「You me」と一致するもの

!!! (Chk Chk Chk) - ele-king

 「構造と力」。この浅田彰の著書をアルバム・タイトルに掲げたのは2003年のデートコース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデンだったが、確かに、ダンス・ミュージックは「構造と力」の音楽である。ドラムとベースを背骨としつつ、ギター、キーボードなどの和声・旋律楽器が音楽を彩る・生む。そして、その「構造」には身体を動かす力、つまりは律動が生まれている。まさに構造と力。

 2000年代初頭の80年代リヴァイヴァル期(ノーウェイヴ/エレクトロ・リヴァイヴァル)において、当時のトレンドであった〈DFA〉がNWリヴァイヴァリーなディスコ・パンクの後継だったとするなら、チック・チック・チックの根底には無骨ながらハウス・ミュジックがあった。つまりは享楽的なのである。そして、彼らの7作めのアルバムである本作において、その享楽性はいっそう強くなっていた。こんな戦争とテロの時代だから? つまりはトランプ政権時代のダンス・ミュージック? まあ、いずれにせよ、まさに「恐れを振り払え!」だ。強く、しかし柔軟なビートに、幾人ものボーカリストが召喚され、盛り上げていく。その反復されるビートやフレーズは、摂取するほどにどんどん体に効いてくる音楽なのである。
 レコーディングはバンドのホームであるブルックリンでおこなわれたという。ゲストボーカルには、UKのシンガー、リー・リー、シンガーソングライター/女優のミーア・ペイス、そしてグラッサー名義でも知られるキャメロン・メジロー、チェロ奏者/シンガーのモーリー・シュニックなどが参加している。彼もまたエレガントにアジテーションするように、トラックを盛り上げていく。

 何はともあれ、まずは4曲め“NRGQ”を聴いてほしい。性急なギターのカッティングとビート、シンプルなベースライン、リー・リーらのコーラスを追いかけるシーケンス。中間部のラップ・パート、サビのコーラス。チック・チック・チック史上最高ともいえるダンス・ミュージックの醍醐味が1曲の中に凝縮されているといってもいい。この曲には、「この最高の瞬間はやがて消え去ってしまう」という諦念と、しかし、それゆえ「この瞬間の生は永遠だ」という圧倒的な肯定感が横溢している。刹那と肯定。これもまた構造と力である。

 本作のサウンドには、80年代初頭のNYのダンスフロアのムードを2017年の今、再生するという倒錯的な快楽に満ちている(むろん、私は体験したことがないので想像でしかないが、そのような想像をかきたてる作品であること自体が音楽の豊かさではないか?)。こんな最低・最悪な時代だからこそ、「音楽」という瞬間の享楽にすべてを賭けること。世界を笑い飛ばすこと。世界に、権力に、抑圧に、従わないこと。彼らは「この打ち砕かれたような状況から、何か美しいものが育ってほしい」というメッセージも発しているというが、それはつまり「音楽をする」ということであろう。
 この作品は、いわば、希望と抵抗のアルバムなのだ。「戦争に反対する唯一のことは」という有名な言葉がある。ある文学者の名文句だ。2017年現在、その後に続けるとするなら、こうなるだろうか。「踊り続けること」ではないか。闘争でも逃走でもない。踊り続けること。それは「人生」そのものだ。生きている限り、それは永遠に鳴り続ける。構造と力。踊らせること。踊ること。この身体と音楽との関係性において、ダンス・ミュージックは、どんなに最悪な状況にアジャストしつつも、しかし、本質的に心身ともにヘルシーな音楽であるのだ。ダンス・ダンス・ダンス!


寺尾紗穂×マヒトゥ・ザ・ピーポー - ele-king

 寺尾紗穂×マヒトゥ・ザ・ピーポー、さらに前野健太。なにが起こるんでしょうか。
先日、マヒトゥ・ザ・ピーポーがギターで参加した、寺尾紗穂の“たよりないもののために”がYoutubeで公開されましたが、みなさんもう聴きました? その言葉と音響に浸ることができたひとたちに、以下のイベントを紹介します。まだ聴いていないひとたちは、ヴィデオを観てみてください。

 寺尾紗穂は6/21に最新アルバム『たよりないもののために』を、そして6/28にはマヒトゥが2ndアルバム『w/ave』をリリースします。6月27日はなにが起こるんでしょうか。詳細は以下にまとめたので、お見逃しなく。

■にじのほし9『月の秘密Prime』

出演:寺尾紗穂×マヒトゥ・ザ・ピーポー/前野健太
日程:2017年6月27日(火)
会場:渋谷WWW(東京都渋谷区宇田川町13-17ライズビル地下/TEL:03-5458-7685)
時間:19:00開場/19:30開演
料金:前売券¥3500+1d/当日券¥4000+1d
※ 一部座席有り/整理番号順入場


■寺尾紗穂
1981年11月7日東京生まれ。
2007年ピアノ弾き語りによるアルバム「御身」が各方面で話題になり,坂本龍一や大貫妙子らから賛辞が寄せられる。大林宣彦監督作品「転校生 さよならあなた」、安藤桃子監督作品「0.5ミリ」、中村真夕監督作品「ナオトひとりっきり」など主題歌の提供も多い。2015年アルバム「楕円の夢」を発表。路上生活経験者による舞踏グループ、ソケリッサとの全国13箇所をまわる「楕円の夢ツアー」を行う他、2010年より毎年青山梅窓院にてビッグイシューを応援する音楽イベント「りんりんふぇす」を主催。昨年リリースの最新アルバム「私の好きなわらべうた」では、日本各地で消えつつあるわらべうたの名曲を発掘、独自のアレンジを試みて、「ミュージックマガジン」誌の「ニッポンの新しいローカル・ミュージック」に選出されるなど注目された。
みちのおくの芸術祭「山形ビエンナーレ」での絵本作家荒井良二とのコラボ、金沢21世紀美術館企画「AIR21:カナザワ・フリンジ」でのソケリッサとの共演など、演奏の場もライブハウスを超えて広がりつつある。
活動はCM音楽制作(ドコモ、無印良品など多数)やナレーション、書評、エッセイやルポなど多岐にわたり、著書に「評伝 川島芳子」(文春新書)、「原発労働者」(講談社現代新書)、戦前のサイパンに暮らした人々に取材した「南洋と私」(リトルモア)。8月に集英社より「あのころのパラオをさがして」を発売予定。平凡社ウェブにて「山姥のいるところ」、本の雑誌ウェブで「私の好きなわらべうた」を連載中。その他資生堂の広報誌「花椿」、高知新聞、北海道新聞でも連載を持つ。6月21日最新アルバム「たよりないもののために」と伊賀航、あだち麗三郎と結成したバンド「冬にわかれて」の7インチを同時発売。
https://www.sahoterao.com/


■マヒトゥ・ザ・ピーポー
2009年 バンドGEZANを大阪にて結成。作詞作曲をおこないボーカルとして音楽活動開始。
2011年沈黙の次に美しい日々をリリース。HEADSの佐々木敦の年間ベスト10のデイスクに選出され、全国流通前にして「ele-king」誌などをはじめ各所でソロアーティストとしてインタビューが掲載されるなど注目が集まる。
2014年、kitiより2ndアルバムPOPCOCOON発売。
2014年には青葉市子とのユニットNUUAMMを結成し、アルバムを発売する。
2015年にはpeepowという別名義でラップアルバム Delete CIPYをK-BOMBらと共に制
作、BLACK SMOKER recordsにてリリース。
2016年には今泉力弥監督の映画の劇伴やCMの音楽などを手がける。
また音楽以外の分野では中国の写真家REN HANGのモデルや国内外のアーティストを自
身の主催レーベル、十三月の甲虫でリリース、
野外フェスである全感覚祭を主催したり、近年は仲間とweb magazine PYOUTHを始
動。ボーダーをまたいだ自由なスタンスで活動している。
2017年 6/28にNUUAMMの2nd album「w/ave」を十三月の甲虫より発売。
https://mahitothepeople.com/


■前野健太
シンガーソングライター。俳優。
1979年埼玉県生まれ。
2007年、自ら立ち上げたレーベル"romance records"より『ロマンスカー』をリリースしデビュー。
2009年、全パートをひとりで演奏、多重録音したアルバム『さみしいだけ』をリリース。2009年元日に東京・吉祥寺の街中で74分1シーン1カットでゲリラ撮影された、ライブドキュメント映画『ライブテープ』(松江哲明監督)に主演。同作は、第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」で作品賞を受賞。
2010年、『新・人間万葉歌~阿久悠作詞』へ参加。桂銀淑(ケイ・ウンスク)「花のように鳥のように」のカバー音源を発表。
2011年、サードアルバム『ファックミー』をリリース。映画『トーキョードリフター』(松江哲明監督)に主演。同年、第14回みうらじゅん賞受賞。
2013年、ジム・オルークをプロデューサーに迎え『オレらは肉の歩く朝』、『ハッピーランチ』2枚のアルバムを発表。
2014年、ライブアルバム『LIVE with SOAPLANDERS 2013-2014』をリリース。文芸誌『すばる』にてエッセイの連載を開始。
2015年、雑誌『Number Do』に初の小説を発表。CDブック『今の時代がいちばんいいよ』をリリース。
2016年、『変態だ』(みうらじゅん原作/安齋肇監督)で初の劇映画主演。ラジオのレギュラー番組『前野健太のラジオ100年後』をスタート。
2017年、『コドモ発射プロジェクト「なむはむだはむ」』(共演:岩井秀人、森山未來)で初の舞台出演。初の単行本となる『百年後』を出版。
https://maenokenta.com/

