Shop Chart
1 |
2 |
||
---|---|---|---|
3 |
4 |
||
5 |
6 |
||
7 |
8 |
||
9 |
10 |
1 |
2 |
||
---|---|---|---|
3 |
4 |
||
5 |
6 |
||
7 |
8 |
||
9 |
10 |
オウテカの来日ライヴ公演が決定したとき、彼らが指名したDJのひとりがデトロイト・テクノのオリジネイター、ホアン・アトキンスだった。これは......なかなかいい話だ。つねにマニアの注目に晒されながら、ときにリスナーを困惑させることさえ厭わないUKの電子音楽における高名な実験主義者たちのオリジナル・エレクトロへの偏愛は良く知られた話である。だから、当然といえば当然の指名なのだろうけれど......。しかし、デトロイトのファンキーなテクノの生臭さはベッドルームのIDM主義者の潔癖性的な志向性とは、まあ、言ってしまえば180度違う......こともないだろう。昔から彼らはレイヴ・カルチャーを擁護し、その庶民性を見下す連中を批判してきたし、何よりも彼らがオリジナル・エレクトロへの愛情を失ったことはたぶんいちどもないのだ。とにかくオウテカは今回、決してトレンディーとは思えないデトロイトのエレクトロ・マスターの宇宙のファンクネスを引っ張ってきたのである。そんなわけで、6月4日の〈DIFFER有明〉のパーティを控えたホアン・アトキンスに話を訊いてみた。
■いまデトロイトですか?
ホアン:そうだね。
■最近はどんな風に過ごされていますか?
ホアン:最近は〈Movement 2010〉に向けての準備で毎日忙しいな。〈Movement 2010〉は知ってるかい? デトロイト・エレクトロ・ミュージック・フェスで今年は5月29日~31にかけて開催されるんだよ。去年は......たしか83,000人くらい集まったって聞いたな。今年はモデル500名義でライヴで参加するんだけど、パーティを閉めなくちゃいけないからね。準備がけっこう大変で、最近はそれに向けてずっと準備を進めているという感じさ。日本のショウだって? まずは〈Movement 2010〉をキッチリやらなきゃいけないが、準備はもちろんしているよ。オレが日本を好きなことは知ってるだろ。
■体調のほうはいかがですか? DJは頻繁にやっていますか? 曲作りのほうは?
ホアン:ぼちぼちだね。曲作りに関して言えば、オレは取りかかるまでに時間がかかってしまうんだよ。シングルがもうすぐリリースされるけど、いまもまた新しいシングルに取りかかっている。正確に言えば、もうしばらくずっとそれに取りかかっているんだけどね。
■今回はオウテカ自らの指名で東京でのDJを依頼されたようですが、オウテカとは直接知り合いなんですよね? デトロイトにも来ていますし......。
ホアン:直接の知り合いではないよ。たしか過去にいちど会ったことがあるはずだけど。
■彼らはエレクトロ――といっても最近のファッション界で流行っているエレクトロではないですよ、マントロニクスやジョンズン・クルー、あるいはあなたのサイボトロンのようなオリジナル・エレクトロが大好きだから、それもあって依頼したんじゃないかと思うんですけど......。
ホアン:オウテカがマントロニクス、ジョンズン・クルーやサイボトロンが好きだっていうのは嬉しいね。オレを健全なラインナップのなかでやらせてくれて、彼らには感謝しているよ。
■実際、彼らとはエレクトロに関して話し合ったことがあるんじゃないですか?
ホアン:もしかしたら話したかもしれないけど、なにせオレが彼らに会ったことがあるのはおそらく過去の1回だけだっていうこともあって何を話したかはあまり覚えてないんだよ。
■オウテカに関して、あなたの評価を聞かせてください。
ホアン:正直、オレは彼らの音楽についてよく知らないんだ。彼らの音楽をあまり聴いたことがないんだよ。でも彼らがエレクトロを好きだと知って、オウテカに興味を持ったよ。次のときまでに必ず彼らのカタログをチェックしておく。アルバムも最近出たんだろ。日本に行くまでに必ずそれも聴いておくよ。
■2005年に『20 Years Metroplex: 1985 - 2005』をベルリンの〈トレゾア〉から発表しましたが、あれはまさにこの20年のあなたの歴史でした。あのコンピレーションに関するあなたのコメントをください。
ホアン:あれはオレが過去に作ったトラックのなかでもとくに人気があるものを集めたものさ。あれを出そうと思ったのはみんながオレに、「なんであの作品の収録トラックはどれもCDでリリースされてないんだ?」、「どうなってんだよ」ってしつこかったからだな。オレ自身としては、あの作品はオレのトラックがより広いところに行くためのプラットフォームになればいいと思って取りかかった。そう思って作った作品だよ、あれは。2枚のCDにあのトラックを入れ込むのには少し苦労したけど、それに挑戦しているときの気分は悪くはなかったね。
■どんな反響がありましたか?
