「You me」と一致するもの

Bathsの素敵な12月 - ele-king

木津:やってまいりました、ゆうほとつよしのアラサー女子力対決「とびっきり素敵な12月」のコーナー。

橋元:勝てる気がしませんね。

木津:闘いましょうよ(笑)! 年末といえば来年の星占い記事とクリスマスでしょう? 橋元さん、クリスマス・ケーキもう決めました? それと自分へのごほうび♡

橋元:木津さんはあれでしょう? ジャスティン・ヴァーノン(ボン・イヴェール)の痛ケーキ。……あ、ちがうわ。お得意の〈ピエール・エルメ〉ね!

木津:だってこの美しさですよ! 今年の僕のケーキは「エラ」です。あー、ワインも買っちゃおうー。

橋元:「エマ」じゃないんだ。それにしても、いずれ劣らぬご褒美価格。「エラ」の赤い艶はとくにラグジュアリーですね。その点はシャアザク・ケーキもいい勝負なんですがね。

木津:オ、オタクリスマス……。まあ、クリスマスを楽しまないと年越せないですよ。締めくくり、せっかくなんで満喫しましょうね!

橋元:もちろんです。SNSが普及してから、年中行事の果たす役割が急に大きくなったように思いますね。それはいいとして、何か素敵な12月のプランはありますか?

木津:クリスマス・マーケットは行くとして、ライヴや音楽イヴェントも満喫して年を終えたいですねー。

橋元:そう、12月は本当に楽しそうなイヴェントがたくさんあります。今日はそのなかから、13日(金)にスタートするLAのビートメイカー、バス(Baths)くんの来日ツアーについてお話しましょうか。バスのセカンド・フル『オブシディアン』は、木津さん、どうでした?


左・Cerulean(2010)/ 右・Obsidian(2013)

木津:いや、前作(デビュー・フル『セルリアン』)のイメージがけっこうクリーンな感じ、やわらかな感じだったので、今回の陰影にはビックリしました。が、ある意味しっくりもきて。ダークで烈しいモチーフになってますけど、なんていうか、汚くはけっしてないんですよね。思春期的な潔癖性というか。

橋元:そうそう。前作のモチーフが「天上」のイメージなら、今作は「地獄」ですね。実際に『セルリアン』という色には天上のイメージがあったといいますし、『オブシディアン』は黒死病(ペスト)を題材にした中世の絵画からインスピレーションを得たといいます。1枚めから2枚めであまりにあからさまに天から地下へ直滑降しているんですが、その直滑降っぷりが本当に思春期的で潔癖的。
彼自身はハタチを過ぎているんですが(笑)、あのアンファン・テリブルな雰囲気というのはずっと失われないですね。ドリーミーだけれども攻撃的。14才の攻撃性です。それは両作ともそう。

木津:ドリーミーというキーワードは健在ですね。ゴシックなモチーフに惹かれる感覚、っていうのはある種の暗さの夢想ですし。ノイジーなんだけど聴いている感覚としては、すごくふわふわできるというか。

橋元:わかります。暗さがそのままロマンティシズムに結びついていますよね。「闇落ち」のドラマツルギーみたいなものがあって、『オブシディアン』はそういうものが根本に持つロマンチックでドラマチックな感覚があふれていると思います。もちろん無意識なんですけど。

木津:前作がチルウェイヴからの距離で測れた作品だったとすれば、『オブシディアン』はインダストリアルな感触もあって、すごくいまっぽい。天然かもしれないけど、感性もアンテナも鋭いですよね。

橋元:きっと天然ですね。インダストリアルを方法として意識しているとは思えないですし、あるいは今作でちょっと顔を覗かせているブラックメタル的な感覚も、「わりとそういう気分だった」というところだと思います。
でも“アース・デス”とかびっくりしました。そもそもはデイデラスに見初められて、〈ロウ・エンド・セオリー〉でDJを務めたりというキャリアがあるわけですけど、そういう「LAビート・シーン」を引っぱろうというような意識はすでに微塵もなさそうですね。ファーストのあの跳ね回って錯綜するビートが姿を消しつつあります。

木津:たしかに。でも、確実にシーンの重要なキャラクターでもあるのがおもしろいですね。僕がいちばん最近にバスくんの名前を見たのは、気鋭の23歳トラック・メイカー、ライアン・ヘムズワースのアルバムのゲストでです。彼はカナダ人ですけど、やっぱりLAビート・シーンに足を突っ込んでるひとで。僕はその「思春期的なムード」を彼にも感じ取ったんですけど、あの界隈ってそういう叙情性と親和性のあるところなのかも、じつは。ノサッジ・シングなんかもですけど。

橋元:そうですね、ティーブスとかもそう。恐れることなく叙情しますよね。それはやっぱり、彼らの音楽の基本がビートにあるなんだと思います。ドリーミーなモラトリアム感覚はチルウェイヴにも通じるんだけど、チルウェイヴの方がちょっと苦くて、かつぼんやりしていて、方法的にも甘い。適当な言い方だけど20代の甘さみたいなものを感じます(笑)。対するにバス勢の(10代的な)攻撃性は、テクニックとファンタジックな想像力に支えられたものだと思いませんか?

“Lovely Bloodflow”(『Cerulean』収録)

 このMVは『もののけ姫』のイメージだったそうなんですけど、じつに構築的というか、コンセプトの根幹がしっかりしている。ドリーミーというよりもファンタジックというほうがハマると思うんです。ぼんやりしているんじゃなくて、積極的に夢を見にいっている。彼らの複雑でアブストラクトなビート構築というのは、こういう想像力と噛み合って存在しているものだと思います。

木津:なるほど。ファンタジックというのはわかります。『セルリアン』は子どもの空想が元気よく暴れている、無邪気さゆえの危なさ、みたいなものも感じましたね。

橋元:あと、彼らがその意味で大人にならないのかなるのか問題は興味があります。映画は詳しくないんですけど、『テッド』とか? 大人になりきれない成人のグダグダをおもしろく描きつつも、アメリカの映画は、最後は何らかのかたちで彼らが社会的な責任を引き受けるという成長譚になりがちだってききます。
その功罪は措くにしても、「大人になったからつまんなくなった」とか「子どもを突き通しているからおもしろい」とかそういう短絡を拒絶する「なんだかスゴイ展開」をバスの少年性には期待したいです。

木津:成長譚、なりがちですねー。音楽ではアニコレ以降、その境目がどんどんぼやけていったけど、ただ映画でもアメコミ原作ものなんかは、そういう感覚にも抵触してるかもしれないです。その辺りの思春期性の「揺れ」に注目ですね。

橋元:ダイナミックに「揺れ」てますよねー。さて、バスくんのパーソナリティなんですが、先ほどの〈ジブリ〉の影響を指摘するまでもなく、かなり日本のカルチャーには親しみを持っているみたいですね。

木津:おお、OTAKUですか。

橋元:モラトリアム云々という話を置いておくにしても、かなりのポケモン好きらしいですし。

初来日の際に真っ先に向かった〈ポケモンセンター〉前でのもの。

木津:はははは。でもポケモンっていうのがほんと、男の子感あっていいですねー。変にエグい方向ではなくて(笑)。

橋元:そういうところもキュートなんですけど、その表出がけっこうアートっぽかったりするところもミソですね。ツイッターなんかには自分のイラストも投下するし、自身の全身タイツ姿をとってもイマジナティヴに撮ってアップしたりね、多才だと思います。

木津:クリエイションもするんですね。ビョークが好きだというのもなんだか頷ける。

橋元:そうそう、ビョークすごく好きみたいですね。お父さんがテレビ・ドラマとかの脚本家で、お母さんが画家だったかな。お家の環境から受けた影響も少なくないでしょうね。彼に実際に会うと感じるんですけど、すごくタレンテッドなというか、「お隣の兄ちゃん」って感じはさらさらないんですよ。変人でも変態でもないんだけど、天才型な雰囲気をバンバン出してます。


Baths / Pop Music / False B-Side / Tugboat(2011)
Bサイド集。ジャケットの絵はBaths本人のもの

木津:橋元さんはインタヴューされてますもんねー。『イナズマイレブン』のノートを見てすごく喜んでくれたとか……。あと、バスくんが描いたキュートすぎる絵も強烈に覚えてますよ。

橋元:そうですよね。彼のツイッターなんかを見ていると、無邪気にオジサン好きに見えるんですが、あれって無邪気に見えちゃうほど複雑な感覚が隠れていたりするんですかね?

