「You me」と一致するもの

名曲“luck”や“feather”がアナログ盤に - ele-king

 もはや説明不要な存在だろうか。ベッドルーム・エレクトロニカのユニークな才能、サーフ(Serph)の代表曲がアナログ盤になるらしい。「なるらしい」というか、これはクラウドファンディングを利用した企画で、アナログ盤に「する」のはわれわれだ。
 プロジェクトの概要によれば、ファンに人気の高い、かつサーフ本人も代表曲と認める“feather”“luck” “circus” “missing”が収録され、これはサーフ自らがリアレンジ。2曲ずつ2枚の7インチというかたちでの制作となる模様だ。もちろん河野愛によるアートワークは今回も際立った幻想性と抒情性をたたえている。ダウンロードコードも封入。
 なんでもタダな昨今にあってはアナログ盤など贅沢品であることにはまちがいないが、そもそも音楽が贅沢品でなくてどうしよう? おカネの問題ではない、いくらだろうがタダだろうが、音楽が贅沢でわくわくさせるものであることを、こうした心のこもったパッケージは思い出させてくれる。

【Serph代表曲アナログレコード化プロジェクト】
■クラウドファンディング・プラットフォーム:CAMPFIRE
■プロジェクトURL: https://camp-fire.jp/projects/view/3839
■募集期間:2015年11月1日 ~12月15日(45日間)
■目標金額:750,000円

収録曲より

Serph - feather (overdrive version)

Serph - luck (darjeeling version)

■Serph / サーフ
東京在住の男性によるソロ・プロジェクト。
2009年7月にピアノと作曲を始めてわずか3年で完成させたアルバム『accidental tourist』を発表。以降、4枚のフルアルバムといくつかのミニアルバムをリリースしている。最新作は、2015年4月に発表した『Hyperion Suites』。
2014年1月には、自身初となるライブ・パフォーマンスを単独公演にて開催し、満員御礼のリキッドルームで見事に成功させた。
より先鋭的でダンスミュージックに特化した別プロジェクトReliqや、ボーカリストNozomiとのユニットN-qiaのトラックメーカーとしても活動している。
https://soundcloud.com/serph_official


 今年もっとも輝いた顔のひとつである。ハープを抱いた歌姫、フリーフォークのアイコン、確実にUSインディの一時代を築いたこのシンガー・ソングライターは、しかし同じところにはとどまっていない。ディヴェンドラ・バンハート『クリップル・クロウ』から10年、アニマル・コレクティヴ『フィールズ』からも10年だ。はやすぎて恐ろしい。

いま彼女は街に両足をつけ、ひとりの女として、歌うたいとして、そのなかに渦巻く感情のドラマツルギーでこそわたしたちを魅了する
(木津毅によるレヴュー、ご一読をお奨めしたい! )

 そう、新しいジョアンナは新しい歌をうたっている。それは今作を支えた編成とともに見るときもっとも鮮やかに、そしてもっとも直接的に感じられるだろう。東京はグローリア・チャペルでの公演も楽しみだ。

■Joanna Newsom Japan Tour 2016
ジョアンナ・ニューサム ジャパン・ツアー2016

 2015年秋にリリースされた最新アルバム『ダイヴァーズ』の興奮冷めやらぬ中、その歌声とハープで世界を魅了しつづけるジョアンナ・ニューサム6年ぶりのジャパン・ツアーが決まりました。彼女の歌とグランド・ハープ、ピアノを囲む今回の演奏家はライアン・フランチェスコーニ、ミラバイ・パート、ピーター・ニューサム、そしてヴェロニク・セレットの4人。もちろん『ダイヴァーズ』の大きな音楽世界を支えた選り抜きのメンバーたちです。さて、手を伸ばせば、世界でもっとも鮮やかなユートピアがそこで待ち受けています。息を吐き、足で蹴り、浮かび上がるダイヴァーたちの群れ。もちろん次はあなたが飛び込む番!

■ジョアンナ・ニューサム(Joanna Newsom)
米カリフォルニア州ネヴァダ・シティ生まれのハープ奏者/シンガー・ソングライター。グランド・ハープの弾き語りというユニークなスタイルで2000年代音楽シーン最大の「発見」のひとりでもある。これまでに『ミルク・アンド・メンダー』(2004年)、『Ys』(2006年)、『ハヴ・ワン・オン・ミー』(2010年)、『ダイヴァーズ』(2015年)と4枚のアルバムを米ドラッグ・シティ(国内盤はPヴァインから)より発表し、その世界観を大きく拡張。その音楽要素をジャンル名で回収することはおろか、もはや大きな「音楽」としか名づけられない唯一無二の個性となった。近年は2014年のアカデミー賞2部門にノミネートされた映画『インヒアレント・ヴァイス』に女優として出演、ナレーションも手がけるなど活躍の場を広げている。

公演

1月26日(火)
大阪 大阪倶楽部 4階 大ホール(06-6231-8361)
大阪府大阪市中央区今橋4-4-11
開場 6:00pm/開演 7:00pm
5,000円(予約)/5,500円(当日)*全席自由席
予約受付は12月7日正午より開始します。
予約:Cow and Mouse(cowandmouse1110@gmail.com)
予約方法:件名に「ジョアンナ・ニューサム大阪公演」と明記の上、お名前(フルネーム)、お電話番号、チケット枚数をご記入いただき、上記メール・アドレスまでご送信ください。確認後、購入方法を折り返しお知らせいたします。なお、携帯電話から申し込まれる方は、PCメールの拒否設定をされていませんようご確認ください。また、会場内はすべて自由席、ご来場順でのご入場となります。
大阪公演問い合わせ先:ハルモニア(080-3136-2673)、
Cow and Mouse
cowandmouse.blogspot.jpwww.facebook.com/cowandmouse

1月27日(水)
東京 キリスト品川教会 グローリアチャペル(03-3443-1721)
東京都品川区北品川4-7-40
開場 6:30pm/開演 7:30pm
5,000円(予約)/6,000円(当日)*全席自由席

1月28日(木)
東京 キリスト品川教会 グローリアチャペル(03-3443-1721)
東京都品川区北品川4-7-40
開場 6:00pm/開演 7:00pm
5,000円(予約)/6,000円(当日)*全席自由席

東京公演前売りチケット:
スウィート・ドリームス・プレス・ストア(sweetdreams.shop-pro.jp
*12月7日正午より、上記ウェブサイトにて特製チケットの販売を開始します。なお、送料として一律200円がかかりますので、あらかじめご了承ください。また、会場内はすべて自由席、チケットの整理番号順でのご入場となります。

企画・制作:スウィート・ドリームス・プレス
招聘:Ourworks合同会社
協賛:株式会社P-VINE
共催:Cow and Mouse(大阪公演)
音響:Fly-sound(東京公演)

Sweet Dreams Press
www.sweetdreamspress.com
info.sweetdreams@gmail.com

JOANNA NEWSOM: Divers
ジョアンナ・ニューサム/ダイヴァーズ
発売日:2015年10月23日
品番:PCD-18803
価格:定価:¥2,480+税

TRACK LISTING:
1. Anecdotes
2. Sapokanikan
3. Leaving the City
4. Goose Eggs
5. Waltz of the 101st Lightborne
6. The Things I Say
7. Divers
8. Same Old Man
9. You Will Not Take My Heart Alive
10. A Pin-Light Bent
11. Time, As a Symptom


 いまや『ローリング・ストーン』誌も「いまや新しいブルックリン」と評価するアイスランドのエアウェイヴスに今年も行って来た(最近では、ジョン・グラントも引っ越した!)。たしかにレイキャヴィック(アイスランドの首都)のサイズは、ブルックリンのウィリアムスバーグぐらい。
 で、今年、ローカルで良かったバンドを思うがままに挙げてみると……


dj. flugvél og geimskip


bo ningen

 グライムスやコンピュータ・マジックのアイスランド版とも言えるdj. flugvél og geimskip(DJエアロプレインとロケットシップ)に、レイキャヴィッカダートゥア(発音できない……)は革命を起こしたい女の子10人のラップ・グループで、とにかくかわいい。2、3本のマイクを10人で次々にパスして行くのですが、間違えて違う人に渡したりしないのかなぁ、と素朴な疑問を抱いてみたり。ピンク・ストリート・ボーイズは今時珍しい、トラッシーなパンク・バンド。ヴォックは3年連続で見ているが、ドラマーが増え、よりバンドらしくなり、大御所の風格さえあった。シュガー・キューブスのリード・シンガーだった、エイナーのヒップホップ・プロジェクト、ゴースト・デジタルの大人気っぷりは流石、レコード屋から人が溢れ、道を渡ったところにも人が盛りだくさん。
 レイキャビックの『ヴィレッジ・ヴォイス』とも言われる、情報紙『grapevine』のライターのポールさんによると、ダークで、奇妙で、突拍子もない、Kælan Miklaが今年のエアウエイズのベスト1だと言っていた。私は、世にも美しい音を奏でるMr. sillaに一票。


pink street boys

 エアウエイヴスは、ニューヨークのCMJやオースティンのSXSWのアイスランド版と言った所だが、より個人が主張し、インディ感覚を忘れていない。リストバンドの種類がアーティスト、プレス、フォト以外にダーリンというVIPパスかあり、ダーリンを持っていると、長い列に並ばなくても良い。人気のショーはリストバンドがあっても列に並ばないとだめで、このダーリン・パスは大活躍だった。
 今年のハイライトは、ホット・チップ、ビーチ・ハウス、ファーザー・ジョン・ミスティ、バトルズ、アリエル・ピンク、パフューム・ジニアス、ボー・ニンゲン、グスグスなどで、私のハイライトは、断然ボー・ニンゲン。ブルックリンでも見て親近感が湧いたが、オフ・ステージでの腰の低さも好かれるポイントなのだろう。
 Samarisやkimonoのメンバーとアイスランド、ロンドン、日本、そして音楽に関しての対談が『grapevine』に掲載されている。
 今年のCMJではアイスランド・エアウエイヴスもショーケースを出し(dj. flugvél og geimskip, fufanu, mammútが出演)、アイスランドとブルックリンの位置はどんどん近くなっている気がする。

