「You me」と一致するもの

VIVA x Television Personalities - ele-king

 昨年はザ・ドゥルッティ・コラムやカンなどをモチーフにした服が話題になった奥沢のViva Strange Boutique、いま現在はなんとテレヴィジョン・パーソナリティーズとのコラボを展開している。
 テレヴィジョン・パーソナリティーズのダン・トレイシーは、ザ・フォールにおけるマーク・E・スミスのような、ポスト・パンク時代の圧倒的な個として知られている。とはいえ、その疑いようのない才能と魅惑的な作品、大きな影響力(アラン・マッギーをはじめ、ペイヴメントやMGMTにまで広範囲に及ぶ)を思えば、ダン・トレイシーは決して幸運な人生を歩んできたとは言えない。
 70年代末にロンドンで結成されたテレヴィジョン・パーソナリティーズの音楽には、インディー・ギター・サウンドと括られるもののほとんどすべてがある。ウィットに富んだポップ・センス、ヴェルヴェッツ、モッズ、ローファイ、ペデンチックな言葉やアート、そして何よりも自分の痛みから生まれるメロディ、甘さ、弱さ、誠実さ、神聖なる若さ、そうしたものが詰まっている。もしあなたがギター・ポップと括られる音楽が好きであるなら、テレヴィジョン・パーソナリティーズの最初の4枚のアルバムは必聴盤だ。
 しかし、そうした彼の華麗な音楽とは裏腹に、ダン・トレイシーは長いあいだドラッグ中毒や貧困に苦しみ、盗みを働き監獄で暮らしてもいる。数年前は大病を煩い手術をし、いま現在も治療と療養を兼ねて施設にいるそうだ。今回のVIVAとのミーティングやデザインのチェックなどはzoomでおこなったそうだが、「久しぶりの明るいニュースだ」と本人は喜んでいたとのこと。
 それで生まれた5つのアイテム、初期テレヴィジョン・パーソナリティーズのスリーヴ・デザインを彷彿させるコラージュ感が良い感じで、当然のことながらモッズ・コートがいちばん最初にデザインされたようです。しかし……まさか“Mummy, Your Not Watching Me”がスウェット・シャツになるとは!

VIVA x Television Personalities


・"...And Don't The Kids Just Love It" Fishtail Parka (Mod's Coat) -
27,000円(税抜)/29,700円(税込)


・"Mummy, Your Not Watching Me" Sweatshirt
10,000円(税抜)/11,000円(税込)


・"Three Wishes" Long-Sleeve Shirt
9,000円(税抜)/9,900円(税込)


・"14th Floor" Long-Sleeve Shirt
7,800円(税抜)/8,580円(税込)


・"Where's Bill Grundy Now?" Tote Bag + Big Orange Badge
3,500円(税抜)/3,850円(税込)

3 久しぶりにCDを買った。 - ele-king

 先日久しぶりにCDを買いました。

 自分でCD買ったのは中学1年生のときのThe Strypes以来。Blue Collar Jane。懐かしい。 雑貨屋さんで良さげな音楽がかかっていて、売ってるものも可愛いし、いい店だなと思いながら見ているとCDが売っていてどうやら店内でかかっているのもそのCD。手に取ってみる と自作で小さい字でタイトルと曲名とアーティスト名がプリントされたシールが貼ってあるだけ。情報量の少なさが俄然興味をそそる。お店の方の話を聞くと店員さんの同居人が作っ たそう。ミステリアスで益々気になる。

1. Tomoya Ino - Phantasmagoria

 帰ってきて、埃のかぶったCD読み込むやつを探し出しダウンロード。17曲入りで全部良い。適当に買ったのにこんなに良いのってくらい良い。

 ほとんどインスト曲だけどギターの曲、ピアノの曲、padぽいシンセのアンビエントなどなど、バラエティ豊かだけど雑多で無く、派手すぎず地味すぎず、ちょうど良い。基本Lo-fiだけど飽きてきた頃にカオティックなノイズが出てきたり。こういうオールラウンドな“ちょうど良さ”を見つける感覚って貴重。

 残念ながら僕の買ったアルバムはネットには上がっておらず、アルバムの中の数曲が soundcloudとBandcampで聴けるようです。

 ネット上になかった僕のお気に入りの''Good morning''という曲はSteve Hiett, The Durutti Columnライクなメロディアスなギターの曲。ヴィニよりもバレアリック、チルアウト、 Lo-fi寄りなのが現代っぽい。

