「You me」と一致するもの

yahyel - ele-king

 さあ、どうだ。やってやったぞ、こんちくしょう。先日こちらでもアナウンスしたヤイエル(yahyel)初のCD作品『Once / The Flare』だが、なんと、即完売だったそうである。おまけにApple Musicの「今週のNEW ARTIST」にも選出されたらしい。僕だけじゃなかった。みんなも「こりゃあイイ!」って思っていたんだ。僕は間違っていなかった。もうそれだけで十分だ……
 なんて満足していたら、今度は待望のデビュー・アルバムのリリースがアナウンスされた。全然十分じゃなかった。ヤイエル、これからである。アルバムはオーウェルの『1984』や『AKIRA』、『マトリックス』や伊藤計劃からインスパイアされたものになっているらしい。ヤイエル、冴えている。気になるデビュー・アルバムの発売は11月23日。それに先がけ、10月22日に開催される〈HOUSE OF LIQUID〉への出演も決まっている。
 まだちゃんと綴れないかもしれない。まだうまく発音できないかもしれない。でもみんな、もうかれらの存在は覚えたでしょう? 時は、満ちた。

限定CD即完も話題の新鋭
yahyel が満を持して放つ待望のデビュー・アルバム
『Flesh and Blood』発売決定!

日本人離れしたヴォーカルと最先端の音楽性、また映像クリエイターを擁する特異なメンバー編成で、今各方面から注目を集める新鋭 yahyel(ヤイエル)が、渾身のデビュー・アルバム『Flesh and Blood』のリリースを発表!

2010年代、インディを中心として海外の音楽シーンとシンクロするアーティストがここ日本でも次々に現れるようになったのを背景に、2015年にバンドを結成。今年1月には、いきなり欧州ツアーを敢行。その後もフジロックフェスティバル〈Rookie A Go Go〉に出演し、METAFIVEのワンマンライブでオープニングアクトを務めるなど、着実にその歩みを進めていった。一方で、先週リリースされた初のCD作品『Once / The Flare』が、発売と同時に売り切れ店舗が続出する盛り上がりを見せ、Apple Musicが今最も注目すべき新人アーティストを毎週1組ピックアップし紹介する企画「今週のNEW ARTIST」にも選出されるなど、予想を遥かに上回る反響を呼んでいる。

yahyel - Once


『AKIRA』や伊藤計劃、ジョージ・オーウェル『1984』、『マトリックス』をインスピレーションに、ディストピア性を押し出した本作『Flesh and Blood』には、全10曲を収録。シングルとしてリリースされた「Once」や、昨年自主制作でリリースされた楽曲も、アルバム用に新たにミックスされたアルバム・ヴァージョンとして収録されている。マスタリングは、エイフェックス・ツインやアルカ、ジェイムス・ブレイク、フォー・テット、FKAツイッグスなどを手がけるマット・コルトンが担当している。

インターネットをはじめとする音楽を取り巻く環境の変化を、ごく自然に吸収してきた世代が、ここ日本でも台頭する中、際立ってボーダーレスな存在であるyahyel。現代のポップ・ミュージックの「いま」を鮮やかに体現するこの新星が放つ待望のデビュー・アルバムは、11月23日(金)リリース! iTunesでアルバムを予約すると、現在発売中のEP収録の「The Flare」がいちはやくダウンロードできる。

なお、yahyelは10月22日(土)に恵比寿LIQUIDROOMにて開催されるHOUSE OF LIQUIDへの出演が決定している。
https://www.liquidroom.net/schedule/20161022/30921/

label: Beat Records
artist: yahyel
title: Flesh and Blood
ヤイエル『フレッシュ・アンド・ブラッド』
cat no.: BRC-530
release date: 2016/11/23 WED ON SALE

【ご予約はこちら】
amazon: https://amzn.to/2dBcCcf
beatkart: https://shop.beatink.com/shopdetail/000000002109
tower records: https://tower.jp/item/4366338/
iTunes: https://apple.co/2dx8RrM

yahyelオフィシャルサイト:https://yahyelmusic.com/
アルバム詳細はこちら:https://www.beatink.com/Labels/Beat-Records/yahyel/BRC-530/

Tracklisting
1. Kill Me
2. Once (album ver.)
3. Age
4. Joseph (album ver.)
5. Midnight Run (album ver.)
6. The Flare
7. Black Satin
8. Fool (album ver.)
9. Alone
10. Why

[今後のライブ]

HOUSE OF LIQUID
featuring live
Seiho
yahyel

featuring dj
Aspara (MAL/Lomanchi)
Licaxxx

2016.10.22 saturday midnight
LIQUIDROOM
open/start 24:00
adv.(now on sale!!!) 2,000yen / door 2,500yen[under 25, house of liquid member→2,000yen]

※深夜公演のため20歳未満の方のご入場はお断り致します。本人及び年齢確認のため、ご入場時に顔写真付きの身分証明書(免許書/パスポート/住民基本台帳カード/マイナンバーカード/在留カード/特別永住者証明書/社員証/学生証)をご提示いただきます。ご提示いただけない場合はいかなる理由でもご入場いただけませんのであらかじめご了承ください。(This event is a late night show, we strictly prohibit entrance of anyone under the age of 20. We require all attendees to present a valid photo ID (Drivers License, Passport, Resident Registration Card, My-number card, Special permanent resident card, Employee ID, Student ID) upon entry. For whatever reason, we will refuse entry to anyone without a valid photo ID.)

info: LIQUIDROOM 03-5464-0800 https://www.liquidroom.net

海外からの来訪者の増加傾向著しい日本の主要都市、東京と大阪。共に、多種多様な文化が集まり交差する拠点としても長らく日本の音楽シーンを牽引し続け、今やオーバーグラウンド/アンダーグラウンド問わず世界のシーンへと飛び出すアーティストたちを多く生み出している。そんな二都から現れた若手最注目株たちがなんと、2016年3回目の開催となるHOUSE OF LIQUIDにて大激突。


yahyel | ヤイエル

2015年3月に池貝峻、篠田ミル、杉本亘の3名によって結成。

古今東西のベース・ミュージックを貪欲に吸収したトラック、ブルース経由のスモーキーな歌声、ディストピア的情景や皮肉なまでの誠実さが表出する詩世界、これらを合わせたほの暗い質感を持つ楽曲たちがyahyelを特徴付ける。

2015年5月には自主制作のEPを発表。同年8月からライブ活動を本格化し、それに伴いメンバーとして、VJに山田健人、ドラマーに大井一彌を加え、現在の5人体制を整えた。映像演出による視覚効果も相まって、楽曲の世界観をより鮮烈に現前させるライブセットは既に早耳たちの間で話題を呼んでいる。

2016年1月には、ロンドンの老舗ROUGH TRADEを含む全5箇所での欧州ツアーを敢行。その後、フジロックフェスティバル〈Rookie A Go Go〉ステージへの出演やMETAFIVEのワンマンライブでオープニングアクトを経て、9月に初のCD作品『Once / The Flare』をリリースすると、発売と同時に売り切れ店舗が続出。Apple Music「今週のNEW ARTIST」にも選出されるなど、今最も注目を集める新鋭として期待されている。

Tycho - ele-king

 サンフランシスコを拠点に活動するプロデューサー、スコット・ハンセン。彼を中心としたアンビエント・プロジェクトがティコである。かれらはこれまでも〈Ghostly International〉から『Dive』(2011年)、『Awake』(2014年)と話題作をリリースしてきたが、去る9月30日、新作『Epoch』が急遽iTunesにてリリースされた。これまでのかれらの特徴を引き継ぎながらも、様々なスタイルから影響を受けた新たなティコ・サウンドが打ち出された作品となっている。要チェックです!

・サンフランシスコを拠点に活動するティコ、
5枚目となるニュー・アルバム『エポック』を急遽配信にてリリース!

サンフランシスコを拠点にグラフィック・デザイナーとしても活動するスコット・ハンセンによるソロ・プロジェクトとして始まった、ティコ。
04年のファースト・アルバムのリリース以来コンスタントに作品を発表し続け、13年のTAICOCLUBで初来日、15年のジャパン・ツアーは即日ソールドアウト、そして今年のTAICOCLUBで帰還を果たすと会場には満員のオーディエンスが詰めかけるなどここ日本でもエレクトロ・アーティストとしては破格の人気を誇っています。

そんな彼らが、なんと急遽5枚目となるニュー・アルバム『エポック』を配信にてリリース!
今年に入ってから7月に突如新曲“Division”を公開するなどじわじわと動きを見せていた彼らですが、先日アルバム・タイトルにもなっている新曲“Epoch”を公開するとiTunes JPにて注目トラックに選出されるなど早くも話題沸騰。
今回のアルバムは過去作と同じくスコット・ハンセン自身が作曲とプロデュースをおこない、いままでのティコらしさを残しつつも新曲“Division”で展開した7/8のテンポなど複雑で繊細なサウンドが特徴。ロック、ダンス、エレクトロニックなどの幅広いジャンルからインスパイアされたティコの生み出す最新サウンドがふたたび世界を魅了します!