 昨年と比べて、街は少しだが変わっていた。空き地が取り壊され、新しいホテルができ、コーポレート企業が少ないアイスランドにダンキン・ドーナツができていた。と思えば、フリーマーケットに行くと、シガーロスのオリジナルのポスターが普通に売られていたり、道を跨ぐと壁にグラフィティが満載だったり、街には文化の匂いがする。ご飯は魚が新鮮で、何を食べても美味しいが、羊の頭、というギョッとするものがスーパーマーケットに売っていたりもする。名物は、パフィン(=ニシツノメドリ)とクジラですから。
 エアウエィヴスHQ近くのハーパ(窓のステンドグラスは光によって色が変わる!)と自然の美しさは相変わらずで、まるで他の惑星にいるような感覚に陥る。近くの水辺でまったりしていると、何処からともなく人が現れ、この最高の景色を共有出来る偶然と贅沢を、改めて堪能。こんな景色を毎日見ていたら、創作欲もどんどん湧く、と羨ましくも納得していた。


シガー・ロスのポスター


ニューヨークから直航便で6時間、時差は5時間。


 そしてニューオリンズ。今回はバンドのツアーで来たが、町も音楽も想像以上に素晴らしかった。ニューオリンズといえば、ブルースやジャズのイメージだが、インディ・ロックも、エレクトロ、ダンス・ミュージック、ヒップホップも何でも見ることができる。音楽会場がたくさん並ぶエリア(フレンチ・クオーター)では、バー、レストランなどがズラーッと並び、バーホップを楽しめる。ロック、ブルース、ジャズ、ホーン隊が10人以上いるビッグバンドや、2ピースのエレクトロ・ダンシング・バンド等、ミュージシャンはさすがに上手く、観光地になるに連れてカバーバンドが多かった。お客さん同士仲良くなるなどノリも良く、こちらは毎日がCMJやSXSWな感じ。
エレキング読者には、フレンチ・クオーターからは少し離れるが、私たちがショーをしたサターン・バーがオススメ。ここは元ボクシングを観戦する会場で、バルコニーが四方をグルっと囲み、バンドを180度何処からでも上から眺められる。何気に天井がプラネタリウムの様になっていたり、サターン(土星)が壁に、ドーンと描かれ、場末な感じが最高だった。
 今回お世話になったのは、ビッグ・フリーダ、シシー・バウンスなどでDJをしているDJ Rasty Lazer。ニューオリンズ・エアリフトも主催するニューオリンズのキーパーソンである。

www.neworleansairlift.org
https://en.wikipedia.org/wiki/Bounce_music

 エア・リフトが今年2015年夏に開催したアート/音楽・プロジェクト、「ミュージック・ボックス」の映像を見せてくれた。



 大きなフィールドに、多様なアートピースを創り、ミュージシャンが音楽を奏でるのだが、ディーキン(アニマル・コレクティブ)やイアン(ジャパンサー)、ニルス・クライン、ウィリアム・パーカーなど、面白いほどに、ブルックリン他のなじみある顔のミュージシャンが参加していた。

 このプロジェクトにも参加していたラバーナ・ババロンは、4年ほど前にブシュウィックで知り合ったアーティストだが、いつの間にかブルックリンからベルリンを経由し、ニューオリンズに引っ越していた。彼女曰く、ブルックリンより、こちらの方がアート制作に時間を費やせるし、露出する場がたくさんあると。たしかに彼女のようなパフォーマーは、あたたかい気候が合っているのかもしれない。
 そのDJ Rusty Lazerがキュレートするパーティにも遊びに行ったが、規模がブルックリンとまったく違うことに驚く。会場の大きなウエアハウスは南国雰囲気。手前にバー、真ん中にはトロピカルな藁のバー、回転車輪(ネズミの様にクルクル回る)、ポップコーンバス(中で男の子がポップコーンをホップし続けている)、ダンスホール(バウンス・ミュージック)、映像部屋(自分がライトの中に入っていける)、ライト&ペーパーダンスホール(上から紙のリボンが垂れ下がり、ブラック・ライトが照らされた部屋)、野外映画、仮装部屋(いろんなコスチュームが揃い、みんなで写真が撮れる)など、もりもりたくさんのエンターテイメントが用意されていた。人も今日はハロウィン? と思うくらいドレスアップ(仮装)している人ばかりで、こちらは毎日ハロウィン。

ニューヨークからは直行便で3時間半と。時差は1時間。

 全く違う2都市だが、空港に降り立った時から、違う空気を感じ、気候が音楽に与える影響も感じる。この2都市のパーティにかけるピュアな姿勢と気合は、ブルックリンは断然負けている。ブルックリンはパーティしつつも、頭は何処かで冷静だったりもする。さらに人びとが次々繋がっていくのが面白い。小さなインディ・ワールドにいるからか、今回もニューオリンズやレイキャビクからブルックリンの知り合いが繋がっていった。ブルックリンのエッセンスは、何処かで継がれていくのだろう。

 ダニエル・クオンを知ったのは3年か4年前のこと。都内の小さなライヴ・スペースで行われたイヴェントで、出演者のひとりがたまたま彼だった、という些細なきっかけだった。詳細は曖昧だが、ギターを抱えて椅子に腰かけ、少し訛りを含んだような英語詞で――時おり日本語も織り交ぜながらゆったりと歌い上げる、といった調子で、あくまで印象は典型的なシンガー・ソングライターのそれだったはずと記憶している。そして、そんな彼のインティメートな弾き語りに当時の自分が重ねて見ていたのは、たとえば王舟やアルフレッド・ビーチ・サンダルの北里彰久、あるいはパワフル・パワーの野村和孝といった、これもちょうどその頃に近い圏内でたびたび演奏を見る機会に恵まれた同じシンガー・ソングライターたちの音楽だった。

 もっとも、その時すでに彼は日本でのレコーディングを経験済みで、さらにこの少し前(2010年)にはファースト・アルバム『ダニエル・クオン』を日本でもリリースしていたことを自分は後になって知るわけだが。ともあれ、そんな彼の音楽が、あの頃の東京の――あえて言えば東京のインディ・シーンの風景にとてもよく馴染んで聴こえたことを思い出す。


ダニエル・クオン『ダニエル・クオン』
(Motel Bleu / 2010)

 といったダニエル・クオンについての個人的な原体験を記憶に留めていたこともあり、その数年後に次作の『Rくん』(2013年)を最初に聴いたときはすっかり意表を突かれた。かたや、ひとつ前の『ダニエル・クオン』は、ざっくりと言えばいわゆる弾き語りがメインで、ギターとピアノを中心に練られた演奏とウォーミーな歌声に、彼自身が敬愛するというエミット・ローズやポール・マッカートニーはおそらくもちろんのこと、ランディ・ニューマンやハリー・ニルソン、トッド・ラングレン等々の耳慣れた名前を連想したくなる一枚、というのが順番を前後して後日聴いたところの雑感。いまだったらトバイアス・ジェッソ・Jrなんかとも並べて聴きたい、70年代のシンガー・ソングライターの系譜を窺わせるグッド・メロディとグッド・ソングが詰まったアルバムだったが、対して、『Rくん』も基本的には弾き語りがベースではあるものの、その冒頭いきなり飛び込んでくるのは、ジョン・フェイヒィも思わせる緩やかなギター・アルペジオではじまる『ダニエル・クオン』のオープニングからは想像外の、ハーシュ・ノイズのように耳を劈く雨音(?)のサンプル。そして以降、ナレーション、館内放送、逆再生したような効果音、自然音や生活音の類、はたまた「AMSR」風の細かいブツ音が曲のいたる箇所で顔を覗かせ、なにやら奇想めいた気配が醸し出されていくのだった。


ダニエル・クオン『Rくん』
(R / 2013)
Amazon

もっとも、その手の演出は『ダニエル・クオン』でも一部に散見でき、相俟ってそこには初期のデヴェンドラ・バンハートにも通じる仄暗さ、あるいはフリー・フォークが幻視したサイモン・フィンやティム・バックリーへの愛着、さらにはピーター・アイヴァースやロイ・モンゴメリーのウィアードなサイケデリアに対する好奇心さえ聴き取れなかったわけではない。が、『Rくん』においてはそうした、一見ジェントリーな歌いぶりの裏にある種の衒いのようなものとして見え隠れしていたアウトサイダーな嗜好が横溢していて、その深い綾のように刻まれたツイステッドなポップ・センスはさながら、〈ポー・トラックス〉に発掘された頃のアリエル・ピンクかその師匠筋にあたるR・スティーヴ・ムーア、いやいやジョー・ミークやレイモンド・スコット、ブルース・ハックあたりのカートゥーン趣味も思わせる感触に近い、と言ったらさすがに印象論で解釈を広げすぎだろうか。エレクトロニックな音色が増えてループも活用されたテクスチャーは、それこそフォークとアンビエントやニュー・エイジとの間、言うなればノスタルジアとヒプナゴジアとの間を揺れ動くようで、それが2013年の作品であるという理由から強引に何かに紐付けさせてもらうとするなら、ジェームズ・フェラーロと〈ビア・オン・ザ・ラグ(Beer On The Rug)〉のYYUを両隣に置いて鑑賞したくなる代物――というのが、はなはだ一方的だが『Rくん』に対する個人的な評価だったりする。


ダニエル・クオン『ノーツ』
(Pヴァイン / 2015)
Amazon

 そんな驚きが先立った『Rくん』と比べると、まずはより歌にフォーカスが当てられた、という印象も受ける新作の『ノーツ』。ケレン味たっぷりのファルセットやスキャット。旋回するコーラス。いろんな種類の楽器がにぎやかなアンサンブルを奏でるなか、時おり主張するエレキ・ギターが妙に可笑しい。けれどもちろん、『ノーツ』にはそうした歌や演奏以外の音も相変わらずたくさん詰め込まれている。遠くで聞こえる吹奏楽や子どもの合唱。果実をかじったり葉物を切ったりする音。ぐつぐつと沸騰した鍋。踏切の警笛音や商店のブザーといった雑踏のBGM。そうして音楽と多様な具体音が織りなすレイヤーを聴きながら、ふと、ある高名な音楽家の「ミュージサーカス」という作品のことを思った。それは、大きな建物のなかだったり公園のようなひとつの空間を舞台に、異なる音楽やパフォーマンス、多くの出来事が同時に行われるという、一種の演劇的なイヴェント。まあ、そこまで大掛かりではないまでも、しかし、ダニエル・クオンの音楽もまた聴いていると、さまざまな場所から音が立ち上り、互いに無関係であるようなそれらが結ばれることで、縁日的とでも言いたい愉快な光景が姿を現し目の前に迫ってくるような感覚に襲われるのだ。あるいは、試しに『ノーツ』を聴きながら近所を散策してみてもいい。すると、身の周りの環境音や具体音とさらに混じり合うことで聴取は拡散し、その瞬間、そもそも私たちは「音楽」だけを純粋に聴くことはできない、なんてことに気づかされるかもしれない――と。たとえばそんなふうにもダニエル・クオンの音楽は私を楽しませてくれるのである。

ダニエル・クオン - Judy


当日会場にて対象書籍(※)ご購入のお客様は、智司さん健児さん“子ども時代の写真”ポストカードをプレゼント! サイン会にもご参加いただけます!

