トロント出身の3人組のバンド、バッドバッドノットグッド(以下BBNG)の、5年ぶりとなるニューアルバム『Talk Memory』がリリースされた。
BBNGは、トロントの有名大学、ハンバーカレッジのジャズ・プログラムで出会った、アレックス・ソウィンスキー(ドラム)、チェスター・ハンセン(ベース)、リーランド・ウィッティ(サックス、ギター)から成るバンドで、数多くのアーティストとのコラボレーション活動で知られている。2010年結成以後、ヒップホップを中心とした楽曲のインストゥルメンタル・カヴァーが注目され、その後自身の作品リリースと並行して、ゴーストフェイス・キラーと共作アルバムを発表し、ケンドリック・ラマーをはじめとする人気アーティストの楽曲プロデュースを手がけるなど、彼らはつねにバンドの外の世界と混じりあいながら活動を進めてきた。MFドゥーム、ダニー・ブラウン、サンダーキャット、フランク・オーシャンからスヌープ・ドッグ、ブーツィー・コリンズまで、彼らの共演者は枚挙に暇がない。
2014年、彼らが初めてレーベルと契約したアルバム『III』のリリース時、大阪にある小規模ライヴハウス、CONPASSで彼らのライヴを見た。当時、彼らを形容する新世代ジャズという言葉が指す音楽は、いまほど振り幅が広くなく、ヒップホップのビートを強調する生演奏といったイメージがあったが、実際見たライヴはむしろロック・バンドの印象に近かった。レイドバックするグルーヴよりも、前に前に繰り出す音の波動が、衝動的なエネルギーと同時に発散されていて、演奏する彼らもオーディエンスも同じようなフィーリングを交換し合っていた。終演後もバンド・メンバーは観客と写真を撮り合い、自分たちの写真をコラージュした手作り感満載のステッカーを手渡しで配っていた。
数年が経ってリリースされた2016年のアルバム『IV』には、作り込まれた緻密な作風があり、ライヴのカジュアルな印象との違いに驚いたが、その後の大規模な世界ツアーの反響を見ると、彼らの演奏は大きな会場になっても以前のライヴと変わらないテンションを持っていることがわかった。そして、なぜここまで多くのアーティストが彼らとコラボレーションしてきたのか合点がいった。
インタヴューでも答えてくれているが、ツアー中にウッドブロックを紛失してしまったことがあり、空になったウィスキーの瓶を用いた、「ジムビームのパーカッション」の演奏が盛り上がりメディアでも取り上げられていた。その曲はケイトラナダと作った “Lavender” だったのだが、この曲を聴いた筆者の子供たちが、手元にあった割り箸をとっさに掴み、思い思いにリズムを取りはじめたのには驚いた。この様子に、瓶を叩く彼らの姿が重なり同じ音楽を共有するというリアルな感覚を覚えたからだ。なるほど、彼らの音楽には、共に音を出したくなる魅力があるのだろう。今年 TikTok で大ヒットした “Time Move Slow” のリメイク動画も、同じような衝動から生まれたに違いない。BBNGの音楽がここまで広がりを見せるのは、音楽への衝動を引き出す力が、彼らの活動の中に備わっているからなのだと思う。
さて、今回のニュー・リリースは、どんなメンバーがコラボレーションに加わっているのだろう。過去と現在を繋ぎ新たな文脈で自己を表現する、地域も時代性も異なるアーティストが集結している。ブラジルの伝説的なアレンジャー/プロデューサーのアルトゥール・ヴェロカイ、マンチェスター出身で現代のUKシーンを代表するプロデューサー、フローティング・ポインツ、アンビエント/ニューエイジの巨匠、ララージ、デトロイトのジャズとクラブ・ミュージックを体現するドラマー、カリーム・リギンス、そのデトロイトでハープをジャズに取り入れた先駆者、ドロシー・アシュビーを継承するブランディー・ヤンガー、Pファンクの真髄を知るLAのプロデューサー/サックス奏者、テラス・マーティン。さらに、UKからジョー・アモン・ジョーンズ、日本では Ovall といった世界中のミュージシャンが先行シングルをカヴァーし、このリリースは大きなプロジェクトへと発展しはじめている。
今回のインタヴューは、サックスやギターなど複数の楽器を操るマルチプレイヤー、リーランド・ウィッティが担当してくれた。非常に温和な対応が印象的だった。