────────
ニュー・シングル“Epoch”はこちら:

────────

Download "Epoch" in The Ghostly Store:
https://www.theghostlystore.com/products/tycho-epoch-1

────────
“Division”はこちら:

────────

今作からZac Brown(ベース/ギター)と、ナイトムーヴスとしても活動しているRory O’Connor(ドラム)が加入した3人編成のバンド形態となっているので、より進化したライヴ・パフォーマンスも期待できそう。
来日公演の実現が待たれます!

■リリース情報
アーティスト:Tycho(ティコ)
タイトル:Epoch(エポック)
レーベル:Ghostly International / Hostess
価格:1,500円
絶賛配信中!

<トラックリスト>
1. Glider
2. Horizon
3. Slack
4. Receiver
5. Epoch
6. Division
7. Source
8. Local
9. Rings
10. Continuum
11. Field

ニュー・アルバム『エポック』iTunes大絶賛配信中!

【バイオグラフィー】
サンフランシスコを拠点に活動するスコット・ハンセンによるソロ・プロジェクト。彼はISO50という名義でグラフィック・デザイナーとしても活躍する。02年から音楽活動を始め「The Science of Patterns EP」、04年に1stアルバム『サンライズ・プロジェクター』、06年に00年代のエレクトロニカ・シーンで最大の影響力を持ったレーベル〈Merck〉より『パスト・イズ・プロローグ』をリリースし、一躍話題となる。11年に〈Ghostly International〉からリリースした『ダイヴ』がロングセールスを続けており、14年に2枚目となるアルバム『アウェイク』をリリース、そして今作からZac Brown(ベース/ギター)と、ナイトムーヴスとしても活動しているRory O’Connor(ドラム)との3人編成のバンド形態となっており、より進化したライヴ・パフォーマンスとなっている。TAICOCLUB'13で初来日、15年に初単独来日公演をおこない公演はソールドアウト、大盛況を収める。また、今年1月に『Awake (Remixes)』をリリースし、TAICOCLUB'16にて再来日した。そして9月、5枚目となる新作『エポック』を配信にて急遽リリース。

DJ WADA (Dirreta) - ele-king

Lounge charts

comming soon !

DJ WADA - Garden (sample) c-90+DL CODE

from Field Of Mouth Records

Sleaford Mods - ele-king

 これは明るいニュース、真っ黒こげの未来です。そう、スリーフォード・モッズが〈ラフトレード〉と契約しました。もう知っている方も多いと思いますが、このニュース、けっこう、アガります。まずは手始めにEP「TCR」が出る!

 スリーフォード・モッズといえば、労働党の党首だったジェレミー・コービンを支持するためこの1年党員となったヴォーカリストのジェイソン・ウィリアムソンが、ブリグジット以降、コービンへの非難が噴出する労働党において、党のダン・ジャーヴィス議員を汚らしい言葉で罵るツイッターを流し、離党を命じられたことがニュースになったばかり。
 シングルの発売は10月14日。それでは、「76年以来のパンク」「革命は一時的にテレビに放映された」などとコメントされている、BBCで放映されつつも、のっけからf**kばかりだったため削られた、彼らの曲“職探し人(“Jobseeker”)の映像をどうぞ。

Fábio Caramuru - ele-king

 好むと好まざるとに関わらず、音楽は直感的に時代を反映し、ときに奇妙に変化する。気がつけば、それは“いまこの時代”の作品の傾向として現れる。今日のアンダーグラウンド大衆音楽/インディ・シーンにおけるひとつのキーワードに「ニューエイジ」がある。え、ニューエイジだって? そう、ニューエイジだ。宗教的なものとは限らないが、ときに精神世界に言及する。瞑想的で、そして多くは自然回帰願望音楽であり、癒しの音楽として機能する。
 ジョアンナ・ブルークは、70年代にロバート・アシュレーやテリー・ライリーに学んだほどの現代音楽畑の出で、初期シンセサイザー・ミュージックの実践者のひとりでもあるが、彼女が商業的な成功を収めたのはニューエイジ・ミュージックの分野においてだった。80年代初頭に彼女は海や白鳥や宇宙、ヒーリング・ミュージックの作品を発表している。そして、この80年代こそが商業音楽としてのニューエイジ・ミュージックが最初に売れた時期でもある。
 だが、長い間、たとえ売れても、ニューエイジ・ミュージックはいかがわしいものとして、他の大衆音楽とは一線を引かれていた。ことユース・カルチャーとリンクするロックのような音楽、とくにストリート・ミュージック、あるいはシリアスな(アドルノ先生の言うところの)純音楽的な立場からは胡散臭いものとして見下されていたのが実情だった。ジャズや現代音楽ではなく、水晶やお香と同じ棚に並べられることのほうが多かったかもしれない。
 だからマシューデイヴィッドの昨年の『In My World』におけるニューエイジへの傾倒に対して戸惑いを感じたのはぼくだけではないだろうが、しかしこの方向性は、じつはここ数年のアンダーグラウンド大衆音楽/インディ・シーンを聴いている人にはわからなくもなかったはずだ。なにしろ一時期のOPNにもその感覚があり、かつてのエメラルズには自然回帰願望が如実にあったし、そのギタリストだったマーク・マッガイアのここ最近のソロ作品はニューエイジ色が充満しまくり、マシューデイヴィッドが今年〈リーヴィング〉から出した『Trust the Guide & Glide』にいたってはニューエイジそのものだ。こんな状況下で、今年の夏前にリリースされたジョアンナ・ブルークにとっての初の編集盤、CD2枚組の『Hearing Music』(CDのステッカーにはがっつり「ニューエイジのパイオニア」と記されている)がアンダーグラウンド大衆音楽/インディ・シーンで注目されるのも必然だと言えよう。(プロデューサーは『I Am The Center (Private Issue New Age Music In America, 1950-1990) 』(2013年)のDouglas Mcgowanで、同コンピレーションにはブルークの曲も収録されている)

 最近、『FACT mag』にこうした「ニューウェイヴ・オブ・ニューエイジ」に関するとても興味深い論考が上げられた。以下、部分的にざっくりとだが要約してみよう。
 「ニューエイジは80年代に流行っているが、基本的にはシリアスな音楽ファンから軽蔑されてきた。しかしそれは、政治的混乱と環境問題が重なったレーガン時代のアメリカで流行っている。テクノロジーが人間の私生活に深く入り込み、睡眠さえも贅沢になりかねない今日において、人は起きている時間のほとんどを資本主義に奉仕する。ニューエイジの復活は、鬱病を抑止する瞑想テクニックへの関心、あるいは不眠症対策のアプリや瞑想アプリへのニーズの高まりと関係している。それは、不安をかき消すためのサウンドトラックとして機能している」
 この記事で面白いのは、ここ1年のハウス・サウンドに見られるニューエイジ的な音響を紹介しつつ、他方で「ニューウェイヴ・オブ・ニューエイジ」におけるヴァイパーウェイヴとのリンクを指摘しているところだ。あのレイドバックしたまどろみからは、レトロ志向やノスタルジア以上のものが見えやしないかと。そして、「ニューエイジは、概して非政治的で、市場経済に取り込まれやすいということは知られているが、Sam Kidelの『Disruptive Muzak』は、雇用年金省のヘルプラインに電話したときの応答を録音/コラージュすることで、ニューエイジ的音響でありながら批評的/政治的とも言える作品となっている」と、「ニューウェイヴ・オブ・ニューエイジ」の豊かさを主張する。
 そこまで広げて考えるなら、今年リリースされたサン・アロウとララージとのコラボレーション作品『Professional Sunflow』もこの潮流に該当するだろう。1980年に〈EG〉からデビューしたララージは、まさに80年代のニューエイジ・ブームの時代に活躍したミュージシャンのひとりで(先述した『I Am The Center』にも収録されている)、たとえ『Professional Sunflow』がインプロヴィゼーション・ミュージックであっても、サン・アロウとララージが共演すること自体が時代を物語っているし、また、ララージのニューエイジ的な思想性よりも音響的な好奇心が優先するその作品を聴いていると、「ニューウェイヴ・オブ・ニューエイジ」がゴシック/インダストリアルと同じカードの裏表つまりディストピアに対するユートピアという単純な構図にいるものではないこともわかる。しかし、ここに意味や脈絡、切実さがないとは言わせない。