 与党の保守党が過半数割れになったことで、政権をとるまでには至らなかったものの労働党が一矢報いた=久々の左派の巻き返しという印象を強く残して英国総選挙は幕を閉じた。勝敗要因の分析は様々だろうが、選挙キャンペーン中に話題になったトピックのひとつにキャプテン・スカの“Liar Liar”のヒットがあった。

 キャプテン・スカはロンドンのセッション・ミュージシャンを中心とする「アンチ緊縮政策バンド」で、ポリティカルなメッセージをレゲエ/スカのビートに乗せ歌ってきた。“Liar Liar”は元々は2010年にリリースされたトラックで、自由民主党との合意によって連立政権を確立した英元首相デイヴィッド・キャメロンを「嘘つき」と糾弾する内容。この時点でもUKレゲエ・チャートで1位を達成したそうだが、歌詞の一部を変更しテリーザ・メイ首相の演説をサンプリング、「彼女は信じられない」と歌いヴィデオに「Tories Out(保守党は出て行け)」のテロップも流れる再発「2017年総選挙ヴァージョン」は、5月26日にリリースされるやアマゾン、iTunes他のダウンロード・チャートで上位にランク・インし、YouTubeのヴュー数も250万回以上にのぼるヴァイラル・ヒットと化した。
 ──と、それだけだったら一種のノベルティ・ヒット、もしくは現英政権や保守党に不満を抱く層の「うさばらしソング」で終わっていたかもしれない。しかし全英シングル・チャート最高位4位にまで上昇したこの曲を、公式ウィークリー・チャートを発表するBBC最大のラジオ局BBC1がオンエア自粛したことで逆に火の手は広がっていった。
 BBC側の言い分は「政治的に中立・公平な立場をとる公共放送団体」というメディアとしての立ち位置ゆえ、明らかに反保守党/反テリーザ・メイなこの曲を選挙期間中に放送するわけにはいかない、というものだった。とはいえ一般人からすれば、これは単純に「体制やお上を攻撃し批判すると、放送禁止を食らうの図」と映る。そうやって圧力がかかると、曲の歌詞やメッセージに共鳴した人々の反骨マインドはもちろん、「観てはダメ」「聴いちゃいけません」と言われれば言われるほど盛り上がるヤング心理は刺激され、SNS他での拡散に繫がる。
クサいものに蓋をしたつもりだったBBCは、逆に保守党との癒着体質──キャプテン・スカの主格であるジェイク・ペインターがBBCのテレビ番組で取材を受けた際、彼は本番中に「この番組スタッフから、前もって“保守党に対する批判発言は、どうかお手柔らかに”と注意されたんだよね」と暴露し、笑いを呼んだ──を指摘されるなど、馬脚を現す形になった。

 ちなみに、これはなにも「ひとつの歌が、音楽が民意を大きく変えた」というヒロイックな話ではないと思う。もちろん、それが本当だったらかっこいい話だ。しかしブレクシットの動向や公共サーヴィス予算カットのかかった今回の選挙はイギリス国民にとって「内戦」とすら言っていい非常に重要なポイントであり、その重さが大小の幅広い層を動かした結果だろう。
 日本では、労働党党首ジェレミー・コービン支持を表明したセレブやミュージシャンが目につくかもしれない。グライム勢に愛されるコービンは『NME』だけではなくメタル&ラウド・ミュージック専門雑誌『KERRANG!』でも表紙を飾ったし、テレビ討論会他のメディア・パフォーマンスでも善戦した。だが、それは米大統領選同様、基本的に左派/リベラル寄りである芸能人のデフォルトな動きだろう。彼のマニフェストの現実性を問う声やリーダーとしての資質を疑問視する声はいまだイギリス国内のあちこちで根強いし、先述のキャプテン・スカにしても労働党を支持しているわけではない。
 むしろ今回は、「投票しよう」「保守党を阻め」の思いが社会主義から中道、エコなど様々な党派やイデオロギー、政策の違いを越えて合流したことで、「楽勝」と高をくくっていた保守党政権のおごった足下をすくってみせた構図、というのに近い。結果として、敗者ははっきりしたもののかといって明確な勝者がいるわけでもない、ハング・パーラメント(宙ぶらりん議会)こと少数派議会が発足することになった。これを二大政党システムと「勝ち負けレース」に嫌気を感じている国民感情の表れ、と解釈することも可能だろう。

 選挙結果の分析には、「ネットやSNSを通じた草の根の政治活動はバカにできない」というコンセンサスも含まれていた。若者の政治に対するアパシーを嘆く声はこちらでもよく聞くし、Youtubeやトウィッター、インスタグラム他のメッセージと「いいね!」にいかほどの価値があるのか?と嘲笑する人間は多い。実際、自分が“Liar Liar”を初めて聴いた時も、その楽曲としてのシンプルさにある意味ずっこけさせられた。「これって、小中学生が遊び場で“◎□ちゃんは嘘つきだ〜〜”とはやしたてて指差すのと、あんま変わんないじゃん?」と。
 昔よく言われたことだけど、ネットでのヴァイラル人気やトレンドはトイレの落書きやグラフィティみたいなもの=おっ、いいこと言うね〜!とか、派手で目について気を惹いたとしても、いったんペンキ他で塗りつぶされたらそこで終わり、な一過性のものとされてきた。いわば、アングラ・メディアの取るに足らない存在、ということ。
 しかし、これまで「主流」とされてきた電波や紙メディアの昨今の動き──BBCがこの“Liar Liar”を流さなかったのは大人げないし、『The Sun』や『Daily Mail』といった大手右派タブロイド紙が「道化」「アカ」「テロの擁護者」他の見出しで繰り広げたジェレミー・コービンへの攻撃は、センセーショナリズム主体の新聞とはいえヒステリックと映った――を考えれば、これくらいストレートで分かりやすくて老若男女にバシッと伝わり、知り合いに「笑えるから、観てみなよ」程度でもいいから紹介したくなるメッセージに転じるのはありなんだな、と思い返すことにもなった。
 プロテスト・ソングというと、たとえば1963年のワシントン大行進でのボブ・ディランといったフォーク勢のイメージがいまだに根強いと思う。ウッディ・ガスリーのように「ギター一本でシステムと体制に立ち向かう」、の図だ。しかし、世相や社会の変化と共に様々に形を変えて進化・変化したプロテスト音楽とミュージシャンの政治的なスタンスは、イギリスでは80年代にひとつのピークを迎えた。マーガレット・サッチャーという強敵の存在が、多くの名曲を生み出したゆえだ。
その意味で、キャプテン・スカの“Liar Liar”は、音楽的にも80年代勢=ザ・スペシャルズや初期UB40の系譜を汲む、「踊れる、でも考えさせられる」レゲエやスカ、引いて言えばダンス音楽に多かれ少なかれ内在するレジスタンス姿勢を備えている。この系譜の中にあるザ・ビートの曲“Stand Down, Margaret”(1980)は、タイトルの通り「マーガレット(・サッチャー)、頼むからもう身を引いて」という内容。ありていに言えばサッチャー首相に「辞職して引っ込め」と言っている曲だが、曲を書いたデイヴ・ウェイクリングはただ悲観的な嘆願だけではなく、そこにユーモアもこめたという。
 サッチャーは英中部の出身で、雑貨店を営んでいた労働者階級の出自。そんな彼女が、政界に進出しトップに上っていく過程で地方訛りを捨て、上品な言葉使い/標準語を会得して権力者=王族、貴族、金持ちetcにおもねるようになった様は同じく英中部バーミンガム出身のデイヴ・ウェイクリングには滑稽に映ったようで、この曲での「引っ込んでくれ」には、「同じ地方出身の人間として恥ずかしいから、無理にロンドンに合わせるのはやめてくれ」というニュアンスも含んでいる。
 こうした細かい意趣は、「Stand down」といったパワフルなフレーズ、スローガン性の前には掻き消えたのかもしれない。だが、“Stand Down, Margaret”と、その37年後に登場したもっとエグい“Liar Liar”は、スカの軽妙なビートを通じて権力を握ったパワフルな存在が抱く「おごり」を牽制し批判している。そのどちらも、女性党首に向けてのものだったのは偶然?それとも?――というジェンダー論は、ここでは長くなる&キリがないので差し控える。だが、今回感じたのは、ザ・スペシャルズやザ・ビート、更に広げればコステロやザ・スミス、ビリー・ブラッグ、ポール・ウェラーといった「反サッチャー」のしみついた英世代=40〜50代の中年たちが、2010年世代のヤングたちと先祖帰り的にリコネクトしたのかもしれない、という点だった。
 この総選挙はイギリス政界の混沌とした現状をフラットに明かしたものであり、言い換えれば白紙に戻った状態。ゆえにこれからが本当の意味での「正念場」になるだろうが、しょっちゅう指摘されてきた「90年代から00年代の英音楽シーンにおける政治に対する興味の欠如、無関心」は必ずしも事実ではなく、状況はシフトしている。10年代は再び目覚めているのかもしれない。 

Oneohtrix Point Never - ele-king

 来る8月11日、OPNによる新たなアルバム『Good Time Original Motion Picture Soundtrack』がリリースされる。タイトルにもあるとおり、今回のアルバムはジョシュア&ベニー・サフディ監督作『Good Time』の劇伴で、先日開催されたカンヌ国際映画祭にてカンヌ・サウンドトラック賞を授かるなど、すでに高い評価を得ている。
 OPNことダニエル・ロパティンがサントラを制作するのは今回が初めてではない。彼は2013年にソフィア・コッポラ監督作『The Bling Ring』のスコアをブライアン・レイツェルとともに手がけている(興味深いことに『R Plus Seven』がリリースされたのと同じ年である)し、2015年にはアリエル・クレイマン監督作『Partisan』の音楽を単独で担当している(興味深いことに『Garden Of Delete』がリリースされたのと同じ年である)。だが、本名のダニエル・ロパティン名義ではなく、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー名義でサントラを発表するのは今回が初めてのはずだ。
 メタルに触発されたかと思えばボーカロイドに影響されたり、ルトスワフスキを再解釈したかと思えばジャネット・ジャクソンをカヴァーしたり、アノーニとコラボしたかと思えばDJアールをプロデュースしたりと、もはや何を考えているのかさっぱりわからないロパティンだけれど、今回のサントラをOPN名義でリリースするのにもきっと彼なりの意図があるのだろう。ただのサウンドトラックとしてだけではなくOPNのアルバムとしても聴いてほしい、というような。
 ともあれ、イギー・ポップとの共作曲“The Pure And The Damned”が先行公開されているので、それを聴きながら待っていようではないか。


ONEOHTRIX POINT NEVER
本年度カンヌ・サウンドトラック賞受賞!
ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーによる
サウンドトラック・アルバム『Good Time』のリリースが決定!
イギー・ポップ参加の新曲をフル公開!

