「You me」と一致するもの

interview with Mark McGuire - ele-king

 マーク・マグワイヤはここからだ。彼の名がクレジットされた楽曲は膨大に存在するが、それらはいま、この『アロング・ザ・ウェイ』から、新しく光を当てられることになるだろう。エメラルズを脱退してのソロだから、ではない。彼が、彼のやるべきことを見つけたからだ。長い人生が何のためにあるのかを知る機会は少ないが、とくに意味がないようにも思われるその連続が、ある一点から一気につながっていくということが起こらないともかぎらない。マグワイヤにはきっと、そのときがめぐってきている。......そう熱と感動を込めて言い切ってしまう理由は、以下のインタヴューのなかに示されている。


Mark McGuire
Along The Way

Yacca

Review Amazon iTunes

 『ダズ・イット・ルック・ライク・アイム・ヒア?』(2010年)のリリースによって、アメリカ中西部のアンダーグラウンドなノイズ・シーンから世界へと飛び出し、クラウトロックをモードにしてしまった時代の寵児、エメラルズ。そのエメラルズ解散後初のリリースとなる今作『アロング・ザ・ウェイ』は、愛と生命をめぐる彼の哲学が4章にわたって開陳・展開された大作だ。自身による長文の解説(原文はさらに長いという)も付されており、明確にコンセプトと目的を持った作品であることがわかる。まさか彼がこれほど言葉で思考し、語る人間だとは思わなかった。聴かれるかたは必ず読んでみていただきたい。オマケのライナーなどというものではなく、むしろこのメッセージのために本作が編まれているということがありありと理解されるだろうから。

 「スピってる」......とはたしかに言った。言ったし、いまもそう思う。本作のテーマについて筆者が100パーセントの理解と賛同を示すことはないだろう。アラン・ワッツの名にもちょっと戸惑ってしまう。けれどまったく笑おうとも否定しようとも思えない。ひとはひと、ということでもあるが、やはりこのアルバムに力があるからだ。

 音楽をやる人間が言葉で説明してしまっていいのか、という批判もあるかもしれないが、彼にとっては今回、音も言葉も同じものだったのだろう。マグワイヤの目的は彼のメッセージを伝えることにある。ダメなのは言葉で目的の欠落を補足しようとすることだ。何をするべきかということそのものの軸がしっかりとあるかぎり、音が弱まることはない。自分の持てる能力をすべて使って彼は彼の思う「愛」のなかだちになろうとしている。

 そして、彼がこれまでテーマにしてきた家族のモチーフについても興味深い話が聞けた。以前のインタヴューでも同様のことを訊いているのだけれども、まったく回答の角度が違う。というか、まさにいまそれらが明瞭にひとつの線としてつながったという印象だ。"ザ・ヒューマン・コンディション(ソング・フォー・マイ・ファーザー)"は彼のすべての音楽を――パッケージされた彼のソロ作ばかりではなく、友人に手渡ししたテープやCD-R、PCにストックされた没音源などもふくめたすべてを――光の線にする。

 マニュエル・ゲッチングがどうとか、エフェクターがどうとか、そういうことは突如としてどうでもよくなってしまった。シンセを用い、音色を増し、ビートを入れ、ストレートに歌う今作の直接性を、筆者は称えずにはいられない。
(ちなみにそのあたりもいろいろと訊いていたのだけれど、ほとんど答えらしい答えが返ってこなかった。)

人間はただそれにタッチするだけでいいはずなんです。現実と愛といまの瞬間とは、同じようなものだと思います。いまの瞬間だけがリアルなもので、愛も同じです。それしか存在しません。

バンドを離れたことと関係あるかもしれませんが、今作『アロング・ザ・ウェイ』には音楽的にも吹っ切れているというか、思い切って新しいことができているようなところがあるんじゃないかと思いました。

マグワイヤ:去年から、ギターだけで表現していくことの壁にぶつかったような気がしていて、もう少し他のテクスチャーを新しく加えていきたいなという気持ちになりました。そこからシンセを購入して、いろいろと実験をスタートさせたり、他の要素をどんどん取り入れていったりしましたね。今回のアルバム制作に関しては、とくに自分にリミットを設けたりせずに、フリーな感じで、どんな音でもアリにしたいっていう気持ちだったんです。LAのスタジオに住み込んでいたんですが、そこにはたくさんの楽器もあったので、環境としては恵まれていたと思います。でも、いまアルバムを聴き返すと、いままで自分がやってきたことの延長ではあるけど、少し自由で実験的な気持ちがあったんだなということがわかりました。

シンセを購入して本格的に触るようになったのは今回が初なんですね。

マグワイヤ:エメラルズのときももちろん触ることはあったけど、やっぱり役割としてギターだったので、1年半くらいですかね、今回初めて自分のシンセを買っていろいろ勉強することができました。いままではギターの音を加工することからスタートしていたのが、スタートがギターじゃなくなったことで、ちょっと解放されたようにも感じます。去年の夏、映画のサントラを作っていたときに、シンセやドラムマシンのプログラミングとかを本格的に学ぶようになっていたので、それが自然と自分のアルバムにも反映されるようになりました。もう少しレンジのあるサウンドが欲しかったんですよね。そういうシンセの作品は、最初はネットでフリーでリリースしたんですが、今回のアルバムはいま挙げていったようないろいろな実験や要素を合成して作った作品ですね。EPはほんとに実験で、手探りな感じがありました。今回はそれをもっときちんとした形にしたものです。

なるほど。いろんな要素が入りつつ、でもこれまでやってこられたことの集大成という感じもしたんです。この作品のご自身の注釈に「愛というのは生命の認識である」という言葉がでてくるんですが、ある意味でそれは、これまでもずっとあなたの作品に感じてきたことでもあります。それを今回はわざわざこれだけの長文に書き起こし、4つに章立てて明示されたわけですよね。このコンセプトの立て方についておうかがいしたいです。

