「You me」と一致するもの

Miami Angels in America - ele-king

 本誌5号にてドッグ・レザー(Dog Leather)のインタヴューにも名前があがったボルチモアの男女ふたり組、ノイズ・フォーク・デュオ、エンジェルス・イン・アメリカ(Angels in America)の新作テープは(ナイトピープル)よりドロップ。
 エンジェルス・イン・アメリカのエスラ嬢(Esra)に出会ったのは本誌5号でも触れた昨年のSXSWでのハウス・パーティの夜で、その日はもうホント、マジ混沌を極めていた。いや、たしかにロスからオースティンまでの風景がループしているかのような砂漠を僕のバンドのペーパー・ドライバーのふたりと無免許で無職のフランス人(もちろんハイウルフです)を乗せて18時間の運転を経て、スリープ∞オーバー(Sleep∞Over)やピュア・エクスタシー(Pure X)をサポートし、サウザント・フット・ウェイル・クロー(Thousand Foot Whale Claw)として活動するアダムとマットに到着後はじめて出会ったにも関わらず、快く寝床を提供してくれただけでなく、最高に強烈なウィードを大量に御馳走になり(ニューメキシコ、テキサスはメキシコとの国境がすぐ近くにある事ことあり、検問が厳しいので同ふたつの州では違法であるメディカルウィードをロスから持っていくことを僕は前もってキャメロンとゲドに口すっぱく止められていたので、これは効いた)、ロクに寝ずに次の日遊び回った末がこのパーティだったので、僕の疲労と体内に循環するTHCの量は半端じゃなかったことを差し引いたとしても、この日のパーティは狂っていた。
 集合時間にだいぶ遅れ、〈NNF〉主宰のブリットに軽く怒られながら(僕はこの日自分のバンドのサポート・ギターを彼に頼んでいた)、僕はこの日のパーティに集まっていた連中にあんぐりさせられていた。前日すでに会っていたが、サヴェージ・ヤング・テイターバグ(Savage Young Taterbug)のチャールズが引き連れて来たクルーはまるでゴミ捨て場の妖精のようで、洗っていない一線を越えた彼らの服が放つクラスティな甘い香りが部屋には充満していて、「ジョイント吸おうよ。拾ったタバコを混ぜたから味ちょっと変だけど、えへへへへ」と語りかけながら、つねにテンパっているように見えるトレーシー・トランス(Tracy Trance)のタイラーは、カシオトーンで超絶テクを披露し、僕の度肝を抜くものの、何故誰も彼の絶対拾ってきたであろうワンピースとハイヒールにはツッコまない事が不思議でならないし、ソーン・レザー(Sewn Leather)、ドッグ・レザーことグリフィンのママに「うちの息子のソーン・レザーとDJドッグディック(DJ Dog Dick)はご存知なの?」と訊かれた僕とブリットは裏庭でその日のライヴのリフと展開を話していたものの「母ちゃんが犬チンって言っちゃうのかよ!」という思い出し笑いで、練習にならないし、そんな状況だから僕の手もおぼつかなくなり、キッチンの床にまき散らしてしまったビールを拭いていたところをいつの間にか横で手伝ってくれていたエスラのはにかんだ笑顔に僕のハートは一気に持っていかれた。
 彼氏にメチャメチャ睨まれながらも、僕は朦朧とした意識のなか、彼女との会話を弾ませることに全神経を集中した。「PYG(ショーケン、ジュリーのアレ)のレコードをずっと探しているのよ! 見つけたらぜひ私のためにゲットしてよ!」と言われ、何でそんなもん知ってるのかとそのときは思ったものの、(もちろんボリスのカヴァーで知ったのだろうが)たしかに彼女のエンジェルス・イン・アメリカの前作のレコードと今回のテープを聴いていると何となく合点する。冒頭でノイズ・フォークと形容したのは、このバンドは弾き語りではなくシンセ・ノイズだからだが、全身全霊を込めて絶叫する彼女のポエトリー・リーディングをきいて背筋に走る冷たいものは日本のあの時代のズブズブでドロドロの怨念フォークのそれだ。
 そもそもDJドッグ・ディックといいソーン・レザーといい、ボルチモアのこのノイズ+ポエムという方法論は、パンクは楽器を弾けなくてもいい、ヒップホップはビートと哲学があればいい、という流れの最終型にあるんじゃないかと思ってしまうのは大袈裟だろうか? エンジェルスやドッグディックはシンセこそ使っているもののソーン・レザーやまた先ほど話に出たサヴェージ・ヤング・テイターバグなんかほぼカラオケだし、それは本人のポテンシャルがすべてであり、それがショウとして成立しちゃってるのだ。

 話をあの日の夜に戻そう。自分のライヴも終え、エスラともさらに打ち解けてきた僕はようやく彼女の電話番号とアドレスを交換するために自分の携帯を取り出した。そこにブランク・リアルム(Blank Realm)のサラが現れ、「兄貴に迎えに来てもらいたいから電話かりるわね」と携帯を取られてしまった。もう読者は気付いているだろうが、このレビヴューを書いているのも、もし今後ボルチモアに行く機会があり、彼女のところに転がり込む日が来るならば何かあればいいなと期待しているからに過ぎないのだ。
 あの日の僕の最後の記憶はテイターバグの連れであるサムのワンマン・プロジェクト(名前失念)がゴーグルと猫耳、そしてもはやハミチンとかそういうレヴェルではないブーメランを装着し、ステージで絶叫していた。現在ヨーロッパをツアー中のエンジェルス・オブ・アメリカとソーン・レザーはきっとあのような混沌とした日を過ごしているに違いない。あぁ、ライフ・イズ・カオス。

Battles - ele-king

つまり識は「テクノ」にへと 文:三田 格

Battles
Dloss Glop

Warp/ビート

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 「踊れるサムラ・ママス・マンナ」。それがバトルズの正体だろう。SMMは70年代にスウェーデンで結成されたプログレッシヴ・ロックの4人組で、例によって解散→再結成を経てゼロ年代からはドラムスにルインズの吉田達也が参加している。悲しいかなバトルズは超絶技巧だけでなく、ユーモアのセンスまでSMMを模倣していて、オリジナルといえる部分はレイヴ・カルチャーからのフィードバックと音質ぐらいしか見当たらない。疑う方はとりあえずユーチューブをどうぞ→
https://www.youtube.com/watch?v=yqSmqh-LdIkhttps://www.youtube.com/watch?v=ZYf7qO9_MV8https://www.youtube.com/watch?v=jkWL1lOi1Hg、etc...

 ......といったことを割り引いても、昨年の『グロス・ドロップ』はとても楽しいアルバムだった。バーズやP-ファンクにレイヴ・カルチャーを掛け合わせたらプライマル・スクリームで弾けまくったように、SMMにレイヴ・カルチャーを掛け合わせてみたら、思ったよりも高いポテンシャルが引き出された。そういうことではないだろうか。おそらくはまだロックにもそうした金鉱は眠っているはずである。テクノやハウスだって、どう考えてもそれ自体では頭打ちである。何かを吸収する必要には迫られている。アシッド・ハウス前夜にもどれだけのレア・グルーヴが掘り返されたことか。そう、アレッサンドロ・アレッサンドローニやブルーノ・メンニーなんて、もはや誰も覚えちゃいねえ(つーか、チン↑ポムなんてザ・KLFのことも知らなかったし......)。ためしに誰かブルース・スプリングスティーンにレイヴ・カルチャーを掛け合わせてみたらどうだろう......なんて。

 本題はそのリミックス・アルバム。人選がまずはあまりにも渋い。しかも、様々なジャンルから12人が寄ってたかってリミックスしまくっているにもかかわらず、おそろしいほど全体に統一感がある。シャバズ・パレス(元ディゲブル・プラネッツ)の次にコード9だし、Qのクラスターからギャング・ギャング・ダンスなどという展開もある。しかも、そこから続くのがハドスン・モーホークとは。全員がバトルズに屈したのでなければ、セルフ・プロデュースの能力が異常に高いとしか思えない。

 オープニングからいきなりブラジルのガイ・ボラットーが情緒過多のミニマル・テクノ。マカロニ・ウエスターンに聴こえてしまうギターがその原因だろう。ミニマルの文脈を引き継いだシューゲイザー・テクノのザ・フィールドは、一転してヒプノティックなテック-ハウス仕上げ。続いてドラマ性に揺り戻すようにしてヒップホップを2連発。このところ壊疽=ギャングルネとしての活動が目立っていたアルケミスツはソロで90年代末に流行ったダンス・ノイズ・テラー風かと思えば、昨年、一気にダブ・ホップのホープに躍り出たシャバズ・パラスは彼の作風に染め上げただけで最もいい仕事をしたといえる。ダブステップからUKガラージに乗り換えつつあるコード9はそれをまたコミカルに軌道修正し、2年前に"エル・マー"のヒットを飛ばしたサイレント・サーヴァントやラスター・ノートンからカンディング・レイはそれぞれのスタイルでダブ・テクノに変換と、いささかテクノの比重が高すぎる気も。これは自分たちにできないことをオファーしているのか、それとも自分たちが次にやりたいことを先行させているのか。いずれにしろ、その結果はユーモアの低下とリズムの単調さを招き、チルアウト傾向ないしはリスニング志向を強めることになった(クラスターの起用はまさにその象徴?)。