先日開催されたカンヌ国際映画祭にて、ジョニー・グリーンウッドやフェニックス、ジェド・カーゼル、イブラヒム・マーロフといった名だたるミュージシャンや作曲家たちを抑え、カンヌ・サウンドトラック賞を受賞したワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(Oneohtrix Point Never)ことダニエル・ロパティン(Daniel Lopatin)が、受賞作である映画『GOOD TIME(原題)』のサウンドトラックを8月11日(金)にリリースすることを発表。イギー・ポップが作詞とヴォーカルを担当したエンディング・テーマ“The Pure and the Damned”が公開された。

Oneohtrix Point Never - The Pure and the Damned (feat. Iggy Pop)

本年度のカンヌ国際映画祭の目玉のひとつとされた映画『GOOD TIME(原題)』は、東京国際映画祭グランプリ&監督賞のW受賞を『神様なんかくそくらえ』で成し遂げたジョシュア&ベニー・サフディ兄弟による最新作で、『トワイライト』シリーズや『ハリー・ポッター』シリーズで知られるロバート・パティンソンや、クエンティン・タランティーノ監督作『ヘイトフル・エイト』のジェニファー・ジェイソン・リーが出演するクライム・スリラー作品となっている。

Good Time Trailer (Original Score by Oneohtrix Point Never)

8年ほど前、ぼくらは音楽に、あるいはワンオートリックス・ポイント・ネヴァーその人に興味を持った。ぼくはいつもダンの音楽(特に初期の頃の)を、まだ作ってもいない映画のサウンドトラックとして想像していた。『GOOD TIME』でのコラボレーションから、それを取り巻く対話を通じて、ぼくらは深い友情と、もちろんこの色鮮やかでこの世のものとは思えないようなスコアを手に入れた。制作の前にダンとはコンセプトのことでよく話し合った。それがカンヌで花開くことになるとは……まるでハイレゾ・ファンタジーだね。 - ジョシュア・サフディ

ぼくはワクワクしながら、ミッドタウンにある兄弟のオフィスを訪ねた。そこには彼らが好きなものが何でもあって、まるで聖地みたいだった。巨大な『AKIRA』のポスターと『King of New York』が並んでたよ。ふたりはぼくに、特殊な映画に取り掛かるつもりだと言った。ぼくから見たサフディ兄弟は、非常に特異なことに取り組みながらも、伝統を尊重する監督だ。ジム・ジャームッシュやクエンティン・タランティーノ、レオス・カラックスといった監督を思い浮かべても、彼らは映画の歴史を愛するがゆえに映画制作そのものから遠ざかりがちだが、いずれにせよあの独特の個性を失うことはない。ぼくらに共通しているのは、傷ついてボロボロになったものに対する愛着と敬意だ。たぶんぼくらはいま現在の歴史を守りたいという衝動を感じていると思う。昔の、ではなく。ぼくら自身の言葉でだ。 - ダニエル・ロパティン

『GOOD TIME』はサフディの出身地であるニューヨークに断片的なつやを与えている。だが固い留め具としてそこになくてはならないのが、衝撃的なアンダースコアだ。ほぼノンストップで酔わせるそのエレクトロニカは、ブルックリンを拠点に活動する実験音楽の作曲家ダニエル・ロパティン、またの名をワンオートリックス・ポイント・ネヴァーが手がけている。エンディング・テーマ“The Pure and the Damned”でコラボレートしたのはイギー・ポップだ。至る所で響き渡るプログレッシヴ・ロックのシンセサイザーは、ウィリアム・フリードキン、マイケル・マン、そしてジョン・カーペンターの『Assault on Precinct』といったヴィンテージ映画の残響を呼び起こしているが、決して模倣ではない。 - Hollywood Reporter

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティンによって提供されたスコアは、この映画と完璧にマッチしている。タンジェリン・ドリームのようなVHSスリラー・サウンドトラックに由来しながらも、ここ最近の模倣者たちとは比べものにならないほど独創的で表現力がある。ロパティンの不安気な旋律と音の急襲は、コニーの頭の中と思えるくらいの感覚を我々に与えてくれる。 - Vulture

ゴミ番組と、ドラッグ・カルチャーと、蛍光色が飛び散った夜間の撮影と、振動するシンセサイザーを混ぜ合わせた21世紀のファーストフード・ハイブリッド。ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーのすばらしいスコアに感謝だ。 - The Film Stage

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーによる映画『GOOD TIME(原題)』のサウンドトラック・アルバム『Good Time Original Motion Picture Soundtrack』は8月11日(金)世界同時リリース! 国内盤には、ボーナス・トラック“The Beatdown”が追加収録され、解説書が封入される。iTunesでアルバムを予約すると、公開された“The Pure and the Damned (feat. Iggy Pop)”がいちはやくダウンロードできる。

label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never
title: Good Time Original Motion Picture Soundtrack
cat no.: BRC-558
release date: 2017/08/11 FRI ON SALE
国内盤CD: ボーナス・トラック追加収録 / 解説書封入
定価: ¥2,200+税

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映画『GOOD TIME(原題)』
2017年公開予定
第70回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門選出作品

東京国際映画祭グランプリ&監督賞のW受賞を『神様なんかくそくらえ』で成し遂げたジョシュア&ベニー・サフディ兄弟による最新作。

コニー(パティンソン)は、心に病いを抱える弟(ベニー・サフディ監督兼任)のため、家を買い安全に生活させてやりたいと考えていた。そこで銀行強盗をふたりでおこなうが、途中で弟が捕まり投獄されてしまう。弟は獄中でいじめられ、暴れて病院送りになる。それを聞いたコニーは病院へ忍び込み、弟を取り返そうとするが……。

出演:ロバート・パティンソン(『トワイライト』『ディーン、君がいた瞬間』)、ベニー・サフディ(監督兼任)、ジェニファー・ジェイソン・リー(『ヘイトフル・エイト』)、バーカッド・アブティ(『キャプテン・フィリップス』)
監督:ジョシュア&ベニー・サフディ兄弟(『神様なんかくそくらえ』)
配給:ファインフィルムズ

2017/アメリカ/カラー/英語/100分
(C) 2017 Hercules Film Investments, SARL

interview with Formation - ele-king


Formation
Look At The Powerful People

Warner Bros. / ホステス

Indie PopIndie Rock

Amazon Tower HMV iTunes

 いま、ロンドンでインディ・ロック・バンドをやることのリアリティとは何だろうか。デビュー・アルバムを放ったばかりのフォーメーションに訊きたかったのは、ある意味でこれに尽きると言っていい。グライム全盛と伝えられるいまのロンドンにあって、バンドを選択することはけっして簡単ではないのではないか。しかもフォーメーションは、移民の子であるリットソン兄弟の双子が中心になっているのを筆頭として人種的な構成は多様で、その身にまとったタトゥーとストリート・ファッションからは今風の行儀のいいおぼっちゃんバンドという印象を受けない。彼らはストリートを知っているようだし、一見何かに逆らっているように見える。では何に?
 ヘヴィなベースラインと裏拍を意識したドラミング、そこに乗っかってくるカウベルやコンガといったパーカッション、そして多彩な音色によるシンセの色づけを個性とするフォーメーションの音は、ヒップホップやファンクから影響を受けたエクレクティックなダンス・ロックだ。それは「分断」がキーワードとして取り沙汰される現在のUK(と、世界)に懸命に逆らっているようにも見える……。
 が、じつは、その折衷性はザ・クラッシュの時代から連綿と続いてきたUKバンドの伝統でもあり、「らしさ」でもある。またその上で、サウンドの複雑さに比してあくまでストレートにキャッチーなメロディで開放感を謳歌するフォーメーションは、何かに無理矢理逆らうのではなく、自分たち「らしさ」を自然に伸び伸びと放っていることがよく聴けば理解できる。持っている個性を生かすためには、本来多様なジャンルの受け皿となり得るロック・バンドがフィットしたということなのだろう。そうした衒いのなさが彼らの魅力であり、そのことがよく伝わってくる取材であった。

 多くのロンドンっ子たちが口にするように、若くて金のない連中にとってかの街はますます住みにくくなっているようだ。移民であればなおさらだろう。だが、フォーメーションはそのことを嘆いたりわめいたりするのにエネルギーを使わず、ダンサブルで情熱的な音を鳴らしながら隔たりなく他者と繋がろうとする。その屈託のない前向きさこそが、フォーメーションのグルーヴの源である。

怒りから生まれるポジティヴなエネルギーってあると思うんだ。壁にパンチする代わりに僕たちは音楽をやってるんだ(笑)。 (マット)

東京の街はもう見ましたか?

マット・リットソン:ああ、昨日着いて、原宿と新宿を見たよ。

ロンドンと東京とどんなところがいちばん違うと思いますか?

ウィル・リットソン:たくさんありすぎるよ!