メロディに関しては、歌えるようなメロディを作ろうと心がけているよ。歌えるようなら愛着も湧くし、記憶に残りやすいと思うから。その代わりテクスチャやサウンドをユニークなものにしたり、ハーモニーを少し複雑なものにしたりする。
■少し前の話からはじめたいのですが、前作の『IV』の成功で世界を飛び回ってツアーをしてきたと思います。その中で印象的な経験を教えてください。
リーランド・ウィッティ(Leland Whitty、以下LW):そうだね、僕たちは確かにツアーで世界各地を回ることができた。その思い出はひとつひとつが特別なものだけど、特に印象に残っているのは、ホームのトロントにある Massey Hall という会場でやったギグ。レッドブルが主催のイベントで、たくさんの友人を誘って彼らと一緒に演奏することができて、弦楽部門も入れることができた。トロントを象徴する、とても美しい会場なんだ。僕たちは今までに Massey Hall で数多くの公演を見てきたから、自分たちがそこでギグをやるということは僕たち全員にとって特別なことだった。もうひとつ印象に残っているのは、サンパウロでアルトゥール・ヴェロカイの前座を務めたとき。彼のセットはオーケストラが入っていて、その最後の4曲で僕たちもジョインして、僕たちがいままでずっと大好きな曲として聴いてきた、アルトゥール・ヴェロカイの曲を、彼のオーケストラと一緒に演奏した。感激するほど素敵な体験だったよ。あの機会があったから、アルトゥール・ヴェロカイとの関係性を確立できたと思う。
■この数多くの経験が『Talk Memory』にフィードバックされていると思いますが、曲作りからレコーディングまでのプロセスを教えてください。
LW:様々な場所でライヴをしてきたという経験は、今回のアルバムの大きなインスピレーションになっている。僕たちは、とても長い間、アルバム『IV』のツアーをしていたから、その期間に、アルバムの曲を進化させて、形を変化させていったり、即興演奏を長く取るようにしていった。そうしたことで、曲がさらに自由になっていったという実感があったから、それを今回のアルバムの音楽に反映させたかった。今回のアルバムの考え方としては、全てが前もって作曲され、練習されているということだった。レコーディングの2ヶ月前に曲が完成されていたものが多かったと思う。だから曲は、とても新鮮なもので、かつ、丹念に練習されていたから、レコーディングのプロセスはとても手短に、シームレスにおこなうことができた。自分たちがどういう演奏をして、何を成し遂げたいのかということが既に明確になっていて、自信もついていたからね。だからレコーディングのときは、ライヴでおこなう即興演奏のような感じはあまりなかったんだ。
■でも今回のアルバムには即興された部分も収録されていますよね?
LW:その通り。全ての曲は、それぞれメロディ、ハーモニー、形の構成が全てでき上がっているんだけど、そこに大抵、ひとりかふたり分のソロを入れられる余白が残してあるから、そこで即興ができるようになっているんだ。元々の構成をしっかり作って、それに自信を感じられるようになっていたからこそ、即興をするというときに、より自由に演奏することができたと思う。
■ツアーのインスピレーションと言えば、新録に収録されている “Open Channels” ではウッドブロックのリズムが印象的でしたが、もしかすると、ツアーでお馴染みになったジムビームのボトルパーカッションを使っていまか?(笑)
LW:ハハハ! アルバムでもそうすれば良かったね! 実際に使ったのは本物のウッドブロックだよ(笑)。“Lavender” という曲をライヴで演奏したときに、曲にはサックスのパートがないから、僕はパーカッションをやったんだけど、パーカッションが行方不明になっちゃったから、ジムビームのボトルをシンバルのスタンドにくっつけて、それを使ったんだ。
■盛り上がっていましたよね。BBNGの曲を聴いていると、耳に残るメロディがあって、70年代のレコードと重なるようなときがありますが、過去のそれとは異なる何かが混じって新鮮な響きなり、それがBBNGの個性になっている気がします。曲作りではどんなことを意識していますか?