 後半で最大の聴きどころは、珍しく同業のパット・マホーニーを起用した"マイ・マシーン"で、シンプルなリズム・ボックスに絡むゲイリー・ニューマンのヴォーカルは最盛期の気持ち悪さを思わさせるインパクト。ジャーマン・トランスにありがちなリズム・パターンなのに、ロック・ミュージックとして聴かせてしまう手腕はかなりのもので、思わず、ほかにはどんなリミックスを手掛けているのだろうと調べてみたら、まったくデータが見つからなかった(これが初仕事?)。エンディングはヤマタカ・アイで、トライバルとモンドの乱れ打ちはこの人ならでは。ダイナミズムよりもリスニング性を優先したことで最後に置くしかなかったのかもしれないけれど、それはちょっと消極的な判断で、僕ならギャング・ギャング・ダンスとハドスン・モーホークのあいだに置いただろう(バトルズの意識が「テクノ」に向かっている証拠ではないか)。

文:三田 格

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そして『グロス・ドロップ』の完全なる分解 文:松村正人

Battles
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 アンダーグラウンドのスーパーバンドから『ミラード』で転身したバトルズはタイヨンダイ・ブラクストンは抜けたが、『グロス・ドロップ』で前作をさらに発展させ、そこでは初期のハードコアを構築し直した鋭利な、しかし同時に鈍器のようだったマス・ロックの風情は退き、かわりにポップな人なつこい音が顔を出した。強面だった数年間からは考えられない柔和な表情をしていたが、いまのパブリック・イメージはむしろこっちである。それまでのいくらかすすけたモノトーンはツヤめいた内蔵の色に塗りこめられた。ジャケットがそれを暗示する。有機的であり抽象的であり生理的でもある。私は以前にレヴューを書いてから聴いていなかった『グロス・ドロップ』を、『ドロス・グロップ』を書くために、しばらくぶりに苦労してひっぱりだして聴いたが、おもしろかった。たしかここに書いたレヴューは最初おもしろくないと思ったと書いたと思ったが、聴き直したらやはりおもしろくないことはなかった。私は『ドロス・グロップ』を先に聴いて、原曲をたしかめるために聴いたからかちがいがおもしろさを後押ししたが、オリジナルとリミックスの幸福な相乗効果がうまれたのは、前者が音で語ることに腐心したアルバムであったことに多くを負っている。そこには内面は投影されていない。語るのはあくまで音楽であり、バトルズの連中ではない。それに任せる。タイヨンダイというアイコニックな人材を欠いた逆境がある種のスプリングボードとなり、バンドを、音楽の生成を何よりも彼ら自身がたのしんでいる(たのしまざるを得ない)、陽性の作品性へ追いこんだのだと穿つこともできなくはないが、この結果はいってみれば、往時のダンスカルチャーの匿名性を思わせるものであり、その意味で、リミックスという行為との親和性はいうまでもなかった。
 
 アルバムは先行した4枚の12インチを若い順に並べた。テクノ~ヒップホップ~(ポスト)ダブステップ~ミニマル~ワールド~ディスコパンクなど、ゼロ年代以降のダンスミュージックを巡礼する構成で、総花的なつくりでもあるが、散漫な印象を与えないのは、カテゴリーの遍歴そのものが音楽を前のめりにさせるからだろう。サンパウロのギ・ボラットとストックホルムのザ・フィールド、〈コンパクト〉勢のループは『ミラード』までのバトルズの交響的な――つまり縦軸の――ループを横倒しにしたように、渦を巻き滞留するようでありながら、前方へジワジワと音楽を煽り、ヒップホップ/ブレイクビーツ~2ステップ/UKファンキーのブロックへバトンタッチすることでアルバムのタイムラインは最初の山と谷(もちろん逆でもいい)を経過する。山はすくなくともあとふたつはあるようである。3つかな?と思うひともいるであろう。それはどっちでもいいが、この高低差は現行のダンスカルチャーの地形図であり、すくなくともリミキサーたちは所属するジャンルに奉仕する職人的な仕事に徹することで、楽曲を解体するだけでなく、原曲とリミックスとの間の、あるいはトラックごとの偏差が彼らの特質をあぶりだしもする。なんであれ解釈が生じる場合、ズレがうまれる。その隙間を広げるか埋めるかが、音を仲立ちにした対話では焦眉の問題になるが、原曲はどうあがいても完全な姿で回帰しない。このあたりまえのところにうまみがある。
 私は先に職人的な仕事と書いたが、解釈はいずれも大胆である。とくにクラスター、ブライアン・デグロウ(ギャング・ギャング・ダンス)、ハドソン・モホークのブロックは原作を再定義したというか、たとえばデグロウのリミックスは原曲のリフの音色が喚起するリズムのつっかかりをビートに置き直し『グロス・ドロップ』でいちばんポップでカラフルだった"Ice Cream"をデジタル・クンビア的な疑似アーシーな場所にひきつけることで、スラップスティックかつフェイク・トロピカリアとでも呼ぶべき原作のムードを二重に畳みこんでいく。ハドソン・モホークの着眼点もたぶん同じで、クラスターの作家性とはちがう――しかしそれはこのアルバムのアクセントでもある――が、デグロウ=モホークの視点はバトルズのそれとも同期し、元ネタの笑いをトレースし、さらに展開する、難儀な作業を的確にやっている。もっともそのユーモアはモテンィ・パイソンがミンストレル・ショーを実演するような、ねじれた、くすぶった笑いではなく、現代的な抑制が利いたものなのだが、であるからこそ、LCDサウンドシステムのドラマー、パット・マホーニーのディスコ・パンク調の"My Machine"という最後の山だか谷だかのあとのヤマンタカ・アイの、原作にひきつづきシンガリをつとめた"Sundome"で『グロス・ドロップ』は完全に分解したように思える。そして私は聴き終えたあと、ヘア・スタイリスティックスが聴きたくなった。

文:松村正人

Mouse On Mars - ele-king

 1990年代生まれのリスナーが何曲か聴いたら、モードセレクターの曲をハドソン・モホークやフライング・ロータスがリミックスしたんじゃないかと勘違いするかもしれない。いやしかし、そのきめ細かいトリックに「おや」と思うだろう。マース・オン・マーズ(MOM)の6年ぶりのお茶目なIDM、〈モードセレクター〉のレーベルからのリリースとなるそれは、ラップトップのソフトウェアによるグリッチの効いたファンクが耳に残る。
 グリッチ――「不具合、予期せぬ事故、誤った電気的信号、電流の瞬間的異常」は、1990年代のドイツのエレクトロニック・ミュージックにおいて発展した一種の技だと言える。それは「失敗の美学」に基づいて、オヴァルを発端としながら、ドイツにおけるIDM/エレクトロニカというクラブ・ミュージックと微妙な距離を保っていた傍観者によって磨かれているが、MOMもそのいち部だった。MOMが初めて来日したとき、彼らがファンだったという中原昌也と対談をしてもらったが、話は「どうやってあの音を出しているのか?」という話題で沸騰した。MOMは、まずはテープで録音して、そのテープをグチャグチャにして、金槌で叩いたあと、そして2階から放り投げて、さらに足で踏みつぶして、それを再生して取り込むんだよと、秘密を明かしてくれた。このような微妙なユーモアがヤン・ヴェルナーとアンディ・トマのIDMにはある。
 MOMは、90年代なかばの最初の2枚のアルバムをインディ・ロック系の〈トゥ・ピュア〉からリリースしていることが物語るように、彼らにはたしかにクラウトロックの申し子のようなところがあり、先述した通りの「クラブ・ミュージックと微妙な距離を保っていた傍観者」だが、結局のところクラブ・ミュージックとの関わりを完璧に絶っているわけでもないように思える。MOMは、反動的なセクト――ある種のエリート意識で、オウテカがもっとも気を遣っていたところ――にとらわれた時期があったのかもしれないけれど(とはいえ、ヴェルナーとオヴァルによるマイクロストリア名義の作品は魅力的だった)、ポップを見失ったことはない。たとえオヴァルとともにロンドンの由緒あるバービカン劇場にてシュトックハウゼンの"少年の歌"を演奏したとしても......。

