「You me」と一致するもの

Rae Sremmurd - ele-king

 2014年を12インチ・シングルで振り返ろうと思ったらニッキー・ミナージュ「アナコンダ」は配信しかなかった。前作『ローマン・リローデッド』(2012年)はつまんねーアルバムだったけど、「ビーズ・イン・ザ・トラップ」はチョー好みだったので、これだけでも12インチがあればなーと思っていたのに、ジェイ・Z『ブループリント』へのアンサーだったという『ピンクプリント』からの先行ヒットまで12インチがないとは……。USヒップホップとの距離が遠ざかるわけだよなー。二木もぜんぜん原稿、書かないしなー(最近、顔見ないけど、また留置場にいるのかなー)。

 こうなったら意地でも12インチで切ってほしい2015年のUSヒップホップを先に探し出すしかありません。そしてこうして……出会ったのがイアー・ドラマーズを逆から読んだレイ・シュリマー(Rae Sremmurd)による「アンロック・ザ・スワッグ」。これは絶対に切られないでしょう。

 ミシシッピ出身、現在はトラップを生み出したアトランタからいささかクリシェに聞こえる「ノー・フレックス・ゾーン」のヒットで注目を集めたスウェイ・リーとスリム・ジミーのデビュー・アルバムは“マイX”や“アップ・ライク・トランプ”など、野々村竜太郎の号泣釈明会見を思わせるヘンな溜めのあるラップがちょっと癖になる。トラップとしてはそんなにヒネりはないのかもしれないけれど、アクセントを最初に置くか、どこにもアクセントを置かずに全体をフラットにしようとするフローとはちがって、ドレミファソファミレのような音階をつけてラップするときがだんぜんおもしろい。それだけなんですけどね(半分以上は普通)。この兄弟に関して「声変わりしないでほしい」というコメントをいくつか見かけましたけど、19歳と20歳なので、もう声変わりはしないと思うんだけど……(“スロウ・サム・モー”にはニッキー・ミナージュも参加)。

 フローがおもしろいといえば、1年前に……新人にもかかわらず、すでに3000万人もこれを見ているとは……

 やっぱり、これはなにかの勘違いなんだろうか。2014年は再発の帝王と化したルイス(Lewis Baloue)のラップ・ヴァージョンといいたいところだけど、時代がちがうとはいえ、本人が真面目なのは同じだろうし。しかも、自分でコメント欄に「僕、まだ生きてる?」と書いて500もリプがある。これを読む勇気はないなー。日本のおたくもかつてのように、もっと気持ち悪くならないといけないのではとさえ思う。

 勘違いといえばナズの変名だと思われて一気に知名度を上げてしまったのがユア・オールド・ドルーグ。コニーアイランド出身で、本人に取材を敢行した人たちが相次いで「ナズではなかった!」とリポートするほど声が似ている。曲が似ていると犯罪になってしまうこともあるけれど、声は……う~ん。

 ポスト・モータウンでは最高の瞬間といえるシルヴィア&モーメンツ(誰かアナログ再発してくださいよ)をサンプリングした“U47”など70年代のサンプリングが多いのかな(?)、サウスに漲る緊張感がまったくない生硬な14曲を聴かせる。それにしても、まったりしてしまう……。正月気分に引き戻される……。戻りたい……あの頃(20日ぐらい前)に……。

 最後に、もう1曲。この展開は誰も予想できないっしょ。

Kaitlyn Aurelia Smith - ele-king

 2014年はディズニーの年だった。世界歴代5位の興行収入となった『アナと雪~』はもちろん、メアリー・ポピンズの作者を主役としたジョン・リー・ハンコック監督『ウォルトディズニーとの約束』もディズニー自身の夢を描くという骨子はけして悪いものではなく、アドラーの流行を尻目にフロイトの底力を思い知らされる面もあった。さらにはブラック・ユーモアを全開にしたランディ・ムーア監督『エスケープ・フロム・トゥモロー』である。ディスニーランドのダークサイド(とされるもの)をここまでがっつり見せてくれた作品も珍しく、上映中止にもDVDの回収処分にもならなかったことがかえってディズニーの度量を感じさせる作品ともいえる。ファンタジーの王道と、それを作り出す人、そして、それを裏側から叩きのめす3本が出揃っただけでなく、どこから見てもファンタジーには価値があるということを認めさせた年だったのではないかと。まあ、そういうことにしてケイトリン・アウレリア・スミスのデビュー・アルバムを再生してみよう。そうしよう。

 オーカス島というリゾート地で育ったからということが説明になるとは思えないけれど、なるほどテリー・ライリーのミニマル・ミュージックに影響を受けたというケイトリン・アウレリア・スミスはこれをニュー・エイジ風の幻想的なアレンジのなかに解き放ってしまう。あるいはタイトル通り、前半の6曲はユークリッド幾何学を用いて作曲されたと解説され、どこがどうしてそうなのかはわからないけれど、その響きは柔らかい布を積み重ねていったようなしなやかさと可愛らしい質感に満ちている。ふわふわとこちょこちょ、キラキラとさらさらという感じだろうか。シンセサイザーと出会う前はムビラ(親指ピアノ)に凝っていたそうで、高音が多用されるアフリカ音楽のテクスチャーを思わせる面も多い。ローリー・シュピーゲルやスザンヌ・チアーニ(『アンビエント・ディフィニティヴ』P.96)といった70年代の先駆的な女性作曲家たちに、ヒッチコック映画の音響効果を担当していたオスカー・サラ(『アンビエント・ディフィニティヴ』P.36』)にも多大な影響を受けたそうで、あらゆるところからファンタジーを集めてきたようなニュアンスはそれで説明されてしまうような気も。マスタリングはマシューデイヴィッド。

 後半は12パートに分かれた組曲形式の“ラビリンス”。それこそテリー・ライリーのフェミニンな変奏である。もともと、シュトックハウゼンと袂を分かつことがテリー・ライリーの出発点だったことを思うと、アカデミックな要素がまるでなく、むしろニュー・エイジへと接近させることはライリーの本意にかなうことなのかもしれない。寄せては返す主題の変奏と穏やかな質感の持続はスティーヴ・ライヒを取り入れたティム・ヘッカーやアレックス・グレイ(DPI)でさえマッチョに感じさせなくはないものがあり、ドローンだけでなく、ミニマル・ミュージックにも女性によって書き換えられる面があったとことに気づかされる。12パートは、そして、あっという間に終わる。

