイアン・マウンテン・USA』のなかの2曲に、シミラボはゲスト参加してますね。“UNCOMMON UNREMIX”、あれはラップを録り直してますよね?

QN:あれは録り直してますね。

DCPRGは、70年代初期のエレクトリック・マイルスに強く影響を受けているバンドですよね。QNくんやシミラボのラッパーの柔軟なリズム感がDCPRGのポリリズミックなリズムとハマってて、すごいカッコイイですよね。実際やってみて興奮しました?

QN:すげぇ興奮したっすね。〈ageha〉のライヴ(2012年4月12日に行われたDCPRGのアルバムの発売記念ライヴ)も良かったですね。 “UNCOMMON UNREMIX” と“マイクロフォン・タイソン”はもちろんやったんですけど、最後にアンコールで、“Mirror Balls”の生演奏に“The Blues”のラップを乗っけたのがとにかく記憶に残ってますね。あれは、テンション上がったっすね。

それは菊地さんのアイデアだったんですか?

QN:そうっすね。

菊地さんから録音やライヴのときに、「こうやってほしい」みたいなディレクションはありました?

QN:いや、とくに何も指示されてないっす。すげぇ自由にやらせてくれたっすね。「もう好きにやって」みたいな。

オファーのときに、シミラボへの熱いメッセージはなかったんですか?

QN:それはもちろんあったっすね。でも、ちょっと覚えてないっす(笑)。とにかく、シミラボをすごい気に入っていて、応援してるっていうのは言ってくれてましたね。で、オレらもなんとなくイヤな気がしなかったんです(笑)。直感ですね。

菊地さんのことは知ってました?

QN:いや、ぜんぜん知らなくて。

はははは。そうなんだ。シミラボの他のメンバーも?

QN:知らなかったですね。

じゃあ、DCPRGの音楽を聴いて、やろうと決めた感じですか?

QN:そうですね。音を聴いて、これだったらおもしろいものができるなって。ただ、個人的にはもうちょっとできたかなとは思いますね。

なるほど。ところで、『New Country』はこれまでの作品に比べて、ベースとビートが強調されて、よりグルーヴィになった印象を受けました。すごくいいアルバムだなって感じましたし、はっきりと音楽的飛躍がありますよね。

QN:そうですね。まぁ、シリアスなアルバムだとは思いますけど。なんて言うか、ヘイトしているわけじゃないんですけど、ヒップホップがすごい好きだったぶん、それ以外の音楽にもっと触れたくて、去年はずっとロック系の音楽を聴いてました。最近のロックは普通にMPCが使われていたりするから、それは自然な流れでしたね。チルウェイヴとかオルタナティヴ・ロックとかを聴くようになったんです。きっかけはトロ・イ・モワでしたね。あそこから、アニマル・コレクティヴとかムーとかヤー・ヤー・ヤーズを聴くようになって。あと、ベタですけど、ジ・エックス・エックスとか。ヒップホップだと、キッド・カディですね。すごいいいですよね。こういうやり方もあるのかって、影響受けましたね。キッド・カディはヒップホップだけど、なにかちょっと他の音楽も入ってる感覚があって。

キッド・カディはオルタナティヴ・ロックとかサイケデリックの要素もありますもんね。あと、歌詞が内省的ですよね。

QN:そうっすね。かなり内省的ですね。そうやっていろんな音楽を聴いていたのもあって、ネタ掘りが変わってきたんです。有名どころですけど、マイク・オールドフィールドの『チューブラー・ベルズ』にもハマって。『エクソシスト』の主題歌の原曲を弾いてるイカれてる人ですよね。あと、カンとかキャプテン・ビーフハートとか。オカモトズのレイジと彼の友だちの副島ショーゴっていうまじ熱いDJといろいろ情報交換してたんですよね。そのDJはオレの1コ下でとにかくヒップホップが詳しくて、オレはその頃ロックに興味持ってたんで。


結果的に、トーキング・ヘッズにたどりついて。

それは、前作『Deadman Walking 1.9.9.0』を制作しているぐらいの時期ですか?

QN:そうすね。で、結果的に、トーキング・ヘッズにたどりついて。

トーキング・ヘッズ! どのアルバムですか?

QN:アルバムはひととおり持ってるんですけど、衝撃だったのは、『ストップ・メイキング・センス』っていうDVDでした。あれを観て、「わおー!」って思って。とくに好きな曲は“ジス・マスト・ビー・ザ・プレイス (ナイーヴ・メロディ)”ですね。わかります?

いや、その曲、わからないです。

QN:あとはトム・トム・クラブとかにやられましたね。『New Country』を作るきっかけは、わりとトーキング・ヘッズにありますね。

それは興味深い話ですね。トーキング・ヘッズのどこに魅力を感じました? ファンクとロックを融合した音とか、いち早くアフリカ音楽にアプローチしているところか、いろんな側面がありますよね。

QN:そうっすね。いろいろありますけど、これはもうヒップホップだなって思ったんです。だから『New Country』は、オレの勝手なイメージですけど、質感的には、トーキング・ヘッズを意識したんです。そういうのもあって、バンド編成みたいなニュアンスでトラックを作ろうって考えたんです。

Talking Heads “This must be the place (Live: Stop Making Sense)”


『Deadman Walking 1.9.9.0』にもコーラスの女性ヴォーカルや、ヴァイオリン奏者、ギタリストが参加していますよね。シンセを弾いてるサドラーズ・ウェルズっていうのは、たぶんQNくん本人じゃないですか?

QN:あれはオレですね。サンプリングで作っている以上は、要はある意味で、他人の音楽をパクッてるのに近いじゃないですか。これまでは、まあ、盗むっていう発想だったんです。『New Country』は、ギター、ドラム、シンセ、ベースがいて、ラッパーのオレが前に出ているっていう大体5人組ぐらいのバンド編成のつもりで作ったんすよ。そこに、フィーチャリングでたまにホーンが入ってきたりするっていう。でも、基本的にはギター、ドラム、シンセ、ベースをイメージしてサンプラーをいじってましたね。あとちょっと、オレのひねくれが出ちゃって、昔のドラム・マシーンみたいな荒れてる音にしたりもしてますね。


ヒップホップから離れようと思ったら、逆にヒップホップでありたいと思ったというか。

トーキング・ヘッズをはじめ、いろんな音楽に耳を傾けたのが大きかったんですね。ジ・XXを聴いてるってことは、UKのベース・ミュージックも聴いてました?

QN:それは大きかったっすね。去年はもうUKに行こうかなぐらいでしたよ。

そこまでだったんだ。UKのベース・ミュージックのどこに魅力を感じました?

QN:「踊れるなー」ってとこがデカかったっすね。

でも、『New Country』はそこまで思いっきりダンサンブルでもないよね。

QN:まぁ、そうっすよね。1、2、3曲めまでは踊れる感じだとは思いますけど。ヒップホップから離れようと思ったら、逆にヒップホップでありたいと思ったというか。いざ離れてみたら、やっぱヒップホップだなっていう感じになって。『New Country』はバンド編成のイメージといっても、すげぇヒップホップに向き合いましたね。向き合ったって言うと堅苦しいんですけど、思い出して作ったっていう感じですかね。1年間、ロックばっか聴いてきたぶん、なんかちょっと振り返るじゃないですけど。

『New Country』は全曲、QNくんがプロデュースしてトラックを作っていますよね。これははじめてのことで、ひとつの変化ですよね。理由はあったんですか?

QN:そうっすね。シンプルに考えて、必要だと思ってる人だけを呼びましたね。いろんなラッパーに参加してもらってますけど、ビートは全部自分で作りたかったんです。コンセプトが自分の中に強くあったのと、自分の等身大のアルバムを作りたかったので。

QNくんはほんとにハイペースで作品を発表しつづけてますけど、『New Country』はいつから作りはじめたんですか?

