「You me」と一致するもの

Ginevra Nervi - ele-king

 中国の動画サイトに投稿されたグラム・ロックの映像にはたいてい「精神汚染」というタグが付けられている。中国メディア全体が華美なことに敏感なのである。パンデミック前には視聴者がファッションを真似するという理由で複数の宮廷ドラマが放送中止となり、コロナ禍で最高視聴率をマークした「乘風破浪的姐姐」というオーディション番組も槍玉に上がった。30歳を過ぎた女性アイドルが生き残りを賭けて競い合う同番組は「アメリカズ・ゴット・タレント」を少しばかりヒネった企画だけれど、確かに本家よりもセットは豪華だった。そのトバッチリというのか、バラエティ番組も放送禁止の対象になったというので「快楽大本営」という番組を探して観てみたところ、なんのことはない「王様のブランチ」に歌って踊るコーナーがくっついたものを公開収録でやっている程度のものだった。これぐらいでもダメなのか……と。しかし、僕が違和感を持ったのは華美ということよりも「乘風破浪的姐姐」や「快楽大本営」でステージに上がる芸能人たちがあまりにもスタイル抜群の美男美女だらけだったこと。たまに客席が映ると日本の70年代を思わせる冴えない相貌の男女が客席を埋めていて、そのギャップは歴然だし、芸能人になる条件としてあからさまにルッキズムが肯定されているのだなあと。韓国でも「日本の女優はあまり美人ではない」という論評が盛んだったところに「だけど、個性的な顔の方が作品は記憶に残る」という意見が出てきて、あまりに同じような顔の女優が韓国には多過ぎるという方向に話が逆流するなどルッキズムが対象化されつつある感じを覚えたりもしたのだけれど、中国はまだとてもそんな感じではないのだろう。

 イタリアからネットフリックスやアマゾン・プライムの音楽を手掛けてきたジネーヴラ・ネルヴィによるデビュー・アルバムは、台の上に立って、さも10頭身であるかのように見せかけた本人がジャケット・デザインを飾っている。ハリウッド俳優がちょっとばかり体重を増減させただけで「肉体改造」と称するのが最近は普通になり、そういったギミックも含めてルッキズムをバカにした表現なのは明白で、アルバム・タイトルも「外見障害」と訳せばいいのか、「見た目がめちゃくちゃ」とでも訳すのか。彼女の場合は身長が低いことで人生に面白くないことが多かったとか、見た目で判断されてきたことに異議があるということなのだろうか。具体的にはもちろんよくわからない。いずれにしろ誤読も含めてデザインで多くを語ることには成功している。少なくとも僕はこのジャケット・デザインの「見た目」が気になって聴いてみようと思ったし。予備知識がないということは先入観もゼロで中身に接することができる。短いスキャットとドローンのミックスでアルバムは幕を開け、ミニマルと優しいインダストリアル・ノイズを組み合わせた“Variable Objects”へと橋渡される。クラシカルの素養は感じられるものの、アルカやOPN以降のポップな音処理が前景化し、彼らのグロテスクな要素が苦手だった人には爽やかな変奏に感じられる内容といったところだろうか。3曲目は“Twelve”、4曲目は“Seven”、5曲目は“Nine”とヒネくれたタイトル・センスが小気味好く、10年代に実験的と感じられた傾向をどれもスタイリッシュなポップ・ソングへとリモデルし、先行時代の作品をメタで楽しく作り変えたという風情。そして、じょじょに自分の持ち味に慣れさせていく。

 実験音楽なのに、とても軽やかでポップな印象さえ残すという意味ではローリー・アンダーソンのデビュー・アルバムが脳裏をかすめる。何度か聴いてみると重い部分もあり、とくに後半は実験的な色合いを剥き出しにしていくものの、構成の妙でそこはリスナーをさらりと深みまで導いてしまう。以前はビヨークそっくりの曲などもやっていたようだけれど、このアルバムにその片鱗はなく、そういう意味では完全に独自のサウンドを掴んだ瞬間がパッケージされている。やかましいを通り越したジャングルのフィールド録音にまったく踊れないパーカッションを組みわせた“Twenty”や複数のミニマル・ミュージックを混ぜ合わせてポリリズム化した“Zero, Two, One”や同じく“Eleven”も新鮮。異なる2つの要素をミックスする時に「こんな発想はなかった」と思うわけではないのに「こんな曲はなかった」と思わせてしまうのはやはりセンスがいいからだろう。エディット能力が優れていたとされるナース・ウイズ・ウーンドとは同じ能力を持ちながら逆方向の美意識を発揮しているということかもしれない。ストリングスを何重にもレイヤーさせた“Anmous”、アルバム・タイトルと呼応しているのかなと思わせる“An Interior of Strange Beauty”にはブレイクで意表をつかれ、2曲目の““Variable Objects””を重くアレンジした“Stasiv V”を経て♪多元宇宙で私は解き放たれる~と歌うヴォーカル・メインのエンディングへ。すべてを壊して再構築に再構築、再生に再生するという夢の歌。とにかく発想が豊かで、曲がヴァラエティに富んでいるにもかかわらず、アルバム全体に統一感があり、なかなか感動の1枚である。

『The Disorder of Appearances』を聴いて僕は久々にアヴァン・ポップという言葉を思い出した。森田芳光やタランティーノが最初に現れた時の「あっ」という、あの感じ。瞬間風速だけが人生だぜ、みたいな。わざとなんだろうけれど、サウンドにはあまり奥行きがなくて、本音をいえば異なったミックスでも聴いてはみたいところ。そのせいなのか、オーディオを変えてみると異様につまらなく聞こえる曲もあり、僕と同じ再生環境にない人にはどう聞こえるのかはちょっと未知数。できればイコライザー満載のミキサーを通して聴いてみたい。

