「You me」と一致するもの

ウインド・リバー - ele-king

 『スリー・ビルボード』を観た人間の評価を分けるのはおそらくラストで示される独特の倫理だと思うのだが、そこに至る大きな前提として「いまのアメリカでは警察が、ひいては法が役に立たない」ということがあるのではないか。とくに田舎町では。娘がレイプされ殺されたというはっきりとした暴力があり、しかし法はそれに対して無力を示すばかり。そのとき個人や特定のコミュニティによる私刑は下されるべきなのか、どうか。そこで問われるのはアメリカ的正義なるものがあるとして、誰の手によって誰のために行使されるのかということだ。
 西部劇は言うに及ばず、アメリカ映画はフロンティアにおけるある種の無法状態を繰り返し取り上げてきた。法治国家たるアメリカのエッジでは必ず法が無効化される場合があり、そこでルールが根本から問い直されるのである。クリント・イーストウッド『グラン・トリノ』(08)は当然アメリカ的正義を体現してきた人間が己の限界を吐露するものだったろうし、あるいは近年ではデブラ・グラニク『ウィンターズ・ボーン』(10)には目を見張るものがあった。ミズーリの山奥に住むヒルビリーたちの間には警察も手出しできない独自の掟が存在し、コミュニティに属する者たちはそこから外れることが許されない。だが、その掟から否応なく零れ落ちてしまう少女が現れたとき、コミュニティのルールが根幹から問い質されるのである。そこでは「法」でも「掟」でもない倫理が再考されていると言える。

 『ボーダーライン』(15)の脚本で名を挙げたテイラー・シェリダンが、『最後の追跡』(16)の脚本に続く初監督作として撮りあげた『ウインド・リバー』。『ボーダーライン』ではメキシコ国境地帯を、『最後の追跡』ではテキサスの田舎町を舞台にして、無法状態のなかでこそ立ち上がる倫理を探っていたシェリダンは、〈フロンティア3部作〉とする連作のラストとなる本作でもまったくもってその路線を踏襲している。今回の舞台はワイオミング州の極寒地帯であり、ネイティヴ・アメリカンの保留地だ。そこで暴行を受け逃走中に死亡したネイティヴ・アメリカンの少女が発見されるところから物語は始まる。しかも、この保留地では似たような犯罪が繰り返されていることが次第に明らかになってくる。
 体裁としてはクライム・サスペンスになっており、ベテランの白人ハンターであるコリー(ジェレミー・レナー)と若手のFBI捜査官ジェーン(エリザベス・オルセン)が事件を追っていく過程が中心になるのだが、ここでもFBIという「法」を体現する人物が明らかに経験不足であるものとして描かれる。つまり、この土地ではアメリカ全体のコンセンサスを得た正義など通用するわけがないということで、そしてこの映画においてもまた私刑がどこまで認められるかが重要な問いとして立ち上がってくる。シェリダンはどうも、この3部作で法を超越した裁きの可能性を探っているようなのである。たとえば米墨の境界をモチーフとして取り上げているという点で『ボーダーライン』の横に並べられるであろうドキュメンタリー『カルテル・ランド』(15、キャスリン・ビグローが製作総指揮を務めている)では自警団が過剰に暴力化する様が容赦なく映されていたが、シェリダンも私刑の危険性をもちろん承知だろう。それでもなお、だからと言って「法」が守るべき人間を守れていないではないかという怒りが収まらないようなのだ。(ただしその意味では、ジェーンが曲がりなりも成長していく様が同時に描かれていることからは、「法」にも変わる余地があるとしているようにも思えるが。)

 そもそも、ネイティヴ・アメリカンたちが住む土地としてこのような厳しい土地を与えたこと自体が「アメリカ最大の失敗」だとシェリダンは糾弾している。そして、ひとが住めるような土地ではないところでは「法」は通用しなくなり、若い女性の多くがレイプされるような「掟」が幅をきかせることになる、と。だからこそ西部劇をはじめとするアメリカ映画の伝統を持ちこんで、正義の本質を問いかける。『ウインド・リバー』にはある種のカタルシスがあるが、それは監督の「法」の無能に対する苛立ちの表れであり、素直に受け止めるのが躊躇われるほど重いものだ。そして、ハリウッドが現在「多様性」への取り組みをアピールするために称揚するようなマイノリティではない、本当に弱い立場の人間にこそアメリカの正義があるとする。いま、田舎を舞台にしたアメリカ映画に説得力と重大さが備わっていることを証明する一作である。『ウインド・リバー』の画面を覆い尽くす真っ白な雪を染める血の赤さを、わたしたちはもっとしっかりと見たほうがいいだろう。
 なお音楽を担当しているのは、様々な映画作品で活躍を見せるニック・ケイヴとウォーレン・エリスのコンビ。この厳格な映画にきわめて抑制された叙情をもたらしている。

予告編

Miss Red - ele-king

 ダンスホールっていうのはじつに面白い。まずこの音楽は、置き去りにされた下層民による寄り戻しとして誕生した。それは意識高い系の音楽へのあてこすりのようにも見える。国際的な感性/知性に訴えることができたルーツ・レゲエと違って、80年代に登場したダンスホールはアンチエリートの庶民派だが文化的には保守的で、言うなれば引きこもり的なそれは、周知のように内向きな暴力やゲイ嫌悪を露わにしたことで国際舞台で厳しく叩かれたこともある。
 しかしながらそのスタイルは、どメジャーからアンダーグラウンド、ジェイミーXXからイキノックス、カナダから南アフリカまでと、いまもまったく幅広く愛されているし、進化もしている。その成分はR&BにもUKグライムにも注がれている。そして、こんなにも矛盾をはらみながらも途絶えることなく拡大しているのは、ひとつにはダンスホールの敷居が低さゆえだろう。