 ジョアンナ・ブルークは学生時代、スタジオの外に出てはコオロギの声を録音していたというが、ブラジルはサンパウロのピアニスト、ファビオ・カラムルの『エコ・ムジカ』にも、さまざまな動物たちの声がコラージュされている。聴こえるのはピアノの音と動物の声だけで、アルバム全体として“自然”が主題となっているそうだが、その響きがニューエイジにありがちな超現実的というわけではない。楽曲たちは牧歌的でありながら時折軽快で、素朴だが洒落ていて、ブルースからクラシック、モーダルから無調までと多彩な演奏はさり気なく、テンポが遅いわけではないがエリック・サティ的で、アンビエントなフィーリングによってまとめられている。ニューエイジ・コンセプトではあるが、日常と地続きの何気なさがこの作品の魅力であり、ぼくが気に入っている理由でもある。
 このアルバムは「ニューウェイヴ・オブ・ニューエイジ」とは何の関係もないところから出てきているが、はからずとも時代を象徴する1枚になった。安らぎに飢える北半球のアンダーグラウンド大衆音楽の誰かが聴いていても不思議ではない。仕方がないだろう、心休まる時間帯は、現代ではますます貴重になっているのだ。


interview with Machinedrum (Travis Stewart) - ele-king


Machinedrum
Human Energy

NINJA TUNE/ビート

Electronic PopIDMBass MusicR & BExperimental

Amazon

 マシーンドラムが変わった。どこかダークな『ヴェイパー・シティ』から一転し、新作『ヒューマン・エナジー』では、煌びやかでカラフルな色彩が溢れるエレクトロニック・ポップ・ミュージックへと変貌を遂げたのだ。ドラムンベースからベース・ミュージック、エレクトロからIDMまで、エレクトロニカからEDMまで、さまざまな音楽的要素をスムースに昇華しながら、いまのマシーンドラムにしか出せない新しいエレクトロニック・ポップ・ミュージックを生み出している。
この「変化」は、マシーンドラムことトラヴィス・スチュアートがカリフォルニアに移住した環境の変化も大きいらしいが、たしかに降り注ぐ陽光のような音楽だ。アンダーグラウンド・サウンド・プロデューサーとして評価を獲得していたが彼が、その志を一貫したまま、米国「ポップ・ミュージック」のプロデューサーとしての第一歩を踏み出したとでもいうべきか。00年代に、あのIDMレーベル〈メルク〉からアルバムをリリースしていた彼が、ここまで成長したのかと思うとなかなかに感慨深い。

 じじつ、この新作には昨年海外メディアの年間ベストを席巻したR&BシンガーD∆WNこととドーン・リチャードをはじめ、ブルックリンのラッパー/プロデューサーのメロー・X、リアーナ(!)のコラボレーターとしても知られるケヴィン・フセイン、ネオ・ソウル系シンガーのジェシー・ボイキンス三世、ロシェル・ジョーダン、アニマルズ・アズ・リーダーズのトシン・アバシなど、なかなかのメンツが集結しているのだ。これは勝負にでたのかもしれない。そう確信できるだけのアルバムといえる。

 では、いまの状況を、彼はどう考えているのか、どう思っているのか。来日したばかりのトラヴィス・スチュアートに話を聞いてみた。しかしてその返答・回答は極めてリラックスしたものであった。なるほど、「ポップであること」を決意したとき、人は、こうもリラクシンな状態になるものなのだろうか。新作『ヒューマン・エナジー』を聴きながら(もしくは聴きたいと思いながら)、彼の言葉を読んでほしい。奇才マシーンドラム=トラヴィス・スチュアートの「いま」の気分が伝わってくるはずだ。



現在は、どこに住んでいるのですか?

MD:ロサンゼルスさ。

前回日本に来たのは3年前ですね。今年、来日して何か変わったなと思うことはありましたか?

MD:そんなにはないね。来たばかりであまり街を見ていないから、とくに違いは感じてないよ。大阪で人と話したときに、みんな街がどんなに変わったかを話していたから、もちろん変化はしているのだろうけどね。

これまでもさんざん聞かれているとは思いますが、マシーンドラムの名前の由来について教えてください。

MD:高校の時に思いついたくだらない名前さ(笑)。90年代からずっとこの名前を使っているんだ。当時の俺の友人たちや有名なエレクトロニックのミュージシャンたちがドラムマシンを使っていたから、そのドラムとマシンを入れ替えてマシーンドラムにしたってだけ(笑)。誰も使ってないし、いいかなって(笑)。

あなたはエレクトロニック・ミュージックから、どのようなインパクトを受けてきましたか?

MD:エレクトロニック・ミュージックはタイムレスだし、定義が難しいよね。ポップ・ミュージックだってエレクトロだし、ヒップホップもそうだし、さまざまなモダン・ミュージックの制作にはエレクトロと同じソフトウェアや機材が使われている。俺自身が思うエレクトロニック・ミュージックは、人びとが限界、制限を超えて自分たちを表現することができる音楽かな。たとえばロックだと、ギター、ベース、ドラム、ヴォーカルといった制限があるけれど、エレクトロでは、キーボートやほかのものを使っていたり、そこからまた広がったりして、さまざまなもの作れるからね。

では、アーティスト、レーベル、作品、何でも良いので、あなたがいままでで一番影響を受けたと思うものは?

MD:俺は常にエイフェックス・ツインに影響を受けている。あと、〈ワープ〉の初期作品だね。エイフェックス・ツインの、「誰が何をいおうと気にしない」っていうあの姿勢が好きなんだ。自分がやりたいことを常にやって、境界線を押し広げている。だからこそ誰にも予想できないものが生まれるし、常に人びとを驚かせることができる。あの自由さは多くのミュージシャンのなかでもレアなものだと思う。人の期待や流行の波の罠に気を取られてしまうことは簡単だし、作った特定の音がいちど大きく受け入れられると、それを作り続けて人気を保ち続けることだってできるのに、彼はそれをやらない。いまの時代って、インターネットやSNSがあるから、ファンの声がダイレクトに伝わってくるぶん、彼らが好むサウンドを作らなければいけないというプレッシャーも大きいと思うんだ。でも彼や〈ワープ〉や〈ニンジャ・チューン〉に所属するアーティストたちは、その期待を超えた作品を作っているアーティストたちが多いと思う。自分の道を進んでいるよね。

あなたの作るサウンドもすごく複雑ですね。IDM的といいますか。

MD:IDMって呼ばれているアーティストで、自分が作っている音楽がIDMと思っている人ってあまりいないと思う。そもそもIDMって、とってつけたような名前だよね(笑)。でも、俺の最近の2、3枚のアルバムは、実際IDMっぽかったとは思うよ。

たしかにIDMっぽくもありながら、同時に、とても聴き心地が良いです。音作りにおいて一番大切にしていることは?

MD:自分を笑顔にして、興奮させてくれる音楽を作ること。その音楽が、他の人に音楽を作りたいと思わせることができたらなお良いし、嫌な1日を良い1日に変えて、リスナーの気分を良くすることができたら嬉しいね。そういった意味で癒しの要素を持った作品を作りたいとも思う。実際に、自分の人生を変えてくれたとか、暗い時期にいたけど明るい気分にさせてくれたとか、そういう声をリスナーから聞いたりもするんだ。自分のために自分を興奮させる音楽を作ること、ほかの人たちがインスパイアされるような音楽を作ること。そのふたつのバランスを意識しているね。

子供のときにピアノとギターを習っていたそうですが、エレクトロニック・ミュージックの場合、楽器をプレイすることができないミュージシャンも多いですよね。楽器を演奏できるということは、あなたの音楽にどう影響していると思いますか?

MD:マーチング・バンドやジャズ・バンドにいたり、アフリカン・アンサンブル、パーカッション・アンサンブルを演奏してきたりして、そういった音楽のセオリーを理解していることは、自分が作るエレクトロニック・ミュージックに大きく影響していると思う。そもそも、エレクトロニック・ミュージックを作り始めた理由が、俺は小さい街に住んでいて、そういった音楽(バンドやアンサンブル)をひとりでは作れなかったからなんだ。だから機材の使い方を学んで、ひとりで音楽を作ってレコーディングできるようになるしかなかったんだよね。

楽器を弾けることで、ほかにはないエレクトロニック・サウンドが生まれていると思いますか?

MD:ピアノが弾けるからメロディの作り方は理解している。コードの使い方とか、どの音符同士が綺麗に聴こえる、とか。マイナーとメジャーの使い分なんもそう。それは、メロディを書く上で影響していると思う。でも、そういう知識がないほうがより面白い作品が生まれる場合もあると思うけどね。何も知らない方がクリエイティヴになれたりもするしさ。自分がそういった知識をもっていることが音楽にどう影響しているか明確に説明はできないけど、もしピアノやギターが弾けなかったら、俺の音楽はまったく違うものになっていたというのは確実だと思う。

あなたのビートのプログラミングは非常にユニークですが、ビート作りにおいて意識していることはありますか?

MD:あまり意識していることはないね。ただただ自分が良いと感じるものを作っているだけ。メロディを始めとするほかの要素も同じ。すべてはフィーリングさ。良いものが生まれれば、それが良いと感じるんだ。それを作るためのマニュアルはないし、作っているうちにしっくりとくる瞬間が来る。それに従うことだね。

〈プラネット・ミュー〉からリリースされた『ルームス』(2011)の後から、あなたの音楽が大きく変化したと思うのですが、この変化はどのようにして起こったのでしょうか?

