「You me」と一致するもの

釣心会例会 - ele-king

 これはよだれだらだらの組み合わせです。食品まつり a.k.a foodman が地元・名古屋にて続けているパーティ《釣心会例会》がなんと渋谷 WWWβ で開催、しかもシカゴのフットワークの巨星 RP Boo を招きます。名古屋からはツチヤチカら、Free Babyronia、東京からは脳BRAIN も参加するとのことで、なんとも贅沢な一夜になりそうです。6月15日はβに集合~。

食品まつり a.k.a foodman が名古屋にて主宰するロングラン・パーティ「釣心会例会」が最新アルバムを引っさげ再来日のシカゴの魔人 RP Boo と地元から 6eyes のフロントマンでもあるツチヤチカら、〈AUN Mute〉のFree Babyronia、東京からコラージュDJ 脳BRAIN を迎え WWWβ にて再始動。

- 食品まつり a.k.a foodman a.k.a 樋口爆炎 より

2004年から名古屋にて不定期開催している私主催のパーティー「釣心会例会」を渋谷WWWβにてスタートする運びとなりました。名古屋で開催時は地元の友人と一緒にクラブや路上、人の家、山の中など場所/ジャンルを変えながら開催してきましたが、今回15年の歴史の中で初めて県外での開催になります。

1発目はシカゴからジューク/フットワークのオリジネーターの一人であり3年ぶりの来日となるRP BOO師匠をお迎えして、「都会的な土着感」をテーマにしたパーティーを行いたいと思います。

国内のゲストとして名古屋からはレジェンド的ポストロックバンド6eyesのフロントマンであり、呂布カルマさんとのコラボも話題のツチヤチカらさんのソロプロジェクトと、名古屋拠点のレーベル〈AUN Mute〉を主催し、CampanellaさんやNero Imaiさんなどのビート提供もしつつビート・ミュージックをベースにしたノイズ/エクスペリメンタルなスタイルのライブが凄まじいFree Babyroniaさん。東京からはコラージュ、アバンギャルド的なスタイルでDJの概念を超えたパフォーマンスで話題の脳BRAINさんをお呼びました。

名古屋でやってた時の雰囲気そのままにお届けしたいと思っておりますので、肩の力を抜いてフラっとお越し下さいませ♨

釣心会例会
2019/06/15 sat at WWWβ
OPEN / START 24:00
ADV ¥1,800@RA | DOOR ¥2,500 | U23 ¥1,500

RP Boo [Planet Mu / Chicago]
Free Babyronia [AUN Mute / Nagoya]
ツチヤチカら [6eyes / Nagoya]
食品まつり a.k.a foodman [Nagoya]
脳BRAIN

※You must be 20 or over with Photo ID to enter.

RP Boo [Planet Mu / from Chicago]

本名ケヴィン・スペース。シカゴの西部で生まれ、80年代に南部へと移住し、 多くのジューク/フットワークのパイオニアと同じようにシカゴ・ハウス/ジュークの伝説的なダンス一派 House -O-Matics の洗礼を受け、〈Dance Mania〉から数多くのクラシックスを生み出したゲットー・ハウスのパイオニア Dj Deeon、Dj Milton からDjを、Dj Slugo からはプロデュースを学び、それまであった Roland のドラム・サウンドの全てにアクセス、またパンチインを可能にした、現在も使い続ける Roland R-70 をメインの機材にしながらトラックを作り始め、1997年に作られた“Baby Come On”はフットワークと呼ばれるスタイルを固めた最初のトラックであり、その後1999年に作られたゴジラのテーマをチョップしたゴジラ・トラックとして知られる“11-47-99”はシーンのアンセムとなり、数多くのフットワークのトラックに共通する無秩序にシンコペートするリズム・パターンは RP Boo のトラックに起因すると言われる。地元では秘蔵っ子 Jlin も所属するクルー D'Dynamic を主宰し、〈Planet Mu〉よりリリースのフットワーク・コンピレーション『Bangs & Works Vol.1』(2010)、『Bangs & Works Vol.2』(2011)に収録され、2013年にデビュー・アルバム『Legacy』、2015年にセカンド・フル『Fingers, Bank Pads & Shoe Prints』を同レーベルより発表。2016年には初期のクラシックスを収録した「Classics Vol. 1」や新録「The Ultimate」を発表。フットワークの肝である3連を基調とした簡素なドラム・マシーンのレイヤーとシンコペーションによる複雑かつ大胆なリズムワークに、コラージュにも近いアプローチでラップのような自身のヴォイスとサンプリングを催眠的にすり込ませ、テクノにも似たドライでミニマルな唯一無二の驚異的なグルーヴを披露。古代から発掘されたフューチャー・クラシックスとも称され、先鋭的な電子音楽やアヴァンギャルドとしてもシーンを超えて崇められるフットワークの神的存在。2018年に最新アルバム『I'll Tell You What!」を〈Planet Mu〉より発表。

https://soundcloud.com/rp_boo

Foodman [Nagoya]

名古屋出身のトラックメイカー/絵描き。シカゴ発のダンス・ミュージック、ジューク/フットワークを独自に解釈した音楽でNYの〈Orange Milk〉よりデビュー。常識に囚われない独自性溢れる音楽性が注目を集め、七尾旅人、真部脩一(ex相対性理論)、中原昌也などとのコラボレーションのほか、Unsound、Boiler Room、Low End Theory 出演、Diplo 主宰の〈Mad Decent〉からのリリース、英国の人気ラジオ局NTSで番組を持つなど国内外で活躍。2016年に〈Orange Milk〉からリリースしたアルバム『Ez Minzoku』は Pitchfork や FACT、日本の MUSIC MAGAZINE 誌などで年間ベスト入りを果たした。2018年9月に〈Sun Ark / Drag City〉からLP『ARU OTOKONO DENSETSU』、さらに11月にはNYの〈Palto Flats〉からEP「Moriyama」を立て続けにリリース。2019年3月には再び〈Mad Decent〉からEP「ODOODO」をリリースした。

https://soundcloud.com/shokuhin-maturi

Free Babyronia [AUN Mute / Nagoya]

ペルー、リマ出身、日本在住。2005年頃より楽曲制作を開始。名古屋を拠点にライブ活動を行い、様々な名義で創作活動を行う。2012年にレコード・レーベル〈AUN Mute〉を設立。Campanella、Nero Imai などラッパーへのトラック提供や、Red Bull Music Academy Bass Camp への参加、イギリスの大型フェス Bloc が主宰したドキュメンタリー・フィルムに楽曲を提供、未来科学館で行われたインスタレーション「INSIDE」のサウンドを担当するなど活動は多岐に渡る。2018年には RCSLUM の MIX CD 部門、ROYALTY CLUB から「MUSIC OF ROYALTY SELECT」をリリース。同年にフルアルバム「PARADE」を〈AUN Mute〉よりリリースする。

https://soundcloud.com/yukiorodriguez

ツチヤチカら [6eyes / Nagoya]

