「You me」と一致するもの

 ぼくがロマンの語り手になり切れない部分は、つまりロマンがしばしば語り手の自己肯定を前提にして、ナルシズムに陥りやすいからで、対立物を内包するとくずれてしまう性格をもっているからだ、という気がする
寺山修司(唐十郎との対談『劇的空間を語る』76年3月)

 これは丑三つ時に見た奇天烈な夢の話
 夢の中で夢が夢であると自覚したばかりに
 私は私と分裂した悲しき性に
 汝の半身を探し闇の中
志人"ジレンマの角~Horns of a Dilemma~"


 現在の志人の凄みとは、00年代初頭にヒップホップ・グループ降神のラッパーとして日本語ラップ・シーンに鮮烈に登場してから約10年間、悩み、懊悩し、思想や価値観やラップのスタイルを劇的に変化させながらも決して歩みを止めなかったからこそ獲得できた代物だと思う。


志人 / ジレンマの角 EP ―Horns of a Dilemma EP―
Temple Ats

 今回、志人のシングルはアナログでリリースされている。もしかしたら、「お、久々のリリースじゃん」と思う人もいるかもしれないが、実は昨年も、家族を主題にした「円都家族~¥en Town Family~」というシングルをポストカード・レコードという特殊なレコードでリリースしている。さらに、今回のアナログにも収録された、志人が志虫という名でいくつもの虫に成り代わり物語を紡ぐ(宮沢賢治の『よだかの星』を彷彿とさせる)"今此処 ~Here Now~"とDJ DOLBEEのインストを加えた増補盤を懐かしの8cmCDという形態で発表してもいる。
 それらは、失われていくメディアに焦点を当てるという企画の一環で、ダウンロード配信など、急激に変化する昨今のメディア環境に対する彼らなりのレスポンスなのだろう。志人らが主宰するインディペンデント・レーベル〈Temple ATS〉のアートワークの要である画家の戸田真樹の絵も含め、手作りの「モノ」を残すことへの強いこだわりが感じられる。
 "今此処"のクレイアニメーションのMVなどが収められた『明晰夢シリーズvol.1』やポエトリー・リーディングのイヴェントに飛び込みで参加する志人の姿を撮影した『森の心』といったDVDもひっそりと世に出回っている。また、「ジレンマの角 EP」に収められた"夢境"のクレイアニメのMVは秋に、NHKで放映される予定だという。ヒップホップ・シーンから遠く離れた場所で、彼らは変わらず自分たちの活動を続けてきたのだ。
 そして、"ジレンマの角"をリード曲とするアナログも〈Temple ATS〉のHPで購入すると、特典としてCDとポストカードが付いてくるという仕組みになっている。ラップ入りの曲が3曲、インストが2曲収められているが、すべてのトラックを担当したのはDJ DOLBEEで、音楽的に言えば、エレクトロニカ、アンビエント、ヒップホップとなるだろうか。とはいえ、何をおいてもやはり特筆すべきは志人のラップの圧倒的なオリジナリティである。

 "ジレンマの角"は、志人が、無実の思想犯、警察官、裁判官、医者、看守、死刑執行人、囚人、ガーゴイルなどに扮し、国家権力に囚われ死刑を宣告された主人公と思しき、野蛮思想に侵されたとされる無実の思想犯を中心に展開するストーリーテリング・ラップで、まるでATG映画のような重苦しいムードに満ちている。意図的に劣化させたノイジーな音質はまさにATG映画のざらついた映像のようで、その世界観は大島渚が死刑制度をテーマに撮った映画『絞死刑』を連想させる。危険な香りを漂わせながら、鬼気迫るラップを披露する、一聴して率直に「ヤバイ!」と思わせる志人は久々だ。
 このアナーキーな感覚は、2005年にリリースされたアナログでしか聴くことのできない"アヤワスカ"以来だろう。ちなみに僕は、三島由紀夫、チェ・ゲバラ、ジミヘン、ジャニス・ジョプリン、サン・ラ、バスキアといった過去の文学者や革命家やミュージシャンらの名前をリリックに盛り込み、路上の怒りが渦を巻きながら天空に舞い昇り優しさに変わっていく、麻薬的な快楽の潜むこの曲が、志人の作品のなかでも1位、2位を争うぐらいに好きだ。

 リーマン フリーター ディーラー 
 ブリーダー Dremaer ハスラー やくざ 
 Jasrac シャーマン ターザン 
 ターバン巻くサーバント 
 We are Music Mafia have No Fear 
 FREEDOMを作り出し 救い出すビーナス 
 Winner Loser Who is the Luler(ママ) in this earth?
 I ask You やさしく言う まさしく 君だ
"アヤワスカ"

 ◆無実の思想犯
 そうだ あのとき私は確かにアナーキーな連中とばかりつるみ
 社会からは脱藩人よばわり 盛り場の話題はいつも中身無き冗談か
 国家権力から逃れる方を夜長に語りあかした
 空が白むまで 朝もやが稲妻で 引き裂かれて行くのをただ睨むだけ
 気が付けばそこにはもう誰もいなくなって
 周りには口を尖らした どたま来たお巡りが

 ◆警察官A......「野蛮思想に冒された犯罪人よ じたんだ踏もうが時間だ
 お前にもう夢を見る権利は無い」

 逃げなきゃ 後ろ手に回される 絞め縄
 二メーターはある権力者達に上から押さえつけられ
 あっという間に 前後塞がり 暗がりに砂を噛み
 不渡りつまはじきものの姿に
"ジレンマの角"

 "アヤワスカ"にも近い部分はあるが、"ジレンマの角"は明確に戯曲という形式が採られている。が、しかし、この曲は紛れもなくラップ・ミュージックとして成立している。この2曲に関して言うと、苛烈さという点において、ソウル・ウィリアムズやマイク・ラッドなんかと同じ匂いを嗅ぎ取ることができる。
 いずれにせよ、日本でこんな芸当をやってのけるラッパーを志人以外に僕は知らない。詩人が朗読しているかと思えば、役者のセリフ回しのような語りに切り替え、一瞬ラガ調の声音でかましてみせたりもする。志人のとどまることを知らない自己内対話のエナジー放出するために必然的に発明されたスタイルなのだろう。