 この手の「捻り」に個人的に久しく接していなかったからだろうか、10枚目のスタジオ・アルバム『パラストロフィックス』を初めて聴いたとき、僕にはMOMがあらためて新鮮に思えた。このアルバムは、喩えるなら、クラフトワークの『コンピュータ・ワールド』やサイボトロンの、いわば80年代的なエレクトロをラップトップのなかで「グチャグチャにして、金槌で叩いたあと、そして2階から放り投げて、さらに足で踏みつぶして、それを再生して取り込んだ」ような強烈なファンクネスを感じる。"The Beach Stop"は本当に心地よい曲だ。人工的な女性のささやき声、フレンドリーのようでいて、穏やかに歪んでいくサウンドスケープ......初期の2枚に顕著だった無垢な遊び心は18年目経ったいまも健在で、その芸当は緻密になっている。
 ビートが際だっている"Metrotopy"や"Wienuss"、"Polaroyced"のような曲には可笑しさ、巧妙さ、そして強力なエネルギーがある。グルーヴィーなのだ。しかしリスナーは"Cricket"や"Baku Hipster"のような曲に含まれている悪意にも気をつけなければならない。パンキッシュな"They Know Your Name"は、マーク・E・スミスとのヴォン・スーデンフェッド名義による『トロマティック・リフレクションズ』(2007)を思い出すが、MOMはリスナーにとってつねに「いい人」であるとは限らない。批評的だし、彼らにはハードコアな側面、IDMにありがちな「やり過ぎ」たところもあるし、はっきり言えばからかいもある。それでも"Chord Blocker, Cinammon Toasted"や"They Know Your Name"には、知性派の嫌らしさを感じさせないぐらいのファッション性があるのだ。少なくもぐったりと疲れているときにお薦めできる音楽ではないが、不思議なことに、たっぷり睡眠を取った翌朝に聴くと「よし、やるぞ!」という気持ちになれる。ホント、不思議なことだが。

interview with Dirty Three - ele-king


Dirty Three
Toward the Low Sun

Drag City/Pヴァイン

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 オーストラリアのメルボルーンで1992年に結成されたインストゥルメンタル・ロック・バンド、ダーティ・スリーは、美しく、そして激しい情熱を捉える。見た目は無骨だが、ステージングは派手で、場末の古い酒場で暴れているジャズ・ロック・パンク・ブルース・バンドのように聴こえる。
 メンバーのひとり、ヴァイオリン弾きのウォレン・エリスは、現在パリで暮らし、ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズのメンバーとしても活動しているが(あるいはグラインダーマンやキャット・パワー、プライマル・スクリームなどのアルバムにも参加している)、そうした連中が持っているブルース感覚と似たものをダーティ・スリーからも感じる。打ちひしがれているが、優美で、激しい。
 ドラムスのジム・ホワイトは現在ニューヨークで暮らし、長いあいだシカゴの〈ドラッグ・シティ〉(ジム・オルークなどのリリースで知られる)のスモッグのバックを務めている。ギタリストのミック・ターナーのみが、いまでも地元メルボルンに残ってソロ活動をしている。〈ドラッグ・シティ〉からは、すでに何枚ものソロ・アルバムを出しているので、ご存じの方も多いことと思われる。とにかく、3つの異なる大陸にそれぞれが暮らしながら、ダーティ・スリーはバンドとして存続しているわけだ。昨年のこの時期は、「アイル・ビー・ユア・ミラー」のために来日もしている。
 新作は7年ぶり、通算9枚目のアルバム。タイトルが言うように、音楽からは真っ赤な夕日が差し込んでくるようだ。フォーキーな響きが打ち出され、メロウで、日没の輝き、黄昏好きにはたまらない、その美学はたっぷり入っている。燃え殻のにおいが漂う......彼らが世界中で愛され続けている理由がよくわかる。取材に答えてくれたのはミック・ターナー。

僕らはどのジャンルにも属していない。僕らは『ダーティー・ハリー』のように、悲しい存在でもありながら、危険で謎、そしてエキサイティングなんだ。

7年ぶりの新作、素晴らしかったです。1曲目から飛ばされました。まずはこの7年という年月について、そして今回の録音がどのようにはじまったのか説明を願いします。

ミック:2009年にパリでデモ録りを何曲かして、2010年の頭から実際のレコーディングをはじめて、2011年のなかばには作業は終わっていたね。離れて暮らしているし、なかなか集まれないから時間がかかったんだ。僕はメルボルンだし、ウォレンはパリ、ジムはニューヨークだからね。スタジオに入るときは、本当に曲の骨格ぐらいしかなくて、スタジオに入ってから形付けていった感じだね。
 最初のセッションから帰ってきたときは、もう失敗したと思い込んでたけど、1年後に聴き返したら、意外に気に入ってね。温もりがあって、親密な音だったうえ、とても生なレコーディングだったんだ。自分たちの醍醐味であるライヴの即興の演奏力というのも捕えられたと思うし。重ねた音は少なかったし、最終的なサウンドにもとても満足しているよ。前回のアルバムから自分たちのソングライティングも成長したと思うし、いままで以上に曲に奥行が出ていると思うんだ。

そういえば昨年、「アイル・ビー・ユア・ミラー」の出演者として来日しているんですよね。僕もあの場にいたのですが、どの出演者も良すぎて、すっかり酔っぱらってしまいました。あのときのご感想を。

ミック:楽しい時間だったよ。みんな東京が大好きだし、行くときは必ず良い思い出ができるよ。

あのとき一緒に出演したゴッドスピード・ユー・ブラック・エンペラーとダーティ・スリーは意外とファンが重なっているようですね。たしかに、ともにヴァイオリンの音色を活かしたインストゥルメンタル・バンドですが、ふたつのバンドには共通しているところがあると思いますか? 

ミック:けっこう違うと思うな。地理的にも違うところから来ているし、僕らは3人しかメンバーがいないから、より自由度もあるいっぽう、大人数のバンドの厚みとかは出せない。単純にアプローチが違うと思うんだ。彼らの音楽も好きだし、個人的にも何度も会っているし、彼らが成し遂げてきたことや、芸術に対する姿勢は尊敬しているよ。

ダーティ・スリーは1992年のメルボルンで結成され、その後、同郷のニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズへの参加、そしてメンバーそれぞれこの20年、国際的な活動を展開しいていますが、結成前のことなどいまでも覚えていますか? 

ミック:覚えているよ。メルボルンにある小さなバーの床で毎週金曜日に3時間ほど演奏していたんだ。バックグラウンド・ミュージックのはずで、何も練習せずにその場で思いついたことをやっていた。とても解放的でエキサイティングだったよ。そのときからヴァイオリン、ギターとドラムだったけど、その場にあった道具は何でも楽器にしていたよ。ほうき、バケツ、ホース、おもちゃの楽器もね。20~30分にもおよぶ、流れるような曲とかもやっていた。爆音になるものもあれば、静かな曲もね。とにかく何も考えずにやって、曲が自然と形になっていった感じだよ。終わったときにはどこにいたか忘れるくらい、没頭していたね。

初期の頃、影響を受けた音楽について話していただいていいですか?

ミック:僕とジムはいわゆるポスト・パンクなバンド、ヴェノム・P・スティンガ―で1986年からやっていたね。でもいろんな音楽に影響されたよ。個人的にはルー・リード、ヴェルヴェッツ、ジョナサン・リッチマンやラッフィング・クラウンズは大きな影響だったね。

バンド名に「ダーティ」という言葉を入れた理由は何でしょうか?

ミック:クリント・イーストウッドの『ダーティー・ハリー』から取っているんだ。僕らは自分のルールで音楽をやっていたし、どのジャンルにも属していない。独立した存在だと思っていたんだ。あの映画のキャラクター同様にね。悲しい存在でもありながら、感動を与えつつ、危険で謎で、そしてエキサイティングだ。まだ変わっていないと思うよ。

そして2曲目の"Sometime I Forget You're Gone(ときどきあなたがないことを忘れる)"や3曲目の"Moon On The Land(陸地の月)"、そして4曲目の"Rising Below(下方に上がる)"にもため息が出るような美しい旋律があります。6曲目の"Rain Song(雨の歌)"のアコースティックな響き、8曲目の"Ashen Snow(灰の雪)"のメランコリーもそうですが、アルバム全体的にも美しさ、優しさというものを感じます。

ミック:いつもそのような要素はあったと思う。スタイルを気にしたことはないんだけど、初めてアコースティック・ギターとより多くのピアノを使ったかもね。

今回の音楽的主題について教えてください。たとえば1曲目の"Furnace Skies(灼熱の空)"にはフリー・ジャズ的な衝動も感じるし、5曲目の"The Pier(埠頭)"や"That Was Was(それはそうだった)"にもブルースにも似た打ちひしがれた感情を感じます。ロックはもちろん、クラシックの要素など、いろいろ混じっていると思いますが

ミック:ウォレンが若い頃に聴いていたようなワイルドなジャズを掘り起こしていたし、不和のなかの動きを引き出そうとしていたと思う。自分はもっと疾走感のあるリズムと強いメロディを出したかった。そしてジムはドラムを感情的な表現の道具として追求していた。これらの要素がぶつかり合ったり、融合したりした結果がこのアルバムだと思う。

コンセプチュアルな作品なのでしょうか?