ロック・バンド 6eyes のフロントマンとして活動。2018年10月半ば突如、ツチヤチカら名義で自身の iPhone 内のアプリ GarageBand で制作したオリジナル曲を SoundCloud にアップし始める。100曲アップロードを目標とし作られた Big Beat for 201x という名のプレイリストには様々なジャンルの曲が約半年で65曲がアップされるというハイスピードなペースで更新され続けている。ツチヤチカら曰く「現代にポケットに入ってる iPhone の GarageBand で曲を作るということは文字通り、60's の若者達がエレキ・ギターを手に取りガレージでバンドを組んで衝動に任せて演奏していたのと同じ事なんだ。」

https://soundcloud.com/chikara-tsuchiya

脳BRAIN

東京都在住。78年生まれ。10代後半から現代音楽、実験音楽の音盤収集と同時にカセットMTRにて宅録を始める。1st『Cock Sucking Freaks』、2nd『L.S.D BREAKS』、初のミックスもの『WHITEEYES』を2019年初頭にリリース。各タイトルのCD-R版をロスアプソン、ディスクユニオンにて販売中。幡ヶ谷フォレストリミット『K/A/T/O MASSACRE』『ideala』を中心にDJを行なう。

https://acidamanner.bandcamp.com/track/--2

Emily A. Sprague - ele-king

 覚えていますか? フロリストのあのいまにも壊れそうな、だがそれでいてどこか生命の力強さのようなものを喚起させる音楽を。同バンドでなんともはかないヴォーカルを響かせていたのがエミリー・スプレーグである。彼女はフロリストの活動を続けるかたわらアンビエント作品の制作も進めていて、すでに『Water Memory』『Mount Vision』という2作をカセットで発表しているのだけれど、即完したというそれら2作がなんとテイラー・デュプリーの手によってリマスタリングを施され、〈RVNG〉によって復刻されるというのだから落ち着かない。日本盤ボーナストラックには工藤キキも参加しているらしい。詳細は下記よりチェック。

大注目のアンビエント・アーティスト、Emily A. Sprague が自主カセット・リリースし即完したアンビエント作品2作がリマスター&ボーナス・トラック追加してリリース!
シンセサイザーを駆使してアンビエント~ニューエイジを横断する夢幻/無限の桃源郷サウンドスケイプ!
日本盤のみオリジナルのアートワークを使用した独自紙ジャケット、ボーナス・ディスク付き2枚組仕様!

Mitski、Frankie Cosmos、Hatchie なども輩出してきた、〈Double Double Whammy〉から作品をリリースしている、ブルックリンのローファイ・フォーク/ポップ・バンド、Florist のフロントマン、でヴォーカル、ギター、シンセサイザーなどをマルチに担当する Emily Sprague。2017年から2018年にかけて彼女がバンド活動の合間を縫って録音し、自主リリースしていたアンビエント作品2作『Water Memory』『Mount Vision』が、彼女の才能に着目したNYの最先鋭レーベル〈RVNG〉よりリマスター、ボーナス・トラックを追加してフィジカル化。

エミリーのサウンドは全ての繋がりに関係しており、地上の活動に人との触れ合いを導く神秘的な力に生き生きとした中心的形を与えている。
音と詩を通して、エミリーは水晶の透明性の束の間の瞬間に焦点を合わせ、複雑な意味作りのために拡張された人生について瞑想する。このビジョンは間違いなく美しく、やさしく、そして深い。
この2つの作品は海と山というタイトルからも分かるように対をなす鏡のような構造を持ち、書かれた詩によって補完される2つの章として機能している。

『Water Memory』はエミリーによる初めてのロングフォームのインストゥルメンタル・アンビエント・ミュージックで、マサチューセッツとニューヨークの間でユーロラック・モジュラー・シンセサイザー(Monome、Mannequins、Mutable Instruments、ALM Bust Circuits、4ms、Xaoc、Verbos Electronics)、Teenage Engineering OP1、および Valhalla VST Reverb を使用し、1年間の自己と音の探求によって生まれた。
古代の格言集のように展開する。時々遊び心があり、幻想的でさえあるが、常にきらびやかでリアルだ。タイトルのように、意味は水性であり – 決して固すぎず、あくまで実態がある。
対照的に、『Mount Vision』はカリフォルニア北部でもっと短い期間で録音された。シンセサイザーを駆使し、ディープに配された拡張トーンのコンポジションが天空へと漂っていくようなサウンド。ニューエイジ調のシンセ・ドローン、センシティティヴなピアノ、ミニマル・アンビエントが3編に渡って構成されている。

この惑星におけるエミリーの使命は、人間の最も深い知識と知的な性質との間の接続を容易にする、または明るくすることであろう。そして、『Water Memory』、『Mount Vision』は、この共有経路に沿った最も確かに記念碑的作品である。

今回のリリースにあたりリマスターは Taylor Deupree が担当。日本盤には追加ボーナス・トラックに加え、エミリーがそれぞれの作品に書いたポエムを Anthony Naples によるレーベル〈Incienso〉からも作品をリリースしているNY在住の日本人アーティスト/ライター、工藤キキが日本語で朗読したタイトル・トラックの日本語バージョンも収録。

Artist: Emily A. Sprague
Title: Water Memory / Mount Vision (Special Japanese Edition)
Cat#: ARTPL-116
Format: 2CD

※解説:佐々木敦(HEADZ)
※オリジナルのアートワークを使用した独自紙ジャケット
※ボーナス・ディスク付き2枚組仕様

Release Date: 2019.06.07
Price (CD): 2,300 yen +税

TRACKLIST:
01. Water Memory Poem
02. A Lake
03. Water Memory 1
04. Water Memory 2
05. Dock
06. Your Pond
07. Mount Vision Poem
08. Synth 1
09. Piano 1
10. Synth 2
11. Huckleberry
12. Synth 3
13. Piano 2 (Mount Vision)
14. Outdoor (Bonus)

BONUS DISC FOR JAPAN:
01. Water Memory Poem (Japanese – Kiki Kudo)
02. Blessings
03. Mount Vision Poem (Japanese – Kiki Kudo)
04. Untitled

