「You me」と一致するもの

Noise Assembly by Asian Meeting Festival - ele-king

 2005年に大友良英が新宿ピットインで企画した自主イベントから数えて8回めとなるアジアン・ミーティング・フェスティバル(AMF)がいよいよ開催される。

 2014年から昨年まで国際交流基金の主催のもとで開催されてきたAMFは、今年は国際交流基金を離れて台湾での芸術祭とコラボレートする。台北コントポラリー・アート・センターと協力し、阿里山と台南にて一週間にわたる「サウンド・ツアー」を敢行した後、台北アート・フェスティバルの一環として9月8日、9日の二日間にわたって「ノイズ・アセンブリー」と題した音楽祭を行う予定である。

 dj sniff とユエン・チーワイのキュレーションのもと開催される今年のAMFは、スキップ・スキップ・バン・バンやアリス・チャンなど台湾出身で過去にAMFに参加したアーティストに加えて、台湾の実験的な音楽シーン(現地では「実験音楽」よりも「サウンド・アート」という呼称の方が一般的なようだ)における「第一世代」のフーレイ・ワンやディーノ、あるいは Meuko!Meuko!やベティー・アップルなどの新世代、さらに近隣諸国からゴ・トラー・ミー(ハノイ)、スダーシャン・チャンドラ・クマー(クアラルンプール)、ワンナリット・ポンパラユン(バンコク)、トニー・マヤーナ(ジョグジャカルタ)、エリック・カリラン(マニラ)ら気鋭のアーティストが参加する。大友良英による「日本とアジアのミュージシャンの交流をもっと盛んにしたい」という思いから始まったAMFは、第1回から13年の時を経て、台湾を舞台に、台湾のアーティストを中心に開催されることになった。一体このような事態になると誰が予測し得たのだろうか。

 関連イベントとして「ノイズ・アセンブリー」前夜の9月7日には大友良英による市民参加型のワークショップが開催されるほか、大阪に滞在し難波ベアーズなどでライヴを行なっていた経験もある台北のノイズ音楽家ダワン・ファンと大友によるトーク・イベントも開催。また音楽祭の翌週末には三鷹SCOOLにて「ノイズ・アセンブリー」の成果と可能性をいち早く検証するレクチャー・イベントも開催される予定だ。

 いま台湾では音にまつわる面白く新しい出来事が起きている。わたしたちはそろそろそのことに気づいた方がいい。(細田成嗣)

Noise Assembly by Asian Meeting Festival
https://asianmusic-network.com/archive/2018/06/noise-assembly-by-asian-meeting-festival.html

Noise Assembly by Asian Meeting Festival

Day1(※チケット売り切れ)
日程:2018年9月8日(土)19:30
会場:中山堂(台北市延平南路98號)
料金:800台湾ドル
出演:大友良英(日本)、dj sniff(日本)、ユエン・チーワイ(シンガポール)、ゴ・トラー・ミー(ハノイ)、スダーシャン・チャンドラ・クマー(クアラルンプール)、ワンナリット・ポンパラユン aka ポック(バンコク)、トニー・マヤーナ(ジョグジャカルタ)、エリック・カリラン(マニラ)、王福瑞/フーレイ・ワン(台北)、Skip Skip Ben Ben(台北)、張欣/シェリル・チャン(台北)、張惠笙/アリス・チャン(台南)、劉芳一/ファンギー・リュウ(高雄)
https://www.taipeifestival.org/FilmContent.aspx?ID=14

Day2
日程:2018年9月9日(日)19:30
会場:中山堂(台北市延平南路98號)
料金:800台湾ドル
出演:大友良英(日本)、dj sniff(日本)、ユエン・チーワイ(シンガポール)、ゴ・トラー・ミー(ハノイ)、スダーシャン・チャンドラ・クマー(クアラルンプール)、ワンナリット・ポンパラユン aka ポック(バンコク)、トニー・マヤーナ(ジョグジャカルタ)、エリック・カリラン(マニラ)、Meuko!Meuko!(台北)、許雁婷/ユエンティン・シュー(台北)、黃大旺/ダワン・ファン(台北)、鄭宜蘋/Betty Apple/ベティー・アップル(台北)、廖銘和/Dino/ディーノ(台北)
https://www.taipeifestival.org/FilmContent.aspx?ID=14

フォーラム「Sonic Ideologies」
日程:2018年9月7日(金)15:30〜
会場:中山堂 Fortress Cafe(台北市延平南路98號)
料金:無料
出演:大友良英(日本)、黃大旺/ダワン・ファン(台北)
https://www.taipeifestival.org/eventContent.aspx?EID=23

People's Orchestra Workshop
リハーサル日程:2018年9月7日(金)10:00〜13:00
リハーサル会場:臺北試演場/Taipei Backstage Pool(台北市大同區延平北路四段200號)
発表日程:2018年9月8日(土)17:00〜18:00
発表会場:中山堂 台北市延平南路98號
料金:無料
出演:大友良英
https://www.taipeifestival.org/eventContent.aspx?EID=24

「ノイズ・アセンブリー」とは何か?――AMFと台北アート・フェスティバルに見る音楽/美術の最新動向
日程:2018年9月15日(土)19:00〜
会場:三鷹SCOOL
料金:予約1,500円 当日2,000円(+1ドリンクオーダー)
出演:細田成嗣(ライター/音楽批評)、金子智太郎(美学/聴覚文化論)
ゲスト:dj sniff(AMFキュレーター/ターンテーブル奏者)
https://scool.jp/event/20180915/

Conner Youngblood - ele-king

 いまでもスフィアン・スティーヴンスの『イリノイ』(05)について考える。あのアルバムの凄いところは、イリノイ州にまつわる事件や伝承をストーリーテリングに落としこみつつ知的にコンセプトとした……のみではなく、そこにスフィアン個人の屈折した内面や誇大妄想が編み込まれていたことにある。彼個人の狂気がアメリカ中西部に埋もれた歴史と重なるという事態。音楽的にはランディ・ニューマンやヴァン・ダイク・パークスの血筋にあるオーケストラル・ポップだが、「音楽的」という領域に留まらない深淵が口を開けていた。その才覚があまりに突出したものであるために、00年代のUSインディ・ロックにおいてスフィアンは個として屹立した存在になってしまった。背中を追えない存在に。その後彼は自身の生い立ちの暗部によりフォーカスするようになり(『キャリー&ローウェル』~シングル「トーニャ・ハーディング」)、もはや誰も踏み込めない領域に入りこんでいるように見える。
 だが、スフィアン・スティーヴンスのアメリカに対する強い関心が刺激を与えたのか、彼の「音楽」部分はケンドリック・ラマーがサンプリングするなど個を剥奪しながら、むしろ他ジャンルに広がっていくこととなった。ソウル/ゴスペル/R&Bにスフィアンからの影響が色濃いチェンバー・ポップを混ぜ合わせるモーゼズ・サムニーの登場は、ジャンルの横断が柔軟になったいまらしい出来事であるように思える。にわかにスフィアンの功績が再浮上しているようなのだ。

 コナー・ヤングブラッドの本デビュー作は、まさにスフィアン・スティーヴンスのこの15年ほどの存在の大きさを思い知らされるものだ。はっきりと直系だと言っていいだろう。バンジョーやクラリネット、ハープやタブラまでこなすというマルチ奏者であり、ダラス出身のこのシンガー・ソングライターが鳴らすのは、スフィアン・スティーヴンスのチェンバー・ポップをボン・イヴェールのアンビエント・フォークを通過させたものだ。祖父は黒人であることを理由に大学に入学できず、父親は人種差別の抗議運動に参加していたそうだが、ここからブラック・ミュージック性はほとんど聴こえてこないし(薄くソウル色がある程度か?)、直截的な政治性もない。本人はイェール大学でザ・バンドについての論文を書いた経験があるそうだが、つまり、高等教育を受けられる立場となった黒人である自分が、人種性をきわめて無効化した地点で音楽について学術的な視点を通して考え、鳴らせることを謳歌しているようだ。
 『シャイアン』は彼が旅した風景がもとになったアルバムだそうで、たしかにランドスケープ的な静謐ながら空間の広い楽曲が並ぶ。まろやかな耳障りのオーガニック・フォークと、ときに消え入りそうに繊細に響く歌声。アルバム序盤、“Los Angeles”~“Lemonade”の時点で多楽器によるざわめきのようなアンサンブルが親密に広がっていく。その温かみのある音像は初期のスフィアン・スティーヴンスを想起させるし、オートチューンの歌声をアンビエント・フォークと合わせる手法は明らかにボン・イヴェールからの影響だろう。が、スフィアンの深い闇もボン・イヴェールの身を切るような孤独もここにはなく、ただただ衒いなく旅の美しい風景が一遍ごとに立ち上がっていく。その素朴さはこのアルバムの魅力でもあるし限界でもある。良くも悪くも透徹した風景ばかりがある清らかな歌で、聴き手を苦しめることはない。おそらくもっとも近いのは、ボン・イヴェールのドラム/パーカッションを務めるS. キャリーのソロ名義作だろう。自然と世界の美しさへの素直な敬意がこもった柔らかなフォーク・ソング集。とても優秀で、破綻はない。

 もちろん、音楽的な偏差値は非常に高く、コーラスとハープの掛け合いがユニークな“Stockholm”のように挑戦的なアレンジも随所に発見できる。「シャイアン」は先住民族の部族の名前だそうでコンセプト性もいくらかあるようだし、行ったことのないフィンランドを思い描いたという“The Birds of Finland”のアイデアも面白い。だからこそ、そうした冒険が彼の優秀さを凌駕する瞬間にも期待したい。スフィアンのように狂気じみたコンセプトや彼個人の内面の暗部が、この整った音楽を乱す瞬間も聴いてみたいと僕は思ってしまうのだ。それが本人にとって幸せなことかはわからないけれど……彼の音楽の旅は、この基礎体力があればもっと果てしない場所にまできっと行ける。

 初夏に問題作『Age Of』をリリースし、さまざまな議論を呼び込んだOPN。いよいよその来日公演が迫ってきました。先だって開催されたニューヨーク公演やロンドン公演で、ダニエル・ロパティンはそれまでのラップトップ1台のスタイルを手放し、ケリー・モーラン、アーロン・デイヴィッド・ロス、イーライ・ケスラーとともに4人編成のアンサンブルを披露しています。来る9月12日の東京公演も同じメンバーによるショウです。心機一転、バンド編成となったOPNのライヴの魅力はどんなところにあるのか? じっさいにロンドン公演を体験したUK在住の髙橋勇人に、そのときの様子を振り返ってもらいました。

OPN最新作『Age Of』のファースト・シングル曲“Black Snow”は、「加速主義」で知られる哲学者ニック・ランドのCCRUから影響を受けているということで話題になったけれど、あの曲のどこらへんにそれが表れているのかというのは気になりますね。

髙橋勇人(以下、髙橋):あれはですね、こないだ元CCRUのスティーヴ・グッドマン(コード9)に会ったときも話したんですけど、OPNはランドとかCCRU周辺の人の思想を具体化するプロセスを重視しているわけではなくて、彼らのポエティックな部分、イメージの部分にフォーカスしているのである、というのが僕の意見で、スティーヴもそれに同意してくれました。そのスティーヴもOPNのロンドン公演を観に行っていたんですよね。

コード9がOPNを。

髙橋:ちょうどいまロンドンでは、ローレンス・レック(Lawrence Lek)というコンピュータ・アーティストのインスタレイション「Nøtel」(https://www.arebyte.com/)がやっているんですけど、そのコンセプトと音楽を担当したのがスティーヴ・グッドマンなんですね。そのテーマが、完全に加速主義なんですよ。スティーヴ本人も「加速主義がこの作品の全篇を貫いている」と言っています。その展覧がOPNのアルバムと共振するところがあって、OPNの作品のテーマは人間が滅んだあとの世界ですよね。レックのインスタレイションも人間が滅んだあとの世界の話なんですよ。『ele-king vol.22』で毛利先生がおっしゃっていたように、シンギュラリティのあとの世界ですよね。科学技術が一定の水準に達して、そこから左派に行くか右派に行くかで大きく分かれるわけですが、コード9によれば、加速主義に関する左派と右派の議論にうんざりしてるところがあると。そこで人間が絶滅したあとの世界を描くことによって、その右左の対立をぶっ壊す、というような狙いがあるそうです。

人間後の世界という点では共通しているわけですね。

髙橋:でもOPNとコード9の加速主義、人間のいない世界の捉え方はけっこう違っていて、コード9はかなり具体的にフィクションとして考えているんですね。未来のどこかで中国人の頭の切れる企業家が、エリート層・リッチ層向けのホテル・チェーンを世界各地に作るんですよ。そこはAIが管理している。サイバーセキュリティ完備で給仕がドローンなんですね。それがシンギュラリティですね。技術がハイパーに加速して、人間が働かなくてよくなった。加速主義の議論のなかでは、そうすると「ポスト労働」が到来するといわれている。人間の代わりに機械が働くというコンセプトですが、コード9はそれを一歩進めて、人間もいなくなる。その理由は、コード9にもわからない。なぜ人間がいなくなったかわからない世界の話なんだよ、と。戦争や災害などで全滅してしまったのかもしれないし、人類自らが消えることを選択したのかもしれない。いずれにせよこのインスタレイション作品で描かれるのは、人間がいなくなって、ロボットがロボットのために働いている世界。会場のギャラリーにはいくつかの大きなスクリーンとプレステのコントローラーがおいてある。ドローンを操作して、その視点をとおして、人間が消え去った世界にあるホテルの内部にアクセスしつつ、そこがどうなっているのかを探索するという、体験型インスタレイションなんです。そのコンセプト自体は、2015年のコード9のアルバム『Nothing』の頃からあったものなんですが、このフィクションの最後では、ドローンが働くのをやめて、どこかに行っちゃうんですよ。最終的には、労働自体が終わっちゃう。だから加速主義の議論だけではなくて、「働くこととは何か」「人間はなぜいなくなったのか」と、いろいろと考えさせるフィクションなんですね。

そういったヴィジョンと比べると、OPNのほうはもっと軽いわけですね。

髙橋:OPNの場合は、たとえば“Black Snow”は、たぶん放射能のメタファーだと思うんですが、それが降ってきて、秩序もなくなって、「どうすることもできないよね」という終末的状態のふんわりとしたイメージにとどまっているというか。政治、思想、社会、国家、技術などあらゆる角度から世界の終わり方について、ニック・ランドが書いているテキストで「Meltdown」(1994)というのがあるんですが、そこで描かれるイメージを翻訳して、うまく音楽に移し変えてやっているという感じがします。


なるほど。それで、OPNのライヴを体験してみて、どうでしたか?

