「You me」と一致するもの

interview with Black Country, New Road - ele-king

ワンテイクで撮ったのだと思って欲しくないな、と思った。ここは正直に、3日間の公演を通して撮られたものだと知ってもらいたかった。そこで毎晩違った格好をしようということになった。(エヴァンズ)

 アイザック・ウッドがブラック・カントリー・ニュー・ロードを脱退して1年が経った。
 正直、僕はまだ彼の才能が恋しいし、もうBCNRが『Ants From Up There』をプレイしないということを本当に残念に思っている。しかしBCNRは止まらない。メイン・ヴォーカルの脱退というバンドにとって致命的なアクシデントを乗り越え、BCNRの絆はより強固なものになっている。『Ants From Up There』は言うまでもなく美しい名盤で、様々なメディアでも2022年のベスト・アルバムの上位に並んだ。しかしウッドの脱退を受け、バンドは全曲新曲でのツアーを決めた。ツアーがはじまるまでの限られた時間で曲を持ち寄り作られたライヴ・セットは一年のツアーを経て研磨され『Live at Bush Hall』へ帰結する。

 過去のインタヴューでメンバーがよく口にしていた民主的なバンドの意思決定プロセスが『Live at Bush Hall』では濃く反映されているように感じる。各曲でメイン・ヴォーカルが変わるスタイルも要因として大きいだろうが、誰かひとりが編曲を統括しないことで生まれる流動的で自由なグルーヴがライヴ・アルバムというアイデアと相性が良く、これはスタジオではなくライヴで録るべきだというバンドの選択に合点がいく。プロムや学芸会的なアイデアも、会場を友人やレーベルの人間と飾りつける様子もBCNRが獲得したスタイルをよく表現している。

 サウンド面でも評価されるべきアルバムだと思う。ただでさえメンバーが多いBCNRだが、ピアノ、ドラム、ヴァイオリン、サックス、フルートなど音量がバラバラな上、パーテーションで仕切ってあったが、ステージはかなり小さいので録音はかなり難しかったと思う。先行してYouTubeにアップされているライヴ映像を見ると、ギターのルーク・マークとベースのタイラー・ハイドの後ろにはアンプがなくステージの後方、ピアノの裏まで押し込んであったりいろいろ工夫が施されてある。マスタリングにアビー・ロード・スタジオのエンジニアがクレジットされているのでしっかりしているのは納得だが、生々しいがクリアで暖かく重厚感のあるサウンドはライヴ・アルバムとして理想的な録音になっている。

 語るべきストーリーのあるバンドは多くの人から愛される。我々ファンや音楽ライターは往々にして悲劇やそれを乗り越えるバンドのストーリーを勝手に作りあげてしまうが、そんなことは彼らには関係なく、「ミュージシャンとしては、1日を大切に生きてその瞬間を楽しむということが大事だと思うんだ」と言う彼らの素直に音楽を楽しむ姿勢は、そんなストーリーよりも貴重で素晴らしいと思う。

よくあるライヴ映像は、複数のライヴ映像のうまい部分を編集して繋ぎ合わせて、見栄えを良くしているけれど、僕たちはそのやり方はしたくないと思った。(マーク)

シングル「Sunglasses」のリリース時から聴いていたのでインタヴューできることを大変嬉しく思います。まずは簡単な質問から。BCNRのSpotifyにみなさんのプレイリストがあります。多彩で面白く楽しみに聴いているのですが、あれはみなさんが普段聴いている曲なのでしょうか? それともバンドのためのリファレンスのような物として共有しているのでしょうか?

ルイス・エヴァンズ(Lewis Evans、以下LE):あれはバンド・メンバーで共有しているプレイリストで、各自が好きな音楽を追加しているんだ。普段みんなが聴いている曲を入れているだけで、BNCRが作る音楽のレファレンスとも言えるけど、僕たちは具体的な曲をレファレンスにして制作をすることはあまりしないから、その時々に聴いている曲をシェアしている感じだね。

ルーク・マーク(Luke Mark、以下LM):BCNRがこういう曲を聴いているとか、こういう曲に影響されているということをリスナーに知ってもらいたいという意識は特になくて、僕があのプレイリストに載せているのは、ただそのときに自分が聴きまくっていた曲というのが多い。だから、同じ曲がプレイリストに何回も入っていることもある。誰かが載せた曲を、他のメンバーが聴いて、またそれをプレイリストに載せたりするからね。

いちばん最近のものに青葉市子やBuffalo Daughterなど日本のアーティストが入っていましたが、日本のアーティストも普段聞きますか? どんなアーティストでしょう?

LM:チャーリー(・ウェイン/ドラム)とメイ(・カーショウ/キーボード)が青葉市子の大ファンなんだ。僕は彼女の音楽を聴いたことがなかったんだけど、今度、彼女とロッテルダムのMOMOというフェスティヴァルで共演することになった。だから残りのメンバーはこれから彼女の音楽を聴いて知ろうと思っているところだよ。

LE:プレイリストに載せたかどうか覚えてないけど僕は渡辺美里をよく聴くよ。“My Revolution” とか。ポップ・ソングの書き方に関してはエキスパートだと思うからね。トップ・クオリティだよ!

LM:僕たちの家では朝食の時間にかける音楽だよな。

LE:そうそう、コーヒーを飲みながら聴いてるんだ。


今回取材に応じてくれたルーク・マーク(ギター)


今回取材に応じてくれたルイス・エヴァンズ(サックス/フルート/ヴォーカル)

アイザックが抜ける前の時点で、BCNRにはライヴやフェスティヴァル出演をする機会がたくさん予定されていた。その機会を活かしてライヴなどに出演するのか、音楽以外の現実味のある仕事を見つけるかという話で、全員が前者を希望した。(エヴァンズ)

いろいろなインタヴューでもお話しのように、様々な音楽的バックグラウンドをお持ちですが、音楽以外の影響はどうでしょうか? 好きな映画や本やアートなど、音楽以外からの影響について教えてください。

LM:バンドのメンバーたちは様々なメディアから影響を受けているよ。たとえばタイラーはアート専攻だったから現代美術について詳しいし、チャーリーは美術史が好きだからヨーロッパをツアーしているときは美術館に行きたがる。チャーリーがメンバーの中で、いやタイラーと同じくらい、いちばん美術史について知っていると思う。僕はヴィジュアル・アートに関しては好きなものは少しあるけれど、あまり知識がない方なんだ。最近は、近代美術家のピーター・ドイルという人がロンドンで展示会をやっていたから行ったけど、とても良かった。とても親しみやすいというかわかりやすいから自分でも好きなんだろうな(笑)。デカいサイズの、カラフルな絵を描く人だ。僕がいちばん好きなのはピーター・ドイルかな。本はどうだろう……?

LE:僕は本をあまり読まないんだ。

青木:では映画はいかがですか?

LE:映画は好きだよ。映画は大好き。僕には本は読むだけの集中力がないんだ。だから1時間半くらいの映画が僕にとってはちょうどいい。映画かあ……僕がいちばん好きな映画って何だっけ?

LM:ルイスがいちばん好きな映画は『Waiting for Guffman』(96:クリストファー・ゲスト監督)だよ。

LE:そう、『Waiting for Guffman』で、えーと誰が作ったんだっけ?

LM:あれだよ、あの人!

LE:『Spinal Tap』(84:ロブ・ライナー監督)を作った人! 彼(*脚本のクリストファー・ゲスト)と、彼がいつも起用するキャストのメンバーが登場する、最高な90年代の映画だよ。全てがアドリブなんだ。『Waiting for Guffman』は本当に大好き! あとはかっこいいホラー映画も好きだよ。最近は日本のホラー映画も観てるんだ。『仄暗い水の底から』(02)も観たし……

LM:『仄暗い水の底から』はすごく良かったよな。

LE:『リング』(98)も観た。あれは有名だよね。

LM:『リング』も『仄暗い水の底から』と同じ監督だよね(*中田秀夫)。『仄暗い水の底から』の方が怖かったと思う。

LE:『仄暗い水の底から』の方が?

LM:『リング』の描写は他の映画で何度も模倣されているというか……去年も『Smile』(22)というホラー映画を観たんだけど、『Smile』の基本的なストーリーは、『リング』の結末から始まる感じなんだ。だからパクリだと思ったよ。僕は映画にあまり詳しくないけれど、今年は、可能な限り、映画を一日一本見るということをして、映画に詳しくなろうとしているんだ。これをやれば年末までに365本の映画を観たことになる。ルイスと僕にはルームメイトがふたりいるんだけど、そのふたりとも映画が大好きなんだ。彼らの方が僕よりもずっと映画には詳しい。だから僕は最近、デュー・デリジェンスの取り組みとして、昔の名作映画をたくさん観ているよ。イングマール・ベルイマンやフェデリコ・フェリーニといったアートハウス系の名監督の作品を観ている。いままでそういう作品を観たことがなかったからね。最近は初めて『8 ½』を観たけど、素晴らしいと思ったよ。

映像の途中でみなさんがセットを作るシーンが印象的でした。プロムや学芸会的な演出はどこから出てきたのでしょうか?

LE:今回のプロジェクトのフォーカスは、通常のアルバム・リリースではなく、ライヴ映像にしたいと思っていたこと。このプロジェクトに収録されている曲は、アルバムのために書いた曲ではないんだよ。だからライヴ公演みたいな感じにしたかった。でもライヴ公演では、全てのテイクが最高なテイクになるとは限らない。だからなるべく最高なテイクを披露できるための環境を自分たちで作り上げた。つまり、公演を複数回おこなうということだ。でも、今後テレビなりYouTubeなりでこの映像を観た人が、これをワンテイクで撮ったのだと思って欲しくないな、と思った。ここは正直に、3日間の公演を通して撮られたものだと知ってもらいたかった。そこで毎晩違った格好をしようということになった。確か、アート・ディレクターのローズ(Rosalind Murray)が学芸会的なアイデアを思い付いたんだと思う。それか僕かタイラー。よく覚えてないけど、3人の誰かが思いついた。

LM:(爆笑)僕もそのときにいたよ。

LE:タイラーがイメージの絵を描いていて、ローズがアイデアを思いついて、みんなで脚本を書いたんだっけな? とにかくアート・ディレクターと一緒にこのアイデアを思いついたんだ。それに加えて、これをすごく楽しくて、馬鹿げていて、面白いヴィジュアル・プロジェクトにしようという思いがあった。そうすることで映像主体のリリースにすることができた。そして観客に対しても、一連の曲を聴くという体験よりも、映像を観るという体験を提供できるという、クリエイティヴで面白い手法になった。

LM:3公演やったのは、曲を上手に演奏する機会を3回設けるためだった。それに、よくあるライヴ映像は、複数のライヴ映像のうまい部分を編集して繋ぎ合わせて、見栄えを良くしているけれど、僕たちはそのやり方はしたくないと思った。だから学芸会的なアイデアが出る以前から、ひとつひとつの公演のヴィジュアルを独特なものにしようと話していたんだ。だから公演ごとにバンドとして統一感のある格好にしようと決めていた。その方が、どの公演の演奏なのかが明確になるからね。その考えが発展して、学芸会のアイデアへとつながったんだ。

青木:つまり、一晩ごとに同じ衣装を着て、次の夜の公演はまた別の衣装、という流れだったんですね。

LM:その通り。だから僕たちがひとつの衣装を着ているときは、その衣装でワンテイクしかしていないということなんだ。各曲はひとつの公演で一回ずつしかやっていないということだよ。

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僕たちが近い将来、新曲を披露しはじめたら、その曲はおそらく、『Bush Hall』に収録されている曲とほぼ同じ状態だと考えていいと思う。(マーク)

スタジオ・アルバムではなく、ライヴ・アルバムでのリリースになったのはどういう経緯があったのでしょうか?

LE:アイザックがバンドを脱退したとき、僕たちは「活動を休止するか、しないか」という究極の選択を迫られた。アイザックが抜ける前の時点で、BCNRにはライヴやフェスティヴァル出演をする機会がたくさん予定されていた。その機会を活かしてライヴなどに出演するのか、音楽以外の現実味のある仕事を見つけるかという話で、全員が前者を希望した。

LM:もちろんバンド活動を続けたいし、ライヴをやりたいという気持ちもあったよ!

LE:そこでフェスティヴァルで演奏できるようなライヴ・セットを3カ月間という短期間で書き上げたんだ。だから今回の曲は、アルバムを想定されて作られたものではなかった。各曲についても、他の曲を考慮しながら書かれたものでもなかった。「手持ちの曲がある人は、リハーサル室に持ち寄ってきて。いま、それをみんなで練習しよう! 締切があるんだ」──そういう感じだった。このプロジェクトの仕上がりに満足していないわけではないけれど、これはアルバムとしては適切ではないと感じていたんだ。アルバムとしてリリースするのはしっくりこなかった。だからこうやってライヴ・アルバムとしてリリースできたことは嬉しい。良いリリースの仕方だったと思う。今回の曲がライヴのために書かれたものだということが明確に伝わる作品になったと思う。

LM:僕も同感だ。

ブッシュ・ホールでのライヴは去年のフジロックで来日されたときよりもアレンジも変わりかなり演奏がまとまり、一種のBCNR第二章の総括のような印象を受けました。以前のインタヴューでは(チャーリー・ウェインが)発展途上だとおっしゃっていましたがいまはどう考えますか?

LM:以前、曲についてインタヴューされたときは、今後もっと変更していこうと考えていたんだと思う。僕たちは通常そうやって曲を発展させていくから。曲をライヴで演奏したら、その後にはリハーサル室に集まって、細かい修正をしながら、曲を改善していく。でも今回は、ライヴの回数が多すぎて、あまりそれをやることができなかったんだ。去年はすごく忙しくて、自由な時間があっても僕たちはみんな疲弊していたから、追加の作曲セッションはほとんどやらなかった。だから通常のBCNRの曲と比べて、今回のアルバムの曲はオリジナルに比較的忠実だと思う。

LE:でも今後6カ月くらいのうちに、『Bush Hall Live』アルバムの曲のどれかに嫌気が差して、書き直したいと思う時期が来ると思う。そのときには曲の修正をするよ。

LM:最終的にどの曲も書き直しが入るんじゃないかな。お客さんも『Bush Hall Live』の曲を気に入ってくれているし、今後僕たちが、ライヴ向けではない、アルバム向けの作曲をしていくに連れて、お客さんは『Bush Hall Live』の曲もアルバム・ヴァージョンを聴きたいと思うんじゃないかな。そのときに、僕たちの最新の音源に合うように、『Bush Hall Live』の曲を調整していくと思う。僕たちはいままでもそういうアプローチでやってきたんだ。それが気に入らない人も一部いるんだけどね。でもそれがベストなやり方だと思う。

LE:自分たちがいちばん納得できるやり方だよね。

演奏力もさることながら、楽器の数にしてはすごくタイトになってきて、すごいバランス感だと思います。全体の編曲はどなたかが担当されたのでしょうか? それともツアー中に研磨されていったのでしょうか。

LE:ツアー中に研磨していったものがほとんどだった。中には1、2曲どうしてもうまくいかない曲があって、数カ月間ライヴで演奏していたんだけど、毎回問題があったから、スタジオに入って微調整をおこなわなければならないものはあった。自分たちの満足がいくように修正する必要があったんだ。でもそれ以外の曲は全て、編曲などはせずに、時間をかけて研磨されていった。編曲する時間がなかったということもある。ルークが言ったように、僕たちは10月頃に1カ月のオフがあったんだけど、みんな完全に疲弊しきっていて、一緒に集まって作曲するのは無理だということになり、ただ一緒に集まって遊んでいた。だから編曲というよりは研磨されたということだね。

ブッシュ・ホールではオーディエンスも曲を知っている様子ですごく暖かい印象でした。“Up Song” なんかはすでにアンセム的な情緒があると思います。昨年のツアーを経て新生BCNRは世界のリスナーにすでに受け入れられていると思いますが、オーディエンスの反応はどう感じていますか?

