「You me」と一致するもの

Yasuyuki Suda (inception records) - ele-king

Satomimagae - ele-king

 うっとおしい梅雨ですが、曇った空や雨降りを味方につけてしまいそうな音楽もあります。しかも、日本のお寺でそれを聴くことは、
まるでトラベルマシンです。いつも利用している電車から降りて歩くいつもの風景だというのに、そこは異次元の入口です。
 昨年、USのグルーパーに匹敵する作品をリリースしたサトミマガエが、その作品『koko』のリリース・ライヴをやる。場所は、東京は大田区大森の成田山圓能寺。
 共演者は、ele-kingではお馴染みですよ。Family Basikの加藤りま、34423=ミヨシ・フミ、そして畠山地平伊達先生オピトープです。
 そう、これ、かなかり良いメンツなんですよ。しかも、何度も書いているように、お寺でのライヴは、本当に気持ちいいです。


■開催日時場所■
2015年7月4(土曜日)
open 15:30 / Start 16:00
入場料:AD:2,500 Door 3,000
会場:大森 成田山圓能寺 Ennouji (Omori St JR)
住所:東京都大田区山王1丁目6-30
1-6-30 Sannou Ota-Ku Tokyo
 JR京浜東北線大森駅北口(山王口)より徒歩3分
ホームページ https://ennoji.or.jp/index.html
(当イベントについて圓能寺へのお問い合わせはお控え下さい)


■前売り応募方法
下記メールアドレスまでお名前、人数を書いて、メールを送ってください。
katsunagamouri@gmail.com


■Live■
Satomimagae
加藤りま (Rima Kato)
34423
Opitope + 智聲(Chisei)


■Satomimagae
Satomimagae は1989年に生まれ、2003年から現在まで作曲を続けています。東京を中心に活動中です。2012年3月に初のアルバム「awa」をリリース、11月に映画「耳をかく女」の音楽担当。2014年12月にセカンド・アルバム『koko』をWhite Paddy Mountainよりリリース。現在精力的にライヴ活動を展開中。

■加藤りま Rima Kato
2009年よりライヴ活動を始める。ローファイ・ポップを通過しフリー・フォークを経たような哀愁を帯びながらも透明感のある歌声は、ぽつぽつと進むシンプルなアレンジの楽曲によって際立って響く。2010年ASUNA 主宰のカセット・テープ・レーベル WFTTapes から2本の作品をリリース。2012年同氏による3インチCDレーベル aotoao からミニ・アルバム 『Harmless』をリリース。2015年1月、フル・アルバム『faintly lit』をflauよりリリース。2月から5月にかけて日本各地、韓国と断続的に続いたツアーを無事終える。2014年11月に実兄とのユニット Family Basikのファースト・アルバム『A False Dawn And Posthumous Notoriety』をWhite Paddy Mountainよりリリースしている。

■34423
愛媛県出身、東京都在住のサウンドアーティスト。幼少より録音機器や楽器にふれ、音創りと空想が生活の一部となる。 切り取られた日常はサウンドコラージュによって独自のリズムを構築し、電子音に混ざり合い、より空間の広がりを感じさせる。 過去7枚の作品発表し、容姿と相対する硬派なサウンドと鮮烈なヴィジュアルイメージで注目を集め、2013年7月17日に待望の世界デビュー盤"Tough and Tender"(邂逅)をリリースし話題をさらった。その後も都内の大型フェスなどの参加や、ビジュアル面を一任するアートディレクターYU­KA TANAKAとのコラボ作を発表するなど勢力的に活動を重ね、2015年2月に最新作”Masquerade”(邂逅)をリリースした。
また、今夏上映、鈴木光司原作のホラー映画「アイズ」などをはじめ様々な映画の劇伴をつとめている。

■Opitope
Opitope は2002年の秋に伊達伯欣と畠山地平により結成。伊達伯欣はソロやILLUHA、Melodiaとして活動するほか、中村としまる、KenIkeda、坂本龍一、TaylorDeupreeとも共作を重ね、世界各国のレーベルから14枚のフルアルバムをリリース。 西洋医学・東洋医学を併用する医師でもある。漢方と食事と精神の指南書『からだとこころと環境』をele-king booksより発売。畠山地平はKranky、Room40, Home Normal, Own Records, Under The Spire, hibernate, Students Of Decayなど世界中のレーベルから現在にいたるまで多数の作品を発表。デジタルとアナログの機材を駆使したサウンドが構築する美しいアンビエント・ドローン作品が特徴。ヨーロッパ、オーストラリア、アメリカ、韓国など世界中でツアーを敢行し、2013年にはレーベルWhite Paddy Mountainを設立。

R.I.P. Ornette Coleman - ele-king

 私は朝起きるとコーヒーを淹れて、ベランダでタバコをふかしたのち、四十の声を聞き、だいぶガタがきた身体をほぐすために運動するときめているが、そのときかけるBGM選びは慎重を要するうえに困難をきわめる。なんとなれば、その日一日の気分を左右するからであるが、一日の気分なぞ起き抜けの頭にきめられてはたまったものではない。いきおいレコード棚とCD棚の前をうすのろのようにうろうろするハメになる。5分、10分はザラで半時間とはいかないまでもそれくらいかかることもあり、しぶしぶきめた音楽のせいで午前中がムダになることもしばしば、世の勤めびとにくらべるとおかなりお気楽な部類にはいるのである。

 今朝はたまたま、CD棚の南向きの面の右端上から3段目に目がいった。水谷さん、灰野さん、ボアダムス、ザッパとかクレイオラ、アイラーやベイリーやマイルスのジャズ関係にまじって、ケージやサティやフルクサス系がごっちゃになった私の音楽体験の原点にあたるひとたちのコーナーである。私はそこからなんの気なしに『ソングX』を抜いた。パット・メセニーとオーネット・コールマンとの双頭作で、リリースから20年経ったのを記念した2005年のこのデラックス・エディションには未発表曲を数曲おさめている、しかも冒頭に。これがカリプソを思わせる千鳥足の軽快なナンバーで、萎びた身体でする運動にはもってこいだったのである。オーネット、チャーリー・ヘイデンとメセニー、ディジョネットの相性もわるくない。デナードはいらない気がするが、それは本作にかぎったことではない。ところがオーネットとデナードの関係を、湯浅さんは『音楽談義』で、『The Empty Foxhole』から親子の会話として読み解かれ、目から鱗が落ちた。坂田明さんは『ジム・オルーク完全読本』で、ニューヨークでオーネットに会ったときの逸話とともに「どんなことも3年やれば世の中に認めてもらえる場合がある」下積み時代、オーネットのこのことばに賭けた、とことばあらたに語った。『ソングX』の未発表テイクはこのアルバムがメセニー主導であり、オーネットすぎたのではぶいたのだろう。そこにはフォルムはあるものの外郭は軟体化しているが、恣意性によるものではなく、内在するものが、自生するように増殖し、かたちを変える。私は運動を終えたてつづけに聴いた『Dancing In Your Head』『Body Meta』『Virgin Beauty』でもその印象は変わらなかった。おそらく『ジャズ、来るべきもの』からジャズの十月革命の季節をはさみ、ブルーノートのゴールデン・サークルのライヴ盤をいま聴き直しても変わらないだろう。フリー・ジャズといいながらデタラメでもきまりきった型でもない。おそらくオーネットしか出せない音列とニュアンスがあり、彼はそれをハーモロディックと呼び、作曲と即興の体系におとしこもうとしたが、むしろそれは両者の中間領域の階調のようなものであり、この複雑なグラデーションは理論化にそぐわない、オーネット・コールマンの身体そのものであり、彼と彼の身体の重力の圏域にとらわれた共演者たちのもたらすものであり、根源的にジャズだった。その身体は喪われた。

 ムシのしらせなどというものがあるなら、これがそうだったのだろう。深夜、仕事のためにキング・クリムゾンのライヴ音源を聴きかえしながら、即興ならオーネットのほうが、いやベイリーは――とむつむつ考えていたら、ケータイが光った。着信を告げる点滅で、開くと「24通の未読メール」とある。すわ迷惑メールか、いかがわしいサイトをみた憶えもないのに、と焦って確認したら、保坂さんと湯浅さんとのやりとりが同報されていた。そこでオーネット・コールマンが死んだのを知った。私信なので引用しないが、ひとつだけ。「死ぬことと遠すぎる」と湯浅さんは書いた。そのとおりです。

 6月11日、オーネット・コールマンはニューヨークでこの世を去った。「85歳。テキサス州出身のアルトサックス奏者。伝統的な音楽技法にとらわれず、より自由な表現形式を可能にした「フリー・ジャズ」をリードした」とAFP時事は報じている。くりかえす。その身体は喪われた。しかし自由は死せず、と私は板垣退助みたいことをいいたいのではない。というか、ほんとうに音楽の自由は死んでいないのか? 目がさめたらもう一度考えてみようか、音楽そのものとなり、ついに死ぬことと遠くなったオーネット・コールマンの音楽を聴きながら。

2015年6月12日払暁

Eccy - ele-king

The 10 Best Hudson Mohawke Productions

Special Talk : peepow × K-BOMB - ele-king


peepow A.K.A マヒトゥ・ザ・ピーポー
Delete Cipy

Blacksmoker

Hip HopExperimentalAbstract

Amazon

 目を閉じて想像したまえ。深夜、K-BOMBに呼び出され、マヒトゥ・ザ・ピーポーとの対談の司会を託された二木信の精神状態を。
 それはまるで……たまに電車で一緒の車両に乗り合わせる、名も知らぬあの美しき貴婦人から、いきなり電話をもらって、「いますぐ来て!」と言われるようなものだろう。そんなあり得ない、ウキウキした感情を以下の対談から読み取っていただけたら幸いである。
 もちろん賢明な読者には、これが先日〈Blacksmoker〉からリリースされたマヒトゥのラップ・アルバム『DELETE CIPY』に関する密談であることは、察していただいていることと思う。つまり、もう聴いている人はその余談として、まだ聴いていない人には聴くための契機としてある。

 まあ、悪名高きロック・バンド、下山のヴォーカリストのマヒトゥ(熱狂的なファン多し)が、名門〈Blacksmoker〉からK-BOMBをはじめとする素晴らしいトラックメイカーたちと共演していること自体が、すでに巷では話題となっているわけだが、そこでもっとも好奇心を掻き立てられることのひとつは、マヒトゥとK-BOMBがどのよう状態のなかで会話し、創造していったのかというそのプロセスなのだ。
 二木、この場にいられたお前が心底羨ましいぜ。(野田)

マサトはさ、靴下もさ、あってないんだ。オレと一緒なんだよね。──K-BOMB
たしかに揃ったことがないかもしれない。──peepow

二木:マヒトゥさんとK-BOMBが出会ったのはいつですか?