 ディズニーが本気だなと思わせたのは、『アナと雪~』の4ヶ月後に公開されたロバート・ストロンバーグ監督『マレフィセント』も「男性を必要としないフェミニズム」を同じように打ち出していたから……かもしれない。『眠れる森の美女』を魔女の視点から捉え直した同作は、エルザがさらに心の醜い存在へと成り果てた状態といえ、子どもにもわかりやすいゴシック・ファンタジーとして仕上げられた。『アナと雪~』とは正反対に突き進んでもなお、「男を必要としない」女性像が子どもたちの心に刷り込まれたのである。結果が楽しみだなーと思いつつ、ガゼル・ツインことエリザベス・バーンホルツのセカンド・アルバムを再生してみよう。そうしよう。

 ブライトンというリゾート地で育ったからということがまったく説明にはならないように、フードで顔を隠し、ヴォーカルは時に男の声に変調させ、絶望的なダーク・ウェイヴを聞かせる『アンフレッシュ』は、早くも『キッドA』(レイディオヘッド)を書き換えたという評が飛び出るほどガキどもの心には染み通っているらしい。明らかに気持ち悪さを強調したようなシンセサイザーはインダストリアル・ヴァージョンのポーティスヘッド、ないしはホラー・ヴァージョンのFKAツイッグスといった感触を最後まで貫き、暴力性を自己へと向けざるを得ない女性の姿を浮かび上がらせる。体の線を覆い尽くしていることやアルバム・タイトルもそうだし、シングル・カットされた「アンチ・ボディ」など肉体嫌悪がその根底をなしていることは想像にかたくなく、フランケンシュタインが子どもを生みたくなかった女性のファンタジーであり、ゲイの監督が映画化したものだという構図がここにはまだ生きていることを思わせる。


Arca - ele-king

 昨年リリースした『ゼン(Zen)』が好調のアルカの、ファッション・ショーのために書き下ろした新曲11曲が無料でダウンロードできる!
 ゼンは急げ、ダウンロード・イット!


■『Sheep (Hood By Air FW15)』

Tracklist:
1. Mothered
2. Pity
3. Drowning
4. En
5. Faggot
6. Submissive
7. Umbilical
8. Hymn
9. Don't / Else
10. At Last I Am Free (interlude)
11. Immortal

■ビョークの3月に発売されるニュー・アルバムに共同プロデューサーとして参加! カニエ・ウェスト、FKAツイッグス作品のプロデュースを行ってきたアルカが、3月に発売されるビョークのニュー・アルバム『Vulnicura』に、2曲の共作曲、7曲の共同プロデューサーで参加している。

■1stシングル 'Thievery' MV 視聴リンク (Created by Jesse Kanda )

​■2ndシングル 'Now You Know' MV 視聴リンク (Created by Jesse Kanda )

■3rdシングル 'Xen' MV 視聴リンク (Created by Jesse Kanda )

一夜限りの貴重ライヴ - ele-king

 結成31年。ザ・ウォーターボーイズが新作を携えて来日、初となる単独来日公演を行う。アイリッシュ・トラッドへの傾倒をひたむきに作品化してきたマイク・スコットの仕事は、ニューウェイヴ世代ばかりでなく、あまねく音楽ファンに愛されるべき。ele-kingでもインタヴューを公開予定です。ぜひ彼の音と言葉に触れ、来日までの時間を豊かにふくらませてみてください──。

PEALOUTの近藤智洋も参加した、ウォーターボーイズの約4年ぶりとなる新作がリリース!
4月には東京にて初の単独公演が決定!
期間限定で全曲試聴も!

 今年で結成31年を迎える大御所バンド、ウォーターボーイズ。ケルティック・フォーク、アイルランド伝統音楽、プログレ、カントリー、ゴスペルなどからの影響を受けたその独自の音楽性、そしてスコットランドの吟遊詩人とも評される歌詞は国内外で高い評価を受けている。

 今年のフジロックではバンドとして念願の初来日も果たした彼らの4年ぶりとなる新作『モダン・ブルース』が、1月14日(水)に発売を迎える。国内盤は1週間先行リリースのうえ、2曲のボーナストラックを収録。
 また今作には、PEALOUT時代に「フィッシャーマンズ・ブルース」のカヴァーを演ったことでマイク自身とも親交のある近藤智洋の演奏が使用されている。

 そんな中、アルバム発売に先駆けてさらに嬉しい情報が入ってきた! なんとウォーターボーイズにとって初となる単独来日公演が東京にて4月に開催されることが決定したのだ。1夜限りの貴重なライヴとなっているので、この機会をお見逃しなく!

 また、現在期間限定でニュー・アルバム『モダン・ブルース』の全曲試聴を実施しているので要チェック!

ウォーターボーイズアルバム全曲試聴はこちら:


■公演情報
2015/4/6 (月) 渋谷クラブクアトロ
open18:30/ start 19:30 ¥8,000(前売/1ドリンク別)
お問い合わせ:03-3444-6751(SMASH)
※未就学児童の入場は出来ません。

チケット情報
主催者先行予約:1/27(火)スタート予定
2/7(土)プレイガイド発売開始予定
※共に詳細は1/20(火)に発表


Amazon Tower Amazon

■アルバム情報
アーティスト名:The Waterboys(ウォーターボーイズ)
タイトル:Modern Blues(モダン・ブルース)
レーベル:Kobalt
品番: HSE-60200
発売日:2015年1月14日(水)
※日本先行発売、ボーナストラック2曲、歌詞対訳、ライナーノーツ 付

<トラックリスト>
1.Destinies Entwined
2.November Tale
3.Still A Freak
4.I Can See Elvis
5.The Girl Who Slept For Scotland
6.Rosalind You Married The Wrong Girl
7.Beautiful Now
8.Nearest Thing To Hip
9.Long Strange Golden Road
10. Louie's Dead Body (Is Lying Right There)*
11. Colonel Parker's Ascent Into Heaven*
*日本盤ボーナストラック

※新曲「Destinies Entwined」iTunes配信中&アルバム予約受付中!(高音質Mastered For iTunes仕様)
https://itunes.apple.com/jp/album/modern-blues/id946840347?at=11lwRX

■ショートバイオグラフィー
1983年結成、英国エジンバラ出身のマイク・スコットを中心としたUKロック・バンド。ケルティック・フォーク、アイルランド伝統音楽、プログレ、カントリー、ゴスペルなどの影響を受けている。バンド名はルー・リードの曲の歌詞から名付けられる。初期はNYパンクの影響を受けたニューウェーブバンドとしてスタートし、U2フォロワー的な扱われ方もされていた。2014年にフジロックで初来日を果たし、2015年1月に約4年ぶりとなるニュー・アルバム『モダン・ブルース』をリリース。
同年4月には初の単独来日公演が決定。


