「You me」と一致するもの

ele-king presents "ANTI GEEK HEROES" - ele-king

 もう何回も言ってることだけど、日曜は下北沢THREEで遊ぼうぜ!
先日告知したele-king本誌最新刊vol.10連動イベント「アンチ・ギーク・ヒーローズ」のことですよ。な、な、な、なぁぁぁんと、LowPass、カタコトに加え、ele-kingに欠かせないマン・オブ・タレント、踊ってばかりの国の下津光史(a.k.a The Acid House.)の出演が決定! イエー、ロックンロール~!

 さらにはDJに、いまや売れっ子のライター二木信が登場。某ラップ・ユニットのミックステープではフリースタイルで客演するなど、垣根を超えた活動をするこの男が一体どんな曲をスピンするのか......見所と言えば、もしかしたらこれが一番の......いやいや、新人カタコトを見て欲しい!

 というわけで、今週末、8月25日(日)、18時開場!
 マジ、頼みます。みんな、下北沢THREEで遊ぼう!



ele-king presents "ANTI GEEK HEROES"
8.25 (sun) 下北沢 THREE
OPEN 18:00 / START 18:30
ADV / DOOR 2,000 yen (+ drink fee)
LIVE: LowPass / カタコト / 下津光史(踊ってばかりの国)
Opening ACT: バクバクドキン
DJ: 二木信

*公演の前売りチケット予約は希望公演前日までevent@ele-king.netで受け付けております。お名前・電話番号・希望枚数をお知らせください。当日、会場受付にてご精算/ご入場とさせていただきます。
INFO: THREE 03-5486-8804 www.toos.co.jp/3


Asian Dub Foundation - ele-king

 2011年3月4日、エイジアン・ダブ・ファウンデイションの、前作『ア・ヒストリー・オブ・ナウ』を引っ提げたツアー東京公演で軽くショックな場面を目にした。ギターのチャンドラソニックの発した「チュニジア、エジプト、リビアの市民にリスペクトを!」というMC(その通りのシンプルな英語だった)に対して、渋谷の会場を埋め尽くし、踊り狂っていた聴衆の大半が、きょとんとして反応しなかったのだ。よりによってこんなタイトルのツアーの公演に詰めかけた"ファン"(という言葉の定義を疑うが、それはともかく)が、あのとき地球上の最大の事件だった〈アラブの春〉に関心を示さない景色は、ステイジの上からどう映ったのだろう?(ピース・サインは、こういうときのためにあるはずなのだが)

 活動歴20年を数えるエイジアン・ダブ・ファウンデイションのヴェテラン・サポーターに対しては釈迦に説法だろうが、ADFは言わばひとつの学校のようなものである。そもそも彼らはベンガル(バングラデシュ、インド)・オリジンの恵まれない若者たちに音楽を教える東ロンドンの民間ワークショップ《コミュニティー・ミュージック》を背景に結成された。Dr.ダス(b.)やチャンドラソニック(g.)はそこで演奏を教える側にいたのだが、社会的バリアーによって抑圧されているマイノリティーの若者が同所で演奏技術を学ぶということは、社会に対して自分の意見を表明することと同義だった。そこでの教育とは、〈きみが大衆の前で演奏できるなら、政治的な集会で発言だってできる〉というものだったからだ(つまりその主眼は、社会的弱者として泣き寝入りしないために、音楽を通して社会に意見することを学ぶことにあった)。
 その後ADFは、《コミュニティー・ミュージック》をモデルとして、自分たち独自のネットワークの中に《ADFED(Asian Dub Foundation EDucation)》という、同目的の教育部門を作っている。若者たちに無料で音楽を教え、機材の使い方も手ほどきして自由に使わせ、卒業制作的に録音もでき、その曲は《ADF Sound System》でプレイされたり、実際にそこで作曲者がマイクを握ってオーディエンスに実地披露できたりもする。そういう組織体の前面に、アーティスト名義(バンド)としてのエイジアン・ダブ・ファウンデイションが存在してきたわけだ。
 例えば2000年の『Community Music』を最後に天才肌のMCディーダー・ザマンがグループを去ったあとにやってきたフロント2名:MCスペックスとアクターヴェイター(要するにあの「Fortress Europe」の2人)だって、別のグループのメンバーでありながら《ADFED》カリキュラムに参加した、同制度の最初期の"生徒"だったし、2人はその後《ADF Sound System》を経てADFの"本体"に抜擢されたわけである(その後スペックスは07年にフォーメイションから離れた。アクターヴェイターは一度離れたが再加入:現行メンバー)。

 つまりADFは、南アジア・オリジンの在英エスニック・マイノリティーの視点から、植民地政策、新自由主義経済システム、人種差別、宗教対立などに関する重大な問題にスポットを当て、リスナーを啓蒙し、考えさせるメディアであり、そして、自分たちと同じように音楽を媒体として世の中にプロテストする若者を育てる学校として機能している。そこでの"音楽"とは、社会的弱者のための厳然たる政治手段であり、カリキュラムとしてラヴ・ソングは扱われず、民族主義や権威主義は明確に忌避され、宗教的にもニュートラルであり続けている(今作からレゲエ・シンガーのゲットー・プリーストが戻ってきた現ADFでは、"違う神"を信じるムスリムとラスタファリアンが並んでマイクを握る)。
 そうしたスタンス/ポリシーと、そこから発せられるメッセージの質が厳格であればあるほど、それを高次で中和、かつ補強するための音楽的快楽を必要とする。それが彼らの"エデュテインメント"であり、そのために、バングラ・ビートなどのオリエンタル・ルーツ・ファクター、ブレイク・ビーツ、レゲエ、ラガにジャングル、ハード・パンク、ダブ・ステップ etc. が渾然とする彼らのサウンドがある。そのCDを買ってきて鳴らすことは簡単だが、共鳴することはまた別の話だ。それは、大なり小なり自分で学び、考えることを抜きにしてはあり得ない。
 ......と言うと堅苦しく聞こえるかもしれないが、ちなみにぼくがそのためにやっていることは単純だ。ADFの新作は、毎回必ず日本盤を買い、解説原稿と歌詞対訳を熟読しながら聴き込むのだ(彼らの曲を真に楽しむには、まず彼らのアクションや楽曲の意味を知ることが不可欠。各曲の背景に最初から通じていて、英語の聞き取りに問題のない人なら解説も対訳も不要だろうけれど、ぼくは残念ながらそうではない)。

 常に世界情勢に敏感に反応するADFだけに、今回は2011年のロンドン(とイギリス各地の)暴動や、〈アラブの春〉以降の世界を彼らがどう見ているのかに興味が湧くわけだが、今回も解説や歌詞対訳からいろいろな知識が得られた。大石始さんによる優れた解説原稿には、それらの出来事以外にも(2005年フランス暴動の問題の核心をその10年前に描いていた)マテュー・カソヴィッツ監督のフランス映画『憎しみ(La Haine)』と本作との関係性についても詳述されていて興味深い。ADF2003年の名盤『Enemy of the Enemy』にその名も「La Haine(ラ・エンヌ)」という同映画へのオマージュ曲が入っていたことを思い出して聴き返したり、あの映画が今も変わらずADFと深く通じていることを知って、久しぶりに観返したくなった。こうした発展的な刺激を与えてくれる解説原稿は楽しい。

 訳詞を読んで即、疑問が氷解したのが、アルバム2曲目のタイトル・チューン"The Signal and the Noise"の意味するところだ。先行公開されたPVを観ても漠然としていてよくわからなかったのが、訳詞を調べてピンときた。"the signal and the noise"は通信工学用語で("S/N比"はオーディオ用語としても知られるが)、これはそのまま、アメリカの若き統計学者ネイト・シルヴァーによる2012年のベスト・セラー本のタイトルでもあったのだ。で、ここでの意味は──世界は意味のある信号(有益な、正しい情報)と、ただ思考を惑わすだけのノイズ(ニセ/操作情報)の混交体であり、現象の正確な把握のためにはそれらの見極めが必要だ──という、つまり世に溢れる情報に対する注意を喚起する曲だったのだ。そう思ってPVを観返してみると、(動きを監視されている)白人青年が一体何に翻弄されているのか? ネクタイを締めたADFのメンバーが誰を演じているのか? ビルの屋上に逃れた若者は何を目にするのか? そのすべてがスッキリ理解できる。歌詞も映像もわざと抽象的に作ってあり、こちらに一歩踏み込んで考えさせる、さすがにうまい作りだ(すぐわからなかったオレが愚鈍なだけかもしれないが......)。

 アルバム・オープナー"Zig Zag Nation"は、問題が次々に生じて人びとが対立し、地域や国家の中に新たなジグザグした分断線が引かれていく状況を歌った曲だが、そのサビ部分の歌詞〈ジグザグな時代に生きる/厳しいかもしれないが、直線よりマシだ〉の、最後の部分にもしみじみ考えさせられた。日本でも、原発、憲法改正、米軍基地、歴史認識、多民族共生等々の問題が人々をジグザグに分断している。スッキリ直線的に二分されて両陣営が膠着してしまうより、むしろジグザグの突起部分が相手側に入り込み、刺激し合って対話を絶やさないところから距離を縮め、解決の糸口を探っていくしかない......というメッセージだと解釈したがどうだろう? そうだとすると、この"Zig Zag"という短い響きが含蓄するものは、この地球全体をもすっぽり飲み込んでしまう大きなものだ......。

 "The Signal and the Noise"にも先んじて、今年5月に本アルバムから最初に発表された曲が、アルバム3曲目の"Radio Bubblegum"。このヴィデオはストーリーがわかりやすいが、これも訳詞を読むと相当辛辣な内容であることがさらによくわかる。国が推奨するバブルガム(おこちゃま向け)なラジオ局への批判だが、金と権力を握る者たちがコントロールするラジオ放送とは、連中の金儲けとプロパガンダのためのメディアであり、市民を自分の頭で考えることのできない"おこちゃま(未成熟)"にしておくための装置だ、という曲だ。映像では、どんなものをラジオから流せばリスナーがイカれてしまうか(効率よく国民を"バカ"にできるか)を研究している。
 この曲に関してもう1点特筆すべきことがある。今作ではADF創始者のDr.ダスをはじめ、ドラムズのロッキー・シン、ヴォーカリストのゲットー・プリーストがバンドに正式に戻ってきたことも大きな注目点だが、その新生ADFの最初の曲のヴォーカリストが、わざわざバンド外部からフィーチャーされたLSKだったということだ。本アルバムの総合プロデュースは、『Enemy of the Enemy』以来となるエイドリアン・シャーウッドで、たしかにLSKはシャーウッドのお気に入りの歌手だ。しかしそれ以上に、この起用の仕方がADFという組織体の本質をはっきり示していて、その意味からも、活動20周年を記念する新アルバムのリード曲としてふさわしかったと思う。
 これまでを振り返っても、ADFはインストゥルメンタリストどころか、ディーダー・ザマンにはじまるヴォーカリスト(フロントマン)さえ代替可能な集団だったし、今回のように新生ADFのお披露目の曲にメンバー以外のシンガーを大々的にフィーチャーすることもできる。つまり肝心なのは誰が"メンバー"かではなく、誰が参加しても組織と音楽の性格が不変であることなのであって、それが彼らの政治運動体としての"コミュニティー・ミュージック"の肝なのである。極端な話、誰が入って、抜けて、戻ってもよく、運動体内部にヒエラルキーはなく、無論マイクを握る者に特別な権威を与えることもない。同じ敵に向かうのであれば、誰が声を上げてもいい(The enemy of the enemy / He's a friend)のであって、肝心なのは歌う人格ではなくて、歌われるメッセージだからである。

 と、ここまでいろいろ書いてきたけれど、これでもADFの新作から、ただ単に頭の3曲を紹介したに過ぎない。あとは各自、国内盤CDを買って1曲ごとじっくり取り組んで欲しい。最後まで強烈な、カッコいいアルバムだから。
 しかしこの国内盤......その内容の良さに加え、充実した解説、対訳ばかりかボーナス・トラックまで付いて1,980円というのは普通に考えてちょっと安過ぎる。言っておくけど、ぼくはレコード会社から飼われてはいない。ADFのファンであることを真剣に楽しんでいるだけだ。その点は信用して欲しい。


The Signal And The Noise


Asian Dub Foundation Ft. LSK - Radio Bubblegum

Prrrr... hello!! hello!?... - ele-king

 世界レベルで語られているTOKYOストリート・アイコンSk8ightTingを中心にT.Feltwell、Y.Hishiyamaらで奏でるアパレル・ブランド〈C.E〉と、セレクト・ショップの代表格のひとつ〈ユナイテッドアローズ〉が展開する人気ライン〈BEAUTY&YOUTH〉がオーガナイズするフリー・エントランスなパーティが大阪・心斎橋のONZIEMEにて8/30(金)開催される。

 原宿の格好いいレコ屋さんBIG LOVEからアルバムもリリースし、ele-kingにも何度も登場いただいているSapphire Slowsや、〈C.E〉からはスケシンさんトビーさんがDJとして参加(『ele-king vol.10』の特集を万が一読まれていない方はぜひ読んでファンタジー感アップして出かけましょう!!)。そしてグラフィック・デザイナーとしても広く認知される石黒慶太こと1-DRINKさんに、先日の〈TOTAL FREEDOM〉来日公演でもVJをかましていたBECONクルー(個人的に熱視線ちう)と、TOKYOストリート~ベースメントに乱反射するミラーボールの光が心斎橋に降り注ぐこと必至! 一方で地元大阪からはMobbinHoodのオーガナイズやノイズ・ビート・ダウン・バンドshe luv itにも参加するCE$がDJとして参加する。その存在感からてっきり首都圏にて活動していると思われても不思議ではないCE$とのシンクロニシティを、われわれは必ずや目撃することができるだろう。8月に終わりを告げる最終金曜日、大阪心斎橋。エントランス・フリーでもあるこのパーティはExpress Yourself、21st的に記すとExtreme Yourself、なのだ。


■DIAL: HELP!