K-BOMB:わかんない。

peepow:あんまり思い出せないね、オレも。

K-BOMB:カルロス(・尾崎・サンタナ。GEZANのベース)に電話してみたら? 彼はそういうことを憶えている人だ。

二木:ライヴの現場?

peepow:ではない。

K-BOMB:わかるだろ? オレがいつも酔ってるのは。憶えてないな。KILLER-BONGに聞いてみたらいいんじゃねーか? 奴は家で寝てるよ。

二木:K-BOMBから見て、マヒトゥさんの才能とは?

K-BOMB:そういうのは、実のところよくわからない。魅力か。人物とか自由なとこ? かなぁ。

二木:自由とは?

K-BOMB:なんかスケボーにも近いような感じさ。

peepow:オレの〈Blacksmoker〉のイメージもスケボーのりにちょっと近い。好奇心の波みたいのがあって、いい風が吹いている。オレは人も場所もニュアンスでしか感じ取ってない感じがする。

K-BOMB:人といっぱい会うけどさ、才能って人物でしかないと思うんだ。そういうものの塊だと思う。目立つ、そういう雰囲気だ。

peepow:K-BOMBから最初「チャリ、かっこいいな」みたいな話をされたのを憶えてる。

K-BOMB:ママチャリでさ真っ赤に塗られててハンドルが片方無いんだ

二木:マヒトゥさんから見て、K-BOMBの表現者としての魅力は?

K-BOMB:オレとかさ、けっこう関西ノリなんだと思う。関西の人によく言われる。「K-BOMBくん、関西っぽいな」って。

peepow:いや、わかる。東京に来て、数字やデータみたいなもので足場を作ってる人が多いことにげんなりしていた時期にK-BOMBに会って、生き物感バーンって、純度あるなーって感じた。

K-BOMB:そういう軽いノリが似てんだと思うな。

peepow:恋に落ちる時もパッと一瞬目が合って、「あ、好きかも」ってなる。理屈や理由なんかそのだいぶん後でしょ。それは匂いやニュアンスとしか言えない。K-BOMBには細胞レベルの何かってやつを感じた。血なまぐさい獣の匂い。おいしそうなもの目の前に広がってたら、蛍光色でも1回つまんで食ってみる、みたいな感覚に近いな。ドキュメントがまじわるってことは。

K-BOMB:蛍光色っぽい感じだ。わかる?

peepow a.k.a マヒトゥ・ザ・ピーポー feat. K-BOMB「SUNDANCE」

二木:『Delete Cipy』を聴いたり、それこそ“SUNDANCE”のミュージック・ヴィデオを見ると、ふたりが色や感覚で何か感じ合っていることは伝わってくる。

K-BOMB:うん。そうだね。

peepow:利害とかじゃないすよ。

K-BOMB:でも一方で、数字も手にしとかないと、またその逆をというのもある。そういうところを無視してやっているようで、実のところ絡ませたい。そうじゃないとあんまり意味がない。それが数字を相手にした時の面白さなんじゃないか。

peepow:オレは〈Blacksmoker〉やK-BONBをアンダーグラウンドと思ったことはないですね。そういう文脈を超越しよう姿勢で数字と関わってる。いびつなストリート感でしょ。

K-BOMB:アンダーグランドだと言われるけどさ、俺もそういう感覚はまったくないんだ。ただちゃんとリスペクトもある。だからさ、試してる、やってみる、やりたい。ただ、それだけなんだ。

二木:その話につながると思うんですけど、マヒトゥさんはキレイな歌声も出せるし、上手く歌おうと思えばいくらでも歌えて、メロディアスなポップ・ソングも作れる人だと思うんですよ。ただ、今回のアルバムでも上手く歌ったり、ラップすることを追求してるわけじゃないですよね。そこが面白いなと。

K-BOMB:そういうことだと思う。オレにもそういう風に聴こえる。

peepow:ジキルとハイドじゃないけど、朝起きた時は世界も征服をできるかもしれないぐらいの無敵感でも、寝る前にはひとりぼっちで無気力で何もやる気が起きないことすらある。ひとつにキャラクターをまとめることなんて本当は誰も不可能なはずなんだ。オレはいろんな場所を歩いて、歌ったり、形にしながら、自分が思ってることを楽しみながら探してる。おれのなかにいる何人もの顔を解放してあげたいんだよね。だから、卑屈な感じとか悲壮感はない。結局、映画にした時にいちばんグッとくるほうを選ぼうって感覚あるな。最速で最短でキレイなゴールに行きたいわけじゃない。全感覚でいい匂いのするほうに流されてる。

K-BOMB:感覚は大事だよ。絵を描いても写真を撮っても、イイ感覚で見えてると違う。ナナメ感もあるけど、ちゃんとまっすぐしてる。そういう感覚なんだ。マサトはバランスがいいんじゃないか。

二木:さっきの歌の上手さの話で言えば、K-BOMBも上手くフロウするラップもできるわけじゃないですか?

K-BOMB:できる。

二木:でも、あえてやらないわけでしょ?

K-BOMB:やらない。やれちゃうからね、つまらない。オレがつまらないんだからさ、人を楽しませることができない。

peepow:だから、新しい正解のカタチみたいなのを落としたいっていうのはある。

K-BOMB:どんどん知りたいんだからさ、そこら辺が重要で感覚なんだろうね。

peepow:オレのK-BOMBの好きなところは、生き方としてK-BOMBというジャンルになっているところ。その人がそのまんま音楽の言葉とイコールにならないやり方は嘘だと思うから、そこはリスペクトあるね。オレも自分がやるんだから、全部正解って言わせるよ。それは当たり前のことなんだ。

K-BOMB:そういう感覚でチャレンジして、自分を持っている人がやれんだと思う。

peepow:今回『Delete Cipy』を作って、ヒップホップは簡単にできるもんじゃないなって感じた。ただ、ヒップホップは血や生き方や生活だと思うから、そういう意味で言えば、オレもある意味ヒップホップだと思う。自分のフィルターやノドを通ったものはすべてオレのカタチになっていくから。

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上手くなるっていうのは、下手になるっていうことでもある。だから、わざと変えていく。そうすりゃさ、オレははじめた時の気持ちが持続していく。オレがよく知らないものに触れることはラップをはじめた時と同じ感覚に戻ることなんだ。──K-BOMB


peepow A.K.A マヒトゥ・ザ・ピーポー
Delete Cipy

Blacksmoker

Hip HopExperimentalAbstract

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二木:今回マヒトゥさんがラップ・アルバムを作ろうと思ったのはなぜですか? 

peepow:成り行きだと思うんですけど、自分も最初からそうありたいと思ったんですよね。ただ、オレのラップは、ヒップホップの人が言うラップなのかはわからない。ただ、少なくともオレが純度100%であることは間違いない

K-BOMB:ラップでしょ。

二木:ラップですね。

K-BOMB:うん。ラップにね、定義はないんだよね。韻踏んでりゃラップなんだから。そうだろ?

二木:韻を踏んでればラップか。うん。

K-BOMB:違うの?

peepow:ラップって何なんすか?

K-BOMB:ラップって何なの?

二木:フロウするのがラップじゃないですか。

peepow:オレのアルバム、ラップなんですか?

K-BOMB:だったら、そうとうフロウしてるからね。

二木:ラップですよね。だから。

K-BOMB:そうだね。いいアルバムだよ。

二木:そもそも表現者、ミュージシャンとしてのマヒトゥさんの原点はどこにありますか? 例えば、ロックなのか、パンクなのか、ブルースなのか。

peepow:そのどれでもないですね。何にも考えずに生まれた瞬間は、自分の感情と直結して言葉やルールがまったくわからないのにフロウがバーッと出てくるわけじゃないですか。オギャーって泣いて生まれてくるあの一発目のフロウですよ。いろんなルールや人と会っていく中で上手いこと表現しようとしているけど、オレは最初の、何も考えずに生まれた瞬間に近づきたい感覚がある。失っちゃったものを取り返しにいきたい。

K-BOMB:上手くなるっていうのは、下手になるっていうことでもある。だから、わざと変えていく。そうすりゃさ、オレははじめた時の気持ちが持続していく。オレがよく知らないものに触れることはラップをはじめた時と同じ感覚に戻ることなんだ。だからさ、新しくはじめたことをラップのようにやるだけだよ。何も変わらないんだよね、オレは。気分も変わらない。何をやってもそのうち上手くなっちゃうからな。ふっ(笑)。

二木:それこそ『Delete Cipy』にはK-BOMBの他に、KILLER-BONG、LORD PUFF、KILLA-JHAZZが参加していますよね。とくにLORD PUFFとKILLA-JHAZZは久々登場じゃないですか。

K-BOMB:彼らが連絡して来たんだよ。やらせてくれと。仕方ないよ。

二木:久々に連絡して来たのはなぜ? 

K-BOMB:JUBEくんがコンタクト取ってたみたいだ。そうでしょ?

JUBE:KILLA-JHAZZやLORD PUFFだけでなく、BUN君、WATTER、GURU、そしてKILLER-BONG。狂ったメンバーが集まりました。

二木:LORD PUFFとKILLA-JHAZZはかなり久々じゃないですか?

