「You me」と一致するもの

169 - ele-king

 シンガー・ラッパー、そしてプロデューサーとしても知られるUKのアーティスト「169」(ワン・シックス・ナイン)が、キャリア2枚目となるミックステープ「SYNC」をリリースした。UKの有名プロデューサー「169」の力強いメロディセンスに唸らされる一枚だ。

 昨年は 169 にとって、プロデューサーとして大躍進の1年だった。マーキュリー賞を受賞したアルバム Dave 『Psychodrama』の楽曲プロデュース、Headie One のキャリアを大きく変えた大ヒット曲 “18 HUNNA feat. Dave” の制作、Netflix で公開されている「TOP BOY」のサウンドトラックを担当するなど、UKラップのメインストリームな楽曲を多く制作している。彼の過去作を紐解いていくと、アトモスフェリックなシンセ、隙間の多いミニマルなトラック構成、芯のあるピアノのメロディといった個性に気づく。グライム・UKラップがメインストリーム化する中で、彼の作家性はシーンのトレンドに大きな影響を与えているということ改めて感じる。

169のプロデュースワーク
Headie One - 18 HUNNA feat. Dave

 ソフトなタッチのピアノから始まる 1. “Slide for Me” は、Dave の “Screwface Capital” を彷彿とさせるビターな雰囲気を醸しながら、169の甘く優しい歌声が映える。2. “No Fears” では、グライム初期からラッパー兼プロデューサーとして活躍する Wretch 32 をフィーチャーし、アフロビーツを昇華したミニマムなビートとピアノに乗せる。

 3. “Cocoabutter” ではサックスや女性ヴォーカルのサンプルを織り交ぜたトラックが素晴らしく、169 との歌声との重ね方に聞き入ってしまう。アルバムの中盤の、UKソウルのシンガー「ジャズ・カリス」を迎えた 4. “Crazy” や、ラッパー「Jaiah」を迎えた 5. “Millies” といったコラボレーションでは、むしろ 169 は一歩下がって客演の存在感が一層映える楽曲になっている。

 アルバムの後半では、6. “Respect” は暖かなトラックの上で女性に対するジェントルな一面を見せると、その後2回転調し不穏なビートに変わっていく。アトモスフェリックなシーケンスは、The Weeknd や Drake 周辺のR&Bを彷彿とさせる。ラッパー「KNGWD」を迎えた 7. “Over Me”、ベースラインの重ね方が美しい 8. “The Way” で、24分のミックステープは幕を閉じる。

 作品全体ではラヴソングがほとんどで、トラックの作り込みのうまさに耳を惹かれる曲が多い。曲自体は短いものの展開はきちんと作り込まれており、聞き応えがある曲が多かった。また、客演している若手アーティストの個性も存分に映えている。今後は 169 のプロデュース・スキルを存分に発揮したフルスケールのアルバムにも期待したいところだ。

Kenmochi Hidefumi - ele-king

 今年はまだ半分なのでこの先どうなるかはわからないけれど……とりあえず2010年代で音楽的に最もエキサイティングな年は2013年だった。ベース・ミュージックが急拡大した年であり、個人的にはFKAトゥイッグス、DJニガ・フォックス、スリーフォード・モッズとの出会いが決定的だった。2016年も充実した作品は多かったけれど、2013年は全体の動きにどこか関連性があり、うねりのようなものが楽しめた。これには理由があるだろう。ひとつはシカゴ発のジューク/フットワークが他のジャンルに浸透するだけの時間が経ったこと、そして、2012年にメジャーで斬新なダンス・ミュージックが3曲もメガ・ヒットとなり、アンダーグラウンドに妙な刺激を与えたから。アジーリア・バンクス“212”、サイ(Psy ) ‎“ Gangnam Style(カンナム・スタイル)”、バウアー“Harlem Shake”がそれぞれ痒いところを残してくれたために、反動や継承が入り乱れて独特なカオスに発展していったのではないかと。ロンドン・パンクの主要キャラクターはそのほとんどがベイ・シティ・ローラーズについて何かしら発言していたのと同じくで、「あんなものが!」とか「あのように……」と、どっちを向いていいのかわからない感情が渦巻き、破壊と創造が一気に加速したようなものである。2013年はまた、M.I.A.やスリーフォード・モッズ、ロードやチャンス・ザ・ラッパーなど政治的なメッセージや皮肉だったりが急に吹き出したような年だったことも強く印象に残っている。「#BlackLivesMatter」というハッシュタグが世界を駆け巡った年だったのだから、それは当たり前かもしれないけれど。

 水曜日のカンパネラが「桃太郎」で時代の寵児となったのが2014年。2年遅れではあるけれど、“212”や ‎“Gangnam Style”と同じく「桃太郎」はヒップ・ハウスであり、“Harlem Shake”のバカバカしさを踏襲している点で、この曲は「2013年」ではなく「2012年」と同じ性格を持ったヒット曲だと僕は考えている。少なくとも「メジャーで斬新なダンス・ミュージック」として受け入れられ、翌年にはKOHHが注目を集めるという流れになったことは間違いない。アジーリア・バンクスはご存知のように精神を病み、RZAのプロデュースが決定していたのにラッセル・クロウのホーム・パーティで騒ぎを起こしてご破算となり、サイが一発屋で終わりかけていることも周知の事実。あるいは“212”は新曲ではなく、レイジー・ジェイ“Float My Boat”(09)にラップをのせたもので、よほど儲かったのか、レイジー・ジェイの2人はその後はほとんど仕事をしていないという意欲のなさも際立っている。メジャーでヒットを飛ばすというのはかくも恐ろしいというか、「ネクスト」の壁は高い……高すぎるのである。なかでは“Harlem Shake”がEDMのプロトタイプとなり、現在もほとんどその枠組みは守られたままだという呪縛にかけられているバウアーが懸命にそこから遠ざかろうとしている姿は様々なことを考えさせる。彼の最新作『PLANET'S MAD』はなかなかいいし、レーベルが〈ラッキー・ミー〉というのはめっちゃ渋い。直前にはヒップ・ハウスの注目株、チャンネル・トレスと“Ready To Go”をリリースするという意欲も見せている。しかし、僕はメジャーにはメジャーの役割りがあり、アンダーグラウンドにはアンダーグラウンドの意義があると思っているので、メジャーで踏ん張れない人がマイナーに活路を見出すのは少し違うと思っている。覚悟の種類が違うだけであって、アンダーグラウンドはメジャーの予備軍ではないし、坂本龍一が『B-2 Unit』をリリースした時、メジャーで堂々と売られたことを覚えているということもある(大事なのは態度であって結果ではないと『ローロ」でベルルスコーニも孫に話していたではないか)。ケンモチ・ヒデフミに僕が求めてしまうのも、だから、そこである。彼が主宰する〈kujaku club〉はシャンユイ(Xiangyu)のようなアジアのポップ・モデルも出しているのだから、レーベル・マスターに対する期待はなおさらである。