 ケヴィン・マーティンはダンスホールの側にいる。近年は主にザ・バグ名義による精力的な活動で知られるマーティンは、彼のもうひとつの主題であるダブの探求の成果をつい先日はBurialとの共作12インチ(Flame 1)によって発表したばかりで、あるいはまた彼のエクスペリメンタルな側面は、たとえば2年前のアース(ドローン/ドゥーム・メタルのバンド)との共作アルバムによって表現されている。そして、彼はいまミス・レッドとともにダンスホールに戻ってきた。リングに上がって、ファイティング・ポーズを取っている。
 ダンスホールは基本的には楽しみの音楽であり、アドレナリンの爆発であり、ユーモアが込められた音楽だ。さばさばしていて、活気があって、エネルギーの塊。ダンスホールにおいて重要なのはマイク一本握って自分をより格好良く見せることだが、モロッコ人とポーランド人の両親を持つイスラエルはテレ・アヴィヴ出身のミス・レッドは、ダンスホールの引きこもり的傾向にまずはパンチを一発、風穴を開けてこのエネルギーを外側へと放出する。
 そして彼女はアルバムを通じて“マネー”というものに何度もパンチをお見舞いする。セコンドには……もちろんケヴィン・マーティンが付いている。まわりくどい表現はない。センチメンタルなメッセージもない。あるのはダンスのリズム、リズムに乗ったシンプルな言葉。トラックは、それこそイキノックスとか、はたまたポルトガルの〈プリンシペ〉なんかとも共振している。

 ケヴィン・マーティンは、たとえばインガ・コープランドグルーパーのような素晴らしいアウトサイダーに声をかけながら、基本、ウォーリア・クイーンやフローダンのような現場で揉まれてきたMCのことを評価し続けている。彼がザ・バグ名義で何人もの強者MCたちと仕事をしていることはdiscogsを見ればわかる。ミス・レッドの『K.O.』は彼女にとってのファースト・アルバムであり、ケヴィン・マーティンのダンスホール愛がもたらした、その最新盤ということでもある。パンク・スピリッツもあるし、まったく見事な一撃。この勢いをもらって、ちょうどいま話題の恥知らずな政治家=杉田議員にも一発と。ちなみにミス・レッドは、いま人気急上昇の日本のBim One Productionとも仕事をしているし、また、今年話題になったサイレント・ポエツの最新作にもフィーチャーされている。

Okzharp & Ribane - ele-king

 ポール・トーマス・アンダーソン監督『ファントム・スレッド』(上映中)はなんともおそろしい映画で、これを最後に俳優業を引退して靴職人になるというダニエル・デイ=ルイスに三流職人の役をやらせただけでなく、三流の証として「他人の立てる音」に我慢できないという性格まで与えている(ダニエル・デイ=ルイスは何をやらされているのかわかっているのだろうか?)。他人といっても、それは妻であり、いわゆる生活音を敵視し、それはそのまま現代人が他人の立てる音を許容できない芸術家気取りのようなものになっているというカリカチュアへと跳ね上がっていく。この作品にスマホは出てこないけれど、スマホと一緒に持ち歩いている個人の空間がどのように他人の空間を侵食し、そのことが周囲に被害者意識を増大させていることか。このことが果てしなく誇張され、他人の領域に入ることの難しさ──それはまるでいまや芸術家同士の付き合いのようだとこの作品はからかい、ダニエル・デイ=ルイスもありふれたモラ夫にしか見えなくなってくる。これを見て自分のことだと思わない人の方が僕には恐ろしいし、ましてや男女の枠組みを描いた作品だと了解してしまう単純さにも呆れ返る。オーケーザープのデビュー・アルバムがどうして『近づいて・離れて(Closer Apart)』というタイトルになったかはわからないけれど、これが人と人との距離感を示すものであるとしたら、それこそ「Closer」と「Apart」を重要なキーワードとして使い分けたジョイ・ディヴィジョンの問題意識とも重ね合わせたくなるし、カーラ・ダル・フォーノなどインターネット時代にそれを試みているミュージシャンはやはりそれなりに注目を集めている時期ではある。“Why U in my Way”などという曲のタイトルはそうした邪推に拍車をかけてくれるというか。

 黒人が自分の顔に黒いインクを塗りたくるというクリス・サンダーズのヴィデオがインパクト大だった“Dear Ribane”(15)は当初、オーケーザープによるソロ名義の「Dumela 113 EP」としてリリースされたものの、ヴォーカルとダンスにフィーチャーされていたマンテ・リバンのイメージが強烈すぎたからか、2016年以降はオーケーザープ&リバン名義で「Tell Your Vision EP」へと続き、デビュー・アルバムもふたりの名義でリリースされることになった。ソウェト出身のマンテ・リバンは南アフリカを拠点とするファッション・モデルで、自身の体をキャンバスに見立てたデザイナー活動やダイ・アントワードのダンサーとして早くから注目を浴び、大胆なアフリカン・カラーをフィーチャーした彼女の衣装はそれこそグレース・ジョーンズやニッキー・ミナージュを思わせる。オーケーザープは元々、アフリカン・リズムとグライムを交錯させたLVから分かれたジェルヴァーズ・ゴードンによるソロ・プロジェクトで、アフリカン・ミュージックに対する興味はリバンと出会ったことで、より本格的になったと考えられる。音数が少ないのは元からで、どんなタイプのサウンドでもスネアがとにかく彼はいい。『クローサー・アパート』はそして、これまでのダンス・シングルに対してどちらかといえばチルアウト的なつくりとなり、冒頭から侘しい展開が続くなど前半はファティマ・アル・ケイディリのアフリカ・ヴァージョンといったものに。それはリバンが成長してジャズやクラシックを聴くようになり、“Maybe This” や“Fede”のように民衆を扇動するような歌詞から自称レディ・サイドと呼ぶ穏やかで幻想的なスタイルに改めたからだという(言葉遊びは前より巧みになっているとのことだけど、そこまではわからず)。中盤からはミドル・テンポが味を出しはじめ、ゴムやクンビアといったリズムがさりげなく入り混じる。“Dear Ribane”や“Teleported”に匹敵する曲がないのはちょっと残念だけど、それらに続編といえる“Dun”では陽気な側面も覗かせる。