 最近僕はこういうまだほとんど世に知られていない音楽やミステリアスなアーティストに心惹かれる気持ちをより大切に思っていて。検索すればわりとマイナーなアーティストでもインタヴューの1、2本は出てくるし、TwitterやらInstagramで本人のつぶやきや私生活が見れる人もいるからネット上に情報が少ない人って好奇心をくすぐられる。 いままで貴重で興味深いものだったアーティストの私生活が、インターネットの発達とSNSの普及によって価値が薄れていってるのは社会全体でもあるんじゃないか。

2. Daft Punk

 さらばDaft Punk、the most enigmatic superstars in pop。いまさらダフト・パンクについてレヴューすることもないのですが、いざ解散すると言われると彼らについて話したくなる。僕は小学生のときipodに入れてもらってよく聴いていたので、たぶん僕のダンス・ミュージックの原体験はDaft Punk。自分がダンス好きって気付く前にポップ・ミュージックとしてDaft Punkを聴いてた人、若い世代だと多いのではないのでしょうか。

 久しぶりに“One More Time”なんか聴いたら、月並みですが、本当に体が勝手に踊り出す。“One More Time”の歌詞なんか気にしたことなかったけど、「We're gonna celeblate, don't stop dancing」ってダンス・ミュージックの歌詞としてこれ以上ないんじゃないかとちょっと感動。幼少期の記憶と結びついてる空っていうのもあるけど、開放と祝祭性の濃度が高すぎてパソコンの前で聴いてるだけなのにお腹がくすぐったくなる。

3. Zongamin - O! Versions

 カナダ・モントリオールの〈Multi Culti〉から2018年リリースの「O!」のリワーク版、「O! Versions」。 Mukai Susumuさんという日本生まれイギリス在住のアーティスト。Funk、Disco、House、Post Punkなど要素が多くて形容しがたいけど、怪しくオリエンタルな雰囲気で統一されて いる。自身で手掛けているジャケットのイラストも変で良い。

 KEXPでのFloating Pointsのライヴ映像でベースひいてたり意外なところで見かける。Mukai さんがメンバーのVanishing Twinというサイケバンドも◎。

4. ​Heisei No Oto - Japanese Left-field Pop From The CD Age (1989-1996)​- Various Artists

 アムステルダム、〈MUSIC FROM MEMORY〉から日本が最高潮で微妙な時代の珍妙なポップス。 僕はこの時代の邦楽全然聴いていないし、生まれてもいないので時代感もいまいちわからないのでJ-popというよりどこか近くの別の国の音楽に聞こえる。僕と同世代には新しいジャンルの音楽かも。

 細野晴臣アレンジの井上陽水「Pi Po Pa」は’90年NTTのイメージソングだったらしいですが、電話ランデブーって笑。いかにもバブリーな語感でウケる。
 シティポップ旋風もそろそろ下火かなと思ってたけどまだまだ掘り下げるようです。 そのうち“うっせぇわ”や“夜に駆ける”がどこかの国でヴァイナルとして再発されることでしょう。

あのこは貴族 - ele-king

 名前を伏せても思わせぶりなのでそのまま記すが、以前つとめていた雑誌の特集に箭内道彦さんにご登場いただき、取材のあとなんとなく雑談にながれた。そこで箭内さんがおっしゃっていたことで妙に印象にのこったのが、移動中につかまえたタクシーの運転手さんが、あなた東京のひとじゃないでしょ、と声をかけてきたこと。箭内さんの特徴的な風貌はごぞんじの方もすくなくないだろうが、バックミラー越しに一瞥をくれた運転手さんが断定したのは、東京のひとはあなたみたいな目立ち方は好まないんですよ、ということだったと思う。じっさい箭内さんは福島のご出身で、ちょうど10年前の東日本大震災以降は地元にまつわる活動もさかんだが、お話をうかがったのはそれより前なので、たとえメンがわれていたとしても故郷(くに)までしれるとも思えない。だのにきめつけるのは職業的な生理か接客業由来の千里眼かヘタなテッポウ流の当て推量か、いずれにせよそういいたくなるなにかがあった。

