「You me」と一致するもの

Black Country, New Road - ele-king

文:イアン・F・マーティン(訳:江口理恵)

 音楽をコミュニケーションの行為として考えるとき、私たちはそのプロセスの半分にしか思いを致していないことが多い。アーティストに伝えたいことがあり、それを音楽でリスナーに伝えると、その成功は受け手側にも共感を呼び覚ますことができるかどうかで測られる。しかし、コミュニケーションは双方向性のプロセスであり、録音というデッド(死んだ)な(ライヴとの対比として)メディアが、生きているリスナーと対話するには、それとは異なる難儀な類のコミュニケーションが必要になる。

 ブラック・カントリー、ニュー・ロードのコミュニケーションは、微細な観察からなる個々のディテールが、印象主義的な全体像を構成する、断片のコラージュで表現されている。これらの物語の断片を読み解くもっとも直観的な方法は、音楽の喜びのうねりや、押し寄せる嘆き、親密さに伴う押しつぶされるような痛み、喪失による靭帯の引き裂きにより、正確な意味が流れ去るような場面があっても、ときおり言葉に焦点を合わせて音色を追っていくことだ。また、細部を掘り下げることで、その他の物語が直線的ではなく、繰り返されるイメージを通して、聞きなれた言葉が馴染みのない方法で繰り返し使用され、再び現れた文字のシルエットなどが、まるで秘密の言語のようなヒントとして、かすかに浮かび上がってくる。

 2021年のバンドのデビュー盤『For the First Time』では、数年にわたり段階的に積み上げられてきたイメージやアイディアと、反復する音楽の主題や歌詞のアイディアが導入されては引き戻され、より大きなピースが傾き、互いにぶつかり合いながらも、一緒に織りあげられたものだ。それは、スリリングで多様性に満ちたリスニング体験をもたらし、高い完成度にもかかわらず、異なる条件の元で書かれた作品を見事なシミュレーションで一貫性を持たせた、寄せ集めのようなコレクションだった。これに続く新作では、ブラック・カントリー、ニュー・ロードがそのプロセスをより統制しやすくなっているのは必然であり、具体的な意味は不透明なままでも、表面下で煮えたぎるようなディテールは、より豊かで複雑に感じられる。

 具体的な解釈なしに自由に音楽が飛翔するなか、“Haldern” のような曲では、ときに感情を打ち砕くような音色を繰り出す。“For the First Time” をとても面白いものにしている繊細なユーモアは、いまは脱退してしまったヴォーカリスト、アイザック・ウッドの、もの悲しさや神話的なものと、陳腐で軽薄なものとを並走させながら、揺れ動く感情で、決して声のトーンを崩さないという驚くべき才覚によるもので、音楽のなかでも未だ重要な存在となっている。“Bread Song” では、「私のベッドでトーストを食べないで」という家庭内のリアリズムから、「この場所は誰のものでもない、パンくずのためのものでもない」という聖書のような語り口へと巧みに転換し、“The Place Where He Inserted the Blade” では、料理の比喩と思われるものを通してワイルドな感情の極限の狭間を揺れ動く。

 日常から形而上、時代劇からSF的な未来へと、時空を超えて飛び交う語り口は、我々をコミュニケーションの問題へと立ち返らせる。その非常な不透明さ、断片化、ほのめかされた相互関係は、リスナーが意味を選択して光を当て、自らの物語を書くことにより、聴くことをクリエイティヴなコラボレーションという行為に変えるのだ。ズームアウトして眺めてみれば、『Ants from Up There』には、ふたりの人間が、ある種の親密な関係を築こうと努力をするが、大きな痛みを与えあった後、引き裂かれて破壊的な傷が残るという喪失の物語がみつかるだろう。少しズームインしてみると、おそらくそこには、フィリップ・K・ディック風のポスト・モダニズムの、混乱した大人たちが、自分たちの肉体に不確かさを覚え、ライトセーバーや宇宙船、ウォーハンマー40,000といった子供時代のゲームなど、過去の残滓を使って自分たちや世界を理解しようと藻掻く物語も存在する。そこには、語り手のビリー・アイリッシュ(歌詞に何度も登場する)や、チャーリー・XCXのようなポップ・スターとフロイト的なパラソーシャル(パラセクシュアル?)な関係を築いたり、ポップ・ミュージックそのものが BC,NR の世界の混沌とした断片を繋ぎ合わせる共通の土台を形成したりしているという儚い物語も埋め込まれているのだ。繰り返し登場する超音速旅客機、コンコルドのイメージは繋がりの象徴なのだろうか? スピードと混乱の象徴? 恋人? 失われた未来? 他の何か、もしくは上記のすべてか?

 しまいには、バンドが書いた物語を聴いているのではなく、バンドが並べた断片と、それらが繋がるかもしれないという彼らが残した示唆をもとに、自分自身で描いた物語を聴いている気分になる。次に聴くときには、また異なる物語を書いているかもしれない。このアルバムの死んだプラスティックに綿密にマッピングされた分岐路の庭を消化する正味期限の限界があるだろうが、それまでは、『Ants from Up There』は、魅力的で、辛辣な面白さで、時に感情的に落ち着かない会話の相手になってくれることだろう。

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written by Ian F. Martin

When we think about music as an act of communication, we’re often only thinking of only half the process. The artist has something to communicate, and through their music they transmit that to the listener, with success measured by their ability to summon up those same feelings at the receiver’s end. Communication is a two-way process though, and how a dead (as opposed to live) medium like a recording is able to create a dialogue with a living listener is a different and more difficult sort of communication.

Black Country, New Road communicate in collages of fragmentary images in which granularly observed individual details make up an impressionistic whole. The most instinctive way to navigate these pieces of story is to follow the tone, letting the words occasionally fall into focus even as the precise meaning swims away in the music’s swells of joy, washes of mourning, crushing pain of intimacy and tearing ligaments of loss. Dig into the details, though, and other stories glimmer into light in a less linear fashion, through recurring images, familiar words used repeatedly in unfamiliar ways, silhouettes of returning characters revealed, all through hints like a secret language.

On the band’s 2021 debut “For the First Time”, images and ideas that had been built up piecemeal over several years were woven together with recurring musical themes, lyrical ideas introduced and brought back, even as the larger pieces lurched apart and crashed against each other. It made for a thrilling and diverse listening experience, but as fully-formed as it felt, it was still a collection of pieces written under different conditions and then fashioned, albeit masterfully, into a simulation of coherence. With this follow-up, it’s inevitable that Black Country, New Road would be a bit more in control of the process, and the interconnected details simmering beneath the surface feel correspondingly richer and more intricate, even if specific meanings remain just as opaque.

Even as the music flits free of tangible interpretations, they sometimes hit emotionally devastating notes on songs like “Haldern”. The subtle sense of humour that made “For the First Time” so much fun is still a key presence in the music too though, with now-departed vocalist Isaac Wood having an incredible knack for juxtaposing the mournful and mythic with the banal and frivolous, without ever breaking the teetering-on-the-brink emotional tone of his voice. On “Bread Song” the narration flips tone dextrously from the domestic realism of “Don’t eat your toast in my bed” to the Biblical “This place is not for any man / Nor particles of bread”, while “The Place Where He Inserted the Blade” swings between wild emotional extremes all through what seems to be the metaphor of cooking.

The way the narration leaps from mundane to metaphysical, from historical drama to sci-fi future, blurring time and space, all brings us back to the question of communication. That very opaqueness, fragmentation and hinted interconnections makes the very act of listening an act of creative collaboration as the listener writes their own stories by selecting and highlighting meanings. Zoom out and there’s perhaps a story of loss in “Ants from Up There” — of two people who struggle to connect, cause each other tremendous pain even as they find their way into some sort of intimacy, and who leave a devastating wound when they tear apart. Zoom in a little and there’s perhaps also a Philip K. Dick-like postmodernist story of confused adults, uncertain in their own flesh, struggling to make sense of themselves and the world using the lingering ghosts of the past — the light sabers, starships and Warhammer 40,000 games of childhood. There’s a story nestled in there too of the narrator’s Freudian parasocial (parasexual?) relationship with pop stars in the form of Billie Eilish (who makes recurring appearances in the lyrics) and Charli XCX, as well as perhaps the fragile way pop music itself forms a common ground of connection between the chaotic fragments of BC,NR’s world. Is the recurring image of the Concorde supersonic airliner a symbol of connection? Of speed and confusion? A lover? A lost future? Something else or all of the above?

By the end, you are no longer listening to a story written by the band but to one you’ve written yourself out of the pieces they’ve laid out and suggestions they’ve left for how they might connect. And the next time you listen, you may have written a different story. There is probably a limit to how long you can do so before you’ve exhausted the garden of forking paths mapped out on the album’s dead plastic, but in the meantime “Ants from Up There” makes for a fascinating, wryly funny and often emotionally uncomfortable conversational partner.