 『たぶん沸く〜TOWN WORK〜』というタイトルは……スルーしよう。エゴイスティックなギャグをさらっとかますケンモチ・ヒデフミのことだから深い意味があるのかもしれないけれど……。オープニングはひょうきんなセンスとスカしたムードを密着させた“Bring Me Joy”。目の前にクラブの照明がパッと点灯した感じ。続いて音の変形を楽しむように“Lolipop”が陽気さと背中合わせの切なさを同時に呼び込み、ダンスフロアにいたら予期せぬ孤独感を突きつけられただろう。“Neptune”も同じく、騒がしさや忙しさがどこにもたどり着かず、水曜日のカンパネラと同じく無国籍サウンドでありながら、ここが日本であることを強く意識させる。『PM2.5』や『Folding Knives』をリリースしてきた上海のスウィムフル(Swimful)に似てるような気もするけれど、ケンモチには個人が感じている寂しさを突き抜けて周囲にそれが共有されていくといった浸透圧はない。むしろダンスフロアで孤立しているような感覚が増幅し、それどころか「触ってはいけない孤独」という感覚は“Bombay Sapphire”にもまったく衰えずに受け継がれ、陽キャと隠キャに引き裂かれたような二重性はどんどん深刻さを増していく。ベリアルがベースメント・ジャックスに作風を乗り換えたような錯覚にも陥り、ある種の病的な感受性がポップに昇華されているようで個人的にはこの曲がベスト。偶然なのか、スウィムフルにも“Sapphire”と題された曲があり、やはりアジアの孤独が強く滲み出した曲となっている(スイムフルの“Fishaerman’s Horizon”はどことなく“上を向いて歩こう”を思わせる)。続いてインタールード風の“TukTuk Yeah”(トゥクトゥクはタイの3輪タクシー?)と“Whistle”。そして、後半のハイライトとなる“Midnight Television”へ。アフロをモチーフとしたジューク/フットワークで、神経症的に反復されるヴォイス・ループがむしろゲットーから遠く離れたジューク/フットワークであることを印象づける。太平洋を越えてついに日本に着地したな、というか。

 水曜日のカンパネラから雑味、すなわちコムアイを取り除くと、こんなにもシャープな響きになるのかとは思うけれど、『たぶん沸く〜TOWN WORK〜』はケンモチ・ヒデフミの世界観が水カンのそれと拮抗するにはちょっとサイズが短すぎる(EPだからしょうがないけど)。エンディングはきちんとした歌詞が歌われていれば新たなポップ・フォーマットを確立できそうな“Masara Town”。“Bombay Sapphire”とはまた違った意味でメロウネスを表現した佳作である。ケンモチ・ヒデフミはなにか、どこかの扉の前に立っていることは確か。もしかするとケンモチの醸し出す孤独感は嫌われることを恐れていて、そのことと表裏の関係にあるのかもしれない。そこが食品まつりのような劇的な存在感とは異なっている理由ではないだろうか(食品まつりの『ODOODO』もよかったですね)。同じアジアでもジューク/フットワークをアブストラクに処理した上海の33EMYBWなどは、もっと強迫的なアプローチが印象に残り、同じように収録時間の短いアルバムでも確実に方向性とそのインパクトを印象づける。せっかく中国や東アジア全体に広がるベース・ミュージックとは異なった緻密さやソフィスティケーションを有しているのだから、ケンモチ・ヒデフミには狂ったようにそれを突きつめてほしい。もう一度言う。ケンモチ・ヒデフミはなにか、どこかの扉の前に立っていることは確か。もっと強く、その扉を押してくれ。

vol.128:迷惑な花火ブーム? - ele-king

 7月4日はアメリカの独立記念日。本来なら野外でBBQし、ビーチではライヴショー、元気いっぱいのパレード、ネイサンズのホットドッグの早食いコンテスト(104回目)、恒例メーシーズの花火を楽しむところだが、今年はショーはなし、早食いコンテストは未公開の場所でオーディエンスなし、メーシーズの花火は6日前の6月29日からはじまっていた。今年は大きな花火を一回にドカンと上げるのではなく、毎日夜9時から10時の間の5分間、場所を変え数日かけて上げるという、コロナ・パンデミックを意識して行われたものだった。グランドフィナーレの7月4日は、この美しい花火を見て(例えオンラインでも)、心が救われた人は多かったはず。

https://gothamist.com/arts-entertainment/macys-july-4th-fireworks-light-empire-state-building-illegal-fireworks-explode-citywide

 なのだが、私がいたブッシュウィックのルーフトップではメーシーズの花火がどれだったかわからないくらい、違法花火が上がりまくっていた。夜の8時頃から深夜3時過ぎまで、花火がずっと上がり続けるのだ。一度に50箇所ぐらいたくさんの場所で上がるので、どこを見たら良いのか。
 ニューヨークでは花火は違法なのだが、6月あたりから毎日のように花火が上がり続けている。ペットたちは怯えるし、人は夜、騒音で眠れないと苦情も絶えない。花火は好きだが、こんなに毎日見ているとありがたみも無くなってしまう。アパートの前のプレイグラウンドで花火を上げている人もいたし、隣のルーフから花火を上げている人もいたし、間違ってこっちに飛んでこないかとビクビクしていた。なぜこんなに花火がNYにあるのだろう。こんなに間隔もなく上げれるのは、かなりの量の花火を持っているということだが、今年はエンターテイメントもないのでその反動なのか。
 リッジウッドの住人は、彼女のアパートから外を見ていたとき、ひとりの男性が交差点で花火に火をつけ、そのまま車で走り去ったというし、知り合いは抗議活動のときにランダムな人から花火をあげると言われたらしい。この日すべての花火を使い尽くし、次の日から花火のないNYになればと切実に思う。

https://gothamist.com/news/nearly-two-dozen-arrested-nyc-illegal-fireworks-guns-alligator-carcasses

 NYでは7月6日から第3段階:レストラン、飲食サービス、ホテルがオープンする。レストランの中での飲食は延期されたが、引き続きアウトドアでの飲食は大丈夫ということで、レストランやバーの前はテーブルと椅子、パラソルなどが置かれ、歩行者天国状態になっている。マンハッタンはまだまだゴーストタウン状態だし、アメリカでの感染率は増えている。
 ショーもまだまだだが、レストランで食事ができるのが切実に嬉しいし、NYは再オープンに向けて着実に進んでいる。まだ、家にいる時間が長いが、花火でストレスを解消するのではなく、違うことに目を向けてほしいものである。この夏、ライヴストリーミングからアウトドアショーに移行できることを期待して。

【編注】トランプ大統領も、独立記念日の演説でど派手に花火の打ち上げを強行しました。

interview with Mhysa - ele-king


Mhysa
Nevaeh

Hyperdub / ビート

PopExperimental

Tower

 どこまでも素朴なまま、さりげなく尖っている。けっして頭でっかちなわけではない。自然体でちょっと実験的──近年エレクトロニックなブラック・ミュージックの文脈で、そういうアーティストが増えてきている。道を用意したのはおそらくクラインだろう。フィラデルフィア(からブルックリンへ引っ越したばかり)のミサも、そのタイプの音楽家だ。
 2017年にラビットの〈Halcyon Veil〉からリリースされたファースト・アルバム『Fantasii』は、浮遊的な声とシンセの残響がすばらしい宝石のようなアルバムだった。3年ぶりのセカンド・アルバム『Nevaeh』は、ポップさを携えつつも、よりエッジィさを増している。“sad slutty baby wants more for the world” における声の反復や “w_me” の打撃音、“Sanaa Lathan” のキャッチーなコードや “brand nu” の天上的なハープなど、聴きどころはたくさんあるが、とりわけ注目すべきは “ropeburn”、“breaker of chains”、“no weapon formed against you shall prosper” の3曲だろう。ぎりぎりまで音数を減らした余白あふれる空間のなかで、ドローンや鈴、電子音がつつましげにヴォーカルと並走していくさまは、まるで沈黙それ自体が歌を歌っているかのようで、息を呑むほど美しい。しかも、それらがジャネット・ジャクソンやナズ&ローリン・ヒル、シャーデーのカヴァーだったりするから驚きだ(元ネタはそれぞれ “Rope Burn”、“If I Ruled The World”、“It's Only Love That Gets You Through”)。
 もっとも耳に残るのは、そして、二度にわたって挿入される “聖者の行進” のメロディである。「天国」の逆読みを題に冠した本作、その鍵を握るのはこの黒人霊歌~ルイ・アームストロングのカヴァーであるにちがいない。聖者が街にやってきたら、わたしもその列に加わりたい──そう彼女は語っているが、はたしてその真意とは? 〈Hyperdub〉が満を持して送り出すミサ、本邦初のインタヴューを公開。