『あのこは貴族』の冒頭で門脇麦が演じる榛原華子がのりこんだタクシーの運転手は、あなた東京の方でしょ、と話しかける。ときは2016年1月、ホテルにむかう車中で、正月早々の東京でそんなとこにいくなんて東京のひと以外にありえないというのが運転手のみたてだった。はたして華子は東京の裕福な家庭に生まれた三姉妹の末っ子で、家族が顔をそろえる会食へ急いでいたのだった。2015年の『グッド・ストライプス』につづく岨手(そで)由貴子監督の2作目『あのこは貴族』はこの華子と、水原希子演ずる時岡美紀を並行的に描くなかで私たちの暮らしに目にみえないかたちで覆いかぶさるものを描き出そうとする。東京うまれの箱入り娘の華子にたいして、地方出身者の美紀は大学進学を期に上京する。ただしふたりは物語の中盤まで出会うことはない。不可視のものが両者を線引きするからである。それがタイトルの「貴族」の由来でもある階級的なものだというのがこの映画の基調をなしている。
 階級ときいて、この国にそのようなものがあるのかといぶかる方もおられるかもしれない。日本における階級は近代にいちど再編し敗戦と日本国憲法の法の下の平等により廃止になったが、ここでいう階級とは法とはむすびつかない。職業や収入がつくりあげた地位などを親から子へ継承する過程で自然発生的にあらわれる「家柄」のようなものといえばよいだろうか、この点では英国やインドをひきあいに私たちがしばしば述べる階級ともニュアンスがいささかことなる。はっきりとはみえないけれど、あっちとこっちをへだてている壁のようなもの。コロナ禍のずっと前から私たちのまわりにはアクリル板みたいなのがあってひとはそれに沿って生きてきた――のかもしれない、と監督の岨手由貴子はいいたがっているかにみえる。

 山内マリコの原作による物語は5章からなる。そこでは二項対立的な価値観が通奏低音のようにくりかえしあらわれてくる。階層の上と下、社会的な領域の内と外、東京と地方に男と女などなど、私たちの日々の生活にそのような区分や線引きがいかに根を張っているか、岨手由貴子は告発調とも無縁に描いていく。親のお膳立てに応えつづける上流階級のひとたちも、地元が世界のすべての地方のひとたちにも、彼女はひとしくまなざしをそそぎ、俳優たちは監督の狙いに自然体でこたえている。主人公ふたりのほかにも、華子の友人役の石橋静河、美紀と地元と大学が同じ女友だち役の山下リオの存在が物語に奥行きをもたらしている。彼女たちをふくめて、作中人物はひとしなみにひかえめで楚々としており、家柄や性別や居住地や経済状況がさだめる条件に、積極的と消極的とにかかわらず、結果的には忠実に生きようとする、生きてしまう。
 ある側面からみれば、これは未来という来たるべき時間にたいする期待の剥奪であり、階級を再生産する統治の技法である。作中でも、東京は住み分けされていて、ちがう階層のひととは出会わないようにできている、というようなセリフがある。そこでは社会階層は固定化し流動性はきわめて低い。下から上へ、階層の移行が成立しない社会は努力しても報われない社会であり、そのような空間は反動的に生得的なものへの没入がおこりうる。ポール・ウィリスの『ハマータウンの野郎ども』(ちくま学芸文庫)は英国の労働者階級の若者がなぜ、親と同じ仕事に就く傾向にあるのかを考えた社会学の古典だが、そこで取材を受けた労働者階級のある若者は学校教育を不要なもの、まどろっこしいもの、寄り道みたいなものだと述べる。世間の荒波にすこしでも早くふれるのが人生のなんたるかを知る近道だと彼は語るのだが、教育の猶予と選択肢を捨て去ることは他方では階級移行の可能性にみずからフタをすることにほかならない。『ハマータウン』は1977年の刊行だが、これは同じことは40年後の日本の地方でも地元志向の名のもとにくりかえされている。地方都市に生まれた美紀は進学という機会をテコに、生得的な共同体への懐疑なき没入からの離脱をこころみるが、家庭の経済的な事情で東京での学生生活の夢はついえてしまう。