interview with T-GROOVE & GEORGE KANO EXPERIENCE - ele-king

 片や、世界を股にかけて活躍するディスコ・サウンド・クリエイターで、泣く子も黙る生粋のディスコ・レコード・コレクター、再発プロジェクトやコンピレーション監修にも積極的に取り組む T-GROOVE。片や、i-dep や Jazztronik、sotte bosse のメンバーとして活動し、ストリートでもジャズをプレイしている豪腕のジャズ・ファンク・ドラマー:George Kano。そんな微妙に畑が違う両人が、ダンス・グルーヴというマスター・キーで互いにクロスオーヴァーし、熱量高くもスタイリッシュなアルバム『Lady Champagne』を完成させた。
 これまでの T-GROOVE は、一般的にリミックス・プロデューサーのイメージが強く、海外アーティストとはファイル交換でコラボレイトを展開してきた。ソロ・アルバムに加え、これまで手掛けてきたフランス・マルセイユ在住のユニット:TWO JAZZ PROJECT とのコラボレーション・アルバム『NU SOUL NATION』や、名門バークリー音楽大学助教授として後進を育成しながら自身の活動を続ける金坂征広(monolog / Yuki Kanesaka)と組んだ Golden Bridge の作品も、例外ではなかった。しかし今回パートナーとなった George Kano は、膝を突き合わせて意見を交換しながら音楽をクリエイトできる距離にいた。その濃密な関係性が、エモくパッショネイトであると同時に洒脱感さえ内包した、この生音アルバムの原点にデーンと鎮座している気がする。TWO JAZZ PROJECT のメンバーや新進ギタリスト:YUMA HARA など、従来の T-GROOVE ブレーンに加え、FLYING KIDS のキーボード奏者でサウンド・クリエイターとして活躍する SWING-O らキャリア組、それに bwp & funky headlights の黒﨑 “Mitchel” 洋之、大林亮三や Sho Asano といった若き有望ミュージシャンを多く起用したのも、今回のプロジェクトならでは。そして世界に通用する将来性豊かな実力派シンガー DAISUKÉ、J-Pop のイメージが強い Shohei Uemura(THREE1989)、ポエトリー・リーディングの FOUR LEAF SOUND (Tomoko Murabayashi)といったキャストにも、自分を踏み台にドンドン活躍の場を広げてほしいという彼のプロデューサー目線が効いている。そんな T-GROOVE、George Kano 双方にとって新しいステージを開拓した感のある『Lady Champagne』について、まずは彼らのその熱き胸の内を訊いてみた。


T-GROOVE

いま日本のジャズ・フュージョンとか、ジャズ畑の人のトラックを聴くと、リズムが小難しい割には軽く感じちゃうんです。そこに対抗したかった。(T-GROOVE)

海外アクトのリミックス・シングルを含めると凄まじいリリース数になりますが、T-GROOVE としては何枚目のアルバムに当たりますか?

T-GROOVE:ソロ名義だと最初に『Move Your Body』、次に『Get On The Floor』、それにTWO JAZZ PROJECT の『New Soul Nation』、金坂征広(monolog)とのユニット: Golden Bridge のアルバム『Golden Bridge』があるので、オリジナル・アルバムとしては合計5枚目ですね。Golden Bridge は2019年に出したので、今回は3年のブランクがあります。でもその間にも、リミックスを集めたコンピ『Diamonds : T-Groove Works Vol.1』『Double Platinum: T-Groove Works Vol.2』と、自分のアルバムから編集した『Cosmic Crush -T-Groove Alternate Mixes Vol. 1』が出ていますけど。

やっぱりスゴイ数だ!

T-GROOVE:海外モノなんかいつの間にか発売されてて、自分でも「これ何だっけ」というのもあったりします(笑)

GEORGE KANO

ジャンルに関係なく、ドラムが好きなんです。面白いドラムを叩いてれば、その人が好きになって研究して。〔……〕自分はカメレオン・ドラマーなので、何でも叩くんです。好きになると、自分のモノにしないと気が済まなくなる(笑)。(GEORGE)

そもそも GEORGE さんと組んだキッカケは?

T-GROOVE:実は知り合ったのは結構古いんですよ。2013年くらいに Dinky-Di というグループが「Ride On Fire」のアナログ盤をリリースして、GEORGE さんがそのドラムを叩いていたんです。僕は Dinky-Di のプロデューサー:Waq Takahashi さんと知り合いで、「Dinky-Di の新曲を作るから遊びに来ない?」と誘われて、レコーディング・スタジオで GEORGE さんを紹介されました。そこで、「いつか一緒にやれたらイイですね」という話をしました。

GEORGE KANO:それから間が空きましたね。

T-GROOVE:なかなか一緒に仕事する機会もないままだったんです。それが、GEORGE さんから「ソロ・アルバムを出したいんだけど、リリース先が見つからない」と相談を受けて、それなら自分がリミックスか何かで関与すれば、レコード会社が振り向いてくれるんじゃないかと思って。

GEORGE:それで音源を送ったら、もう次の日ぐらいに返ってきた(笑)

T-GROOVE はいつも仕事が早い(笑)

T-GROOVE:でも本格的にやりはじめたら、これはもはやリミックスを越えている、という感じになってきて。だったらベースやギターを録り直して、新曲にした方がいいんじゃないかと。それで i-dep のメンバーや YUMA HARA にダビングしてもらってでき上がったのが “Cityside Walk” で、これがこのユニットのデビュー曲になりました。元々はリミックス・プロジェクトとしてはじめたものが、意外に相性が良かったので、結果的にオリジナルで組んじゃいましょう、となったんです。そのタイミングで、立ち上がったばかりのレーベル〈URBAN DISCOS〉が、リリースできるものを探していたので、聴いてもらったら、イイネと。そこでカップリングが必要になって、何かのカヴァーがいいんじゃないかという話で。GEORGE さんは普段から路上ライヴをやっているので、ジャストな曲はないかな? と。

GEORGE:そこで “Cantaloupe Island” はよくストリートでやってます、と言ったんです。

T-GROOVE:それじゃあそのディスコ・ヴァージョンを作ろう、という流れになりました。

マーク・マーフィーのヴァージョンは何処から出てきたんですか?

T-GROOVE:シングルの両面がインストだと面白くないな、と思ったんです。だから片面に有名曲のカヴァーを入れたらいいんじゃないか、という単純なノリでした。それで探していたら、マーク・マーフィーの75年のアルバム『SINGS』に入っているのを見つけて。そしたら〈URBAN DISCOS〉の担当がたまたまマーク・マーフィーが大好きで、それならマーク・マーフィー版 “Cantaloupe Island” のディスコ・ヴァージョンを作ろうと。それで “Cityside Walk” とのカップリングでシングルを出しました。曲を見つけた後は、サクサクできましたよね?

GEORGE:そうですね。すぐにできました。

T-GROOVE:ヴォーカルは TWO JAZZ PROJECT のユニットのマリー(メニー)さんが歌ってくれたんですけど、元々スタンダードとか歌っている人だから、すごくいい感じに仕上げてくれました。

シンセのエリック・ハッサンとかギターのクリスチャン・カフィエロというあたりは、みんな TWO JAZZ PROJECT の人ですよね?