K-BOMB:だいぶ久しぶりだな。LORD PUFFはカリフォルニア辺りに行ってたらしーし。

peepow:オレも気になるとこですね。

K-BOMB:K-BOMB、KILLER-BONG、KILLA-JHAZZは三つ子だからさ。LORD PUFFはイトコだけど。アナル・ファイタ(ANAL FIGHTER)もイトコなんだ。そーゆーコトになってる。

JUBE:ファイタはTHINK TANKのP……

K-BOMB:彼はエグゼクティブ・プロデューサーだよ。

二木:やはりマヒトゥさんのキャラクターと才能を見て、今回はKILLA-JHAZZとLORD PUFFだと。

K-BOMB:だいたいさ、ヤツらの曲もその場でパッと作って、その場でパッとマサトがラップを入れる感じだったんじゃないか。KILLER-BONGのことも全然わからないからさ。オレ、K-BOMBだからさ。彼らにまた後日インタヴューしたらいいんじゃないの? KILLER-BONGはいま徳島辺りに行ってるんじゃないの? 

二木:なるほどね。アルバム制作はマヒトゥさん主導で作っていった感じですか?

K-BOMB:KILLER-BONGは50曲ぐらい作ったけど、50曲渡すということは、そのすべては完成形じゃない。KILLER-BONGは、他にもっと完成度の高いトラックがあるのに、マサトが20%ぐらいの完成度のトラックでどんどん勝手に歌ってしまったんだと。「なんでそれで歌うの? こっちにもっといいトラックがあるじゃねぇか」と。

peepow:食べ物だってすげぇおいしそうなスパイスの効いたカレーじゃなくて、パーキングエリアのカレーが食いたい時だってある。理屈じゃないんですよ。

K-BOMB:だから、KILLA-JHAZZやLORD PUFFがスパイスを注入する役だ。トマトとかセロリとか。ただ、KILLER-BONGは大変だったみたいだな。ライヴばかりの生活の中50曲近く作って渡すのは。

peepow a.k.aマヒトゥ・ザ・ピーポー feat. K BOMB 「blue echo」

二木:BUNさんがトラックを作った“sleepy beats”(KILLER-BONG『64』収録曲でpeepow a.k.a マヒトゥ・ザ・ピーポーが歌った楽曲をBUNが再構築している)で、マヒトゥさんはいろんな声を出してますよね。

K-BOMB:あれ、いいよね。

二木:もちろんすべてマヒトゥさんの声なんですよね。

peepow:そうです。

二木:これだけ多彩な声が出せるというのはマヒトゥさんのヴォーカリストとしての武器であり、魅力ですよね。

K-BOMB:そうなんだよ。オレも出したい。オレも歌とか歌いたいけど、やっぱヘタなんだ。いい声が出ない。

peepow:はははは。

Fumitake Tamura (Bun) / Sleepy instrumental [[SplitPage]]

K-BOMBと最初に会った頃に、K-BOMBがオレの弾き語りのソロのYouTubeの映像を〈Blacksmoker〉の事務所で観て、「狂ったことしかできないヤツはダメだ」と言っていて、スッと腑に落ちた。──peepow


peepow A.K.A マヒトゥ・ザ・ピーポー
Delete Cipy

Blacksmoker

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JUBE:マヒトゥはラップに初挑戦的なイメージだけど、GEZANのライヴを見たときに「もうラップしてるじゃねーか!」って思ったよ。色は違えど、常に挑戦し、すでに多彩な武器を備えてる。K-BOMBと重なったな。これは面白いと思ったよ。

K-BOMB:武器、いっぱいあるよ。声も七色ぐらい持ってる。オレもやっぱ物真似、上手いからさ。そう言えば、アルバムは13曲だけど、あと10曲ぐらいあった。だからさ、20数曲ぐらいラップを録音して、13曲に絞った。だって、マサトは1日に5曲とか録るんだ。似てるよな

peepow:トラックをもらって、その日にリリックを書いて、次の日には録音してる。そういう曲が入ってる。24時間オレなんだから時間はかからない。

K-BOMB:オレたちのスケジュールが合わないぐらい早かった。

JUBE:しかもだいたい一発録り。

K-BOMB:声の重ね方もラッパーのように上手いね。あと、マサトは少女マンガみたいなさ、雰囲気あるわけよ。

peepow:ははははは。

K-BOMB:ファッションもそうだし。

peepow:オレ、ファッション、少女マンガ感ある? 

K-BOMB:あるんじゃないの?

peepow:どこ?

K-BOMB:たまにあるんだよ。

二木:それ、髪長いとかそういうことじゃなくて?

K-BOMB:そうかもしれない。

peepow:そこじゃん(笑)。

K-BOMB:はっはっはっ。いや、だけど、マサトのファンや客は、いまのオレの意見に「わかります」って納得するはずだよね? マサトはロマンティストなのかもしれないな。ところで、君はマサトのアルバムをどう思ったんだい?

二木:相反する要素がせめぎ合っている作品だと思いましたね。混沌と秩序、理性と感情、上手いと下手、本当と嘘、美しさと醜さ、白と黒、そういうものが常にせめぎ合って闘っている。そのせめぎ合いが凄まじいなと。

peepow:2時間の映画じゃないから、そこで曲が完結したとしても、はじまりや終わりは、オレはないと思う。ずっと続いていて、はじまったり終わったりしている感覚がずっとある。だから、この作品も曲も続きのなかの最初の部分を切り取っただけかもしれない。K-BOMBと最初に会った頃に、K-BOMBがオレの弾き語りのソロのYouTubeの映像を〈Blacksmoker〉の事務所で観て、「狂ったことしかできないヤツはダメだ」と言っていて、スッと腑に落ちた。

二木:マヒトゥさんは、K-BOMBのラップする姿は見て、どういう印象を持ちました?

peepow:音との距離が近い。そう感じた。MPCを叩いている時も会話しながら叩いてるし、自然に手元で絵を描いたり、コラージュを切ったり、そういう速度や距離の近さが面白いと感じた。頭で先に考えて、遅くなる人が多いなかで、細胞レベルでバッと感じたことをそのまま行動に出せる。たとえば、今回のリリースもGEZANやオレのライヴを観て、何かの可能性を感じたとかではなくて、オレと会話している時のニュアンスで何かをやろうとなって実現している。その速度がK-BOMBや〈Blacksmoker〉の面白さだと思う。

二木:ということは、普段からけっこう会話してるんですね。

K-BOMB:してるね。メールもしてるしさ。

peepow:まあ、一向にマサトという呼び方が直らないけど。マヒトゥなのにマサトと呼ぶ(笑)。

二木:あ、本名がマサトじゃなかったの!!?

peepow:マヒトゥ。

K-BOMB:マサトで憶えちゃったんだよね。

peepow:はははは。

K-BOMB:マヒトゥって言う時もあるけど、オレのなかじゃ言いづらい。言いづらくて、会話が続かなくなっちゃう。

peepow:はははは。

二木:さすがですねー(笑)。最近、K-BOMBは自分より若い人とやる機会も当然増えていってますよね。

K-BOMB:若い人といろいろやると楽しいな。オレは知らないあいだ長いことやってるけど、いまでも同じ気持ちでずっとやっている。若者から大人になってそのままずっと続いていくんだろうなと思っていたし、そうやってきている。オレはそういうヤツが好きなんだ。マサトもそういうヤツだ。でも、世のなかはそういうヤツばかりではないってことに最近気づいたんだ。そういうのはつまらないよな。

peepow:あと、何かをテクニックだけで言ったり、やったりするのもつまらない。だからと言って、できない拙さみたいのを売りにするのもイヤだし、つまらない。今回のアルバムもそうはしたくなかった。

K-BOMB:あと、狂人を演じるようなヤツもつまらない。

peepow:狂人を演じるヤツはめちゃくちゃマトモだからね。真面目を絵に描いたようなヤツが狂人を演じる。つまらないからおれの半径10mにはいらない。

K-BOMB:オレの前に狂人ぶったヤツが現れやすいんだ。何故なのかわからねーけど狂人みたいなフリして荒々しい感じで近づいてくるんだけど、無視してると、そいつは普通に戻っちゃう。たまに本物の狂人もいるけどね。そういうヤツとは長年付き合っているよね。ある狂人はオレのライヴに10何年も来てくれている。あとさ、マサトはさ、靴下もさ、あってないんだ。オレと一緒なんだよね。

peepow:たしかに揃ったことがないかもしれない。

K-BOMB:オレもあまり揃ったことがない。そういう意味ではいろいろ似てて面白いんだよね。女物の靴下穿いてたりとかさ。おパンティも穿いてるかもしれないな。

二木:ははは。

K-BOMB:あと、マサトと俺は鼻のデザインが同じだ。

peepow:オレとK-BOMBとジャッキー・チェンの鼻のデザインは同じ。

K-BOMB:オレはけっこう鼻のデザインを見てるからね。HIDENKAも鼻のデザインがオレと似ている。オレは人と目を合わさないで鼻の部分だけ見て喋ったりするんだよね。

peepow:Phewさんがあるライヴで、いちばん簡単に人を騙せるのは目の色だ、みたいなことを話してたのを思い出した。目の色だけは嘘つけないってみんな思ってる分、目つきとかで真実味を出して人を騙すことがいちばん簡単だと。

二木:K-BOMBの目つき、ほんとに怖い時がある。

K-BOMB:ふっ(笑)。やめて。

peepow:鼻は嘘をつけない。

K-BOMB:うん。そうだと思う。

peepow:目は嘘をつける。

K-BOMB:オレは顔がいいのが好きだからね。一緒にやったり、何かをやってもらう時に、こいつがやるんだったらなんでもいいよって思える顔が好きなんだ。マサトもそう。

peepow:ずっとそういう表情で生きてきてるわけだから、自然とそういう顔になりますよね。

K-BOMB:顔に出てくる。顔がさ、輝きはじめる。汚い格好だろうが、シャネルとか、そういう豪華なパーティ会場にでも行ける顔っていうのがある。だから、売れていくヤツは顔がどんどん変わっていく。でも、会った時から顔が変わっていかないヤツっていうのは、わからないね。

peepow:プロフィールに具体名をどんどん出したり、誰々と知り合いとか出したり、そういうヤツはほんとに信用できない。基本的にそういうことを言っている時点で遅い。いや、その前にオレはもうお前の顔を見てるし、鼻も見ちゃってると思う。