LIVE:
Sapphire Slows (100% SILK/Not Not Fun Records/BIG LOVE)

DJ:
Sk8ightTing (C.E)
Toby Feltwell (C.E)
CE$ (she luv it/MobbinHood)
1-DRINK
POOTEE (BACON)

VJ:
BACON

DATE:
2013/08/30/FRI/8:00 PM~

ENTRANCE:
FREE (1 drink purchase required)

PLACE:
ONZIEME
Mido-suji Bldg. 11F 1-4-5 Nishishinsaibashi Chuo-Ku Osaka 542-0086
☎06-6243-0089
https://www.onzi-eme.com/




Luke Wyatt - ele-king

〈PPU〉のスリーヴ・デザインや映像作家として人気のルーク・ワイアットがこれまで使ってきたトーン・ホーク名義のセカンド・アルバムを自身のレーベルから、そして、本人名義のデビュー・アルバムをニック・ナイスリーのレーベルからほぼ同時にリリース。いずれもクラウトロックを基本としたもので、非常にフレッシュな感性を縦横に展開している。リーヌ・ヘルやエメラルズのようにノイズ・ドローンを起源に持つ世代とは明らかに咀嚼の仕方が異なり、ヴェイパーウェイヴのような抜け殻モードでもない。クラウトロック・リヴァイヴァルからコニー・プランク的な人工性を抽出し、しっかりと現在のシーンに定位置を見定めている。

 イーノ&クラスターにクラウス・ディンガーが加わったような『ティーン・ホーク』はこれまでの集大成といえるだろう。シャキシャキとしたパッセージで穏やかなメロディを引き立てるあたりは往年のクラウトロック・マナーそのままにも関わらず、ノスタルジーに回収されてしまう余地は与えず、全体的にシャープでさわやかな感性がキープされる。小刻みに反復されるドローンにも類まれなる抒情性が持ち込まれ、それほど音数は多くないのにイメージの広がりも圧倒的。これが本当にアメリカ人の音楽なのかと思うほど人間不在の自然観が伝わってくる。素晴らしい。

 一転して、メビウス&プランクを思わせる『10・フォー・エッジ・テック』はインダストリアルな要素も上手く取り入れた新機軸。これはフィンランドの海運業者から依頼を受けてつくったものだそうで、タグボートが氷を砕いていくときのBGMだかなんだかに使われるものらしい(ホントかなー)。強迫的なメトロノミック・ビートや全体として与えるシャープでさわやかな感触には変わりがなく、ダンス・ミュージックは意図していないのかもしれないけれど、妙なスウィング感まであって、この暑いのについつい体が動いてしまう(......ゲロゲロ)。

"スリー"

 ミニマルとしても目新しいし(とくに"ナイン")、アンディ・ストットとプラスティックマンが合体したような"シックス"が氷を一気に掻き砕くかと思えば、スーサイドを思わせる"フォー"はそれをじわじわと溶かし、ビート・ダウンした"セヴン"もじつにいい。単にダイナミックなだけではなく、相反するような音響効果を仕掛けることで、激しさのなかにも優しさを持たせてしまうところがこの人のセンスなんだろう。いや、もう、降参です。ルーク・ワイアットという人は、けっこう控えめに言ってもクラウトロックの新たなフォーマットを生み出してしまったのではないだろうか。考えてみればOPNに驚いたのがもう3年前。USアンダーグラウンドはとどまるところを知らず、2013年にはアレックス・グレイ、マシュー・セイジ、そして、このルーク・ワイアットをフロントラインに浮上させてきた。

MAMAZU (HOLE AND HOLLAND) - ele-king

ANDROMEDA / DELTA THREE / SUPER X
BLACK SHEEPのCOGEEとCosmic Orgasm Zeal Unit『COZU』や NU PARTY『DELTA THREE』も始動しました。次のSUPER XではFUSHIMINGのHEAVY MOON EPと関西御山発CampingPartyTribe ChillMountainによるChillMountain Classics の W RELEASE PARTYでお届けします!MIXCD"BREATH"も是非チェックしてみてください。
https://soundcloud.com/mamazu
https://mamazu.tumblr.com/
https://twitter.com/_Mamazu_
https://www.hole-and-holland.com/

DJ SCHEDULE
7/29 ふぞろいのbeatたち @ 恵比寿BATICA
8/07 TRAVESSIA @ 神宮前BONOBO
8/10 FRUE -Space is the Place- @ 代官山UNIT
8/16 SUPER X @ 渋谷SECO
8/17 BEACH WHISTLE @ 三浦
8/24 THIRD CULTURE @ 静岡EIGHT&TEN
8/31 11th ANNIVERSARY @ 中野HEAVYSICK ZERO
9/7~8 PARAMOUNT @ 山梨さがさわキャンプ場
9/21~23 CHILL MOUNTAIN @ 大阪荒滝キャンプ場


1
UNKNOWN - BENGA BENGA - PORRIDGE BULLET

2
Sir Victor Uwaifo - Guitar-Boy Superstar - Soundway

3
COTTAM - Ire Works - SOUND OF SPEED

4
Ata Kak - Daa Nyinaa - AFRCAN SHAKEDOWN

5
FUSHIMING - HEAVY MOON EP - HOLE AND HOLLAND

6
DELTA THREE - δδδ - COREHEAD

7
HOUSEMEISTER - CHEERLEADERS - allyoucanbeat

8
The Glitz - Woven - Voltage Musique

9
Stephan Bodzin - Bremen-Ost - Herzblut

10
Collective Machine - El Amor - Moan

interview with Buffalo Daughter - ele-king


Buffalo Daughter
ReDiscoVer. Best, Re-recordings and Remixes of Buffalo Daughter

U/M/A/A

Amazon iTunes

 僕が1994年にele-kingを作ろうと思った動機には、テクノやダンス・カルチャーにハマったことも大きいが、それ以上に「こういう音楽もあるんだ」ということを主張したかったというのがある。多くのメディアは売れているものを中心に扱う。しかし、わずか100人しか聴かないような音楽にも賞賛に値する、素晴らしいものはある。少数派の意見にも耳を傾けよ。僕は変わり者が好きだ。そう主張したいだけで、ポップとアンダーグラウンドのどちらが優れているかなどを競いたいわけではない。
 バッファロー・ドーターは20年前から今日にいたるまで、アウトサイダーとして存在し続けている。TR303と「アシッド・トラックス」に寄せる多大な愛情が、変わり者をこよなく愛するというこのバンドの性格を物語っているだろう。つまり、バンドの音楽には、クラウトロックにも似た、ロックに対する独自な解釈が加えられているわけだが、その独自なものとは、コーネリアスやスマーフ男組、インセンスのように、さまざまな音楽に感化された創造中枢によって吐き出される。
 この記事は、バッファロー・ドーターの結成20周年を記念してリリースされるベスト盤『ReDiscoVer. Best, Re-recordings and Remixes of Buffalo Daughter』のために企てられたものだが、結局、たんなる雑談のようなものになってしまった。アルバムの内容についてはバンドのホームページ(https://www.buffalodaughter.com)を参照して欲しい。こんな記事を書いておいて恐縮だが、魅力的なリズムと綺麗なハーモニーとユニークなアイデアをもったバッファロー・ドーターの音楽にひとりでも多くの人が興味を抱いてくれたら幸いである。

ライヴをやってたんですけど、まずまったくお客さんの反応がないんですよ。ポカーンとして見てるみたいな。自分たちとしてはすっごく楽しいことをやってるんだけど(笑)、どうしてかなっていうのはずっとあったんだけど。「ウケないね、やっぱり」みたいな。

ベスト盤っていうと、古典的な意味ではシングルの編集盤ですよね。あるいは昨今だと、たとえばオリジナル盤ができなかった場合に契約上出されたりであるとか、時代によってベスト盤の意味合いも違ってきてると思うんですけど、今回バッファロー・ドーターがベスト盤っていうときに何をもってベストとしているのか、まず教えてください。

シュガー吉永:ベスト盤っていうからあれなんですけど、記念盤ですよ、20周年の。わたしたち的には。でもなぜベスト盤っていう話になってたかっていうと、ニックが言い出したんだけど。これの選曲をしてくれたひとが、「俺が選曲するよ」って言ってくれて、で、「ベストな選曲をする」って言ってたからベスト盤って呼んでますけど、最終的なわたしたちの気分的には20周年記念盤。

じゃあ、その選曲の基準っていうのは、そのニックさんに丸投げで。それはそのひとの耳を信用しているっていう?

吉永:そうですね。

それはどういう意味で信用してる?

吉永:信用してるっていうほど大げさなものでもなかったのがひとつあって。だってどんな形でも選ぶひとによって違うから。わたしたちが選んでも違う選曲になったし、とにかくいろんなパターンの選曲があると思ったなかでニックさんがいいなと思ったのは、日本人が選曲するよりも日本人じゃないひとが選曲するのがいいんじゃないかというのがまずひとつあったんだけど。それを誰がやる? っていうときに、ニックさんが「俺がやる」って手を挙げてくれたのが大きい(笑)

なるほど。ニックさんっていうのはどういう方なんですが?

吉永:ニックさんはBBCのレディオ3とかでDJやってるんですけど、選曲家の方で。

レディオ3ってクラシック専門じゃなかったでしたっけ? 

吉永:ニックさんの番組はインターFMでやってますよ。いい感じですよ。

たとえばどんな傾向の方なのかとか......。

吉永:......それはちょっとググっていただいて(笑)。

(笑)

吉永:ニックさんはとにかく音楽の幅が広い。で、元々iTunesの立ち上げのときに関わってるひとだったり。

弘石(U/M/A/A):野田さん、会ったことあると思います。ニック・ラスコムっていう、日本の先端の音楽をUKで紹介する番組やレーベルをやってた方です。

日本の音楽事情に詳しい方なんですね。なるほど。日本人じゃなくて外国人に頼んだっていうのは何か大きい理由があってのことですか?

吉永:それは世界発売したいと思って、日本人観点で選ぶよりは、そういうほうが面白いかなと思って。

なるほど、やはり世界観点というのはこだわりがあるんですね。

吉永:こだわりっていうか、最初のスタートが日本だけだと受けないから、海外でも出せばそれなりの数になるんじゃない、っていうのがあるから。日本だけで大成功できるバンドだなって思ってたらそんな必要はなかったんだけど。っていうことですよね(笑)。

20周年に対してはどんな想いがあるんでしょう? 