T-GROOVE:そうです。でも別に頼んだワケではなくて、マリーさんに歌ってほしいと言ったら、向こうで勝手にオーヴァーダビングしてきた(笑)。

頼みもしないのに(笑)。

T-GROOVE:彼らはいつもそうなんです。どんどんアイディアが膨らんできて、勝手にいろんなことをやっちゃうの。

他にもアチコチ参加していますね。

T-GROOVE:そうなんです。シンセサイザーとかエフェクトとかパーカッションとか得意な人たちだから、飛び道具みたいなのが欲しいときに、いろいろ入れてもらったりしました。首謀者のエリック・ハッサンは元々物書きで、小説家なんです。それで音楽もやってる、ちょっと変わった人ですね。TWO JAZZ PROJECT はみんな幼馴染みの4人組で、カップルがいたりして仲が良いんです。

その “Cityside Walk” と “Cantaloupe Island” のカップリング7インチと配信からプロジェクトがはじまったと。

T-GROOVE:そうです。でもコロナ禍もあってチョッとバッド・タイミングで、結構セールスは苦労しました。評判はすごく良かったので、1枚で終わらせるのはもったいない、と思っていたんです。そこで心機一転、アルバムはレーベルを移して。

GEORGE:そこからは怒濤でした。

T-GROOVE:勢いがついて、ミュージシャンを派手にしよう、とか。若手からヴェテランまで交友関係全員に声を掛けて。そしたら全部で18人(笑)。

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いままでディスコ・リミキサーのイメージが強すぎたので、そろそろそれを払拭したいと思っていたんです。〔……〕早くも想定外のことが起こっていて、Spotify のプレイリストで僕がジャズ・アーティストとして扱われているんです(笑)。(T-GROOVE)

すごいですよね。話を戻すと、最初に GEORGE さんがソロ・プロジェクトをやろうとしたとき、T-GROOVE を巻き込んだのはどういう発想だったんですか?

GEORGE:最初はただ自分のやりたいことをやっただけで、自分が気持ち良ければイイと思って作っていました。でも音を聴いてもらったら、「リミックスとかやってみたい」と言ってくれて。だからこんなに話が広がるとは、初めはまったく思っていなかったんです。でも上がってきたモノがすごく面白くて、T-GROOVE さんが関わってくれたら可能性が広がるかも、と期待が膨らみました。

ストリートではどんなジャズをやっていたんですか?

GEORGE:スタンダード・ジャズですけど、激しい感じで。普通に想像されるオシャレなジャズとは全然違います。

T-GROOVE:アヴァンギャルドな感じですよね?

GEORGE:パンク・ロックに近いジャズというか。

T-GROOVE:GEORGE さん自身、プログレとかロック好きですしね。

GEORGE:仕事的にはファンクとかラテン系のジャズなのですが、聴くのはロックが好きでした。

T-GROOVE:YouTube に様々なドラマーの代表的ドラム・パターンの動画を上げているんですけど、本当に幅広いジャンルをやっていますよ。

GEORGE:ジャンルに関係なく、ドラムが好きなんです。面白いドラムを叩いてれば、その人が好きになって研究して。そうしたら膨大な数になっちゃって(笑)。

T-GROOVE:バーナード・パーディのとか、再生回数ヤバイですよね。

GEORGE:自分はカメレオン・ドラマーなので、何でも叩くんです。好きになると、自分のモノにしないと気が済まなくなる(笑)。

T-GROOVE:生粋のドラム好きですよね。ドラムを叩くのが好き。

おふたりのプロジェクトなので、ドラムのミックスがデカイのは当然なんですけど、出自が見えにくいドラミングのスタイルですよね。スタンダード・ジャズみたいに上品な感じではないので、ロックが入っているとお聞きして腑に落ちました。それに T-GROOVE のディスコ・スタイルになると、四つ打ちのシンプルなドラムになるじゃないですか? そこはプレイヤーとしてどうなんでしょうか?

GEORGE:それなりの制約があるなかで、自分の色を出していくのが面白いんです。いくらでもガシャガシャできるけど、あえて抑えるのが面白い。ディスコ・ビートのなかに、少し自分のノリを出そう、という感じですね。

T-GROOVE もいつものディスコ・スタイルとは違いますね。最近はジャズ・ファンクにハマっていると聞いていますが。

T-GROOVE:せっかくいいドラマーを捕まえたんだから、こんなことやりたいなぁ、というのがあって。いつもの打ち込みの音でやると、“Lady Champagne” みたいなドラム・パターンはショボくなっちゃう。だから打ち込みじゃできないことをやりたくて。4つ打ちの曲は “Cantaloupe Island” と “Haven”、“Do It Baby” くらいかな。それに連れて曲の作り方も変わって、ドラムから叩いてもらったりしました。

GEORGE:こんなパターンがあるけど、どうですか、とか。

トラックメイカー的な作り方ですね。

T-GROOVE:それをループさせて肉付けしていって、粗方できたらまたフルでドラムを録り直して、またミュージシャンたちに好きなように録音してもらって、それを再びまとめる感じ。なかなか変わったやり方ですね。

それなりの制約があるなかで、自分の色を出していくのが面白いんです。いくらでもガシャガシャできるけど、あえて抑えるのが面白い。(GEORGE)

このアルバムは、T-GROOVE の従来作に比べて、良い意味でブッ飛んでるところがあると思う。そのパワーの源はドラムだと思うんです。いわゆる4つ打ちからハミ出して、ジャズ・ファンクらしい自由さがある。しかも相手はストリート・ドラマーでもある GEORGE さん。スピリットが違いますよね。

T-GROOVE:いま日本のジャズ・フュージョンとか、ジャズ畑の人のトラックを聴くと、リズムが小難しい割には軽く感じちゃうんです。そこに対抗したかった。バス・ドラムとかスネアの音作り、その辺を重いサウンドにするにはどうしたらいいのか。そこは徹底的にディスカッションしました。

GEORGE:こんなピッチの低いスネアの調整、したことないです(笑)。

T-GROOVE:すごく緩めてミュートをつけているんです。ある意味70年代的な。お手本として渡したのはシルヴァー・コンヴェンション。キース・フォーシーみたいなドラムの音にしてほしいって。それと MFSB のアール・ヤングだったり、ちょっとシックのトニー・トンプソン感もあったりで。

パワー全開でタム回すみたいな?

T-GROOVE:それでもかなり重いサウンドになりますけど、さらにコンプレッサーの掛け方とか、エフェクト関係を研究したんです。ミキシングにもメチャクチャ時間を掛けました。

GEORGE:叩いて渡した音が返って来たとき、音がスゴくて。どうやったらこうなるんだ? と。

T-GROOVE:GEORGE さんがメンバーとして在籍している i-dep のリーダーが褒めてくれたんですよね?

GEORGE:うちのバンド・リーダーが東京オリンピックの音楽監督アシスタントをやってたんです。彼が、「このドラム、どうやってこの音になるの?」とビックリして、「もう一回勉強し直そう」って。

ある意味、真っ当なエンジニアさんだと出てこない発想ですね。荒っぽく聞こえるけど、すごく凝って作り込んでいるという。そこがわかる人はすごく面白がるんでしょう。

T-GROOVE:そこは企業秘密ですけどね(笑)。松尾潔さんに、「音楽としても音響としてもハイクオリティですばらしい」とお褒めいただきました。ミキシングだったり、音響面のこだわりを評価してくださる方が多いのは嬉しいです。

今回は作曲を手掛けた曲が多いし、T-GROOVE にとって転機というか、ステップ・アップ作になりますね?