LW:感情に訴えかけるような音楽を作ろうという意識はある。メロディに関しては、僕たちそれぞれのアプローチがあると思うけれど、僕個人としては、歌えるようなメロディを作ろうと心がけているよ。メロディに関しては、知性に訴えるものである必要はないと思っていて、歌えるようなら愛着も湧くし、記憶に残りやすいと思うから、僕個人はそういう面を大切にしている。その代わりテクスチャやサウンドをユニークなものにしたり、ハーモニーを少し複雑なものにしたりする。それが君の言っていることかもしれないね。メロディを、より現代的で個性的なものへと昇華させる。それにしても、僕たちの音楽が古くて馴染みのある感じに聴こえるというのは嬉しいことだね(笑)
[[SplitPage]]僕たちはアルトゥール・ヴェロカイの大ファンだから、一切のディレクションをしなかったんだ(笑)。そしたら彼はアレンジの音楽を作曲して、スタジオを予約して、ミュージシャンを雇って、録音した音楽を僕たちに送ってくれた。それを聴いた僕たちは一瞬で圧倒されたよ。
■新作について、話を移しますが、今作はBBNGの初期の作品の影響となったアーティストのオマージュとのことですが、まずその点についてお聞きしたいです。
LW:僕たちがアルトゥール・ヴェロカイを知ったのは、MFドゥームが彼をサンプリングしていたのがきっかけだった。だからこのふたつのコネクションは非常に強い影響だと思う。特にBBNGの初期の影響はジャズとヒップホップだからね。ジャズをサンプリングしたという影響も大きかったし、サンプリングという技術のおかげで、僕たちは、ブラジル音楽や、その他のジャンル──MFドゥームを発見していなかったから聴いていなかったかもしれないジャンル──の音楽という世界への扉が開けた。だからアルトゥール・ヴェロカイとMFドゥームからは強い影響を受けている。今作に関して言えば、僕個人としてはブラック・サバスやマハヴィシュヌ・オーケストラ、マイルス・デイヴィス、フローティング・ポインツなどもたくさん聴いていたよ。
■他にもたくさんの共演者がいますが、過去の音楽を継承しながら自分の色を作っている現在のアーティストや、現在の音楽シーンで新たなイメージで活躍しているベテランがいて、地域も世代も幅広い人選になっていますね。
LW:人選についてはその通りだと思うね。実際に会ってレコーディングしたのは、テラス・マーティンとカリーム・リギンスのふたりだけで、それは僕たちがロサンゼルスでこのアルバムをレコーディングしていて、彼らがロサンゼルスにいるアーティストたちだったという理由から。元々彼らとはツアーをしているときに知り合って、交友がはじまった。もちろんそのずっと前から彼らのことは知っていたけど、彼らのライヴを実際に聴いてから、より刺激を受けた。だからこのふたりと一緒にレコーディングできたのはラッキーなことだった。その後に、アルバムのメイントラックを全て撮り終えたんだけど、パンデミックが発生してしまったから、残りのゲストたちとのやりとりは全てEメールだったんだ。まあそれもあって、国や地域性を特に意識せずに、誰とコラボレーションしたいかということを自由に考えることができた。でもやっぱり、ゲストたちと仕事をするときは、同じ空間で一緒に音楽をやる方が断然いいよ。今回はララージやブランディー・ヤンガー、そしてアルトゥール・ヴェロカイに自分たちの音楽を送ってという形になったけれど、彼らとコラボレーションできたのは素晴らしい体験だった。