MD:『ルームス』ではビートから音作りをはじめるかわりに、そのときに「起こっていること」や「瞬間」を捉えるという姿勢で音作りに取り組んだんだ。『ルームス』ではそのやり方を発見できたし、その「瞬間」をとらえ音にするというのが、どんなに大切かがわかった。自分が作りたいと思う音を考えに考え抜いて作ることもできるけど、スケルトンの状態からその瞬間に生まれるものを取り込んでいくことも大切なんだ。それを発見してから、そのメソッドで音を作るようになったし、いまだにそのやり方を採用しているね。

『ヴェイパー・シティ』と比べて、新作はベース・ミュージックでありながらもカラフルですね。このような変化は、どうして起きたのでしょう?

MD:LAに引っ越してから、自分の人生の新しいチャプターがはじまった。気候や環境も違うし、それは影響していると思うね。でも同時に、これまでも俺は常に新しいことにチャレンジするのが好きだったし、緊張感がありながらもポジティヴな、メジャー・キーを使ったサウンドに挑戦してみたかったというのもある。前の作品ではコード・サンプルを使ったり、小さなキーボードでリードラインを書いたりしていたけど、今回は昔やっていたようにピアノでメロディを書いたりもしたんだ。だからこのアルバムでは、多くの曲がリズミックというよりもメロディックなんだよね。それは大きな変化だと思う。やっぱり88鍵盤を使うと違うね。ベースラインとメロディを一緒にプレイすることができるから、音と音の間により繋がりが生まれるんだよ。

新作『ヒューマン・エナジー』のリード・トラック“エンジェル・スピーク”にはメロー・Xを起用しています。彼とのコラボレーションはどのようにして実現したのですか?

MD:前からいろいろとレコーディングはしていたんだけど、曲に採用することがなかったんだよね。でも今回は、前にとったヴォーカルをビートに乗せて使ってみることにしたんだ。

ケヴィン・フセインはいかがでしょう?“ドス・プルエタス”では彼の声が前面に出ていて驚きましたが、何か意図はありましたか?

MD:自分では何も(笑)。俺が作るほとんどのトラックにゴールはない。ただクールなものを作りたいと思っているだけさ。

では、“ドス・プルエタス” 目指したサウンドはどのようなものですか?

MD:とくにはないけど、トラップやEDMといったモダン・ミュージックに対するリアクションのような曲だろうな。あと、『ヴェイパー・シティ』と新作のブリッジとなる作品でもあるんだ。早いドラムンベースのテンポを使いながらも、曲が進むにすれて音がどんどん発展していく。アルバムに収録されているほかのトラックと比べて、この曲はマイナー・コードだし、音的には『ヴェイパー・シティ』と繋がっているんだ。

なるほど! それにしてもかなり斬新な新作ですね。リスナーの反応はいかがですか?

MD:大好きな人と大嫌いな人にわかれるね。本当に気に入ってくれたというコメントももらったし、がっかりしたという意見も聞いた。でも、『ヴェイパー・シティ』のときもそうだったんだ。全員をハッピーにすることなんて不可能だよ。結局のところ、自分自身が楽しめているかがもっとも大切なんだ。

リード・トラックの2曲は、すごくポップで東京っぽいなと思いました。

MD:アルバム全体にその要素はあるかもね。ハイパーで、メロディックで、メジャー・コード。それってJ-popやK-popの特徴でもある。ほかの人からも似たような意見をもらったよ。

ちなみに日本の音楽や日本のアーティストに影響を受けたことはありますか?

MD:竹村延和。以前、彼の音楽にハマっていたんだ。彼のアプローチはすごくユニークなんだよ。ボアダムスもよく聴いていた。日本の音楽って、掘り下げるとすごくエクスペリメンタルなものが色々あるよね。

今回のアルバムのレコーディングで、何か変化はありましたか? 使用した機材や環境など。

MD:新しい街に引っ越したし、新しい家にも引っ越した。新しいコンピュータも買ったし、新しいエイブルトンのテンポレートも作ったんだ。今回はすべての曲において同じソニック・パレットを使ったから、統一感があると思うよ。

では参照した音楽はありますか?

MD:いや、それはない。アルバム制作期間の3ヶ月は、敢えて音楽を聴かないようにしたんだ。でも、何かの影響が自然に出ているということはもちろんあると思うけどね。

『ヴェイパー・シティ』シリーズについで今回も〈ニンジャ・チューン〉からのリリースですね。〈ニンジャ・チューン〉に関してはどう思いますか?

MD:レーベルがスタートしてから革新的音楽をリリースし続けているし、ほかとは違うレーベルだと思う。彼らと一緒に仕事ができて、本当に光栄だよ。

今年、リリースされたセパルキュア名義のセカンド・アルバム『フォールディング・タイム』も素晴らしいですね。このアルバムは、どのくらいで作り上げたのですか?

MD:1枚目のアルバムは2週間しかからなかったのに、セカンドは3、4年かけて作ったんだ。タイトルの由来もそこから来ていて、3年前のセッションをレコーディングしたものをはじめ、長い期間の間で作られた色々なマテリアルの点を繋げながら完成させたのがセカンド・アルバムなんだよ。すごく長いプロセスだったね。

その作品はR&B色が前より強くなっていると思いました。作品でのあなたの役割とはどのようなものだったのでしょう?

MD:何て答えたらいいのかわからないな(笑)。ただ普通にコラボしただけ(笑)。

“フライト・フォー・アス”でカナダの女性シンガー、ロシェル・ジョーダンを起用していましたね。どのようにして実現したのですか?

MD:知り合いが彼女を紹介してくれて、レーベルも、いくつかシングルを作ってみたらどうかと乗り気だったんだ。俺自身もいくつかの曲に彼女の声が自然にフィットすると思ったしね。

あなたの音楽にとって、ヴォーカルとはどのようなものですか?

MD:俺にとって、ヴォーカルは楽器のひとつ。ドラムなんかと同じで、大切な音の要素のひとつだね。そして同時に、やはり人間から生まれるサウンドだし、みんなが一番親しみのある音だから、どの楽器よりも人が繋がりを感じることができるものだと思う。上手い下手は関係なく誰でも歌は歌えるし、脳って、すぐヴォーカルに反応すると思うんだ。ポップ・ミュージックが親しみやすいのもそこだよね。音楽の知識がなくても、歌詞やヴォーカルを聴くことで、それをエンジョイすることができる。そういう意味ではヴォーカルってすごく重要なんだけど、俺はヴォーカルをメインにするのではなく、ほかの音とバランスをとらせたいんだ。

シンガーがあなたの音楽に何をもたらすものは、どのようなものですか?

MD:俺と一緒にコラボしているシンガーたちのほとんどが友だちだし、長いあいだ知り合いだから、その近さや心地よさが音楽に自然と反映されていると思う。

そこもあなたの音楽の聴きやすさの理由のひとつかもしれませんね。

MD:そうだね。高いお金を払って、大物ヴォーカルを起用しているわけじゃないから。お互い心を許せているから、良いエナジーが生まれるんだ。

ところで、ここ5年のエレクトロニック・ミュージック・シーンはジャンルに関してはどう思いますか?

MD:より多くの人びとに受け入れられるようになっていると思う。いまは若い世代もエレクトロを聴いているしね。俺が聴きはじめた頃は、エレクトロがどんな音楽なのかを説明するのも難しかったし、まわりの友だちにエレクトロニック・ミュージックを好きになって聴いてもらうのは簡単ではなかった。エレクトロのミュージシャンは真のミュージシャンじゃないという考え方もあったしね。でもいまは、それが完全に変わったと思う。誰もがエレクトロニック・ミュージシャンになれる時代にもなったし、ビートを作ってサウンドクラウドにアップするのだって、ティーンにとっては当たり前のことだしね。それは素晴らしい変化だと思う。エレクトロニック・ミュージックのプロデューサーたちとって、よりエキサイティングな環境が築き上げられていると思うよ。

EDMに関してはどうお考えですか?

MD:音楽のすべてのジャンルに良い部分があるし、面白いと思える部分がある。もちろん、最悪なドラムンベース、最悪なフットワーク、最悪なジャングルも存在するけどね。でも、そのジャンルのなかでクオリティの良いものは、すべて面白いと思う。EDMってちょっとふざけた面もあるけど、そのユーモアやトリックを楽しんだりもしているよ。

DJラシャドのトリビュート・アルバムに参加していますね。彼の音楽の魅力について教えてください。

MD:彼の魅力は、音楽を超えていると思う。いままで沢山のDJやミュージシャンたちに会って来たけど、彼はそのなかでも本当にユニークで、ほかのミュージシャンたちから何かを学ぼうと常にオープンな姿勢でいた。すべてに耳を傾けて、気を配っていた。プロデューサー、DJ、そして一人の人間として彼を心からリスペクトしているし、一緒にいると常にインスピレーションを受ける存在だったね。

あなたも常に音楽を作り続けていますね。それは何故でしょう?