木津:たぶん複雑な回路は彼のなかにあると思うんですけど、アウトプットを無邪気にしている時点で、僕にはひとつの態度表明に思えますね。たしかに僕は、男が好きな男ということを異化できるひとの表現にほうにより興味はありますけど、あの無邪気さっていうのは、知恵なんだと思うんですよね。つまり、社会的なアングルを一切廃した場所で、自分の感情(とリビドー)が正しいんだ、という。やっぱりオタク少年っぽいんですよ。そういう意味では理解はできますよ。でもバスくん、キレイなマッチョが好きなんですねえ……。

橋元:キレイなマッチョ(笑)。彼のまわりのオジサンにはデイデラスがいますけど、木津さんはデイデラスのヒゲはどうです?

木津:僕が好きなヒゲは、順に髭(口ヒゲ)、髯(ほおヒゲ)、鬚(あごヒゲ)なんですけど、口ヒゲがないのは大きくマイナスですよねえ……独自のセンス出しすぎ……。

橋元:はは。わっかんねー……。

木津:でも、奥さんとラブラブなのはいいです。奥さんを大事にしているオーラのある男のセクシーさってありますよね~。ともかく、知的にぶっ飛んだひとですよね。ヒゲはイマイチでも、存在は大好きです。

橋元:なるほど、奥さんのローラ・ダーリントンとは付き合いも古そうな感じが素敵ですね。ジェントルがネタなようでいてとても本気っていうのも好きです。キマってます。

木津:ライヴ、僕は観たことないんですけど、どういう感じですか? 音源を聴く感じだと、歌が重要なんじゃないかなという予想があるんですけど。

橋元:はい。ライヴはとにかくエネルギーに満ちていて。それこそデイデラスが華麗にサンプラーのパッドやツマミをいじるように、ヴィジュアル体験としてもかなり充実したものがあります。京都はseihoさんも出演されますが、彼との競演というのはちょっとすごいと思いますよ。アルバムのヴァージョンの何割増の音数、ノイズ。音圧ももちろん比べ物にならないですし、当然のこと、彼のライヴの本懐は音源の再現・再生にはありませんね。

木津:へえー! ノイズばりばりっていうのはいいですね!

橋元:ご指摘のように歌(メロディ)は重要で、とにかく声量もすごい。あのファルセットは吠えるように出てきます。なんだかそういうことも含めてマンガっぽい存在というか、けっこう規格外ですね。

木津:ああ、エクストリームな感じになっちゃうんですね。それはすごく理に敵ってる感じしますね。

橋元:ただ、今作は音楽的にずいぶんと装いが変わっているので、どんなかたちになるのか楽しみです。カラオケ状態ってことはないと思いますが、さらに歌に重点が移っているとも考えられますよね。

木津:今年は歌の年でもありましたし、声とメロディを聴きたい気分ですよね。バスくんの歌心を発見できたら、まさにドンピシャなんですけどね。

橋元:彼にはビートを跳ねて暴れまわらせる、本当に奔放でやんちゃな天使といった佇まいがあるんですけど、ビートを抑圧する展開があるとすれば、彼はその分のエネルギーをどうやって放出するんだろう……。

木津:抑圧があるってことは抑揚があるってことですから、その分ビートが暴れる展開のカタルシスはあるのかのしれない。あとはやっぱり、何よりも彼のエモーショナルな部分を僕は見たいですね。

橋元:その点はもう、エモーションの塊ですよ! 12月の空からね、バスのエモーションがキラキラ降ってきます。そういうことがやれちゃう個性、やれちゃう音ですね。
 ちなみにバスは4月16日生まれということなので牡羊座ですけれども、牡羊座ってどんな感じなんです? 相性ですとか。

木津:えっ、橋元さんとの相性ですか(笑)? 牡羊座も獅子座も火の星座だからバッチリですよ! ちょっと暑苦しい相性ですね。牡羊座は猪突猛進で、直感を信じるタイプです……バス、そんなところありますね。ちょっと納得しましたよ。

橋元:ははは! わたしとの相性はまあおいといて(笑)。じゃあ獅子座の人は運命の出会いになるツアーかもしれませんね。

 11月といえばホリディ。今回はホリディ前後のイベント・レポートをお届けします。

■11/23 (Sat)
 ホリディ1週間前の週末は、NYから約4時間北のロードアイランド州のプロヴィデンスへ遠征。今までたくさんの伝説を作ってきたロフトビル’ビルディング16’の最後のショーが行われた。昔ライトニング・ボルトが住んでいたフォート・サンダー(コンタクトレコーズからの『u.s. pop life vol.11 トリビュート・トゥ・フォート・サンダーCD』に日本語で詳しく解説)の現在版とも言えるこのビルディング16。このショーを最後に、このビルは(も)立ち退きになる。住所は掲載していないのに、どこから集まったのかプロヴィデンスのキッズたちで大混雑。バスルーム近くに真っ赤な棺桶があり、ビルディング16にメッセージを書いて、カードを棺桶に入れるようになっている。ショーのクライマックスは、ハウス・バンドのワット・チアー・ブリゲイト。ボリウッド、バルカンズ、ニューオリンズ、サンバ等々をミックスした19人(!)のブラス・バンドで、子供から大人までを巻き込むお祭りバンドである。ステージに入りきらないので、フロアやスピーカーの上にもメンバーがいるし、観客が天井によじ上ったりするのは当たり前で、メンバーが観客にダイブし、ドラムごとドラマーを持ち上げたり、観客とバンドの盛り上がりの半端ない事。フィナーレでは、バンドがビルディング16の棺桶を、外に持ち出しマーチング(バンドは、外でもプレイを続ける)、観客はひとりひとり花火を渡され、棺桶に火をつけ燃やしてしまう。火力は相当強いし火事にならないのかと心配したが、勢い良く燃えて形がなくなって行く棺桶を見て、ぐっと心に突き刺さる物があった。長い間お疲れさま。これがプロヴィデンスのパーティ・スタイルのようだ。


ラストショーの写真集
https://everydayilive.com/bands/building16farewell/

Building 16

■11/25 (Mon)
 NYに戻ると、少し前から噂されていたロンドンのレコードショップ、ラフトレードのNY店がウィリアムスバーグ/グリーンポイント・エリアにオープンした(https://www.roughtradenyc.com)。元々HBOの倉庫だった場所(イースト・ロンドンの本店より3倍大きい)は、レコード店兼カフェ(byファイブ・リーヴス)、ギャラリー、音楽会場などの多目的スペース。初日(11/25)は、スカイ・フェレイラ(フリーw/CD購入)、チャールス・ブラッドリー(フリー)のインストアがあった。スカイはきっぱり諦め、チャールス・ブラッドリーを目指して行く。先に行った友だちは、ワンブロック以上の行列ができて入れなかったと言っていたが、タイミングよく前に5人ぐらい待っていただけで5分ぐらいで入れた。遅めに着いて正解。
 新譜100%の店内は、まだ空いている棚が多かったが、1階が新譜レコード/CD、メインドラッグが展開するギア・コーナー。2階には本&雑誌コーナー、ロンドンとNYをつなぐデジタル・ニュース、ガーディアンによるブース、アートギャラリーなどの分かれた小さいセクションがある。店内の作りがタワーレコード的、と思ったのはメガストアだからか。アートギャラリーの最初のキュレーターは、チルディッシュ・ガンビノで、彼は12/8でここでショーも行うのだが、ブライアン・ロッティンガーによるアート作品、ドナルド・グローバーのベッドルームの再現(サイケデリック・レインボウのライト・デザイン)が展示されていた。
 音楽会場は250人を収容、イスも設置されたバルコニーがあり、バワリーボールルームの縮小版のようだった。2階の後ろにはピンポンテーブルが2台設置されていた(チケット制のショーの時にはないとの事)。
 ジェイムス・ブラウンに影響を受けたというチャールス・ブラッドリーは、ステージにいるだけでカリスマ性があり、独特のソウルフルで無敵の動きを惜しげなく披露。彼を見ていると思わず笑顔になるし、バンドもとても楽しそうだ。近くで見れること自体がレアな、64歳の彼をオープニング・ナイトに持ってくるのは、さすがラフトレード。ショーの後も、追い出される事なくバーでハングアウトしたり、レコードを探しに行ったり、2階でピンポンしたり、ここはアミューズメント満載。ダニー・ブラウン、マシュー・E・ホワイトのフリーショー、ソールドアウトのテレヴィジョンのショーが終わり、12/3はジョン・グラント(フリーw/CD購入)、12/6はアンドリュー・バード(ソールドアウト)、12/6はアララス(ソールドアウト)、12/7はダイブ(ソールドアウト)、12/8はニック・ロウ(フリーw/CD購入)、などのフリー&チケット制のショーが続く。ブッキングを担当しているのがバワリー・プレゼンツなので、納得のラインナップである。
 キャプチャード・トラックスの記事でも書いたように、最近グリーンポイントエリアに、レコード店が密集している。
https://www.thelmagazine.com/TheMeasure/archives/2013/07/30/greenpoint-is-becoming-the-best-record-store-hood-in-brooklyn
 2013年にレコード店をオープンするという事自体が大胆だと思うが、それぞれのインディ・ショップは自分たちのカラーを売りにし、それに対抗するラフトレードは、長年の歴史もあり、レコードセレクションの特徴(ラフトレード限定版の物を多数扱う)と、多目的スペースにすることで、レコード店という場所の定義を変えるかもと期待が高まる。