 「私」への深い疑念からくるラップへの苛烈な欲求、言い換えれば、近代的自我の解体への欲望と言えるかもしれない。近代的自我に亀裂を入れて、その危うさや不確定さを炙り出そうとするのは、志人の表現の底流にあるもので、我を忘れるほどの限界状態から真実を手繰り寄せるために志人はラップの技術を鍛え、進化させ、ときに驚異的な速度に身を任せているように思える。
 まるで千手観音の手が、五感に物凄い勢いで襲いかかってくるような変幻自在のラップには、聴く者の視覚や聴覚などの感覚を統一させる力を感じる。それはいわば明確なトリップ体験であり、個々の枝分かれした感覚のその奥にある根源的な感覚に触れてしまうような、共感覚の稲妻に打たれる経験である。志人のラップのスピードは共感覚へ到達するための、未来を生み出す生命力に溢れた速度である。
 ことばは生きものである、ということを志人は全身を楽器にすることで体現し、また彼のラップを聴く者はそのことを全身で痛いほど感じることになる。志人は日本語のラップ表現を意味と音声と物語の構成といったいくつかの点において、明らかに次元が違うところまで持って行ってしまった。韻を踏むことでイメージを膨らませ、物語を予期せぬ方向へ転がし、ことばとことばの連なりがまた新たなイメージを喚起させる。

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 「とりたて何の理由も無いですが、鳥だって色んな色を持っているはずなのに
 どうして僕はこんなに真っ黒で小汚ねー色をしているんでしょう?」と問いかける
 「お日様の様にどうしたら成れるの あの真っ赤っかな色に成りたかったんだ
 時たま邪な気持ちを残したお星様に聞いてもさっぱり分からなんだ
 名前も知らないカラスが一匹飛んで来たとき
 浜辺の白波 黒く汚れたこの身を洗い
 何万年後も流れ星追い 嫌がってもやがて年老いる僕らは
 今までのままこれからのカラーを探して どんくらい根比べ重ねてどんぶら大海原
 日溜まりの中で暗闇を焼き払い給え 名前の無い僕は
 猛スピードでモスグリーンに曇った街を行くモスキート
 もう救い様の無い都市はホスピタル 夜の持つ魅了に取り憑かれたヒーローは
 次の朝、ポルノスターになりました
 アスリートの吹かすウィード
 唐墨色に染まる空のオリオン座に恋をした少女は
 君の心なら全てお見通しさ ってな具合にカラカラとただ笑うんだ
"私小説家と黒カラス"(『Heaven's恋文』)

 「ことばの偶発的な干渉=共鳴の自由を許す」(今福龍太)とでも言えようか。ことばとことばの隙間に壮大な冒険への扉を無数に用意し、そして、どの扉を開けるかは、そのラップを聴く人間次第なのである。志人は日本語ラップ界のダダイストであり、モダン・ビートニクの詩人である。そんな形容さえ、僕はまったく大袈裟に思わない。
 2002年に降神がCDRによるデビュー・アルバム『降神』を発表した後、志人のフォロワーが大量に現れたが、「THA BLUE HERB以降」や「SHING02以降」という日本語ラップの歴史認識が仮に成立するのであれば、間違いなく「志人(降神)以降」というのも成立することになる。まあ、誤解されないように一応書いておくが、それは商業的成功という意味ではなく、あくまでも芸術的観点から考えた場合である。


photo by 新井雅敏

 ところで、『降神』の2曲目を飾る、ファンのあいだではクラシックの呼び声も高い"時計の針"の最後で、「血染めの鉢巻き絞めて印税もらって勝ち負け気にして死んでろ 特に お前と彼等」と、商業主義に走るBボーイたちを唾を吐きながらディスしていたことを思えば、ある時期から志人は随分優しくなった。いまは口が裂けても「死んでろ」と言い切ることはないだろうし、「hate=憎しみ」の感情をあからさまに表に出すこともなくなった。
 何が原因でそうなったかは知らない。年齢のせいもあるだろう。デビュー当時の降神には感じられなかった友愛をいつからか率直に表現するようになった。初期の攻撃性や狂気を愛したリスナーは戸惑ったに違いない。だから、もちろん降神や志人をずっと追い続けているファンはいるだろうが、一方で、彼らのリスナー層は変わっていっているように思える。
 実際のところ、僕もある時期、志人のラップとことばを素直に受け入れることができなかった。何年か前、湘南の江ノ島の海の家だったと思うが、志人のライヴをオレンジ色の夕陽が深い闇に沈まんとする美しいロケーションのなかで観たことがある。具体的には思い出せないが、志人が放った自然回帰やエコロジーや友愛のことばは、僕にはあまりに無垢なことばに聴こえ、愕然としたことがある。正直、最後まで観ていられなかった。

 「それは、お前が偏屈で心が汚れているんだよ」、ということであればむしろ話は早いが、しかし、似たような感想を持つ人間は少なくないということだ。いや、これは本当にきわどく、危うい現代的な問題なのである。
 僕は志人というラッパーが、宇宙の真理や自然の偉大さを考えもなしに漠然とペラペラと喋るスピリチュアリズムかぶれの軽薄な人間などではないことをよく知っている。豊かな知性と感情と表現力を持つラッパーであることを知っている。裏を返せば、そんな志人であっても、いまの時代に自然回帰やエコロジーという切り口から平和を訴えることは、共感と同じぐらいの拒絶を引き出してしまう困難さがあるのだ。それぐらい自然回帰やエコロジーというのは、一筋縄ではいかないものだ。
 その意味で、「野は枯れ 山枯れ 海は涸れ すきま風が吹き 国は荒れ果てた 放火魔に 連続殺人 原子力発電所 核戦争 終わらせよう 今日からでも 君は地球さ 地球は君なのだとしたら」というリリックから穏やかに滑り出すアンビエント的な"夢境~Mukyo~"の平和主義は、果たしてリスナーにどう受け止められるだろうか。
 ともあれ、"ジレンマの角"、"今此処"、"夢境"といったまったく異なる表情の曲を1枚のアナログに収めたことには意味があるだろう。それが志人の懐の深さでもある。これは取って付けたフォローではなく、真実だ。

 そしてまた、志人の豊穣さの底を支えるものにはノスタルジアがある。それは単に幼年時代や少年時代や過去を懐かしみ感傷に浸るということではなく、人間の奥深くにある記憶を呼び覚まさせるようなノスタルジアのことだ。それはどこか稲垣足穂の「宇宙的郷愁」と相通じるし、あるいは、志人が思想的にも、芸術的にも大きくインスパイアされたであろう寺山修司の土俗的な、ある種屈折したノスタルジアを思い起こさせもする。
 "今此処"や"夢境"にももちろん滲み出ているが、2005年に発表したファースト・アルバム『Heaven's恋文』に収録された"LIFE"はとくに、ノスタルジアを結晶させた、豊かな色彩感覚に彩られた名曲である。KOR-ONEによるファンクとソウルの感性が映えるトラックも本当に素晴らしい。