■ゲストとはそれぞれどんなやり方でレコーディングをしたのでしょうか? コンセプトやイメージを共有するために取った方法を教えてください。
LW:最初に(リモートで)コラボレーションしたのはアルトゥール・ヴェロカイだった。僕たちは当初からストリングスのアレンジを音楽に加えたいと思っていて、自分たちでアレンジをしようかと考えていたんだけど、誰かがアルトゥール・ヴェロカイに頼んでみようと提案したんだ。アルトゥール・ヴェロカイは非常に多作な人で、いまでも数多くのアーティストたちのプロジェクトを手掛けているにもかかわらず、僕たちのプロジェクトに関わることに対しても快諾してくれた。僕たちはアルトゥール・ヴェロカイの大ファンだから、彼に対して「あなたが手がけるものなら何でも、僕たちの音楽にぴったりとはまると思います」と言って一切のディレクションをしなかったんだ(笑)。そしたら彼はアレンジの音楽を作曲して、スタジオを予約して、ミュージシャンを雇って、録音した音楽を僕たちに送ってくれた。それを聴いた僕たちは一瞬で圧倒されたよ。
その次に依頼したのはララージだったかな。僕たちはララージの音楽もずっと聴いてきていて、今回の “Unfolding” という曲に彼の美しいテクスチャを全体的に加えたら、素敵なアンビエントな曲になって、とても合うと思った。彼とはZoomで連絡を取り合っただけで、実際にはまだ会ったことがないんだ。ララージは自宅にスタジオのセットアップができていたから、そこで録音してもらった。
ブランディー・ヤンガーも、彼女の自宅でレコーディングしてもらったんだけど、彼女は僕たちにいわゆる「贅沢な悩み」を与えてくれた。彼女は “Talk Meaning” の演奏を3テイク分、送ってくれたんだけど、3つともすごく素晴らしくて、ひとつずつが個性的なものだったから、選ぶのがすごく難しかったんだ。しかもそれが、アルバムを完成させてミックスへ送る直前の、パズルの最後のピースだったんだ。
■アルトゥール・ヴェロカイに関しては何の指示もしなかったということですが、他のゲストたちとはコンセプトやイメージを共有したのでしょうか? それとも音楽をゲストに送るだけで後はゲストに任せるという感じでしょうか?
LW:ほとんどの場合、ゆるい感じの指示しかしない。例えば、ララージのときは、彼特有のドローンな感じを曲全体に纏わせてくれたらいいと思って、そういう漠然とした感じを伝えた。僕たちの指示がなくても、ララージは自分で選択した道を歩んで、最終的にあの仕上げ方をしていたと思うけれどね。ブランディーの演奏に関しては、ジャズで言う「コンピング」という、メロディーに合わせて伴奏する形式に近かった。ハープはとても美しい響きを持つ楽器だし、彼女の演奏も素晴らしいから、僕たちの漠然とした指示だけでも良いコラボレーションになった。“Unfolding” と “Talk Meaning” はどちらもオープンな曲というか、余白が十分に残された曲だったから、ララージもブランディーも自分たちが望むような演奏ができたと思う。
アーティストのたまごのような人たちにとって、他の人たちとアイデアを共有したり話し合ったりすることのできるコミュニティがあるということは、お互いの成長を助けるという意味でとても大切だと思う。
■前作は自分たちのスタジオでのレコーディングで、今回はLAのヴァレンタイン・スタジオでの録音ですが、どんな違いがありましたか?
