「You me」と一致するもの

MOVEMENT CLUB EDITION - ele-king

 これは驚きの、そして待望のニュースです。デリック・メイが2003年にデトロイトで始動させたフェスティヴァル《MOVEMENT》が、なんと東京でも開催されます。題して《MOVEMENT CLUB EDITION》。デリック・メイ本人はもちろんのこと、テックハウスの第一人者 Mr. G がライヴで出演するほか、Hiroshi Watanabe や JUZU a.k.a MOOCHY、今春 Gonno & Masumura として強烈なアルバムを届けてくれたばかりの Gonno らも参加します。7月14日。これはもう行くしかないですね。
 なおデリック・メイは同時にジャパン・ツアーも開催、福岡・札幌・大阪を巡回します。また Mr. G も翌15日に DJ BAR Bridge にてファンク~ソウルのDJセットを披露してくれるとのこと。

「世界で最も平和な暴動」MOVEMENTが日本初上陸!

2003年、Derrick May は立ち上がった。2000年にスタートした Detroit Electronic Music Festival は Carl Craig によるキュレーションで開催され大成功を収めたが、2年目の2001年の開催直前に主催側が Carl Craig を解雇するという事件が起きた。2002年も同じ体制のまま継続されたが、2003年に Derrick May はアーティストたちの手にフェスティバルを戻すべく、大型フェスティバルのオーガナイズ未経験にも関わらず、Movement Festival を開催することを決めた。一人のクレイジーなまでに強い信念を持つ人間が動き出す時、ムーヴメントは生まれる。

2003年には筆者もデトロイトで Movement を体験している。印象に残っているのは、フェスティバルは大成功を収め、最後のアクトが終わった後、完全に声を枯らした Derrick May がマイクを持ってステージに現れて「永遠にやるぞ!」と叫んだシーンだった。本当に全身全霊をかけた男の魂の叫びがデトロイトのハート・プラザに響き渡った。

あれから、15年。現在 Derrick May はデトロイトで毎年行われている Movement には関わっていないが、その間もずっと「東京で Movement をやりたい」と言い続けてきた。震災直後に、日本への渡航に対してネガティブな空気が漂っていた中、彼が一切ためらわずに来日したことを覚えているだろうか? 彼は東京に特別な想いを持っている。そして、自らが名前をつけた Contact にも……。この場所で Movement Club Edition が、ついに実現することを、心して受け止めたい。きっと最高のパーティにしてくれるはずだ。 Studio では、デトロイト・テクノのイノヴェイター Derrick May がヘッドライナーを務める。エモーショナルなテクノでダンスフロアに歓喜の祝祭をもたらしてくれるだろう。そして、Transmat 系デトロイト・テクノ・ファンから熱くサポートされている Mr.G がライブを披露する! 前回の来日でのプレイもコアなファンたちの間で話題になっていたので、これは注目だ。Derrick May が主宰するレーベル〈Transmat〉の歴史上初めて日本人アーティストとなった、Hiroshi Watanabe がサポートを務める。“Threshhold of Eternity”は海外の音楽ジャーナリストから「Derrick May による不朽の名作“Strings of Life”を超えるアンセム!」と評価されるほどだったので、彼のプレイも見逃すことはできない!

Contact では、Transmatから“The Diamond Project EP1”を発表したばかりの、ドープなハウスを奏でるデトロイト出身アーティスト、Drummer B が初来日を果たす。そして、日本からは Gonno、Juzu aka Moochy、Sakiko Osawa、Naoki Shirakawa らがサポートを務める。

Time, Space, Transmat! 時間と空間を超えた Transmat Experience が Cotanct Tokyo で繰り広げられる一夜となるだろう!

「世界で最も平和な暴動」は、まだ終わらない。

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7/14(土)MOVEMENT CLUB EDITION
10PM

Before 11PM / Under 23 ¥2,000
GH S members ¥2,800
w/f ¥3,500
Door ¥3,800

Studio:
Derrick May (Transmat | Detroit)
Mr.G (Phoenix G | UK) - Live
Hiroshi Watanabe a.k.a Kaito (Transmat | Kompakt)

Contact:
Drummer B (Soul Touch | Transmat | Detroit)
Gonno (WC | Merkur | mule musiq | International Feel)
JUZU a.k.a MOOCHY (NXS | CROSSPOINT)
Sakiko Osawa
Naoki Shirakawa
and more


■Derrick May

Derrick May Boiler Room x Ballantine's True Music: Hybrid Sounds Russia DJ Set
https://youtu.be/Bog6l3w2PS4

1980年代後半、デトロイトから世界へ向けて放たれた「Strings Of Life」は、新しい時代の幕開けを告げる名曲であった。自身のレーベル〈Transmat〉からRhythim Is Rhythim 名義で「Nudo Photo」、「The Beginning」、「Icon」、「Beyond The Dance」等今でも色褪せない輝きを放つ数々の傑作を発表し、Juan Atkins、Kevin Saunderson と共にデトロイト・テクノのオリジネーターとして世界中のダンス・ミュージック・シーンに多大な影響を与える。シカゴ・ハウスの伝説の DJ Ron Hardy や Godfather Of House Frankie Knuckles に多大な影響を受け、Music Institute で確立されたその斬新なDJプレイは唯一無二。時代に流されることなく普遍的輝きを放ち、テクノ・ファンのみならず全てのダンス・ミュージック・ファンから絶大なる支持を得ている。そして2010年、レコード店に衝撃的ニュースが流れる。何と実に13年ぶりとなる待望のミックスCDをリリースしたのだ。「Mixed by Derrick May x Air」と題された同作は1月に発表され国内外で大反響を巻き起こした。スタジオ・ライブ一発録りで制作されたそのミックスには、彼のDJの全てが凝縮されていると言って良い。そこには「熱く煮えたぎるソウル」「多彩な展開で魅せるストーリー」「華麗なミックス・テクニック」等、天才DJにしか作り得ない独特の世界がある。自分の信じている音楽やファンへの情熱全てを注ぎ込んだかのような圧倒的パワーがそこには存在する。聴くものを別次元の世界へと誘ってしまうほどだ。世界中を旅していて日本でのプレイが最も好きだと語る Derrick May、彼は本当に心から日本のファンの方達を大切にしているのだ。2011年には奇跡的に「Mixed by Derrick May x Air vol.2」を発表。また、2013年には自身のレーベルである〈Transmat〉のコンピレーションCD『Transmat 4 - Beyond the Dance』を発表し更なる注目を集めている。

★☆ HI TECH SOUL JAPAN TOUR 2018 ☆★

7/13 (金) 福岡 @KIETH FLACK
https://www.kiethflack.net/jp/2806/2018-07-13

7/14 (土) 東京 @CONTACT -MOVEMENT CLUB EDITION TOKYO-
https://www.contacttokyo.com/schedule/movement-club-edition/

7/20 (金) 札幌 @PRECIOUS HALL
https://www.precioushall.com/schedule/201807/0720hitechsoul.html