LM:みんなにとっては嬉しい驚きだったみたいだね。僕たちも、みんなが新曲を気に入ってくれたことが驚きだった。新生BCNRの最初のツアーはUK でやったんだけど、小さな会場で新譜を披露した。最初のライヴはブライトンだった。BCNRのファンだけでなく、僕たちの友人たちでバンドをやっている奴らもこのライヴを観にきてくれて、みんなすごく良いと言ってくれた。僕たちと関わりのあるPR会社の人や、マネージャーや、バンドの近しい人たちで、まだ新曲を聴いていなかった人たちもライヴに来てくれて、みんな新曲を素晴らしいと言ってくれた。とても嬉しかったよ。幸先が良いと思った。それ以降、公式な音源がリリースされるまでの間、様々な映像や情報がYouTubeなどで公開されてきたけれど、ネガティヴな反応はほとんどなかった。とてもポジティヴで寛容的なものばかりだった。みんな僕たちのことを応援してくれてサポートしてくれた。本当に嬉しいことだよ。

LE:素晴らしいことだよね。お客さん全員が僕たちの曲を知っているという、ニッチなシーンに出くわすのが面白いよねという話をごく最近していたんだ。去年の夏にラトヴィアに行ったんだけど、僕たちのことを知っている人はあまりいないと思っていた。案の定、そのフェスティヴァルは5000人収容の場所だったけど僕たちのライヴには150人くらいしかお客さんがいなかった。その1週間後、僕たちはリトアニアでライヴをやったんだけど、そのときは僕たちを観ている観客が1000人くらいいたんだ! しかも曲の歌詞を知っている人ばかり。「ラトヴィアとリトアニアは隣国同士なのに、なぜこんなにも違うんだろう!?」と思ったよ。自分が一生行くことがないだろうと思っていた二カ国に行くことになって、そのうちの一カ国では僕たちことを知っている人が大勢いた。とても奇妙な体験だったよ。
 先週は香港に行ったんだけど、香港でもBCNRの曲の歌詞を知っている人がたくさんいた。すごく変な感じだよ。それに、僕たちの曲を知らない人でも僕たちのライヴに来て、僕たちを観にきてくれるということが嬉しい。観客の前から3列目くらいまでは、コアなファンで、未発表の曲もすでに全て知っているという人たち。大人数の観客の場合、3列目より後ろの人たちは、曲を知らないけれど、僕たちがバンドとして上手いと思っているからライヴを観ていて、そのフェスティヴァルで同じ時間帯にやっている他のバンドが観れなくても、僕たちを観る方がいいと思ってくれている人たち。そういう人たちがいるのを見ると感激するし、そう思ってくれる人たちがいるということに感謝しているよ。僕たちが作る音楽は良いものだと自分でも思っているけれど、お客さんがいまでも僕たちのことを好きでいてくれて、リスペクトして観にきてくれるということは嬉しいことだよ。

わかっている唯一のことは映画音楽をやりたいということ。僕はインタヴューされるごとに必ずこう言っているんだ。いつか僕の言葉が映画監督かプロデューサーに届いて「BCNRを起用したい」と言ってくれるかもしれないことを願ってね。だから日本で映画音楽が必要な人がいたら教えてくれよ。僕たちがやりたい!(エヴァンズ)

アルバムの中で特にお気に入りの曲は何ですか?

LM:お気に入りの曲はいくつかあって、理由もそれぞれ違うから答えるのは難しいけれど、1曲だけ選ぶとしたら “Turbines” かな。初めて聴いたときも「なんて素晴らしい曲なんだ」と思ったんだ。

LE:“Turbines” はおそらくいちばん良い曲だろうな。でも演奏するのがいちばん好きという曲ではないかもしれない。演奏していてすごく疲れるし。

LM:ストレスを感じるよな。僕が演奏していて楽しいのは “Dancers” の終盤。“Up Song (Reprise)” も演奏していてすごく楽しかった。満足感もあったし、美しいと思った。あまり演奏する機会はないんだけれどね。先日は “Up Song (Reprise)” のロング・ヴァージョンをやったよね。台北でヘッドライン公演をやったんだけど、そのときは前座がいなかったし、僕たちのセットはそもそも短めなんだ。セットも急ぎな感じで演奏してしまったよね。お客さんはみんな楽しんでくれていたけれど、セットが終わりに近づくに連れて「今日のライヴではあまり長い時間演奏していないよね」ということに自分たちで気づいて、僕とタイラーとルイスが “Up Song (Reprise)” の即興部分を指揮しながら長いヴァージョンにしていったんだ。結構良い感じになったよな?

LE:ああ、クールだったよ! あとこれはセットの中でも良い曲に入る感じでは到底ないんだけど、“The Wrong Trousers” の後半部分を歌うのはめちゃくちゃ好きなんだ。

LM:タイラーと歌い合うところだろ? あれはストレスを感じないもんな。

LE:そうそう。僕は自分の歌う感じがクールだと思っていないけど、そのことを十分自覚した上であの後半部分を歌っているんだ。キーが変わる陳腐な感じも好きだし、タイラーと僕がお互いに問いかけ合うようにして歌っている感じや、僕とタイラーが一緒にやるダンスなどが気に入ってるんだ。自分が「Turn around(=振り向く)」という歌詞を歌うところでは実際に振り向いたりして、すごくダサい瞬間なんだけど、やっていてすごく楽しいんだ。

もし現在のBCNRを定義するとしたらどういうジャンルになると思いますか?

LE:オルタナ・フォーク・ロックかな?

LM:なんだろう? むずかしいな。

LE:ポスト・パンク以外ならなんでもいいや。

LM:ハハハ!

ブッシュ・ホールで演奏されている曲はメンバーが持ち寄って作られたと伺いました。今後スタジオ・アルバムを作るとして、作曲プロセスは変わらないのでしょうか?

LM:おそらく変わらないだろうね。僕たちはほぼずっとそうやって作曲をしてきたからね。次のスタジオ・アルバムがあると仮定したら、今回のライヴ・アルバムとの違いは、曲を研磨するプロセスが長くなるということだろう。曲がレコーディングされる前に、より多くの段階を経て、変化させていくだろう。僕たちが近い将来、新曲を披露しはじめたら、その曲はおそらく、『Bush Hall』に収録されている曲とほぼ同じ状態だと考えていいと思う。その新曲がレコーディングされるまでには多くの段階を経て、より洗練されていくだろう。でも僕たちはいまでも、メンバーが曲の骨格を持ち寄って、それにみんなで一緒に肉付けしていくというプロセスを多くの場合取っているよ。

最終日のプロム公演の準備では〈Ninja Tune〉のスタッフが総動員でセット制作の手伝いをしてくれて、風船を膨らませてくれたんだ。〈Ninja Tune〉のCEOでさえも!(エヴァンズ)

今後、BC,NRはどのような方向性を目指すと考えられますか?

LE:どうだろうね。わかっている唯一のことは映画音楽をやりたいということ。僕はインタヴューされるごとに必ずこう言っているんだ。いつか僕の言葉が映画監督かプロデューサーに届いて「BCNRを起用したい」と言ってくれるかもしれないことを願ってね。だから日本で映画音楽が必要な人がいたら教えてくれよ。僕たちがやりたい!

LM:しかも日本に行って音楽制作をするよ。

LE:そう、日本でやりますよ! バンドのみんなと将来どんなことをやりたいかと話すとき、具体的な話になるのは映画音楽をやりたいということだけなんだ。僕たちはバンド活動においては、毎日を1日ずつ生きている。バンドのみんなと一緒に音楽を作っているときは楽しいし、今後も一緒に音楽を作っていきたいと思っているよ。でもこの先、具体的にどうやって音楽を作っていくのかなどはあまり話さないんだ。いままでもそこまで計画的にやってこなかったけれど、うまく行っているし、ミュージシャンとしては、1日を大切に生きてその瞬間を楽しむということが大事だと思うんだ。

昨年はかなり長いツアーをされていましたが、フェスティヴァルなどで共演されたバンドの中で印象深いバンドはいましたか?

LE&LM:ギース(Geese)!

LE:彼らはクソ最高! めちゃ良い!

LM:実際にバンドの奴らと会うこともできたんだ。良い奴らだったよ。

LE:パリのフェスティヴァルはなんて言ったっけ? La Route du Rockだったよね。フランス北部のフェスティヴァルだったかも。そこで彼らを観たんだ。

LM:La Route du Rockだ。ギースの音楽は前にも聴いたことがあって、確か〈Speedy Wunderground〉のダン・キャリーがミックスを手がけたアルバムを出している。だからバンドのことは知っていたんだけど音楽はちゃんと聴いたことがなかった。でもそのフェスティヴァルで彼らのライヴ・セットを観ることができた。僕はルイスと一緒にいて、チャーリーとタイラーとメイはどこか他のところにいた。バンドのみんながギースを観ているとは知らずに、偶然彼らのライヴの後に他のメンバーと遭遇したんだよ。「すごく良かったよな!」ってみんなで話していた。ライヴの後にギースのメンバーと話す機会があって、彼らは今度リリースするセカンド・アルバムについて、BCNRのファーストからセカンド・アルバムへの移行と似ている感じだと教えてくれた。僕たちもファースト・アルバムをリリースした後は、いままでとは違う方向性に行きたいと思って、ワクワクしながらセカンド・アルバムの制作をした。彼らのセカンドもそんな感じになるらしいよ。セカンド・アルバムからのファースト・シングルはすでに公開されていて、すごく良い感じだよ! だからあのライヴでは彼らの新曲を聴くことができた。最高だったよ。

LE:あとは誰を観たかなあ。

LM:ボニー・ライト・ホースマンも良かった。

LE:ボニー・ライト・ホースマン!

LM:ボニー・ライト・ホースマンはトラディショナルなフォーク音楽をやるバンドで、イギリスのフォーク音楽を主にやっていると思うんだけど、カントリー調に演奏するんだ。カントリー・バンドのセットアップで、フェンダーのテレキャスター・エレクトリック・ギターを使ったりしている。バンド・メンバーたちはステージで、お互いに近い場所、1メートルくらいの距離で立って演奏していた。すごくタイトな演奏でメンバー全員が歌っていて、合唱していた。

LE:素晴らしいミュージシャンシップだったよ。確か僕たちと彼らは3つのフェスティヴァルに連続で共演したんだ。ヨーロッパ北部のフェスティヴァルが3件くらい連続でブッキングされていたんだよ。ドイツ北部とスカンジナビアの辺り。それで、その後、彼らとスイスのクラブに一緒に行ったんだよ。

LM:そのことをすっかり忘れていた!

LE:あれはすごく楽しかった。最高だったよ。

LM:僕はボニー・ライト・ホースマンのことを知らなかったんだけど、フェスティヴァルでは彼らの後にBCNRが演奏する予定だったから彼らの演奏中にステージの脇で機材のセットアップをしていたんだ。ステージ脇から彼らのセットをずっと観ていたよ。すごく感動したね。その後にも彼らと共演する機会があったんだけど、最初に彼らのライヴを観たときは素晴らしくて驚いたよ。

LE:あとは、Primaveraでゴリラズを観たときは興奮したね。最高だった。子どもの頃の思い出が一気に蘇った瞬間だったよ。

去年のアンソニー・ファンタノー(Anthony Fantano:アメリカのユーチューバー、音楽評論家)のインタヴューで〈Ninja Tune〉との契約について話されていたことが面白かったので、ぜひ日本のメディアでも紹介したいです。〈Matador〉や〈Sub Pop〉など伝統的なインディ・ロック・レーベルではなく〈Ninja Tune〉との契約を決めた経緯について教えてください。

LM:ミスター・スクラフをリリースしたレーベルということしか知らなかった。それはクールだと思ったけどね。〈Matador〉にも「〈Ninja Tune〉には期待しない方がいい」と言われていた。

LE:ダンス・ミュージックのレーベルだからという理由でね。

LM:そう、だから何の期待もしていなかった。しかもレーベルの所在地がサウス・ロンドンの少し怪しいところにあった。そしてオフィスの上に通されて、イギリス支店のトップだったと思う、エイドリアンに紹介された。彼の役職は定かではないんだけど、A&Rもやっていると思う。とにかくすごくいい人だった。エイドリアンは僕たちを座らせて、「これが変わった状況だというのはわかっている。我々は、君たちのようなバンドと契約するようなレーベルではない。でも逆になぜそれが良いことなのか説明するよ」と言っていろいろと説明してくれた。〈Ninja Tune〉は僕たちが公開した音楽が好きで、レーベルの人もBCNRという音楽をリリースすることにワクワクしているし、BCNRというプロジェクトに一緒に関わっていきたいと思っているということ。僕たちがいままでやってきた音楽や、僕たちの美的感覚を全て尊敬しているし、僕たちに今後もリリースに関する指揮を取ってほしいと。それはまさしく僕たちが望んでいたことだった。〈Ninja Tune〉には僕たちみたいなアーティストがいなかったから、そういう意味で僕たちはリリースのタイミングを自由に決めてよいということだった。似たようなバンドのリリースとかぶることがないからね。異例の選択をするということは僕たちにとっても有利になるということを説明してくれた。
 彼の説明はもっともだったけれど、いちばんの決め手はレーベルの人たちが僕たちのプロジェクトに熱意を感じていたことと、レーベルの人たちがいい感じだったから。そして僕たちが作り上げたものをベースに一緒に仕事をしていきたいと思ってくれていたから。当時はいまよりも、自分たちの音楽と、その表現方法だけで評価されたいと僕たちは強く思っていた。だからプレス写真も公開していなかったし、自分たちが作った音楽やカヴァーした音楽だけを公表していた。〈Ninja Tune〉はその考えに共感してくれたんだよ。それで僕たちもその場で説得された。〈Ninja Tune〉のオフィスを後にして、僕たちみんなはしばらくの間黙っていた。みんなが同じ気持ちかどうか気になったから。そしてすぐにみんなで「このレーベルが一番だね!」と道端で話し合ったよ。「〈Ninja Tune〉が最高だから彼らと契約しようぜ!」と話していた。そして結果的に僕たちは正しい選択をしたということが証明された。〈Ninja Tune〉は、活動をサポートしてくれる一方で、僕たちの好きなようにやらせてくれる。最もわかりやすい例がこの映像プロジェクトだよ。これはかなり実現が難しいものだった。事前の綿密な計画も必要だったし、費用もかさんだ。〈Ninja Tune〉にとってはキツかったと思うよ(笑)。でも全て僕たちのためにやってくれたんだ。

LE:これは映像には含まれていないけれど、最終日のプロム公演の準備では〈Ninja Tune〉のスタッフが総動員でセット制作の手伝いをしてくれて、風船を膨らませてくれたんだ。〈Ninja Tune〉のCEOでさえも! 僕たちのプロジェクト・マネージャーも細かい準備作業を全て手伝ってくれた。みんなすごく親切なんだよ。

LM:みんな本当に風船を膨らませていたんだよ。最高だった。彼らは僕たちを信頼しているし、僕たちも彼らを信頼している。少なくともいまのところは……(笑)

ありがとうございました。最後に日本に来る前に日本のファンに何か一言ありますか?

LE:日本に行くのがすごく楽しみだよ! 名古屋と大阪公演のチケットをたくさん買ってねー(笑)! とにかく、本当に日本に行くのが待てないよ。自分がいままで行った国の中で、いちばん最高な国だったと思うから、早くまた行きたい。すごくワクワクしてるよ!

LM:素晴らしい国だよね。日本で僕たちを見かけたときに、僕たちが興奮してはしゃいでいるように見えたら、それは興奮しているフリをしてるわけじゃなくて、本当に興奮してるってことだからね。日本のファンに会えるのも楽しみにしてる。みんなすごく良い人たちだったからね。

LE:ああ! 特に大阪と名古屋ではたくさんのファンに会えたらいいなって思ってるよ! みんなのお父さんもお母さんもライヴに連れてきてー!

青木:4月は前回の(フジロック)のように暑くないし、気候も最適だと思いますよ。

LM:それは僕とルイスにとってはありがたい。僕たちは暑さが苦手なんだ。いまいるタイも暑すぎるよ。

青木:ルイスさん、マークさん、今日はお時間をありがとうございました!

LE&LM:東京で会えるね。

青木:はい、もちろんです。タイとインドネシア・ツアーを楽しんでくださいね。東京でお会いしましょう!