吉永:20周年でベスト出そうよって言ったのは、そもそもは大野なんです。

大野由美子:わたしが参加したことのあるほかのバンドで、20周年だからベスト盤出しますよっていうのを聞いて。「あ、20年でベスト盤出すんだ」って思って(笑)。「あー、いい区切りになるんだな」と。そこはゴージャスに3枚組かなんかでやってて。「へー、これ出すの大変だったんだろうな」と思ってて、で、「うちに置き換えたらすっごい大変そう」とか思って(笑)。でも、うちは前のアルバムとかも全然手に入らないものばっかりなので、そう考えたら全部を出すきっかけを作れるかもしれないと思ったんですよね。ベスト盤を出すと言うよりは、揃えて聴ける状況にはしたいなって。それまでちょっとずつ権利のことで動いてたから、余計にそう思ったんだと思いますけどね。

バッファロー・ドーターが20周年っていうのがなんか、妙な違和感があるというか(笑)。あんまり20年経った気がしないような感じがするんですけど。

吉永:それはだから、大野が気がついたんです。みんな気がついてなくて。それも友だちのバンドで20周年を祝っていたひとがいたから、「あ、そう言えばわたしたちも来年そうだわ」と思ったらしい。

大野:それだけなんですよ。たぶん、それがなかったら気づかないで2013年始まってたかもしれない。

山本ムーグ:なんか、バンドのなかにいると台風の目みたいなもんで、中心は無風なんですよ。20周年とか10周年とか、周りがわりと大騒ぎするんですけど、10周年のときなんかはあんまり何も感じてなくて、結局大したことやってないんですよ。で、今回も心から「20年経ったからここで楔を打っとかないと!」っていうのはぜんぜんなくて。たしかに周りの方は「20周年だから何かやっといたほうがいいよー」って感じで。感覚的にはそんな感じだと思います。

なるほどね。ちなみにニックさんの選曲についてはメンバーからは何のリクエストもなかったんですか?

吉永:最初見たときに、「あ、こういう選曲かー」っていうのはあったんですよ、正直。3人ともに。というのは最近自分たちでもあんまり聴いてない曲とか、ライヴではまったくやってない曲ばっかりで。

大野:ばっかりとは言わないけど(笑)。

吉永:ばっかりですよ! "A11 A10ne"とか"Cyclic"とかは最近のアルバムの曲だからまあやってますけど、ほかの曲は全然やってないじゃないですか。やってる曲挙げてくださいよ。

大野:"Dr. Mooooooooog"だけかなあ。

吉永:その3曲以外はやってないわけなんですよね。だからおおーと思って。で、「じゃあ聴いてみるか」って、並べて聴いたら完璧だったんですよ。その選曲術が。さすがと言わざるを得ないんですけど。これは素晴らしいと思って。だからそのまま素直に受け入れたんですけど、そのときは"LI303VE"が入ってなくって。最初のやつ。で、その曲だけ20周年記念という気分のわたしたちとしては、最初にできた曲なのでそれは入れたいなーって話をしたら、「あ、忘れてた忘れてた」って言ってそこに入れてくれたんですけど。

シュガーさんが日本で売れないからパイを集めるために世界で出すしかなかったってさっきおっしゃいましたけど、そのバンドの考え方というか、見切りのつけ方というのは、いまのお話だとすごく早い段階で決まってたってことですよね。20年間やっているなかで、サウンド的な実験をしながら日本語のことはあんまりやってないじゃないですか。

吉永:まあ初期はありますけど。

でも、あまりやってないっていうのはその辺に関係しているのかなって思うんですけど。自分たちのなかで、世界のほうがやりやすいって見通しがあったんですか? それとも、日本では限界があるからっていう?

吉永:いや、自分たちのなかで変な自信があったのが、わたしたちが好きな音楽が......たとえばルシャス・ジャクソンとかすごく好きだったんですけど、そのときに妙な親近感があって。このひとたちと私たちってまったく同じ感覚でやってると思ったんですよ。変な話だけど。そんな風に思う音楽がほかにもいろいろあって、で、そうやって自分たちの音楽を作っていて。ライヴをやってたんですけど、まずまったくお客さんの反応がないんですよ。ポカーンとして見てるみたいな。自分たちとしてはすっごく楽しいことをやってるんだけど(笑)、どうしてかなっていうのはずっとあったんだけど。「ウケないね、やっぱり」みたいな。日本では。でもこんな感覚をルシャスたちも持ってるし、ほかのバンドも持ってるから。それが好きだ! っていうひとは数少ないかもしれないけど、各都市に絶対にいるに違いないと思って。あとは足し算だなと思って。その世界中の少ない人数を合わせれば、10ずつ集めて10都市あれば100なんだから。

(笑)なるほど。

吉永:っていう、変な確信はあった。こういうのが好きなひとは少ないけど絶対にいるんだからと思って。

日本でそういう考え方ができるバンドって当時はまだいなかったですからね。

大野:あとはそう、お客さんに外国人がだんだん多くなってきてたっていうのもあったのね。前やってたバンドは日本人しか来ないし、わたしたちも普通に日本語で日本のロックをやってるみたいな感じでしたけど、行き詰まりを感じてなくなったわけで。で、次新しいことを始めたら、なんか知らないけどやるたびに外国人が増えてる気がすると思って。日本人だけって思わないで全世界のひとってことを考えたら、そんな悩まなくたっていいんじゃないって。

おお、前向きですね。この20年で時代も環境も変わって、音楽だけでなくいろいろ変わったと思うんですけど、この20年間で一番意識している自分たちの変化ってありますか?

大野:それぞれあると思うんだけど、このバンドをやってて思ったのは、好きでやっててアメリカ・ツアーなんかもやるようになったんだけど、じつはすごくつらかったっていうのがあって。あんなにつらい想いをしたのは人生で初めてだったから。あれを乗り越えられたから、いまはわりとどんなことでも大丈夫だなと思えるようになったっていうか。

[[SplitPage]]

うちはアルバムとアルバムの間隔が長いじゃないですか。だって20年もやってんのに、6枚しか出てないってさ(笑)。でも意図してそうやってるわけじゃなくて、やっぱり完成形が見えるまでに時間かかるものがあったりとか、あと誰かがバッファロー・ドーターやる気分じゃなかったりとかね。

なるほど......はははは。どうですか、ムーグさんは。変わらない部分ももちろんあると思うんですけど、この20年で変わった部分はものすごく変わったと思うんですね。それこそ音楽のリリースの仕方にしてもそうだし、メディアに関してもそうだし。変化ってものを感じるようなところっていうのは。

山本:社会状況とかメディアのあり方とかっていうのは本当にすごく変わったと思うんですけれども、僕が改めて思うのは、音楽の力を再認識してますね。アナログ・レコードがCDになったり、CDがデジタル配信になったりとか、またアナログがそれと同時に復活したりUSBでリリースしたりとか、容れもの自体は変わるんですけど、やっぱり音楽の力っていうのは変わってないって思ってるんですよ。消費のされ方で軽く扱われる音楽もたしかに多いとは思うんですけど、誠実に作ってそこに込めるものを込めた音楽っていうのはメディアがどうあろうともやっぱり僕は伝わると思うんですよ。だからそれはたんにメディアの技術革新であって。
 いっぽう社会状況を見ると、昔平和で好景気だったなと思うんですよ。それがどんどん戦争がほんとに現実的になってきて、しかも地震もあったし放射能問題もほんとリアルに迫ってきてて、平和な時期は終わったんだろうなと思うんですけれども。そこでも音楽の重要性って出てきてて、なんかみんなすごくミュージシャンの発言を聞きたがるじゃないですか。ミュージシャンが何か発言すると、すごくメディアも取り上げるじゃないですか。斉藤和義(さんが「あれはぜんぶ嘘だった」っていうのを素朴な気持ちで上げたら、まあ賛否両論ありましたけど、ものすごく拡散して、結局はそれが支持されてると思うんですけれども。あとは国内だと、忌野清志郎さんのかつてのタイマーズなんかがすごく再評価されて、伝説のミュージシャンみたいになってるじゃないですか。あと教授なんかもすごく精力的に動かれてて、そこに下の世代がいっしょに何かをしたりとか。その一番上にはオノヨーコさんがいらっしゃると思うんですけど。僕らはたまたまハリウッド・ボウルでやったときに、「ぜんぶ繋がったな」と思って。ヨーコさんがいらっしゃって、YMOや小山田くんもいてて、僕らとチボ・マットがいて。だからメディアが変わっても音楽は変わらないし、世のなかがこれだけ危機的状況だと音楽の意味っていうのがすごく問われてるから、そこでちゃんと作っていればやっぱり音楽ってすごく評価されると思ってるし、自分たちもそこはすごく真剣に作ってますね。

なるほど。

山本:だからそれは、年を経て音楽に携わって良かったと思ってるし、自分はいい音楽を作ってきたっていうちょっと誇りみたいなものを感じてますね。

僕はそこまで前向きな気持ちになれないんですよね。たとえばいまは売れるものが売れる時代だって言われるんですね。90年代は売れないものも売れたんですよ。でもいまは売れるものしか売れない。だから売れるとみんな買うんですよ。というのがひとつある。音楽の力はあるんだろうけど、録音された商業音楽にもあるのかどうか。

山本:たとえばダンス・ミュージックって、ある意味消費されることを前提に作ってるじゃないですか。

はい。

山本:リニューアルがダンス・ミュージックの命っていうか、たとえば2年前のダンス・ミュージックをありがたがって聴くひとって少ないと思うし、つねに先端先端をリニューアルしていくことがダンス・ミュージックの使命だと思うんですよ。ここ数年はね。そういうものが消費されて、そこに音楽の力を感じないのは僕もそうなんですけど。それは僕も音楽本来の力じゃなくて、あれはああいうものなんですよ。ただやっぱり、いわゆるダンス・ミュージックと言われているなかでも、僕はリッチー・ホウティンなんかは――。

ムーグさんが、ホントに好きですね。

山本:やっぱりすごく深く見てて。曲のタイトルでもすごく共感できるところがあるんですよ。PVでタルコフスキーの映画をサンプリングして作っているやつがあるんですけど。

へえー。

山本:彼はすごくしっかりしたメッセージを持ってると思うし、それはいまの時代にちゃんと発信していると思ってるんですけど。まあ、リッチー・ホウティンがすごく面白かったのは数年前なんですけど。いまも、たとえば昨日シュガーで聴かせてもらったボーズ・オブ・カナダの新作なんかはいまの時代に対して、寡黙ですけどちゃんとメッセージしているんですよ。

まあそうですね。

山本:それは言葉で言わないで、音に込めてるんですよね。それがやっぱり音楽の力だと思うんですけど。あとウェブの使い方もすごくスマートで機能的だと思うし、ボーズ・オブ・カナダが僕はすごくいいと思いますね。まだ買ってないですから言えないんですけど、ウェブはざっと見て、すっごいわかりやすいなと思ったし。

なるほど。

山本:あとやっぱり、ダフト・パンクの新作とかも、まあいろいろあるんですけど、僕はダフト・パンクはすごく力を持ってるひとたちだと思いますね。彼らはメッセージはあんまり出さないけど、どっちかって言うとこう――。

僕はあれが売れるのは悔しくてしょうがなかったですけどね。

(一同笑)

なんかね......、ファレル使ってナイル・ロジャース使って、お金かけてディスコ・クラシックやって、まあいいんですけど(笑)。

山本:彼らはメッセージというか、ファンなんですよね。音楽の楽しさなんですよ。それはそれでひとつのあり方だと思って。......いいですよ、それで。

(一同笑)

山本:ただ僕はルーツとしては、世代的にパンク直撃だったんですよ。76年。それこそピストルズ超ハマって、で、ニューヨーク・パンクも好きでしたけど、最初はやっぱりロンドン・パンクがあったので。ハウスのときになってKLFとかコールド・カットにすごくハマったんですよ。そこはやっぱりイギリス人ならではのパンク・スピリットを感じたし。とくにKLFは超ハマってて、いまでも大好きですけど。ダフト・パンクはそれに比べると、やっぱりフランス人だし、あんなにポリティカルじゃないですけど。やっぱりブリティッシュ・パンク、ロンドン・パンクが好きですね、精神的には。

KLFといえば、ビル・ドラモンドの本を8月末に出しますよ

山本:ほんとに? うわ、楽しみ!