■ Emily A. Sprague

幼少期に母の教えでピアノを始める。11歳の頃からギター・レッスンを受け始めたものの、一旦やめてしまうが、14歳の時に再びギターを弾き始め、本格的にソング・ライティングに興味を持つ。その後バンド Florist を結成し、2013年に6曲入りEP「We Have Been This Way Forever」でデビュー。もう1枚の自主制作EPを経て、〈Double Double Whammy〉と契約し、2015年にリリースしたEP「Holdly」で Stereogum の「50 Best New Bands Of 2015」に選出される。2016年に『The Birds Outside Sang』、2017年に『If Blue Could Be Happiness』の2作のアルバムを発表し、インディ・ミュージック・リスナーから多くの支持を受ける。その活動と並行し、Emily はモジュラー・シンセサイザーを用いたアンビエント・ミュージックの制作を開始しセルフ・リリースした『Water Memory』、『Mount Vision』が高い評価を得ている。

Angel-Ho - ele-king

 『Death Becomes Her』は南アフリカ共和国ケープタウンを拠点に活動するアーティスト、エンジェル・ホのキャリア通算2枚目のアルバムである。2017年に自身も設立に関わったレーベル/共同体である〈NON〉から1枚目の『Red Devil』を、そして今作はロンドンの〈Hyperdub〉からのリリースとなった。
 ここで時間を2015年に巻き戻す。当時21歳だったアンジェロ・アントニオ・ヴァレリオは、植民地主義の爪痕や人種主義がアパルトヘイト後も色濃く残る南アフリカの政治に憤りを感じながら、ケープタウン大学でファイン・アートを専攻していた。『FADER』による当時のインタヴューによれば、同学部の自学年で、有色人種は彼しかいなかったという。ヴァレリオは、この年に実施された同校のキャンパスに建っていた植民地主義の象徴であるセシル・ローズの銅像を撤廃する運動などにも参加している。
 彼の創造力はローカルにとどまることなく、サイバースペースへとトランスコーディングされ、アメリカ合衆国リッチモンドのチーノ・アモービとフェイスブックで知り合い、ロンドンのアーティスト、キシとも出会う。人種、政治、ジェンダー、ディアスポラなどのトピックで共振した彼らは、2015年に〈NON〉を始動させる。
 ヴァレリオは幼い頃からのあだ名である「Angel-Ho」を自身に冠し、エンジェル・ホとしてデビューEP「Ascension」をラビットのレーベル〈Halcyon Vale〉と〈NON〉の共同リリースとして発表。このEPはアルカがマスタリングを担当している。ぶつ切りにされた多種多様な事物の音が、波形をねじ曲げられたパーカッションやシンセサイザーとリズムを構築するミュータント・サウンドが反響を呼んだ。グライムのウェイトレスな感覚を暴力的に発展させた前述のラビット、『Xen』(2014)以降のアルカ、インターネットの暗黒面をサーヴェイする M.E.S.H らのダーク・ベースミュージックらと共振しつつ、2015年の音を作り出していたといえるだろう。
 2017年、アルバム『Red Devil』を〈NON〉から発表。「Ascension」の流れを汲みつつ、南アフリカが生んだダンス・ミュージックであるゴムのような、低重心ファンクネスを内包する形で独自のテクスチャーを編み出している。この間、エンジェル・ホは「彼」から「彼女」になっている。2018年には同じく南アフリカ拠点のクイアラップ・ユニット、フェイカ(FAKA)の“Queenie”のプロダクションを手がけた。
 そして2019年、自身の声で歌うことによって生まれたのが今作『Death Becomes Her』である。「VICE」のインタヴューによれば、タイトルが物語るように、ここに様々な「死」が交差している。「ポップの死、アイデンティティの死、政治の死、すべての死。私の音楽はポップとそれらの出会い」であると彼女はいう。そして、それは「大きな葬式」であるとも。
 ゲイの男性から、トランス・ウーマンへの変化。リズムからメロディを主軸にした音楽的変化(本人は「Ascenssion」はサウンド的には自身の分岐点だったとも述べている)。「死」を「A」が「非A」へと変化するミューテーションのプロセスと捉えるならば、このアルバムはその結実だともいえるだろう。
 たしかに『Death Becomes Her』において、声は重要な要素である。クリス・ケッツ(Chris Kets)のディレクションによって制作され、アルバムに先立って公開された“Pose”のヴィデオでは、『エヴァンゲリオン』のクリップをコラージュした映像で、ガイカとボンによってプロデュースされたゴシックなベース・トラックでラップをする。ここで煽られた期待通りにアルバム冒頭の“Business”では、スロー・テンポなリズムに、ダブやエコー、波形をハックされた彼女自身の声のコーラス上でエンジェル・ホが歌う。アメリカのシンガー、Kリズをフィーチャーしたポップ・ダンスホール“Like a Girl”、ケープタウンの Qweezy と放つ声帯ノイズのトンネル“Good Friday Daddy”、同じく地元のラッパー、K-$と歌う淡いアーバンなR&B、“Baby Tee”。
 アンダーグラウンド・ダンスミュージックの作り手が、このようなダイナミックな変化の渦中で歌うのは、愛について、セックスについて、そしてトランスとして生きることについて、などである。「DAZED」のインタヴューにおいて、「トランスであることは、そうであることによる苦難を体験することを必ずしも意味しない。人生とは驚きとともに経験するもの」と、エンジェル・ホは答えている。声という身体/アイデンティティのフィルターは、彼女のマニフェストを加速させる。さらには苦痛を想定外の驚きをもってして中和し、ポップネスへと転換する装置として機能しているようだ。
 今作においてトラックそのものもかなりの強度を持っている。 “Drama”はトラップ、ゴム、トライバルの中間項を見事に射抜いたリズム・トラックであり、“Jacomina”はスラップするベース・ラインが跳ね回る生ドラムスやパーカッションの分子と接合し、極めてファンキーにグルーヴする。 “Cupid”では1分間の間に、光沢感のあるシンセとノイズが音の真空地帯を生む。彼女は音においてもトランスであること、つまり横断的かつダイナミックであることをやめてはいない。
 『Death Becomes Her』は、南アフリカのルポルタージュでも、アパルトヘイト以降の政治や人種主義との闘争でもなく、パーソナルであることをトラックと声で突き詰めて表現したアルバムである。そこで歌われるのは、アモービ『PARADISO』(2017)におけるポスト・アポカリプスでも、キシ『7 Directions』(2019)のアフロ・コスモロジーでもなく、現在に濃縮されたエンジェル・ホの「生」そのものだ。ポップでファンキーでケオティックなサウンドによってアルバムの統一感は希薄に映るかもしれない。けれども、彼女の言葉にあるように「驚き」に満ち触れた人生に、そんなものはハナから必要ないのだろう。