Extreme Precautions - ele-king

 昨今のそれっぽい黒テクノをなぎ払う……なんじゃこりゃあ的レコード。先日、とある先輩から「YOUたちもこーゆーのやればいいじゃない」とコレをご教授いただいた。

 フレンチ暗黒テクノ・レーベル、〈イン・パラディズム(in paradisum)〉から看板アーティスト、モンドコップ(Mondkopf)の別名義、エクストリーム・プリコーションズ(Extreme Precautions)のファーストLPがお披露目。針を落とした瞬間、聴者に襲いかかる超シンフォニックな展開と鬼ショボ・打ち込みブラストビートに爆笑必至だ。
 〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉の台頭以降、メタルからの影響を公言するテクノ・アーティストは急増、ブルズム(Burzum)Tシャツを着用したヒップなテクノDJが昨今のクラブのトレンド! ……という状況は生粋の中2病ヘドバンガーを自認する僕としちゃファックなんですよ。そもそもヨーロッパでは90年代レイヴ・カルチャーに傾倒していたメタル・ヘッズは多く、本家のメタルバンド名義に隠れてこっそりとトランスやゴアのDJとして多くのメタル・ヘッズが活動していたとかいないとか……とくにその傾向が強かったのがフランスとノルウェイであり……そんなものに改めてフォーカスを当てることなんて今後あり得ないだろうと思っていた矢先にこのレコードである。ロウ・ジャックといい、彼といい、いまフレンチ・イナタイ電子音楽がキテる。あれ、そもそも最近再逮捕/釈放されたヴァルグもフランスにヤサを構えている影響もあるのかも。

 カシオトーン的簡易アルペジエーター感全開のメタル旋律によるリード・シンセ、ショボ過ぎる質素なモジュレーション、打ち込みフル・ブラストビート、全編似たり寄ったりのショート・チューンで最後までぶっちぎる潔さ。ブルズムの『フィロソフェム(Filosofem)』以降確立された打ち込みワンマン・ブラックメタルという精神不衛生きわまりないジャンルを完全に形骸化、ブラックメタルへのテクノ的パロディとも捉えられる本作品はモンドコップが同レーベルより昨年リリースしたヘヴィ・ドローン色全開のアルバム『ハーデス(Hadès)』(こっちもかなりメタルなんだけれども。そもそも冥界の王、ハーデスって……)完成後にテクノEPを制作しようとしたところ、ブルータル・トゥルースやナパーム・デス、アサックやピッグ・デストロイヤーを聴き過ぎていたらこんなんを作ってしまったそうな。

 ブラックメタルにおける劣化音質の美意識を電子音楽側で完全に体現しているという点はとても現代的だ。だってこれ、雑じゃなきゃ絶対かっこよくならないし。これこそテクノ・メガネ男子ヘドバン・ミュージック。

interview with Panda Bear - ele-king

 2000年代のUSインディを代表するバンド、いやむしろ2000年代をUSの時代にしてきたアーティストたちを象徴する存在ともいえるアニマル・コレクティヴ。その双輪として彼らの音楽を駆動してきたのは、現在はそれぞれソロとしても活動しているエイヴィ・テアとパンダ・ベアという対照的な才能である。  といった説明はもうとくに不要かもしれない。いまではパンダ・ベアの新作、というだけでじゅうぶんに盤を手にする理由になる。そうなるだけの作品を彼は残した。『パーソン・ピッチ』(2007年)──かの逸盤はさきの10年のシーンに広がるサイケデリックの大きな水脈の上流にあって、それいちまいでチルウェイヴの胎盤にもなったのだ。

 その彼ことノア・レノックスの5枚めとなるソロ・アルバムはその名も『パンダ・ベア、死神に会う(パンダ・ベア・ミーツ・ザ・グリム・リーパー)』。「死神」にはリテラルな「死」ではなく、「その存在がなくなってしまう前に新しい何かに変化する」イメージが重ねられていると彼は話してくれた。かたちを変えて続いていく命というモチーフは、そもそもアニマル・コレクティヴと名乗る彼らの中に共通する感覚なのかもしれないが、とくにレノックスには色濃いように思う。

 もしあなたにとっての「アニマル・コレクティヴ」が、たとえば『フィールズ』の“グラス”や“パープル・ボトル”のエクスペリメンタリズムだったとしたら、あなたが聴いているのはおそらくエイヴィ・テアだろう。『センティピード・ヘルツ』(2012年)なども筆者からすればエイヴィ色の強いアルバムという印象だ。対して『キャンプファイア・ソングス』(2003年)や『サング・トングス』(2004年)などはパンダ・ベアの息づかいを強く感じる。というか、実際に息が……ノア・レノックスの声がたっぷりと注ぎ込まれたアルバムになっている。
 テアが吹き込むのが瞬間的な生命感の横溢だとすれば、レノックスが吹き込むのはまさに彼のロングトーンそのものともいえる、連続的な息=生き。いま子どもを育てる時間の中で、生活がふたつあるように感じるという彼は、今作において、そのいくつもの命の重なりをヴォーカルの層となして水平に広げていく。彼のいう死=変化はあくまでそのなかでゆっくりと生起していくのだと感じる。大鎌を手にするおどろおどろしいはずの死神は、いまはまるでそれを櫂のようにあやつり、なめらかに時を運んでゆく水先案内人のよう。“トロピック・オブ・キャンサー”などに感じるのは、そうした水平方向への流れをもったサイケデリアだ。かつてはループのなかに夢と無限を見出していた、ミニマルな彼の音楽性は、もしかするとここでひとつの方向をめざしてリニアに延びていくという無限を得たのかもしれない。年齢をかさねてパンダ・ベアが出会ったのは、むしろ生きることをみちびく死神……「思ってねーよ」って言われるとしても、そこはそう、空想したい。

■Panda Bear / パンダ・ベア
米NYを拠点に活動するバンド、アニマル・コレクティヴの中心的メンバーのひとり、パンダ・ベアことノア・レノックス。アニマル・コレクティヴとして現在までに9枚のスタジオ・アルバムを、パンダ・ベアとしては4枚のソロ・アルバムを発表。ソロの3作めとなる『パーソン・ピッチ』(2007年)は米音楽批評サイト「Pitchfork」の年間チャートにおいて第1位を獲得するなど、個人のキャリアにおいても高い評価を得ている。

僕にとって、プロデューサーという面でいちばん強く影響されているのは確実にダブ・ミュージックだからね。


Panda Bear
Panda Bear Meets The Grim Reaper

Domino / ホステス

Indie RockPsychedelicAmbient Pop

Tower HMV Amazon iTunes

今作は『キング・タビー・ミーツ・ロッカーズ・アップタウン』や『オーガスタス・パブロ・ミーツ・リー・ペリー・アンド・ザ・ウェイラーズ』からインスピレーションを得たアルバムだとのことですね。ダブに接続する要素は『パーソン・ピッチ(Person Pitch)』の頃から強かったと思いますけれども。

ノア・レノックス:『パーソン・ピッチ』にかぎらず、ダブとの接続は毎回あると思うよ。僕にとって、プロデューサーという面でいちばん強く影響されているのは確実にダブ・ミュージックだからね。ああいうタイプのサウンドを聴いて以来、自分が唯一プロデュースしたと思えるサウンドが、ダブのようなサウンドだったんだ。

意識的にダブに接近するのは今回がはじめてではないと。

レノックス:はじめてではないね。でも、今回が他の作品よりも影響が濃く出ているっていうのはあるかもしれない。前からやってはいたけど、もっとわかりにくかったんじゃないかな。リヴァーブやディレイは普段から使っているし、そういった部分は自分にとってジャマイカのプロデューサーとのリンクなんだ。

そうしたプロデューサーたちの作品とはどのように出会って、どのようなところに惹かれたのでしょう?