翻訳はほぼ終わってるんですけど。すっごい面白いですよ。

山本:でしょうね。

すっごい面白いけど、売れんのかなーと思って(笑)。

山本:でもそれは出す意味はすごくあると思いますよ。彼は『ザ・マニュアル』っていうのも出しましたよね。あれも僕はすごく好きで。

僕も大好きです(笑)。

山本:だってKLFっていちいち言うことが格好良くて。

その本はビルが自分で書いているので、どちらかと言えば格好悪い話が多いですけどね。KLFが作品を最後に出したのは......は「ファック・ザ・ミレニアム」が最後だよね? 弘石くん。

弘石(U/M/A/A株式会社代表):90年代後半に、2K 名義でリリースしたんですよね。

山本:ヒロシくんって呼ばれてるんだ?(笑)

いやいや、弘石くんです!

(一同笑)

お金を燃やしたりね。

山本:ちょっと現代美術なんかもあるし。

ていうかね、ビル・ドラモンドって、思っていた以上にアートのひとでしたね。あとね、ビルの一番の影響。「このバンドに比べたらローリング・ストーンズなんて酒場のハコ・バンドにすぎない」って言うぐらい大好きなバンドがあって、それがレジデンツなんですよね。

山本:すごいですね!

そうなんですよ。で、エコー・アンド・ザ・バニーメンのツアー中に、マネージャーだから付き添っていかなきゃいけないのに、リヴァプールにレジデンツが来るって言ってライヴを観に行ってるんですよ。83年ぐらいに。良い話でしょ!

吉永:へえー。

山本:......今度、飲みましょ。

そうしましょう。

(一同笑)

[[SplitPage]]

いまのマイブラの受け方っていうのは明らかに、暗い時代のなかで切ないけど......でもすごくフィットするんですよ。マイブラのあの感じが。フィッシュマンズの受け取られ方とちょっと似てるっていうか。

いや、ダフト・パンクはよくできてるなと思うんです。クオリティ的にもマーケティング的にも。とくに最近はダンス・カルチャー自体が専門化しすぎちゃっているんで、やっぱり途中から入るとついて行けないところもあるんですよ。アシッド・ハウスなんかは知らないひとがぱっと聴いても、とりあえず衝撃を受ければ入っていけたけど。でもいまはすごく細かく、たとえばルーマニア・ミニマルとか、ルーマニア人に罪はないですけど、ポスト・ダブステップとかそうだけど、それを取り囲むマニアのサークルがあって、あちこちで小宇宙化が進みすぎちゃってるし、EDMみたいな下世話なモノも多いから、ダフト・パンクが高価なディスコを打ち出してくると、そっちをみんな聴くのは自然だと思いますよ。スターダストとか、彼らは元々ディスコ愛が強かったし。ただ、日本で、売れるものしか売れないっていう状況はよくないと思っていて。90年代の日本の良さって、売れないものも売れたっていうところでしょう? そういう意味では、ムーグさんほど楽観的にはなれないところもあるんですよ。

山本:なるほど。ダフト・パンクの意見は僕説得されたんで......認めます。

ははははは。

山本:そんなに素晴らしくはないです、たしかに。ボーズ・オブ・カナダに比べたら、なんか軽い感じはします。

大野:(笑)

そうですね、ボーズ・オブ・カナダはディープですね。

吉永:ボーズ・オブ・カナダはさ、ハラカミくんがけちょんけちょんに言ってたじゃない? あれはなんでなの?

やっぱり、悔しいからじゃないですか。あんな評価されて。

吉永:(笑)それだけ? なんかね、「楽曲の作り方が安易だ」って怒ってたよ。

そうなんですよ。ボーズ・オブ・カナダの楽曲の作り方の基本はヒップホップだから、シンプルなんですよ。

山本:さあ、みんなで話し合いましょう(笑)。

(一同笑)

吉永:いやわたしさ、ボーズ・オブ・カナダが昔からすっごい好きで聴いてたんだけど。

いや、僕も大好き。

吉永:で、ハラカミくんとも仲良かったからいろいろやり取りしてたんだけど、彼はボロクソだったのよ。何でだろうって。

ははははは。やっぱ、同じフィールドにいたから、良い意味でライヴァル心があったんだよ。

吉永:でもね、怒ってたよ。「あんな安易な作り方で」みたいな。だからそれこそ、いまのダフト・パンクの「あんなもんが売れて」って話と同じような――。

いや違う違う、ダフト・パンクはプロフェッショナルな、よくマーケティングされたところでやってるなと思うんだけど、ボーズ・オブ・カナダは初期の頃は、ガレージ・パンクに近い。作りがラフで、日本人が得意とするような緻密さみたいなものはあんまりないんだよね。もっとざっくりしてる。

吉永:でもわたしそこが好きだったからな。ヒップホップ臭がものすごくするよね。

弘石:僕は90年代、ソニーに在籍して〈ワープ〉の担当してたから、彼らやエイフェックス、プラッドなんかの話をインタヴューでよく聞いてたんですけど、彼らって基本的にテクノ同様に、ヒップホップの影響をすごく受けてて。でも「黒人としてラップ表現するんではなくて、アティチュードとして白人のヒップホップを創ってる」っていうような発言してたんですよ。〈ワープ〉の社長も初期は、ロブとスティーヴ、二人で運営していて、彼らもすごくヒップホップのファンだったし。ビースティ・ボーイズの大ファンでしたね。

オウテカだってマントロニクスだもんね。

弘石: 初期の〈ワープ〉はテクノのレーベルをやってるつもりではなくて、サンプリングが自由だった頃の、ヒップホップの遊び心のようなものからスタートしていったんではないでしょうか。そういう意味ではヒップホップのグルーヴ感っていうのが彼らにはあったんじゃないですか。ヴィンテージ・シンセとかレコーディング方法にもすごくこだわってるんですよね、ボーズ・オブ・カナダは。

ビートメイカーに近いよね。もうループ一発で作るから、ハラカミくんとはスタイルが違う。どっちが良い悪いじゃなくて。

吉永:そうだよね。ハラカミくんは、自分で一から作ってるもんね。

山本:ヒロシの意見絶対入れてくださいね。

(一同笑)

話を戻すと、バッファロー・ドーターの『ニュー・ロック』の時代に切り拓かれたものが、ある意味ではまた元に戻ってしまったところもあるのかなって気がしないでもないんですよね。音的にも、レイドバック感のほうが強いし。


Buffalo Daughter
ReDiscoVer. Best, Re-recordings and Remixes of Buffalo Daughter

U/M/A/A

Amazon iTunes

山本:うん、うん。たしかにその通りだと思うんですけど。20年前はちょうど恵まれてたっていうか、オルタナティヴの後押しみたいなものがあったんですよね。バッファローの音楽ってすごく説明しづらかったんですけど、なんとなくざっくりオルタナティヴっていう感じで。まあレーベルもいろいろできてきてたし、なんかちょっとわかりやすかったっていうか。しかも海外と日本がオルタナティヴで繋がってた。『米国音楽』がまさにそういう感じだったんですけど。
 いまはたしかに、そういう後押しの感じはあんまないんですけど。ただ僕が個人的に思うのは、バンドでツアーして海外行ってアメリカ・ツアーっていうのが若者の夢だったんだけども、いまってたぶん直接肉体的に行かなくても、それこそウェブ上でどんどん繋がっていくじゃないですか。〈U/M/A/A〉が抱えているアーティストとかって、基本的にデスクトップで作ったものをニコニコ動画とかに上げて、それが評価されてメジャーになったみたいな。たぶんそれは次に海外に出て行くと思うんですよ。それも最初はネット上で出て行くだろうし、それはすでに出てると思うんですよ。で、そうなると向こうの要望が強まるから、きゃりーぱみゅぱみゅとかが海外に行くように、デスクトップで音楽を作っている若いミュージシャンもたぶん海外に実際に行って、何かしら演奏するっていう流れは僕らの時代にはなかったですね。

たしかにラップトップ・ミュージックは活性化してるんですけど、ネットの世界もけっこう狭いサークルに陥りやすいというか、逆にそっちの幻想が膨らんで、バッファロー・ドーターみたいなライヴ感がいまひとつ欠けているというか。

山本:僕らの時代ではギター、ベース、ドラムでバンドをはじめるっていうのが普通のやり方だったんですけど、もしかしたらいまってラップトップではじめるほうがスタンダードになりつつあるのかなっていうところもあって。実際ガレージ・バンドでひとりで作ってるところからはじまった女の子のバンドとか知ってるんですけども、とりあえず簡単にできるじゃないですか、手っ取り早く。で、それで1回形を作って評価された後に、今度は必ずそういうひとってライヴ対応しなくちゃいけなくなるんで。そこで敢えてドラム入れてみるとか、生の要素を入れてみるとか。たとえばマウス・オン・マーズとか、テクノのアーティストってそういう風なやり方しますよね。打ち込みで作ったものを生ドラムでやったりとか。国内だとデ・デ・マウスとか、逆にデータから生へっていう。だからいまラップトップで作ってる子も、そういうこと絶対やり出すと思うんですよね。必要に駆られて。そこはすごく期待してますね。

時代の変化に対応するための具体的な展開ってありますか?

山本:なんかね、対応していこうとか時代に追いつこうとかってあんまり意識してなくて、自分たちもたんに音楽ファンで、「最近どういう風に音楽買ってる?」みたいな。シュガーはけっこうデジタルで買ってたりもするし。だったら自分たちもこういう形で出しても自然だよね、みたいな。

吉永:でもなんかね、うちはアルバムとアルバムの間隔が長いじゃないですか。だって20年もやってんのに、6枚しか出てないってさ(笑)。でも意図してそうやってるわけじゃなくて、やっぱり完成形が見えるまでに時間かかるものがあったりとか、あと誰かがバッファロー・ドーターやる気分じゃなかったりとかね。そういうのもあるから、それは必然的にそうなってるんだけど。でもいまは簡単じゃないですか。それこそサウンドクラウドに今日作った曲をぱっとアップするとかね。あれはなんか、面白いなってちょっと思ってる部分もあって。わたしたちは腰が重かったんだけど、そういう発し方っていうのは、ちょっとやりたいなっていうのがあるんですけどね。

ほう。

吉永:だから由美子といっしょにふたりで普段から何か作ったりしてるんです。なんだけど、それを完成形にしてバッファローのアルバムに入れるにしては、なんかちょっとバランスも違うし、みたいな楽曲もあったりするんですよね。そういうのとかを、何かそういうメディアを使って「Today's Menu」じゃないけど、そんな感じでぱっと出せるようなスタンスっていうのは楽しいなと思って。いままでは自分たちで作ったものは自分たちでしか聴いてないけど、それに対する反応なんかを聞けたら楽しいしなー、とかね。バッファローを全然知らないひとがそれを聴いてくれたりしたら楽しいかなー、とか。っていうのはありますけど。

[[SplitPage]]

やっぱ端っこなんじゃないですか。ついこのあいだまで日本のメジャーのバンドのお手伝いをしてたんだけど、まったく違うもんね。ほんとにうちって極端なところにいるんだなってよくわかった。

なるほどね。さっきアメリカ・ツアーとおっしゃいましたけど、バッファロー・ドーターにとってはアメリカが一番近かった外国ですよね、きっと。

吉永:そうですね。

僕は、いろんな国の音楽シーンがあるなかで、アメリカがこの10年とくに面白く変わったなっていう印象があるんですよね。1周回ってしまったというか、いちどレコード屋さんが全部なくなって、そしてまたいまできはじめている状況もあるし。

山本:え、またできてるんですか?

インディでやってる若い世代がアナログ志向になってるんで。

山本:ああー。

インディ文化、DIY文化は、いまのアメリカはすごいですよ。生まれたときには家にCDしかなかった世代がメインなんですけど、彼らの活動の象徴が、ヴァイナル、カセット、ライヴ活動で。配信はあるけどCDは作らなかったり。

山本:カセットってダウンロード・カードは入ってるんですか?

入ってるのと入ってないのとありますね。入ってないのが多かなー。

山本:じゃあ敢えてカセットで聴けっていう。

録音音楽の形態はカセットとアナログ盤に帰結するという、結局は20世紀のものなんですよ。

山本:下北に「ワルシャワ」があった頃すごくカセットを推してて。

そうそう。

山本:「ワルシャワ」なくなっちゃったんでしたっけ?