ホアン:良いフィードバックを得ることができたと思っているよ。世界中で受け入れられたかどうかはわからないけど、オレのまわりからのあの作品に対しての反応はかなり良いものだったよ。
■あなたのレーベル〈メトロプレックス〉そのものはもう動くことはないのでしょうか?
ホアン:いや、動きだしたいと思っている。でもその前にギアをかけてアクセルを踏む準備に入らないとね。新しいトラックに取りかかりたいと思ってるよ。ショウももっとやりたいね。
■この10年の、つまりゼロ年代のエレクトロニック・ミュージックのシーンをあなたはどう見ていますか? 停滞していると思いますか? それともゆっくりでも前進していると思いますか?
ホアン:うーん、停滞してはいないと思うけどね。ゆっくりどころかオレはすごい勢いで進化していると思うよ。まわりではいろいろ起こっているみたいだし。
■具体的には誰がいますか?
ホアン:いまの前進の仕方からするとたくさんいるはずだけど、オレには今誰かの名前を挙げることはできないかな。
■例えば......フライング・ロータスのような新しい世代の音をあなたはどう見てますか?
ホアン:フライング・ロータスの名前は聞いたことがあるんだけど、彼の音楽はまだ知らないんだ。ごめんよ。正直に言うよ。オレには娘がいるんだけど、彼女が最近音楽を作っている。まだ作品の制作段階だがそれが発表された日には事件になる。彼女のスタイルはどこにもないもので、素晴らしい。彼女のアーティスト名はMilan Ariel。アトキンスをつけるかどうかは彼女もまだ決めてないようだけどね。
■あなたのなかに新作を発表する予定はありますか? もしあるなら具体的に教えてください。
ホアン:モデル500名義のシングルがリリースされる。〈Movement 2010〉で披露するつもりだよ。そのシングルは〈R&S〉から4週間から6週間後にはリリースされるはずだよ。
●今回の日本でのセットについて教えてもらえませんか? なにか特別なことをプランされているようでしたらそれについても教えてもらえればと思います。
ホアン:Very Groovy。Very Very Sexy Groovyなエレクトリック・ダンス・ミュージック・セットを披露しようと思っている。オレはいつだって一夜限りのスペシャルな夜を作り上げるために本気でショウに取り組む。今回は日本だっていうこともあって、オレ自身も正直楽しみにしているし、オレのショウはいつだって特別なんだ。どこでやっても全力で取り組むだけさ。ただ日本やオーディエンスのヴァイヴスがオレに伝わって、意識せずとも自分が特別に納得できてしまうようなプレイを繰り出してしまうことにもなりかねないと思っているよ(笑)。それに今回は特別にアンリリースド音源をいくつか持って行くつもりなんだ。過去にデモとしてしか存在しなかったトラックをね。他のアーティストのもオレの自身のも。もうすぐリリースされるシングルも、もしかするとプレイするかもしれないな。
■それでは最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。
ホアン:愛してるぜ。オレたちはVery Sexy Funkyナイトをともにするんだ。準備をしておいてくれよ。オレは日本のファンを愛しているんだ。Don't miss it!
Autechre |
Claude Young |
出演 : Autechre, Juan Atkins, Claude Young and more.
日程 : 2010.6.4(Fri) OPEN / START 22:00
会場 : ディファ有明
料金 : 前売り ¥5,500 / 当日¥6,500
*20歳未満の方はご入場出来ません/
入場時に写真付身分証の提示をお願いします。
YOU MUST BE 20 AND OVER / PHOTO ID REQUIRED
企画・制作 : BEATINK / BEAT RECORDS
MORE INFO >>
https://www.beatink.com/events/autechre2010/
1 |
2 |
||
---|---|---|---|
3 |
4 |
||
5 |
6 |
||
7 |
8 |
||
9 |
10 |
1 |
2 |
||
---|---|---|---|
3 |
4 |
||
5 |
6 |
||
7 |
8 |
||
9 |
10 |
1 |
2 |
||
---|---|---|---|
3 |
4 |
||
5 |
6 |
||
7 |
8 |
||
9 |
10 |