7/21 (土) 大阪 @CIRCUS
https://circus-osaka.com/event/derrick-may-japan-tour-2018/


■Mr. G

Mr G Boiler Room London Live Set
https://youtu.be/0HffibenJl8

UK出身のアーティスト Mr.G。1994年、Cisco Ferreira と共にテクノ・ユニット The Advent を結成。〈Internal〉レーベルから数々の作品をリリースし、世界的人気アーティストとなる。その後 The Advent を脱退し、ソロ・アーティストとして活動を開始。1999年には自身のレーベル〈Phoenix G〉を設立。自身の作品を中心に数々のフロアー・キラー・トラックをリリースし続け、現在も尚DJ達から絶大な信頼を得ている。また、2010年にはターニング・ポイントとなるアルバム『Still Here』を〈Rekids〉からリリースし、大ヒットを記録。各メディアでその年の年間ベスト・アルバムに選出される程高い評価を得る。その後も〈BAass Culture〉、〈Underground Quality〉、〈Moods and Grooves Detroit〉、〈Holic Trax〉、〈Monique Musique〉、〈Lo Recordings〉、〈Running Back〉等、数々のレーベルから多数の作品をリリースし続けている。デトロイト・テクノ、シカゴ・ハウスに影響されたファンキーかつロウでセクシーなサウンドは世界中のファンを魅了し、ここ数年リリースされた作品も Derrick May や Francois K 等の大御所DJ達もヘヴィー・プレイし、大絶賛されている。

★☆ Mr. G -DJ BAR Bridge- ☆★
7/15 (日) Open 20:00 Entrance Fee ¥1,000 (1D)
https://bridge-shibuya.com/event/1934/

編集後記(2018年7月6日) - ele-king

 ロンドンの高橋勇人からはいっこうにレヴュー原稿(NONのコンピ/sound patrol原稿)が送られてこないけれど、先日ロンドンの坂本麻理子さんから以下のようなリンクが送られてきた。

https://www.theguardian.com/football/live/2018/jul/02/world-cup-2018-japanese-language-liveblog-japan-belgium-last-16

 日本ではあまり知られてないが、今回ガーディアンはW杯特設ページにて、すべての日本戦を(もちろんイギリス人が)日本語で実況していたのである。リンクを読んでくれればわかるように、なかなか熱い。この実況者、世間から非難を浴びたポーランド戦も感情的にはかんぜんに日本の側だ。

 https://www.theguardian.com/football/live/2018/jun/28/2018w

 日本戦の実況をイギリス人の日本語で読むというのも21世紀的で面白いといえば面白い。ベルギー戦で、あんなルカクのような怪物がいるチームを(マリーシア=ずる賢さ、ナシで)ギリギリまで追い詰めた日本代表は、いっきに国際的な評価を高めたけれど、じっさい、いままでW杯で日本が評価されたことといえば、サポーターが席をたつときゴミを持って帰るだとか、そんなことぐらいだったので、今回の評価というか、試合を通じて世界にインパクトを残せたというのはほとんど初めてのことだったんじゃないだろうか。

 音楽の世界でも、今世紀に入って日本の音楽がいままで以上に、エキゾティシズムとしてではなく純粋に作品として評価されてきていると言われている。が、そのひとつの発火点に、たとえばWIREのような左翼系知識人が関わっているメディアが、おそらく英米中心主義に対するアンチも込めてだろう、それ以外の文化圏の音楽を積極的に取り上げ続けていることがあると思う。日本だけが評価されはじめたわけではない。同じように、東南アジアも南米もアフリカもオセアニアもカナダも中東も。
 しかしながら、たとえば昨日挙げたイタリアのテクノのコンピレーションの参加アーティストのほとんどがUK(ないしはNYないしはベルリン)のレーベルから作品を出している。これは、アンダーグラウンドのシーンにおいて長い時間をかけて培われてきたものがあるからだろうな。

 W杯の事実上の決勝戦というのは、だいたいベスト8からベスト4あたりにあるものだ。今夜……というか深夜から朝方にかけての2試合は、そんなような試合だ。今大会のひとつの山場だろう。盛り上がりたい人は、ON-Uサウンドとシュガーヒル(オールドスクール・ヒップホップのリズム隊)との融合体、タックヘッドによる1987年のこの曲を聴いて気合いを入れましょう。

Tackhead - The Game

ブリグズビー・ベア - ele-king

 日本では現状、ロマン・ポランスキーの『告白小説、その結末』やウディ・アレンの『女と男の観覧車』は問題なく公開されているようだが、アメリカでは今後ふたりの作品を観ることはますます難しくなっていくだろう。養女の性的虐待疑惑から多くの俳優たちに「今後は出演しない」と言われているウディ・アレン、70年代の少女への淫行でアカデミーから追放されたロマン・ポランスキー。とくに厄介なのはポランスキーで、彼の過去の作品には未成年のセックスがモチーフとして入りこんでいるものもある。#MeToo以降の世界で彼らの新たな作品が成立しにくいのはともかく、かつての「名作」たちもまた封印されていくのだろうか。
 表現の作者と作品をどの程度切り離して考えるべきかというのはいま盛んにおこなわれている議論で、大ざっぱに言うとポリティカル・コレクトネス的価値観からアメリカはより作者のありように厳しくなり、ヨーロッパがそれに抵抗している……という図式があるにはある。が、アメリカもまた、Spotifyから「ヘイトコンテンツ」に当たるとされる楽曲が削除されたことに対しケンドリック・ラマーらミュージシャン陣が表立って反発するなど、一筋縄ではいかない様相となっている。たしかに、表現者が清廉潔白でなければならない世界は窮屈だし、ましてや表現の中身が当たり障りのないものばかりになってしまっては本末転倒だろう。表現規制に抵抗する勢力が台頭し始めているということだろうか。いずれにせよ、いま、ポリティカル・コレクトネスと表現の自由、そして作者の振る舞いと作品の関連性についてより時代に合った枠組が模索されており、多くの人間がそのことに頭を抱えている。

 現在アメリカのなかで、こうした議論にもっとも敏感なのはコメディアンたちだろう。大人気コメディ番組〈サタデー・ナイト・ライヴ〉出身のチームで制作された『ブリグズビー・ベア』を見ても、ある表現(今風に「コンテンツ」といったほうが適切かもしれない)が作者とどの程度紐づけられるべきなのか考えていることがわかる。主人公の青年ジェームズは外界から隔離されたシェルターで暮らしており、両親に愛されて育ったものの自由はなく、唯一の楽しみはクマのキャラクターが冒険をしながら数学や日々の生活のルールを教えてくれる教育番組〈ブリグズビー・ベア〉だった。が、あるとき警察がやって来て両親は逮捕されてしまう。ジェームズが「両親」だと思っていたのは彼を赤ん坊のときに攫った誘拐犯であり、信じてきた世界はすべて嘘で、彼が大好きな〈ブリグズビー・ベア〉ですら偽の父親がジェームズのために作っていたものだった……。そして物語は、ジェームズが本当の両親に迎え入れられ、「リアル」の世界にどうやって馴染んでいくか模索していくところから動き出す。
 そこで鍵になるのが〈ブリグズビー・ベア〉、つまり犯罪者が作ったコンテンツなのである。ジェームズは番組への愛を語ることでギークの友人を作り、その続きを制作することで「リアル」の世界での生き甲斐や人間関係を構築していく。が、本当の両親からすると〈ブリグズビー・ベア〉は犯罪者どもが作った忌まわしい呪いでしかなく、見ようによってはジェームズはストックホルム症候群を引き起こしているとも言える。映画はそうした葛藤を経て、〈ブリグズビー・ベア〉という作品そのものの力でジェームズの新たな人生を祝福しようとする……たとえ犯罪者が作ったものであろうとも作品の価値はあると、ひとまずそうした結論の映画だと言えるだろう。なかでも、ジェームズが〈ブリグズビー・ベア〉の制作のために、原作者でありかつての「父親」(しかも演じるのがマーク・ハミル=ルーク・スカイウォーカーという、世界中に愛された「嘘の人物」である!)と向き合う場面は本作でもっとも美しい瞬間だ。