マット:規模がロンドンよりとにかく大きいよね。

ウィル:東京はひとが親切だし、安心感のある街だと思うよ。

ロンドンのミュージシャンに話を訊くと、いまはとにかくジェントリフィケーションの問題がキツいと話してくれることが多いんですね。何もかも高くなっていて、若者が暮らしにくいと。あなたたちもバンドをやっている上で苦労を感じますか?

ウィル:うん、すごく感じるね。

音楽をやるのも厳しい?

ウィル:演奏するための楽器がまず買えないんだよね。寄付をもらうこともできるんだけど、申請して認めてもらうためにはきちんとした書類を提出しないといけないし、審査が厳しい。若いうちはキャリアもまだないから、それをもらうのは大変だね。

マット:音楽を作ったり演奏したりする場所もないしね。

バイオを見るとガレージで演奏していたと書いてあるのですが、そういう環境も影響していますか?

ウィル:ああ、そうだね。母親のガレージで演奏していたよ。

マット:リハーサル・スタジオに通ってたんだけど、お金が払えなくてね。

ウィル:まあでも、ジェントリフィケーションだけじゃなくて、金がないっていうのは誰にでもあることなんだけどね(笑)。

なるほど。おふたりは音楽的な家庭で育ったのですか?

マット:親がミュージシャンだったってわけではないんだけど、父親がレコード・コレクターだったからね。

ウィル:あと母親も音楽好きで、僕たちに音楽を習わせようとクワイアに入れたりしていたね。

自分もそうだし、友だちや家族もそうなんだけど、みんなタトゥーが好きで同じ模様を入れてたりするから、その繋がりという意味でタトゥーをフィーチャーしたんだ。 (ウィル)

いまイギリスでは社会的階層によって聴く音楽が分離しているという話も聞くのですが、あなたたちもそんな風に感じることはありますか?

ウィル:そんなことはないんじゃないかな。

マット:以前はあったかもしれないけど、いまはそんなことないと思うよ。

ワーキング・クラスや貧しい若者たちがいまロンドンで聴いている音楽は圧倒的にグライムだって話も聞くんですけど、そんなこともないんでしょうかね?

マット:うん、そうだね。グライムの作り手はやっぱり貧しいところから出てきていると思うけど、聴き手はワーキング・クラスやアンダークラスに限られているわけじゃないと思う。

いっぽうで、バンド音楽はどうでしょう?

マット:バンドもそうだと思う。

ウィル:つまり、どの階級のひとが作ったかは問題じゃなくて、いまみんなが気にしているのは、その音楽が正直であるかどうかなんだよね。グライムにしてもインディ・バンドにしてもメジャーなポップスにしても、自分たちが作りたい音楽を作っているかが重要で。そうじゃなくて、何か決まったものになろうとしている音楽にはみんな惹かれないからね。グライムは作り手の真実が感じられるから、強いコネクションを感じるリスナーが多いんじゃないかな。

では、フォーメーションのリスナーも特定の階層や人種に限られていないのでしょうか?

ウィル:そうだね!

なるほど。では話題を変えて、“ラヴ”のヴィデオを見るとタトゥー文化がフィーチャーされていますよね。

ウィル:そうだね。

これはどういった意図によるものなのでしょうか?

ウィル:タトゥーってイギリスではワイルドなイメージがあると思うんだけど、“ラヴ”のヴィデオでは自分たちの周りのひとたちとの繋がりや愛を表現しているんだよ。自分もそうだし、友だちや家族もそうなんだけど、みんなタトゥーが好きで同じ模様を入れてたりするから、その繋がりという意味でタトゥーをフィーチャーしたんだ。

ちなみにあのヴィデオでは本当に入れてるんですよね?

ウィル&マット:そうだよ! (と言って腕のタトゥーを見せてくれる)

ほんとだ(笑)。クール! たとえば僕もタトゥー文化に憧れはあるんですけど、日本ではまだまだ反社会的なものだというレッテルを貼られることも多いんですよ。反抗的なイメージをタトゥーに持たせたかったっていうことはないですか?

ウィル:そんなことはないよ。イギリスでは日本よりもタトゥーが受け入れられていると思うし、みんな普通に入れてるからね。

ただタトゥーのことは置いておいても、フォーメーションのイメージって反抗的なところがあるとは思うんですよね。

ウィル:うーん、わからないけれど、それはイメージ戦略というよりは音楽から来ているものだと思うんだよね。アグレッシヴだったりダークだったり……そういうものが力になってる。自分たちがワルだとか犯罪者だとかって言いたいわけではなくて(笑)、音楽を通じて反抗を表現しているのかもしれない。

なるほど。フォーメーションって言葉もいいと思うんですよ。奇しくも去年ビヨンセが“フォーメーション”という曲でとても評価されましたけど、いま、連帯というイメージを持っている言葉なのかなと。あなたたちはフォーメーションという言葉にどんな意味を込めましたか?

ウィル:それはビヨンセのヴィデオと同じだよ。僕たちもフォーメーションという言葉に連帯という意味を持たせたかった。ただ、あの曲で僕たちはインターネット上では埋もれてしまったんだけどね(笑)。

(笑)ちなみにそのビヨンセやケンドリック・ラマーは、政治的な態度としてもアメリカで評価されていますが、共感するところはありますか?

マット:グレイトだよ。ケンドリック・ラマーは素晴らしいよね。70年代のヒップホップは、政治や世のなかのことに触れながら自分が思うことをまっすぐに伝えようとする意志があったけど、そのあと扱うトピックがつまらないものになっていった傾向があると思うんだよね。いまそれが戻ってきて、まさに彼らがやっていると思うんだよ。

ウィル:そうだね。ヒップホップは自分たちのあり方を提示してきた音楽だけど、彼らはいまそれをやってるよ。

ただいっぽうで、若い音楽リスナーがそういったUSのヒップホップやR&Bばかり聴いて、イギリス発の音楽をあまり聴かないという風にも聞くんですけど、そういった実感はあまりないですか?

ウィル:そうは感じないかな。僕はいま28歳なんだけど、自分たちの世代は分け隔てなくいろいろな音楽を聴いてるひとが多いと思うよ。イギリスではアデルやゴリラズが世界的に成功しているし、みんなそのことを誇りに思っているんだ。僕たちはたくさんの音楽の良いミックスを聴いているんだよ。

なるほど。ただゴリラズにしても、世界の音楽を貪欲に取り入れていますよね。フォーメーションもUSのヒップホップやアフリカの音楽など、たくさんの音楽から影響を受けていますが、そんななかでも、自分たちはイギリスのバンドだとアイデンティファイしているのでしょうか?

マット:強く意識はしているわけではないかな。

ウィル:そこが重要だとは思っていないんだ。

マット:僕たちは世界中のオーディエンスと繋がりを持ちたいからね。

意識してユニヴァーサルなものを目指している?

ウィル:いや、と言うより、どこの音楽を取り入れるかよりも、自分たちのパーソナルな部分を取り入れるほうが僕たちにとっては重要なんだ。そうなると自然とロンドンの文化や歴史はにじみ出てくるとは思う。自分たちの家族の歴史だとかね。

なるほど。では、ロンドンの文化のどういったところにもっとも繋がりを感じますか?

ウィル:音楽のヴァラエティそのものだね。

マット:ロンドンはマルチ・カルチュラルな街だから、そこがいちばん僕たちの音楽に反映されていると思う。

いまおっしゃったように、フォーメーションの音楽にはたくさんの要素が入っていますよね。楽器の数も多い。なぜ4分間のポップ・ソングのなかにたくさんのものを入れるのでしょうか?

マット:自分たちが聴いてきた音楽っていうのは本当に多様で、そのぶんたくさん選択肢があるんだよ。それを詰め込むしかなかったんだ(笑)。

ウィル:やりすぎて複雑になりすぎているところもあるかもしれないけど……ファースト・アルバムだし、とにかくいろんなことにトライしたかった。エキサイティングなものにしたかったしね。

なかでも、とくにパーカッションが目立っているのがフォーメーションの特徴ですよね。よくカウベルが挙げられますけど、それだけじゃなくてタンバリンやコンガも効果的に使われてますね。パーカッションはフォーメーションの音楽にとってどのような意味を持つのでしょうか?

ウィル:パーカッションはものすごく大事なんだ。ドラムで基本的なグルーヴを作っていくんだけど、タンバリンやコンガでアクセントをつけていくようにしていて。というのは、パーカッションっていうのは昔から触れてきたから、もはや自分たちの一部なんだよ。僕たちには使う必要があるし、そういった側面を出していくことは僕たちにとってすごく重要なことなんだ。

ディスコやハウスからの影響もありますか?

ウィル:いや、僕にとってはアフリカ音楽やオーケストラ音楽からの影響が強いんだ。僕の好きなドラマーがクラーベとアフリカ音楽の関連性についての本を書いているんだけど、それもすごく読んだしね。

そうなんですか。アフリカ音楽とはとくにどういったところにコネクションを感じますか?

ウィル:僕たちの家族がガーナ出身なんだ。

ああ、なるほど。ルーツという意味が大きいんですね。

ウィル:そうなんだよ。

パーカッションが目立つこともあって、ファーメーションの音楽はリズムとベースが中心でとてもダンサブルですが、なぜダンス・ミュージックであることが重要だったのでしょう?

マット:みんなの身体を動かしたいからだよ。そうやってオーディエンスの反応を見るのはすごく楽しいことだし、みんなが楽しんでいる姿を見るのは嬉しいね。

やっぱりライヴはみんな踊りまくるって感じですか?

ウィル:その通りだよ(笑)。

あと、ギターがなくてシンセが中心にあるのもバンドとしてユニークですが、どうしてシンセだったのですか?