 オーケーザープは早くに南アフリカを離れてしまったためにクワイトやゴムといった故郷のサウンドに少し距離を感じ、南アから離れようとしないマンテ・リバンは逆にシャンガーンやクワイトに揺るぎない誇りを持っているという。同じ土地に異なるパースペクティヴで突き刺さったふたりの持つずれがおそらくは南アという土地に向かいあう時に予期しない効果をサウンドに与えるのだろう。無理に離れるわけでもなく、あえて回帰的になるでもなく、ふたりの編み出すサウンドはいわゆるハイブリッドとも違った面白い着地点を見出したと思う。エンディングは意外にもインディー・バンド風のチルアウトだったりで、この先、どこに向かうかもわからない点も含めて期待はまだ続きそう。

食品まつり a.k.a Foodman - ele-king

 日本を代表するプロデューサーのひとりである食品まつりことフードマン。フットワークから影響を受けつつ、そこに留まらない数々の試みで多くのリスナーの支持を集めてきた彼が、なんとサン・アロウの主宰するレーベル〈Sun Ark〉と契約、9月21日にニュー・アルバム『ARU OTOKO NO DENSETSU』をリリースする。現在、“MIZU YOUKAN”と“SAUNA”の2曲が公開中。どちら素敵なトラックです。試聴はこちらから。

・世界中から注目を集めるトラックメイカー、食品まつり a.k.a foodman が9月にニューアルバムをリリース!
・新曲2曲をResident Advisorにて公開!

ダンス・ミュージックの定義を書き換える、他に類を見ない独自性溢れる音楽性で世界中から注目を集める名古屋出身トラックメイカー、食品まつり a.k.a foodman。国内での精力的な活動に留まらず、近年は全米・ヨーロッパツアーも成功させた彼が、最新アルバム『ARU OTOKO NO DENSETSU』を米レーベル〈Sun Ark〉から9月21日にLPおよびデジタル配信でリリースすることを発表した。

ドラムやベースを大胆に排除した楽曲も多く収録され、「ウワ音だけのダンス・ミュージック」をイメージして制作したという本作。シカゴのジューク/フットワークにインスピレーションを受けながら、既存のエレクトロニック・ミュージックの定石を覆し、誰も聞いたことのない音楽を生み出してきた姿勢はそのままに、今までよりエモーショナルでメロディックな表現を取り入れている。

さらにアルバムアナウンスに伴い、先行シングル第1弾となる「MIZU YOUKAN」と「SAUNA」が、Resident Advisor にて先行公開された。タイトル通り水菓子を思わせる涼しげなサウンドが夏にぴったりの「MIZU YOUKAN」と、無類のサウナ好きとしても知られる食品まつりのサウナ愛が情趣漂うメロディーから感じられる「SAUNA」の2曲を聴きながら、食品まつり a.k.a foodman によるこれまでの数多くのリリースの集大成とも言える本アルバムを心待ちにしたい。

■Resident Advisor でのプレミア公開記事はこちらから:
https://www.residentadvisor.net/news.aspx?id=42152

■各配信サービスにて新曲「MIZU YOUKAN」「SAUNA」配信&アルバム予約受付中!
アルバムDL購入には収録曲をイメージした本人手描きのドローイングによる全14ページにわたるブックレットPDF付き!
https://smarturl.it/2pq1mv

■リリース情報
アーティスト:食品まつり a.k.a foodman
タイトル:ARU OTOKO NO DENSETSU
リリース日:2018/9/21
※LP国内発売日未定

[トラックリスト]
01. KAKON
02. PERCUSSION
03. 337
04. AKARUI
05. FUE
06. BODY
07. MIZU YOUKAN
08. CLOCK feat. MACHINA
09. TATA
10. TABIJ2
11. SAUNA
12. MOZUKU feat. PILLOW PERSON

■バイオグラフィー

名古屋出身のトラックメイカー/絵描き。シカゴ発のダンス・ミュージック、ジューク/フットワークを独自に解釈した音楽でNYの〈Orange Milk〉よりデビュー。常識に囚われない独自性溢れる音楽性が注目を集め、七尾旅人、あっこゴリラなどとのコラボレーションのほか、Unsound、Boiler Room、Low End Theory出演、Diplo主宰の〈Mad Decent〉からのリリース、英国の人気ラジオ局NTSで番組を持つなど国内外で活躍。2016年に〈Orange Milk〉からリリースしたアルバム『Ez Minzoku』はPitchforkやFACT、日本のMUSIC MAGAZINE誌などで年間ベスト入りを果たした。2018年9月にニュー・アルバム『ARU OTOKO NO DENSETSU』をリリース予定。

Brandon Coleman - ele-king

 8月のソニックマニアをまえにし、俄然〈Brainfeeder〉が勢いづいております。ロス・フロム・フレンズ、ドリアン・コンセプトに続いて、ブランドン・コールマンが同レーベルと契約、9月14日に新作をリリースします。カマシ・ワシントンライアン・ポーターの作品でもおなじみの彼ですが、きたるリーダー作ではどんなサウンドを届けてくれるのか。先行公開された“Giant Feelings”を聴いて待っていましょう。

BRANDON COLEMAN
2018年型ファンク・オデッセイ!!!
LA新世代ジャズを牽引する鍵盤奏者が〈BRAINFEEDER〉と契約!
カマシ・ワシントンらLAジャズ集団WCGDメンバーも集結した
ブランドン・コールマン待望の最新アルバム
『Resistance』のリリースが決定!
リード・シングル「Giant Feelings」をMVと共に公開!