※『マイマイ計画ブック かたつむり生活入門』(ISBN 978-4-907276-35-5)が対象となります
※先着70名様までのご参加となります。

福岡県糸島市の住宅地の一角、
子どもたちから「こうもりひろば」と呼ばれているガレージを拠点に、
とってもユニークなあそびのプロジェクトを実践されている、
ネイチャーライター、
「マイマイ計画」こと野島智司さん。

そして、野島さんの実のお兄さんであり、
人気声優さんとしてご活躍の一方、
音楽的なこだわりの深いライブ・イベントや、
朗読会にワークショップの開催など、
一様でない表現活動を展開しておられる野島健児さん。

職業も生活スタイルも異なるお二人ですが、
そのバックボーンにはとってもユニーク&クリエイティヴな子ども時代のご経験が。

この度開催されるのは、
その驚くほど豊かな遊びの記憶をたどりながら、
現在の多彩な活動や、
それを支える考え方、ものの見方について、
いっしょに思考をめぐらせるトークライブです。

何かにはっとする瞬間が必ずあるはず。
トークのあとは“兄弟セッション”もいっしょに楽しみましょう!

***

チケットについてはこちらから
https://www.hmv.co.jp/st/event/22833
注文ページ
https://l-tike.com/search/?keyword=34965
Lコード:34965

***

福岡県糸島市の住宅地の一角、
子どもたちから「こうもりひろば」と呼ばれているガレージを拠点に、
とってもユニークなあそびのプロジェクトを実践している、
ネイチャーライター/ものづくり作家、
「マイマイ計画」こと野島智司さん。

会員制でも教育施設でもない、
野島さん自身のための“ただの遊び場”を開放して、
まず自分がいちばんに遊びながらも、
「あそんでいる人の存在が、誰かのあそびをひらく」瞬間について、考えつづけています。
絵を描いたり、自然の素材やがらくたで何かをつくったり、
猫やトカゲと遊んだり、
そうしているうちに今日もいろんな子どもがやってきて──

ときおりは“ヘンテコどうぶつ”づくりや“こうもり探検”などのワークショップも開催、
そのほかにもお手製の絵はがきや“ナゾマイマイ”(磁石のかたつむり)などの製作、
写真や日々の取り組みを書きつづったりと、
「マイマイ計画」の活動は、ささやかだけどとっても多彩。
その活動のスタイルとともに
小さいままに、でも人から人へ、ゆっくりと広がりつづけています。

そんな野島さんは、
じつは小中高校に通わずに、自給自足を試みる一家とともに山中で育ち、
大学では動物学や教育学などを数々の研究室で学ばれたという、
珍しいご経験の持ち主でもあります。

自然と遊びに彩られ、
遊びからつながる学びにあふれた、
驚くほど豊かな体験の数々、
そして、そんな環境を根っことした現在の多彩な活動や、
思いがけない考え方、
やさしくて時間をかけたものの見方──

そんな野島さんの半生と活動が、一冊の本になりました。

『マイマイ計画ブック かたつむり生活入門』(ele-king books、2015)

そして今回開催されるのは、
この本の中、
とくに野島さんの子ども時代について書かれた第2章について、
じっくりと読み解くトークライヴ。

野島さんの実のお兄さんであり、
人気声優さんとしてご活躍中の野島健児さんをお迎えして、
その驚くばかりにクリエイティヴィティあふれる、
子ども時代の遊びのエピソードを掘り下げます。

うーん、もういっかい子どもに戻ったら、
自分もぜったいこんなふうに過ごしてみたい……!

音楽的なこだわりの深いライヴ・イベントや、
朗読会にワークショップの開催など、
一様でない表現活動を展開されるお兄さん・健児さんからも、
そうした豊かなバックボーンについて、
インスピレーションあふれるお話がきけるはず。

あそぶこと、学ぶこと、
自然のこと、
そして、マイマイ計画の活動を支える
「あそびらき」という考え方について、
さまざまな角度からお話をうかがいます。
トークの後は「兄弟セッション」も!?

21世紀日本のための“遊ぶ”哲学、ライブ編!



■『マイマイ計画ブック かたつむり生活入門』詳細
https://www.ele-king.net/books/004598/

マイマイ計画 (野島智司) × 野島健児 presentsマイマイセッション!

野島智司・著 『マイマイ計画ブック かたつむり生活入門』刊行記念トークライブ@ HMV&BOOKS TOKYO

開催日:
2015年12月11日(金)
19:00開演(18:00整列開始、18:30開場)

場所:
HMV & BOOKS TOKYO 6Fイベントスペース

内容:
トークショー

出演:
野島智司さん(著者/弟) ゲスト:野島健児さん(声優/兄)

プログラム:
Chapter1 talk!「やまの生活」
Chapter2 think!「世界はあそぶとこだらけ」
Chapter3 play!「マイマイセッション」

チケット:
3500円(+ローチケ手数料)
HMV&BOOKS TOKYO6Fローチケカウンターおよび全国のローチケ・Loppiにてチケットをご購入ください
詳細ページ
https://www.hmv.co.jp/st/event/22833

注文ページ
https://l-tike.com/search/?keyword=34965
Lコード:34965

限定特典:
当日会場にて書籍ご購入のお客様限定で、智司さん健児さん“子ども時代の写真”ポストカードをプレゼント&サイン会へのご参加

注意事項:
※トークショーはチケットをお持ちの方のみ参加できます。
※当日のご入場は、整理番号順になります。
※イベント当日は、チケットを忘れずに必ずお持ち下さい。
※イベント内容・出演者は予告なく変更する場合がございます。ご了承ください。
※イベント参加券は紛失/盗難/破損等、いかなる理由でも再発行は致しませんのでご注意下さい。
※イベント実施中の撮影/録音/録画は一切禁止とさせて頂きます。
※会場内にロッカーやクロークはございません。手荷物の管理は自己責任にてお願い致します。

【お問い合わせ】HMV&BOOKS TOKYO 電話番号:03-5784-3270(11:00~23:00)

書籍情報:
https://www.ele-king.net/books/004598/

出演者プロフィール:

■野島智司 のじま・さとし
1979年東京生まれ。東京農業大学農学部卒。北海道大学大学院地球環境科学研究科修士課程修了。同大学院教育学研究科修士課程修了。九州大学大学院人間環境学府博士後期課程中途退学。自然と人との関わりについて、動物生態学、社会教育学、環境心理学など、さまざまな角度からフィールドワークを行う。マイマイ計画(https://maimaikeikaku.net)主宰。著書に『ヒトの見ている世界蝶の見ている世界』(青春出版社)『カタツムリの謎』(誠文堂新光社)など。


■野島健児 のじま・けんじ
声優・朗読・ライブ
主な出演作品
PSYCHO-PASSシリーズ 宜野座伸元役
干物妹!うまるちゃん 土間タイヘイ役
スターウォーズ反乱者たち エズラ・ブリッジャー役



書籍売り場ではおふたりによる選書コーナーも!
いまを“あそびらく”30冊

野島智司さん、野島健児さんご兄弟が選ぶ、30の“わくわく”

マンガ、絵本から、自然科学まで。
現在の生活の中に“あそび”のスキマをひらいてくれる本を、
野島智司さん×野島健児さんが選んでくれました!
売り場ではコメントカードつきでご紹介しています。

忙しい人も時間がたっぷりの人も、
今日からわくわくするための一冊を見つけてくださいね!

MONK.T (Well-def Lab.) - ele-king

SWEET SOUL45 10選

interview with Floating Points - ele-king


Floating Points
Elaenia
[ボーナストラック1曲収録 / 国内盤]

Luaka Bop/ビート

JazzAmbientElectronic

Amazon

 レコード文化がリヴァイヴァルしているとか、あれはもう終わったとか、ここ数年のあいだ正反対のふたつの意見があるんだけど、フローティング・ポインツを好きな人は知っているように、彼=サム・シェパードの〈Eglo〉なるレーベルは、ほぼアナログ盤にこだわって、自らのレコード愛を強く打ち出している。なにせ彼ときたら、12インチにせよ10インチにせよ、そのスリーヴには、エレガントで、風合いのある贅沢な質感の紙を使っている。実際、いまじゃ12インチは贅沢品だしね。
 昔は12インチなんていったら、ほとんどの盤にジャケはなく、レーベル面でさえも1色印刷が普通だった。12インチなんてものは、カジュアルで、ハズれてもいいやぐらいの気楽さがあった。が、いまでは12インチ1枚買うのにも気合いが必要だ。ええい、これを買ったるわい! うりゃぁぁぁ、とかいってレジに出しているのである。
 フローティング・ポインツの傑作「Shadows」(2011年)を買ったときもそうだった。ええい、買ったるわい! うりゃぁ、これぐらいの気合いがなければ、いまどき12インチ2枚組なんて買えたものではない。家に帰ってからもそうだ。うりゃぁぁぁ、気合いを入れながらビニールを開ける。レコード盤を取り出し、ターンテーブルの上に載せる。針を下ろし、ミキサーの音量をそうっと上げる。さあ、キミは宇宙の旅行者だ。

 ようやく出るのか……そうか、良かった良かった。現在29歳の、見るからに大学院生風のサミュエル・シェパード、デビューから6年目にして最初のアルバム『Elaenia』は、待望のアルバムだ。ベース好きもハウス好きもクラブ・ジャズ好きも、みんながこれを待っていたのである。この5年、レコード店で新譜を買っていた人のほとんどが彼の作品を知っている。ダブステップ全盛期のUKから登場した彼の作品は、同世代の誰よりも、圧倒的に洗練されているからだ。
 ディープ・ハウスとジャズ、アンビエントやクラウトロックまでもが折衷される彼の音楽は、彼のレーベル・スリーヴ同様にエレガントで、若々しく、そしてロマンティックだ。さあ、キミも気合いを入れてレコード店に……いや、この度は、彼の作品が初めて、そう、初めてCDで聴けるのだ。まあいい。家に帰って袋を破り、再生ボタンを押すんだ。いまもっとも陶酔的で、コズミックで、ファンタスティックな冒険が広がる。あるいは、こんな説明はどうだろう? フローティング・ポインツとは、フライング・ロータスより繊細で、カール・クレイグよりもジャジー、ジェイミーXXよりも音楽の幅が広い。



 以下にお見せするのは、去る9月に彼らが来日した際の取材記録である。彼がいかに新しくて古い男なのかよくわかるだろう。取材日は、安保法案が可決された日の翌日だった。

僕には政治的な部分がありますし、世界の痛みも感じます。いま起こっていることに怒りを覚えることだってあります。それが自分の音楽に直接関係しているとは断言できませんが、何かしらの形で影響はあるでしょう。反民主的なものと日々戦うひとびとの姿は、僕の心を揺さぶります。

昨日の日本はけっこう大変な1日だったんですけど、ご存知ですか?