ウィル:バンド・メンバーにギターを弾けるやつがいなかったから……。そこはシンプルな理由なんだ(笑)。

ははは。ただ、それにしてもシンセの音色がすごく前に出てるなと思うのですが、シンセのどういうところが好きですか?

マット:シンセはあらゆるサウンドを作ることができるからね。ギターってやっぱりギター・サウンドになっちゃうから――

ウィル:ペダル使えばいろいろできるじゃん。

マット:そうなんだけど、シンセはスケールが全然違うよ。いろいろな音色を出せるのが魅力なんだ。

シンセ・サウンドという意味で、誰かからの影響はありますか?

ウィル:(即答で)ナイン・インチ・ネイルズ。

ああ、なるほど。

ウィル:あとはYMOだね。

マット:YMOはいいね。

おお、本当にいろいろな音楽から影響を受けているんですね。

どんな理由であっても誰に対しても、繋がりを感じられないことが僕はすごく嫌なんだ。誰かと繋がりを持つということがすごく大事だと思っているから (ウィル)

ではまた話題を少し変えて、(ザ・ストリーツの)マイク・スキナーが監督した“パワフル・ピープル”のヴィデオについて訊きたいのですが。あれはどういう経緯でできたものなんでしょうか?

マット:レーベルのひとと彼が友だちだったんだ。マイクがミュージック・ヴィデオを撮りたくていろんなレーベルにアプローチしていたらしいんだけど、自分たちもちょうどヴィデオが必要で、たまたまそのタイミングが合ったんだよね。それでレーベルが繋いでくれたんだ。

ヴィデオを撮る前は、あなたたちにとってマイク・スキナーってどういう存在でしたか?

ウィル:もう大ファンだったよ。

マット:もともと大好きだったけど、仕事をいっしょにしてからこんなにも賢いひとなんだって気づいたんだ。

ウィル:ひとに対しての知識がすごくあったのが印象的だったな。

マット:ヴィデオを撮る前に何度か電話でアイデアを話したんだけど、彼の声もすごくユニークなんだよね。ザ・ストリーツのラップを聴いてるような気分だったよ(笑)。

それはいいですね(笑)。彼とヴィデオについてどういったことを話し合ったのでしょうか?

マット:インディ・バンドのためのグライムのヴィデオを作ろうというのがコンセプトだったんだ。

ああ、なるほど。

マット:ただグライム・アーティストをコピーするんじゃなくて、グライム風にバイクに乗った連中を撮るっていうか――

ウィル:本当に即興的にバンドの姿やモーターバイクを撮って。そこで自然に起きることに任せたんだけど、それがすごく楽しかったよ。あんまり計画的なものではなかったんだよ。

ちなみになんですが、ザ・ストリーツのアルバムではやっぱりファーストがフェイヴァリットですか?

ウィル:うん、やっぱり『オリジナル・パイレーツ・マテルアル』だね。本当にユニークで、最初に“ハズ・イット・カム・トゥ・ディス?”を聴いたときはラジオが壊れたと思ったよ(笑)。ディジー・ラスカルもそうだけど、他のラップとは全然違ったよね。

ほんとそうですね。“パワフル・ピープル”というのも強い言葉ですが、歌詞にある「マイ・パワフル・ピープル」というのは誰のことを指しているのでしょうか?

ウィル:自分が繋がりを感じられるすべてのひとのことを指してるんだ。どんな理由であっても誰に対しても、繋がりを感じられないことが僕はすごく嫌なんだ。誰かと繋がりを持つということがすごく大事だと思っているから、そんな意味を込めて「マイ・パワフル・ピープル」と呼びかけているんだよ。

なるほど。フォーメーションの音楽には怒りはあるのでしょうか?

マット:あるね。怒りから生まれるポジティヴなエネルギーってあると思うんだ。壁にパンチする代わりに僕たちは音楽をやってるんだ(笑)。たとえばリーズですごくいいショウができたことがあるんだけど、ショウの前は何もかもうまくいってなかったんだよね。プラグインやら何やらがちゃんとできなくて、開始も遅れてみんなイライラしながらステージに立ったんだけど、その苛立ちがうまく機能してベストなショウができたんだよ。そういうエネルギーは僕たちの曲にあると思う。

曲のなかでは、何に対する怒りが込められているのでしょうか?

マット:いや、音楽に関しては怒りと同じエネルギーがあるというだけで、何か特定のものに怒っているわけではないんだ。

なるほど、わかりました。では、フォーメーションの音楽からはストリートで生きるという態度を感じるのですが、いっぽうで、現在のインターネット・カルチャーについてはどんな風に感じていますか?

ウィル:あんまりいいとは思えないよね。いろんなひとが繋がれるという意味では便利なんだけど。たとえばフェイスブックなんかでも、みんなが自由にできるのはいいことなはずなのにかえって争ってるんだよね。フェミニズム対アンチ・フェミニズムとかね。僕はそういうところはどうかと思うな。

フォーメーションってあんまりフェイスブックが似合わない感じしますもんね(笑)。

ウィル:そうだね(笑)。

マット:僕はソーシャル・メディアも嫌いじゃないよ(笑)。どう使うかなんだよね。

ウィル:まあ、地球の裏側のひととも話せるしね。使い方を間違えなければすごく機能するものではあるんだけどね。

その通りですね。では時間なので最後の質問なのですが、バンドの現在の最大の野望を教えてください。

マット:日本に戻ってくることだね。

(一同笑)

マット:あとはやっぱりセカンド・アルバムだね。今年にはもう出したいと思ってるんだ。

おお。どんなセカンドが理想ですか?

ウィル:ファーストとまったく違うものだね!

行松陽介 - ele-king

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interview with shotahirama - ele-king

「テクノ? 興味ない」って拒絶反応を起こすような人たちにもちゃんと聴いてほしくて。僕の作品で突破口を開くというか、「すごい難しそうだけど、めっちゃ“音楽”じゃん」と思ってほしい


shotahirama
Maybe Baby

SIGNAL DADA

GlitchNoiseDub

Amazon Tower HMV

 グリッチの栄華は永続しない。最初に耳に飛び込んでくるノイズと電子音は、数分を経た後に銃弾のような打撃音に取って代わられる。時を同じくして極小のダブの断片が侵入を開始し、間歇的かつ着実にその勢力を拡大していく。だがその奇襲は看破され、やがてキャッチーな和音がその場を支配するだろう。ベースが勇ましく前方へと躍り出し露骨なレゲエの調べを奏ではじめると、とぅわん、とぅわん、とぅわん、と謎めいた音声が上方からその進撃を支援する。背後には微細なノイズの粒子たち。気がつけば場面はダンスフロアへと転換しており、力強いビートが衆客の踵を弾ませている。たまりかねたスネアが乱入を図った直後、まるで警官が立ち入りでもしたかのように唐突に沈黙が訪れる。
 以上が、あなたの体験する物語である。時間にして15分。さまざまな音の断片が重ねられては引き剥がされ、シークエンスは次々と切り換えられていく。この15分を時間としてではなく空間として捉えるならば、それはほどよいサイズの無垢なキャンバスだと言えるだろう。その上にはじつに多様な「異物」――新聞や書類、イラスト、写真、布切れ、などなど――が貼り付けられている。コラージュである。
 コラージュそれ自体はいまや驚くべき技法でもなんでもない。なにせ100年の歴史を持っているのだから、もはや伝統的な、由緒正しい術式であるとさえ言える。とはいえコラージュの際に用いられる素材が、それがもともと所属していた文脈から引き離され、本来の意味を剥奪されるということの効果に関しては、いまでもじゅうぶん見るべき点がある。一ヶ所に集められた断片たちは、配置されたり重ねられたりすることによってそれぞれ新たな意味を獲得し、それら断片によって埋め尽くされたキャンバスは無数の意味を増殖させていく。
 shotahiramaの新作『Maybe Baby』では、その素材のひとつにダブが採用されている。このアルバムではダブがジャマイカやUKの文脈から切り離され、グリッチ/ノイズの前後左右に貼り付けられている。混沌としているようにも見えるが、『Maybe Baby』がおもしろいのは、その一見無秩序な空間をひとつの物語として成り立たせているところだ。コラージュやカットアップといった技法、あるいはグリッチやノイズといったジャンルはふつう、そういう物語性からもっとも遠いところにあるものであるはずだが、shotahiramaは巧みにそれらを両立させてみせる。そんなアクロバティックなことができてしまうのはきっと、彼の音楽的なルーツがロックにあり、そしていまでもそこに対する興味を失っていないからなんだと思う。
 以下のインタヴューにおいて彼は、じつにさまざまなロック・バンドの名を挙げている。彼は、グリッチ/ノイズの頼もしき担い手となったいまでも、自らのロック趣味を隠そうとはしない。「昔は好きだったけど、いまはもう興味ないっすね」などと虚勢を張ることもない。素直にストロークスが好きだと言えるグリッチ/ノイズの作り手がいったいどれだけいるだろうか。「硬派な人たちと比べたら、ぜんぜんミュージック・ラヴァーだから」と彼は笑う。shotahiramaの心は、きれいだ。
 歳を重ねたり、業界のなかで揉まれたり、レーベルを運営したりしながらも、彼がきれいなままであり続けられているのは、たぶん、彼が「ぼっち」だからなのだと思う。人はひとりであるとき、もっとも素直でいることができる。音楽のなかでもとりわけ尖鋭的な分野で活動を続けながら、その鋭さを失わずに精巧な物語まで紡いでみせることができるのは、きっとそういうきれいな「ぼっち」だけなのだ。

