「You me」と一致するもの

Cossato (LifeForce) - ele-king

4/20 @Seco Shibuya LifeForce Airborne Bass
DJ:Deft (WotNot Music) JJ Mumbles (WotNot Music) Cossato (Life Force)
Live:Daisuke Tanabe
Sound Design:Asada (Life Force / Air Lab)
https://lifeforce.jp 
https://soundcloud.com/sato-cozi

Airborne Bass 2013.04.13


1
BlackSmif - How The Fly Saved The River - Blah Blah Blah Records
https://www.youtube.com/watch?v=jaWcDTD73Bc

2
DA-10 - Anaphase - WotNot Music
https://soundcloud.com/da10/da-10-the-shape-of-space

3
Dauwd - Heat Division - Pictures Music
https://www.youtube.com/watch?v=ZLZd6EeQgtY

4
Deft - The traveller - Skullcandy
https://soundcloud.com/deft/supreme-sound

5
Glenn Astro - Stutter Shades - WotNot Music
https://wotnot.tv/power/

6
Leif - Circumstance - Ornate Music
https://www.youtube.com/watch?v=fS9VllWyySk

7
Lorca - Giant Stars - 2020 Midnight Visions
https://soundcloud.com/lorcamusic/b1-giant-stars

8
Pjotr - Sky Is The Limit - Udacha
https://www.youtube.com/watch?v=xi597v2XgOo

9
South London Ordnance - Daphne - 2nd Drop Records
https://www.youtube.com/watch?v=bGYJUoOeZkk

10
U - Haunted - Man Make Music
https://www.youtube.com/watch?v=qP94WDnhWRA

Chart - JET SET 2013.04.15 - ele-king

Shop Chart


1

Phoenix - Entertainment (Glassnote)
超待望の最新5th.アルバム『Bankrupt!』からの激話題リード・トラック!!Us/Glassnoteからのマーブル・カラー・ディスク完全限定盤。

2

J Dilla - Anthem / Trucks (Pay Jay Productions)
死後に見つかった2インチ・マスターテープを、Dillaの側近エンジニア Dave Cooleyがミックス&マスタリングしてリリース! こちらは初回限定、クリア・ヴァイナル&クリア・ケース仕様。

3

Lady - Money (Truth & Soul)
Aloe Blaccのプロデュースを手掛けたコンビが送り出した話題のデュオLadyによる、フリーソウル・ファンも直撃の名曲が待望のシングル・カット!!

4

原田茶飯事 & Expresso Cansai - 太陽 (Dabada / Jet Set)
1stアルバムからの人気曲「太陽」と、初披露となる同曲の"Dj Yogurt & Koyas Remix"を収録した7インチ・シングル!

5

Syclops - A Blink Of An Eye (Running Back)
Dfaからのアルバム・リリース以来ご無沙汰となっていたベテランMaurice Fulton手掛ける、Syclopsによる話題の2ndアルバム!!

6

Extra Medium - Extra Medium Ep (Record Breakin')
East Liberty QuartersのKeyプレイヤー&DjであるSam Champと、Dilla~Spinna~Moodymannライクな質感で人気のBuscrates 16-bit Ensembleによる超強力プロジェクト!

7

Major Lazer - Free The Universe (Because)
ご存じDiploとSwitchによる最強デュオMajor Lazerが4年振りとなる2nd.アルバムを完成。ダンスホールを軸に、ダブステップやムーンバートン、トラップにラガD'n'bまで繰り広げられる即戦力ボム満載盤です!!

8

Pat Metheny - Are You Going With Me - Gu Remix (Strictly Jazz Unit Muzic)
Slip Away等でもハウス・ファンには馴染み深いジャズ・ギタリストPat Methenyが"Ecm"より82年にリリースした名作"Are you Going With Me"をGlen Undergroundがリワーク/エディットを施し傑作ハウスへと仕立て上げた注目作品!

9

Letherette - D&t (Ninja Tune)
前Ep"Featurette"に続く、来たるデビュー・フル・アルバムからの2ndシングルがまたしても強力です。リミキサーにDorian Concept等が参加!