髙橋:最前列で観たんですよね。

おお。

髙橋:ちなみに、僕がOPNをリアルタイムで聴いたのは、『Replica』(2011)からなんですね。そのなかに入っている“Replica”は、僕は90年生まれなんですけど、この世代にとってのアンセムのひとつなんですよ。あのアルバムが出た年に僕はスコットランドのグラスゴーに住んでいましたが、ホーム・パーティとかクラブから帰ってきてみんなでお茶を飲んでいるときとかに流れていました。上の世代がエイフェックス・ツインを聴くように、こっちの大学生はみんなOPNを聴くという感じで。寂しげで退廃的なあの感じが空気とマッチしていたんでしょうね。同年に出たジェイムス・ブレイクのファーストにも少し通じるものがありました。

こっちでも、やっぱり『Replica』の頃のOPNのファンは多いみたいで、いまでもあのときのサウンドが求められているフシはあるんだよね。でも本人は同じことを繰り返したくないから、それはしないという。

髙橋:なるほど。ちなみに、僕はそれほどOPNのファンというわけではないんですよ。

だと思う(笑)。

髙橋:理由は自分でもよくわかんないんですけどね(笑)。『Replica』よりあとのOPNってサウンドがけっこう変わりましたよね。お父さんから譲ってもらったという、URとかデトロイトの人たちがよく使っていたローランドのJUNO-60がしばらくメインのシンセでしたが、『R Plus Seven』(2013)あたりからソフトウェア・シンセのオムニスフィア(Omnisphere)を導入したり。
それから今回のOPNの新作は、人間がいなくなって、AIがその文明の記憶を眺めている、みたいな話ですよね。でも彼は、以前『Zones Without People』っていうアルバムを出しています。

2009年の作品だね。いまは編集盤『Rifts』に丸ごと収録されている。

髙橋:内容も題名どおりで。だから、人間のいなくなった世界というテーマはまえからあったんですよ。だから、いつ頃からOPNがそのテーマに関心を持っていたのかっていうのはわかりませんが、そのコンセプトが改めていま『Age Of』という形になったんだなと。

UKでのOPNってどういう立ち位置なんですか?

髙橋:こっちにもやっぱり、熱狂的なOPNファンがいますね。音楽の作り手であることが多いですけどね。アルバムごとに「OPNはあのシンセを使っている」みたいなことを細かく調べているファンが少なからずいます。〈Whities〉っていうレーベルがありますよね?

ラナーク・アーティファックスを出している。

髙橋:今回僕は、そこからSMX名義でシングルを出したサム・パセール(Samuel Purcell)っていうプロデューサーと一緒に観に行ったんですけど、彼なんかも熱狂的なOPNのファンで。そういう、クリエイターでこのライヴを観にきていた人が多かったですね。〈Whities〉のデザインをやっているアレックス(Alex McCullough)も来ていましたし、もちろんコード9もですし。

他のオーディエンスはどういう層なの? 若い子が多い?

髙橋:いやもう若いですね。20代前半から半ばくらいがメインで。あと、これは重要だと思うんですが、ほとんどの客が白人ですね。ブラックやアジア系の人はあんまりいなかった。ちなみに会場はバービカン・センターというところで、2015年にJ・G・バラードの『ハイ・ライズ』が映画化されましたけど、そのとき監督のベン・ウィートリーが建物の参考にした施設ですね。

そういう捉え方なんだね(笑)。

髙橋:(笑)。建築がけっこうかっこよくて。イギリスで60年代くらいまで流行っていた、ブルータリズムという様式で。

よく電子音楽とか現代音楽系のイベントをやっているよね。

髙橋:そうです、こないだは坂本龍一さんがアルヴァ・ノトとやっていました。去年はポーランドの音楽フェスの《アンサウンド》が出張イベントを開催してケアテイカーが出演したり。ジャズもやっていますね。ファラオ・サンダーズとか。『WIRE』で評価されているような人たちはだいたいそこで演る、みたいな感じですね。

なるほど。そういう場でOPNもやることになった、と。

髙橋:キャパはたぶん2000人くらいなんですけど、OPNのときはけっこう早くにソールドアウトになっていましたね。

それで、そのライヴがかなり良かったんでしょう?

髙橋:じつは正直に告白すると、僕は『Age Of』はそれほど好きじゃなかったんです。でもライヴはすごく良かったんですよ。単純に音がデカくて良かったというのもありますが(笑)。

NYもそうだったけど、今回のアルバムのライヴはバンド編成なんだよね。

髙橋:目玉のひとつはやっぱりイーライ・ケスラー(Eli Keszler)ですね。最近〈Latency〉から出たローレル・ヘイローのアルバム『Raw Silk Uncut Wood』にもドラムで参加している。

ローレルの前作『Dust』(2017)にも参加していたよね。

髙橋:イーライはアヴァンギャルド系の音楽全般をやっているみたいで、僕のイギリス人の友人にジャック・シーン(Jack Sheen)っていう25歳くらいの、現代音楽の作曲家がいるんですけど、その彼とも友だちのようです。今回のOPNのライヴではそのイーライがドラムを担当していて、プログラミングはゲイトキーパー(Gatekeeper)のアーロン・デイヴィッド・ロス(Aaron David Ross)。それにキイボードのケリー・モラン(Kelly Moran)という、4人編成でしたね。ステージ上は、いちばん左がドラム、その隣りがプログラミング、その隣がOPNで、いちばん右にケリーという並びでした。

OPNは何をやっているの?

髙橋:シーケンサーをいじったり、歌ったりですね。僕は、事前情報をまったく調べずに行ったんですね。だから、てっきりラップトップ1台でやるんだと思っていて。で、すごいオーディオ・ヴィジュアルが流れるんだろうなと。でも、バンドだったので驚きました。

3年前のリキッドのときもラップトップだった。今回バンド編成になったのはけっこう大きな変化だと思う。

髙橋:あと映像ですね。ヴィジュアル面もけっこう大事で。アメリカ人ヴィジュアル・アーティストのネイト・ボイス(Nate Boyce)が担当していて、ステージ上にオブジェがぶら下がっているんです。左と右に、ぜんぜん違う形のものが。それが曲の進行に合わせて、光が当たって見え方が変わっていく。それでステージ上にはスクリーンもあるんですが、分割されてばらばらの状態になっているんですね。ガラスが割れて粉々になった感じで、不規則な形をしているんですが、おそらくコンサートのタイトルである「MYRIAD」とリンクしている。これはOPNが作った概念だと思うんですけど、「コンサートスケイプ(concertscape)」っていうワンワードの言葉があって。

「サウンドスケイプ」のコンサート版みたいな。

髙橋:そういうコンサートスケイプがたくさんある、ということなんだと思います。「myriad」って「たくさん」という意味だから。異なるいろんな分子がそのコンサートのなかでひとつに結実する、というようなコンセプトなんだと思います。それでそのスクリーンには、オブジェクトがたくさん映されます。それは人間ではないんですね。人形とか、誰も住んでいないビルとか、“Black Snow”のMVに出てきた鬼みたいなキャラクターのマスクとか。そういったものがたくさん映される。しかも、それはぜんぶCGのアニメなんですね。

へえ! 動物は出てくるの?

髙橋:動物も出てこないです。モノですね。

車とか?

髙橋:そうです。そういう、いろんなオブジェクトが出てきます。あとステージ上にもオブジェクトがあって、古代ギリシアの彫刻みたいな感じなんですが、どれも「残骸」みたいな感じなんですね。『Age Of』に照らし合わせると、おそらく「文明の残骸」みたいなものだと思うんですが。それがばらばらに散らかっている。そこで、ひとつ疑問が出てくるわけですよ。

というと?

髙橋:“Black Snow”のMVにはダンサーたちが出てきますよね。それが、ライヴにも出てきたんですよ。ステージの後ろからダンサーが現れて、客席の通り道を抜けて、ステージに上がっていって踊って、また降りて退場していくという。だからそこで、「なんでダンサーが出てくるんだろう?」って思うわけですよ(笑)。文明が滅んだあとの世界を描くのなら、徹底して人間は排除したほうがいいのに。

たしかに。

髙橋:さらに言うと、人間が滅んだあとなのに、ステージ上にはバンドの4人がいるという。こんなに人がいていいのかと(笑)。だから、どういうふうにコンセプトを練っているのかというのは、けっこう考えさせられましたね。それともうひとつ気になったのは、今回のライヴが「文明が崩壊したあとに、残されたAIが人間の営みの記憶や記録を眺めている」というコンセプトだとしたら、このライヴの場にいる観客たちは、どういうふうにしてその世界が終わったあとの光景を見ているのか、あるいはどうやってそこにアクセスしているのか、っていう視点の問題も出てくると思うんです。

観測者の問題ね。

髙橋:さっきのコード9の例だと、視点の問題はぜんぶドローンに丸投げしているわけですよ。すべてを見ているのは近未来のドローンで、そのドローンから現代に送られてくる情報をとおして、われわれはその世界を見ている。じゃあ、OPNの場合は、どうなのか。視点はAIですけど、ではそのAIの視点にどうやっていまの人間がアクセスしているのか。たぶんOPN本人はそこまで考えていないと思うんですが、気になるポイントではありますよね。誰がどうやって見るのかというのは重要なことだと思うので。現代思想の流れで言えば、思弁的実在論に括られる哲学者たちは、文明が崩壊したあとの世界が存在するとして、どうやってそれにアクセスすることができるかというのを真剣に考えていますし。

サウンド的な面ではどうだったの? その場のインプロみたいなものもあったのか。

髙橋:そこはイーライ・ケスラーがすごかったですね。イーライのドラムのために設けられた時間があって、そこでひたすら叩きまくるという。ダイナミックというよりはすごく繊細なプレイで、引き込まれました。何等分にも刻まれたリズムが空間に吸い込まれていくような……。彼のソロのときはスポットライトも彼だけに当てられて。

じゃあ、バンドで忠実にアルバムを再現するという感じではないんだ。

髙橋:いや、忠実には再現されていたと思います。ただぜんぶがシーケンサーとMIDIで、というわけではない。でも、だからこそやはり気になるのは、ダンサーと同じで、なぜそこで人間を使ったのかということですよね。その時間は人間のインプロに焦点を当てたともとれますし。

イーライ・ケスラーという人間にフォーカスしていたと。

髙橋:あともうひとつおもしろかったのは、ダニエル・ロパティンがヴァイオリンの弓を使っていて。

ダクソフォンかな。“Black Snow”でも使われていた。

髙橋:それが良い意味でけっこう耳ざわりな音で。それにエフェクトをかけている。録音作品としての『Age Of』を聴いているときはそれほど気にならなかったそれが、ライヴでは目立っていましたね。しかも、その弓や楽器をOPNが弾いているあいだ、個人的には彼が観客に向かって指を差しているように見えるんですね。この指を差す行為って、“Black Snow”のMVの冒頭でも防護マスクをかぶった人が視聴者に向けてやっていたことですけど、2011年に話題になった、事故後の福島第一原発の現場の様子を映すウェブカメラに向かって指を差す、防護服に身を包んだ作業員の映像があって、たぶんそれがOPNの元ネタだろうと思います。あの作業員は匿名のままですが、アーティストの竹内公太がその作業員の「代理人」として自身の展覧会「公然の秘密」(2012)でその映像を上映しています。元CCRUの批評家コドゥウォ・エシュンが参加するアート・コレクティヴ、オトリス・グループの福島についての映像作品『The Radiant』(2012)でもあの映像は使われていますね。

OPNはそういった福島に関する映像を参照している、と。

髙橋:なので、ああやって弓を弾く行為ってなんなのかな、というのは気になるところでしたね。“Black Snow”のMVでも、怪物が地球の写真を弓で弾くシーンがありましたけれども。ダクソフォンはあくまで機材だから、自由な場所に設置できるはずで、弓や楽器の先端を観客席に向ける必要はない。それも疑問のひとつでしたね。

NYでの公演ともけっこう違ったのかしら。

髙橋:豪華さでいうと、NYのほうが上だと思いますよ。あっちはヴォーカルでプルリエント(Prurient)とチェロでケルシー・ルー(Kelsey Lu)まで出演したらしいですから。ロンドン公演だから、ジェイムス・ブレイクが出てきてもいいんじゃないかなと思っていたんですけど、それはありませんでした。前座だったミカチュー(Micachu)とコービー・シー(Cobey Sey)が率いるバンドのカール(Curl)はカッコよかったですけど。ちなみに僕はケルシー・ルーの大ファンなので、素朴にNY公演観たかったですね(笑)。エンバシとかクラインとも仲が良い人で、チーノ・アモービも大好きだって言ってました。

なるほど(笑)。ともあれバンド編成になったことで、いろいろ問いを投げかける感じになっていたということですね。OPNといえばPC 1台でがしがしやっていくと思っている人も多いと思うので、今回はバンドであるという点は強調しておきたい。

髙橋:PC 1台とはぜんぜん違う感じですね。それこそ、プログレッシヴ・ロックのライヴみたいな感じで、コンセプトのことなんか忘れて見いってしまうほど音響や映像がものすごく壮大です。ロパティンのキャラもチャーミングで、曲がシームレスに進むわけではなくて、ちゃんとMCで笑いをとったりしますからね(笑)。

ふつうに人間味あふれるライヴをやっているじゃない(笑)。

髙橋:そうなんですよ。本人もけっこう歌っていますし。坂本龍一さんやele-kingのレヴューでも、その肉声が良い、みたいな話が出ていましたけど、でもかなりオートチューンが効いているんですよ。自動でピッチを変換してくれる、ちょっとロボっぽい感じです。だから、完全に肉声というわけではないんですが、『Age Of』における「人間性」を考察する上でそこも考えさせられるところではありましたね。

僕はOPNの芯のようなもののひとつに、声に対する執着があると思っているんだけど、『Replica』ではそれがサンプルの音声だったのが、『R Plus Seven』では聖歌的なものになって、『Garden Of Delete』(2015)ではボカロ、そして『Age Of』では自分自身の声になるという。

髙橋:ロパティンは、意外と声が良いんですよ。そこも聴きどころかなとは思います。

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(OPN)のブッ飛びライブ『M.Y.R.I.A.D.』日 本上陸まで2週間!
真鍋大度がサポートアクトとして出演!

ONEOHTRIX POINT NEVER
"M.Y.R.I.A.D."
2018.09.12 (WED) O-EAST
SUPPOT ACT: 真鍋大度

ONEOHTRIX POINT NEVER "M.Y.R.I.A.D." イベントスポット動画
https://youtu.be/gXg_PUfF0XU

いよいよOPNの最新ライヴセット『M.Y.R.I.A.D.』日本上陸まで2週を切った。
追加公演含め即完したニューヨーク3公演、英ガーディアン紙が5点満点の最高評価を与え、完売したロンドン公演に続いて、遂に東京に『M.Y.R.I.A.D.』が上陸する。その後ベルリン、フランス、10月にはロサンゼルス、さらに来年3月には会場をスケールアップし再びロンドンで追加公演が行われることが決定するなど、世界的にその注目度と評価は高まる一方だ。
強力なバンド体制で行われる本ライヴは、本人ダニエル・ロパティンに加え、ケリー・モーラン、アーロン・デヴィッド・ロス、そしてアルバムにも参加している気鋭パーカッショニストでドラマーのイーライ・ケスラーを迎えたアンサンブルとなり、さらに複数の変形スクリーンを用いたネイト・ボイスによる映像演出と、幻想的で刺激的な照明とダンサーを加えた、まさに前代未聞、必見のパフォーマンスとなる。日本での一夜限りの東京公演は、9月12日(水)渋谷O-EASTにて開催。そして当日はサポートアクトとして世界を股にかけ活躍を続ける真鍋大度が、OPNとそのファンに送るスペシャルなDJセットを披露する。

公演日:2018年9月12日(WED)
会場:渋谷 O-EAST

OPEN 19:00 / START 19:30
前売¥6,000(税込/別途1ドリンク代) ※未就学児童入場不可

前売チケット取扱い:
イープラス [https://eplus.jp]
チケットぴあ 0570-02-9999 [https://t.pia.jp/]
ローソンチケット (Lコード:72937) 0570-084-003 [https://l-tike.com]
clubberia [https://clubberia.com/ja/events/280626/?preview=1]
iFLYER [https://iflyer.tv/ja/event/305658]

企画・制作: BEATINK 03-5768-1277 [www.beatink.com]

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=9577

Neneh Cherry × Four Tet - ele-king

 ネナ・チェリーが帰ってきました。今月冒頭、マッシヴ・アタックの3Dと組んで難民をテーマにしたシングル「Kong」を発表し大いに話題を集めた彼女が、この秋、ソロ名義としては5作目となるニュー・アルバムをリリースします。プロデュースは、2014年の前作『Blank Project』に引き続き、フォー・テットのキーラン・ヘブデンが担当(両者は2012年、カヴァー・アルバム『Cherry Thing』のリミックス盤でもコラボを果たしています)。昨年『New Energy』という素晴らしい作品を送り届けてくれた彼が、いまどんなサウンドを聞かせてくれるのかにも注目です。発売は10月19日。「Kong」に続いて公開されたセカンド・シングル「Shot Gun Shack」を聴きながら、楽しみに待っていましょう。

ネナ・チェリー、新作を10/19に発売!
フォー・テットのキーラン・ヘブデンによるプロデュース作品!
マッシヴ・アタックの3Dとコラボした第1弾先行シングル「Kong」は、ピッチフォークでベスト・ニュー・トラックを獲得!
第2弾先行シングル「Shot Gun Shack」本日公開!