 教育における階層化を論じるのは本稿の任ではないが、ひとことだけもうし述べれば、努力主義を内面化した果ての自助(自己責任)論は端的に欺瞞である。欺瞞のことばは未来をしぼませ、ひとを支配しようとする。生得的な属性はそのさい恰好の材料となり、ときに宿命を擬制するが、それらは偶然や宿命が本来的にそなえるあの複雑さを欠いている。せいぜいが占いレベル――であるにもかかわらず、固定化した社会通念がその価値観を内面化させるというこの無限ループ。むろん『あのこは貴族』に登場するだれひとりとしてこのような構図を俯瞰するものはない。彼らはあたりまえと思う暮らしをおくり、お見合いし、結婚し、ときに都合のいい女になり、家庭に入ったり仕事をしたりする。交錯することのないはずだった異なる階層のふたりの生がまじわるのも、高良健吾が演じる華子の夫幸一郎が美紀とも関係をもっていたからである。そのことに偶然勘づいた友人の仲介で華子と美紀ははじめて出会うが、ふたりは恋情のサヤあてをおこなうでも『黒い十人の女』さながら共謀して男をワナにかけることもない。物語における人物の相関関係は対立的なのがお約束だが美紀と華子はたがいに理解をしめし相手の領分にふみこもうとしない。ましてや「貴族」の表題から連想する革命的階級闘争(ということばを、私もひさしぶりに書きましたけれども)も出来しない。それぞれの問題をかかえそれぞれの暮らしにもどるのだが、出会いにより生まれた内面の揺れは、さざ波のように広がり、彼女と彼らが居るべき場所の外へほんのすこしふみだすときの背中を押す力にもなるだろう。そのかすかなうつろいを岨手由貴子はもうひとりの友だちのような距離感からていねいに掬いとっている。ロケーションや衣裳、小道具などの細部はそのさいのリアリティを担保し、渡邊琢磨のスコアは弦楽四重奏の形式に作中人物たちの関係性をおりこみ楽曲の構造で映画の主題を反復する、けっして大きくはないが、手仕事の巧みさとあたたかさの伝わる好ましい一作である。

映画『あのこは貴族』予告編


Jlin × SOPHIE - ele-king

 ポーランドで毎年開催されている音楽とアートの祭典《Unsound Festival》が、初めてのアルバムをリリースした。
 おもに同フェスに関わってきたアーティストたちによる楽曲が収められており(どれもパンデミックに対する応答として委嘱された作品のようだ)、エッセイや詩、小説などから成る325ページにもおよぶ本とのセットも用意されている。
 冒頭のクリス・ワトソンにはじまり、ニコラス・ジャーベン・フロストムーア・マザーディフォレスト・ブラウン・ジュニアティム・ヘッカーなど、強力な面々が大集合しているが、目玉はやはりジェイリンソフィーのコラボだろう。
 ほかにも上海の 33EMYBW、スウェーデンの Varg²™、ナイロビのスリックバックなど、近年要注目のアンダーグラウンドの精鋭たちが参加しており、ショウケースとしても楽しめる内容になっている。ヴァイナルは4月16日に発売。

Various
Intermission
Unsound Festival
March 5th, 2021

01. Chris Watson - Unlocked
02. Bastarda - Aperte
03. Slater, Guðnadóttir, Grisey - Happy, Healthy, Safe
04. mixed by Nicolás Jaar - Aho Ssan, Angel Bat Dawid, Dirar Kalash, Ellen Fullman, Księżyc, Laraaji, Nicolás Jaar, Paweł Szamburski, Resina, Rolando Hernandez and Wukir Suryadi - Weavings (Part 1)
05. Zosia Hołubowska and Julia Giertz - Community of Grieving (Part 1)
06. Ben Frost, Trevor Tweeten & Richard Mosse - Fire Front near Humaitá (excerpt from Double-Blind)
07. Lutto Lento - Good Morning Go Tears
08. Jlin X SOPHIE - JSLOIPNHIE
09. 33EMYBW - The Room
10. Varg2™ & VTSS - VARGTSS2
11. Moor Mother & Geng - This Week
12. Slikback - ZETSUBO
13. DeForrest Brown, Jr. & James Hoff - Project for Revolution in New York
14. Tim Hecker, Agata Harz & Katarzyna Smoluk - Demeter & Johannes' Song of Pandemia
15. Jana Winderen - re_Surge

https://unsoundfestival.bandcamp.com/album/v-a-intermission

Godspeed You! Black Emperor - ele-king

 打ち震えよ。ゴッドスピード・ユー!・ブラック・エンペラーの新作が出る。2017年の『Luciferian Towers』以来、4年ぶりとなるアルバムは『G_d's Pee AT STATE'S END!』と題されている。「国家の終わりに神さまのおしっこ!」とでも訳せばいいだろうか。彼らには圧倒的なサウンドの強度と、そしてアティテュードがある。怒りも悲しみも併せ呑みながら、GY!BEは現代のサウンドトラックを奏でつづける……発売は4月2日、〈Constellation〉から。


4521.0kHz 6730.0kHz 4109.09kHz from Constellation Records on Vimeo.