"UKガラージ"がテムズ川から南に位置するクロイドン近郊で"ダブステップ"へとトランスフォームしたのは周知の通りである。そこからしっかりと広がって、あるいはインターネットや媒体などを通してウイルスの如く目まぐるしい速度で感染していったわけだ。いまは亡きクロイドンの伝説的レコード店〈Big Apple〉から育っていったダブステップの先導者たち――スクリーム、ハイジャック、ローファーなども、"ガラージ"というフィルターを通り、インスパイヤーされている。実は筆者は2001年から2004年までのあいだのロンドン在住中、サウスロンドンのクラハムノースに住んだことがある。が、当時サウスロンドンでこのようなムーヴメントが起こっていようとは知る由もなかった。たしかにクロイドンが位置する南ロンドン周辺は、古くからジャマイカン・ミュージックやジャングル、ドラムンベース、ガラージの恩恵を受けた音楽が豊富なエリアではあるが......。
"ガラージ"の未来を担い、ポスト・ガラージの最左翼と称される20代前半の若者が昨年クロイドンからまた現れた。たった1曲により世界中を席巻してしまったジョイ・オービソン――本名はピート・オーグラディ(Pete O'Grady)という青年のことで、2009年の代表的なトラックとして取り上げられる「ハイフ・マンゴ(Hyph Mngo)」を発表したプロデューサーである。アーバン・サウンドのセンスとアイデアとクロイドンならではのサブカルチャー、そして"ガラージ"......まさにこれぞ"ミューテーション(突然変異)"というに相応しい音楽である。
ジョイ・オービソンは、12歳からDJをはじめている。ハウスやUKガラージがその中心だった。そこから、エレクトロニック・ミュージックの知識を貯え、多様な音楽性のDNAを受け継いでいる。ゆえに彼がアーバン・ベース・ミュージックのネクスト・レベルを提唱するのも必然かもしれない。 最近では、ホセ・ジェームスの「ブラック・マジック」、フォ ーテットの「ラブ・クライ」などのリミックスでも評価を高めている。
今作「The Shrew Would Have Cushioned The Blow」は、〈シンプル・レコーズ〉主宰のウィル・ソウル(Will Saul)とフィンク(Fink:〈ニンジャ・チューン〉所属)のふたりが運営しているレーベル〈Aus Music 〉からのリリースとなった。トレブルやミドルレンジがあまり広く用いられないサブ・ベース主体のダブステップに反して、上質なトレブル・サウンド・コラージュがプログラムされている彼のニュー・ガラージ感覚が注がれている。
ひょっとしたら新たなサブジャンルの誕生かもしれない......ふたたびクロイドンから世界に向けて。そしてまたしても世界中で感染するのだろう。
この連載の2月でも紹介したサブトラクト(Sbtrkt)だが、UKガラージ色が濃かった変則ビートの「ライカ(Laika)」に続いて、〈ブレインマス(Brainmath)〉からミニマル x ガラージを基調とした大傑作EPが届いたので紹介しよう。タイトル・トラック"2020"は、アートワークが暗示するように近未来の世界を模写したシネマティックなサウンドで、ブリアルの浮遊間溢れるダーク・エレクトロニカ感覚をさらに押し上げ、深い叙情性に富んだアンビエント・ビートなトラックになっている。4つ打ちを取り入れたハード・ミニマルなドライヴ感と音響派コズミック・ガラージとでも言えばいいのか、その素晴らしい"ジャムロック( Jamlock )"、ディープ・ミニマル・ダブと共鳴するインダストリアル・ベルリン・ステップな"ワン・ウィーク・オーヴァー"、エレクトリックなシンセ群が魅力的に交感し、パーカッシヴなビートがそれをフォローするガラージ・ステップ"パウス・フォー・ソート"......収録された4曲すべてが素晴らしい。
サブトラクトは最近はリミックス・ワークも好調で、オリジナルにいたっては発表するたびに新たな試みが具体化されている。彼もまた、新世代の旗手としてジャンルレスな活動をしていくだろう......と言うよりすでに各方面で話題だが......。いずれにせよ、これこそ近未来のダブステップである。と同時に、実にDJフリンドリーなサウンド・パックでもある。
〈ノンプラス〉とは、ディープでアトモスフェリックなドラムンベースをリリースしていたインストラ:メンタル(Instra: Mental)主宰のレーベルである。インストラ:メンタルは、2009年に〈ノンプラス〉を立ち上げ盟友ディーブリッジ(dBridge)とともに「ワンダー・ウェアー/ノー・フューチャー」をリリースすると、続いてインストラ:メンタルの「ウォッチング・ユー/トラマ」を発表、シーンにディープ・ドラムンベースとでも呼ぶべき新風を巻き起こしている。ところが、2009年中頃からダブステップへとシフトしていくのである......もっともインストラ:メンタルの"音質"と"ダブステップ"との相性が抜群であったのは明らかだったのだが......。とにかく、彼らはダブステップへの転身により、アーティストとしてより輝き放ったのである。
転身したとはいえ、その作品の大半は、トライバル・ステップやドラムンベース・トラックの作品でお馴染みの、アトモスフェリックなテッキー・ダブステップである。現在彼らはコズミック・ステッパー、エーエスシー(ASC)と一緒にアルバムを創作中とのこと......まったく楽しみな話と言うか、DJセットにどう組み込むか期待は膨らむばかりだ。