「今回は今まで私が長年やってきたなかでベストの部類に入るんじゃないかしら」 - ネナ・チェリー

“「Kong」は間違いなく最高の作品” - CLASH

“あれから20年以上経っても、未だチェリーは人々を魅了し続けている” - VOGUE

“波乱に満ちた時代に向け、強さの中に秘められた寛容さを表した作品” - PITCHFORK

ネナ・チェリーは、4年振り5枚目となるニュー・アルバム『ブロークン・ポリティクス』を10月19日に発売する。キーラン・ヘブデン(フォー・テット)をプロデューサーに迎えて制作されたニュー・アルバムからの先行シングル「Kong」は、3D(マッシヴ・アタック)とのコラボ作であり、ピッチフォークでベスト・ニュー・トラックを獲得している。

■第1弾先行シングル「Kong」 ミュージック・ビデオ
https://bit.ly/2LXBIXC

また第2弾シングル「Shot Gun Shack」が公開された。

■第2弾先行シングル「Shot Gun Shack」
https://bit.ly/2PhL4LS

「前回のアルバムは怒りや力強さに溢れていて、一方今回のアルバムはより静かで練り込んで作った作品だと思うわ」。本作は、ネナ・チェリーの長年のパートナーであるキャメロン・マクヴィと共作した曲を、プロデューサーのキーラン・ヘブデン(フォー・テット)が仕上げていった。また、今回使用したスタジオは、彼女の父親であり歴史的ジャズ・ミュージシャンのドン・チェリー等が立ち上げたスタジオ。「このスタジオにいるとなぜかすごく落ち着くの」。

「私が好きなのは個人的な視点から曲を書くことなんだけど、私たちが生きているこの時代には自分の本当の声を探している人々が周りにいっぱい溢れている。そして人々は聞き間違いや誤解そして幻滅に悩まされながら周りから取り残されている。それに対して私は何ができる? 多分“政治”っていうのは寝室もしくは自分の家の中から始まっているもので、“行動”や“責任”というものの一つの形だと思うの。このアルバムはそのようなことに関するもの全て:心が張り裂けそうだったりがっかりしたり悲しいと感じることはあっても、耐えることを知っている。これは自由な思想や精神を無くさないための戦いね」。

先行シングルとなった「Kong」。この作品はマッシヴ・アタックの3Dとのコラボレーションで、フランスはカレーにおける難民キャンプの緊迫した状況から発生する“無知”が元になって作られた楽曲である。「カレーの街には親がまだ街に到着していなかったり、そもそも親のいない子供達があふれている。彼らはイギリスに移住しようとして、そのサポートを必要としてるんだけど、全くそれが起こる気配さえもない。思うに難民たちは他の土地に行くにしても自分の愛着のある身の回りのものとは別れたくないでしょう。私はその風景を描こうと思って、自分もそのストーリーの中に身をおいてみたの。そしてこの歌は、今いる場所を離れたくないと思っている誰か、そこに私を投影して書いたものなの」。

■商品概要

アーティスト:ネナ・チェリー (Neneh Cherry)
タイトル: ブロークン・ポリティクス (Broken Politics)
発売日:2018年10月19日(金)
品番:TRCP-235 / JAN:4571260588219
定価:2,200円(税抜)
ボーナス・トラック収録/解説:新谷洋子/歌詞対訳付
プロデューサー:キーラン・ヘブデン(フォー・テット)

[Tracklist]
01. Fallen Leaves
02. Kong (リード・トラック)
03. Poem Daddy
04. Synchronised Devotion
05. Deep Vein Thrombosis
06. Faster Than The Truth
07. Natural Skin Deep
08. Shot Gun Shack
09. Black Monday
10. Cheap Breakfast Special
11. Slow Release
12. Soldier

*ボーナス・トラック収録

[amazon] https://amzn.to/2MAmk4y
[iTunes / Apple Music] https://apple.co/2P9IaIK
[Spotify] https://spoti.fi/2BQQg7j

■プロフィール
ネナ・チェリーは、80年代ポスト・パンクの伝説のバンド、リップ・リグ・アンド・パニックでの活動、ソロ転向後は「バッファロー・スタンス」など、そしてユッスー・ンドゥールとコラボした「セヴン・セカンズ」といった数々のシングルが世界的な大ヒットを記録。またマッシヴ・アタックの『ブルー・ラインズ』、ゴリラズやピーター・ガブリエル、トリッキーなどの作品への参加と、ポップ・スターであり、ジャンルを超えた音楽のパイオニアであるというシンボリックな女性アーティスト。
スウェーデン出身。伝説のトランペット奏者ドン・チェリーは継父、イーグル・アイ・チェリーは義弟。80年代ポスト・パンク・シーン伝説のバンド、リップ・リグ・パニック、ニューエイジ・ステッパーズ、フロート・アップ・CPのボーカリストとして本格的な音楽活動を開始。
ソロ転向後、1988年にソロ・デビュー・アルバム『ロウ・ライク・スシ』をリリースし、シングル「バッファロー・スタンス」が全米3位を記録するなど大ヒットを記録。1992年2ndアルバム『ホームブルー』をリリース。1994年、ユッスー・ンドゥールとの共演シングル「セヴン・セカンズ」が世界的大ヒットを記録。1996年3rdアルバム『マン』をリリースし、シングル「ウーマン」が大ヒット。2012年にフリージャズ・トリオのザ・シングとの共作アルバム『チェリー・シング』をリリース。4thアルバム『ブランク・プロジェクト』(2014年)をリリース。2018年10月、前作に引き続きプロデューサーにフォー・テットを迎えた4年ぶりのアルバム『ブロークン・ポリティクス』をリリース。

■ディスコグラフィー(ソロ・アルバム)
1stアルバム『ロウ・ライク・スシ』(1989年)
2ndアルバム『ホームブルー』(1992年)
3rdアルバム『マン』(1996年)
4thアルバム『ブランク・プロジェクト』(2014年)
5thアルバム『ブロークン・ポリティクス』

Serpentwithfeet - ele-king

 やはりアルカの影響力は絶大だったということだろう。いや、もちろん、ビョークやアノーニの存在も無視できないとは思うのだけれど、こと近年のエレクトロニック・ミュージックにおけるクィアネスの増殖に関しては、アルカこそがその土壌を開墾した先駆者であると言っても過言ではない。たとえば音のタイプは異なれど、ソフィーの野心的な試みだって、すでにその地平が切り拓かれていたからこそ成立可能になったのだとも言える。
 ただここで忘れてはならないのは、よりアンダーグラウンドなレヴェルでもその流れを後押しする動きはあったということだ。人種やセクシュアリティにおける「異端」が次々と表舞台へとなだれ込んでいく近年の傾向には、アルカほど華々しい形ではないにせよ、ブラック・ディアスポラの新たな集合のあり方を探っていたコレクティヴ=〈NON〉もまた一役買っている。最近目覚しい活躍を見せているイヴ・テューマーにせよガイカにせよ、〈NON〉の最初のコンピレイションに名を連ねていたメンバーだし、サーペントウィズフィートことジョサイア・ワイズも〈NON〉と接触しつつ登場してきたアーティストのひとりである。
 近年は「ブラック」に限定せず、「ノン」という否定形のもと世界じゅうに散らばった異端者たちを接合させながら、果敢にエレクトロニック・ミュージックのオルタナティヴを模索し続けている彼らは、レーベルを起ち上げた2015年に、まずは共同設立者の3人であるエンジェル・ホ、ンキシ、チーノ・アモービのトラックをリリースしている。そのうちの1曲、アモービによる“Calcified (Remix)”にフィーチャーされていたのがサーペントウィズフィートだった。ダークなインダストリアル・サウンドのうえを漂流するその歪んだ音声はアモービの音楽と相性が良かったのだろう、両者は同年“Total Freedom”でも再度手を組んでおり、一転して艶やかさを打ち出したジョサイア・ワイズのヴォーカルは、背後で砕け散るトラックに抗うかのような気高き聖性を獲得するに至っていた。

 まさにその聖性こそがサーペントウィズフィートの特異性となる。アモービとのコラボを経た2016年、ワイズは〈トライ・アングル〉と契約を交わし、時の人だったハクサン・クロークとともに初のEP「Blisters」を編み上げる。静謐さによって聖なるものを喚起させるそのサウンドは「ペイガン・ゴスペル」と呼称されることになるが、なるほど、たしかに「異教」であることは〈NON〉のコンセプトとも共振するし、ということはサーペントウィズフィートの個性的なヴォーカルについて、異端であるがゆえに声を奪われてきた者たちの声ならざる声、と捉えることも可能だろう。そのように声なき者たちの声を響かせる「ペイガン・ゴスペル」は、冒頭“Whisper”でいくつも重ねられるヴォーカルや、あるいはクロージング“Bless Ur Heart”のバラードによく表れているように、2年のときを経て届けられたファースト・アルバム『Soil』でも全篇にわたって展開されている。崇高、ここに極まれり?
 他方、「Blisters」では控えめだったビート~パーカッションの部分が己の主張を強めているのもこのアルバムの特徴だろう。脇を固めるプロデューサーたちも堅実に仕事をこなしていて、4曲を手がけるクラムス・カシーノは、“Messy”に顕著なように自身の特性をするりと流し込みつつ、ワイズのヴォーカルのためにゆとりある空間を残してもいる。それとは対照的に、6曲を担当した同じ〈トライ・アングル〉のケイティ・ゲイトリーは、自身のトラックとワイズのヴォーカルを溶け合わせるようなプロダクションを聞かせてくれる(まあ、どこからどこまでが彼女の手によるものかはわからないけれど)。なかでも、吐息が刻むビートのうえで、声にならない声を伝達しようともがいているかのようにメイン・ヴォーカルが揺れ動く“Cherubim”は、本作のハイライトと言っていい。

 ゴスペルとクラシック音楽の文法を流用しつつ優雅にさまざまな声を重ね合わせていくサーペントウィズフィートの聖性は、一見コンテンポラリR&Bの意匠をまといながらも、そこには回収されえない差分を多分に含んでいる。その数々の微細な不和こそ、彼の音楽が「ペイガン」と呼び表されるゆえんなのだろう。アモービと組んでいた頃のようなインダストリアルな路線とはまた異なるアプローチで、しかしその頃と同じように自身の声をもって彼は、世界じゅうの異端者たちに祝福を届けようとしているに違いない。

interview with Serpentwithfeet - ele-king


Serpentwithfeet
Soil

Tri Angle / Secretly Canadian / ホステス

R&BExperimental

Amazon Tower HMV iTunes

 アルカ以降の重々しくインダストリアルな感覚のビートがあり、フランク・オーシャン以降のオルタナティヴR&Bがあり、それらをオペラのようにシアトリカルなオーケストラが華麗に彩っている。そしてジェンダーに縛られないエモーショナルで甘美な歌……サーペントウィズフィートを名乗るボルチモア出身の新鋭、ジョサイア・ワイズの音楽を要約するとそうなるのだろうが、ここで問題にしたいのは、この自然体の広範さがどこから来たのかということである。
 その異物的だが艶やかなヴィジュアルを一目見ればわかるように、サーペントウィズフィートは新世代のクィア・アーティストである。それはニューヨークのアンダーグラウンド・パーティが育んだものだ。そこに集まった彼ら/彼女らは奇抜なファッションに身を包み、エッジーな音をたっぷり取りこんで、社会常識や規範を撹乱するダンスを踊ろうとした。エレキングに日々アップされるディスク・レヴューを見ていると意図せずしてクィアなミュージシャンが増えているように感じられるが、いまはクィアネスがサウンドも価値観も拡張している時代ということなのだろう。サーペントウィズフィートに関して言えば、昨年ビョークの“Blissing Me”のリミックス版のヴォーカルに招かれたことが話題になったが、クィア・ミュージシャンを寵愛し続けてきたビョークが彼の存在それ自体の先鋭性と華を見落とすはずがなかった、というわけだ。
 5曲入りEP『ブリスターズ』ではハクサン・クロークがプロデュースを務めているが、デビュー・アルバム『ソイル』にはケイティ・ゲイトリー、mmph、クラムス・カジノといった名前が並ぶ。ポール・エプワースという大物プロデューサーも参加しているが、ジョサイア・ワイズはそちらよりも明らかにアンダーグラウンドのエレクトロニック・ミュージックとの回路を保持しようとしているように思える。自分がどこから来たのかを忘れていないのだ(リリースはEPに引き続き〈トライ・アングル〉から)。そこに管弦楽の絢爛なアレンジを加えて、ワイズ自身が中心で歌い、舞い踊っている。アルバムはときに過剰にドラマティックな展開を通過しながら、聴き手の美的価値観を揺るがし、更新しようと促しているようである。彼自身の言葉を借りれば、その境界を押し広げようと。とりわけラスト、“Bless Ur Heart”の眩い恍惚が圧倒的だ。

 驚くほどミニマルだったフジロックのステージから数日後、ジョサイア・ワイズに会って話を聞いた。意外とシンプルな服装だが、銀色に光る鼻ピアスの存在感にどうしても目を奪われる。饒舌なタイプではなかったが、質問に答える度に楽しそうに笑う姿がなんともチャーミングだった。


僕にとって音楽はセラピーや癒しではないんだ。僕が音楽で扱っているのはいま直面している問題ではなくて、整理できている過去についてなんだよ。だから内面を出すことに居心地の悪さを感じたことはなかったよ。

フジロックでのステージを観ましたが、短い時間で濃密な空気が生み出されていて圧倒されました。で、どんな服装で出てくるかを楽しみにしていたんですが――

ジョサイア・ワイズ(Josiah Wise、以下JW):ふふふ。

赤いポンポンのようなものを腕につけているのが印象的でした。あなたのこれまでのヴィデオでも赤が印象的に使われていますが、あなたにとって赤とはどういう意味を持つ色なのでしょうか?

JW:フジロックではとくに赤を使うプランを立てていたわけではないんだけど、赤が僕にとって重要な色だというのはたしかだね。赤はパワーがある色だし、行動を促すものだと思う。動きが表現できるんだよね。

ライヴではサウンドは比較的シンプルにして歌にフォーカスしている印象だったのですが、これは意図的でしたか。

JW:うん、やっぱりヴォーカルはすごく自分にとって重要だから。

シンガーとしてお手本にしているひとはいますか?

JW:フェイヴァリットはブランディだね。

へえ! ブランディのどういうところが好きですか?

