Savage Adore Life Matador/ホステス |
勇敢なるサヴェージズのセカンド・アルバム『アドーア・ライフ』が出る。4人の女性によるこのバンドは、全員見た目も黒でビシッと決まって格好良く、グラマラスで、いまでもロックが娯楽以上の大きな意味を持つ音楽だと思っている、という点において説得力を持っているバンドのひとつだ。彼女たちはときに好戦的で、ストイックで、そして音楽には強く訴えるものがある。何を?
ロックの歌詞というのは、通常、言ってる内容と、見ている視点のあり方との関係によって評価される。そう、こいつはどの位置から物事を見ているのか(ブレイディみかこなら、地ベタ)。スリーフォード・モッズのみすぼらしさは、彼らの見ている場所、視点のありかを表している。つまり、パブで飲んだくれているうだつの上がらない老若男女を受け入れているし、彼らはきっとわずか1行で社会を描写できる。あるいは、ディアハンターは、社会のアウトサイダーの気持ちをいまでもすくい上げる役割を果たしている。ブラッドフォード・コックスが芸能界入りすることもなければ、社会に馴染めないはぐれ者たちとの親近感を失うことはないだろう。それはかつてロックと呼ばれた音楽の大前提だ。
そこへいくとサヴェージズはどうだろう。彼女たちの音楽は本当にシンプルだ。難しいことをやっているわけではないし、ある意味、基本に戻っているとも言える。いわゆる大衆音楽と呼ばれるものとは一線を画していた頃の、ロックが耳障りの良い“ソフト”に転向する前の、あるいはパンクの時代の、攻撃的でやかましくハードだった頃のロック。ぼくが思い出したのは、ひとつ挙げると、パティ・スミスのセカンド・アルバムだった。
だが、サヴェージズの歌詞に物語や文学性はない。ただ実直に言いたいことを簡潔に言っているように思えるし、今回のアルバムで、曲調がパティ・スミスっぽいと感じてしまった“ADORE”という曲も言葉は直球で、意訳すれば、いくら人生で暗いことがおきても、なんだかんだと「私は人生が愛おしい、人生を敬愛している」と繰り返される。
新作は“愛”のアルバムである。
それでは以下、ジェニー・べス(Vo)への電話取材の模様をどうぞ。
サヴェージズは決して政治的なことを取り扱うバンドじゃない。よく、人間は環境の……社会や政治的環境の産物だ、みたいな言われ方をするけれど、私は案外、人間性が先にあって環境や社会や政治が生まれていくんじゃないか、って思ったり。私が自然体で歌っていることが私を取り巻く環境や、ひいてはもっと大きな社会的な環境になっていく……ってことになるんじゃないかしら
■まずはインタヴュアーからの感想ですが、「重たくて美しいアルバム」とのこと。重たい、というのは、聴き応えがある、という意味で、つまりはすぐには理解しきれないかもしれないし、もしかしたらカジュアルには楽しめないタイプのアルバムなのかもしれない……。
ジェニー:わぉ。まず、美しい、というのは、ありがとう。そして、ただ美しいんじゃなくて重たい、というのも嬉しい。悪い意味の重たさじゃなくて、前向きにいろいろと考えたことが詰まっているという意味での重たさは、たしかにあるかも。でも、すごく自由に楽しんで作れたアルバムなのよ。別に思いつめて重たくなっちゃったわけじゃない(笑)。今回、レコーディング中もそれぞれのパートをバラバラに取り組んでいたから、みんな、やりたいことをとことん追求できたのよね。それは私の歌や歌詞にも言えることなんで、うん、思い切りやれたアルバムなのはたしかよ。
■その結果、愛が題材になったんですか。
ジェニー:結果的に、ね。
■それがいまのあなたの書きたいことだった?