レノックス:はじめて出会ってから馴染むまでには、じつは時間がかかっていて。18歳のとき、当時いっしょに住んでたルームメイトがダブの大ファンで、彼が聴いてたのを耳にしていたときは、僕はあまり理解できなかったんだ。で、彼があるときキング・タビーの『ルーツ・オブ・ダブ』っていうレコードをくれて、それをヘッドフォンで聴きながら歩くようになってからすぐにファンになった。ダブの深いベース音やザラついたハイハットとスネアのコンボ、リズムやサウンドが大好きになって、すごく特徴のあるサウンドだなと気づいたんだ。ちょっと湿ったような、雨っぽいフィーリングがあるところが魅力的だったんだよ。

今作はリズムが強調されたアルバムでもあると思います。わたしは“シャドウ・オブ・ザ・コロッサス(Shadow of the Colossus)”や“ロンリー・ワンダラー(Lonely Wanderer)”など、過去作もふくめあなたの3拍子や8分の6拍子の曲が大好きなのですが、こうした曲はメロディからできるのでしょうか?

レノックス:今回のアルバムに収録された曲に関しては、最初にできたのはリズム。あとはインストやアレンジを経て、いちばん最後にメロディができるっていうプロセスだった。
 僕がよくやったのは、最初にドラム、そしてシンセのようなインストのサウンドを作ったりサンプルを作って、そこからそれをレゴのブロックのように組み立てていくっていうやり方。その組み合わせ方に変化を加えていくんだよ。基本的には、音を何度も聴いて、そこに小さな捻りや変化を加えていった。で、そうしていくうち、何ヶ月も後になってやっとメロディが頭に思い浮かびはじめるんだ。望遠鏡で何か遠いものを見ていて、焦点が合わないとボヤけてはっきりと見えないでしょう? 最初はそんな感じ。でも、要素や色がわかってくるとはっきりはっきりとイメージが見えてくる。そうやってメロディができていくんだよ。ゆっくりとしたプロセスの中で、メロディやリズムや歌詞がナチュラルに浮かんできて、自然と形を成していく。僕は、あまり計画をたててメロディを作ることができないんだ。曲ができ上がるまで待たないといけないんだよね。

ゆっくりとしたプロセスの中で、メロディやリズムや歌詞がナチュラルに浮かんできて、自然と形を成していく。

テクノなどはあまり聴かれませんか?

レノックス:よく聴くよ。ダブと同じくらいインスピレーションを受けてる。ハウスのような、他のフォームのダンス・ミュージック、クラブ・ミュージックよりもテクノを聴いてる。ヒップホップもそうだね。そういった音楽にはつねに影響を受けてるんだ。

ダフト・パンクとのコラボレーション曲(“ドゥーイン・イット・ライト(Doin' it Right)”)は16ビートでしたが、リズムにおいて意識したことや、新しく気づいたことはありましたか?

レノックス:作っていくうちに、ブレイクを使うことにフォーカスを置こうという方向性がだんだん見えてきた。リズム的に、もっと揺れるような、力のこもりすぎていないものを作りたいっていうのもあったね。リズムに関して意識したのはそこ。あとは、僕は普段から、典型的ではないちょっと変わったリズムを作るのが好きなんだ。

今回の録音はさまざまに場所を変えて行ったそうですね。『パーソン・ピッチ』などには「ベッドルームの中で世界を体験する」というような感覚があるのですが、今作は「いろいろな場所でただひとつのノア・レノックスを体験する」というアルバムのように感じました。複数の場所で録音したのはなぜでしょうか?

レノックス:レコーディングではなくて、いろいろな場所で曲を作ったんだよ。ほとんどは家で作って、その他はツアー中。何度か家を引っ越したりもしたから、それで点々とした感じになる。引越しのたびにスタジオをセットアップしてね。あるときはビーチの近くに住んでいて、そこのガレージにスタジオを作って作業していたし、街に住んでいたときは、そのアパートの地下室にスタジオを作って作業をした。あとは、ツアー中のホテルだね。たくさん移動していたからそうなったんだ。
 最終的なレコーディングはちゃんとした場所でやりたかったから、自分の場所ではなくて、ヴィンテージの機材や何百ドルもするギアがある場所を借りたよ。そういう環境はいままであまりなかったけど、ずっとやってみたいと思っていて、今回やっと着手したんだ。

普通のピアノには聴こえないからもしれないけど、あれが僕がアルバムのなかでいちばん気に入っている楽器の音色だね。(“クロスワーズ”)

前作にひきつづいて、プロデューサーにソニック・ブームを迎えていますが、彼と試した音作りやアイディアでとくに印象深いことはどんなことですか?

レノックス:ピートは、サウンドを普通では思いつかないような場所に持っていってくれるんだ。彼は普通とはちがう何かを感じとれる。人の耳をくすぐるというか、そういうサウンドを作ることができるのが彼。ピートにはいろいろな才能があるけど、その部分は僕なんかよりかなり優れていると思う。彼の才能の中でも、目立ったクオリティだね。

今回もサンプラーを中心とした曲作りでしょうか。生音の素材がもちいられることが減ったようにも思いますが、いまの録音スタイルについて教えてください。

レノックス:サンプラーを中心としたっていうのは、もちろんこのレコードと『パーソン・ピッチ』をつなぐ要素ではある。でも、『パーソン・ピッチ』のほうがもっとそれに徹していたね。マイクを使ったのはヴォーカルを録るときだけで、あとはすべてハードウェアやコンピュータの中で作業したから、ライヴ・サウンドは本当にわずかだったんだ。『トムボーイ(Tomboy)』はその逆で、ライヴ・パフォーマンスが多かった。全部にマイクを使ったわけじゃないけど、より多くギターの生演奏が使われているからね。
 今回のレコードに関しては、マイクが少ないという点では『パーソン・ピッチ』に帰還している。でも、今回はパーカッションは自分でやったりしてるから、そこはちがうんだ。

一方で、くるみ割り人形のサンプリングなど、ブラスやハープ、ピアノなども中盤では印象的に登場します。楽器の音色としてもっとも好きなものは何ですか?