 ひとつ思うのは、こうした議論で表現の自由派はしばしば「作者と作品はまったく別物である」と主張するが、そんなに単純に割り切れるものではないということだ。少なくとも本作はその地点に問題を矮小化してしまっていない。YouTubeにアップされた〈ブリグズビー・ベア〉はヴァイラル的にヒットするのだが、その人気の理由は作品の力「のみ」ではどうやらなさそうである。サイケデリックでシュールな教育番組はそのカルト的な佇まいからひとを惹きつけるが、と同時に、犯罪者が偽物の息子への愛情から作ったものであるという「作品背景」がフックになっていることが示唆される。〈ブリグズビー・ベア〉が世のなかに受け入れられるのは、そこに何だかんだ言って愛情がこめられていたからだし、だからこそジェームズも作品を通して「リアル」の世界と交流できたという描かれ方である。
 しかしながら、もし仮に、偽の両親が性的虐待をジェームズにおこなっていたら〈ブリグズビー・ベア〉はどう描かれていたのだろう。偽の両親が本当には悪い人間ではないことが本作の優しさとも言えるし、踏みこめていない点だとも言えるだろう。描かれることはなかったのでわからないが、もし彼らの犯罪がある一定のラインを超えてしまっていたら、〈ブリグズビー・ベア〉は許されないコンテンツだし、ジェームズの番組に対する情熱もストックホルム症候群とされていたのではないか。そこの明確な線引きはどうしたってあるように思える。「作者と作品はまったく別物である」と結論づけてはならない何かが。
 だから、当たり前でつまらない着地点になってしまうのだが、そのラインがどこにあるのかを見極めることが重要なのだろう。が、つまらないからこそ価値があることなのだ。そしてそれは、時代によっても場所によっても、作品によっても背景によっても変わってくる。つまり、いまこそ批評の力が試されているということだろうし、アメリカのコメディアンたちは表現の自由を勝ち取るために怜悧な批評家であろうと努力しているということなのだろう。“This Is America”で今年話題を独占したチャイルディッシュ・ガンビーノ=ドナルド・グローヴァーがコメディアンであるのもそういうことだ。チャーミングな小品であるこの映画もまた、そうしたコメディが輝く時代を示している。

予告編

Akuphone - ele-king

 いわゆる「ワールド・ミュージック」に分類される音源がリリースされる際、しばしば「辺境」という言葉が用いられるけれど、それはつまり自分たちは「辺境」ではない、自分たちは「中央」である、という意識の表れとも言える(西洋から見れば日本だってある意味「辺境」なわけだけど、日本のアーティストの新譜が出たときに「辺境」サウンドなんて紹介のしかたはしない)。「辺境」だから良いんじゃなくて、その音楽それ自体が良いんだと、そういうふうに紹介していきたいものである。
 ともあれ、昨年のコゥ・シン・ムーンやキンク・ゴングなど、まずはサウンドありきで良質な発掘を続けているフランスのレーベル〈アクフォン〉から、またもや強烈なタイトルが送り届けられた。今回は60年代~70年代のスリランカの大衆歌謡にフォーカスした2枚組コンピレーションで、アフロとアジアが交錯する収録曲もたいへんエキサイティングなんだけれど、ブックレットの解説もおもしろい。たとえばアフリカ系ディアスポラの影響下で生まれた「バイラ」を、エドゥアール・グリッサンの「クレオール」と関連づけて紹介したりしている。日本語訳のついた国内流通盤がおすすめです。

世界音楽の新興レーベル〈アクフォン〉がスリランカのヴィンテージ歌謡をディグ

旧音源発掘、フィールド録音から新作まで、世界音楽を様々な切り口から掘り起こす注目の新興レーベル〈アクフォン〉によるスリランカ・ポップの企画盤をご案内。M.I.A.のルーツ。紅茶と香辛料と宝石の国。実は素晴らしい音楽の宝庫でもあるスリランカ。隣国インドや仏教、ヒンドゥ教、大航海時代にまで遡るポルトガルとアフリカからの影響。様々なエレメントがミックスして出来上がった1960年代後半から70年代にかけてのこの国の大衆歌謡を総括した、ありそうでなかった画期的なコンピです。

◆ 「バイラ」や「サララ・ギー」などと呼ばれるスリランカの大衆歌謡を、同国のポップ音楽を黎明期から支えた重要レーベル〈スーリヤ・レコード〉の音源を中心に、民族や宗教をまたいで横断的に総括した2枚組コンピレーション。

◆ カリプソにも通じるトロピカル感、シタールやタブラの絶妙なスパイス加減、アシッドなフルートやサーフなエレキ・ギター、ハレやかなフェスティバル・ムードなどなど、様々な要素が混然一体となり醸し出される独自の音世界にただただ驚かされるばかり。スリランカのポピュラー音楽の多様性と豊かな響きを堪能できる決定盤。

◆ スリランカ音楽の歴史やスーリヤ・レコードの成り立ち、各アーティストの紹介などを含む、充実した24ページにわたるブックレットも必読(日本語対訳付)。

◆ キンク・ゴング(祝来日!)、コゥ・シン・ムーンやガムラン・ウォーリアーズなどなど、アジアを中心とした驚きの復刻、フィールド・レコーディングから新録まで、世界の音楽を様々な切り口から掘り起こすフランス発の注目新レーベル〈アクフォン〉からのリリース。

◆ https://akuphone.com

■アーティスト名:V.A.
■アルバム・タイトル:SRI LANKA : The Golden Era of Sinhalese & Tamil Folk-pop Music(スリランカ ― シンハラとタミルのフォーク・ポップ音楽黄金時代)
■商品番号:RTMCD-1305
■税抜定価:3,200円
■発売日:2018年7月1日
■レーベル:Akuphone / カレンティート
■直輸入盤(帯・24頁英文ブックレット英文解説対訳付)

【収録楽曲】

CD1

01. PAUL FERNANDO : Egoda Gode
02. W.D. AMARADEVA : Soken Pala Ne
03. CLARENCE WIJEWARDENA : Gamen Liyumak
04. PARAMESH : Naan Unnai Thedum
05. THE FORTUNES : Instrumental Baila Medley
06. SANATH & MALKANTHI NANDASIRI : Netha Giya Hematana
07. A. E. MANOHARAN : Kaffiringha
08. PANI BHARATHA & PARTY : Ceremonial Drums
09. MIGNONNE & THE JETLINERS : Jeevithe Vasanthaye
10. SHAN : Anbil Valarnthai
11. AMITHA DALUGAMA : Pinna Mal
12. MAXWELL MENDIS : Mama Bohoma Bayauna
13. POLICE RESERVE HEWISI BAND : Vairodi Wannama
14. SHIROMI FERNANDO : Handa Haami
15. WIMALA AMARADEVA : Goyam Gee

CD2

01. INDRANI PERERA : Eka Dawasak
02. W.D. AMARADEVA : Mindada Heesara
03. WINSLOW SIX : Roshi
04. THE MOONSTONES & INDRANI PERERA : Sigiriya
05. SANATH NANDASIRI : Deepa Tupe Vihare
06. SIDASI TURYA VADAYAKO : Drum Orchestra
07. NALINO NEL : Gavaskar The Century Maker
08. LOS FLAMINCOS : Bolanda Katha
09. W.D. AMARADEVA : Sinidu Sudu Muthu
10. LILANTHI KARUNANAYAKE : Malli
11. CLAUDE & THE SENSATIONS with NOELINE MENDIS : City Of Colombo
12. H.R. JOTHIPALA : Durakathanaya
13. INDRANI PERERA : Amma
14. THE GOLDEN CHIMES : Kimada Naave
15. VICTOR RATNAYAKA : Perakumba Davasa

Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/B07CJ6G5DH/

PREP - ele-king

 ロンドンの4人組のバンド、プレップ。降り注ぐ太陽と透明なプールサイドを思わせる彼らの音楽は、80年代という時代特有の煌きを2018年に再生する。モダンなシティ・ポップ? むろん懐古主義ではないし、そもそも過去は再生できない。そうではなくプレップの奏でる音楽は、ポップ・ミュージック特有の「エンドレス・サマー」を提示しているのだ。終らない夏。永遠の夏。
 それは幸福の記憶である。それゆえ刹那のものでもある。すぐに消えてしまうものである。存在しないものだ。夢だ。だからこそ切ない。胸を打つ。求める。プレップは、そんな感情を弾むようなメロディと、美しいハーモニーと、踊らせてくれるリズムによって結晶する。

 結論へと先に急ぐ前に、彼らの経歴を簡単に記しておきたい。プレップのメンバーは、ルウェリン・アプ・マルディン(Llywelyn ap Myrddin)、ギヨーム・ジャンベル(Guillaume Jambel)、ダン・ラドクリフ(Dan Radclyffe)、トム・ハヴロック(Tom Havelock)ら4人。活動拠点は、ロンドンであり、近年はアジア諸国での評価も高く同地でツアーを敢行し、好評を博しているという。日本にもこの2018年5月にツアーで訪れ、演奏を披露した。
 メンバーについて簡単に説明をしておこう。まず、ルウェリン・アプ・マルディンはクラシック/オペラ・コンポーザーで、キーボード奏者である。彼の豊かな音楽素養によって生まれるハーモニーは、プレップの要だ。そのルウェリンに声をかけた人物が、「Giom」名義でハウス・ミュージックDJとして活動するドラマーのギヨーム・ジャンベル。彼がバンドのビートを支えている張本人である。
 ふたりがデモ曲を制作し、「ドレイクやアルーナジョージなどのレコーディングに参加し、グラミーにノミネートされたヒップホップ・プロデューサー」のダン・ラドクリフにデモを送り、結果、メンバーが3人になった。サンプリングを駆使したモダンなトラックメイクはダン・ラドクリフの手によるものだ。
 さらに、ダンの友人でもあるヴォーカリストにしてシンガー・ソングライター(Riton、Sinead Hartnett、Ray BLK等と共作歴あり)のトム・ハヴロックも加わり、超名曲“Cheapest Flight”が生まれたというわけだ。一聴すれば分かるが、この曲にはポップの魔法が宿っている。微かな切なさが堪らなく胸に染み入る。

 こういった1970年代から1980年代にかけて流行した音楽のテイスト、いわばAORやディスコ、フュージョン、ブルー・アンド・ソウル系の音楽は「ヨット・ロック」と称されている。サンセットビーチやリゾート感の心地よさや切なさを表しているのが理由らしい。言いえて妙だ。夏の陽光、黄昏、哀愁、美しさ。優れた作曲と卓抜な編曲と演奏によって支えられた音楽ともいえる。たとえばネッド・ドヒニーなどを思い出してみても良いかもしれない。
 また、近年、世界的に再発見されているらしい山下達郎、大貫妙子などの日本の70年代後半から80年代前半のシティ・ポップや、近年のニューエイジ・ムーヴメントともリンク可能である。つまり「いまの時代ならではの再発見音楽の現在形」ともいえる。われわれの耳は「同時代的な感覚として80年代的なリゾート感覚」を強く求めているのだ。
 2016年にプレップは、“Cheapest Flight”を含む4曲入りのEP「Futures」をリリースしたわけだが、どうやら“Cheapest Flight”以降、日本のシティ・ポップをたくさん聴き、自分たちの音楽との近似性を確認したようである。「Futures」のオビがいかにも日本の80年代風なのはその表れだろう。今年の来日時、SNSで佐藤博の『awakening』(1982)のレコードを嬉々としてアップしていたことも記憶に新しい。

 彼らは「バンド」といっても、運命共同体的な重さはない。聴き手にとっても、そして作り手にとっても「心地よい音楽」を生み出すことを目的としている。「一種の音楽工場」と彼らは語るが、そこから生まれる音楽は、なんと混じりけのないピュアなポップ・ミュージックだろう。
 ふり注ぐ光のように清冽で、透明なプールサイドのように美しい。そしてそれらがとても儚いものだと感じさせるという意味で、どこか切ない。だが、そんな儚い美しさの瞬間があるからこそ辛い人生は尊くもなる。そんな感情を“Cheapest Flight”は放っている。当初、匿名的であった彼らだが、この曲のヒットによって音楽ファンに広く知られることになった。“Cheapest Flight”は、Spotify再生回数300万回誇るという。

 本作『Cold Fire』は、2年ぶりの新作EPである。オリジナルは計4曲収録で、日本盤CDにはさらに2曲のボーナス・トラックが加えられている。
 1曲めは人気の韓国人R&Bシンガー、ディーンがバッキング・ヴォーカルで、アンダーソン・パークの楽曲のプロデュースも手がけた〈HW&W Recordings〉のポモがリード・シンセサイザーで参加しているタイトル・トラック“Cold Fire”。 シンセのリフもキャッチーで耳に残るポップ・チューンだ。大胆に転調するソングライティングも見事。
 2曲めはポートランドのウーミ(Umii)のメンバーであるリーヴァ・デヴィート(Reva DeVito)が起用された“Snake Oil ”。アンビエント/R&Bなムードのミディアム・テンポのなか小技が聴いたトラック/編曲に唸ってしまう。
 3曲めはウルトラ・ポップ・トラック“Don't Bring Me Down”。夏の光を思わせるどこまでも爽やかな曲だ。テーム・インパラのMVの振付けを手掛けたTuixén Benetによってロサンゼルスのコリアタウンで撮影されたMVが印象的だ。
 4曲めはメロウ&ポップな名曲“Rachel”。どこか“Cheapest Flight”の系譜にある曲調で、夏の切なさ、ここに極まるといった趣である。まさに黄昏型の名曲。

 そして5曲め(日本盤ボーナス・トラック1曲め)は、マイケル・ジャクソンの“Human Nature”のカヴァー。マイケルのカヴァーというより、作曲・演奏をしたTOTOへのオマージュといった側面が強いようである。自分たちとTOTOを良質なポップ・ミュージック・ファクトリー的な存在として重ねているのだろうか。曲の本質を軽やかに表現する名カヴァーといえる。
 ラスト6曲め(日本盤ボーナス・トラック2曲め)は名曲“Cheapest Flight”のライヴ・ヴァージョンである。録音版と比べても遜色のない出来栄えで、彼らの演奏力の高さを証明しているようなトラックだ。録音版より全体にシンプルなアレンジになっている点も、「Futures」と「Cold Fire」の違いを表しているようで興味深い。以上、全6曲。程よい分量のためか、何度も繰り返し聴いてしまいたくなる。なにより曲、編曲、演奏、ヴォーカルが、実にスムース、ポップ、メロウで、完璧に近い出来栄えなのだ。