そして、レーベル5枚目となったリリースは、先述のジョイ・オービソン「The Shrew Would Have Cushioned The Blow」のリミックスも務めたアクロレス(Actress)である。アクトレス(女優)......と言っても男性プロデューサーで、彼の本名はダレン・J・カニンガム(Darren J Cunningham)というのだが。
ビート職人としても名高い彼は、独特のビート・カットやハッシュする技術により、秀逸なエクスペリメンタル・トラックを世に送り出している。2004年にレーベル〈Werk Discs〉をスタートさせ、デビュー作「ノー・トリックス」を発表している。デトロイティシュなビート・マエストロとの好評価を受け、2008年には、ファースト・アルバム『ヘイジービル(Hazyville)』、2009年にはなんとトラスミー(Trus'me)率いるハウス・レーベルの〈プライム・ナンバー〉からディープな傑作「ゴースツ・ハブ・ア・ヘブン(Ghosts have a heaven)」をリリース、その多才ぶりを如何なく発揮している。
今作「マシーン・アンド・ボイス」は、彼の新境地とも言うべきエレクトロな高音色を多用した新感覚なビートスケープだ。一見ごくありふれたビートメインのトラックのように感じたのだが......聴いていくとビートのプログラミング構成がランダムかつグルーヴィーにどんどん変化していく。予測不能に陥るエクスペリメンタルなこのトラックは、フライング・ロータスをどこか彷彿させるのだ。ハッシュされたヴォーカル・サンプルの注入具合といい、奇才の風格が漂う彼ならではのビート・コラージュである。
いまもっともホットな......と言うか、流行っている......と言うか、制作者が目指しているといったほうが適切かもしれない。ダブステップのサブジャンルとして絶大な支持を得ているアトモスフェリック・ダブステップという潮流である。ロンドンの現在の事情に詳しい友人からそう聞いた。つまり、数年前のブリアルやコード9のようなアトモスフェリックな曲調は、あったことはあった......が、しかし、それを飲み込む程のダークな質感やインダストリアル・ノイズ・スケープといったものが上回っていたため、純粋の"アトモスフェリック"と言うものが流行りだしたのは、ここ最近に至っての話ではないであろうかと思う。どこか......このようなひとつのジャンルが派生していった流れは......と考えたとき、まったく同じ現象が時代を経ていま起こっていると気付いたのである。これは、90年代の中期に一世を風靡したドラムンベースのサブジャンル"アートコア"である。
先日、DOMMUNEで開催した「DBS・スペシャル」(これを開催するにあたり尽力して頂いた神波さん、サポートして頂いた野田さん、カーズ、宇川さん並びDOMMUNEスタッフの方々、そしてジンク&ダイナマイトMCの素晴らしいプレイに心よりお礼申し上げます)にて、野田さんが推奨した"変人"ゾンビーの2008年のアルバム『Where Were U In '92?』という作品名が語るように、彼はまさにジャングルに没頭していたわけだが、その後、同じようにクロイドンのダブステップ・リーダーたちもジャングル、とりわけアートコアはに創造性をよりかきたてられ、心躍らせていたことだろう。LTJブケムと〈グッド・ルッキング〉、オムニ・トリオ、〈ムーヴィング・シャドー〉やファビオの〈クリエイティヴ・ソース〉等々......である。そういえば、昨年、スクリームが実に面白い作品をリリースしている。シャイFX主宰の〈デジタル・サウンドボーイ〉からの「バーニング・アップ」だ。これがまた......ただのアートコアよりのレイブ・ジャングルなのだ。初期〈ムーヴィング・シャドー〉をそのままをスケッチしたようなその姿勢に、彼の少年時代の記憶を聴こえるようだ。アートコアが築いた偉大な足跡は、今日に至ってもさまざまなところで受け継がれているのである。
今回の作品「U / It's Over」は〈ボカ〉からリリースとなった。フランスのボンDとハンガリーのDJマッドによる共作だが、彼らの思考がアートコアに直結しているのは、この作品をもって証明できる。ブリージーな心地よさとファジーで温かみのあるその全体像は、コズミックな宇宙観とも違い、ファンクネス溢れるジャジー・ソール思考とも違う......やはりこれは、アートコア=アトモスフェリックなのだ。
DJの視点からみて、このうえなく重宝する作品と言うのは多々ある。DJミックスによって素材の重なり具合によって作品の表情が180度変わったり、そこから予想だにしなかったグルーヴが生まれたりと......ロング・ミックス/ブレンドをこよなく愛す筆者の三台ミックス・スタイルにとって、小節単位でミックス部分を計算し、レコードをサンプルのように使うこの方法は、シンプルなサウンドほど変化させがいがあり、そこに"ハマる"貴重なものを見つける快感があるというわけだ。