ミック:どうだろうね。別々の物語が一同に展開している感じかもな。

アルバムのタイトル『トゥウォード・ザ・ロウ・サン』にある"The Low Sun"とは?

ミック:サンセット(夕日)だね。

ああ、「夕日の方へ」という意味なんですね。では、最後の曲の"You Greet Her Ghost(君は彼女の亡霊を歓迎する)"も、とても複雑な思いを想起させる曲ですが......。

ミック:自分の目の前にはもういない人だけど、自分のなかにはいる人と会話をしている感じだね。

月とか雪とか空とか曲名に出てきますが、自然というのはテーマだと思いますか?

ミック:よくわからないな。単にきれいな音楽を作るだけに留まりたくないんだ。リズムを取ったり、高揚したり、涙を流したりする以上のことをしたい。聴き手が自分の魂に触れること実現させたいと思っている。

ダーティ・スリーは、社会的な音楽だと思いますか?

ミック:社会ではないね。もっと個人的、私的な戦いだよ。

では、バンドにとってのもっとも重要な信念のようなものは何でしょう?

ミック:バンドとしては、自分たちに素直でい続けることだね。

毎回印象的なアートワークですが、今回のイラストは何を暗示しているのでしょうか?

ミック:ドラゴンだ。大きな戦いで、馬は死に、ドラゴンの爪で握られている。黒いオウムはそっぽを向いていて、白い犬が絶望の目で見ている。カラスは軽蔑した目で見つめ、蛾は無表情でいる。しかし、ふたつの剣があり、ひとつは獣に刺さり、血が流れている。

日本という国に対してどんな印象を持っていますか?

ミック:日本にはいつも魅了されるよ。美しい場所だし、人びとはみんな優しいし、敬意を持っている。日本人の友だちも多いし、移り住んだオーストラリアの友だちも多くいるよ。でもまだ知らないことばかりな気がするし、僕のいる社会とはまったく違うし、まだ表面を少し削ったくらいで、すごく奥の深い国だと思う。
 メルボルンと東京にはどこか音楽の見えない橋があるようにも思っているんだ。お互いのアンダーグラウンドで活動するミュージシャンの交流によって、小さなバンドでも行き来してライヴができるような、不思議な繋がりはあるような気がするよ。

どうもありがとうございました。また日本でお会いできることを期待しています。

Grouper / En Japan Tour 2012 - ele-king

 サイケデリック......と言う言葉を使うとき、受け手によってその解釈はさまざまだが、リズ・ハリスのそれは田園的だ。風が吹き、草原は揺れ、古い家が見える。日が暮れて、星が瞬く。まどろみの時間がいつまでも続く。
 リズ・ハリスがグルーパーの名義で昨年出した2枚、『ドリーム・ロス』と『エイリアン・オブザーバー』(どうしてもヴァイナルで欲しくて努力して買った)は僕の昨年のベスト・アルバムの1枚(というか2枚)である。まだ聴いてないが、1曲36分と1曲51分の新作も発表したばかりだ。
 彼女が来日する。今月は〈ソナー・フェス〉もあるんですけど(ラスティ、マウント・キンビー......とか、すごいメンツ)、しかし、夢見る人たちよ、敢えて言おう。これこそ「見逃すな」と!


■ Grouper / En Japan Tour 2012
  ポートランドを拠点に活動する女性アーティスト、Liz HarrisによるプロジェクトがGrouper。Tiny VipersとのMirroringやIlyas AhmedとのVisitorなどコラボレーション・ワークを活発化させるなか、ソロとして2年ぶり2度目となる来日を果たします!
 今回は、Grouperもリリースするサンフランシスコの人気レーベル〈Root Strata〉を運営するMaxwell Croy率いる美麗ドローン・ユニット、Enが同時来日。柔らかく爪弾かれるギター、幻想的なアンビエンスに溶けていく儚い歌声が人気のGrouper、日本の箏や様々な生楽器から至上のアンビエント・ミュージックを作り出すEn。Julia HolterやTeen Daze参加の新作EPを発表間近の新世代女性アーティスト、Cuusheも4公演に参加するアヴァン・フォーク/サイケデリック・ドローン最高峰のパフォーマンスをお見逃し無く!

04/21 (土) 東京@養源寺
live at Yogenji vol.3
open 12:30 / start 13:00
adv.: 3,500yen /door: 4,500yen
出演:Grouper, En, ILLUHA, 青葉市子, Yusuke Date
FOOD: 浅草橋天才算数塾
info: live at Yogenji / kualauk@gmail.com
https://www.kualauktable.com/event/yougenji3/

04/23 (月) 大阪@CONPASS
open 18:30 / start 19:00
adv./door 2,300/2,800yen(drink別)
出演:Grouper, En, Cuushe
info: CONPASS
https://conpass.jp/325.html

04/24 (火) 岡山@城下公会堂
open 19:00 / start 19:30
adv./door 2,500/3,000yen
出演:Grouper, En
info: moderado music / moderadomusic@gmail.com
https://moderado.jugem.jp/?eid=206

04/25 (水) 名古屋@parlwr
open 19:00 / start 19:30
adv/door: 2,800/ 3,300yen
出演:Grouper, En and more
info: Telefonbook
https://iscollagecollective.org/?page_id=407

04/28 (土) 京都@ヴィラ九条山
night cruising meets villa kujoyama
open 16:30 / start 17:00
door: 2,000yen
出演:Grouper, En, Cuushe, Rimacona
info: night cruising
https://www.nightcruising.jp/120428

04/29(日)金沢@アートグミ
open 18:30 / start 19:00
ticket: 2,500yen(会員・学生-500yen)
出演:Grouper, En, Cuushe, Asuna
予約メール:windowofacloudyday@gmail.com
電話:(080-4259-5823)
https://d.hatena.ne.jp/cloudyday/20120429

04/30 (月) 東京@VACANT
FOUNDLAND
open 16:00 / start 17:00
adv/door: 3,000/ 3,500yen
出演:Grouper, En, Cuushe, Sapphire Slows, Ikebana, Bun/Fumitake Tamura
DJ:真っ青
https://www.flau.jp/events/foundland10.html

参考URL
Grouper / En Japan Tour 2012
https://www.flau.jp/events/grouper_en.html

お問い合わせ
flau / info@flau.jp

Die Antwoord - ele-king

 ここ数年間ディ・アントウッドには腹が捩れるほど爆笑させられているのだが、不思議とこの新時代のポップ・アイコンについてはあまり日本国内の音楽メディアで語られていない。
 2009年にエンター・ザ・ニンジ、ビートボーイの鮮烈過ぎるユーチューブにあがったクリップとともにメディアに姿を表したニンジャ、ヨランディ・ヴィサー(Yo-Landi Vi$$er)、DJハイテック(DJ Hi-Tek)のレペゼン南アフリカ、自称ゼフ(Zef)、ラップ・レイヴ・クルーであるディ・アントウッドを初めて見た者は、これはCGなんじゃないかって思うほど無限のツッコミ所に腰が抜ける。僕は彼らの最初のふたつのクリップを見て悶絶し、またコラボレートしていたDJソラライズ(Solirize)ことレオン・ボッサというプロジェリアのアーティストの姿を見ながら、ディ・アントウッドの強烈なメッセージ性がギリギリのバランスを持って保たれていることに感動した。それはニンジャが10年の歳月を経て築き上げたいち部のスキもない緻密な計算に基づいたものなのだ。前身ユニットのマックス・ノーマル・TVなど、それまでポップ・アイコンとしてのラップ・ミュージックの実験性を模索して来た彼の素晴らしき最終回答がディ・アントウッドであり、ネクスト・レヴェルなのだ。