マグワイヤ:アルバム制作がはじまったのはちょうどそのサントラを作っていたときで、そのとき考えていたのは『リヴィング・ウィズ・ユアセルフ』のときにあったコンセプトをもうちょっと広げたいということだったんです。『リヴィング~』はナラティヴな作品というか、ちょっとしたストーリーのある作品でしたから。これを次の段階に持っていきたい、もっと奥行のあるものにしたいという思いがありました。ここ数年は、心理学と哲学をまた勉強しはじめていて、本で得たアイディアなどを成熟させたコンセプトがこのアルバムの中心になっているんですね。それは僕自身の宇宙や生命への考えでもあるんですが、同時にある程度普遍的なものでもあると思っていて、音楽もそんなふうに壮大に表現できていたらいいなと思います。
 この作品では、人生を通してあるひとりが遂げていく成長を旅のように描いているんですが、それは彼自身の成長であるとともに人類全体の旅でもあるということなんです。パーソナルかつユニヴァーサルというのが今回のコンセプトでもある。
 それから、このテキストのなかには愛についても記してあるんですが、愛とはどういうことか、というような問いに対しては、みんなそれぞれにあらかじめ持っている観念があるはずだから、誤解されることもあると思います。ですが人々は互いにつねに人生のなかで誤解しあっている部分もあって、それもひとつの人類のストーリーですね。みんな同じことを目指して、同じ夢や欲望を抱いている――同じ旅をしているにもかかわらず、お互いが通じないでミスっている部分とか、同じ言葉を話しているのに違う言葉を話しているというようなことがあります。
 愛というのは、単純なロマンスという意味ではなくて、もっと深みのあるものです。人間がいないくても存在しているようなものですね。ちょっとヒッピーっぽいというか、フリー・ラヴの思想に聞こえてしまうかもしれませんが......、でも、人間はただそれにタッチするだけでいいはずなんです。現実と愛といまの瞬間とは、同じようなものだと思います。いまの瞬間だけがリアルなもので、愛も同じです。それしか存在しません。そういうことをこの作品では言っています。

解説部分でもそのように書いておられましたね。「パーソナルかつユニヴァース」というお話がありましたが、たとえば、育った環境や前提がぜんぜん違う者同士が、いかに隣り合っていっしょに生きていくことができるのか、これは長らくアメリカという国に突きつけられてきた問題でもあると思います。こうした少し生々しい問いや例に対して『アロング・ザ・ウェイ』はあなたなりの回答を示そうとしたのかなと思ったのですが、あなたの書かれている壮大な例と、こうした生々しい問題とはどう関係しますか?

マグワイヤ:アメリカだけではなく、世界全体で人々は打ちつけられていると思っています。人類と自然、宇宙は、本当は同じひとつの生命なのに、それをむやみに切り分けようとしていて、そこでいろいろな問題が発生しているように見えるんです。人間が自然の一部なのではなく、自然外のものとして生きているような感じ。僕には助けを求める悲鳴が聞こえるような気がします。このアルバムは、けっして政治的なコンセプト・アルバムではないんですが、やっぱりそういうことを考えながら作品を作ってはいました。
 人々は真の生き方から遠く離れたところにいます。人生の意味を僕なんかが理解していると思っているわけではありませんが、社会とか政治とか階級分けとかによって本来ひとつであるべき自然と宇宙と人間を分離させると、どんどん共存から遠ざかって、ひとりひとりが引きこもったような生き方をすることになり、どんどん孤独になっていくように思います。アメリカだけではない問題ですけど、アメリカは巨大なメディアを通じていろいろな情報を世界に発信しているわけなので、責任が大きいと思っています。"ザ・ウォー・オン・コンシャスネス"という曲ではまさにそういうことを歌ってるんです。「ウォー・オン・テロリズム」とテレビやメディアではよく言われていますが、僕はむしろ人々の思考との戦争だと思います。いかに麻痺させるか、いかに衝撃的な映像などで思考停止させるか、その恐怖やトラウマによって人の心をバラバラにするか......。ほんとはみんなつながっているのに。
 このアルバムでは、そういう生き方じゃなくていいんだよということをメッセージとして持っているつもりなんです。愛を持った生き方としていいんだという、それが僕の思いです。

なるほど。その......、音にも驚くところは多かったんですが、それよりも、あなたがこんなに言葉で表現する方だったのかということになお驚いたんです。

担当者S氏:(小声で)もっと長いんですよ!

えっ、なるほど(笑)。何というか、ギターに人格が備わっているんじゃないかというくらい、とても雄弁なスタイルをお持ちなので、ほとんど「ギターの精」みたいに思っていたんです。人の言葉ではなくギター語で話す、というような方なのかなと......。一方的ですみません! でも演奏に長けた方が、言葉で語ることをよしとしなかったりすることもあるなかで、あえてここまで長い文章できっちりとコンセプトを示すというやり方を選択されたのは、それだけ思いが強かった、伝えたいことだった、ということなんでしょうか?

マグワイヤ:そうです。今回はヴォーカルや歌詞もひとつの要素として必要性があったと思います。今回伝えたかったアイディアやコンセプトは、とても具体的なものなので、インストゥルメンタルな音楽だと誤解されやすい......これはハッピーな曲だと思って作ったものを、誰かが聴いて全然違ったふうに考えるかもしれない、そういう曖昧な余地が多く残されていますよね。ダイレクトに伝えたいことを伝えてみるという挑戦でもあったので、歌詞とヴォーカルとテキストを採り入れることにしました。
 前もって決めたことだというわけでもなくて、曲を書きながら出てきたものでもあります。言いたい言葉は無限に出てくるので、それをコンパクトにまとめるのが難しいですね。

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父には9人の兄弟がいて、そのなかで男の子が7人、狭い家に11人で暮らしてきたので、彼らが集まるとすごいエネルギーのかたまりになるんですよね。

では、もうちょっと細かい部分についてなんですが、冒頭はすごく東洋的でメディテーショナルなアンビエント・トラックからはじまるんですが、その部分はパーカッションも含めてとても新鮮でした。"アウェイクニング"というタイトルは、あなたの言う「愛」への目覚め、覚醒、という意味なんでしょうか?

マグワイヤ:まさにその通りです。"アウェイクニング"というのは、生まれる瞬間のことを言っていて、人が初めて自然に触れて、愛に目覚めるということを表しています。東洋的なモチーフに対し、西洋の楽器が合わさりますね。2曲めに入ると、もう少し楽器が合わさって、一体化していくというふうになっています。あと、去年日本に来たときにすごく刺激を受けました。そこで目覚めたこともたくさんあります。

音もそうだったので、東洋の思想に影響を受けるところもあったのかなと思ったんです。日本で受けた刺激というと、どういうものなんですか?

マグワイヤ:「シオソフィ(Theosophy)」という、哲学と神学を合わせたような考え方があるんです。それは例えば、西洋から見た東洋の宗教だったり、ヒンズー教だったり、禅だったりの研究でもあるんですが、そういった本を読むなかでつねにインスパイアされるものがありますね。アラン・ワッツの本なんかは大好きです。そこからいろいろ読んで、解釈して、自分の考えと混ぜています。日本で強く感じたのも、いろいろな宗教が、元は同じところから来ているんじゃないのかなということでした。

そうやって章が進み、パート1、パート2ときて、パート3へと進むわけですが、この"ザ・ヒューマン・コンディション"というのが素晴らしいなと思いまして。何が素晴らしいかというと、あのアットホームなパーティーのヴィデオのサンプリングですね。たぶん昨日のライヴ(2013.5.10@東京 UNIT)で流れていたと思うんですが、きっとお父さんのご兄弟やご親戚が集まったパーティか何かの模様だと思うんですよ。皆さんまだ若い頃のもので。(※筆者註 その音声が大幅に使用されたトラックが"ザ・ヒューマン・コンディション")あの映像を眺めるあなたの視線のなかに、あなたの考える「愛」のひとつのヴァリエーションがあったんだろうなって思うんですが、あの音声サンプルを使用した理由を教えてもらえませんか?