嫌というほどに見た現実に疲れては/まぼろしの公園でいつもひなたぼっこLIFE

忘れかけたユーモアというものや/君にとってとっても重要な日々の匂いや色は、
街で見かけたチンドン屋/なびかせた黄色いハンカチーフ
やさしくなった自分をふと思い出すのさ/
どこもかしこも/立ち止まる足場も無く/暇も無く/芝も無い/
僕の居場所を探し出そう/この 都会に お帰り
LIFE

 しかし、こればっかりは歌詞の引用だけでは伝えられないものがあるので、聴いて感じてもらうしかない。他にも、日本の庶民的な家庭を描いているようだが、よく聴くと、現実と虚構が入り組んでいて、どこかズレが生じている"円都家族"の奇妙なノスタルジアも面白い。
 詳述は避けるが、『Heaven's恋文』のあるスキットでは、実際に寺山の映画のワンシーンが引用されている。それは、インテリ批判とも読める志人らしい軽妙なやり口で、その映画を観た人間から言わせると、「ああ、そこなのか!」と膝を打ちたくなるような風刺の効いた場面を拾っている。
 ただ、志人に寺山修司や稲垣足穂や宮沢賢治といった過去の芸術家や詩人の影を感じたとしても、志人がやっていることは、当然過去の意匠の焼き回しではないし、ましてや懐古趣味や権威主義、または衒学趣味とは程遠いものだ。
 「いまの時代がいちばん面白いと言わせたい」というのは、かつて志人が放ったことばだが、その情熱の炎がいまだ燃え盛っているということは、この新しいアナログを聴いても実感できる。さきほど、異なる表情の3曲を1枚のアナログに収めたのが懐の深さだと書いたのは、対立物を内包しながらもロマンを語ることはできる、ということに志人が挑戦しているように思える故である。

 さて、最後に、志人の刺激的な今後について書いておこう。まず、そのうち志人と渋さ知らズとの共演(競演)があるかもしれないという噂が耳に入ってきている。また、MSCのTABOO1のファースト・ソロ・アルバムにゲスト・ラッパーとして参加する予定だが、"禁断の惑星"と名付けられたSF風の曲のバックトラックを制作したのは、なんとDJ KENSEIである。さらに、〈アンチコン〉とも縁の深いカナダのラッパー、BLEUBIRDと録音した数曲は、おそらく日本のヒップホップ・シーンに小さくない衝撃を与えることになるだろう。そして願わくば、ごく少数しか流通しない(させない)「ジレンマの角 EP」の楽曲が、なんらかの形でより多くの人に届くようになればと思う。まあ、ということで、志人の今後の展開を楽しみに待とう。

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1

TOKYO NO.1 SOUL SET + HALCALI

TOKYO NO.1 SOUL SET + HALCALI YOU MAY DREAM / 今夜はブギーバック / »COMMENT GET MUSIC
2009年にお茶の間を席捲したあの曲がついにアナログ化。間違いなく2010年最重要作です!話題のコラボレーションTokyo No.1 Soul Set + HALCALIが、日本の音楽シーンで今もなお輝く珠玉の2曲をカヴァー!「You May Dream」と「今夜はブギーバック」を1枚にまとめてしまった、アナログならではの贅沢な企画が実現しました!

2

FOUR TET

FOUR TET MALA - NOTHING TO SEE / DON'T LET ME GO / »COMMENT GET MUSIC
世界一美しいベース・ミュージックが誕生。Four Tet新曲がSoul Jazzからっ!!泣く子も黙る天才Four Tetと、盟友CokiとのDigital Mystikzでもお馴染みのレジェンド・ダブステッパーMalaによる超強力スプリット盤が登場っ!!

3

S.L.A.C.K.

S.L.A.C.K. SWES SWES CHEAP / »COMMENT GET MUSIC
「適当に行けよ。」S.L.A.C.K.なりのペースで歩く新作が到着!BudamunkyによるリミックスEP"Budaspace"に続き早くもリリース。しかし、中身はいたってマイペース!ゆるりと流す一日のBGM。揺られてください、、、Swes Swes Cheap♪

4

LOS MASSIERAS

LOS MASSIERAS BETTER THAN ITALIANS EP / »COMMENT GET MUSIC
Discodrom (Internasjonal) × Boris (Berghain)のジャーマン・タッグによるB-Sideが堪らなくヤバイです。第一弾に続きヒットが予想されるベルリンDiscos Capablancaのリエディット・オフシュート"Bananamania"からこれまた素晴しい新作が到着。'75年リリースのイタロ名作"Raffaella Carra / Rumore"のサイケ・ダビーな狂気リワークとなったB-Side"Rumore D'Amore"がグレイト!!

5

STRINGSBURN / WORLD FAMOUS

STRINGSBURN / WORLD FAMOUS WAVE, LIFE, WAVE... / I CAN'T SEE YOUR FACE FEAT. LUVRAW & KASHIF / »COMMENT GET MUSIC
Pan Pacific Playaからの限定7インチ第5弾!!死ぬほど甘~いメロウ対決スプリット。アーバンすぎる!!リリース後即完売の記録を更新し続けるPPP・7インチ・シリーズ!!こんどはPPPのギター名手Stringsburnと二見裕志&山崎ごうによるWorld Famousによる大人のメロウ・スプリット。Luvrawもトークボックスで参戦しています!!

6

V.A.

V.A. DISC'O'LYPSO / »COMMENT GET MUSIC
激レアなジャマイカン・ディスコ、ファンク、モダン・ソウルまで収録のグレイト・コンピ!!Risco Connection再発で注目を集めるカリブ圏ディスコですが、これはスゴイ!!レゲエ発祥の地ジャマイカに残されたトロピカル・ディスコ・ブギーを2LPにコンパイルした究極の一枚!!

7

GONZALES

GONZALES I AM EUROPE / »COMMENT GET MUSIC
天才Gonzales改めChilly Gonzales、なんとBoysnoizeから初登場リリースです!!☆特大推薦☆帝王Claude VonstrokeによるリミックスA2と、フレンチB-BOYテックハウサーDjedjotronicによるドファンキー・リミックスB1を搭載っ!!