 南アフリカの訛りの英語という英語圏の人間がもっとも嫌う言葉遣いを全面にフィーチャーした爆笑リリック、ユーチューブの最高のセンスな自称DIYなクリップには(自称というのはおそらく最初のヴィデオにはディストリクト9の監督であるニール・ブロムキャンプの協力が噂される)世界中のポップ・ミュージックのアイコンのパロディを詰め込んだキャラクター、そして何より南アフリカの土着性と事実をユーモアを持ってアピールしている。
 先日「アルジャジーラ」で見たドキュメンタリーで、南アフリカにあるアルビノたちのコミュニティが恐れる、いまだに息づく土着のウィッカンにフォーカスしたものがあった。それは若いアルビノの体は幸運を運ぶ魔術のマテリアルになりうるとして、アルビノの死体が金銭対象となりしばしば襲われるケースを追ったものだった。
 そう言えば、ディ・アントウッドのイーヴル・ボーイのリリックで南アフリカでの伝説の淫獣トコロシを唄ったものがあり、彼らが地元でその魔術について取材したViceの番組があったっけ(そもそもあのクリップの衝撃はさらなる高みへ押し上げたであろう程の完成度だった)。まったくもって信じがたい話だが、この地球上で文化人類学的にこれほど良くも悪くもロマンチックな土地がまだ存在するんだろうか? この衝撃は、彼らを題材にしたショート・ムーヴィーがハーモニー・コリンに監督されたりと、音楽以外の文脈でのほうが広がりがあるようだ。オッド・フューチャーといい近年のユーチューブ・カルチャーにおいて最高のユーモアで切れ味のいいジョークを披露してくれる次世代を日本でももっと期待したい。片桐えりりかの素股ギターはアングラ・ミュージックの各方面からも話題だったが、僕はあれではモノ足りないのだ(僕はSUNN O)))のスティーヴンのブログで逆輸入的に知った)。

 〈インタースコープ〉との決別を経て、自身の合い言葉である〈Zef〉(南アフリカのスラングで呪いの言葉である)レコーズを立ち上げ、取り巻く巨額の金を管理し、新たにドロップした今作、よりダークに病んだヴィデオ・クリップ、よりスカスカのチャラーいトラックに乗るニンジャとヨランディ、そして(毎回異なるコラボレーターである)覆面DJハイテックの壮絶なスキルとリリック......、それは笑わせられながらもこちらの暴力衝動を掻き立てる魔力を秘めている。

■オブ・モントリオール @ウエブスター・ホール(3/30 & 3/3)

 オブ・モントリオールが3月末、2日連続でニューヨークの1000人規模の会場、〈ウエブスター・ホール〉に登場した。2日ともオープニングを変え(30日:ハード・ニップス、コンピュータ・マジック、31日:キシ・バシ、ロンリー・ディア)、セット・リストも少し変えた。両日行っても十分に価値のある演出だった。初日観て、翌日も行ってしまった人も少なくなかった。
 メンバーは、前回のツアーから比べてぐっと削ぎ落され、8人だった。演奏もタイトになっていた。新しいメンバーのサックスプレイヤー、パーカッション、ドラマー、バイオリンが、オブ・モントリオールの音をさらにフレッシュに、そしてセクシーに活気づけていた。
 フロントマンのケヴィンは、1日目はグレイのスーツに、下は赤のフリルシャツ、2日目は白のラインが入ったスカイ・ブルーのジャケット、下も青のシャツと鮮やかな色。目にはブルーのラメ・アイシャドーとファッションも抑えめながらいつも通りだ。他のメンバーも 多色使いのエスニック・パターンのポンチョ(BP:ギター)、白のAラインのワンピース(ドッティー:キーボード)、全身シルバーのラメのトップ(ザック:サックス)はなど、他のメンバーの個性的なファッションも全体のバランスを保っていた。
 ショーは、ニュー・アルバム『Paralytic Stalks』からの曲がほとんどで、1曲目はケヴィンがキーボードを弾きながらはじめた。今回のツアーでは、ケヴィンは、キーボード、ギター、ヴォーカル、そしてパーカッションなどさまざまな楽器も手がけていた。曲前半に白の風船を観客に向けて飛ばし、それがセット中いろんな所でふわふわしている演出で、スクリーンをそれぞれのメンバーの前において、サイケデリックなヴィジュアルと曲をシンクさせたり、いつものボディースーツのメンバーが所々に登場し、そして曲を盛り上げ、ケヴィンに絡んだり、奇天烈なパフォーマンスをぶちまけた。

 このアルバム『Paralytic Stalks』で、ケヴィンは自分の人生について突き詰めている。基本的に彼のアルバムはパーソナルなものだが、今回もさまざまな苦しみや、葛藤、精神的な危機、さらに「人間とは」というユニヴァーサルな域にも達している。楽器的にも、ペダス・スティール・ギター、ホンキー・トンク・ピアノ、チェロ、ホーン楽器など、いままでとは違う要素を取り入れ、いままでに使ったことのない手法で新しい曲を創造している。ケヴィンの表現がオーディエンスを引きつけて離さないのは、こうした深さがあるからだ。

 2時間ほどのパフォーマンスはいままで見たオブ・モントリオールのなかでも力強く、完成度も高かった 。ステージ全体をカレイドスコープのように使ったマジカルな音楽オーケストラはとてもリズミカルだった。私は1日目はいちばん前、2日目は2階席から見た。全体が見渡せる2階席からは、リズムをキープするバンドの姿、そして彼らが本当に楽しんで演奏している一面も見れた。スクリーンにはバックとフロントでは違う映像が映し出され、シンク感覚も興味深かった。スピリチャライズドをもう少しカラフルにした感じとでも言おうか、オブ・モントリオールをフジロックで見たら、曲といい、演出といい、場所とも自然とも、シンクロするのだろう。アンコールはアルバム『Skeletal Lamping』(2008)、『Hissing Fauna, Are You The Destroyer?』(2007)などからの往年のヒット曲を集めた物だった。バランスの取れた選曲の良さもショーをより価値のある物にしていた。

 観客は圧倒的に若者が多い。バンドをなかばアイドル化している感もある。ケヴィンやBPが少しでもステージ際に近づくと、みんな手を伸ばし、彼らに触れようとする。BPがアンコールで観客にダイヴしたときには、大騒ぎになり、後ろのほうまで流されていってしまった。

 ショーの後、ケヴィンといろいろ話した。彼は私と会うたびに、〈コンタクト・レコーズ〉がオーガナイズした最初の日本ツアーがどれだけ楽しかったのかを話する。日本の観客が熱く受け入れてくれたことに感動し、彼ら自身が心から楽しめたと語る。「あのときは日本のオーディエンス本当に僕らを好きだということがわかったんだ」と彼は言った。そのショーの最後の曲を演奏し終えると、ケヴィンは感極まってダイヴした後、そのままダンス・パーティに流れ込み、朝までみんなで踊った。「こんなことはほとんどない」と、彼は言う。商業的に成功したわけではなかった。贅沢なホテルに泊まれたり、ギアなども誰かが用意してくれるようなツアーでもなかった。それでもバンドにとって、最初の日本ツアーは最高の出来事だった。実はその後も彼は、何度か日本に戻っている。が、しかし、そのときはもう「日本の人はそこまで僕らのことを好きじゃないのかもね」と言っていた。


■ワイルド・フラッグ@ウエブスター・ホール(4/1)

 ......というわけで、私は3日続けてこの〈ウエブスター・ホール〉に来ている。今日はワイルド・フラッグのライヴだ。スリーター・キニーのキャリー、ジャネット、ヘリウムのメアリー、マインダーズのレベッカというガールズ・スーパー・バンドである。昨年10月のCMJで見て以来、私のなかでナンバーワン・ライヴに位置づけられている彼女たちのパフォーマンスを再び見に行った。チケットはもちろんソールドアウト。

 観客は、スリーター・キニーのファンだったに違いないある程度の年齢層(?)から最近の若者まで幅広かったが、昨日のオブ・モントリオールに比べると女の子が多かった。物販にはCD、レコード、Tシャツ、メンバーの顔Tシャツがあった。それらはショーの前から景気良く売れていた。
 オープニングはレーベル・メイト(マージ・レコーズ)であるホスピタリティ。彼女たちもCMJ(このときもワイルド・フラッグの前座)で見ているが、全体の印象的はまあ、......あどけないよちよち歩きの赤ちゃん。演奏はしっかりしているが、良くも悪くも若い。ナダ・サーフ(今週末4/6,7と2連夜でNYに戻ってくる!)のオープニングだったパロマーやラ・ラ・ライオットに音的にも姿的にも被るところがあった。

 さて、ステージにスモークが降り、ワイルド・フラッグが登場。メアリーは赤と黒の太めボーダー・シャツに黒のタイトパンツ、キャリーは黒のシャツ黒タイト・ジーンズ、ジャネットは幾何学模様のワンピース(自分用の扇風機持参)、レベッカはベージュのトップに黒のミニスカート......とメンバーの個性もばっちり。
 後ろからスポットライト、さらに電飾の色がめくるめく変わっていきステージに色を添える。オープニングはメアリーのヴォーカル曲でスタート。その後はキャリーと交互にヴォーカルをチェンジする。バンドのなかにヴォーカリストがふたり(メアリー、キャリー)、ギタリストがふたり(メアリー、キャリー)、ベースがなくて、キーボード(レベッカ)とドラム(ジャネット)。ふたつバンドができそうだ。