いいところだけギュッと集めたものを作りたいというか。普通だったらAメロ、Bメロみたいな展開になるところを、ぜんぶサビだけで作っちゃう。

ヒラマさんのこのサウンドが生み出されるに至った背景を探るべく、音楽遍歴から伺っていきたいと思っているんですが、ダーティ・プロジェクターズがお好きとのことで、まずはその話から始めようかなと(笑)。

shotahirama(以下、SH):僕は以前、ディスク・ユニオンで働いていたんです。個人的にオルタナばかり聴いていた時期で、もう「ギターしか聴きたくない」みたいな状況のときにユニオンに入ったんですね。で、そのあたりのロックはユニオンでは「新ロック」って呼ばれていて。「古ロック」と「新ロック」というくくりがあったんです(笑)。80's以降のロックが「新ロック」。僕は2000年以降のロックがリアルタイムだったんで、当然そこが得意分野だったんですけど、ユニオンみたいなところで働いていたら、まわりには旧譜ばっかり並んでいて。90、80年代とどんどん掘り下げていくと、いま聴いているものもその時代あってのものだよな、という発見がたくさんあって。そういうサイクルだったんですよね。その頃にダーティ・プロジェクターズが出てきて。00年代半ばくらい? 今回の新作は新鮮ですよね。あの感じは、別に僕がノイズを聴いているからどうとか関係なしに、単純に音楽としてワクワクする。いまは純粋にああいうものも、年代とかジャンルとか関係なく聴いていますね。ノイズをやっているからノイズしか聴いてない、みたいなことはまったくなくて。硬派な人たちと比べたら、ぜんぜんミュージック・ラヴァーだから(笑)。

なるほど(笑)。ディスク・ユニオンで働かれていたということは、そこに入る前からかなりの音楽好きだった、ということですよね?

SH:そうそう、音楽ファンで。学校行かずにレコ屋に行って買ってみたいな。

いまおいくつなんですか? 僕は今年で33歳になるんですが。

SH:84年生まれですか? 僕は84年の1月生まれなんで、学年で言うと今年34歳の世代ですけど、まだ33歳ですね。

同世代ですね。いつ頃から音楽に目覚めていったんでしょう? 小学生の頃からですか?

SH:いや、ぜんぜんそんなことはなくて。遅咲きで、高校生くらいからですね。最初はオシャレというかファッションというか、そんなノリでしたね。モテたかったというか。

音楽を聴いていたらカッコいいんじゃないか、と(笑)。

SH:そうそう。最初から洋楽で、「日本語とかちょっと無理!」みたいなスタンスで入っていきました(笑)。たぶんすごくチャラい入り方なんだけれども、ハマり込むとそれがすべてになっちゃうタイプなんですよね。

高校生の頃はどういった音楽を聴いていたのですか?

SH:もうがっつりストロークス。それまではレッチリとかレイジとか、うるさくてラップが入ったミクスチャーがすごくはやっていて。「それがモテるんだったら、それ聴いてるわ」みたいなときに、突然美容師さんみたいな格好した人たちが、スッカスカの音で登場してきて、「え、ちょっと待って」ってなって。

たしかに、スッカスカでしたよね。

(しばらく同世代トークで盛り上がる)

そこからどのようにいまの音楽スタイルに至ったのかお聞きしたいですね。

SH:『snoozer』をめっちゃ読んでいたんです。タナソーさんの文章がぜんぶ正しいと思って読んでいて(笑)。あれを読んでいればその手のものはひととおり学べるし。YouTubeはまだなかったし、当時はネットにも疎かったんで、雑誌を読むしかなくて。あるいはCDショップに行って、ポップを見て買うっていう。あと、友だち。だから、いまの子たちに比べたらだいぶゆっくりだったんだろうな。一気に幅広く聴くなんてことはできなかったから。それで、こんなにCDとかレコードを買っちゃってるし、そういう店で働いちゃえってことで、20歳のときにディスク・ユニオンに入って。そしたら、いきなり初日から「音楽圧力」みたいなものを受けた(笑)。

「おまえ、これも知らないのか」みたいな(笑)?

SH:そう。「なに聴いてんの?」って質問にちゃんと答えられない、あのはがゆい感じ(笑)。辛いんだって(笑)。それで「すげえ、俺の知らないことばっかじゃん」となって。で、たまたま仲良くしていた人がノイズ担当者だったんです。

いきなりいちばん大変なところに(笑)。

SH:いちばん面倒くさいところに引っかかって(笑)。それで頑なにノイズとか電子音楽とか、悪趣味な感じのものをガンガン聴くようになってしまった。でも、隠れてリバティーンズの新譜を聴いたり(笑)。

なるほど(笑)。そういう「隠れながら聴く」みたいなことは、グリッチ/ノイズをやっているいまでも継続しているんですね。

SH:そう。でも、いまは隠さず言えちゃう感じ。「多様化」みたいなことをわりかしポジティヴに受け入れられている状況なんで、そこはいいと思いますよ。ソランジュも、最近ビヨンセの妹だって知って興味を持って。小林さんのダーティのレヴューにも書いてあったから、なんなんだろうと思ったんですけど、あれは結局なんだったんですか?

「グシャッ」とか「チャキチャキ」っていう音を聴いて「あ、shotahiramaだ」というのをわかってもらえたら嬉しいですけどね。音色は共通項としてあります。たとえばギターが鳴って、「ああ、ジョニー・マーが弾いてるわ」とか、そういう感じ。

去年の秋に出たソランジュのアルバムにデイヴ・ロングストレスが何曲かプロデュースで参加していたんです。たぶんそのときの作業でインスピレイションを得て、ダープロの新作はああいう感じになったんじゃないのかなと。

SH:なるほど。たしかにR&Bが土壌になっている。ロックじゃダメなんだよ、みたいなところですよね。もうテクノでもなくて、エレクトロニカでもありきたりになっちゃう。それでR&Bというのはすごくしっくりきましたね。ダーティ・プロジェクターズの音源を聴いて、たしかにそうだなと。

そうなんですよね。逆にいまR&Bの側も、それこそソランジュがデイヴを招いたように、白人の音を入れて進化していこうとしていて。去年のビヨンセのアルバムもそうで、いい相互作用が起こっているのかなという感じはするんですよね。

SH:だから俺らの中学~高校の時代みたいに、本当はあれが好きなんだけど言えない、みたいな感じが、いまはたぶんなくて。「もっとあれもこれも聴きなよ」みたいな状況はすごくいいですよね。だから電子音楽/ノイズのようなジャンルも、もちろんある程度はお店やメディアが枠組みを作んなきゃいけないんでしょうけど、実際にはそのジャンル専門で追っかけてる人にだけ聴いてほしいわけじゃないし、ふだんはそういうものを聴いていない人でも「これはハマるかも」という人がいるかもしれない。

ヒラマさんは自分の作品をどういう人たちに届けたいですか? たとえばOPNやアルカのファンだとか、あるいは〈Kompakt〉あたりのミニマルをずっと追っている人に聴いてほしいとか。

SH:音楽好きに聴いてほしいですね。たしかに使っている機材はコンピュータだし、最近はあまりハードを使わなくてソフトばっかりで仕上げているので、生楽器感というのは皆無なんですが、「テクノ? 興味ない」って拒絶反応を起こすような人たちにもちゃんと聴いてほしくて。僕の作品で突破口を開くというか、「すごい難しそうだけど、めっちゃ“音楽”じゃん」と思ってほしいというか。今回はダブとかレゲエっぽいパートも入れているんですが、それも「あれ、なにこれ?」みたいなワクワクを感じてほしくて。僕自身のイメージでは、今作は、ストイックでキレッキレでノイズが鳴っているだけの感じじゃない仕上がりになっていると思う。すごいポップなものを意識したつもりなんですよね。

今回の“You Dub Me Crazy”は、最初はいわゆるノイズとIDMっぽい感じで始まって、2分50秒あたりから、「ダダダダダッ」という打撃音とともに、ダブの断片が入り込んできますよね。それも「はい、ここからダブです」みたいな感じではなくて、ちょっとずつ入ってくる。その後、その「ちょっと」の長さが少しずつ長くなっていって。

SH:「ダブといえばこうでしょ」っていうのを馬鹿正直にやってしまったら、それを本職にやっている人たちの作品と比べたときに、かなりクオリティの低いものになってしまうので。「あれもやりたいな。これもやりたいな」という自由な感じのなかで僕ができることをやるというか、このリズムのなかにダブやレゲエが混ざるのがおもしろい感じに聴こえたらいいなと思って。

あのダブの断片はサンプリングですか?

SH:そうですね。あの作品でサンプリングしているのはそのダブのパートと、後半の声っぽい音とかギターっぽい音が入っている部分ですね。僕は昔サンプラーだけで作っていたんで、あのコラージュ感がめっちゃ好きで、得意なんですよ。ネタは腐るほどあるし。それこそレコードが大好きだったから、いくらでも探し出せるんです。それが嫌だった時期もあったけど、今回は心境の変化というか、なんでもやっちゃえという。

6分10秒あたりからまたちょっと変わっていきますよね。ダブがちょっと潜んで、メロディアスになっていって、「ダダダダダッ」と鳴っていたドラムも変わって、リズミックな感じへと変化していく。

SH:ダウンテンポな感じになりますよね。

で、10分20秒あたりでその声のサンプリングが入って、レゲエのベースも入ってくる。

SH:あれもサンプリングですね。

そして終盤はダンサブルになりますよね。

SH:そうですね。めっちゃ速いやつ。

最後はスネアまで入ってきて、突然プツッという感じで曲が終わります。

SH:僕の作品はだいたいいつも、唐突に「もう無理!」って状況で終わりますね(笑)。15分くらいが僕のリスニング能力の限界というか、もうそれ以上は聴けないという。

これまでの作品もそうなんですけど、10分を超えるサイズの曲が多いですよね。この曲も途中でいろいろと変化していくので、それぞれを切り取って1トラックにする、みたいなこともできるのかなと思ったんですけど。

SH:いいところだけギュッと集めたものを作りたいというか。普通だったらAメロ、Bメロみたいな展開になるところを、ぜんぶサビだけで作っちゃう。でも(サビが)1パターンだと飽きてしまうので、ダブやダウンテンポやテクノという違う形で、それぞれのサビだけを抜き取って合成していったら結局15分になったという。ミックス(CD)っぽいですよね。

たしかにそういう印象は受けました。他方で、そういう風に移り変わっていく感じがサウンド・アートというか、コラージュっぽくもあり。レーベル名が〈SIGNAL DADA〉ですよね。「ダダイスムが好きだ」という発言を見たことがあります。

SH:僕の音楽はカットアップこそが命なんですよね。エディット、カットアップありきでぜんぶできている。ビートも繋がっているようにできていますが、あれはひとつひとつ配置していっているだけですからね。二度と同じ音は鳴らせないですよ。

なるほど、そうなんですね。そういう「配置感」というのは……

SH:「配置感」って言葉、いいですね。じつはあれ、0.1秒ずつ音を作っているんですけど、15分作るのに1年半かかるんですよ。それくらいかけないと、好きな音を「これ!」っていう満足度まで持っていけない。

マジですか!?