T-GROOVE:ステップ・アップというより、イメージ・チェンジですね。いままでディスコ・リミキサーのイメージが強すぎたので、そろそろそれを払拭したいと思っていたんです。自分は作曲するし、アレンジもやるし、オリジナルのアルバムだって出しているのに、それがリミックスの仕事に隠されてしまって、フラストレーションを抱えていました。そのときにコロナが来たので、実は半年から1年弱ほどクリエイティヴ・ワークを休んでいたんです。表ではそれ以前の制作物が発売されたり、リイシューのライナー・ノーツの仕事をしていたので、誰もお休みしているとは思っていなかったでしょうけど。でもそうやって一度リセットして、「さぁ、これからどうしようか」というところで GEORGE さんから話があって。もう全編ナマ音でやらないとダメかな、と思っていたので、これなら面白いコトができるかもと。現に早くも想定外のことが起こっていて、Spotify のプレイリストで僕がジャズ・アーティストとして扱われているんです(笑)。GEORGE さんと作ったのも、基本的にはディスコ・アルバムのつもりで作っていましたが、意外とジャズ・フュージョン畑の人が飛びついたみたい。GEORGE さんがそっち方面にプロモーション掛けたワケじゃないですもんね?

GEORGE:イヤイヤ、してないです(笑)。

T-GROOVE:結構ジャズ系プレイリストに入れられて、自分がジャズ・アーティストになっているという、予想外のクロスオーヴァーぶりなんです。

最近、和ジャズのアナログ再発が進んでいるじゃないですか。60年代から70年代初めの。あの頃の和ジャズの熱量、パワー感やミックス感と共通してますよね。いまそれをやってる人はほとんどいないから、その飢餓感を埋めてる面があると思います。特に苦労した曲はあったんですか?

GEORGE:“Timeless Groove” のゆっくりした感じは、結構苦労しましたね。キープするのが難しかった。ジャズでもこういうゆったりしたのはやってないので、挑戦でした。でもその苦労が面白いんですけど。

T-GROOVE:意外にもスロウなドラムを叩いたことがなかったんですって。もちろん上がりは完璧なんですが。

ストイックなトラックですもんね。

T-GROOVE:これだけは結構前にデモができていたんです。でも世に出す機会がなくて、リリースできていなかった。それが、この企画の趣旨に合いそうだからと蔵出しして、GEORGE さんにドラム叩いてもらって……。

GEORGE:めちゃくちゃイイ曲なので、「叩きます」と。でも叩いてみたらすごく難しかった。ただその他は、あまり苦労した印象はないですね。アッという間に曲が溜まっちゃって。

T-GROOVE:僕は “Shallow Naked Love” のダビングに手間が掛かりました。ブラス・セクションとかヴォーカルのアイディア、オルガンとか、どんどん音を重ねて、トライ&エラーを重ねて仕上げました。ミックスもかなりやり直しました。みんなのアイディアの賜物ですね。

せっかくなので、ライヴとかはできないのですか? 普通の T-GROOVE 作品だと、ライヴなんてあり得ないけど、これならできるのではないですか?

T-GROOVE:ミキシングまで含めてこのアルバムなので、自分のなかではここで完結しちゃっているんです。だからコレと同じサウンドをライヴで再現するのは、現実的ではないかな。

GEORGE:セッションみたいな感じなら、何とかなるかもしれません。

T-GROOVE:パーティーみたいな感じなら面白いかも。でも僕、ちょっと表に出るのが恥ずかしいので(笑)。でもライヴという固いモノじゃなくて、オープン・セッションみたいに気楽な形なら楽しそうですね。

いずれにしろ、他にはない面白いアルバムができたと思うので、これだけで終わらせるには惜しいと思います。

T-GROOVE:そうですね。T-GROOVE & GEORGE KANO EXPERIENCE をベースに、DAISUKÉ みたいな外部のシンガーを呼んで歌モノ・シングルを作るとか、バリバリのロックやフレンチ・レゲエをやってみるとか。実は今レゲエにハマっているんです。

GEORGE:制限されたなかでのグルーヴにすごく楽しみを感じて作りましたし、レゲエみたいにまだやってないジャンルが残っているので、これからも続けていけると思います。自分でも楽しみです。

T-GROOVE:ディスコ・ミュージックっていろいろなジャンルとミックスできるし、世界共通のビートでもある。だから GEORGE さんが持っているテクニックやセンスをフルに使って、続けていけたらいいなと思っています。

Hudson Mohawke - ele-king

 ひさしぶりだ。00年代後半に華々しく登場し、エレクトロニック~ヒップホップ~ベース・ミュージックの境界を書き換えたハドソン・モホーク。なんとこの夏、7年ぶりのオリジナル・アルバムがリリースされることになった。あいだにゲーム『Watch Dogs 2』のサントラトゥナイトなどを挟んでいるとはいえ、2015年の2枚目『Lantern』以来の新作なわけだから、これは期待せずにはいられない。発売は8月12日。
 現在、新曲 “Bicstan” とアルバムのさまざまな要素をひとつにまとめたティーザー音源 “Cry Sugar (Megamix)” をカップリングした先行シングル「Cry Sugar (Megamix)」がデジタルにてリリースされている(試聴・購入はこちらから)。この夏はハドモーで爆発しよう。

Hudson Mohawke
ハドソン・モホーク帰還!!!

待望の最新作『CRY SUGAR』を8月12日リリース決定!
アルバムのメガミックス音源 “CRY SUGAR (MEGAMIX)” と
新曲 “BICSTAN” を解禁!

ハドソン・モホークが8月12日 (金) に〈Warp Records〉より待望の最新アルバム『Cry Sugar』をリリースすることを発表! 合わせて新曲 “Bicstan” と映像作家 kingcon2k11 が監督した強烈な映像と共にアルバムのメガミックス音源 “Cry Sugar (Megamix)” が解禁!