 世界はいま大きく動いている。普通も普遍も現実もまったく固定化されず、常に変化を遂げている。変動の時代は人の心に不安を呼ぶ。そのような時代において、あえて「普遍的なものは何か」と問われれば、「一時の刹那の、儚い夢のような幸福感」かもしれない。しかも「幸福感」は人の心に残る。それをいつも希求してもいる。だからこそポップ・ミュージックは、どんな時代であっても幸福の結晶のような「永遠の夏」を歌う必要があるのではないか。
 プレップはそんな普遍的なポップ・ミュージックを私たちに届けてくれる貴重な存在なのだ。サーフ・ミュージックのザ・ビーチ・ボーイズ=ブライアン・ウィルソンが実はサーフィンと無縁だったように、ヨットとまったく無縁でもプレップの音楽に心を奪われるはず。そう、ポップ・ミュージックだけが持っている永遠の/刹那の煌めきがあるのだから。

DYGL - ele-king

 デイグローが7インチEP「Bad Kicks / Hard to Love」をリリースするんだけど、初期のエコー・アンド・ザ・バニーメンを彷彿させるギターのカッティングとダンサブルな展開、これ、そうとう格好いいです。

 収録曲は、イギリスのとある港町の教会を改築したスタジオにおいて、なんとオープンリールを使用してのアナログ・レコーディングによって制作されている。そうなると、くだんのシングルはアナログ盤で聴きたくなるのが人の性というもの。この宝物は7月25日にたった1000枚の限定でリリースされる。どうか逃さないで。

(予約こちら)
https://dayglotheband.com/preorder

DYGL
Bad Kicks / Hard to Love

SIDE A “Bad Kicks“
SIDE B “Hard to Love”
2018/7/25(水)発売
1500円 (税抜)/1620円 (税込)
HardEnough


■LIVE INFO

08/11(土) RISING SUN ROCK FESTIVAL 2018 in EZO

08/18(土) SUMMER SONIC 2018@TOKYO

ShadowParty - ele-king

 ニュー・オーダー×ディーヴォ……!? なんとも気になる組み合わせです。ニュー・オーダーで活躍中のベーシスト=トム・チャップマンとギタリスト=フィル・カニンガム、そしてディーヴォで活躍中のギタリスト=ジョシュ・ヘイガーとドラマー=ジェフ・フリーデルの4人が集合した新バンド、シャドウパーティ。そのデビュー・アルバムが7月27日に〈ミュート〉よりリリースされます。現在白熱中のワールドカップに合わせて制作された先行シングルのMVが公開中です。いやー、やっぱりこういう感じのロック・サウンドには抗えませんね。アルバムが楽しみ。


シャドウパーティ、W杯を祝福し新MVを公開!
新作は7/27発売!

ニュー・オーダーとディーヴォのメンバーによる4人組ロック・バンド、シャドウパーティのデビュー・アルバム『シャドウパーティ』が7/27に発売される。その発売に伴い、また現在開催されているサッカー・ワールドカップを祝福し、新作より先行シングル“Cerebrate”のミュージック・ビデオを公開した。

決勝トーナメント1回戦のメキシコ対ブラジルのキックオフ直前に急遽公開されたこのビデオは、サッカーに情熱を傾けるメキシコの少年を描いている。
なおニュー・オーダーは、1990年サッカー・ワールドカップ・イタリア大会において、イングランドの公式応援ソング“ワールド・イン・モーション”をリリースし全英1位を記録している。

先行シングル“Cerebrate”
[YouTube] https://youtu.be/bk6uLLwrT1o
[Apple Music / iTunes] https://apple.co/2I3pBGd
[Spotify] https://spoti.fi/2FtqEKh

シャドウパーティは、ジョシュ・ヘイガーとトム・チャップマンがボストンで出会ったことがきっかけとなり、2014年に結成された4人組バンド。

ジョシュ・ヘイガーは、ザ・レンタルズの元メンバーであり現在はディーヴォでギターとキーボードを担当、トム・チャップマンは、2011年ニュー・オーダーの再結成以来のベーシスト、フィル・カニンガムは、元マリオン、現ニュー・オーダーのギタリスト、ジェフ・フリーデルは、ディーヴォのドラマーとて活躍中だ。

ザ・ヴァーヴのニック・マッケイブがその素晴らしいギターの音色をアルバムの中の2曲“EvenSo”と“Marigold”で披露する一方で、ア・サートゥン・レシオやプライマル・スクリームなどで知られるシンガー、デニス・ジョンソンがその美声をアルバムで6曲に渡り聞かせており、先行シングル“Celebrate”の歌声も彼女である。

加えて、LAで活動するDJのホイットニー・フィアスがコーラスで参加したり、先日のマンチェスター・インターナショナル・フェスティヴァルでニュー・オーダーやエルボーのために12台のシンセによるオーケストラ・アレンジをしたマンチェスター在住のジョー・ダデルがその卓越したオーケストラ・テクニックを見せている。

シャドウパーティのサウンドは、その時々によって、数多のシンセ・サウンドのオーケストレーションに心奪われ、80年代風のビートが唸るギターとヴォーカル、そこに甘美なハーモニーが華を添える。

レコーディングはボストンやLA、マンチェスター、マックルズフィールドで行われた。

[参加アーティスト]
ニック・マッケイブ(元ザ・ヴァーヴ)
デニス・ジョンソン(プライマル・スクリーム作品等へのヴォーカル参加)等

[商品概要]
アーティスト:シャドウパーティ (ShadowParty)
タイトル: シャドウパーティ (ShadowParty)
発売日:2018年7月27日(金)
品番:TRCI-64
定価:2,100円(税抜)
JAN:4571260587847
解説:村尾泰郎/国内仕様輸入盤CD

[Tracklist]
01. Celebrate
02. Taking Over
03. Reverse The Curse
04. Marigold
05. Sooner Or Later
06. Present Tense
07. Even So
08. Truth
09. Vowel Movement
10. The Valley

■シャドウパーティ (ShadowParty)
メンバー:ジョシュ・ヘイガー(G, Key) / ジェフ・フリーデル(Drs.) / トム・チャップマン(B) / フィル・カニンガム(G)

2014年ボストンで結成。2018年7月27日、デビュー・アルバム『シャドウパーティ』リリース。

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Nanaco+Riki Hidaka - ele-king

 囁き声、ウィスパー・ヴォイス。声帯を震わせることを逃れた空気は、音から求心性と核を奪い、むしろ拡散させる。拡散された音は、まるで垂らし落とした蜜が水の中に希釈さていくように、どこまでも膨らんでいく。だから、ウィスパー・ヴォイスは「小さな囁き声」だとしても、どこまでも、遠く我々の内部にも浸透してくる。クロディーヌ・ロンジェの声…、シャルロット・ゲンズブールの声……。そして佐藤奈々子の声。

 今作『Golden Remedy』は、前若手ユニット「カメラ=万年筆」とのコラボレーション作『old angel』以来約5年ぶりとなる新作である。
 アーティスト名表記も「Nanaco」と改めた彼女が今回コラボレーターに選んだのは、アヴァンギャルドからヒップホップまでジャンル横断的な活躍を見せるNY在住の若手鬼才ギタリスト、Riki Hidakaだ。
 一見意外と思われるこの組み合わせだが、これまでの佐藤奈々子のキャリアを振り返るならば、ごく納得のゆく共同作業だとも思える。70年代屈指のシティ・ポップ名盤とされるファースト・アルバム『ファニー・ウォーキン』ではソロ・デビュー前の佐野元春との共作だし、80年に結成したニューウェイヴ・バンド「SPY」では加藤和彦をプロデューサーに迎えていた。また、2000年作『sisters on the riverbed』ではR.E.M.を手がけたプロデューサーであるマーク・ビンガムとも邂逅するなど、その時代時代において自らの鋭敏な感性の元旺盛なコラボレーションを行ってきたのだから。
 かつて70年代後半同時期にデビューしたベテランたちに、ドメスティックなポップスを再生産する道を選んだ者たちが少なくないなか、佐藤奈々子の身軽さ、そして時々の音楽へのシャープな眼差しは傑出していると言えるだろう。