シンプルとはいってもごくありふれたトラックなら山ほどある。が、ここに、そうしたミックスのコンセプトに合致したトラックが、パンゲア(Pangaea)とラマダンマンのふたりが共同運営するディープ・ガラージ系のダブステップ・レーベル〈へッスル・オーディオ〉から出た。「パンゲアEP」に続いてリリースされたディープ・テッキー・リーダー、ラマダンマンのEPがそれである。ちなみにラマダンマンと言えば、〈へッスル・オーディオ〉の他、〈アップル・パイプス〉、〈セカンド・ドロップ〉、〈ソウル・ジャズ〉などからダブステップをリリースしている20歳そこそこの若手プロデューサー。今回は、高まる期待のなかのリリースである。
さて、それで1曲目に収録された"I Beg You "「I Bet You」だが、パーカッシヴなビートにシンプルなベースが呼応し、サイドエフェクト的に絡むヴォーカル・サンプルがうまいアクセントになっている。テック×ガラージに対しての回答とも言うべきリズム・プロダクションだ。"No Swing"はタイトル通り、スイングしない。ドラムの乱打にエレクトロニカ調のエフェクト・ピアノ、ピョンピョン跳ねるゲーム音を混ぜて、実に混沌とした、スイングしそうもない音である。が、しかし、これがまた実に面白いように展開しているのだ。「ノースイング=リズミカルでなく調子が悪い」とは良く言ったもので、これはコミカル感覚なノースイング・ステップだ。
続く"A Couple More Years"も、ちょっとおかしなチープでバウンシー・ベースがメインラインのトラックだ。意外とミニマルにミックスすれば、新たなテイストが現れるかもしれない。最後の"Don't Change For Me"は彼のルーツを掘り下げているようだ。レイヴ・ジャングルのアーメン・ビーツをプログラミングしているあたり、彼の好みがうかがえる。ラマダンマンはテッキーではあるが、ミニマルなトップ・アーティストたち(スキューバ、マーティン、2562等々)とはまた一線を画したセンスがあるのだ。明らかに"並"ではないその変化に富んだプロダクションは、いまだ底が見えそうにない......。ヴィラロボス、フランソア・K、ジャイルス・ピーターソンらがラマダンマンのトラックをスピンするところに、彼のユニークな存在感が証明されている。
1 |
MOODYMANN
DEM YOUNG SCOONIES / THE THIRD TRACK
DECKS CLASSIX / GER / 2010/4/18
»COMMENT GET MUSIC
|
2 |
ERYKAH BADU
NEW AMERYKAH PART TWO : RETURN OF THE ANKH
UNIVERSAL MOTOWN / US / 2010/4/18
»COMMENT GET MUSIC
|
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
3 |
SHHHHH
STRICTLY ROCKERS RE:CHAPTER. 32
EL QUANGO / JPN / 2010/4/23
»COMMENT GET MUSIC
|
4 |
LIPARIS NERVOSA
TAKE THE FUNKY FEELING
ALL CITY RECORDINGS / US / 2010/4/18
»COMMENT GET MUSIC
|
||||
5 |
KOSS
OCEAN WEAVES
MULE ELECTRONIC / JPN / 2010/4/18
»COMMENT GET MUSIC
|
6 |
FLOATING POINTS
PEOPLES POTENTIAL
EGLO / UK / 2010/4/9
»COMMENT GET MUSIC
|
||||
7 |
BOOHGALOO ZOO
NO JOKE
LOVE MONK / SPA / 2010/4/11
»COMMENT GET MUSIC
|
8 |
|||||
9 |
10 |
ダンス・ミュージックを聴きはじめたばかりの友人に日々質問攻めにされている。たいていの場合、質問の内容は「この曲ってなんていうジャンルなの?」というものである。そんな友人に「これはダブステップっていうんだよ」だとか「これはミニマル・テクノね」などと教えているうちに、彼もだいぶ詳しくはなってきたのだが、いまだにハウスとテクノに関しては判別に困ることがあるらしい。友人曰く「生音だとか、ヴォーカルが乗ってたらわかるんだけど。テック・ハウスとかミニマルとか、いまいち違いがわからないものがある」とのことなのだ。僕自身、ジャンル分けにおける、ある種の縄張りのようなものにはあまり頓着しないほうなので、たいていの場合は、「あんまり気にすることないと思うよ。気持ちよく踊れればそれでいいじゃない」とお茶を濁してしまうのだが、本人が気になるというのならばしょうがない。本当は「とにかくいろいろ聴いて自分の好きなものを探せ!」と一喝すべきなのかもしれないが......。