なくなっちゃったんですよー。

山本:あそこでサン・アローを推してて。サン・アロー僕すっごく好きなんですよ。

ははははは。だからサン・アローみたいなものが日本では売れないんですよ。アメリカだとSXSWの大きいホールが満員になるぐらい人気があるんですけど。これは海外のアーティストやDJからもよく言われますよ。海外から日本を見ても、この10年っていうのはすごく温度差を感じているんですね、インディでもクラブでも。

山本:たしかにいまの日本の音楽シーンって海外に対して閉ざしてますよね。

たとえばいま日本で売れる洋楽って、ニュー・オーダーとかさ。

山本:ああ、オヤジが買ってるんですか。

そう(笑)。

吉永:オヤジが買ってるって(笑)。

プライマル・スクリームとかマイブラとか。だからきっと僕の世代が頑張って買ってるんですよ(笑)。

吉永:でもそれはファンだから買うんでしょ? 20年前からファンだから。

その世代のものは相変わらず売れるんですよ。でも、ひとつ例を挙げれば、いまUSでは、もうインディとは呼べないくらいすごく売れているヴァンパイア・ウィークエンドみたいなバンドがいるんですけど、日本でもまあ健闘はしているほうですけど、ニュー・オーダーとかあの世代には敵わないっていうね。

一同:......。

ほら、だんだん後ろ向きな気持ちになってきたでしょう(笑)?

一同:はははははは!

山本:いや、メディアのひとはたいていネガティヴなんですよ。

吉永:なんでヴァンパイア・ウィークエンドは日本で売れないの?

いやいや売れてますよ。売れてますけど、アメリカとの温度差はハンパないですよ。

吉永:アメリカでは大スターだよね。もうだって、サタデー・ナイト・ライヴとか出てるよ?

(スタッフの方含め、全員で議論が盛り上がる)

だから80年代末から90年代初頭のやつが売れるんだよね、大概。

山本:明らかにオヤジが買ってるじゃん。

そう(笑)。

吉永:だから若いひとたちが買わないってことだよね。

いや、若いひともオヤジのロックは買うの(笑)。『ラヴレス』が出た頃より、オヤジになったケヴィン・シールズをみんな買うんですよ。

山本:いや、あれはオヤジになったケヴィン・シールズじゃないですよ。シューゲイザーのあの切なさがこの不況の時代にマッチするんですよ。

それもあると思いますよ。

山本:いや、「それも」じゃなくてそれですよ。

一同:はははははは!

吉永:その言い方でいうと、だからヴァンパイア・ウィークエンドが売れないんじゃない? マッチしてないんじゃない?

山本:マイブラに関しては僕は語りますよ。

なんでですか?(笑)

山本:いや、僕IKEBANAってバンドをちょっと前までやってたんですけど、それはパートナーだった子がマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのことがすごく好きで、彼女からいろいろオルグされて、フジロックもマイブラだけを観に行きましたし。

(笑)すごいですね。ムーグさんをオルグするって大変だよね。

山本:あとデヴィッド・バーンがこの間来たときに聞いたんですけど、デヴィッド・バーンはマイブラが好きなんですよね。それが面白くて。

マイブラが悪いわけじゃないんですよ(笑)。

大野:アダム・ヤウクも好きだったよ、マイブラ。

山本:でもいまのマイブラの受け方っていうのは明らかに、暗い時代のなかで切ないけど......でもすごくフィットするんですよ。マイブラのあの感じが。フィッシュマンズの受け取られ方とちょっと似てるっていうか。

フィッシュマンズやマイブラみたいにリアルタイムよりもファンを増やしていくようなタイプのバンドっていますよね。マイブラが売れることに関しても、評価が定まっているクラシックっていうか、ロックって、再結成だとか、再発だとか、そんなのばっかでしょ。あと、ムーグさんが言ったように、日本の音楽シーンって、政治的になっていますよね。それはそれで良い面もありますが、音楽っていうのはそれだけではないって僕は思っていて。たとえば、90年代の日本では売れないものも売れたという言い方をしたのは、多様性があったということなんですよね。

山本:そうですね。

とくにアメリカは多様性が際立っているんですけど、いまの日本の音楽には多様性が見えないっていうか。それって危険なことだなって思うんで。ヘイトじゃないけどね、自分と違うものを否定してしまうことになりかねないじゃないですか。だからいまの若い子たちに90年代の自慢をして、バッファロー・ドーター20周年を盛り上げるっていうのはどうかなって(笑)。

吉永:(笑)

山本:自慢するっていうのはなんか......(笑)。

寒かったすね(笑)。でも90年代の音って、いま若い子にも売れてるから。その線で行けばバッファロー・ドーターの20周年記念盤は売れますよ。

山本:ああー、じゃあそういう風にして売っていこうか。あの、任せます。

はははは。いや、わからないですけど。

山本:でもたしかに、さらに遡ればパンクの後のニューウェイヴもそうだったんですけど、いったん焼け野原になったあとにすごくいろんなものが出てきて、自由でしたよね、あの頃って。

そうですよね。

山本:それがオルタナティヴの頃もちょっとあって。それこそ「シスコ」のラウド店に行くと、知らないものがどんどん入れ替わっていくっていう楽しさがあって。いろいろなものに対して自分たちも受け入れられるっていう、そういう自由さはありましたよね。

あ、わかった。バッファロー・ドーターはあれだ、レッド・クレイオラになればいいんだ。

山本:知らないよ(笑)。

初期〈ラフ・トレード〉の精神的な支柱ですよ。

山本:メディアのそういう見方に対して、僕らは「そうじゃないです」とか「そうです」とかって言わない、っていうかそれはメディアを持っている方の署名で原稿書かれているわけですから、僕はその解釈の仕方は自由だと思うんですけれども、個人的には、かなりピンと来てないです(笑)。

[[SplitPage]]

自分で聴いたことのない音楽を作りたいっていうか。ときどき歩いていると、すっごいやかましい音楽とか音とか鳴らしてる車があるとすっごいムカつくんですよ。ああいう公害な音楽は絶対に作らないとか。


Buffalo Daughter
ReDiscoVer. Best, Re-recordings and Remixes of Buffalo Daughter

U/M/A/A

Amazon iTunes

シュガーさんのエネルギーの源って何なんですか?

吉永:それは昔から変わらないですけど、やっぱ、自分にとって新しいものをつねに発見する。っていうか、つねに何かはあるんですけど。それがモチベーションですね、やっぱり。音楽もそうだけど。昔ほどレコード買わなくなったとはいえ、やっぱりモチベーションはいろいろあるから。

なるほど。すごくヴァイタリティを感じるんですよね。

大野:お肉食べないんだけど、一番血が濃い感じで。

はははは。行動力というか何というか。バンドのなかで役割ってどうなってるんですか?

山本:由美子さんがまず一番最初に「これをやりましょう」って言うんですよ。それは間に合わなくなるから。

はははは。それは仕切り屋ってことですか? そうじゃなくてタイム・キーパーとか。

大野:一番気にしてるひとなのかな。

ああー。じゃあ大人?

大野:全体的に見ているひと。

山本:やっぱ彼女は私生活も忙しいし。

だっていろいろと他のプロジェクトにも参加されてますしね。

大野:うん。でも好きだからやってるんだけど。でもそういう風に考えると、一番こう、クリアに自分のバンドが見えてるっていうか、自分のバンドがどういう立ち位置にいるっていうことが一番わかってるっていうか。

ああ。いまどういう立ち位置にいると思います?

大野:やっぱ端っこなんじゃないですか。

ははははは! 素晴らしいじゃないですか、端っこ。

大野:うん。ついこのあいだまで日本のメジャーのバンドのお手伝いをしてたんだけど、まったく違うもんね。ほんとにうちって極端なところにいるんだなってよくわかった。けど、彼らはわたしたちの音とかの新鮮な部分をチラッと見せるとものすごく喜ぶのね。話をしたりすると、みんなすごく聞きたがるの。うん、だから、教えていく立場にだんだんなってきたのかなって(笑)。

ああー。

大野:って思いながら手伝ってたんだけど。まったく違うところにいた。その分最初ちょっと大変だったけど、時間が経ってくるとだんだん楽しくなってきて。っていうのはありますね。

外から見てると、シュガーさんが引っ張っていって、ムーグさんが頭脳って感じなんですか? 極端に言っちゃうと。

大野:編集のひとなんだって思う。まとめるのが上手い。

山本:僕はほんとに一番最初に「これやろう」って言い出して、シュガーがそれを理解した瞬間、すっごいスピードで動くんですよ、彼女が。で、僕は最初はボーッとしてるんですよ。で、8割方見えてきたときに急に目覚めて、「これはこういう意味なんだ」ってことを勝手に位置づけるんですよ。それをもう1回ふたりに返す。だから最初に客観的に見るひとですよね。ある意味、メディアの方にちょっと近いんですよ。で、実際そういう仕事もしてましたから。

そうですよね。書かれてましたよね。

山本:「これってこういうタイトルだな」とか、ジャケットとか、実際音が上がってからじゃないですか。それに対してどういう風に見せていくかとか。そういう感じですね。で、それで僕が意味づけを提案すると、シュガーは歌詞を書くから彼女のなかにも確固たる意味があるし、由美子は由美子で自由に感覚的に感じ取ってるものがあるから、それをもう1回3人でやって、それがぎゅうっとひとつに収縮したときにはじめてアルバム・タイトルとかになっていくんですよ。

じゃあ、シュガーさんはそういうときに心臓みたいな感じ?

大野:わたしが困ったこととか相談すると、ぐわーって「じゃ、こうすればいい、こうすればいい」みたいな感じで全部(笑)、解決策をクリアに出してくれる。わたしけっこう、モヤモヤモヤッってするとけっこう困っちゃうから(笑)、訊くと解決策をクリアに出してくれたりするし。

なるほどね。今回もシュガーさんが海外との交渉なんかをされたんでしょうか。

山本:今回の選曲をニックさんと提案したのもシュガーだし。その辺はほんと信頼して任せたって感じですよ。

なるほど。シュガーさんが新しいことをやることが原動力なっているって話をされてましたけど、おふたりはどうなんですか?

大野:それはたしかにそうかも。自分で聴いたことのない音楽を作りたいっていうか。ときどき歩いていると、すっごいやかましい音楽とか音とか鳴らしてる車があるとすっごいムカつくんですよ。ああいう公害な音楽は絶対に作らないとか。

はははは。

大野:そういうのがちょっと原動力になったりする。それはあんまりいい意味じゃないけどね(笑)。っていうときもあるし、基本的には自分で聴きたい音楽を作りたいっていう。新しい形っていうかちょっとわかんないけど、聴いたことのない音楽を作りたいっていうか。いつもね。

なるほどね。ムーグさんはどうなんですか?

山本:僕はパンクとニューウェイヴをそれこそ18、9で体験して、ほんとに焼きついちゃったんですよね。で、自分にとっての一番大きい体験だったんで。ニューウェイヴの使命って、つねに新しくあるべきっていう。新しいってことが価値だったじゃないですか。あと自由っていう。それの焼きつきがあまりにも強いんで、つねにそこを求めちゃうんですよね。それが自分のなかにとっての伝統なんですけど(笑)、だから同じ音楽に留まっていくことができなくて。単純に好きですよね、新しい音楽が。ある時期は過去の音源で誰も知らなかったものに新しさを見出したこともあるし。いまは音楽じゃないんですけど、新しい文化ですごく面白いと思えるものがいくつか出てきたんで、それはすごく嬉しいですね。

たとえば?

山本:僕がいまハマってるのが、ジョン・ラフマンっていうカナダの現代美術のひとなんですけど、そのひとはインスタレーションもやるし映像も作るんですけど、映像がめちゃくちゃいいんですよ。あともうひとつは、スケーターが面白くて。
 
山本:あとロンドンにもスケーターの面白い連中がいて。なんか家の近所に歩いてたら小さいショップができてて、入ってみたらスケーターの店だったんですよ。で、そこでその〈ポーラー〉のTシャツ買って、「スケーターなのにこういうデザインなんですよ」って言われて、たしかにそういう感じなんですよ。いわゆるスケート・カルチャーって西海岸イメージだったんですけど。それが世界中に飛び火してて。あとカナダにも面白い連中がいてて。その3つをいま追っていて。あとでURL教えるんで。

デザインが面白いんですね?