 今作は、まずRiki Hidakaによって作られた楽曲に対して、Nanacoがメロディと詞をつけていくという作業によって制作が進めれたという。Riki Hidakaによる楽曲は、そのギター・プレイの独創性はもちろん、メロディー/歌詞先行による制約が無いからであろうか、非常に奔放だ。マリアンヌ・フェイスフルによる名作『ブロークン・イングリッシュ』における特異な音響処理とシューゲイザー的世界が融合したようなM1“Old Lady Lake”、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドとニコによる“オール・トゥモローズ・パーティ”を思い起こさざるを得ないドローン揺らめくM4“I Will Mary You”、硬質且つストイックなフォーキー世界がまるで森田童子を思わせるM5“美しい旅人”、堅牢にして靭やかなバンド・サウンドがコートニー・バーネットの楽曲にも通じるM7“未来の砂漠でギターを弾く君と私”など、これまでの佐藤奈々子の音楽を大胆に更新し、NanacoとRiki Hidakaによる音楽を新たに作り出そうという喜びに溢れている。
 しかしそれでもなお、いやだからこそというべきか、我々聴くものの耳、そして内部にもっとも広く深く浸透してくるのは、Nanacoの歌声とその言葉なのだ。聞き手がどれだけ様々な音楽と重ね合わてみようとも、やはりそのウィスパー・ヴォイスによって、Nanacoが特異な存在であるということが明示されるのだ。
 
 そう、Riki Hidakaによる楽曲は、あくまでNanacoの歌声が浸透圧を上げることに一番の作用を発揮している。ウィスパー・ヴォイスに含まれた空気成分が、汎空間的な音像と一体になるとき、歌声はいよいよその到達範囲を広げていく。
 その声は、空気に絆されホロホロと芯を解体していき、我々の内奥に浸り来ることになる。そして時に慄然とするほどに言葉が意味を運び込みもする。だからこの作品は、その先鋭的な音楽的相貌に反して、第一級の「ヴォーカル・アルバム」であるとも言えるだろう。もしかすると、囁き声ほどに我々が心をそばだててしまう音は無いのかも知れない。

仙人掌 - ele-king

 2016年末にリリースされた初のソロ・アルバム『VOICE』が大きな反響を呼んだ仙人掌ですが、去る6月27日、ついに待望のセカンド・アルバム『BOY MEETS WORLD』が発売されました。今月半ばにはNY在住のビートメイカー、DJ SCRATCH NICEのプロデュースによる“Show Off”のMVも公開されていますが、このたび9月14日に代官山UNITにて開催されるリリース・イベントの情報も解禁されております。要チェック!

MONJU/DOWN NORTH CAMPのラッパー、仙人掌のセカンド・アルバム『BOY MEETS WORLD』、6月27日発売! また同作のリリース・ライヴが代官山UNITにて9/14(金)に開催決定!

2016年リリースの初となるオフィシャル・ソロ・アルバム『VOICE』でシーン内外に大きなインパクトを残した仙人掌の待望のセカンド・アルバム『BOY MEETS WORLD』がついに6月27日リリース! そしてその『BOY MEETS WORLD』のリリースを祝したイベント《BOY MEETS WORLD LIVE 2018》が9/14(金/DAYTIME)に代官山UNITにて開催決定! 同作に参加しているjjjやMILES WORDも参加するスペシャルなパーティになる予定で今週末よりチケットが発売となります!

仙人掌「BOY MEETS WORLD LIVE 2018」
9月14日 (金) at 代官山UNIT

OPEN : 19:00
ENTRANCE : ¥3000 (WITHIN 1 DRINK)
LIVE : 仙人掌
GUEST : jjj, MILES WORD
OPENING ACT : COCKROACHEEE’Z
DJ : 原島“ど真ん中”宙芳 / 16FLIP / HURAMINGOS (CHANG YUU & YODEL)

TICKET取り扱い : 代官山UNIT
Pコード:122-575
Lコード:72539
6/30 (土曜日発売)

トラスムンド / UNIT / RAH / JAZZY SPORT / DISK UNION ***
各RECORD SHOPでは7/14より発売予定

supported by NIXON

* イベント当日は会場にて限定のタイトル / マーチャンダイズを販売します。(こちらは追って発表する「BOY MEETS WORLD 4 CITY TOUR 2018」の4会場でも販売します。)
* イベント終演後、代官山SALOONにてAFTER PARTYを開催。チケットの半券提示でDRINK代のみで入場できます。

仙人掌 - Show Off (BLACK FILE exclusive MV "NEIGHBORHOOD")
https://youtu.be/xI7ztc-aWaA

仙人掌『BOY MEETS WORLD』 Teaser
https://youtu.be/bEaU2f1_RJc

【アルバム情報】
アーティスト:仙人掌
タイトル:BOY MEETS WORLD
レーベル:WDsounds / Dogear Records / P-VINE
品番:PCD-26070
発売日:2018年6月27日(水)

【トラックリスト】
01. 99'Til Infinity
Prod by DJ SCRATCH NICE
02. Boy Meets World
Prod by CHUCK LA WAYNE & DJ SCRATCH NICE
03. Penetrate
Prod by GRADIS NICE & DJ SCRATCH NICE
04. Darlin' feat. jjj
Prod by DJ SCRATCH NICE
05. Water Flow
Prod by GRADIS NICE & DJ SCRATCH NICE
06. Bottles Up
Prod by DJ SCRATCH NICE
07. Rap Savor feat. MILES WORD
Prod by CHUCK LA WAYNE & DJ SCRATCH NICE
08. Show Off
Prod by DJ SCRATCH NICE
09. So Far
Prod by GRADIS NICE & DJ SCRATCH NICE
10. World Full Of Sadness
Prod by DJ SCRATCH NICE
Additional Vocal by SOGUMM

女の暴力映画

 いま、女性と暴力の問題を書くのはことさら慎重さが必要になるので、とても怖い。久々に女性にまつわるテーマで新連載を始める機会をいただいたが、うかつなことを書いてしまったらどうしようとビビリ腰になっている。とりあえず第一回目なので最後まで読んでいただけると嬉しい。

 映画で描かれた「女の暴力」。とはいっても今回は、女が振るわれる暴力についてではない。もうそんなものは映画史に溢れかえっているし、改めて解説されるのも読者は疲れるだけだろう。現在でも現実に、女が様々な形のハラスメントや抑圧、そしてまさに肉体的な暴行を受ける事案が日常的に起こっている。文明が進んだらマシになるのかと思いきや、全然性差別は解決していないうえ、それを声に出した女性がSNSなどで受ける二次的なハラスメントを、リアルタイムで見つめてさえいる時代だ。
 そんな暗雲の下で暮らしながらも女が抵抗し、戦い、もちろん良いことだけではなく利己的な欲望で他人を傷つける振る舞いは行われてきた。現実と同様に、映画も女が肉体的にも精神的にも他人にヴァイオレンスの矛先を向ける瞬間を描いている。それは華麗なアクションであったり、現実の我々にも訪れそうなリアリティに満ちたものだったり様々だ。
 映画業界は男性主導の世界である。だからこそ2017年にはハリウッドで驚くような、完全に犯罪の域である悪質なセクハラが明るみになり、それがまかり通ってきたことが改めて認識された。でもそういった報道に対して、逆に被害者をバッシングする反応が多いのも目についた出来事だ。そんな齟齬がある中で、男性の作り手が撮った女性主演のアクション映画は、本当に女性的なアクションといえるのかは判断に悩んでしまう。そもそも男性の監督や脚本家によっても、女性心理にうとい人/感受できる人は様々な度合いがある。それに女性監督が作った女性アクションだったら、正統だとか真実だともいえないだろう。女性なら女性心理が完全に汲めるのか? という疑問もある。それにわたしたち女性だって、長年男性が作った男性主体のアクション映画を観てきているので、映画ではそのことに慣れてしまっているのだ。これは男性であっても同様で、現実と表現は違うため、もし格闘技の経験のない人が「アクション映画を撮れ」と言い渡されたら、自身の経験から引き出すのではなく、これまで観てきた映画のヴァイオレンスを参考に表現を組み立てていくことになるだろう。日常の経験でも、見栄えのするアクションに街中ではそうそう遭遇しないものだし。