8

REDINHO

REDINHO BARE BLIPS EP / »COMMENT GET MUSIC
新型カラフルUKGからRustie直系ウォンキー、美麗アンビエント・ダブステップまで!!DeadboyやKavsraveら新時代を担う才能が続々と登場、燃え盛るグラスゴウ・シーンの最重要レーベル/イベントNumbersから、遂に大本命Redihhoがデビュー!!

9

BEST COAST

BEST COAST CRAZY FOR YOU / »COMMENT GET MUSIC
砂浜、猫、そして恋。2010年に必要な全てが詰まったガールズ・インディ・バンド、遂にアルバムです!!到着しました★2枚の7インチが爆発ヒット、数あるUSガールズ・バンドの中でもダントツ人気を誇るBest Coast!!Mexican Summerから超待望1st.アルバム登場です。

10

J.A.M

J.A.M JUST ANOTHER MIND EP / »COMMENT GET MUSIC
日本が世界に誇るピアノ・トリオ、J.A.Mの2年ぶりとなるアルバム「Just Another Mind」からのアナログ・カット!Soil&"Pimp"Sessionの丈青、秋田ゴールドマン、みどりんからなるJ.A.M。本作も前作に引き続きJose James(Brownswood)をはじめ、Mitsu the Beats(Gagle)がゲストで参加した話題のナンバーを含む全6曲を収録!

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Joaquin Joe Claussell

Joaquin Joe Claussell The World Of Sacred Rhythm Music Music 4 Your Legs »COMMENT GET MUSIC

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Mr Raul K

Mr Raul K The African Government Mule Musiq »COMMENT GET MUSIC

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Kaoru Inoue

Kaoru Inoue Sacred Days Seeds And Ground »COMMENT GET MUSIC

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Justin Vandervolgen

Justin Vandervolgen Clapping Song Sheebooyah / Golf Channel »COMMENT GET MUSIC

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Four Tet

Four Tet Angel Echoes Domino »COMMENT GET MUSIC

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American Me

American Me Cool World Lucky Me »COMMENT GET MUSIC

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Phenomental Handclap Band

Phenomental Handclap Band Testimony Bitche Brew »COMMENT GET MUSIC

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Chymera

Chymera Martin Dawson & Glimpse »COMMENT GET MUSIC

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Peven Everett

Peven Everett Beyond The Universe EP 2 »COMMENT GET MUSIC

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Lloyd Miller & The Heliocentrics

Lloyd Miller & The Heliocentrics S/T Strut »COMMENT GET MUSIC

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やけのはら

やけのはら This Night Is Still Young / »COMMENT GET MUSIC
多くの活動を経て遂に放たれた待望の1stアルバム。ビートに絶妙に交差するラップとヴォーカル、漂う独特な空気感は、日が昇り始める午前に、蒸し暑い日中に、涼しくなり始める日暮れに、そわそわと出かけたくなる夜に・・・夏のどんな時間にもマッチするような魔法がかった珠玉の14曲。ディスクユニオン限定特典としてOPPA-LAで行われた『やけのはらのライヴDJ MIX-CD』が付きます。

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SCHERMATE

SCHERMATE CD Volume 3 SCHERMATE / ITA / »COMMENT GET MUSIC
リリースの度に反響を呼ぶミニマル・レーベル"SCHERMATE"の限定CD-Rシリーズ第3弾!今回はカタログ7,8,9番、そしてリミックス盤からPETER GRUMMICHのリミックスを抜粋! 恒例のSE集も充実したCD派も大満足の1枚! LTD200、ナンバリング入り!

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UNKNOWN

UNKNOWN Elepahnt Stoned (Yo&Ko Super Long Edit) WHITE / UK / »COMMENT GET MUSIC
今年始めに突如リリースされ大きな話題を呼んだLA'S"There She Goes"の衝撃リエディットを手がけた謎のユニット、YO&KOが手がけるセカンド・インパクト!なんと今回は80年代後半~90年代前半に一世を風靡したあのUKマンチェブームの代名詞THE STONE ROSESの代表曲であり大名曲"Elephant Stone"のハウス・リエディットとまたも超ストライクなチョイス!!原曲のあの素晴らしい旋律と軽やかに駆けぬけるようなグルーヴをそのまま高揚感あふれるキックとビートに落とし込んだようなDJ&ピーク・タイム仕様の見事なハウス・エディットはフロアを瞬く間に席巻する強力な仕上がり。今回も要チェックです!!

4

SCHERMATE

SCHERMATE Control (Remixes) SCHERMATE / ITA / »COMMENT GET MUSIC
ずば抜けたクオリティーでTOP DJからの支持も厚いSCHERMATEから、初となるリミックス盤が登場!! 手掛けるのはELETTRONICA ROMANA等で活躍する同郷イタリアの奇才・MODERN HEADSとKOMPAKTから秀作アンビエントをリリースするPETER GRUMMICH! やはり分かっている人選です! 徹底してダークにハメ倒すMODER HEADSサイド、音の抜き差し(主に抜き)で展開をつけるGRUMMICHサイド!

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D'JULZ

D'JULZ Rexperience #01 MODULE FRANCE / FRA / »COMMENT GET MUSIC
88年のオープン以来、幾多のDJ/アーティストが毎週末の夜を彩ってきたフランスを代表するベニュー・REX CLUBが満を持してMIXシリーズ「REXPERIENCE」をスタート! 記念すべき第一弾を担当するのは、REX CLUBで最も人気のあるパーティー"BASS CULTURE"を主催し、これまでにLOCO DICE、LUCIANO、CASSYなど錚々たるメンツを招いてきたフレンチ・ミニマルの重要人物・D'JULZのMIX-CD。オープニングからラストまで、ロングプレイを体感しているような起伏に富んだ内容は、まさにREX CLUBの名に相応しい鉄板の1枚!

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MACC AND DGO HN

MACC AND DGO HN Some Shit Saaink REPHLEX / UK / »COMMENT GET MUSIC
しばらくCDリリースの途絶えていたREPHLEXから、待望の新作登場! 今回フィーチャーされたのは、INPERSPECTIVEやOUTSIDERといったDRUM & BASSレーベルに幾多の12"を残してきたUKのプロデューサー・チーム"MACC & DGOHN"! 本作「「SOME SHIT SAAINK」は、SUBTLE AUDIOから09年にアナログ2枚組で発表されていた作品に未発表曲を追加収録した、彼らの記念すべきファースト・アルバム! 古き良き時代のDRUM & BASSを彷彿とさせるダイナミックなドラム・サンプリング、暴れ狂うようなスネアの連打に圧倒されること間違いなし! APHEXもファンだという彼らの超絶なサウンドをぜひ体感してください!