マグワイヤ:まず、そうですね、その音源とライヴで使用した映像とは同一のものです。父のお祝いのパーティなんです。父には9人の兄弟がいて、そのなかで男の子が7人、狭い家に11人で暮らしてきたので、彼らが集まるとすごいエネルギーのかたまりになるんですよね。それはポジティヴな意味でも、ネガティヴな意味でも。すごくおもしろい集まりで、使用した場面は、兄弟みんなが父親を褒めたり、からかったりするところですね。
 このヴィデオは家の地下室で見つけたんです。そしてそれを妹と初めて観たときすごくエモーショナルになって、とても最後まで観れないくらいの感情になったんです。とても......ヘヴィに感じて。あれは25年くらい前の映像なんですが、あのときからいままでの25年という時間、いったいどれだけのことがあったんだろうと思ったんです。時間の流れってすごいなと。しかもその時間のなかで、遺伝子ではなく体験によって結ばれるお互いの関係を見て、人類のメタファーのように感じました。それで、この場面を曲の要素として取り入れたわけなんです。人の魂は、人生のなかでとても辛い思いを経験したりもするけれど、お互い同じような辛さを抱えているわけだから、人間関係によってお互いを癒したり癒されたり、励ましたり、愛したりしながらつながっていけばいいなと思ったんです。

なるほどなあ。最初は映画作品なのかな? と思ったくらい素晴らしい映像で、わたしも本当に涙が出そうになったんです。ただ、食事会の様子を撮っているだけなんですけどね......8ミリとかで。何だろう......素直なラース・フォン・トリアーというか......。
 わたしは今回の作品がもうひとつ持っている顔として、『リヴィング・ウィズ・ユアセルフ』のつづきというか、完全版なのかなというふうに思っていたんですね。あの作品も妹さんへの曲とか、弟さんへの曲とかが収録されていて、家族の声のサンプリングにはこだわられてきたのかなという印象がありました。
 家族をこんなに正面からとらえる音楽作品って、めずらしいなと思うんですよね。子どもの声が入ってたり、人々の声が入ってたりということはよくある方法ではありますが、それが家族という焦点を持つことが、あなたのひとつの特徴じゃないかと思うんです。

マグワイヤ:おっしゃったように、今回の作品は、あの作品のつづき、2作めといった感じなんです。でも、家族をテーマにすることは自分にとって自然なことでもありました。普段の生活のなかで家族はかけがえのないものです。自分の音楽は、自分をもっと深く知るということを追求しているので、自分の根っこにある家族について考えることはとても重要だと思います。ダスティン(・ウォング)とも昨日話していたんです。ポジティヴに聴こえるサンプルも多いと思うんですが、家族の関係がいつもポジティヴであるわけではない。お互いがお互いの関係によっていろんな経験をしているわけだから、そこには奥深いものが生まれてきます。
 数年前、家族は少しバラバラな状態にあったんです。でも、僕が音楽を作っていることがきっかけで少し仲良くなった。......バラバラじゃなくて家族として少し関係が強くなったんですね。だから人類全体のメタファーとしてもアリなのではないかなと考えました。今回の音楽で、バラバラになっているものが少しつながればな、と思います。

すごくいいお話が聞けました。家族がバラバラだったこともあったんですね。でも映像だけ独立してても、これは素晴らしいものだと思います。

マグワイヤ:僕もそう思います(笑)。

ええ(笑)。さて、このジャパン・ツアーではお寺も回られてますね(2013.5.1 新潟 正福寺)? お釈迦様の前で爆音で演奏されたとか。そのときのことを聞かせてもらえませんか?

マグワイヤ:あれはこれまでライヴ等で経験してきたなかでも、一番といえるものでした。最初にお寺に着いたときには、さすがにライヴ・セットを変えなければならないかなと思ったんです。その......、建物の雰囲気や構造的に。この環境に合った静かな音を出したほうがいいのではないかって。でも、当初のセットでそのままやることにしたんです。結果的には正解だったと思いました。自分の音楽は、自分にとってスピリチュアルなものだから。僕はけっしてひとつの宗教を信じているわけではないんですが、仏教やヒンズー教には美しいものが残っているというふうに思っています。だからお寺で演奏するのは、教会などでやることよりも感動しました。住職さんが踊っていらっしゃったということを聞いて、感謝でいっぱいでした! 自分の音楽に意味があるのだという気持ちになったというか。住職さんや、ここの環境に受け入れられたんだなと感じられたんです。

ああ、それは本当に観たかった! このアルバムのツアーというタイミングはまさにジャストでしたね。......何か次に見えているヴィジョンなどはありますか?

マグワイヤ:すごく長い時間をかけて作ってきたものなので、まだこのなかにいたいな、と思いますね。ちょっと疲れもありますしね(笑)。

マグワイヤ自身によるMV"In Search of the Miraculous"。
『Along The way』冒頭から3曲が使用されている。

Chance The Rapper - ele-king

 チャンスラー・ベネットは、高校在学中、10日間の停学期間に作りあげた昨年のミックステープ『10デイ』(まんまやん! ちなみに、タイトルは『#10Day』とも『10 Day』とも表記される)のリリースによってその名をインターネットの大海に轟かせた。『10デイ』はみるみるうちに話題となり、4万ダウンロードを記録。常に紫煙をくゆらせ、アシッドを心から愛するこの恐るべき子どもは、チャンス・ザ・ラッパーというステージ・ネームを名乗っている。

 『10デイ』のヒットや、ジョーイ・バッドアスらとのコラボレーションで話題を集めたチャンスは、『XXLマガジン』の毎年選出しているフレッシュメンの2013年版にノミネートされる(惜しくもトップ10フレッシュメンには選ばれなかった)。大いなる期待と前評判でリリース前から早くもネット上にバズを巻き起こすなか、4月末に『アシッド・ラップ』はリリースされた――結果、このミックステープはリスナーの期待を上回るどころか、期待のはるか上空を一息に飛び越えてしまった。ソウルフルで泥臭く、肯定的なパワーに満ちた、ユニークな大傑作の誕生である。