QN:『Deadman Walking 1.9.9.0』のリリースが去年の12月だから、『New Country』のビートは12月から4月ぐらいまでに作りましたね。マスタリングの日までレコーディングしてて、超やばかったっす(笑)。『Deadman Walking 1.9.9.0』を作ったあと、思った以上にイメージがわいてきて、リリースする予定はなかったんですけど、1月の段階で7曲ぐらいできちゃったんです。なんかすげぇミニマルっていうか、音数が少ないものができてきて。

音数が少ない、ミニマルというので思い出したんですけど、『New Country』のいくつかの曲を聴いて連想したのは、バスタ・ライムスの“プット・ユア・ハンズ・ホウェア・マイ・アイズ・キャン・シー”だったんですよね。

QN:あー、なんとなくわかります。

Busta Rhymes “Put Your Hands Where My Eyes Can See”

あと、古くて新しい音の質感とかちょっとひねくれたサンプリングのセンスとか、RZAのソロ作の『バース・オブ・ア・プリンス』とかRZAの変名のボビー・デジタルに近いものがあるなぁと。

QN:もしかしたら、それは近いっぽいっすね。わりと。そうかもしれないっすね。『ボビー・デジタル・イン・ステレオ』はたまたま聴いてたっすね。フランス語かなんかのスキットがすげぇ好きで。

『New Country』にはこれまでの作品に比べて、ファンクを強く感じたんですよね。個人的に僕はいままでのQNくんのアルバムでいちばん好きです。本人的にはどうですか?

QN:ほんとっすか。うれしいっすね。ただ、ファンクももちろん好きっすけど、でも意外とファンクっていう気持ちはなかったかな。うれしいことなんですけど。


オレは大人にはならないんで。それはもう考えないようにしてる。

ところで、QNくんはこれまで大人なることを拒絶するような態度をラップで表現してきたと思うんですけど、いまはどうですか? “Better”でも「まだ自分はクソガキだ」ってラップしてますけど。

QN:ああ、『Deadman Walking 1.9.9.0』までは、もう大人になんのか、なっちゃうのか、みたいな感じだったんですけど、『New Country』ではもう開き直ってますよね。“DaRaDaRa”でも「誰がオレをこんなにした? 誰がオレをこんなにアホにした?」とか言い出しちゃってますし(笑)。けっこう開き直ってるんすよ。

QNくんにとって大人になるっていうのはどういうことですか?(笑)

QN:いやー、難しいっすねー(笑)。オレは大人にはならないんで。それはもう考えないようにしてる。

大人になるというのは、QNくんにとってネガティヴな意味合いがあります?

QN:いや、ぜんぜんネガティヴだとは思ってないっすけど。

でも、大人に対する反発心みたいのを強く感じますけどね。

QN:それは、自分にウソをつきたくないっていうのがいちばん近い感覚かもしんないっすね。もちろん尊敬できる大人もたくさんいるんですけど。いままでは、普通や常識をいちおう見て知っておかないと自分がいい方向に行かないんじゃないかって思ってたんですよ。でも、シミラボを辞めるタイミングあたりで、「それは違うよな」って思ったんです。ありのままの自分を認めていかないと、どうすることもできないなって。だから、オレはいまヒップホップもすげぇわかりやすいものが好きですね。自分が好きな90年代のヒップホップがあらためてフィードバックしてきてる感じがありますね。


これまでの自分は何かを演じていないと自分を維持できないタイプの人間だったのかなーって思うんです。でも、このアルバムあたりから、普通に自分のいろんなものを認めてやれるようになった気がしますね。

それと、『New Country』のクライマックスの、“Better”“船出~New Country~”“Flava”の3曲がとくにそうかもしれないけれど、リリックも明瞭に聴き取れて、言葉を伝えようという意識を感じました。

QN:自分の言葉でラップするというのを意識して、それができたのかなとは思います。やっと自分の言葉に消化して表現することができはじめてきたかなって。まだまだ煮詰められるとは思いますけど。『New Country』は、ほんとにすっげー勢いで作ったんですよ。朝から夜まで1日で3曲とか作って。ほんと余計なことを考えなかったっていうことっすね。

勢いもあるんでしょうけど、コンセプチュアルなアルバムでもありますよね。

QN:ほんとそうだと思うんす。でも、ぶっちゃけ後付けですけどね。というか、後付けもなにも、2、3ヶ月の間に自分に起きた現象が全部の曲に自然とはまったんです。それはじつは自分でもけっこうびっくりしてるっていうか。それだけ歌詞がたぶんスマートに出てきたってことだと思いますね。

アルバムのタイトルを直訳すると、“新しい国”ですよね。この言葉が意味するところはなんですか? QNくんのなかにイメージとかあったりします?

QN:そうっすね。どうなんだろ? タイトルどおり、自分の理想郷の話っすね。「ほんとはこうだったらいいのに」みたいな話でもありますね。ただ、『New Country』は、自分で言うのもなんですけど、ほんとにヒップホップのアルバムだと思ってて。ラップもフッド・ミュージックに近づいたっていうか。ラップのフロウの取り方も雑って言えばすごい雑で、細かいって言えば細かいっていう。そういう感じとか、ちゃんとオリジナルのヒップホップに近づいたのかなっていう気はしてますね。いちばん自分らしいアルバムになったんじゃないかなって。これは超イルな発言なんですけど、これまでの自分は何かを演じていないと自分を維持できないタイプの人間だったのかなーって思うんです。でも、このアルバムあたりから、普通に自分のいろんなものを認めてやれるようになった気がしますね。大げさなこともたぶん言ってないし、自分の中にあるもので表現できたかなって。

なるほど。

QN:あと、『New Country』を制作してるあいだ、人との関係とかいろいろシャットアウトしてたっていうか。それぐらいの気持ちになっちゃって。他の音楽とかぜんぜん聴かなくなって。そうじゃないと自分がもたないぐらいの現象が起きてて。とにかくアルバムを作ることしか考えられなかったですね。しかも、自分が作ったものに納得できなかったりもして。まあ、生々しい感じでした。


もう変えてますね(笑)。ヘルメスって名前に。でも、もう変えないっすね。次の名前で終わりっす。それを末永く使おうかと。

ところで、QNって名前を変えるって話を聞いたんですけど、ほんと?

QN:いや、もう変えてますね(笑)。ヘルメスって名前に。でも、もう変えないっすね。次の名前で終わりっす。それを末永く使おうかと。でも、なんかいま、女の子に訊くと、たいがい「QNの方がいいよ」って言われるんですよ。「ヘルメスっていうのヘルペスみたい」って。

はははは。じゃあ、変えないほうがいいよ。名前を変えると、せっかくQNで有名になったのにもったいないよ。

QN:そうですよね。だから次で最後かなって。名前を変えたら、ツイッターのフォロワー200人ぐらい減っちゃって(笑)。

このタイミングで普通はQNって名前は捨てないですよね。

QN:そうっすよね。でも、オレが新しい動きをして、それについて来れなかった人だけがたぶんフォロー外してるんだろうから、それはそれでいいかなって。完全強気っす。

強気だなぁ。

QN:はい。あと、オレら界隈でいま、ミュータントっていう言葉が流行ってるんですよ。シミラボも最初は街に黒いシミができて、その黒い液体が人の形になって、音楽を作りはじめるっていうストーリーがあったんです。要はSFなんすよね。ミュータントって突然変異体って意味ですけど、もともとは差別用語だったと思うんです。奇形児とかをミュータントって呼んだりして。べつにオレはハードな環境で育ったわけじゃないけれど、社会不適合者っていう意味ではミュータントなんじゃないかなって。でも、社会不適合者とかミュータントは特別な能力を持ってる人たちなんじゃないのかなって。