7

MIKE HUCKABY

MIKE HUCKABY Deep House Supreme DEEP TRANSPORTATION / US / »COMMENT GET MUSIC
Rick Wadeと共に古くからデトロイトで活動するベテランMike MickabyのMIX-CDが渋谷クラブミュージックショップのリニューアルオープンを記念してのディスクユニオン限定入荷!「Welcome To The Club」で幕を開ける本作、美しくもダビーなディープハウス、全編を通して感じ取れる涼しげな音の揺らめき、後半徐々にタイトでディープさを増していくミニマルなトラックをBPM120程度の程よいテンポで展開。自然と音が体へ染み込んでくるような絶妙なテンションはロン・トレントやラリー・ハード辺りのDJスタイルをも彷彿とさせる。巻末にはクリエイターが使えるようにオリジナルのサンプルパターンを2種、ボーナスとして収録しています(Very Limited 100 copies only)。

8

FOUR TET

FOUR TET Angel Echoes DOMINO / UK / »COMMENT GET MUSIC
最新アルバム「There Is Love In You」からREMIXシングルがリリース。CARIBOU(ex MANITOBA)REMIXは多彩なシンセフレーズが散りばめられたディープ・テック・ハウスでフロア仕様に。もう片面のJOHN HOPKINS REMIXはリスニングよりの壮大なエレクトロニカ。印象的なオリジナルVer.のカットアップされた女性ヴォーカルを両者効果的に使用した強力REMIX盤!

9

SCOTT FERGUSON

SCOTT FERGUSON Disk Union LTD Mix FERRISPARK / US / »COMMENT GET MUSIC
Moodymann~Theo Parrishのフォロワーとして、デトロイトハウスをリリースするFerrisparkを運営するScott Fergusonが渋谷クラブミュージックショップのリニューアルオープンを記念してミックスCDをリリース。もっさりとしたデトロイトハウスを中心に構成しながらも一筋縄ではいかない展開は絶対予測不可能、ディープでローファイなアーリーシカゴハウス、そしてダンスクラシックへもスムースにシフト。黒いミックスが好きなリスナーの全てのツボを刺激する抜群の内容です。シリアルナンバー&サイン入りの限定100枚。

10

SCION

SCION Arrange And Process Basic Channel Tracks TRESOR / JPN / »COMMENT GET MUSIC
TRESOR RECORDSカタログ200番として制作された記念碑的作品。BASIC CHANNELが産み落とした数々のミニマル・ダブ・クラシックスをベルリンミニマルの総本山、HARDWAXクルーのSUBSTANCE+VAINQUEUR=SCIONが解体再構築。2002年当時としてはまだ真新しかったAbleton Liveを使用してのミックスが施されたこの作品は、アナログの代用としてのデジタル、その利便性のみに留まらない創造の可能性をも提示した。4/4ビート/音色/エフェクト/フレージングそれら個々の配置と全体の流れという縦軸と横軸が綿密に構成された展開、CDのフォーマット16bit/44.1kHzを考慮したマスタリングによる音質と、すべてにおいて一分の隙も見当たらない究極の55分間。

M.I.A. - ele-king

リリース前から『マヤ』というよりもM.I.A.がスキャンダルの渦に巻き込まれている。ことアメリカの音楽メディアでは、『ザ・ニューヨーク・タイムズ』の女性週刊誌風のエグイ記事――テロリストの父はいなかった説、高級ホテルでの豪華な食事もしくはディプロ発言の「彼女は政治的ではなくギャングスタ好きなだけだった」等々――を引き金に、マヤ・アルプラガサムの政治的矛盾や経歴の不透明さを突いたちょっとしたネガティヴ・キャンペーンがおきている。デビュー当時はいちぶの批評家からポリティカル・ポップの旗手として期待され、彼女のほうでもそうした評価をとくに否定してこなかったことを思えば、ある意味仕方がないのかもしれない、が......そしてまた、彼女の気まぐれに見える攻撃性(たとえばネットで流した"ボーン・フリー"の暴力的な映像)と喧嘩っ早さ(たとえば『ザ・ニューヨーク・タイムズ』の女性記者への攻撃)もまた、今回のスキャンダルに拍車をかけているのも事実だ。しかし、残念なのは、そうした喧噪のなかから『マヤ』の音が聴こえてこないことである。

そんな孤独のなかで彼女がやらなければならなかったのは、深く瞑想し、その助走でもって高く飛び上がることだった。文:磯部 涼



XL/Hostess

Amazon iTunes

 この8月でHMV渋谷店が閉店するというニュースを聞き、何とも言えない気持ちを抱えて訪れた同店で、ワゴン・セールの山の横に、同日にリリースされた七尾旅人の『Billon Voices』とM.I.A.の『マヤ』がディスプレイされていたのは、とても皮肉な光景のように思えた。消え行くリアル・ショップに、Youtubeを模したデザインのパッケージ達が並んでいる。両者のアートワークが似通っているのはまったくの偶然だが、同時に必然でもあるだろう。それはもちろん、いま、ポップ・ミュージックというものに真剣に向き合うのならば、インターネットというものに向き合わざるを得ないからだ。そして、それぞれがそこから導き出している答えのズレこそが、現在のリアリティなのだ。

"10億の声"と題された前者には、何処かオプティミスティックなムードが漂っている。アルバムは、真夜中にネット・サーフィンをしている少年を語り部に、ライヴ・ストリーミング・サイトでロック・スターを気取るサラリーマンが主人公の"I Wanna Be a Rock Star"ではじまる。そこから、前半は世界中に散らばる無数の"声"の主達を紹介していくのだが、七尾の自宅での弾き語り"なんだかいい予感がするよ"を境として、後半は踵を返すように内面へと向かう。ただし、妻にあてたラヴ・ソングで、昨年にスマッシュ・ヒットした"Rollin' Rollin'"が象徴するように、そこに閉塞感はない。そして、アルバムは希望を確信する"私の赤ちゃん"で幕を閉じる。同作のケースは額縁の形をしていて、ジャケットが入れ替えられる仕様になっているのだけれど、その中の一枚である、ネットから拾った様々な画像をコラージュしたデザインの裏は銀色で、覗き込んだリスナーの顔が写る仕掛けだ。