セインツが来て平和になり、世の中のすべてが良くなる。わたしはそれを待っている。そして、彼らが来てくれるなら、そのなかに入りたい(笑)。一緒にいま世の中で起こっている問題と戦って、より良い世界をつくりたいと思うの(笑)。

まずは「Mhysa」の発音を教えてください。

ミサ(Mhysa、以下M):「ミサ」って読むのよ。

音楽活動をはじめることになったきっかけはなんでしたか?

M:活動をはじめたのは25歳くらい。まわりにミュージシャンの友だちが多くて、彼らがすごくサポートしてくれた。彼らと一緒に演奏するとき用に名前もつけてくれたり。スーパーヒーローのキャラクターみたいな名前にしたかったのよね(笑)。なにかと戦えるような名前を考えたの(笑)(註:「Mhysa」は『ゲーム・オブ・スローンズ』のキャラクターの愛称に由来)。子どものころは、教会の聖歌隊に入ってた。学校でも聖歌隊で歌っていたし、母親も歌っていたし、祖父も楽器を演奏して歌っていた。歌は、聖歌隊と母親から学んだの。

以前あなたは〈NON〉のいちばん最初のコンピ『NON Worldwide Compilation Volume 1』(2015)にチーノ・アモービとの共作で参加していました。その後〈NON〉からはEP「Hivemind」を出してもいますね。

M:エンジェル・ホがわたしをレーベルに紹介してくれて、あのコンピに参加する機会をつくってくれた。チーノと出会ったきっかけもエンジェル・ホよ。エンジェル・ホとはオンラインで知り合ったんだけど、そのときはチーノのことはぜんぜん知らなかった。わたしがフェイスブックにクレイジーなスピーカーの写真をポストしたんだけど、それをエンジェルが見て、「何それ!?」って反応してきて(笑)。そこから話しはじめて、その流れで「曲をつくるのか?」って聞かれたから、わたしのサウンドクラウドを教えたの。そこからコラボするようになった。チーノとは1曲だけだけど、エンジェルとはチーノとよりも作業しているわ。

今回〈Hyperdub〉からリリースすることになった経緯を教えてください。

M:前のレーベルが「じぶんたちは小さいレーベルだから、次のレコードのために、もう少し大きいレーベルに移ったほうがいい」って勧めてくれたんだけど、2018年の秋にヨーロッパをツアーしているとき、〈Hyperdub〉からアプローチがあって、彼らの「ゼロ(Ø)」パーティでプレイしないかというオファーがきたの。そこから彼らと話すようになって、わたしの新しいプロジェクトの音楽を聴いてみたいと彼らが言ってくれて、アルバムのリリースが決まったのよ。みんなほんとうにいいひとたちで、あのレーベルは大好き。ディーン・ブラントとか、ファティマ・アル・カディリとか、長年尊敬してきたアーティストがたくさん所属してるのも魅力。だから、コード9がわたしの音源を気に入ってくれて信頼してくれたのはほんとうに嬉しかったわ。彼ってほんとうにすばらしいひとだし、アーティストが活動しやすいよう居心地をよくしてくれるの。彼はわたしのメンターみたいな存在。

もっとも影響を受けたアーティストを3組あげるとしたら?

M:「もっとも!」って難しすぎる(笑)! いま出てくる名前は、R&Bシンガーのブランディとジャネット・ジャクソンね。あとは……思いつかない(笑)。

前作はジャネットの『Velvet Rope』にインスパイアされたそうですが、今回も “ropeburn” で彼女を引用していますね。

M:あの作品は、音ももちろんすばらしいんだけど、彼女がディープなテーマに触れている作品でもある。そこに魅力を感じるの。あのアルバムでは、同性愛だったり、エイズだったり、人間や人間関係の複雑さが表現されている。あの作品はすごく興味深くてパワフルだと思う。あのアルバムは、確実にわたしのお気に入りのジャネット作品のひとつだから、その作品の収録曲 “ropeburn” はカヴァーしてみたかったのよね。とうてい彼女みたいにはなれないけど、ちょっとジャネット感をもたらしたかったの(笑)。

ほかにナズ&ローリン・ヒルやシャーデーのリリックも引かれていますが、彼らのことばのどういうところに惹かれたのでしょう?

M:あの歌詞がツアー中にすごく響いてきたのよね。なんでかわからないけど涙が出てくる。だからライヴでも歌ってたんだけど、それをレコーディングすることにしたの。デーモンと戦っている様子をあんなに美しく表現しているところに惹かれたんだと思う。

本作では二度にわたってルイ・アームストロングの “when the saints” のカヴァーが登場しますね。この曲のどういうところにインスパイアされたのですか?

M:あの曲は、子どもヴァージョンみたいなものもあって、小さいときからずっとわたしの頭のなかにあって、あの曲について考え続けていたの。母親とピアノであの曲を弾いたりもしてた。あの曲は、変化が起こるって歌でもあるでしょ? セインツが来て平和になり、世の中のすべてが良くなる。わたしはそれを待っているの。セインツたちを待ってる。そして、彼らが来てくれるなら、そのなかに入りたい(I want to be in that number)(笑)。一緒に、ブレグジットとか、いま世の中で起こっている問題と戦って、より良い世界をつくりたいと思うの(笑)。だからカヴァーしたのよ。

制作はどのように進められるのでしょう? lawd knows との共同プロデュースとなっていますが、役割分担のようなものはあるのでしょうか?

M:曲によるわね。インストをつくるときは、いろんなサウンドをつなげていってかたちにしていくんだけど、コードパッドとか、MIDIキーボード・コントーローラーなんかを使っていろいろ試していくの。その過程でいいなと思うものができたらそこを深めていくわ。ヴォーカルにかんしては、まず歌詞から先に書く。ホントはビートから書くべきなんだけどね(笑)。でもわたしの場合は先に詩みたいなのを書いて、それがメロディックになっていくのよね。Lawd は、良い意味でルールを決めてわたしをジャンルのなかに留めてくれる。わたし、ときどきルールを忘れてじぶんがつくりたいものをただつくってしまうことがあるんだけど、彼が、「それもいいけど、こういうのをつくろうとしてるんじゃなかった?」って思い出させてくれるの。今回のアルバム制作では、ボードの前に隣り合わせに座って、わたしがまず何かやって、それを彼が正してくれるって感じだったわ。あと、作曲でも彼が役に立ってくれることもあった。作業中に彼がピアノでコードを弾いていて、彼はただ遊びで弾いていたんだけど、それがすごくよかったからわたしが使いたいと言って曲に使わせてもらったり。彼はドラム・プログラミングでもたくさん作業してくれているんだけど、リズムのセンスがすごく良くて、知識になる。彼のドラムってホントにクールなのよ。

本作をつくるにあたり、「こういう方向にしたい」など、事前に指針のようなものはありましたか?