なるほどー。

QN:で、ミュータントとエンターテイナーを掛け合わせて〈ミュータンテイナーズ〉ってレーベルを立ち上げたんです。俺とラウ・デフがまとめたグループ名でもあるんです。いまはその新しいプロジェクトでアルバムを制作中っていう感じですね。


REMI (ROUNDHOUSE / DAWD) - ele-king

All time favorite BOOTLEG KILLER HOUSE tracks

MORE INFO
AIRでシカゴハウスパーティ「ROUNDHOUSE」やってます。次回は4月17日金曜日にシカゴのゴッドファーザー「Marshall Jefferson」をゲストDJに開催します。
https://www.air-tokyo.com/schedule/2013.html

DJスケジュール等はこちらで。
https://acidbabyjam.blogspot.jp/
https://twitter.com/theacidbaby
https://www.facebook.com/remi.yamaguchi.3

出版不況があたりまえのこととなり、ベストセラーとそうではない本の二極化が進むなか、それでも書店には本を特集した、本のための本が多く見受けられるのは、消えつつあるものへのノスタルジーなのでしょうか?

この本はそうは思いません。本という「メディア」がつねに再考されるのは読者の動機をこえる「体験」を「読む」ことがもたらすことにあります。
本書ではまずもってそのような本を探し求めます。一見してカタログ風ですが、この本は利便性だけを追究するものではありません。

2015年を映しながら、しかしことさら現在にこだわらないことによって過去より現在を腑分けする「読む」こころみを、ぜひ本書を開いて探してください。

〈目次〉
第1章
■小説■
音楽と本の関係 高城昌平(cero)インタビュー 聞き手:磯部涼
タルホ座流星群ふたたび 増村和彦(森は生きている)インタヴュー 聞き手:野田努
世界の外に立たない思考 保坂和志 インタヴュー
小島信夫の6冊あまり 松村正人
メタフィクションの功罪とパラフィクションの現在 佐々木敦インタヴュー
アンケート 私の3冊 湯川潮音
21世紀の国内文学10 矢野利裕
小説のマジカルタッチ ラテンアメリカ文学の世界 寺尾隆吉インタヴュー
21世紀の海外文学 石井千湖
終わりから70年目の戦争の4冊 松村正人
1990年代の6冊 矢野利裕

第2章
■政治、思想、批評と教育■
いまだ表現の自由は可能か!? 対談:五野井郁夫×水越真紀 松村正人
アンケート 私の3冊 寺尾紗穂
古典と歴史 その読み方 石川忠司
強制と自発のアレンジメント 転向論を読み直す 矢野利裕
「学校では教えてくれない」が意味すること 若尾裕
実践により「社会」を読むための5冊

第3章
■詩と詩人たち■
21世紀の短歌研究 世界の底の13歌集13首 永井祐
渇きを癒す書物 満員電車を見送る方法 友川カズキインタヴュー
詩写真 Making Time 辺口芳典

第4章
■サブ/カルチャー■
貫読のススメ 画竜点睛を欠くことの心得 湯浅学インタヴュー
結末は最後まではわからない 染谷将太インタヴュー
オラリティー(声)とリテラシー(文字)の相克 三田格
読書というポップ 山崎晴美を作った本 山崎晴美インタヴュー
意味もなく内側のスリルだけを頂くための20冊 山崎晴美
矛盾体が生み出す言葉 失われた音楽書を求めて 大谷能生
ロックの“夢見る力”は無限大 シーナ『YOU MAY DREAM』を再読する モブ・ノリオ
映画を観る筋肉 いま発見すべき映画本 樋口泰人

写真:菊池良助 小原泰広

interview with Kikuchi Kazuya - ele-king


菊地一谷
CONCRETE CLEAN 千秋楽

Pヴァイン

Hip Hop

Tower HMV Amazon iTunes

 アニマル・コレクティヴ、ムー、ヤー・ヤー・ヤーズ、マイク・オールドフィールド、ジ・エックス・エックス、トーキング・ヘッズ、プリンス……、QN改め菊地一谷の口からは年代もジャンルも雑多なミュージシャン、バンドの名前が出てくる。人騒がせな行動のおかげで、筆者が彼に出会ったときの大切な第一印象を忘れそうになっていたことに気づく。菊地一谷は音楽好きのラッパー/プロデューサーで、レコードを掘るのも大好きな男だった。一時は音楽への情熱が薄れたのかと思わせる発言も耳にしていただけに、再び音楽への情熱を取り戻したと聞けてうれしかった。

 菊地一谷はQN名義で昨年リリースした『DQN忠臣蔵~どっきゅんペチンス海物語~』からMPCとトライトンでの制作へ移行している。そこで彼は、スウィズ・ビーツのミニマリズムとエッジの効いたコールド・ファンクが合体したようなヒップホップ・サウンドを展開した。菊地一谷名義のファースト・アルバム『CONCRETE CLEAN 千秋楽』のサウンドはその深化形であり、さらに本作にはプリンスやトラップ・ミュージックや90年代ブーム・バップの要素も多分に含まれている。ちょっと未来的な感じだ。
 また、SEEDA、NORIKIYO、菊地成孔、田我流、北島、高島、MARIA、RAU DEF、菊丸、GIVVN(LowPass)といったゲスト陣が参加しているものの、菊地一谷が彼らに食われていない、というのがもうひとつのポイント。ゲスト・ラッパーに頼りっぱなしでお茶を濁したような作品ではない。謙虚に見せつつも主役は俺だというエゴを出しているのがいい。さらにさらにこの男、どこか放っておけないという気分にさせるさびしげな詩情を持っているからズルイ。

 取材場所へ登場した彼は筆者にドトールのコーヒーと茶菓子を手渡し、「どうぞよろしくお願いします」と言った。ん? あれだけ拒絶していた大人になったのだろうか。仕事をして、飯を食って、仲間とチルして、音楽を作る。そういう日常のサイクル、菊地一谷流のヒップホップ的ライフ・スタイルからこの最新作はできあがっている。そのように菊地は語った。さて、その真意とは?

■菊地一谷 / きくちかずや
またの名をQN。2012年までヒップホップ・クルーSIMI LABに在籍。数多くのストリート・ネームを持ち、楽曲も多数手掛けてきた異才にして、理解され難い行動や言動でも記憶されるプロデューサー/ラッパー。前作『DQN忠臣蔵~どっきゅんペチンス海物語~』リリース後、菊地成孔プロデュースによる女優・菊地凛子の「Rinbjö」名義でのデビュー・アルバム『戒厳令』へも参加。2015年、音楽活動を再スタートさせることを宣言し、客演にSEEDA、菊地成孔、NORIKIYO、MARIA、RAU DEF、GIVVN(from LowPass)、田我流、菊丸、高島、北島などを迎えてのアルバム『CONCRETE CLEAN 千秋楽』をリリースした。

“CLEAN”という言葉が出てきたのは、これまでのちょっとイリーガル感のある作品じゃなくて、ヒップホップであっても若い世代に悪影響のない音楽を作りたかったからなんです。

まずやはり『CONCRETE CLEAN 千秋楽』というタイトルですよね。

菊地一谷(以下、菊地):最初からシンプルかつライトな聴きやすい音楽を作ろうというコンセプトがあって、タイトルも菊地一谷の頭文字を取って『KK』にしようと考えてたぐらいなんです。でも、客演を集めていくなかでSEEDAくんのフィーチャリングが決まって、俺がふざけて『CONCRETE GREEN』をもじったりしていたら、『CONCRETE CLEAN』にたどりついた。“CLEAN”という言葉が出てきたのは、これまでのちょっとイリーガル感のある作品じゃなくて、ヒップホップであっても若い世代に悪影響のない音楽を作りたかったからなんです。

“イリーガル感”のある作品とは、『DQN忠臣蔵~どっきゅんペチンス海物語~』のこと?