MD:ほかに何をしていいのかわからないからさ(笑)。何で息をしているのかと訊かれるのと同じ(笑)。生活の一部なんだ。音楽を作ることで生きていられるし、音楽なしではどうしたらいいのかわからない。自分からクリエイティヴィティがなくなったらどうなるかなんて想像できないよ。

最後にミュージシャンとして、もっとも大切にしていることを教えてください。

MD:さっき話した通り、自分が満足できる音楽を作る、そして人にインスピレーションを与える音楽を作るというふたつのバランスをとること。それだね。

AJ Tracey - ele-king

 ロンドンのストリートで生まれたラップ・ミュージック「グライム」が話題になっている。特に自主レーベルから発表されたスケプタの『コンニチワ』が、イギリスで最も優れたアルバムに対して送られるマーキュリー賞を受賞したのは、世界のインディペンデント・シーンに勇気を与えただろう。

 そんなシーンでフローとリリックで頭角を現してきた若干22才の新星MC、エージェー・トレーシーが来日し、日本初ツアーをおこなう。
 彼はこれまで4枚のEPをフリー・ダウンロードでリリース。今月もニューヨークのエイサップ・ロッキーとのコラボレーションから、Mumdanceとのモジュラー・シンセのセッションまで、ジャンル・国を超えて活動中だ。その勢いを証明するかのように、昨年ストームジーが受賞したモボ・アウォードで早くも「ベスト・グライム・アクト」にノミネートされ、今夏のフェスティヴァルでも引っ張りだこである。

 ツアー初日の大阪は10月15日(土)、大阪COMPUFUNK RECORDSにて行松陽介やグライムMC 140 + Sakanaなどが共演。東京は10月16日(日)夕方からSkyfish × DOGMA、DEKISHI + Soakubeatsらが迎え撃つ。
 彼の初ツアーは勢いづく「今」のグライムとローカルのストリート・ミュージックが共鳴するイベントになりそうだ。(米澤慎太朗)


10月16日 (日) 18:00 -
MO’FIRE @ CIRCUS TOKYO

https://circus-tokyo.jp/
¥2000 (ADV) / ¥3000 (DOOR) + 1d
前売り : https://jp.residentadvisor.net/event.aspx?881144

AJ Tracey
Skyfish × DOGMA
DEKISHI + soakubeats
Double Clapperz
Carpainter
Underwater Squad
Host : Onjuicy

10月15日 (土) 23:00 -
PCCP @ COMPUFUNK RECORDS

¥2500 (ADV) / ¥3000 (DOOR) + 1d

AJ Tracey
YOSUKE YUKIMATSU
YOUNG ANIMAL
140 + SAKANA
SOUJ
SATINKO
ECIV_TAKIZUMI


AJ Tracey プロフィール

ウェスト・ロンドン出身のAJ Traceyはおそらくここ一年のUKアンダーグラウンドのグライム・シーンの盛り上がりから生まれた最も才能あるMCである。万華鏡のような言葉選びとはっきりと聞き取れるフローはそのシーンにおいて誰にも比較できない独自さを持っている。AJ Traceyはその美声とフローで荒々しいクラブ・アンセムからスイート・ジャムまで器用に乗りこなす。

The Quietus – 彼はマイクでクリアにラップして、常に魅了出来る本当のリリシストだ。

昨年夏の「The Front」でデビューし、秋には“Spirit Bomb”、“Naila”がストリート・アンセムとなった。“Naila”はYouTubeで異例の50万回再生され、Rinse FM、Beats 1 Radio、BBC Radioでヘヴィプレイされた。2016年に入り、Tim Westwood Crib Sessionへの参加、Last Japanとの共作「Ascend」のリリースや2stepレジェンドとして知られるMJ Coleとのコラボレーション“The Rumble”を公開するなど、常に話題のMCだ。

寺尾紗穂 - ele-king

 『青い夜のさよなら』から昨年の『楕円の夢』までしばらくまがあいたので、ときをおかず新作が出ると聞いたときは意外だった。『楕円の夢』にせよ『青い夜のさよなら』にせよ、その前の『愛の秘密』もそうだったけれども、寺尾紗穂のアルバムは聴く者の身を切るような鋭さがある一方で身にしみるやさしがある。ときに原発問題や貧困や格差を歌いながら、それらを観念にとどめず、暮らしと地つづきの場所に足を踏みしめた反動で飛躍する声とことばのひらめきをもっている。時事問題を道具立てにするのではなく、道具になりがちなそれをいろんな角度からためつすがめつする――、というかやはり「うた」なのだと思うのですね、ともってまわったことを言い出しかねないほど、寺尾紗穂の歌が説得的なのは彼女の歌を耳にされた方はよくご存じである。しかも近作では編曲や客演でも野心的な試みがなされていて、個々の歌の集まりとして以上にアルバムの作品としての印象がきわだっていた。ピアノを弾き語るシンガー・ソングライターのたたずまいをくずさずに、歌のつくる磁場がひきよせるひとたちとの関係は寺尾紗穂の音楽を実らせてゆくのを耳にしてきた私たちにこのアルバムはしかし、ここ数作とはちょっとことなる肌ざわりをもたらすかもしれない。
 というのも、『わたしの好きなわらべうた』と題したこのアルバムはタイトルどおり、日本各地に伝わる童歌を集めたもの。童歌を厳密に定義するのはいくらか紙幅がいるが、wikipediaにならって端的にいえば「こどもが遊びながら歌う、昔から伝えられ歌い継がれてきた歌」となる。作者不詳の伝承歌で民謡の一種であり、子どものころだれもが口ずさんだ「ちゃつぼ」「かごめかごめ」「とおりゃんせ」「ずいずいずっころばし」などの遊び歌、数え歌、子守歌などの総称であり、つまるところこのアルバムに寺尾の筆になる曲は1曲もない。というと、オリジナリティに欠けると早合点する方もおられるかもしれないし、この手のコンセプトにありがちな教条的な作品かもしれないとみがまえる方もいないともかぎらない。ところが『わたしの好きなわらべうた』はそのような心配をよそに飄々とゆたかである。歌とピアノ、ときにエレピを寺尾が担当し、『楕円の夢』にも参加した伊賀航やあだち麗三郎はじめ、歌島昌智や青葉市子や宮坂遼太郎らが客演した抑制的な作風は原曲のかたちを崩さず、いかに伝えるかに主眼を置きながらも、聴けば聴くほど、歌い手と演奏者の自由な解釈と発想がうかがえる仕上がりになっている。なかでも、多楽器奏者歌島昌智の活躍は特筆もので、スロバキアの羊飼いの縦笛「フヤラ」を吹き鳴らしたかと思えば、インドネシアのスリン、南米のチャスチャス、十七弦箏まで自在に操り、『わたしの好きなわらべうた』に滋味深い味わいを添えている。楽器のセレクトからうかがえる意図は、童歌というきわめてドメスティックな媒体にワールド・ミュージック的な音色を向き合わせる実験性にあるはずだが、新潟の長岡と小千谷に伝わる冒頭の「風の三郎」での歌島のフヤラが尺八を思わせるように、寺尾の狙いはおそらく異質なものの同居というより地理的な隔たりを超えた響きのつながりを聞かせることにある。地球の反対側の楽器なのにどこかなつかしい音色。その数々。
 「ノヴェンバー・ステップス」で尺八を吹いた横山勝也の師匠である海童道祖はかつて武満徹との対談で彼が望む音とは「竹藪があって、そこの竹が腐って孔が開き、風が吹き抜けるというのに相等しい音」だと述べた(立花隆『武満徹 音楽創造への旅』からの孫引き、p475)。「鳴ろうとも鳴らそうとも思わないで、鳴る音」こそ「自然の音」であり尺八の極意はそこにある――などといわれると禅問答っぽいというかもろそのものだが、子どもが適当に孔を開けた物干し竿でもいち音の狂いもなく奏したといわれる海童道祖の楽音もノイズもない音楽観は武満のいう「音の河」とほとんど同じものであり、武満の雅楽への開眼に大きな影響を与えたが、一方で西洋音楽の作曲家である武満は東洋と西洋はたやすくいりまじらないといいつづけた。ここで武満の考えの細部に立ち入るのは、毎度長すぎるとお小言いただく拙稿をいたずらに長引かせるのでさしひかえるが、武満のフィールドである西洋音楽と大衆歌では形式と独創性にたいする態度がちがう。大衆の音楽は混淆を旨とし伝播の過程で姿を変える。寺尾紗穂は童歌をとおし歴史と地理の裏のひとびとの交易と親交を音楽で幻視する。「ねんねんねむの葉っぱ」のマリンバはバラフォンのようだし、「いか採り舟の歌」や「七草なつな」は日本語訛りのブルースである。図太いベースとピアノの左手は齋藤徹のユーラシアン・エコーズを彷彿させるし、ペンタトニックが人類のDNAに刻まれているのは、エチオピアの例をもちだすまでもない。
 というと、いかにも気宇壮大だが聴き心地は質朴で恬淡としている。歌詞のもたらす印象もあるだろう。「ごんごん」と吹く風や「ねんねん」と子どもをあやす母親、「こんこ」と降る雪やあられの呪文めいたくりかえしを基調に、寺尾紗穂は歌詞の一節をリレーするように歌で北陸、山陰、山陽、東海、東北、関東、関西をめぐり、われにかえったかのようなピアノ一本の弾き語りスタイルによる「ねんねぐゎせ」で『わたしの好きなわらべうた』は幕を引く。
 寺尾紗穂はこれまでも童歌を舞台にかけてきたが、『わたしの好きなわらべうた』をつくるにいたった経緯を「WEB本の雑誌」の連載に記している。それによれば、子どもをもち母になり、子どもたちにYouTubeでみせた「日本昔ばなし」の山姥の話に興味をそそられ、調べていくうちに小澤俊夫氏が主催する季刊誌「子どもと昔話」で徳之島の民謡「ねんねぐゎせ」に出会ったのだという。寺尾紗穂が文中で述べるとおり、小澤氏はあの小沢健二の父であり、オザケンの「うさぎ!」の連載でこの雑誌をご存じの方もおられよう。寺尾紗穂はこの本が採録した「ねんねぐゎせ」の譜面の主旋律にたいして左手(和声)のとりうる動きの多様さに表現欲を駆り立てられた。単純な旋律と繰り返し、ヤマトのひとには意味のとりにくいシマグチの歌詞とあいまって、「ねんねぐゎせ」はおそらく童歌に憑きものの呪術性を帯びていたのではないか。
 私は両親とも徳之島の産の島の人間だから「ねんねぐゎせ」はそれこそアーマの、あまり上等とはいえない歌声で記憶の基底部に眠っているがしかし私の記憶では「ねんねぐゎせ」の歌詞は『わたしが好きなわらべうた』のヴァージョンとは似ても似つかない。ためしにアーマに歌ってもらったら以下のようであった。