ジェニー:そういうことになるわね。うん、そうだと思う。というか、前から自分の中にはあった題材だけど、最初のアルバムでは書くのをあえて避けていたんで。あの時はバンドとして他に表明しておくべきことがいっぱいある気がしていたから、ラヴ・ソングを書くよりは、自分たちがこういうバンドなんだ! ってことを訴えるような、こういうバンドがいまもここに存在しているんだ! って叫ぶような曲に専念していたの。それを経て、今回はまた違った面を見せたいと思った、っていうのはあるかも。意識してラヴ・ソングをフィーチャーしたつもりはないんだけど。
■それは、あなた個人の変化でもあり、バンドの変化でもあり……
ジェニー:うん、そういうこと。愛って普遍的なテーマだから、常にそこにあるわ。何も、このアルバムに向けて急に書き始めたわけじゃない。ただ、自信とか経験とか、制作中の自由な雰囲気とかに後押しされて解放されたテーマってことだと思う。
■最近のヨーロッパの社会的・政治的な空気を見ていると、もしかすると「愛」といっても個人的なものではなく、もっと大きな「愛」なのかなとも思えるのですが。
ジェニー:パーソナルでもあり、ソーシャルでもあり、でもポリティカルではないわね。サヴェージズは決して政治的なことを取り扱うバンドじゃない。ただ、思うんだけど、人間と社会や政治の関係って、どっちが先なのかな。よく、人間は環境の……社会や政治的環境の産物だ、みたいな言われ方をするけれど、私は案外、人間性が先にあって環境や社会や政治が生まれていくんじゃないか、って思ったり。それでいくと、私は決して社会や政治で起こっていることを歌にはしないけど、逆に私が自然体で歌っていることが私を取り巻く環境や、ひいてはもっと大きな社会的な環境になっていく……ってことになるんじゃないかしら。わかる? 人間……っていうか、アーティストはとくにそうだと思うんだけど、まわりから影響される部分は当然あるにしろ、あくまで発信は自分、なのよね。少なくとも私が、自分の感覚や感情よりも周囲の状況のことを優先して書くことはあり得ない。アーティストとしての私は自分が環境なんだと思う。
■あぁ、なんか素敵な表現。
ジェニー:あはは。
■すごく内側を見つめる作業。
ジェニー:そう。
■前作に比べると、怒りはおさまっているような印象も受けます。
ジェニー:あぁ、たしかに剥きだしには怒っていないかも。でも、まったく怒っていないわけじゃないわ。腹の立つことが無くなったわけじゃないから(笑)。でも、なんかこう、怒りも咀嚼できるようになった、ってことなのかな。
■世の中には、1st アルバムの頃以上に怒りが満ちているようにも感じますが。
ジェニー:たしかに。でも、それをそのまんま映し出すのが私たちではない、というのがさっきの話なわけ。ね?
■世の中に愛が足りないから愛の歌を、というわけではない(笑)。
ジェニー:違う、違う(笑)。
■例えば“Adore”という曲も愛を歌っていて、いままでのサヴェージズとはちょっと路線の違うエモーションを感じるという声もあります。ジャンルでいったらソウル・ミュージックのような。
ジェニー:わぉ。それ、私は褒め言葉として受け取っておくわ。
■バラードでこそないけれど。
ジェニー:うん。わかる。セクシー、かも(笑)。ソウル・ミュージックって、私にはそういうイメージ。私はヒップホップ的な音の作り方が大好きだから、そういう音楽もよく聴いてはいるわ。サヴェージズがそうやって音を作ることはないけど、ドラマーのフェイが音楽性豊かなドラマーだっていうのが私達の強みになってると思う。リズムを刻むだけじゃなくて、曲の感情を伝えてくれるのよね、彼女のドラミングは。
[[SplitPage]]スリーフォード・モッズは大好きよ。共演もしたし。ディスマランドで共演したの。えぇと、あれは……バンクシーか! バンクシーのディスマランドで一緒にやったわ。
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■このアルバムの雰囲気を「スピリチュアル」と表現したら当たってますか?
ジェニー:あぁ……うん、そうね、ラヴというよりはソウルだし、それよりもスピリットかもね。あとセクシャリティ。これは前から言っていることだけど、セクシャリティは私にとって最大のテーマでもある。セックスって本当の自分でいられる、一番安心できる場所なのよ、私にとっては。それをすごく感じさせてくれる展示会が去年、パリであって…えぇと……あ~、名前を忘れちゃった(苦笑)、フランス人の女性アーティストの作品群だったんだけど、あんなふうに自分のセクシャリティを表現できるというのは素敵だなぁと思って。なんなんだろう、表立って語ることをタブー視されるエリアだけど…、いや、だから、なのかな、私が取り組んでみたいと思うのは。つまり、そこまで解放されて初めて真に自由になれると思っている、というか。セックスは安心できる場所。Sex is safe!……って、なんか力説しちゃったけど(笑)。
■(笑)、スピリットと同義語なのかどうか、私にはよくわからないけど。
ジェニー:スピリチュアルであることが高尚でセクシャリティが低俗、みたいな分け方は絶対に違う。
■うん……。
ジェニー:解放、という点では同義語なんじゃないかな。
■つまり、愛を歌うようになったことも含めて、このアルバムには解放されたサヴェージズがいる、と。
ジェニー:そういう言い方はできるわね。別に、前のアルバムで私たちが制約されていた、というわけではないけど、気持ちの上でもミュージシャンシップ的にも色んなことができる余裕ができたんだと思う。
■歌詞の上でも?