LW:前作『IV』は自分たちのスタジオでレコーディングしたから時間的な余裕があった。前作も今作もテープに録音されたものなんだけど、テープ録音をするときは、ある特定の姿勢でその録音方法に取り組まないといけないんだ。だけど、前作は時間的な余裕があったから、細かいことを気にして直したり、セッティングを変えたり、完璧なシンセのトーンを見つけようとしたりして、時間を贅沢に使っていた。僕はオーバーダブを何度もやって、自分のパートや演奏に対して過剰に批判的になって、完璧なものが撮れるまで録音を延々とおこなっていた。でも、LAのヴァレンタイン・スタジオでレコーディングしたときは、状況は全く違うものだった。主な理由としては、スタジオ・エンジニアのニックがものすごく早いペースで仕事をする人で、僕たちがどんな提案や難題を彼に投げても、つねにレコーディングする準備ができているというタイプの人だったからなんだ。だからニックはバンドのもうひとりのメンバーみたいな感じだったよ。さっきも話したように、今回のアルバムでは、曲を事前にしっかりと練習していたから、自分たちがやりたいことが明確になっていた。だから今回のレコーディングの方が、前回よりもずっと少ないテイク数で終了した。通常なら、僕たち全員が満足するものが撮れるまで何度もレコーディングするんだけど、今回は全ての曲が4テイク以下で済んだ。
■前回のように、レコーディング機材のセッティングは頻繁に変えて工夫しながら録ったのですか?
LW:セッティングは少し変えたけれど、全ては僕たちがアクセスしやすいようにセッティングされていた。機材に関しては、ヴァレンタインは60年代に作られたスタジオだから、そこにあった機材の多くは、僕たちが最も好きな60年代という時代からのものなんだ。そういう機材に囲まれてレコーディングできたのもアルバムに影響を与えたと思うよ。保存状態が完璧なヴィンテージのマイクや、美しいミキシング・コンソールや外付け型のプレアンプやイコライザーなどは、アルバムのプロダクションに大きな影響を与えたと思う。楽器に関しては、僕たちはトロントからLAに行ったから、必要最低限のものしか持っていかなかった。僕はサックスとフルートを持っていき、チェスターはベースを持っていき、アレックスはシンバルを持っていったけれど、それ以外のものは全てスタジオに完備してあった。ギターやアンプなど素晴らしいコレクションが備わっていたよ。僕がいままでに触ったピアノや聴いたピアノの中で最も美しい音を出すスタインウェイのグランド・ピアノもあったし、フェンダーローズもあった。そういう素晴らしい楽器がたくさんあったから、実際に自分たちでそういう楽器を弾いてみると、とても良い刺激になった。
いまの時代は技術革新が進んでいるから、スマートフォンやノートパソコンを使える人なら誰でも、良い作品を作ることが可能だと思う。でも僕は音楽というものは、それ以上に、コラボレーションが基盤となっている活動だと思っている。様々な人たちと様々な環境で一緒に仕事をしていくという技術を身につけることは非常に重要なことだと思うから、それが将来、不要なものとしてなくならないことを願うよ。
■全体の音質作りに関して参考にした作品はありますか?
LW:今回のアルバムのプロダクションや音質作りに関しては、ディアンジェロを参考にした部分があった。だからアルバムをディアンジェロのアルバム『Voodoo』を手掛けたラッセルに仕上げてもらったことはとても重要な意味合いがあった。それから、ブラック・サバスやマハヴィシュヌ・オーケストラ、ジミ・ヘンドリクスといったもう少しヘヴィーな音楽も参考にしたし、ルディ・ヴァン・ゲルダーが手掛けた昔のジャズ、例えばコルトレーンやウェイン・ショーターなどによる素晴らしい音響のレコードも参考にした。プロダクションやアレンジメントやテクスチャや即興に関しては、アルトゥール・ヴェロカイのレコードを今回も参考にしているよ。
■ラッセル・エレヴァードはこの新作にどのように関わっていますか?