LE&LM:ありがとう! またねー!

interview with Shuhei Kato (SADFRANK) - ele-king

 成功したバンドのフロントマンがソロでレコードを作るとき、あるいはパンクを出自にするミュージシャンがその表現を深化させ変化させていくとき、どのような道筋が考えられるのか。そんな正解のない難題に対して、NOT WONKの加藤修平は、エルヴィス・コステロやポール・ウェラーの例を引きながら答えてくれた。加藤によるソロ・プロジェクト、SADFRANKのファースト・アルバム『gel』は、2023年におけるその回答として差し出されている。

 それにしても、SADFRANKの音楽やここでの加藤の表現は、NOT WONKのそれとはまったく異なっている。いま日本で最も忙しいドラマーの石若駿、ゆうらん船などで活躍するベーシストの本村拓磨、そして映画音楽からファッション・ショー、舞台芸術、インスタレーションなどの領域を横断する音楽家の香田悠真の3人を中心にしたバンドの演奏も、印象的なストリングスのアレンジメントもそうだし、なにより加藤は日本語で歌っている。それでも、NOT WONKがこの数年で遂げてきた変化を踏まえると、突飛なものには思えない自然さと説得力がここにはあって、それはNOT WONKのリスナーをけっして拒絶するようなものではなく、むしろ迎え入れる懐の深さと両者の表現を結びつける確信が感じられる。そして加藤は、SADFRANKとNOT WONKとでやっていることはまったく同じだ、とまで言い切ってみせる。

 くるりの岸田繁からthe hatchの宮崎良研、松丸契、んoonのYuko Uesu、NABOWAの山本啓まで、新旧の仲間たちがひとつの点に合流した『gel』は、加藤が新しい海に飛び込んだよろこびが詰められたみずみずしい果実のようでいて、「目の前にどかっと座って歌っている」ような親密な作品でもある。この豊穣な音楽は、どのようにして生まれたのか。加藤にじっくり聞いた。

日本語で歌いてえな、というザックリした欲求があって(笑)。ただ、日本語で歌詞を書いたことは一回もなかったので、どうしたらいいかわからなかったんです。

SADFRANKというプロジェクトのはじまりはいつなのでしょう? 2020年10月11日にリリースしたエディット・ピアフの “愛の讃歌” のカヴァー “Hymn To Love (Hymne à l'amour CM Version)” ですか?

加藤:その前からSADFRANKという名前で、ひとりでライヴをしたことは何度かあったんです。苫小牧でのライヴだったり、jan and naomiが札幌に来たときのサポート・アクトだったり。カヴァーや、ギターを即興で弾くパフォーマンスを僕ひとりでやるときの名前でしたね。それでLevi’sの広告の音楽を担当することになって、“Hymn To Love” をカヴァーしたんです。でもじつは、石若くんや悠真くんと最初にレコーディングしたのはそれより少し前ですね。

ドラムに石若駿くん、キーボードに香田悠真さん、ベースに本村拓磨さん、というのが今回の「コアメンバー」とされています。そのメンバーでセッションをはじめたきっかけは?

加藤:日本語で歌いてえな、というザックリした欲求があって(笑)。ただ、日本語で歌詞を書いたことは一回もなかったので、どうしたらいいかわからなかったんです。それを形にしようと思ったときにパッと思い浮かんだ人たちに声をかけた、というシンプルな流れでした。

NOT WONKで日本語詞を歌うことは考えなかったのでしょうか?

加藤:言われてみたら、NOT WONKでやるイメージは、そのタイミングではまったくなかったですね。そんなわけねえなと。NOT WONKは僕だけのバンドじゃなくて、他のふたり──フジとアキムありきで3人でやっているバンド、というのがまずあって、年々、その気持ちが高まっているんですね。「日本語で歌ってみたい、日本語で表現したい」という気持ちは、もっと私的でプライヴェートな気持ちだという気がしているんです。それをバンドで消化することに、そのときは違和感があって。

石若くん、香田さん、本村さんとの共演経験はあったんですか?

加藤:本村くんはもともとGateballersというバンドをやっていて、その頃から好きで演奏を見ていました。共演したときにちょっと話す程度でしたね。石若くんと悠真くんとは面識がなくて、石若くんは演奏が好きだったから自分からメールしたんです。悠真くんは、当初一緒に制作する予定だったエンジニアの葛西敏彦さんの紹介で知りました。ピアノを弾ける人や自分のやりたいことを音楽的に汲み取ってくれるような人が僕の周囲のバンドマンでは思い浮かばなくて、スタジオ・ミュージシャンに頼むのも違和感があったので、葛西さんに相談したんです。葛西さんの推薦で初めて悠真くんの作品を聴いて、「もう、この人だろう」って感じて。

「僕がUKジャズのつもりで書いた曲を石若駿が叩いたらどうなるんだろう?」という興味がめっちゃあって。

『gel』を聴いていると、石若くんや本村さんはもちろんですが、香田さんの役割は大きいのだろうなと感じました。

加藤:ハーモニー担当みたいな感じで関わってくれたんです。悠真くんはアカデミックな道を通ってきてはいるけれど、音楽に対する姿勢は僕とかなり通じるところがあって。僕は和声の理論とかはまったく勉強してこなかったので、そこをふたりで話し合ってアレンジメントや曲のカラーのつけ方を決めていきました。ストリングス・アレンジを岸田さんにやってもらった曲が一曲ありますが(“I Warned You”)、それ以外の楽器のアレンジは悠真くんとふたりで詰めていったんです。僕がいままで「理由や根拠はないけど、これがいいと思う」と感覚的にやっていたことを、悠真くんに根拠づけしてもらいました。悠真くんは、メンター的な感じでいてくれましたね。やっぱピアニストというか、楽譜を書く人にしかわからない音の見え方があるんだなって、彼の仕事を横で見ていて思いました。

“肌色” や “最後”、“the battler” では、加藤さんがピアノを弾いていますよね。ピアノはもともと弾いていたんですか?

加藤:幼稚園や小学校の頃、教室に通ったことはありましたが、教則本がつまらなくてやめて(笑)。なので、ぜんぜん弾けないんです。SADFRANKをはじめたいと思ったとき、「ピアノを弾けるようになったらいいな」くらいの気持ちで鍵盤を買って、白鍵に「ドレミファソラシド」とマジックで書いて練習をはじめました。ギターを持ちながら和音を探す作業を3年くらい続けましたね。ギターとピアノはそもそも構造的にちがうから、別の考え方をしないといけないんだなって。

このアルバムの曲は、ピアノで書いているんですか?

加藤:ギターで作った曲は3曲目(“I Warned You”)と4曲目(“per se”)くらいですね。そもそも「ギターと距離を取りたい」みたいなことが今回、裏テーマ的にあったんです。それは「ギターが嫌だ」とか、そういうことじゃなくて。自分自身のキャラクターとして「NOT WONKでギターを弾いて歌っている」というのがあるので、「自分の音楽の表現ってそれだけでいいのかな?」と疑問があったんです。なので、普段使っている方法を手放すとか、あるいは「歌わない」とか、そういうことは自分から離れる手段として選んだって感じですね。

個人の表現をするにあたって得意なことを全面化せず、そこから離れて新しいところを開拓した、というのはおもしろいですね。

加藤:そもそも自分は何が得意なのかとか、たいしてわかっていないのかもしれなくて。得意なことを活かそうとすると、楽なことを選択しがちじゃないですか。でも、必ずしも得意なことが楽なこととは限らない。それに、ピアノを弾いてみたら、そっちのハーモニーのほうが好きだった、ということも多かったので。「加藤くんは声がいい」とか「NOT WONKはギターがデカくてかっこいい」とか、他人の印象やイメージを自分で自分に貼り付けちゃうのは危険だな、とも思っているんです。自分を定義しないでやっていくほうが、自分を殺さないで済むかなって。

アルバムの制作に関しては、Bigfish Soundsの柏井日向さんが録音とミキシングを担当していますね。

加藤:NOT WONKの『Down the Valley』を一緒に作ったのも、柏井さんからの「俺にやらせて」という提案がきっかけだったんです。次の『dimen』はイリシット・ツボイさんと主にやったんですけど、一曲(“slow burning”)は柏井さんにミックスしてもらいました。柏井さんは以前から「何かやれることがあったら言ってね」と言ってくださっていたので、その言葉にありがたく甘えさせてもらった感じですね。

サウンド面の印象や音楽的なトライは、NOT WONKとはだいぶちがっていますよね。パンクやロックからかなり離れていますし、ジャズなどの要素が入っています。

加藤:もともと、「これはNOT WONKではできないな」と感じる曲はいっぱいあったんです。でも、「これは3人でやるおもしろさがあるだろう」っていう曲にトライしていくのがNOT WONKの基本理念でもあって。それでもあぶれちゃったものは、ひとりでも活動するようになってからは「SADFRANKでやったほうがいいだろう」と判断したり。あと、メンバーが固まってからは彼らに当て書きした曲もあって、いろいろですね。NOT WONKと差をつけようという気持ちはなくて、アレンジ次第でどっちでもできると思っています。基本的には一緒ですね。

現在のUKジャズやコンテンポラリー・ジャズとの繋がりを感じる曲がありますよね。5曲目の“瓊 (nice things floating)”は石若くんのビートを編集したものだそうですが、マカヤ・マクレイヴンジェフ・パーカーの姿勢に通じるところがあります。

加藤:そうですね。僕、ドラマーがめっちゃ好きなんです。石若くんのプレイって、本人は意識していないでしょうけど、そのへんのドラマーと比べたら圧倒的に勝っちゃうじゃないですか。完全に確立されていて、ああだこうだ言う必要がない。そういうことを考えていたので、「僕がUKジャズのつもりで書いた曲を石若駿が叩いたらどうなるんだろう?」という興味がめっちゃあって。“offshore” は、そういう意図で書いた曲ですね。“瓊” は、そもそも全然ちがう拍子の曲をレコーディングしていて、途中で飽きちゃったので、ちがう曲にしようと思って作った曲です。石若くんのドラムをチョップしたり、キックに音色がついているからキックの音をキーにしたりして作っています。この2曲は、石若駿ありきで作った感じですね。

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ボサノヴァって当時のことを考えると、めっちゃパンクじゃないですか?

先ほどドラマーが好きだとおっしゃっていましたが、どんなドラマーが好きなんですか?

加藤:2018年頃にユセフ・デイズにハマって、ゴスペル・チョップス系のドラマーをインスタとかで超見ていたんです。ジャズ・ドラマーじゃなくても「スネアがめっちゃいい感じにポケットに入ってくる」みたいな人とか、無名でもいいドラマーがいっぱいいるんですよ。それを「この感じさ〜」とか言って、NOT WONKのメンバーに聴かせて曲を作ることもしていました。

SADFRANKには、ユセフ・デイズがやっていたユセフ・カマールのフィーリングを感じました。

加藤:あ〜。ジャズをダンス・ミュージックとして捉えたときの揺らぎ、みたいな……。シャッフル(・ビート)って、そもそも揺らぎじゃないですか。それを、キックを4つにしたり硬くドラムを叩いて人間味を殺したり、そのバランスをうまいことやれる人が好きで。ユセフ・デイズも「最初からサンプリングされたドラム」みたいな感じで叩ける人ですし、そういうフィールがある人が好きですね。ハイエイタス・カイヨーテのドラマー(ペリン・モス)も好きで、ソロ作もいいですよね。

もうひとつ音楽的な面では、『gel』ではストリングスが重要な役割を果たしていますよね。

加藤:ストリングスは、けっこう必然性を感じましたね。(エルヴィス・)コステロがもともとめちゃくちゃ好きで、バート・バカラックと一緒に作ったアルバム(『Painted from Memory』)がすごく好きなんです。ファースト・アルバムから考えたら、彼って信じられないような音楽的な変遷をたどっていますよね。たとえば、ポール・ウェラーがスタイル・カウンシルをやったのもいい例だと思うんですけど。でも、日本の音楽で考えると、売れたロック・バンドのヴォーカルのやつがソロ活動をはじめたら大層なストリングス・アレンジが入っていて台無しになっている、みたいな歴史ってあるじゃないですか。ストリングスってそういう感じでしか使われてこなくて、しかもクラシックの人がJポップを大味に捉えたものが多いので、よかった試しがあんまりないなと思って。でも、コステロとバカラックのアルバムではすごくうまいことやっていて、ちゃんとかっこよくなっているよなって。それで、自分もトライしてみたくなったんです。

なるほど。

加藤:“I Warned You” は、わりと最初のほうに作っていた曲ですね。くるりの岸田さんが「NOT WONK、いいね」と言ってくれて、ライヴに招待してくださったことがあって、札幌のライヴを見に行ったあと、音博(京都音楽博覧会)にも遊びに行って、打ち上げの席で岸田さんとふたりで話す機会があったんですよ。それで「SADFRANKっていうのをはじめるんです」と話したら、「ストリングスのアレンジ、俺やるで!」と言ってくださったので、「じゃあ、お願いします!」と頼んだんです。アレンジメントをする人と作曲者が分かれているっていうのはやってみたかったことでもあったので、このアルバムはわりとストリングスありきで最初からイメージしていました。

ロック・バンドをやっていたやつが急にソロをはじめたと思ったら、バンドではやっていなかった私的なことや優しい音楽に手を出したり、ちょっと色気を出してみたり──そういうのは、いままで繰り返されてきた失敗の歴史だろって僕は感じていて。絶対にそういうことをやりたくなかった。

徳澤青弦さんのカルテットによる演奏もあって、Jポップ的なベタッとしたストリングスとはちがうスリリングで豊穣なものになっていますね。

加藤:そうですね。“Quai” は悠真くんのストリングス・アレンジで、“per se” は基本的に僕がアレンジしました。“per se” のストリングスはNABOWAの山本(啓)さんが入れてくださったんですけど、遠隔で録音していて「思いついたから入れてみたよ」と弾いてくださったのがすごくよかったから、そのまま使っているパートもあります。弦が入っているとはいえ、3曲ともアレンジした人はちがうんですよね。

一方で “最後” にはフィールド・レコーディングやオブジェクト音、ノイズが入っていて、それがかなりおもしろいです。これは、yoneyuさんが入れたものなのでしょうか?

加藤:基本的には僕が全部やっていて、エディットも僕がやっています。yoneyuは札幌のDJなんですけど、ほとんどすべてのアレンジが終わった段階でyoneyuに聴かせて、「この2ミックスに対して、yoneyuのプレイを録ってみて」と投げて、戻してもらったのを僕が再エディットしました。

非楽音を入れる発想は、どこから出てきたんですか?

加藤:“最後” は、曲自体はけっこう前からあって、弾き語りでやったりしていたんですけど、レコーディング自体は制作の終盤にやったんですね。だんだんPro Toolsで普通に録ることに飽きてきて、「せっかくみんなで集まっているのに、デモどおりに演奏するのっておもしろくねえな」と思って。それで一発録りすることにして、歌も演奏も「せーの」で録ったテイクを使ったんです。音楽を作るうえで絶対的なパワーを持っている権威的なもの──小節とかグリッドとかトニックとかキーとか、そういうものから離れたい気持ちがあったんですね。だから、自然とメロディがついてない音が入ってきたり、メロディがついているものとついていないものを並列に扱ったり、そのこと自体が自分にとってわりと大事でした。

自分が何かを受け取ったときの気持ちを再現するためには、必ずしもそれとまったく同じものを作る必要がないと思っているんです。何かを再現することと、何かを写実的に綺麗にデッサンするっていうことは、まったくちがうことだと思っているので。

では今回、ギタリストとしてはどうでしたか? プレイや音色は、ピューマ・ブルーのトーンに近いものを感じました。

加藤:ジャズについてはもう門外漢どころの話じゃないくらい何もわからないし、あまりにも「ジャズ、ジャズ」って言われるのも嫌だな、みたいな感じもありつつ。ただ、録音物としてのロック・バンドの音源があんまりおもしろく感じなくなってきている事実も、自分の中にあるんです。それは、おおよそギターのせいだなって(笑)。というのも、いいギターが録音されている音源って、ギターがはっきり聞こえるんだけど、レンジを食っていないぶん、他の楽器にパワーを割けている側面があるんですね。ビッグ・シーフの新作(『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』)なんかもそうで、アコギも入ってるけど、エレキの音色がじつはピューマ・ブルーの質感に近かったりするんです。そういう音の鳴らし方、エレキ・ギターの置き方、音のスペースの作り方を意識したので、ギターがミッド・レンジをガッツリ食っちゃって他の楽器の音の置き場がなくなる、みたいにはしたくなかったんですね。そういうサウンド・デザインのイメージが、先立ってありました。ギターの録音っておおよそいちばん最後なので、自分で作ったスポットにハマるようにギターを弾いていったっていう感じですね。

あくまでも他の楽器のほうが主役、ということですか?

加藤:う〜ん。とはいえ、最終的にギターが入ってくるよろこびって、かなりデカいんですよ(笑)。だから、重要度ではもしかしたら他の楽器のほうが単純にレヴェルの面で勝っている部分はあるんですけど、画竜点睛として最後に僕のギターを入れておしまい、みたいなところはある。だから、欠かせないパーツではありながらも、あからさまに目立っていたり、大きなレヴェルで入っていたりすることはない。でも今回、ギターは絶対に必要だったと思います。

“per se” は異色な曲で、ボサノヴァがベースになっているじゃないですか。ブラジル音楽は、加藤さんの音楽的なヴォキャブラリーとして持っていたものなんですか?