 今回はCMJで見たときとくらべ、がつんと来ることはなかった。別に演奏が悪かったわけではない。1回観ているため何となく読めてしまったのか、彼女たちが演奏を重ねて新鮮さが抜けてしまったのか......はわからない。観客を引きつけるパワー、ただならぬオーラーは相変わらずだが。
 私は写真を撮るために2階席にあがり、「1分だけ写真を撮らせてください」といちばん前にいた女性に頼み込んで写真を撮っていたら、本当に1分で「タイムアウト!」と後ろに返されてしまった。1分も見逃したくないほど好きなのだ。申し訳ない気分になった。
 ステージのいちばん前には男の子もかなり居て、一緒に歌など口ずさんでいる。メアリーとキャリーのギターの絡み、キャリーがバスドラの上に載って、ギターをかきならし続けるパフォーマンス(しかもハイヒールで!)などはワイルドフラッグの姿勢を表している。これこそ女の子がお手本にしたい、男に媚びないバンドの姿である。ラスト・ソングはシングル曲"ロマンス"で、シンガロングが会場に響き渡る。アンコールは、ビーチボーイズの"ドゥ・ユー・ウォナ・ダンス?"などのカヴァー・ソングを披露。

 今回ワイルド・フラッグを見に行った理由のひとつに、野田編集長から日本ではワイルド・フラッグはアメリカのように知られていないし、そこまで盛り上がっていないと聞いことがある。今回のオーディエンスはインディ・キッズからもっとゆるい音楽ファンまでいろいろだが、ショーに行くという行為はアメリカではお茶を飲みに行くのと同じぐらい日常的な行為だ。ライヴがはじまってもひたすら友だちとぺちゃくちゃお喋りして、飲み続けている人たちも少なくない(日本ではライヴ中に喋っていると怒る人がいるらしい!)。そもそもライヴとは、ビールを飲みにいったらバンドもやっていた、じゃあついでに見ていこうか、なんてのりだ。まあ、〈ウエブスター・ホール〉という場所がファンシーで、アンダーグラウンドではないのだけれど、ワイルド・フラッグはインディのなかでもより一般の人にも受け入れられている。音楽に使えるお金をそこそこ持っていて、前売りチケットを1週間前からオンラインで買う層である(byトッドP)。
 日本ではライヴを見に行くとなると、何かあまりにも特別な行為なのかもしれない。自分が楽しみたいというより、もっと緊張感のあるものなのだろうか。アメリカでライヴを観ることは、もっとリラックスしているし、テキトーだ。この考えの違いが日本でまだまだインディが受け入れられない理由なんだろうと思いつつ、ワイルド・フラッグの熱狂的なライヴを観ていた。日本とアメリカの温度差の違いもあるだろうし、言葉がわからないというハンデもある。しかし、ホントはシンプルに楽しめばいいだけのことなんだけど。

Chart by JET SET 2012.04.09 - ele-king

Shop Chart


1

SLUGABED

SLUGABED SEX »COMMENT GET MUSIC
300枚限定リリースされたリミックス・プロモ12"もヒット中、スクウィー勢との交流も盛んなカラフルUKベース人気者Slugabedが、淡く美しいシンセが舞う名曲を届けてくれました!!

2

CUT CHEMIST

CUT CHEMIST OUTRO (REVISITED) »COMMENT GET MUSIC
トラックメイカー/DJ/コレクターとして世界的に知れ渡るCut Chemistがおよそ2年ぶりとなる新作をリリース。盟友DJ Shadowにも見られたハードロック/ノイズへ接近したキラー・ブレイクビーツを展開!

3

MIND FAIR PRESENTS NO STRESS EXPRESS

MIND FAIR PRESENTS NO STRESS EXPRESS REACH THE STARS »COMMENT GET MUSIC
Theo Parrish & Legowelt Remix収録で話題を集めた"International Feel"17番「Kerry's Scene」にて堂々のユニット・デビューを飾った注目の敏腕ユニットによる注目の第二弾。

4

KURUSU

KURUSU LOCAL ANESTHECIA »COMMENT GET MUSIC
Black Smokerミックス・シリーズにKurusu(Future Terror)が登場!Future Terrorのカラーを十二分に反映させた、ハメ系ディープ・ミニマル・ミックスを収録!

5

ERIK OMEN

ERIK OMEN GRADE E / PAYPHONE »COMMENT GET MUSIC
Midnight JuggernautsのDanielが運営するSiberiaからのニュー・カマー、Erik Omen!!衝撃的に最高すぎるデビューEP、遂に入荷しました!!

6

QUANTIC & ALICE RUSSELL WITH THE COMBO BARBARO

QUANTIC & ALICE RUSSELL WITH THE COMBO BARBARO LOOK AROUND THE CORNER »COMMENT GET MUSIC
数々の名曲を産み出してきたQuanticとAlice Russellのコンビが、キューバン・プロジェクトCombo Barbaroと組んで作り上げた待望のニュー・アルバム!!

7

KINDNESS

KINDNESS WORLD, YOU NEED A CHANGE OF MIND »COMMENT GET MUSIC
あの「Swingin' Party」から3年。遂に届きました。めくるめく引用、揺れ動くグルーヴ、淡いファンクネス。これこそ最先端のインディ・アーバン・シンセ・サウンド!!

8

SAN PROPER

SAN PROPER ANIMAL (RICARDO VILLALOBOS REMIXES) »COMMENT GET MUSIC
鬼才San Properがリリースを控えるデビュー・アルバム『Animal』から、Ricardo Villalobosによる超強力作をカップリングした話題の先行リミックス・カットが到着。

9

UNKNOWN ARTIST

UNKNOWN ARTIST UNTITLED »COMMENT GET MUSIC
これは最高です。ニュー・ディスコのようでシンセ・ダンスのようでハウスのようで、そのどれでもない。ディープで爽やかなブリージン・シンセ・ディスコ・キラー!!

10

FEADZ & KITO

FEADZ & KITO ELECTRIC EMPIRE »COMMENT GET MUSIC
説明不要のフレンチ・エレクトロ天才Feadzと、Skreamに見出され、タッグ名義ではMad Decentデビューも飾ったオージー・ブロンド美女ダブステッパーKitoによる電撃コラボ盤が登場!!

interview with Daniel Rossen - ele-king


Daniel Rossen
Silent Hour / Golden Mile

Warp/ビート

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 2012年は、ブルックリンの音楽が再び賑わいそうな気配だ。ザ・ナショナルやベイルートのメンバーと作り上げたシャロン・ヴァン・エッテンの素晴らしいアルバムが発表されたばかりだが、山ごもりして制作していると言われるダーティ・プロジェクターズのアルバムは新曲を聴く限り順調のようだし、アニマル・コレクティヴの新作も出るかもしれない。そして秋以降だという噂のグリズリー・ベアの新譜が揃えば、2009年のブルックリンの熱がぶり返すことだろう。
 そんな季節を予兆するように、グリズリー・ベアのメンバーであり、デパートメント・オブ・イーグルスのダニエル・ロッセンから5曲入りのソロEP『サイレント・アワー/ゴールデン・マイル』が届いた。ピアノやギター、管弦楽器があくまで抑制を効かせて演奏される親密な室内楽であり、フォークとジャズと現代音楽の知的な交配でもあり、そこに含まれる、端正だが何かが歪んでいる不気味さ、エレガントさのなかの狂気、甘く妖しいサイケデリア......はグリズリー・ベアの音楽の魅惑そのものだ。ビーチ・ボーイズを日陰に連れて行ったような翳りを交えた柔らかいコーラス、センシティヴなメロディ、アコースティックの弦楽器や打楽器の余韻たっぷりの響き。その隙間にひたすら埋もれていきたくなる、あまりにも快楽的で優美な一枚だ。グリズリー・ベアはエド・ドロステのバンドでありつつも優れた音楽集団であり、なかでもロッセンの貢献がどれほど大きいかこれを聴くとよくわかる。
 そして、これはロッセンが自分の内面に潜っていった記録でもある。内省的な問いかけは対話に置き換えられ、抑圧はムーディなサイケデリアとなり、最終的にそこからの開放が力強いリズムへと昇華されている。とくにラスト2曲、ダークでジャジーなピアノ・バラッド"セイント・ナッシング"から、甘美さを保ったまま荒々しくドラムとギターが躍動するエクスタティックな"ゴールデン・マイル"へ至るダイナミズムには目が覚めるようだ。自らの暗い感情や狂気が、そこでは美しい音楽に向けてぶちまけられている。ミュージシャンとしてのダニエル・ロッセンの自己救済のような過程を含みながら、このような聴き手を陶酔させる音楽が生み出されてしまうことに感嘆せずにはいられない。グリズリー・ベアの新作はとんでもないことになるだろう......が、それまではこのEPにひたすら酔っていたい。

なんだろうな、暗闇から自分を解き放つ瞬間のようなものなんだ。自分を悪循環の輪から解放させる勇気を見つけること。魔法の言葉が見つかればこの瞬間を美しい何かに変えられる気がするんだ。

素晴らしいソロEP、聴きました。まず、このEPを出すまでの経緯について聞きたいのですが、グリズリー・ベアのツアーが終わってからはどのように過ごしていましたか? ここに収録された楽曲はいつ頃できたものなのでしょう?