 チャンスは、風の街シカゴのゲットーを力強く生き抜いた成り上がりのラッパー、というわけではなく、大学を卒業した両親(なんと政府関係の仕事に就いているという)の元で育ち、一流のプレップ・スクールに通っていた。彼はそこで、小学生の頃から抱いていたミュージシャンになる夢を教師から馬鹿にされ、両親からは大学進学を執拗に強要される息苦しい高校生活を強いられていた。
 チャンスを開放したのは、ラップ・ミュージックを聴くことであり、オープン・マイクのイヴェントにおいて聴衆の前で詩のパフォーマンスをすることであった。「オーディエンスの前に立ち、ストーリーを語って聴かせることは、僕を気持ちよくさせてくれるんだ。(中略)僕にとって、パフォーマンスはラッパーであることの大部分を占めている。自分のストーリーを聴衆に向かって叫ぶことは、なにものにも代えがたい感覚だね」と、彼はインタヴューで語っている。マイケル・ジャクソンに心酔していたということからもわかる通り、チャンスは根っからのエンターテイナー志向だ。『アシッド・ラップ』で活き活きと歌うようにラップする彼の力強い姿に、『リーズナブル・ダウト』のジェイ・Zや『カレッジ・ドロップアウト』のカニエ・ウェスト、あるいは『ザ・スリム・シェイディ LP』のエミネムを重ねてしまう者が多いのも無理はないだろう。それほどのカリスマを、あるいはさらに逞しく成長していくだろうポテンシャルを、チャンス・ザ・ラッパーは感じさせる。

 そしてもうひとつ、彼の生を開放した重要なものがある。それは(もちろん)アシッド――つまり、LSDである。「山ほどドラッグをやって、母校にいたときよりずっとうまくやっているよ」("グッド・アス・イントロ")。LSDがもたらすトリップは、チャンスの精神を解き放ち、創造的な自問自答をもたらしてくれる......らしい。『10デイ』と同様にひねりのない、そのまんまなタイトルを冠された『アシッド・ラップ』は、LSDのカラフルな幻覚なくして生まれえなかった。

 『アシッド・ラップ』の中心をなしているのはソウル・ミュージックだと言えるだろう。“プッシャー・マン”はカーティス・メイフィールドへのオマージュであるし、“ジュース”においてはダニー・ハサウェイの“ジェラス・ガイ”(ジョン・レノンのカヴァー。1972)をサンプリングしている。しかし、それは単純な懐古趣味や90年代回帰というわけではない。シカゴで産み落とされ、もはやグローバルなビートとなったジュークや、チャンスが常に比較対象にされる同郷のチーフ・キーフらによる、暴力とウィードの臭いが染み付いたドリルといった最新鋭のサウンドをも、チャンスは旺盛な探究心でもって嚥下し、しっかりと血肉化している。カニエ・ウェストのミックステープから引用したゴスペル風のコーラスとピアノ・リフ、分厚いホーンが鳴り響く“グッド・アス・イントロ”で、チャンスはジュークのビートを乗りこなしながら、独自の力強いソウル・ミュージックを構築している。“グッド・アス・イントロ”や、ミックステープの最後を飾る“エヴリシングズ・グッド(グッド・アス・アウトロ)”におけるジューク・ビートはまだまだ緊張感に欠ける発展途上のものではあるものの、トラックスマンの楽曲から匂いたつソウルフルな感覚と共通するようなダイナミズムが感じ取れる。
 『アシッド・ラップ』をソウル・ミュージックたらしめているのは、なんといってもチャンス・ザ・ラッパーその人の泥臭いダミ声だろう。発明と言ってもいいほどのこのユニークな声、そして歌うようなラップのスタイル、リズムの空隙に絶妙なタイミングで挿入される「アッ!」という叫びは、とんでもなく粗野で荒々しい――そしてソウルフルだ。チャンスのボーカル・スタイルには、オーティス・レディングの「ガッタ!」という叫び声からミッシー・エリオットのラップへと至る、ソウル・ミュージックの半世紀を一気に駆け上がるようなパワーが宿っている。あるいは、ルイ・アームストロングのスキャットや、バド・パウエルの唸り声、チャールズ・ミンガスがベースを引っ掻きながら堪らず発する掛け声といった、ブラック・ミュージックの古層の記憶を想起させるような、唯一無二の魅力的な声だ。

 若干20歳のチャンス・ザ・ラッパーが世に問うた『アシッド・ラップ』は掛け値なしの傑作と言えるだろう。ここには、ケンドリック・ラマーの『セクション・80』(2011)やスクールボーイ・Qの『ハビッツ・アンド・コントラディクションズ』(2012)、フランク・オーシャンの『ノスタルジア・ウルトラ』(2011)、エイサップ・ロッキーの『リヴ・ラヴ・エイサップ』(2011)といったミックステープに並び立つほどの魅力が、いや、それらを軽々と超えるほどの熱量がある。

Ginji (SACRIFICE) - ele-king

奇数月第4金曜"SACRIFICE"@Orbit
毎月第1火曜「旅路」@SHeLTeR
偶数月第3月曜「一夜特濃」@天狗食堂

6月22日 "Life Force Alfrescorial" @Panorama Park Escorial 箱根
https://lifeforce.jp

世界観で選んだ新譜と準新譜  2013.6.12


1
Frieder Butzmann - Wie Zeit Vergeht - Pan
https://soundcloud.com/pan_recs/frieder-butzmann-wie-zeit

2
Dont - AR 005 - Atelier Records
https://dtno.net

3
Stellar OM Source - Image Over Image - No 'Label'
https://soundcloud.com/omsource/image-over-image-12

4
Yes Wizard - Crowdspacer Presents'Yes Wizard' - Crowdspacer
https://soundcloud.com/crwdspcr/sets/yes-wizard-generator2

5
Juanpablo - Lost series part 1 - Frigio Records
https://soundcloud.com/frigio-records/juanpablo-mick-wills-rmx-ft

6
Anstam - Stones And Woods - 50Weapons
https://www.youtube.com/watch?v=hXuGRvlhbXg

7
Ruff Cherry - The Section 31 E.P. - Elastic Dreams
https://soundcloud.com/elastic-dreams/ruff-cherry-the-empath

8
SH2000 - Good News - Ethereal Sound
https://soundcloud.com/ethereal-sound/sh2000-good-news-forthcoming

9
Laurel Halo - Hour Logic - Hippos In Tanks
https://soundcloud.com/hipposintanks/laurel-halo-aquifer

10
Scott Walker - Bish Bosch - 4AD
https://soundcloud.com/experimedia/scott-walker-bish-bosch-album

Boards of Canada - ele-king

 1曲め、"ジェミニ"(双子座)のタイトルに、即座に『ミュージック・ハズ・ザ・ライト・トゥ・チルドレン』に収録された"アクエリアス"(水瓶座)を思い出し、本当に何度も何度も聴いたそれを聴き返してみる。じつによくできた夢の世界、幼少期の記憶を辿るような子どもの声のサンプル......。ああ、これがボーズ・オブ・カナダだと思う。そして"ジェミニ"へ。イントロでホーンが鳴ると、ストリングスが何やらダークな音を導いてくる。心地よい夢の世界では......ない。緊張感はそのまま、先行公開されたシングル"リーチ・フォー・ザ・デッド"(死者に手を伸ばす)へと引き継がれる。浮遊感のある和音こそドリーミーだと言えるかもしれないが、そこに危うげな旋律を持った電子音とブレイクビーツが重なってくると、立ち上がってくるイメージはじわじわとどこか恐ろしく、不穏なものだ。ここで、『ミュージック・ハズ~』にもたしかに、淡くも不気味なアートワークがあったことを思い出す。
 ボーズ・オブ・カナダの新作は時空がねじ曲がっている。