加藤:なんとなく好きで聴いている音楽がブラジルの音楽だった、みたいなことがけっこうあったんですね。ケイトラナダがガル・コスタをサンプリングしている曲(“Lite Spots”)があるじゃないですか。それで「これがガル・コスタか」と思って聴きはじめたら、かっこよくてハマっちゃったんです。最初は、そういう「どこをサンプリングできるか」みたいな感じで聴いていたかもしれません。でも、シンプルにどんどんハマっていって、ジョアン・ジルベルトやカエターノ・ヴェローゾを聴いたりして。あと、バッドバッドノットグッドのアルバム(『Talk Memory』)にアルトゥール・ヴェロカイが参加していて、そのへんを聴いたのも自然な流れでしたね。それに、ボサノヴァって当時のことを考えると、めっちゃパンクじゃないですか?

当時、既存の音楽に対する「新しい潮流(ボサノヴァ)」だったわけですからね。

加藤:あの軽快さとか優しさとか室内楽的に聞こえる感じとかって、何かに抑えつけられていたからこそのものじゃないですか。それで、小さい音しか出ないガット・ギターと小さい音のドラム、小さい声の歌にみんなが耳を傾けているっていう。そういう音楽の強さみたいなものをめっちゃ感じていて、それを自分でやってみたかったんです。

リリックについてはいかがですか? かなり抽象的に感じましたが、NOT WONKよりも生活感やパーソナルな感覚があると思いました。ラヴ・ソングも印象的で、優しさが通底しているように感じます。

加藤:日本語詞を書いたことがなかったので、どういう詞を書きたいとか、どういう歌を歌いたいとかって、最初はあんまりイメージがなかったんです。でも、“肌色” や “Quai” を作っていたとき、日本語の歌詞とメロディが一緒に出てくることがあって。「この言葉の意味は一体なんなんだろう?」って、出てきたものをあとから考えていきました。嫌な言葉や歌いたくない言葉は、自分から出てこないはずじゃないですか。だから、「なんでこの言葉をいいと思えているんだろう?」と理由を探っていって、「この言葉がいまの自分の考えや気持ちを表現するにあたっていちばん適切な言葉だと思える」という確信をもって歌ったので、個人的にはめちゃくちゃ具体的な歌詞が並んでいると思っています。それが、今回のアルバムの肝でもあるんですよね。ある人が聴いたときに抽象的に思えても、それがすべての人にとって抽象的かどうかは別の話じゃないですか。「ストレートに感じられる」とされる歌詞の意味がわからないっていうことが、むしろ僕はあったりするんです。「メッセージを額面どおりに捉えていいのか、これは?」と思うようなことがあって、言葉とその意味や内容が必ずしもイコールにはならない気がするんです。とはいえ、表現なので、僕が何を伝えたかったかという以上に、聴いた人が受け取った意味のほうが正解だと思う。ただ、僕はこの言葉がいいと思ったし、歌詞を書いたタイミングで思ったことを如実に表すためにはこの言葉が必要だったと感じますね。

当時の感情やその時々の出来事が直接反映されているのでしょうか?

加藤:そうかもしれないですね。でも、内省的なものでもないし、独り言を書いているつもりもなくて。言いたいこと、歌いたいことは、NOT WONKと変わらないかもしれないですね。

「NOT WONKもSADFRANKも元のハートが一緒」(https://twitter.com/sadbuttokay/status/1602985525174218752?s=20)とツイートしていましたよね。

加藤:それは、ありがちな話になったら嫌だなっていうのがあって。ストリングスの話にも似ていますが、ロック・バンドをやっていたやつが急にソロをはじめたと思ったら、バンドではやっていなかった私的なことや優しい音楽に手を出したり、ちょっと色気を出してみたり──そういうのは、いままで繰り返されてきた失敗の歴史だろって僕は感じていて。絶対にそういうことをやりたくなかった、っていうのが先立ってあったんです。NOT WONKでやりたいことのひとつに、自分が最初にパンクを好きになった瞬間の気持ちを再現する、みたいなのがあるんです。それは、過去の音楽を再現するとか、「70sの感じを出したいからギターをこういうふうに歪ませる」とか、そういう話じゃなくて。自分が何かを受け取ったときの気持ちを再現するためには、必ずしもそれとまったく同じものを作る必要がないと思っているんです。何かを再現することと何かを写実的に綺麗にデッサンするっていうことは、まったくちがうことだと思っているので。そういう意味では、今回のSADFRANKのアルバムもNOT WONKの作品と同じなんですね。最初にパンクのライヴを見に行ったときの感覚とか、メガ・シティ・フォーの歌詞の意味を調べていたら「これはまちがいなく俺のために歌っている」って確信したときの気持ちとか──そういうことを再現しようと思ったときに僕がいま使いたかったのが、ストリングスだったり日本語詞だったり歌のない曲だったりピアノだったりしたっていう。だから、NOT WONKのファースト・アルバムで表現していることや、NOT WONKの普段のライヴでギターを爆音で鳴らしていることと、ピアノを優しく弾いて歌うことは、本来の意味では同じなんです。まったく同じことをやっていると思いますね。

いままではミックスで「ギターより下にしてください」なんて言っていたんですけど、今回は「歌っているやつの顔をデカくしてください」というオーダーをしたんです。相手の胸ぐらをつかんでいる感じが出ましたね。

なるほど。では、日本語詞を書くにあたって、何か参考にしたものはありますか?

加藤:それこそele-kingの取材で野田(努)さんにインタヴューしていただいたときに(『ele-king vol.24』)、「加藤くんって好きな日本語の歌詞あるの?」と聞かれたんですけど、答えられなくて(笑)。もちろん、日本語で歌われている曲で好きな曲はいっぱいあるんですよ。当時の所属レーベルだった〈KiliKiliVilla〉の与田(太郎)さんにも「(bloodthirsty)butchersとか札幌のバンドのKIWIROLLとか、なんかあるでしょ」って言われたんですけど、聞かれたときにパッと出てこなかった理由も自分にはそれなりにあるはずだなと思って。なので、butchersやKIWIROLL、あとGEZAN踊って(ばかりの国)もカネコアヤノも中島みゆきも歌詞は大好きだけど、参考にするというより、とにかく彼らと似ないようにしようって気にしていましたね。

日本語詞で歌うことで、宛先が変わった印象はありますか?

加藤:鋭くなった感じはしますね。「お前に言ってます」って感じがある(笑)。NOT WONKの歌詞はもうちょっとレンジが広いような気がするけど、日本語詞は「これで伝わらなかったら嘘だな」という感じがするので。目の前にどかっと座って歌っているような感じがあるんです。

SADFRANKの歌詞は、言葉が生々しいですよね。すっと切り出されものが、そのまま差し出されている感じで。

加藤:自分は意外にそういう人間なんだなって思いましたね。大事なことから話していく、みたいな。せっかちなのかもしれない(笑)。

その意味では、SADFRANKはリスナーにより近くて、加藤さんというひとりの人間の姿が強く表れている感じがします。

加藤:このアルバム、ヴォーカルがデカいじゃないですか。デカくしたいなって思ったんですよ。いままではミックスで「ギターより下にしてください」なんて言っていたんですけど、今回は「歌っているやつの顔をデカくしてください」というオーダーをしたんです。相手の胸ぐらをつかんでいる感じが出ましたね。

ヴォーカリゼーションの面でもストレートに朗々と歌っているシーンが多くて、それが歌の大きさと近さに寄与していると思いました。

加藤:そもそも、これまでと全然ちがうメロディが出てきたんです。それは、たぶん言葉に引っ張られたんだろうなって。いままでNOT WONKでは絶対にできなかったメロディが急に歌えたりとか、ナシにしてきたことがアリになったりとか、そういう裏返しが起こったので、自分は意外に奥深いんだなって思いましたね(笑)。

今後もSADFRANKとしての活動は継続していくんですか?

加藤:まだやりたいことが結構ありますね。NOT WONKでも同じくらいやりたいことがありますし。いままで12年間、苫小牧で、ライヴハウスで偶然出会ったやつらとしか音楽をやったことがなかったので、今回、風呂敷を一気に広げて、これだけすごいミュージシャンたちと音楽を一緒に作れたのはすごくよかったんですよ、やっぱり。でも、フジとアキムがSADFRANKに参加してくれた凄腕プレイヤーたちに比べて劣っているとか、そんなことはまったくなくて。最初はSADFRANKでの制作のフィードバックをNOT WONKに持ち帰れるんじゃないかなって考えていたんですけど、レコーディングを進めていったらフジとアキムのめちゃくちゃいいところを改めて再確認して、「あれはあのふたりにしかできないな」って思った瞬間がいっぱいあったんです。だから、フィードバックっていうよりは、単純に……。

別の表現?

加藤:うん。別の表現として生きているんだってわかりましたね。あと、NOT WONKに対する考え方や捉え方がより鮮明になったというか。3人で10年以上ぼんやりやってきてたけど、NOT WONKにはNOT WONKのよさがかなりあるっぽいぞと(笑)。「もうちょっとやれるはずだ」みたいなことが、もっともっと見えてきたって感じますね。

Todd Terje - ele-king

 少しずつ暖かくなっていきますね。春の予定は決まっていますか? そろそろファースト・アルバム『It's Album Time』から10年が経ちそうですが、きたるゴールデンウィーク、ノルウェイからニューディスコの王者トッド・テリエがやってきます。5月3日から6日にかけ岡山、東京、大阪の3都市を巡回するツアー。今回はDJとしてのプレイです。詳細は下記をご確認ください。

Todd Terje Japan Tour 2023

北欧NUディスコシーンの牽引者、Todd Terje (トッド・テリエ)の来日ツアーが決定!
代表作「Inspector Norse」を始め、「Eurodans」「Ragysh」「Snooze 4 Love」「Strandbar」といったヒット作で知られ、米ローリングストーン誌の「世界のトップDJ25人」のひとりに選ばれた。
アルバム『It's Album Time』収録曲「Alfonso Muskedunder」がテレビドラマシリーズ『Better Call Saul』シーズン3・エピソード3で使用されている。
2020年にはイラストレーター、Bendik Kaltenbornによる短編映画『LIKER STILEN』のサウンドトラックを担当した。

Todd Terje Japan Tour 2023

5.3(水/祝) 岡山@YEBISU YA PRO

DJ: Todd Terje (Olsen Records / from Norway) and more

Open 22:00
Advance 4000yen
早割チケット 3/14(火)10:00~ 3/24(金)23:59まで
一般チケット 3/25(土)10:00~
Door 5000yen
早割 3000yen
※ドリンク代別途要

Info: Yebisu Ya Pro http://yebisuyapro.jp
岡山市北区幸町7-6ビブレA館 B1F
TEL 086-222-1015

5.4(木/祝) 東京@ZEROTOKYO
- B4 Z HALL -


Todd Terje (Olsen Records / from Norway)
SPECIAL SECRET GUEST
CYK


REALROCKDESIGN

Open 21:00
Close 4:30
Advance 4500yen
Door 6000yen

Info: ZEROTOKYO https://zerotokyo.jp
東京都新宿区歌舞伎町1-29-1 東急歌舞伎町タワー B1-B4

5.6(土) 大阪@CLUB JOULE

=2F=
DJ:
Todd Terje (Olsen Records / from Norway)
AKIHIRO (NIAGARA)
SSSSSHIN

PA: Kabamix
Lighting: Gekko Abstract

=4F=
DJ:
SISI (Rainbow Disco Club / Timothy Really)
GUCHI (WALLS AND PALS)
misty
Ashikaga (C2C)
MIYUU

FOOD: KitchenMUMU

Open 22:00
Advance 3300yen
Door 4000yen

Info: CLUB JOULE https://club-joule.com
大阪市中央区西心斎橋2-11-7 南炭屋町ビル2F
TEL 06-6214-1223

Total Info: AHB Production http://ahbproduction.com

<アーティスト詳細>
TODD TERJE (Olsen Records / from Norway)

ノルウェー、オスロ在住のプロデューサー/DJ/ソングライターであるTODD TERJE(トッド・テリエ)。
数々の傑作リエディットでその名を知られ、本人によるリエディットやリミックス作品で構成されたベスト盤的コンピレーション&ミックスCD 『Remaster Of The Universe』がリリースされている。リエディットだけでなくオリジナル作品でもその才を発揮し、「Eurodans」「Ragysh」「Snooze 4 Love」はクラブアンセムとなった。『It’s The Arps』EP収録曲、「Inspector Norse」は世界的ヒット作となり、彼の代表曲である。
2014年、ファーストフルアルバム『It's Album Time』をリリース。ソロライブやフルバンドTHE OLSENSを率いてライブ・アクトとしても活動してきた。
2016年、TODD TERJE & THE OLSENS名義でのカヴァーEP『The Big Cover-Up』をリリース。
2020年、今回のツアーイメージを描いたイラストレーター、Bendik Kaltenbornによる短編映画『LIKER STILEN』のサウンドトラックを担当した。

● Todd Terje アーティストリンク
Web http://toddterje.com
Instagram https://www.instagram.com/toddterje
Facebook https://www.facebook.com/ToddTerje
Youtube https://www.youtube.com/@ToddTerje

Luminessence - ele-king

 多くのファンを持つジャズ・レーベル〈ECM〉が新たに手掛けるヴァイナル・リイシュー・シリーズ、「Luminessence」。その第一弾としてトランペット奏者ケニー・ホイーラーの『Gnu High』(1976)と、ブラジルのパーカッショニスト、ナナ・ヴァスコンセロスの『Saudades』(1980)が4月28日にリリースされる。
 発売に先がけ、4月21日金曜日、両作のリスニング・イヴェントが催されることになった。案内人は原雅明、会場はアナログ・サウンドに特化した南青山のレストラン&バー BAROOM とのこと。極上のシステムで1音1音を堪能しましょう。

ECMレコーズが、スタートさせる新しいオーディオファイル・ヴァイナル・リイシュー・シリーズLuminessenceを記念し、発売前にリスニング・イヴェントがロンドン、ベルリン、東京の3都市で開催されます。

東京は、南青山のレストラン&ミュージックバーBAROOMにて、4月21日(金)20時より開催。世界同時リリースとなるケニー・ホイーラーの『Gnu High』とナナ・ヴァスコンセロスの『Saudades』の2枚を、アナログ・サウンドに特化したBAROOMの極上のシステムで再生します。ナヴィゲーターは原 雅明が務めます。

日時:2023年4月21日(金曜日) 20:00〜22:00

Navigator: 原 雅明
会場:song & supper BAROOM(バルーム)
東京都港区南青山6丁目10−12 フェイス南青山 1F
https://baroom.tokyo/
Music charge:free

主催:BAROOM
企画:ECM
協賛:ユニバーサル ミュージック(同)
協力:dublab.jp

■Luminessenceシリーズ

ECMのディープなカタログの宝石に光を当てるエレガントで高品質なヴァイナル・シリーズ。このシリーズの特徴は、唯一無二の刺激的な音楽、想像力豊かな演奏、繊細なプロダクション。ECMの音の世界の広さと多様性を強調する録音で、様々なフォーマットのLPがリリースされる予定だ。

クリエイティヴな音楽制作の概念を変えたアルバムや、今やクラシックと呼ばれるようになったアルバムを取り上げており、また長い間廃盤になっていたアルバムや、ヴァイナル初登場となるアルバムもあるとのことだ。ほとんどの作品はオリジナルのアナログ・マスターテープからカットされ、すべてのLuminessence盤はECMの名声を高めた印象的なオリジナル・アートワークを基に追加した新しいパッケージ・デザインで蘇る。
https://youtu.be/rCW6Vx9okho