レノックス:“クロスワーズ(Crosswords)”っていう曲があるんだけど、あれを作っていたときはスタジオにグランドピアノがあって、あのピアノ・パートが“クロスワーズ”の曲の印象を変えたんだ。それまではなかった「個性」を曲に吹き込んでくれた。普通のピアノには聴こえないからもしれないけど、あれが僕がアルバムのなかでいちばん気に入っている楽器の音色だね。

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今回初めて意識したのは、「自分についてだけを書かない」ということだった。それは、いままでのどの音楽ともちがう。

“ミスター・ノア(Mr Noah)”とはあなたのことですか? ファンキーで、タイトな生ドラムも入り、アルバムのなかではもっともやんちゃなグルーヴを感じる曲ですが、あなたのドラマーとしてのアイデンティティが反映されていると捉えるのは的外れでしょうか?

レノックス:そう。自分のことだよ。セルフ・ポートレイトみたいな曲。ドラマーとしてのアイデンティティか……考えたことなかったな。リズム的にはかなりシンプルだと思うけど。

今作中、もっともパーソナルだと思われる曲と、もっとも自分のこれまでのアーカイヴから離れていると感じられる曲を教えてください。

レノックス:今回初めて意識したのは、「自分についてだけを書かない」ということだった。今回は、自分だけの考えや経験とはちがうものを書きたかったんだ。それは、いままでのどの音楽ともちがう。もちろん、曲を書きはじめるときは自分の考え方や経験からスタートするけど、そこから歌詞にひねりを加えたり、フレーズを変えたりしていった。今回は自分のことに関しては語りたくなかったから、みんなが経験したり、誰でも考えるようなことにフォーカスしたんだ。誰もが抱える問題や葛藤、喜びとかね。自分以外の人と、よりコミュニケーションがとれるように。

詞の内容に引っぱられて作られた曲はありますか?

レノックス:それはないね。クールだなと思うアイディアを見つけて、曲の一部で使おうかな、と思うこともある。でも、詩を書いてそこから曲を作るってことはまずない。さっきも言ったように、僕はその方法がわからないからね。

『Panda Bear Meets The Grim Reaper』というのは、とても可愛らしい、愉快なタイトルだと思いました。あなたにとって「The Grim Reaper(死神)」とはどのようなものですか?

レノックス:このアルバムはコンセプト・アルバムではないんだけど、このタイトルは文字通りの「死」を意味しているんじゃなくて、変化を表しているんだ。何かが変化して、その存在がなくなってしまう前に新しい何かに変化する、みたいな。今回のアルバムの曲がそんな感じだからね。永遠になくなってしまうんじゃなくて、変化して生まれ変わる、というか。

このタイトルは文字通りの「死」を意味しているんじゃなくて、変化を表しているんだ。

死神、精霊、生物(Animal Collective)、あなたにまつわる音楽にはそうした自然と超自然のモチーフがとけあって存在していますね。きっとあなたにとって親しいイメージであり、あなた独特の生命観なのだと思いますが、そうしたものに向かうルーツはどんなところにあったと思いますか?

レノックス:自分たちも動物だからだと思う。僕たちもそういったものの一部だから。だからそういったことについて考えるし、音楽にも反映されるんだと思う。動物が持つ衝動と人間の衝動には似ている部分もあるし、逆に動物だけが持つ能力もあるし。人間って路頭に迷ったりするけど、動物は天真爛漫だったり。そこが魅力的なんだ。

あなたのソロ作品はアートワークも素晴らしく、いつも何らかの象徴性をそなえた、とても喚起的なヴィジュアルが用いられていました。今回はうって変わって、タイポグラフィ的なものになっています。これにはあなたからのディレクションがあったのですか?


『Panda Bear Meets The Grim Reaper』のジャケット

レノックス:そうだよ。でも、あれを作ったのはピートの友人のマルコ。ピートと僕のツアーのポスターを作ってくれたのが彼で、そのデザインがすごくよかったから、彼にいくつかデザインしてみてくれと頼んだんだ。そしたら、すごくたくさんアイディアを送ってきてくれてね。その中から、いちばん印象的だったものを使うことにした。他のも素晴らしかったから、そのうち使うと思う。タイトルの単語の頭文字を取って使う(PBMGR)っていうのは僕のアイディアだったけど、あとは全部マルコがデザインしてくれたんだ。

以前にもインタヴューさせていただいたことがあるのですが、そのときあなたは、ポルトガル(ヨーロッパ)は古い歴史を持っていて、アメリカが新しい国だと感じるとおっしゃっていました。ヨーロッパに住まうことで、音楽の歴史性を意識することはありますか?

レノックス:いまはインターネットがあるから、どこからでも、何にでもアクセスできる。だから、どこに住んでいようと何かに影響されずにはいられない時代だと思う。自分のオリジナルだと思っても、それは必ず自分が触れたことのあるものからきているわけだしね。

土地のトラディショナルな音楽から影響を受けることはありますか?

レノックス:住んでいれば触れてはいるから、もちろん影響はされていると思う。でも、自分がどう影響されているのかはわからない。何かに影響されていたとしても、それをコピーしようとは思わないし、その影響が反映されていることに気づいたら、そこに必ず変化を加えるようにしてるんだ。

新しい音楽に触れるのはインターネットを通してであることが多いですか?

レノックス:そうだね。あとは友だちはまわりにいる人たちから情報をもらったり。

業界にいると、情報量がすごそうですね。

レノックス:そうなんだ。音楽に詳しい人がまわりにたくさんいてくれてラッキーだと思う。

『ヤング・プレイヤー(Young Prayer)』や『パーソン・ピッチ』に戻るという意味ではないのですが、次はぜひアコースティックな作品を聴きたいです。いかがでしょう?

レノックス:ははは(笑)。ギターと自分でツアーしたいっていう夢はあるんだ。いまは、機材をいくつも運んで移動するのが面倒くさくて(笑)。だから、バンドとギターでツアーするのって魅力的なんだよね。いつか実現させると思う。いろんな意味でやりやすいと思うから(笑)。

生活がふたつある感じかな。ひとつは自分のためで、もうひとつは他人のため。親になると、世界がガラっと変わるよ(笑)。

差支えがなければ教えてください。お子さんは家庭教育と学校教育のどちらでお育てになりたいと思いますか?

レノックス:状況によるね。あとは教師がどんな人かによる。どちらも善し悪しがあると思うから、本当にそのときの環境によると思う。僕の子どもは一人はあまり社交的じゃないから、そういう場合は学校にいってそういうスキルを身につけるのもいいと思うし、もう一人はその逆だから、まわりにある学校の環境や教師によっては家庭教育もいいかもしれないし。場合によるね。

前作のジャケットでは聖母が涙を流していましたが、あなたにとって「父」というとどんな存在で、どんなモデルやイメージを思い浮かべますか?