ユウナの木の下で
ゆれる風鈴 りんりらりん
ねんねぐゎせ ねんねぐゎせ
ねんねぐゎせよ

なくなくな なくなよ
あんまがちぃから ちぃぬまさ(母さんがいったら乳をのませるよ)
ねんねぐゎせ ねんねぐゎせ
ねんねぐゎせよ

 1行あけて下はアルバム収録ヴァージョン。ユウナの木は和名をオオハマボウといい、徳之島町の町木であるが、町のHPにも「徳之島の子守唄にも登場する」とあるので、公式にも現在は上段の歌詞が一般的であることを考えるとアルバム収録の歌詞はかなり古いものだと断定してよいだろう。これはあくまでも仮説だが、大正終わりごろから昭和初期にかけての新民謡ブームが「ねんねぐゎせ」の歌詞の変形におそらくは寄与したのではないか。新民謡とは演歌のご当地ソングにそのなごりをとどめる、土地土地のひとびとの愛郷心が高めんと、名勝旧跡、物産名産を歌詞に織り込んだ歌で、田端義夫の「島育ち」(昭和37年)ももとは在奄美の作曲家三界稔による戦前の新民謡である。バタヤンの復活からほどなく三沢あけみと小山田圭吾の父三原さと志が在籍したマヒナスターズとの歌唱による「島のブルース」(吉川静夫作詞、渡久地政信作・編曲)もヒットを飛ばし、昭和38年の紅白に両者はともに出演。にわかに島唄ブームとなっていた、とはいえ、これは古来から歌い継がれたシマ唄ではない。話がまたぞろ長くなって恐縮ですが、シマ唄のシマは島ではなくムラ、共同体の最小単位を指す、ヤクザがなわばりの意味でつかうシマにちかい。方言を意味する「シマグチ」のシマも同義。おなじ島でもシマどうし離れていると言い回しがちがってくる。
 寺尾紗穂が準拠した歌詞も、私は聴きとりがどのような契機でなされたのか存じあげないが、私のシマでは母を「アーマ」と呼ぶが、歌詞では「あんま」と詰まっていることを考えるとおなじシマではない。それをふまえ、訛音を補いつつ採録した歌詞を読むと、どうしても一箇所私の解釈とはちがうところがでてくる。
 「ねんねぐゎせ」は四連からなる歌詞だが、その四連目、つまり最終ヴァースは以下の歌詞である。

ねんねぐゎせ ねんねぐゎせ
あんまとわってんや なぁじるべん
ねんねぐゎせ ねんねぐゎせ
ねんねぐゎせよ

 2行目の歌詞を寺尾紗穂は「母さんとお前は実のない汁だね」とヤマト口に訳している。「なぁじる」の「なぁ」は「No」にあたることばでそのあとにつづくものがないという意味であり、「なぁじる」だと「具のない汁」だし、頭を意味する「うっかん」の頭に「なぁ」をつけた「なぁうっかん」となればアホとかバカの意で、私が子どものころは友だちのあいだではラップでいうところの「ニガ」のニュアンスでもちいていた。「YOなぁうっかん」といった具合である。それはいい。私はちょっと不思議に感じたのは、「わってんや」の解釈で、資料では「お母さんとお前」となっているが、「わってん」のように「わ」系列の主格は単数にせよ複数にせよ「私(たち)=IないしWe」を指すことが多く、「お前(You)」はふつう「やぁ」か尊称では「うぃ」となる。言葉尻をとらえたように思われたくはないが、ここが「お前」であるか「私」であるかは歌詞の視点に大きく影響する。では歌詞のなかの「私=わん」とはだれか。おそらく母が水汲みや畑仕事で不在のあいだ幼子の子守を任された年長の姉ないし兄だろう(とはいえ、子守は当時女の子の仕事だったから兄の線はまずない)。つまり歌詞は子守をたのまれた姉の視点であり、姉はさぼりたいから第二連で「わんがふらんち なくなよ(私がいないからって泣くんじゃないよ)」というのであり、「なきしゃむんぐゎどぅ なきゅりよ(泣く子は泣き虫の子だよ)」には親が子をさとすのではなく、「泣くな」と赤ん坊の二の腕をつねるような調子がこもっている。「なぁじるべん」の「べん」は限定の助詞だが、ここにも「なぁじるばっかだな」という不満を私は聴きとってしまう。そもそも赤ん坊は第一連で歌うように「あんまがちぃから ちぃぬまさ(これも「母さんがいったら」となっているが「母さんが来たら」のニュアンスにちかい。つまり「ちぃ」を「Go」ととるか「Come」ととるかということである)」わけだから、わざわざなぁじるを啜らなくともよい(から赤ん坊はいいよなという含みもあるだろう)。
 年端のいかない少女たちに視点を定めると唄は生活苦におしつぶされそうな悲哀を歌ったというより生活の苦しさの理由を理解しえない幼子たちの直感的なそれゆえに反論のしようのないが微笑ましくもある異議申し立てに聞こえてくる。生活はたしかに苦しい。ワンのアーマの時代には水道は引かれていたらしいが、祖父母の代では水汲みは暮らしのなかの大切な仕事だった。それでも、この島の連中の気性を身につまされている私なぞは、ツメに明かりを灯すような生活であっても、灯した火で汁でもゆがいて食うか、なぁじるだけどな、というほどの意思を感じるのである。
 徳之島の秋津には「やんきちしきばん」ということばがあった。「家の梁がうつるほど(薄い)おかゆ」のことだが、それほど貧しくとも、子はきちんと育てあげるという意味がある。これは根拠のない連想にすぎないが「なぁじる」とそのことばは引き合ってはいまいか。私にとって「なぁじる」は具はなくとも反骨の出汁が利いている。
 私が高田渡の「系図」を聴くたびに涙するのはそのような理由からかもしれない。そして寺尾紗穂は高田渡の境地にちかづきつつある数少ないシンガー・ソングライターだろうというと寺尾さんはかぶりをふるかもしれないが、古今東西津々浦々の歌をかきあつめ、あらたな息吹を吹きこむのは歌手としてなまなかなことではない。私は彼女の歌がなければ島の歌をあらためて考えることもなかった。シマ唄では、とくにすぐれた歌い手は唄者と呼ばれるが、唄者にもっとも求められるのは、そのひとの唄を聴いた者がみずからのシマに帰りたくなるような気持ちをかきたてるような唄であること。シマ口でその感情は「なつかし」というのだが、「なつかし」にはヤマト口の「懐かしい」以上の、唄にふれた瞬間おとずれる情緒の総体の意をそこにこめている。
 数学者の岡潔はエッセーで頻繁に「情緒」にふれているが、昭和39年に書いたタイトルもズバリ「情緒について」と題した一文で絵画や禅や俳句における日本的情緒を検討した著者は文章の後半で不意に以下のように述べている。

この前もこういうことがあった。前田さんがしばらくぶりで家に見えて、やがてピアノを弾いた。私は何とも知れずなつかしい気持になった。そしてなつかしさの情操は豊かな時空を内蔵しているものであることがよくわかった。最後に私は子供の時正しくこの曲で育てられたのだと思った。これは世にも美しい曲であって、西洋の古典を紫にたとえるならば瑠璃色だといいたい感じであって、しかも渾然として出来上がっている。何ですか、と聞くと「沖の永良部島の子守歌です」ということであった。この曲はバリエイションを添えて売り出されているということであるが、もとのものを弾いて欲しいと思う。真に日本的情緒の人ならばこの曲は必ず「なつかしい」と思う
 (岡潔著、森田真生編『数学する人生』新潮社 p131)