10

Blu - Thelonius King (Nature Sounds)
Bombayによる辺境的なドープ・トラックに、Blu, R.a. The Rugged Man, Durag DynastyのTristateという今までにない組み合わせが実現! Side-bにはBluによるリミックスを収録。

第8回:墓に唾をかけるな - ele-king

 その日、わたしは街の裏通りにある小さなパブで、仕事帰りに人と会う約束をしていた。
 そこは薄暗く古いパブで、流行のワインなどを飲ませる小奇麗なパブではない。窓際には年季の入ったスヌーカー・テーブルがあり、カウンター上方のフラット・スクリーンではない分厚いテレビはいつもフットボールの試合を映している。が、その日、パブに着いてみれば、なぜかテレビはBBCニュースを映していた。

 「え。サッチャー、死んだの?」
 と吃驚しているわたしの背後から入って来た、塗装業者らしいペンキで汚れたバギー・ジーンズのおっさんは、テレビに映し出された「Baroness Thatcher Died」のヘッドラインを読むなり、おもむろに両手でガッツ・ポーズを取った。
 「YES!!」
 PCの前に座って仕事をしている階級の人びとはもっと早く訃報を知ったのだろうが、ブルーカラーの労働者が彼女の死を知ったのは夕方だったのである。んなわけで、パブのなかはいつになくざわついていた。アフター・ファイヴの熱気に盛り上がる若人たちが集うパブとは異なり、通常は、陰気な顔をした中高年労働者がむっつり飲んでいるタイプのパブなのだが、その日ばかりはムードが違っていた。
 BBCニュース24は、各界著名人の反応を報道している。「元労働党のMP、ジョージ・ギャロウェイは、ツイッターにエルヴィス・コステロの曲『Tramp the Dirt Down』のタイトルを書いています」と女性ブロードキャスターが告げると、誰かがパブの奥から叫んだ。
 「Well said, George!」
 パチ、パチ、パチ。と誰かが叩いた拍手の音が、じわじわ店内に広がって、いつの間にかおっさんもおばはんも全員が手を叩いていた。
 笑っている人は誰もいなかった。みんな疲れきった顔をしていた。
 ああ。きっとこれは、この国の労働者がサッチャーを送る音なのだ。と思った。

 その日の深夜、ダンプの運ちゃんをしている連合いは、ロンドンのブリクストンを通ったらしい。
 「ロンドン暴動の直前と似たような雰囲気があった。夜中に路上で飲んで喚いてパーティしてやがんだよ。お前ら、サッチャーなんて知らねえだろ。っていうようなガキどもが」
 と言っていた。
 翌日の新聞を読むと、アンダークラス人口の多さで知られているリヴァプールでは、路上で火を燃やして祝賀するフディーズたちの写真が撮影され、ブリストルでは、ミドルクラスのスタイリッシュなインテリゲンチャたちが警官隊と衝突している写真が撮影されていた。「各地の"ザ・レフト"がバロネス・サッチャーの死を祝賀した夜」という見出しが付いている。嬉しそうに中指を突き立てて小鼻をふくらませているティーンズや、ビール缶を片手に泥酔しきった目つきで警官に悪態をついている30代のミドルクラスのお坊ちゃまたち。
 現代の英国の"ザ・レフト"というのは、こういう人たちなのだろうかと思った。
 毎日クソのような時給で朝から晩まで働き、サラリーではなく、ウェイジと呼ばれる週払いの賃金を貰い、そのクソのような賃金からでさえ税金を巻き上げられ、サッチャー政権に騙されて公営住宅を買ったら自宅のメンテ費用が払えなくなり、真冬に暖房が崩れて凍死した者もいたという、本当に故人がしたことを知っている"労働者たちの層"は、それらの写真のなかで浮かれたり、激昂してみせたり、泥酔したりはしていなかった。
 本当に彼女に苦しめられた人や、いまでも苦しんでいる人たちは、おそらく朝早く起きて仕事に行くため、とっくに寝ていた。