M:あったほうがいいんでしょうけど、ぜんぜんなかった(笑)。頭にあったのは、じぶんの境界線を広げたいということだけ。フィーリングに従ってまず数曲つくって、そこからかたちを整えていったの。

もっともポップなのは先行シングル曲 “Sanaa Lathan” です。なぜ俳優のサナ・レイサンをタイトルに? 前作には宝石泥棒のドリス・ペインに捧げた曲がありましたけど、おなじくトリビュートでしょうか?

M:彼女が美しいから(笑)。スタイルもいいし(笑)。一般的に美しいといえばハル・ベリーもそうだと思うんだけど、サナ・レイサンのほうが彼女独特の美しさを持っていると思ったの。彼女が出ているバスケットの映画があるでしょ? あれに出てくる彼女が、この曲の美しい黒人女性のイメージなの(笑)。

わたしはなにを感じてなにを求めているのか。最初のアルバムはその答えの探索の旅のはじまりだった。2枚目は、それをもっと深く探っている。わたしにとっては、曲を書く、作品をつくるということが、黒人としての自分を理解するエクササイズなの。

プレスリリースによれば、『Nevaeh』は「黒人女性であることの経験の反映」であり、「黒人女性たちが終末的状況から抜け出し、より良い新しい世界を見つけるための祈り」だそうですね。“BELIEVE Interlude” でも「世界をより良く」ということばが繰り返されます。黒人でありかつ女性であることは、合衆国においてどのような経験なのでしょう?

M:それはアメリカに住んでいてもよくわからない。数年前にセラピーに通ってて、セラピストから「あなたはどう思う? どう感じる?」って聞かれたけど、わからなかったの。そんな質問初めてだったし。曲を書くということが、その答えをみつけるのに役立つの。わたしはなにを感じてなにを求めているのか。最初のアルバムはその答えの探索の旅のはじまりだった。2枚目は、それをもっと深く探っている。わたしにとっては、曲を書く、作品をつくるということが、黒人としての自分を理解するエクササイズなの。

冒頭のスキットでは、詩人ルシール・クリフトンの詩「won’t you celebrate with me」が朗読されています。現物は未確認なのですが、日本では彼女の児童書『三つのお願い(Three Wishes)』が小学校の教科書に載っているそうです。彼女はどのような詩人なのですか?

M:あの詩は、ここ数年インスタグラムにたくさん載っていたの。最初に読んだとき、ちょうどサンドラ・ブランドとかエリック・ガーナーの事件(註:前者は2015年、警官により暴力を受けた後、独房で死体となって発見された黒人女性。後者は2014年に警官の絞め技により殺された黒人男性)なんかについて考えさせられていたときで、どうやって黒人たちがこの状況を生き延びて、世界をより良くできるのか考えていた。そんなとき、あの詩を読んですごく美しいと思ったのよね。読んでいて涙が出てきたくらい、つながりを感じた。あの詩を使ったのは、わたしがこのアルバムで表現しようとしている空間の枠をつくり出す良い方法だと思ったからよ。

原詩の「バビロンに生まれた/非白人であり女性(born in babylon / both nonwhite and woman)」の「nonwhite」の部分を「black」に言い換えていますよね。それは非白人全般ではなく、あくまで黒人であることを強調したかったから?

M:そう。彼女が詩を書いたのは90年代だったから、「black」ということばをダイレクトに書けなくて、「nonwhite」にすることで意味をより開けたものにしたんだと思う。でもいまは2020年だから、黒人として生まれ育ったなら、そのひとの主張は黒人の主張だとハッキリ言えるし、「nonwhite」だと白人が中心っぽくなってしまう。わたしはその詩を白人だけが中心に聞こえるようにしたくなかったから、少し変えたの。

おなじくフィラデルフィアを拠点に活動しているムーア・マザーについてはどう思っていますか?

M:わたし、じつは去年の11月にブルックリンに引っ越したところなの。ムーア・マザーの音楽は好きよ。いいと思うわ。

※本インタヴューは、ジョージ・フロイド事件以前の2月におこなわれたものです。

Karl Forest - ele-king

 かつて Miyabi 名義で〈TREKKIE TRAX〉からもリリースのある Karl Forest が、新名義で初となるシングル「Moon & Back」を本日7月3日、リリースしている。ナイジェリア出⾝のシンガーをフィーチャーした、いまの季節にぴったりのラヴァーズ × アフロビーツな2曲を収録。今後の活躍にも注目だ。

Moodymann - ele-king

 窓のカーテンがすべて紫色に統一されているのは、プリンスの家のことではない。デトロイトのURの本拠地サブマージの建物の筋向かいにある家のことで、数年前から、おそらくはケニー・ディクソン・ジュニア(KDJ)が住んでいるのか(もしくはただ借りているだけなのか、いったい何のために?)わからないが、彼のものであるらしいとまことしやかに囁かれていると、昨年までは毎年デトロイトの野外フェスに行っている人物から聞いた。その写真、動画も見せてもらった。なるほど大きな一軒家(東京と比べると家賃は恐ろしく安いのだろう)の窓という窓は濃い紫のカーテンがあり、カーテンがない窓には黒人ミュージシャンの絵が絵が描かれている──プリンス、ジョージ・クリントン、ニーナ・シモン……。
 まったく人通りのない埃っぽい通りにポツンとそんな紫カーテンの屋敷があるのは異様といえば異様だが、しかもその建物からは通りに向かって、ただひたすら60年代~70年代のソウル・ミュージックが流れている。もうそれだけで、ひとつのメッセージである。

 よせばいいのに、この春リイシューされたプリンスの後期の傑作『レインボー・チルドレン』のアナログ盤を買ってしまったのだが、プリンスはジョージ・クリントンと並んでデトロイトの特別なヒーローのひとりである。KDJは前作の『Moodymann』からは、ハウス・ミュージックの形式をさらに拡張し、自分のルーツ(ソウル、ファンク、ディスコ)との接点に意識的なスタイルを模索しているように思える。ソウルやファンクの要素は最初からあったし、歌モノ自体は『Black Mahogani 』でも『Anotha Black Sunday』でもアンプ・フィドラーやホセ・ジェイムスなどを起用して試みてはいるが、近年のそれはリズムがハウスの機能性から自由になっているし、サンプリングにせよコラージュにせよ歌のように構成されている。