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文:Casanova.S

僕には二度目の別離の夏を迎える余裕はない
この階段は、君の古い写真に繋がっているだけなんだ
“Concorde”

君は自分を必要とする世界を恐れているんだろう?
だから地元の人と仲良くすることはなかった
だけど君はそのツルでゆっくりと僕を縛り付け、どこにも行けなくした
“The Place Where He Inserted the Blade”

 2nd アルバムの発売直前にヴォーカル/ギターのアイザック・ウッドがブラック・カントリー・ニューロードから脱退することが発表された。僕は彼の書く歌詞と少し硬い歌声が大好きだった。ナイーヴな自己憐憫を重ねるような歌詞、音として紡がれる言葉たち、ひとつの言葉が他の言葉と結びついてイメージを形作りそうして意味をなしていくアイザック・ウッドのスタイル。彼は 1st アルバムで「Black Country」という言葉を繰り返し用いて、ヴォーカルが起こした性的トラブルを告発されたことで解散することを余儀なくされたナーヴァス・コンディションズから続くブラック・カントリー・ニューロードの物語を描き出した。ケンブリッジの10代の新人バンドがデビューするという最初の記事が出たタイミングでの告発、一曲も残す事なくバンドは終わり、時間が過ぎて、残されたメンバーはそれぞれに失意を抱えながらもバンドを続けることを決意した。そうして隅っこでギターを弾いていたアイザック・ウッドの前にマイクが置かれ、本来それを担当するはずだった人間の代わりに彼が歌いはじめるようになった。「だからきっとある意味で/いつだって僕はゲストだった」 1st アルバム収録曲のヴァージョン違い、“Track X (The Guest)” に追加された「ゲスト」というこの言葉はウッドのソロ・プロジェクト ザ・ゲストにひっかけた言葉なのだろうが、ナーヴァス・コンディションズの解散後にはじめたこの活動がいまのアイザック・ウッドのスタイルを形作った。そこで彼は初めて詞を書き唄い、そうして自分自身をゲストと呼んだ。

 ウッドにとってナーヴァス・コンディションズとはどんな存在だったかのか? それは 1st アルバムを聞けばわかるのかもしれない。起きてしまったことに対する後悔と自己憐憫、少しの希望、アルバムの全ての曲は同じ方向に向かって流れ、それが「Black Country」という言葉によって繫がれる。「僕は何にも学んじゃいない/2018年に失った全てのことから/彼女はまだどこかで僕らを待っているって気がしてならないんだ/水を綺麗に保つために僕たちが作ったものの下に隠されて」。7インチのヴァージョンから変更された “Athens, France” のように象徴的な言葉を差し込み(2018年はナーヴァス・コンディションズが解散した年だ)、ウッドはアルバムの曲を連結し、全体で大きなイメージを作りあげた。ここで唄われる「彼女」とはナーヴァス・コンディションズのことを指していて「Black Country」という言葉も同じものを意味しているのではないか? アイザック・ウッドの歌詞はそうやって想像する余地を残していく。「向こうで Black Country が待っているんだ」。そう繰り返し唄われる “Science Fair”、「Black Country の地面から僕らが作りあげたもの」「穏やかに過ごすために僕たちが作り上げたもの」。“Opus” では比喩的にブラック・カントリー・ニューロードの結成の物語が綴られる(ブラック・カントリー・ニューロードはサウス・ロンドンシーンのパーティのはじまりに間に合わなかったバンドだ。本来ならばナーヴァス・コンディションズかここに参加しているはずだった)。1年前のリリース時のインタヴューでサックス奏者のルイス・エヴァンスが語っていたように 1st アルバムはある時期の彼らを切り取ったものだったのだろう。傷ついた仲間たちが再び集い、そうしてまた歩き出そうとする決意の物語、ウッドは自分たちのバンド名から後付けで言葉に意味を付与し、その最初の物語、失われてしまったナーヴァス・コンディションの未来の姿を終わらせようとした。余裕なんてどこにもなく、スリルと狂気と不安がそこに漂っているような、1st アルバムはそんなアルバムだった。

 この 2nd アルバムはどうだろう? 破裂してしまいそうだったヒリついた空気が消え去り、記憶を静かに呼び覚ますような、優しく慈しむような、ここではそんな音楽が奏でられている。1st アルバムとはもう別のバンドになってしまったと言ってもいいくらいに。あるいはゆっくりと時間をかけて自分の中に潜む感情を理解しようとしているかのような。最初のアルバムで感情の変化や亀裂を描いていたギターやサックスの音がこの 2nd アルバムでは感情を優しく導いていくようなものに変わり、舞台の上でセリフをまくし立てているようだったウッドのヴォーカルはメロディをゆっくりと口ずさむようになった。それは1年前にインタヴューで見せていたあの仲間同士のリラックスした雰囲気で、ポップ・ソングを愛する、もしかしたらこれがバンドの本来の姿だったのかもしれない。「ネクスト・アーケイド・ファイアになれたら……基本的にはそれがゴールさ」 冗談とも本気ともとれるようなジョークを飛ばすアイザック・ウッドの、おそらくはそれこそがサングラスをかけフォンジーに変身しステージ立つ必要のなかった世界のブラック・カントリー・ニューロードの姿だったのだろう。『Ants From Up There』にはそんなバンドの魅力が詰め込まれている。

 ウッドはこの 2nd アルバムでもイメージを結びつけるキーワードような言葉を用いてそれぞれの曲を繋ぎアルバム全体で一つのテーマを描き出そうとしている。「コンコルド」は曲のタイトルになっているし、「ビリー・アイリッシュ」も複数回出てくる。「クランプ」は彼らをつなぎ止める留め金で、それは “The Place Where He Inserted the Blade” において自らを縛り付けどこにも行けなくするツタや彼らを結ぶタグ、長い糸としても表現されている(おそらくそれは僕たちが絆と表現するものなのだろう)。曲をまたぎ何度も歌詞に登場する「コンコルド」という言葉はケンブリッジ郊外にあるダックスフォード航空博物館を訪れた共通の思い出が元になっているとドラムのチャーリー・ウェインが明かしているが、アルバム3曲目である “Concorde” においてのこの言葉はおそらくコンコルド効果を意味するものでもある。このまま引きずっていてもろくな事にはならないと理解していながらも、それでもこれまでにあった出来事をなかったことにはできない。思い出は美しく自らを縛り付ける。クリエイティヴ・ディレクター、バート・プライスが手がけた 1st アルバムのプロモーション(インターネット上のフリー素材を用いたスタイル)から、メンバー自身が子供の頃に書いた絵を使ったプロモーションに変化していることからも彼らがノスタルジックな思い出をこのアルバムのテーマにしていることがうかがえる。このアルバムは思い出を抱えそれに縛り付けられながらもそこから歩みを進めようとするアルバムなのだ。

 インタヴューの中で彼らは今作では歌詞だけではなくサウンド面でもリンクさせようと曲作りの段階で考えていたとも語っている。ルイス・エヴァンスは「今回は、曲を作っている時に他の曲のことを考えながら作った感じ。アルバムの曲順も曲作りの時点で考えながら曲を作っていったんだ」と語り、メイ・カーショウも「全てをリンクさせることを意識していた」と話す。その言葉通り、1分足らずの短いイントロから繫がれる “Chaos Space Marine” にはその後の曲を紹介するティーザーのようにアルバムの中の要素が断片的に織り込まれている。グランドピアノの音に明るく優しいサックス、何度もタメが入って展開し、メロディを唄うウッドの口からはコンコルド、ビリー・アイリッシュ、掘ってしまった穴と次々と後続の曲を示唆するような言葉が出てくる。パーソナルな領域にゆっくり踏み込むような “Bread Song” はチャーリー・ウェインのドラムによってエモーショナルさを一気に加速させ、その手法は “Haldern” や “Snow Globes” にも取り入れられている。それは匂いや色、言葉や音、一見関係がない事柄が他の何かを思い出すきっかけとなるような記憶の仕組みによく似ていて、楽曲に繋がりと広がりを生み出している。おおげさに言うとひとつの曲の中に実際には鳴っていない他の曲の音、あるいはイメージが埋め込まれているような感じだ。そうしてそれがオーバーラップしてくる。表面的な言葉や音は必ずしもそれ自体を意味しているわけではなく、その時々で違った意味が顔出す。僕はこれこそがブラック・カントリー・ニューロードの魅力なのだと思う。彼らは曲単位ではなく塊としてアルバムを意識している。もっといえばアルバムとアルバムとの関係性も意識しているのかもしれない。