https://cstrecords.com/artist/godspeed-you-black-emperor/

Digga D - ele-king

 ロンドン郵便番号抗争はUKドリルにおけるメイン・トピックであるが、特に今回紹介する Digga D はその抗争の最前線のラッパーだ。Digga D が所属する Ladbroke を拠点とするギャング「CGM」は Fredo が所属する HRB と対立している(彼らの因縁は刑務所の中ではじまったという噂もある)。その対立は音楽的な競争という形で現れる。2月には Digga D のミックステープが Fredo のアルバムとほぼ同タイミングでリリースされており、実際の彼らのライバル関係を踏まえてこの作品は聴かれるはずだ。

 Digga D のキャリアを簡単に紹介すれば、2018年にフリースタイル動画で注目を集めたものの、同年、MVの撮影中に敵のギャングへの襲撃未遂の嫌疑で逮捕され、CBO(Criminal Behaviour Order)と呼ばれる、監視下の状態に置かれた。これは2000年代にロンドンの数々の海賊ラジオを取り締まった ASBO に代わる法的手段であり、「治安維持」を目的にドリル・ラッパーに活動の制限を課している。釈放後も Digga D の足には常にGPSトラッカーが付けられ、ミュージックビデオはロンドン警察のレヴューなしで動画アップロードすることはできなくなった。(こうした監視や検閲に対する批判はUK国内でもあり、BBC Three ではドキュメンタリーとしてまとめられている)

 四度の服役や、2019年には刑務所で目を刺され片目を失明するなどの困難もありながら、彼の勢いは止まらなかった。刑務所にいる期間にリリースされた 1st Mixtape に収録された “No Diet”(「コークはダイエットってことじゃない」という直球パンチライン)がヒットし、昨年は “Woi”(本作に収録)のヒットなど破竹の勢いで活躍を続け、2月には 2nd Mixtape『Made in the Pyrex』がリリースされた。

 前置きが長くなってしまったが、このアルバムはまさにローカルのギャングに対するメッセージがメインの作品だ。LAの Crips のように青いバンダナを旗のように掲げ、リリックにはだいたい敵側のメンバーの名前が入っている。ピー音で隠されているが、その直前のラインの韻から容易にその敵側の固有名詞が想像できる。グライムやフリースタイルで披露していた少し昔ながらのフローをリヴァイヴァルする “Bring It Back” で AJ Tracey が参加しているのも、AJ Tracey の地元が Digga D と同じ「Ladbroke Grove」だからであるし、“Folknem” に参加している Sav’O や ZK は Digga D が所属するギャング「CGM」のメンバーである。

45を撃て、トーラスに照準を合わせろ
俺たちは1対1(1 for 1)、非通知着信(141)みたく*
LOL、ナイフを手に持てよ
サウナをオープンしなくちゃな
ブリーチで肌が焼ける、8月みたく**
俺たちは Tallerz みたく、今でも危険を冒す

“No Chorus”

* イギリスでは電話番号の頭に141をつけると非通知着信になる
** 銃を打った後に手についた火薬を洗浄するため

 彼がここまでヒットしている理由はそのポップさにもある。“Woi” や “Bluuwuu” のような被せを上手く曲の中に取り入れて、音楽をポップに響かせる。音楽だけでなくダンスムーヴも必ず取り入れている。“Chingy” は「Chinging」(「刺す」というスラング)とUSのラッパー「Chingy」を掛けた言葉であるが、手を重ねるようなダンスムーヴが Tik Tok でバイラルヒットしている。いまや Tik Tok でのバイラルヒットはUKドリルでもヒットの必要条件であろう。

@mixtapemadness ♬ Chingy (It’s Whatever) - Digga D

 後半の流れではダンスホール・チューン “Window” で、ジャマイカ・ルーツを反映したパトワでのラップが非常に新鮮に感じた。王道で攻めた13曲は全てギャングスタについて歌ったものだ。自分のビジネス、ギャングにとことん拘る姿勢、そしてストリートの揉め事の渦中にあるスキャンダラスな存在として、いまUKストリートの中心にいるラッパーのひとりだ。

Mia Doi Todd - ele-king

 90年代から活躍するシンガーソングライターであり、ビルド・アン・アークなどとのコラボでも知られるLAのミア・ドイ・トッドが新作をリリースする。芯がありつつも透き通った歌声は健在、ゲストたちも非常に豪華だ。ジェフ・パーカーにサム・ゲンデル、ミゲル・アトウッド・ファーガソン、そしてララージまで。注目の1枚です。

MIA DOI TODD
Music Life

空間を浄化させる神秘的な歌声を持つ、ミア・ドイ・トッドのニュー・アルバム!! ロサンゼルスでレコーディングされたこのアルバムには、ジェフ・パーカー、マネー・マーク、ファビアーノ・ド・ナシメント、サム・ゲンデル、ミゲル・アトウッド・ファーガソン、ララージ等がゲスト参加した、至福の1枚。ボーナス・トラックを加え、日本限定盤ハイレゾ MQA 対応仕様のCDでリリース!!