フローティング・ポインツ(Floating Points、以下FP):はい。テレビでデモの様子を見たことがあります。

どこのテレビですか?

FP:イングランドのニュース番組です。

今回のあなたのアルバムからは、70年年代初頭のハービー・ハンコックであるとか、チック・コリア、あるいはスピリチュアル・ジャズみたいな要素を感じ取りました。

FP:ははは(笑)。そうですか。

あの頃のジャズは、彼らが生きていた当時の社会やポスト公民権運動みたいな政治的なものと、どこかで繋がっているものですけれども、あなた自身の音楽は社会とどのように関連づけられると思いますか?

FP:えーっと……。

最初から大きい質問でごめんね(笑)。

FP:いままでで一番難しい質問ですね。「イエス」と答えることもできるでしょう。ぼくには政治的な部分がありますし、世界の痛みも感じます。いま起こっていることに怒りを覚えることだってあります。それが自分の音楽に直接関係しているとは断言できませんが、何かしらの形で影響はあるでしょう。反民主的なものと日々戦うひとびとの姿は、ぼくの心を揺さぶります。
 今回の日本の出来事だって同様です。こういったことは必ず自分の音楽へ感覚的に還元されると思います。ですが、それが感情のサウンドトラックであっても、特定の政治的なものに対する音楽であるとは言えません。このアルバムにはアメリカの銃社会に着想を得たものがあります。幼い少女が自分の父親を誤って撃ってしまったという事件がありましたが、それはぼくにとってかなりショッキングでした。そのときに感じた悲しみを曲にしたんです。
 このように社会の出来事はぼくの音楽に影響をもたらします。ニュースは毎日必ず見ますし、国内外の出来事に関心があります。でも音楽的に、その出来事からというよりは、もっと「大きなスケール」で影響を受けています。

良き回答をありがとうございます。

FP:こちらこそ素晴らしい質問をありがとうございました(笑)。

ぼくは、初期の「ヴァキュームEP」(2009年)からすごく好きで、あなたの〈イグロ・レコーズ〉のリリースをコレクションしているくらいなんです。だからいつアルバムを作るんだろうとずっと思っていたんですが、すっごく時間がかかりましたね。アルバムってことで、気合いが入りすぎていたのでしょうか?

FP:大学の博士課程に在籍していたことがひとつの理由ですね。自分の頭が科学に集中した時期で、音楽のリリースは趣味のようなものになっていました。なのでアルバムの“大きな物語”に意識を傾けるのが難しかったんです。博士課程に進んでからの4年間でも、音楽はわずかですが作っていました。それで去年の4月に修了して、それから3、4ヶ月でアルバムを完成させたので、制作期間が長かったわけではないんです。同時にふたつのことができない不器用な人間なんです(笑)。

趣味とおっしゃいましたが、あなたにとって音楽が趣味でなくなったのはいつですか?

FP:博士課程に進む前から音楽を作っていて、自分の〈エグロ〉からリリースしていました。音楽活動は単純にすごく楽しいですからね。Ph.D.の研究が進んでいくうちに、レーベルも自分の音楽もどんどん成長していきました。音楽がちゃんと軌道にのりそうだったので、3、4回は博士課程を断念しようかとも考えました。ただ研究の終わりが見えてきていたので、投げ出さずに頑張ることにしたんです。その間は、音楽とPh.D.が戦いを繰り広げていましたね。
 それで博士課程が終わったときには、〈エグロ〉は立派なレーベルになっていたので、心境は前の続きをやるという感じではありませんでした。なので、Ph.D.を取得した次の日からスムーズにぼくはフルタイムのミュージシャンになれたのかもしれません。

あなたの神経科学の研究とあなたの音楽は完全に別のものと考えてもいいですよね?

FP:全然違います。科学と音楽がどう繋がっているのかよく訊かれるんですが、実はそれは自分にとっても謎です(笑)。

ははは(笑)。でも、フローティング・ポインツというネーミングは、サイエンスからきているかと思ってました。

FP:とってもつまらない回答になってしまうのですが、自分が音楽を作るときに使っていたソフトから採りました。そのうちの設定に「フローティング・ポインツ」と表示されていたんです(笑)。

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ひとつだけ明確な物語が表現されている曲があって、それがタイトル曲の“エレニア”です。冬になると南アメリカの中央へ向かって飛ぶ渡り鳥についての話で、その鳥の名前がエレニア。そういう夢を見ましてね……。夢って、あの寝ているときに見るやつですよ(笑)。


Floating Points
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[ボーナストラック1曲収録 / 国内盤]

Luaka Bop/ビート

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あなたの初期のレコードは〈プラネットμ〉と〈R2レコーズ〉から出ていますが、それは2009年で、当時はUKでダブステップがすごく強かった時期だったと思います。あなたの作品は日本ではハウスのDJがかけていて、時代はあなたにダブステップを作らせたかったんだろうけど、あなたはディープ・ハウスやテクノをすごく作りたかった、という印象を受けました。

FP:当時はロンドンに住んでいたんですが、プラスティック・ピープルで開催されていた〈FWD〉はダブステップの世界的なホームのような存在でした。ですが、ぼくは〈FWD〉に行った次の日には、同じ場所へセオ・パリッシュのプレイを聴きに行きました。当時から違ったジャンルを聴くことがぼくは大好きでしたね。聴くだけではなく、様々なスタイルの曲も作っていました。ときにクラシカルなもの、ハウス、ダブステップといった具合です。周りのプロデューサーがリリースしそうな音楽を作っていたことはたしかですね。でも、ダブステップを作ることを期待されていたときも、他のジャンルであっても作りたい曲を作っていました。

あなたの〈エグロ〉のスリーヴ・アートは、デザインもそうですが紙の質までこだわっていて、すごく丁寧に作っています。それはいまのレーベルには珍しいというか。昔のレコード全盛期に対するあなたの特別な感情を感じるんですけど、その辺はいかかですか?

FP:お世辞でも嬉しいです(笑)。おっしゃる通り、かなり気を遣っています。ぼくはコレクターとしてたくさんレコードを買い集めてきました(1万枚のコレクションらしい)。〈ブルー・ノート〉の日本盤も買ったりしました。オリジナルの日本盤は、アメリカでプレスされたものよりも質が良いんですよ。紙も厚いですし、帯付きで中にはビニールのスリーヴやライナーが入っていて、細部へ注意が行き届いています。
 短い時間でレコードを量産しなければいけないシングルの市場では、そういった点が無視されがちですよね。でも、ちょっと時間をかければ紙もいろいろ試せて、同じ予算で質のいいレコードを作ることができるんです。ぼくはロンドンで、芸術を先攻している友だちといっしょに住んでいたので、アートワークに関する意見を出し合っていましたね。〈エグロ〉のアートワークは全部がその友だちによるものです。デザインだけではなく、なかには紙のサンプルを持っているひともいましたよ。

じゃあ主にはレコードを買うんですか?

FP:どんなフォーマットでも買いはしますが、ほとんどはレコードです。実は、いま家にCDプレイヤーがないんですよね(笑)。

あなたの世代だと相当な変わり者なんじゃないんですか?

FP:もちろん。ぼくの次の世代だと、完全にMP3ですよね。6、7歳若かったらぼくもレコードを買っていなかったかもしれませんね。

あなただって十分若いですよ(笑)。

FP:いつからレコードを買ってるっけな……、たしか12歳のときからですね。

それはどういう影響からなんですか?

FP:単純に安かったからです。ぼくはマンチェスター生まれなんですけど、当時はどの家庭でも親はCDを買っていました。ちょうどCDが出はじめたときで、値段がとても高かったんですよね。そのときぼくはクラシックにはまっていたんですが、例えばショスタコヴィッチの作品を新品でCDで買うとなると、60ポンドはしたんですが、中古レコード屋に行けば昔のヴァージョンが60ペンスで買えたんです。自分が必要とする音楽を聴くために、レコードを買うのが一番手っ取り早い方法でしたね。

ショスタコヴィッチみたいな作曲家の名前が出てくるとこがあなたらしいですね。

FP:彼はひとつの例えですが、ぼくにとって大きな影響源のひとりですね。ぼくはピアノを習っていて、クラシックのトレーニングを受けていました。メシアンやショスタコヴィッチ、ストラヴィンスキー、武満徹がお気に入りです。いまでも彼らの音楽をよく聴いていますよ。それと同時に、ビル・エヴァンズ、ハービー・ハンコック、チック・コリア、ジョージ・デュークも好きです。彼らにはたくさんの共通点を感じるんです。それらをひとつの世界として見ていて、境目はありません。同じ世界にジャズとクラシックとエレクトリック・ミュージックが存在しているんです。
テクノやミュージック・コンクレートは全然詳しくなかったんですが、エイフェックス・ツインなどを初めて聴いたときは、以前から自分が聴いてきた音の文脈で十分に理解することができたんです。ハウスやディスコだって同様です。でも最初にテクノから聴きはじめていたら、クラシックを理解できなかったかもしれませんね。