 コロナ渦ということで、察するにプレス工場が動かないから先に配信のみで5月21日にリリースされたのであろう『Take Away』の1曲目、アル・グリーンの“ラヴ&ハピネス”(ディスコ・ファンにはファースト・チョイスのカヴァーでも知られる)のサンプリングからはじまる“Do Wrong(間違えろ)”は、完璧なまでにゴスペル形式のハウスで、これはまったくKDJ印といえるのだが、その即興(ゴスペルとは決められた枠組み内での即興である)において洗練されている。続く表題曲は、キビキビしたファンクのシンセ・ベースと魔術的なコラージュによって、彼の教会(=ゴスペル)をディスコに変換する。「シスター、取って、取って、取っていって」と声は繰り返し、一瞬パトカーのサイレンが挿入される。
 が、しかし不安はすぐに消える。『Take Away』全編に滲み出ているKDJのブラック・ポップ・ミュージックへの愛情によって。アルバムはそして、KDJファミリーのNikki-Oが歌いアンドレスがプロデュースする“Let Me In(私を入れて)”~「みんなさよなら」を繰り返す“Goodbye Everybody”~デトロイトのポップ・ソウル・グループ「DeBarge」参加の“Slow Down(ゆっくりと)”、それからKDJ流のギャグ“I'm Already Hi(俺もうハイ)”を経て、ため息が出るほど美しいディープ・ハウスの“Just Stay A While”へと到達する。ここまでの流れがじつに心憎いのだけれど、この曲におけるシンセベースはラリー・ハードの“キャン・ユー・フォール・イット”の次元に侵入していると言っていいし、“Do Wrong”と“Just Stay A While”がアルバムのベストなのは疑いようがない。
 とはいえ、“Let Me Show You Love(君の愛を俺に見せてくれ)”も陶酔的なソウルとハウスのエレガントなミクスチャーだ。アルバムを締める、ジェイミー・プリンシプルのセクシー・ヴォイスが注入された“I Need Another ____”は80年代半ばのシカゴ・ハウスへのトリビュートであろう。
 じつは最後に、bandcampの画面には掲載されていないが、音源を買うとボーナストラックとして“Do Wrong”のSkate editがヴァージョンが入っている。デトロイトではいまでもスケート場でダンス・ミュージックを楽しむというスタイル(ソウル・スケート・パーティ)が活きているのだった。

 KDJはDJであり、古きソウル、ファンク、ディスコの研究家だ。まだ黒人コミュニティにしか知られていないような、倉庫にどっさり眠っているキラーなソウルやディスコを彼はチェックしているのだろう。そしてそれが彼の作品に息吹を与えているのは間違いない。『Take Away』はKDJのなかでもとりわけ歌(=ソウル)が前景化した素晴らしいアルバムだが、頼むから早くヴァイナルを出してくれ。ハードディスクではないところで、自分のコレクションに加えたい。


※なお、本日7月3日のbandcampは、Covid-19の影響を受けたアーティストをサポートするために売上のシェアを放棄する日。また、この日のために以下のレーベルやアーティストがさまざまな支援のため、特別なリリースを用意しているのチェックしてください(https://daily.bandcamp.com/features/artists-and-labels-offering-donations-special-merch-and-more-this-friday-july-3)。ちなみに、「bandcampがいかにしてストリーミングのヒーローになったのか」はガーディアンのこの記事を読んで。英語だけど(https://www.theguardian.com/music/2020/jun/25/bandcamp-music-streaming-ethan-diamond-online-royalties)。

KOTA The Friend - ele-king

 NY・ブルックリンを拠点に活動し、自主リリースでありながら、2018年リリースの 1st アルバム『Anything.』や昨年リリースの 2nd アルバム『FOTO』が一部のヒップホップ・リスナーの間で話題となった、現在27歳のラッパー、KOTA The Friend。自らプロデュースも行ない、メローでレイドバックしたビートに、自らの家族や日常生活に根ざしたテーマで、万人に届くピースフルなメッセージを込めたラップを乗せるという彼のスタイルは、いま現在のメインストリームなヒップホップ・シーンのトレンドとも異なる。しかし、あくまでもストリートに根付いた上でのオーガニックな彼の楽曲は、殺伐としたいまの時代だからこそ求められているのも事実で、特にコロナ禍かつ BLM (Black Lives Matter)ムーヴメントが世界中に広がっている最中の5月下旬に、今回のアルバム『EVERYTHING』がリリースされたことは大きな意味を持ち、人びとの心に寄り添うような視線で語られる彼のポジティヴなメッセージや音楽性に救われる人もきっと多いに違いない。

 彼の音楽的な特徴は、ギターやシンセサイザー、ホーンなどを多用した生っぽい感覚のあるサンプリング・トラックと、そのサウンドに対して実にマッチしている心地良いフロウとのコンビネーションにある。ある意味、曲によってはローファイ・ヒップホップなどにも通じる部分もあった彼のいままでの楽曲に対して、今回の『EVERYTHING』はビートの面で明らかな変化が生じているのだが、それはドラムの部分だ。ハイハットやキックを連打するパターンであったり、リズムマシン的なドラムの音質は、まさにトラップそのもの。実際、このビート感はすでに 1st アルバムでも一部で導入されており、2nd でさらに強化されていたのだが、本作ではアルバム一枚を通して、ほとんどの曲でこのスタイルが貫かれており、さらに言えば彼自身のラップもトラップ色が非常に濃くなっている。軸にあるメローな部分は変わらないまま、トラップの要素が足された彼のサウンドは、素直に格好良いし、個人的にはめちゃくちゃ好みだ。このスタイルが彼の専売特許ということではないと思うが、完璧とも言えるバランス感によって、強固なオリジナリティが貫かれている。

 同郷ブルックリンの Joey Bada$$ とクイーンズ出身の Bas がゲスト参加した “B.Q.E” は、そんな本作の魅力が詰まった一曲であり、彼らの地元を通るフリーウェイを掲げたタイトルの通り、実にスタイリッシュなニューヨーク・アンセム(=賛歌)になっている。また、前作での “Hollywood”、“Sedona” のように、これまでも国内外の様々な地名をタイトルに付けた曲を発表してきた KOTA The Friend だが、今回は “Long Beach” と “Morocco” という2曲を披露しており、数少ない非トラップ・ビートの “Long Beach” は歌のパートも心地良く、非常に開放感ある一曲で、一方の “Morocco” は透明感ある美しいトラックに乗った tobi lou とのコンビネーションがタイトに響く。他にもアルバム冒頭の “Summerhouse” から “Mi Casa” への気持ち良すぎる流れであったり、Joey Bada$$ と並ぶ大物ゲストの KYLE がゲスト参加した “Always” など聞きどころは多数あり、俳優の Lupita Nyong’o と Lakeith Standfield がそれぞれメッセージを寄せるインタールードなども含めて、アルバムの構成という面でも隙はない。ラスト・チューンの “Everything” では彼の息子=Lil Kota も参加しており、ふたりの掛け合いによるラストの部分から得られる幸福感は何ものにも代え難い。こんな気持ちで聞き終えるヒップホップ・アルバムは本当に希であろうし、この作品に出会えたことを幸せに思う。

interview with Baauer - ele-king

 いま、地球が怒っている。46億年の歴史上、いちばん怒っている。

 Baauer のニュー・アルバム『PLANET’S MAD』はもともと、素晴らしい生命体が住む汚れなき星(この星とは大ちがいだ!)についてのストーリーを語るためのコンセプト・アルバムだったという。けれども、リアル・ワールドはフィクションよりも奇なり。人類を未曽有のパンデミックが襲った結果、Baauer の激しく跳ね回るビートとうねるベース、自由に飛び回るヴォーカル・サンプルは、気候変動と疫病に見舞われたこの星がぶちぎれていることを表現しているようにしか思えない。

 2013年に一大ミームとなった “Harlem Shake” の生みの親である Baauer は、ファースト・アルバム『Aa』(2016年)でプッシャ・Tやフューチャー、M.I.A.、G-DRAGON といったヴォーカリストとともに、ど派手なトラップ・エレクトロとベース・ミュージックを交配したパーティーを表現していた。引き続き〈LuckyMe〉からのリリースとなるこの『PLANET’S MAD』では、インストゥルメンタルに集中した上で、ひずんだ電子音とトライバルなパーカッションが前作以上にアッパーに舞い踊る。狂ったようにテンションを上げていくこのダンス・アルバムは、ダンス・ミュージックの現場から遠ざけられているひとびとのわだかまりを、多少は打ち砕いてくれるはずだ。

 一方、ここで Baauer はアゲるだけではなく、これまでになくシリアスな、内省的な表現もしている。それは『PLANET’S MAD』の10曲め、“REMINA” 以降の後半部分を聞いてもらえればわかるだろう。『PLANET’S MAD』のメランコリックなパートは、故郷である母なる地球について私たちが思いを巡らせるための時間であるのかもしれない。

『PLANET’S MAD』について、ハリー・バウアー・ロドリゲスが語る。


Listen Out Festival

直接顔を合わせられないからこそ、かえって人とのつながりを大切にできるようになったというかね。コミュニティが逆に活発になってきていて、すごくいい変化が生まれてるなと思ってるよ。

NYCの状況は、ここ東京よりもずっと厳しいと思います。いま、どんな状況ですか?