K-BOMB:そうだよな。マサト。顔を見れば、だいたいさ、そいつがどれぐらいやってるのかわかるじゃない。そいつがどれだけ真剣にやってんのかは顔にも出てくるよね。

peepow:だからマサトちゃいますけどね。

(協力:みどりちゃん)

■■■■■■■ Release Party!! ■■■■■■■■
6/28(SUN)18:00-
at 中野HeavySickZero
ADV:2300yen+1D

LIVE
peepow special live set feat. GEZAN、skillkills、BUN
OMSB
NATURE DENGER GANG
skillkills
THE LEFTY

DJ
Fumitake Tamura(BUN)
WATTER
ひらっち(MANGA SHOCK)
イーグル・タカ


■前売りチケット
https://eplus.jp/sys/T1U90P006001P0050001P002155789P0030001P0007

Pファンクとは何か? - ele-king

 先ごろ来日したばかりのPファンクが、日本ツアーを終えた直後の4月18日、レコード・ストア・デイ2015の限定商品のひとつとして、高額ボックス・セット『Chocolate City: London~P-Funk Live At Metropolis』を発売した。14年のロンドン公演を、DVD1枚、CD2枚、12インチ・シングル2枚という3種類のメディアに収めた作品で、パーラメント名義の75年作品『Chocolate City』の40周年記念にかこつけた豪華装丁版。品のある茶色の外箱はチョコレート・ボックス風の仕様、アナログ盤はマイルドとビターのチョコレート・コーティングをイメージした彩色が施されている。ふと思いついて今年の限定商品を価格順でソートしてみたら、案の定、一番の高額商品だった。買うんだから高いの出さないでよ~、と泣く泣く購入したが、公式ライヴ作品ならではのカメラ・ワークと鮮明な映像で、いつも通りの“Ain't no party like a P-Funk party(Pファンクのようなショーをやるバンドは他にない)”な楽しいライヴと、画面いっぱいに弾けるジョージ・クリントンの笑顔を見たら、なんかもう高かったけどいいやという気持ちになった。
 さて、いつも普通に「Pファンク」と言っているが、冒頭に紹介した高額ボックス・セットは「ジョージ・クリントン」名義だ。それ以外にも、長いキャリアの中で行なわれたツアーや発表された作品は、「ファンカデリック」名義、「パーラメント」名義、それに「Pファンク・オールスターズ」名義もある。こうした名義の多さはPファンクの実体をわかりにくくしている要因のひとつだと思うので、今回はこれらの名義に着目しながら、Pファンクの軌跡を大まかに辿ってみよう。

 そもそもの始まりは、まだ学生だったジョージが50年代後半に結成したドゥーワップ・グループ「ザ・パーラメンツ」だ。当初はバック・バンドともどもスーツでキメていたが、60年代半ばくらいまでにバンドに定着した十代の若者たち(ビリー・ベースや故エディ・ヘイゼルなど)は、当事、流行していたブリティッシュ・ロックの影響を受けてサイケなファッションに身を包み、クリームやジミ・ヘンドリックスなどを好んで聴いていた。ジョージもさすがにドゥーワップはもう時代遅れだと感じていたため、若い彼らの志向性を全面的に取り入れることに決め、その上で“Go crazy!”と号令を掛けた。これを境に、メンバーは競うように奇抜な衣装を着用するようになり、ジョージに至っては顔を出す穴を開けたシーツを全裸の上にはおるだけなど、クレイジーさに拍車をかけていった。つまり“Go crazy!(クレイジーになれ!)”の号令こそが、“Ain't no party like a P-Funk party”なライヴを展開するPファンクの現在の姿に直結する基盤を築いたのだ。
 そのうちバック・バンドには「ファンカデリック」という名前がつき、相前後して契約上の問題で「ザ・パーラメンツ」名義が使えなくなったため、ヴォーカル陣とバック・バンドはひとまとまりのサイケなファンク・ロック・バンド「ファンカデリック」となって、この名義でツアーをし、60年代終盤にはこの名義でレコード契約も結んで、年1作ペースでアルバムを発表するようになった。一方の「ザ・パーラメンツ」も名義の使用権が戻ったが、あまりに古臭いという理由で「パーラメント」に改名。70年には単発契約ながら『オズミウム』を出し、「ファンカデリック」名義の作品での音楽性を、もう少しポップにしてみたが、その試みはそれっきりになった。
 そして時は70年代半ば。ジョージはブーツィー・コリンズとの協力体制の下で、もはや有名無実化していた「パーラメント」をファンク部門の名義に仕立て直して再始動させた。これ以後、総がかりでレコーディングした曲を、「ファンカデリック」にはギター重視のファンク・ロック、「パーラメント」にはヴォーカルとホーンズを前面に立てたファンク、という基本方針にしたがって振り分け、それぞれの名義のアルバムを発表するという二本立ての体制が整い、一気に全盛期に突入する。当時のツアーは「パーラメント/ファンカデリック」名義で回り、ライヴ盤でも有名な「アース・ツアー」をはじめ、ステージ上にマザーシップが降り立つ壮大なショーを全米各地で展開。それが宗教的な熱狂を伴って迎え入れられたのはご存知のとおりだ。
 だが80年代に入ると比較的安価なシンセサイザーが普及したため、猫も杓子もエレクトロ化して人員削減するようになり、この風潮は大所帯のセルフ・コンテインドが基本で経費がかさむファンク・バンドにとって、大きな逆風となった。ちょうどその頃、ジョージが新たに立ち上げたレーベル、アンクル・ジャムの頓挫という事情も重なって、Pファンクは一派離散という最悪の状況に陥った。しかしいつの間にかエレクトロにも対応していたジョージは、自分の名前でソロ契約を結ぶと“Atomic Dog”の大ヒットを出して鮮やかに蘇り、「Pファンク・オール・スターズ」名義の大所帯バンドによるツアーを再開。この時の驚異的にタイトなライヴの記録は、ライヴ盤『Live At The Beverly Theater』に残されている。しかし“Atomic Dog”級の大ヒットが続かなかったため、大所帯バンドでのライヴは続行不可能となり、活動は再度、停滞した。80年代後半には、Pファンクはこのままフェイド・アウトしてしまうのかと思われたが、そんな矢先、当事、急速に人気を高めていたヒップホップのサンプリングによって、にわかにPファンクの再評価が進み、欧米のみならず日本でも、予期せぬPファンク・ブームが巻き起こった。そうした中で迎えた89年の初来日公演は、「うわ大勢いる。ジョージどれ? うわ音大きい。うわ全然、終わらない」と、生まれて初めて体験するPファンクの長尺ライヴの間中、興奮しっ放しだった。
 この頃は「Pファンク・オールスターズ」名義を使うことが多かったが、94年になると、ジョージは唐突に「パーラメント/ファンカデリック」名義を復活させた。何か重大な意味が? と、当時はいろいろ深読みしたが、たぶんその時その時で権利がクリアーになっていて使える名義の中で、最もインパクトのある名義を使う、というくらいのことだったのだろうと今は思っている。その後は「Pファンク・オールスターズ」だったり「パーラメント/ファンカデリック」だったり、わりと適当な感じだったし、要は名義が何であろうと実体はひとつ、難しく考えて振り回されることはない、ということだ。試みに、現在の形態に最も沿った呼称を考えるとすれば、「ジョージ・クリントン&ファンカデリック」になるだろうか。その理由は、「ザ・パーラメンツ」に端を発する「パーラメント」名義はヴォーカル・グループ、もしくはブーツィーを巻き込んだレコーディング・プロジェクトに使うのが相応しく、バンドのメンバーたちは今も、自分たちは「ファンカデリック」である、という意識が強いからだ。
 では「Pファンク」という名義は? ということになるが、これは「パーラメント/ファンカデリック」や「Pファンク・オールスターズ」などと同様、ジョージと彼が率いるグループの総体の呼称。だがたぶん商標登録が関わってくるような正式な名義ではなく、カジュアルな呼称だと思うので、厳密な区別が必要ない時は、いつでも使える便利な言葉だ。余談ながら、この言葉が公式に使われたのは、76年にパーラメント名義で発表された『Mothership Connection』収録曲の“P-Funk”が最初だが、もともとは単に「パーラメント」+「ファンカデリック」を略した通称的なものだったのではないかと思う。「ファンカデリック」名義でひとまとまりになっていた頃の67年には、“Parliafunkadelicment Thang”というマネージメント会社が設立されているので、たとえば“Parliafunk”→“Parfunk”→“P-Funk”とかいう具合に変化しながら、会社の通称として始まった可能性もある。“P”の意味を問われたジョージが“Pure”、“Perfect”、“Pee”など、“P”で始まる単語を列挙して、「最高のものから最低なものまで全部さ!」などと言うのを聞いたり読んだりしたことがあるかもしれないが、たぶんそれは、サーヴィス精神旺盛なジョージの、楽しい後付けだろうと思っている。
 蛇足ながら最後にもうひとつ。昨年秋に出版されたジョージの自伝『Brothas Be, Yo Like George Clinton Ain't That Funkin' Hard On You?』にも書かれていたので、もう言っていいと思うが、ジョージは長年の悪癖だったドラッグをついに断ち切った。そのため、直近の4度の来日、つまり09年の東京ジャズ、11、13、15年のビルボード・ライヴでの公演では、そのたびに前回より元気になっているという信じられない事態が起こっている。さらには40ポンドだったかの減量にも成功して、動作のひとつひとつも目に見えて身軽になった。00年、02年の来日時、そして06年に米東海岸のライヴを見に行った時には、話しかけるのもはばかられるくらい、傍目にも健康状態の悪さがわかって気掛かりだっただけに、近年のジョージの健康的な姿を見ると感慨もひとしおだ。今年7月の誕生日で74歳になるが、次回の来日でも今回よりさらに元気な姿で現れて、“Ain't no party like a P-Funk party”な、とびきり楽しいショーを見せてほしい。それもできれば3時間超のヤツを!