隠しディスクを含む3枚組CD(LPは5枚組)でリリースされたカマシ・ワシントンの超大作『Heaven & Earth』に続き、そのカマシ・ワシントン、サンダーキャットらと共にLA新世代ジャズ・シーンを牽引するメイン・プレイヤーにして、スティーヴィー・ワンダーやアース・ウィンド&ファイアといったレジェンドから、チャイルディッシュ・ガンビーノ、アリシア・キーズ、ベイビーフェイス、ケンドリック・ラマー、そしてもちろんフライング・ロータスまで、錚々たるアーティストに絶対不可欠なファンキー&グルーヴを注ぎ込む鍵盤奏者のブランドン・コールマンが、〈Brainfeeder〉と契約! カマシ・ワシントンやマイルス・モズレー、ライアン・ポーターらLAジャズ集団WCGD(ウェスト・コースト・ゲット・ダウン)のメンバーが集結した待望の最新アルバム『Resistance』を9月14日(金)に世界同時リリースする。アルバムの発表に合わせて、カマシ・ワシントンも参加したリード・シングル「Giant Feelings」がMVと共に公開された。本楽曲はもともと、カマシ、マイルス・モズレー、ロナルド・ブルーナー・ジュニア、サンダーキャットことスティーヴン・ブルーナーら、WCGDメンバーらとプレイすることを目的に書かれたという。

Brandon Coleman - Giant Feelings (feat. Patrice Quinn & Techdizzle)
https://www.youtube.com/watch?v=tgMHcBx_eKQ

本作『Resistance』では、パーラメント/ファンカデリックのジョージ・クリントンやザップから、ドクター・ドレー、DJクイック、デイム・ファンクにわたる、ファンク王朝の正統な後継作であると同時に、ブランドンにとってのヒーローたち、ハービー・ハンコック、ピーター・フランプトン、ロジャー・トラウトマンといった先駆者の自由と実験の精神を称え、ファンクの新時代の到来を高らかに告げる内容となっている。

カマシのバンド・メンバーでもあり、名作『The Epic』及び最新アルバム『Heaven & Earth』にも名を連ね、ほかにもフライング・ロータスの『You're Dead!』、ライアン・ポーターの『Spangle-Lang Lane』や『The Optimist』、クァンティック&ザ・ウェスタン・トランシエントの『A New Constellation』などLAジャズ周辺作品に参加する一方、ベイビーフェイス、アリシア・キーズなどR&B方面から、スタンリー・クラーク、マーカス・ミラー、ケニー・ギャレット、クリスチャン・マクブライド、ロイ・ハーグローヴら大物ジャズ・ミュージシャンに起用され、さらにスティーヴィー・ワンダー、アース・ウィンド&ファイアというレジェンダリーなアーティストとの共演も果たすなど、超一流のセッション・ミュージシャンとしての腕を磨いてきたブランドン。近年ではラッパー兼俳優のチャイルディッシュ・ガンビーノと共演し、グラミー賞授賞式のステージでバックを務めたことも話題を呼んだ。自身のソロ活動ではアルバム『Self Taught』を2013年にデシタル・リリース(2015年にCD化)している。

本作『Resistance』は、彼のマルチ・ミュージシャンぶりにさらに磨きをかけ、『Self Taught』での音楽性をより強固に、2018年の今にアップデート。主な録音メンバーには、カマシ・ワシントン(サックス)、ライアン・ポーター(トロンボーン)、ロバート・ミラー(ドラムス)、ミゲル・アトウッド・ファーガソン(ヴィオラ、ヴァイオリン)ほか、クリストファー・グレイ(トランペット)、ジーン・コイ(ドラムス)、オスカー・シートン(ドラムス)、ジェイムズ・アレン(パーカッション)、センミ・モウレイ・エルメーダウィ(ギター)らが参加。新たに新進女性ヴァイオリン奏者のイヴェット・ホルツヴァルトほか、コリー・メイソン(ドラムス)、ビリー・オドゥム(ギター)らセッション・ミュージシャンが脇を固め、カマシのバンドのリード・シンガーとして知られるパトリース・クイン、ゴスペルをルーツに持つネオ・ソウル系名シンガーのエンダンビほか、シーラ、ドミニック・シロー、トリシア・バッターニら多彩なヴォーカル陣が名を連ねている。

1980年代のブギー・ディスコ調のスタイルは、現代ならタキシードからデイム・ファンクなどに通じるもので、ジャズ以外の幅広い音楽ファンにもアピールする力を持っている。ハービー譲りのコズミックなメロウネス、スティーリー・ダン譲りのポップさも垣間見られる一方、LAの〈SOLARRecords〉、そしてPファンクやザップ、ロジャー・トラウトマンなどの流れも彷彿とさせる。ミディアム~スロー・ナンバーも秀逸だ。2017年を代表する名アルバムとなったサンダーキャットの『Drunk』と同じベクトルで、ジャズ、ファンク、ソウル、ブギー、AORなどのエッセンスをブレンドした現代のアーバン・ブラック・コンテンポラリー・サウンドが、ここに完成した。

ブランドン・コールマン待望の最新アルバム『Resistance』は9月14日(金)に世界同時リリース! 国内盤CDには、ボーナストラック“Dance with Me”が追加収録され、歌詞対訳と解説書、ステッカーが封入される。またiTunes Storeでアルバムを予約すると、公開された“Giant Feelings (feat. Patrice Quinn & Techdizzle)”がいち早くダウンロードできる。

label: BRAINFEEDER / BEAT RECORDS
artist: Brandon Coleman
title: Resistance

release date: 2018.09.14 FRI ON SALE

国内盤CD:BRC-573
ボーナストラック追加収録 / 解説書・歌詞対訳封入

[ご予約はこちら]
beatink.com: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=9795
amazon: https://amzn.asia/2b5jAHm
Tower Records: https://bit.ly/2zLZQrl
HMV: https://bit.ly/2Lh9nuY

iTunes: https://apple.co/2NuAGPX
apple music: https://apple.co/2zQL8PD
Spotify: https://spoti.fi/2LsWI8t