New Order - ele-king

 先日本国で刊行されたジョン・サヴェージによるジョイ・ディヴィジョンの本、『This searing light, the sun and everything else』の日本版を準備中です。今年はジョイ・ディヴィジョンの『アンノーン・プレジャー』から40年ですから。JDとニューオーダー、『レコード・コレクター』誌も特集してましたね。
 さて、そこでニュー・オーダーです。7月12日に、新しいライヴ盤が出ます。2017年7月、地元マンチェスターの伝説の会場=オールド・グラナダ・スタジオ(ファクトリーの創始者トニー・ウィルソンのTV番組の収録会場で、当然ジョイ・ディヴィジョンもライヴをやっている)での演奏が収録されているわけだが、まあ、ちょっと前にライヴ盤って出ているよねと思う人、今回のそれは収録曲が面白い。ほとんどライヴでやってこなかったJD〜NOの曲を中心に18曲、です。JDの“ディスオーダー”も入っております。
 こちらは先行発表されたNO“サブカルチャー”です。
  ◼︎「Sub-culture」https://smarturl.it/NOM

 また、トラックリストは以下の通り。大名曲“ビザール・ラヴ・トライアングル”も入っていますね。

CD-1
1 - Times Change (Original version on 1993’s Republic)
2- Who’s Joe (Original version on 2005’s Waiting For The Sirens’ Call)
3 - Dream Attack (Original version on 1989’s Technique)
4 - Disorder (Original version on 1979’s Unknown Pleasures)
5 - Ultraviolence (Original version on 1983’s Power, Corruption & Lies)
6 - In A Lonely Place (Original version on B-Side to 1981’s Single Ceremony)
7 - All Day Long (Original version on 1986’s Brotherhood)
8 - Shellshock (Original version featured on the 1986 soundtrack to Pretty In Pink)
9 - Guilt Is A Useless Emotion (Original version on 2005’s Waiting For The Sirens’ Call)
10 - Subculture (Original version on 1985’s Low Life)
11 - Bizarre Love Triangle (Original version on 1986’s Brotherhood)
12 - Vanishing Point (Original version on 1989’s Technique)
13 - Plastic (Original version on 2015’s Music Complete)

CD-2
1 - Your Silent Face (Original version on 1983’s Power, Corruption & Lies)
2 - Decades (Original version on 1980’s Closer)
3 - Elegia (Original version on 1985’s Low Life)
4 - Heart + Soul (Original version on 1980’s Closer)
5 - Behind Closed Doors (Original version on B-Side To 2001’s Single Crystal)

 例によって商業主義を度外視したデザインによるパッケージも相当に格好いいです。まあ、ファンは必聴ですが、それにしてもアルバム・タイトルの『∑(No,12k,Lg,17Mif) / ∑(No,12k,Lg,17Mif) New Order + Liam Gillick: So it goes..』、これなんて読んだらいいんだろうか……。


◼︎商品概要
アーティスト:ニュー・オーダー / New Order
タイトル:∑(No,12k,Lg,17Mif) / ∑(No,12k,Lg,17Mif) New Order + Liam Gillick: So it goes..
発売日:2019年7月12日(金)
品番:TRCP-243~244/ JAN: 4571260589032
定価:2,600円(税抜)*CD:2枚組
解説/歌詞対訳付
https://trafficjpn.com

大好評につき重版出来!
続編も発売中!!

ゲーム音楽は偉大なるアートである!

1978年に産声をあげたゲーム音楽レコード、
その40年以上にもわたる歴史を網羅した決定版
膨大な数のなかから選び抜かれた名盤950枚を紹介!

「日本のゲーム音楽は、この国が生んだもっともオリジナルで、もっとも世界的影響力のある音楽だ」と『DIGGIN'』のプロデューサー、ニック・ドワイヤーは言う。これは、長年ゲーム音楽を研究し続けてきた本書執筆陣が、それぞれに思い続けてきたことでもある。ゲーム音楽は単なるゲームの付随物で終わるものではなく、かけがえのない価値を様々な形で具有している。〔……〕本書はゲーム音楽の歴史に散らばる何万枚ものサントラ盤やアレンジ盤から、これはという名盤たちを「音楽的な」観点から選び抜いた、ありそうでなかったディスクガイド本である。 (本書序文より)

試行錯誤の黎明期からサウンドチップの音楽、スーファミ~初代プレステの小容量サンプリング時代、ハードの制約から解放されたPCエンジン~CD-ROM、そして Bandcamp を筆頭に無数のサウンドが湧出し続ける配信~サブスク全盛の今日まで──膨大なタイトルのなかから厳選された極上の950枚を聴け!

監修・文:田中 “hally” 治久
文:DJフクタケ/糸田屯/井上尚昭

[執筆者紹介]

田中 “hally” 治久
ゲーム史/ゲーム音楽史研究家。チップ音楽研究の第一人者で、主著に『チップチューンのすべて』ほか。さまざまなゲーム・サントラ制作に携わる傍ら、ミュージシャンとしても精力的に活動しており、ゲームソフトや音楽アルバムへの楽曲提供を行うほか、国内外でライブ活動も展開している。

DJフクタケ
90年代よりDJとして活動。95年に世界初の GAME MUSIC ONLY CLUB EVENT 「FARDRAUT」開催に関わるなど最初期から活動する VGMDJ であり、ビデオゲーム関連アナログ盤のコレクターでもある。2014年より歌謡曲公式 MIX CD 『ヤバ歌謡』シリーズをユニバーサル・ミュージックよりリリース。2017年には企画・選曲・監修を務めた玩具・ビデオゲーム関連のタイアップ楽曲集CD『トイキャラポップ・コレクション』Vol.1~3をウルトラ・ヴァイヴより発表するなど過去音源の紹介や復刻にも精力的に取り組む。

糸田 屯 (Ton Itoda)
少年期にゲーム・ミュージックとプログレッシヴ・ロックに魅了される。レコード店スタッフなどを経て、兼業ライターとして活動。2019年現在、『ミステリマガジン』誌で「ミステリ・ディスク道を往く」を連載中。ゲーム・ミュージックというジャンルの背景に連綿と広がる影響関係、コンポーザーの音楽的背景/変遷に強い興味・関心を持ち、新たな知見を求めて日々digにいそしむ。敬愛するクリエイターは Tim Follin。

井上尚昭 (rps7575)
2001年、“レコード会社別で捉えるゲーム音楽カタログレビュー” をコンセプトにしたウェブサイト「電子遊戯音盤堂」を開設。洋邦映画アニメ実写問わずサウンドトラック全般が守備範囲で、別名義でDJプレイなども。ライター諸氏とは別機会にて妙縁があったが、商業出版への寄稿は今回が初。本業はサウンドデザイナー。

[目次]