DR:自分のための曲とグリズリー・ベアのデモにと考えた曲をいろいろレコーディングしたんだ。そのときはあんまり深く考えていなかったけど、結構ささっとできたんだよね。歌詞を書いてからレコーディングするまで1、2日しかかからなかったんだけど、そこからどうするか決めてなくてしばらく放置してたんだ。去年の秋頃、"セイント・ナッシング"のトラックを完成させてからこの5曲がうまくまとまっていると感じたんだ。そうなればもうプロジェクトと称してEPに出してしまおうと決めた。いままでやったことがなかったし、グリズリー・ベアのアルバムができるまで時間もあったからちょうど良かったんだ 。

当初はグリズリー・ベアのニュー・アルバムのデモになる可能性もあったということですが、そうはならず、「これはダニエル・ロッセンの曲なんだ」と気づいたポイントはどこにあったのでしょう ?

DR:曲のほとんどを自分の手で作ったから、自分のものにしたかったのが大きい理由だな。何も変える必要はないと感じたし、曲のほとんどの基礎のパートをワン・テイクで録ったレコーディングの思い出もあったからね。その前の1、2 年間は独学でドラムやチェロを習ったりしたよ。自分の楽器のスキルを伸ばすのも楽しいし、今回のようにワンマンバンドとしてEPを出すのも面白いかなって思ったんだ。コラボで制作したトラックもあるけど、全部自分で演奏できたらどうなるか試したかったんだ。

クリス・テイラーのキャントに刺激を受けた部分もありますか?

DR:うーん......直接影響されたわけじゃないけど、去年の秋までのブランクが長すぎたのがいちばんのきっかけかな。クリスは仕事、エドは旅をして時間を埋めていたけど僕は何も予定がなかった。このままぼーっとしてるか、自分でプロジェクトをスタートするかって選択を迫られた結果だったんだ。もともと落ち着きがない性格だから、じっと待っているなんてできないんだ(笑)。

制作の過程で、グリズリー・ベアやデパートメント・オブ・イーグルスでのこれまでの経験ともっとも違った部分はどのようなものでしたか?

DR:まず全体の気軽さだね。完璧にしなければというプレッシャーもなかったし、とにかくやってみて、ひとりでレーベルに持っていったらそのままリリースが決まったんだ。とにかく全体的にトントン拍子で物事が進んだ。グリズリー・ベアだったら当然そんな風にはいかないね。人数や物事が多いほど責任も重くなるけど、ソロ・プロジェクトでライヴも必要なかったからとても簡単にことが進んだんだ。あれこれ考えずに自分の作品をリリースできるのもたまには気持ちがいいね。

"セイント・ナッシング"はワン・テイクで録られたそうですが、そこにこだわったのはどうしてですか?

DR:ワン・テイクで録ったのは全部じゃなくピアノとヴォーカルのパートだったんだ。いちばんフレッシュな時に録りたかったから、書き上げてすぐレコーディングした。感情をもっとも込められるチャンスなんだよね。あの歌は11月にレコーディングして、イアンとクリスに1週間とか10日間でアレンジをかけてもらい、1月にはもう発表できたんだ。2ヶ月で作曲とレコーディングを完成させてリスナーに届けられるんなんて、すごいことなんだよ。あのスピードには非常に満足させられる物があった。普通だったら何ヶ月もミックスを繰り返し、宣伝とかもいろいろしてからようやくリスナーに届くのに。そのあいだずっと待っているのはつまらないし、音楽自体にも飽きてくるんだ。今回はフレッシュなままで世間に出せたのが嬉しかった。

5曲を聴いた印象としては、とくにメロディやドラムの音色、サイケデリックなムードなど、グリズリー・ベアやデパートメント・オブ・イーグルスと共通するものを感じました。それだけバンドでのあなたの存在が大きいのだと改めて気づきましたが、これまでバンドでの自分での役割があるとすれば、それはどのようなものだと認識していましたか?

DR:ほとんどの場合はいつも似たような役割だけど、ときどき誰かとポジションを交代することもある。レコーディングをもっと楽しくするために毎回少しずつコラボできるパートを増やしているんだ。その方がもっとオープンな流れになるしね。僕は作詞をもっと提供したし、エドは新しいアイデアを色々出した。ふたりで色々試行錯誤したり、他のメンバーもパートを交換してみたりして、全員がしっくりくるまで新しい形を模索したんだ。
 グリズリー・ベアのメンバーとしているときは、そのとき必要なパートがあればそれを引き受ける。たまにリズム担当を任されてアレンジや歌い方を気にしなくてもいいのも楽だね。その方がバラエティも広がるし、自分だったら考えもしないような演奏法をエドに提案されたり、仲間や自分自身の新たな面に気付かされるんだ。それがバンドでいることの醍醐味かな。

いっぽうで、バンドのときよりも楽曲ごとに中心となる楽器の使い分けがはっきりしているように思いました。数多くの楽器をこなすあなたらしさが出ているように感じましたが、それぞれの曲で楽器の選択はどのようにしているのでしょうか?

DR:そこらへんにある楽器をとりあえず使ってみたのさ(笑)。ひとりでレコーディングしたときは、ドラムとベースとチェロとピアノだけ使ったよ。あまり深く考えずに自然に感じるものを選んだんだ。一人で作業をしていると、誰にもいちいち説明しなくていいから、とにかくやってみるんだ。アレンジのほとんどは直感でひらめきながら模索してやってみた。
 クリス(・ノルト)とのアレンジは、とりあえずよさそうな雰囲気を出せる素材を探し当てるすごく楽しい、新しい作業だった。「ここは低い金管楽器みたいな音がほしい」とか、なんとなく感覚で提案したら本当にその演奏者が揃って実現したんだ。ずっとひとりで閉じこもって作業してた僕にとっては嬉しいことだったね。

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作りたい音楽は大衆音楽から離れた場所にあると思うよ。ポップスではないんだ。自分が送りたい生活をこのまま送れたらそれでいいんだ。お金がたくさん欲しいわけじゃないし、メジャーでビッグになりたいとも思わない。


Daniel Rossen
Silent Hour / Golden Mile

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歌詞についていくつか訊かせてください。自分の内面と向き合うような内容が目立ちますが、これはあなた自身のごく個人的な感情や感覚をモチーフにしたものなのでしょうか?

DR:歌詞のほとんどは自分のなかの不安や恐れを世界に向けた内容だ。それが文字通りの世界なのか、愛する人との関係の世界なのかは解釈の自由だけど。

「you」とのとても親密な関係性が描かれていますが、この「you」があなたにとってどのような存在なのか説明していただけますか?

DR:正直、そういう言葉は自分自身に向けている場合が多いんだよ(笑)。他人に呼びかけている場合もあるけど、ほとんどの場合自分に宛てているね。自然にそんな歌詞になったんだ。

"speak for me"、"speak to me"、そして"say the words"など対話によるコミュニケーションへの欲求がいくつかの曲で見受けられます。このことについては意識的でしたか?

DR:このEPには個人的な感情がたくさん込められてる。自分の体験を美化したような内容もあるし。
 ダイレクトに話しかけているつもりではないけど、たしかにコミュニケーションを求めている内容だね。自分自身の体験を再現していたのかもしれない。人から離れてよく引きこもりがちになるんだけど、この数年間は音楽やツアーで忙しくて、ひとりになりたいと思う時期が長く続いた。自分の人生が世の中とどうつながっているのか、これから自分はどう進むのかって大きな葛藤があったんだ。もともと内面的な性格を一新したというか、自分の優れた部分を抜き取って作品にすることができた。

最後のナンバー、"ゴールデン・マイル"はドラムのワイルドな響きが力強いナンバーですが、その最後で「言葉を放て、呪いを解け/心のなかで言葉を放て、大声で叫ぶ前に」という印象的なフレーズで締めくくられ、その「言葉」とは何か、リスナーに考えさせます。もちろん正解はないと思いますが、この「言葉」がどのようなものなのか説明することはできますか?