 本作のリリース前にレコード店やネット上に暗号をばら撒きそれをメディアやブロガーに解読させた振る舞いを、大掛かりでもったいぶったプロモーションとして不快感を露にしたひともいれば、スリリングな試みとして評価したひともいたようだが、事実としてそれだけボーズ・オブ・カナダが沈黙した8年間で彼らへの渇望が高まったことの表れであるだろう。近年とめどない広がりを見せるドリーミーあるいはヒプナゴジックな感性は当然、BOCの過去のカタログからの影響が少なくない。そのことにスコットランドの寡黙なふたりも自覚的にならざるを得なかったのかもしれない。
 ゆえに、この約10年における膨大な彼らのフォロワーに対する回答のようなものを僕は想像していたが、その予想はある部分では当たり、ある部分では外れていた。『トゥモローズ・ハーヴェスト』は、きわめてBOCの内的な歴史に言及する作品であるように思えるからだ。しかし結果的に、良くも悪くも気軽な逃避が愛でられる現在にあって、ボーズ・オブ・カナダのどこか厳格な態度は自分たちの音楽がそれらとはまた別のものであることを示すようだ。
 実際に本作を聴いたあと象徴的なものとして僕が思い返したのは、凝った一連の暗号よりも、"リーチ・フォー・ザ・デッド"の逆回転のヴィデオだった。(普通のものはこちら

 とくに説明もなく公開されたこのヴィデオは、見れば見るほど、聴けば聴くほど説明のつかない恐怖心を掻き立てる。幼少期に漠然と抱いた、きわめて抽象的な不安感と似ているかもしれない。どこか「あちら側の世界」との境界が曖昧になっているような......ひとの記憶のなかで、時間の流れが一定でなくなっているような感覚。それはボーズ・オブ・カナダのこれまでの作品にもたしかに見え隠れしていた。このアルバムではその感覚を使いながら、わたしたちの記憶のなかのボーズ・オブ・カナダへと導いていく。
 音としては、なにか決定的に新しいことをやっているわけではない。彼らの徴がよく施された、サイケデリックでメロディアスなダウンテンポ・トラック群。繰り返すが、それらのダークさや不穏さがより目立つようになっており、そして、"リーチ・フォー・ザ・デッド"だけでなく"コールド・アース"や"サンダウン"、"カム・トゥ・ダスト"(塵になる)といった、終わりや死をイメージさせるモチーフが散見される。恐らくアルバム・タイトルの『明日の収穫』に呼応しているのであろう"ニュー・シーズ"(新しい種)などは、ポジティヴなタイトルとは裏腹に決して明るい音を持っておらず、どこかインダストリアルな圧迫感すらあるトラックだ。ここでの「明日」はかならずしも明るくない。

 もういちど"アクエリアス"を聴いてみる。そして、"ジェミニ"......から、本作を通して。その変わらず催眠的なサウンドは、しかしただ気持ちいいだけのトリップをさせてはくれない。現実世界から逃避、というよりはそれを拒絶するように、死者たちの世界にすら手を伸ばす。意識は記憶を逆流し、自分のいる場所がわからなくなってくる。

スプリング・ブレイカーズ - ele-king

 『スプリング・ブレイカーズ』は冒頭、EDMに合わせて水着姿で乱痴気騒ぎを繰り広げる大学生たちを映し出す。と、書くと、あなたは嫌な顔をするだろうか。
 では、ハーモニー・コリンの2007年作『ミスター・ロンリー』まで遡ろう。マイケル・ジャクソンのモノマネをして暮らす青年がマリリン・モンローのモノマネをして暮らす女性と出会い、彼らと同じようにモノマネをして暮らす人びととスコットランドの古城で生活をする......。久しぶりの長編でコリンが描いていたのは変わらず、この世に自分自身として生きる場所が見つけられない子どもたちだった。彼らの実存を、あるいは彼らの見落とされた生を......ただそこに「在るもの」として見つめ、そしてその感情を掬っていた。
 『スプリング・ブレイカーズ』でもそれは変わらないが、基本的には頭の悪い女子大生がビキニ姿でハシャいでいるだけの映画という点で、よりハーモニー・コリンが現在身を置く場所をはっきりさせた作品である。そのサウンドトラックにあまりにもEDM、というかスクリレックスがピッタリで、彼のこんな発言を思い出す......「みんな僕を嫌ってる」。愚かな嫌われ者の子どもたちの傍にこそコリンはカメラを置き、一切の皮肉を介在させずに彼女たちの「スプリング・ブレイク(春休み)」を刹那的に映し出す。

 退屈を持て余す女子大生4人組は、春休みにフロリダに旅行に行く計画を立てているがカネがない。そこで思いつきでやった強盗で資金を得て、まんまと成功、フロリダでハメを外しまくる。そしてそこでエイリアンと名乗るギャング(ジェームズ・フランコ)と出会い、強盗にも加わるようになる......という物語は、さして重要でもない。コリンは「銃を持ったビキニの少女たちのイメージから話を膨らませていった」と語っているが、本当に少女たちはひたすらビキニ姿で画面にいる。彼女たちが「そこにいる」ことだけが、この映画である。
 春休みに大学生たちがフロリダなどのリゾート地に赴きハメを外す伝統がアメリカでは70年代からあるらしく、それは60年代の理想主義の行き詰まりの後日譚としてはあまりに皮肉めいた話だ。そして本作では、その後アメリカで起こった安っぽいカルチャーの様々な要素が合流している。ビッチたちとして出演するのはディズニー出身のポップ・アイコンである元子役たちで、大学生たちは音楽よりもドラッグとアルコールが重要なレイヴで盛り上がり、ギャングスタたちは拝金主義にまみれている。良識的な大人であれば眉をひそめるモチーフを、しかしコリンは義憤でも代弁でもなく、本当に彼らの感傷を知る手がかりとして使う。ブリトニー・スピアーズのバラードを、「銃を持ったビキニの少女たち」に歌わせるシーンで画面を満たすエモーションは、紛れもなく本作のハイライトになっている。チージーさが奇を衒って祝福されているわけではなく、本当になにかポエティックなものとして出現しているのである。そしてまた別のシーンでは、グルーパーのアンビエントを流しながらブノワ・デビエの美しい撮影で彼女たちを静かにとらえる。スクリレックスとブリトニーとグルーパーとウィーケンドが同時に使われる映画など、ハーモニー・コリン以外にあり得るだろうか。