Official HP :
https://www.ringstokyo.com/miadoitoddml

ミア・ドイ・トッドのLAの自宅を取材で訪れたのは、もう10年以上前のことだ。カルロス・ニーニョも一緒にいた。あの頃、ビルド・アン・アークでも歌っていたミアは、特別なシンガーソングライターだった。誰もが彼女の才能を讃えていた。現在の彼女も変わることなく、ジェフ・パーカーやサム・ゲンデルら新たな仲間たちの素晴らしいサポートも受けて新作を完成させた。これは、音楽に包まれる歓びに溢れたアルバム、そう断言できる。(原雅明 rings プロデューサー)

アーティスト : MIA DOI TODD (ミア・ドイ・トッド)
タイトル : Music Life (ミュージック・ライフ)
発売日 : 2021/4/21
価格 : 2,800円+税
レーベル/品番 : rings (RINC76)
フォーマット : MQACD (日本企画限定盤)

* MQA-CDとは?
通常のプレーヤーで再生できるCDでありながら、MQAフォーマット対応機器で再生することにより、元となっているマスター・クオリティのハイレゾ音源をお楽しみいただけるCDです。

Tracklist :
01. Music Life
02. Take Me to the Mountain
03. My Fisherman
04. Little Bird
05. Mohinder and the Maharani
06. If I Don't Have You
07. Wainiha Valley
08. Daughter of Hope
+Japan Bonus Track

GoGo Penguin - ele-king

 マンチェスターのレーベル〈Gondwana〉からの諸作で頭角を現し、独自のやり方でジャズとエレクトロニック・ミュージックをつなぐ試みを実践、近年は名門〈Blue Note〉から作品を発表しつづけているゴーゴー・ペンギンが、初のリミックス・アルバムをリリースする。
 リミキサー陣にはコーネリアスマシーンドラムスクエアプッシャー、ネイサン・フェイク、808ステイト、ジェイムズ・ホールデン、クラークらが名を連ねており……これは、テクノではないか!(〈Gondwana〉のポルティコ・クァルテットも参加)。
 長年コンセプトを温めていた企画だそうで、仕上がりが楽しみです。現在、マシーンドラムによるリミックスが先行公開中。か、かっこいい……

2020年にリリースした最新作『ゴーゴー・ペンギン』のリミックス・アルバムが登場。
コーネリアス、Yosi Horikawa をはじめ世界最高峰のアーティストが参加!

ゴーゴー・ペンギン / GGP RMX
2021年5月7日発売[世界同時発売]
SHM-CD:UCCQ-1138 ¥2,860 (tax in)

●クリス・イリングワース(p)、ニック・ブラッカ(b)、ロブ・ターナー(ds)からなるマンチェスター発の新世代ピアノ・トリオ、ゴーゴー・ペンギン。ジャズ/クラシック/ロック/エレクトロニカなど幅広い影響を感じられるサウンドは唯一無二、ピアノ・トリオというフォーマットの可能性を広げた稀有な存在で、2009年の結成以降世界中から大きな称賛を集めています。
 2020年には名門ブルーノートから3作目となるアルバム『ゴーゴー・ペンギン』(UCCQ-1124)をリリース。自らのバンド名を冠した自信作で、大きな反響を呼びました。

●本作はそのセルフ・タイトルド・アルバム11曲のうち10曲について新たなリミックスを施した、バンドが数年にわたりコンセプトを温めていたというリミックス・アルバム。
世界最高峰のリミキサーが名を連ねる中、日本からはコーネリアスと Yosi Horikawa (ヨシホリカワ)が参加しています。
 1曲目の “コラ (Cornelius Remix)” を手掛けたコーネリアスの小山田圭吾は、「remixerに 808 state が入っていて、マンチェの血を感じました。ゴーゴー・ペンギンは、ヒプノティックな生演奏が魅力なので、なるべく彼らの演奏を残したいと思いました。世の中が落ち着いたら、ライブを見に行ってみたいです」とコメントしています。
 また、ピアノのクリス・イリングワースはこのトラックについて、「コーネリアスのミックスは知的で美しく、アルバムの始まりとしてとても良いと思ったよ。ピアノのメロディをシンセのラインと併せて再配置することでそのメロディがより強調されて、楽曲に新しくて個性的なキャラクターを加えている。リミックス・アルバムにピッタリさ」と語っています。