■作品情報

4月28日発売
ケニー・ホイーラー 『Gnu High』
https://Kenny-Wheeler.lnk.to/Gnu_HighPR


ナナ・ヴァンコンセロス 『Saudades』
https://Nana-Vasconcelos.lnk.to/SaudadesPR

『Gnu High』はトランぺッター、ケニー・ホイーラーのECMデビュー・アルバムで、ピアノのキース・ジャレット、ベースのデイヴ・ホランド、ドラムのジャック・ディジョネットとの見事なカルテットを率いての演奏。このアルバムは、ホイーラーを叙情的な即興演奏家/ジャズ作曲家として世界に知らしめ、その後に影響力を与え、高く評価された作品の基礎を築いた重要な1枚だ。一方、『Saudades』は、ブラジルの打楽器奏者ナナ・ヴァスコンセロスが、オーケストラの中でベリンバウを聴くという夢をかなえた作品で、エグベルト・ジスモンチが弦楽器の編曲を担当し、共同作曲家、サポート・ソリストとして参加したことで実現したもの。ジスモンチとヴァスコンセロスの創造的なパートナーシップは、多くの録音で強調されているが、このように音楽表現が織り成す魔法のようなオーケストラの録音は二度とないだろう。

■情報ページ
https://dublab.jp/show/ecm-luminessence/

YUKSTA-ILL - ele-king

 すでに3枚のフル・アルバムを送り出している三重は鈴鹿のラッパー、YUKSTA-ILL。これまで名古屋を拠点とするレーベル〈RCSLUM〉で培った経験をもとに、先日自身のレーベル〈WAVELENGTH PLANT〉を設立することになった彼だが、早速同レーベルより彼自身のニュー・アルバム『MONKEY OFF MY BACK』のリリースがアナウンスされた。
 セカンド『NEO TOKAI ON THE LINE』のときのインタヴューで「アタマからケツまで構成があって起承転結がある作品を作りたかった」との発言を残している YUKSTA-ILL は、単曲でのリリースがスタンダードになった昨今、1曲単位よりもフル・アルバムに強い思いを抱くラッパーである。レーベル設立の告知と同時に公開された新曲 “FIVE COUNT (WAVELENGTH PLANT ver.)” がまたべらぼうにかっこいい一発だっただけに、ひさびさのフルレングスにも期待大だ。新作『MONKEY OFF MY BACK』は4月5日(水)にリリース。フィジカル盤には盟友 DJ 2SHAN によるミックスCDが付属するとのこと。確実にゲットしておきたい。

三重鈴鹿を代表する東海の雄YUKSTA-ILLが4年ぶり4作目のフルアルバムリリースへ
自身の新レーベル「WAVELENGTH PLANT」からTEASER動画&トラックリストを公開

東海地方から全国へ発信を続ける名古屋の名門レーベル「RCSLUM RECORDINGS」で15年間培った経験・知識を地元三重に還元すべく、今月1日に自らのレーベル「WAVELENGTH PLANT」の設立を発表したばかりのYUKSTA-ILL。
同日より配信されている彼のローカルエリアを題材にしたシングル「FIVE COUNT」から間髪入れず、4年ぶり4作目となるフルアルバム「MONKEY OFF MY BACK」を4/5(水)にリリースする。
全13曲からなる今作にはBUPPON、Campanella、WELL-DONE、ALCI、GINMENが客演参加、トラックのプロデュースをMASS-HOLE、OWLBEATS、Kojoe、ISAZ、UCbeatsが担当。
ブレないスタンスをしっかりと維持しつつ、これまでリリースしてきたフルアルバムとはまたひと味違った世界観、アーティストとしての新境地を感じさせる内容の仕上がりとなっている。
尚、配信と同タイミングでリリースされるフィジカル盤には、YUKSTA-ILL自らホストを務めた地元の盟友DJ 2SHANによる白煙に包まれた工業地帯をイメージしたMIXCD「BLUE COLOR STATE OF MIND」が購入特典として付属される。
レーベルより公開されたTeaser動画、及びアルバム情報は以下の通り。

MONKEY OFF MY BACK Album Teaser
https://youtu.be/dpeE46hW7bU

【アルバム情報】
YUKSTA-ILL 4th FULL ALBUM
「MONKEY OFF MY BACK」

Label: WAVELENGTH PLANT
Release: 2023.4.5
Price: 3,000YEN with TAX
(フィジカル盤購入特典付)

{トラックリスト}
01. MONKEY OFF MY BACK
02. MOTOR YUK
03. FOREGONE CONCLUSION
04. GRIND IT OUT
05. JUST A THOUGHT
06. SPIT EAZY
07. OCEAN VIEW INTERLUDE
08. DOUGH RULES EVERYTHING
09. EXPERIMENTAL LABORATORY
10. TIME-LAG
11. BLOOD, SWEAT & TEARS
12. TBA
13. LINGERING MEMORY

{参加アーティスト}
ALCI
BUPPON
Campanella
GINMEN
WELL-DONE

{参加プロデューサー}
ISAZ
Kojoe
MASS-HOLE
OWLBEATS
UCbeats

【作品紹介】
ラッパーはフルアルバムを出してなんぼだ。
USの伝説的ヒップホップマガジン「THE SOURCE」のマイクレートシステムはフルアルバムでないと評価対象にすらならなかった。
派手なシングルや、コンパクトに凝縮されたミニアルバム、客演曲での印象的なバースも勿論良い。
だが、そのラッパーの力量・器量を計る指針となるのはやはりフルアルバムなのである。

三重鈴鹿から東海エリアをREPするYUKSTA-ILLは、まさにそのフルアルバムにかける思いを強く持つ“THE RAPPER”の一人だ。
自らの疑問が残る思想への解答を模索した1st「QUESTIONABLE THOUGHT」、
NEO TOKAIの軌道に乗った己を篩に掛けた2nd「NEO TOKAI ON THE LINE」、
世間を見渡しながらも自身のブレない精神力を全面に押し出した3rd「DEFY」、
これらはすべて明確なコンセプトの下、起承転結を意識して作り込まれたフルサイズのヒップホップアルバムである。

そんな彼が約4年ぶりにフルアルバムを引っ提げて戻ってきた。
「MONKEY OFF MY BACK」と名付けられた4枚目のフルとなる今作は、
立ち上げたばかりの自身のレーベル「WAVELENGTH PLANT」から世に送り出される。

「疫病の影響で時間は有り余る程にあった。その結果、楽曲は大量生産された。
只、アルバムを意識せず制作を続けていたので、まとまりを見いだすのに苦労した」、とは本人の弁。
しかし度重なる挫折と試行錯誤の末、やがてそれは本人の望むまとまった作品へと形を成していった。
その期間中に経験した、成長した、変化した、様々な出来事が楽曲に色濃く反映されたのは言うまでもない。

日々の葛藤、金銭問題、目を背けたくなるネガティビティをアートへ昇華する。
ローカルに身を置き、バスケを嗜み、嫁の待つ家へと帰り、リリックを書く。何気ない日常の描写すらドラマチックに魅せる。
適材適所に散りばめられた客演陣、そして夢見心地なサウンドプロダクションが、何かを始めるにはうってつけのSEASONに拍車をかける。
長い沈黙を破り2020年から2022年にかけフルアルバム4枚リリースの記録的なランを見せてくれたレジェンドNASの様に。
無二の境地に到達したYUKSTA-ILLが今、リスナーの鼓膜に向けてSPITを再開する。

【YUKSTA-ILL PROFILE】
三重県鈴鹿市在住、その地を代表するRAPPER。
バスケットボールカルチャー、SHAQでRAPを知り、何よりALLEN IVERSONからHIP HOPを教わる。
「CLUBで目にしたRAPPERのダサいライヴに耐えきれずマイクジャックをした」
「活動初期のグループB-ZIKで制作したデモを鈴鹿タワレコ内で勝手に配布しまくっていた」
という衝動を忘れることなく、スキルの研鑽と表現の追求、セルフプロモーションを日々重ねる。
2000年代後半はUMB名古屋予選で2度の優勝を果たし、長い沈黙と熟考を経てMCバトルへの参戦を2022年末より解禁。
地元で「AMAZON JUNGLE PARADISE」と称したオープンMICパーティーを平日に開催。
”RACOON CITY”と自称する地元の仲間達と結成したTYRANTの巻き起こしたHARD CORE HIP HOP MOVEMENTはNEO TOKAIという地域を作り出した。
そのトップに君臨するRC SLUMのオリジナルメンバーであり最重要なMCとして知られている。
RC SLUMの社長ATOSONEと共に2009年に「ADDICTIONARY」と題されたMIX CDをリリース。
立て続けに2011年にはP-VINE、WDsoundsとRC SLUMがコンビを組み1stアルバム「QUESTIONABLE THOUGHT」をリリース。その思考と行動を未来まで広げていく。
2013年にはGRADIS NICE、16FLIP、ONE-LAW、BUSHMIND、KID FRESINO、PUNPEEと東京を代表するトラックメーカーとの対決盤EP「TOKYO ILL METHOD」をリリース。YUKSTA-ILLのRAPの確かさを見せつける。
NEO TOKAIの暴風が吹き荒れたSLUM RCによるモンスターポッセアルバム「WHO WANNA RAP」「WHO WANNA RAP 2」を経て、2017年には2ndアルバム「NEO TOKAI ON THE LINE」、
2019年にはダメ押しの3rdアルバム「DEFY」をP-VINE、RC SLUMよりリリース。さらなる高みへと昇っていく。
OWLBEATS、MASS-HOLEとそれぞれ全国ツアーを敢行し、世界を知り、自身をアップデートしていく。
RAPへの絶対的な自信があるからこそ出来るトラック選び、時の経過と共にそこへ美学と遊び心が織り込まれていく。
ISSUGI, 仙人掌, Mr.PUG, YAHIKO, MASS-HOLEと82年のFINESTコレクティブ”1982S”のメンバーとしてシングル「82S/SOUNDTRACK」を2020年にリリース。
世界を覆ったコロナ禍の中「BANNED FROM FLAG EP」「BANNED FROM FLAG EP2」を2020年にリリース。ラッパーとは常に希望の光を灯す存在である。
2021年には自他共に認めるバスケットフリークであるRAMZAと故KOBE BRYANTに捧げる「TORCH / BLACK MAMBA REMIX」を7インチでリリースし、NBA情報誌「ダンクシュート」にも紹介される。
さらに同タッグはシングル「FAR EAST HOOP DREAM」をリリース。B.LEAGUEへの想いを放り込んだ、HIP HOPとバスケットボールの歴史に残るであろう1曲となっている。

”tha BOSS(THA BLUE HERB), DJ RYOW, KOJOE, SOCKS, 仙人掌, ISSUGI,
Campanella, MASS-HOLE, 呂布カルマ, NERO IMAI, BASE, K.lee, MULBE, DNC,
BUSHMIND, DJ MOTORA, MARCO, MIKUMARI, HVSTKINGS, BUPPON, Olive Oil,
RITTO, TONOSAPIENS, UCbeats, OWLBEATS, DJ SEIJI, DJ CO-MA, FACECARZ,
LIFESTYLE, HIRAGEN, ALCI, ハラクダリ, ILL-TEE, BOOTY'N'FREEZ, HI-DEF, J.COLUMBUS,
BACKDROPS, DJ SHARK, TOSHI蝮, GINMEN, MEXMAN, DJ BEERT&Jazadocument, and more..”

HIP HOPだけでなくHARD CORE BANDの作品にも参加。キラーバースの数々を叩きつけている。

2023年、自らのプロダクションWAVELENGTH PLANTを設立。鈴鹿のビートメーカーUCbeatsのプロデュースでリリースしたシングル「FIVE COUNT」に続き、約4年ぶりとなる4枚目のフルアルバム「MONKEY OFF MY BACK」をリリースする。
その目の先にあるものを捉え、言葉を巧みに扱い、次から次へと打ち立てていく。YUKSTA-ILLはまだまだ成長し続ける。

HP : https://wavelengthplant.com
Twitter : https://twitter.com/YUKSTA_ILL
Instagram : https://www.instagram.com/yuksta_ill/
YouTube : https://www.youtube.com/@wavelengthplant

U.S. Girls - ele-king

 ミーガン・レミーはふざけている。いや繰り返し聴いていると一周まわって大真面目なようにも思えるし、描かれるモチーフはつねにシリアスな社会風刺を含んでいるが、何よりも音自体のあっけらかんとしたユーモア感覚が遊戯性を強調しているのだ。近年の彼女のスタイルはジャンルのクリシェをあえて大げさに引用しミックスするもので、20世紀のアメリカの大衆音楽への郷愁と皮肉を同時に立ち上げつつ、それ以上に反射的に笑える。いまや〈4AD〉とサインして以降のポップなイメージが強いため初期のU.S.ガールズのハチャメチャなローファイ音楽は忘れられがちだが、当時よく言われていたのは「意味がわからん」ということだった。で、現在レミーが探求している思いきりキャッチーなポップ音楽にも「意味がわからん」ところがあり、そこがたまらなく痛快だ。

 8作目となる『Bless This Mess』はディスコやエレクトロ・ファンクの色がやけに強く、ダンスフロアを志向したと思われるアルバムだ。奇しくもパンデミック初期(2020年3月)にリリースされることでセッションの喜びを喚起するようだった前作『Heavy Light』に対し、ダンスの現場が復活していることとタイミング的にリンクしていると言える。イメージとして80年代の音をを引っ張り出していることから感覚的にはビビオの最近作『BIB10』のような無邪気さがあるが、U.S.ガールズの本作の場合レミーがパンデミック中に双子を妊娠・出産した経験が反映されているので、そうした人生の慌ただしい変化が大げさなダンス・サウンドにどうやら表現されているようだ。
 引き続き夫のマックス・ターンブルと共同プロデュースで、ホーリー・ゴースト!のアレックス・フランケル、ジェリー・フィッシュのロジャー・マニング・ジュニア、コブラ・スターシップのライランド・ブラッキントン、マーカー・スターリング、ベイシア・ブラット、そしてベックと多彩なコラボレーターが集まっているものの、全体を貫くファンキーなトーンを統率しているのはあくまでレミーそのひとだろう。ゆったりしたテンポのシンセ・ファンク “Only Deadalus” で幕を開けると、続く “Just Space for Light” ではゴージャスなコーラスを引き連れて眩いステージ・ライトを一身に浴びる。前作がデヴィッド・ボウイ的なら本作はプリンス的で、グリッターでセクシーなファンクやR&Bを参照して妖しく弾けてみせる。子どもを産んだばかりの母親がスパンコールをつけたドレスを着てフロアで踊り出したら世間体を気にする人びとはぎょっとするだろうが、もちろんレミーはそんな窮屈な規範をものともせず、ミラーボールのもとで輝いてみせるのだ。やたらキレのいいパーカッションが鳴らされるエレクトロ・ハウス “So Typically Now” はロボット・ダンスが目に浮かぶ直角的なシンセ・リフだけで可笑しいのに、ソウルフルなコーラスが現れると大仰な盛り上がりとともに腹を抱えずにはいられない。

 ただ、その “So Typically Now” がCOVID-19以降の住宅問題をモチーフにしているように、あくまで生活に根差した政治性が含まれているのがU.S.ガールズの神髄でもある。資本主義に対する異議申し立てはそこここに発見できるし、また、フェミニストして母になったレミーはあらためて「母性」に押しつけられた負担や性役割について想いを巡らせている。80年代R&Bのパロディのように妙にキラキラしたバラッド “Bless This Mess” はタイトル・トラックということもあって示唆的だ。アートワークで妊娠した腹を囲む正方形はインスタグラムの投稿のようで、添えられた言葉は「この混乱を祝福せよ」。すべてがSNSで消費される風潮に対する皮肉と、こんな時代に親になることの不安や混乱が入っているのだ。
 それでも、性規範が根強く残っている現代を風刺する “Tux (Your Body Fills Me, Boo)” がタキシードの視点から不満を語るという突飛な設定になっているように、レミーの社会批評はユーモアをけっして忘れない。しかも激ファンキーなディスコ・ナンバーで、だ。レミーは回転しながら手を叩き、「あんたの身体がわたしを満たす、ブー!」と歌う。やっぱり、ふざけているとしか思えない。けれどもその悪戯心は、メチャクチャな時代を生き抜くための武器なのだ。
 スマートフォンの振動を思わせるサウンドで始まる “Pump” は、そこに太いベースラインが入ってくればたちまち愉快なダンス・チューンとなる。慌ただしい生活も殺伐とした社会も、遊び心さえ忘れなければダンスと笑いの種になる。「何も間違ってない/すべてうまくいく/これはただの人生なんだから(“Futures Bet”)」──そして、けっして捨てられないオプティミズム。U.S.ガールズのひょうきんな音楽はいま、冷笑に硬直しそうなわたしたちをまずは踊らせ笑顔にするところから始めようとしている。

talking about Yves Tumor - ele-king

 今日のポピュラー・ミュージックの中心はラップである。そんな時代にあって、次世代のロックはどんな姿をかたどるのだろう──もしかしたらイヴ・トゥモアの試みに、そのヒントが隠されているのかもしれない。エレクトロニック・ミュージックに出自を持ちながらその後ロックへと大きく舵を切り、己の美学を貫くイヴ・トゥモアの新作『Praise A Lord Who Chews But Which Does Not Consume; (Or Simply, Hot Between Worlds)』について、Z世代のライター・yukinoise と、ロックをルーツとした初期衝動をダンス・ミュージックに落とし込むDJの arow が自由気ままにロック・ヴァイブス溢れる音楽談義をカマします。