JW:やっぱりヴォーカル。甘くて優しい感じがするし、健康的なところもいいね。

今回のステージはあなたひとりでミニマルな構成でしたが、今後、たとえばビョークみたいにクワイアやオーケストラを入れるようなもっと大きい編成のものもやってみたいと思いますか?

JW:予算がかかるからね(笑)。可能性はあるけど、様子見だね。

個人的には、ダンサーが入るようなシアトリカルなステージも観てみたいと思います。

JW:それも様子見だね(笑)。

なるほど(笑)。いまいきなりステージの話からしてしまったのですが、今回はじめてのインタヴューなので、少し基本的な質問もさせてもらいますね。

JW:オッケー。

サーペントウィズフィートの音楽にはすごくたくさんの要素がありますが、それに影響を与えた欠かせないミュージシャンを3人挙げるとしたら誰になりますか?

JW:ブランディ、ビョーク、ニーナ・シモンだね。

全員女性アーティストというのは何か理由がありますか?

JW:いや、女性だからということは関係なくて、純粋に彼女たちが素晴らしいと思うからだね。

聖歌隊にいたそうですが、ゴスペル・ミュージックから受けた影響はありますか? あなたの音楽にはホーリーな響きもあるので、宗教的な意味合いもあるのかと思ったのですが。

JW:宗教的な部分ではないかな、僕は宗教的な人間じゃないしね(笑)。宗教的な言葉を使ってはいるけどね。ただ、クワイアにいるのは本当に好きだったんだ。すごく影響を受けたし、自分を変えてくれたと思う。

影響を受けたと言えば、ニューヨークのクィア・カルチャーやクィア・パーティにもインスパイアされたとお話されていたのを読みました。それらのどういった部分が刺激的だったのでしょうか?

JW:何と言っても、その自由な感覚だね。ニューヨークのクィア・カルチャーに属しているひとたちは、誰もが自分の境界を押し広げようとしているんだ。僕もそれにインスパイアされて、そういった姿勢を実践しようとしているよ。

なるほど。何か具体的なエピソードはありますか?

JW:僕は昔、すごく静かなほうだったんだ。だけど、ニューヨークのクィア・カルチャーに関わっているたくさんのアーティスト――ミッキー・ブランコやケレラなんかはとくに、自分自身をラウドに表現していると思ったんだよね。彼らの姿を見て、自分も深い感情というものを表現できるようになったと思う。

クィア文化からはヴィジュアル面でも影響を受けたように感じますが、ファッションも含め、何かポリシーはありますか?

JW:ファッションに関しては、出身のボルチモアのカルチャーから影響を受けているんだ。すごくオリジナルで。あとはサンフランシスコ。アーバンなファッションに煌びやかさが加わったようなところだね。あとストリート・ウェアが好き。楽だからね(笑)。

そうなんですか。どっちかと言うと、気合いが入ったファッションをするほうなのかなと思っていました(笑)。

JW:全然(笑)。カジュアルなほうがいいね。

そうだったんですね。ではサウンドについても訊きたいのですが、EPではハクサン・クロークを起用していたり、アルバムではケイティ・ゲイトリーやクラムス・カジノ、mmphが参加していたりと、アンダーグラウンドのプロデューサーが活躍していますよね。こうした人選の基準はどこにあるのでしょうか?

JW:EPに関しては、僕がハクサン(・クローク)といっしょに仕事がしたかったから。アルバムではレーベルからの推薦と僕の希望のミックスなんだけど、自分が選ぶときは、自分がそのひとの音楽を聴いて良いと思ったらプロデューサーを調べて、それで決めるようにしているよ。

アルバムではとくにケイディ・ゲイトリーの貢献が大きかったそうですが、彼女のどういったところが良かったのでしょう?

JW:彼女はイカれてるんだ(笑)! これはいい意味でね。彼女の作るトラックは何もかも燃えているようで、僕はそれが欲しかった。クレイジーだよ。

僕は音楽だけじゃなくて、ライフそのものに官能性は重要だと思うんだ。鳥のさえずり、花、木の揺らぎ……そういったもののすべてが、僕にとってはセンシュアルなんだ。

あなたの音楽はエクスペリメンタルなエレクトロニック・ミュージックの要素も重要ですが、そうした音楽もハードに聴くほうなのですか?

JW:そうだね、けっこう聴くほうだと思う。革新的でエキサイティングなプロダクションというのはいつも気にしてる。とくにティンバランドやトータル・フリーダムのサウンドが好きだね。

アルカはどうですか? あなたと近いところにいるアーティストだと思いますが。

JW:うん、すごくいい作品を作っていると思う。彼の音楽が出てきたとき、たくさんのひとが新しいと感じたと思う。そこがいいよね。僕と似ているかについては、彼以外にもゲイのアーティストが同時期に出てきたと思うんだけど、(自分たちは)場所に関係なく共通して持っているものがあるかもしれないね。

他に、とくにシンパシーを感じるミュージシャンはいますか?

JW:フランク・オーシャンソランジュ、SZA、ブロックハンプトン……たくさんいるよ。

いままっさきにフランク・オーシャンが出てきましたが、やっぱり彼の存在は大きかったんですね。

JW:うん、そうだね。フランク・オーシャンの成功があったからブロックハンプトンの成功があったんだと思う。ただ、これはゲイとストレート関係なく、タイラー・ザ・クリエイター、SZA、ウィロー・スミス、ジ・インターネットみたいなひとたちも共通しているけど、彼らに影響を与えたのはファレルだと思う。ゲイ/ストレート関係なく、自分自身を表現するという点でね。

もうひとつ、あなたのサウンドではオーケストラの要素が重要ですね。これはオペラや演劇からの影響ですか?

JW:子どもの頃からオペラがすごく好きだったら、そういった部分が出ているのかもしれないね。

子どもの頃っていうのは、本当に小さいときからですか?

JW:ええと、たぶんそうだね。小学生くらいのときだから。

へえー! オペラを聴いてる小学生ってけっこう珍しいと思いますけど(笑)、どういったところが好きだったんですか?

JW:両親の影響なんだ。もうただただ、美しいと思ったよ。

それは早熟ですねー。それで、いまお話したようなこと――ソウル/ゴスペル、R&B、アンダーグランドのエレクトロニック・ミュージック、クィア・カルチャー、オペラ――がアルバムには全部入っていますよね。基本的なところなのですが、アルバムの最も重要な課題は何だったのでしょうか?

JW:『ソイル』についてはその言葉通り、泥や土みたいにすごく「詰まった」アルバムにしたかったんだ。ものすごく濃密なもの。

ええ、本当に濃密なアルバムだと感じました。サウンド面でも感情面でもそうですよね。内容もけっこう生々しいと思いますが、そんな風に自分をさらけ出すことに恐れや不安はなかったですか?

JW:いや、僕にとって音楽はセラピーや癒しではないんだ。僕が音楽で扱っているのはいま直面している問題ではなくて、整理できている過去についてなんだよ。だから内面を出すことに居心地の悪さを感じたことはなかったよ。

それは面白いですね。それからすごく官能的でもありますが、なぜなぜあなたの音楽にエロスが必要なのでしょう?

JW:うん、重要だね(笑)。僕は音楽だけじゃなくて、ライフそのものに官能性は重要だと思うんだ。鳥のさえずり、花、木の揺らぎ……そういったもののすべてが、僕にとってはセンシュアルなんだ。

なるほど。とくにアルバムの最後の“Bless Ur Heart”は官能性も濃密ですし、非常に重要な一曲だと思います。歌詞に「Boy」や「Child」という言葉が出てきて、これはあなた自身のことを指していると思ったのですが、あなたにとっては何を象徴するものなのでしょう?

JW:その通りだよ。あの曲では、いまの僕自身に向けて語りかけている。テーマは優しい心を持ち続けることについてなんだ。雲とか木や幽霊が、(そうしたメッセージを)僕に語りかけているイメージなんだ。

すごく美しい曲ですが、なぜラスト・ナンバーに置いたのでしょう?

JW:僕にとってはすごくスウィートな曲で、アルバムもそういうムードで終えたかったんだ。それにピッタリな曲だと感じたからね。

ええ、本当にそう思います。では、クィア・カルチャーについてももう少し訊きたいのですが、最近は、アノーニ、アルカ、フランク・オーシャン、ソフィーなど、たくさんのクィアなアーティストがそれぞれの表現で活躍していて、日本から見ていてもすごく勢いがあるように思えます。ただ、あなたからすると、いまのアメリカでもクィア・アーティストとして表現することに困難はあると思いますか?

JW:いや、あまり感じないね。日本ではどう?

いやあ、まだまだ難しいと思います。

JW:そうなんだね。僕の場合は、単純に自分がクィアだからそれ以外の選択肢がないんだよ(笑)。

あなたの音楽には、クィアに対する祝福があるのでしょうか。

JW:もちろん。それはアルバムを通してつねに感じていることだよ。音を作っているときからね。

あなたの言葉でクィアを定義するとどうなりますか?

JW:expansive(拡張的な、展開的な)。

ああ、それはすごくしっくり来る定義だと思います。では最後の質問ですが、いまの目標を教えてください。

JW:これもexpansive、だね(笑)。

interview with Autechre - ele-king


Autechre
NTS Sessions

Warp/ビート

Avant-Techno

  このインタヴューは去る6月15日13時30分からおよそ50分にわたって、渋谷のカフェでおこなわれた。来日ライヴの翌々日。梅雨のまっただなかで、朝から雨が降っていた。当日の通訳は原口美穂さんがやってくれたが、細かいところを訳すために片岡彩子さんにお願いして、英文起こしをしていただいた。せっかくなので英文のほうも(いちぶ聞き取りできない箇所もアリ)も掲載する。
 PCとインターネットが普及したことで、ベッドルーム・エレクトロニック・ミュージックの飽和状態はさらに過密化している今日この頃、専制的な均質化への抵抗としてのオウテカはいまだ健在だ。物語を持たない音の粉砕機械は、『Chiastic Slide』(1997年)でいっきに加速し、方向性すらもたない音のうごめきと複雑なテクスチャー、音の微粒子は『Confield』(2001年)でさらにまたギアが入っている。なんのことかわらないって? そう、まさに。そのなんのことかわからないことをオウテカは追求しているのだからしょーがない。誰もが慣れ親しんでいないことを、しかし親しんでもらうという矛盾で彼らを言い直すこともできるだろう。反エリート主義であり、徹底した反ポピュリズム。以下の取材でも彼らはSpotifyを激しく罵っているが、あらかじめ定められた目的別に音楽が消費されていく様は、彼らからしたらジョージ・オーウェル的な悪夢でしかないだろう。
 そういう意味でオウテカは、いま現在も長いものに巻かれないでいるし、逆らっていると言える。10人聴いたら10人が違う感想文を書くであろう音楽。この現実のようにカオスな音楽。それは感じる音楽であり、体験する音楽だ。先頃リリースされた8枚組(アナログ盤では12枚組)『NTS Sessions』でも同じことが言えるかもしれない。4つのセクションからなるこの大作だが、ぼくが驚いたのは、彼らがこのおよそ16時間をひとつの作品として考えていることだった。まあ、型破りな彼ららしい考えとも言えるが。
 90年代後半において、オウテカがビョークやレディオヘッドに影響を与えた作品は、『LP5』(1998年)や「EP7」(1999年)の頃で、そしてこれら『Chiastic Slide』以降のオウテカのひとつの節目としてリリースされたのが「Peel Session」(1999年)と「Peel Session2」(2000年)だったことを思い出す。『Confield』(2001年)以降を第三期オウテカと言えるなら、『NTS Sessions』はそれから『Exai』(2013年)までのオウテカ、近年の彼らの節目となりうる作品と見ることができるだろう。そしてそれは次なる段階へのドラフト(草案)なのだ。
 オウテカの2人と会ったのはものすごく久しぶり、ヘタしたら2000年代前半に、田中宗一郎と同じ車に乗って田舎の彼らのスタジオまで行ったとき以来ではないだろうか。それでもロブ・ブラウンとショーン・ブースは「あー、久しぶりだねー」みたいな感じで、1995年に彼らが初めて(ライヴのためではなく)来日したときに取材した頃とあんまり変わっていない。気さくで、オネストで、飾らず、良い奴らのままだった。

いまはそ完全に新しいものをいきなり出してもオーディエンスは付いてきてくれる。シュトックハウゼンが昔、オーディエンスは進化すると言っていたけど、それは本当だった。オーディエンスは進化したんだ。

この前のショウはとても良かったです。フロアは真っ暗で何も見えませんでしたが、ステージからフロアの様子は見えましたか?

ショーン:ぼくたちには(会場にいる)誰よりも見えているんだ。でも、耳を使っているんだ。観客が何をしてるか、耳で聞いている。
Sean:We see much better than everybody else. And.. But you can.. Mainly ears, you know, because you can hear what crowd are doing, what I think, you know... and...

ロブ:知覚を使って、場を感覚的に捉えることができる。会場の皆も、最初の真っ暗で何も見えない状態から、だんだん目が慣れてきて、最後の頃にはかなり見えていると思うよ。
Rob:You definitely get a feel for what it is. That’s more senses working part(?), but I think your initial feeling of the absolute darkness goes away all the time because people can see it by the end. People may get used it  

ショーン:少しはね、だって本当に暗いから……。
Sean:A little bit. Its very dark...

ロブ:リキッドルームはブラック・ボックスに向いている会場だね。
Rob: Liquid Room is good for black, box.

ライヴをしているほうからしてもオーディエンスの顔が見ないと思いますけれど、歓声やその場の雰囲気によってライヴの演奏は変わっていくものですか?

ショーン:そう、いろいろ変えることができる。リキッドルームでやったセットでは、オーディエンスを焦らしに焦らしたような気がする。このセットは、クラブでも着席するような場所でも、できるものだけれど……。このセットでヨーロッパをツアーしたんだけど、会場は(着席型の)コンサートホールが多かったんだ。
Sean:Yeah, we can change lots of things. It’s like the set in the Liquid Room, I had a sense that we were teasing the audience a lot, and it was.. we originally brought out the set so we could play either in clubs or a seated...In Europe, when we toured with the set, we played a lot in concert halls.

クラブやライヴハウスではなくコンサートホールってことですね?

ショーン:そう。クラブでも対応できるようにフレキシブルに作ってあるセットだけど、日本ならぼくたちが自由にやってもわかってくれると思ったし、リキッドルームはトラディショナルなクラブ・スペースだから、オーディエンスをどこまでプッシュできるか試してみたかったんだ。最後の最後まで、ビートがあるトラックはかけなかった。ビートを入れてからもそれを覆すようなことをした。オーディエンスを、できるだけ遠くまでプッシュしたかったんだ。それから、東京に来るのは久しぶりで、最後に来たときよりも、ぼくたちは進化していて、変化した部分がたくさんあるんだ。(あのセットは)それを短い時間でオーディエンスに伝える、ぼくたちなりのコミュニケーションの仕方だったと思う。
Sean:Yeah, so we made it so we can flex a little bit and play it in clubs, but for Liquid Room gig, because we felt like in Japan we can get away with more. And we thought it would be ok to play it in Liquid Room as a..., which is really a traditional, more of a club space, but to try and push the audience as far as we could. We left it until really close to the end before we gave them some tracks with beats. Even then, once we delivered that beat, we started to subvert it. We wanted to push the audience as far as we could. And, I think, it’s been a while since we’ve been to Tokyo, we have kind of evolved quite a bit since we were last here, and I guess it was our way of communicating very quickly.. a lot of changes to the audience.

ロブ:そうそう。
Rob: Yeah.