 寺尾紗穂の「WEB本の雑誌」の原稿にあるように、徳之島を民謡音階の南限とすると、その南隣の沖永良部は琉球音階の北限となる。これは学説的にもよくひきあいに出され、私としては単純にその説にあてはまらない例も多々あると思うのだが、それはさておき、岡潔がヤマトの音階と琉球音階の境界に日本的情緒を見出したのはなぜか。岡潔がなにを聴いて「なつかしい」と感じたかはいまとなっては知るよしもない。この原稿が上述のバタヤンや三沢あけみの歌がヒットしたまさにそのときに書かれたことも考慮しなければならないだろう。とはいえ、岡潔はそこに日本的な情緒を聴きとった。私は柳田や折口が南の島に日本の原風景をみたことは、官僚であり国学の出身であった者たちのことばとしておいそれと賛同しがたいところもある。そんなものを押しつけるなよと思いもする。そこに誇りを感じずとも歌は歌であり、学術の対象となりはてるより日々歌われたほうが歌もよろこぶでしょうに。
 島には「なつかし」のほかにも多義的なことばがいくつもある。「ねんねぐゎせ」のような子守歌が感じさせるのは日々の営みへの慈しみではないだろうか。私はまたしてもながながと書き連ねたが、作中の人称の問題など些末なことにすぎないのである。それよりも、そこにある日々がどのようなものであるかであり、歌がなにをリスナーのなかにたちあげるか。考えるより先に無条件につつみこみたくなる感情をシマ口では「かなし」という。漢字をあてるなら「愛(かな)し」。『わたしの好きなわらべうた』がおさめるのは、ときと場所を問わず現代の私たちにうったえかける「かなしゃる歌ぐゎ」の数々である。(了)

Brian Eno × Dentsu Lab Tokyo - ele-king

何もかもが俗悪きわまる再版であり、無益な繰り返しなのである。過去の世界の見本がそのまま、未来の世界の見本となるだろう。ただ一つ枝分かれの章だけが、希望に向かって開かれている。この地上で我々がなりえたであろうすべてのことは、どこか他の場所で我々がそうなっていることである、ということを忘れまい。 オーギュスト・ブランキ『天体による永遠』浜本正文訳

 ブライアン・イーノ? ああ、なんか有名なじいさんね。アンビエントだっけ?──若いリスナーたちにとってイーノとは、もしかしたらその程度の存在なのかもしれない。しかし、実際の彼はそんなのんきなご隠居さんのイメージから最も遠いところにいる。2016年のブライアン・イーノは、たとえばアルカやOPNと同じように切実に、「いま」という時代のアクチュアリティを切り取ってみせようと奮闘しているアーティストのひとりである。いま彼が試みていることは、あるいはフランク・オーシャンが実践するような複合的な展開、あるいはビヨンセが体現するようなポリティカルなあり方、あるいはボウイの死のようなインパクト、そのどれにも引けを取らない強度を有している。
 4月末にリリースされたイーノの最新作『The Ship』は、歌とアンビエントを同居させるというかつてない音楽的実験を試みる一方で、そこに大胆に物語性をも導入するという、これまでの彼のどのアルバムにも似ていない野心的な作品であった。そしてそれはまた、タイタニック号の沈没および第一次世界大戦という出来事を「いま」という時代に接続しようとする、非常にポリティカルな作品でもあった。そのような複合性を具えた同作は、『クワイータス』誌が選ぶ2016年上半期のトップ100アルバムのなかで5位にランクインするなど、各所で高い評価を得ている。

 去る9月15日、『The Ship』のタイトル・トラックである "The Ship" の新たなミュージック・ヴィデオ「The Ship - A Generative Film」が公開された。
 とにかくまずはデスクトップのブラウザから、この特設サイトにアクセスしてみてほしい

トレーラー映像

 このヴィデオでは、イーノとDentsu Lab Tokyoとのコラボレイションによって開発された「機械知能(Machine Intelligence)」が、"The Ship" にあわせて自動的かつリアルタイムに、一度限りの映像を生成していく。あらかじめ20世紀の様々な歴史的出来事を学習させられた「機械知能」が、刻々と更新されていく世界中のトップ・ニュースを解釈し、それに類似した過去の出来事をピックアップして新たな映像を生み出していく、というのが本ヴィデオ作品の大まかな仕組みである。サイトへアクセスした瞬間に新しい映像が自動的に生成されるため、われわれはその時々でまったく異なる映像を視聴することになる。
 画面の左側では、ロイターやBBCの最新の記事がリアルタイムで更新されていく。画面の上部では、その記事の写真から「機械知能」が連想した過去の様々な写真が召喚され、ランダムに配置されていく。更新されるニュース写真とそれに基づいて召喚される過去の写真は、互いに何らかの関連性を有したものであるはずだが、必ずしも同じような出来事を記録したものであるとは限らない。要するに、「機械知能」が最新の写真を見て、それをあらかじめ記録された膨大なデータ=「記憶」と照合し、何か他のイメージを連想していくのである。したがって、そのプロセスには「誤認」の発生する余地がある。
 たとえば人は月を見たとき、そこに単に地球という惑星の衛星としての天体を認識するのではない。ある者はそこにウサギの影をみとめ、またある者はそこにカニの影をみとめる。それは、観測者が自らの所属する文化の体制に縛られて無意識的におこなってしまう、創造的な「誤認」である。では、はたして「機械知能」にもそのような「誤認」をおこなうことが可能なのか──それが本ヴィデオ作品のメイン・コンセプトである。

 このアイデアの一部は、すでに『The Ship』でも試みられていたものだ。表題曲 "The Ship" の二つ目のパートである "The Hour Is Thin" は、マルコフ連鎖ジェネレイターがタイタニック号の沈没や第一次世界大戦に関連する膨大な文書を素材にして自動的に生成したテクストを、俳優のピーター・セラフィノウィッツが読み上げていくというトラックであった。今回のヴィデオ作品はいわばその映像ヴァージョンであり、"The Hour Is Thin" で試みられていた偶然性の実験をさらに推し進めたものだと言えるだろう。
 イーノはこれまでも『77 Million Paintings』といった映像作品や、『Bloom』、『Trope』といったスマホ用アプリなどで、決して(あるいは、可能な限り)繰り返しの発生しない映像表現や音楽表現の探究を続けてきた。それは「ジェネレイティヴ(生成する)」と呼ばれる着想であるが、本ヴィデオ作品もそのような試行錯誤の径路に連なるものである。それは、ある何らかの制約のもとで能う限り偶然性や一回性を追求しようとする手法であり、あるいは、ある何らかの秩序のなかでいかにその秩序から逸脱するかを思考しようとする手法である。そのように「ジェネレイティヴ」な探究の最新の成果として公開された本フィルムは、何よりもまずブライアン・イーノという作家によって提出されたアート作品なのである。

 だが、このヴィデオ作品のポテンシャルはそこにとどまらない。本ヴィデオ作品が興味深いのは、「ジェネレイティヴ」という技術的な手法が、世界の報道記事とリアルタイムで関連付けられているというところである。つまりこのヴィデオは、極めて政治的な作品でもあるのだ。たったいま発生した出来事も実はすでに過去に起こったことの繰り返しなのではないか、いや、完全に同じ出来事が生起することなどありえないのだから、仮に繰り返しのように思われる出来事が起こったのだとしたらそれはあくまで「誤認」によって恣意的に過去の出来事が捏造されたにすぎない、いや、しかし「誤認」が発生するということは少なくとも過去の出来事と現在の出来事との間に何らかの類似点が存在するということではないか、いや、……。
 これは、まさに『The Ship』というアルバムが喚起しようとしていたことである。本ヴィデオでは「機械知能」による「誤認」を通して、たったいま人間がおこなっていることとかつて人間がおこなったこととの間に、強制的に回路が繋がれる。そのサンプルのひとつが、『The Ship』ではタイタニック号の沈没と第一次世界大戦であったわけだ。それに加え、一度として同じ画面が立ち上がることはなく、常に異なる映像が紡ぎ出されていくという趣向も、『The Ship』がかけがえのない「個性」の亡骸を拾い集めようとしていたことと呼応している。
 本ヴィデオ作品は、一度CDやヴァイナルという形に固定されてしまった『The Ship』を、再び偶然性や一回性の荒波のなかへと解放する作品なのである。

 さらにこのフィルムが興味深いのは、そのように「ジェネレイティヴ」な映像が、われわれを音楽へと立ち返らせる契機をも与えてくれる点だろう。次々と生成されてゆく映像に目を奪われていたわれわれは、しばらく時間が経った後に、ふとそこで音楽が鳴っていたことに気がつく。われわれが映像を見続け、「これは何の写真だろう?」、「これは最新のニュースとは何も関係がないのではないか?」などと思考している間、その背後ではずっと "The Ship" が鳴り続けていたのである。積極的に聴かれることを目的とせず、周囲の環境(この場合は、デスクトップの画面)への注意を促す──これは、まさにアンビエントの機能そのものではないか。

 このフィルムにはあまりにも多くのテーマが組み込まれている。テクノロジーの問題、アートの問題、音楽の問題、政治や社会、歴史の問題。このヴィデオ作品を通してわれわれは、それらの問題について「いま」という時間のなかで考えざるをえない。
 正直、『The Ship』という作品をここまで発展させてくるとは思っていなかった。イーノの探究は衰えるどころか、ますますその先端を尖らせている。今年われわれはボウイというスターを失ったが、まだわれわれはイーノという知性を失っていない。われわれはそのことに感謝しなればならない。(小林拓音)

BRIAN ENO

Dentsu Lab Tokyoとのコラボレーションが生んだ
「機械知能」が生成するミュージックビデオ
「The Ship - A Generative Film」を公開!
制作の裏側を紐解いたインタビュー記事も公開!