菊地:それもそうですけど、僕自身がいま普通に働いてクリーンな生活をしていたから、そこからもきてますね。あとなにより、『CONCRETE GREEN』は僕の憧れのアルバムだったんですよ。僕らの世代にとってあのコンピはすごく大きい。『CONCRETE GREEN 5』以降、とくに『CONCRETE GREEN 8』や『CONCRETE GREEN 9』ぐらいになると、若い世代もかなり収録されていたから、「俺にもいつかオファーがくるんじゃないか」と思ってたんです(笑)。でも自分は入ることができないまま終わってしまった。だったらもう自分で作るしかないなと。だから、このアルバムは『CONCRETE GREEN』のパロディと思っていただきたいです。

ということは、『CONCRETE GREEN』監修者であるSEEDAと“神奈川ハザード”で共演できたのは感無量なんじゃないですか?

菊地:それはめっちゃありますね。SEEDAくんとNORIKIYOさんといっしょに曲を作れたのは大きいです。“神奈川ハザード”は、SEEDAくんが川崎出身で僕が相模原出身なんで、神奈川つながりで曲を作りましたね。

実際いっしょに制作してみてどうでしたか?

菊地:SEEDAくんのヴァースはフリースタイルなんですよ。じつは僕が半分騙したんです(笑)。

どういうこと?

菊地:最初はレコーディングと言わないで、「家に遊びに来てください」って誘ったんです。それで自分の部屋やリヴィングで遊びながらいい感じになってきたところで、「フリースタイルでいいんで俺のアルバムに入ってほしいです」ってお願いしたんです。SEEDAくんには、「お前、ハメたっしょ?」って言われました(笑)。そう言いながらもSEEDAくんは、30分ぐらいフリースタイルしてパリッと作ってくれました。

だからなんですね。SEEDAのリラックスした、隙間の多いフロウがすごい気になってたんですよ。“神奈川ハザード”の2人のラップには中毒性がありますね。

菊地:そうですね。でも僕はリリックを書きましたね。

NORIKIYOとの共作はどうでしたか? NORIKIYOをディスした曲以降、2人の関係について気にしているファンやヘッズもだいぶいますよね。

菊地:自分のいまの考えではビーフはよくないです。自分がNORIKIYOさんをディスったことを振り返ると、自分のやり方は間違っていたと思いますね。ああいうディスやビーフにヒートアップしてくれた人もいますけど、人のことをおとしめる音楽はやっぱりよくないなと。とはいえ、NORIKIYOさんをディスったのには理由があって、相模原の地元でずっと憧れ続けてた存在だったからなんです。単に営業妨害や邪魔をしたかったわけではなくて、音楽的に勝負したかったんです。だけど、それがああいう形になってしまった。そういうことを今回NORIKIYOさんに話したら理解していただけて、あらためて音楽的な部分で勝負させてもらいましたね。


人のことをおとしめる音楽はやっぱりよくないなと。

今回の作品で僕がまず素晴らしいと思ったのは、豪華なゲスト陣に菊地一谷が食われていないところなんです。フィーチャリングの多い作品の場合、聴く側からすると主役のラッパーがゲストのラッパーに負けていないかというのはいちばん気になるポイントでもあるじゃないですか。そこは考えてアルバムを構成したんじゃないんですか? ヴァースをラップしてる人たちに食われてないだけではなくて、菊地成孔や田我流はフックで歌ってもらうだけにとどめてますよね。

菊地:そこはゲストのみんなに無理のない程度に際立ってもらうようにお願いしたんです。それもありますし、僕がキチキチに気張った音楽が好みじゃないのもあって、さっぱり作ってほしいって依頼したんです。田我流くんは、「ヴァースも書きたいしフックもやる」と言ってくれたんですけど、フックで歌ってもらうだけにしました。田我流くん、SEEDAくん、NORIKIYOさん、それに菊地(成孔)さんはみんな大御所ですし、そのほうが高級感も出ると思ったんです。だからメインの役割は僕がやって、ゲストの人たちにはちょっと食べてもおいしいキャビアみたいな感じになってもらいましたね。ただ、MARIAにはヴァースまで書いてもらった曲(“続BETTER”)とフックだけの曲(“SLAVE ROCK”)をそれぞれ作ってもらって、RAU DEFにもかなり協力してもらってますね。

菊地一谷 feat. 菊地成孔“成功までの道のり”

菊地一谷 feat. MARIA“SLAVE ROCK”


名前に頼らないで自分の音楽とスタイルが評価されればいいし、それで存在感を示せればおもしろい展開が作れるんじゃないかと思って名前を変えました。

ところで、このタイミングでまた名前を変えたのはどうしてですか? 

菊地:QNっていう名前にいろんなバックグラウンドがついてしまったから、それに収拾をつけるために名前を変更したのがまずありますね。それと、しょっちゅう名前を変える人間が作品をポンポン出して、その上で注目されるのはそれなりのハードルだと思うんです。だから、自分への試練ですね。名前に頼らないで自分の音楽とスタイルが評価されればいいし、それで存在感を示せればおもしろい展開が作れるんじゃないかと思って名前を変えました。

それでなぜ菊地一谷?

菊地:菊地凛子さんからオファーが来たときに(菊地一谷はRinbjö『戒厳令』に参加)、「ハリウッド女優からオファー来た!」ともう舞い上がってしまって、しかも菊地成孔さんからもオファーが来てるし、もう菊地一派に入れてもらおうと完全な独りよがりでこの名前にしました。

なんだそれ……(苦笑)。

菊地:菊地一派に入りたいがためだけにこの名前にしましたね。

おふたりは何か言ってましたか?

菊地:いや、複雑な顔してたっすね。「ま、いいよ。勝手にやれば」みたいな感じだったと思います(笑)。

そりゃ反応のしようがないですよね。ぜったいまた名前変えるでしょ?

菊地:ファッションでも大人ラインと自由度の強いキッズのラインがあったりするじゃないですか。菊地一谷はそういう意味では大人路線ですね。

ただ少し前に話したときは、音楽への情熱が薄れているような発言をしていたけど、音楽への興味や探求心も復活してきたんじゃないですか?

菊地:そのとき言ったことは撤回したいですね。

それはよかった!

菊地:いまは音楽は宇宙の世界で、キリがないほどいろんな構成が作れると思ってますね。あとけっきょくレコーディングがすべてなんです。ただ日々ダラダラと生活してる人間がレコーディングのときだけ急にちゃんとできるはずがないんです。毎日の生活があってはじめてレコーディングがあるということにようやく気づいたんです。たしかに音楽への興味がなくなったときはあって、そのときはファッションに興味が行ってましたね。そういう時期があったのもいまはよかったと思ってますね。


ただ日々ダラダラと生活してる人間がレコーディングのときだけ急にちゃんとできるはずがないんです。毎日の生活があってはじめてレコーディングがあるということにようやく気づいたんです。

たしかに服は超持ってそうだよね。見るたびにちがうファッションだもんね。

菊地:服や靴の量はヤバいですね。(取材場所のP-VINEの会議室を見回して)ここが埋まるぐらいありますね(笑)。


トラップ・ミュージックをヒップホップでクラシックとされてる90年代のサウンドに混ぜたような音が作りたかったですね。

なるほど。もう少しアルバムの話をしたいんですけど、『CONCRETE CLEAN 千秋楽』は『DQN忠臣蔵~どっきゅんペチンス海物語~』の延長線上にありますよね。サウンドのひとつの核は電子ファンクですよね。

菊地:それもあるし、グッチ・メインのプロデューサーだったり、ウェスト・コーストのヒップホップだったりにけっこうハマってたので、そういう要素もあると思いますね。それと自分としてはわりとクラシック路線を狙っていきましたね。

たしかに菊丸との“菊エキシビション”とか菊地流のGファンクですよね。クラシックな路線を狙ったというのはもう少し具体的に言うとどういうこと?