 七尾旅人は99年、日本の音楽産業のピークに18歳でメジャー・デビューし、圧倒的な才能を持っていたのにも関わらず、アンチ・コマーシャルだったがために、業界が衰退に向かうや否や、リストラに合った。その後、彼のキャリアが復調したのは、見よう見真似で自ら立ち上げたホームページで、散り散りになっていたファンたちと直接、交流を始めたことがきっかけだったという。そんな、音楽産業に対して誰よりも複雑な愛憎を持ち合わせている彼が、消え行くフィジカル・リリースに捧げた、初の自主制作3枚組アルバム『911FANTASIA』に続いて、配信システム、DIY STARSの立ち上げとともにリリースした本作に託した熱い思いは、説明するまでもないだろう。

 いっぽう、アスキー・アートでアーティスト・ネームを綴った後者は、非常にストレスフルな内容である。自身で手掛けるジャケット・デザインは何処か、KID606の初期作を思わせる。ミゲル・トロスト・デイペドロが先導したブレイクコアは、ネットから生まれた音楽的なムーヴメントの草分けで、ハッキングやP2P等とも同時代性を持っていた。テロリズムというモチーフに固執するM.I.A.がネットをテーマにすればそこに近づくのは当然である。ただし、00年代初頭にはまだまだ開拓地だったネットという空間は、今やすっかりインフラストラクチャーと化している。M.I.A.は本作の制作過程において、スタジオでYoutubeをひたすら観ることでインスパイアされ、ダウンロードしたサンプリング・ソースでビートを組み上げて行ったという。当然、それは目新しいことではなく、現代のクリエイターにとって、オン・ラインでのディグは中古レコード店やフリー・マーケットを回るよりも、よっぽど日常的な行為となっている。しかし、M.I.A.は『マヤ』において、ネットをブレイクコアのように武器と捉えたり、21センチュリー・B・ボーイのようにキックスと捉えたりするいっぽうで、何処か違和感も覚えているようだ。「デジタルまみれの世界のなかで大きくなった("Meds and Feds")」マータンギル・マヤ・アルルピラガーサムによるこのアルバムは、「iPhoneのTwitBirdから、いつも話しかけてくる("XXXO")」あなたに会いたくて仕方がないというラヴ・コールではじまり、しかし、「電波は圏外、つながらない("Space")」という嘆きで終わっていく。

 いま、M.I.A.は、シングル"Galang"でのデビューから7年、3枚目となるフル・アルバム『マヤ』で、初めての苦戦を強いられている。チャート・アクションの出だしはまずまずだが、とにかく批評家や熱心なファンからの受けが悪い。4月末に先行してネット上で公開された、"Born Free"のMVがあまりに直接的な残虐描写でYoutubeから即削除、賛否両論を呼んだのは、監督にわざわざジェスティスの"Stress"で悪名高いロメイン・ガヴラスを起用したのだから、それこそオン・ライン・テロリスト気取りの戦略だったのだろう。それに対して、「ニューヨーク・タイムズ」誌は、5月25日付け、リン・ハーシュバーグによるルポルタージュで、旧来のメディアから、生意気な新参者に対する報復をおこなった。とくに、ディプロの発言を引用する形でもって、"M.I.A.=Missing In Action"というアーティスト名の由来であり、捜索届けのようにファースト・アルバムのタイトルにもその名を掲げられた、彼女曰くスリランカのテロ組織"タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)"のメンバーで、現地で行方知れずになっている父親ーー彼が、実はスリランカ政府の役人で、現在はロンドン在住、彼女とも普通に連絡を取っているということが暴露されたのは痛かった。もちろん、M.I.A.はすぐさまTwitterや自身のHPを使って反論、『NYT』誌を糾弾したわけだが、彼女自身も父親の素性は明かそうとしていないし、真偽はともかくとして、M.I.A.というキャラクターが色眼鏡を通して見られるようになってしまったのは間違いない。同記事は、言わば、ここまで登り調子でやってきたM.I.A.に対するバックラッシュのトリガーとなったのだ。

 いや、ギャングスタを気取っていたのに、実は看守であったことをバラされて味噌をつけた、強面のラッパー、リック・ロスが語るボースティングとは違って、例えマヤが、ディプロの言うように、テロのモチーフをコラージュして危険性を演出してみせるアートスクール出身の女の子だったとしても、彼女がこれまで"M.I.A."というコンセプトを通して訴えてきたメッセージの価値が失われるわけではない。たしかに、ハーシュバーグの主張する通り、彼女の政治認識は甘いかもしれない。実際、LTTEによる内戦は今年、ようやく終焉に向かったわけだが、彼らはこの4半世紀のあいだに、大量の一般市民を虐殺してきたにも関わらず、それをさも英雄のように扱った罪は重いだろう。しかし、M.I.A.は政治家でも運動家でも、ましてや新聞記者でもなく、ミュージシャンなのだ。問われるのは知識の精度ではなく、サウンドの強度である。その点で、セカンド・アルバム『カラ』は00年代におけるグローバリゼーションとローカリゼーションの鬩ぎ合いを誰よりも見事に描いた傑作であった。ただ、それに続く、今回のアルバムが弱かったのは、「そんな作品を売って、自分だけ成り上がるなんて搾取ではないか」という、事前に簡単に予想出来たはずの、ありがちと言えばありがちな指摘である、「NYT」誌の記事に対する反論の準備が出来ていなかったところだ。