https://www.roughtradenyc.com
https://www.brooklynvegan.com/archives/2013/11/some_very_initi.html
https://www.brooklynvegan.com/archives/2013/11/sky_ferreira_pl_3.html

rough trade nyc

■11/28 (Thu)
 音楽関係の仕事や、自営業をしている限り、ホリディと言っても、いつもと変わらずなのだが、アメリカ人は自分の田舎へと帰って行くため、ホリディNYは静かで、仕事をするには実はもってこい。夜になると、観光客と何処にも行けない移住者が集まりだし、ささやかにパーティをするのである。今年の著者のサンクスギヴィングは、ウィリアムスバーグ・ファッション・ウイークエンドを主催するアーサーの仕事場兼のロフトでパーティ。来ている仲間はアーサーのアシスタントをはじめ、ファッション、音楽関係者達なので華やか。サンクスギヴィングと言えばターキー(=七面鳥)なのだが、探究心あるアーサーは今年はグース(=ガチョウ)に挑戦。ガチョウの首でスープを取ったり料理はこなれた感じ。付け合わせのスタッフィング、クランベリー・ソース、グレイビー、マッシュ・ポテト、ビーン・キャセロール、温野菜のグリル、特製のフレッシュ・ペストソースはすべてアーサー作。ゲストは、オックステイル・シチュー(絶品!)、ビーツ・サラダ、マック・アンド・チーズ、ポテト・サラダ、更にスナックなど、これでもかというぐらいのごちそうが振る舞われた。5時に集合をかけたが、みんなの料理&集合事情でディナーが始まったのは結局9時過ぎ。サンクス・ギヴィング・ディナーには良くある事で、料理が出来上がる頃には、つまみ食いをしすぎてお腹いっぱい。ディナーが終わると、来ていた別の友だちの家に移動。そこは、お手製チーズケーキ(プレーンw/ラズベリーソース&チョコ)、コーヒー&サイダー、そしてダンス・パーティと、別の天国が待っていた。月に3、4回ショーもホストする場所なので、パーティの用意は完璧。ディスコボールが周り、サウンドシステムも完備。チーズケーキのあまりのおいしさに倒れそうになり(おばあちゃんのレシピらしい)、ホストの自家製フレッシュミントをインフューズしたウィスキーなど、キャラクターのあるドリンク&楽しい仲間で、サンクスギヴィングという名目のパーティは夜な夜な続いた。この場所はワイルド・キングダム。ウエブサイトはないが、NYに来たら、目の前の高架を通る電車に野次をとばしながら、ベランダでハングアウトするには最高の場所である。

https://williamsburgfashionweekend.com
https://www.ele-king.net/columns/regulars/randomaccessny/001412/

thanks giving dinner

■11/29 (Fri)
 11月からはじまっているブルックリン・ナイト・バザーに参加。2011年からはじまったこのイベントは、ウィリアムスバーグのホリディショッピングの強い見方で、ホリディ時期になると、いろんなエリアに出没していた。今までは、毎年場所を移動していたが、今年はグリーンポイントにようやくパーマネントの場所を見つけ、1年を通してオープンする(夏には、アウトドアのビアガーデンがオープン!)。アジアン・マーケットの雑多な感じをモデルにしたというマーケットは、100ものアーティスト&クラフトショップ、20のフードベンダーなどがすらりと並ぶ。一角には、地元の媒体がオーガナイズするライブショーがあり(ベンダーがない時には1800人収容できる、ブルックリンで2番目に大きい会場となる)、ピンポン・テーブル、インドア・ミニゴルフ、WIFIもあり、仕事できるスペースもある。ラフトレと同じ多目的仕様。去年は、著者の大好きなパックマンのイヤリングを発見したのだが、今年は、キャラクター物はあまり見られず、ジュエリー、洋服からiPhoneケース、タオル・ヘアバンド、古本をベースにした時計、アート・レギンスなどアーティなお店が並ぶ。著者のお勧めブランド、RHLSも出店していた。この日のバンドは、ア・プレイス・トゥ・バリー・ストレンジャー、ドーン・オブ・ミディ、ポンティアック、ウッズマン。ショッピングに夢中になり、ア・プレイス・トゥ・バリー・ストレンジャーしか見れなかったが、映像とスモークで、ほとんどバンドが見えなかった(後で聞いたらスタイルのようだが)。毎週のようにバンドが見れ(オウ・レヴォワール・シモーヌ、ティーン、マーク・デマルコなど)、アーティストの作品が随時入れ替わり、アミューズメントもありで、ハングアウトリストがまた増えた。そして、今日はキャサリン・ハンナのパンク・シンガーの上映会へ。Q&Aやライヴもあるらしい。
https://bkbazaar.com

brooklyn night bazzar

Baths、オフショット! - ele-king

 いよいよツアーは来週から!
 バスは最初の来日の折からラップトップとサンプラーを駆使するスキルフルなライヴを行っていたが、あのドリーム感の裏側に、デイデラスに見初められ、〈ロウ・エンド・セオリー〉でのDJを務められるスキルがあるということは重要なポイントだ。もしかすると、セカンド・フル『オブシディアン』から聴きはじめたファンは、彼のそうした側面をあまりご存知ないかもしれない。ぜひ、ライヴ映像なども探してみるといいだろう(https://www.tugboatrecords.jp/)。
 そして見応えある彼のショウをさらに楽しむために、彼の愛すべきキャラクターもあわせてご紹介しよう。


初来日の際に真っ先に向かった〈ポケモンセンター〉前でのもの。
バスは日本のアニメが大好き!
来日の際は〈三鷹の森ジブリ美術館〉にも執着するとのこと。
Lovely Bloodflow”は『もののけ姫』の世界のイメージなのだとか。

2度めの来日では、奈良の鹿が見たかった――。
シカ耳は新しかったね。
ご当地キャラ感も出ています。


今回のヨーロッパツアーを終え、休暇中の写真。
温泉にいったようです。
ちょっと痩せたのかな?