アーサー・ラッセルみたいですね。あのひとも現代音楽とディスコ、みたいな感じでしたから。でもあなたはジャズがあるからまた違うのかな。

FP:アーサー・ラッセルはぼくのヒーローです。彼とクラシックの間にも境界線はないと思います。

コンピュータ1台でアルバムを作った方がよかったかなと思います。アナログ機材をたくさん使ったぶん、故障が多くて大変だったんです(笑)。とってもイライラしました。せっかくストリングスを録音したのに、ミキサーが壊れていてたりとか……。これがコンピュータ上の作業だったら何の問題もないのになぁ、と(笑)。

今回のアルバムっていうのは、すごく大きな曲が7曲あって、時間がかかったのもわかるんですけど、教えていただきたいのが、あなたが先ほど言いかけていた大きな物語というものですね。それから、このアルバムがどのような録音をされたのかということ。生の音とかを使いつつも、完全にあなたのなかでコントロールされて作られていると思いました。

FP:必ずしもプロットがある物語ではなく、抽象的なものですが、自分にとっては一貫性が感じられる作品が完成したと思っています。そのなかで、ひとつだけ明確な物語が表現されている曲があって、それがタイトル曲の“エレニア”です。冬になると南アメリカの中央へ向かって飛ぶ渡り鳥についての話で、その鳥の名前がエレニア。そういう夢を見ましてね……。夢って、あの寝ているときに見るやつですよ(笑)。
 イメージのなかで渡り鳥の群れが南へ向かって飛んでいるんですが、1羽だけはぐれてしまって冬の森へと落ちてしまう。そこで何が起きるかというと、森が鳥を助けようとようとその体を包み込みはじめるんです。風が吹いて、木々の枝が動いて……。意味わかんないですよね? まぁ、夢ですから(笑)。結局鳥は助からないんですが、森が命を吸収し、その生を森全体が引き継ぐんです。我ながら、なかなかポエティックですね(笑)。
 曲は電子音を背景にはじまって、ピアノによるメロディは鳥たちの歌声を表しています。曲が半分くらいまで進むんで森の場面になると、こんどはピアノがバックになって電子音がメロディを刻みはじめます。つまりここでは曲のパートそれぞれが、物語の要素を語っているんです。 

それをアルバムのタイトルにしたのはなぜなんですか?

FP:この曲の持つ明確な物語が、アルバムの中核を成すように思えたからです。それに語感もとてもいい(笑)。

録音は、どうやっておこなったのでしょうか? 

FP:ロンドンにある自作のスタジオで行いました。博士課程がはじまるときに作ったもので、大きさはこの部屋(8畳ぐらい?)の5倍ほどありますね。ロンドンのほぼ中心にあってロケーションも抜群で、その場所を見つけられて本当にラッキーだったと思います。作業は木材を切るところからはじめました。音楽を聴いたり作ったりするのと同じで、スタジオを作るのも趣味のひとつになっていました(笑)。頑張ったのでけっこうちゃんとしたスタジオになりましたよ。
 『エレニア』を録音したのはそのスタジオです。日本製のテープ・レコーダーのオタリMX-80を使っていますよ。すっごく大きいやつです(笑)。それとコンピュータ、シンセサイザー、マイク、大きいミキシング・デスクがあります。曲を作るときはまずスコアを書いて、それをプレイヤーに渡して演奏してもらいました。

何人くらいのミュージシャンが参加したんですか?

FP:少しずつセッションを進めていったんですが、もっとも多いときで5人はスタジオにいましたね。10人くらい詰めようと思えばスタジオに入ります(笑)。ドラムとベース、ピアノとストリングスをいっしょに録音して、そこに電子音を加えていきました。メインのモジュラー・シンセサイザーはブクラ(Buchla)を使っています。パッチを組むのが複雑で大変でした。このシンセはノイズを作るのに役立つんですが、今回のアルバムではレコーディングの中心に据えて、ストリングスの音をブクラに通してエフェクトを掛けたりしています。それから、テープ・レコーダーは後から修正があまりできないので、正確に演奏し、目的の音を作るように心がけていましたね。

今回のアルバムの制作を通して、あなたが得た番大きなものは何ですか?

FP:そうですね……。あんまり奇をてらわずに、ここはマジメに答えた方がいいですよね(笑)?

別にジョークでも大丈夫ですよ(笑)。

FP:わかりました(笑)。振り返ってみると、コンピュータ1台でアルバムを作った方がよかったかなと思います。アナログ機材をたくさん使ったぶん、故障が多くて大変だったんです(笑)。とってもイライラしました。せっかくストリングスを録音したのに、ミキサーが壊れていてたりとか……。これがコンピュータ上の作業だったら何の問題もないのになぁ、と(笑)。
 ぼくが前に出した「シャドウズ」(2011年)のことを、みんなはEPと呼ぶんです。たしかに5曲しか入っていませんが、曲はけっこう長くて全部で40分くらいあるので、ぼくは「シャドウズ」をアルバムだと思っています。その経験から「アルバムって何だ?」と思うようになりました。ぼくにとって「シャドウズ」には一貫性があるので、楽曲群をひとつの音楽作品として捉えることができます。でも周りは「5曲しか入っていないから、やっぱりEPだよ」としか言わない。でも今作は「シャドウズ」より2分長いだけなんです。違いはそれしかないのに、『エレニア』はアルバムと呼ばれているわけです(笑)。

それはいいことを聞きました。「シャドウズ」は、音楽的な繋がりという意味で今作と似ていると思っていたんですよ。あなたのは、もっとフロア向けのシングルもありますし。

FP:どうして「シャドウズ」の話をしたのかといえば、当時はスタジオを持っていなかったので、あの作品はエレクトロニクスで作られているんです。1日だけスタジオを使える日があったので、ちょっとだけストリングスが入っていますけどね。だけどいまはスタジオが完成して、毎日ストリングスの録音ができる(笑)。これからはもっと演奏を取り入れていきたいです。

ちなみに「シャドウズ」のCDは出ていないですよね?

FP:出ていないですね。日本で海賊盤は出回っているかもしれない(笑)。CD化の話もしているんですけどね。

出さなくていいです(笑)。でも、『エレニア』はCDで聴きます。

FP:はははは。『エレニア』はバンドで作った作品なので、そのメンバーでヨーロッパとアメリカをツアーをする予定です。11人の大所帯ですよ。ドラム、ベース、ギター、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ピアノ、トロンボーン、サクソフォン、クラリネット、フルート。このメンバーでクロアチアでライヴを行いました。まだボイラー・ルームにアーカイヴが保存されていると思いますよ。ツアーで日本に来れたらいいですね!

interview with Takashi Hattori - ele-king


服部峻 - Moon
noble

ElectronicJazzSynthExperimentalProg.

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 2013年の暮れにひっそりと、だがレーベルオーナーの強い熱意とともにリリースされたミニ・アルバム『UNBORN』を耳にして、作曲家・服部峻の並々ならぬ才能に末恐ろしさを感じさせられた聴き手は少なくなかったことにちがいない。ミニマリスティックに反復するバス・クラリネットの響きから始まるそれは、ジャジーなドラムスが演奏に加わると、少しずつ何かがゆがみ、ねじれ、気づけばどことも知れぬ夢幻の世界に聴き手を誘っていく。眼前にありありと演奏する姿が浮かぶほど緻密に構築された「生音」のあたたかさが、しかしけっして現実世界にはありえないような仕方で、奇妙な空間を導出していく。眼にしたはずの演奏者は、具に観察してみるならば、いまやヒエロニムス・ボスの絵画のように不可解だ。今回のインタヴューで服部峻はなんどか「快楽成分」なる言葉を発していたが、正しく彼の音楽から聴こえてくる狂乱は「快楽の園」だった――だがすぐさまそうした連想を断ち切るようにしてひややかなグリッチ・ノイズが通り過ぎてゆく瞬間に、聴き手はこれが現代の楽園であることにいまいちど刮目させられることになる。それは録音芸術のひとつの幸福なありかたとでも言えばいいだろうか。

 ふだん生活する世界においてさえ、過剰に有意味化された「無音」とまるで意味が剥落した「騒音」とに取り囲まれながら、音盤を前にしたわたしたちは果たしてなにを聴いているといえるのだろうか? 少なくとも服部峻の音楽において「聴こえない音楽」を云々することは徒労だ。それに聴覚的類似から「現代音楽」や「民族音楽」や「ジャズ」や「ノイズ」やその他のあらゆる既成のジャンルを並べ立てて彼の音楽を語っても仕様がない。それはそうした言葉を闊達自在にすり抜けていく。そしてこの意味で彼の音楽は優れてポップ・ミュージックなのである。だがそれは同時にわたしたちを「軽やかな聴衆」にしておくことにとどまるものではない。楽園として立ち現れた服部峻の音楽が、アップル・ミュージックを渉猟する現代の聴き手に対して投げかける「聴こえない問い」を、快楽のただなかで手掴みにする機会をも与えてくれるからである。

 そして前作の発表からちょうど2年が経ったいま、服部峻の新たなアルバム『MOON』がリリースされる。初のフル・アルバムであり、来年公開予定の映画『TECHNOLOGY』のサウンドトラックでもある。音だけ先に届けられた。それはアルバムがたんなる映画の付属品ではないことを意味する。だがたしかに映画がなければ生まれ得ない作品でもあった。その理由は下記インタヴューをご参照いただければと思う。今回のインタヴューでは、これまでほとんど謎に包まれていた作曲家・服部峻の経歴から音楽観までを語っていただいた。もちろんアルバムのことも。『UNBORN』の制作過程の話であったり、『MOON』の誕生秘話といったものが、彼の音楽に新たな視点をもたらすことになるだろう。

■服部峻 / Takashi Hattori
大阪在住の音楽家。映像作品も手がける。映画美学校音楽美学講座の第一期生。当時まだ15歳だったにもかかわらず特別に入学を許可される。2013年12月、6曲入りの初作品集『UNBORN』を〈円盤レコード〉より発表。2015年11月、自身初のフル・アルバム『MOON』を〈noble〉よりリリース。

中学を卒業すると同時に大阪から上京して一人暮らしをはじめたんですが、渋谷のタワレコが好きで、よく5階のニューエイジのコーナーに行っていたら、ちょうど菊地成孔さんの『デギュスタシオン・ア・ジャズ』が発売されていて。