山本:なんかトータルで面白いんですよ。ちょっと語りつくせないんですけど。山本:あとね、南米のブエノスアイレスかな。〈ZZK〉っていうレーベルってご存じですか? デジタル・クンビアってざっくり言われてるんですけど。そこはPVとかも面白くて。で、わりと映像主導型で物事が好きになってますね。まずYouTubeから入って。

吉永:そもそも映像だもんね。映像っていうか画像っていうか。

山本:うん、もともと静止画フリークだったんだけど、映像面白いですね、最近。あとはやっぱりアモン・トビンみたいなひとも、ライヴのセットを映像とトータルなものにしているっていうのも。で、リッチー・ホウティンもそうだったじゃないですか。LEDのコクーンっていうを作って完全シンクロして。音楽単体じゃなくて、必ず映像がついて。

そういうことをバッファローでやってみようって計画はいまあるんですか?

山本:やってみたいんですけど、なかなか大変なんで。でも今回ので、ちょっとヴィデオを作ったりして、それに関わらせてもらったりはしてますね。

ちなみに、次の新しいアルバムの構想があるという噂を聞いたんですが。

吉永:半分ちょっとぐらい。

それはいまの時点で言えることはどんな感じでしょう?

吉永:うちね、最後の最後まで言えないんですよね、なんかね。

山本:変わるからね。

吉永:最後にガッと変わるから。

なるほど。

吉永:いま言ってもたぶん変わるから(笑)。曲は変わんなくてもね。最後の仕上げが関わったりとか。前のアルバムもそうだったんだけど。だから難しいですけど。

バッファロー・ドーターってアルバムにつねにテーマがあるじゃないですか。コンセプトというか。そのコンセプトは決まってる?

吉永:それがだから、大概最後なんですよ。

ああ、最後ね。

吉永:最初はじめるときにもちろんあるんだけど、それが最後に違うものに変わったりするから。今回はじめるときはディスコって言ってはじめたんですけど、すでに気分はもう変わってきてるし、わかんないですよね、自分たちとしても。

なるほど。

吉永:でも最後にガッと変わったときは3人がすごく一致したときだから、ものすごいエネルギーでフィニッシュに向かうんですけど。いままだ漠然としている部分が少しありますよね、やっぱり。曲は具体的に上がってきてるんだけど。その最終的なまとめ方っていうか見せ方っていう部分では、ちょっとまだそこまで辿り着いてないから。

じゃあ、最終的にはどうなるかわからないけれども、入口をディスコにしたのは何でなんですか?

吉永:それは21世紀美術館でピーター・マクドナルドさんっていうイギリスのアーティストが、展示をやってたんですよ。そのときに一番大きな部屋の壁全体が彼の絵になっていて。それはかける絵じゃなくて、壁自体に絵が描いてあって。それがブロック・パーティみたいなものをテーマにしたもので。彼が子どものときにそういうものを経験したんですって。それがすごく楽しかったっていうイメージで、それを絵にしたっていうのがあって。
 で、絵だからすっごく大きな部屋なんだけど、シーンとしてるんですよ。美術館だし。それが彼としては何か違うっていうのがあったらしくって、そこに音をブチ込みたいと。で、絵を描いていたときにバッファローをよく聴きながらやってたんですって。だから「その音楽が流れてきたら嬉しい、ここで何か演奏できないか」っていうことを言われて。じゃあそれは面白いからやってみましょう、みたいな感じで。で、「どういうことをやりたいの?」って訊いたら、「ブロック・パーティで気分はディスコなんだ」って。「そういう楽しいものをやりたいんだ」って言ったから、ディスコねえー、ってそのときは思ったんですよ。だって『ウェポンズ』(『The Weapons of Math Destruction』)出した直後だったから、あのアルバムはどう考えてもディスコじゃなかったから。

ははははは。

吉永:気分はパンクだったから、あのとき。だからディスコかーって思ったんだけど、そもそもわたしたちベースとしてディスコ・ミュージック好きだから。ディスコ・ミュージックっていうかね、バンドがやるディスコ・ミュージック、ESGみたいなのが好きなわけじゃないですか。

はいはいはい。

吉永:ブロック・パーティっていうのもそうだし、ESGみたいなのいいね! って盛り上がって。

いいじゃないですか、それ。

吉永:で、曲をそれ用に作ったりして、そのときがすごく自分たちで楽しかったから。美術館でやるっていうその経験も楽しかったし、自分たちてきには。

なるほど! それが入り口だったわけですね。ちなみに完成はいつを予定されてるんですか?

山本:さっき聞いたのは来年の――。

さっき聞いたって誰に聞いたんですか(笑)?

山本:さっきシュガーに。来年の夏前にできてる、みたいな。

大野:寒い時期に発売できたらいいけど、無理かなー、わかんない(笑)

それは難しいんじゃないですか(笑)。なるほど、わかりました。じゃあそれを楽しみにしています。

山本:ありがとうございます。

 追記:この取材を終えてから、僕は山本ムーグとたまたま行ったライヴで一緒になり、そして3日連続で街中で偶然会った。早く飲みにいかねば!

マキ・ザ・マジック追悼文 - ele-king

 僕はマキ・ザ・マジックの男臭さが大好きだった。あの男臭さをダンディズムや男の美学と言い換えてもいいかもしれない。いずれにせよ、あの男臭さは古き良き日本男児のそれだったけれど、けっして排他的で窮屈なものではなかった。マッチョだったけど、他人の意見や生き方を力任せにねじ伏せて、自分の価値観をごり押しするような狭量で退屈なものではなかった。

 そして、もちろんマキ・ザ・マジックのその態度は、女性のファンやリスナーを遠ざけるものでもなかった。というよりも、「男の美学とか言っちゃってさ~、うふふふふ♪」というような女性のいけずな視線も意識していたように思う。その上で、「でも、やってやるんだぜ! オラ!」という清々しい覚悟があった。実際に僕はマキ・ザ・マジックが大好きな女性をたくさん知っている。

 マキ・ザ・マジックには、オトナの男の自虐性と客観性とサディズムが絶妙に入り混じった年季みたいなものがあって、それを僕はとても魅力的に感じていた。彼の作るトラックには細かいことを吹き飛ばす開放感があったし、ラップには毒と笑いがあって、しかもドロドロの愛とびしょびしょのエロがあった。曲のなかでセンチメンタルなムードになっても、我慢しきれずにちゃぶ台をひっくり返してしまうような、昭和生まれの日本男児の照れと不器用さがあったように思う。どんなに下衆でアホで乱暴なことをラップしていても愛嬌があって、キュートで、キモカワ系の愛くるしさがあった。僕は、相方CQとのラップの掛け合いを聴くと、ゴーストフェイス・キラーやレイクウォンを愛するアフロ・アメリカンの気持ちが少しわかるような気がした。


キエるマキュウ
Hakoniwa

第三ノ忍者 / Pヴァイン

Amazon iTunes

 告白すれば、キエるマキュウが昨年発表した、じつに9年ぶりとなる傑作『Hakoniwa』で僕はマキ・ザ・マジックのファンになった。ヘッズとしては失格かもしれない。もちろん、過去の作品も聴いていた。けれども、日本のヒップホップ・シーンで長いキャリアを誇る、この先達の偉大さを改めて思い知らされたのは、『Hakoniwa』の素晴らしさからだったのだ。でもきっと、そういう音楽ファンも多かったのではないだろうか。キエるマキュウは、『Hakoniwa』をリリースした後、ライヴ・ハウスでのライヴが増えていた。

 僕はここで自分なりにマキ・ザ・マジックの遺したものについて語りたい。伝えたいと思う。
 マキ・ザ・マジックのトラック・メイキングはサンプリングにはじまり、サンプリングに終わるものだった。『Hakoniwa』の9割のトラックは、彼が作っていた。ソウル・ミュージックやダンス・クラシック、オールドスクール・ヒップホップの大胆なサンプリングは、けっしてノスタルジーに甘んじるようなものではなかったし、流行ってはいるが魂のない音楽を「コノヤロー!」と蹴散らす威勢のいい反時代的態度があった。そう、僕がマキ・ザ・マジックを初めて、いまは無き恵比寿の〈みるく〉で観たとき、容赦なく当時ヒット・チャートを賑わせていたラッパーをディスり、MSCを褒め称え、「シーンを面白くしようぜ!」と缶ビール片手に演説していた。2006年のことだ。去年ライヴで観たときもよく喋り、大きくてごつい体をくねくねと捩じらせながら意味不明の身体パフォーマンスをくり広げていた。どちらも、会場は爆笑だった。

 僕より若い世代になると知らない人もいるかもしれないが、マイクロフォン・ペイジャーの日本語ラップ・クラシック"病む街"のトラックの作者はマキ・ザ・マジックで、96年にはマキ&タイキとして『ON THE1+2』という4曲入りのEPをリリースしている。MIXCDもたくさん発表していた。DJ/トラックメイカーとしてキャリアをスタートさせた彼がラップをするようになるのは、キエるマキュウが2000年に発表したデビュー・シングル『NANJAI』からだ。その事実は、親しい人のあいだでは衝撃だったと、ライムスターの宇多丸氏のラジオで知った。あの世代でいち早くMSCを評価し、トラックを提供したのもマキ・ザ・マジックだった。そして、ライムスターの『ダーティーサイエンス』ではキエるマキュウのイリシット・ツボイがプロデューサーとして大々的にフィーチャーされ、マキ・ザ・マジックも1曲提供している。あの作品にラッパーとして唯一参加しているのが、キエるマキュウのラッパーのふたりだった。

 定番の曲を参照しながら、マニア心をくすぐる仕掛けをいくつも用意するのもマキ・ザ・マジックの技だった。少なくないレア盤を贅沢に使っていたに違いない。イリシット・ツボイのツイートをあるとき見て、『Hakoniwa』のサンプリングはすべてがオリジナルの7インチからであることを知った。それはもちろん偏屈な拘りなんかではなくて、これぞフェティシズムの凄み! というもので、『Hakoniwa』の叩きつけるようなビートとノイズを聴けば、そうでなければならない理由がわかるはずだ。
 そしてそこにマキ・ザ・マジックは、三島由紀夫の『豊饒の海』、夢野久作の『ドグラ・マグラ』、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』といった文学から、SF小説やビートニクの詩、エミール・クストリッツァの映画からインスパイアされたラップをぶち込んだ。

 マキ・ザ・マジックはブログやツイッターでよく政治的な発言もしていたが、けっして政治思想を音楽に反映させなかった。マキ・ザ・マジックがクラスやザ・クラッシュの熱狂的ファンだったことはよく知られている。パンクの人でもあった。が、政治思想的には生粋の保守だったのではないかと思う。それを矛盾という人もいるかもしれない。でもね、そういうことを吹き飛ばす凄まじいエネルギーがあったんだよ。そのエネルギーが何か、僕にはまだはっきりと説明できないのだけれど、マキ・ザ・マジックの音楽を聴けばわかるはずだ。

 じつは僕はご本人と面識はなかった。でも、僕はきっとこの人といつか酒を飲みながら、音楽や政治や社会の話、しょうもないバカ話をくり広げてガハハハッと笑うときが来るのではないかと、僭越ながら勝手に信じていた。
 とにかく僕がここで言いたいのは、マキ・ザ・マジックの存在を心強く感じていたということだ。そして、「なんで、こういう人が早死にするんだよ」という残念な気持ちでいっぱいだということだ。7月14日に亡くなられたとき、まだ46歳だったことを知った。若すぎますよ。マキさんを知る方々の声を聞くと、湿っぽいのが嫌いな方だったのだろうと思う。
 しこたま酒を飲んだ朝方、"Somebody Got Murdered"を聴きながら、中野の町を歩いた。涙と笑いが止まらなかった。マキ・ザ・マジックは偉大だ。

乾杯 これが最後の杯 生まれてきたのが 最初の運の尽き
女神にKiss ケツにKiss どっちにしても墓場で笑う
今も昔も変わらない人生 清清するさ この世から Fade Away
息が止まる程飲む今日 天国へいくのさ リービング・トウキョウ "Somebody Got Murdered"