来日情報はこちら。
各公演のゲストも注目アクトばかりだ。
SeihoとBaths対決@京都も、編集部はみんな観にいきたかった! Madeggまで観られるんだから、行ける人はぜひこの機を逃さないように! 放射される熱量が強すぎてハコが発火してしまうんじゃないだろうか。

LAが誇る若きビートメーカーBaths来日公演!!
Tugboat Records presents Baths Live in JAPAN 2013

■12/13(金) 名古屋池下CLUB UPSET
OPEN / START 24:00
ADV ¥4,200 / DOOR ¥4,700(共にドリンク代別)
Act:Baths, DE DE MOUSE + his drummer (Akinori Yamamoto from LITE)
DJ: I-NiO, sau(otopost), LOW-SON(しろー + オクソン)
VJ: Clutch
[Buy] : 9/7(土曜)〜
チケットぴあ(P: 211-365)
ローソンチケット(L: 41184)
e+(https://eplus.jp)
※名古屋公演はオールナイト公演ですのでIDをご持参下さい。

■2013.12.15(日) 京都メトロ
OPEN 18:00 / START 18:30
ADV¥4,000(+1Drink)/DOOR¥4,500(+1Drink)
Act:Baths,Seiho,Madegg
[Buy] : 発売中
チケットぴあ(P: 208-539)
ローソンチケット(L: 59065)
e+(https://eplus.jp)
前売りメール予約→ticket@metro.ne.jpでも受け付けています。
前日までに、公演日、お名前と枚数を明記してメールして下さい。
前売料金で入場頂けます。

■2013.12.16(月) 渋谷WWW
OPEN 18:00 / START 18:30
ADV¥4,500(+1Drink)/DOOR¥5,000(+1Drink)
Act: Baths,Taquwami,Sodapop (anticon. Label Manager)
[Buy] :発売中
チケットぴあ(P: 208-502)
ローソンチケット(L: 79947)
e+(https://eplus.jp)


MAD PROFESSOR JAPAN TOUR 2013 - ele-king

 UKダブの伝説、マッド・プロフェッサーが12月13日に東京(代官山ユニット)、14日に大阪(心斎橋CONPASS)で公演をやる。東京公演では七尾 "DRY" 茂大(ドラム)と秋本 "HEAVY" 武士(ベース)からなる、日本最強のレゲエ・リズム・チームドライ&ヘビーの生のダブミックスをマッド・プロフェッサーが手掛けることが決定しているほか、8年振りとなる作品『ANOTHER TRIP from SUN』をリリースしたサイレント・ポエツこと下田法晴もDJで出演。また、「踊ってはいけない国EP」で素晴らしいリミックスを見せたDJヨーグルトもレゲエ・セットを披露。地下のSALOONでは、若きダブ・クリエーターJah-Lightが出演する。そして大阪公演ではBAGDAD CAFE THE trench townが出演。日本人のアクトにも注目が集まるでしょう。

〈東京公演〉
12.13 fri @ 代官山 UNIT
Live Acts: MAD PROFESSOR - Dub Show, DRY&HEAVY - Live Dub Mix by Mad Professor
DJs: Michiharu Shimoda (Silent Poets), DJ Yogurt (Upset Recordings) Reggae/ Dub/ Bass Music Set, Jah-Light
Open/ Start 23:00-
¥3,500 (Advance), ¥4,000 (Door)
Information: 03-5459-8630 (UNIT) https://www.unit-tokyo.com

TICKETS: PIA (P: 217-297), LAWSON (L: 72460), e+ (eplus.jp), diskunion Club Music Shop (渋谷/新宿/下北沢/吉祥寺), DISC SHOP ZERO, DUBSTORE RECORDS, UNIT

〈大阪公演〉
12.14 sat @ 心斎橋 CONPASS
Live Acts: MAD PROFESSOR - Dub Show, BAGDAD CAFE THE trench town
DJ: HAV (SOUL FIRE)
¥3,000 (Advance), ¥3,500 (Door) plus Drink Charge @ Door
Open 20:00, Start 20:30
Information: 06-6243-1666 (CONPASS) https://conpass.jp/

TICKETS: LAWSON (L: 53414), e+ (eplus.jp), CONPASS (Mail Reservation: ticket@osaka-conpass.com)


〈出演者プロフィール〉
■MAD PROFESSOR (ARIWA SOUNDS, UK) https://www.ariwa.com

泣く子も黙るダブ・サイエンティスト、マッド・プロフェッサーは1979年にレーベル&スタジオ「アリワ」設立以来、UKレゲエ・ダブ・シーンの第一人者として、四半世紀以上に渡り最前線で活躍を続ける世界屈指のプロデューサー/アーティストである。その影響力は全てのダンス・ミュージックに及んでいると言っても過言ではない。その信者達は音楽ジャンルや国境を問わず、常にマッド教授の手腕を求め続けている。なかでもマッシヴ・アタックのセカンド・アルバムを全編ダブ・ミックスした『No Protection』は余りにも有名である。伝説のリズム・ユニット、スライ&ロビーとホーン・プレイヤー、ディーン・フレーザーをフィーチャーして制作された『The Dub Revolutionaries』は、2005年度グラミー賞にノミネイトされ話題となった。まだまだ快進撃中、止まることを知らないマッド教授である。ここ近年だけでも、伝説的なベテラン・シンガー、マックス・ロメオ、レゲエDJの始祖ユー・ロイ、レゲエ界の生き神様リー・ペリーに見出されたラヴァーズ・ロックの女王スーザン・カドガン、UKダンスホール・レゲエのベテラン・アーティスト、マッカBのニュー・アルバムをプロデュースしている。自身のアルバムも『Bitter Sweet Dub』『Audio Illusions of Dub』『Roots of Dubstep』などをコンスタントにリリース、最新作はリー・ペリー・プロデュースの金字塔アルバム『Heart of The Congos』で知られるThe CongosのCedric Mytonとのコラボ・アルバム『Cedric Congo meets Mad Professor』を2013年にリリースしたばかりである。相変わらずのワーカホリックぶりを発揮している。最新テクノロジーと超絶ミキシング・テクニックを駆使して行われる、超重低音を轟かせる圧巻のダブ・ショーで存分にブッ飛ばされて下さい。

■DRY&HEAVY
https://ja-jp.facebook.com/Dryheavy
https://twitter.com/DRY_and_HEAVY

七尾 "DRY" 茂大(ドラム)と秋本 "HEAVY" 武士(ベース)というふたりからなる、日本最強のレゲ エ・リズム・チーム。90年、VITAL CONNECTIONなるバンド内にてリズム・コンビである〈DRY&HEAVY〉としての活動をスタート。95年にはLIKKLE MAIや井上青らをフィーチャーした編成と なり、97年の『DRY&HEAVY』でアルバム・デビュー。その重量級のルーツ・レゲエ・サウンドと過激なダブワイズが幅広い注目を集める。その後コンスタントにアルバムをリリースする一方、海外での活動も活発に行って各国で話題となる。 だが、日本屈指のレゲエ・ユニットとして活動を続けていた2001年のフジロック・フェスティヴァルにおいて、秋本が衝撃の脱退宣言。七尾は秋本抜きの編成でDRY&HEAVYを継続し、秋本はGOTH- TRADとのREBEL FAMILIAおよび若手と結成したTHE HEAVYMANNERSにて活発な活動を続けた。 そうしたなか、2010年に七尾と秋本によるオリジナルDRY&HEAVYが奇跡のリユニオン。新時代のサウンドを携え、伝説のリズム・チームが新たな一歩を踏み出す。

■Michiharu Shimoda (Silent Poets) https://www.silentpoets.net
1992年 FILE RECORDSより1st アルバム『6 pieces "sense at this moment"』でデビュー。 現在までに通算8 枚のオリジナル・アルバムと多数のリミックス・アルバムやミニ・アルバムなどをリリース。海外からの評価も高く94 年にドイツの99レーベル、Bellisima UKよりヨーロッパでもアルバムがリリースされる。95年に人気コンピシリーズである「Cafe Del Mar Vol. DOS」に日本人として初めて収録されたのをはじめ、現在までアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアなどで40作品を超えるコンピレーション・アルバムに楽曲が収録される。2000年にはパリのレーベルYellow Productionsよりアルバム『TO COME...』がリリースされ、翌年にはアメリカのアトランティックよりリリースされる。同年より、下田のソロ・ユニットとなる。活動は多方面に渡り、パリ・コレクション等のフアッションショーの音楽の担当や、他アーティストのプロデュース、リミックス、映画等にも楽曲を提供。活動20周年にあたる2012年、トイズ・ファクトリー時代の音源(Potential Meeting ~ To Come)が世界111カ国のiTunes Storeにて配信開始。2013年9月、自身のレーベル ”ANOTHER TRIP" を設立し、New DUBアルバム『ANOTHER TRIP from SUN』、また前作「SUN」の2013年Newエディション『SUN - Alternative Mix Edition -』を11月20にリリース予定。いよいよSilent Poetsの活動を本格的に再開。2014年リリース予定の10thオリジナルアルバムの制作も同時進行中。