 フロリダでの非日常を謳う彼女たちのバックグラウンドには当然、途方もなく退屈で、未来もなく、安っぽくて愚かな日常と人生がある。だからこそコリンはビキニ・ギャルの春休みを「映画」にする。その一瞬を封じ込めるために。ビキニ・ギャルが銃を持って戦うシーンはノワール映画をかすめながらも、敵のギャングが撃つ銃弾は都合よく彼女たちをよけていく。なぜなら、これは未来のない彼女たちの幻だから。それが終わりゆくものであることは、コリンも彼女たちもわかっている。「スプリング・ブレイク、フォーエヴァー! ビッチーズ!」......終わりのほうでその文句はリフレインとなる。だが、春休みは終わり、彼女たちはまた世界から忘れ去られてゆくだろう。

予告編

世界はまたノー・エイジ! - ele-king

 2000年代末のLAのD.I.Y.なアート・シーンに起こったことを知りたいなら、「シットゲイズ」と呼ばれた感性がこの時期のガレージ・サウンドをいかに輝かせたのか確かめたいなら(そう、ゴミが妙な価値転倒によってではなくただキラキラと光ってみえた)、ノー・エイジの『ノウンズ』(2008年)を聴くしかない。いったいどちらをニュースにすればよいものやら......『ノウンズ』再発か、それとも新譜リリースか、ノー・エイジがまた動き出す!

 彼らの活動拠点であるロサンゼルスのアート・スペース〈ザ・スメル〉や、ディーンが運営する〈ポスト・プレゼント・ミディアム〉は、当時のLAのアンダーグラウンドなシーンを支え、ブルックリンのアーティなインディ・シーンにまったく引けをとらなかった。エイヴ・ヴィゴーダやミカ・ミコやラッキー・ドラゴンズ、シルク・フラワーズやハイ・プレイシズ、〈ザ・スメル〉であればギャング・ギャング・ダンスやミランダ・ジュライまでを繋げる一大アンダー・グラウンド・サークルである。

 音ばかりでなくアートワークもわすれがたい。『ノウンズ』のパッケージは、グラミー賞にて「Best Recording Packaging」部門にノミネートされたものだし、前作の『エヴリシング・イン・ビトウィーン』は、フォールドアウトのミニポスターが貼り付けられた特殊な紙ジャケット仕様。今回ももちろん特殊仕様だから、ダウンロードするよりも実際にパッケージを買うことをおすすめしたい。

 多数のライヴをこなす彼らだが、全米各地のアート・ギャラリーで演奏することも多い。2009年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)でパフォーマンスを行っており、このことはラフでノイジーなガレージ・サウンドがアーティな佇まいを宿すことを端的に示している。

 さあ、今作は? 新曲"カモン・スティムング"(C'mon Stimmung)のストリーミングが開始された。フル・アルバムまで時間ありすぎ! 1曲じゃ我慢できないけど、聴いてみよう。



■新譜リリースだ!

オブジェクト
発売日: 8月7日(水) 日本先行発売(US:8/20)
定価: スペシャル・プライス 2,200円(税込) 
品番: TRCP-123
JAN: 4571260582132
特殊パッケージ仕様
ボーナス・トラック収録

トラックリスト:
1. No Ground
2. I Won't Be Your Generator
3. C'mon, Stimmung (リード・トラック)
4. Defected
5. An Impression
6. Lock Box
7. Running From A-Go-Go
8. My Hands, Birch and Steel
9. Circling With Dizzy
10. A Ceiling Dreams of A Floor
11. Commerce, Comment, Commence
+ボーナス・トラック収録

All songs written by No Age
All songs produced, recorded,and mixed by F. Bermudez
and No Age at Gaucho's Electronics.
Isaac Takeuchi plays cello on"An Impression"
Designed and packaged by Brian Roettinger with No Age

(p) & © 2013 Sub Pop Records

バイオグラフィー:
ロサンゼルスのインディー・ロックの聖地として現代版CBGBとも言えるユース・アート・スペース、ザ・スメル(The Smell)。そのThe Smellを拠点DIY精神に貫かれた活動を続けるバンドが、ディーン・スパント(ドラムス&ヴォーカル)とランディー・ランドール(ギター)によるノー・エイジである。英ファット・キャット・レコーズからリリースされ好評を博したシングル・コンピレーション・アルバム『Weirdo Rippers』に続くセカンド・アルバムである『Nouns』をサブ・ポップから2008年春に発表。米ピッチフォークでは9.2と破格の評価を獲得、同サイトの年間アルバム・チャート3位にも選出された。更にSPIN、ROLLING STONE、NMEなど有名主要メディアでも軒並み高評価を得て、2008年の "ロックの新しい音" を代表する1枚となった。レディオヘッドのメンバーやコーネリアスがノー・エイジのTシャツを着用するなど、話題に事欠かない。

彼らは、2005年に前身バンドのワイヴズで登場し、やがてノー・エイジとしての活動を始めると、LAのDIYなアート・パンク・シーンを守る存在として世界的に知られるようになった。その中心地点が、ザ・スメル(TheSmell)であることはいまや有名な話だが、それは、アートと生活もしくは音楽と生活がひとつになって、クリエイティヴな運動やアティチュードを喚起し、世界中の同じような考えを持ったパンク・ミュージシャンやアーティストの豊かな表現の場となったクラブハウスである。

彼らの2007年のデビュー・アルバム『ウィアード・リッパーズ』(FatCat Records)のリリースに始まり、サブ・ポップからの『ナウンズ』(2008年)、『エヴリシング・イン・ビトウィーン』(2010年)を経て今に至るまで、ノー・エイジは、ピッチフォークからザ・ニューヨーカー誌(2007年11月19日の記事「Let It Up」)まで、驚くほど幅広い筋から熱狂的な評価を得てきたし、グラミー賞にノミネートもされた(アルバム『ナウンズ』のアートワークに対して2008年の「Best Recording Packaging」部門)。
ノー・エイジは汗まみれの地下室でのライヴやアート・ギャラリーでのパフォーマンスから、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の壁を爆音で揺らしたり、地元や海外の別を問わず、型にはまらない様々な場所で演奏したりするようにまでなった。

https://www.subpop.com/artists/no_age
https://noagela.org/
https://trafficjpn.com


■2000年代のマスターピース 再発決定!