序文
凡例

第1章 試行錯誤の黎明期

ゲーム音楽レコードの胎動 | ヒア・カムズ・マリオ! | アレンジの模索 | 声なき時代のゲーム歌謡

第2章 サウンドチップの音楽

任天堂 | ナムコ | コナミ(アーケード) | コナミ(家庭用) | タイトー | セガ | カプコン | データイースト | アイレム | SNK | アーケードその他 | 家庭用その他 | 古代祐三 | 崎元仁・岩田匡治 | 日本ファルコム | 日本テレネット~ウルフチーム | パソコン系その他 | 海外 | リバイバル

第3章 ミニマムサンプリングの音楽

スクウェア | コナミ | タイトー | ナムコ | セガ | カプコン | ソニー系 | 任天堂 | 家庭用その他(SFC) | 家庭用その他(PS・SS・N64ほか) | アーケードその他

[コラム] インターネットミームと非公式ゲーム音楽リミックス ~All Your Base are Belong to Us~ (糸田屯)

第4章 ハード的制約から解放された音楽

最初期(カセットテープ~CD-ROM初期) | 劇伴作家の仕事 | シンフォニック | シンフォニックロック | アコースティック~ニューエイジ | プログレ | フュージョン | ジャジー | シンセロック | ハードロック/ヘヴィメタル | ロックその他 | アンビエント~エレクトロニカ | クラブミュージック | ディスコ~ダンスポップ | ポスト渋谷系 | 音楽ゲーム | ヴォーカル | ジャンルミックス | その他 | CD-ROMから聴けるゲーム音楽

シリーズ作品や関連作品をまとめて聴ける「CD BOX系サントラ」リスト

第5章 ダウンロード配信世代のゲーム音楽

エレクトロニカ | エレクトロニック・ダンス | 80sリバイバル&ウェイヴ系 | レトロモダン(チップチューン進化系) | ロック | シンフォニック | アコースティック | ジャジー | ジャンルミックス | 民族音楽

シリーズ作品や関連作品をまとめて聴ける「CD BOX系サントラ」リスト2

第6章 アレンジバージョン

第一次バンドブーム | フュージョン | プログレ | ロック | 管弦・器楽 | アコースティック | シンセ | ダンス&クラブ | ジャンルミックス | ヴォーカル | その他

シリーズ作品や関連作品をまとめて聴ける「CD BOX系サントラ」リスト3

第7章 アーティストアルバム

日本(バンド) | 日本(ソロ/ユニット) | 海外

索引
あとがき

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
amazon
TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
7net(セブンネットショッピング)
ヨドバシ・ドット・コム
HMV
TOWER RECORDS
disk union
紀伊國屋書店
honto
e-hon
Honya Club
mibon本の通販(未来屋書店)
とらのあな

P-VINE OFFICIAL SHOP
SPECIAL DELIVERY

全国実店舗の在庫状況
紀伊國屋書店
三省堂書店
丸善/ジュンク堂書店/文教堂/戸田書店/啓林堂書店/ブックスモア
旭屋書店
有隣堂
TSUTAYA

電子書籍版
Kindleストア
紀伊国屋書店
楽天Kobo
理想書店
BookLive!
Reader Store
auブックパス
iBooks Store

お詫びと訂正

[関連情報]

・続編『ゲーム音楽ディスクガイド2──Diggin' Beyond The Discs』も好評発売中!

・『ゲーム音楽ディスクガイド』掲載作品よりリイシュー・シリーズが始動。
 第1弾は和製RPGの先駆け『ガデュリン全曲集』
  ⇒ https://p-vine.jp/music/pcd-25309
 第2弾は2021年最新リマスタリングの『銀河伝承』
  ⇒ https://p-vine.jp/music/pcd-27052

・田中 “hally” 治久(監修)『インディ・ゲーム名作選』も好評発売中!

Helado Negro - ele-king

 アルバム・タイトルはジャメイカ・キンケイドが〈ザ・ニューヨーカー〉に1978年に発表した短編『ガール』からの引用。キンケイドはカリブ海東部の島々からなるアンティグア・バーブーダ出身の作家で、とくに初期の自伝的な作品群では母と娘の関係を軸にして、隠喩的にポスト・コロニアルにおける支配/被支配の緊張を描き出していた。ある種、地域性を問わずに共感を得る思春期の少女の物語として。
 だけど、どうなのだろう。この、素晴らしくなめらかに仕上げられたヘラド・ネグロとしては6枚め、ロベルト・カルロス・ラングによる『ディス・イズ・ハウ・ユー・スマイル』にどれほど「ポスト・コロニアル」というテーマが入りこんでいるのか、シンプルな英語詞はまだしもスペイン語がここで「響き」に聞こえてしまう僕には、正直わからない。それに何よりも……サウンドにおいて、エクアドル移民である彼のルーツとしてのラテン音楽とゼロ年代ブルックリンの成果が綺麗に溶け合っているではないか。すでに「ボラ・デ・ニエベのベッドルーム・ポップ・ヴァージョン」などと形容されているように、ラテンからの音楽的恩恵がここでは21世紀型のドリーミーなポップ・ミュージックへと見事に変換されている。

 サヴァス&サヴァラスへの参加やジュリアナ・バーウィックとのコラボレーション、それに前作までスフィアン・スティーヴンスが主宰する〈アズマティック・キティ〉からリリースしていたことからもわかるが、北米インディの美味しいところを気持ちよく漂ってきたカルロス・ラング。ヘラド・ネグロ名義はブルックリンに移ったゼロ年代後半から使用しているが、なるほど前作『Private Energy』をあらためて聴き直すと、いかにもアニマル・コレクティヴ以降の遊びに満ちたエクスペリメンタル・ポップの跡を見出すことができる。だが、〈RVNG〉からのリリースとなる本作ではオープナーの“Please Won't Please”から、簡素なリズムとあくまで柔らかいシンセの調べに乗せて線の細い歌がゆるく、優しく続けられる。わたしたちがゼロ年代後半によく親しんだアンビエント・ポップのフィーリングが、10年かけた洗練を経て届けられる……きめ細かく変わってゆく光を浴びながら。もちろん、ヘラド・ネグロらしいトロピカル・サイケなフォーク・ナンバー“Pais Nublado”なども耳を引くが、ハイライトのひとつである“Running”などはそれこそライのファンも思わずうっとりするようなメロウなソウル・チューンである。いずれにせよ、それらが大きな起伏を生み出さないように生音のオーガニックな響きを大切にしながら、じつにゆったりと連なっていく。いくらかファンキーなグルーヴを感じさせるミドルテンポの“Seen My Aura”、伝統的なラテン・フォーク・ギターとスティール・パンの音色が控えめに寄り添う“Sabana de Luz”、曲によって要素は変われど、穏やかなサイケデリアが途切れることはない。