そういえば、僕がクラブカルチャーに足を踏み入れた90年代の終わり頃には、そこまで悩むようなこともなかったように思える。記憶を遡ってみると、テクノとハウス、言ってみれば4つ打ちのエレクトロニック・ダンス・ミュージックの領域が双方向に侵食の度合いとその速度を増していくその契機になったのは、05年にリリースされたアーム(Ame)の「Rej」である。これがミニマル・テクノとディープ・ハウス両方の現場で熱狂的な支持を集めたことに端を発していたように思える。
このシングルは、そのアームが「Rej」を発表したレーベル〈インナーヴィジョンズ〉の看板アーティストたち、ヘンリック・シュワルツ、ディクソンとともに昨年おこなった〈a critical mass〉ツアーでのライヴ・テイクを収録したものだ。ライヴのコンセプトは「テクノ的アプローチによるフリー・ジャズ」だったそうだが、しかしこの演奏からフリー・ジャズの持つ力学――作法や理論による束縛から脱却しようとするエネルギーを感じることは難しい。むしろライヴ・テイクであるにも関わらず、そして4人で演奏しているにも関わらず、そこから発せられるサウンドはそのコンセプトとはまったく逆の印象さえ覚える。無駄をいっさい削ぎ落とした、ひたすらストイックに反復する強固なマシン・グルーヴである。
A面に収録されているのは、2003年にリリースされたヘンリック・シュワルツによるロイ・エアーズの"Chicago"のカヴァーのライヴ・エディットで、原曲に含まれていたヴォイス・サンプルなど多くのパートは消失し、ミニマル・チューンに再構築されている。ジワジワと厚みを増すアシッド・シンセとハイハットの微細なディケイの変化によってグルーヴは紡がれていく。
B面に収録されている"Berlin-Karlsruhe-Express"では、中期のアシュ・ラ・テンペルを彷彿させるかのようなシンセ音のレイヤーが幾重にも折り重る。なんともダイナミックなテック・ハウスである。
同期された3台のラップトップ・コンピュータと2台のキーボード、そしてドラムマシンによって演奏されるこれらのミニマルなサウンドは、強固なシステム的束縛の上に存在するように思える。が、しかし、だからこそプレイヤーの一瞬の閃きによるインプロビゼーションが、その束縛との対比によって拡大され、そして聴衆に大きなカタルシスを与える。この現象こそが彼らの目指した「ミニマル・テクノ以降のフリージャズ」なのかもしれない。また、友人への説明に苦労しそうだ......。
同期型ラップトップ・ライヴ・ユニットの次に紹介する1枚は、一転して"人力コズミック・ハウス/ディスコ"とでも言うべき作品である。
リーダーでベースの笹沼位吉、キーボードの松田浩二、ギターの塚本功、パーカッションの富村唯、そしてトランペットのKUNIという完全生バンド編成から成るスライマングースは、2002年に結成し、腕利きのライヴ・バンドとして地道な活動を続けている。ザ・スカタライツやロヴォらと競演するいっぽう、そのトラックは海外の人気DJによるミックスCD――レディオ・スレイヴの『Radio Slave Presents Creature Of The Night』やリトン & サージ・サンティアゴ(Riton & Serge Santiago)の『We Love...Ibiza』など――に収録されている。要するに、海外のダンスフロアからの支持も集めている稀有なバンドなのだ。
"Noite"は、昨年発表したメジャー・デビュー・アルバム『Mystic Daddy』に収録の、空間を捻じ曲げながら疾走するようなシンセ・リードと、レゲエ・マナーを基調とした粘りながら地を這うベースが印象的なトラックである。この度、ノルウェーにおけるコズミック・ディスコの鬼才、プリンス・トーマスによる13分にも渡る大作リミックスを収録してのシングル・リリースとなった。レーベルは、先日"13"時間に渡るロング・プレイで幕を閉じた〈青山LOOP〉の老舗パーティ〈DANCAHOLIC〉をオーガナイズしていたDJ CHIDAが主宰する期待のレーベル〈イーネ〉である。
プリンス・トーマスのリミックスは、オリジナルのグルーヴに敬意を払いつつも、ピアノとテープ・エコーによるフィードバック・ノイズをフィーチャーした2分を超える荘厳なイントロからはじまる。そしてじわじわとビルドアップさせながら、ミステリアスなヴォイス・サンプルを加え、あるいはYMOの"ファイヤークラッカー"を彷彿とさせるオリエンタルなフレーズ・サンプルを散りばめながら、まさにコズミックなディスコ・チューンとなっている。
自身のDJプレイにおいてもアナログにこだわるCHIDA氏のレーベルからのリリースだけに、ダイナミック・レンジはとても広く、クリアなサウンドの盤になっていることも特筆したい。