■DJ Yogurt (Upset Recordings) https://www.djyogurt.com
いまはなきCISCO テクノ SHOPでバイヤー勤務しながらDJをはじめ、98年には音楽制作ユニットUpsetsと自身のレーベルUpset Recを始動。以後現在に至る15年間に渡ってテクノ~ハウスからDUB、アンビエント等など幅広い作風の楽曲のレコードやCD、MIX CDのリリースを毎年おこなっている他に、曽我部恵一や奇妙礼太郎トラベルスイング楽団等の歌もの楽曲のダンス・リミックスもおこない、リミックスが収録されたレコードは全て完売して中古価格が定価以上に高騰中のものも。2010年にYogurt & Koyasとしてリリースした『Chill Out』 はIdjut BoysのConradやSoft Rocks達から絶賛。2011年にはテクノ・アルバム『Sounds from Dancefloor』をリリースして、テクノをプレイする機会も増加中。2013年12月にはあの故Arthur Russellのバンド・メンバーのユニットArthurs Landingの "Miracle 2" をRemixしたVersionが欧米で流通する12インチとしてリリース。これまでの出演イベントはアンダーグラウンドな小箱でのパーティから、 大会場でのフェスまで多岐に渡り、2010年はエレクトラグライド@幕張メッセに、2011年はSONAR JAPAN等のビッグフェスにも招聘され、2010年から2012年にかけて3年連続でFUJI ROCK FESにも出演。テクノ~ハウスを軸に、レゲエ~Dub、ジャズやアフロ、ブラジリアン、ロック、 サイケデリックやバレアリック、ダブステップ、ワールド・ミュージックそしてアンビエント、数々の最新の流行のリズム・様々なジャンルの音楽性を交錯させた選曲で、毎週のように日本各地の音楽好き、踊り好きが集まるパーティでDJをおこなっている。

■JSH-LIGHT https://www.jah-light.com
"Real Roots Sound" をテーマに2004年からサウンドシステムを開始。2007年、自身のレーベル "LIGHTNING DTUDIO REC" を立ち上げると同時に、1st Singleとなる "Independent Steppers" をリリース。2012年、新レーベル "DUB RECORDS" からリリースされた1st 10" Singleでは、A: Mighty Massa / Warriors March, B: Jah-Light / Diffusion" といったコンビネーション・プレスで純国産ルーツを世界に向けて発信。現在、Youtubeにて自身の楽曲をダブミックスした映像を配信中なので、ホームページ内の "Dublog" をチェック !!!

■BAGDAD CAFE THE trench town https://bagdad-creations.com

進化を続けるCREATE集団! 関西を代表する大所帯REGGAE BAND、BAGDAD CAFE THE trench town。圧倒的なライヴ・パフォーマンスで、FUJI ROCK FESTIVAL, 朝霧JAM, SUNSET LIVE, 頂, WIND BLOW, FESTA DE RAMA, FREEDOMなど、数々のフェスティヴァルを盛り上げる。 2000年結成。1stアルバムで、新人では異例のFM802ヘビーローテーションに選ばれる。その後もアルバムを出すたびに、全国各ラジオ局のパワープレイに選ばれ続ける。タワーレコードのポスターNO MUSIC NO LIFE、テレビやラジオの音楽番組に多数出演。 2013年5月11日、充電期間を終えたVo. maiやコーラスも完全復活! BAND名も、BAGDAD CAFE THE trench townに戻し、最高のメンバーで再始動!! 主な共演者は、 BES, BUN BUN the MC, ET-KING, KURTIS FLY, Keyco, Leyona, Likkle Mai, Metis, Miss Monday, MOOMIN, SHINGO☆西成, Shing02, Spinna B-ILL, RYO the SKYWALKER, RANKIN TAXI, PAPA U-Gee, PUSHIM, 韻シスト, カルカヤマコト, こだま和文, 多和田えみ, プロフェッサーチンネン, 卍LIN……


Ryan Hemsworth - ele-king

 OPNがサウンドトラックに参加していることで話題のソフィア・コッポラの『ブリングリング』は、たしかにこれまでと違って物欲盛んな悪ガキたちを主人公にしているが、結局彼女の少女たちの捉え方は『ヴァージン・スーサイズ』の頃から変わっていないように思える。ただ、思春期の虚無感が融解する先がインターネット・カルチャーとセレブリティ・カルチャーに向かったのが前者で、70年代のノスタルジーに封印されたのが後者だとすれば、より幸福で美しいのは自死を選んだ少女たちのほうなのだろうか。そこでその「揺らぎ」は永遠になり、ソフィアもまたそれをデビュー作に据えたことで、彼女自身がそのイメージを引きずっているように見える。



 カナダ人のDJ/プロデューサー、ライアン・ヘムズワースのことが気になったのは、多くのひとが即座に『ヴァージン・スーサイズ』を連想したであろう“カラー&ムーヴメント”のややサイケデリックなヴィデオを見ていると、そこからエリオット・スミスの“エヴリシング・ミーンズ・ナッシング・トゥ・ミー”のサンプルが聞こえてきたからだ(同曲ではドイツのロック・バンドであるノーツイストのサンプルも使用している)。大きく言ってヒップホップのトラック・メイカーであるヘムズワースだが、突然この世から消えてしまったシンガーソングライターのいまにも壊れそうな歌声を取り入れる彼の感性は、他のトラック・メイカーにはなかなか見当たらないものに思えたのだ。俄然彼に興味が沸き調べてみると、メイン・アトラクションズのトラックを担当することもあるという22歳の青年だという。それが今年の頭のことだ。それから様々なところで彼の名前を見るようになり、本作が現在は23歳の彼のデビュー・アルバムとなる。
 様々なところ、とはライやフランク・オーシャンからカニエ・ウェスト、グライムスまでのリミックスであり、あるいは逆に情報デスクvirtualによるリミックスなどなど、だ。要するにクラウド・ラップ、チルウェイヴにチル・アンド・ビー、さらにはヴェイパーウェイヴまでをまたぐ領域にいるということで、実際、『ギルト・トリップス』からはそれらの反響がすべて聞こえてくる。もう少し離れて見れば、ハドソン・モホーク以降のチップチューンのアップグレード版も微妙にあるし、〈ロウ・エンド・セオリー〉周辺と共鳴するものもあるだろう。ヘムズワースはLA拠点のプロデューサー集団〈WEDIDIT〉のメンバーでもあり、LAビート・シーンはおそらく彼の音楽的アイデンティティの置き場だと考えられる。
 けれども、アルバムを聴いていてもっとも尾を引いて残るのは、「ドレイクのエモ・ヒップホップとサンプルを基調としたエレクトロニカの接続」と説明されるときの「エモ」の部分だ。彼の発言によると10代の頃はエリオット・スミスとブライト・アイズが好きなインディ・ロック少年だったそうだが、『ギルト・トリップス』でももっとも大切に扱われているのは、その、いまなお引きずる思春期性ではないか。オープニングの“スモール+ロスト”でスムースな女性ヴォーカルが演出するメランコリーの純度の高さを聴くとそんな風に思わずにはいられないし、バスが参加した“スティル・コールド”なども、驚くほどナイーヴでささやかなトラックだ。ビートがアグレッシヴなほうの“ハピネス&ドリームス・フォーエヴァー”でさえタイトルから想像されるようなフラジャイルさを湛え、タイトルに自分の名前を出してしまう“ライアン・マスト・ビー・デストロイド”でも電子音が物悲しく歌う。ライアン少年はアコースティック・ギターを持って歌う可能性だってあっただろうが、だがヒップホップ・ビートでこそ彼のエモーションを丹念に滲ませていく。
 ここには現在の彼の「揺らぎ」が漂っていて、しかしそれはサウンドともに今後変わっていくだろうという予感がある。非常な旬な音がヴァラエティ豊かに本作にはあるが、そのコアはまだ見出しにくいからだ。だが、だからこそどんな方向にも行けるだろう。そのとき彼の感情のアウトプットがどのような姿になるのか、僕は強い興味を掻き立てられる。が、『ギルト・トリップス』にはナイーヴな青年の甘美なメランコリーがあり、いまはそれでじゅうぶんだ。

禁断のサイボーグかおり! - ele-king

 禁断の多数決の新譜、もう聴きました?
セカンド・アルバム『アラビアの禁断の多数決』ですよ。インタヴューからも本当におもしろい存在だということが伝わってきますよね。
そんな彼らの「ツイン・ピークス集団」にサイボーグかおりが迎えられた模様! 収録曲“トゥナイト、トゥナイト”のスピンオフ・ミュージック・ビデオが公開されています。いったいどんなセッションを見せてくれるのか!?