イヴ・トゥモアは自身のキャリアの歩みの中で音楽と真摯に向き合いつつ、関わる人やコミュニティが広がっていく中でも、周囲からの期待を跳ねのけることなく、かつその上で自分自身の美学をクリエイションに反映させている。(arow)

yukinoise:前作に引き続き、今回のアルバム・リリースでもイヴ・トゥモアは相変わらずインタヴューを受け付けてないみたい。最近で唯一彼がインタヴューを受けたのはコートニー・ラヴとの対談くらいしかなかったので、今回は以前ライヴを観に行ったことのある自分と、ロックに詳しい同世代のDJ・arowくんとイヴ・トゥモアの魅力について対談するわけですが、5年前の来日ライヴは観に行った?

arow:そのライヴ行けなかったんだよね、たしかいまはなき渋谷の Contact に緊急来日したんだっけ?

yukinoise:そうそう。Contact に普段遊びに来るタイプのクラバーよりか、イヴ・トゥモアが気になってる音楽好きの層が集結して、平日のデイ公演なのにメインフロアの Studio X がお客さんでパンパンだった光景を覚えてる。その後、渋谷のWWWで speedy lee genesis さん主催の《Neoplasia》ってパーティーにも出演してたんだけど、ヘッドライナー級なのに出番が日付越える前という独特のパフォーマンスをしてたらしい。〈Warp〉からの異色デビューっていうので彼の存在を知ったのと来日がちょうど同時期で、すぐにライヴを観れたのはラッキーだったな。

arow:イヴ・トゥモアはもともとエレクトロニカやエクスペリメンタル系のアーティストだし、パフォーマンスもスタイルも華やかだから当時は新進気鋭のファッショナブルな印象があったな。でも、そういった印象や解釈を変えてくれたのが “Jackie” を収録した2021年リリースのEP「The Asymptotical World」。ロックやバンド・サウンドが好きな人にはかなり刺さる作品だし、いままでのリリースの中でいちばん好きかも。

yukinoise:“Jackie” でこれまでのエレクトロニカ、インダストリアルR&Bやグラム・ロック的な印象から少し雰囲気が変わったよね。シューゲイズ、ドリーム・ポップ、ポスト・パンクなテイストが取り入れられていて、バンドというかギター・サウンドに対して欲を出してきたな、と。

arow:ディープな電子音楽から活動をスタートして、キャリアを積み重ねていくごとに見える景色の変化に応じてちゃんとクリエイションも進化していくのはアーティストとしてひとつのあるべき姿だと思う。というのも、音楽をやっている全員がそういうことができるわけではないと思っていて。生計を立てるためとかいろいろあると思うんだけど、どうしてもいままでついてきたファンを離さずに活動するために既存の路線から外れないよう、いわゆる正解を取りに行くようなスタンスが活動を通して透けて見えてしまうようなアーティストも中にはいるわけで。だけど、イヴ・トゥモアは自身のキャリアの歩みの中で音楽と真摯に向き合いつつ、関わる人やコミュニティが広がっていく中でも、周囲からの期待を跳ねのけることなく、かつその上で自分自身の美学をクリエイションに反映させているし、少なくともそう勤めようとしている気概が音を通してリスナーにも伝わってくるような説得力があるよね。

yukinoise:美学ね。インタヴューを受けずにソーシャルと距離を置くスタンスや、来日公演でもレーベルや国外アーティストだからって肩書は関係なしに、セルフ・プロデュースで世界観を徹底してるところに惹かれた。イヴ・トゥモアを語ればグラム・ロックが必ずキーワードに登場するけど、たしかに彼のクィアなファッションや強烈なスタイル然りロック・スター的なカリスマ性は持ってる。

刹那的な盛り上がりより、パフォーマンスを目撃したアーティストの曲を帰り道でも聴きたくなるくらい世界観で圧倒されたい。そういう意味ではソロ時代からもステージングを徹底してたし、どんなかたちであれちゃんと自分の個性を100%表現しているアーティスト。(yukinoise)

arow:クィアもロックもどっちも彼のルーツにあるけど、意識的にも無意識的にもステージングや社会との関わり方とかの、自らのパブリック・イメージに関わる細かな部分にまで自分の意思を反映させて世界観を表現できるアーティストはそれだけで希少価値が高い。イヴ・トゥモアの最近のライヴがバンド・セットなのもそのイメージの強化に一役買ってるというか。バックDJがいて、オケを流してる上にマイク通して声を乗せるだけというヒップホップ由来のスタイルがいまでは当たり前のようになった中で、パフォーマンスを差別化するとしたらいちばん効果的なのはやっぱり音楽の捉え方とライヴの見せ方になるんじゃないかな。たとえば普通にラップやってる若いアーティストのライヴだと、いまこの場所をいかに盛り上げるかという点だけに重きを置きがちになる感じがあるけど、その場限りの高揚だけじゃ訴求できない部分って受け取り手のオーディエンスからしても絶対的にあるはずだし。

yukinoise:ライヴの体験価値はオーディエンスにとって欠かせないポイントだよね。刹那的な盛り上がりより、パフォーマンスを目撃したアーティストの曲を帰り道でも聴きたくなるくらい世界観で圧倒されたい。そういう意味ではソロ時代からもステージングを徹底してたし、どんなかたちであれちゃんと自分の個性を100%表現しているアーティストだったな。

arow:60~70年代まで遡るとロック・オペラとかもあったくらいだし、ひとつの世界観を作り上げていくジャンルとしての美学がロックにはある。当然、時代性やバックグラウンドによってアプローチは多種多様なんだけど、自分なりの世界観を築きやすいのがロックというフォーマットの魅力だと思うんだよね。もちろんやりようによってはどんなジャンルの音楽であっても独自の世界観は作れるものだと思うんだけど、記号化される前のロックでは一曲単位の持つ強度に加えてアルバムの構成だったりでいろんな見せ方がされてきたし、とくにリスナーにとっては何のことかわからないような歌詞だったり、音楽的にも新しい試みを取り入れやすかったという点において、ある種音楽の持つ非日常的な側面を反映させやすいという強みがあったんじゃないかな

yukinoise:なるほど。ロックの対比としてのヒップホップ、現代のトラップ・カルチャーはどちらかと言えばストリートやライフ・スタイルの延長線上にある音楽かもね。リアルを大事にしてるし。個人的にはロックは夢を見せてくれるジャンルだと思っていて、たとえば日本でいうヴィジュアル系はサウンドやファッション、世界観を徹底して作り上げて非日常的な雰囲気のステージングがメインだし。でもイヴ・トゥモアにも意外と人間味のある瞬間もあって、インスタ・ライヴとかもたまにする(笑)。Joji や Drain Gang の Ecco2k みたいな同世代のアーティストともコラボしてるし、隣接するシーンとクロスオーヴァーしていく視点はきちんと持ってる人なんだなと。ただ孤高のロック・スターを目指してるわけじゃない。彼の場合は孤高じゃなくて、シーンの中で異質な存在であるという想いが原動力になっている気もするんだけど、なんでロックが王道のサウンドではない時代にあえてこの路線を選んだんだろう?

arow:孤高のロック・スターのイメージに当てはめすぎちゃうと、本当にただ突っ走るだけになっちゃうからそれは本人にとっても良くない(笑)。カート・コベインやフレディ・マーキュリーあたりも世界的な成功を手に入れたからこそ反面自分が理解されていないって葛藤に陥ってしまったりした歴史もあるくらいだし。そもそもロックという音楽自体がR&Bやブルースから発展しているわけで、そういったブラック・ミュージックと呼ばれる音楽自体マイノリティが他者に理解されないところをモチベーションにして、自分たちはここに存在しているんだと主張するために育まれてきたものでもある。イヴ・トゥモアの場合、「マイノリティでありながら電子音楽をやっている」という情報だけじゃ大衆への大胆なアプローチはやっぱり難しいけど、そこにロックという記号を持ち込むだけでオリジナリティが増す。自分たちはすでにロックが一度終わった後の時代にいるわけだけど、かつては王道だった過去があって常識的にロックというものがジャンルの前提として根付いているからこそ、いままではあまり触れられてこなかったマイノリティ性や異質さ、普遍さとかいったものを組み合わせることによってバランスが取れるという。

yukinoise:エレクトロニカ時代の彼のサウンドは大衆的に受け入れがたくとも、ロックがベースになっている最近のサウンドなら受け入れやすいリスナーも多そう。とくに今回の新作はグラム・ロックとダンサブルな感じである種のポップさも含んでるし、去年ヒットしたイタリアのマネスキンの功績で新世代のロックがやっとメインストリームに頭角を現してきた時代ともマッチしてる。

arow:時代によってあり方が変化していったロックがちゃんとメインストリームな音楽だったのは、体感でしかないけど2007年くらいまでかなあ。90年代にいわゆるオルタナティヴ・ロックの時代があり、そこから地続きでインディー・ロックも盛り上がりを見せる一方、スタジアム級のバンドもいて、だんだんその幅が開いていったのが2000年代。個人的な印象では、メジャーで人気になるほど王道なロックが飽きられてしまって、逆に2010年代にかけてはどんどんインディーが盛り上がって、バンドマンと言えどロック・スターにはなろうとしないみたいな、ちょっと内向的なアティチュードのアーティストが増えていった。実際本人のパーソナリティが内向的なのかは置いておいて(笑)、ヴァンパイア・ウィークエンドなんかはその最たる例かも。あくまでも地に足つけて音楽を好きでいるってスタンスのロックが多くなる中で、ザ・1975みたいにインディーの方法論でメジャーとの間に生まれた壁をぶち壊そうとするバンドも現れてから、同レーベル所属の Pale Waves や Beebadoobee といったソーシャル・スター的なロック・アーティストたちが次のフェーズを作っていった感じ。

バンド・サウンドはシンプルになればなるほどひとつの音に対する向き合い方もストイックに成らざるをえなくて、今回のアルバムも曲の構成自体はシンプルだけどギターの印象でかなり喰らわせてきてる。(arow)

yukinoise:ソーシャル・スターね。ザ・1975のマシュー・ヒーリーもかなりアイコニックな存在だし最近も炎上騒ぎがあったし、いまやロックのアーティストですらインフルエンサー的な立ち位置になってしまう時代なのか……。SNSの流行でかつては遠い存在だったアーティストのライフ・スタイルを手軽に知れたり、ちょっとした発言もすぐキャッチできたりするようになった時代の中で、イヴ・トゥモアがソーシャルとうまく距離を置いてるのは正解だね。

arow:それでも、イヴ・トゥモアはいまめちゃくちゃ真正面からロックにぶつかってきてるアーティストだと思う。新作のライナーノーツや本人自身からも異物というワードがよく登場するけど、ロックという音楽として触れたときに異物感は全くないしもはや王道だとも言える。新しい音楽を、誰も見たことのないロックをやるぜ! というタイプでもない。

yukinoise:きっと往年のバンド・サウンドやいろんなロックに触れて育ってきたんだろうな。ロックのアーティストはバンドを経て晩年を迎えたりソロになったりしてから電子音楽に傾倒する節があるけど、イヴ・トゥモアはどんどん初期衝動的なバンド・サウンドに回帰していってるのが面白いところ。

arow:しかも意図してやってるわけじゃないと思わされるところもまたイイ。本当にロックが好きでいまこの音楽がやりたいと素直に思ってるだろうし、世の中での売れ方や音楽産業に振り回されずサウンドを突き詰めてる。俺がいちばん深くロックに触れていた高校時代、教室の隅っこでヘッドホンして爆音でアイスエイジとか聴いて救われてた、あの心が揺らされる感覚こそ、まさに初期衝動でありロックの美学のひとつだね。

yukinoise:彼自身、初期衝動やそういった美学は元来持っていたのに、いまこうしてロックに真正面から向き合っているのは、キャリア的にちゃんとしたクリエイションができる環境でハイクオリティに実現したかったからなのかな、とも思うわけよ。もちろんソロのときでも荒削りに実現できたと思うけど、キャリアが浅い時期にDIYでチャレンジしていたら時代的に宅録系みたいなジャンルで括られてしまった可能性がなきにしもあらず。本人のスタンス的に絶対クオリティ面は重視しているから、自分の理想が実現できる万全な状態でやりたかったんだと思うよ。

arow:ソロでロックに挑戦するのはかなりハードルが高いしね。サンプリングでそれっぽい音はDAWで作れても、結局は打ち込み系の解釈になってしまうし、イヴ・トゥモアはそういうのを嫌がるタイプな気がして。特にバンド・サウンドはシンプルになればなるほどひとつの音に対する向き合い方もストイックに成らざるをえなくて、今回のアルバムも曲の構成自体はシンプルだけどギターの印象でかなり喰らわせてきてる。特にギター・ソロはバンド・サウンドの中でもアンプのつまみがちょっと違うだけで全く印象が変わってしまうようなシンプルだからこそシビアな世界でもある。こだわろうと思えばどこまででも時間をかけられるからこそ、この音でいくぞと決心をするのにどれだけ勇気がいることかはバンドを経験した身としてよくわかるし、その葛藤の末に生まれたサウンドなんだと意識して聴くことでまたそれまでとは違った聴こえ方になったりするところが生音の面白さだと思うな。

yukinoise:タイトルが『Praise A Lord Who Chews But Which Does Not Consume; (Or Simply, Hot Between Worlds)』、和訳すると「齧るが喰わぬ主君を讃えろ」──なんだかスケールが大きくて意味深な感じ。収録曲のうちシングルとして先行リリースされた “Echoalia” のMVからも見て取れるように、本作は『ガリヴァー旅行記』がコンセプトになってるそうで。『ガリヴァー旅行記』は巨人などの異質なキャラクターと世界の関わりが描かれている物語だし、イヴ・トゥモアのクィア性やいまの時代におけるロック・スター的なスタンスといった持ち前の個性が反映されているなと。この曲はビート感が強くてダンサブルだからアルバム全体の中でも割とポップで好きなんだけど、arowくんはどう?