レノックス:それはつねに変わるんだ。父親になる前はぜんぜんちがうイメージを持ってたけど、なってからそれは変わったし、いまだに変化しつづけてる。まだ自分でもわからないんだ。状況によって変わるんだよね。子どもがいるといないじゃ、生活の視点がまったくちがう。自分の人生を生きているのに、そうじゃないというか……(笑)。生活がふたつある感じかな。ひとつは自分のためで、もうひとつは他人のため。親になると、世界がガラっと変わるよ(笑)。自分は学校に通っていなくても、通っているリズムで生活するわけだからね。

2014 Retrospective - ele-king

 CDや配信、あるいはカセットと較べて12インチ・シングルはもはや圧倒的に贅沢品である。値段も驚くほど高くなった。消費者的にはたんに惰性で買っていただけなのに、商品の持つ意味が時代とともにこれだけ変わっていった例も珍しいとは思う。70年代には売り物でさえなく、デザインもそこそこにプロモーション盤として配られていただけ。80年代にはリミックス文化を発展させることにより音楽がアルバム単位で売られることを脅かすほど商品の最先端となり、90年代にはそのままアンダーグラウンドのメディアにも等しい存在になった。ゼロ年代には一転して早くもノスタルジーを漂わせたかと思えば、いまや、チープな高級品とでもいうのか、FKAツィッグスのネックレス付きデザインのように投機の対象にもなれば、以下で取り上げた〈センシュアル・レコーズ〉のように依然としてアンダーグラウンドのメディアとして配信では買えない情報を運んでくることもある。畳みかけるようなイタロ-ディスコの再発盤も含めて、その多義性は計り知れなくなってきて、アナログ盤だと法的なサンプリング規制は見逃されるという面(=使い方)もあるらしい。かつて、12インチ・シングルを買い漁りながら、その存在意義について思いを巡らせるようなことはなかった。高級品なのかゴミなのか、なんとも妙な気分で(結局は)買い集めてしまった12インチ・シングルから2014年のハイライトをご紹介。

January

Dario Reimann - White Cypher EP llllllll

 フランクフルトの新勢力で、ダリオ・ライマンが新たに設立した〈センシュアル・レコーズ〉からダブ・ミニマルの新機軸を聴かせる「マニーカウント・ダブ(Moneycount Dub)」。催眠的なループを引き立てるようにユルめのパーカッションがどんどん入れ替わり、お金を数えているような気持ち……にはならないな。金融都市ならではの感覚か? ルーマニア系からの影響が明らかな他の3曲よりもだんぜんユニークだと思うんだけど……。

Feburary

AxH - Destroy Tempa

 ボストンからアンドリュー・ハワードによるフィジカル1作め。アフリカン・パーカッションを縦横に組み合わせ、だらだらと呪術的なムードを煽るエスニック・ダブステップ。BPM少し早めがいいかも。ケテイカーことリーランド・カービーが〈アポロ〉から放った「ブレイクス・マイ・ハート・イーチ・タイム」も意外なほどファンタジー気分。

March

Grems - Buffy Musicast

 フランスからすでに5枚のアルバム・リリースがあるミカエル・エヴノの単独では初のシングル(ユニット名のグレムスはアイスランド語で欲求不満)。フランス語のせいか、10年前のTTCを思わせる間の抜けたヒップ・ホップがほんとに久しぶり(関係ないけどホワイ・シープ?『REAL TIMES』にTTCからキュジニエにラップで参加してもらってます)。この月はNYから韓国系のアーティストにモデルやDJが集まったダスト(Dust)によるイタロ・ディスコとアシッド・ハウスの混ざったような「フィール・イット」もおもしろかった。映像はホラー過ぎてR指定

April

Katsunori Sawa - Holy Ground EP Weevil Neighbourhood

 スティーヴン・ポーターの名義でDJノブともスプリット・シングルをリリースしていた京都の澤克典によるセカンド・ソロ。日本人にありがちな清潔感がまったくなく、しかも、インダストリアル・テイストを優美に聴かせる抜群のセンス。12月にはインダストリアル・ダブステップのアンソーンと組んだボーケ(BOKEH)名義もよかった。

May

Hidden Turn - Big Dirty 31 Records

 ドク・スコットのレーベルからジュークとドラムン・ベースを完全に融合させてしまったような(たぶん)新人のデビュー作。「もうちょっと話題になってもよさそう」というクリシェはこういうときに使う。

June

Reginald Omas Mamode IV - As We Move Five Easy Pieces

 シングルの作り方がもうひとつ上手くないモー・カラーズ(『ele-king Vol.15』、P.82)に代わって、お仲間がそれらしいシングルを出したという感じでしょうか。ゆったりとしたトライバル・リズムは、これもモー・カラーズと同じくインド洋に浮かぶモーリシャス共和国の「セガ」と呼ばれるリズムに由来するんだろうか。

July

Tessela - Rough 2 R&S Records

 「ハックニー・パロット」や「ナンシーズ・パンティ」が大人気のわりにもうひとつピンとこなかったエド・ラッセルによる6作めで、これはドカンときましたw。レニゲイド・サウンドウェイヴがベース・ミュージックを通過すればこうなるかなと。90年前後のブレイクビーツ・テクノが完全に更新されている。

August

Blond:ish - Wunderkammer Kompakt

 モントリオールから名義通りブロンド女性2人組によるフィジカル3作め。「ラヴァーズ・イン・リンボEP」(『ハウス・ディフィニティヴ』、P.262)で覗かせていたモンド係数を大幅にアップさせたアシッド・ミニマルの発展形。とくにカップリングの“バーズ・イート・バーズ”でその妙味が冴え渡る。

September

New York Endless - Strategies Golf Channel Recordings

 グレン・ブランカのリイッシューなどにもかかわっていたダン・セルツァーが、なんと現在はディスコ・ダブの受け皿となっている〈ゴルフ・チャンネル〉から。ユニット名や曲調から察するに、1月のダリオ・ライマンやハンヌ&ロアー「ブラ!」と同様、中期のクラフトワークにインスパイアされているのはたしか。ロアシからSH2000「ミスティカル・ブリス」もなかなか。

October

Lakker - Mountain Divide EP R&S Records

 エイフェックス・ツインがオウテカとミックスして使ったことで一躍有名になったアイルランドの2人組による8作めで、これも4月でピックアップしたカツノリ・サワとはちがった意味でインダストリアル・テイストの優美なダブステップを聴かせる。中盤から乱打されるハイハットのじつにアシッドなこと。前の年にはルーシーの〈ストロボスコピック・アルテファクツ〉でハード・ミニマルをやっていて、その変化と連続性はかなり興味深い。