 『カラ』の開放性は、レコーディングを予定していたアメリカのビザが下りなかったため、世界中を周って制作したが故に生まれたものだったが、反対に『マヤ』の密室性は、オーヴァー・ステイのせいでアメリカからの出国が許されなかったため、LAのスタジオに籠って制作したが故に生まれたものである。M.I.A.は、密室の中で、大きな成功を収めた前作を越えなければというかつてないプレッシャーに苛まれていたはずだ。目の前にあるノート・ブックの向こうに広がる無限のネット空間は、ヒントを与えてくれる賢者と、足を引っ張って来るヘイターが姿を隠した真夜中のジャングルに見えたことだろう。それは、母親の名前を掲げた前作が描き出した、世界のポジティヴな側面とは対照的な象徴性だった。そして、そんな暗闇のなかでは、自己に向き合わざるを得ない。だからこそ、彼女は、本作に自身の名前を刻み込んだのだ。本来なら、そんな孤独の中で彼女がやらなければならなかったのは、深く瞑想し、その助走でもって高く飛び上がることだった。それでこそ、この世界の至るところで同じようにノート・ブックを覗き込んでいる人びとの心を掴むことができるし、アートとしても、エンターテイメントとしても前作が越えられたはずである。しかし、その暗闇の前で、M.I.A.の足はすくんでしまったのかもしれない。アルバムでは、"Lovalot"と"Born Free"の、アグレッシヴなトラックに乗った、ハードなアジテーションとナイーヴな心情吐露が入り混じったリリックの組み合わせが、その試みを比較的上手く実現出来ていると言っていい。ただ、それでも『カラ』の"20 Dollar"や"The Turn"が持っていた複雑さには適わない。また、他愛ないセクシャルなパーティ・チューン"TEQKILLA"や、『NME』誌7月号でレディ・ガガに吐いた唾を呑み込むようなエレクトロ・ポップ"XXXO"も、やはり、前作にも収められていたロリポップ・ソング"Boys"や"Jimmy"のような絶妙な効果は発揮していない。

 そして、何よりも足を引っ張っているのが元ボーイ・フレンドにして、つねに盟友であり続けたディプロで、彼が手掛けた2曲ーー炭酸の抜けきったビールみたいなラヴァーズ・レゲエ"It Takes a Muscle"と、前作が生んだ最大のヒット"Paper Planes"の明らかな二番煎じである"Tell Me Why"は、これがあの才人の仕事かと耳を疑うようなどうしようもなさだ。ディプロはTwitterで本作のネガティヴ・キャンペーンを繰り広げており、曰く「オレの曲はスラミン。残りはまるでスキニー・パッピーで、悪夢みたいだ」そうだが、まさか本気で言っているわけではないだろう。あるいは、M.I.A.の夫でワーナーの御曹司、ベン・ボロフマンの反対に合い、プロデューサー陣のなかでたったひとりだけ別スタジオでの作業になったことへの当てつけで、わざと手を抜いたのだろうか。そんなゴシップめいた推測をしたくなるほど、本作は音楽的魅力に乏しい。要となるはずだったダブ・ステップのトラックメーカー、ラスコは健闘しているものの、前作におけるスゥイッチの革新的なプロデュース・ワークをなぞるのがやっとである。

 もちろん、『Billon Voices』と『マヤ』を対等に比較するのは可笑しいし、後者は、前者の何百倍もの売り上げをすでに達成している。しかし、それぞれのディスコグラフィーで見た場合、前者がターニング・ポイントとなったのに対して、後者が傑作『カラ』を越えることも、また、それとは別の道を切り開くことも出来なかったのは明らかだし、インターネットというテーマで聴くと、その混沌に呑み込まれたような後者の失敗の仕方は、2010年のメジャーな音楽産業を象徴しているように思えてならないのだ。ちなみに、『マヤ』の日本盤ボーナス・トラックの1曲である、その名も"Internet Connection"と題された、まったくもってつまらない楽曲は、ディスコミュケーションにこんがらがった以下のようなヴァースで終わっていく。ーー「問題はあたしの情報/だからやすやすと、知らない人には渡さない/あなたには、あたしのことは解らない/あなたは知らない、あたしのやり方を/"何か不具合を起こしたの"と、あたしが訊けば/"ネット接続がおかしいんだ"と、あなたは答える/昨晩もあたしはクラッシュ/アタマの外をぐるぐる廻っていた」

文:磯部 涼

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彼女は初めて90年代後半にイギリスで起きたアジア系の暴動のサウンドトラック・アルバムをつくったのだろう 文:三田 格



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 90年代の後半、『NME』を広げると毎週のようにイギリスのどこかでアジア系の暴動が起きていた。その数はいつもとんでもなく、場所も各地に広がっていた。それらは本当に大規模で、どうして05年にフランスで起きた暴動のように日本では報道されないのかぜんぜんわからなかった。記事に関連してシーラ・シャンドラやモノクローム・セットのビッドなど、いわゆるインド・パキスタン系のコメントを探してみたものの、英語力の問題なのか、見つかったためしはなく、タイミングよく訳されていたハニフ・クレイシの小説を読むことで、なんとなく彼らの不満を理解した気にはなっていた。でも、できればアンジャリやコーナーショップ、あるいはベティ・ブーやティム・シムノンの言葉で何が起きているかを知りたかったというのが本当のところではある。70年代にナショナル・フロントが台頭していたときにはスペシャルズやファン・ボーイ・スリーを結成したテリー・ホールが暴動が起きてからすぐにファン-ダ-メンタルのムシュタクと『ジ・アワー・オブ・トゥー・ライツ』をリリースしたときは(内容はともかく)なんて一貫してるんだと感心したもよく覚えている。

 M.I.A.は暴動のサウンドトラックではなかった。それらはイラスティカやエイジアン・ダブ・ファウンデイションが担っていたことで、その当時、前者のヴィデオ・クルーだったM.I.A.は「平和のために戦う」とか「国家を罵ってやる」といった歌詞をどちらかといえば楽しいダンス・ミュージックにのせて歌い出した。デビュー・アルバム『アルラー』の冒頭を飾る"バナナ・シット"などは何度聴いても笑い転げてしまう。彼女のあっけらかんとした感性は、いってみれば暴動が収束に向かったことを象徴していたとさえいえる。ちなみに彼女に活動資金を与えたのはジョン・ローンだった。両親が誰だかわからず、自分が何系のアメリカ人だかもわからないハリウッド・スターの。
 
 「わたしはアメリカを否定しない。先進国と途上国の情報量が同じぐらいになればいいとは思うけど」
 世界中を旅して回って......つまり、サウス・ロンドンを抜け出して制作されたセカンド・アルバム『カラ』について取材した際、彼女はそういって、なるほどそれからすぐにブルックリンに移住したこともニュースになった。彼女が音楽をはじめた動機はよく知られているようにインド首相を暗殺したタミール・タイガーの幹部である父(アルラー)を探すためで、イギリスで起きていたアジア系の暴動が直接の背景にあったわけではない。『アルラー』はなぜかカナダではナショナル・チャートの1位となるほど売れて、父からも連絡があり、彼女の目的は果たされたといえる。普通に考えれば彼女は目的を見失ったはずである。世界を旅して回る......という方法論はおそらくはディプロのマネで、途上国のニュース・センターになろうとした『カラ』のコンセプトはどれほど彼女の奥深くから発していることなのか、多少は疑問もある。いちばんいいと思った"バード・フルー"のプロダクションが彼女自身によるものだったので、音楽家としてのM.I.A.にはむしろ期待値が高まった面もあるものの。
 