SH:だから60分作るとなったら何年もかかってしまうんです。あれを1テイクで実際に演奏していたら、たぶん何億回録ってもできないです。だったら最初から、時間はかかるけど0.1秒ずつ、ひとつずつ作ったほうがいいと思って。僕は「単音」って呼んでいるんですが、ひとつひとつすべてをちゃんと編集していますっていう。

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ダブ自体が使い回しの音楽ですからね。僕はその「使い回し」という概念がすごく好きなんです。断片的に採ってくるという手法は、コラージュにも、(ミュジーク・)コンクレートにも、カットアップにも使えるテクニックだなと。


shotahirama
Maybe Baby

SIGNAL DADA

GlitchNoiseDub

Amazon Tower HMV

今回のアルバムとは違って、『Conceptual Crap』シリーズの方はもう少しビート寄りのサウンドになっていますよね。もしあるリスナーが、その両方に通じる「shotahirama性」みたいなものを感じているとしたら、それはどういうものだと思いますか?

SH:『post punk』というアルバム以降はすべて同じプログラムを使って作っているので、「グシャッ」とか「チャキチャキ」っていう音を聴いて「あ、shotahiramaだ」というのをわかってもらえたら嬉しいですけどね。音色は共通項としてあります。たとえばギターが鳴って、「ああ、ジョニー・マーが弾いてるわ」とか、そういう感じ。「あ、あの人が弾いてるギターだ」、みたいなことになったらいいかな。

『post punk』というアルバム・タイトルからパウウェルを連想したんですが、彼が昨年出したアルバムは、いまのテクノの音色のなかでポストパンクをやったような感じなんですよね。

SH:へえー、おもしろい。ストロークスの時代に、ポストパンクのリヴァイヴァルがありましたよね。ザ・ラプチャーとか。

ありました。〈DFA〉ですよね。

SH:あれをお店で流していると、上の世代の人が「こんなのポストパンクじゃないよ。もっと遡りなさい」って言ってきて。で、いわゆるホンモノを出してくれたという思い出があります。でも、なんでもいいんだと思います。僕がポストパンクだと思って作っても、聴いた人がどう思うかまではコントロールできないし。作ってる本人がそう思って楽しんでいるのであれば、あとちゃんと本気でやっているのであれば、解釈は自由なんですよね。どう思うかは自由だけど、僕は『post punk』をポストパンクだと思ってやっていました。

今回の『Maybe Baby』というアルバム・タイトルは、どういう経緯で思いついたんでしょう? 60年代あたりのポップスにありそうな感じのタイトルですが。

SH:銀杏BOYZの“BABY BABY”から採りました(笑)。今回のタイトルに関しては、そんなに深い意味はないですね(笑)。響き、で。

銀杏だったんですね(笑)。アルバム・タイトルは『Maybe Baby』ですが、収録曲のタイトルは“You Dub Me Crazy”ですよね。こういう1トラックのアルバムの場合って、たいていトラック名がそのままアルバム・タイトルになることが多いと思うんですが……

SH:先にアルバム・タイトルは『Maybe Baby』で行こうと決めていたんですが、曲を作っている過程で「ダブ」という言葉を入れたくなって。それで曲名が“You Dub Me Crazy”になりました。

“You Dub Me Crazy”というタイトルから、マッド・プロフェッサーを思い浮かべました。

SH:そうですね。UKっぽいですよね。

ダブはけっこう聴かれていたんですか?

SH:ユニオン時代によく俺の隣で一緒に働いていた人がレゲエ担当だったんですよね。そのとき勉強させてもらったし、いまだにずっと聴いてます。でもあんなのを掘り始めたらキリがないですよ。そもそも、ダブ自体が使い回しの音楽ですからね。僕はその「使い回し」という概念がすごく好きなんです。断片的に採ってくるという手法は、コラージュにも、(ミュジーク・)コンクレートにも、カットアップにも使えるテクニックだなと。ふだんからそこまで深く考えて聴いているわけではないですが、音質的な面ではすごく通ずるところがあるので、自分の曲を作るときに「ダブっぽいな」とは昔から思っていました。今回はそれがもっとわかりやすく出たというか、あからさまにレゲエの音が入ります。

ちなみにダブだとどのあたりがお好きなんですか? ダブでも、ジャマイカのたとえばキング・タビーが好きだとか、いろいろあると思うのですが。

SH:もうまさにそこですよ。タビーとか、その弟子である(キング・)ジャミーとか。あとはグレゴリー・アイザックスも大好きだし、デニス・ボーヴェルみたいなUKの音も好きだし。ジャミー以降、ちょっとエレクトロニックな音が入ったダブが主流になっていきますよね。やっすい機材でピョンピョン音が飛んでいるみたいな、ああいう感覚ってもしかしたら僕の音楽のなかにもあるんじゃないかな。

たしかに、言われてみるとそういう感じはしますね。

SH:オーガニックな土臭いダブも好きなんですけど、聴いている割合としてはジャミー以降のものが多い感じ。あとUKだと、〈On-U〉ってあんまり言いたくないんですけど、好きですね。ガッチガチに土臭いレゲエを知っている人からしたら異端な感じで、ハイプかもしれないんですが、でもカッコいいものはカッコいいし、「ダブかけてめっちゃ爆音で踊りたい」ってなったら〈On-U〉は無敵ですもんね。それと、〈ワッキーズ〉も好きですね。あれ、ニューヨークですよね。僕は生まれがニューヨークなんですよ。『African Roots Act』っていうシリーズはすごい好き。

最高ですよね。じつは僕も小学生の頃、ニュージャージーのわりとマンハッタン寄りのところに住んでいたことがあるんですよ(笑)。

SH:え! ウソでしょ!?  ヤオハンってわかります?

ヤオハンわかります(笑)。

SH:僕は生まれて6才までは向こうにいて。小学校に上がるタイミングで日本に引っ越して、小学6年くらいにまたニューヨークに引っ越しているんですよ。だからリアルタイムでは同じ地にはいなかったかもしれない。

(しばらくニューヨーク話で盛り上がる)

さきほど仰っていたように、そもそもダブが使い回しとか組み替えの音楽なんですが、この“You Dub Me Crazy”は、さらにそのダブ自体も組み替えているような感じがしました。

SH:既存のものから逸脱していく、というのが僕のテーマなんです。だから「ダブってこういうものだよね」ということじゃなくて、こういう(自分が作ったような)ものもあっていいんじゃないかなと。「オルタナティヴ」って「逸脱」という感じだと思うんです。だからオルタナとか、もしかしたらノイズだってそういう既存のものからはみ出ていく音楽かもしれない。「アウトサイダー」というふうに考えれば、メインストリートからズレていくルー・リード的な感じもする。でもそれも、突き詰めていったら自然とそうなっているというだけで、自分からすすんで裏道に入っていくタイプではないんです。そんな怖いところ、行きたくないし(笑)。だから突き詰めていくとそうなっているというだけ。気づいたらひとりぼっち(笑)。

己の信じるものを追求していったら、いつのまにかひとりぼっちに。

SH:誰も賛同してくれない(笑)。

既存のものから逸脱していく、というのが僕のテーマなんです。

「ぼっち」とのことですが、僕もヒラマさんの音を聴いていて、大枠としてはグリッチ/ノイズのジャンルに収まると思うのですが、なにかのシーンに位置づけるのがすごく難しい音楽だなと思いました。いい意味で一匹狼というか、「孤高の存在」のような印象を抱いたんですけれど、どこかのシーンとリンクしているというような意識はあるんですか?

SH:ないです。「孤高」って言ったら超カッコいいですけど(笑)。たぶん相手にされていないだけだと思います。

ライナーノーツを空間現代の野口順哉さんが書かれていますよね。どういう経緯で彼にお願いすることになったのですか?