 前作で「若く、ラテンで、誇り高い」や「僕のブラウンの肌」といった象徴的な言葉を並べていたカルロス・ラングだが、本作における彼のラテン人としてのアイデンティティはあくまで音として彼の現在地と和解している。わたしたちがスフィアン・スティーヴンスとデヴェンドラ・バンハートとサヴァス&サヴァラスとアニマル・コレクティヴを地続きで聴くような感覚が本作でひとつになっており、ルーツにも現在にも等しくオープン・マインドな佇まいや自然体の折衷性はブラジルのシンガーソングライターであるフーベルの昨年絶賛されたアルバム辺りにも通じるだろう。映画『ROMA/ローマ』を例に挙げるまでもなく北米において中南米との関係性が問われている昨今だが、英語とスペイン語、ベッドルーム・ポップとラテン・フォークが継ぎ目なく共存する本作を聴いていると、音楽は「ポスト・コロニアル」のその先を模索しているように思えてならない。

Logos - ele-king

 これは最新のダンス・ミュージック・レコードだ。「えっ、いったいどこが?」と思われる方もいるかもしれない。たしかにどのトラックもほぼビートレスだし、あってもビートは断片化されている。その意味で相当にエクスペリメンタルな音楽であることには違いない。しかしこの『Imperial Flood』は、あのロゴスの新作アルバムである。となればここにはリズム/律動の拡張があると考えるべきではないか。
 ロゴス(ジェームス・パーカー)はかつて「ウェイトレス=無重力」というサウンド・スタイルによって、インダストリアル/テクノやアンビエント以降のUKグライムの新しいビート・ミュージックを創作した人物である。彼の関わったアルバムをざっと振り返ってみても、2013年にソロ作品『Cold Mission』(〈Keysound Recordings〉)、2015年にマムダンスとのコラボレーション作品『Proto』(〈Tectonic〉)、2016年にロゴスとマムダンスが主宰する〈Different Circles〉のレーベル・コンピレーション『Different Circles』などを継続的に送り出し、しかもそのどれもが先端的音楽マニアたちの耳と身体の律動と感性を刺激する傑作ばかりであった。いわば「テクノ」の概念を拡張したのだ。
 そんな先端音楽シーンの最重要人物のひとりであるロゴスの新作『Imperial Flood』が、自身の〈Different Circles〉からついにリリースされたわけだ。となれば「新しい律動への意志」が問われているとすべきではないか。じじつ、『Cold Mission』以来の待望ともいえるソロ・アルバムであるのだが、そのサウンドは6年の月日の流れを反映したかのようにわれわれの予想を超え、新しい電子音響空間が生成していたのだ。〈Different Circles〉から2018年にリリースされたシェヴェル『Always Yours』のビート・ミュージックの実験性を継承しつつ、ビートにとらわれないモダンな先見性に富んだ電子音楽に仕上がっていた。ここにはリズムと持続への考察と実践がある。では、それはいったいどういうものか。このアルバム全体が、一種の「問い」に私には思えた。

 アルバムには全9曲が収録されている。どのトラックもビートよりも電子音のミニマルな持続や反復を基調にしつつ、加工された具体音・環境音がレイヤーされている構造となっていた。インダスリアルのように重厚であり、アンビエントのように情景的でもある。いわゆるシネマティックなムードも濃厚だ。とはいえチルアウトが目的のアルバム/トラックではない。耳のありようを規定しない「緊張感」が持続しているからだ。
 曲を順にみていこう。まず1曲め“Arrival (T2 Mix)”と2曲め“Marsh Lantern”のビートレスにしてオーセンティックなシンセ・サウンドからして、その意志を明瞭に聴きとることができた。つまり彼が「UKグライム以降」という立ち位置すら超越し、まったく独自の「電子音楽の現在」を刻印するような作品を生み出そうとしていることが分かってくる。
 続く3曲め“Flash Forward (Ambi Mix)”はアシッドなシーケンスが反復し、薄いリズムがレイヤーされるシンプルなトラックである。2019年におけるアシッド・リヴァイヴァルだ。4曲め“Lighthouse Dub”では“Arrival (T2 Mix)”と“Marsh Lantern”の波打つように反復するオーセンティックな電子音楽が継承され、断続的/性急なグライム的ビートがレイヤーされる。どこか不穏なムードを醸し出す極めて独創的なトラックである。
 5曲め“Omega Point”では環境音・具体音と霞んだ電子音が折り重なり、シネマティックかつダークなムードが生成されていく。わずか2分57秒ほどのトラックだが、アルバムのコア(中心)に位置し、本作のムードやテーマ(曲名からして!)を象徴する曲に思えた。続く6曲め“Zoned In”は盟友マムダンスが参加した本作のビート・トラックを代表する曲だ。まさにアシッド・テクノな仕上がりで、本作中もっともストレートなダンス・トラックである。
 7曲め“Occitan Twilight Pyre”は微かにノイジーな音が生成変化する実験音楽的トラック。何かを静かに押しつぶす音と高音域のスプレーのようなノイズによるASMR的な快楽が横溢している。8曲め“Stentorian”はリズムの連打とアトモスフィアな電子音が交錯する。名作『Cold Mission』を思い出させるトラックであり、「ウェイトレス」の現在形を提示しているようにも思えた。やがてビートは(「オメガ・ポイント」の先に)消失・融解し、9曲め“Weather System Over Plaistow”へと辿り付く。この終曲でも波打つように反復する霞んだ電子音が展開されていく。どこか懐かしく、しかし聴いたことのないサウンドだ。
 本作の電子音は70年代のドイツの電子音楽(クラウトワークやタンジェリン・ドリーム)のごときサウンドでもあり、同時に10年代以降/グライム以降ともいえる未知のサウンドがトラック内に溶け合っているのだ。