 このアルバムはとても内向きなアルバムだ。ライヴで演奏するために作られた楽曲が収められた 1st アルバムと違い、ライヴのできない状況下で作られたこの 2nd アルバムの曲たちはアルバムに収録されるために作られた。最初にあったのは “Basketball Shoes” でこの曲を出発点にしてこのアルバムは作られたという。全てのテーマが “Basketball Shoes” の中にあり、逆に辿ってアルバムの最終曲であるこの曲にまた帰って来る。初期に「チャーリーXCXについて夢を見た」と唄われていた箇所が「コンコルドが僕の部屋の中を飛び回る/家の中をズタズタにして」と変更され、アルバムの中を飛び回る「コンコルド」のイメージを強化する(それはまたしても僕たちを縛り繫いでいく)。「僕がしてきたことの全てはドローンを作ることだった/僕らは残りを唄う」 曲の中でウッドがそう伝える通りに、このアルバムでは他のメンバーの声も聞こえてくる。“Chaos Space Marine” を彩るコーラスに “Good Will Hunting” で響く歌声、“The Place Where He Inserted the Blade”、そして “Basketball Shoes” の重なる声、それらがエモーショナルに心を震わせる。これも 1st アルバムでは見られなかった特徴だ。

 このアルバムのレコーディングはバラバラではなく一つの部屋で同時におこなうライヴ・レコーディングの手法がとられたようだ。ロンドンから離れ船でワイト島に渡り3週間滞在し、寝食を共にしてアイデアを出し合い意見を交わす。時にはフットボールに興じたり、みなで屋外レストランに出かけたり、地元のパヴを巡り映画を見たり。ルイス・エヴァンスは 1st アルバムのインタヴューで冗談まじりに「音楽より仲間の友情の方が大切さ」と語っていたがこのスタンスは2nd アルバムでより顕著に表れている。プロデューサーは立てたくなかったし、ロンドンでのレコーディングもしたくなかった、それは激動の時代を経てもう一度自分たちと向き合う為に必要なプロセスだったのだろうか? ロンドンから離れた場所、海を渡ったイタリアの観光地を思わせる非日常の世界、そのスタジオの中で彼らはお互いに向き合い、観客抜きの自分たちの為だけのライヴをおこなった。サウンド・エンジニアのセルジオ・マッショッコ(最終的には彼がプロダクションを担当することにもなった)とワイト島のレコーディングスタジオのエンジニアのデイヴィッド・グランショウのふたりの手を借りて、2nd アルバムはそうやってでき上がった。だからこのアルバムはより彼らの内面に迫ったものになっている。ある意味で彼らだけで完結している閉じた世界のアルバムなのだ。バンドが大きくなっていく過程において閉じた世界だけでは成立しなくなる、自分たちを取り巻く世界が目まぐるしく変わっていく、だからこそ彼らは原点に立ち返りそこから再び始めようとした。美しく慈しむようなこのアルバムのサウンドは、ノスタルジックであると同時に、「コンコルド」の思い出を糧に前へ進もうという意志と明るい希望が感じられる。あたかももう少し自分たちのバンドをやってみるよというメッセージが込められているかのように。

 アイザック・ウッドの脱退の発表からそこに新たな響きが付け加わってしまったのかもしれないが、それでもこの 2nd アルバムにはレコーディングされた当時の希望がそのまま封じ込められている。だから悲しくは響かない。1年後、3年後や5年後、これから先、きっと繰り返し聞くことになるアルバムには思い出が積み重ねられていく。音楽はそうやって時間を重ね、“Snow Globes” に出てくるキャラクター、ヘンリーがそうしたように記憶の壁にかけられるのだ。アルバムのアートワークに描かれている飛行機はどうしてコンコルドではないのだろう? 頭にそんな疑問が浮かぶが、でもそんなことは些細な問題なのかもしれない。アルバムを取りだしてジャケットを眺める。その飛行機の模型からコンコルドのことが思い出されて、針を落とす前にはもう頭の中に曲が流れ出している。このアルバムはやはり記憶と連想のアルバムなのだ。美しく感傷的で希望に溢れるブラック・カントリー・ニューロードのこの 2nd アルバムはきっと頭の中、記憶の部屋に残り続けることだろう。この先バンドがどんな風になっていくのかわからないが、でもいまはこの素晴らしいアルバムが作り上げられたことを嬉しく思う。

Jazzanova ×〈Strata〉 - ele-king

 いま、70年代ブラック・ジャズ再評価の波が来ている。〈Black Jazz〉や〈Tribe〉といったスピリチュアル・ジャズ・レーベル作品のリイシューにボックスセット……そして今度は〈Strata〉の番。1969年にデトロイトで設立された〈Strata〉(注意:ギル・スコット=ヘロンなどで有名なNYの〈Strata-East〉ではない)は、セオ・パリッシュやジャイルス・ピーターソンなどからも称賛されているジャズ・ファンク~ソウル・ジャズのレーベルだ。
 その〈Strata〉音源をジャザノヴァがカヴァー、再創造した1枚がリリースされる。題して『ストラタ・レコード:ザ・サウンド・オブ・デトロイト』。4月20日発売。
 ジャザノヴァとは90年代末にベルリンで結成されたDJ/プロデューサー集団で、当時のクラブ・ジャズ~フューチャー・ジャズを代表するグループ。〈Strata〉の名曲たちがどのように生まれ変わるのか──これは楽しみ。

ジャザノヴァ/ストラタ・レコード:ザ・サウンド・オブ・デトロイト

1960年代後半にケニー・コックスによりデトロイトで創立されたインディペンデント・ジャズ・レーベル、〈STRATA〉は1969年~1975年の僅か6年の活動だったにもかかわらず、近年セオ・パリッシュからジャイルス・ピーターソンを筆頭に多くの音楽ファンやレコード・ディガー達から賛美を浴び、伝説的なレーベルとして知られている。

Kon & Amir の片割れで、レコード・ディガー、DJとして有名な DJ Amir が立ち上げた〈180 Proof〉がケニー・コックスの妻、バーバラ・コックスの協力を得て〈STRATA〉の過去カタログを再発するプロジェクトがスタート、そして彼はベルリンでジャザノヴァと出会い、 〈STRATA〉のカタログを使ったアルバム・プロジェクトを発案、ジャザノヴァは同レーベルのカタログ中の傑作11曲を厳選して再構築を試みた。

〈Strata〉のコミュニティーとシンパシーを感じたジャザノヴァは、常に進化を続ける創造性豊かなユニットであり、1995年に志が同じのDJやプロデューサーらからなるオリジナル・ メンバー5名からスタート、彼等はバンド・プロジェクトへと発展しライヴ活動を開始、その流れの中でジャザノヴァとDJアミールが出会ったのは運命であり意気投合した彼等はこの世紀の大プロジェクトを完成へと導いた。

本作は単なるカヴァー・アルバムではなく、彼等が長年培ったDJとしてのリミックス感覚 と、ライヴ・バンドとしての感性を融合させ、現代に蘇らせる事に成功した。例えば、 Lyman Woodard Organization “Creative Musician” は新鮮なアフロビートのテンポのア レンジを盛り込み、同バンドの名曲 “Saturday Night Special” では新らしい解釈の現行ファンクを提案している。同時に元々モータウンのバック・バンドとして活躍したミュージシャンが多数在籍していた〈STRATA〉らしいジャズとソウル・ミュージックのハイブリッドなサウンドはジャザノヴァと出会う事によりモダンでエクレクティックなジャズ・サウンドへと昇華する事に成功した。

ジャザノヴァ ストラタ・レコード:ザ・サウンド・オブ・デトロイト
Jazzanova Strata Records - The Sound of Detroit

TRACKLIST
1. Introduction - Amir Abdullah aka DJ Amir
2. Lost My Love - Jazzanova feat. Sean Haefeli
3. Creative Musicians - Jazzanova feat. Sean Haefeli
4. Joy Road
5. Face at My Window - Jazzanova feat. Sean Haefeli
6. Root In 7-4 Plus - Jazzanova feat. Sean Haefeli
7. Inside Ourselves
8. Beyond The Dream - Jazzanova feat. Sean Haefeli
9. Saturday Night Special
10. Orotunds
11. Scorpio’s Child
12. Loser - Jazzanova feat. Sean Haefeli
13. Creative Musicians (Waajeed Remix) Bonus Track
14. Creative Musicians (Henrik Schwarz Remix) Bonus Track

BBE MUSIC / 180 PROOF / STRATA / OCTAVE-LAB OTLCD2600
税抜定価:¥2,300+税
2022年04月20日(水)
形態:CD