ハリー・ロドリゲス(Harry Rodrigues、以下HR):実際には何も変わっていないんだけど、ニュースが騒ぎ立てている感じだね。外を歩いたりしても、意外といつも通りの景色が広がっているんだよね。でもニュース番組が怖がらせてくるから、家にいるようにしている。部屋にこもって、オンラインで自分の音楽をうまく配信していこうと画策してるね。それはそれですごく楽しいよ。この状況をうまく乗り越えていくためにも、いい方法を見つけたなと思う。

Twitch(ゲームの実況プレイをライヴ配信するプラットフォームで、音楽ライヴも増えている)での配信やゲーム「Animal Crossing (どうぶつの森)」を楽しんでいますよね。拝見しています。そんな状況でいま、どのように音楽に向き合っていますか?

HR:最初の頃はこの状況にうまく適応できなくて、どうすればいいかよく分からなかったんだよ。でも Twitch をはじめてから変わってきた。オンラインでいつも聴いてくれるファンも増えてきて、曲作りの新しい方法を見つけたって感じだね。オンラインでも人とつながることはできるし、Twitch をはじめたのは本当によかった。ただ俺の音楽はライヴありきだから、その点は厳しいよね。全部キャンセルになってしまったし、ライヴがない音楽生活っていうのはすごく違和感がある。他のアーティストも同じだと思うんだけどね。まあいまは、音楽を作る方を楽しんでる。それはそれで、いい変化でもあるしね。

なるほど。いきなりシリアスな質問で恐縮ですが、新型コロナウイルスが人びとの生活を脅かし、クラブの営業も不可能な現在の状況で、エレクトロニック・ダンス・ミュージックが持ちうる意味やパワーとはどんなものだと考えますか?

HR:そうだね。直接的には人が集まれない状況になったからこそ、俺たちが音楽を通して、オンラインでポジティヴな流れを作るいい機会になっていると思う。コミュニティを作るちょうどいい機会だし、直接顔を合わせられないからこそ、かえって人とのつながりを大切にできるようになったというかね。同じ畑のアーティストとかフェスティバルも、オンラインでどんどん配信してるしね。コミュニティが逆に活発になってきていて、すごくいい変化が生まれてるなと思ってるよ。

たしかに、ダンス・ミュージックはコミュニティのためのものですよね。あなたは Baauer として、数多くのヴォーカリストたちとコラボレーションをしています。コラボレーションしたいと思うポイントはなんでしょうか?

HR:いつも、気になったアーティストには俺から声をかける。ポイントというよりは、純粋にかっこいいことやってるなと思ったアーティストとか、前からファンだったアーティストとかに連絡してみるんだ。それでまぁ、返答が返ってくるのと返ってこないのと半々って感じかな。承諾してもらったとしても、その相手が別のプロジェクトに取り掛かっちゃって、うやむやになることとかも往々にしてあるし。だから、もともと俺から連絡をしてみてるアーティストは本当にたくさんいるんだよ。でも不思議と、タイミングが合って最終的にコラボレーションすることになったアーティストとは、何もかもがうまくいくことが多い。すごく満足のいく曲ができるんだよね。

そのコラボレーションも、越境的だと思います。たとえば、幼い頃からドイツやイギリスなど、さまざまな土地で暮らしてきたことは、あなたの音楽に対する考え方に関係していますか?

HR:特に、7歳から14歳まで住んでたイギリスはそうだね。当時は音楽を聴くといったらラジオだったんだけど、間違いなく、あの時代が俺の音楽の嗜好を決めたね。UKガレージにはまってて、クレイグ・デイヴィッドが好きだった。もともとはUKポップから入って、そこからUKガレージが好きになったんだ。


Nick Melons

アルバムを通してフィクションのストーリーを伝えるのって、すごく楽しいんだってことに気づいてね。ただ自分の新曲を集めるタイプのアルバムよりも、ひとつの作品をつくり上げている感覚で楽しかった。

クレイグ・デイヴィッドがUKガラージをポップに広げたのは事実だと思います。コラボレーションに話を戻すと、あなたと日本のミュージシャンたちとのコラボレーションは、注目すべきことだと思っているんです。前作『Aa』の “Pinku” に参加した PETZ、“Night Out” に参加した YENTOWN クルー、“Open It Up”をプロデュースした Awich。彼らとのコラボレーションはいかがでしたか?

HR:みんな本当にかっこいいよね。スタイルが独特で、他の国とは一線を画してる。最初のきっかけは PETZ で、そこからつながっていった。東京にすごく仲がいい友だちがいるんだ。すごくいい奴で、東京に行くときには彼が色んなクールな場所を案内してくれるんだけど、一度東京に遊びに行ったときに彼が連れて行ってくれたのが、当時 PETZ が働いてた店だった。そこで PETZ のみんなと話して、SNSでつながって、やり取りしたりしてた。それで YENTOWN のことを知ったんだよね。まずは PETZ とコラボして、そのあと YENTOWN、そして、YENTOWN のクルーから Awich のことを聞いて、Awich の曲をプロデュースすることになった。ここ数年間彼らのコミュニティのアーティストたちと仕事をしたことになるけど、どれもすごくいいコラボレーションになって良かったよ。

いい関係性ですね。あなたの新しいレコードについて聞きたいと思います。本当に素晴らしいアルバムでした。いつから制作をはじめ、どのようなコンセプトでつくったのでしょうか? また、前作と比較して、まず気づいたのはヴォーカリストがフィーチャーされていないことでした。これはどうして?

HR:制作をはじめたのは1年半前。そろそろ次のアルバムを出すころだなと思ってね。それで〈LuckyMe〉のドム(Dominic Sum Flannigan)と話して、フィーチャリングなしのインスト・アルバムにするのがいいんじゃないかってことになった。前回は色んなアーティストとコラボしたアルバムだったから、今回は全部自分だけの曲にしてみるのがちょうどいいだろうってことで。それを前提にして、コンセプト・アルバムにするのが面白そうだっていう話になった。それで、自分の中でSF的なストーリーを作ってドムに説明したら、最初は「頭おかしいんじゃない?」って言われたんだよ(笑)。でもストーリーに沿った曲をどんどん作っていくうちに、アルバムを通してフィクションのストーリーを伝えるのって、すごく楽しいんだってことに気づいてね。ただ自分の新曲を集めるタイプのアルバムよりも、ひとつの作品を作り上げている感覚で楽しかった。他のアーティストとコラボレーションするのも、もちろん楽しいんだけどね。違う面白さがある。

なるほど。そのかわり、あなたの音楽における重要なエレメントであるヴォーカルのサンプルが様々なかたちで使われています。どうしてヴォーカル・サンプルを使うのでしょう?