November

Future Brown - Wanna Party Warp Records

〈フェイド・トゥ・マインド〉周辺からファティマ・アル・カディリやングズングズら4人組によるデビュー作。シカゴのMC、ティンクをフィーチャーしたグライムはイギリス産にはないニュー・エイジ色とMIAから現実感をなくしたような手触りが新鮮。

December

Ana Helder - Don't Hide Be Wild C meme

 マティアス・アグアーヨのレーベル(『ハウス・ディフィニティヴ』、P.194)から80年代初頭を思わせる、なんとも大味のエレクトロ・ハウス。彼女自身の声なのかサンプリングなのかわからないけれど、あまりに蓮っ葉な発音が気になる(アルゼンチンからスリーフォード・モッズへのアンサーというか……)。

Dean Blunt - ele-king

 年末年始は、妻子が実家へとさっさと帰るので、ひとりでいる時間が多く持てることが嬉しい。本当は、ひとりでいる時間を幸せに感じるなんてこと自体が幸せで贅沢なことなのだろう。そんなことを思ってはいけないのかもしれないが、年末年始、僕は刹那的なその幸せを満喫したいと思って、実際にそうした。
 たいしたことをするわけではない。ひたすら、自分が好きなレコードやCDを聴いているだけ。聴き忘れていた音楽を聴いたり、妻子がいたら聴かないような音楽を楽しんだり、しばらく聴いていなかった音楽を久しぶりに聴くと自分がどう感じるのかを試したり。もちろん片手にはビール。お腹がすいたら料理したり。たまにベランダに出たり。たまに読書をしたり。たまにネットを見たり。寝る時間も惜しんでひとりの時間を満喫した。
 そんな風に、ひたすら音楽を聴いているなかで、僕はディーン・ブランドの新作を気に入ってしまった。
 最初に聴いたときは、このところの彼のソロ作品の「歌モノ」路線だなぁぐらいにしか思わなかったのだけれど、家の再生装置のスピーカーでしっかり聴いていると、正直な話、この作品を年間ベストに入れなかったことを悔やむほど良いと思った。僕には、ハイプ・ウィリアムス時代の衝撃が邪魔したとしか言いようがない。

 たしかに、『ブラック・メタル』という(北欧のカルト的ジャンルとは無関係。むしろ人種的ジョークさえ含むかのような、深読みのできる)作品タイトルも、真っ黒なスリーヴケースも、そして、意味ありげで意味がない曲名も、ディーン・ブランドの調子外れの歌も、まあ面白いのだが、ハイプ・ウィリアムス時代から聴いているリスナーにとっては相変わらずといえば相変わらずで、「ああー、いつものディーン・ブランドだなー」で済んでしまう話だ。実際、僕もそう済ませていたきらいがある。

 ところが、年末年始のひとりの時間のなかで『ブラック・メタル』をじっくり聴いたときには、何か特別な作品に思えた。家にある、いろいろなジャンルの音楽を聴いているなかで再生したのが良かったのだろう。松山晋也さんが『ミュージック・マガジン』でこの作品を個人のベスト・ワンにしていた理由も、僕なりに納得できた。これは……言うなれば、セルジュ・ゲンズブールなのだ。もしくは、(他から盗用した)おおよそ全体にわたるギター・サウンドの暗い透明感からしてドゥルッティ・コラム的とも言える。


 
 これだけ世の中でEDMが流行れば、その対岸にある文化も顕在化するはずだ。ヒューマン・リーグがヒットした反対側ではネオアコが生まれ、ユーロビートが売れた時代にマンチェスター・ブームがあったように。
 ディーン・ブランドがこのアルバムの前半で、ギター・サウンドにこだわり、パステルズをサンプリングしていることも、そうした時代の風向きとあながち無関係ではないだろう。夕焼けを見ながら『ブラック・メタル』を聴いていると、えも言われぬ哀愁を感じる。ディーン・ブランドのくたびれた歌声と女声ヴォーカルとの掛け合いは、僕のブルーな気持ちをずいぶん和らげてくれる。ハイプ・ウィリアムスという先入観なしで聴くべきだった。
 とはいえ、ムーディーなまま終わるわけではない。『ブラック・メタル』は後半からじょじょに姿を変えていく。ダブがあり、ノイジーなビートがあり、最後のほうには最高のテクノ・ダンストラックも収録されている。


David Bowie - ele-king

 僕は、昨年、『Jazz The New Chapter』という本を2冊出した。それは、それだけジャズ・シーンは新譜が充実していたからこそできたものだし、同時にいまは黄金時代と呼んでもおかしくないくらいに次から次へと新しい才能が出てきているような状況だからこそ出せたというのもある。今年、ティグラン・ハマシアンにインタヴューしたときに、彼が「いまは才能あるミュージシャンがたくさんいる。僕はこの時代に生まれてラッキーだった。」というようなことを言っていたが、当事者が自覚するほど充実しているのかと思ったものだ。

 さて、そんな中でジャズとヒップホップの蜜月は日々取りざたされている。ロバート・グラスパーの周辺のミュージシャンたちがコモンやマクスウェル、Q-Tipといったアーティストのサポートをしているだけでなく、今年はジェイソン・モランやマーク・ジュリアナがミシェル・ンデゲオチェロとコラボレートし、新作のリリースが決まったディアンジェロはクリス・デイヴをバンドの核に据えている。ブラック・ミュージックの世界では、彼ら新たなジャズ・ミュージシャンの存在がサウンドを決めているケースも多いと言っていいだろう。ただ、ロックの世界はとなると、そんなケースがまだ見られなかったのが実情だった。ディアンジェロにおけるクリス・デイヴのように、ロックで真っ先にジャズの最先端を起用するのは誰か。進化する生演奏を取り込むことができるロック・ミュージシャンは誰か。そんなことをいつも考えていたが、まさかそれがデヴィッド・ボウイだとは思いもよらなかった。

 この「スー(オア・イン・ア・シーズン・オブ・クライム)」で、ボウイはマリア・シュナイダー・オーケストラとのコラボレーションを選択した。マリア・シュナイダーは、マイルス・デイビスとの数々の仕事でジャズの歴史を作ってきた伝説的な作編曲家ギル・エヴァンスの弟子のひとりであり、現在ではジャズ界最高のビッグバンドを率いる作編曲家だ。グラミー賞をジャズとクラシックの両部門で受賞していることからもわかるように、その楽曲はジャズの躍動感とクラシックの洗練が共存している唯一無二、マリア・シュナイダーならではのサウンドに彩られている。さらにブラジル音楽やタンゴ、スパニッシュなど、さまざまな要素を自在に取り込む柔軟性も持ち合わせ、そのサウンドは日々進化している。