創造的再生が、時代とジャンルを超えた!
JAZZANOVA による STRARA RECORDS の再解釈は、極上の音楽体験を与えてくれる。
DJ感覚とバンド・サウンドとリスニング・ミュージックの理想的なハイブリッドが完成!!
沖野修也(Kyoto Jazz Massive/Kyoto Jazz Sextet)


"As a longtime Jazzanova head I expect nothing less than prime grade A quality musical excellence and this go round is absolutely no different. It comes with a lush maturity, evolved growth & envelope pushing all the while remaining true to their mission of making creative music from their hearts. Go Jazzanova!" - Ahmir 'Questlove’ Thompson
大昔からのジャザノヴァの大ファンとして、彼らからは超一流な品質の音楽の卓越性他ならない完成度を常に期待しており、この新作も全くいつも通り変わりはない、最高品質な作品に仕上がっている。本作にはまた彼らの豊富な成熟ぶり、進化した成長と限界に挑む姿勢が大いに盛り込まれながら、彼らの心の奥底から来ている音楽創造の姿勢に対する使命に忠実であり続けている姿を明確に表している。ジャザノヴァ、頑張れ!
-Ahmir 'Questlove' Thompson(THE ROOTS)

LIBRO - ele-king

 昨秋3年ぶりの新作『なおらい』をリリースしたラッパーの LIBRO。彼のファースト・アルバム『胎動』(1998)は日本ラップのクラシックとして高く評価されている。そんな同作から、ジャジー・ヒップホップの先駆けとも呼べる1曲 “雨降りの月曜” のMVが公開された。
 それに合わせ、『胎動』のアナログ盤も本日リリースされている。メロウな “雨降りの月曜” をはじめ “胎動” や “対話” など、多くの佳曲をヴァイナルで聴く絶好のチャンス。完全限定生産(帯付き)とのことなので、お早めに。 

LIBROが98年にリリースした日本語ラップ・クラシックな名盤『胎動』収録の名曲 "雨降りの月曜" のミュージック・ビデオが公開! また同作のアナログ盤が完全限定プレスで本日リリース!

 日本のヒップホップ・シーン黎明期から活動をスタートさせて97年にラップ、トラックメイク双方を手がけるスタイルでデビュー。2022年にはデビュー25周年を迎えながら今でもマイペースな活動を続け、コンスタントに作品をリリースし続けているLIBRO(リブロ)が98年に発表したファースト・アルバムにして日本語ラップ・クラシックな名盤『胎動』に収録されている名曲 "雨降りの月曜" のミュージック・ビデオが24年の時を経て公開! Diaspora skateboardsのビデオディレクター、小林万里がディレクションを担当している。
 また、その "雨降りの月曜" やタイトル曲 "胎動" を筆頭、"対話" feat. Momoe Shimano a.k.a. MOE’Tなどの名曲を多数収録した『胎動』のアナログ盤が本日リリース! 帯付き/完全限定生産でのリリースとなります。

*LIBRO "雨降りの月曜" (Official Video)
https://youtu.be/yEpKC0wXy4M

[商品情報]
アーティスト:LIBRO
タイトル:胎動
レーベル:P-VINE, Inc.
発売日:2022年4月6日(水)
仕様:LP(帯付仕様/完全限定生産)
品番:PLP-7769
定価:3,850円(税抜3,500円)

[Side A]
1. イントロ
2. 胎動
3. ガイドライン
4. 雨降りの月曜
5. 対話 feat. Momoe Shimano a.k.a. MOE'T
[Side B]
1. リブロ工房
2. Doytena 2000 feat. Ark, KEMUMAKI, DOBINSKI
3. 胎動 Remix (DJ TONK Remix)
4. 対話 Remix feat. Momoe Shimano a.k.a. MOE'T (DJ KIYO Remix)
5. アウトロ

LIBRO 『胎動』
Stream/Download/Purchase:
https://p-vine.lnk.to/NLpyrLNV

Daniel Villarreal - ele-king

 シカゴのオルタナ・ラテン・バンド、ドス・サントスの一員でもあるパナマ出身のドラマー/パーカッショニスト、ダニエル・ ヴィジャレアルが初のソロ・アルバムを発売する。シカゴの新たなキーパーソンになっているという彼のアルバムには、ジェフ・パーカーら当地の面々とLAのミュージシャンたちが参加。ラテンのリズムを活かした極上のグルーヴを堪能したい。

ダニエル・ビジャレアル(Daniel Villarreal)
『パナマ77(Panama77)』

発売日:【CD】2022/5/25

大注目!! シカゴのオルタナ・ラテン・ジャズバンド、Dos Santos(ドス・サントス)のメンバーで知られるパナマ出身ドラマー/パーカッショニスト Daniel Villarreal(ダニエル・ ビジャレアル)が待望のソロアルバムを完成させた。ラテンのリズムに導かれるグルーヴ溢れるサウンドは必聴。日本限定盤ハイレゾMQA対応仕様のCDでリリース!! ジェフ・パーカー参加!!

Recorded in Chicago and Los Angeles featuring:
Daniel Villarreal - drums & percussion,
Elliot Bergman - baritone saxophone & kalimba,
Bardo Martinez - bass guitar & synthesizers,
Jeff Parker - guitar,
Kellen Harrison - bass guitar,
Marta Sofia Honer - violin & viola,
Kyle Davis - rhodes piano & synthesizers,
Anna Butterss - double bass & bass guitar,
Aquiles Navarro - trumpet,
Nathan Karagianis - guitar,
Gordon Walters - bass guitar,
Cole DeGenova - farfisa & hammond organs

ダニエル・ビジャレアルは、現在のシカゴのシーンを支える最重要ドラマー/パーカッショニストだ。パナマ出身で、異色のラテン・バンド、ドス・サントスのメンバーであり、DJでもある。ジェフ・パーカーら、シカゴとLAのミュージシャンたちと共に、ラテンのリズムを掘り下げて最上のグルーヴとドリーミーなサウンドスケープに包まれる、真に融和的な音楽を作り上げた。(原 雅明 rings プロデューサー)

アルバムからの先行曲 “Uncanny (Official Video)” のMVが公開されました!
https://www.youtube.com/watch?v=JNUaLAYPURM

アーティスト:Daniel Villarreal(ダニエル・ビジャレアル)
タイトル:Panama77(パナマ77)
発売日:2022/5/25
価格:2,600円+税
レーベル:rings / International Anthem
品番:RINC87
フォーマット:CD(MQA-CD/ボーナストラック収録予定)

* MQA-CDとは?
通常のCDプレーヤーで再生できるCDでありながら、MQAフォーマット対応機器で再生することにより、元となっているマスター・クオリティの音源により近い音をお楽しみいただけるCDです。

Official HP:https://www.ringstokyo.com/danielvillarreal

HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKS - ele-king

 先日不失者の2デイズ・ライヴ情報をお伝えしたばかりだが、また新たなニュースの到着だ。
 2016年、灰野敬二が若手の実力派たちと結成したロック・バンド「HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKS」。同バンドで灰野はヴォーカリストに徹し、自身の原点たるロックンロールやR&B、ソウルやジャズを英語で歌い、精力的にライヴをこなしてきた。その音源は昨年、ロンドンの Cafe Oto からデジタルでリリースされているが、きたる5月11日、待望のスタジオ・アルバムがリリースされる。
 また、6月15日には渋谷WWWにて同作のリリース記念ライヴが開催。チケットの販売は明日から。ご購入はお早めに。

灰野敬二率いるリアル・ロック・バンド、HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKS待望のスタジオ・アルバム、5/11リリース。6/15に渋谷WWWにてリリース記念ライヴを開催。

これだけがロック。私が言うロックという言語を、古文書の封印が解かれていくように開示する。――灰野敬二

1970年に前衛ロック・バンド、ロスト・アラーフのヴォーカリストとしてデビュー、1978年に不失者を結成、それ以来ソロのほかに滲有無、哀秘謡、Vajra、サンヘドリンなど、多様な形態で活動し、国際的に高い評価を受ける音楽家・灰野敬二。

常に「今」を追求しつづけている灰野が、川口雅巳(Kawaguchi Masami's New Rock Syndicate)をはじめ若手実力派ミュージシャンとともに2016年に結成したロック・バンド、HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKSの待望のスタジオ・アルバム。

録音はアナログ・レコーディングで定評のあるGOK SOUNDにて、エンジニアにバンドが絶大な信頼を寄せる近藤祥昭を迎えて行われた。

灰野がヴォーカリストに徹し、自らの原点といえるロックンロール、R&B、ソウル、ジャズ、そして日本の曲も英語で歌うという明確なコンセプトを打ち出し、精力的にライヴ活動を展開、2021年にイギリスのレーベルから配信でライヴ音源がリリースされ好評を得た。