さっそくですが、服部さんがこれまでどのように音楽と関わってきたのかを、とりわけ最初のアルバム『UNBORN』より前のことを教えていただけませんか。

服部:最初に音楽に触れたのはピアノ教室に通っていたときですね。母が音楽療法士だったこともあって小さい頃から習わされていたんです。そこに通いながら、小学校の高学年になる頃には家で作曲をしたりしていて。もっと高度なこともやりたいと思って、中学3年生のときには音楽学校に通って、MIDIの打ち込みを教わってアレンジの手法を勉強したりしていました。中学を卒業すると同時に大阪から上京して一人暮らしをはじめたんですが、渋谷のタワレコが好きで、よく5階のニューエイジのコーナーに行っていたら、ちょうど菊地成孔さんの『デギュスタシオン・ア・ジャズ』が発売されていて。それまで菊地さんのことは知らなかったのですが、調べてみると東京大学でジャズの講義をしているとあって、面白そうだから通ってみることにしました。

のちに『東京大学のアルバート・アイラー』として書籍化された講義ですね。

服部:そうです。15歳だったんですが、高校をサボってモグりにいってました(笑)。そしたら9月に映画美学校というのが開講して、そこで菊地さんが音楽理論の講師を務める、と聞いたので、これは行くしかない! と思ってそこに通うことにしました。だから菊地成孔さんからは強い影響を受けていると思います。そのころはライヴとか、音楽活動らしい活動はしてなかったのですが、楽曲を制作してデモテープを送ったりということはしていて。そしたら音楽ディレクターの加茂啓太郎さんに声をかけていただいて、あるレーベルのデビュー予備軍としてスタジオを使わせてもらえるようになったんです。エレクトロニカのアーティストとして。でも当時ぼくは高校生で一人暮らしをしていて、生活していくのが精一杯で、体力がなかったというか、あまり曲が作れなかった。10代の終わりになってからやっと根性が出てきたというか、楽曲制作をこなしていくことができるようになったというか。だからそのときはあまり期待に応えることができなかったし、積極的に音楽活動をしていたというわけでもなかったですね。

服部さんはそれまでどのような音楽を聴いていたんですか?

服部:子どもの頃はクラシック音楽をよく聴いていて、エリック・サティが好きだったので真似して曲を作ったりしていました。でもやっぱり上京してからいろいろな音楽を聴きだすようになって、そっちの影響のほうが大きいと思います。映画美学校の岸野雄一さんとか、その界隈の方たちにいろいろ教えてもらったりして。それと、同じ時期に菊地さんの東大講義をサポートしてる団体主催のインプロ・ワークショップがあったんですね。それをジャズのアドリブのワークショップだと思い込んで応募してみたら、ジョン・ゾーンのコブラをやることになって、想像していたものとぜんぜんちがった(笑)。でも遊び感覚で参加することができてとても楽しかったです。横川理彦さんとかイトケンさんとか、外山明さんなんかが講師を務めていて。その時に横川さんから「ディアンジェロを聴いてみたらいいと思う」って言われて……。

ジャズのアドリブのワークショップだと思い込んで応募してみたら、ジョン・ゾーンのコブラをやることになって。(中略)その時に横川理彦さんから「ディアンジェロを聴いてみたらいいと思う」って言われて……。

インプロのワークショップでディアンジェロを勧められたんですか(笑)?

服部:そうなんです(笑)。でもそのときに初めてディアンジェロを聴いて、ものすごく感銘を受けて、いまでもブラック・ミュージックは大好きです。

コブラには何の楽器で参加されたんですか?

服部:カシオトーンを持っていたのでそれで参加しました。僕そんなに持っている楽器の数は多くなくて。すでにプロツールスを持っていたので、それを使ってエレクトロニカだとか、電子音楽ですね、そういうのを作っていたので。当時から完全にラップトップ派です。そこからまた欲深いんですけど、映像なんかも作りはじめたりして、映像と音楽を合わせてYoutubeにアップしたりしました。

現代音楽や、実験音楽と言われるようなものは好んで聴いたりしていましたか?

服部:高校生の頃はよく聴いていたんですけど、じつはそういう路線に傾倒したりはせず、いまはポップスばかり聴いているんですよ。電子音で終始「ピーーーーー」って鳴ってるだけみたいな、ああいうのはあんまり聴かない。池田亮司さんなんかは音圧の快楽みたいなところで攻めてくるから「サイコー!」だと思うんですけど、もっと堅苦しい、アート寄りのコンセプチュアルな音楽は、なんだか血が騒がないというか、音楽としての快楽成分が少ないっていうのかな。調性がないじゃないですか。いまはフランク・オーシャンとかクリス・ブラウンとかにハマってます。

現代音楽でもたとえば、ミニマル・ミュージックとかは快楽的なものもあると思うのですが、どうですか?

服部:はい、フィリップ・グラスとか大好きです。でも好きなアーティストは誰かって訊かれたら、やっぱり宇多田ヒカルとかになってしまう(笑)。でもポップスって盛り込む要素に比重がかかっているじゃないですか。何をテーマにするか。そういうのは楽曲制作をするときにすごく参考になります。

やっぱりぼくは音楽としての構造がギリギリあるものの方が好きなんです。完全にフリーっていうのはあまり……。「むちゃくちゃ」って快楽成分を感じないというか。

上京していきなりコブラに参加されたようですが、即興音楽に興味が向かうことはなかったんですか?

服部:そうですね……やっぱりぼくは音楽としての構造がギリギリあるものの方が好きなんです。構造がなくなるギリギリの領域で、かろうじて保たれている音楽というか、本当はあるんだけど瞬間的になくなったりもする、というような。完全にフリーっていうのはあまり……。「むちゃくちゃ」って快楽成分を感じないというか。やっぱり人間は、人類共通の感覚というのか、うれしいときには笑顔になるし、悲しいときには泣く。ものを食べたときの「おいしい」という感覚とか「いい匂い」みたいな価値観って、言語とか肌の色とか関係なく、そこは世界共通。音楽を聴く上での「気持ちよさ」にも、きっと人類に共通する感覚があると思うんですね。DNAに刷り込まれてるというか。
 だから、たとえば現代音楽の世界でいくら「新しいことをやっている」と言われても、人間が本来「気持ちいい」と感じる共通的な価値観からあまりにも乖離したものだった場合、ぼくはあまり魅力を感じない。退屈な音楽だなと感じると思う。やっぱりどこかにそういう「聴いていて気持ちいい」要素は絶対あってほしいと思うし、自分が作る音楽には入れたいと思う。「テクノロジーとしての目新しさ」に固着するんじゃなくて、新しい快感、今までにない旨み成分のようなものを音楽で模索したいなと思っています。一言でいうと、血が騒ぐ音楽ですよね。たとえば黒人音楽にはブルーノートとかフェイクとか、十二音階の鍵盤の、外側にある領域、ピッチがぐにゃりと可塑する瞬間があるじゃないですか。ピアノの外にある音、そういうものにこそ魅力があると思っていて。リズムとかも、ディアンジェロは完全にズレているわけじゃないですか。でもきっちりと刻んでしまうとグルーヴは生まれてこない。どこかズレていたりヨレていたり、はみ出ていたりするところに快楽成分が潜んでいるんだと思うんです。だからそういうものを独自に研究して自分なりのアプローチで、いままでにない「聴いていて気持ちいい・新しい発見のある」音楽を作っていきたいと思っています。

“Humanity”という楽曲を制作している途中にちょうど震災と福島の原発事故が起きたんですね。あれで自分のなかから複雑な調性音楽が湧き上がってきたというか

そうした音楽がひとつの作品として結実したものが前作『UNBORN』でもあるわけですね。あのアルバムはどういった経緯で制作していったんですか?

服部:曲作りはずっと続けていて、高円寺にある円盤というレコードショップの店長、田口さんからCDを出さないか、というお話をいただいたんです。それで既存の3曲と、お話をいただいてから新たに作った3曲の、合計6曲でアルバムを完成させたのですが、そのころから音楽活動にもやっと本腰を入れ始めたというか。それまでは自分の作風があまり固まっていなかったんですが、なんとかしてアルバムをまとめなきゃ、とにかく作品として仕上げなきゃ! と『UNBORN』を制作していくなかで、徐々に自分の作風も固まっていったと思います。

アルバムを制作することが音楽活動に向かうきっかけになったんですね。

服部:はい。でもたんにアルバムが完成したから作風が固まったというわけでもないんです。『UNBORN』に収録されている“Humanity”という楽曲を制作している途中にちょうど震災と福島の原発事故が起きたんですね。あれで自分のなかから複雑な調性音楽が湧き上がってきたというか。震災の衝撃のようなものを受けて、自然と自分の作風が変わっていった。それまではのほほんと曲を作っていたんですけど、そういった安全な場所から世界が転がり落ちていくような感覚を体験して、インスピレーションのようなものを得たといいますか。精神的なダメージは大きかったんですけど、原発事故のニュースなんかを見ていると、どんどんアイデアが出てきた。そこから、放射能についてとか、電力のこととかいろいろと調べていくうちに、変な話なのですが、アーティストとして表現欲をものすごく掻き立てられて。だからそれ以降の作品は作風が変わりました。“Humanity”を完成させるのに拘らず、丁度、長い曲というのもあっていろいろと実験してみたんです。

アルバム制作と重なるようにして起きた震災と原発事故が服部さんのなかで音楽活動の境目になっているということですね。

服部:そうですね。それ以前は私生活ものんびりだったので(笑)、このままじゃいけないと思って。やらないと、って。なのでじつは『UNBORN』っていうタイトルにも、そういう意味を込めたんです。日本がこれからどうなるかはわからない、でもここを境に新しい人たちがどんどん出てくるだろうっていう意味を。いまは時代の変わり目なんだけど、未来は予測不能な状態にあるじゃないですか。でもまだ誕生していないけど、絶対に何かが生まれ出てくるはずだという確信だけはあったんです。「渦中の音楽」。それをタイトルに込めました。

『UNBORN』に収録されている楽曲のなかで震災前に作っていたのはどれなんですか?