            ************

 サッチャーが亡くなった日、わたしがパブで会っていたのは、一昨年まで成人向け算数教室で講師をしていたRだった。
 先の労働党政権は、読み書きのできない成人の再教育に力を入れていたので、無料で算数と英語の再教育の場を提供していた。が、現保守党政権はこれらのプロジェクトへの補助金をカットした。あの党は、いつだって底辺層の底上げには興味がない。
 政府からの支援が無くなったので成人向けの算数教室と英語教室は有料になり、当然のごとく生徒数は激減し、これらの教室を運営している団体数も激減した。そのため、Rは食って行けなくなり、現在は大学に勤務しているが、自腹でコミュニティセンターの一室を借り、無料の成人向け算数教室を再開するつもりだという。
 「サッチャーが死んだからと言って、何が変わるわけでもない」
 と、醒めた顔つきでテレビを見ていたRは、昔ヴォランティアでアシスタント教員をしていたメンツに連絡を取り、再びヴォランティアをやらないか。と説得して回っている。
 かくいうわたしも、算数の得意な日本人としてアシスタントをしていた時期があるのだが、「いや、いまは昼も夜も働いて、その間に主婦業もやってるから、無理」と一度断ったのに、Rは執拗に攻めてくる。アンダークラスのシングル・マザーもけっこう教室にはやって来るので、保育士のわたしは託児サービスが提供できる点で便利なのである。
 「金がないとか、子供がいるとか言って教室に来ない人びとが、もっとも再教育が必要な人びとなんだ。ってのはわかってるよね」
 「わかってる。けど、時間がない。夕方にそんなことやってたら、誰がわたしの子供のご飯つくんの」
 「一緒に連れて来たら」
 「ええっ!?」
 「フィッシュ&チップスおごるよ、毎週。教室の隅で食べさせたら? で、スペアのラップトップ持ってくるから、ゲームさせたり、宿題させたりしたらいい。算数はもちろん僕が見るし。子供に九九覚えさせるの得意」
 「えええっ!?」
 と、だんだんコーナーに押しやられてジャブを連打されているわたしの虚ろな目に、テレビの画面の中でサッチャーの偉大さ、崇高さを語り倒しているデヴィッド・キャメロンの顔が見えた。
 彼は、紛れもなくサッチャーの末裔である。
 イートン校からオックスフォードという超エリートお坊ちゃまの道を辿りながら、常に目立たないギーク青年で、ザ・スミスを偏愛していたというキャメロンは、いったい彼らの曲から何を聴いていたのか、モリッシーがギロチンにかけたがっていたマーガレットの政策を模倣している。サッチャーの政策を発端として発生し、21世紀には英国の癌と呼ばれるほど拡大した、いわば「真のサッチャーのレガシー」と言っても良いアンダークラスという階級を、彼の政府は冷酷に切り捨てようとしている。母親が残したMESSをきれいにするどころか、鉄の女の息子たちは、そのMESSをさらに広げようとしているのだ。

 「わかった。やる」
 「Thanks. I knew you would say that」
 と言われたときには、罠にはまった。という気もしたが、サッチャーが死んだ日である。彼のような人の頼みを、こんな日に断るわけにはいかない。

            ************

 「生きているときの彼女は、俺の敵だった。だが、死んだ彼女は俺の敵ではない。俺は彼女の墓の上で踊る気はない」
 というジョン・ライドンの発言は、現代の英国の所謂"ザ・レフト"の人びとには評判が良くないようだ。それは、「悪い魔女は死んだ」と歓喜して踊るパーティ・ピープルの士気を盛り下げる言葉だからである。セックス・ピストルズのジョニー・ロットンは、ザ・スミスのモリッシーのようにべたべたに直球のアンチ・サッチャー声明を発表しなかったので、肩透かしだったそうだ。
 しかし、わたしには、それがピストルズとザ・スミスというバンドの役者の違いだったように思える。