ザ・ローリング・ストーンズ、ザ・ドアーズ、ボブ・ディラン、ザ・フーなどの名曲が、徹底的に解体・再構築され、曲の“本性”がむき出しになった究極のリアル・ロック。その衝撃は世代を問わず幅広いロック・ファンにアピールするでしょう。

6月15日に渋谷WWWにて本作のリリース記念ライヴを開催。リアル・ロックを体感してほしい。

HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKS
灰野敬二 HAINO KEIJI vocal, harp
川口雅巳 KAWAGUCHI MASAMI guitar
なるけしんご NARUKE SHINGO bass
片野利彦 KATANO TOSHIHIKO drums

[リリース情報]
アーティスト:HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKS
Title: You’re either standing facing me or next to me
タイトル:きみはぼくの めの「前」にいるのか すぐ「隣」にいるのか
レーベル:P-VINE
フォーマット:CD
商品番号:PCD-28048
価格:定価:¥3,080(税抜¥2,800)
発売日:2022年5月11日(水)

収録曲
01. Down To The Bones
02. Blowin' In The Wind
03. Born To Be Wild
04. Summertime Blues
05. Money (That's What I Want)
06. Two Of Us
07. (I Can't Get No) Satisfaction
08. End Of The Night
09. Black Petal
10. Strange Fruit
11. My Generation

フォーマット:LP
商品番号:PLP-7849
価格:定価:¥4,180(税抜¥3,800)
発売日:2022年9月7日(水)
完全限定生産

収録曲
A1 Down To The Bones
A2 Blowin' In The Wind
A3 Born To Be Wild
A4 Summertime Blues
B1 (I Can't Get No) Satisfaction
B2 End Of The Night
B3 Black Petal
B4 Strange Fruit
B5 My Generation

[ライヴ情報]
HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKS
出演:HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKS
日程:2022年6月15日(水)
会場:渋谷WWW
時間:開場18:30 開演19:30
料金:前売¥4,000(税込/ドリンク代別/全自由)
チケット一般発売:4月2日(土)10:00 e+にて
問い合わせ:WWW 03-5458-7685
https://www-shibuya.jp

灰野敬二が若手実力派ミュージシャンとともに結成したロック・バンド「HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKS」。灰野がヴォーカリストに徹し、自らの原点といえるロックンロール、R&B、ソウル、ジャズ、そして日本の曲も英語で歌うという明確なコンセプトを打ち出す。

2021年にはロンドンのCafe Otoからデジタルリリースし好評を博したそのバンドの待望のスタジオ・アルバム「You’re either standing facing me or next to me」が5月11日P-VINEからリリース、リリース記念ライブを6月15日に開催する。

ロックの衝撃がここにある、本当のロックを聴きたい人は、集まれ。

https://www.fushitsusha.com

Duppy Gun - ele-king

 サン・アローゲド・ゲングラスを中心としたダンスホール・プロジェクト、ダピー・ガン。その新作が、ブリストルの〈Bokeh Versions〉と東京の〈Riddim Chango Records〉との共同リリースとなった。この異形のダンスホール、要チェックです。

DUPPY GUN X ELEMENT - ANDROMEDA EP

1.Jahbar Darkblood - Love My People
2.Element - Andromeda Riddim
3.I Jahbar Darkblood - Puff It
4.Element - Puff It Riddim
5.G Sudden - Walk Stagger Rum Song
6.King G - Chopping
7.Element - Rum Song Riddim

Produced by Duppy Gun & Element
Mastered by e-mura (Bim One Production)
Artwork by Cameron Stallones
Label: Bokeh Version / Riddim Chango Records

試聴サイト
トレイラー (Youtube)
■ 国内発売日: 2022年4月8 日(金)
12"EPレコード販売

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Sun ArawとM. Geddes Gengrasを中心に、I Jahbarなどジャマイカ在住のMCクルーと結成された異形ダンスホール・コレクティブのDuppy Gunが、日本のプロデューサーElementを迎えた7曲入りのEPがブリストルのレーベルBokeh Versionsと日本のRiddim Chango Recordsの共同でリリースされる。

これまでにSeekers International、 Jay Glass DubsやLow Jack、国内ではMars89や7FOの作品、さらにはTNT Roots、Bush Chemist、Traditionなどの再発を手がけ、オブスキュアなダブレーベルとしてその存在を確立してきたブリストルのカルトレーベルであるBokeh Versionsが日本とロンドンの2拠点から新しいサウンドシステム・ミュージックを提案してきたRiddim Chango Recordsと手を組んだ形になる。
Jahbar, G Sudden, King G, Darkbloodの4人のジャマイカ人MCが吐き出す強度の高いキラーなヴォーカルと、キングストンのダブポエットNazambaとの楽曲も記憶に新しいElementが製作した、SF要素がありながらもいわゆる”テクノ・ダンスホール”とも一線を隠す、オリジナルなリズムトラックが融合した楽曲7曲 (ヴォーカル4曲、インストヴァージョン3曲)を収録した12インチが4月8日リリース!
アートワークはDuppy Gunコレクティブをスタートさせた1人であり、Sun Araw名義でオルタナティブで実験的な作品を残してきたCameron Stallonesが担当している。


Duppy Gun情報
Bokeh Versions情報

春を彩るダンス・ミュージック7枚 - ele-king

 野球を観に行った。ひとごみが好きなタイプではないけど、ごった返しの状態になるのもひさびさだったので、なんというか戻ってきたな、と。来る4月もじょじょにフェス、イヴェント、あるいは単なる音楽好きが集まる会やらで予定が埋まりつつあることを思うと、いよいよ始まったと思わされる。でも、始まりあれば終わりあり。同時に渋谷のコンタクトは9月をもって閉店。私事で恐縮ですが僕は大学を卒業し、ここでも一区切りつきました。終わりは嫌だなあ。でも、パーティはみんな終わるとわかっているから、その瞬間をほんとうに楽しめるのだと、これは納得できるとてもいい言葉だね。始まりと終わりはセットでつながっていると思う。僕がいまでも忘れられないDJのいくつかも、終わった悲しさありつつ次への予感も匂わせてくれるようなプレイだ。一直線のときを過ごしたというより、ループしているような感覚。まるでJディラのドーナツみたいに。
 とまれ、ときにそうやって真面目に考えさせてくれるダンス・ミュージックはやはり最高、そして何も考えず音楽で気持ちよくなるのはそれ以上に最高。いまに感謝、おすすめの新譜(リイシュー含む)ダンス7枚です。


Two Shell – Home | Mainframe Audio

 トゥ・シェル自身が主催する〈Mainframe Audio〉はもともとヴァイナル・オンリーだったが、このたび人気の第2番「home / no reply」がデジタルにてリリース。正直、ここ最近ではもっとも繰り返し聴いているかもしれない。いまのモダンなベース・ミュージックのひとつの面白いかたちなのかなと。オリジナルはホワイト・ラベルの無骨な装いだったが、デジタル・リリースに合わせアートワークもポップでかわいらしく変化。彼らデュオは、UKの新世代のひとつと目される〈Livity Sound〉などからもリリース。この周辺はこれからさらに盛り上がりそう。

Burial + Four Tet – Nova/Moth | Text

 長らくヴァイナルでしか入手できなかった「Nova/Moth」がデジタルに登場。言わずもがな最高。デジタル・リリースまえ偶然ディスク・ユニオンで見つけたけど、その盤はマジック書き込み有りで4,000円を超えてたからね。いやあ、価格破壊です。気軽に聴けるようになりすごく嬉しい反面、血眼でレコードを探している人間からするとちょっと悲しいような気もする。まあ物理メディアは音が云々とそれらしい理由づけをして、デジタルもフィジカルも両方買うんですけど。

DJ Python - Club Sentimientos vol.2 | Incienso

 DJパイソンことブライアン・ピニェイロによる新作が、ニューヨークはアンソニー・ネイプルズの〈Incienso〉から届けられた。2020年の『Mas Amble』以来ということになる。あの催眠的で浮遊感のある、しかし明確にビートも感じられる──「ディープ・レゲトン」なる彼のシグネチャー・サウンドは相変わらず健在。僕は普段からレゲエないしダンスホールをたくさん聴く人間ではないので、専門的な切り口からこのEPについて語れないのは容赦してほしい。“Angel” の約11分に充満する音の空気、そこに波打つかのように持続するパッド、反射するように静かにきらめくシンセ……。重力から解放された気さえするが、同時に、意外なほどクラップを軸に据えたビートはかちかちと忙しない。ダンス・トラック的な趣もありながら、ぐっと深いところへも誘ってくれる。ずっと浸っていられるサウンド。