[Tracklisting]
1. Live For Today
2. All Around The World
3. A Letter To My Buggers
4. Addiction (feat. Sheera)
5. Sexy
6. There’s No Turning Back
7. Resistance
8. Sundae (feat. N’Dambi)
9. Just Reach For The Stars
10. Love
11. Giant Feelings (feat. Patrice Quinn & Techdizzle)
12. Walk Free
13. Dance with Me (Bonus Track for Japan)

BRAINFEEDER XANNIVERSARY POP-UP SHOP
開催日程: 8/10 (金) - 8/12 (日)
場所: GALLERY X BY PARCO

フライング・ロータス主宰レーベル〈BRAINFEEDER〉の10周年を記念した日本初のポップアップ・ショップ開催決定!
8月10日~12日の三日間に渡って、渋谷スペイン坂のギャラリー X にて、日本初のポップアップ・ショップを開催! ここでしか手に入らない10周年記念グッズやレアな輸入グッ ズ、入手困難だった人気グッズの復刻、さらにアート作品の展示や〈BEAT RECOREDS〉のガレージセールなども同時開催! 初日にはDJイベントも!

詳細はこちら:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=9778

SONICMANIAに〈BRAINFEEDER〉 ステージが登場!
今年設立10周年を迎えたフライング・ロータス主宰レーベル〈BRAINFEEDER〉。サマーソニックに引けを取らない強力な出演陣が大きな話題となっている今年のソニックマニアでは、フライン グ・ロータス、サンダーキャット、ジョージ・クリントン&パーラメント・ファンカデリックという最 高の布陣に加え、ドリアン・コンセプト、ジェームスズー、ロス・フロム・フレンズら、フライング・ ロータスが激推しする逸材が一挙集結!

SONICMANIA 2018
www.sonicmania.jp

Ben Khan - ele-king

 トム・ミシュジェイミー・アイザックにと、エレクトロニック・ソウルの新世代たちがつぎつぎに頭角を現している昨今。先日ご紹介したカラムもその新たな息吹のひとつですが、ここへ来てさらなるニュー・カマーの登場です。彼の名はベン・カーン。これまでいくつかのシングルをリリースし注目を集めてきたエレクトロニック・ファンクの新鋭が、この8月、ファースト・アルバムを発表します。プロデューサーはフラッド。同作収録曲のライヴ映像が公開されていますので、まずはそちらをチェックしておきましょう。

・近未来エレクトロニック・ファンク! UK新鋭プロデューサー、ベン・カーンがデビュー作から“a.t.w. (against the wall)”のライヴ映像を公開!
・日本盤は8月29日(水)に発売決定!

英ロンドンを拠点に活動するエレクトロニックR&Bプロデューサー、ベン・カーン。敏腕プロデューサー、フラッド(デペッシュ・モード、スマッシング・パンプキンズ他)を迎えて制作されたセルフ・タイトルのデビュー・アルバムより“a.t.w. (against the wall)”のライヴ映像が公開された。カーン自身とライティング・デザイナーのトバイアス・ライランダー(FKAツイッグス、ドレイク、バレンシアガ他)が本映像を手掛けている。暗闇の中飛び交う無数のレーザーが近未来的な世界を表現している。

新曲“a.t.w. (against the wall)”のライブ映像はこちら
https://youtu.be/1Fzr8nuBNxM

収録曲“Do It Right”のMVはこちら
https://youtu.be/1qfhFaA6dr8

収録曲“2000 Angels”のMVはこちら
https://youtu.be/Rt7TxeZNs9Q

さらに、デビュー・アルバムの日本盤が8月29日(水)に発売されることが決定した! ダウンロード・ボーナストラックに加えて、歌詞対訳とライナーノーツが封入予定。ライナーノーツにはカーンによる1言楽曲解説も記載されているので、ぜひ日本盤を手にとってほしい。


■リリース情報
アーティスト名:Ben Khan (ベン・カーン)
タイトル:Ben Khan (ベン・カーン)
発売日:2018年8月29日(水)
品番:HSE-6836
レーベル:Dirty Hit / Hostess
価格:2,100円+税

※初回仕様限定:ボーナストラック・ダウンロードコード付ステッカー封入(フォーマット:mp3 / 発売日から1年間有効)。ライナーノーツ、歌詞対訳(予定)

Amazon / Tower / HMV / iTunes

[トラックリスト]
01. 2000 angels
02. do it right
03. monsoon daydream
04. ruby
05. a.t.w (against the wall)
06. fool for you
07. the green
08. soul into the sun
09. our father
10. love faded
11. dntwanturluv...
12. merchant prince
13. ruby1strecording
14. waterfall
15. warriors rose

新曲“a.t.w (against the wall)”含む4曲配信開始&アルバム予約受付中!
リンク:smarturl.it/j4398l

■ショート・バイオ
英ロンドンを拠点に活動するエレクトロニックR&Bプロデューサー。2013年にファースト・シングル「Drive (Part 1)」を SoundCloud に公開。同年に発表したセカンド・シングル「Eden」が Pitchfork にて「Best New Track」を獲得し、早耳リスナーを中心に一挙に注目を集める。2014年に「1992 EP」、翌年には「1000 EP」を発表。2018年8月、待望のデビュー・アルバムをリリースする。

 NYではガバナーズボールやパノラマなどビッグなバンドが出演する音楽フェスティヴァルが絶賛開催中だが、今回はペンシルヴェニア州のスプリング・ヒルファームへ、手作りの素敵なミュージック・フェスティヴァルに行った。NYから車で約3時間、ここは Mirah の家族が所有するファームである。