Hudson Mohawke - Cry Sugar (Megamix)
https://youtu.be/l19Fxfk-QxU

Hudson Mohawke - Cry Sugar Megamix / Bicstan
https://hudmo.ffm.to/cry-sugar-megamix

アルバム全体の様々なパーツを一つにまとめ上げた “Cry Sugar (Megamix)” を聴くことで、本プロジェクトが持つサウンドやキャラクターを味わえることができると同時に、先行シングル “Bicstan” は、Roland TB-303 のアシッドなサウンドと躍動感あるガバ・スタイルのトラックに、浮遊感のあるボーカル、ケリー・チャンドラー風のクラシックなハウスのコード進行を組み合わせた、聴いた瞬間から体を動かさずにはいられない、ハドモ・サウンド全開のトラックとなっている。

2015年の『Lantern』以来の3rdアルバムとなる本作『Cry Sugar』は、パンデミックを経てついにクラブやライブイベントに戻ってくるすべての音楽ファンのモチベーションを高める音楽として、ハドソン・モホーク特有のアンセミックなサウンドがアルバム全体に余すところなく展開している。ハイカルチャーとローカルチャーを融合させることにおいては、もはや右に出るものがいないハドソン・モホークだが、彼こそが、2010年代を席巻したトラップミュージックの設計者で、世界中のパーティーからTVコマーシャルまで、今もなおあらゆる場面でその影響を感じることができる。

本作の背景にはアメリカの退廃があるという。アルバムのアートワーク (グラフィティシーンからキャリアをスタートさせた画家で映像作家としても活躍するウェイン・ホースことウィレハッド・アイラースによる) に描かれているように、我々はゴーストバスターズのマシュマロ・マンと腕を組んで、ジャックダニエルの瓶を片手に帰宅するところで、灰色の暴風雨という大惨事が近づきつつあるのを、ただじっと見つめている。そんな現実を目にし、ハドソン・モホークは、DJブースを指揮台に、放蕩と黙示録の間の緊迫したドラマを描き出している。ハドソン・モホークにとって本作は、故ヴァンゲリスの後期作品から90年代のジョン・ウィリアムスによるベタなメジャーコードのサウンドトラックまで、黙示録的な映画やそれらの音楽に深く影響を受けた最初の作品でもある。本作はいわば、文化的メルトダウンの黄昏を記録した映画の狂ったサウンドトラックである。

ハドソン・モホーク最新作『Cry Sugar』は、CD、LP、デジタル/ストリーミング配信で8月12日(金)に世界同時リリース! 国内盤CDにはボーナストラックが追加収録され、解説書が封入される。LPフォーマットは、ブラック・ヴァイナル仕様の通常盤とブルー・ヴァイナル仕様の限定盤で発売される。

label: Warp / Beat Records
artist: HUDSON MOHAWKE
title: Cry Sugar
release: 2022.08.12 FRI ON SALE

国内盤CD BRC711 ¥2,200+税
解説封入/ボーナストラック追加収録
輸入盤1CD WARPCD347
輸入盤2LP+DL(ブラック・ヴァイナル) WARPLP347
限定輸入盤2LP+DL(ブルー・ヴァイナル) WARPLP347I

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12883

TRACKLISTING
01. Ingle Nook
02. Intentions
03. Expo
04. Behold
05. Bicstan
06. Stump
07. Dance Forever
08. Bow
09. Is It Supposed
10. Lonely Days
11. Redeem
12. Rain Shadow
13. KPIPE
14. 3 Sheets To The Wind
15. Some Buzz
16. Tincture
17. Nork 69
18. Come A Little Closer
19. Ingle Nook Slumber

Bonus Track for Japan

FEBB AS YOUNG MASON - ele-king

 2018年に急逝したラッパー/プロデューサーのFEBB。先月幻のサード・アルバムがリリースされているが、このたび2014年のファースト・アルバム『THE SEASON』のカセットテープが発売されることになった。新たにリマスタリングを施し、同時期の “BRAIN” をボーナストラックとして追加。
 また、これを機に「THE SEASON 994」のロゴをあしらったジップアップ・パーカーとTシャツも期間限定の完全受注生産にて発売される。なくなる前に要チェックです。

FEBB AS YOUNG MASONが2014年1月にリリースしたファースト・アルバム『THE SEASON』のカセットテープが完全限定プレスの受注生産で発売決定! 同時にジップアップ・パーカーとTシャツも期間限定の完全受注生産で発売となり予約受付が開始!

2018年2月15日に24歳の若さで亡くなったラッパー/プロデューサー、FEBB AS YOUNG MASONが2014年1月にリリースした恐るべきファースト・アルバム『THE SEASON』のカセットテープが完全限定プレスで発売(税抜販売価格:¥2,300)。期間限定の完全受注生産であり、得能直也氏がカセット用に新たにリマスタリング。『THE SEASON - Deluxe』の収録曲に加え、同時期に制作された名曲 “BRAIN” をボーナストラックとして収録。
また「THE SEASON 994」のロゴを用いたジップアップ・パーカー(税抜販売価格:¥8,800)とTシャツ(税抜販売価格:¥3,500)も同時に期間限定の完全受注生産で発売。印象的な「THE SEASON 994」ロゴを左胸に入れ、パーカーは『THE SEASON』のジャケットもバック・プリントとして入れております。パーカーはボディがUnited Athleの10.0ozスウェット、カラーはブラック、ネイビー、グレーの3パターンでS~XXLサイズ。TシャツはボディがCOMFORT COLORSの 6.1oz ガーメントダイTシャツ、カラーはホワイトのみでS~XLサイズになります。

6/21(火)からP-VINE OFFICIAL SHOPのみの完全限定生産での予約受付となり、受注期間は6/30(木)正午まで、発送は8月上~中旬頃を予定しております。またカセットテープにはFEBBステッカーが封入され、パーカーとTシャツには「THE SEASON 994」透明ステッカー(100x70mm)が特典としてつきますのでお買い逃しなく!

*FEBB 『THE SEASON』 ジップアップ・パーカー / 994ロゴTシャツ / カセット販売サイト
https://anywherestore.p-vine.jp/pages/febb-the-season-preorder-fully-limited

*FEBB 『THE SEASON』 カセット / トラックリスト

1. No.Musik Track by Dopey
2. Time 2 Fuck Up Track by E.Blaze
3. Walk On Fire ft. KNZZ Track by Febb
4. Time Is Money Track by QRON-P
5. Hustla / Rapper Track by jjj
6. On U Track by Rhythm Jones
7. This Town Track by Golbysound
8. Deadly Primo


1. The Test Track by Serious Beats
2. PeeP Track by Ski Beatz
3. Season A.K.A Super Villain Track by Febb
4. Another One Track by Febb
5. Step Track by Kid Fresino
6. Navy Bars Track by Dopey
- Bonus Track -
7. Gone * Track by Febb
8. Hard White * Track by Kid Fresino
9. BRAIN*

※収益はFEBBのご遺族に分配しております。
※新型コロナウィルスによる状況によっては、発送期間が大幅に遅れる可能性がございます。あらかじめご了承ください。
※オーダー後のキャンセル・変更は不可となります。
※商品発送は8月上~中旬頃を予定しております。
※配送の日付指定・時間指定は出来ません。

Flying Lotus - ele-king

 昨年、アニメ『Yasuke』のサントラを手がけたことで注目を集めたフライング・ロータス。この5月にはドキュメンタリー『They Call Me Magic』のテーマ曲も送り出しているが、去る6月16日、新たなシングル「The Room / You Don’t Know」がデジタルにてリリースされている。
 LAを拠点に活動するシンガー、デヴィン・トレイシーをフィーチャーした2曲入りで、前者 “The Room” は『Yasuke』のサントラ収録曲 “Crust” の新ヴァージョン。チェックしておきましょう。

FLYING LOTUS

フライング・ロータスが
最新シングル “The Room” / “You Don't Know” を
〈Warp〉からデジタル・リリース!