服部:後半の“World’s End Champloo”と“Lost Gray”の2曲が完全に震災前で、“Humanity”が震災を跨いでいて、前半の3曲が震災後の新曲なんです。ちなみにタネ明かしすると、『UNBORN』っていうアルバムは楽曲の制作順序と逆に曲順を並べていて、それは宇多田ヒカルのベストアルバムの真似ですね(笑)。まぁそれはいいんですけど、やっぱり震災前に作った曲を聴き返してみると、かわいらしいというか、作風がちょっとちがうなと思う。今回のアルバム『MOON』は当然「震災以降」の作風で統一されてますが、『UNBORN』は「以前」と「以降」が境目を跨いで同居した作品なんです。

Takashi Hattori “Humanity”

“World’s End Champloo”はもともと映画に使われた楽曲だったと聞きました。

服部:そうなんです。ぼくの友だちで映画監督の遠藤麻衣子さんという人がいて、彼女が沖縄を舞台にした『KUICHISAN』っていう映画を撮ったんですね。高江って場所を知ってますか? 沖縄の東村にあるジャングルみたいなところで、いまヘリパッド問題っていう政治的な問題も抱えてて。パワースポット的なスポットでもあって、時空が歪んでる場所。その高江に住んでる音楽家の石原岳さんの三男の子が主演を務めていて。高江自体は映画の中心的な舞台ではないんですが、シーンとして映っています。この映画のエンドロールに使われている楽曲で、沖縄が舞台なので“World’s End Champloo”という曲名にしました。インディ映画なので、日本で大々的に上映とかはしてなくて、非流通の作品なのですが。それが遠藤監督の第1作。去年、次の2作めを撮るから同じように音楽をやってくれと頼まれたんですよ。『UNBORN』を発表したら、やっぱり反響があって、ちょうど新しいアルバムを出さないかという話もいただいていたんですね。だから最初はサントラとしてアルバムを出そう! と思って、遠藤監督の誘いも引き受けました。

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西洋のテクノロジーと東洋のテクノロジーの衝突がインドを舞台に起こっている、というような内容なんですが、「これはインドに行かないとわからない」って言われて、それにはぼくも納得したんです。すぐビザを申請して、飛びました。

遠藤麻衣子さんとはどこで知り合ったんですか?

服部:バンドで知り合ったんです。自分がリーダーだったわけではなくて、シンセノイズで参加していたバンドがあって。高円寺の〈円盤〉では10代のときにちょいちょいライヴしてました。でもバンド自体はぼくも遠藤もそんなにやる気がなくて。だからそこで知り合ったけどバンドはすぐ辞めて、二人でよく遊んだりしてたんです。で、そんな彼女の頼みだから、2作目の映画音楽の話も引き受けたんですけど、最初はなかなかうまく曲が作れなかった。
 インドを舞台にした『TECHNOLOGY』という映画なんですけど、実験的な内容で、プロトタイプの映像を見て、反応に困ってしまったというか。ストーリーがあるわけでもないし、セリフもあまりなく、結末も「ヌヌ~ン……」みたいな映画で。だからどういう音楽をつけたらいいのかアイデアが浮かんでこなかった。それで遠藤にあれこれ問いただして、最終的に喧嘩みたいになっちゃったんです。自分としては、本当は協力したいけど、内容が内容なだけにやりたくないって。彼女がどんな曲を求めているのかスケッチされたノートも送ってもらったりしたんですけど、そこには「全てを超越した音楽」とか「神が眠る音楽」とか抽象的なことしか書いてなくて、その文章がまた映画の内容とも乖離してる。それでスカイプでまたミーティングして、最終的には口論になり、終いには「ほんとバカ」みたいな悪口の言い合いになってしまった(笑)。そのときに「そんなにできないんならお前、インドに行ってこい!」って言われて、その時はインドなんて本当に行けるとも思っていなかったので、「行ってやらぁ!」って言っちゃったんですね。それがトントンと話が進んで、9月に本当に1週間だけインドに行けることになったんです。遠藤は、今回の映画で「西洋と東洋の文明衝突」みたいなものをテーマにしていて、西洋文明が最近うまく機能しなくなっていて、それを東洋の文明が飲み込みかけている、その西洋のテクノロジーと東洋のテクノロジーの衝突がインドを舞台に起こっている、というような内容なんですが、「これはインドに行かないとわからない」って言われて、それにはぼくも納得したんです。すぐビザを申請して、飛びました。
 ぼくは海外には、いままでニューヨークとかオーストラリアとかコペンハーゲンには行ったことがあったのですが、アジアには行ったことがなかったんです。だから初めてのアジアで、インドの下調べもせずに、ツアーでもなく。とにかく現地で見るもの見てこなきゃ、という状況。何が何でもインスピレーションを得ないといけない。それで、一週間しかないし、ぼくは英語も話せないのでやっぱり本当に大変でしたね。最終的にニューデリーとアーグラとワーラーナシの、北インドの3都市を回ったんですけど、やっぱり刺激的で、これはオリジナル・アルバムとしても作れるかも、という今回のサントラ兼オリジナルアルバムという複合コンセプトも浮かんできて。それに原点の映画音楽の製作も、インドを巡って見聞きしたものを、そこから出てきた激しいアイデアをとにかく形にすれば遠藤監督の映画にも合うんじゃないかとも思って。

ニューデリーとアーグラとワーラーナシの、北インドの3都市を回ったんですけど、やっぱり刺激的で、これはオリジナル・アルバムとしても作れるかも、という今回のサントラ兼オリジナルアルバムという複合コンセプトも浮かんできて。

それで帰ってきてすぐ楽曲制作に着手しようとしたらぶっ倒れてしまった。約3ヶ月間、耳も聞こえなくなってしまったんですね。帰国直後は、鼓膜が詰まってしまったのと、副鼻腔炎っていうのを発症してしまったのと、あと肺もやられて喉もやられて。熱も出てお腹もこわして。皮膚まで膿んできたんですよ。全身ダウン状態でした。だから曲を作り始めたのは2015年になってからなんです。トップバッターでデリーをイメージした“Old & New”っていう曲がすぐにできたんですね。これは映画のためというよりも自分がインドで体験したことをもとに作ったんです。でもそれを監督に送ったらとても気に入ってもらえて。そこから他の曲もどんどん作っていきました。映画のほうも第2稿第3稿と映像が送られてきて、それを見ているとだんだん言いたいこともわかってきた。で、“Old & New”で使ったフレーズを別の曲にも使ったりして、他の曲に広げていくと、こんどは広がりすぎて映画の中で使いきれないほどアイデアがどんどんできてきて。映画のオーダーにはないけど気に入った音の素材ができたとき、それを発展させて一曲に仕上げて送ったり。『MOON』は最初はサントラとして引き受けて、予定では6曲くらいの感覚だったのですが、インドから帰ってきてどんどん構想が膨らんで、これはフル・アルバムにできると確信して、最終的には12曲になった。実際の映画に使われているのは曲のほんの一部分だったりが多いので、『MOON』は純粋なサントラとは言えないし、でもオリジナル・アルバムとまではいかないし、だからとても特殊な作品に仕上がったと思います。音楽的にもヴァラエティ豊かでエキセントリックなものになりました。

『MOON』はアルバムの冒頭からサックスがフィーチャーされているのがとても印象的なのですが、それには何か意味があるんですか?

服部:『TECHNOLOGY』に出てくる男の子がサックスを吹くんですよ。なので映画を観ていただけたらアルバムの楽しみ方も広がってくると思います。たとえば他にも、5曲めの“Rickshaw”っていう曲は、映画でも使われているんですが、アルバムに収録されている音源とはちがっていたり。だから映画で使われている音源と『MOON』というアルバムのなかに収録された楽曲との差異も楽しんでもらえたら、と思います。

インドの楽器を多用しているのも映画との関連からなんですか?

服部:そうですね。やっぱりオーダーがあるので、それは参考に作っています。あと高校生のころにタブラ・マシーンを渋谷の楽器屋さんで買って、それを録音して使ったり。ほとんど使っていなかったんでやっと日の目を見ることができました(笑)。

ふだんインド音楽を聴いたりはしていたんですか?

服部:はい、もともとワールド・ミュージックが好きだったのでけっこう聴いてはいました。もしも映画にストーリーがあって、ドラマがあったりしたら、曲もそれに寄り添ってインド音楽のようにしようと挑戦したかもしれないですけど、そこまでオーダーもなかったですし、実験色の強い映画なので、音楽も好き放題にできました。遠藤監督もその方向を求めていたと思います。

仲直りはできたんですか?

服部:喧嘩はいまだに根をひいていますね……。

(笑)

服部:映画が完成したら「よかったね」ってなるかもしれないですけど。

じゃあ来年になるんですかね。

服部:そうですね。当初の予定では今年中の完成を目指していたんですけど、映画の製作はやっぱり資金面が大変みたいで、来年完成、公開予定です。

ぜんぶ打ち込みで作ってます。打ち込みというのもアレだし、本当は「魔法です」って言いたいところなんですけど。既存のループを貼りつけているわけじゃなくて、フレーズは細かいところまでひとつひとつ作曲してピアノロールに打って作ってます。

『UNBORN』と比べて、『MOON』では制作手法を変えたりはしましたか?

服部:インドに行って自分のなかで浮かんできたものなんですけど、今回は主旋律をあまり使わないようにしました。『UNBORN』はほぼ全曲に主旋律があるんですよ。でも『MOON』では“Pink”っていう曲以外はほぼ主旋律がないんです。これは映画の中で結婚のテーマみたいな感じで使われる曲なんですけど。今回はループ・フレーズを多用してますね。

サンプリングした音源を貼り付けたりしているんですか?

服部:いや、「Logic」を使ってぜんぶ打ち込みで作ってます。打ち込みというのもアレだし、本当は「魔法です」って言いたいところなんですけど。既存のループを貼りつけているわけじゃなくて、フレーズは細かいところまでひとつひとつ作曲してピアノロールに打って作ってます。なので音程を微妙に上げたりとかできるんですよ。アーティキュレーションを変えたりとか。

それは何かの生演奏を参照してそういうニュアンスを付け加えていくんですか?