ショーン:Subvert (サブヴァート)したかったんだ。ぼくにとって、リキッドルームはトラディショナルなクラブ・スペースというイメージがある。ジェフ・ミルズを連想させるようなね。ジェフは、彼独特の方向に(ディレクション)にオーディエンスをプッシュするアーティストだ。ぼくたちはぼくたちの、オウテカのディレクションに、オーディエンスを出来るだけ遠くにプッシュしたいんだ。彼らが普段リキッドルームで体験するものとは、まったく違うものを聴かせたかった。
Sean:We wanted to.. subvert.. I think traditional Liquid Room is a club space, I mean, for me, I‘m in UK, so I don’t see every Liquid Room. I would associate Liquid Room with Jeff Mills. And Jeff is an artist who pushes audience in his direction very particularly. I think we want to push the audience in Autechre direction, as far as we can. Not give them what they traditionally get in Liquid Room. Give them something really really different.

ロブ:ヨーロッパで同じセットをやったけれど、オーディエンスは着席しているあいだなら静かにしている傾向にあった。東京のクラウド(観客)は、いつも静かだ。本当に聴き入ってるから。だから、リキッドルームはトラディショナルなクラブ・スペースだけれど、東京のクラウドならぼくたちのやりたい両方のことができると思ったんだ。
Rob:When we did the same set in Europe, like shows with more seated people, they tend to be quieter. Straight way. Tokyo crowd is always quiet, because they are really listening. So we knew the Liquid Room space would be the traditional club, but with Tokyo audience, so we could do both of our things.

ショーン:ヨーロッパだとオーディエンスに静かにしていてもらいたい場合は、彼らを座らせなきゃいけない。
Sean:In Europe, if you want people to be quiet, you have to sit them down.

ていうか、日本はマニアックなファンがすごく多いんですよ。欧米でもそうかもしれませんが。

ロブ:抑制が聴いていて、きちんと待っていてくれる。聴こえているんだ。
Rob: They are restrain and they wait. Because they would hear it.

ショーン:本当に静かだった。ベース(低音)も、かなり低いところまで持っていった。ダイナミック・レンジでいう低いところだ。
Sean:They were really quiet. There were some bass in the set, we were really trying to push it far down. Down in the dynamic range.

ベースにもいろいろあると?

ショーン:ラウドなベースとクワイエットなベースのどちらもが欲しいんだ。最近は、デプス(深度・奥行き)に惹かれている。だから、この辺りまでくるベースもあれば(ジェスチャーあり)、遠くて静かなものもある。コントラストがあるものが最近は多いんだ。
Sean:We wanted loud bass and wanted quiet bass. And at the moment I’m really into depth. So there are some bass that are really here, some bass kind of distant and very quiet. A lot of contrast at the moment.

ロブ:でも、空の両端にあるものとして結果は同じなんだ。静かだけれども、遠くないこともある。
Rob:But the resolution is the same at both ends of sky, you know? It’s quiet but not distant, as in, you just...but still perceivable.

ショーン:最近の音楽は、すべての音を同じように全面に押し出してミックスされている曲が多い。全部のレヴェルが同じで、どの音もよく聴こえる。何もかもが同じで、5分あったら5分、ずっとすべての音がダダダダダって同じような感じさ。正直言って、つまらないと思う。ぼくはすべてのエレメントがあからさまではない、シネマティックな奥行きにに惹かれるんだ。遠くにあるがゆえに、気配を気付けないものだってあるんだ。何て言うんだろう、いまのぼくはが興味があるのは、そういうことなんだ。
Sean:There are a lot of modern music.. is all about...the way a lot of modern music is mixed is about having every sound as close to.. very up front, all same level, every sound is very audible. Everything is the same, almost. It’s almost like for five minutes every sound is dididididi. And I’m bored with it, to be honest. I’m interested in most cinematic depth, where not every element is obvious. Some things are really in the background, and you might not notice it, you know. I guess that’s just where I am. It’s less about making a consumer product, and more like artistic thing, I don’t know .. I don’t know if that sounds bad. That’s where I am.

なるほど。

ショーン:いまのオーディエンスはとても洗練されている。インターネットを通して、さまざまなことを知ることができるから。でも、多くのアーティストが保身的だ。一般的な消費品を作りたがっている。インターネットの悪い面は、多くの人びとがフィット・インしたがるというか、いわゆるスタンダードなものを受け入れてしまうところだと思う。だから、規格品のような音楽になってしまうんだ。例えば、『ツイン・ピークス』の新作、もしあれがデイビッド・リンチではない誰かが作った作品だとしたら、ネット(ネットフリックス?)は受け入れなかったと思うんだ。でも彼には名声がある。だからできたんだ。それはオーディエンスにもわかっていたことだ。でも、オーディエンスのああいう反応の仕方、あれは誰にも(ネットも)予測がつかなかったものだと思う。
Sean:I think audiences now are actually quite sophisticated. We have the Internet, everybody can know about lots of things, but a lot of artists are very safe. And they want to make very broad spectrum consumer products. Because, the flip side of internet is that everybody wants to fit in, everybody wants to reach some standard, so this is standardized music. And I feel, at the moment, audiences are sophisticated enough to understand - you look at this, say, why Twin Peaks, the new series of Twin Peaks, if anybody other than David Lynch had made that, the net would have rejected it, but because he has the reputation, it can make the (estate?) and the audience understood it, they actually responded in the way that, may be the networks, that wouldn’t have predicted it....

ロブ:自信、自己肯定の話だね。
Rob:It’s a confident thing.

ショーン:企業もアーティストも人びとも、選択肢も消費者も多いから仕方ないけれど、完璧な消費音楽を作ろうとしているけど、もっといろいろできるはずなんだ。オーディエンスはインターネットを通してエデュケートされているんだから。だから、ぼくたちは最近はインタヴューをあまりやらないんだ。ただ音楽を作り発表する、それだけ。パトロン的なことは、もう一切しなくていい。
Sean:We have this thing where companies and artists and people are making music, and trying desperately...because there so much choice, consumers, everybody wants to make a perfect consumer product but actually the audience are very educated now because of internet, so you can do much more. And I guess, we kind of realized this now... this is why we do less interviews now and just do music and just put music out, because you don’t need to patronized the audience, at all anymore.

ロブ:アーティストは自分自身を満たそうしているように見える。そうする必要はないのに。ぼくたちはふたり組みだから、さまざまな意見を交換し合うことができる。ラッキーだよ。もしひとりだったら、ぼくたちがよくやるように、(同じ事柄に対する意見を)反映できる相手がいないじゃないか。
Rob: It is like artists are trying to fulfill their own self need for that... kind of..... they don’t have to. We are (lucky?) we are just two of us - we can perhaps… let’s do this and if it was just one person, there is no one to foil against. No one to reflect the same things and we do that a lot with our work.

ショーン:自信を持てないでいることはイージーだよ。さっきも言ったように多くの人(アーティストたち)がオーディエンスをひいき (patronize)している。それがどういうことかっていうと、ピッチフォークで良いスコアを取ることだったりするんだ。たぶんね。音楽をレート(採点)するアイディア自体が変だよ、五つ星、四つ星というように。音楽はケトルやトースターやラジオじゃない、機能品じゃないんだ。それにスコアをつけるなんて馬鹿げてる。
Sean:It’s easy to not be confident, with the audience and to think you need to... Like I say, a lot of people now patronize the audience, and what that going for is actually a good score on Pitchfolk, maybe. They are going for this, so...This whole idea of rating music with score and stars, like 5 stars and 4 stars, it’s kind of weird. Music isn’t a kettle, or toaster, or it’s not a radio .. it’s not functional in this way (?) and you don’t, you get out with a score is stupid.

ロブ:(音楽の)話をすること自体が難しいのに。それにスコアをつけるなんて……。
Rob:It’s hard enough to even just talk about it. Let alone (?) what you’ve said into 5 star...

ショーン:それによって音楽が変わっていってしまっている。ぼくにはそれが聴こえるよ。そんなことを気にしていたら、オーディエンスをプッシュすることはできないのに。
Sean:But it’s changing music, I can hear it’s changing music I think a lot about it - it’s a scare to push the audience.

ヨーロッパで同じセットをやったけれど、オーディエンスは着席しているあいだなら静かにしている傾向にあった。東京のクラウドは、いつも静かだ。本当に聴き入ってるから。

オウテカのライヴを聴いていると、距離の感覚がだんだんと崩れていって、普段自分が感じているような空間ではないような感覚を覚え、違う感覚が呼び起こされます。これまでも何度かライヴを拝見しましたが、オウテカのライヴがすごいのは、いまでもオウテカの音楽は未来の音楽ということです。90年代のノスタルジーにはならない。

ロブ:ノスタルジアで昔の曲をかけたことはいちどもないよ。
Rob:I don’t believe we have ever played our old tracks (out of nostalgy).

ショーン:もちろん、ぼくたちの仲間のなかには、昔はよかったなんて言う奴もいるよ、もうミドル・エイジだからね、自分たちも含めて(笑)。ノスタルジアばかりさ、周りはね。
Sean:Ok, so the artists I (grew), got along side, complain about this, who are middle aged now, like we are, and they have enjoyed early part of their lives more, so that ...(laugh). There is a lot of nostalgia around, basically.

あなたがたはまったくノスタルジーを感じないんですか?

ショーン:皆、少なからず、それはあると思うよ。年を取ったということだよ。でも、ぼくがノスタルジアを感じるのは、そういうことじゃないんだ。他のエレクトリック・ミュージシャンは、そういう音を作りたがるけど……。ぼくたちに常に完璧を求めてきてたんだ。
Sean:Well, we are all bit like that. We all got old. But I think I am nostalgic to different things, electronic musicians.. I think they want to make sound from them. which is we must be perfect all the time.

ロブ:まさしくそうだよ!
Rob: This is it, this is it.

ショーン:いまはそうでもなくなってきたけど。皆、型にハマりたがる。ぼくたちは、常に型破りでいたいと思っていた。
Sean:It’s becoming less so now.. everybody wants to fit in. We always wanted to not fit in.

ロブ:その通りだよ。ぼくたちがいまノスタルジックに感じているもの、それはある意味いまでも進行形なんだ。
Rob:Exactly, the idea is what we are nostalgic about now is that we are still doing it in a way. We are not nostalgic and presenting our old work. We are not really nostalgic in that sense, but what we would do is, still, not the....

ショーン:ぼくはときどき、音楽をたくさん買ってきて聴きまくることがあるんだけど、似たようなものが多いなと感じる。それがどんなものであれ。そして飽きてしまう。そして違うことがやりたくなる、自然とね。とくにこれらとは違うものを作ろう! と意気込んでいるわけじゃない。ただ、ああ、こういうものは、もうお腹がいっぱいって思うだけ。そして、スタジオに入ると全然違うものができあがってくる。ぼくたちは多かれ少なかれいつもこんな感じでやってきた。
Sean:I always kind of, if I listen to, if I buy a lot of music, which happens, sometimes I just buy a lot of music, they’d be kind of sameness, you know, similarity there, and usually I get bored of that. Whatever it is. And kind of wanna do something else. It’s just a natural thing. I don’t think, you know “I must make the opposite to this”, I just get… just (fatigue?) .. I just think “Ah I’ve had enough of that. But when I go into studio, something else comes out. That’s … kind of we have been always that way. 

ロブ:さっき君がオーディエンスとの距離のことを言っていたけど、それについて話してもいいかい? ぼくたちはフロアの端っこの方、DJたちがよくやる場所だよね、そこで十分ハッピーなんだ。ステージは人工的なバリアを作ってしまうメカニズムのようなもので、それを好むアーティストもいるけれど、ぼくたちはそうではないんだ。
Rob:Can I say .. you mentioned first the distance between the audience and us. I think we are often quite happy to be in the corner on the floor, like where a dj might be. So sometimes a stage is an artificial barrier-making-mechanism artists prefer. We are not really that way.

ショーン:で、いまのオーディエンスはとてもスマートだと心から思うよ。知識がある。ぼくたちがスタートした頃は、オリジナリティーを受け入れてもらうのは難しかったんだ。少しずつ少しずつオリジナリティーを出していくというか。いまはそんなことはなくて、完全に新しいものをいきなり出してもオーディエンスは付いてきてくれる。それを生かすべきだと思うんだ。シュトックハウゼンが昔、オーディエンスは進化すると言っていたけど、それは本当だった。オーディエンスは進化したんだ。いまは、皆、シュトックハウゼンが誰か知っている。ぼくたちがはじめたころは、シュトックハウゼンを知っている人なんてひと握りだった。シュトックハウゼンに限らずね、例をあげればの話しだよ。オーディエンスは本当に知識があって、柔軟だ。つねに多様な音楽に触れていると思う。
Sean:I really do believe that the audiences now are incredibly smart. They know way more. When we started out, the audiences was…you know, you had have to make small moves, you made small moves of originality back then. Whereas now you can do huge moves in the originality. You can make completely new things. But the audiences are still there with you. I think this is something you can work with. It’s like .. some of what Stockhausen said back in the day about audience would evolve, is true. Audiences have evolved. People now days know who Stockhausen is. When we started out, you’d meet may be three people who know Stockhausen. Not Stockhausen particularly.. I’m just using him as an example. I think, in general, I think audiences are far more educated and far more flexible. They are more exposed to more different things all the time.

ロブ:ダイナミック・レンジについてもっと言えば、とても大きな音を出すことはオーディエンスとの間にバリアをつくるようなものだ。でも、音量を下げることによって聴こえてくるディテイルを大切にすると、そのバリアから流れ出ることができるんだ。最近はオーディエンスと親密なコミュニケーションができると思っている。昔はできなかったように思う。
Rob:There is something more about the dynamic range as well. I guess people can play really loud. It almost presents senses of barrier, between the artists and the people. When you bring things low, and with detail, it’s almost like you flow over that barrier as well as you.. We find now that we can communicate with intimacy with the audience, and which wasn’t possible.. 

ショーン:以前はもっと難しかった、不可能ではなかったけど。いまは、ストレンジなことをしてもオーディエンスはオープンでいてくれる。奥行き、ダイナミック・レンジ、インティマシー、そういったものは互いに作用しあうんだ。
Sean:It was possible but it was more difficult before. I think now you can bring the audience in and exposed them to stranger thing and they are more open to it. And yeah its kind of depth and dynamic range and intimacy, they all relate to each other.

思い通りの展開をしない音楽に対してオープンないまの状況というのがあるとしたら、あなた方が開拓したと思います。

ショーン:本当にそう思うよ。インターネットによって、あらゆるものが入手できるようになった。インターネット上で20代前半の人たちと話すことがあるけど、本当に驚くよ。なんでも知っているんだ、アカデミックでストレンジな音楽のことをね。以前から知っている人はいたけれど、いまは誰もが知っているようなものになってきている。
Sean:Yeah I really think so, Internet has made everything available. You’d be surprised that you speak to the people through the internet, may be they are in their early 20’s, they know about loads of academic, strange music. I mean there was some before, but now it’s becoming like a thing that everybody knows..

ロブ:昔だったら、そういうものを知るためには人生体験が必要だったんだよ。ぼくらはラッキーだった、年上の友だちがいたから。コイルやクラフトワークの前身のような音楽やアーティストたちのことを教えてくれたんだ。それをリアルタイムで知るには、ぼくたちは若すぎたからね。インターネットを通すと、そういった知識を凝縮することができる、もちろん、きちんとした説明や、信用できる引用元や照合、貴重なメモなんかがあってのことだけれど。
Rob:You’d need a life experience to know about these things. We were lucky the older people we became friends with, would show us who coil was, would show us who early, pre-Kraftwerk artist … because were too young for experiencing it when it was alive. So I think some people can condense that now with Internet, as long as there are trusted report and trusted explanations, and interesting notes and verifications, or citations… that helps but..