 知っている。だが聴いたことがない。本作には「未聴感」が濃厚に漂っている。UKのグライム以降の最先端のビート・トラックを提示したマムダンスとロゴスのシングル「FFS/BMT」(2017)に横溢する「新しさ」の「その先」を見出そうとする強い意志を強く感じる。それはいわば「複雑さ」から「単純さ」を選択し、電子音/音のマテリアルな質感へと聴き手の意識を向かわせようとする意志だ。むろん「素朴さ」への反動ではない。ロゴスは常に「聴きなれた音」から「未知の音」のプレゼンテーションを行ってきたアーティストではないか。その意味でジェームス・パーカーはもはや「ウェイトレス」だけに拘っていないし、その先を意識しているのだろう。
 じっさい、本作『Imperial Flood』は、ビート・ミュージックとミュジーク・コンクレートとドイツ電子音楽とアシッドテクノの融合/交錯するような作品に仕上がっていた。じじつ、あるトラックはオーセンティックな電子音楽であり、あるトラックはアシッドテクノのモダン化であり、あるトラックはインダストリアル/テクノ以降のモダンなミュジーク・コンクレートである。こう書くと多様な音楽性によるトラックが収録された雑多なアルバムのように思うかもしれないが、アルバム全体はモノトーンのムードで統一されてもいる(このクールなミニマリズムはロゴスとマムダンス、〈Different Circles〉からリリースされた音楽に共通する)。
 同時に聴き込むほどに乾いた砂が手から零れていくような「つかみどころのなさ」を感じてもくる。これはネガティブな意味ではない。そうではなく新しい音楽を聴いたときによく感じる現象である。提示された音の遠近法がこれまでの聴き手のそれに収まっていないのだ。この「とりとめのなさ」「つかみどころのなさ」にこそ新しい電子音楽の胎動があると私は考える。
 「とりとめのなさ」「つかみどころのなさ」「未聴感」。「未聴感」は、いわば過渡的な状態を意味するものだ。「新しさ」をいわば「不定形な状態」とすると、「新しさ」とは「過渡的」な状態を常に/意識的に選択し、その絶え間ない変化のただ中に身を置こうとするタフな意志の表出といえる。そう、ロゴスは、そのような「未知の新しさ」を希求・提示する稀有なアーティストなのだ。

Flying Lotus × Anderson .Paak - ele-king

 先日待望の6枚目のアルバム・リリースがアナウンスされ、ユキミ・ナガノを招いた“Spontaneous”とサンダーキャット、ブランドン・コールマン、オノシュンスケの参加する“Takashi”が先行公開されたばかりのフライローですが、本日新たにアンダーソン・パークをフィーチャーした新曲“More”が解禁されました。やばい、めっちゃかっこいい……。きっとこれが2年前に報じられたコラボだったのでしょう。ますますアルバムへの期待が昂まりますね。リリースまであと2週間。日本先行発売です。

5/22リリースの最新作『FLAMAGRA』より
アンダーソン・パーク参加の新曲“MORE”が解禁!

デヴィッド・リンチをフィーチャーしたトレーラー映像と共に、待望の最新アルバム『フラマグラ』の完成を発表したフライング・ロータス。その後、リトル・ドラゴンのユキミ・ナガノをフィーチャーした“Spontaneous”、サンダーキャット、ブランドン・コールマン、オノシュンスケが共演した“Takashi”の2曲を公開し、ポップで軽快なサウンドに注目が集まる中、アンダーソン・パークが最高にソウルフルなヴォーカルを披露する新曲“More”を解禁!

Flying Lotus - More feat. Anderson .Paak
https://www.youtube.com/watch?v=Xl0XBQ08wbg

彼(アンダーソン・パーク)と知り合ったのはもっと前だけど、ちゃんと話すようになって6、7年かな。アイツ演奏もすごいんだよ! 危険なヤツさ…… ──Flying Lotus

全27曲(国内盤にはさらに1曲追加!)収録というスケールはもちろん、過去作品以上に豪華な参加アーティストも話題となっている本作。アンダーソン・パークの他にも、ジョージ・クリントン、リトル・ドラゴンのユキミ・ナガノ、ティエラ・ワック、デンゼル・カリー、シャバズ・パレセズのイシュマエル・バトラー、トロ・イ・モワ、ソランジュ、そして盟友サンダーキャットがヴォーカリストとして参加。さらに、デヴィッド・リンチの不気味なナレーションが今作の異様とも言える世界観を炙り出している。

またフライング・ロータス本人のSNSを通して、本作のアートワークで使用されたタイポグラフィは、ニッキー・ミナージュやポスト・マローンへの作品提供も行ってきた日本人グラフィックデザイナー、GUCCIMAZE(グッチメイズ)が手がけ、その他の参加ミュージシャンには、ハービー・ハンコックやロバート・グラスパーらも名を連ねていることが明かされている。

フライング・ロータスが投稿した制作風景


フライング・ロータスが、マグマのごとく燃えたぎるイマジネーションを詰め込んだ超大作『フラマグラ』は、5月22日(水)に日本先行リリース。国内盤にはボーナストラック“Quarantine”を含む計28曲が収録され、歌詞対訳と吉田雅史による解説に加え、若林恵と柳樂光隆による対談が封入される。初回生産盤CDは豪華パッケージ仕様。またTシャツ付セット(BEATINK.COM限定でXXLサイズ取扱あり)も限定数販売決定! 2枚組となる輸入盤LPには、通常のブラック・ヴァイナルに加え、限定のホワイト・ヴァイナル仕様盤、さらに特殊ポップアップ・スリーヴを採用したスペシャル・エディションも発売。

なお国内盤CDを購入すると、タワーレコードではオリジナル・クリアファイル、BEATINK.COM、HMV、diskunion、その他の対象店舗では、GUCCIMAZEによるロゴ・ステッカー、amazonではオリジナル肖像画マグネットを先着でプレゼント。また、タワーレコード新宿店でアナログ盤を予約するとオリジナルB1ポスターが先着でプレゼントされる。

label: WARP RECORDS / BEAT RECORDS
artist: FLYING LOTUS
title: FLAMAGRA
release: 2019.05.22 wed ON SALE
日本先行リリース!

国内盤CD:BRC-595 ¥2,400+tax
初回盤紙ジャケット仕様
ボーナストラック追加収録/歌詞対訳・解説書付
(解説:吉田雅史/対談:若林恵 × 柳樂光隆)

国内盤CD+Tシャツセット:BRC-595T ¥5.500+tax
XXLサイズはBEATINK.COM限定

TRACKLISTING
01. Heroes
02. Post Requisite
03. Heroes In A Half Shell
04. More feat. Anderson .Paak
05. Capillaries
06. Burning Down The House feat. George Clinton
07. Spontaneous feat. Little Dragon
08. Takashi
09. Pilgrim Side Eye
10. All Spies
11. Yellow Belly feat. Tierra Whack
12. Black Balloons Reprise feat. Denzel Curry
13. Fire Is Coming feat. David Lynch
14. Inside Your Home
15. Actually Virtual feat. Shabazz Palaces
16. Andromeda
17. Remind U
18. Say Something
19. Debbie Is Depressed
20. Find Your Own Way Home
21. The Climb feat. Thundercat
22. Pygmy
23. 9 Carrots feat. Toro y Moi
24. FF4
25. Land Of Honey feat. Solange
26. Thank U Malcolm
27. Hot Oct.
28. Quarantine (Bonus Track for Japan)