人類というのは慢心と偏執的な恐怖心(パラノイア)との間を行きつ戻りつするものらしい:我々の増加し続けるパワーから生じるうぬぼれと、我々は常に、そしてますます脅威にさらされているというパラノイアとは対照的だ。得意の絶頂にありながら、我々は再びそこから立ち戻らなければならないと悟らされるわけだ…自分たちに値する以上の、あるいは擁護しきれないほど多大な力を手にしていることは我々も承知しているし、だからこそ不安になってしまう。どこかの誰か、そして何かが我々の手からすべてを奪い去ろうとしている:裕福な人々の抱く恐怖とはそういうものだ。パラノイアは防御姿勢に繫がるものだし、そうやって我々はみんな、遂にはタコツボにおのおの立てこもりながら泥地越しにお互いと向き合い対抗し合うことになる。
- ブライアン・イーノ

アンビエントの巨匠、ブライアン・イーノが、最新アルバム『The Ship』のコンセプトでもあるこのステートメントを出発点に、テクノロジー起点の新しい表現開発に取り組む制作チーム「Dentsu Lab Tokyo」(電通ラボ東京)とともに、人工知能(AI)の可能性を追求する先鋭的なプロジェクトとして発足。最新楽曲「The Ship」に合わせて、映像が自動的かつリアルタイムに生成されるミュージックビデオを本プロジェクトの特設サイト上に公開された。

BRIAN ENO’S THE SHIP - A GENERATIVE FILM
https://theship.ai/

*特設サイトの視聴環境
携帯端末向けには最適化されておりませんので、ご覧いただくためには、下記パソコン環境でのブラウザーを推奨します。
Windows >>> Google Chrome(最新版)、Mozilla Firefox(最新版)
Macintosh >>> Safari 5.0以降、Google Chrome(最新版)、Mozilla Firefox(最新版)

トレーラー映像はこちら↓
https://www.youtube.com/watch?v=9yOFIStVuRI

本プロジェクトは、AIを「人間の知能」と対比し、その違いを際立たせるために「機械知能」(Machine Intelligence:MI)と名付け、機械が人間のようなクリエーティビティーを発揮できるかを模索するものとして発足。人類共有の外部記憶ともいえるインターネットから、20世紀以降のエポックメーキングな出来事を記憶として大量に学習させた機械知能を構築し、世界的な報道機関が運営するニュースサイトのトップニュースを見て、記憶と照らし合わせながら類似する事象を解釈し、どのような映像を生み出すのかを追求したプロジェクトである。

特設サイトにおいては、アクセスした瞬間に映像が生成されるため、来訪者ごとに視聴できるミュージックビデオが異なり、訪れる度に唯一無二の作品として、楽曲が持つ世界観とともに人々の感性を刺激し続ける。

またWIRED.jpにて制作の裏側を紐解いたインタビュー記事が公開中。
https://wired.jp/special/2016/the-ship/

The Shipについて
もともとは3Dレコーディング技術を使った実験から創案され、相互に連結したふたつのパートから成り立つブライアン・イーノ最新アルバム。美しい歌、ミニマリズム、フィジカルなエレクトロニクス、すべてを知り尽くした書き手が綴る物語、そして技術面での新機軸といった数々の要素を、イーノはひとつの映画的な組曲へと見事に纏め上げ、キャリア史上最もポリティカルな作品にして、過去の偉大な名盤たちのどれとも似つかない傑作である。ボーナストラック「Away」が追加収録される国内盤CDは、高音質SHM-CDを採用し、ブライアン・イーノによるアートプリント4枚が封入された特殊パッケージ仕様の初回生産限定コレクターズ・エディションと、紙ジャケット仕様の通常盤の2フォーマットとなり、いずれもブックレットと解説書が封入される。

Dentsu Lab Tokyoについて
新しいクリエーションとソリューションの場であると同時に、研究・企画・開発が一体となった“創りながら考えるチーム”でもあるDentsu Lab Tokyoは、2015年10月1日に始動。これまでの広告会社のアプローチとは全く違う、テクノロジー起点の新しい表現開発に取り組んでいる。
キーワードはオープンイノベーション。電通社内のみならず、社外の提携アーティストやテクノロジストとも協働しながら、広告領域にはとどまらない分野のクリエーションとソリューションを手掛ける。

https://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/Brian-Eno/BRC-505/


yahyel - ele-king

 yahyel。なんとも不思議なスペルだ。このバンドのことが気になり出してからしばらく経つけれど、いまだにちゃんと綴ることができない。yahyel。
 ヤイエル。なんとも奇妙な響きだ。このバンドのことが気になり出してからしばらく経つけれど、いまだにうまく発音することができない。ヤイエル。
 この風変わりな名前と同じように、かれらが奏でる音楽もまた独特の雰囲気を醸し出している。すでに何もかもが出揃ってしまった感のあるこの現代に、かれらは「いやいや、そんなことはないですよ」とブルージーでオルタナティヴなサウンドを鳴り響かせる。もしかして、これからすごいことになるんじゃないか? おっ、メンバーにVJまでいるぞ、かれらは一体どんな野心を抱いているんだろう? そんな、リアルタイムで新しい音楽を発見したときの、わくわくしたりどきどきしたりする感じ──こういう感覚は久しぶりだ。
 来る9月28日、かれらは500枚限定の初CD作品『Once / The Flare』をタワーレコードにてリリースする。この日タワレコへ全力疾走した者だけが、かれらの未来を先取りすることができるだろう。
 さあ、きみはどうする?

今注目のyahyel、500枚限定の初CD作品『Once / The Flare』発売決定!

今年のフジロックフェスティバル〈Rookie A Go Go〉に出演し、日本人離れしたヴォーカルと最先端の音楽性、また映像クリエイターとしても活躍するバンド・メンバーが制作したミュージック・ビデオ「Once」が話題となるなど、今最も注目を集める新鋭yahyel(ヤイエル)が、初のCD作品となる500枚限定の2曲入りEP『Once / The Flare』(¥500+tax)をタワーレコードにて9月28日(水)にリリースする。

yahyel – Once

本作品にはiTunesにてジャンル別チャート3位を記録するなど、国内ポップ・シーンにその存在感を強く印象付けた「Once」と、新曲「The Flare」の2曲を収録。マスタリングは、エイフェックス・ツインやアルカ、ジェイムス・ブレイク、フォー・テット、FKAツイッグスなどを手がけるマット・コルトンが担当している。


label: Beat Records
artist: yahyel
title: Once / The Flare
ヤイエル『ワンス / ザ・フレア』

cat no.: BRE-55
release date: 2016/09/28 WED ON SALE
price: ¥500+tax

取扱店舗
タワーレコード札幌
タワーレコード仙台
タワーレコード渋谷
タワーレコード新宿
タワーレコード池袋
タワーレコード横浜
タワーレコード秋葉原
タワーレコード名古屋パルコ
タワーレコード名古屋近鉄パッセ
タワーレコード梅田丸ビル
タワーレコードNU茶屋町
タワーレコード難波
タワーレコード京都
タワーレコード神戸
タワーレコード広島
タワーレコード福岡
タワレコ店舗取り置き/予約はこちら


yahyel | ヤイエル

2015年3月に池貝峻、篠田ミル、杉本亘の3名によって結成。
古今東西のベース・ミュージックを貪欲に吸収したトラック、ブルース経由のスモーキーな歌声、ディストピア的情景や皮肉なまでの誠実さが表出する詩世界、これらを合わせたほの暗い質感を持つ楽曲たちがyahyelを特徴付ける。

2015年5月には自主制作の4曲入りEP『Y』をBandcamp上で公開。同年8月からライブ活動を本格化、それに伴いメンバーとして、VJに山田健人、ドラマーに大井一彌を加え、現在の5人体制を整えた。映像演出による視覚効果も相まって、楽曲の世界観をより鮮烈に現前させるライブセットは既に早耳たちの間で話題を呼んでいる。

2016年1月にロンドンの老舗ROUGH TRADEを含む全5箇所での欧州ツアーを敢行。無名にも関わらず噂が噂を呼び、各ライブハウスを満員にするなど、各地で熱狂的な盛り上がりを見せた。続いて7月に、デジタル・シングル「Once」をリリースし、フジロックフェスティバル〈Rookie A Go Go〉ステージに出演。現在制作中の1stアルバムに先駆けて、500枚限定の2曲入りEP『Once / The Flare』を9月28日(水)にリリースする。

https://www.beatink.com/Labels/Beat-Records/yahyel/BRE-55/

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316