ショーン:何もかも入手できる場所に皆が競って入っていこうとする。でも注目されるのは困難だ。なぜなら、多様なすべてのものがそこにあるから。逆を言えば、皆がさまざまなものに触れることができ、洗練され、新しいものにもオープンになっていく。
Sean:It has two things .. on one end, you got this huge array of.. everything is available and artists are competing to be in the space.. it’s very difficult to get someone’s attention, because there are so many (?) now and so much music and everything is all there. But the other side of that is people are exposed to all these different things, and so they become more sophisticated, and more (?) and more open to new things.

ロブ:ひとつのことが次のことにつながるんだ。
Rob:One thing lead to another..

ショーン:ぼくはポジティヴな側面に惹かれるよ、オーディエンスが洗練されているという部分にね。
Sean:I am more interested in the positive aspect, which is the audience is sophisticated.

ロブ:かなり若い頃からクラフトワークのことは知っていたけれど、年上の友だちのおかげだな。その人から良い音楽のことをいろいろ教わったんだ。
Rob:Yeah, I remember knowing Kraftwerk when I was really young, but It took an old friend.. It was an old friend that explained the finest earlier work.

ショーン:良い音楽を見つけ出すのに昔は時間がかかったよね。
Sean:It used to take time to discover too…

もちろんインターネットにはポジティヴな面とネガティヴな面があると思います。ネガティヴな面というのは情報量が多いところです。例えば、今の若い人はいろいろな情報をチェックしてどんどん頭でっかちになってしまい、肝心なところが抜けてしまっていると感じるときがあります。今日の最高におもしろい音楽のひとつにシカゴのフットワークがあると思いますが、彼らはそんなにインターネットをチェックせず、自分たちで作り上げたからあのようなものができたんじゃないかなと思います。インターネットによってフラットになった世界の怖さについてどう思いますか?

ショーン:フットワークのように、閉ざされた環境で育つシーンを見つけるのは難しいし、レアなことだよ。フットワークは、ある意味、ハウス・ミュージックの再資本化に対する、シカゴ独特のリアクションだと思うんだ。ハウスを作っていた多くの人がフットワークに携わっていて、いまは大勢のヨーロッパ人もハウスを作っているけど、それに対して彼らは「これは俺たちのゲームなんだ、俺たちがフットワークを作って、俺たちがやっていることなんだ」と思っている。ドリルなんかもそうだよね。
Sean:Ok, so, yeah, you do have these things where that it’s difficult and it’s very rare to find as a scene that’s developed in an isolation like Footwork. I think Footwork in a way, this, very Chicago reaction to the recapitalization of house music. A lot of the guys who are involved in the Footwork scene were making House, but now every European is making House, and they just got, “No no no, this is our game. We are doing this and make Footwork, which is almost inaccessible to white European audience, right? You get the similar thing out of Drill music in Chicago as well.

ロブ:ダンス・シーンとペアになったとき、アメリカ人とヨーロッパ人はコインの反対同士なんだ。
Rob:I think when it’s twined with dance scene, Americans and Europeans are the another sides of the coin - because… you can’t, they’re doing footwork dance, and in Europe, they’d be listening to it (embarrassed?) with backpack on going like this….

ショーン:音楽的にフットワークはとても面白いと思うけどね。 
Sean:I mean I really like Footwork from the music part of the perspective, I think it’s very interesting ..

ロブ:ダンスとペアにしてクリエイトするからね、ストリートで、子供たちも、年寄りも、皆フットワークで踊っている。イギリスではそんな幅広い年齢層では聴かれていないかな。
Rob: It’s just as nice but at the same time, it becomes exclusive to people to create it, because they create with the dancing, in the back of (car park?), on the street, young children, older people, you know, if you think of it all the ages dancing to Footwork. In England, or in Europe, there is a very narrow band of age listening to that (shit?)..

ショーン:フットワークは音楽的にとても面白いから、ヨーロッパ人に受けるんだ。それに、近づきがたいものだっていうのもヨーロッパ人好みなんだよ。
Sean:It’s also that, yeah, Footwork is one of those things where it’s musically very interesting and Europeans are going to response that because there is always.. almost a conversation between people in the UK and people in America. And it’s always like things like Footwork are more interesting to Europeans, because it’s otherwise unaccessible, so we…

そこは日本人もそうかも。

ショーン:手の届かないものであるべきだよね。
Sean:It shouldn’t be accessible ..

ロブ:手に届くとは思っていなかったというか。
Rob:You wouldn’t expect it to be accessible.

ショーン:ハウス・ミュージックのときも同じだった。80年代にハウスが出てきたときに、イギリスなんでハウスに夢中になったかと言うと、アメリカの文化のなかハウスのようなものは他にひとつもなかったからだよ。80年代のアメリカ文化といえば、ブラック・ラップ・ミュージックがあるけど、ハウスはメインストリームでは理解されなかった。フットワークは、ある意味現代のハウスだよ、アメリカのメインストリームが理解しないもの。売りつけられるものと買いたいものが違うようなものと言えばいいのかな。イギリスはアメリカのメインストリーム音楽を認めてないんだよ、ビヨンセのような大物以外はね。イギリスでグランジやハウスが受けたのは、イギリスはあまり知られていないアメリカものを好むからなんだ。
Sean:Same thing with House Music, when it came in the 80’s. The reason UK liked House Music so much in the 80’s was that there was nothing like that anywhere else in American culture. Predominantly in the 80’s American culture was Black Rap Music. And suddenly there was (?) which was coming from America but mainstream America didn’t seem to understand. Footwork is the modern House Music in a way - it’s the thing the mainstream America doesn’t understand. It’s kind of like a difference between somebody obviously selling you something, and you wanting to buy something, you know? For Europeans, for whatever reason, you want to pick and chose things that are like… kind of a.. it (?) you a sense of agency. It’s like… the reason Grunge music was popular and House music was popular - obscure American things are always more popular in UK than mainstream American things. UK does not buy mainstream American music apart of huge acts like Beyonce.

ロブ:(イギリス人は)誰にも指図されずに好きなものを選びたいのさ。
Rob:It’s like we want to retain our independent right to choose what we want…

ショーン:人種の問題ではないし、そうしたくもない、でも、イギリスはアメリカの白人音楽よりも黒人音楽を好むんだ。つねにそうだった。なんでかって……、単純に言うと、(黒人音楽の方が)良い音楽だからだろう。1994年、ぼくたちが初めてアメリカに行ったとき、取材でどんな音楽に影響を受けてきたか訊かれた。「エレクトロやハウス」と答えたら、ジャーナリストたちは理解してくれなかった。
Sean:I mean I don’t want to make this about race, because I don’t want it to be about race, but UK prefers Black American music to White American music. We always have, I don’t understand why. I think may be it’s just better music. When we first to went to America, and they said “What are your influences?” and we said “Electro. House Music”. This is in 1994. Most of the journalists, couldn’t understand.

ロブ:予想通りの答えじゃなかったのさ。
Rob:They expected us be to into…

ショーン:彼らにとって、(エレクトロやハウスは)どうでもいい音楽だった。インテリジェントだと言われている音楽をやっているはずのオウテカが影響を受けるほど、(エレクトロやハウスは)洗練されている音楽だとは思っていなかったんだ。黒人音楽がメインストリームの白人音楽よりも洗練されていると認めたくなかったんだ。でも、時代は変わった。インターネットがヒップホップをいまのメインストリームにのし上げた。それをアダプトしてみればいいんだよ。フットワークやジューク、ドリルみたいなジャンルが、いまはメインストリームに成りつつある。アメリカよりもヨーロッパで受け入れられているよ。インターネットがそのプロセスを早めているんだ。
Sean:They just didn’t … to them that sort of music was rubbish. It wasn’t sophisticated enough to influence a band like Autechre, which they thought very intelligent and all that. It’s kind of like the same reason that Americans invented the term IDM. Because they didn’t want to admit, that the local black music was more sophisticated than mainstream American which was very white, at the time, music. But things change and Internet forced Hiphop into the mainstream in America now. So, try and adapt that. And Footwork, genres like Footwork, things like Juke and Drill are now becoming mainstream because of the acceptance in Europe rather than in America. Internet is speeding up the process.

ロブ:そうだね。
Rob:Yeah

ショーン:90年代とは違うんだ。いまはインターネットがあるから、ヨーロッパ人にうけているってすぐわかる。さっきから言っているように、オーディエンスもシャープだし洗練されている。
Sean:In the 90’s that wasn’t really the case. But now, if the genre.. like yeah you can make those genres big in America now because Europeans like them. If Americans are on Internet, and if Americans see Europeans like it on the Internet, it’s this quick things now. And like I said, audiences are so sharp and sophisticated now, it’s different.

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1994年、ぼくたちが初めてアメリカに行ったとき、取材でどんな音楽に影響を受けてきたか訊かれた。「エレクトロやハウス」と答えたら、ジャーナリストたちは理解してくれなかった。彼らにとって、それらはどうでもいい音楽だったからね。

次の質問です。『Exai』というCD2枚組のアルバムを2013年にだして、その後CD5枚組の『elseq 1-5』を自分たちのサイトから出していて、今回の『NTS Sessions』 はCDなら8枚組ということで、なんだかどんどん作品の尺が長くなっています。それは自分たちが表現したいこと、作品に出したいことが1枚のCDではおさまりきらなくなっているということでしょうか?

ショーン:あれは偶然の産物なんだ。2年前頃、NTSでたんなるミックスだけれどDJをした。そうしたら、次は(8時間の)レジデンシーをやらないかと。普通のラジオのDJのようなものをね。8時間、DJをする時間はなかったし、やりたいとは思わなかった。でも、自分たちのマテリアルでなら面白いものが8時間できるだろうと考えた。だからそうしたんだ。8時間のDJをやらないかって言われたからこそ、発展したというか。
Sean:NTS thing happened by accident. About two years ago, we did a dj set for NTS. It was just a mix, you know. And they came back and said if we would do a residency. And the first this was just a regular radio dj thing they were asking us. But I didn’t want to do it, I didn’t have enough time to do 8 hours to dj mixes, you know. But we sat and thought about it, and we realized we could make 8 hours of material - because, that would be more interesting. So we did that. So it just happened just because they asked us....They asked us 8hrs of mixes and...

ロブ:2時間のセッションを4回ね。彼ら(NTS)のレジデンシーが、そういう仕組みなんだ。
Rob:Four two-hour sessions. Four two-hour shows in the most. It was their idea to stage this residency, because that’s how they work with the residency…

ショーン:時間はかかったよ。これをやるには時間がかかるけど、できるだろうか? ああ、できるよって(話し合って)取り組んだ。
Sean:So it took a while - I thought ok if we do this, it would be a long thing. It requires a lot of time, but we can do it. It’s one of these... “Can we do this? yeah, we can do it.” And we tried. I think we did it.

ロブ:NTSのレジデンシーだったら、DJをするのだろうと思うだろ? 今までも新しいアルバムを出す度にそうしてきていたしね。プロモーションの一環として、ラジオ番組で大きいプログラムを組んで、影響を受けたアーティストの曲をかけたりしてきた。自分達の曲ではなくてね。ぼくたちがラジオでオウテカの曲をかけるとは、誰も思っていなかったんだ。だから、あれ? この曲は? まさかオウテカじゃないよねって。でも、2時間もしたら、当然わかるよね。次のセッションまでの1週間、皆が興味深々でいてくれたのがわかったよ。
Rob::What makes it more special is that, if we did a residency like that for NTS’ invitation, you’d expect us to be djing for the people’s music. Like we had every time we put cd of our music. We would prep us a big radio show, playing influences, play tracks that are never ours. Hardly ever played our own tracks. So suddenly the idea that.. the radio show, what you will hear is still secret. You know with an album, it’s gonna be an Autechre album, but with a radio show, a lot of people might expect others’ music, so it was that really the nice thing that the revelation that.. “I have not heard this tune before, they are playing some new record of somebody.. Is this Autechre? Oh...” And after two hours, it’s very obvious it’s Autechre and it was another week to wait. Will this be… They are not doing Autechre, they are playing somebody else’s. And that lasted almost a week. (We knew in an advance, it was saying we were talking about ideas - you could expect this constant reawakening of the people, the interests?)

ショーン:ワープと契約する前の、1990~1991年頃、マンチェスターで3~4年、パイレート・ラジオをやっていたんだ。他のアーティストのレコードをかけていたけど、ときどき自分たちの曲も滑り込ませた。
Sean:Before we signed to Warp, in 1990, 1991, we played on a pirate radio station in Manchester. We did this for three years, four years. We would play other people’s record, but every now and then, we’d slip in our own track of ours.

ロブ:デモをね。
Rob: A demo.

ショーン:かけてみて、それに気づく人がいるか試していた。それに近い精神というか、何をやらかすかわらない遊び心というか。
Sean:Just play.. you know, see if anybody notices. And it was a little bit in that spirit, where the audience would not know what we would do, so we could play around..

ロブ:予測できないこと何かをね。
Rob: It’s unpredictable

ショーン:ぼくたちが新しいオウテカの曲を8時間もかけるなんて、誰も思わないだろうと考えたんだ。だって、馬鹿げているだろ。だからやったんだ(笑)。
Sean:Yeah so we thought nobody would expect us to play 8 hours of new Autechre. It was kind of absurd, you know, ridiculous. But.. so we did that.

ロブ:ぼくたちがラジオのブロードキャスティングのことをよく理解しているということ、それがショーンが言っていることの本質だよ。ラジオを聴くという行為、皆が一体になって聴いている瞬間というのかな、ある瞬間に、この曲誰だろうって思っている人は君ひとりじゃない。皆をシンクロさせるんだ。ライヴ・ストリームだったから世界のどこかで君と一緒に聴いている人がいたんだよ。深夜2時頃にやるのがぼくたちの定番だけどね、昼間じゃくて。夜、心に響く音楽だと思うんだ。世界のどこかでは、深夜のベストの時間帯になるから、(ストリーミングを)何時にやってもいいのかもしれないね。さざ波のように広がるのが面白かったよ。ある場所では夜中で、別の場所では仕事から帰ってきたばかりの時間。でも、少しはお互いにシンクロし合うんだ。皆がライヴ・チャットしていたのを見ていたよ。「いま帰ってきてばかりだけど、聴き入ってるよ!」とか「いま東京! 東京で聴いてる!」とかね。そうやって感情が反映されて広がっていくんだ。
Rob:It’s the nature of Sean talking about how we are very familiar with radio broadcasting, the idea of how people are actually listening together, is a combined moment where everyone knows, even if they don’t know - “who is that?” - then at least there is one more person is like that. Doing what they are doing. And.. Because it synchronizes everyone. What was quick with this was, they streamed this live, normally we would play it 2AM or it’s better earlier in the evening, not in the mid afternoon, but you knew this somewhere around the world, there are somebody (?) that, in that ideal window. At night time, that kind of music works a little better. And it meant that the radio show could be played almost (?) time of the day, because somewhere globally the stream is arriving at the ideal time for someone… They are kind of this funny ripply effect of people being accepting it later night and some people are like “no i’m just coming home from work, it’s not my ideal time” but they would synchronize each other a little bit. You could see people chatting live and say “I’m just coming home and suddenly immersed in this thing”. And some other people are like “I’m in Tokyo listening to this, oh man!” and you spread to reflect the feeling ..