ジェニー:うん、さっきも言ったように、今回はパート毎に作業だったから、早くやらなくちゃ、とか、メンバーを待たせてるから、とかいう心配をすることもなく、自分のやることにじっくり専念することができたの。私の出番は最後だから、みんなが作ってきたものを聴いてかなり驚かされたわ。わぁ、こんなことができるんだ、みんな! って。刺激されて私の歌もより思い切った表現になった、というのはありそう。詞はいつも書き溜めているものの中から曲に相応しいのを選んで仕上げていったんだけど、ファーストの頃よりもお互いのことがよくわかって、遠慮のない仲になっているから気持ち良く歌えた歌詞もあると思う。
■バンド内からの刺激。
ジェニー:そういうこと。
■外からの刺激、ということでは、その展示会や、他に何かありましたか。
ジェニー:本はよく読むわ。とくにギタリストのジェマ・トンプソンとは、面白い本を読むと郵便で送って交換したりしてる。この前はふたりでゲーテの『ファウスト』にはまって……というか、その前に映画版にはまったんだけど(笑)、原作は16世紀……だっけ?(編注:ファウストが実在したのは16世紀で、ゲーテが書いたのは19世紀) 映画はロシア制作で、ちょっと前のやつ。知ってる? あれを観ちゃったの(笑)。すごく美しい映像だけど、うわぁ、勘弁して……っていう場面もいくつかあって、観て良かったような、観たくなかったような……
■それこそ美しくて重たい、という感じでしょうか。
ジェニー:そう、そう! それで思い出したけど、あの映画のラストシーンを観ながら思ったのよ、これは自分たちのアルバムで表現してみたい世界観だ、って。いままで忘れてたくらいだから、そのまま実践したとはとても言えないけど(笑)、でも、どこか深層心理に残っていたのかも。
■ゲーテの『ファウスト』ですよね。
ジェニー:そう、ドイツのヒーロー(笑)。
■アルバムを締めくくる“This is What You Get”、“Mechanics”あたりの曲は痛みを伴いますね。こういう終わり方にしたかった理由があるんでしょうか?
ジェニー:“Mechanics”は、ある意味、未来に目を向けている曲よ。少なくとも私はそう思ってる。愛というものを……そうね、愛の可能性、というか……、この愛を本当に自由にしてあげた場合、将来的にどういうものになるか、という可能性を歌っているつもり。恋に落ちるにしても、恋から落ちこぼれるにしても、何の縛りもなく自由に、心のままに身を任せていたらどうなるか……という、うん、だから、いまはまだここにないもの、存在していないものを歌っている。わかる(笑)? 想像の世界、ってことね。だからこそ、あの曲でレコードの幕を下ろすことが重要だったの。未来に向けて開かれた扉、という意味で。
■あぁ、なるほど。そこまで読み取れるか、は英語力も関わってくるかな……。
ジェニー:あはは、でも、それはフランス人が相手でも同じよ。ただ。サヴェージズの曲は言葉を理解しなくても伝わるものがあると私は思ってる。音楽そのものやサウンドが、何かしら意味を伝えてるはずだから。あるいは意味の感覚、というか…、だから、歌詞で私が言おうとしている意味そのものじゃなくてもいいの。どの曲も……必ずしも歌詞に書かれている意味で捉えてくれなくてもかまわないし、その人の感覚で楽しんでもらえるのがいちばんいい。それが可能な曲であることがだいじだと思ってる。
■時間が迫ってきたので、最後にシンプルな質問をいくつか。まず、あなたはブラッドフォード・コックスが好きですよね。
ジェニー:うん! 大好き!
■では、スリーフォード・モッズは?
ジェニー:あははっ! 大好きよ。共演もしたし。ディスマランドで共演したの。えぇと、あれは……バンクシーか! バンクシーのディスマランドで一緒にやったわ。
■次に、あなたが思わず口ずさみたくなるようなポップ・ソング、メロディのある曲、というと何でしょうか。
ジェニー:う~ん……新しいので?
■新しくても古くても、どこの国のものでも。
ジェニー:わあ……いっくらでもあるんだけど、ちょっと待ってね、コレっていうのを考えてみるから……
■OK。
ジェニー:そうだなぁ、ポップ・アーティストってことでいうとマイケル・ジャクソンが私の子供の頃の一番好きなアーティストで、10代の頃は本当にマイケル・ジャクソンに入れ込んでたから、彼の曲が思い浮かぶんだけど……、あ、そういえば、実はビヨンセのこの前のレコードがけっこう気に入ってるのよね、私。
■へえ……。
ジェニー:かなり衝撃だったわ、自分がビヨンセのレコードを気に入るなんて(笑)。
■(笑)
ジェニー:あはは。でも、たぶんプロダクションなのよね、私が惹かれたのは。曲そのものっていうよりも、一部の曲の音の作り方とか響きとか……、あと、けっこうアンダーグラウンドまで掘って音を作ってる感じはすごくいいと思った。あ! 新しいところでは FKAツイッグスはすごく好き。彼女は存在がポップ・アーティスト! って感じがする。ヘンだけど、そこがいいのよね。ポップなのに極端にヘン。そういうの、私は大好きなの。メインストリームだと、そんなところかなあ……って、全然ポップ・ソングじゃないし、歌えないわね(笑)。