Downtown boys ダウンタウン・ボーイズ


photo by Y.Sawai

 ダウンタウン・ボーイズは、プロヴィデンス出身のバイリンガル、ポリティカル・サックス・パンク・パーティ・バンドだ。ここ2、3年の間、プロヴィデンスのバンドに関わらず、ブルックリンのローカル・バンドのように、ブルックリンで絶えずライブをやっている。サックス2人、ギター、ベース、ドラム編成で、英語、スペイン語を織り交ぜ、音楽的にはパンク、ロック、ジャズなどをミックス、最高のエネルギーを、純粋な楽しさを、ダンスフロアにぶちまける。
 DIY会場から、ラテン・レストラン、ハウス・パーティからSXSWなどのフェスにも出演。真のDIYの彼らが、スクリーミング・フィメールズと同レーベル〈Don giovanni Records〉から、デビュー・アルバム『フル・コミュニズム(完全共産主義)』をリリースした。アメリカや世界での現在の批判的瞬間、産獄複合体、人種差別、同性愛偏見、国家資本主義、ファシズムなど、自分の精神、目、心を閉ざそうとする全ての物を破壊するためのレコードである。

 5月15日、レコードリリースを記念し、ダウンタウン・ボーイズのレコ発に行った。ブシュウィックのパリセーズ(https://palisadesbk.com)というDIY会場で、数ヶ前にはダスティン・オングと嶺川貴子やパーケット・コーツなどの新鋭のインディ・バンドがプレイしている会場である。
 かれこれ10回ほど見ているダウンタウンボーイズだが、今回のショーは今まで見た中で一番人が多かった。一緒にプレイしたバンドにもよるが、パンク・キッズが多いクラウドで、目の周りを黒く塗っている女の子や、顔中にピアスをしている男の子(タンクトップ率高し)、キスしまくっている女の子たちなど、むせ返った会場の雰囲気に圧倒された。以前、ダウンタウン・ボーイズの別バンド、マルポータド・キッズを見た時と同じ雰囲気、それがさらに倍である。


photo by Alyssa Tanchajja


photo by Alyssa Tanchajja


photo by Alyssa Tanchajja


photo by Alyssa Tanchajja


photo by Alyssa Tanchajja


photo by Alyssa Tanchajja

 シンガー、ヴィクトリア・ルイズが、語り(叫び)はじめながらショーはスタート。パンクを注入したギター・ラインとコーラス、伝染性の強いサックス・ライン、ファンキーで不吉なホーン・ラインなど。ダウンタウン・ボーイズの曲は、エネルギーの塊だ。この世代が、時代に風穴を開ける力があることを証明する。彼らこそ、現在の声明である。
 ヴォーカルのヴィクトリアは、種差別やその他の差別、政治的なトピックを持ち出し、歌っているのと同じくらい喋ってる(叫んでいる)し、オーディエンスはそれに答え、前の方ではモッシュも起こり、会場全体が彼らのサポーターであるかのようだ。
 私自身は政治的な解説を加えるほどの知識を持たないが、この辺りは、アメリカのバンドを色濃く表しているように思える。レコードでこの熱気が伝わるかわからない。彼らが命を懸けているのは、そのパフォーマンスに、そして声を大にして叫びたいメッセージなのは間違いない。
 現在の音楽に対して、政治に対して、そして世の中に対する革命を主張する。いちどライヴ体験をすると、頭の中をスカッと風が吹く。彼らは何処でも100%だ。

 ダウンタウン・ボーイズのダニエルとノーランは、ホワット・チアー・ブリゲイドという19人バンドでもプレイしている。(https://www.whatcheerbrigade.com)
 彼らはビルディング16という会場を運営していたのだが、場所が取り壊されることになった。ラストショーに招待されたのだが、いつ見ても、彼らのストリート・バンドたる精神にど肝を抜かれる。
 人数が多いので(19人!)、ステージには入りきらない。フロアはもちろん、天井に通っているパイプによじ登ったり、手狭なステージから降り、マーチングをはじめ、会場の外で演奏を始めたり、お祭り騒ぎがオーディエンスを自然に巻き込むパフォーマンスになっている。

●ビルディング16でのホワット・チアー・ブリゲイドのラストショー:

●ビルディング16でのダウンタウン・ボーイズのショーが含まれたプロモ・ヴィデオ:

オフィサーが引張叩かれる度に、裸にされ、最後はバンドで歌ってる。

●Wave of History:

アメリカの小学校の社会の教科書に使われるべきだと思う。

 さらに、ヴィクトリアとジョーイは、マルポータド・キッズというラテン、エレクトロな別バンドもやっていて、6月全般はイースト・コーストからミッド・ウエストをツアーする。
https://www.facebook.com/MalportadoKids

 ダウンタウン・ボーイズと同郷プロヴィデンス出身の、ライトニング・ボルトは偶然にも、ダウンタウン・ボーイズのレコ発パーティの日に、ブルックリンの別会場のウィックでショーをやっていた。悩んで、ダウンタウン・ボーイズのショーに来たのだが、考えてみればダウンタウン・ボーイズとライトニング・ボルトには、たくさんの共通点がある。お互い自分たちの場所を持っていたし(ダウンタウン・ボーイズはビルディング16、ライトニング・ボルトはフォート・サンダー)、レコードよりライヴが一番、現場主義だし、とてつもないエネルギーを発散させるし、ビルディング16のラスト・ライブの時は、ライトニング・ボルトのメンバーも遊びにきていて、彼ら同士も交流がある。プロヴィデンスーブルックリンの関係も踏まえて、ダウンタウン・ボーイズが、彼らの直継承者であることは間違いない。

Punk

Downtown Boys
Full Communism Import

Don Giovanni Records

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威力 - ele-king

a history

フットワークを愛するひとたちへ - ele-king

 いやー、去年末の〈Hyperdub〉ショウ・ケースはすごかった。メインフロアはもちろんですが、セカンドフロアで行われていたWeezyたちによるKata Footwork Clubのダンス・バトルがハンパではなかった。D.J.FulltonoやTrekkie TraxのDJプレイに合わせて、ダンサーたちが激烈フットワークをかましているのを見ていた僕は楽し過ぎて思わず足を踏み出してしまい、危うくバトルがはじまりそうに……。

 そんなスリルを味わったことがある方とフッットワークを心から愛する方へ。今週金曜と来週月曜は彼らのホームであるLIQUIDROOMの2階へ集合しませんか? ダンサーであると同時に優れたプロデューサーでもあるWeezyあらためWeezyTheEra。15日の金曜日は彼のファースト・アルバム『THE FLOOR IS YOURS』のリリース・パーティが開催されます。EXS、sauce81、D.J.Aprilといった彼に馴染み深いDJたちも駆けつけます。もちろんフッチワークをしてもいい……、ハズ。

 そして週明け18日月曜日には、フットワーク・シーンのパイオニアTraxman主催の〈Tekk DJ'z〉に所属すDJ Innesがメルボルンから、Violet Systemsがシカゴから来日します。金曜と同様にD.J.AprilとWeezyTheEraやFruityたちも参加決定。もちろんKata Footwork Clubも集合! 今回もお馴染みのフットワークのレッスンがあるので、これでいきなりバトルに突入してしまっても大丈夫ですね。入場料も金曜日が1000円、月曜日が1500円ととてもお得なので、Let me see your footwork!

2015.5.15 friday
SHINKARON presents WeezyTheEra "THE FLOOR IS YOURS" Release Party!!!

Time Out Cafe & Diner[LIQUIDROOM 2F]
19:00-23:00
door only 1,000yen(with WeezyTheEra's Mix CD)

DJs:
WeezyTheEra(SHINKARON/TH王RA/Kata Footwork Club)
EXS(NTB)
sauce81(disques corde)
D.J.April(Booty Tune)
TEDDMAN(Booty Tune)
Deemc


2015.5.18 monday evening
Battle Train Tokyo feat. Tekk DJ'z

KATA[LIQUIDROOM 2F]
open/start 19:00-23:00
door only 1,500yen

Special Guest DJs:
DJ Innes(Tekk DJ'z from Melbourne)
Violet Systems(Tekk DJ'z from Chicago)
DJs:D.J.April(Booty Tune)
Fruity(SHINKARON)
Kent Alexander(PPP/Paisley Parks/NDG)
TEDDMAN(Booty Tune)
Dance/Footwork:Kata Footwork Club[Murahkey, Re:9, Takuya, Yamato, WeezyTheEra]


▼ DJ Innes(Tekk DJ'z from Melbourne)
Traxman主宰のJuke/Footworkクルー、Tekk DJ'zに所属するオーストラリア在住のDJ。オーストラリアではGaming Cult Podcastという番組を仲間のBoomaらと配信しており、Gaming CultというレーベルとしてもDJ Deeon、DJ Clent、DJ Earl、D.J.Fulltonoらが参加したコンピレーション"Gaming Cult Trax vol.1"やBags & Works参加アーティストDJ TroubleのEP"Eye of the Circle"を発表している。また彼自身も曲を作り、その作品は前述した"Gaming Cult Trax Vol.1"やTekk DJ'zのコンピ"The Tekk DJ'z Compilation Volume 1 Part 2"で聞く事が可能。上記した作品はいずれもBandcampで購入できる。
https://soundcloud.com/djinnes
https://culttrax.bandcamp.com/album/gaming-cult-trax-vol-1