暴力の多面性

 そして暴力は肉体的なものに限らない。ひとは裏切りや嘘でも心にダメージを受ける。マスコミによる著名人の不倫報道はいっとき病的なほど過熱していた。それは視聴者や読者の関心をひいて激しいバッシングを引き起こしたが、不貞がかまびすしく非難を浴びるのは、自分の身に受けることを想像しやすい精神的な暴力のひとつだからだ。わかっていて人を裏切るのはひどい行いである。とはいえ当事者にも事情は色々あるだろうし、不倫は申し開きをするほど「反省していない」といった反発をくらうため、甘んじて批判を受けるしかない。そこに付け込んだ報道のあり方や過剰なバッシングも、当事者に与えるダメージを見越した一種の暴力である。これらのような精神を傷つけ心を壊す行為も、やはりヴァイオレンスの形として見過ごせない。
映画において、女が暴力を振るう場面は娯楽だろうか。確かにシャーリーズ・セロンが戦う姿は、問答無用にかっこよくて魅了される。それでも女が振るってはダメな暴力という表現もあるのだろうか。それらの線引きは何を根拠になされるのか――考えると頭がグルグルしてしまうことばかりだ。だから映画の中で女優が繰り出すキックを観つつ、改めて女性と暴力についてゆっくり考えてみよう。

変遷するタランティーノの女性と暴力

 タランティーノはなんといっても『レザボア・ドッグス』(91年)を封切りで観て以来の付き合いという感がある。ハーヴェイ・ワインスタインの事件で名をあげたり下げたり色々あったうえ、新作がマンソンファミリーによるシャロン・テート殺害事件の映画化というのも物議を醸しそうだ。それでも完成すれば必ず観にいくだろうし、これまでもすべての作品は劇場で観ている監督である。
 登場人物が男だけの映画『レザボア・ドッグス』でメジャー監督デビューしたクエンティン・タランティーノは、現在では女性アクションの監督というイメージも強い。ユマ・サーマン主演の『キル・ビル』2部作(03年、04年)は、とても虚構性の強いアクション作品だ。ヒロインの“ザ・ブライド”は、元々暗殺者集団に所属する凄腕の殺し屋だった。しかし足を洗い、普通の女性として人生を送ろうとした矢先に、かつてのボスであり愛人であったビル(デヴィッド・キャラダイン)の命令によって、仲間の殺し屋たちに夫とお腹の子どもを殺され、彼女も死の縁をさまようことになる。映画は長い昏睡から目覚めたザ・ブライドが、彼女の人生を台無しにしたビルと殺し屋たちへ、復讐を果たしていく物語だ。

荒唐無稽な大殺戮に潜ませた愛憎劇

 1作目の見せ場は、伝説の名刀を求めて日本を訪れたザ・ブライドが、青葉屋という料亭で繰り広げる殺戮劇だ。この一連のシーンで、ザ・ブライドはブルース・リーを彷彿とさせるトラックスーツを着ているし、復讐の的であるオーレン・イシイ(ルーシー・リュー)の用心棒が鉄球使いの女子高生であったり、イシイの配下“クレイジー88”が日本刀を持った学生服集団であったりと、元々リアリティは意識していない設定である。

 男性監督や脚本家にとって主人公が女性であることは、地続きで想像できてしまう男性主人公と比べて、虚構として想像を膨らませやすいのだろう。今では女性アクション映画といえば『キル・ビル』は必ずタイトルがあがる。ザ・ブライドの殺した人数のインパクトが記憶に残るのもわかりやすいし、そんな過剰な復讐劇の動機が、最終的には母性に集約されていくのも、強い女性を想像する際のふんわりした理由やイメージの例だ。
 男性の主人公が娘の復讐のために立ち上がる映画だと、地に足のついた作品が次々と頭に浮かぶ。男が考える男の復讐劇は、リアリズムから逸脱しない。しかし女性の復讐劇である『キル・ビル』は、大量殺戮の面白さを見せることが一番の目的であって、動機に母性を持ってくるのはもっともらしく見せるためだけに思える。むしろビルとザ・ブライドの間にある、愛と憎しみの交じり合ったメロドラマ性の方が、言い知れぬ動機として魅力的であり物語を豊潤にしている。「愛しているけれどもくびきから逃れたい」「愛するあまり許せないから殺したい」「愛が招いた因果応報を素直に受け入れる」という感情の交錯が、本作を荒唐無稽なだけでは終わらないドラマとして成立させていた。

より生身の暴力へ

 その後の女性をヒロインに迎えたタランティーノ作品は、反動のように「女にも可能なヴァイオレンス」を追求していく。『デス・プルーフ in グラインドハウス』(07年)は、『キル・ビル』でユマ・サーマンのスタントをしていたゾーイ・ベルが、彼女自身として主演を務める。改造車を使った殺人鬼スタントマン・マイク(カート・ラッセル)に狙われた、ゾーイをはじめとする女性だけの車。なんとか逃げ延びたあと、命の危険にさらされた彼女たちは怒りに燃えて復讐に出る。本作でみせるゾーイ・ベルの身体能力が素晴らしい。ボンネットに掴まったままのカーチェイスや、彼女が走り出す車へ手にパイプを持ったままスルッと滑り込むように箱乗りする場面など、本当にゾーイ自身が演じているリアリズムによって、有無を言わせぬ効果をあげる。


©2007 The Weinstein Company, LLC. All rights reserved.

 本作はマイクの凶行を見せるための二部構成になっていて、まずは酒に溺れエロティックな危険を冒す女性グループが登場する。前半では彼女たちと、「グラインドハウス」のカップリング作品『プラネット・テラー in グラインドハウス』の主演ローズ・マッゴーワンが、被害者として恐怖に慄きむごい目に遭う。
 タランティーノの映画は被害者が男性であっても、監禁の恐怖や、観ていて痛みや凄惨さを強く覚える時がある。映画に耽溺してきた彼の「映画は虚構」という骨身にしみる感覚ゆえか、表現が細やかなあまり暴力シーンには過剰なサディズムが漂っているようだ。確かに映画は所詮作り物にすぎない。だから暴力表現において、創造の面白さに興味が傾くのも当然だ。だが同時に、スクリーンで何が起ころうと真に受けない感性が試されるような、逃げ場のなさや妙に皮膚感覚に迫る暴力性には、観ていて時々居心地の悪い気持ちがする。
 『デス・プルーフ』はそんな陰惨さと、白昼の勧善懲悪という晴れやかさが共存する作品だ。現実にスタントをこなせる女性が等身大のアクションを演じるのは、荒唐無稽な『キル・ビル』と正反対のアプローチである。『デス・プルーフ』で女が発揮する暴力は、「女性でも出来ること」の域を押し広げるリアルな強靭さがあり、これはゾーイ・ベルの存在なくしてありえない生身のアクションだった。