DR:自分が書いた歌詞を人にわかりやすく説明するのはあまり好きじゃないんだけど、ニューヨーク州の北にある自然に囲まれた田舎でEPの歌詞のほとんどを書いていた。個人的な悩みなどをいろいろ抱えていて頭がおかしくなりそうな時期だったけど、同時に圧倒されるぐらい美しい風景のなかにいたんだ。それまで抱えていた悩みや問題から解放されると同時に、この美しい世界のなかを絶えず動き続けながら、自分のなかの狂気を目の前の大自然に反映しようとしていたんだ。
 質問の答としては、歌詞を何度も繰り返したりする変わったループが好きなんだ。「Say the words, break the spell (言葉を出そう、呪文を解こう)」ってとこは......なんだろうな、暗闇から自分を解き放つ瞬間のようなものなんだ。自分を悪循環の輪から解放させる勇気を見つけること。魔法の言葉が見つかればこの瞬間を美しい何かに変えられる気がするんだ。ある意味、それがこのEPのメッセージだ。美しい世界に囲まれているのにハマってしまった居心地の悪い場所から抜け出せる言葉を見つけよう。まわりの風景に幸せを感じ、自分のダークな部分をポジティヴなものに変える方法を見つけよう、って。

この作品での体験は今後どのように生かされると思いますか?

DR:この体験を通してとっても前向きになれた。驚くほどいい結果が出たんだ。グリズリー・ベアのアルバムに取り組むためにも頭の整理ができたし、次のステップへの準備にもなった。実は1年ほど前、自分が何をしているのか分からなくなってもう音楽を辞めようかとさえ思った時期があったんだ。このEPを完成する事でずいぶん癒されたし、自信が持てた。自分は音楽を続けるべきなんだ、このままでいいんだって。グリズリー・ベアと活動を続けるための準備ができたんだ。

昨年はボン・イヴェールやフリート・フォクシーズ、セイント・ヴィンセント、ベイルートなどのアルバムが高く評価されるだけではなく、人気を集めました。現在のアメリカではより音楽的なものに注目が集まっているように見えます。あなたやグリズリー・ベアにとっては喜ばしいことではないかと思うのですが、そんなかで、グリズリー・ベアがやるべきことはどのようなことだと、あなたは考えていますか?

DR:このバンドのメンバー全員に聞いたらそれぞれ違う答えが出てくるだろうけど、僕が作りたい音楽は大衆音楽から離れた場所にあると思うよ。ポップスではないんだよね。それに近い曲を出すこともあるけど、やっぱり違うよね......世間に受けられる音楽を創ろうとするより、自分のなかの不思議な音楽の世界を探るほうがずっといい。音楽のキャリアをこのまま続けることができて、自分の音楽を聴いてくれる人達が十分にいてくれて、自分が送りたい生活をこのまま送れたらそれでいいんだ。お金がたくさん欲しいわけじゃないし、メジャーでビッグになりたいとも思わない。そういう音楽を作りたいとも思わなければ、ミュージシャンとして作らなくてもいいんだ。
 でも、メジャー・シーンで活躍している彼らはすごいと思うし、彼らの成功をすごく嬉しく思うよ。みんなとてもいいひとたちだし、音楽を大事にするミュージシャンだ。メジャー界が彼らの音楽に注目していることに希望を感じるよ。

クリス・テイラーはプロデュースも手がけるようになっていますが、あなたが今後挑戦してみたいことはありますか?

DR:いつかこのEPをライヴで演奏できたらいいね。まずはグリズリー・ベアのアルバムを収録してからかな。本当にできたら嬉しいけど、その時のフィーリングにもよるね。必ずやらなければいけないことでもないから、上手くいきそうに見えて素材が十分揃ったら、ライヴで演奏したいね。

Shop Chart


1

ANIMATION

ANIMATION SANCTUARY (JOE CLAUSSELL'S TWO PART HIDDEN REVEALED REMIX) SACRED RHYTHM MUSIC / US / 2012/3/25 »COMMENT GET MUSIC
「UNOFFICIAL EDITS AND OVERDUBS」シリーズも絶好調のJOE CLAUSSELLが手掛けるジャズ・リミックス・プロジェクト!電化マイルスへのオマージュを込めたANIMATIONによる楽曲を独自解釈によりクラ ブ・サウンドでアップデートした限定2トラックス10"!

2

JOAQUIN JOE CLAUSSELL

JOAQUIN JOE CLAUSSELL UNOFFICIAL EDITS AND OVERDUBS 12" PROMO SAMPLER PART SACRED RHYTHM MUSIC / US / 2012/3/17 »COMMENT GET MUSIC
「UNOFFICIAL EDITS AND OVERDUBS」シリーズ・アルバムから先行プロモ・サンプラーEP第2弾!こちらも初12"化音源収録/限定プレスというレアリティの高い一枚です!JOE CLAUSSELL自身のDJプレイ感覚から派生したエディット・ワークスなだけに、現場での効力は絶大!

3

POLLYN

POLLYN SOMETIMES YOU JUST KNOW FOR US / UK / 2012/3/21 »COMMENT GET MUSIC
超限定盤!MOODYMANNリミックス収録!LAの三人組ニュー・バンドPOLLYN、フルアルバムからの先行12"EP、勿論オシはその MOODYMANNリミックス!超限定盤につきお見逃し無く!

4

STILL GOING

STILL GOING D117 STILL GOING / US / 2012/3/28 »COMMENT GET MUSIC
ERIC DUNCAN(RUB N TUG)とNYのプロデューサー/コンポーザーOLIVIER SPENCERによるユニット=STILL GOINGがオウン・レーベルを始動!サイケ0ニュー・ウェイブ感覚を漂わせたディスコ・ダブ推薦盤!はやくも海外では著名DJ陣の中で話題となっている模様です。

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MO KOLOURS

MO KOLOURS EP2 : BANANA WINE ONE HANDED MUSIC / UK / 2012/3/27 »COMMENT GET MUSIC
昨年リリースのデビューEPも衝撃的すぎたマルチ・クリエイターMO KOLOURSセカンド・リリース!その独特のアフリカン・ビート・ミュージックがさらに研ぎ澄まされた、これまたスゴイ一枚に仕上がってます!

6

V.A.

V.A. AHYEWA SOUNDWAY / UK / 2012/3/16 »COMMENT GET MUSIC
QUANTICエディット収録!アンディスカヴァリーな上質ワールド/辺境ミュージック復刻の権威<SOUDWAY>からDJユースなアフリカ物 リエディット12"到着しました!純粋な発掘/復刻リリースも良いですがこういったエディット処理後の使える12"がDJ的には嬉しい限りです◎ 推薦盤!

7

PHIL WEEKS

PHIL WEEKS RAW INSTRUMENTALS ROBSOUL / FRA / 2012/3/28 »COMMENT GET MUSIC
推薦盤!先行プロモ12"も好評の中2LPフルアルバム!カットアップ/エディット・スタイルで展開するMPCサウンドのヒップな極太ダンス・グ ルーヴ◎最近のANDRESワークスともリンクするイナたい鳴りのざらついた丸みのあるサウンドが好感触なグッド・ロウ・インスト・トラック集!

8

LIQUID CRYSTAL PROJECT

LIQUID CRYSTAL PROJECT LCP 3 POLAR / GER / 2012/3/21 »COMMENT GET MUSIC
USの敏腕プロデューサーJ.RAWLSが指揮を執るLIQUID CRYSTAL PROJECTサード・アルバム!90'Sヒップホップのインスト・ジャズ・リメイクを中心とした極上盤◎先行シングル・カットされたDE LA SOULトリビュート・ナンバーをはじめ、今作でもそのヒップホップ愛が滲み出た絶品インスト・ジャズ・ブレイクスをたっぷり全15曲収録!

9

JOAQUIN JOE CLAUSSELL

JOAQUIN JOE CLAUSSELL UNOFFICIAL EDITS AND OVERDUBS VERY LIMITED 7" PACKAGE SACRED RHYTHM MUSIC / US / 2012/3/1 »COMMENT GET MUSIC
推薦盤!「UNOFFICIAL EDITS AND OVERDUBS」シリーズからリミテッド7"!レアグルーヴ・クラシックのグレイト・リエディッツ!共に7分越えのDJユース仕様です◎

10

ONUR ENGIN

ONUR ENGIN MUSIC UNDER NEW YORK GLENVIEW / US / 2012/3/11 »COMMENT GET MUSIC
エディット・シーンの超新星ONUR ENGINのファースト・アルバムが緊急リリース!定番クラシックスをニュー・ディスコ/ビートダウン/ブレイクビーツ/ダウンテンポetc..とDJ ユースなフォーマットにリエディット仕上げた絶品トラックが並ぶ抜群の内容でございます◎
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