▼Violet Systems(Tekk DJ'z from Chicago)
Traxman主宰のJuke/Footworkクルー、Tekk DJ'zに所属するシカゴ在住のDJ。過去には韓国に住んでいた事もあり日本にも何度か訪れている親アジアな側面もある事から日本のJuke/Footwork愛好家達にも名が知られている。Tekk DJ'zのコンピ"The Tekk DJ'z Compilation Volume 1 Part 1"への参加の他、九州は小倉のJuke/Footwork DJ、naaaaaooooo氏監修のEP"KOKLIFE Vol.1"に参加。またSoundcloud上でも精力的に作品を発表。Bandcampにてこの夏新作EPの発表を予定している。
https://soundcloud.com/entroemcee
https://violetsystems.bandcamp.com

▽ WeezyTheEra(SHINKARON/TH王RA/Kata Footwork Club)
国内ジューク/フットワーク・シーン最初期から活動するオリジナル・ジャパニーズ・フットワーカー。その活動はアグレッシブな高速フットワーク/ダンスだけに留まらず、トラックメイク、DJもこなすオールラウンダーとして国内シーンを支え続けて来た。2014年初夏には日本トップレベルの足技を武器にフットワーク総本山シカゴやニューヨークへ渡り、現地アーティストやダンサーと交流を深め、世界最高峰のフットワーク・クルーTH王RAに電撃加入。日本のキャプテンに指名される。これまでに所属レーベルSHINKARONより「ON NUKES EP」、「ON NUKES LP」をリリースしているほか、外部レーベルのコンピレーションにトラックを複数提供。また、自身のSoundCloudでも定期的に作品を発表している。2015年4月26日に待望のデビュー・アルバム『THE FLOOR IS YOURS』をリリース。今、活躍が最も期待されるアーティスト。BTTではフットワーク・レッスンの講師も務める。
https://weezytheera.wix.com/teklife
https://soundcloud.com/rioqmt
https://weezymarket.bandcamp.com
https://instagram.com/weezytheeralife

▼ D.J.April(Booty Tune)
Hardfloorでシカゴハウスに目覚め、そんなサウンドをのらりくらりと追いかけつつ、Jukeレーベル「Booty Tune」のPR&ARをしております。
https://twitter.com/deejayapril
https://bootytune.com

▼Fruity(SHINKARON)
ジューク/フットワークDJ、トラックメイカー。SHINKARON主宰。2009年パーティー"SHINKARON"を始める。2012年より同名をレーベルとしても始動させ、自身のの他、Weezy、Boogie Mann、吉村元年やDJ Rocなど国内外様々なアーティストの作品をリリースし続けている。2014年3月に1stアルバム"LET DA MUZIK TALK"を発表した。
https://shinkaron.tokyo

 3月29日の晩、代官山ユニットは超満員。オウガ・ユー・アスホールマーク・マグワイヤは初めて対バンした。この鼎談は、ライヴの翌日に収録したもの。
 ミュージシャン同士、それも国が違う者同士が話し合いあうと、面白い発見がある。たとえば、マーク・マッガイアの、オウガの音楽に「ソウル」、つまり、ブラック・ミュージックからの影響を感じたという感想は、いままで日本の音楽メディアで見られなかった。「ノイ!だ」と言うと思っていたのだが、マーク・マグワイヤは「シュギー・オーティスだ」と言った。
 それでは、前口上はこのぐらいにして、どうぞ楽しみを。ちなみに、彼らから最高のプレゼントもある。ライヴのアンコールでの、オウガの「ロープ」にマーク・マグワイヤがギターで参加した当日の動画だ。正直、この演奏を聴いたとき、ele-kingからまた12インチで出したいと思ったほどだったが、彼らは無料で公開しようと言った。なので、いま、みなさんは、この鼎談の最後に、そのブリリアントな演奏を聴くことができます。

オウガ・ユー・アスホール(出戸学、清水隆史、馬渕啓)×マーク・マグワイヤ
司会:野田努=■
通訳:高橋勇人=△


マーク:まだ知ったばかりのバンドだったけれど、一緒にやっても絶対にうまくいくなという確信もりました。一緒にやった曲の音階も好みでしたね。メジャーがきてマイナーがきて……、何という音階かはわからないんですけどね。

出戸:僕たちもわからないです(笑)。

まずは、なぜ今回オウガ・ユー・アスホールの方からマークさんと一緒にやりたいと思ったのかという話しを聞きましょうか。

出戸学(以下、出戸):ホットスタッフの松永くんという僕たちの都内でのライヴの制作をやってくれているひとと、代官山ユニットとの共同で今回の〈””DELAY 2015””〉をやったんです。対バンのツーマンで〈””DELAY””〉という企画をやっていこうと思っていて、それで誰がいいか相談したんですよ。みんなで会議をしていろんな候補が出たときに、「マーク・マグワイヤがいいんじゃないか?」「何とか日本に呼べるかも」ということになったんです。

マーク・マグワイヤ(Mark Mcguire以下、MM):実現してくれて本当に嬉しいです。

清水隆史(以下、清水):音もすごいディレイだし。

MM:ハハハハ。いつもですよね(笑)。

出戸:実際にやってみてどうでしたか?

MM:音も空間もいい会場でしたし、素晴らしいバンドとプレイできて光栄でした。実ははじまるまで少し緊張していたんですよ。ひともたくさん入っていましたからね。アンコールで一緒にオウガ・ユー・アスホールのみなさんとステージに立ったときは、自分の音が大きくなり過ぎないよう、バランスに常に気を使いました。自分ひとりでステージにたつときは、音が全部ミックスされてモニターから聴こえるから音の調性が容易にできます。でも、バンドとなるとその聴こえ方も全然違いますよね。

一緒に“ロープ”をやることはいつ決まったの?

出戸:前日くらいですね。

清水:前々日くらいから一緒にやる?って話がきて、ずっと迷っていたんだよね。

馬渕啓(以下、馬渕):どの曲でやるかということも話してましたね。

俺はたぶん共演するんじゃないかと思っていたけどね。 “ロープ”しかないだろうって。

マークさんはいつ曲を最初に聴いたんですか?

MM:どの今日をやるかはほんの数日前に聞ききました。そのとき僕は大阪のホテルにいて、ギターを弾きながらアイディアを練りました。

マークさんはライヴをやる前にオウガの音楽を聴いたことがあったんですか?

MM:新しいアルバムはまだ聴いていなかったんです。でも最近出た曲を聴かせてもらいましたよ。とても滑らかでサイケデリックなサウンドがとても好きです。まだ知ったばかりのバンドだったけれど、一緒にやっても絶対にうまくいくなという確信もりました。一緒にやった曲の音階も好みでしたね。メジャーがきてマイナーがきて……、何という音階かはわからないんですけどね。

出戸:僕たちもわからないです(笑)。

オウガは自分たちの大きなインスピレーションのひとつにクラウトロックがあって、そこがマークさんと共通するところなのかなと思います。

MM:そうなんですね。たしかに僕にとってもクラウトロックが重要な要素です。とても形式的で衝動的な部分もあり、それなりに技術も必要ですよね。

清水:クラウトロックはずっと聴いていたんですか?

MM:最初にクラウトロックを発見したときはとにかくたくさん聴きました。19歳のときだったと思います。当時に比べたらいまはそこまで聴いてはいませんが、自分自身の重要な核になっています。
きのうオウガのみなさんと話していたんですが、最近はシュギー・オーティスのようなソウルやファンクからもインスピレーションを感じます。

清水:きのうの夜にソウルの話をしたんですよね。

出戸:僕らも黒いのにハマってますからね。

MM:僕がはじめてオウガ・ユー・アスホールを聞いたときにブラックミュージックの要素を感じたんですよ。もちろん、それはひとつの要素に過ぎず、いろんな影響が交ざり合っていて、それらがクリエイティヴなサウンドを織り成しているんだと思います。一緒に“ロープ”を演奏したときには曲や歌から、様々な影響が生み出すダイナミズムを感じましたね。
 きのうも僕がシュギー・オーティスを感じた曲を演奏していたんですが名前が思い出せない……。ギターが印象的でテンポは遅い曲なんですけどね。

清水:なんだろうな“ムダが無いって素晴らしい””かな。

出戸:最近、僕も清水さんからシュギー・オーティスを教えてもらって聴いているんです。

清水:定番というか、再発見系ですよね。

90年代にデヴィッド・バーン発掘したんだよね。オウガはマークさんと一緒にやってみてどうでした?

清水:演奏がすごく丁寧ですよね。

出戸:ギターがすごく上手いと思いました。アンプを使わないでラインで音を出していることにもびっくりしました。そのギターの音色がやっぱり独特なんです。僕らもレコーディングでラインはかなり使いましたけど。

馬渕:ライヴだとやっぱりラインの音は異質感があって面白かったです。

出戸:ラインだけでギターを弾いているひとのライヴって初めてみたかも。

MM:実験的な音楽を演奏するようになってからはずっとラインで弾いていますね。自分はトーンに拘るタイプだったんですが、ラインのトーンに慣れてしまったのでアンプに戻ることはありませんでしたね。それでできたのがいまのスタイルです。

出戸:なるほど(笑)。とても綺麗な音でしたね。

僕もあなたのギターの音が好きです。とくにロングトーンがシンセサイザーみたいに聴こえるんですよね。

MM:ギターと他の音をミックスして出したりもしています。でも基本的にはギターだけでギターだとは思えないような音を作っていますね。よく僕のアルバムを聴いたひとが「あの部分はシンセを使っているんだよね?」って聴いてくるんですが、だいたいはギターだけで作った音なんですよ(笑)。

出戸:映像も自分で作っているんですか?

MM:そうですよ。自分で作った映像と見つけてきた映像を組み合わせて編集しています。映像と音楽を一緒に作るのは映画を作るみたいな感覚です。その異なるふたつの要素がうまく組合わせるのが楽しいんですよ。

出戸:じゃあ映像もバラバラではなくて同期させてセットで流しているんですか?

MM:はい。なので映像の長さに合わせて自分の曲の長さも調性することもあります。きのうもギターを弾きながら後ろをちょくちょく振り返って映像を確認していたんですが、そのためです(笑)。

では映像をコントロールしているひとがいたわけではないんですね?