 ブルックリンではなく、なぜか(母の住む?)L.A.で集中的に録音された『マヤ』は全体的に荒廃したムードに覆われ、サウス・ロンドンに対する郷愁が強く窺われる。自分の名前をタイトルにしているぐらいで、アイデンティティと向き合わざるを得なかったことはたしかで、クラフトワークのアルバムのなかでもっともヨーロッパ的な感性が強く滲み出た『トランス・ヨーロッパ・イクスプレス』だけがアメリカで録音されたものであったように、彼女は初めて90年代後半にイギリスで起きたアジア系の暴動のサウンドトラック・アルバムをつくったのだろうと僕は思う。"テックキラ"という曲がレコード・ショップで流れはじめたとき、僕は「これなんですか? これ下さい」といって手渡されたものがこのアルバムだった。もう少し待っていれば彼女の声が聴こえただろうに、そのときは一刻も早くその曲の正体が知りたかった。家に帰って通して聴いてみると、今度は内省的な曲調が耳には残った。正直、"バッキー・ダン・ガン"に横溢していた彼女のあっけらかんとした感性はとても懐かしい。しかし、彼女はいま、大人になろうとしているのである。たとえばマドンナだったら『ライク・ア・プレイヤー』がなければ『エロティカ』はなかったように、どんなミュージシャンであれ、豊かな感情を基本としている人ならば怒りや悲しみといった感情の育て方に僕はとても興味がある。その場所にアメリカを選んだことも含めて『マヤ』はとても興味深い"デビュー作"ではないだろうか。

文:三田 格

DJ WADA - ele-king

Chicago House My best 10


1
Phuture - Acid Tracks - Trax Records

2
Fingers Inc - Mystery Of Love - D.J. International Records

3
Bam Bam - Where's Child - Unknown

4
Joe Smooth Inc Featuring Anthony Thomas- The Promised Land - D.J. International Records

5
The Housemaster Boyz And The Rude Boy Of House - House Nation ? (10 versions) - Dance Mania

6
Marshall Jefferson - Move Your Body - Trax Records

7
Duane & Co. - Hardcore Jazz - Dance Mania

8
Frankie Knuckles FeaturingJamie Principle - Your Love - Trax Records

9
LNR - Work It To The Bone - House Jam Records

10
Traxmen Presents Mark Bernard - Load - Dance Mania

DJ CHIDA - ele-king

heavy play early summer 2010


1
The Backwoods - Midnight Run - Ene

2
Hungry Ghost - Illumination - International Feel

3
Idjut Boys - The Waterboard - Droid?

4
Mademoiselle Caro & Franck Garcia - Soldiers (The Revenge Dub) - Buzzin' Fly

5
Tiago - Rider(COS/MES remix) - ene

6
Coati Mundi - No More Blues(Lee Douglas Remix) - Rong Music

7
9dw - Calfornia EP - ene

8
Kaoru Inoue - The Invisible Eclipse - SEEDS AND GROUND

9
COS/MES - D.F.G. - ESP institute

10
Sam Sallon - Youu may not mean to hurt me (Begin Mix) - Fascinating Rhythms?

Bazz (Osushi Disco/Roc Trax) - ele-king

Summer Best


1
Dorian - Disco 6.0 (Early Summer Disco) - Maltine Records

2
Methusalem - Robotism - Ariola

3
Ratatat - Sunblocks - XL

4
Tangerine Dream - Choronzon - Virgin

5
Nhessingtons - You're the Summer - Force Majeure

6
Extra T's - E.T. Boogie - Sunnyview Records

7
Mim Suleiman - Mingi - Running Back

8
A Guy Called Gerald - Voodoo Ray - Warlock

9
Jamaica - I Think I Like U 2 - V2

10
Rod Stewart - Young Turks - Warner Bros Records

Chart by Pigeon - ele-king

Shop Chart


1

B.F.

B.F. Escape / Indica Aldebaran [GER] / »COMMENT GET MUSIC

2

Dr.Dunks

Dr.Dunks Keep It Cheap / No P's Keep It Cheap [US] / »COMMENT GET MUSIC

3

Jill Scott

Jill Scott Ron Trent Remixes Spring [US] / »COMMENT GET MUSIC

4

Juana Molina

Juana Molina Un Dia (Reboot Remix) Domino [UK] / »COMMENT GET MUSIC

5

Magoo

Magoo Magoo E.P. Boogie Times [FRA] / »COMMENT GET MUSIC

6

Sam Sallon

Sam Sallon You May Not Mean To Hurt Me Fascinating Rhythms [UK] / »COMMENT GET MUSIC

7

Terence Fixmer

Terence Fixmer Comedy Of Menace Part.1 Electric Deluxe [GER] / »COMMENT GET MUSIC

8

J Dilla

J Dilla Donut Shop Stones Throw [US] / »COMMENT GET MUSIC

9

Unknown

Unknown Mountain 001 (Lexx Edit) / Mpuc001 Mountain People [GER] / »COMMENT GET MUSIC

10

V.A.

V.A. Little Leaf No.01 Little Leaf [UK] / »COMMENT GET MUSIC

MASANORI MORITA (STUDIO APARTMENT) - ele-king

STUDIO APARTMENT 5th ALBUM "2010" JAPAN TOURで活躍している音源TOP10


1
Omar - Feeling You (Henrik Schwarz Remix) - Peppermint Jam

2
Clara Sofie, Rune RK - Cry Out (Jerome Sydenham Remix) - Arti Farti

3
DJ T. - Dis (Kink Remix) - Get Physical Music

4
Pablo Fierro - Contrabeat (Original Mix) - I Records

5
Marascia - Watcha (Original Mix) - Noir Music

6
Francisco Allendes, Marcelo Rosselot - El Grillo El Indio Y El Robot (Original Mix) - Cadenza Lab

7
Kink - E79 (Original Mix) - Strictly Rhythm

8
Florian Kruse, Nils Nuernberg - The Extra Breath Of Life (Original Mix) - Galaktika Records

9
Loco Dice - La Bicicletta (Original Mix) - Cocoon Recordings

10
DJ Gregory & Gregor Salto - Canoa - Defected
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