 Mirah は、マイクロフォーンズなど多くのバンドとコラボレートし、〈Kレコーズ〉から何枚も作品を出しているシンガーソングライター。今回の出演アーティストは Mirah の友だちがほとんどで、Tara Jane O’Neil、Rebecca Gates (ex. The Spinanes, Decemberists)、Kimya Dawson (ex. the Moldy Peaches)、Fleabite (mem. Aya Neko)、Diane Cluck、Lonesome Leash (ex. Dark dark dark, Hurray for the riff riff)、Death Vessel、TubaFresh などなど計17バンド。
 広い牧場には馬、鶏、羊などがいて、池では泳ぐこともできる。数々の簡易トイレが設置され、夜はキャンプ・ファイアがあり、バンドもお客さんもそれぞれテントで寝る。40歳以上と子供が多く、若者はほとんどいなかった。200人ほどの参加なので、3日間いると自然に顔も覚えてしまった。



 ファームで取れた果物や野菜などを使った、健康的な食事も朝昼夜と提供される(キヌア、ビーツサラダ、タイカレー、パンケーキなど)。アルコールはコンブチャとアップルサイダーで、他は持ち込み。
 皆さん大人なので、アルコールを飲んで大騒ぎをする人もいない。
 料理担当、掃除担当の人もいて、みんなでお皿を洗ったり、なんだか合宿みたいだった。
 昼は池で泳いだり、ハンモックで読書したり、ヨガをしたり、かなりのリラックスぶり。このフェスでは財布を持たなくていい。

 ライヴはアコースティック・セットが多く、最近のトレンドの逆行をいくインディ音楽好きのものだった。演奏中も長いテーブルはそのままで。座って見てもいいし、前でかぶりついてみるのも良し。
 Mirah は、フェスに来たみんなにお礼を言った。そして、彼女のお父さんが音楽を聞かせてくれたおかげでいまの自分があると語った。
 最後の“Energy”と言う曲では、Tara、Chanell (TubaFresh)、Maia がステージに上がり、一緒に演奏した。それが泣いているように聞こえたでの、後で聞くと、彼女のお父さんが危篤状態だったそうだ。数日前に意識が戻り、彼女のステージを見にきたという。彼は車椅子に乗って、ブランケットに包まれ、Mirah を見ていた。
 8回も日本に行っている Tara Jane O’neil は、余裕にウィットに富んでいて、ギターだけなのに、とても安定感があった。Shondes というバンドの Eli と一緒に、REMの“You Are The Everything”をカヴァーした。今後はトータスのドラマー、John Herndon とツアーを回るそうだ。
 ブルックリンの Fleabite は、Aya Neko のメンバーが被っていて、パンクでファジーなロックンロールを奏でた。Death Vessel は、バンドで見るのは初めてで、コントラバス、キーボード、美しいハーモニーなどが加わり、インディ・ブルーグラス風の曲がより光っていた。知ってるバンドもあらためて見ると、また印象が変わる。周りの環境と Mirah の人徳が、このフェスをスペシャルなものにしていた。

 音楽と自然に包まれ、コマーシャル感のまったくないフェス。キャンプファイアを見ながら、大切な物を感じた夜だった。


Mirah & Todd (主催者)

Amen Dunes - ele-king

 60年代後半のサイケ・ロックの名盤がアニマル・コレクティヴ『サング・トンズ』を通過して蘇ったような……と書けば、褒めすぎなのはわかっている。だが、〈セイクリッド・ボーンズ〉最後の秘宝といった佇まいだったエイメン・デューンズが、この通算5作めでこれまでにない注目と称賛を集めているのは紛れもない事実だ。はっきりとブレイクスルー作である。21世紀、サイケはインディの内側でインになったりアウトになったりを繰り返してきたが、このニューヨークのサイケデリック・フォーク・バンドはシド・バレットなどを引き合いに出されながら、どこか悠然と、のらりくらりと自分たちの酩酊を鳴らし続け、ますます逃避が難しく感じられるこの時代にこそインディのフロントラインに立った。僕は今年、このアルバムをもっとも多く聴いている。

 00年代のアニマル・コレクティヴのようなゆるいパーカッションの打音とヨレた歌があるが、ただし、『サング・トンズ』~『フィールズ』ほど音響化しているわけではない。よく聴けば奥のほうでノイズや細かな音の処理がされており、モダンな空間設計はあると言えばそうだが、本作を魅力的にしているのはクラシック・ロックの伝統の血筋を引いたソングライティングのたしかさである。これまでも光るものが確実にあったが、TVオン・ザ・レディオ、ビーチ・ハウス、ギャング・ギャング・ダンスなどの仕事で知られるプロデューサー、クリス・コーディの手腕が大きいのだろう、過去のローファイ作よりメリハリの効いた音づくりでメロディが立っている。ギターのアルペジオの柔らかく余韻たっぷりの響きもじつにいい。気持ちよく酔わせてくれる。アルバム冒頭の“Intro”を経て、実質的なオープニング・トラック“Blue Rose”で軽やかにコンガが聴こえてくれば、そこはすでに楽園である。ゆっくりと広がるユーフォリア。エイメン・デューンズは実質デイモン・マクマホンのプロジェクトだが、彼の歌と演奏は力が抜けつつもたしかに人間の体温を感じさせる。
 もうひとつ、『フリーダム』を特徴づけているのは反復だろう。時間が引き伸ばされるようにギターのアルペジオのリフとドラミングが繰り返されるが、それはクラウトロックのマシーナリーさではなく、あくまでオーガニックなものとしてある。シンプルなコード進行の循環と懸命な歌で聴かせる“Time”、ゆるい躁状態にあるようなラリったダンス・フィールが感じられる本作中もっとも軽快な“Calling Paul the Suffering”、存外に厚みのあるギター・サウンドを持った“Dracula”、よりモダンなアンビエントの音響が聴けるクロージング“L.A.”、どれも捨てがたいが、ベスト・トラックには眩いフォーク・ソング“Believe”を推したい。スロウなテンポでメロウなメロディを大事そうになぞる歌。上がりきらずに、しかし静かな盛り上がりを演出する抑揚の効いたリズム。ラスト1分におけるギターの情緒たっぷりの反復がいつまでも続けばいいのにと思う。