MM:いません(笑)。映像が決まったときに再生されるようプログラミングをしているので、ちゃんと映像がはじまるのか気を使いますね。

最後の映像がすごかったよね(注:水爆実験や第二次世界大戦の映像、政府を批判するスピーチなどが引用されていた)。オウガは観てたの?

出戸:最後、見てました。

清水:激しい終り方でしたね。

MM:あの映像と曲を作っているとき、歴史的な出来事の裏で政治や宗教がどのように動いていたのかに関心がありました。たくさんのひとびとが様々な形でひとつの瞬間に関わっていたわけですからね。そして、そのなかで多くの考えや憶測が生まれました。あの映像のなかでは9.11は裏で大きな工作があったんじゃないかというスピーチも引用しています。
 ひとびとに学ばれる歴史は戦勝国などの大きな権力をもった者が作り出したものです。僕はアメリカ人でアメリカの教育を受けてきました。だからこそ、アメリカが他の国々にどんな影響を及ぼしたのかとても興味があるんです。2013年に広島の原爆ドームに行って深く感銘を受けました。過去を振り返ることによって明らかに間違いだと思うこともたくさんあり、そういうものを自分で学んでいきたいんです。(日本語で)コノオンガクヲヘイワノタメニ。

一同:おー!

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マーク:僕がはじめてオウガ・ユー・アスホールを聞いたときにブラック・ミュージックの要素を感じたんですよ。もちろん、それはひとつの要素に過ぎず、いろんな影響が交ざり合っていて、それらがクリエイティヴなサウンドを織り成しているんだと思います。

出戸:ギターがすごく上手いと思いました。アンプを使わないでラインで音を出していることにもびっくりしました。そのギターの音色がやっぱり独特なんです。僕らもレコーディングでラインはかなり使いました。

マークさんがはじめて来日したときのライヴはもっとアンビエント・フィーリングが強くて、きのうのライヴとは違う感じだったんだよね。もっとマニュエル・ゴッチング的だったというか。

MM:そのときに比べると、使っている機材にも変化があったので当然サウンドも変わっているでしょうね。サンプラーやドラムマシンなどを使かうようにもなりました。でも、「単に成長しているだけ」という風には捉えられたくはなかったので、またギターだけのスタイルに戻って新しいアイディアを試しつつアンビエント・テイストの曲を作ることはいまでもしますよ。そうやって違ったことにチャレンジしていきたいんです。

清水:マークさんはライヴとアルバムでアレンジを変えていますよね? きのうのライヴでやっていた曲と新しいアルバムに入っていた曲を比べてみても、どの曲が一致しているのかわからなかったりしました。

MM:レコーディングとライヴは別物ですからね。レコーディングは音のパーツのたくさんの層のように積み重ねていますが、ライヴをその単なる再現にはしたくないんです。それに再現してみても決して同じものにはならないでしょう。だから意識的にライヴをレコーディングとは違うものにしようと思っています。

エメラルズもそうだったけどマークさんの以前の作品はわりと自然がテーマだったりしたんだよね。リリースの形体自体も、アナログ盤とカセットテープしかないものもすごく多くて。たとえば『ギター・メディテーションズ』(2008年、〈Wagon〉)というアルバムはカセットでしか出ていないんですよ。それがすごくいい作品なんですけど、いまだにカセットでしか手に入らない。

MM:現代社会の毎日の多忙な生活から抜け出すためにアンビエントや自然は役割を果たしていると思います。たとえばヨガの瞑想にしてみても、現在ではなくて過去の意識を呼び起こすような効果がるので同じことが言えるでしょう。音楽にも自己の存在が消えてしまうような感覚をもたらすことがありますよね。

きのうのライヴは過去のものと比べたら、すごく抽象的な言葉で言うと力強いものを感じたというか。

MM:アグレッシヴな曲も最近は作っているんですが、さっきも言ったようにアンビエントな要素とのバランスも考えたうえで実験的な試みをやっています。ライヴに来てくれたお客さんにとってもそっちの方が変化があって面白いでしょうからね。

きのうみたいにライヴを一緒にやって、最後にギターを一緒に弾くことはアメリカではよくあるんですか?

MM:そんなに頻繁にあることじゃないですね。僕は基本的にいつもひとりでライヴをやるので、自分が演奏しているときに誰かがステージに入ってくるのは嫌なときもあります(笑)。

下村A&R: マークはアフガン・ウィッグスと共演しましたよね。

MM:そうですね。彼らのアルバムに参加していくつかライヴもやりました。フル・バンドで演奏したことはかなりためになりましたね。昨晩、オウガのステージに立てたことも同じです。素晴らしいエネルギーを感じることができました。曲を聴いているときの感覚と、実際に演奏してみる感覚とではやはり大きく異なるんですね。

清水:オウガもライヴで誰かと一緒に演奏するのは初めてだったんじゃないかな。メルツバウとやらせて頂きましたが、楽器を使ったセッションとは少し違ったし。

マークさんはメルツバウを知ってますか? オウガはいままでメルツバウとしか共演したことがないんですよ。

MM:はい、もちろん! ハハハハ。それはすごいですね。きのうは彼と同じくらいラウドにはプレイできませんでした(笑)。

清水:マークさんは共演することにむしろ慣れていると思っていました。

出戸:リハーサルのときの方がもっとアグレッシヴに弾いていたんですよ。本番のときは抑えていたんじゃないかな。

MM:本番は緊張しちゃったんです。リハーサル、すごく楽しかったですよね(笑)。リハーサルをするまでは、プレイヤーで曲を聴きながらしか練習をしていなかったので、僕のプレイを評価してくれたのはすごく嬉しいです。

音源を出してほしいですね。オウガは日本のなかですごく特殊というか、ある意味では孤立しているというか。

清水:そうですか(笑)。

アメリカのインディ・シーンにはエクスペリメンタルな音楽をやるひとやレーベルもたくさんあります。

MM:アメリカのシーンでも僕はある意味ではオウガと同じ状況にいますよ。僕のサウンドはエクスペリメンタル・シーンに完全に合うものでもないし、インディ・ロックに当てはまるものでもありません。どこに自分はいるべきなんだろうと居場所を探している感じがするんです。オウガの音はとてもユニークで様々な音楽の影響を隠さずに表現しているので、僕と同じようにどこにもフィットしないんでしょうね。
 アメリカのリスナーには自分が聴いている音楽をカテゴライズしたがる傾向が少なからずあって、未知なる音楽に出会ったときに「これは面白い曲だ!」ではなく「これは何ていう音楽なんだろう?」と反応するひとが多いんです。ジャンルが交ざり合うことを嫌うひともいますからね。それに対して日本のリスナーは音に対して心が広くて、「ジャンルで分ける」聴き方をしないひとが多いような気がしました。

清水:なるほど。ジャンルにこだわってはいないよね?

馬渕:わかりやすくジャンルが別れているロックって日本にあるのかな?

出戸:ヴィジュアル系くらいじゃないかな。

ガレージ・ロックとかポスト・ロックとかね。

MM:アシッド・マザーズ・テンプルを聴いてみても、やっぱりジャンル分けするのは不可能ですもんね。でもそれがいいところだと思うんです。

出戸:そうかもしれないけど、日本では逆にシーンが見えにくいということがありますよね。

清水:世界的な目で見たら、日本自体が全体的にサブカルチャーっぽいもんね。

MM:少し前のバンドですが、ファー・イースト・ファミリー・バンドは「ジャパニーズ・サイケデリック」というシーンを象徴するような存在です。そういうひとたちもいるにはいるんですけどね。

柴崎A&R:アメリカではジュリアン・コープが書いた『ジャップロックサンプラー』がすごく影響力が強いんですよ。

MM:僕も読みましたよ。

日本のなかで有名な日本のバンドと、海外で有名な日本のバンドって違うんだよね。

柴崎A&R:いわゆる、はっぴいえんど史観がないですからね。

もっと言うと、はっぴいえんどは海外ではあまり知られていないからね。

MM:細野晴臣はYMOのメンバーなので聴きましたが、はっぴいえんどのことはあまり知りません。日本の音楽の独自性みたいなものはYMOにも表れていると思いますね。海外の音楽を単なるコピーではなく、自分たちのオリジナリティを持ったミュージシャンもしっかりといるということです。そういうひとは海外で影響力をいまでも持っているんですよ。YMOもそうですがアメリカのシーンにはボアダムスみたいになりたいひとも多いです。多過ぎるくらいですね(笑)。

出戸:逆にいまの日本ではYMOのフォロワーはそんなにいないですよね。

清水:たしかに。はっぴいえんどは多いけどね。

今度はマークさんを長野に呼んだ方がいいんじゃない? 東京から車で2時間くらいかかるけど、自然がすごく綺麗な場所らしいですよ。

清水:出戸くんなんか標高1300メートルのところに住んでるんですよ。

出戸:家の前で鹿が寝てますからね。

すごいね(笑)。彼らはそこにスタジオを持っているんですよ。

MM:素晴らしいところですね! 是非行ってみたいです。

ジム・オルークさんも彼のスタジオによく行くみたいですよ。マークさんはジムさんと仲がいいんですよね。

MM:初めて日本に来たときにジムさんとは知り合ったんですよ。

出戸:ジムさんは新宿の飲み屋で会ったって言ってましたね。

MM:そうなんですよ。ピス・アレイ(ションベン横町)で会いました(笑)。

清水:英語でピス・アレイって言うんですね(笑)。汚くて治安が悪そうな名前ですね(笑)。

出戸:マークさんとジムさんが出会った飲み屋には僕らもたまに行きます。

MM:そうなんですか! 食べ物も美味しくて素晴らしいお店ですよね。

絶対に長野に呼んだ方がいいよ。

出戸:じゃあ次は呼びますね。

そこでセッションして曲をつくるとかね。

MM:実現したら最高ですね。(日本語で)ソンケイシマス。

今回、マークさんは大阪と新潟までギターを持ってひとりで行って、新潟から東京に戻って来たんですよね。

MM:はい。

清水:すごいな。よくわかりましたね。

MM:日本語が読めるわけではないんです。初めて来日したときにひとりで地下鉄に乗ったんですが、パソコンで事前に調べたり標識に書いてある言葉を携帯で調べたりして頑張りましたね(笑)。日本は標識がたくさんあるから比較的親切ですよ。

日本に住んでいてもたまに標識に迷うことがあるけどな(笑)。

清水:すごくマジメですね。

オウガにピッタリなアメリカのレーベルって何だと思いますか?