LW:彼は素晴らしい音楽をたくさん手掛けてきたレジェンドだ。そんな人と一緒に仕事ができたということ自体が光栄で素晴らしい経験だった。彼とスタジオに入って、彼の作業を実際に見ることができたら最高だったんだけど、パンデミックの影響で残念ながら、彼と実際に会って仕事をすることはできなかった。アルトゥール・ヴェロカイとララージとブランディー・ヤンガーがオーバーダブをしたパートはデジタルでレコーディングされたんだけど、それ以外の僕たちのパートは全てアナログでレコーディングされたものだった。それをラッセルに送ることによって、ラッセルはそのプロセスを引き継いでくれた。彼はミキシングのときはプラグインを一切使わないし、素晴らしいアナログ処理の機材を所有している。彼は僕たちの素材を全て上手にまとめ合わせてくれて、温かみのある層を加えてくれた。それにミキシング・エンジニアとしての絶妙さというのにも長けていて、アルバム全体にかけて、テクスチャやトーンのニュアンスを絶妙に調節してくれた。曲を書いて演奏した僕たちでさえあまり気づかない箇所も彼は微妙な処理をしてくれて、音楽全体を素晴らしいものに仕上げてくれた。
■ところで、新作から逸れますが、初期の活動場は、アレックスのお父さんが持っていて提供してくれた地下室だったり、チェスターのお父さんがあなたたちの好きなヤマハ・シンセサイザーの CS-60 を探し回って見つけてくれたりと、ファミリーの応援が垣間見られるエピソードを記事で読みました。家族やコミュニティとの関わりもBBNGの活動の重要な点だと感じますが、あなたたちが家族やコミュニティとどのように関わり合ってきたのか教えてください。
LW:そうだね、家族は僕たちにとってものすごく重要な存在だ。アレックスの父親のビルは、昔からバンドのいちばんの支援者だった。ビルはいつも僕たちのことをライヴ会場まで車で連れていってくれたんだ。ライヴのときは、機材を車に積んだり、降ろしたり、会場内へ運んだりしないといけないから、彼のサポートは本当に心強かったよ。最近はパンデミックの影響であまりバンドの家族と会うことができなくなってしまったけれどね。僕の両親はカナダにいるんだけれど、かなり遠く離れているから、ここ2年くらい会っていないんだ。でも今度トロントにまた引っ越してくるからもうすぐ会える。僕の両親も僕の音楽活動をずっとサポートしてくれているよ。コミュニティに関しては、アーティストのたまごのような人たちにとって、他の人たちとアイデアを共有したり話し合ったりすることのできるコミュニティがあるということは、お互いの成長を助けるという意味でとても大切だと思う。ただそれも最近のパンデミックのせいで、ライヴが開催されなくなってしまったから、友人に会う機会も減ってしまったし、友人のアーティスト活動をサポートするのも難しくなってしまった。でも、通常の状況においては、そういうコミュニティ内でサポートをし合って、成長していくということが僕にとってはとても大切なことだったね。
■最後に、これからの音楽シーンに関して思うことを教えてください。
LW:いまの時代は技術革新が進んでいるから、スマートフォンやノートパソコンを使える人なら誰でも、良い作品を作ることが可能だと思う。それはすごいことだと思うし、多くの人にそのアクセスがあるということは良いことだと思う。でも僕は音楽というものは、それ以上に、コラボレーションが基盤となっている活動だと思っている。様々な人たちと様々な環境で一緒に仕事をしていくという技術を身につけることは非常に重要なことだと思うから、それが将来、不要なものとしてなくならないことを願うよ。人と一緒に音楽をやることの良い点というのは、コミュニティが育まれ、広がっていくということ。そのコミュニティが、個人やアーティストとして成長できる場になるし、活躍する機会も増えて行くと思う。お互いの成長や発展をサポートし合っているコミュニティに多く広く所属している方が、成功する機会も増えていくと思うんだ。音楽業界で成功するのは難しいことだと思うけど、人と関わっていく技術や、コミュニティを大切にするということは成功する上でとても役に立つと思うよ。