HR:サンプルは断トツで何よりも、いちばん大事な要素だね。さっきも話したイギリス時代、UKガレージを聴いていたときから、色んなアーティストのヴォーカルサンプルの使い方が気になっていたんだ。別の曲からサンプルを取って、自分の曲に落とし込むって面白いなと思って。それがずっと自分の中に残ってるね。だから、自分で音楽を作りはじめてからもずっと、別の場所からサンプルを取ってきて、自分の音楽に変えるっていう作業がいちばん好きなんだ。人が作ったものからさらに新しいものを作る。音楽作りでいちばん楽しいと思う工程だね。

プレスリリースではファットボーイ・スリム、ケミカル・ブラザーズ、ベースメント・ジャックス、ダフト・パンクなど、90年代のダンス・ミュージックが引き合いに出されています。たしかにそれも感じますが、曲ごとにアプローチはさまざまです。新作では音楽的にどんなところをめざしましたか?


HR:ちょうどこの前、Twitch の配信でこの話をしていたな。曲を作るときに気にしているのが、色々なスタイルの音楽を作るっていうことなんだよね。テンポとかサウンドに幅を持たせたい。その上で、どれも俺らしいものにするっていう。全然違うスタイルの曲なのに、聴くだけで「Baauer だな」って分かるものにしたいんだ。それが俺の音楽的な目標なんだよね。色んなジャンルの音楽が好きだから、自分が作る音楽に関しても、テンポやスタイルを固定してしまいたくない。色んなアプローチをしながら、Baauerらしい音楽を作っていきたいんだ。


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「惑星が危険な目に遭っている」っていうコンセプトで他の曲の制作を進めていった。そしたら、このパンデミックが起こった。「地球が怒ってる(PLANET'S MAD)!」って思ったよ(笑)。

1曲めの “PLANCK” のアウトロでは、日本語が聞こえてきました。これは気温と電力についてのニュース音声ですよね。気候変動はこのアルバムと関係していますか?

HR:その名も「PLANET'S MAD」だからね(笑)。ただ実は、最初は冗談で仮に付けたタイトルだったんだけど。でも制作を進めていくうちに、俺とドムの中でこのタイトルがしっくりくるようになった。ストーリーとしては、汚れのない惑星がどこかにあって、そこには素晴らしい生命体が住んでて……っていうものなんだ。あんまり説明しすぎると面白くなくなってしまうんだけど、自分が住んでいる惑星に対して、自分の生活がどんな影響を及ぼしているのかを考えたり、新しい綺麗な惑星で、その環境を大切にしながら生きていくことを想像することって、地球への考え方を変えることにもつながると思ってるから。

繰り返しになりますが、「HOT 44」や「PLANET’S MAD」といったフレーズは、気候変動に代表されるこの星の危機を指しているのではないかと思うんです。2曲めの “PLANET’S MAD” で表現していることを教えてください。アートワークやヴィデオが表現している宇宙のイメージは、それと関係していますか?

HR:最初に作った曲が “PLANET'S MAD” で、そこからタイトルを取ったんだ。1年半前にアルバムを作りはじめたときにはさっき言ったストーリーがすでに頭の中にあったから、惑星とエイリアンのストーリーにするっていうのは最初から決めてた。だから “PLANET'S MAD” はすぐに出来上がって、そこをスタート地点にして、「惑星が危険な目に遭っている」っていうコンセプトで他の曲を進めていった。もともとのアイディアとしては、架空の惑星だけが舞台だったんだ。そこから、暗に地球についての話をしているようなコンセプトに変わっていった。だからMVでは地球が軸になっているし。そしたら、このパンデミックが起こった。「地球が怒ってる(PLANET'S MAD)!」って思ったよ(笑)。だから、リリースを延期にする話も出たんだ。ドムに、「不謹慎な気がするから延期にした方がいいかな?」って相談した。でも彼は「今だからこそ出そう」って。こんなタイミングになるとは思っていなかったから、驚きだよね。

アルバムの後半、“REMINA” から “HOME” へ、という2曲の流れが素晴らしかったです。このメランコリックでチルアウトした2曲は、どのようにしてつくられたのでしょう?

HR:その2曲は最後の方で作った曲で、当初はちょっとアルバムに合わないかなと思って、外そうとしてたんだ。でも流れがよかったって言ってもらえて嬉しいな。最終的に収録することにしたのは、この2曲の流れがそれまでの緊張感とかとげとげしい雰囲気を中和してくれると思ってのことだったから。ここで一旦リラックスできる、静かな曲を入れるのがちょうどいいと思って。結果的に、全体のバランスを取り持つ2曲になったね。

エンディングである “GROUP” には、“REMINA” “HOME”のメランコリーと、Baauer らしいヘヴィなビートが同居しているかのように感じました。この曲についても教えてください。

HR:この曲をクロージングにするのは、最後の方で決めたことだったんだよね。いま言ってくれたみたいに、ハードなビートとメランコリーが同居していて、作ったときからずっとお気に入りの曲だった。最後の曲にすることにしたのは、制作を進めていくうちに、この曲にアルバム全体のストーリーのエンディング感を感じるようになったから。ストーリーの中では、最終的には惑星はどこかに行ってしまうんだ。新しい惑星が出現したとき、最初はみんな怖がっているけどだんだん正体がわかって、その惑星のことを好きになっていくんだけど、結局はどこかに消えていってしまってみんな悲しむ。その消えていく惑星の様子をいちばん表現しているのが “GROUP” なんだよね。

ストーリーとの兼ね合い、ということで腑に落ちました。ところで、“HOME” で歌っているのは、英国のシンガーソングライターである Bipolar Sunshine さんですね。ヴォーカリストがほとんどフィーチャーされていないこのアルバムに彼が参加した理由や経緯を教えてください。

HR:“HOME” が持っているような雰囲気の曲をアルバムに入れたいっていうのはずっと頭にあったけど、最初は全部インストにするつもりだった。でもとりあえず Bipolar Sunshine のヴォーカルでレコーディングしてみたら、ものすごく良い曲になった。アルバムに入れざるを得ないぐらいにね。そこに言葉にできる理由はなくて、1曲だけヴォーカル曲を入れるっていうのがベストだと思った。それに、彼の声は素晴らしいから。唯一のヴォーカル曲を彼にお願いできてよかった。

感動的な曲だと思います。“HOME” で歌われる「home」や「mama」といった言葉は、なにを表しているのでしょうか?

HR:歌詞を書いたのは Bipolar Sunshine なんだよ。このアルバムのストーリーも伝えていない状況で、彼の信条とか経験をもとにしたこの歌詞を書いて、それが見事アルバムにぴったりな曲になったっていう。すごいよね。「home」や「mama」は故郷としての地球や母なる地球って意味にも取れるし、幸せを感じさせながら、俺たちの「home」である地球について顧みさせられるというか。もともとは Bipolar の中での「home」や「mama」だったものが、俺たちにも通じる意味を包含してるんだ。


Jake Michaels

新しい惑星が出現したとき、最初はみんな怖がっているけどだんだん正体がわかって、その惑星のことを好きになっていくんだけど、結局はどこかに消えていってしまってみんな悲しむ。

“HOME” にはハドソン・モホークが参加しています。モホークとあなたは〈LuckyMe〉の同僚であり、トラップとEDMをけん引してきたふたりだと思います。あなたから見て、ハドソン・モホークはどんな音楽家でしょうか?