MM:良いレーベルはたくさんありますからね。うーん。自分は多くのレーベルに関わっているわけではないですが、〈ドラッグ・シティ〉なんかはやっぱり合っているんじゃないでしょうか? あのレーベルにはかなり幅広いスタイルのミュージシャンが所属していて、しっかりとサポートもしてくれます。ミュージシャンがどのような路線に進んだとしてもそれをしっかりと受け入れてくれるのは素晴らしいですよね。ジム・オルークも〈ドラッグ・シティ〉のことを評価していましたね。ジムさんはいろんな経験をしているから、やっぱり彼の意見は参考になりますね。僕も大きいレーベルと仕事をしたことがありますが、やっぱり小さいインディペンデント・レーベルの方が柔軟に対応してくれるんです。

清水:しかし……そもそもオウガ・ユー・アスホールって名前ですからね(笑)。

MM:名前の由来がすごく気になっていたところです(笑)。

それってUSのインディバンドからきてるんだよね?

出戸:前のドラマーが高校生のときに来日したモデスト・マウスのライヴに行ったんですよ。そのときに腕に「オウガ・ユー・アスホール」ってサインをもらって、それがバンド名の由来なんですよ。ちょうどそのときが自分たちのライヴの直前だったんですけど、名前を付けてなくて「あのサインでいいんじゃない?」ってなってから10年以上ずっと同じ名前です(笑)。

MM:すごいエピソードですね。とても目立つ名前だなと思っていました(笑)。初めて名前を見たときには「一体どんなサウンドなんだろう?」と想像力をかき立てられたのを覚えています。「オウガ」(「鬼」の意味)という言葉からラウドな演奏をするバンドなのかなとか思っていました(笑)。

清水:よく「パンク・バンドなの?」とか言われるんですよね。

今回の来日でレコードは買いましたか? 普段からよくレコードを買うそうですね。

MM:今回はレコード屋さんに行けていないんですよ。僕のレコードコレクションはいまのところ2、3000枚くらいですかね。初めて日本に来たときはJポップをとてもたくさん買いました。1枚200円くらいで買えるのに驚きましたね。一緒に行ったひとからは「そんなのお金のムダだよ!」って言われましたが(笑)。YMOや各メンバーの作品もけっこう買いました。日本以外のものでも安く売っているのは助かります。アメリカでは西海岸に住んでいたころはいつもレコードを買っていました。ですが引越をしたときにあまりにも荷物が多くなることに気付いて、最近は前に比べたらあまり買っていないんですよ(笑)。いまは故郷のクリーヴランドに住んでいます。

クリーヴランドは北東部なので西海岸とは全然違いますよね?

MM:大違いですね。かなり冬は寒いです。あとパンクの精神を持って、髭を生やしてに革ジャンを着たひとが多いと思います。ノイズ・ミュージックのシーンもあったりするんですよ。湖に面した地方都市で物価が安いのも特徴です。そして何より自分が生まれ育った場所なのでとても落ち着きます。あまりこういう街はアメリカにないので、この街の人間であることを誇りに思っているひとは多いですね。

出戸:長野も似たところがありますね。冬も寒いし、デカい湖もあるし(笑)。でもパンクとノイズのシーンはないですね(笑)。ヒッピーとかもいるんですけど、あんまり接触はしないです。

MM:西海岸に居た頃はポートランドやロサンゼルスによく行ってたくさんのヒッピーに会いましたけど、クリーヴランドにはそんなにいませんね。

そういえば最近マークさんには赤ちゃんができたんですよね?

MM:そうなんですよ。だからクリーヴランドに戻ったんですよね。この子です(携帯の写真を見せる)。

かわいいですね! いま何歳なんですか?

MM:いま生後6週間なんですよ。だから早く帰ってあげないといけませんね(笑)。

馬渕:昨日もその写真見せてもらったんですよ。でも生後6ヶ月だと思っていました。

MM:ブランニュー(超新しい)ですよ(笑)。面倒を見なきゃいけないので、ツアーの期間もいつもより短いんです。このツアーの間に奥さんから子供の動画が送られてきたんですが、離れてまだ5日しか経っていないのにすごく成長しているように感じました。

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マーク:とても目立つ名前だなと思っていました(笑)。初めて名前を見たときには「一体どんなサウンドなんだろう?」と想像力をかき立てられたのを覚えています。「オウガ」(「鬼」の意味)という言葉からラウドな演奏をするバンドなのかなとか思っていました(笑)。

清水:よく「パンク・バンドなの?」とか言われるんですよね。

エメラルズは解散してしまいましたが、マークさんはまたバンドをやらないんですか?

MM:ご存知かもしれませんが、エメラルズは昔からの友だちと自然な流れで結成したバンドでした。だからバンドが終ってしまったのも自然なことだったのかもしれません。もうエメラルズとして演奏することはないと思うと残念な気持ちにもなることもありました。バンドでも活動はやはりソロとは全く違うものなので、再びバンドをはじめてみたい気持ちもあります。バンドが解散してからいろいろと試してはいるんですが、まだまだバンドの「ケミストリー」を探している途中ですね。ちなみに、オウガのみなさんはバンドをはじめる前から知り合いだったんですか?

清水:馬渕くんと出戸くんが高校の同級生で、勝浦くんと自分が大学の先輩・後輩って感じですね。

そこはエメラルズみたいだね。

MM:音楽をはじめる前の関係ってやっぱり大事なんですね。エメラルズが解散した理由のひとつには、メンバーと友だちのままでいたいっていうのがあったんです。バンドを組んでいると、どうしても関係がぎくしゃくしてしまうこともありますからね。いまはそれで良かったと思います。仲の良い友だちと音楽や音楽ビジネスについて話せるんですからね。オウガはもう10年以上バンドを続けてきたわけですが、バンドを存続させるためのアドバイスみたいなものはありますか?

出戸:うーん、なんだろうな。あんまり会いすぎないとかかな。

ハハハハ。

出戸:バンドでたくさん会っていますからね。

清水:そうかな(笑)? 割と一緒にいる方だと思うけどね。みんなで暮らしてはいないけどね(笑)。

MM:わかります。ツアーとかではいつも同じ場所にいることになりますから、一緒に住む必要はないし、「どっかいけよ!」って言いたくなるときもありますよね(笑)。

出戸:あとバンドってマンネリ化してくるとダメになる感じもするから、メンバー間で刺激を与え合うような関係を心がけていますね。

MM:なおかつインスピレーションやアイディアを共有できる関係ですよね。

出戸:マークさんはいまもひとりでレコーディングをしているんですか?

MM:そうですね。毎日自宅で録音していますよ。楽器も全部自分で演奏しますね。

出戸:バンドだと刺激し合えて自分が考えてもないことができるわけじゃないですか?  でもひとりでやっているとそこには限界があるというか、自分から出てきたものしかないですよね。

MM:たしかにそうですよね。ギター以外の楽器を弾いてもそこから生まれてくるメロディーやリズムが自分っぽいなと思うことがあります。でも他人と演奏すると想像もつかないような展開を見せることがあります。

その「制限」はあなたにとってネガティヴなものなのでしょうか?

MM:必ずしもそうであるとは限りません。バンドでしかできないことがあるということは、ひとりでしかできないことも同時にあるということですよね? バンドとソロって全く違うフォーマットのものです。エメラルズのメンバーたちはバンド以外のところで次の段階に進みたいと思っていました。いまの僕がやりたいのはソロの可能性をとことん追求することなんです。

出戸:ひとりでやっているとどこがOKなのかわからなくなりそうだけど、自分の作っている曲が完成したとどのように確信が持てるんですか?

MM:自分がやっていることを客観的に見るのってひとりではすごく難しいです。だからアドバイスをくれるひとが近くにいることってすごく重要ですよね。
 僕の場合はひとりで曲を作っていると、そこから次の曲のアイディアが生まれてきたりするんですが、それを繰り返している気がします。(アイフォンの作曲中リストを見せながら)いまも何十曲を同時並行で作っている状態なんですよね(笑)。うーん、曲を完成したと判断するのは難しいです。とにかくできることをやりつくすのみですね。

そこはオウガと反対だね。オウガの場合は終わりはどうやって決めるの?

出戸:レコーディングの期間がだいたいきまっているから、そのなかで出たアイディアを使うんですよ。

馬渕:時間があったらあったでいっぱい作り過ぎちゃうんですよ。

MM:ちゃんと締切を作ると目の前のことに集中できますもんね。締切がなかったらなかったで、ガンズの『チャイニーズ・デモクラシー』みたいに自由になりすぎてヒドい作品ができることだってありますからね(笑)(このアルバムは制作に約14年をかけている)。

清水:また来日する予定はあるんですか?

MM:戻って来たいです。山田さん(プロモーター氏)のような日本での父親もいますからね(笑)。考えてみればこれで4回目の来日になるんですね。日本はもうすっかり僕のお気に入りの場所です。

次はオウガが長野に呼んでください。

山田:初来日のときに野田さんがオウガを勧めてくださったんですよね。

誰もが思うことだろうけど、オウガとマークさんは絶対に合うと思っていたんですよ。

清水:今回の対バンにはそんなに長く時間がかかっていたんですか(笑)。

本当に実現するとは思わなかったよ。

出戸:本当に一緒にできてよかったです。

マークさんから最後に何かありますか?

MM:昨日は同じステージに立てたし、こうして対談もすることができてとても嬉しいです。貴重な体験ができてリフレッシュすることができました。ソンケイシテイマス。





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