菊地:最近のトラップ・ミュージックも聴き慣れると悪くないなっていう感じがあって、そういうトラップ・ミュージックをヒップホップでクラシックとされてる90年代のサウンドに混ぜたような音が作りたかったですね。

『NEW COUNTRY』を出したあとのインタヴューでは、トーキング・ヘッズの『ストップ・メイキング・センス』にインスピレーションを受けたと話してましたけど、そこに関していまはどうですか?

菊地:トーキング・ヘッズはいまも好きですけど、当時ほどは熱が入っていないですね。どちらかと言えば、最近は新しい音楽を聴いてる感じですね。

たとえば?

菊地:最近はプリンスのアルバム(『Art Official Age』)がおもしろいと思いましたね。

Prince“Breakfast Can Wait”

あのアルバムはよかったよねー。

菊地:あと、昔はレコードで音楽をかなり聴いてたんですけど、いまはMixcloudを再生したりしてさっぱりした感じで音楽を聴いていますね。音楽を聴くのもそうだし、音楽の制作もさっぱりやってますね。午前中に仕事して、夜は友だちとお酒飲んだりしてチルして、その流れで音楽をさくっと作ると。だから、今回はパラデータのやり取りもしてなくて、ミキシングもマスタリングも自分でやってますね。スタジオに入ってレコーディングするっていう気張った制作の仕方ではなくて、ライフ・スタイルの一環として音楽を作るようになりましたね。

生活の流れで作ってパッと出すと。そういう制作がいまの菊地一谷の考えるヒップホップらしさなんですか?

菊地:そういうふうに思ってますね。

ラテンにはラテン、ジャズにはジャズのコード感があるのもなんとなくわかってきていて、もちろん専門的なことを言いはじめたらちゃんと勉強した人にはかなわないけど、独学ミュージックでそのあたりも追及していきたいですね。

いまもMPCとトライトンで制作してますか?

菊地:『DQN』からトライトンを導入しましたね。

しかしマスタリングまで自分でやったんですね。

菊地:全部〈ミュータント・エンパイア・スタジオ〉っていう自宅スタジオで作ったっすね。MARIA、RAU DEF、SEEDAさん、菊丸、GIVVNもそこレコーディングしてます。やっぱりお金をかけてスタジオを借りて作業して、毎回パラデータを作って制作すると、どうしても1、2年に1枚のペースが限界になる。もっとはやいスパンで僕の音楽を聴きたい人に自分の音楽を提供したいと考えたときに、今回のようなスタイルがいちばんでした。

そうすると、これからだいぶ制作のペースが上がる感じですか?

菊地:いちおうペースは上がる予定です(笑)。『CONCRETE CLEAN』のシリーズは今年中に最低でももう2作完成させようと思ってます。

へええ。音楽にたいして再びピュアになってきたんじゃないですか?

菊地:そうですね。そう言っていただけたらありがたいです。

“コンクリート・ピュア”なんじゃないですか?(笑)。

菊地:はははは。だと思いますね(笑)。

ところで、今回作りたい理想の音というのはありました?

菊地:作りたい理想の音はたしかにあるんですけど、言葉で説明するのは難しいし、今回はあんまりそういうことを考えなかったですね。今回のトラックはここ1年ぐらいで作ったもののなかから選んでいて、このアルバムのために新しく作ったのは“アチチチ”と“SLAVE ROCK”ぐらいです。今回の菊地一谷のファーストはこれまで作ってきたビートがメインで、次の作品で自分の理想に近づけたいですね。個人的にはMARIAとの“続BETTER”のビートや“アチチチ”のラテンっぽい感じが気に入ってますね。

“アチチチ”はラテンだよね。

菊地:意外とラテン音楽とか好きなんですよ。

そうなんだ。レコードを掘ってる?

菊地:ラテン系の音楽はかなり掘って聴いてます。ラテンにはラテン、ジャズにはジャズのコード感があるのもなんとなくわかってきていて、もちろん専門的なことを言いはじめたらちゃんと勉強した人にはかなわないけど、独学ミュージックでそのあたりも追及していきたいですね。

なるほどー。なんか話をきいてると、大人になってきた感じですか?

菊地:はははは。やっぱりバレてるんすね、そういうこと(笑)。自分のライフ・スタイルって考えたときに、こだわりを持っていくうちにいまの形に近づいていますね。

2012年のインタヴューでは大人になりたくないと言っていましたもんね。

菊地:いまもずっとキッズでいたいと思ってるし、僕の音楽を聴いてくれるリスナーのことも考えてますけど、ただ好き勝手やるだけでは意味がないと思うんです。菊地一谷はファッションで言う大人ラインとして、音楽を大事にしていきたいと思いますね。




本インタヴューにつながる“QN”時代のお蔵出しインタヴューを公開中!

interview with Awesome City Club - ele-king


Awesome City Club
Awesome City Tracks

CONNECTONE

PopsIndie RockSoul

Tower HMV Amazon

 Awesome City Clubというバンドを最初に聴いたとき、極力演奏者としてのエゴを外に出さないようにした、言葉は良くないかもしれないけれど、BGM、もしくはスーパーマーケット・ミュージック的な音楽を作ろうとしているのではないか、と感じた。そこで聴いている人たちの行動の背景に寄り添った、奥ゆかしいポップ・ミュージック。それはともすれば職人的な作業のようにも思えたし、だからこそ、最初はライヴ活動ではなく、自主でCDをリリースするでもなく、ネット上に音源をひたすらアップロードしてその存在を認知させていくような手法をとっているのだろうと納得していたものだった。彼らの作品から、いわゆるシティ・ポップ然としたものだけではなく、60年代のラウンジも70年代のノーザン・ソウルも80年代のエレ・ポップも90年代のブリット・ポップも00年代のチルウェイヴも2010年代のシンセ・ポップも……と、あらゆる心地良いポップスのツボを闇雲に探しまくっているひたむきな姿が伝わってきたことも職人の第一歩を思わせるものだったと言っていい。

 だが、ここに届いたファースト・アルバム『Awesome City Club』を聴いて、そういう耳に心地良いBGMのようなポップスを作る職人的な自分たち、という在り方を今度は明らかに武器にするようになったんだということに気づかされた。00年代以降の感覚で気持ち良い音を作ることに腐心する若き職人たちである自分たちが表舞台に立ったらこうなるんだよ、とでもいうような主張なき主張。プロデュースとミックスを担当するのがトラックメイカーとして活躍するmabanuaということもそういう意味では象徴的だ。メンバー5人揃っての取材でその作り手の心理を問うてみた。

■Awesome City Club / オーサム・シティ・クラブ
東京を拠点として活動する男女混成5人組バンド。2013年、それぞれ別のバンドで活動していたatagi、モリシー、マツザカタクミ、ユキエにより結成され、2014年、サポートメンバーだったPORINが正式加入して現在のメンバーとなる。「架空の街Awesome Cityのサウンドトラック」をテーマに楽曲を制作・発信。CDを一切リリースせず、音源は全てSoundcloudやYoutubeにアップしており、再生数は10万回を超える。ライブ活動においては海外アーティストのサポートアクトも多数。『Guardian』(UK)/『MTV IGGY』(USA)など海外メディアでもピックアップされるなど、ウェブを中心に幅広く注目を集めている。
atagi(Vocal/Guitar)、PORIN(Vocal/Synthesizer)、モリシー(Guitar/Synthesizer/Vocal)、マツザカタクミ(Bass/Synthesizer/Rap)、ユキエ(Drums/Vocal)