彼が他と一線を画してるのは忠実にロックと向き合ってるところと、ソーシャルやハイパーなカルチャー・シーンと距離をきちんと置いてるところ。その美学の貫き方こそが、イヴ・トゥモアなりにロックを解釈したひとつのかたちなんだろうな。(yukinoise)

arow:このアルバムはダークなところからどんどん曲が進むごとにちょっとずつ光が見えてくる展開だと思った、歌詞もメンタルヘルスや他者との関わりを内包しつつ明るく振る舞おうとしている感じで。となると、中盤の “In Spite of War” がやっぱり好きかな。ヴォーカルもエモいしこのギターの感じも無条件で嬉しくなるサウンド。

yukinoise:このオクターヴを上げた歌い方のヴォーカルのエモさって、2015年くらいのリル・ピープみたいなエモ・ラップ、トラップ・カルチャーとも世代的に親和性があると思うんだよね。イヴ・トゥモアやうちらの世代ならではのエモさだし、王道なロックが入りじゃないからこそグッとくる要素として欠かせない。ただ往年のロックにチャレンジするんじゃなくて、現代に届くロックをやろうとしてる。

arow:今回はポップスとしてもロックのカタルシスを踏襲してる気がする。王道もそうじゃないやり方もどっちも物怖じせずやれること自体、イヴ・トゥモアや自分たちの世代の特徴で、2010年代のインディー・ロックはたぶんそういうのがちょっと嫌だったとこもある。90年代のオルタナティヴなノリに回帰してカマしたくても自信ないみたいなヴァイブスだったけど、ベタな展開でも自分のモノにしちゃうスタンスがいまのロックの特徴かもしれない。

yukinoise:ダークなサウンドからアッパーまで雑多に聴く世代というか、当たり前にクロスオーヴァーしちゃう世代だもんね、わたしたち(笑)。

arow:それも大きいし、案外家で聴いたりディグったりするだけじゃなくていろんなライヴやパーティーに遊びに行って生で聴いて知ろうとする世代でもあるからね。イヴ・トゥモアが来日公演した Contact もクラブだけどバンドも出演してた箱だったし、いろんなものが混ざりつつもミクスチャーともまた違う新鮮な感覚を常に持ってる。

yukinoise:この世代や次世代で流行ってるハイパーポップにもロックのテイストは取り入れられてるけど、それでも彼が他と一線を画してるのは忠実にロックと向き合ってるところと、ソーシャルやハイパーなカルチャー・シーンと距離をきちんと置いてるところ。その美学の貫き方こそが、イヴ・トゥモアなりにロックを解釈したひとつのかたちなんだろうな。

interview with Genevieve Artadi - ele-king

 ジュネヴィーヴ・アルターディが歌う姿や歌詞を見ると、ついつい感情移入して、こんな気分の歌なんだろうな、と様々な感情が沸き起こる。しかし一方で、その感情表現で普通このハーモニーはないだろう、というような曲作りをしている気がして、冷静に音楽を聴いてクールだなと思ったりもする。実際、ジュネヴィーヴの歌は簡単に気持ちよく歌える展開にならず、聴いていくと「予測できること」からどんどん遠ざかっている。「ハーモニーと珍しいキーチェンジをつなぎ合わせて、メロディで接着する方法」という、ファンがジュネヴィーヴのチャンネルで書いていた説明には、なるほどと思った。そんな彼女の理知的にもみえる音楽プロセスや、音楽的リテラシーの高い人には出せないような感覚──衝動的で哲学的、皮肉でロマンチック、パンキッシュで繊細──といった絶妙なバランス感や身体的な感覚についても興味があった。

 今回の新作『Forever Forever』は、ラップトップ上で制作された前作『Dizzy Strange Summer』から一変、ルイス・コール(ds)、ダニエル・サンシャイン(ds)、ペドロ・マルチンス(g)、チキータ・マジック(Syn-Bs)、クリス・フィッシュマン(p)といった多くのメンバーが参加した、スタジオ・レコーディングだ。彼女が書いたビッグ・バンドのための曲が半数を占め、これまで積み上げてきたオーケストレーションのスキルがミュージシャンたちとの信頼関係によって一層発揮されている。ひとつひとつの素材が生き生きと立体的に描き出されているのだ。振り返れば、今作の重要人物、ベドロ・マルチンスが2019年に出していた、アントニオ・ロウレイロ(ds)、フレデリコ・エリオドロ(b)、デヴィッド・ビニー(as)、セバスティアン・ギレ(ts)、ジュネヴィーヴとのライヴ・アルバム『Spider’s Egg (Live)』では、ジュネヴィーヴの声がペドロのギターと有機的に重なる瞬間があり、今作に通じるような音色のレイヤーを聴くことができる。ここで共演したデヴィッド・ビニーは2021年にジュネヴィーヴを迎えたシングルもリリースしており、彼女がいかに現代の俊英たちに影響を与えているかよくわかる。

 そんなジュネヴィーヴが、新作に向かうまでのマインドや、それを形成している生活環境について答えてくれたことは、私たちにも前向きな生き方の示唆を与えてくれるものだった。
 昨年12月のルイス・コール来日公演のオープングステージを見た人は、ジュネヴィーヴが、今作でも存在感を誇るチキータ・マジックこと、イシス・ヒラルドらと組んだ女性チームの表現力の強さに目と耳を奪われたことだろう。そこで断片的に見せていた様々な感情を『Forever Forever』では、愛や感謝、安心といった肯定的な側面に目を向け、それらをミュージシャンたちとともに丁寧に表現している。もちろん彼女の言う「変なコードを使ったりというところは変わらない(笑)」のだけれど。

ポップ・ミュージックがシンプルなコードのみを使ったものでなければならないとは思わないし、ジャズは複雑なコードを多用するべきだとも思わない。ジャンルや曲のタイプに縛られずに自分の書きたいように書いている。

まずイシス・ヒラルドと、フエンサンタ・メンデスとの来日のパフォーマンスのことを聞きたいのですが、このふたりとはいまどんな活動をしているんですか?

ジェネヴィーヴ・アルターディ(Genevieve Artadi:以下GA):イシスとはよく一緒にやっていて。私も彼女のニュー・アルバムの “Dreams Come True” という曲で歌っているし、彼女が私の曲に参加してくれることもあれば、私が彼女の曲に参加することもあるし。パフォーマンスはよく一緒にやっているけど、共同で曲を書いたことはないから、近いうちに曲作りをすることを考えているところ。フエンサンタとは知り合って間もないんだけど、唯一一緒にやったのは、ルイス・コールのメトロポール・オーケストラとのコラボレーションプロジェクトだった。

あなたたちのパフォーマンスは様々な感情の表現があって、女性の感覚もうまく出ているように感じて私は共感したんですが、そういう部分も意識してスタートしたんですか?

GA:あまり男性とか女性とか深く考えたことはないんだけど……とにかくバンドのヴォーカルとして歌いたいと思っていたから、彼女たちとバンドを組んだら楽しいと思った。曲のいくつかは女性的な特性を持っているし、ヴォーカルをレイヤーで重ねるのが好きだから、女性の声の方がいいと思って。とにかく一緒にやったら面白そうと思ったのが理由かな。もちろん男性のミュージシャンともたくさんプレイしているし自分の音楽性に合えば、そこにこだわりはない。なにか主義主張があって決めているわけではなくて。ヴァイブが合えばという感じ。

イシスは、あなたの新作にも参加していますね。新作を作るとき、彼女からどんなインスピレーションをもらいましたか?

GA:彼女には制作の初期の段階から本当に深く関わってもらった。彼女は本当に面白いアイデアをたくさん持っていて、一緒に完成させた曲がいくつもある。それに、彼女から教わったこともいくつもある。例えば、私がきちんと音程を保っていないときは目で合図してくれたり。ライヴのときにはシンセも担当してくれていて、左手でコードを弾いて、右手でメロディを弾きながら歌も歌う。彼女はドラムマシーンもプレイする。彼女の曲を一緒にやったとき、すごく面白いリズムをドラムマシーンで編み出して。全然違う場所からやってきたようなオフセットのリズムで、それを曲にマッチさせていくのがとても興味深かった。それに、何と言ったらいいか……彼女の音楽は、とても強烈な個性と雰囲気を持っていて。そこにとてもインスパイアされる。

働きづめで、自分の時間を楽しむ余裕がなかった。余裕がないから、自分勝手に生きていたと思う。それは自由とは違う。いまは「気が狂っていた時期はもう終わり」という感じ(笑)。

あなたの音楽の経験で気になったことがあるんですが、幼少期にポリネシアン・ダンスをやっていましたよね。あなたの音楽につながっているんじゃなかと思って。

GA:うーん(笑)、そうね……10年ほどやっていたんだけど、ポリネシアン・ミュージックってとてもパーカッションの要素が強くて。6人くらいドラマーがいて、全員が違うリズムを刻んでいる。ダンサーは、リーダーのような人がいてその人の動きに合わせていく感じなんだけど、あまり頭で考えずにリズムを取りながら自由に踊れる感じ。だから、頭で考えずに自然とリズムを自分の中に取り込むことには役立ったかもしれない。それにメロディがとても綺麗で。綺麗なメロディをリズムに乗せるということは身についたかもしれない。

そもそもポリネシアン・ダンスに興味を持ったのはどういうきっかけで?

GA:母がフィリピンに住んでいたことがあって、そのときに興味を持ったみたい。詳しいことはわからないけど、先生をつけてそれなりに本格的にやっていたんだって。子どもの頃、母が姉にポリネシアン・ダンスを教えていて、それで家族でパームデールに移り住んでからも姉はいろいろなグループと一緒にダンスを続けていて。そこで知り合った女性……私の将来の義姉になる人なんだけど、彼女の家族はサモア人で、「一緒に踊らない?」と誘ってくれたのがきっかけでやり始めた。

面白いですね。それとブラジル音楽との関わりも興味があるんですが、あなたはアントニオ・カルロス・ジョビンの “Caminhos Cruzados” から影響を受けていますね。あなたの作ったビデオで知りました。

GA:カレッジ時代にヴォーカル・グループを指導していた先生に教えてもらった。初めて聴いたとき、「ワーオ、これは一体何!?」って感動して。あんな美しいメロディやハーモニーや歌声はそれまで聴いたことがなかった。色鮮やかで豊潤で……それでいて余計な装飾が何もなくて。見せびらかすような派手な演出は一切なくて、ただ感情の深みが表現されていて。この曲が持つメロディやハーモニーの展開にとにかく惹きつけられた。その頃、10曲かそのくらいブラジル音楽の曲について学んだんだけど、本格的にブラジル音楽を聴くようになったのは数年前にペドロ・マルチンスに出会ってから。

ペドロは今回のアルバムの全曲でギターを弾いているし重要な存在ですよね。彼との出会いと今回のコラボレーションのきっかけを教えてください。

GA:もともと私がこの “Caminhos Cruzados” を自分で歌った動画を投稿したことがきっかけだった。それをペドロが観て「君がポルトガル語で歌えるのは知らなかったよ」ってメッセージを送ってきて。ペドロがブラジル出身のミュージシャンだったことは知っていたけど、実際に会ったことはなかった。それで私がロンドンにいるときに、彼がメッセージを送ってきて。「ちょうどロンドンでアルバムのミキシングをしていて、君のショーを観に行きたいんだけど」って。それで、「一緒にステージでプレイしてみない?」と訊いたら、快諾してくれて。でも実際に顔を合わせたのはステージの上なの。その前に会うタイミングがなかったから、「ペドロ・マルチンス!」って彼の名前を呼んで、それでペドロがステージに上がった。それが出会い。そのあとすぐにペドロが、友人でベースプレイヤーのフェデリコと一緒にLAに来た。それで私たちの家に滞在して、セッションしたり一緒にギグを観に行ったり、音楽的なことを中心にして親交を深めていった。

なるほど。あなたの作品にブラジル音楽はどんな風に入っていますか?

GA:いかにもわかりやすい形で取り入れているとは思わないし、そうするつもりもない。どこかで影響を受けてはいるんだろうけど、自分の曲を書くときはあまり意識していないと思う。ただ、ブラジル音楽の持つ美しいメロディやハーモニーを思い出して、そんな曲を書いてみたいと思うことはある。

その曲作りのことなんですが、ジャズのヴォイシングやヴォーカル・アンサンブルをカリフォルニア大学で学んでいますよね。このときの経験はどのように生かされていますか?

GA:大学に通う前にもバンドを組んでいたことはあるけど、当時は曲の書き方もよく理解していなかったから、同じようなコードやメロディばかり繰り返し書いていた。だから、大学で違うコードの使い方やメロディの書き方、管弦楽法や他のミュージシャンと一緒に音楽を演る方法やインプロヴィゼーションの方法なんかについて広く学ぶことができたと思う。その上で私がいちばん気を付けていることは、自然な流れで曲を書くこと。ひとつのパートに固執して、そこで立ち止まってしまわないようにすること。教師は、曲の構成についてある一定のルールがあることをとても重要視していて、ここでこのコードは間違っている、このコードの次はこれが正しい、という法則に則っているけれど、私はなるべくフォーマットのようなものは考えずに、自然に、好きなように書くように心掛けている。ポップ・ミュージックがシンプルなコードのみを使ったものでなければならないとは思わないし、ジャズは複雑なコードを多用するべきだとも思わない。ジャンルや曲のタイプに縛られずに自分の書きたいように書いている。いちばん大切なことは、私が何を表現したいかということだと思っているから。だから、もちろん大学で学んだ音楽理論は役には立っているけど、それよりもコードの持つトーンや色味や、音楽の歴史のようなものの方が身についているような気がする。

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なるべくヴィーガンの食生活を貫くようにしていて。あとは1日2回、毎日瞑想する時間を持つようにしている。

前作からあなたの声の質感も変化しているように感じます。あなたは技術的にどうやって声をコントロールしていますか?

GA:それについては意識的にかなり自分でも努力してコントロールしている。今回のアルバムに関して言えば、曲作りとスタジオでのレコーディングの間にかなり時間があったから、何度も何度も歌を練習した。いくつかの曲はライヴで演奏したりもした。それで、実際にスタジオに入ったときには、ほぼワンテイクでレコーディングするようにしたかった。家で録音してみて歌い方を考えたりして、スタジオでは完璧に歌いこなすことで、歌に集中できるようにして。

私は前作の『Dizzy Strange Summer』を聞いて、愛の複雑さや自由への欲求を感じました。これを聞いた後に新作『Forever Forever』を聞くと、気持ちが洗われるような美しさや秩序を感じました。このアルバムを作るまでにどんな気持ちの変化がありましたか?

GA:いくつか大きな出来事があったけれど、いちばん大きかったのはペドロとの出会い。彼と付き合うようになったのは、私にとって本当に大きな変化だった。自分自身と向き合うようになったというのかな。自分の問題に向き合えるようになった。彼との関係を深めていく中で、瞑想を始めたり、本を読むようになったり、ティク・ナット・ハンやラム・ダスのビデオを観たり……自分を見つめ直したり、より健康な生活を意識するようになった。ちょうど彼と出会った頃は自分をもっと解放すべき時期に来ていたんだと思う。それまでの私は働きづめで、自分の時間を楽しむ余裕がなかった。余裕がないから、自分勝手に生きていたと思う。それは自由とは違う。いまは「気が狂っていた時期はもう終わり」という感じ(笑)。

(笑)どんなことを毎日の習慣にしているんですか? いまお話にも出ましたが、健康的な食事生活や、瞑想など何かルーティーンにしているものがあれば教えてください。

GA:可能な限りヴェジタリアンを選択している。充分なプロテインが摂れないときは卵を食べたりするけど、なるべくヴィーガンの食生活を貫くようにしていて。あとは1日2回、毎日瞑想する時間を持つようにしている。本当は瞑想する日もあればしない日もあるというようにしていきたいんだけど、瞑想するのとしないのでは私の心身の状態が全然違うの。

以前に比べて、精神的に落ち着いたり穏やかになったりしたと感じますか?

GA:そうね、前ほど感情的な起伏もないし、周囲の人たちに対してとても忍耐強くなったと感じる。自分の心の中に余裕が生まれたというか。家でひとりでいるときは前から心に余裕があったんだけど、逆にだらしなく過ごしてしまっていたし(笑)。でもいったん外に出ると、自分の社会での立ち位置というか、役割をつねに考えてしまっていた。なるべく聞き役に徹して、相手に緊張感を感じさせないようにしたり。私と話した人はみんな「君と話していると自分らしくいられる気がする」というようなことを言ってくれるんだけど、私自身は気を使いすぎてクタクタになってしまっていた。でもいまは人付き合いを円滑にできるだけのエネルギーを得た感じ。

先ほどお話しに出たティク・ナット・ハンのことをもう少し聞きたいです。

GA:私は何かの問題にぶつかると、すぐにグーグルに訊いちゃうよくないクセがあるの(笑)。でもそんな問題の答えをググってみても「そんなやつ追い出しちまえ」「あなたはそんな目に合うべき人間じゃない」みたいな、怒りに満ちた答えしか見つからなくて。でも、その自分の問題と仏教、ってググると、もっと根本的な解決方法が見つかることに気づいた。そこからティク・ナット・ハンのような名前に行き着いて、彼の本を読んだりビデオを観たりした。彼の言葉には本当に助けられた。

彼の教えであるマインドフルネスについて、あなたはどんな風に考えていますか。

GA:とても美しい考え方で……すべての人に彼の教えを実行してほしいと願っている。例えば、彼はイスラエルやパレスチナの人たちをひとつに結ぶことができると語っている。どんな人間同士でもコミュニケーションは可能であるということ、互いをコントロールすることは可能であるということ。それは戦いで相手を屈服させるという意味ではなくて、互いを尊重し合うということ。自分自身を大切にすることができれば他人を大切にすることもできる。自分の愛する人を大切にすることができるということ。私はほとんどの場面ではかなり忍耐強い人間だとは思うけど、いくつかの地雷があって、それを踏まれると怒りをコントロールできなくなるところがあった。でも、彼の教えを実行していく中で、かなり自分を律することができるようになってきたと思うし、これからも続けていきたいと思っている。

ティク・ナット・ハンのそんな考えは、あなたの今の音楽にも影響していますよね?