工藤キキのTHE EVE - ele-king

 285 KENTはサウスウィリアムズバーグにある中箱のウェアハウスで、がらんとしたダンスフロアとステージとチープなバーがあるだけのシンプルな箱だ。その285 KENTで月1ペースで開催している「Lit City Rave」は、Jamie Imanian-Friedmanこと J-Cushが主宰するJuke / Footworkのレーベル〈Lit City Trax〉がオーガナイズするパーティ。たぶん私が出入りをしているようなダウンタウンまたはブルックリンのパーティのなかでも極めてクレイジーで、この夜ばかりはステージの上も、DJの仲間たちの溜まり場になるステージ裏も、一応屋内喫煙が禁止されているNYで朝の5時までもうもうもと紫の煙が立ちこめている。
 基本的には、Chicago House直系のベース・ミュージック──Ghetto Houseから、Grime、Dub Step、UK Garageなどのビート中心で、特にJuke/FootworkをNYで逸早く取り上げたパーティだと思うし、例の'Teklife'という言葉もここではCrewの名前として日常的に、時に冗談めかしで使われている。

 DJ RashadやDJ Manny 、DJ SpinnそしてTraxmanはこのパーティのレジデントと言っていいほど「Lit City Rave」のためだけにChicagoからNYにやって来て、彼らのNYでの人気もここ数年の〈Lit City Trax〉の動きが決定づけたと言ってもいいんじゃないかな? さらに興味深いのがTRAXを経由したChicagoのミュージック・ヒストリーをマッピングするように、DJ DeeonなどのOGのDJ/プロデューサーから、Chicagoローカルの新人ラッパーのTinkやSASHA GO HARDが登場したり、ARPEBUことJukeのオリジネイターRP BOOのNY初DJ(!)などを仕掛けるなど、そのラインナップはかなりマニアックだ。
 本場ChicagoのようにMCがフロアーを煽るものの、Footworkersが激しくダンスバトルをしている......というような現場は実はNYでは遭遇したことがないかも。人気のパーティなので毎回混んでいるし、誰しも踊り狂っているけど、パーティにRAVEと名はついているものの俗にいう"RAVE"の快楽を共有するようなハッピーなものではない。はっきり言って毎回ハード。アンダーグラウンドで生み出された新しい狂気に満ちたビートを体感し、自らファックドアップしに行くといったとこだろう。振り落とされないようにスピーカーの横にかじりつきながら、踊るというよりもビートの粒を前のめりで浴びにいくような新感覚かつドープでリアルなセッティングで、本場Chicagoのパーティには行ったことがないけど毎回「果たしてここはNYなのか?」と思ってしまう。

Pphoto by / Wills Glasspiegel

 J-Cushは実はとてもとても若い。LONDONとNYで育った彼は、Juke/FootworkがGhetto Houseの進化系としてジャンル分けされる以前からDJ DeeonなどのChicago Houseには絶えず注意を払っていた。2009年頃からChicago Houseの変化の兆候をいち早く読み取り、一体Chicagoでは何が起きているのか? とリサーチをはじめた。それらの新しいChicagoのサウンドは彼にとってはアフリカン・ポリリズムスまたはアラビック・マカームのようにエキゾチックであり、UKのグライムのようにフューチャリスティックなサウンドに聴こえたそうだ。それからはJuke/Footworkを意識して聴くことになり、〈Ghettotechnicians〉周辺や〈Dance Mania〉のカタログを総ざらいした。
 その後NYでDJ Rashadと出会うことになり彼が生み出すビート、圧倒的かつ精密なまでにチョッピング、ミックスし続ける素晴らしくクレイジーなプレイに未だかつてない程の衝撃を受け、それに合わせて踊るQue [Red Legends, Wolf Pac] や Lite Bulb [Red Legends, Terra Squad]というFootworkersにもやられた彼は、Chicagoのシーンにのめり込むことになり〈Lit City Trax〉というレーベルを立ち上げるに至る。

 NYのパーティは割とノリと気分、ファッション・ワールドの社交の場になっているものも多く、「Lit City Rave」のようにビートにフォーカスし、かつ毎回趣向を凝らしたラインナップで続けているパーティは案外少ない。東京とブリティッシュの友人たちに多いギーク度、新旧マニアックに掘る気質がやはりJ-Cushにもあるし、そして彼は単なるプロモーターでは無い。ジャンルを越境できるしなやかなパーソナリティを持っているし、ストリートからの信頼もあつく、気鋭のビートメイカーたち、Kode9、Oneman、Visionist、Brenmar、Dubbel Dutch、Durban、Fade to Mindのkingdom、Mike Q、Nguzunguzu、もちろんTotal FreedomやKelelaなども早い段階から「Lit City Rave」に招聘している。

Photo by Erez Avis

 J-Cush自身もDJであり、常日頃から新しいビートを吸収しているだけあってスタイルはどんどん進化しエクスペリメンタルなGarageスタイルがまた素晴らしい。そのプレイは先日『THE FADER』や『Dis Magazine』のwebにMixが上がっているので是非チェックしてみて。
 さらにJ-CushとNguzunguzuとFatima Al Qadiriで構成された'Future Brown'というCrewでトラックを作りはじめていたり、今後の「Lit City Rave」ではUSのGrimeや、さらに地下で起きているアヴァンギャルドなダンスシーンを紹介していきたいと語っていた。
 そんなわけで、先週の「Lit City Rave」ではドキュメンターリー映画『Paris Is Burning』で知られたBallのダンス・パーティの若手DJとしても知られている〈Fade To Mind〉のMike Qがメインで登場。こっちのダンスシーンもプログレッシヴに進化を遂げているんだなと、ヴォーギング・ダンサーズのトリッピーな動きに釘付けになったのでした。

https://soundcloud.com/litcity

Lit City Traxからのリリース
https://www.beatport.com/release/teklife-vol-1-welcome-to-the-chi/919453
https://www.beatport.com/release/teklife-vol-2-what-you-need/982622

Download a Mix from Lit City Trax
https://www.thefader.com/2013/08/02/download-a-mix-from-lit-city-trax/

J-Cush XTC MIX
https://dismagazine.com/disco/48740/j-cush-xtc-mix/

Housemeister - ele-king

 ナイアガラのクラウス・ワイスやガビ・デルガドーのソロ・アルバムなど、ジャーマン・ファンクにはまったくといっていいほど揺れがなく、ダンス・ミュージックとしてはかなり厳しいものがある。同じことがジュークを取り入れたジャーマン・エレクトロのハウスマイスターにも言える。

オープニングは"東京"。


 4作目はタイトルにもなっている通り、DJで世界を回りながら、それぞれの土地でOP-1だけを駆使してつくったそうで、なるほどジュークの質感は上手くトレースされている。チープで痙攣的。ジャーマン・エレクトロとして考えれば、ディプロを意識したらしきシャラーフトーフブロンクスに続く新機軸と言える。

M4"ニュー・ヨーク"。


 リズムに揺れがないからといって、楽しめないということはない。同じようにつくろうと思ったかどうかもわからないけれど、同じようにつくれないからこそ違う良さが出てくることもある。ジュークが基本的にセクシーな音楽だとすれば、『OP-1』で肥大しているのは過剰なまでのガジェット性である(ホルガー・ヒラーやダー・プランがもしもジュークをやったら......)。

M6"メキシコ・シティ"。


 ドイツ人の笑いというのは、それにしても不自然である。放っておくと観念論に走りやすいので、異化効果をもたらすためにはどうしてもそうなってしまうと三島憲一だったかが書いていた覚えがあるけれど、そのこととリズムに揺れがないこともどこかで繋がっているのだろうか。日本人がつくったハウスは重すぎてつなげないとはよく言われるし、きっと日本人がつくるジュークにも特有の民族性は滲み出てくるだろうから、それはもう少し先の楽しみということで。

M8"シカゴ"。


 ジュークのご当地である"シカゴ"では、むしろドイツっぽい曲になり、"モントリオール"はフザけすぎ(最高!)。そして、エンディングはなぜか"大阪"で、"東京"に比べて、妙にアグレッシヴだったり。やっぱりそれぞれの土地柄を表したということなんだろうか......。

 南アのアヨバネスやポルトガルのリスボン・ベースといった新興のエレクトロニック・ダンス・ミュージックを聴いていると、ジャーマン・テクノと大して違わないと思うことが多い。あるいは『OP-1』も、そのような南半球寄りのダンス・ミュージックに聴こえてしまう面が少なからずあり、実際、何の気なしに続けて聴いたヴェネズエラのダンス・ミュージック、チャンガ・トゥキと最初は見分けがつかなくなって、少し混乱もした。


https://soundcloud.com/bazzerk/bazzerk-changa-tuki-classics

 フランスのDJチーム、ジェス&クラッブがアンゴラ起源のクドゥロをまとめた『バザー』(2011)に続いてコンパイルした『チャンガ・トゥキ・クラシックス』はしかし、どちらかというとバイレ・ファンキを思わせるところが多く、これにDFCチームが"スエーニョ・ラティーノ"(89)に続いて仕掛けたラミレスやディジタル・ボーイなど90年代初頭のハード・テクノを注入したような曲が多く、ライナーによれば現地では猛禽に喩えられる音楽だという(DJババによればテクノトロニック"パンプ・アップ・ザ・ジャム"(89)が起源だそうで、確かにDJイルヴィン"ポポ・サウンド"には強い影響が聴き取れる。また、チャンガとトゥキは当初は違うジャンルだったらしく、興味のある方は長~いライナーノーツを参照のこと)。

 ディジタル・クンビアやシャンガーン・エレクトロなど南半球に存在する他のエレクトロニック・ダンス・ミュージックに較べてチャンガ・トゥキは圧倒的にハードだし、途上国に対して抱くようなエキゾチジスムは最初から打ち砕かれてしまう(......どこにもないとは言わないけれど、しかし、ほとんどないに等しい)。それこそアフリカで最も人気があると言われるヒップ・ホップのMCが完全にUSのコピーでしかなくなってしまったのと同様、そういったものはもはや過去にしか存在しないか、むしろ先進国でデラシネとして息を吹き返すしかないのだろう(女性の割礼=FGMが数字の上ではフランスで増えているように......)。

 いずれにしろ現在のヴェネズエラはここに炙り出されているような強い性格の国なのだろうと思うだけである。チャベスが死んでからのことはよく知らないし、行ってみたいと思うわけでもないけれど、スノーデンが最初に亡命を申請したということは、いまでも反米の拠点か、そのように見做されているということだし、それだけのエネルギーが『チャンガ・トゥキ・クラシックス』から聴こえてくることは間違いない。

Vol.9 「Razer Edge」 - ele-king

 

 みなさんこんにちは。夏真っ盛りですね。今回は少し趣旨を変えて、いつものゲーム・ソフトではなく、ハードウェアの方を取り上げたいと思います。というのも、面白いガジェットを手に入れたのですよ。

 それが上記写真のこちら。まるでiPadの左右に無理やりコントローラーを付けたかのような豪快なデザインのこのガジェットこそ、今年3月末に発売された、PCゲームが遊べるタブレットPC(史上初!)、「Razer Edge」です。

 近年多種多様な機種が出ているタブレットPCですが、その中でもRazer Edgeはトップ・クラスのスペックを誇り、また専用のゲーム・パッドと組み合わせれば、まさに携帯機さながらの感覚で最新のPCゲームを遊ぶことができるのです。いままでこういうハードウェアはありませんでした。

 これを作った〈Razer〉というメーカーは、マウスやキーボード等PCゲーム用の周辺機器を中心に手掛けていて、普通のコスト感覚から外れたハイ・スペックと高価格を併せ持つ、変態的デバイスを数多く世に送り出しています。かく言う僕もこのRazer Nagaという17ボタンマウスには、趣味と仕事の両面でお世話になっています。何かもう17ボタンって聞くだけで変態的でしょ。

 
12個のテンキーをそのままサイドにくっつけた暴力的とも言えるデザイン。しかしこれが意外と使いやすいんです。

 そしてこの『Razer Edge』もご多分に洩れず、じつに〈Razer〉らしい変態的な製品です。ていうかまぁ、変態なのは見るからに明らかなのですが、外見以外でも、たとえば価格は本体が約14,5000円に専用のゲーム・パッドが2,4000円と、ゲーム機としては有り得ない高さ。また本製品はアメリカとカナダの限定販売だったので、今回僕は輸入代行業者を挟んで購入し、その手数料や送料も含めると総額180,000円以上になりました。知り合いにこの話をしたら「命懸けてるね」と言われましたよ。