時代性があるような、ないような……どの時代でも自分のメロディをちゃんと作れるような方々が好きですね。(ユキエ)

一般的にAwesome City Clubが紹介される際、「シティ・ポップ」という言葉でまとめられてしまうことに少し疑問を感じていまして。

マツザカタクミ:ええ、ええ。

逆に言えば、どこにルーツの起点があるのかわかりにくいから、「シティ・ポップ」なる言い方にとりあえず置き換えているようにも思えるんです。で、それは、最終的に音に対する感覚を示した言葉なんだろうと。そこで、まず、Awesome City Clubが他のどういう作品と並べられたら本意だったりするか、から訊きたいんですが。

PORIN:私は岡村(靖幸)ちゃんですね。この間、ライヴを観に行ったんですけど、そこにきているあらゆる世代の人を巻き込むようなエネルギーがすごいなあって思いました。人間力みたいなところですね。

マツザカ:僕はペトロールズとceroの間かな。というか、最初、HAPPYとかthe finのような洋楽っぽいバンドと、細野晴臣さんをルーツにしたような、もう少し文系寄りのバンドの中間をやりたいなと思っていたんです。

モリシー:僕もペトロールズと……あとフォスター・ザ・ピープルかな。このバンドで最初に曲を作っていた時に、リファレンスとしてフォスター・ザ・ピープルを聴いていたりしたんです。この感じを日本語でやれたらいいな、とか。バンドとしてもいいけど、音像がとてもよくて……。

ユキエ:私はユーミンさんとか山下達郎さんとか桑田佳祐さんとか……時代性があるような、ないような……どの時代でも自分のメロディをちゃんと作れるような方々が好きですね。もともと私、歌がやりたくて音楽をはじめたんですけど、音楽に関わる方法として最終的に選んだのがドラムだったんです。いろいろやってみたんですよ。ギターもやってみたけど楽しくなかった。でも、ドラムだったら楽しいしやっていけるって思えたんですよね。それでもリズムっていうよりも歌、メロディを聴いてしまうんですけどね。

僕らスタジオにいる時間が多いんですよ。とくに曲を作るわけでもなく、ライヴのための練習というわけではなくても──。(モリシー)

atagi:僕は平沢進と宇多田ヒカル。その間に並べられるようなのだとうれしいなと。どっちも強烈にメロディに個性があるのと、平沢さんの曲なんて変態とも思えるような曲作りだけど、ちゃんと音楽愛があって一つ一つの音に必然があるんです。それは宇多田ヒカルの曲にも感じるんですよね。

なるほど。それぞれが好きなアーティストに、良いと思えるアングルがかなり明確なんですね。岡村靖幸の持つライヴでのエネルギーとか、ユーミンや達郎のメロディとか。パーツ、パーツでリファレンスが分かれるというか。

マツザカ:ああ、たしかに。フォスター・ザ・ピープルはミックスが良かったりするんですよね。

いま名前が出たアーティストの作品はメンバーみんなで共有していますか?

マツザカ:そうですね。わりと共通して聴くようにはしてるかな。

モリシー:曲作りをしているときに名前が出ることもあるし、普段“こんないいの見つけたぜ”みたいに会話して共有することもありますね……僕らスタジオにいる時間が多いんですよ。とくに曲を作るわけでもなく、ライヴのための練習というわけではなくても──。

マツザカ:最近は他にやることが増えてきましたけど、基本は週にどのくらいはスタジオに入る、というようなことは決めていますね。

ユキエ:すごいときは昼から翌日の朝までずーっと入っていたり……(笑)。

モリシー:そういうときは、昼から練習をして、夜になったらそのまま朝までレコーディングをする、みたいな感じですね。で、曲を録音し終えたらSoundcloudにすぐアップして。だから、最初はネット上で曲を発表することが多かったんです。

スタジオでの作業が好きということですか。ライヴをするよりも。

全員:(口々に)うん、そうですね。

マツザカ:絶対そうだと思います。

スタジオが好き、という感覚は誰からの影響、どこから養った感覚なんですか?

マツザカ:このバンドがはじまる前、メンバーそれぞれ別のバンドで、そのときはライヴ中心の活動をしていたんですけど、思うような結果が出なかったんです。ただライヴをやって曲を演奏して……というのではダメなんだと。それで、もっと作為的に曲を作って、発表していくようにしてみたらどうだろう? って思うようになったんです。つまり、最初は無料で聴いてもらって、自分たちのことを知ってもらって……っていうような順序ですね。

つまり、無料試聴をプロモーション・ツールとして生かすために曲が必要だった。だからスタジオでどんどん曲を作っていくことにした。おのずとスタジオにいることが多くなった……という流れがこのバンドの出発点だったということですか。

マツザカ:そうです。もちろん集中しているし、頑張っているんです。頑張ってるベクトルを他のライヴ中心のバンドと少し変えてみた、ということだと思います。

こういう音が欲しいよね、みたいな座組を最初に考えているからこそ、スタジオでの作業時間が長くなるし、そこでの作業が増えていく、という感じですね。(マツザカ)

なるほど。そこには、単に曲を作って、まずは無料で聴いて自分たちを知ってもらいたいという側面以外の醍醐味、たとえば、スタジオでしっかりと曲を作り込むことの楽しさ、カタルシスもあると思うんですよ。

マツザカ:あ、それは絶対ありますね。

モリシー:個人的には細野晴臣さんみたいに、狭山のスタジオで時間を気にせず録音したりするようなのには憧れるんですよ。そういうのが僕らの活動の根っこにあるのは間違いないですね。

マツザカ:こういう音が欲しいよね、みたいな座組を最初に考えているからこそ、スタジオでの作業時間が長くなるし、そこでの作業が増えていく、という感じですね。でも、自分たちでも納得した作品を作ることが目標になっているから、やっていて楽しいし、みんなでスタジオに入ることも苦じゃないですね。

そういう活動の中からでも優れたポップ・ミュージックは生まれるんだということを伝えることができる。

マツザカ:そうですね。それは大きいと思います。

こういう活動方針でいいんだ、と自信を持つことができたきっかけはありました?

atagi:Gotchさん(ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文)が背中を押してくれたのが大きかったですね。

モリシー:音楽的にはけっして近いわけでもないし、僕らにしてみればもちろん大先輩だし。そんなGotchさんに届いて、しかも、どうやら気に入ってくれてるぞ、というのがとにかく嬉しくて。もちろん、好きなことをちゃんとやる、というのを大前提にしていたわけですけど、認められたくてウズウズしていたときにGotchさんに届いたっていうのはやっぱり大きかったですね。これでいいんだって。

Gotchの去年のソロ・アルバムも最初は一人で音を出すことからはじまって、スタジオ制作に集中しながら作り上げたものでしたからね。実際に、そういう先輩たちの作品の音作りを具体的に検証したり、研究したりしたようなことはしました?

atagi:エンジニア的な作業もふくめて、僕ら、最初は見よう見まねだったんです。でも、あるときから別のスタジオで知り合ったエンジニアの方にいろいろと伝授してもらって実地で教わって。こういう音はこうやって出すんだよ、みたいなふうに言われたことを試してみるようになって……。いまは作品を聴きながら“どうやってこの音は出すんだろう?”みたいなことは考えて学んだりしていますね。

ということは、これまで外部のプロデューサーに頼って制作したことはなかったと。

マツザカ:そうですね。これまでは全部自分たちで録音していました。音決めのジャッジも自分たちで。ただ、今回のアルバムはプロデューサー(mabanua)さんやエンジニアさんをお迎えしました。