リズムを刻まずにはいられないお嬢様育ちの女子大生ヒューマンビートボクサー「サイボーグかおり(CYBOG KAORI)」を迎えた“トゥナイト、トゥナイト”スペシャル・ヴァージョンです!!

CYBORG KAORI and 禁断の多数決「トゥナイト、トゥナイト session」


「禁断の多数決」のリーダーである「ほうのきかずなり」が監督を担当。
◆ 禁断の多数決 オフィシャルサイト ⇒ https://kindan.tumblr.com
◆ サイボーグかおり オフィシャルブログ ⇒ https://ameblo.jp/saketoba0212/


〈electraglide 2013〉直前! 物販やります - ele-king

 エレグラ、いよいよ明後日に迫りましたね!
 ele-kingは物販ブースに参加!
『ele-king』バックナンバーや新刊『アナキズム・イン・ザ・UK』(ブレイディみかこ)といったele-king booksシリーズはもちろんのこと、OPNのTシャツや、

なんと久保憲司撮影の額入フォトグラフも販売予定! ブース内では来月発売の『久保憲司写真集 loaded』の中身をパネル展示、生ゲラもチェックできます! 最速11。

 さらには「年間読者ベスト投票箱」も設置。来月発売の年末号『ele-king vol.12』掲載のチャートを当てていただいた方には、抽選で新刊をプレゼントいたします!

 踊り疲れたらぜひ立ち寄ってみてくださいね!
 編集部も参加しております。ビールはおごれないのですが、ぜひぜひお声がけください!

■!!!(チック・チック・チック)から来日直前コメントが到着!!

大合唱!!汗まみれの肉弾戦!!!最狂のモンスター・グルーヴ・バンドがいよいよ帰還! 
ロック・フリーク、パンクス、テクノ・ヘッズをまとめて飲込む狂乱のグルーヴで幕張メッセのフロアがダンサーの洪水で溢れかえること必至!!!

ヴィデオ&メッセージ


★今年リリースされた最新アルバム『THR!!!ER』収録の大ヒットシングル「One Girl / One Boy」のインスト音源と日本語読みの歌詞をフリー・ダウンロード!
歌詞を予習してエレグラで!!!と一緒に大合唱しよう!!!

歌詞/インスト音源のダウンロードはこちら!
https://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/
Chk-Chk-Chk/%21%21%21_OneGirlOneBoy.zip


DJ Yogurt (Upset Recordings) - ele-king

DJ Schedule
11/22(Fri.)@中野・Heavy Sick Zero
11/24(Sun.)@新木場・Studio Coast(Rovo and System7 Live/Opening DJを午後4時から)
11/30(Fri.)@三軒茶屋・Cocoon
12/4(Wed.)@渋谷・En-Sof
12/7(Fri.)@新宿・Be-Wave(19時-24時開催)
12/13(Fri.)@代官山・Unit
12/19(Thu.)@笹塚ボウル(りんご音楽祭・忘年会。19時-23時開催)
12/20(Fri.)@渋谷・Sundaland Cafe(19時-24時開催)
12/26(Thu.)@原宿/千駄ヶ谷・Bonobo
12/29(Sun.)@代官山・Unit
1/10(Fri.)@神戸
1/11(Sat.)@大阪
1/12(Sun.)@京都
1/18(Sat.)@高円寺・CAVE

HP : https://www.djyogurt.com/
Twitter : https://twitter.com/YOGURTFROMUPSET
Facebook : https://www.facebook.com/djyogurtofficial

2013年11月4日、5日の二日連続で恵比寿Liquid Roomで開催されたElectronic Music Of Art Festival Tokyo・・・
略してEMAF TOKYO 2013で自分はオープニングで50分間DJした後、その後のlive actが交代する間の「転換タイム」にもDJして、結局夕方4時から夜10時の間に計6回のDJをやりました。
このイベントはその名のとおり、基本的には電子音楽が流れ続けるイベントで、自分もこのイベント出演の為に選曲を色々と考えて、普段の週末のクラブプレイとは一味違う、「4つ打ち以外の曲だけをDJプレイする」コンセプトでDJしました。
これが自分でも新鮮で、一部のお客さん達の間でも好評だったので、当日に実際にかけた曲の中から、かけた順に10曲選んでコメント付きで公開します。
読みながら、音を聴いてもらって、当日の雰囲気が少しでも伝わったら・・・!


1
Synkro - Disappear - Apollo
お客さんが少しずつダンスフロアに来始めたPM4時半頃にPlay。
2013年に12inch2枚組"Acceptance EP"の1枚目B-1としてReleaseされた、Acoustic GuitarとElectricな音をセンス良く融合させた曲で、打ち込みだけどオーガニックな雰囲気も感じさせて、メロウなところもある曲。
R&S傘下のAmbient/Electronic Label、Apolloのここ数年のReleaseは気になる曲、興味深い曲が多い印象があり、自分にとって、Releaseする曲はなるべく一度は聴いてみたいLabelのひとつ。
https://youtu.be/-IvMw2DqP1Q

2
Lord Of The Isles - Nustron - Little Strong
2013年Release、"Galaxy Near You Part1"12inchのB-2に収録の"Nustron"は、前半は美しいAmbient、中盤にGroove感が強まって踊れそうなリズムに変化しながらも、後半は再びAmbientに戻る構成も面白く、この日は早い時間からお客さんが来つつあったので、フロアがやや賑やかになってきた時間にAmbientとAmbientの間に挟んで、ちょっと刺激を加える感じでPlay。
https://youtu.be/7BjLQovXkdY

3
Bola - Glink - SKAM
Autechre に作曲方法を教えたとも伝えられているDARRELL FITTONのユニット=Bolaが、Autechreと関係の深いマンチェスターのレーベルSKAMから1998年にReleaseした1stアルバム"Soup"の1曲目。自分はこの曲は90's electronicaを代表する名曲の一つと思ってて、Bolaの曲の中で一番好きな曲でもあったり。
https://youtu.be/pbtfx0h4pnc

4
Four Tet - Sun Drums And Gamelan - Domino
2005年にU.K.の人気レーベルの一つDominoからReleaseされた12inchのB-2に収録。
強烈にFunkyなDrum BreakbeatsのGroove上を、ガムランや笛等がミニマルに響く、ワールドミュージックとクラブミュージックの融合が産んだ傑作。
EMAF初日は自分の2度目のDJ時に既にダンスフロアがほぼ満員で、フロアのテンションが予想していたよりも高い印象を受け、Aoki TakamasaさんのliveもかなりDance Grooveを打ち出したliveになるのでは、と考えて、早い時間からテンションを上げていきました。
https://youtu.be/P7VuxbQB8bw

5
2562 - Intermission - When In Doubt
2011 年に12inch2枚組"Fever"の1枚目B-1に収録。PM4時に自分のDJで始まったEMAF2013も、3度目のDJを始める頃にはPM6時半 に。このあたりでDanceを念頭に置いた選曲でDJを始め、Aoki Takamasaさんのlive後、自分のDJ一発目にこの2562のDub Stepを。
https://youtu.be/aC2BzXUi1Ic

6
Beaumont - Rendez-Vous - Hot Flush Recordings
2012年にReleaseされたPost Dub Step良作。
MellowでJazzyな感覚も漂いつつ、リズムはDub Stepを通過した鋭さを感じさせるGrooveが心地良い。
自分にとっては多くのDub Stepがあまりにもメロデイーを軽視している気が多少していたので、この曲のようなメロディーが美しいDub Stepは待ってました、という感じ。
Hot Flushは他にもメロウな感覚が漂うPost?Dub StepをReleaseしていて、この数年すっかり注目のレーベルに。World's End Girlfriendのlive前、4度目のDJではDub Step~Post Dub Step多めな選曲でDJ。
https://youtu.be/qTn76STVKgQ