まず最初に断っておかなければならないのは、高校3年の夏休みにわざわざ地元の青森から上京し、宇田川町のレコード・ショップでアンダーグラウンド・レジスタンスのバックパックを購入し、現在に至るまでほぼ1日も欠かさず使用し続けているような僕が冷静で客観的な批評眼をもってURの音楽を語ることができるか、非常に怪しいということだ。もちろん、できる限りの努力は試みるが......。
アンダーグラウンド・レジスタンスの魅力を端的に語るならば、強いメッセージ性を持ちながら、それを決して言語だけではなく、トラックにおいてもときに攻撃的に、そしてときに力強くロマンチックなサウンドで饒舌に物語るマッド・マイクのスタイルにある。2007年の「 Footwars」以来のシングルは、マッド・マイクとデトロイトのベテランDJ、ジョン・コリンズとのプロデュース作品で、URクルーのDJ スカージ(DJ Skurge)がエディットで参加している。それはシンプルで力強いゴスペル・ハウスだ。おそらくマッド・マイクによるであろうレーベル面に記された――「本物ぶった偽者のサウンドに飽き飽きしているお前に本物がなにか教えてやろう。なに、簡単なことさ、ファンクがあればそれでいいんだ」――とういこの言葉の通り、これらのトラックは愚直なまでに骨太なファンクネスで満ち溢れている。
"All We Need"、"Yeah"、それぞれのタイトルは曲中に使用されているヴォイス・サンプルに由来している。そして、レコードから採取されたであろうそれぞれのサンプルは大きなニードル・ノイズを発する。それがよりいっそう荒々しくラフな雰囲気を醸し出している。サンプルを支えるトラックもざっくりとしたエディットが施され、手弾きと思われるシンセサイザーやギターのレイヤーで構成されている。ラップトップ・コンピュータ1台でいくらでも綿密なプログラミングや編集が可能な現在のやり方と逆行するかのようである。
このEPに一貫しているテーマは原点回帰だろう。ノイズが乗ったままのサンプル使いや、確信犯的にラフなエディットは、音楽制作の初期衝動を想起させるエッセンスとして抜群の効力を発揮している。風邪をひいたときにはファンクを爆音で聴くことで治すというほどに、ファンクに並々ならぬ思いを持っている男、マッド・マイクである。ファンクがあればそれでいいと言う気持ちに一片の嘘もないのだな! ......と関心してしまうのは、ちょっと感動屋がすぎるだろうか?
DOWNLOAD LINK→ https://maltinerecords.cs8.biz/69.html
プロディジーが初来日し、東京ドームでライヴをした1993年に産声をあげ、2008年に当時若干15歳ながら代々木公園で開かれていた初期ハードコア・テクノにフォーカスしたフリー・レイヴ〈MAD MAX〉にて、いまや飛ぶ鳥を落とす勢いのネット・レーベル、〈マルチネ・レコーズ〉代表のトマド(Tomad)に見出されるという、筋金入りのレイヴ・キッズにして日本のダンス・ミュージック・シーンにおける新星中の新星"まどめ"ことmadmaidのシングルを紹介しよう。
〈マルチネ・レコーズ〉からリリースされた彼のデビュー作「Who Killed Rave at Yoyogi Park EP」は、2ライヴ・クルーの『Fuck Martinez』が「ファック・マルチネ」に聞こえるこという空耳一点張りで展開する"Too Mad To Fuck"、往年のコカ・コーラのCMソングをサンプリングしながら牧歌的ベースライン・ハウスに仕上げた"Buy Me Cola"(ビールじゃなくて本当に良かった......!)など、思わず年齢を疑いたくほど巧みなプログラミングセンスで構築されたトラックが収録されている。そして、そこには素晴らしい悪ノリ、悪ふざけ、悪ガキ感溢れる荒唐無稽なサンプリングが散りばめられているというわけだ。自身でデザインしたというジャケットもどこまでも人を食ったできになっていて、僕が最早この上ないほどハマっていると言わざるを得ない。
驚いたことに、2ライヴ・クルーや、ユーロマスターズといった往年のIQひと桁チューンを無邪気にサンプリングして切れ味鋭いベースライン・ハウスに仕立て上げるこの早熟すぎる16歳のトラックは、早くも海を渡り、ニューヨークのビッグ・パーティ〈Trouble & Bass〉でもプレイするUK出身のプロデューサ、カンジ・キネティック(Kanji Kinetic)にプレイされ、反響を呼んでいる。しかし、そんなことよりも、我々が本当に驚くべきことであり、信じがたいことはIDチェックによって20歳以下のクラブへの入場が厳しく制限されている東京のクラブ・シーンにおいて、彼のプレイを合法的に楽しむにはあと3年もの年月が必要だということだ。我々がいますべきことは3年間コーラを冷やし続けることか、はたまた10代でも堂々と存分に遊べて、表現出来る場を作ることか......。答えは明確だろう。