服部:うーん、というよりは頭の中でできることを何でもやってしまいたいと思っていて。とにかく細かいところまで作り込みたいので。ちがうアーティキュレーションを何回も書き出して、それで上手くいくのを採用したりしているんです。シンセとかでもランダマイズさせて10回ほど書き出して、同じフレーズでも10通りの波形ができるので、ポイントポイントでいちばんいい瞬間っていうのを切り抜いて、フェードで繋げてひとつの音にするのがぼく得意なんです。ずっとエレクトロニカを作っていたからそういう波形編集が十八番なんですね。ぐにょぐにょって変化する音が得意というか。ひとつにつながっているんだけど、ぐにゃぐにゃ変わってくみたいな。なので音色的には楽器なんですけど、生音を目指しているというわけではなくて、どっちかというとむしろパソコンを使った制作でしかできないような表現をやりたいと思っています。だから実際のアーティキュレーションを忠実に再現させたいかというとそういうわけでもない。実際の楽器にはあり得ないオクターブの飛び方とか、息継ぎのない木管系のグリッサンドとか、ユニークなほうが聴いてて面白いし、自分も作ってて面白いと思える。バンドでの活動だったりすると、ミュージシャン同士のセッションで次にどうなるかわからない、何が起こるかわからない要素を楽しみながら作り上げていけるじゃないですか。ひとりでの制作の場合、とくにインストって精神世界そのものみたいな感じで、とにかく浮かんでくるものをできるだけ形にしようと思っています。

実際のアーティキュレーションを忠実に再現させたいかというとそういうわけでもない。実際の楽器にはあり得ないオクターブの飛び方とか、息継ぎのない木管系のグリッサンドとか、ユニークなほうが聴いてて面白いし、自分も作ってて面白いと思える。

服部さんの音楽を生演奏で実現させたいと思うことはないんですか?

服部:ありますあります。むしろ理想はぜんぶ生演奏というか、実演したいですよね、曲のとおりに。ただ実際にやるとなると難しすぎて弾けないんですよね。早すぎて。だから困っていますが、いつかオーケストラを使って本当にやれたらなと思っています。

生演奏を参照していないだけに、実現困難なアーティキュレーションを施したりしていますよね。

服部:そうなんですよ。自由に作っているので。あとスケールも頻繁に変えてしまうので、実際にやるとなると、たとえばピアノだと1小節ごとに4回チューニングを変えなきゃならなかったり。だからまずはそれを演奏できるピアノを開発しないと駄目ですね(笑)。

電子楽器だったらできそうですけどね。

服部:そうそう、電子楽器だったらできるんですけど、とにかく実演したいです。

生音と電子音というと、たとえば最近は初音ミクに代表されるボーカロイドを使って、デスクトップ上で「声」を生成することもできるようになっています。服部さんはご自身の楽曲制作にボーカロイドを取り入れようと思ったことはありませんか?

服部:現状としてはあまり好きな音ではないですね、でもやっていることはじつは自分といちばん近いと思っていて。曲作りのやり方が。ノートを振って指令を出すわけじゃないですか。こういう歌い方でここを曲げてとか。でもボーカロイドを使った優れた作品はどんどん出てくると思う。いまはまだ音がガビガビというか、いかにも「機械」な感じで、その感じがむしろ好まれている節もあると思うんだけど。今後技術的にも確実に進歩していくだろうし、たとえば忠実にマライア・キャリーみたいな声質で、しかも張りあげ声からホイッスルヴォイスから、デスヴォイスやウィスパーヴォイスだったりが、ぜんぶ再現できるようになっていくと思うんです。それで椎名林檎みたいな歌詞を歌わさせられる。そうなったらぼくもボーカロイドに手を出すと思います(笑)。そういうことができるようになると、そうとう面白くなってくると思う。あれも究極のひとりミュージックじゃないですか。ぼくもひとりで作る音楽というのを突き詰めていきたいので、ボーカロイドを使った作品にはつねに注目はしています。

クリス・ブラウンとか宇多田ヒカルとかが大好きなんです。だからそういう音楽もやりたいんですよね。でもそれと並行して自分の表現も続けていきたいですね。ひとりでやる音楽だと、じつはもう次にどんなアルバムを作ろうか考えているんです。でも完成させるのに10年くらいかかりそう。

お話をうかがっていて、服部さんにとっての「電子音」は、「生音」に対立する別のものというよりも、「生音」の概念を拡張していくものとして捉えられているように感じます。

服部:やっぱり生の魅力っていうのはあるわけじゃないですか。たとえばデジタルと言われるものはつねにアナログの技術に押されてきたっていう側面がある。そういうアナログの魔力とか、生音の魅力にはどうやったって勝てない時代がずっと続いていたと思うんです。でも最近になってよくやく、デジタルでしかできない表現もどんどん増えてきて、ぼくはそれを追求していきたいし、それが面白いんです。いまだにアナログ至上主義者みたいな人たちはいて、そういう人たちはCDでさえ許せなかったりしますよね。レコードじゃないとダメっていう。でもデジタルの世界でも、ハイレゾ音源までいくと、そうでないと注ぎ込むことのできない情報量と、伝達の早さの魅力がある。アナログとデジタルはそれぞれ良さがあって、どちらかに甲乙つけるのはもはやナンセンスだと思います。
 音楽的にもデジタルでの作曲は、リアルでは再現できない領域の演奏が試せる。曲の小節間でチューニングを変えたりとか、フレーズごとにインストゥルメントを変えてフェードで繋げたりとか。生の楽器って、楽器そのものがもつ制限のなかで人間がどうやって演奏するのかという問題がある。でも機械のなかではそういった制限はないから、より自由な作曲ができる。そこは大きな魅力だと思います。ぼくはべつにアナログや生音のアンチなのではなくて、生音でもデジタル・ミュージックでも、どちらの世界も分け隔たりなく聞ける、リスペクトできる、純粋に楽しむことのできるような音楽シーン作りに貢献したいです。

ご自身の楽曲を生演奏で実現することのほかに、今後やりたいことはなにかありますか?

服部:さっきも言ったのですが、ぼくクリス・ブラウンとか宇多田ヒカルとかが大好きなんです。だからそういう音楽もやりたいんですよね。〈エイベックス〉とかそっち系で楽曲を提供する仕事をしたい。でもそれと並行して自分の表現も続けていきたいですね。ひとりでやる音楽だと、じつはもう次にどんなアルバムを作ろうか考えているんです。というかずっと前から考えていて、タイトルも曲順も決まっていて。でもそれは超大作というか、完成させるのに10年くらいかかりそう。本当はそれをデビュー作にしたかったんですけどね。でもそれがなかなか難しいので、『UNBORN』のなかにその伏線を張った曲を3つ入れたんです。とはいえ、とてつもなく時間がかかりそうなので、それを完成されられるかどうか、いまはまだなんとも言えません(笑)。

その構想しているアルバムは、実際に曲作りをはじめたりしているんですか?

服部:まだ着手はしていないんです。ライフワークじゃないですけど、ゆっくり作っていきたいと思っていて。そう考えるとやっぱり10年くらいかかるんじゃないかなぁ。でも、最近曲を作るスピードがどんどん早くなっているんですよ。『MOON』の最後に“Forgive Me”っていう曲があって、あれは映画のエンドロールに使われているんですが、15日間で完成させて、自分としては相当早かったんです。むかしは、たとえば“Humanity”なんかは1年くらいかけて作っていたので。だからこのまま曲作りのスピードが上がっていけば、10年も待たずにでき上がるかもしれないですよね。まぁ、いまはまだなんとも言えません(笑)。

素通りできないインストア・ライヴ - ele-king

 まだまだ魅せる、まだまだ聴かせる。フラットな世界、“匂い”を失ったトーキョーをスクリーンにして、トレンディ&アーバンなホログラムを踊らせる(かのように見える!)シンセ・ポップ・ユニット、Hocoriが、タワーレコード渋谷を舞台に観せてくれるものは何か──。
 インストア・ライヴの報が寄せられたが、それにともなってたくさん楽しい情報が連なっているようだ。ライヴ会場限定で販売されていた音源もタワーレコード渋谷店限定で購入可能となる模様。来週土曜はお店の前を素通りできないぞ!

 桃野陽介(モノブライト)と関根卓史(golf / SLEEPERS FILM)によるユニット Hocori[ホコリ]が、タワーレコード渋谷店1Fにて11月21日(土)にインストアライブを行うことが決定した。
 これはタワーレコード渋谷店のリニューアル3周年を記念して、「誰かのヒーローになれる服」をコンセプトに展開しているアパレルブランド”ユキヒーロープロレス”を率いる、新進気鋭のデザイナー・手嶋幸弘[テシマユキヒロ]氏とコラボレーションしたイベントにちなんでの出演となる。この日は、その他にもFREEDOMS所属の人気レスラー・葛西純[カサイジュン]選手らによる特別マッチ、そして2Fタワーカフェ横にユキヒーロープロレス常設ブースがオープンし、関連グッズや手嶋氏の感性でセレクトされたCDや書籍などが並ぶ予定だ。リニューアル”3”周年にかけてHocoriのインストアライブを含め、これら3つのイベントの参加者にはハズレなしの抽選会も今回のスペシャルDAYのみ、実施されるのでお楽しみに。

 さらにこれを受けて、ラフォーレ原宿と阪急うめだ百貨店のユキヒーロープロレスポップアップショップ及び、ライブ会場でしか販売されてこなかった、Hocori×ユキヒーロープロレスのコラボ盤「Tag」がタワーレコード渋谷店限定で11月*日(*)より販売されることも決定した。この作品は1st mini album『Hocori』のリリースに先駆けて発表されていた全3曲入りCDで、関根卓史がこの盤のために手がけたオリジナルミックスを収録。そして収録楽曲の歌詞や世界観からインスピレーションを受けた手嶋幸弘氏がジャケットデザインを手掛けた。店内には彼らのシンボルとなっている、世界で一つのHocoriオリジナルネオンサインも展開されているので、この機会にぜひタワーレコード渋谷店へ足を運んでみてはどうだろうか。

■「タワーレコード渋谷 3rd ANNIVERSARY NO ENTRANCE MUSIC , NO PRO-WRESTLING !!」
11月21日(土)13:00~15:00内 タワーレコード渋谷店1F
※観覧無料

■「Tag」
品番:CNBN-01
価格:¥1,080(税込)
収録楽曲:
1. Lonely Hearts Club(Tag mix)
2. Tenkeiteki Na Smoothie(Tag mix)
3. God Vibration Instrumental
※タワーレコード渋谷店限定販売

■収録曲「Lonely Hearts Club」Music Video


NODA - ele-king

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