PORIN:レコーディング前に必ず音の価値観みたいなのを確認し合うんです。誰かの作品を聴きながら“こういう感じの音がいいよね”みたいにして。だから、いざ作業が始まってから迷ったり意見が分かれることはほとんどないですね。

atagi:感覚的に、ドラムの音もギターの音も、“カッコいい”より“気持ちいい”の成分を大事にしたいっていうところとか。バンドとして共通してそこをちゃんと全員が理解しているっていうのはありますね。

ドラムの音もギターの音も、“カッコいい”より“気持ちいい”の成分を大事にしたいっていうところとか。(atagi)

モリシー:それがどうやったら音で出せるのか、というのもだんだんとわかってきて。5人で音を出して合わせたときに、“あ、これメッチャ気持ちいいじゃん”って感じるような瞬間が掴めるようになってきましたね。

なるほど。私が新作を聴かせてもらって感じたのは、どれか一つの音が突出してその楽器の音色として主張するのではなく、むしろプレイヤーとしてのエゴみたいなものを意識的に押さえ込んで、意識的に平板にしているのではないか、ということなんです。シンセサイザーの音だと思ったらよく聴けばギターだった、ギターだと思ったらベースだった、というようにも聴こえる。つまり、あくまでメロディと歌、歌詞のために背景作りに演奏自体は専念するべく、そのために各パートが様々な音を演じている、というような。

モリシー:たしかに、僕ら全員それぞれのパートの特徴に固着はしていないですね。

マツザカ:逆に、プレイヤーとしてこう弾きたい、というより、編曲を意識して、その曲の中で、こういう音を出そう、こういう音が必要だからこうしよう、というようにそれぞれが考えて音を出している感じですね。それぞれのパートに任せる、というようなやり方をしないというか。

atagi:それはありますね。たとえば僕はリズムが好きなんですよ。でも、僕はギタリストだから関係がないということではなく、ギタリストとしてどう気持ちのいいリズムを作れるのか、ということを常に考えているし、他のみんなもそういう意識で統一されていると思うんですね。

でも、Awesome City Clubはリズムがガツンと出るようなサウンド・プロダクションではないですよね? むしろ、ベースもドラムも低音としての主張をほとんどしていない。にも関わらずリズミックな作風が貫かれているわけです。ここにはどういう創作の工夫があったと言えますか?

atagi:あ、それこそが“気持ちよさ”というのを追求した結果なんだと思いますね。僕はエンジニアとしての知識はないですけど、今回、mabanuaさんといっしょに作業をどうしてもしたくてミックスまでお願いしたんです。そしたらやっぱり思っていた通りの音像を作り出してくれた。現場では、こういう感じの音でいきたいんです、みたいなことは伝えていたんですけど、ちゃんとこっちの希望を理解してくれた。mabanuaさんの力は大きかったと思います。

たとえば、ニュー・オーダーを思わせるような、無機質なんだけどバウンシーな音の質感が感じられたりしますね。つまり、すごく無機質な音の感触を狙っても、フィジカルなバンドとしての有機的なものが自然と出てしまう。でも、最終的には熱くなり過ぎない。音の縦のレンジも広くない。限られたレンジの中に、コンフォタブルな感触を封じ込める作業に没頭したように聴こえるんですね。

モリシー:ああ、ニュー・オーダーは僕も個人的に大好きで。あらかじめ設定していなくても、レコーディングをしていて自然とエッセンスが出てしまうというのはあったかもしれないです。あのバンドには鍵盤もいればベースもドラムもいるけど、プレイヤーとしての主張が、少なくとも作品の中ではほとんど強調されていない。ギターもさりげなく居場所をキープしてアンサンブルの中で役割を果たしている、みたいな。そういうのがいいなと思って。たとえば僕は宅録の音作りが好きなんですけど、それをバンドでやるときにも生かしたいというか、必要な音を必要なときに鳴らすような感じであればいいかなと。

メンバー全員はプロデューサー的な第3の眼を持っているということですか。

モリシー:あ、そうかもしれないですね。たぶん、atagiなんかはメイン・ソングライターだから余計にそういうことを考えているんじゃないかと思いますけど。

atagi:このバンドを最初にはじめたときに、宅録のように音が整理されていて、有機的な音にはならないのかな、と思っていたんです。でも、実際に5人で音を出してみると、どうしても有機的な膨らみが出てきたんです。でも、それがイヤなものではけっしてなくて。個人的には宅録のあの感じが好きではあるんです。でも、バンドでやるときに心地良い音像っていうのをみんなで作り上げていくことにも喜びを感じたりするんですよね。

演奏者として主張が出ちゃうと、みんなあんまり楽しくなさそうなんですよ(笑)。不思議なもので、顔に出るんですよね。(PORIN)

では、なぜそういう“心地良い”音を求めるようになったんだと思っていますか?

atagi:歌詞や演奏で主張をし過ぎるようなバンドやアーティストがすごく多くて。それがトゥー・マッチに思えたんですね。で、自分たちで音楽をやるときに、そういうのはやりたくないな、とみんなで潜在的に感じていたんじゃないかと思います。

となると、ある種のBGM、何かをやるときに背後で流れている音楽でありたい、というようにも思われる可能性もあると思います。そこは本意ですか?

全員:あ、もう、まさに。

PORIN:その通りです。

atagi:僕らの音楽に対して、“架空の町のサウンドトラック”ってテーマを設けているのもまさにその通りで。やっぱりデイリーに聴ける音楽でありたいと思っていて。低音がバンバン前に出る音楽だと、好きではあるけど、毎日は聴けない。だから、さきほどおっしゃった、音のレンジが狭いというのも、その限られたレンジの中で心地良い音を作り上げていった結果なんだと思います。もちろん、曲のムードや風景を描くことは大事なんですけど、そこが過剰に主張しちゃうとダメなんじゃないかなって。

あくまで曲を作り上げていく一人になる目線を持ち続けていくということですね。でも、そこで作り手としてのエゴってどうしても出てくると思うんです。キャリアを重ねれば重ねるほど。これは自分の言葉だ、これは自分の音だ、というような。そことの戦い、折り合いはどうされているのですか?

PORIN:でも、演奏者として主張が出ちゃうと、みんなあんまり楽しくなさそうなんですよ(笑)。不思議なもので、顔に出るんですよね。他のメンバーもそうだし、肌に合ってないなっていうのが自分でもわかるんです。

奥ゆかしい音を出すことが主張である、と。

マツザカ:そうですね。こだわりがあるとすれば、まさにそこだと思います。メッセージがないところがメッセージだ、というのをコンセプトにしていたところがありましたからね。たとえば、僕はシャムキャッツが大好きなんですけど、彼らは東京郊外の町にいる人をフィーチュアして歌詞を書いたりしているし、ceroも東京に住んでいる人が描くパラレルな東京がテーマみたいになっているじゃないですか。それぞれちょっとずつ違う目線で東京という町を切り取っていて、それが一つ一つ形になっている。で、自分もなるべく同じものを観て、自分なりの見解を描ければいいなと思っていますね。でも、それを伝えなきゃ、というふうには強く思ってはいないんです。

atagi:気持ちじゃなく風景を歌うアーティストたちが最近増えてきているじゃないですか。とくに東京のインディーズのバンドとかって。でも、それって、自然としっくりきたスタイルが集約されたってだけだと思うんです。音に対してもそうで、「こういうのがいいと思うんだけど、どうかな?」みたいな感覚をなんとなく共有していくことを日々つづけているようなところがある。「これでオッケー?」「オッケーだよね?」みたいな。