ノウンズ / Nouns
発売日: 8月7日 (水) 
スペシャル・プライス: 1,800円(税込) 
品番: TRCP-124
JAN: 4571260582163
ボーナス・トラック収録




Vampire Weekend - ele-king

 深化。ヴァンパイア・ウィークエンドのサード・アルバムは、前2作と比較したとき、そういった言葉で説明すべきだろう。『モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ』は、「進化」と呼ぶよりは「深化」と呼ぶべき大いなる変化を迎えた吸血鬼たちの姿を、シリアスに突きつけている。それは、青年期も後半に差し掛かり(メンバーは現在、全員29歳だ)、「老い」や「成熟」を戸惑いながらも受け入れ、あるいはこの先に待ち構えているであろうそれらをある種の諦念とともに見据え、果敢に音楽的な成果に落とし込もうと苦闘している姿だ。

 ラルフ・ローレンのポロ・シャツを纏い、「プレッピー」という記号を(ある意味戦略的に)弄んだ彼らはもうここにはいない。『ヴァンパイア・ウィークエンド』や『コントラ』を包んでいた暖色系のファッショナブルなカヴァー・アートは、スモッグの濃霧に抱き込まれた沈鬱なビッグ・アップル――まるでディストピアだ――のモノクロ写真に取って代わった。彼らのトレード・マークであったアフロ・ポップ風の心躍る軽快なリズムは鳴りを潜め、テンポはグッとダウン・テンポに、リズムは贅肉を削ぎ落とされてシンプルになった。『コントラ』において控えめながらも重要なファクターであったシンセ・ポップ的エレクトロニクスも後景に追いやられた。そして、ギター・サウンドは前作よりもさらに抑えこまれている。『モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ』の中心を占めているのは、円熟したエズラ・クーニグの歌、ピアノ、そして教会音楽を思わせるような荘厳なオルガンやコーラスだ。

 アルバムからの先行シングルとしてリリースされた"ステップ"は、今作のそういった特徴を端的に表し、彼らが次の段階へと着実に歩を進めていることを伝えている。この曲には驚かされたファンも多いことだろう。チェンバロやオルガンが奏でるパッヘルベルのカノンのようなメロディ、聖歌隊の斉唱のように響くシンセサイザー、エズラの全編に渡って抑制の効いたヴォーカル、スロー・テンポのブレイクビーツ......そのどれもが、これまでのヴァンパイア・ウィークエンドとは一線を画す沈痛な表情を湛えているからだ。もちろん、この曲が持つ宗教的な響きは、前作の"タクシー・キャブ"や前々作の"ザ・キッズ・ドント・スタンド・ア・チャンス"などで試みられてきた「室内楽的」と形容されるクラシカルなアレンジを引き継いでいるとも言えるだろう。しかし、やはり"ステップ"の荘重な響きはそれらとは異なる地点にあると言わざるをえない。過去の楽曲と今作における"ステップ"などの楽曲との間に分断線を引いているのは、恐らく、彼らが新たな船出をするのに十分な年齢を重ねたという事実だろう。リリックでは、親知らずが生えはじめ、少年期の終わりが告げられたとき、「老い」という名の長く辛い孤独な戦いのはじまりを知ったことが綴られている。エズラは歌う。「『老いは栄誉だ』なんて、それは真実じゃない/(中略)本当はもう、僕が彼女を守ることなんて彼女は必要としていない/僕らは本当の死を、生きとし生けるものが進む行く末を知っている/誰もが死に向かいつつある/でも、君はまだ若い」。

 一方でまた、"ステップ"がとりわけ興味深い楽曲であるのは、引用の糸が複雑に絡み合った作品でもあるからだ。エズラは、この曲のスタート地点にソウルズ・オブ・ミスチーフの"ステップ・トゥ・マイ・ガール"(1991年頃に録音された、彼らのデビュー前のデモ音源)があったことを認めている。リリックでは"ステップ・トゥ・マイ・ガール"の"Every time I see you in the world, you always step to my girl"というコーラスをそのまま引用している。さらにこのフレーズは、90年代初頭から活動するラッパー、YZの"フーズ・ザット・ガール"(1990)という曲からのサンプリングであったため、"ステップ"にはYZへの謝辞がクレジットされている(ちなみに、ヴァンパイア・ウィークエンドはソウルズ・オブ・ミスチーフにももちろんコンタクトを取っている。そのとき、ソウルズ・オブ・ミスチーフのタジャイはこの全米1位を獲得する巨大なバンドの音を聴いたことがなかったという。エズラは曲名をそのまま"ステップ・トゥ・マイ・ガール"とするつもりだったが、タジャイはそれを「ワックだから」と言って拒否した)。
 さらに、"ステップ"のクレジットには、70年代、カリフォルニアのソフト・ロック・バンドであるブレッドのヒット・ソング、"オーブリー"(1972)からの引用が明示されている。というのも、"ステップ・トゥ・マイ・ガール"はグローヴァー・ワシントン・ジュニアがカヴァーした"オーブリー"をサンプリングしており、一聴してわかる通り、"ステップ"はそのメロディ・ラインに大きく影響されているからだ。宗教的な響きを持つパッヘルベルのカノン調の"ステップ"は、こういった幾層ものサンプリングが積み重ねられた上に成立している。

 『モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ』を構成しているひとつの重要な要素である「宗教」に注目する上で外せないのは、アルバムのリリース直前にヴィデオが公開された"ヤー・ヘイ"だ。"ヤー・ヘイ"("Ya Hey")はユダヤ教の神、ヤハウェ(Yahweh)をもじっており、ここでエズラが呼びかける「あなた」は明らかにヤハウェである(エズラはユダヤ系の家系に生まれている)。「あなたはご自身の名前すらおっしゃろうとしない/"私は在りて在るものである"と、ただそれだけ/でも、そんな方法で誰が生きられるっていうんでしょう?」という一節がそれを裏付ける。ユダヤ教徒は通常、神の名を直接発語するのは畏れ多いとして口にはしないため、ユダヤ教の神の名の正確な発音はわからなくなってしまったからだ。
 「ああ、愛しいあなた/シオンはあなたを愛していない/バビロンもあなたを愛してはいない/けれども、あなたは遍く存在を愛している/ああ、聖なるあなた/アメリカはあなたを愛していない/だから僕はあなたを愛せない」「母なる国はあなたを愛していない/父なる国はあなたを愛していない/なのに、何故全てを愛するのですか?」。こういった歌詞には、元は同じである神を信じるユダヤ教、キリスト教、イスラム教が相互にいがみ合い、血で血を洗う争いをし続ける、解決の日の目を一向に見ない中東情勢、あるいはそういった状況に対して依然「世界警察」として振る舞いつづけるアメリカへの煩悶が滲み出しているように思われる。エズラの重苦しい言葉の数々には、皮肉や言葉遊びを散りばめる余裕もないほどの悄然とした憂鬱が宿っている。

 ヴァンパイア・ウィークエンドはいま、大きな転機にいる。もしかしたら、曇った表情でニューヨーク・シティを眺める、少し老け込んだ吸血鬼たちの姿に、「お洒落でキュートなインディー・ポップ」としてのヴァンパイア・ウィークエンドに夢中になったリスナーたちは驚きうろたえるかもしれない。しかし、諦念と厭世観が充満し、憂色を纏ったこのアルバムは間違いなく彼らの最高傑作だ。そう言い切ってしまおう。もう後戻りはできない。なにせ人生は前にしか進まない。なぜかって? 後ろに進んだら大変じゃないか。