フィルムを操る手

 『イングロリアス・バスターズ』(09年)ではまたアプローチを変え、女性にも可能な、策略による大掛かりな殺戮劇が描かれる。第二次世界大戦中のナチス統治下のフランス。かつてユダヤ人狩りによって家族を皆殺しにされたショシャナ・ドレフュス(メラニー・ロラン)は、一人だけ逃げ延び、今ではパリの映画館で働いている。ドイツ軍の狙撃兵フレデリック・ツォラー(ダニエル・ブリュール)が街でショシャナを見染めたのをきっかけに、ナチスのプロパガンダ映画が彼女の映画館でプレミア上映されることになった。その日はヒトラーをはじめとする、ナチスの最高幹部たちも集まるという。機を見たショシャナによるレジスタンスの幕開けだ。


Film (C)2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

 彼女と同時進行して、アルド・レイン中尉(ブラッド・ピット)を中心とする連合軍特殊部隊のナチス狩りもいる。彼らは男の子らしく得意技がバットのフルスウィングだったり、ナチであった身分を戦後に詐称できないよう、額へハーケンクロイツを刻み込んだりする。相対して、ショシャナが用いるのは手間暇をかけたフィルムでのメッセージと炎だ。この映画で一気呵成なヴァイオレンスシーンを繰り広げるのはショシャナだが、それは肉体を酷使するアクションではない。彼女が操るのはフィルムやスプライサーや映写機だけだ。そしてプレミア上映はショシャナ以外にも複数の思惑が交錯したことによって、甚大な被害をナチス陣営に与えることになる。
ここでも特殊部隊やレジスタンスの活動以外に、フレデリック・ツォラーの恋心がショシャナの復讐劇に別のドラマを生むことになる。フレデリックの熱烈さは復讐に燃えるショシャナに絶好の機会をもたらすと同時に、彼女の家族を殺したハンス・ランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)との再会というショッキングな出来事も引き起こす。クライマックスでも彼はショシャナの企みの妨げとなる。フレデリックは執拗にショシャナを追い回し、プレミアの夜も最悪のタイミングで映写室に入り込もうとする。だがその後に起こる男女のアクシデントでは、ショシャナが思わず行動に出てしまった「復讐の邪魔だてを消す」行為だけにはとどまらず、敵とはいえ自分に恋している男を心配する心を起こしてしまう。ここで男女の姿を切り取る俯瞰のカメラワークは、とても悲劇的でロマンティックなものだ。タランティーノは『キル・ビル』や『ジャンゴ 繋がれざる者』(12年)においても、ドラマを持つ人物の死体の写し方が滅法うまい。いま活躍している監督の中で、死体の転がり方に毎回ハッとさせられ、落涙してしまう演出力ではタランティーノが最高峰だろう。その悲哀が本作においても、後を引く余韻のあるものとなる。

より生々しい暴力へ

 群像劇『ヘイトフル・エイト』(15年)の主要人物の中で、女性はジェニファー・ジェイソン・リー演じるデイジー・ドメルグだけだ。彼女は首に賞金をかけられた極悪人で、屈強でしたたかな賞金稼ぎの男たちを向こうに回して引けを取らない。
彼女が映画の中で振るうのは、汚い言葉や罵詈雑言による暴力である。デイジーは登場した時点ですでに目の周りにあざができており、賞金稼ぎのジョン・ルース(カート・ラッセル)に手ひどいやり方で捕らえられたのがわかる。それでも彼女は落ち着いており、新たに出会った賞金稼ぎのマーキス・ウォーレン(サミュエル・L・ジャクソン)に、ニタニタと笑いながら「ニガー」と侮蔑的な呼びかけをする。住んでいる世界が元々暴力に満ちているから、殴られる恐怖の限界値が最初から無いに等しく、歯が折れるほど殴打されてもふてくされる程度の反応しか示さない。


© Copyright MMXV Visiona Romantica, Inc. All Rights Reserved. Artwork © 2015 The Weinstein Company LLC. AllRights Reserved.

 この映画の中で一番不穏な空気を放ち、殺人すら気にも留めない匂いがするのはデイジーだ。クセモノな俳優たちが揃い、それぞれの役柄が並々ならぬアウトローとしての背景を背負っている中で、拳をあげたり銃を撃ったりしないのに、一番暴力的な存在感を放つ女。平然と人を侮蔑し、窮地に立った人間にひとかけらも憐れみを抱かない、根っからの悪党という新たな暴力の体現である。これまでタランティーノが描いてきた女たちは、暴力を振るうにあたって、徐々にみずからの肉体を使う機会を減らしてきた。そして『ヘイトフル・エイト』は芸達者なジェニファー・ジェイソン・リーを迎えることで、ナイフのような言葉と、邪悪な人間はそこにいるだけで暴力性を醸しだす状態を描いた。
 女の首、という点でも本作は興味深い。殺人にまつわる「首」と「距離」は意味を持つ。手で首を絞めるという行為は当然至近距離で行われ、エロティックなプレイでも試す人々がいるほどだ。そもそも密接な姿勢には性的な気配が漂うのに、なおかつ殺すには凄まじい力が必要なため、殺人者は被害者と強いつながりを持つのは避けられない。それは恐ろしいほど、感触や感情に強い記憶を残すだろう。しかし絞首刑となると、ロープの介在は処刑人を死ぬ者から物理的に遠ざける。それは人の死を感覚に響かせないための冷酷な距離だ。映画においてはロープだけでなく、表現そのものもカメラがかなりの引きになったり、編集でショットが切り変わったりして、死ぬ過程を露骨に見せることは避けられる。
 だが『ヘイトフル・エイト』は処刑について、かなり踏み込んだ表現がされる。男が二人がかりでテコの原理を応用し、女の首にかけた縄をズルズルと引き上げていき吊るす。むごたらしいようだが、吊るされるデイジーはか弱く憐れな者という域を超えた邪悪さに満ちているので、観ていてもそういった心苦しさが少ない。カメラも近くて、彼女を引き上げるための労力が生々しい人の体重であるのを伝える。それと同時に、処刑のように落下での首吊りではないぶん、じりじりと引き上げられる姿は、彼女の邪悪さがまだ地から離れることを拒否するような悪魔的な重みに見える。デイジーの暴力性を見せるためには手段もカメラも編集も、ここまでしないと釣り合いがとれないほどなのだ。
 アクションは荒唐無稽なほど、スタントマンやCGの処理を漂わせて、誰が演じようと構わないものとなる。だからタランティーノの変化は面白い。スター俳優から、現実にそのアクションをできる女優、または女でも振るえる暴力という現実味への変遷。これは女性を描く際にフィクションへと追いやらず、男性と同じような存在としてキャラクターを見つめている証であると思う。

「デス・プルーフ」発売中。
Blu-ray 1,886円(税別)/ DVD 1,429円(税別)。
発売元:ブロードメディア・スタジオ
販売元:NBCユニバーサル
(C)2007 The Weinstein Company, LLC. All rights reserved.

『イングロリアス・バスターズ』
Blu-ray:1,886 円+税/DVD:1,429 円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
Film (C)2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
**2018年6月の情報です。

『ヘイトフル・エイト』
価格:¥1,143(税抜)
発売・販売元:ギャガ
© Copyright MMXV Visiona Romantica, Inc. All Rights Reserved. Artwork © 2015 The Weinstein Company LLC. AllRights Reserved.

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