つきつめていくと、ブラック・ミュージックにたどり着くと思うんですよ。そこに新しい感覚を与えることができるといいなと思っています。(atagi)

気持ち良い感覚をひたすら追求していくそれぞれの気持ちが一つに集約されていくことのスリル、みたいな感じですかね。

atagi:そうですね。つきつめていくと、ブラック・ミュージックにたどり着くと思うんですよ。でも、僕らは、そういうルーツを堀りさげていくというよりも、そのルーツに影響された音楽に興味があるし、今度は僕らがそういう音楽を作っていきたいという思いがある。バリバリの黒人音楽も好きだけど、ブルーアイド・ソウルだったり、黒人音楽のエッセンスを取り入れた音楽の中にある気持ちよさみたいなものですね。そこに新しい感覚を与えることができるといいなと思っています。

気持ちよさっていうのは、ある一定の経験に基づいた既視感、安心感によってもたらされるところがあるじゃないですか。それはともすれば、すでに出来上がっている価値観を再体験する、言わば保守的な作業かもしれない。でも、Awesome City Clubはそこに新しい感覚を与えようとしている。そこのバランスをどう意識していますか?

atagi:たとえば新作の中の最後の曲“涙の上海ナイト”、気持ちよくてラグジュアリーな曲を作りたいって意識のバンドがああいう曲は作らないだろうと思うんですよ。

歌詞も曲調もナンセンスな面白さがある曲ですね。

atagi:気持ちいい音楽として僕らが追求するジャズやソウルのマナーというか様式美にハマらないような、ハミ出る部分が出た曲だと思うんです。でも、ああいうイビツな曲でもグッド・ミュージックとして釣り合いのとれるものにすることができると思っていて。そこはかなり自覚的にやっていますね。でも、こういう音楽をやってシュッとカッコつけているということも自覚しているんです(笑)。

Black Zone Myth Chant - ele-king

 昨年11月にヒッソリと再来日を果たしていた流浪のフレンチ・サイケ・クラウト・ドローン・ドリフター、ハイウルフ(High Wolf)の公演に行かれた方はおられるだろうか。もはや遥か昔のようだが、初来日ツアーでのサポートにてさんざんタカられたトラウマから僕は彼ことマックスに顔を合わせていない……というのは半分ウソで、多忙にかまけて彼の今回のライヴ・セットをすべて見逃してしまったのを悔やんでいる。オフの日は普通にいっしょに遊んでいたのだが……。

 そもそものハイウルフのコンセプトはアマゾン出身の謎のミュージシャンという設定で、当初は仮面なんか付けちゃって、出来もしないライヴ・パフォーマンスをデッチ上げて強引なツアーを敢行していた完全なベッドルーム・ミュージシャンであった彼は、しかしその圧倒的な量のツアーをこなすことによって次第にリアルなスキルを身につけ、てか仮面とか被ってたら演奏しづらいしってことでコンセプトが有耶無耶になりながらもミュージシャンとしてめざましい成長を遂げたと言っていい。アナプルナ・イリュージョン(Annapurna illusion)と、このブラック・ゾーン・ミス・チャント(Black Zone Myth Chant)は異なるコンセプトの下に活動する彼の変名プロジェクトである。これも本人的に当初は別の誰かがやってるってことにしてほしかったと思うのだけれども、もはや完全にバレバレってのも彼らしい。

 BZMC名義としては2011年にリリースされた『ストレート・カセット(Straight Cassette)』以来、およそ4年ぶりとなる今回の『メーン・セセル・ファーレス(Mane Thecel Phares)』もまた彼が長年に渡ってワールドワイドなアンダーグラウンド・ミュージック・シーンにてドリフトを経た進化を充分に感じさせる内容である。胡散臭いエセ・エキゾ感は彼のその他のプロジェクトと同様だが、BZMCは彼のミュージシャンとしての出発点でもあるヒップホップ的ビートメイキングへの回帰でもある。時にインダストリアルな鉄槌感はあれど暴力的にはけっして展開せず、無意味に極彩色のアシッド・トリップに走ることを抑えてあくまで上品なサイケデリックを聴かせ、レトロなメロディによるリードが洗練されたトライバル・ビートを締めてくれる。同時代の変テコ電子音楽家たちに比しても見事にストイックな差別化を果たしていると言えるだろう。

 ちなみにリリース元である〈エディションズ・グラヴァッツ(Editions Gravats)〉はマックスと同郷で親交を深めるロウ・ジャック(Low Jack)によるレーベルである。噂によると、ていうか飲みながら本人が言っていただけなんだけども現在この二人によるバンド編成による新たなプロジェクトが水面下で進行中とのことでこちらもじつに楽しみだ。そしてマックスのハイウルフの新譜、グローイング・ワイルド(Growing Wild)は間もなくマシュー・デイヴィッドの〈リーヴィング・レコーズ〉より発売される。

 こっちもいっしょにレヴュー書こうかと思ってたけど、まぁ、いろいろお前には貸しもあるし、気分が向いたら書いてやんよバーカ、マックス、愛してるぜ。

ele-king限定公開〈4AD〉ミックス! - ele-king

〈4AD〉といえば、最近はバウハウスでもコクトー・ツインズでも『ディス・モータル・コイル』でもない。それはすでにディアハンターであり、アリエル・ピンクであり、セント・ヴィンセントであり、グライムスであり、インクのレーベルである......というのは引用だけれども、そのアップデートはさらに途切れることなくつづいているようだ。レーベルとしてのカラーをまったく色あせさせないまま、しかしそこに加わっていく音とアーティストたちはより多彩により新鮮に変化している。
先日もピュリティ・リングの新譜が発表されたが、これを祝して〈4AD〉のA&R、サミュエル・ストラング(Samuel Strang)氏がレーベルのいまを伝えるミックス音源を届けてくれた。ele-kingのために提供してくれたもので、もちろんピュリティ・リングからはじまるセット。ギャング・ギャング・ダンスやチューンヤーズのエクスペリメンタリズムもくすまないが、グライムスピュリティ・リングドーターなど〈4AD〉らしい幽玄のヴェールをまとうエレクトロニック勢、アリエル・ピンクディアハンターらのアウトサイダー・ロック、ソーンのインディR&B、ホリー・ハーンドンのテクノ、そして昨年大きな話題となったスコット・ウォーカー+サンのコラボレーションまで、未発表はないものの、「そういえば聴いていなかった」作品に気軽に触れて楽しめるいい機会なのではないだろうか。


Purity Ring - push pull
Gang Gang Dance - MindKilla
Ariel Pink - Dayzed Inn Daydreams
Deerhunter - Sleepwalking
Daughter - Youth
Grimes - RealiTi
Tune-Yards - Real Thing
SOHN - Artifice
Scott Walker + Sunn o))) - Brando
Holly Herndon – Interference

Selected by Samuel Strang(4AD)


DJ Soybeans - ele-king

最近購入&最高のパーティーでかかった1曲&そろそろ発売される盟友のフルアルバム

Crew of secret trafficking organization.
Also He is offering fabulous DJs at “Isn’t it?” that is small weekday party .
https://soundcloud.com/isnt-it-1

4/10 大阪Club Stomp "White Body"
https://club-stomp.com/
DJ:
oboco
OQ
DJsoybeans
AIWABEATZ
BIOMAN
LIVE:
NEWMANUKE
TECHNOMAN

4/11 大阪Club Circus "FACTORY"
https://circus-osaka.com/
DJ:
ALUCA
Matsuo Akihide
AIDA
Live:
Whan!
Albino Sound
DJ Soybeans

4/14 幡ヶ谷Forest Limit "Isn't it?"
https://forestlimit.com/fl/
DJ:
NODA
Sem Kai
DJ Soybeans

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