アンダーグラウンド・レジスタンスを母体とするバンド・ユニット、ギャラクシー2ギャラクシーやロス・エルマノス(Los Hermanos)のメンバーでもあり、イーカン(Ican)名義でも活躍するS2ことサンティアゴ・サラザールがデトロイトのアーロン・カール(Aaron-Carl)の〈ウォールシェイカー〉レーベルからリリースした新作は、現在のUSアンダーグラウンド・クラブ・シーンに対するUR流儀での痛烈な問題提起である。イーカン名義のラテン・フレイヴァーなサウンドは影を潜め、感情を押し殺したようにダークなフェンダーローズの反復フレーズとフランジャーによって金属感を増したハイハットに添えられるのは「車を停めるのに20ドル、入場するのに25ドル、ドリンクを買うのに12ドルもかかる」というコマーシャリズムに傾倒したクラブ・シーンを批判するポエトリー・リーディングだ。サラザールはこう続ける「一体アンダーグラウンドに何が起こってるんだ?」
ポエトリー・リーディングが佳境にさしかかるにつれてトラックも熱を帯び、アンダーグラウンド・レジスタンスの名曲"インスピレーション"を彷彿とさせるようなソウルフルなシンセとドラマチックかつ浮遊感溢れるストリングスフレーズが挿入される。
ここで語られているような問題は決してアメリカのシーンだけの話ではないだろう。建前としてはアンダーグラウンドを名乗りながらも、ときに、当人も気づかぬうちに、ゆえにその実はハリウッド化されてしまっているような現場は少なくない。それだけならまだしも、結局のところはどっちつかずでエンターテイメントとしてのクオリティすらハリウッドの劣化コピーにしかなっていないようなパーティも少なくない。現実的な問題としては、パーティを作る上で商業的意図が介入することは避けることができないが、その上で常に自らを省みることの重要性を思い出させてくれる1枚と言えるだろう。
DJプレイ、とりわけひとりのDJが朝までプレイするようなロングセットは、レコードによって紡がれるその世界観をしばしば旅に例えられる。今回最後に紹介するのは、そういう意味では"旅情"を高めるのに最適な1枚だ。
ドイツのエレクトロニカ・レーベル〈カラオケ・カルク(Karaoke Kalk)〉は、どこか牧歌的で、どこかアコースティックな趣があるサウンドを多くリリースすることで知られている老舗レーベルである。その〈カラオケ・カルク〉を母体として、ミニマル・ハウスに特化したサブレーベル〈カルク・ペッツ〉の19作目はハンノ・リヒトマン(Hanno Leichtmann)によるプロジェクト、ザ・ヴルヴァ・ストリングス・カルテット(The Vulva String Quartet)ことVSQの作品である。本作は、昨今のミニマル/テック・ハウスにありがちな、エッジのたったパルスやノイズは形を潜め、ひたすら柔らかで催眠的な音響世界が展開されている。
A1に収録されているエフデミン(Efdemin)のリミックスはこの上なくシックで美しいミニマル・ハウスである。音程感を失うギリギリの瀬戸際に踏みとどまった、低周波のサイン波によって奏でられるベースラインと、虚空を漂うかのような2拍ループのシーケンスの向こう側には、極々小さな音量で高いピッチのランダム・シーケンスが配置されている。パーカッションの存在に気づいた頃に、今度はフィルタリングとダブ処理を施されたアコースティックピアノが現れる。意識の遷移を見透かされているかのように音の主題が移り変わっていくさまは、さながらディズニー映画の『ファンタジア』のようにサイケデリックだ。
B1に収録されているオリジナル・ヴァージョンは、硬めの音色によるイーブン・キックと変調されチョップされたアコースティック・ピアノと地底で蠢くようなサイン波ベース、そしてタイトルをリフレインするヴォイス・サンプルで構成されたダビーなミニマル・トラックだ。B2にはロングセットのクライマックスにプレイしたくなるドラマチックなテック・ハウス"This is Not the Last Song"が待っている。揺らめくシンセパッドのレイヤーは、ぼんやり明るくなったダンスフロアの照明を、2拍4拍のタイミングで入ってくる発信音は小鳥の囀りを連想させる。エッジを取り去って体への浸透圧を高めるかのようなミックスをほどこされたこのトラックは、一晩を踊り明かした夜の住人たちに朝を告げるにふさわしい音楽である。
1 |
2 |
||
---|---|---|---|
3 |
4 |
||
5 |
6 |
||
7 |
8 |
||
9 |
10 |
1 |
2 |
||||
---|---|---|---|---|---|
3 |
4 |
||||
5 |
6 |
||||
7 |
8 |
||||
9 |
10 |
DJ HARVEY pres.LOCUSSOLUS
GUNSHIP/LITTLE BOOTS
INTERNATIONAL FEEL(EU) / 2010年3月1日
»COMMENT GET MUSIC
|