 その“Believe”は、マクマホンの母親が末期癌を患った経験から影響を受けてできた歌だそうだ。「あなたのためにしよう/ぼくは落ちこんでなんかない」。これはとてもパーソナルな心の動きがもとになった作品で、彼の震える声はそのまま彼の内面の機微である。前作の『ラヴ』に引き続いての『フリーダム』……と、この期に及んで愛に続いて自由とは、どれだけレイドバックしているんだと思うが、それは愛の夏とは違うもっと小さなものだ。アンノウン・モータル・オーケストラやフォキシジェンなどのいまどきのサイケ・ロック勢にはユーモアや皮肉を交えた知性が感じられるが、エイメン・デューンズはもっと率直に内省的だ。彼が歌う「フリーダム」ははっきりとした言葉にすらならない。「ナナナ、ナナナ、イー、イー、ナナナ、ナナナ、自由を手に、自由を」……。
 足元がフラつくフォーク・ソング“Miki Dora”で歌っているのは、5~60年代のカリフォルニアにおける伝説的なサーファーであるミキ・ドーラのことだという。ファッション・リーダーでカリスマ的な魅力を備えた彼は有名な波乗りとなったが、詐欺でのちに収監されている。アウトローのアイコンなのだという。マクマホンがニューヨークにいながら、なぜ西海岸の夏の海を憧憬せずにいられないのかはわからない。が、彼はここで欠点を持った人間のことを思い出しているのではないだろうか。この、ポップ・ミュージックに立派なステートメントがごった返す時代に。そして歌う……「波は行ってしまった」。ミキ・ドーラは、そして、刑務所のなかにいてもなお「終わらない夏」の象徴なのだと言うひともいたという。『フリーダム』のサイケデリック・フォークの温かさは、行ってしまった「愛の夏」ないしは「終わらない夏」の残響なのだろうか。それでもここに溢れ返る揺らぎと震えは、人間の欠点や弱さをも飲みこんでわたしたちを陶然とさせる。

Gaika - ele-king

 昨年の来日公演で強烈なパフォーマンスを見せてくれたガイカ、オルタナティヴなダンスホール・サウンドを聴かせる異才が、ソフィーと共同で作り上げた新曲“Immigrant Sons (Pesos & Gas)”のMVを公開しました。この曲は7月27日にデジタルで配信されるデビュー・アルバム『Basic Volume』収録曲で、同アルバムは9月28日にフィジカル盤もリリースされます。これは楽しみ。

ジャム・シティも参加したニューアルバム『Basic Volume』より、
ソフィーと共同プロデュースをした楽曲、
“Immigrant Sons (Pesos & Gas)”のミュージック・ビデオを公開!
また『Basic Volume』のフィジカル・リリースも9月28日(金)に決定!

代名詞であるゴシック・ダンスホールとインダストリアル・エレクトロニックの融合が一つの到達点に達した作品となっている、ガイカのデビュー・アルバム『Basic Volume』。その中から新たに“Immigrant Sons (Pesos & Gas)”のミュージック・ビデオが公開された。

MV「Immigrant Sons (Pesos & Gas)」
https://youtu.be/1zesioegOY0

今回公開された“Immigrant Sons (Pesos & Gas)”はガイカとソフィーが共同プロデュースを行っており、ガイカがガイカたる所以である、彼特有のエッジーなサウンドを保ちつつも新たにメロディアスな領域に彼自身を突入させた一曲となっている。
また、映像は先日公開された“Crown & Key”と同じ、Paco Ratertaによって製作されたビデオとなっており、撮影はフィリピンで行われた。
スモーク、廃墟、ギャング等々、荒廃した景色を映し出す中、集団の中でリーダーのように振る舞うガイカ本人が暴力的かつどこか神秘的な感じも漂わせる映像に、ガイカのキャリア史上一番ポップで感情を揺さぶるような楽曲が乗り、まさにガイカ・ワールド炸裂といった内容に仕上がっている。

また、待望のデビュー・アルバムとなる『BASIC VOLUME』は、7月27日(金)にデジタル配信で世界同時リリースが決まっていたが、9月28日(金)にフィジカルでもリリースされることが決まった。

label: Warp Records
artist: GAIKA
title: BASIC VOLUME

release date: 2018.09.28 Fri On Sale

[ご予約はこちら]
BEATINK: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=9780

digital release date: 2018.07.27 Fri
iTunes: https://apple.co/2xTIA2b
Apple Music: https://apple.co/2HtiXVy

[TRACKLISTING]
01. Basic Volume
02. Hackers & Jackers
03. Seven Churches For St Jude
04. Ruby
05. Born Thieves
06. 36 Oaths
07. Black Empire (Killmonger Riddim)
08. Grip
09. Clouds, Chemists And The Angel Gabriel
10. Immigrant Sons (Pesos & Gas)
11. Close To The Root
12. Yard
13. Crown & Key
14. Warlord Shoes
15. Spectacular Anthem

PSYCHEDELIC FLOATERS - ele-king

 不肖柴崎の監修により新たなリイシュー・シリーズがスタートします。その名も「PSYCHEDELIC FLOATERS(サイケデリック・フローターズ)」。

 「サイケデリック」というと、その語自体が伝統的なロック・ミュージック観と分かちがたく結びいている故に、1967年のサマー・オブ・ラヴ、ヒッピー、LSD、ティモシー・リアリー、サイケデリック・アート、ジェファーソン・エアプレイン、……という連想を反射的に起こさせるものだったし、そういった理解がいまだ一般的なものだろう。ドラッグ・カルチャーと変革の時代が生んだ徒花的存在として、その徒花性が故に「あの時代を彷彿とさせる」アイコニックなカルチャーとしてその後も生きながらえてきた。70年代にはアンダーグラウンドに潜伏しながらもオーセンティックなサイケデリック・ロックを演奏するバンド群は根強く存在していたし、80年代にはオルタナティヴ・ロックの胚珠として「ペイズリー・アンダーグラウンド」なるリヴァイヴァルも勃興し、90年代以降も特定のテイストとして都度アーティストたちに取り入れられる一要素として「サイケデリック」という意匠は生き長らえてきた。