Disclosure & Zedd – You've Got To Let Go If You Want To Be Free | Apollo

 ライ(Raye)との新曲 “Waterfall” のほうが最近だが、こっちについて語りたい。ゼッドはEDM直撃世代の僕にとっては馴染み深いDJで、高校生のころ幕張メッセのライヴも観ている。この曲には、フォー・テットとスクリレックスが2021年にコラボしたとき(2019年にはロンドンでB2Bをしていたりもする)と似た感情を抱いた。少なくとも僕の感じた限りでは、あのフォー・テットが超メジャーのドル箱スターDJとコラボするなんて……といった論調があり、一部の音楽好きの心をささくれ立たせていた(ように見えた)。今回もそれと似たまさかのコラボ。ヴォーカルなど全体的にディスクロージャー風味が強いが、ところどころのビートの質感などゼッドを思い出す部分もある。

PinkPantheress – to hell with it (Remixes) | Parlophone

 去年にリリースされたミックステープのリミクシーズ。2021年のダンス系ニューカマーとして話題をかっさらったピンクパンサレスであるが、やはり面白い。2分にも満たない音楽にさらっと90年代におけるジャングルないしUKガラージがサンプリングされており、ざっくりと「Z世代による90年代レイヴの再解釈」と形容されている。それはピンクパンサレスだけでなく、ニーア・アーカイヴ、ピリ、ユネ・ピンクなどなど、いま同じ感覚を持ったアーティストはたくさんいる。手っ取り早くスポティファイの「planet rave」というプレイリストを聴いてみて。ここに新しい潮流が生まれつつある(のか?)。アンツ、LSDXOXO、フルームあたりがベスト・リミックスだと思う。

buen clima - Transferencia Electrónica | Peach Discs

 〈Peach Disc〉は個人的に追っているレーベルのひとつ。シャンティ・セレステによるこのロンドンのレーベルはアートワークなどが視覚的にポップでかわいらしく、それもレーベル・テーマが「フルーティ&セクシー」なのだからなるほどと言ったところか。ピーチやシエルといった女性DJを多くフックアップする一方、UKテクノ新世代と目されるコール・スーパーやホッジなど男性陣もリリース。ブエン・クリマはこのレーベルが2022年を迎えた初の作品。リズムが面白くそこに乗るウワモノもきわめて独特。チリの男性。

Rilla - Yugeki / 遊撃 EP | SVBKVLT

 遅ればせながら。福岡出身で京都在住のリラによる一撃。テクノ~ベース・ミュージック、トライバルなども消化した5曲入りEPからは、クールさと怖さのバランスに非常に優れたサウンドを感じた。これをガチのサウンド・システムの入った場所で聴いたら、間違いなく僕の身体は持っていかれる。上海の〈SVBKVLT〉から初の海外リリースとなるが、同じく京都在住のストーンズ・タローもUKの〈Shall Not Fade〉からリリースするなど、京都のシーンがかなり盛り上がってきているのを感じる。〈Set Fire To Me〉のトレイ(いまは東京)、CYKクルーのコツ(一時移住)など素晴らしいDJもたくさんいるしね。

Aldous Harding - ele-king

 ポピュラー(=人気のある/大衆向け)音楽というだけあって、ポップスの基本テーゼのひとつは「人に好かれること」にある。耳に心地よいメロディやサウンド、踊りたくなるビート、美しいヴィジュアル等の正の価値観&普遍性は大抵勝つのだ。筆者の暮らすイギリスでも、ここ数年音楽業界のマーケティング・キーワードとして「共感しやすさ」が重視されている。SNSや各種プラットフォームの発達でかつて以上にファンとじかに繫がることのできる時代だけに、スターも「近づきがたい憧れ」だけではなく「親しみやすい普通の人間」な面もアピールした方が賢明かつ無難らしい。
 正の価値観だけで世界が構成されているはずはなく、光あるところに影が生まれるように、負の価値観も音楽の想像力を拡張してきた。前衛や実験音楽のノイズ、不協和音、ドローン、即興/偶然といった「秩序を乱す」ヴォキャブラリ──ときに「音楽ではない」とも評された──は、様々な形でポピュラー音楽に侵入し吸収された。チャート1位云々のレベルではなく多くはアート/アングラ/インディ系と呼ばれるが、それらも確実に商業音楽の一角を占める。人間は清明で整った美しいものだけではなく、不快な/不気味な/恐ろしいものにも魅かれてしまう。普通は抑圧されるか排除される、境界線をかく乱する異物(ジ・アザー、埒外、禁忌、アンビヴァレンス。ジュリア・クリステヴァが言うところのアブジェクシオン)に、アートは長い間生存する逃げ場をもたらしてきた。
 ニュージーランド出身、現在ウェールズを拠点に活動するシンガー・ソングライター、オルダス・ハーディングの新作4th『Warm Chris』を聴きながら、そんなことを考えている。オルダス(Aldous)というとハクスリーが浮かぶし、オルダスの語源は「old」らしい。だが、男性でも年寄りでもないこの人の正体はハナ・シアン・トップという名の今年32歳の女性だ。2015年からやっているツィッターのこれまでのポストは13個。プラヴェートかつインタヴューも苦手という「作品に語らせる」アーティストで、音楽はラウドでもノイジーでもなく一聴チャーミング。だが、その世界観が放つ不穏さ・矛盾は、アブジェクシオンの美で際立っている。

 フォーク/ブルーズ系ミュージシャンのロリーナ・ハーディングを母にもつ彼女にとってギターを手に歌う行為は日常的な光景だったようだ。10代で作曲を始め、一時期ブルーグラス・バンドでも活動。地元のインディ〈Spunk〉から発表したセルフ・タイトルのデビュー作(2014)のジャケットはトラッカー帽にTシャツという現代女性ぶりながら、フォークとカントリーに根ざしたサウンドと思慕に満ちたメロディ、アルカイックなトーン/密やかなフレージングを継承した歌声はタイムレスだった。メルヴィン・ピークの『ゴーメンガースト』を引用した曲名やPV(特に “Hunter”)や歌詞に浮かぶアンジェラ・カーターの『血染めの部屋』的想像力も作用し、同作は「ゴシック・フォーク」とも評され注目を集めた。

ジョンには歌の本質を見極める不思議な才能が備わっている。言葉で言い表せない感覚のようなもので、私の人生の中でもっとも重要なもののひとつである彼との関係は、ふたりにそれぞれ与えられたギフトの間で起きる沈黙のコミュニケーションの上に成り立ってきたように思う
(*発言はオルダス・ハーディングとのメール・インタヴューより引用、以下同)

 世界的な名門〈4AD〉からのリリースとなったセカンド『Party』(2017)で、彼女はジョン・パリッシュと一種運命的な出会いを果たす。『Warm Chris』も含め3作をプロデュース(プレイヤーとしても貢献)することになるジョン・パリッシュはPJハーヴェイの懐刀として知られるが、ジェニー・ヴァル、ディス・イズ・ザ・キット、ドライ・クリーニング等の作品でも優れた手腕を発揮してきた。パーソナルな歌という根本は変わっていないものの、彼と共にピアノ、打ち込み、管楽器、クワイア等の新たな彩りをストイックに配した音空間を造成しつつ、オルダスは大胆なヴォーカル・パフォーマンスに乗り出していった。イノセントな少女のささやき、男性的な低域、空を刺すナイフのようなシャウト、柔らかなメゾ・ソプラノ、初期ニコの硬質で超然としたトーン。曲ごとに、というかひとつの曲の中ですら表情・質感・音域がメタモルフォーズし、視座も変わる。“Horizon” のドラマチックさを筆頭に、表現者としての跳躍が起きた。

まあ、私の歌詞やヴィデオの解釈には色んなものがある。私をホドロフスキーの大ファンで障害者だと思っている人たちもいる。また、ホドロフスキーの大ファンで子供を産めない人だと考える者もいる。どうなることやら

(実に多彩なヴォーカルの「妖精」を用いていますね、との意見に対し)この世界はカラフルなもの、そうじゃない? ヴォイスは楽器であり、私はこの世のギャップを埋めるためにそれを使う。あれら様々なヴォイスは、若い願望やテレビ番組等々と同じくらいに、私の一部を成している