ショーン:捉え方としては、ラジオ番組のプログラムと一緒なんだ。リリースはラジオをドキュメントしたものなんだ。だからタイトルがある。『NTS Session』と。
Sean:It’s conceived as programmed as the radio show. It’s very much… the release is a document of a radio show, which is why it has a title. NTS session because...

ロブ:アーカイブだね。
Rob: It’s an archival.

ショーン:そう、ラジオのアーカイブ・リリースだよ。
Sean:Yeah, it’s an archival release of a radio show. Yeah, it’s a...I guess that is what it is.

これはいつ放送されたものですか?

ショーン:4月だよ。やったばかり。
Sean:April. It’s very fresh, yeah.

ロブ:4月に4回、毎週木曜日だった。
Rob:It was every week , four Thursdays in April.

ショーン:前もって用意した作品だよ。スタジオでやった長いセッションを元にしているんだ。ピール・セッションを作った時のプロセスと同じようなやり方なんだ。
Sean:And it was prepared in an advance. But it was made.. originally from the long live sessions in the studio. It was a similar process to how we made the Peel Sessions. It was a very similar process to this.

4つのセッションはそれぞれテーマが決められているように感じました。セッション1はダンス・ミュージック、エレクトロ的なオウテカのルーツを感じるようなセッションで、セッション2は近年の『Exai』や『Oversteps』などすごくエクスペリメンタルで複雑なことをやっていた近年のオウテカというものがすごく出ているように感じました。セッション3は今までやっていなかったことをやろうとしているのかなという印象を受けて、セッション4はアンビエントやドローンなど聴いたことがないオウテカという印象を持ちました。それぞれのセッションはどのように作り分けているのですか?

ショーン:興味深い。
Sean:It’s interesting...

ロブ:ペース間隔が大切だったんだ。ラジオ・ステーションがベースになる作品であることはわかっていた。
Rob:They have to be paced, and we knew the pace had to work in a... we knew the records were gonna come out as well as the radio station was gonna be its basis.

ショーン:部分的には……、頭のなかのどこかで、経験として8時間の音が成り立っていたから。
Sean:It’s partly... as well, somewhere in the back of my mind, I had kind of 8-hour experience..

ロブ:頭のなかで。
Rob: In mind.

ショーン:そう、だから、全体的な流れがある。8時間通しで聴くことは、誰にも期待していないよ、でも可能にしたかった。(音の)旅だと思う。大まかなナレティヴもあると思う。そうだね、最初は直球にしたかった、ある意味、入って行きやすいもの。2番目は、ディープにしたかった。2番目のセッションは、ブシュシューと深いところに沈み込むような感じだ。そして3番目は、2番目の展開。4番目はディープな未来。なんて表現すればいいのかな、アイディアとして、深い深い未来、物事がありすぎるようで少なすぎるような……。
Sean:Yeah. So there is an overall flow. I don’t expect many people would listen to 8 hours all while they are sitting but I want it to be possible. And it’s kind of a journey. There is kind of a rough narrative...And yeah, it’s true, in the beginning I wanted it to be more straight forward.. Not necessarily... I guess “accessible” to a certain extent, and the second one, I want it to be deep. The session two was kind of a deep plunge, almost like an “boonpfft.... “, you know. And then three is a kind of like a development of two. Four is kind of a deep future. I don’t know how to describe it, kind of...idea is a deep deep future where it almost you can’t ... there is almost too much and too little at the same time..

ロブ:ぼくは個別に捉えている。1番目は……狭いところから始まり、だんだん広がっていく。アルバムにはイントロがよくあるように。2番目はもう少しわかりやすくて(入っていきやすい)、皆がどこまで遠くまで行けるか探っている。3番目は、とてつもなく広く、何でも起こり得るような場所。4番目は、ショーンが言ったように、ガスなのかアトミック・レベルなのかわからないけど、互いにコズミックな関係性のあるものが沈みこむような……引力と重力のある……
Rob: I see it individually in a way...the first one... it starts out narrow and widens out and widens out, and second one, yeah slightly more accessible for a reason, because some albums were with an introduction, yeah? And then, second one, exploring how far people can go. Third, you got so much width now, almost anything is possible. The fourth one, like Sean said, you don’t know what they are doing with the gas, or atomic level stuff or, and just as important, cosmic with one another. There is gravity and heaviness ..

セッション4最後の1時間近くあるトラック、“all end”のことですが、このような長尺のドローンはいままでなかったと思のですが……

ショーン:長いトラックを作ったことは前にもあった。ドローンのようなものも、「Quaristice.Quadrange.ep.ae」(2008年)というね、『Quaristice』の頃だよ。
Sean:Yeah, we’ve done long tracks before. We’ve done drone tracks.. We did the thing called Quadrange, around the time of Quaristice.

ロブ:レコード4枚分、ダウンロードのみのリリースでね。
Rob: It was a range of four records. Download only.

ショーン:『Quaristice』の頃のデジタル・リリースで、1時間あるトラックだった。だから、初めてじゃない。ドローンとは呼びたくないけど、こういったトラックはずっと作っていた。ドローンじゃないんだ、別物だよ、でも、まあ長い間、こういうものは作ってきていたんだ。
Sean:It was a digital release around the time of Quaristice, and was an hour long track. So it wasn't the first time, but it was very limited.We’ve been making this kind of tracks...I don’t want to call it drone.. It’s not really drone, it’s something else, but we have been doing this kind of stuff for a while.

ロブ:その曲は世界のようなものなんだ。複雑な……。文明のある天体球で、そのなかを覗くとひとつの完全な世界がある。あって欲しいと望んでいる。
Rob: It’s like they are worlds.. it’s complicated.. it’s a civilized sphere, but if you look inside it, there is a whole world.. I mean there is, hopefully.

ショーン:その表現はすごくいい。
Sean:That’s a really good way to say it.

ロブ:こうとしか言い表せないな。
Rob: I don't’ know what else to say it..

ショーン:こういうのはしばらくやってきていたよ。でも、ワープに(1曲で)1時間もあるアルバムを持っていったら、何考えているんだ? って言われるよ。でも、8時間分のリリースなら、そのなかに1曲、1時間のトラックがあってもOKだろ。
Sean:We’ve been doing this for a while.. but if we go to Warp with an hour long album, they’d be like “What?”. In an 8-hour release, it’s ok to have a track that’s an hour long.

ロブ:昔、パイレート・ラジオだけじゃなく、キス・マンシェスターでもやっていたんだ。毎週ね。ディスエンゲージドという番組で、キス(ラジオ)でやっていた。FM局のキスは、イギリス全国にあるサテライトステーションだから、ぼくたちもブライトンでやったり、ロンドンでやったりしたけど、マンシェスターではレジデントみたいな感じで何年もやっていた。毎週日曜、真夜中の番組。友だちを呼んで、GescomとかAndy Waddocks, Skam, Rob Hall, Darrell Fittonとか、皆でやったんだ。みんな、変わったものを持ってくるんだよ。それに近いフィーリングだよ、ラジオでいろいろなものを聴く(かける)というものに。
Rob:We used to do, not just a pirate radio, we did a legitimate radio on Kiss Manchester. Every week… It was called Disengaged, on Kiss Radio. Kiss FM spread out as Satellite stations in UK, so sometimes we’d be in Brighten, London, and then we had almost like a resident in Manchester, for years. We had friends involved, Gescom gang, we did a lot of Disengaged in Manchester, because they came regularly every Sunday. And it was really late at night. So we did a lot of late night radio. Gescom, Andy Waddocks, Skam, Rob Hall, Darrell Fitton, all contributed and we all did this together. But they (?) very weird wonderful kind of program material, so.. it’s similar to that kind of the feel that things could be… it’s radio so we could explore lots of different things.

Spotifyはクズだよ! なんでかって? アクティヴィティー・プレイリストなんてものがある、リラクゼーション・プレイリストとか? 最悪だよ。音楽を滅ぼしてしまっている。最低さ。ストリーミング・サービスは、ゆっくりと音楽を破壊の道へ導いている。

『NTS Sessions』のすべての曲にちゃんと曲名がありますよね。その1時間の曲は“all end”という曲で、曲名に意味を持たせようとしないオウテカにしては意味を感じる曲名だなと思いました。

ショーン:うーん、ピンとくるタイトルはあるよね。これの場合は、最後の曲で尺の長い作品だし……。
Sean:I don’t know...sometimes titles just feels right. It was the end, and it was long and all..

ロブ:他のトラックでも、こんな感じのサウンドが聴けるものはあるんだ。でも、これは最後のトラックでこの独特の音の世界を追求したものだね。
Rob:There is a moment where you can hear this kind of sound in another track and it was an end of this track, and this is all but it, it is all that stuff, it’s all the end as well..

ってことは、過去にやってきたことの集大成的な意味合いもあるんですか?

ロブ:ピール・セッションについて話すと良いのかな。ピール・セッションの場合は、──ジョン・ピールはUKのラジオDJで、もう亡くなっているんだけれど──、アーティストたちは、3、4曲、ジョン・ピールに曲を渡していたんだ。1~2曲の新しいトラックと、それらのオルタナティヴ・ヴァージョンのものをね。コクトー・ツインズやザ・フォールなど、皆、すでにあった曲のオルタナティヴ・ヴァージョンをピール・セッションとして提供した。よく知られたマテリアル、有名なトラックのものを。
Rob:I should say.. With Peel Sessions.. In the UK, we have.. he’s died, John Peel, was a radio DJ in UK, he is now dead. And.. what used to (?) with the Peel Session, so the artists would give him, say, four tracks, or whatever, three.. It’s traditional to give may be one or two new tracks, then some alternative versions of new material… Most of Peel Sessions back then .. Cocteau Twins, The Fall, all these different artists did the Peel Sessions, most track they did were alternative versions of existing material. Well known material - almost famous tracks, even.

ショーン:『NTS Sessions』を思いついたとき、オウテカのマテリアルを展開させた、オルタナティヴ・ヴァージョンを作りたいと考えたんだ。すでにあるトラックのエレメンツやパーツ、アイディアに言及するような作品を。そういったことはいままでにもやってきていたけれど、そのやり方で厳密に取り組んだのが『NTS Sessions』なんだ。
Sean:When we conceived this NTS Session, we wanted to make what we would do as developed alternative versions of existing Autechre material. So it’s kind of.. it refers to previous work of other tracks, elements, or parts, or ideas from previous work in the same way. Strictly for NTS Sessions, we kind of did that more. We always did that a bit, but with this we did that a lot. 

ロブ:それは大きいね。
Rob:Real big parts of it.

ショーン:“all end”は、『Exai』の“Bladelores”というトラックに似ている。そして、最後のセッションだ。“all end”は、『Exai』の“Bladelores”のアイディアのいくつかを展開したもので、NTSのためのスペシャル・ヴァージョンと言えるよ。だから“Bladlores”の終章、終りということだね。
Sean:All End is similar to a track called Bladelores from Exai. And it was the end session. All End is an expansion of some ideas from a track on Exai. Bladelores. Kind of a special NTS version of that track. So the name is about, how it’s the end of Bladlores.

ロブ:終りのすべて、全部。
Rob:And it’s all of it.

今回の『NTS Sessions』もそうですし、ひとつ前の『elseq 1?5』など、さらにその前にライヴ音源をいっきに自分たちのサイトでリリースするようになったと思いますが、さきほどの「インターネット」や「スマートなリスナー」を想定したリリースの仕方をしているのですか?

ショーン:ああ、インターネットを通して、オーディエンスとは直に繋がることができる。メディアは物事を簡略化しすぎるから。売るためにね。
Sean:Yeah, with the Internet, we can just go straight to the audience. So the media, which is always trying to oversimplify things to sell things.

ロブ:インターネットは、完成していないスペースだから常に余白がある。だから、ぼくたちも物質的なリミット無しで、ようやくライヴ音源を出すことができたんだ。(ライヴ音源は)本当にたくさんあるんだ。1時間ある1曲は出せたけれど、音源はもっとある。それを皆に届けるには、無制限のスペースが必要なんだ。
Rob:Internet is a non-finished space, there is always a room. So we could put our recordings of the live shows finally without any limitation of physical so… Because there are a lot of them. To put one item out that’s one hour long, is I guess ok but we have a lot more of those, so we need an infinitive space to provide them to people.

Spotifyでオウテカのアルバムが聴けると思いますが、入っているアルバムと入っていないアルバムがあります。どうでしてでしょうか?

ショーン:Spotifyはクズだよ! なんでかって? アクティヴィティー・プレイリストなんてものがある、リラクゼーション・プレイリストとか? 最悪だよ。音楽を滅ぼしてしまっている。最低さ。ストリーミング・サービスは、ゆっくりと音楽を破壊の道へ導いている。作った音楽を聴いてほしいのはわかる。でも、ぼくらの古くからの友人たちにもいるんだ、Spotifyのプレイリストにあげるためだけの音楽を作るようになってしまった。ぼくたちは、オルタナティヴなものを作りたい。
Sean:Spotify is Garbage! Why? Because they have activity playlists. You have relaxation playlists, everybody makes fucking (?) music. It’s just the worst thing. It’s destroying music. I hate it. I think streaming services are slowing destroying music. And.. I mean, ok, I understand people want to have their music heard. But now I actually know artists, who are my friends, I know them for years, they are now making music just so they can get them on Spotify playlists. It’s just so different to what we …. we wanna alternatively make what we want.

ロブ:ワープがSpotifyに渡す曲については、ぼくたちで厳選している。(ワープは)理解してくれているよ、ぼくたちがこういう事については選択的でうるさいということを
Rob:We are strict what Warp will give to Spotify. And they understand why. They understand how.. selective.

ショーン:だから、ぼくたちのサイトで視聴できるようにしたんだよ。ぼくたちのプロダクトを買いたくなくても聴くことはできる。
Sean:Yeah, and we made it so if people don’t want to buy our product, they can just listen on our site for free, so there are still streaming available… We don’t have to worry about Spotify (?) us in the background. We can just put it there.

今後AIが音楽をつくれるようになったら、人が作った音楽とAIが作った音楽とで区別する必要はあると思いますか?

ショーン:すべての音楽は人間が作ったものだよ。鳥の囀り以外はね。
Sean:All music is made by humans. I mean apart from birds song.

ロブ:それでもヒューマン・メイドだよ。
Rob:Still human made.

ショーン:ぼくはつねにアーティフィシャルなものに興味を持っていた。こういっては何だけれど、アーティフィシャルってマンメイドっていう意味だと思う。人間が人工的なものを作ったということを忘れがちだけれど。コンピュータもとても人間的だ。テクノロジーのことを人間がどう考えるかということ自体、とても人間的だと思うんだ。人間がつくったから劣るものだという考え方はやめたほうがいい。個人的に、ぼくはArt、Artificialなものが好きなんだ。なんて言ったら良いかな、ぼくにとって、アーティフィシャルのコンセプトは、人間がつくったものだということ。ロボットだって人間が作ったもの。ArtはArtificialの言葉のなかにもあるよね、関係しあうものだよ。
Sean:I’ve been always interested in Artificial things. I feel bad to pointing this out. Artificial means Manmade. I think it is easy to forget Artificial means humans made it. It means, you know, computers are very human thing. This whole… you know, what we think about our technology, it’s uniquely human. I think, we need to get over with this idea, that because human made something, it is somewhat not good. Personally, I like art, I like artificial things, I like... you know, I don’t know how to explain this. This is difficult because for me, the concept of artificial means people made it. People made robot. I know it is kind of obvious, but, it’s like word “Art”. It’s part of the word “Artificial”. There is a related concept.