ロサンゼルスを震源地に、2000年代半ばに急成長したビート・ミュージック・シーンから登場し、ジャズとヒップホップ、エレクトロニック・ミュージックを融合した新たなサウンドで、時代を作り上げてきたフライング・ロータス。昨年には Netflix オリジナル・アニメ・シリーズ『YASUKE -ヤスケ-』の音楽を手がけたことでも話題となった彼が、ヴォーカリストのデヴィン・トレーシーをフィーチャーしたシングル “The Room” / “You Don't Know” を〈Warp〉からリリース!

“The Room” / “You Don't Know”
https://flying-lotus.ffm.to/the-room

フライング・ロータスは今年の春に AppleTV+ のマジック・ジョンソンの同名のドキュメンタリー・シリーズのテーマ曲 “They Call Me Magic” もリリースしている。また、SFホラー映画『Ash』の監督と音楽を担当することを発表、さらには XYZ Films と Logical Pictures と契約を結び、新たなプロジェクトのプロデュースと監督を担当することが決定している。

また、フライング・ロータスは第63回グラミー賞にて、サンダーキャットの『It Is What It Is』で最優秀プログレッシヴR&Bアルバムを受賞、さらにプロデューサー・オブ・ザ・イヤー、ノンクラシカル部門でもノミネートされた。これまでに、デヴィッド・リンチ、アルマ・ハレール、ヒロ・ムライ、カリル・ジョセフ、渡辺 信一郎らとコラボレーションを行い、映画界のレジェンド、テレンス・マリックの指導も受けるなど、音楽の域に留まらない活動も続けている。

GemValleyMusiQ - ele-king

 「アマピアノの第2章」という惹句が目に飛び込んできた。ジェムヴァレーミュージック(以下、JVMQ)のファースト・アルバムについて書かれた資料の1行目。正確には「JVMQのファースト・アルバムはラフ・アマピアノの第2章だ」という書き出し。資料を読む前にアルバムを聴き終えていた僕は「え、アマピアノだった?」と戸惑った。「催眠的なヴォーカル、不気味なキーボード、コミュニティ感覚と自由、未来からストレートにやってきたFLスタジオのリズム」と資料は続ける。FLスタジオというのは音楽制作ソフトの名称。調べてみるとJVMQは確かに南アフリカはプレトリアのダンス・ユニットで、プレトリアがここ何年か発信し続けているのは確かにアマピアノである。プレトリアの音楽ならいまはほとんどがアマピアノ。それは間違いない。アマピアノというのは、しかし、基本的にはディープ・ハウスである。JVMQはどう聴いてもディープ・ハウスではない。彼らのデビュー・アルバム『Abu Wronq Wronq』はむしろ僕にはバカルディに聞こえた。そう、公式資料も「ラフ・アマピアノ」と表現し、「極端にパーカッシヴで、ベースを中心とし、その辺のアマピアノよりも実験的だ」と強調している。

 以前、紙エレキングに書いたことだけど、もう一度繰り返そう(もう読んだという人はこの段落はトバして下さい)。南アフリカのハウスはクワイトと呼ばれ、早いものだと80年代からつくられてきた(V.A.『Urban Africa (Jive Hits Of The Townships)』など)。クワイトが独自の色合いを持ち始めるのは90年代中盤からで、ヨハネスブルグやダーバンのタウンシップが中心となる(V.A.『Ayobaness! - The Sound Of South African House』など)。タウンシップというのは簡単にいえばゲットーのことで、2008年にプレトリアからDJムジャヴァがミリタリー・ドラムを駆使した“Township Funk”をローカル・ヒットさせ、これを〈Warp〉がライセンスしてヨーロッパ中に広め、プレトリアにはバカルディというムーヴメントが起きることに。ところが、プレトリア以外の南アでは“Township Funk”はまったく知られていなかったといい、それが本当なのかどうなのか、ほどなくしてバカルディがフェイド・アウトしていったのに対し、やはりミリタリー・ドラムをサウンドの核としたゴムがダーバンから巻き起こるとイギリスのDJ、ナン・コーレが〈Gqom Oh!〉を設立して、これを世界規模に拡張させる。この流れが“Township Funk”のプロダクション・チームは面白くなかったようで(知名度の落差が原因でDJムジャヴァはすでに精神病院に入っていた)、プレトリアではダーバンをこき下ろす発言も目立ち、その時期からプレトリアはクワイトのベースラインにジャズ・ピアノを太くフィーチャーするアマピアノへと流れを変える。バカルディもアマピアノもいってみればディープ・ハウスのヴァリエーションであるのに対し、ゴムのインパクトは明らかにテクノのそれで、プレトリアとダーバンの差はビートの強弱など、もっと違うところにあるような気もするし、南アを代表するディープ・ハウスのDJ、ブラックコーフィーがダーバン出身で同地に肩入れするなど、音楽性よりも地域差による対立が目立つ結果となった。ドミノヴェ『Umthakathi』(2017)の頃に比べると昨年のキッド・フォンク『Connected』などダーバンもかなりプレトリアの影響は受け始めていると思うし、ダーバンのポテンシャルにもプレトリアのそれにも目を見張るものがあったことは確かで、遠目に見ればデトロイト・テクノとシカゴ・ハウスが互いを補完をしてきた関係と似ていると思うのだけれど。ちなみにイーロン・マスクはプレトリア大学卒。