●もとよりエレクトロニカ的な色も濃いゴーゴー・ペンギンのサウンドだけに、リミックスとの相性は抜群。
 バンドのミュージシャンシップやユニバーサルなサウンドを違った形で体感出来る充実の仕上がりとなっています。

収録内容
01. コラ (Cornelius Remix) (4:22)
02. アトマイズド (Machinedrum Remix) (6:15)
03. エンバース (Yosi Horikawa Remix) (4:09)
04. F・メジャー・ピクシー (Rone Remix) (4:17)
05. F・メジャー・ピクシー (Squarepusher Remix) (6:22)
06. オープン (Nathan Fake Remix) (4:33)
07. シグナル・イン・ザ・ノイズ (808 State Remix) (5:38)
08. トーテム (James Holden Remix) (8:16)
09. トゥ・ザ・Nth (Shunya Remix) (6:51)
10. プチア (Clark Remix) (6:25)
11. ドント・ゴ ー (Portico Quartet Remix) (5:44)

Telex - ele-king

 〈ミュート〉が仕掛けるテレックス回顧プロジェクト、まずはその挨拶状的なベスト盤『this is telex』は4月30日にリリースされるのは既報の通りなのですが、昨日、その先行シングルの第二弾としてザ・ビートルズの“ディア・プルーデンス”のカヴァーが発表されました。これは未発表だったカヴァーなので、いきなりこれ公開しちゃうのかよーと思ったファンも少なくないでしょう。

 ちなみに『this is telex』は、彼らのファースト・アルバム『テクノ革命』から2006年のカムバック作『How Do You Dance?』までの全キャリアから選曲されていますが、アルバムの冒頭と最後は未発表曲(しかもどちらもカヴァー曲)という、憎たらしい構成となっています。“ディア・プルーデンス”は同アルバムのクローザートラックです。
 なお、〈ミュート〉の日本の窓口である〈トラフィック〉を通じて、細野晴臣からのコメントも発表されました。細野晴臣がプロデュースしたコシミハルの『Tutu』(1983年)において、テレックスの“L'Amour Toujours”が日本語でカヴァーされていますが、これは当時ブリュッセルにあったテレックスの自前スタジオ(Synsound Studio)での録音です。細野晴臣&コシミハルはそのスタジオを訪れているんですね。ちなみにバンドの中枢だった故マルク・ムーランも『Tutu』の“L'Amour Toujours”でシンセサイザーを弾いています。

■細野晴臣コメント
「先日Miharu Koshiと最近のフランスの新しいPOPSを聴いていて、『これはTelexみたいだ』と話してたんです。Telexのような音楽は今や普遍的なPOP MUSICになったんだと思いました。Telexの皆さんとセッションした暑い夏のブリュッセルがとても懐かしく、優しい心で迎えてくれたことを感謝してます。マルク・ムーランさんの逝去、とても残念ですが、きっと彼も僕たちと同じく、ベスト盤のリリースを喜んでいることでしょう。また、近い将来、あなたたちの新作が聴ける日を楽しみに待ってます」

Apifera - ele-king

 イスラエル出身のキーパーソンで、キーボード奏者及びマルチ・ミュージシャン/プロデューサー/ビートメイカーとして多彩な活動を続けるユヴァル・ハヴキン。昨年はリジョイサー名義で『スピリチュアル・スリーズ』という素晴らしいアルバムをリリースした。リリース元の〈ストーンズ・スロウ〉とはその前のアルバムの『エナジー・ドリームズ』(2018年)からの付き合いで、ユヴァルによってイスラエルとロサンゼルスを繋ぐ仲介役的な役割も果たしてくれているのだが、彼の新しいユニットのアピフェラもまた〈ストーンズ・スロウ〉からとなる。