INNA (Life Force) - ele-king

Life Force / mixer / the Ozeki! @MORE / 一夜特濃 @天狗食堂

6月はLifeForce x Anton Zapのパーティが2本あります。
6/14 Life Force "From Russia With Dub" @Seco (Shibuya)
6/22 Life Force Alfrescorial @Panorama Park Escorial (Hakone)

https://lifeforce.jp

Inna "On Repeat" June2013 Chart  2013.6.7


1
Archie Pelago - Sly Gazabo EP - Archie Pelago Music
https://soundcloud.com/archiepelago/avocado-roller

2
Co La - Moody Coup LP - Software
https://soundcloud.com/experimedia/co-la-moody-coup-experimedia

3
Frits Wentink - Barry Tone EP - Triphouse Rotterdam
https://soundcloud.com/triphouse-rotterdam/frits-wentink-barry-tone-ep

4
JJ Mumbles - Boxes and Buttons (U.YO LOVE remix) - WotNot Music
https://soundcloud.com/wotnotmusic/boxes-and-buttons-u-yo-love

5
Ex-Pylon - Shakes/Helmet - Studio Barnhus
https://soundcloud.com/studiobarnhus/sets/barn014

6
Arthur Boto Conley's Music Workshop - Clifford Trunk - Travel By Goods
https://www.youtube.com/playlist?list=...

7
Hugh Pascall - Joy Padding - Disconnected
https://soundcloud.com/daisydisconnected/joy-padding-by-hugh-pascall

8
Blludd Relations - Blludd Relations LP - Deek Recordings
https://deekrecordings.bandcamp.com/album/blludd-relations-lp

9
Jesse feat. Jimi Tenor - Terminator (Randy Barracuda’s Macic Wand Mix) - Harmonia / Haista
https://soundcloud.com/harmonia/sets/hrmn-21-hst5

10
Alex Burkat - Shower Scene EP - Mister Saturday Night
https://soundcloud.com/mistersaturdaynight/sets/alex-burkats-shower-scene-ep-1
- Cosmo D - Cello Improvisations + Beats Vol.1 CD" (Archie Pelago Music / Observatory)
https://soundcloud.com/cosmoddd/sentiments

pAradice (△/DUNE/Life Force) - ele-king

新旧 ジャンル もろもろ問わず、最近レコードバックに入れたくなるお気に入り10選です

DJ schedule
6/21 (Fri) amate-raxi 6th Anniversary "LIFE"
https://mitibikijinsei.com/log/
6/22 (Sat) Life Force @ Escorial "Ashinoko Panorama Park" (Hakone)
https://lifeforce.jp/
more schedule & info
https://palalog.blog103.fc2.com/

好きなやつ 2013.6.10


1
TRI ATMA WITH KLAUS NETZLE - Microcosmos - Fortuna Records
https://www.youtube.com/watch?v=7r47j1EesyU

2
BATTEAUX - TELL HER SHE'S LOVELY - Columbia
https://www.youtube.com/watch?v=bbGG1Wm7XIc

3
FONDA RAE - HEOBAH(Hey-O-Bah) - Posse Records
https://www.youtube.com/watch?v=K4OVmmv55mQ

4
BONAR BRADBERRY - Lip Service(Maxxi Soundsystem Yeh Yeh Remix) - Needwant
https://www.youtube.com/watch?v=YHXFsOAZpW0

5
SPACED OUT FAMILY - Cover girl - Squaring The Circle.
https://www.youtube.com/watch?v=W-tHDuywo0Q

6
HARMONIOUS THELONIOUS -A.O. - ITALIC Recordings
https://soundcloud.com/italic/harmonious-thelonious-a-o

7
REDSHAPE - ATLANTIC - Running Back
https://soundcloud.com/mixmag-1/red-shape-atlantic

8
Spinnerty - noel's dream - Record Breakin'
https://www.youtube.com/watch?v=9c1oDzK4PpY

9
COWBOY RYTHMBOX - SHAKE - Comeme
https://www.youtube.com/watch?v=cNKGfEpLdYM

10
Archie Pelago - Subway Gothic - Well Rouded Individuals
https://www.youtube.com/watch?v=PbTFZW-YQXk

Mouse on Mars × group_inou × OORUTAICHI - ele-king

 悔しいっす!!!!! 先にやられました。国境を超えた12インチ・スプリット・アナログ盤をDUM DUM LLPが作ってしまいました。しかも、マウス・オン・マーズ、group_inou、オオルタイチの3組によるヴァイナルで、再マスタリングをオウガ・ユー・アスホールの仕事で知られる中村宗一郎氏に依頼するほどの気合いの入れよう。
 収録は、Mouse On Mars「HYM」、group_inou 「ORIENTATION(95's Hip Hop mix)」remixed by 5ive(COS/MES)、OORUTAICHI「Sononi」。アートワークも格好いいです。
 売り切れ必至なので、マジで欲しい人は早めに買ってくださいね。

【DUM-DUM PARTY 2013】
Curated by ele-king & DUM-DUM LLP

日時:2013年6月29日(土)
会場:渋谷O-WEST BUILDING(O-WEST・O-nest・7th FLOOR 三会場同時開催)
開場/開演:15:00(22時終演予定)
出演:
Mouse on Mars(ドイツ)
OORUTAICHI
快速東京
きのこ帝国
group_inou
SIMI LAB
下津光史(踊ってばかりの国)
スカート
砂原良徳(DJ)
ミツメ
森は生きている
YAMAGATA TWEAKSTER(韓国)
渋家(shibuhausu)Exclusive
OL Killer
OGREYOUASSHOLE
大貫憲章
THE GIRL+
...and more!
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チケット:¥6,300(税込 / 全自由 /1ドリンク代別)
※3才以上有料
来場者全員特典:特製ZINE
チケット:5/11(土)発売
チケットぴあ(0570-02-9999)
LAWSON TICKET(0570-084-003)
イープラス(https://eplus.jp/)
※ディスクユニオン、各ライブハウス、高円寺DUM-DUM OFFICE店頭でもお求め頂けます。
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イベント特設サイト:https://party.dum-dum.tv/


■Mouse on Mars Japan tour 2013

2013.6.28(金)
会場:大阪LIVE SPACE CONPASS
開場:19:30 開演:20:00
共演:OORUTAICHI

2013.6.30(日)
会場:渋谷WWW
開場:18:00 開演:19:00
共演:Y.Sunahara

■DOMMUNE出演
MOUSE ON MARS来日 × ヤン・ヴェルナー・ソロ・アルバム『BLAZE COLOUR BURN』発売 記念!!
初登場!MOUSE ON MARSの実験音楽・音響肌、JAN ST. WERNERの貴重なソロ・パフォーマンス!!

出演者:JAN ST. WERNER
https://www.dommune.com/


[info]
◎DUM-DUM LLP(公演に関する問合せ)
https://www.dum-dum.tv
◎DISK UNION(アナログに関するお問い合わせ)
https://diskunion.net/

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