 しかし、本来この「サイケデリック」には、そうした単線的な視点・史観のみでは捉えきれない複層的な空間が広がっている。幻夢的な酩酊感、あるいは静的覚醒感。そういった、サイケデリックから抽出される特有の質感を「浮遊感=フロートする感覚」として捉え直すことで、大きく視野が切り拓かれることになる。快楽性とテクスチャーにフォーカスして音楽を捉え直すという感覚は、90年代に、かつてのソウル観に対する概念として「フリー・ソウル」というタームが出現したときのそれに近しいと言えるかも知れない。そう、ドアーズやエレクトリック・プルーンズ、ブルー・チアー(も素晴らしいけど)ではなく、後期ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやカン、マニュエル・ゲッチング、ウェルドン・アーヴィン、ピーター・アイヴァース、ネッド・ドヒニー、ヨ・ラ・テンゴ、アンノウン・モータル・オーケストラフランク・オーシャン……。それらから共通して抽出されるタームこそを「サイケデリック・フローターズ」と呼びたい。

 そして、昨今のポスト・ヴェイパーウェイブ的趨勢の中、ニュー・エイジ、アンビエント、バレアリック、あるいはシティ・ポップやヨット・ロックが次々と注目・再発見されていく流れにあって、「サイケデリック・フローターズ」という切り口をそこに加えることで、いまこそ再び聴きたい(聴かれるべき)多くの隠れた名作が浮かび上がってくるのだった。これまで「サイケデリック」という文脈では一般的に語られることのなかった幅広いジャンルに存在する「無自覚なサイケデリック」とでも言うべき作品を発掘し、これまでのリイシュー・シリーズとは一線を画した視点で数々のタイトルを紹介していくつもりだ。

 では、今週7/18にリリースとなる第一弾の2作品を紹介しよう。

Jack Adkins / American Sunset

 米ウェストバージニア州出身のシンガー・ソングライターによる84年作の世界初CD化。
 少年期よりガレージ・ロック・バンドで演奏活動を始め、その後も全米サーキットで音楽活動を続けてきたジャック・アドキンス。80年代に入りマイアミに移住しその地の風景に心を打たれたことをきっかけに、北米各地の夕暮れ(Sunset)の風景を歌い綴ったアルバムを制作することにした。歌とギター、リンドラム、そしてシンセサイザー(ローランドジュピター8)を中心に、ほぼ全ての楽器を自身で演奏し録音されたこのレコードは、当時はごく少数のみプレスの超激レア作。
 まさに知る人ぞ知る存在だったこの盤の存在が知られるきっかけは、ダニー・マクレウィンとトム・コベニーというハードなディガーふたりによるユニット PSYCHEMAGIK が選曲を担当したヴァイナル・コンピレーション『PSYCHEMAGIK PRESENTS MAGIK SUNSET PART 1』(2015年)に、アルバム・タイトル曲が収録されたことだった。
 ジュピター8の独特の音色に80’s的風情を強く吹き込むリンドラムの響き、そしてジャック・アドキンス本人のマンダムな歌唱が融合した世界は、まるでルー・リードとアーサー・ラッセルが邂逅したかのような至高のニューエイジ・フォーク作となっている。キラキラと海を照らすオレンジ色の黄昏のような音楽に、バレアリックな哀切が掻きてられる。

Jack Adkins - American Sunset
Boink Records / Pヴァイン

Amazon Tower HMV


Chuck Senrick / Dreamin’

 米ミネソタ州出身のジャズ系シンガー・ソングライター、チャック・センリックによる唯一作(76年作)の世界初CD化。
 地元のバー・ピアニストとして演奏活動をおこなっていた彼が、愛する新妻との結婚生活を綴ろうと制作した作品で、自身のヴォーカルとフェンダー・ローズ、そしてKORG社製のリズムボックス「ドンカマチック」を伴い、友人宅のリヴィング・ルームでひっそりと録音されたものだ。マイケル・フランクスやケニー・ランキンといったヴォーカリストを思わせる切々としたクルーナー・ヴォイスに、透明感のあるローズの響き、そしてキッチュとも言えるドンカマのリズムが融合し、シンプルながらも不可思議な酩酊感を湛えた世界が(ささやかに)繰り広げられる。
 ヨット・ロックのブームを決定づけることになった米〈Numero〉からリリースされたコンピレーション『SEAFARING STRANGERS: PRIVATE YACHT』(2017年作)に、本作から“ドント・ビー・ソー・ナイス”が収録されたことでも一部ファンの注目を集めていた。そういったAOR再評価の最深部的作品としても実に味わい深いが、やはり注目すべきはその幸福な浮遊感に満ちたイノセントかつナイーヴな肌触りだろう。
 これぞまさしくアンコンシャス(無意識的)なサイケデリック・ミュージックの最良の例だと言えるだろう。

Chuck Senrick - Dreamin'
A Peach Production / Pヴァイン

Amazon Tower HMV


 「サイケデリック」についてあれやこれや考察するよりも、あるいは「いまっぽい」という視点ばかりに拘泥するよりも、何よりもまずはその浮揚するサウンドスケープに耳を委ねてみるのが良い。
皆さんのリスニング・ライフに少しの刺激と安らぎを与えてくれるであろう本シリーズ、今後も様々な知られざるレア作や埋もれた名作のリリースを予定していますので、是非ご愛顧のほど宜しくお願いします。

追記:
「サイケデリック・フローターズ」をより楽しんでいただけるように、Apple Music と Spotify 上にプレイリストを作成しました。是非併せてお楽しみください。

AppleMusic

Spotify

※配信曲有無の関係で、AppleMusic と Spotify で若干プレイリスト内容が異なります。

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