JUST ZINE 3 Book issue - ele-king

 「JUST ZINE」とは“ライブやパーティに遊びに行った時に、カッコいい人達に口頭で頼んでページを作って貰うというコンセプト”で制作されているオムニバス形式のZINEで、アンダーグラウンド・シーンのアーティストやレーベル、ショップオーナーなどがページを彩っている。
 昨年末にリリースされた第3号は「Book issue」と題して、本や読書をテーマに、今回も熱い面々がテキストやアートワークを提供。ハードコアやヒップホップのシーンには密かに熱心な読書家が多く、各人の思い入れが白黒コピーのページから溢れている。 ネット通販は各店すでにほぼ Sold Out 状態、下高井戸トラスムンドなど限られたショップでしか手に入らないが、運良く出会うことができたらぜひ手にとってみてほしい。

JUST ZINE 3 Book issue

A5サイズ、28p(表紙除く)。
1,000円(税込)

参加者(掲載順)
NEUDAZE
SADSUMMER/マスヤマ
noise
HATE(MOONSCAPE/BOOT DOWN THE DOOR)
Rakuya Katagiri
馬場 裕介
ippei matsui
TRASMUNDO浜崎
Joji Nakamura
KTYL
YURI
e
373
ikm
You Suzuki
DEATHRO
中野 賢太
SOILEDDOVE
COTTON DOPE
WACKWACK
今里(STRUGGLE FOR PRIDE)
柿沼実(BUSHBASH)
THE JOB LOT CLUB

※下高井戸トラスムンドなどで販売中

Daniel Haaksman - ele-king

 もはや多様性は販促の道具である。ダイヴァーシティの称揚が「なんでもあり」の状況を誘発しかねないというのはだいぶまえから言われていた気がするけれど、いまやそれは完全に企業や資本にとってこそ有用な、使い勝手のいい概念に成り下がっている。多様性を褒めそやすことの何が問題かといえば、それが社会における異質なもの同士の敵対性や、そのような軋轢を生み出す構造それじたいを隠蔽してしまう点で、極論すれば「貧困だってひとつの個性でしょ」なんてことになりかねない。いや、「自己責任」が大人気のこの国ではすでにそうなってしまっているのかもしれないが、とまれ企業は多様な価値観を推奨しさえすれば善良なるイメージを獲得することができ、己が与し支えるシステムの歪みなんか気にせず、思う存分営利活動に邁進できるというわけだ。多様性は収益を生む。素晴らしい。

 ダニエル・ハークスマンはベルリンを拠点に活動するベテランのDJ/プロデューサーである。レーベル〈Man〉の運営などをとおしていわゆるワールド・ミュージックとベース・ミュージックとの境界を更新し続けてきた彼は、かつてコンピレイション『Rio Baile Funk』を編むことで世界じゅうにバイリ・ファンキを広めた陰の重要人物でもあるが、そのハークスマンにとって3枚目のスタジオ・アルバムとなるこの『With Love, From Berlin』は、国際都市としてのベルリンをテーマに掲げている。ベルリンという街がロンドンやパリと異なるのは、その国際性がグローバル企業や金融産業によってではなく、観光や外国人の(自然な)流入によって担保されている点である、とレーベルのインフォメイションは説明していて、ほんとうにそう言えるのかどうかは判断がつかないけれど、少なくともハークスマンはそのようにベルリンをレプリゼントしたいということだろう。ようするにベルリンは、資本主導ではないかたちで多様性が花開いた稀有な都市なんだよと、そういう話である。

 まずはシベーリの起用に嬉しくなる。彼女は偉大なるブラジル音楽の遺産とエレクトロニカの音響的冒険とを両立させるサンパウロ出身のシンガーソングライターで、2006年に『The Shine Of Dried Electric Leaves』という良作を残しているが(日本盤にはハーバートによるリミックスも収録、『21世紀ブラジル音楽ガイド』をお持ちの方は34頁を参照)、彼女を迎えた冒頭の“Corpo Sujeito”や、それに続く“La Añoranza”(こちらのゲストはバルカン・ビート・ボックスのサックス奏者オリ・カプランとペルーのデング・デング・デングなるグループ、そしてジャイルス・ピーターソンの「ワールドワイドFM」でも番組を持つ中南米音楽セレクターのココ・マリア)がもっともよく体現しているように、ソカなどアフロ・カリビアンのリズムを流用して骨格を成形しながら、そこにダブステップ以降のベースを注入、上モノや言語で世界各地の要素を際立たせつつ、それらすべてをリズム&サウンド的なベルリン式ダブの音響で包み込む──というのがアルバム全体の基本路線なのだけれど、ストリングスとコーラスが印象的な3曲目“Overture”によく表れているように、どの曲も音と音のあいだの空隙がほんとうに豊かだ。この音の間合いは、それぞれのマテリアルが互いに異なるもの同士であることを確認させる役割を担っていると言える。そのおかげで、さまざまな素材が同居しているにもかかわらず、ごちゃごちゃした感じはいっさいない。

 取り合わせの妙もまたこのアルバムの醍醐味だ。ポール・セント・ヒレアーを招いた4曲目“City Life”やトリを飾る“Wolkenreise”のバンドネオンとダブ、ザップ・ママの娘だというK・ズィアとシカゴの大物ロバート・オーウェンズを同時に呼び寄せたシングル曲“24-7”のレゲトン・ハウスなど、どの曲も巧みなさじ加減によりサウンド相互の異質性がしっかりと保護されている。全体の鍵を握るのは8曲目の“Occupy Berlin”だろう。タイトルからして反金融・反資本の機運に同調するこの曲は、背後に敷かれたシンセの持続音とブラカ・ソム・システマのカラフによる言の葉が、随所で乱れ舞うパーカッションの独特な響きとリズムを引き立てていて、音同士の闘いとでも言おうか、われわれリスナーの耳を大いに楽しませてくれる。

 とまあそんなふうにこのアルバムにはなんとも多彩な要素がぎゅうぎゅうに詰め込まれているわけだけど、ぜんぜんこれ見よがしじゃないというか、エキゾ感を売りにするような側面は皆無で、かといって相対的な並列化に与するわけでもなく、すべての音がきわめてクールな佇まいで互いの特異性を示し合っている。多様性の称揚によって覆い隠される、個々の対立それじたいを救うこと──それはグローバル資本とはべつの角度からダイヴァーシティを捉え返そうとするハークスマンの、静かに燃えたぎるアティテュードの表れにほかなるまい。ベース・ミュージックのグローバルなあり方、ひいては安易な多様性の讃美それじたいを問い直す、刺戟に満ちたアルバムだ。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316