 何度か聴き直してみたけれど、やはり『Abu Wronq Wronq』はアマピアノというよりバカルディに戻ったと考えた方がいい。それこそ“Township Funk”の続きを聴いている感じで、腰にまとわりついて離れないベースラインの力強さは往時の何倍も強力になっている。アフリカにベース・サウンドがしっかりと定着したのだ思う。勝手にゴムのピークだと思っているDJティアーズ・PLKやオワミ・ウムシンド(Owami Umsindo)と同じく、リニアな動きは一切なく、同じ場所でじわじわとリズムを循環させる感じはレゲエと同じ。一度、腰を回し始めてしまうと、絶対に抜け出せない。この粘り強さは上半身をあまり動かさずに踊る人には最高のグルーヴで、パラパラや盆踊りのように腰から下を動かさずに踊る人には一生わからないだろう。ポップ・グループ“She Is Beyond Good And Evil”が79年に公開した最初のヴィデオはレゲエ・クラブで踊る人たちの姿を捉えたもので、僕はそれを観て上半身をほとんど動かさない踊り方というものがあるのだと初めて知ったのだけれど、実際に自分がそのように踊ってみるようになったのはレイヴ・カルチャーと出会ってからだった。『Abu Wronq Wronq』を聴いていると、どうしても”She Is Beyond Good And Evil”の映像が蘇ってしまう。体の中でグルーヴがぐるぐると渦巻いているのに外見的にはほとんど動いていないというのが踊っている本人には意外と面白い。ヒップホップで踊るのが好きな人も同じだったりするのではないだろうか。このミニマルな運動感。そして、それはヤキ・リーベツァイトのドラムにも通じるものがあり、カンがレゲエと出会ってつくったのが『Flow Motion』(76)なら、彼らがもしもまだ現役で、ゴムと出会っていたらつくっていたかもしれないと思うのが“Spice Ko Spicing”である。



 JVMQが名乗る「ジェム」というのは「宝石」のことで、マイケル・ベアードがコンパイルした『African Gems』(14)や〈Mukatsuku Records〉の諸作など、この10年ほどヨーロッパがアフリカの音楽を指して呼ぶ表現を自分たちから名乗ってしまおうというしたたかさが感じられる。宝石の谷の音楽。これを発見し、世界に解き放ったのがフランスのレーベルだというのもまた興味深い。南アやウガンダはいままでイギリスとオランダの資本が投入され、フランスはマリやコンゴといった北アフリカがテリトリーだったからである。フランスは〈Good Morning Tapes〉や〈Human Disease Network〉といった面白いダンス・レーベルが増えているので、ロウ・ジャックの〈Les Disques De La Bretagne〉以降、勢いがついていることは確か。『Abu Wronq Wronq』は後半に入るとアマピアノ色も強くなってくる。リズムがしっかりしていると、その上でリード楽器がソロを取ると思った以上に気持ちがいいし、そういう意味ではなるほどアマピアノである。そして、まさにアコースティック・ピアノが炸裂する“Dance A Lot”で僕は一気にセカンド・サマー・オブ・ラヴまで連れ去られてしまった。このゴージャス極まりない高揚感。今年の2月にデムダイク・ステアが『The Call』というピアノ・ハウスのミックス・カセットをリリースしていて、彼らのことだからさすがにバカっぽくはなかったものの「なんで?」という気持ちになっていたところ、“Dance A Lot”はそれともつながってしまう曲で、もしかして、今年の夏はコロナ禍の鬱憤をすべて晴らすかのような、とんでもないダンス・カルチャーの大爆発が起きたりして……とか思ったり。

Jockstrap - ele-king


 電子音楽を学んだテイラー・スカイと、ブラック・カントリー、ニュー・ロードのヴァイオリニスト、ジョージア・エラリーから成る2人組、ジョックストラップ。期待の新人デュオとして、2年前にエレキングでも紹介しているが(簡単な略歴についてはそちらをご参照あれ)、昨秋〈Warp〉から〈Rough Trade〉へと籍を移した彼らのファースト・アルバムが、ついにリリースされることになった。9月9日、世界同時発売。現在、先行シングル “Glasgow” が公開中。アルバムが楽しみです。

BC,NRのメンバーによるオルタナティブ・ポップ・デュオ、
ジョックストラップ待望のデビュー・アルバムが発売決定!!

ロンドンを拠点とする新生オルタナティブ・ポップ・デュオ、ジョックストラップが、待望のデビュー・アルバム『I Love You Jennifer B』を〈Rough Trade〉から9月9日にリリースすると発表した。今回合わせて最新シングル「Glasgow」の公式ビデオも公開されている。

Jockstrap - 'Glasgow' (Official Video)
https://youtu.be/_dLOFMxAYuE

ジョックストラップは、ブラック・カントリー・ニュー・ロードのメンバーでもあるジョージア・エラリーとテイラー・スカイで構成される。名門ギルドホール音楽演劇学校で出会ったという2人は、それぞれジャズと電子作曲を学ぶ中で2017年にジョックストラップを結成。クラシック音楽を聴いて育ち、音楽学校でジャズに目覚めたというジョージアとテイラーは、共に〈PC Music〉やミカチューことミカ・リーヴァイ、それぞれジェイムス・ブレイクやポール・サイモンに影響を受けている。現在ジョージアが作曲、作詞、歌唱を担当し、テイラーがプロデュースするという分担だが、その役割の境界はあいまいになりつつあるという。既存のスタイルを解体し、それを巧妙に組み直して全く新たなジャンルを生み出すような時間的そして空間的に激しく混乱した形のポップ・ミュージックを作り出すのが彼らの独特の手法で、ジョージアはロック以前のラウンジ・ミュージックの歌を歌い、テイラーはそれとポスト・ダブステップをミックスさせるなど以前から話題を呼んでいた。

デュオは今回の発表に先駆けて、最新シングル「50/50」と「Concrete Over Water」をリリース。ジェイミー・エックス・エックスやイギー・ポップ、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーなどから高く評価されているほか、「50/50」はシャネルの2020/21年秋冬オートクチュール・コレクションのキャンペーン・ビデオのサウンドトラックとして使用されたり、ステラ・マッカートニーの2022年冬のパリ・ファッションウィーク・ショーのサウンドトラックに使用されるなど音楽の領域を超えて注目を集めている。

『I Love You Jennifer B』は、テイラー・スカイが自らプロデュースとミキシングを手掛け、レッド・ツェッペリンやデュア・リパ、ラナ・デル・レイ、FKAツイッグスなど大物アーティストを手掛けたジョン・デイヴィスがマスタリングを担当した。今回のアルバムリリースについて、ジョージアとテイラーは次のようにコメントしている。

“『I Love You Jennifer B』は、ジョックストラップが3年間かけて制作してきた楽曲集。収録されている曲は全てかなり特異なサウンドだから、みんなのためのトラックがあって、『これは名曲だ』って語りかけてくれるようなものがあればいいなと思っているんだ。”

2022年のカオス、喜び、不確実性、陰謀、痛み、ロマンスを他にはない形で表現しているジョックストラップの待望のデビュー・アルバム『I Love You Jennifer B』は2022年9月9日に世界同時発売。本作の日本盤CDには解説および歌詞対訳のDLコードが封入され、ボーナス・トラックを追加収録する。輸入盤は通常LPに加え、数量限定グリーン・ヴァイナルが同時発売される。本日より各店にて随時予約がスタートする。

label: Rough Trade / Beat Records
artist: Jockstrap
title: I Love You Jennifer B
release: 2022.09.09 FRI ON SALE