SH:空間現代の音楽は、簡単に言うとバンバンと音が飛んでいって、まともに聴けない感じなんです。ビートが始まったと思ったら「これ絶対CD飛んでるでしょ」みたいな(笑)。僕の音楽にもそういった側面がありますよね。グリッチしたり、スキップしたり。昔ロックが好きだったりヒップホップが好きだったりしたのと同じように、そういうスキップな感じがすごく好きなんですね。で、それを彼らは人力でやってしまっている。これまで何度かイベントで共演してきましたが、ヤバいです。カッコいいんですよね。中原昌也さんの誕生日会でライヴをやったとき、空間現代とも一緒になって、その後も打ち上げで、今回ライナーを書いてくれた野口さんと一緒になったりしていて。そういう感じでけっこう近い場所でライヴもやっているのに、ちゃんと喋ったことがなかったんです。でも当然僕のことは知っているだろうし、じゃあ僕のことをどう思っているんだろうと。僕だけ片想いな感じだったので、いい加減告白してみようと。ちょっとライナーを書いてください、というのをダメもとで言ったら、「全然いいっすよ」と言ってくれて。けっこう現実的な内容で、すごくおもしろいライナーができあがりました。僕がこのインタヴューで喋っているふわふわな感じとは違う(笑)。かなりシリアスです。愛を受け取りました。

両想いになったということですね(笑)。

SH:「好きです」って言って、「ありがとう」って言われた感じ(笑)。今度ライヴでデートします(笑)。

なるほど(笑)。中原さんの名前が出ましが、Ametsub(アメツブ)さんもコメントを寄せていますよね。

SH:Ametsubさんもよくしていただいていて。いわゆるエレクトロニカの世界ではスーパースターですよね。

そうですよね。ヒラマさんは一見「孤高」なんですが、いくつかそういう他の方たちとの接点はありますよね。イクエ・モリさんとも一緒にツアーをされて。

SH:好きなアーティストと一緒にライヴをしたい、というのはありますよね。その気持ちが実ってそういうお話になっているというだけで、「繋がっていたい」なんて畏れ多いです。そもそも中原さんにしろ、イクエさんにしろ、Ametsubさんにしろ、空間現代にしろ、基本はそれぞれ個であって。でも、彼らも「どこかに属している」という感じはあまりないですよね。

そうなんですよね。ピンポイントで繋がる人はいるんだけども、みんなそれぞれが「孤高の存在」のような感じがしますね。オヴァルとも一緒にツアーを回っていましたよね?

SH:DOMMUNEもやって、京都でツアーもやって、寿司居酒屋みたいなところで一緒に飯食いましたね。彼もそんなにコミュニケーションがうまくないというか(笑)、人とワイワイやっている感じじゃないですよね。

ですね。マーク・フェルとも一緒にやっているんでしたっけ?

SH:大阪でツアーに参加させてもらったというだけで、直接的にはぜんぜん。その日僕は酔っぱらってたし、ちゃんとライヴも観られていないくらいだったと思います。

(NHK)コーヘイさんも出ていたイベントですよね?

SH:そうですね。あれはたぶんコーヘイさんとマーク・フェルのユニットなのかな? ぜんぜん覚えていないですけど。僕はそれに付随しただけです。

なるほど(笑)。でもこうしていろいろ名前を並べていくと、ますます「shotahiramaって誰?」という感じになっていくようなところがおもしろくもあり……やはり「孤高の存在」ですよ。

SH:それ絶対叩かれそう(笑)。ぼっち。「ひとりぼっちのなんとか」的なことを書いたら、銀杏っぽいんじゃないですか?(笑)

見事にタイトル回収ですね(笑)。

美しい星 - ele-king

 『桐島、部活やめるってよ』や『紙の月』の吉田大八監督が三島由紀夫唯一のSF小説『美しい星』(1962)を映画化。

 舞台は東北大震災、福島原発事故後の現代に替えてあるものの、想像以上に原作に忠実であり、三島由紀夫が当時発したメッセージを現代に移し替えることに成功していた。

 1月というのに夏日が続くある日、中年気象予報士の重一郎(リリー・フランキー)は自分が火星人であると気づく。時を同じくして、彼の息子(亀梨和也)は水星人、娘(橋本愛)は金星人だとそれぞれ目覚め、つまり、地球人の妻(中嶋朋子)を含め、4人家族が違う星を故郷とする宇宙人となってしまうのだ。こうした設定のすべてはドタバタコメディだ。リリー・フランキーの貧弱な身体を駆使した素晴らしい演技に何度も唸ってしまう。ちなみに原作では妻は木星人だが、これを地球人にしたことは、何も彼女だけは汚れない正気で、異変に揺らぐ家族を癒しに導くため、などと言う最近ありがちな設定ではまったくない。地球人の彼女は、遥か上空の宇宙を偲ぶ家族同様、この水の星の数千キロの深海から汲み出した特別な「美しい水」に魅せられる。それはありふれたマルチ商法で、UFOにはまる夫や「金星人の子を宿す」娘と共に、(観客からは見える)本当の故郷を見失っている。そして、偶然知り合った宇宙人同士で、異常気象の続く地球、化石文明が破壊した地球環境を見て、人類は滅びてもいいのではないかと議論するのだ。

 愛国、憂国の徒として知られるミシマのこの、「わが星」への視座は興味深く示唆的だ。わが星にいながら、異星人の目で「ここ」を見る。「宇宙連合」の複数の星が地球の近隣にはあることが、地球の条件なのだ。

 こうした文明批評は、原作が書かれた62年には米ソの核戦争前夜の危機感があったが、この映画では福島原発事故後、解決不可能な放射能への危機感がある。人類・文明の危機を叫ぶ重一郎は初めはテレビスターとなってもてはやされるが、発言が過激になってくると職を失い、孤立し、癌に侵される。これはまるっきり、3.11後の反原発運動そのままだ。あるいは避難先で謂れないいじめに遭う被災者の孤独も連想させられる。

 「この星の美しさとは何か?」と問われ、重一郎は「すべての自然だ」と答える。その自然を破壊してきた人類は地球の敵であり、いま滅んでも100万年もすれば違う地球人が違う文明を作るのだから、いまの人類はこのまま滅んでもいいではないか、などという議論がある。「すべての自然」が美しいのだ、地球人は生活を変えなければなれないと力説していた重一郎が、意識朦朧とする中、ネオンの光が溢れる景色を「美しい」とつぶやくシーンが私は好きだ。そして、そこから続く原始の森=原子の森への強行突破、野生化した家畜に乗せられて火星に還って行くまでの幻想的なシーンは忘れがたい。

 3.11の災害後、多くの作品が作られてきた。直接的な言及はなくても「癒し」や「家族」をテーマにした日本映画はかつてなく増えているように感じる。そんな中、成島出監督『草原の椅子』('13)や廣木隆監督『さよなら歌舞伎町』('14)のように「絆」の押し付けへの違和感を振り返るような作品、あるいは堤幸彦監督『天空の蜂』('15)のような原発へのハードなアプローチのものも出てきている。そしてこの『美しい星』は、未だ置き去りにされたままの被災者に寄り添った視線で作られている。科学的知識はなく、頼りない情報にいつだって翻弄され、家族の「絆」は普通に脆弱な、最もカッコ悪い普通の人たちだ。あの原発事故は、そうした人たちを国会前に引きずり出したのだ。国会に、マスコミに、学者やジャーナリストが手招きするまま、不安を訴えていた。より良い生き方について、どれほど考えてきただろう。それなのに、避難先ではいじめられ、故郷を捨てるなど簡単なはずだと大臣に喝破される。初めは寄ってきていたジャーナリストたちも少しずつ減り始め、当時と同様に放射能の恐怖を訴えることはもはや愚かな変人なのだと言われてしまう。なんという事態だ。リリー・フランキーが演じる重一郎は、或る日突然、火星人になる。その火星人の目で見える景色こそ、復興大臣に厄介者扱いされる一人の被災者からのものなのだ。その行動は突飛、発言は極端でまともに話はできないと、美しい地球の人たちは感じるだろう。未だ恐怖を感じている被災者とそうでないものたちは、もはや異星人同士のように違うものを見ている。このすれ違いによって起こる悲喜劇は、現実の日本そのもの。母=妻を唯一の地球人にしたことは、見終えてから次第に大きな意味を想像させている。

 ミシマの原作は、地球の未来について宇宙人たちの率直な議論が続くことで、当時、議論小説とも称されたそうだ。「議論」はこの映画にもあるが、小説よりはずっと簡略化されている。その部分も含め、後を引く作品だ。


予告編

UNDERGROUND RESISTANCE - ele-king

 デトロイト・テクノ/エレクトロ・ファンクの牙城、UNDERGROUND RESISTANCE/Submerge関連の久しぶりの新作ヴァイナルがまずは3枚リリースされることが明らかになった。
 先に発表されたのは、今週末の来日が楽しみなMark Flash(G2G、Timelineのメンバー)による「Audiofluid Ep」(UR-093)だが、つい先日Vintage Futureよる「Dookie Machine」(UR-088)とサブマージ傘下の新レーベル〈Yaxteq〉からはNomadico(DJ DEX)による「Gentefication EP」の2枚も日本に入荷するとの情報が神戸のUnderground Galleryのサイトで明らかになった……Timelineの新作は、デトロイト内で売り切れてしまったとのことだが……。
 デトロイト・テクノとはファンクであること。アンダーグラウンドから届けられたパワフルなダンス・ミュージック、ヴァイナル1枚1枚に込められたヤツらのソウルを聴き逃すな!
 

Captain Ska - ele-king

 総選挙を前にしたUKで、キャプテン・スカなるレゲエ・バンドが、直球の反緊縮/テリーザ・メイ首相批判の曲を発表、それがiTUNESチャートで1位、その他チャートでも急上昇と話題になっている。


 政治家が嘘つきなのはみんなが知っている/嘘ではないのは彼らが強者で安定していること/私たちはまた騙される/看護婦は飢えて学校は減る/私は壊れたこの国を認めない/貧乏人ではなく金持ちを切れ
 
 このキャプテン・スカとは何者であろう。インディペンデントによれば、ロンドン在住のセッション・ミュージシャンで、ザ・ストリーツやヴァンパイア・ウィークエンドなんかとも一緒にやっているとか。
 同曲のオリジナル・リリースは2010年で、当時はUKレゲエ・チャートでNo.1。今回は2017年ヴァージョン。
 往年のザ・スペシャルズを思い出すかのようなこの快挙、音楽はみんなが思っていることを代弁する──のである! 

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