 なかでも特徴的なのが、アグレッシヴな力強さと柔らかなテクスチャーの両方を自在にコントロールする鉄壁のホーン・セクション。代表曲の”ハング・グライディング(Hang Gliding)”ではハンググライダーが地上から離れ、ぐんぐん高度を上げ、時に気流に巻き込まれながらも上昇し、最後に大きな風をつかまえて悠々と空を泳ぐ状況が描かれるが、その風や気流の動きが手に取るようにわかるのがこのバンドの最大の魅力だろう。楽器を完璧にコントロールできる名手たちの繊細な演奏が「空気の動き」さえも表現してしまうのだ。

 そんなマリア・シュナイダー・オーケストラをボウイはロックの文脈で見事に乗りこなしてしまった。ただし、そのために的確な調整を加えているのが、ボウイ(&プロデューサーのトニー・ビスコンティ)とマリアのすごさだろう。

 マリアは昨年クラシックでグラミー賞を受賞したことからもわかるようにどちらかというと正確さや繊細さに重きを置いてきたこともあり、近年はギターがロックやエレクトロニック・ミュージックもイケる個性派ベン・モンダーから、セロニアス・モンク・コンペティションの優勝者でもある若手のラーゲ・ルンドに変わっていた。それがこのロック仕様バンドではあえてベン・モンダーを呼び戻している。彼女の1995年の『カミング・アバウト(Coming About)』では、ベン・モンダーがエレキギターでノイズを振りまいているが、そのころを思い起こさせるサウンドがひさびさに聴けたという意味でマリア・ファンには貴重なセッションとなったと言える。そして、同じように当時はクラリネット奏者のスコット・ロビンソンがバス・クラリネットで、ブリブリゴリゴリとフリーキーなフレーズをぶちかまして不穏な空気を加えていたが、ここでもそれが復活している。ノイジー&エレクトリックなサウンドでジミ・ヘンドリックスをカヴァーしたりしていた師匠ギル・エヴァンスのサウンドを彷彿とさせる初期のマリアのサウンドが帰ってきたと言っていいだろう。

 そして、最大の変更点は現在ジャズ・シーンの最先端といえる奇才ドラマー、マーク・ジュリアナの起用だ。これまでマリアのバンドでは不動のドラマー、クラレンス・ペンがいた。マリアが書くあらゆるサウンドをあらゆるリズムを一人で叩き分ける驚異のドラマーのクラレンスにマリアは全幅の信頼を寄せていたはずだ。それをここではマーク・ジュリアナを起用し、ロック仕様に一気に振り切ってみせた。おそらくマリアのバンドのソロイストでもあるダニー・マッキャスリンが自身のアルバム『キャスティング・フォー・グラヴィティ(Casting for Gravity)』でドラムにマーク・ジュリアナを起用していることから、ダニーつながりで起用されたと思われる。この作品はボーズ・オブ・カナダの”アルファ・アンド・オメガ(Alpha & Omega)”を生演奏でカヴァーするなど、エレクトロニック・ミュージックをジャズ化する試みが成功し、グラミーにもノミネートされた傑作だ。その胆はマークのまるでマシーンのようなビートだ。現在、ブラッド・メルドーとのデュオ・ユニット、メリアーナで世界中を驚かせているマークは、スクエアプッシャーやエイフェックスツインからの影響を公言するようにエレクトロニック・ミュージックのビートを生演奏ドラムでトレースし、さらにそこにインプロヴィゼーションのスリルを乗せ、ドラム演奏の新たな可能性を提示している奇才だ。
 この”スー”でも、疾走するポリリズミックなドラミングがロックの耳にも耐えうるパワフルなグルーヴを与えているだけでなく、シンバルとスネアの乾いた響きを軸に、手数は増えても音色は増やさずに最小単位のフレーズのシンプルなループを軸にしたマークならではのびっちびちにタイトなドラミングが楽曲に新鮮な響きをもたらしている。そっけないまでに音色を絞ったフィルなども含めて、ミニマルかつミニマムなドラムはロックとテクノを通過した耳で聴けば、そのすさまじさに気づくことができるだろう。現在ジャズ・ミュージシャンが提示できるもっとも新たな可能性がここにはある。

 しかし、この最新形ジャズ・ドラマーを扱ったのがデヴィッド・ボウイだとは。次はダーティー・プロジェクターズ的なマーク・ジュリアナらと近い世代のロック・バンドに扱ってもらいたいものだ。この曲が、そんなジャズとロックの蜜月がはじまってくれるきっかけになることを願って。



David Bowie: Vocals

Maria Schneider Orchestra:

Maria Schneider: Arranger, Conductor
Donny McCaslin: Tenor Soloist
Ryan Keberle: Trombone Soloist

Jesse Han: Flute, Alto Flute, Bass Flute
David Pietro: Alto Flute, Clarinet, Soprano Sax
Rich Perry: Tenor Sax
Donny McCaslin: Soprano Sax, Tenor Sax
Scott Robinson: Clarinet, Bass Clarinet, Contrabass Clarinet

Tony Kadleck: Trumpet, Fluegelhorn
Greg Gisbert: Trumpet, Fluegelhorn
Augie Haas: Trumpet, Fluegelhorn
Mike Rodriguez: Trumpet, Fluegelhorn

Keith O'Quinn: Trombone
Ryan Keberle: Trombone
Marshall Gilkes: Trombone
George Flynn: Bass Trombone, Contrabass Trombone

Ben Monder: Guitar
Frank Kimbrough: Piano
Jay Anderson: Bass
Mark Guiliana: Drums

OG from Militant B - ele-king

チョコレートソウルサンデー 2014.12.30

ヴァイナルゾンビでありながらお祭り男OG。
レゲエのバイブスを放つボムを日々現場に投下。
Militant Bでの活動の他、現在はラッパーRUMIのライブDJとしても活躍中。

あけましておめでとうございます。
2015年もじゃんじゃんバリバリいくんでよろしくお願いします。
さて、、今回は前回と打って変わって甘甘歌物特集をお届け!!
窓の外は雪がちらつき、揺れる暖炉の炎を見ながら2人で毛布にくるまりココアを飲む。ニットのセータもオン(設定長っ!)そんな時に聴きたい曲を挙げてみました。カバー曲多めなので元曲を知ってる!ってなったりできて楽しいと思います。狙ってるあの子、愛するあの人と聴いてもらえたら幸いです。

1/6 吉祥寺cheeky "FORMATION新年会"
1/14 新宿open "PSYCHO RHYTHMIC"
1/24 青山蜂
1/31 京都metro
2/3 吉祥寺cheeky "FORMATION"
2/22 青山蜂

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