 ニュージーランドと欧州の音楽賞で最優秀アルバム部門にノミネートされた前作に続くサード『Designer』(2019)はクリーンなアレンジとあたたかなサウンド、レンジを広げたヴォーカリゼイションがハモり始めた1枚。初来日も果たしている。才媛ケイト・ル・ボンのコラボレーターでもあったH.ホークライン(ヒュー・エヴァンス)らウェールズ・シーンとのオーガニックな連携も嬉しいが、“Designer” や “The Barrel” のR&Bなグルーヴ・メイクや “Weight of the Planets” のトロピカル味の導入が何より耳を引く。フォークという分類からスルリと逸脱した一種無国籍/無時代なハイブリッドぶりは、スラップ・ハッピーの『Acnalbasac Noom』の楽しさすら彷彿させる。
 より多くの耳目に触れたことで、彼女につきまとう「エニグマ」、「風変わりな」といった形容詞もこの作品で定着したように思う(別に難儀な人だとか、意図的にミステリーを醸しているのではなく、作品や自身を「説明」することに意義を感じないようだ)。たとえば、一聴軽やかなポップ・ソングである “The Barrel” のヴィデオ。子宮を思わせるトンネルを潜ると、17世紀オランダ風でありつつアシメトリーな衣装(上記の引用発言で彼女が触れている「ホドロフスキー」は『ホーリー・マウンテン』に由来する)と分厚いプラットフォーム・シューズ姿を始め、色々な「オルダス」が登場する。がに股で指をスナップする映像は心をざわつかせずにいられないし、「鳩」、「フェレット」、「卵」、「ピーチ」といったセックスや繁殖のイメージを喚起する言葉が並ぶ詩的な歌詞も解釈は十人十色。どうして? 何を象徴しているの? と謎は深まるばかり。
 「動物園の目」なる不思議なイメージからなぜか話がアラブのドバイにまで飛ぶ “Zoo Eyes” の歌詞もシュールで抽象的だ。「ズゥアイズ」―「ドゥバイ」の韻なのはわかるが、そもそも「私はドバイで一体何をしてるんだろう?」の自問で始まる曲だけに、その「私」の状況も曖昧と言える。これでは Genius も註釈に困るだろうし、彼女が主体(語り部)と客体(キャラ)を兼ねるヴィデオもマルチプルな視点が可能な夢の世界のそれ。この奇妙で美しい内的ロジックと想像力を、聴き手は直観で受け入れる(あるいは拒絶する)しかない──簡単に飲み下し消化できない異物でありつつポップな魅力も備えた、久々のカリスマの覚醒だった。

今回のヴォーカルは、他のレコード以上に純粋な音響/音声にチューニングを合わせている。背景音に対して、言葉のサウンドそのものを独立した詩として響かせたかった

 新作『Warm Chris』は、奇妙な感性を自由に広げると同時に、音楽的なフォーカスを引き絞ったマエストロの1枚と言える。どこに向かうか見当のつかない曲展開やテンポ/ムード・チェンジ、コード進行の妙、変幻自在なヴォーカル。1曲ごとに味わいも中身も違うイースター・エッグを思わせる緻密さながら、風通しのよいサウンドゆえに自然体に響くバランス感が素晴らしい(「がんばった」エキセントリックさほど悲しいものはないので)。そこには、ゲストに迎えた英ジャズ界の名物ドラマー:セブ・ロチフォード(近年ではサンズ・オブ・ケメットにも参加)が存在感を増したベースと共に軽快でしなやかなグルーヴを形成しているのはもちろん、タイトル曲のフィンガー・ピッキングを始めギターも健在ながら、歯切れよいアタック感のあるピアノ──昨年出た単発シングル “Old Peel” のPV でもわかるが、ロックダウン中に彼女はピアノを学んだ──がリード楽器になっている点も大きく作用している。

ジェイソンがオーストラリアのフェスでプレイしたのを見たことがあった。自分のショウの後で少し話せたけれども、彼にさよならと言いつつ、頭の中ではもう彼に向けてEメールを書いていた。私たちの間には非常に敬意に満ちた、不安定なケミストリーが生じた。ジェイソンに期待していたのはサウンドではなくエネルギー。彼の肉体性と頭脳から、こちらの求めるどんなサウンドも作り出せる人だと、自分には分かった。たしか彼はあの曲をワン・テイクで録ったんだったと思う

 掛け布団やキルトにぐるぐる巻きにされたアーティスト写真、第一弾シングル “Lawn” のヴィデオではトカゲ(!)に扮する等、相変わらずシュールな世界にも引き込まれる。彼女のこれまでのアルバムはすべて9曲入りであり、ジャズ味が新鮮な⑨ “Bubbles” でしっとり終わる……のもありだっただろう。しかし今回は10曲目に、強力なワイルド・カード=スリーフォード・モッズのジェイソン・ウィリアムソンがカメオ参加した “Leathery Whip” が控えている。「美女と野獣」な顔合せだが、このふたりにしか生み出せない強烈に異色なポップ・マントラなだけではなく、双方が通常の守備範囲を越えている意味でも秀逸(ジェイソンはアレックス・キャメロンの『Oxy Music』でもコラボしている。興味のある方は聴き較べてみてください)。

 この曲の「少し歳をとったけれど私は変わらないままだ/私のことを欲しがる連中は私が追いかけているものを持ち合わせていない/あり得ない」という印象的なヴァースの力強い拒絶の意思(それは “Old Peel” でも響いていた)はより明確にアーティストとして/女性としての自身を定義した彼女を伝えるし、この大胆なオープン・エンディングを聴いていると、オルダス・ハーディングはどこまで行くんだろう? とますます楽しみになる。その唯一無二の旅路をぜひたどってみて欲しい。

250 - ele-king

 昨年ニュース出ししたところ、あまりの反響の大きさに編集部も驚きの韓国でポンチャック(韓国演歌・ミーツ・テクノ)・リヴァイヴァルを先導する男、250(イオゴン)。これぞ真の韓流なのだと言わんばかりの、とんでもない力作がついに完成した。アルバム名はシンプルに、『ポン ppong』だ。

  『ポン』には、電気グルーヴのファンにはお馴染みのイ・パクサも参加。また韓国ジャズ界の大物、イ・ジョンシクをはじめ、韓国大衆音楽における重鎮たちが何人も参加している。コロナに戦争と、こんなとんでもない時代、音楽と笑いをありがとう。まずはこちらで購入可

‘ロイヤル・ブルー (Royal Blue)’

 本作には、韓国大衆音楽の象徴的な存在であり、近年欧米でも再評価の機運が高まっているギタリスト・作曲家のシン・ジュンヒョン、韓国の「国民歌手」チョ・ヨンピル(チョー・ヨンピル)の80年代の代表曲「ソウル・ソウル・ソウル」や「キリマンジャロのヒョウ」をはじめ、作曲家の夫キム・ヒガプとのコンビによる数多くの名曲でも知られる作詞家のヤン・インジャ、90年代の韓国歌謡界には欠かせない名セッションプレイヤーであり(ソテジ・ワ・アイドゥル「君に」、デュース「夏の中で」、イ・スンチョル「さよならなんて言わないで」等)、日野皓正セクステットのメンバーとしても活動するなど日本のジャズ・シーンとの交流も深いサックスの巨匠イ・ジョンシク、高速道路トロット・メドレー界の伝説であり電子オルガン奏者のナ・ウンド、日本でもポンチャックの代名詞として名高いイ・パクサ、そのイ・パクサの片腕として知られたキーボーディストのキム・スイル、韓国では誰もが知っている人気アニメ『赤ちゃん恐竜ドゥーリー』の主題歌を歌った歌手オ・スンウォンまで、大衆音楽の歴史に名前を残した巨匠たちが大挙して参加している。


250(イオゴン)
ポン ppong

BANA
アルバム音源ストリーミング・購入リンク
https://orcd.co/250ppong

Tracklist
01. 全てが夢だったね It Was All a Dream
02. ベンバス Bang Bus
03. 愛のはなし Love Story
04. 裏窓 Rear Window
05. そして誰もいなくなった …And Then There Were None
06. バラボゴ Barabogo
07. 私は君を愛す I Love You
08. ください Give Me
09. ロイヤル・ブルー Royal Blue
10. レッド・グラス Red Glass
11. フィナーレ Finale

‘ベンバス (Bang Bus)’

‘裏窓 (Rear Window)’