HR:彼のことはもう本当に、いちばん尊敬してる。特にインスピレーションを受けているアーティストのうちのひとりで、それこそ音楽をやる前から尊敬しているアーティストだね。人間的にも。だから今回手伝ってくれることになって、こんなに嬉しいことはないなって。幸せだよ。

大半の曲に参加している Holly という方は、どんな音楽家ですか?

HR:彼はポルトガル出身のプロデューサーなんだけど、曲の作り方が独特ですごく勉強になるんだよね。もともと名前だけは知っていて。最初は1曲だけお願いするつもりで依頼をしたんだけど、出来上がったものに度肝を抜かれて(笑)、本当にすごくてね。それで2曲目をお願いして、それもやばいぐらい最高で、3曲目、4曲目……ってお願いして。自分が作った曲を新しい次元に連れて行ってくれる人に出会えたって感じだね。

他にクレジットで気になったのは、“MAGIC” のチド・リムです。彼はドラムで参加したのでしょうか?

HR:どうだったかな……。コードだけ依頼したんだったと思う。そうだ、それで、あんなに素晴らしいドラマーなのに、本当にコードだけ書いて送ってくれて贅沢なことをしたなと思ったんだ(笑)。彼も〈LuckyMe〉に所属しているからそもそも知り合いだったんだけど、個人的に結構仲が良くてね。プライベートでも会うミュージシャンの中でも、特に面白い人で。初対面はロンドンだったな。彼の出身地のオーストリアでも遊んだりして、年々仲良くなっていってるね。でも仕事で一緒になったのは今回が初めてだったから、新鮮で楽しかったな。

ところで、〈Lucky Me〉の Twitter アカウントが「PLANET’S MAD (A. G. mix)」とつぶやいています(https://twitter.com/LuckyMe/status/1257326129280684032)。これは、あの〈PC Music〉の A・G・クックがリミックスをするということ?

HR:そうだよ(笑)。まじでやばいやつが出来たから。本当にすごい。いつリリースするかはまだ決まってないけど、遠くはない。実はもう、彼が Sky Festival(『Porter Robinson’s SECRET SKY MUSIC FESTIVAL』、5月9日(土)(現地時間)配信)に出演したときにプレイしたんだけどね。

それは聞き逃してしまいました……。リリースを心待ちにしています。今日は本当にありがとうございました。早くあなたの音楽をクラブやフェスで、低音が効いた大音量で聞きたいものです。

HR:日本にも本当に本当に行きたい。ライヴはもう、待ちきれないよね。

「戸川純の人生相談 令和弐年」がますます面白くなっています! 深夜に営業している歯医者情報から戸川純の本名である「戸川順」がどのような経緯でつけられたかなど、初めて聞く話がまだまだ出てきます! 何を隠そう『疾風怒濤ときどき晴れ』のインタヴューは、かなりの部分が脱線でした! ありがち! その話ともまったくかぶっていない。どこにどれだけエピソードが詰まってるんでしょうか。そして、毎回、エンディングで歌われる曲も素晴らしく、個人的には「夏は来ぬ」のバックトラックにもやられてしまいました。これ、レコーディングしないのかな~。


戸川純の人生相談 令和弐年 第五回

戸川純の人生相談 令和弐年 第四回

戸川純の人生相談 令和弐年 第三回

戸川純の人生相談 令和弐年 第二回

A Certain Ratio - ele-king

 今年の1月、まだ世界がコロナを知らなかった時代の最後の月、ア・サートゥン・レシオの来日ライヴに行ってきました。マンチェスターの〈ファクトリー〉の看板バンドのひとつで、“ジョイ・ディヴィジョンがジョイムズ・ブラウンをカヴァーしたかのような”という評価の通りの、強力なリズムを擁したファンク・バンド(当時としては極めて珍しい黒人ドラマーだった)でありながら、しかし音楽が発する空気は〈ファクトリー〉系のそれなのでした。お若い世代は『To Each... 』(81)もしくは『Sextet』(82)を聴いてくだされ。あまりの格好良さに腰を抜かすでしょう。また、レイヴ世代には、忘れがたい「the big E」(89)なんて12インチもありました。
 とくにその初期においては〈ファクトリー〉系では、かの三田さんも一目置くほどのお洒落さんバンドだった彼らも、今年の1月に見たときには当たり前の話それなりに年季の入った姿を披露してくれたものですが、演奏はACR印の冷たいファンクで、まったくクールでした。否応なしに12年ぶりの新作への期待も高まるし、そしてじっさい新作はACRのファンク&ソウルが極まっているといえるような素晴らしい出来です。発売は9/25なので当分先ですが、まずは新曲とそのリリック・ビデオを公開しましょう。


■新曲「Always In Love」リリック・ビデオ

https://youtu.be/

■Listen & Pre-Order
https://smarturl.it/acrloco

【A Certain Ratio】
ACRのメンバーは、ジェズ・カー、マーティン・モスクロップ、ドナルド・ジョンソンの3人組。マンチェスターで1977年に結成され、伝説のファクトリー・レーベルにとって最初のシングルは彼らのシングルであった。すぐさまポスト・パンクのパイオニアとして世界に知られるところとなるが、ファンク、ジャズ、エレクトロ、テープ・ループなどのアヴァンギャルド要素をポップソングの世界に持ち込み、それをポスト・パンクの美学で包み込んだのだった。その影響は、トーキング・ヘッズ、LCD サウンドシステム、ハッピー・マンデイズ、フランツ・フェルディナンド、ESG、ファクトリー・フロアー、アンドリュー・ウェザーオールに至るまで及んでいる。ガーディアン紙のデイヴ・シンプソンはこのバンドに敬意を払い「ひとたびARCを聞き始めたら、その音楽を止めことは難しい」と記事にして、「アシッド界のジェイズム・ブラウン」と評している。

このアルバムはこれまでの40年間、彼らの嗜好や表現してきたものを完璧なまでに一気に詰め込んだものとなった。「先日リリースしたボックスセットのために過去を掘っていったことが我々を目覚めさせ、今回のアルバムに影響したのは間違いないね」と語るマーティン・モスクロップ。「そのことが我々のイマジネーションに火をつけてくれたんだ。過去のことも上手くやろうという気になったのは、未来に向けて前に進もうとしたからだ」と。このことがジェズ・カーとこのバンドの歴史をも再びつなげることになったのであるが、それは文字通り単なる過去の栄光の焼き直しではなく、このバンド独特の大胆で風変わりなスタイルでスタートすることであった。「我々はこのバンドの初期において存在した“全能感”をようやく取り戻すことができたんだ」と彼が語る。「自分か参加しているバンドや自分が作っている音楽以外他に全く何も考えられないあの感覚なんだ」。


ア・サートゥン・レシオ (A Certain Ratio)
ACR ロコ (ACR Loco)

Mute /トラフィック
2020年9月25日(金)

Tracklist
1. Friends Around Us
2. Bouncy Bouncy
3. Yo Yo Gi
4. Supafreak
5. Always In Love
6. Family
7. Get A Grip
8. Berlin
9. What’s Wrong
10. Taxi Guy
11. Fat Ratio *
12. SupaFreaky *

*ボーナス・トラック

Listen & Pre-Order
https://smarturl.it/acrloco

LINK
https://www.acrmcr.com/
www.mute.com
www.trafficjpn.com

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