国内盤CD RT0329CDJP ¥2,200+税
解説+歌詞対訳DLコード付 / ボーナストラック追加収録
輸入盤CD RT0329CD ¥1,850+税
輸入盤1LP RT0329LP ¥2,850+税
輸入盤1LP(限定グリーン) RT0329LPE ¥3,850+税
BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12868

TRACKLISTING
01. Neon
02. Jennifer B
03. Greatest Hits
04. What’s It All About?
05. Concrete Over Water
06. Angst
07. Debra
08. Glasgow
09. Lancaster Court
10. 50/50 (Extended)
11. Jockstrap 1 & 2 *Bonus Track for Japan


通常盤LP(ブラック)


限定盤LP(グリーン)

Nouveau Monica - ele-king

 昨年、ブラワンのEPを繰り返し聴いたという人は少なくないのではないだろうか。自ら主宰する〈Ternesc〉からの「Soft Waahls EP」と、年末に〈XL〉からリリースされた「Woke Up Right Handed EP」。2015年にベルリンに移り、〈Ternesc〉を設立してからのジェイミー・ロバーツはダブステップからテクノにシフトしたことで面白みが薄れてしまい、ムーディマンの声をサンプリングした“What You Do With What You Have”(11)のような遊び心からは遠ざかったような印象があったものの、一昨年の「Make A Goose EP」や「Immulsion EP」あたりからUKガラージの要素が復活し、とくに「Woke Up Right Handed EP」ではどうしちゃったのかと思うほど多彩なリズムを楽しませてくれた。“Gosk”や“Close The Cycle”がコミカルなブリープ・エレクトロかと思えば、“No Rabbit No Life”はマイク・インクとエイフェックス・ツインが出会ったようなドリルン・ベース(?)、さらに2拍子からブレイクでノイズ・ドローンに変わる“Under Belly”にも意表をつかれた。また、EPのタイトルに用いられている「Woke」(意識が高い)はラップのコンシャスと同じ趣旨で使われるブラック・ライヴス・マターのスローガンで、エリカ・バドゥ“Master Teacher”の歌詞が起源とされ、とくにフライング・ロータスがジョージ・クリントンをゲストに迎えたWoke名義「The Lavishments Of Light Looking」(15)以降、曲のタイトルなどに頻出するようになった。ここでは「右利きの人」を対象にするというヒネった使い方がされ、右利きの人に意識を高く持てという意味なのか、それとも暗に右翼に呼びかけているのか(?)。ブラワンはデビュー・アルバムのタイトルも『湿ったものは必ず乾く(Wet Will Always Dry)』(18)とか、どう取ればいいのかわからないタイトルが多く、楽しく悩ませてくれる存在である。

 この勢いでブラワンがセカンド・アルバムをリリースした……のではなく、フランスからヌーヴォー・モニカのデビュー・アルバムがこの波をかっさらっていった。UKガラージに主軸を置き、エレクトロとの境界線を面白いように舐め回す『BBB』はブラワンを若返らせ、2000年代前半のヴァイブスで染めたような温故知新を感じさせる。なんといってもまずは疾走感。UKガラージに特有のつんのめるビートが全体を貫き、抑制されたブリープのヴァリエーションが編み出される。過剰にリヴァーブをかけたスネアだけでワクワクしてしまうけれど、テンポは必ずしも早くなく、オフ・ビートをたっぷりと組み込むことでスピード感を醸し出していく。シャキシャキとしたスネアにトランペット・ドローンのような持続音を絡める“Be Quiet”からリズムとメロディの対比がエイフェックス・マナーの“Bluntin”へ。フランジャーをかけたハットが駆け回る“Bobby’s Bump”がとにかく最高で、ブレイク後に転調するところはかなりヤバい。シカゴ・アシッドの要素も裏地にピタリと縫い込まれ、“BS Unit”ではスネア、“Bounce Break”ではバスドラムがしっかりとリクルートされている。どの曲もほとんどビートの組み合わせだけでできているところが、そして、なによりも素晴らしい。『BBB』というのは曲のタイトルがすべて“B”から始まるからのようで、秋里和国『THE B.B.B.(ばっくれバークレーボーイ)』を思い出したり。



 『BBB』を聴いてそこはかとなく思い出すのがMIA『Kala』をプロデュースしたスウィッチのサウンド・メイキングで、彼のヒット曲“A Bit Patchy”やその後にフィジェット・ハウスと呼ばれるようになる彼のスタイルがアルバム全体にエコーしていると僕には思えてしまう。さらに言えばフィジェット・ハウスをダンスホールに応用したテリー・リン『Kingston Logic 2.0』やスウィッチ自らがダンスホールに取り組んだミズ・シング『Miss Jamaica』など、UKガラージがエスニック色を強めたUKファンキーに様変わりしていく前段階がこのあたりで力を溜め込んでいたことを『BBB』は再現し、アップデートさせていると考えるのは無理があるだろうか。アップデートというより当時の楽観的なムードをそぎ落とし、現代的な閉塞感で全体をコーティングし、最後のところは引き締めていくという感じ。その辺りがブラワンの試行錯誤とも共通のセンスに感じられるところだろう。ちなみにバイクの上でヘンな男が寝ているというジャケット・デザインは、ちょうど10年前にリリースされたジャム・シティが同じくバイクを横転さ得ることでJ・G・バラードのヴィジョンを想起させたのとは異なり、それでも人は生きているというフランス的な感触にも導かれる。

BRIAN ENO AMBIENT KYOTO - ele-king

 初日から大盛況の展覧会「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」。好評を受け、土日祝の開館時間の拡大が発表された。あわせて、同展のオフィシャル・ヴィデオと展示写真が公開されている。

 「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」は、世界初公開の『Face to Face』、日本初公開の『The Ship』、ヴィジュアル・アーティストとしてのイーノの代表作『77 Million Paintngs』および『Light Boxes』の最新作、計4作を一挙に体験できる絶好のチャンス。

 6月25日からおなじ京都で開幕するデヴィッド・ボウイ写真展との相互割引も実施中とのことなので、この機会にぜひ足を運んでみよう。


77 Million Paintings


Light Boxes


Face to Face

black midi - ele-king

 ele-king 28号のブラック・ミディのインタヴューは読んでくれましたか? 彼らが何ものなのか、ほかと何が違うのかがよくわかる内容になっているので、ぜひ! で、その取材でもメンバー3人ともが自信満々に語っていた3枚目のアルバム『Hellfire』から先行リリース第二弾の曲“Eat Men Eat”のMVが公開されました。多彩なパーカッションからすさまじい叫びまで駆け上がります。曲の終わりの奇妙なレイヤーは、ファンから送られてきたものによって構成されているそうです。まずはこの規格外サウンド楽しみましょう。新作のリリースと来日ライヴを待ちましょう。

black midi - Eat Men Eat

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