 アピフェラはユヴァル・ハヴキン(キーボード)ほか、ニタイ・ハーシュコヴィッツ(キーボード)、アミール・ブレスラー(ドラムス)、ヨナタン・アルバラック(ベース)という、すべてイスラエル出身のミュージシャンからなる4人組バンドである。ロサンゼルスが拠点と紹介しているところもあるが、実質的な活動地はイスラエルのテル・アヴィヴだろう。
 ユヴァルはテル・アヴィヴのテルマ・イェリン芸術学校卒だが、ほかのメンバーもだいたいこの学校出身か周辺の音楽仲間である。このサークルからはタイム・グローヴ、リキッド・サルーンといったバンドや、L.B.T.というヒップホップ集団が出ているが、この4人はそれらのいずれかに参加している。実際のところリジョイサーの『エナジー・ドリームズ』にはニタイ、アミール、ヨナタンが、『スピリチュアル・スリーズ』にもニタイとヨナタンが参加していたので、アピフェラの『オーヴァースタンド』はそれらの延長線上にある作品とも言える。
 一方、ニタイはイスラエル出身のベーシストとして世界的に名を馳せるアヴィシャイ・コーエンのトリオのピアニストとしても知られ、アミールはアミット・フリードマンやオメル・クレインらのグループで演奏し、ヨナタンはビッグ・バンドのアヴィ・レオヴィッチ・オーケストラのメンバーとしても活躍するなど、既にイスラエル・ジャズ界でそれぞれポジションを獲得しているので、アピフェラはそうした実力者4人が集まったバンドでもある。こうしてスタートしたアピフェラは、昨秋はファンク・レジェンドのスティーヴ・アーリントンのニュー・アルバム『ダウン・トゥ・ザ・ローエスト・タームズ:ザ・ソウル・セッションズ』に参加し、そして自身の『オーヴァースタンド』をリリースするに至った。

 アピフェラという名前は蘭に集まってきた蜜蜂のことを指しているようで、オーガニックなサウンド構造とハーモニーやアレンジにより、豊かで多様な自然界を映し出すという方向性を持つ。ユヴァル・ハヴキンの名を一躍広めることになったバターリング・トリオにも共通する音楽性で、ヒレル・エフラルによるジャケットのアートワークにもそうした雰囲気が反映されている。イスラエルの民謡やラヴェルやサティなどに影響を受け、そのほかにもスーダンやガーナなどアフリカの音楽からサン・ラーの作品まで、メンバー4人が育んださまざまな音楽的要素が盛り込まれている。インスピレーションの赴くままにライヴ・セッションを3日間ほどおこない、『オーヴァースタンド』はレコーディングされた。最小限のオーヴァーダビングはあるものの、基本的にはこうした自由なセッションをそのまま録音している。
 セッションにはメンバー4人以外にゲストでノアム・ハヴキン(キーボード)、セフィ・ジスリング(トランペット)、ヤイル・スラツキ(トロンボーン)、ショロミ・アロン(サックス、フルート)が参加しているが、いずれもユヴァルやニタイたちの音楽仲間で、これまでもいろいろな作品で共演してきた面々だ。

 ニタイによると、アピフェラのサウンドにとってオーケストレーションは重要なパートで、特に音の質感に注力し、音色や温度感についていろいろディスカッションしながらセッションしていったそうだ。表題曲の “オーヴァースタンド” においてもそうした丁寧に吟味したサウンド・テキスチャーが張り巡らされていて、上質なアンビエント・ジャズとなっている。“レイク・ヴュー” におけるビートとエレピのバランスも絶妙で、抽象性の高い音色が聴く者のイマジネーションを無限に広げていく。リズム・セクションのセンスの良さを感じさせるジャズ・ロック調の “エネック・ハマグロ”、幻想的なエレピが印象に残る “ヤキズ・ディライト” など、ハービー・ハンコックやチック・コリアが1970年代にやっていたフュージョンを現代的にアップデートしつつ、“ザ・ピット&ザ・ベガー” や “Gerçekten Orada Değilsin” のようにイスラエル民謡からきたと思われる独特の音階を織り交ぜている。
 ただ、ある特定の国の音楽に固定されるのではなく、どこの国とも言えない無国籍感やさらに言えば時代性を超越した音を出しているのがアピフェラでもある。“ノートル・ダム” もヨーロッパ的であるが、具体性ではなくあくまで抽象性を感じさせる音だ。ヴォーカルやコーラスは一切入らず、楽器の音色のみでアルバムが作られている点も、この抽象性に一役買っているだろう。“アイリス・ワン” や “フォー・グリーン・イエローズ” などは一種のライブラリー・ミュージックのようでもあるが、アーティスト性を打ち出すことによって型にハマった音を作るのではなく、ある意味で匿名的なサウンドにすることによって聴き手の想像力を広げていく。鳥のさえずりなどを交えた “パルス” は、そうした抽象性や匿名性をつき進めていったもので、アピフェラが目指す自然界の音を表現したものだ。

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