 日本統治時代、同時代の西洋音楽の(直接的な)影響を受けることがなかった朝鮮半島で、最初に根を下ろした大衆音楽は他でもない、演歌と軌を一にしたトロットだった。トロットは時代の雰囲気に乗り、変化と拡張、栄枯盛衰を経て、今日に至るまで命脈を保ってきた。その中でも、トロットをベースにテクノとディスコを融合した混種であるポンチャックは、観光地の駐車場、高速道路の休憩所、お年寄りが集まる公園といった場所で接することができる類のものだった(ただし、これは日本でも知られるところの狭義の音楽ジャンルとしてのポンチャックであり、本来ポンチャックという言葉はリズムを表す擬声語である)。
 トロット、とりわけポンチャックは「中高年のダンス音楽」、という固定観念が若い世代の頭の中に深く植え付けられた。あるいは、一部のエンターテイナーがギャグ的なイメージを作るために披露する音楽として人口に膾炙したであろう。ポンチャックを消費する世代がいよいよ終わりに近づいているように見える現時点で「果たしてポンチャックは命脈を繋いでいくのだろうか」という疑問が生じる。ここで、BANA(Beasts And Natives Alike)所属のプロデューサー、250 (イオゴン) の試みが注目される。
 250は、韓国のプロデューサー兼DJとして、幅広い分野で優れて独創的な活動を展開してきた実力派アーティストだ。250は、自身のデビュー・アルバム『ポン』のために、実に4年もの長きにわたって制作作業に没頭してきた。
 250は、NCT 127(’Chain,’ ‘My Van’)、ITZY(’Gas Me Up’)、f(x)、BoA 等のK-POPのみならず、ESENS、Masta Wu、Kim Ximya (XXX) 等のヒップホップに至るまで、幅広いジャンルのプロデューサー
として活発に活動してきた。そしてその実力を認められ、キツネのアジア・ツアー、NTSラジオ、ガブリエル・ガルソン・モンターノのソウル公演、ソウル・ファッション・ウィーク、カルティエ財団のソウルでの展示音楽など、様々な分野でラブコールを受けてきた。
 アルバム『ポン』は、韓国大衆音楽史において明らかに重要な位置を占めるものの、ジャンル的に切り捨てられ、誰もまともに議論しようとしない「ポン」というキーワードを真摯に見つめ直す、大きな意味を持ったプロジェクトだ。
 韓国、そして日本においてもなじみのあるポンチャックのリズムとメロディーを250が自分だけのスタイルで現代的に再解釈した今回のアルバムには、韓国大衆音楽史上初めて「ポン」について真摯に探求し、究極的には様々な世代を一つにするダンス音楽を作ろうという実験的意図が込められている。
250はアルバム『ポン』の4年にわたる制作過程を愉快に収めたドキュメンタリー・シリーズ「ポンを探して」のホストとして、ドキュメンタリー映像をこつこつと発表し、音楽愛好家の間で多くの関心を呼んできた。 2018年には『ポン』にも収録されている最初のシングル「裏窓(イチャン)」と型破りなミュージック・ビデオを公開し、キツネのキュレーションによるプレイリストに選曲されるなど、多くの期待を集めた。
 BANA (Beasts And Natives Alike):韓国の音楽シーンにおいて、その際立ったキュレーションで独自の位置を占めるレーベル兼マネージメント。SMエンターテインメントのインターナショナルA&Rだったキム・ギヒョンが独立して2014年に設立。韓国最高のラッパーの一人とされる E SENS (イーセンス) が、以前の事務所だったアメーバカルチャーを離脱後、BANAの立ち上げから最初の所属アーティストとして合流したことで大きな話題を呼んだ。E SENSが大麻不法所持で逮捕後、2015年に獄中から発表したアルバム『The Anecdote』は各方面から絶賛を浴び、翌年の韓国大衆音楽賞で最優秀アルバム賞を受賞。その後もエクスペリメンタル・ヒップホップ・デュオのXXX、プロデューサー/DJの250やMaalib、アニメーターの
エリック・オー等、多彩なアーティストと契約。2021年3月には韓国ヒップホップ界を牽引してきた重鎮ラッパー、Beenzino (ビンジノ) の加入が発表され、今後の展開にさらに期待が集まっている。

Website https://beastsandnatives.com/
Instagram BANA @watchbana, 250 @250official

 残念なお知らせだ。東京のクラブ・シーンを担ってきた一角、渋谷の Contact が、入居ビル取り壊しのため、9月17日(土)に営業を終了する。
 そのため4月22日と23日に3年ぶりに開催されることになったアニヴァーサリー・パーティが、最後のアニヴァーサリー・パーティとなる。
 4月22日は BLACK SMOKERS、O.N.O、REBEL FAMILIA、Dos Monos、DJ QUIETSTORM、FELINE が集結、翌23日はDJハーヴィーが来日しオールナイト・セットを披露する。豪華なアクトによる音楽を思う存分楽しみたい。

4/22(金)
Contact 6 Year Anniversary Party Part 1

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Open 10PM
¥2000 Under23 | Before 11PM ¥2000 GH G Members | Early Bird Ticket
¥2500 Advance | GH S Members
¥3000 GH Members | w/Flyer | Facebook Discount
¥3500 Door
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Studio:
BLACK SMOKERS -Live 
O.N.O(THA BLUE HERB) -Live
REBEL FAMILIA(GOTH-TRAD × 秋本"HEAVY"武士) -Live
Dos Monos -Live
DJ QUIETSTORM
FELINE

Visual:
rokapenis

Contact:
Atsushi Maeda
Tatsuoki
ZUNDOKO DISCO
Akey
Mari Sakurai

Foyer:
100mado
Frankei $
GQOMZILA -Live
Romy Mats
suimin

Space production:
VJ Camel × LOYALTY FLOWERS (解体新書)

Food:
The Daps

4/23(土)
Contact 6 Year Anniversary Part 2
DJ HARVEY – All Night Long –

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Open: 10PM
¥2500 Under 23 | Before 11PM | Early Bird (早割チケット100枚限定) | GH G Members
¥3000 Advance | GH S Members
¥3500 w/Flyer | GH Members | Facebook Discount
¥4000 Door
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Studio:
DJ HARVEY (Locussolus | LA) – All Night Long –

Contact:
Mild Bunch Soundsystem
Kenji Takimi (Crue-L | Being Borings)
KILLER TUNES BROADCAST (WACKO MARIA)
Vinyl Youth
and more

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DJ HARVEY

ハウス、ディスコ、バレアリックシーンのカルトリーダー、そしてDJとして最も神の領域に近い男と称されるリヴィングレジェンド、DJ Harvey (DJハーヴィー)。
ローリングストーン誌は彼を“DJ界のキース・リチャーズ”と評し、世界に君臨するDJトップ10に選出している。

1980年代半ばのロンドンでDJキャリアをスタート。セカンドサマーオブラヴの狂騒の中、悪名高きDIYパーティー集団「Tonka Sound System」のクルーとしてその名を馳せ、ニューヨークの伝説的クラブ「Paradise Garage」のレジデントDJであったラリー・レヴァンも出演した自身のパーティー「Moist」で、DJとしての評価を不動のものとする。1990年代に「Ministry of Sound」のレジデントDJを務め、2002年にロサンゼルスに移住。LAアンダーグラウンドの聖地として、世界中からハードコアなダンサーたちが集うウェアハウスパーティー「Harvey Sarcastic Disco」を開催して、レフトフィールドなディスコやバレアリック復権への大きな流れを作った。また、当時発表した不朽の名作『Sarcastic Study Masters Volume 2』は、世界最大の中古音楽市場Discogsで、ミックスCDとして史上最高額となる500ドルの値が付けられている。

2010年にアメリカ国外への渡航が可能になると、世界中からオファーが殺到。奇跡の再来日を果たした2010年GWのジャパンツアーでは、全国12都市を回りロックスター顔負けの1万人以上を動員。母国イギリス・ロンドンでの凱旋パーティーは、チケット発売後わずか1分でソールドアウトを記録し、世界最高峰のクラブ「Berghain/Panorama Bar」や世界最大級のフェス「Coachella」などにも出演。2017年には、ニューヨーク「Paradise Garage」のラストパーティーの様子をBoiler Roomが映像作品化した『The Final Night In Paradise - DJ Harvey re-soundtracks lost tapes from legendary Paradise Garage closing party 1987』の選曲を担当。2018年には、トム・クルーズ主演の人気映画シリーズ最新作『Mission: Impossible - Fallout』のナイトクラブのシーンで、DJ(本人役)としてカメオ出演している。また、ワム!の名曲『Club Tropicana』のMVロケ地にして、クイーンのフレディ・マーキュリーが伝説のバースデーパーティーを行ったホテルとしても知られるイビサの「Pikes」で、2015年からレジデントパーティー「Mercury Rising」を開催。2021年に同パーティーのオフィシャルコンピレーション第3弾となる『Mercury Rising Volumen Tres』を2年ぶりにリリースした。

親日家としても知られるDJ Harvey。1989年の初来日以来、全国のクラブやフェスなどに出演し、国内最大級のダンスミュージックポータルサイトClubberiaの年間アワードでは、ARTIST/PARTY/NEWSの主要3部門を受賞。2016年には日本を代表する野外音楽フェス「Fuji Rock Festival」20周年の大トリを飾り、2019年の「Rainbow Disco Club」10周年ではヘッドライナーとして登場してオーディエンスを熱狂の渦に巻き込んだ。2019年11月に来日30周年アニバーサリーツアーを全国4都市で開催。アパレルブランド「WACKO MARIA」と来日30周年を記念したカプセルコレクションを展開して世界で話題を呼んだ。

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