7
Throwing Snow - Clamor - Snowfall Records
1分22秒以後のメロデイーとリズムの絡みが生み出す高揚感がとてもカッコよく、2分36秒以後にはバイオリンのメロディーもミニマルに入ってきて、フツーのDub Stepとは二味違う豊穣な音楽性を感じさせるPost Dub Stepの良曲。
https://youtu.be/OAvbyO5q-hs

8
Lapalux - Close Call / Chop Cuts - Brainfeeder
World's End Girlfriendのlive直前に自分がDJ Playしたのがこの曲。
Ninja Tuneのサブレーベルから2012年冬に出た12inch"Some Other Time"のB-2に収録。
これが最新型の歌ものPOPSの理想形と思ったりすることもあるほど好きな、一応「歌もの」曲。エフェクトの使い方が強烈。
https://youtu.be/NIiRPmNmSLg

9
Divine Styler - Directrix(Indopepsychics Remix) - Mo'Wax
EMAF2013を主催したPROGRESSIVE FOrM主宰のnikさんは、以前にはDJ KENSEIさん、D.O.I.さんと3人で"Indopepsychics"という音楽制作ユニットを組んでいて、この2000年作は彼らがノリに乗っていた頃の傑作Remix。
自分がDJ光君と出会った2003年~2004年頃に、光君がよくDJ Playしていた「光クラシック」の1曲。2013年に聴いてもカッコいいと思う。
https://youtu.be/nkJIKH1GW7Y

10
Hauschka - PING(Vainqueur Remix) - Fat Cat
いよいよ大トリのCarsten Nicolai(Alva Noto)のlive直前、自分の6度目のDJの最後にかけたのが、Fat Catから2012年にReleaseされた12inchのAA面に収録の、Dubby Abstruct Electronic Grooveの傑作。
Basic Channelフォロワーの中で一番Basic Channelの感覚を理解しているんじゃないかと思う事もある、Vainquerの最近作をLiquid Roomのメインフロアで爆音で鳴らして、Carstein Nicolaiの登場へ・・・
https://youtu.be/YP7LclEsMWs

ヤマシタトモコ - ele-king

 押井守や北野武が描くアウトサイダーはたいていの場合、組織に属している。いわゆる「お荷物」とか「不良社員」といったやつである。泥棒やドラッグ・ディーラーを主役にして反社会的行為を色とりどりに描く洋画や香港映画に較べて、そのような「アウトサイダー」には当然のことながら「悪いこと」には一定のラインがあり、最終的に主役が手にするものは「美学」ばかりである。実を取る気配すらないし、間違っても生活感などは漂わせない。

 不出来もいいところだった林海象監督『キャッツ・アイ』は論外として、最近だと内田けんじ監督『鍵泥棒のメソッド』や伊藤匡史監督『カラスの親指』でようやく日本の映画でも組織に属していない悪党たちがコン・ゲームを繰り広げはじめたと思ったら(以下、ネタばれ)「どこにも悪人はいなかった」という価値観に終始し、ストーリーの妙もそのような結論から演繹されるものばかりだった。バカバカしい。たかがエンターテイメントだけに、事態は余計に深刻な気がしてくる。犬童一心監督『のぼうの城』でも金子文紀監督『大奥~永遠~』でも権力者の内面に同調させる映画作りは得意なのに、持たざるものからの視点はタブーなのかと思ったり。

 「組織に属するアウトサイダー」は、しかし、新自由主義があっさりと過去のものにしてしまった面もなくはない。 原田眞人監督『金融腐食列島・呪縛』や本広克行監督『踊る大捜査線』以降、「はみ出し者」のレッテルはどちらかというと組織の周縁ではなく、組織を内部から改革しようとする者に貼られるようになり、以後、ストーリー的には「敵は頭の上」という図式がデフォルトと化してしまった感もある。佐藤嗣麻子監督『アンフェア』といい、堤幸彦監督『スペック』といい、警察上層部が悪くない例を探し出す方が最近は難しいし、改革=正義を行うという意識ととらえれば、このことは『沈黙の艦隊』や『デス・ノート』から連綿と続いてきた感覚であり、ゼロ年代よりもさらに強化されていると言える(クエンティン・タランティーノ監督『レザボア・ドッグス』は無意味な殺し合いを描いたものだったのに対し、『ジャンゴ』では人を殺す時に「正義」が持ち出されるという驚くべき変化があった)。

 こうした変化は押井モデルや北野モデルのアウトサイダーを組織内には居ずらくさせ、自主退社を迫られるものにしてきた。『鍵泥棒のメソッド』や『カラスの親指』だけでなく、吉田大八監督『クヒオ大佐』や、国家単位で考えた時には木村祐一監督『ニセ札』が美学の路頭に迷ったアウトサイダーたちを暫定的に詐欺師ものにトランスフォームさせたとも考えられるし、それはそのまま正社員が非正規(=ノンキャリ)にずり落ち、ついにはオレオレ詐欺に手を染めるしか生き延びる方法がなかった時代の写し絵とも見えなくはない(『クヒオ大佐』にはアレックス・コックスばりの政治的センスがあり、『ニセ札』には民衆側の視点というものがあった)。

 さらには「ソーシャル」というキーワードが無条件で是とされ、「自由」に振舞うことが迷惑行為と同義語のようになってくると、「アウトサイダー」は単なる自己愛パーソナリティ障害か時代の変化に気づいていない人にしか見えなくなってくる。松本人志監督『大日本人』は戦闘少女に救える地球はあっても、旧型の男性ヒーローには救ってもらいたい人もいないというカリカチュアとしては有効に思えたし、同時に押井守や北野武の美学が笑われているようなセンスもあった。このような時期に押見修造『悪の華』は意外なほど反社会的行為をストレートに描き、しかも、「受けまくった」。ここには押井モデルのような屈折もなく、同時多発テロ以降、題材にしにくかったテロリズムを心情的に理解させながら話を進めていくことにも成功し、『殺し屋1』のように動機は捏造だったというようなトリックもない。それこそイスラムもないしw、強いていえば思春期原理主義というようなものかもしれないけれど、これに中2病のバイブルというような表現で時代性にフタをしてしまうと、見失しなわれてしまうことも出てくるはずであう。社会が常に変化しているならば、「反社会」も一定ではないはずだし、作者が参考にしたという『太陽を盗んだ男』だけが繰り返し上映されていれば、ほかはいらないということになってしまうし。

 とはいえ、『悪の華』には「反社会」を内面化する決定的なプロセスがない。最も肝心な部分は主人公の外側からやってくる。教室で誰とも口を利かない女子生徒がいわば「反社会」の源泉のように描かれ、主人公はそれに染まるだけである。要するに少年マンガにありがちな「女の子は天使」とか、戦闘美少女と同じく、なぜか絶対なものとして描かれるものが、とくにこれといって位置関係を変えることなく男子生徒に影響を及ぼしているだけで、その女性徒が反社会的なパーソナリティになった理由はまったく明らかにされていない(少なくとも第1部では)。これではレールを踏み出したものがひとりいれば、後はつられて踏み外してもオッケーみたいな感覚に思えてくるし、逆にいえば、ひとりも踏み外す者がいなければ誰も踏み外さないということにはならないだろうか。最初のひとりはどうして反社会へと振り切れたのか。それが描かれていなければ、「反社会」を規定できるのはどの部分なのか、あまりにもわかりづらい。