 いやー、でも、外でPCゲームを遊びたかったんですよ。普段忙しくてゲームをやっている暇がなかなか無いから、せめて電車のなかとか移動中の時間を有効活用したかった。それに本製品のOSはWindows 8なので、持ち前のハイ・スペックと組み合わせるといろいろと遊べるんじゃないかという期待もありました。

 果たしてRazer Edgeはそんな期待に応えられる製品だったのか。180,000円も出すに値するものだったのか。そこのところを今回のレヴューで明らかにしていきたいと思います。

『Razer Edge』のプロモーションビデオ。大体どんなものかわかるはず。

[[SplitPage]]

■ゲーム機としてのRazer Edge

 さっそく、ゲーム機としてどうなのよって点について語っていきたいと思いますが、その前に基本的なスペックの説明をすませましょう。

 Razer Edgeには複数のモデルがありますが、今回僕が手に入れたのは最上位に当たる「Razer Edge Pro 256GB」。CPUはCore i7-3517U 1.9GHz、メモリが8GB DDR 3、256GBのSSDにディスプレイが10.1インチで解像度が1364x768、さらにそこにグラフィック・カードのGT 640M LE(2GB DDR3)が加わり、そこらのコンバーチブルPCと同等以上のスペックを誇ります。

 なので、約14,5000円の本体価格も、ゲーム機としてとらえるとギョッとしますが、本製品と同等のスペックのコンバーチブルPCの価格と比較すると決して法外な値段ではありません。ただしゲーム・パッドの方はぼったくってますね。これ単体で2,4000円というのは正直有り得ないと思いますが、これが無いと本製品の真価が発揮されないので仕方がない。

 
本体の外見は厚めのiPadといった感じ。〈Razer〉にしてはシンプルなデザインに好感。

 さて肝心の使い心地ですが、良い点から挙げると、まずは没入感がとても高い。ディスプレイの大きさも解像度もタブレットPCとしては最大級ではありませんが、ゲーム・パッドを装着して持ったときの視界の占有率はとても高く、市販の携帯ゲーム機を遥かに凌駕しています。それこそ感覚的には24インチのディスプレイで遊ぶときとほとんど遜色ありません。

 実際にゲームを遊んだときのパフォーマンスはまずまずといったところでしょうか。いくらタブレットPCとしてハイ・スペックとは言え、最新のPCゲームを最高画質で且つ60FPSで動かすのは不可能です。どうしても動かしたい場合は相当設定を下げざるを得ません。

 ただし30FPSを基準にすれば、最高設定とまではいかないものの、かなりの品質を出すことができます。これは人によって考えが違うとは思いますが、現行のコンシューマ用のゲームがほとんど30FPSで動いていることを考えれば、コンシューマと同等のパフォーマンスでより高い品質で遊べる、というふうにとらえればアリかな、というのが僕の感想です。

 あまり専門的な話にしたくないので今回は詳細なベンチマークは行いませんが、あくまでもザックリとした観測として30FPS基準で大体これぐらいの画質で動くよ、という感じで最近のゲーム4本のスクリーン・ショットを用意しました(クリックで拡大できます)。

 
『BioShock: Infinite』は今回の4本のなかでは最もコスト・パフォーマンスが良かった。グラフィックス設定をすべてHighにしても30~40FPSを維持し、快適に遊べた。

 
次いでパフォーマンスが良かったのがウクライナ産ポスト・アポカリプスFPSの『Metro: Last Light』。SSAAとTessellationをオフにする以外はすべて最高設定。これで屋内はほぼ30FPS以上を維持。屋外では20FPS代前半に落ち込む場面もあり。

 
いちばん厳しかったのが『Crysis 3』。PCゲーム・グラフィックスのベンチマーク的存在の同作は、元々重いこともあり、30FPSを出すにはすべての設定を中以下に落とす必要があった。

 
脱メスゴリラを遂げた、等身大のララ・クロフトが売りの新生『Tomb Raider』。画質は簡易プリセットのままではコスト・パフォーマンスが良くないが、各項目を個別に設定すれば大分改善される。

 もうひとつ良かった点が、〈Steam〉のゲームを遊ぶ際のSteam Cloudによる連携ですね。最近の〈Steam〉のゲームはセーブ・データをクラウド管理でき、すべての環境でそれを読み出すことができます。これを利用することで、ひとつのゲームを出先ではRazer Edgeで遊び、家に着いたら続きをデスクトップPCでやるといったことが可能なのです。まさにハードウェアに縛られないクラウド時代ならではのゲーミングと言え、じつは今回いちばん感動したのもこの点でした。

[[SplitPage]]

■携帯し難い携帯機

 良い点を先に挙げてみましたが、悪い点ももちろんあります。というか、本製品は良い点も相殺しかねないぐらいの弱点を抱えており、それはズバリ物理的に重くて長いということです。

 まず重さ。本体自体が約960gでiPad 2の1.5倍近い重さがあり、これにさらにゲーム・パッドを装着すると約1.9kgになる。それを左右のグリップで支えると手首にとても負担が掛かります。とてもじゃないけど普通の携帯機と同じ感覚で持つことはできず、座って膝に置くなり何らかの支えが不可欠です。

 次に長さ。これも本体だけなら約280x180mmとiPadより少し細長い程度なのですが、ゲーム・パッドを装着すると横幅が約410mmになります。これは電車の座席で利用すると両サイドに手がはみ出る長さ。普通に迷惑であり、使う際は状況をよく考えなければいけません。

 またこの長さは持ち運ぶ際にも何かと不便。まずリュックサックは必携。個別のケースにしてもゲーム・パッドを装着したときの約410x190mmという変則的な大きさをピッタリ収めてくれるものは見つかりませんでした。ここは公式でケースを販売してほしかった。

 
持ち運びが不便な携帯機。良くも悪くも常識を打ち破っていると言える。

 加えてバッテリーの短さについても触れておかなければなりません。平常時は大体4~5時間程ですが、いざゲームを動かすと、保って1時間半といったところ。ヘヴィなゲームを動かすには大量に電力が必要なのはわかりますが、これだけ短いと携帯機としては何とも心許ない。一応ゲーム・パッド側に内臓させる拡張バッテリーも別売りされていますが、それを積むとさらに重くなるというジレンマにも悩まされます。

 要するに携帯機としてはあまりにも取り回しが悪すぎるわけです。ただ、これについては初めからわかっていないはずがなく、普通は取り回しも考えてベターな仕様に着地させるものを、たとえ本末転倒になっても極端な大画面・高性能に舵を切ってしまうのが〈Razer〉らしいというか、変態たるゆえんだと思います。

 良さも悪さも理解した上で、それでも使いたいやつだけが使えばいい。むしろこれだけ高額のものを購入した時点で、覚悟はできているんだろ? そうとでも言いたげな開き直りさえ感じます。

[[SplitPage]]

■タブレットPCとしてのRazer Edge

 ここまではゲーム機としてのRazer Edgeについて触れてきましたが、前述したように本製品はそれだけに留まるものではありません。ここからは汎用タブレットPCとして見た場合にどうなのかという点について書いていきましょう。

 ズバリ言ってしまえば、本製品のタブレットPCとしての最大の長所であり同時に短所でもあるのは、OSがWindows 8であるということです。

 周知のとおり、Windows 8は新たにタッチパネル操作に最適化されたModern UIが採用されていますが、使い勝手は良くありません。というか、従来のデスクトップ型のUIと混合していて、両者を行ったり来たりするのが非常に煩雑なのです。

 
Modern UIもそれだけなら決して悪くはないのだが......

 それを象徴しているのがWin 8版Internet Explorer 10。こいつはなんとModern UI版とデスクトップ版の2種類が混在している。Modern UI版はタッチパネル操作に最適化されていますが、履歴機能が欠けており、また一部動作しないプラグインもあって、ブラウザとして十分ではありません。

 一方のデスクトップ版はModern UI版の物足りなさはありませんが、各ボタンが小さくてタッチパネル操作では使い難い。さらにModern UI版とデスクトップ版はCookieやブックマーク等の情報が共有されない!

 こうしたちぐはぐさはOS全般に見られ、何をするにもまずはこのオペレーションの煩雑さに慣れなければいけません。Windowsではいまにはじまった話ではありませんが、改めて普段使っているiPhoneとの差を実感してしまう次第です。

 ただしどんなに腐ってもWindowsであり、巷に溢れる多種多様のソフトウェアやハードウェアを使うことができるのが何よりの利点。従来のWindowsと同じく、OSそのものの煩雑ささえ克服できれば、スペックの高さも利用していろいろなことができるでしょう。

 ゲーマーとしてまず思いつくのが、Frapsを使ったスクリーン・ショットや動画の撮影。またはゲームの内部データを弄ったり、ネットからMODをダウンロードしてきて適用したりも思いのままです。

 しかしそれ以上に僕がやりたかったのが、Photoshopを動かして絵を描くということ。これさえできれば僕にとってはPCで行うことのおよそ8割が実現できるも同然なのです。とは言えPhotoshopを十分に使うにはさまざまな周辺機器も不可欠です。マウスとかキーボードとかペンタブレットとか。そんなわけで、半ば強引に必要なものを揃えてみました。

 
何か根本的に間違っている気がする。

 じゃん。出オチ感が半端ないですが一応解説すると、マウスは例の17ボタンのRazer Naga、ペンタブレットはIntuos 4のLargeとそれぞれ普段愛用しているものを転用。キーボードはBuffaloのワイヤレス・キーボード、SRKB04BKを新調。テンキー付きで大分横長ですが、そもそもRazer Edge自体横長なので、いっしょに持ち歩くなら関係あるまいとこれを選択。またRazer Edge自体はひとつしかUSBポートがないので、ElecomのUSBハブ、U3H-A401BBKも合わせて用意。

 結論から言えばPhotoshopを動かすこと自体は可能でした。今回この連載のタイトルバナーを新調しましたが、この絵の原寸が4320x2080px。これだけの大きさの画像でも軽快に動作し、ほぼストレス無く作業ができたのは感激です。ただし前述した本製品の携帯機としての意義以上に、本末転倒感が拭えません。

 少なくともこういうことをやるのであれば、ゲーム・パッドと同じくアタッチメントとして販売されているキーボード・ドックやドッキングステーションが必要不可欠でしょう。またマウスとタブレットもさらにコンパクトで且つワイヤレスにするのが望ましい。言うまでもないことですが、今回のセッティングはまったく実用的ではありません。

 理想は液晶タブレットのようにタッチパネルを直接ペンで操作できることですが、現状のスタイラスペンでは実用に耐える精度は出せませんし、この辺は今後の技術向上に期待といったところでしょうか。PCゲームの携帯化が実現できたいま、僕が次に待ち望むのはCG制作環境の完全な携帯化に決まりました。

 
ちなみにRazer Edgeでの制作は早々に切り上げ、結局普段通りデスクトップでの作業に戻っていきました......

■まとめ

 個人的には、この『Razer Edge』は大満足です。180,000円出した価値はありました。やはりPCゲームを野外で遊べるというのは、他には代え難い体験です。しかしその体験を得るために犠牲にしなければいけないこと、克服しなければいけない課題がたくさんあり、その点で他人にはまったく薦められないデバイスなのも確か。これは一般人を端から度外視した、どうしても使いたいやつだけが使うものなのです。

 ただこうしたゲーム体験は現状こそ『Razer Edge』のみで得られる特異なものですが、あと数年すればわりと近いことは一般のタブレットPCでもできるようになるんじゃないかと僕は思っています。先日iOS7がゲーム・パッドへの正式対応を発表し、それとともに出回った装着型のゲーム・パッドの画像は、まんまRazer Edgeを彷彿させるものでした。一般向けタブレットPCの性能向上も著しく、そう遠くないうちに現行機レベルのゲームをそこらのタブレットPCで動作させられる環境が整ってくるはずです。

 そんな、来るかもしれない未来を想像しつつ、現状においてはその未来を唯一体現できるこのRazer Edgeを、僕はこれからも満喫したいと思います。


P.S.
本記事でもサラッと触れましたが、今回長らく仮のままだったタイトル・バナーを一新しました。日本人の立場から洋ゲーを遊ぶ、レヴューするという意味で、日本的美少女を中心にした絵になりました。

 装いも新たにした当連載を、引き続きよろしくお願い致します。
 

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316