GA:そうね、そう思う。歌に対するアプローチに影響を与えていると思うし、音楽づくりのプロセスの中で、自分自身を律して根気強く向き合うことを教えてくれたと思う。自分の頭の中で考えすぎずに、人の意見もよく聞くようになったと思う。それに、自分の音楽をよく聴いて、いま自分がやるべきことや置かれている状況をよく理解することで、すべてのことがうまくいくようになったと思う。

できあがったものに完全に満足することはほとんどない。大体いつも、自分が表現したいことの半分くらいしか表現できない。でも、私はすべてを完璧に表現したい。

では今回のアルバムは、具体的にはどのような順番で作られたのですか?

GA:曲を書くときはいつもできるだけ自分の頭の中にあるアイデアを明確にしてから書くようにしている。ジャム・セッションは緊張するというか、得意ではないからそこから曲を作ることはほとんどない。2019年にスウェーデンのノーボッテン・ビッグ・バンドから、専属の作曲家にならないかというオファーがあって。それでコンサート用の曲をいくつか書いてデモを作った。コンサートが終わったあと、書き下ろした曲の半分を自分のソロ・ルバムに入れたいと思って。だからこのアルバムの曲のいくつかはふたつのヴァージョンが存在することになる。それからアルバム用に曲を書き足していって、スタジオでバンド・メンバーと相談しながら「ここにこれを入れよう」「このソロは誰が弾く?」という調子で作っていった。ああ、中にはそれより前に書いた曲もあるね。いちばん古いものは2017年頃に書いたんじゃなかったかな。とにかく、スタジオでみんなでアイデアを出し合って作ったものだけど、全体的なヴィジョンはすでに私の中にあって、それを明確にしてからレコーディングに入るというプロセスが私のやり方。

参加したミュージシャンからどんなアイディアや個性を引き出しましたか?

GA:ルイス・コールは全体に魔法を使ってくれた。それにピアノのクリス・フィッシュマン、ダニエル・サンシャインはドラムを何曲かと、ミックスとマスターを担当してくれたし、ヘンリー・ハリウェルがエレクトロニックな部分をやってくれた。彼は、私が作ったデモの何曲かのドラムをもっとクールなものにしてくれたりした。それと何曲かではダリル・ジョンズがベースを弾いてくれている。

Knower でのデビュー時からあなたの作曲の才能はとても評価されているし、今回特にあなたのプロデュース能力も発揮された内容だと思います。プロデューサーという立場で、この作品をどのように解釈し作ったか教えてください。

GA:そう言ってもらえて嬉しい。ありがとう。今回は、当初はビッグ・バンドのために作曲したから、いままでのようなプロセスは踏めなかった。いつもはデスクに向かって自分のアイデアをクリアにしていく作業なんだけど、どんな音を実際に入れるかというのはそれほど選り好みしないで曲を作っていった。でも、今回はここでサックスを入れる、ここで自分のヴォーカルをレイヤーで重ねる、というそれぞれのパートを曲作りの段階で細かく決めていく必要があった。もちろんどうしても隙間ができるから、それを少しずつ埋めていく感じの作業だった。ビッグ・バンドとレコーディングするわけだから、全てのパートにおいて私が指示を出せなければ曲を作ることは不可能でしょう? だから作曲と同時にプロデュースもすべておこなうというプロセスだった。演奏する人たちが興味を持ち続けられるように、その上で私がどんな曲にしたいか、そのヴィジョンを明確にするということに集中した。このアルバムはその延長上にあるものだと解釈している。

歌うことだけではなくプロデュースをすることや曲を作ることのやりがいはなんですか? 挫折しそうになったときは、どうやって乗り越えましたか?

GA:私はけっこう選り好みするタイプ。歌を歌うときは、その曲が「良いもの」(笑)でなければイヤなの。私はつねに自分がどんなものを求めているのか、明確なヴィジョンがあるけれど、それをどうやって実現すればいいかはわからない。とてもフラストレーションを感じる。自分が信頼している人と曲作りをするときはスムーズにやりたいことに近づけることができるけど、そうでない場合はまずは意思表示して、私の描いているものを理解してもらう必要があるでしょ? それがなかなか伝わらなくて、相手も「結局何がやりたいの? 自分にどうして欲しいの?」って戸惑うことになってしまう。すごく時間が掛かるし、できあがったものに完全に満足することはほとんどない。大体いつも、自分が表現したいことの半分くらいしか表現できない。でも、私はすべてを完璧に表現したい。だから、私は信頼する人たちと一緒に音楽を作るべきだという風に考えるようになった。もちろん誰かと一緒に作品を作るときは、それぞれのスケジュールを合わせなければいけないから、途中で長いこと待つ時間が必要になることもあるし、スケジューリングは本当に大変な作業。それでも、スタジオでコラボレーションをするのはとても好き。音楽づくりはそもそも共同作業だと思っているし。だから、私はプロデュースをするときも、みんなの意見にとてもオープンであるようにしている。それも、ただイエス・ノーを言うだけの存在ではなくて、いろいろな意見やアイデアを交わしながら一緒に作っていくことに積極的だと思う。でも最終的な判断を下すのは自分。自分の作品をプロデュースするということは、自分に決定権があって、最終的には自分の満足のいく作品にできるということ。とてもやりがいを感じる。

とても興味深いですね。スタジオでの作業を見てみたいです。今後コラボレーションしたいアーティストや、これからの予定を教えてください。

GA:そうね……ライアン・パワーとぜひ何か一緒にやりたい。ステレオラブレティシア・サディエールともぜひコラボレーションしてみたい。とにかく自分の好きな人たちと何か一緒にやれたらいい。ビョークともやってみたいけど……彼女がオファーを引き受けてくれるとは思えないけど(笑)。それと、すでに次のアルバムの構想ができあがっている。アニメを大量に観ていた時期だから、それに影響を受けたロックっぽい内容になるかもしれない(笑)。今回のアルバムとはかなり違ったものになりそうだけど、それでも変なコードを使ったりというところは変わらないと思う(笑)。

Jitwam - ele-king

 ムーディマンによる素晴らしいミックス『DJ-Kicks』を覚えているだろうか。そこで4曲目につながれていたのがジタム(Jitwam)のトラックだった。
 インドに生を受け、オーストラリアで育ち、ロンドンでエレクトロニック・ミュージックと出会い、現在は(おそらく)ニューヨークを拠点にしているこのコスモポリタンは、すでに3枚のアルバムを送りだす一方、ララージエマ=ジーン・サックレイなどのリミックスをこなしてもいる。ソウルフルでジャジーなダンス・ミュージックを展開する、注目のプロデューサーだ。
 そんなジタムの来日ツアーがアナウンスされている。3月17日から31日にかけ、東京Circusを皮切りに、大阪・京都・広島・金沢・名古屋の6都市を巡回。次世代を担うだろうプロデューサーのプレイを目撃するまたとないチャンス、予定を空けておきましょう。

「インド発、ニューヨーク経由。ネクスト・ネオソウル & ダンスミュージックの新鋭Jitwam来日ツアー!」
インド、アッサム州にルーツを持ち、音楽活動をロンドン、ニューヨーク、そしてメルボルンなどで展開。ビートメーカー、ギタリスト、シンガー、DJとマルチな才能を発揮している。ある人は彼の音楽をジミヘン(Jimi Hendrix)と、ある人はJ Dillaのよう、そしてある人はMoodymann、と聴くにとって多彩な印象を与える彼の独創的なスタイルはジャンルを超えて多くのオーディエンスを魅了。自らのプロデュースに限らず、音楽レーベル「The Jazz Diaries」のファウンダーの1人でもあり、ロンドンを拠点とするアート集団およびレーベル「Chalo」の設立を支援するなど、現在の南アジア音楽シーンの新たなリーダーとしても注目されており、昨年、満を持して3枚目のアルバム「Third」を発表。そんな今が間違いなく「旬」なJitwamの6都市を結ぶジャパンツアーが決定。各都市の個性的なローカルアーティスト達との化学反応を見逃すな。

Jitwam Japan Tour 2023
3/17(金) 東京 Circus Tokyo
https://circus-tokyo.jp/event/eureka-with-jitwam/
3/18(土) 大阪 Circus Osaka
https://circus-osaka.com/event/jitwam/
3/20(月) 京都 Metro
https://www.metro.ne.jp/schedule/230320/
3/24(金) 広島 音楽食堂ONDO
https://www.ongakushokudoondo.com/
3/25(土) 金沢 香林坊Trill
https://www.instagram.com/trill/
3/31(金) 名古屋 club JB’s
http://www.club-jbs.jp/pickup.php?year=2023&month=3&day=31

Jitwam profile
Jitwamにとって、自身の音楽キャリアは常に運命と共にある。彼が最初に購入したたった2ドルのホワイトレーベルのレコードが、Moodymannのトラックであり、それを見つけたのが、まさしく彼の音楽がMoodymannのDJ Kicksコンピレーションにフィーチャーされたのとほぼ同時期だった。インドのアッサム州グワハティで生まれたJitwamは、両親と共にオーストラリアに移住。郊外で育った彼は、The Avalanches、Gerling、Sleepy Jacksonなどのバンドの影響を受け、ギターを弾き、キーボードのレッスンを受け、14歳で曲を書き始めることになる。その後、南アフリカやタイ、そして自身の故郷であるインドなどを転々と移り住み、次に流れ着いたロンドンでエレクトロニックミュージックの洗礼を受ける。そこでの生活の中で、彼が育ったロックの影響を織り交ぜ、Jitwamの代名詞でもある、様々なジャンルを内包したタイトでメロディックな作品へと融合させることを可能にした。その後ニューヨークに移り住み彼のキャリアは一気に前進。2017年に自身のファーストアルバム「ज़ितम सिहँ (selftitled)」を皮切りに、続く2019年にはセカンドアルバム「Honeycomb」をリリース。この作品について彼は「Jimi HendrixやJ Dilla、Moodymann、RD Burman、Bjork… 彼らはまさに自分だけの世界観を作り上げていて、僕も自分自身の音楽で同じようなことを成し遂げたいんだ。『Honeycomb』はロックンロールがソウルと出会い、ブルースがテクノを歌い、ジャズはどんなものにでも変容する世界なんだよ」と語っている。またJitwamは音楽レーベル「The Jazz Diaries」のファウンダーの1人でもあり、ロンドンを拠点とするアート集団およびレーベル「Chalo」の設立を支援するなど、現在の南アジア音楽シーンの新たなリーダーとしても注目されている。そして2022年には満を持して3枚目のアルバム「Third」を発表。数多くの運命に導かれながら多様な土地で吸収した音楽を、新たな高みへと昇華させている。

Soundcloud: https://soundcloud.com/jitwam
Instagram: https://www.instagram.com/jitwam/

LEX - ele-king

 それは2017年の3月。まだ14歳だった。初めて世に発表した曲は “こっち見ろ!(Look At Me!)” のリミックス。ダブステップの重要人物、マーラディジタル・ミスティックズ)を大胆にサンプルしたXXXテンタシオン2015年の同曲が、ショウビズ的なレヴェルで大きな注目を集めることになったのが2017年の2月ころ。なのですぐさま反応していることになる。早い。二重の意味で。
 湘南出身のラッパー、LEXはその後自殺未遂を経て死ねなかったことに意味を見出し、本格的に音楽の道を進むことになる。サウンド的にはトラップやイーモ・ラップ以降の感覚をポップに表現、4つ打ちやロックの技法も貪欲にとりいれてきた。精神的不安定、そこから逃れるためのドラッグ、あるいはスマホ、インスタにTikTok──リリックには洋の東西を問わず2010年代を支配することになった鍵概念が散りばめられ、結果、彼は多くのティーンから絶大な支持を獲得。当人もまた10代の代弁者であることを意識していたという。

 他方で彼は同世代のリスナーたちに「べつの見方」を提供することにも心を砕いてきた。2019年4月にリリースされたファースト・アルバム『LEX DAY GAMES 4』のコンセプトは、SNSにとらわれていたり、現実よりもゲームのほうがリアルに感じられたりする状況からティーンたちを解き放つというもので、冒頭 “STREET FIGHTER 888” ではレトロなピコピコ音が鳴り響いている。90年代までのVGMを特徴づけるチップ・サウンドは、以降もときどき彼の曲に顔をのぞかせることになるギミックだ。
 市販薬によるオーヴァードースかヴィデオ・ゲームか──。トー横キッズじゃないけれど、逃走の選択肢が少ないティーンたちの代表たりえているラッパーは、もしかしたら彼以外にもいるのかもしれない。カネを稼ぐことへの執着や「勝つ」という強迫観念、それらヒップホップ/ラップ・ミュージックの世界における定型を活用する一方で、LEXは同業者にはなかなかやれないことをやってのけてもいる。たとえば耳による意味把握が困難なことばたちが走り抜けていく “GUESS WHAT?” (セカンド『!!!』収録)のMV。そこではいまは亡き安倍元首相による国会答弁の様子がブラウン管=旧時代を象徴する機器に映し出され、それをつまらなさそうに眺めるキャラクターたちが配置されていた。政権への違和の表明だ。

 決定的だったのはおよそ1年前、2022年の1月にドロップされた “Japan” だろう。明らかにニルヴァーナを模したサウンドをバックに、やや抽象的な音声が「若者金ない 大人も病んでいる/なのにこの国はシカトをかます/大胆な演説をカマして何度も嘘をつく」と臆することなく歌いあげている。ブリテン島であればこれくらいは「普通」の範疇に含まれるのかもしれない。けれどもここは日本。名指しで国家を批判する19歳の表現に、拍手を送らないわけにはいかない。
 さらに重要なことに彼は、「オトナ=既得権益をむさぼる老害」というありがちな単純化にも与していない。「政府の意見にうんざりするよ/俺達に優しいフリをするのに/働き詰めの若者 老後に困る老人」──高齢者の「集団自決」を推奨する30代後半の御用学者とはえらいちがいで、豊かな共感力と想像力を持ちあわせているからこそ出てくるリリックだ。10代から圧倒的に支持されているファッション・アイコンであり、人気曲 “なんでも言っちゃって” (プロデューサーはKM)のようにご機嫌な曲を書くことのできるラッパーが、他方でこういうシリアスなテーマにも果敢にチャレンジしていることの意義は、「若者の政治離れ」などという惹句がまかりとおる時代・地域にあって、はかりしれない。

 今年1月にリリースされた5枚めのアルバム『King Of Everything』には、しかし、“Japan” は収録されなかった。テーマが異なるということなのだろう。シンプルなギター・ポップ調の “大金持ちのあなたと貧乏な私” のように、置かれた環境や身分のちがいを描写することで格差社会を喚起させる曲もあるにはある。だがこれまで以上にポップさを増した新作は、全体的に、「思春期」の総括のような様相を呈している。昨年20歳を迎えたことが影響しているのかもしれない。
 序盤は「強い自分」を誇示するタイプの曲が目立つが、後半ではよりセンシティヴな感情に光が当てられている。LEXの武器のひとつである、微細に震えるヴォ―カリゼイション。それがいかんなく発揮された “This is me” ではリスナーの承認欲求を受け止め、苦しみに寄り添ってみせる。ドラッグ依存を描写する “If You Forget Me” とセットで聴くと、なぜ彼がティーンから熱烈に支持されているのか、その理由が見えてくるような気がする。アガったり落ちたり、攻撃的になったり優しくなったり、小さな成功を収めたり大きな失敗を繰り返したり、もう四方八方ぐしゃぐしゃで、なにをどうしたらいいのかわからない──だれもが10代に経験しやがて卒業していくことになる苦悶を、等身大で表現してみせること。
 その総決算が THE BLUE HEARTS “歩く花” の本歌取たる最終曲なのだろう。「自分の色も分からない」「窮屈な檻」に閉じこめられている主人公は、「どなたか僕を刺してください」と声を絞り出す。思い浮かべるのはカート・コベインの「俺は俺を憎んでる、死にたい(I Hate Myself and Want to Die)」だ。若さの特権ともいえる過剰な自意識を、みごとにとらえたフレーズといえる。
 このアルバムはきっと、ある種の成長痛の記録なのだと思う。主人公とともにLEXはいま、オトナの世界に足を踏み入れようとしている。「自分」ではなく社会へと目を向けた “Japan” はその前哨戦であると同時に、これから進む先を指し示す道標だったのではないか。だからこそ収録されなかったのではないか。

 まもなくLEXは21歳を迎える。それはすなわち彼が今後、20歳で銃殺されてしまったテンタシオンがけっして歩むことのかなわなかった道を踏破していくことを意味する。現時点でこれほどの共感力・想像力を持つアーティストだ。20代、30代、40代、50代、60代……歳を重ねるごとにその表現には磨きがかかっていくにちがいない。

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