 ヤマシタトモコがいつもとは作風を変えた『ひばりの朝』が、そして、そのアンサーになっていると思えた。同作は3人の女性がそれぞれに社会と距離を感じていくプロセスが克明に描かれ、その気持ちが何度も上塗りされていくという残酷な作品である(全2巻)。彼女たちにつられて、同じように距離を表現する男性はひとりも出てこない(=だから、『悪の華』のようなテロリストは育たない)。男性たちはむしろ、彼女たちに距離を感じさせる原因でしかなく、ある種の男性たちに対する作者の怒りはみしみしと伝わってくる。彼女がここで描いている女性たちの何人かは、キャラクターをそのままにして男性化させれば吉田秋生の描いたアッシュやヒースと、そうは変わらないものになるだろう(……そう、ヤマシタトモコには、近い将来、吉田秋生の後継といえるような作品を生み出すのではないかとドキドキさせてくれるものがある)。『ひばりの朝』が、そして、とんでもないのは、『悪の華』ではひとりだった反社会的な女性のパターンが3倍になっているだけでなく、それらがさらに憎悪やネグレクトとして絡み合い、女性同士が必ずしも連帯しないという構図にもなっていることだろう。「反社会」性は、そして、なんらかの行動として実行されるものではなく、孤独へと跳ね返ってくるだけで、3種3様の諦めや逃避が描かれる。そして、周辺にいる登場人物たちは反社会に染まるどころか、近づくことさえできないものになっていく。

 「息をとめていたので平気でした」
 「人に興味を持たなければ 傷つかず 良心も痛まない」。

 こうなってくると、もはや「アウトサイダー」という立場が成立していたことさえ奇妙なことに思えてくる。三池崇史監督『悪の経典』のように、一切の理由も正義も省かれている方が納得はできてしまうし、じとーッと『ひばりの朝』を読んでいると、一方では、きっと何も変わっていなかったのだろうと思わせるものがあり、それを普遍性と呼ぶならば、そのように呼べること自体が諦念と結びついているとも考えられる。吉田秋生でいえば『吉祥天女』のようでいて、どれだけ映画化されても悲惨な結果しか生まない(のに、懲りずに映画化される)『桜の園』に近い作品ではないだろうか。「社会」という言葉をもっと分解して考えなければ、ここではこれ以上は先に進めない。

 安直に比較してしまったけれど、『悪の華』と『ひばりの朝』は主題も違うし、読者も効果も何も重ならないに違いない。強いていえば、『ひばりの朝』で克明に描かれているようなプロセスが省略されているにもかかわらず、『悪の華』がこれだけの読者を得たということは、理由もなく、反社会的な行動に駆り立てられている人が少なからずいるということにはならないだろうか。それは、もしかすると新自由主義が生み出したアウトサイダーの変貌がタイムリミットを迎えているのかもしれないし、小泉政権以降、組織に組み込まれなかった人たちが増えすぎて、情緒の受け皿が必要になっているということなのだろう。

(参考)

Hair Stylistics - ele-king

 ヘア・スタイリスティックス=中原昌也のビート集、ビート・ミュージックだ。僕はこの27曲65分にも及ぶ、ビート集を聴いて、心の底から愉快な気持ちになった。発売から2ヵ月以上経つが、いまだによく聴いている。いま、日本でもビートメイカーのレヴェルはぐんぐん上がっていて、彼らは海外のムーヴメントのフォロワーとは異なるオリジナリティを獲得している(という物言いそのものが古臭い!)。コンピレーションとしてまとまっている、『Lazy Replay』や『Sunrise Choir - Japan Rap&Beat』は、日本のビートメイカーのいまを知るためのひとつの参考になるだろう。とはいうものの、良し悪しの問題ではなく、やはりLAのビート・ミュージックや、SoundCloudやbandcampにおける世界的なモードは大きな影響力があり、日本のビートメイカーの多くもその時代の空気のなかにいる。
 ヘア・スタイリスティックスのビート・ミュージックからはそのような空気と同じ匂いがするが、それは中原昌也が90年代の暴力温泉芸者の頃からずーっとやってきたことがたまたまいまの時代の空気にフィットしただけだとも言える。おそらく、このビート集がもう5年早くリリースされていたら、中原昌也のコアなリスナーには届いたとしても、鎮座ドープネスをフィーチャーした曲(“This Neon World Is No Future”)が収録されるには至らなかったのではないだろうか。3年前から制作がはじまったというこの作品が、2013年に世に出たというのは素晴らしいタイミングだ。いや、タイミングではなく、『Dynamic Hate』が素晴らしいのだ。

 好き嫌いといった趣味はあるにせよ、多くのビートメイカーやビート・ミュージック・フリークは、この作品を聴いて考え込むのではないだろうか。「いま“新しい”と言われているビート・ミュージックが果たして本当に“新しい”のか」と。『Dynamic Hate』は、“ビート・ミュージック”という既存の土俵に揺さぶりをかけるビート・ミュージック集だ。中原昌也自身はそんな大それたことを意図していないだろうが、そのような問題提起を孕んだ作品でもある。例えば、アルカの『&&&&&』はたしかに面白いと思うし、いまの時代に支持される理由もわかる。ただ、インターネットの大海原には、アルカに匹敵する才能はゴロゴロ転がっている。僕なんかよりも、SoundCloudやbandcampで日夜ビート・ミュージックをディグっているビート・フリークの諸氏がそのことをよく知っているだろう。カニエ・ウェストが『イーザス』で大抜擢しなければ、アルカがこれほど脚光を浴びることはなかっただろうし、もっと言えば、アルカの分裂的な手法は子供騙しと表裏一体でもある。

 中原昌也は、紙版『ele-king vol.11』のインタヴュー「いよいよ脈打つヘイト」で、「ビート=黒人のものっていう図式もなくなってきたじゃないですか。黒人だからいいビートをつくれるわけじゃない。そういった状況は後押しするものがあったかもしれない」と語っている。さらに、「昔はブギ・ダウン・プロダクションズとマイナーなノイズをいっしょに買うと気ちがい呼ばわりされたものです。僕の頭のなかで常に共存はしていましたけど、そういうことを共有できる友だちはいなかったですよね」とも言う。興味深い発言だ。ラス・Gの『Back On The Planet』の土臭くコズミックなビート、アートワークに接すると、やはりいまだアフロ・アメリカンの音楽家には、拠り所にすることのできるルーツや、アフロ・フューチャリズムのような思想が脈打っているのだなと思う。 “ビート=黒人”という図式があったのかは議論を差し挟む余地があると思うけれど、ビートをグルーヴと言い換えれば、たしかに“グルーヴ=黒人”という図式はあったと思うし、いまだに根強く存在すると思う。

 僕が『Dynamic Hate』を面白いと思った最大の理由は、いち音いち音の音色のヴァラエティとコンビネーションが耳を楽しませてくれるところにある。耳のチャンネルが面白いように次々に切り替わっていくのだ。資料に拠れば、本作は「Ensoniq SP1200、AKAI MPC3000などのサンプラー、ROLAND TR-808などのリズムマシン、ARP2600などのシンセサイザーなど、数々のヴィンテージ・アナログ機材を使っ」て制作し、カセットデッキに録音しDATに起こしたというから、その音色は想像できるだろう。
 一応断っておくと、僕はなにもローファイなサウンドに拘ることが、音への誠実な態度であると言いたいわけではない。グルーヴィーなビートもあれば、グルーヴをあえて否定しているようなビートもある。それが不思議で、興味深くて、何度も聴いてしまう。中原昌也流の諧謔精神ももちろんあるが、そのような態度よりも、とにかくビートのユニークさに耳がぐいぐい惹きつけられる。そして、中原昌也流の分裂的な手法もある。というか、『Dynamic Hate』を聴けば、先ほどのブギ・ダウン・プロダクションとノイズの話ではないが、それが実は分裂でもなんでもなかったことがわかるし、僕自身もいまだからこそその感覚を実感できる。10年前は頭では理解しているつもりでも、実感としてそのことがわからなかった。マントロニクス流のエレクトロ・ファンクとウェルドン・アーヴィンのジャズ・ファンクの名曲“We Getting` Down”をミックスしたような“Empire of Plesure”があり、“No Funk (Tk1)”というタイトルなのに、ベースとキーボートがシンコペーションしているファンキーなビートがある。エキゾ・ブレイクビーツとでも言いたくなる“Music For The Murder Festa”と、シンセサイザーがうなりを上げ、ノイズを撒き散らし、シンプルなビートがズンドコ叩きつけられるタイトル曲からは、中原昌也の気合いと激情が溢れ出しているように思う。手を叩いて大笑いしながらでも、難しい顔をして議論しながらでも聴ける作品だが、いまビート・ミュージックを追っているのであれば、無視できない作品だ。

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