ロブ:ツールだね。ロボットだって人間が作ったツールだ。
Rob: I guess they are still tools. Robots are still tools made by people.

ショーン:言語とテクノロジーによって人間的なものが生まれるんだ。それらをどう使うかによって。70年代に、メカニカル・マシン・ミュージックやエレクトロニック・ミュージックは人間的ではないと言われていたけれど、人間以外のどの動物がマシンを使って音楽を作る? 人間的ではないという意味がわからない。とても人間的だ。人びとが音楽を人間的だと形容するとき、ナチュラルだという意味で言っているんだと思う。ナチュラルって、人間が作ったものではないということだよ。ナチュラルの反対はアーティフィシャルだよ。だから、アーティフィシャルとは人間的ということ。皆、意味をあべこべに捉えてしまっている。なぜだかね。
Sean:I think humans… hrm, Because of language and technology, there are human things. Particularly by the way we use it. Often when we talk about mechanical machine music or electronic music.. In 1970’s, people would say it’s not human. What other animals use machines to make music. I don’t understand how that’s not human. That’s the most human ....I think people often say, with music, with regard to music, people often say human, when they mean natural. Natural means, not made by not human.. Natural opposites to Artificial. Artificial means human. Yeah it’s almost like people having it backwards. I don’t know why.

ロブ:ミステイクだね。
Rob:It's a mistake.

Laurel Halo - ele-king

 イタリアのテクノ系プロデューサー、シェヴェル(シュヴェール?)ことダリオ・トロンシャンによるダブルパック『In A Rush And Mercurial』が興味深かった。これは4月にリリースされた彼の5thアルバム『Always Yours(いつもあなたを思っています)』がどのようにしてつくられたかを想像させる内容だったのである。彼は3年前までダブ・テクノにグライムを持ち込むことで大きな興味を引いた存在だった。その彼がマムダンスのレーヴェルに移り、さらにウエイトレスと呼ばれるジャンルにチャレンジし、またしても大きな飛躍を見せたのが『Always Yours』であった。個人的にはいまのところ今年のベスト・スリーに入る充実作である。2枚のEPから構成された『In A Rush And Mercurial』は一聴すると『Always Yours』よりも以前のスタイルに揺り戻したかのような印象を与える。実際にそうだったのかもしれない。しかし、『In A Rush And Mercurial』は『Always Yours』を作り上げる段階で捨てられた曲をまとめて出したと考えた方が得心のいく曲が多い。彼はダブ・テクノにもウエイトレスに通じる部分はあると考えているようだけれど、それまで彼の重心部分であったダブ・テクノの比重を減らし、グライムからウエイトレスを抽出して後者の方法論を肥大させていく過程でダブ・テクノから充分に脱却できなかったものを一度は捨てたのではないかというストーリーを勝手に組み上げてみたくなるのである。『In A Rush And Mercurial』もよくできてはいる。しかし、先に『Always Yours』を聴いてしまった耳には『In A Rush And Mercurial』は物足りなくなる部分があるし、逆に言えば『Always Yours』がどれだけ跳躍力が高かったかをあらためて実感できたともいえる。
 
 マーラのDJがUKサウンドとの出会いだったというトロンシャンはウエイトレスに進路を定める上でとくに参考にした曲としてフランコ・バティアトーの6thアルバムから「Za」を挙げている。バティアトーは70年代のイタリアン・プログレッシヴ・ロックでもけっこうな異端児で、「Za」はとくにストレンジでコンセプチュアルな曲といえる(『アンビエント・ディフィニティヴ』P152)。そして、これとまったく同じ発想で作ったとしか思えない曲がローレル・ヘイローの5thアルバムにもフィーチャーされていた。“Quietude”である。スカしたタイトルはヴァンガード・ジャズ・オーケストラが60年代に録音していた曲と同じだけれど、それとは関係がないようで、バティアトーを飛び越えて、さらにその向こうにいるジョン・ケージやプリペアード・ピアノから着想を得たものなのだろう。トロンシャンでいえば『In A Rush And Mercurial』に収録された”Faded”にかなり近いものがあり、ふたりが同じところをウロウロしているのは間違いない。
 『Raw Silk Uncut Wood』は、そう、オリヴァー・コーツのチェロをフィーチャーしたタイトル曲からしてモロだし、全体にミュジーク・コンクレートからのフィードバックが濃厚な1枚で、イーライ・ケッセラーのドラムを使い倒した“Mercury”ではフリー・ジャズ、“The Sick Mind”ではリュック・フェラーリのような名前がどうしても浮かんでしまう。あるいは例によって解体されたデトロイト・テクノのリズムにも強く注意が払われ、そのことによってトロンシャンとも同じく現在形の表現になっていることも保障されている(デリック・メイたちに“Mercury”の感想を訊いてみたい!)。テーマ的にはオランダのデザイン・スタジオ、メタヘヴンとアーシュラ・ル・グインが訳した道教の本からインスピレーションを得たそうで、音楽とイメージをどう結びつけるかはなんとでも言えるし、ああそうですかとしか言えないので、観念的な側面は省略。イージーにいえば瞑想的で静謐な曲が多い。

 ローレル・ヘイローのサウンドはそれにしても完成度が高く、女子高生言葉でいうところの「雑味」がまったくない。だからといって息苦しいわけでもなく、冒険のセンスにもあふれている。リリース元はエナ『Distillation』や今年に入ってイヴ・デ・メイ『Bleak Comfor』をリリースしたフランスの〈レイテンシ〉。当初はシカゴ・ハウスやデトロイト・テクノを発していたものが、すぐにも実験的な作品ばかり扱うようになったレーベルである。『Raw Silk Uncut Wood』のエンディング、“Nahbarkeit(親しみやすさ)”をヴォルフガング・フォイト(マイク・インク)のガス名義に喩えたレヴューがいくつかあったので、たまたま同時期にリリースされたガス名義の6作目『Rausch(酩酊)』を聴いてみたら、まあ、確かにそうかなとも思いつつ、意外にもヘイローの方が快楽的だったので、クラブ・ミュージックの連続性も切り捨てられてはいないといえる。ちなみにトロンシャンも『Flowers From The Ashes: Contemporary Italian Electronic Music』でリュック・フェラーリを思わせる極上のアンビエント・チューンを聞かせくれる。


Sophie - ele-king

 ずっとオウテカがヒーローだった。5月に公開された『クラック・マガジン』のインタヴューで彼女はそう明かしている。この発言が意外に感じられるのは、これまでの彼女が盟友のA・G・クックあるいは彼の主宰する〈PCミュージック〉のポリシーに則って、何よりもまずポップであることを希求し続けてきたアーティストだからだろう。自身の楽曲はもちろんのこと、チャーリー・XCXをはじめとする数々のアーティストとのコラボをとおして、いわゆる「バブルガム・ベース」の第一人者としてその地位を確立したソフィー。その初期の音源は2015年にリリースされた編集盤『Product』にまとめられているが、それに続くフルレングスとして発表されたこのファースト・アルバム『Oil Of Every Pearl's Un-Insides』は、しかし、「バブルガム・ベース」のある種の到達点を示した『Product』とはずいぶん異なる様相を呈している。

 その変化はまずアートワークやリリックに、あるいはシングルカットされた3曲のMVに如実に表れ出ている。これまでどちらかといえば匿名的ないし記号的なイメージを堅持してきた彼女が、今回は自身のクィアネスを全面に押し出しているのである。たしかに、性の自由や多様性といったテーマは彼女のカラフルなサウンドと相性がいい。じっさい、本作中もっともポップな“Immaterial”は、安室奈美恵と初音ミクのコラボ曲にもつうじる躍動的なトラックのうえで、「私は私が望む何にだってなれる」と盛大に宣言しており、ある種のクィア・アンセムと捉えることも可能だろう。
 けれどもこのアルバムがおもしろいのは、その“Immaterial”のほかにいわゆる「バブルガム・ベース」らしい楽曲が見当たらないところだ。クィアのプレゼンテイションとしては、“Immaterial”のようなポップ・チューンを(あるいは、初めて自身の歌声を披露したファースト・シングル曲“It's Okay To Cry”のようなバラードを)できるだけ多く収録したほうがより効果的だと思うのだけれど、彼女はそれでアルバム全篇を覆い尽くすような真似はしなかった。まさにそのようなアティテュードにこそ、クリエイターとしてのソフィーの本懐が宿っているのではないか。

 ベース・ミュージックらしい低音を堪能させてくれるセカンド・シングル曲“Ponyboy”には、他方で90年代テクノを思わせる旋律が織り交ぜられてもおり、ソフィーの音楽的なバックグラウンドの多彩さを垣間見ることができる。そのインダストリアルな意匠はそのままシームレスにサード・シングル曲“Faceshopping”へと引き継がれ、ベースやらヴォイスやらアシッドやらがスリリングな応酬を繰り広げる。そして同曲はなぜか、次のトラックへ移ったと錯覚させるようなタイミングで唐突にポップな展開を挟み込んでもくる。音楽的冒険を突き詰めたこの2曲こそが本作全体の方向性を決定づけているといっていい。
 そのような尖鋭性はほかのトラックにも滲み出ていて、ぶりぶりと唸るベースの間隙にレイヴの断片が貼り付けられる“Not Okay”は、まるで死体をダンスさせているかのような奇妙な仕上がりだし、“Pretending”のドローンもどこかティム・ヘッカーを想起させる静性を具えている。極めつきは最後の“Whole New World/Pretend World”だろう。もしもアレック・エンパイアがポップ・ソングを作ったら……といった按配で幕を開けるこの曲は、中盤以降うっすらとウェイトレスなシンセを忍ばせつつ、ある時期のエイフェックスとオウテカを掛け合わせたような強烈なアヴァン・テクノへと変貌を遂げるのである。

 風船ガムのように弾けては消えるライトな音楽を標榜し、それこそJポップまで取り入れるに至った彼女はいま、なぜこのように尖ったアルバムを送り出したのだろうか。
 件のインタヴューにおいて彼女は、メインストリームの音楽の持つ長所として、それが排他的ではなく、またエリート主義的でもない点を挙げている。資本のど真ん中を流れゆく音楽たちがほんとうに排他的でないかどうかは議論の余地のあるところだけれど、仮にそれらの音楽が「万人に開かれている」という前提のうえに成り立っているのだとしたら、彼女はそのど真ん中めがけて爆弾を投げつけようとしているのかもしれない。すなわち、「開かれた」ポップのフィールドにアヴァン・テクノの遺産を反映させつつ、さらにそこにクィアというテーマを重ね合わせることはいかにして可能となるのか、そしてそれはいかなる未来を呼び込むことになるのか。まさにそれこそがこの『Oil Of Every Pearl's Un-Insides』の賭金であり、たしかにそれはオウテカにはとることのできなかった選択だろう。つまりソフィーはいま、かつての自らのヒーローを超えるような試みを為そうと大いに奮闘しているのである。


Tirzah - ele-king

 アーサー・ラッセルの存在感が年々高まっているように感じる。最近でいえば、やはりアルカが大きい。『IDM Definitive』を編集している際、アーサー・ラッセルをどこに位置付けようか悩んでいた僕はあれこれと音楽史のパースペクティヴを変えながら何度もラッセルの『タワー・オブ・ミーニング』などを繰り返し聴いていたためか、その濃度がいつもより多く体内に残留してしまったようで、さらに編集を続けていてアルカの『ゼン』を聴いたとき、それこそラッセルのヴァリエイションのように聞こえてきたのである。彼自身がインタヴューでラッセルに影響を受けていると話していたときには言葉以上のものとしては理解していなかったのだろう、ラッセルの影響がアルカのサウンドに滲み出ていることを初めて強く実感した瞬間だった。本人にそのつもりがなくとも竹村延和を聴いているとロバート・ワイアットが随所で滲み出ていたり、砂原良徳がクラフトワークにしか聴こえないというアレと同じである。アルカはしかし、ファースト・アルバムにしかそれは顕在化しているとは言い難く、セカンド・アルバム『ミュータント』でポップになった……というよりスノッブになってしまったために、ラッセルを感じさせる部分はどこか薄れてしまったきらいはある。ポップ・ミュージックは腐りかけが一番面白いと思っている僕には、これは微妙な変化ではあった。
 ブラッド・オレンジ、パンサ・ドゥ・プリンス、ティム・バージェスと大なり少なりラッセルの影響を受けたミュージシャンのリストはそれなりに長くなりそうだけれど、5年前にミカチューことミカ・リーヴァイと組んでポスト・グライムなどと評された“I’m Not Dancing”をリリースしたティルザもまたデビュー・アルバムとなる『退化(Devotion)』ではサウンド・スタイルを大幅に変化させ、ミニマル化したR&Bをメインとしていた。それこそアーサー・ラッセルからのダイレクトな影響を感じさせるアプローチである。

 この変化はアルバム全体のプロデュースを務めたミカ・リーヴァイの志向だったのかもしれない。そこはよくわからない。音楽学校で一緒に音楽を学んでいたというふたりは13歳のときに一緒につくった“Go Now”を(30歳になって)初めてレコーディングもしている。どうして『退化』というタイトルなのかもわからないけれど、アルバムに収録された曲には大人の恋愛を扱ったものが多いそうで、ガーディアン紙などはカーターズ(ビヨンセ&ジェイ・Z)『エヴリシング・イズ・ラヴ』と並ぶ「愛のアルバム」として紹介している。昨年、〈ホワイツ〉の新星として大きな評価を得たコービー・セイをフィーチャーしたをタイトル曲のヴィデオではなるほど幸せそうなカップルがクラブ(ホームパーティ?)でいちゃついている。
 オープニングからして優しい。いきなり柔らかいもので包まれた感じ。続く“Do You Know”でスクリュードされたヒップホップ・ビートに足を取られ、“Gladly”で早くも気だるさは頂点に。♩あなたが必要なだけ、と驚くほど簡単なことしか歌っていないのに、どんどん引きずり込まれる。ややテンポ・アップした“Holding On”は彼女がディスクロージャーを輩出した〈グレコ・ローマン〉のレーベル・メイトであったことを思い出させ、この曲だけがちょっと異色。同じコードを抑えるだけのピアノがループされた“Affection”はアーサー・ラッセル直系で、〈クレプスキュール〉ヴァージョンのローリー・アンダーソン“O Superman”というか。“Basic Need”もミニマリズムに徹している。アナログだとBサイドに移って枯れたストリングス・アレンジがいかにもミカ・リーヴァイといった雰囲気の“Guilty”からR&Bとモダン・クラシカルが見事に融合したタイトル曲へ。どこか退廃的な雰囲気が滲み出す。“Go Now”はR&Bの定型が残っていることで、確かに13歳の時につくったんだなと思わせる。このあどけなさを受けて“Say When”ではもう一度アンニュイに頭を突っ込み直す。“Say When”というのは「合図して」という意味なので、“Go Now”の前に来た方が「いつ?」「いま!」という流れになると思うんだけど、そういう関係を表したものではないのだろうか。エンディングはまたちょっと変わった曲で、オフビートだらけのドラムンベースというか。そして、あれっという感じで終わってしまう。全体にソランジュ『A Seat At The Table』をレイジーにして、いかにもイギリス的な線の細さに置き換えた感じでしょう。影響されていることは確か。

 ヴァン・ジェスやSZA、ティナシーにドーン・リチャードとオルタナティヴR&Bは依然として百花繚乱だけれど、クラインと同じくリズム面でも大胆に実験的なことをやっている人は意外と少なく、『Devotion』はその点で稀有な存在感を放っている。

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