 死人を相手に、勝ち誇ったような顔をしてパーティをしてどうする。
誤魔化されるな。真の敵と戦え。


 「そもそも、コステロのあの歌は、あの女が死んだら墓を踏みつけてパーティしてやる。という歌じゃないよね。彼女より俺たちは先に逝くだろうという、かなしい歌だ」
 と、Rは言った。
 彼のような人は、故人の墓には唾をかけない。そんな暇があったら、することは山ほどあるからだ。テーブルの上に広げられたスプレッドシートには、以前、算数教室に来ていた生徒とアシスタントの名前がずらりと並んでいる。
 「これ、ひょっとして、全員に連絡取ってるの?」
 「うん」

 政治家たちはサッチャーの葬儀の件で揉め、"ザ・レフト"の人びとは、葬儀当日のプロテストの準備で盛り上がっている。
 そしてRは、葬儀の日などまったく関係なく、スプレッドシートを広げて電話をかけ続けているだろう。
 Rのような人のことは、新聞やニュースサイトには一行も書かれていない。だが、本気でサッチャーのレガシーの後始末をしようとしているのは、彼のような名もない末端の人々だ。
 わたしにとってもっともブリティッシュなのは、彼のような人びとである。

HDを捨てレコ屋に行こう - ele-king

坂本慎太郎 - 幽霊の気分で(Cornelius Mix)/悲しみのない世界(You Ishihara Mix)
zelone records

噴水プールのまわりをアシッドの浮き輪で浮かんでいる音響。コーネリアスと石原洋のリミックス収録のレコードストア・デー(4月20日)限定の7インチ。音もアートワークも良い。早い者勝ち。

PychedelicPop

Baio - Sunburn EP Greco-Roman

あれもハウスこれもハウス。これは、昨年、配信で発表したヴァンパイア・ウィークエンドのベーシストによるハウス、そのアナログ盤。初期のベースメント・ジャックスを思わせるバレアリックで、出すなら夏前しかない。パーカッション、メロウなギター、キックドラム、うねるベースライン、美しいメロディ......新しくはないが良い曲に違いない。

House

Disclosure Feat. AlunaGeorge - White Noise PMR Records

7インチ時代のガラージ風のアプローチはどこに行ったのだろう。

House

A/T/O/S - A Taste Of Struggle Deep Medi Musik

曲調からは初期のトリッキーを思い出すが、リズムにはUKガラージが入っている。B面にはスクリームとコモドーのリミックス収録。どちらも格好いい。

DowntempoR&BDubstep

TOWA TEI - Licht(リヒト) ワーナー

テイ・トウワによるクラフトワーキッシュな新曲。リズムも音色も、細かいエディットも可愛らしく、後半のメロウな展開も良い。何かしながら家で聴くには最高。

https://itunes.apple.com/jp/album/id630063567

KroutrockTechnoPop

Rainer Veil - Struck EP Modern Love

インダストリアルと呼ばれているシーンが、実験とレイヴの激突であることを告げている1枚。新人だが、この先が楽しみ。

JungleExperimental

Mark Ernestus presents Jeri-Jeri with Mbene Diatta Seck - Xale Ndagga

Mark Ernestus presents Jeri-Jeri - Bamba Ndagga

昨年から続いているマーク・エルネストゥスのこのシリーズはまったく外れ無し。セネガルのアフロ・トライバル・ファンク+ベルリン・ダブ、録音の良さがハンパない。芸術的な領域。素晴らしいポリリズム。2枚とも推薦。

AfricanDubFunkMinimal

Aoki Takamasa - Constant Flow Svakt

スイスのアナログ盤専門レーベルからの第二弾。欧州では圧倒的な評価をほこるアオキ・タカマサ。20分を越えるテクノ旅行、じっくり時間をかけて景色が変わる。題名曲のみ収録。

TechnoMinimal

The Lions - ele-king

 ザ・ライオンズは、2007年頃、米西海岸はLAのレゲエ、スカ、ファンク、ヒップホップなどのフィールドの精鋭ミュージシャンが集結して誕生した企画性の高いユニットだ。その2008年の初作『Jungle Struttin'』(Ubiquity Records)を覚えている人も多いだろう。レゲエ、USファンク、エチオ・ファンク、クンビアなどのリズムが混在し、ダブ・ミックスが施されたりする音作りが話題を集めた。そこには、レコード・マニア然とした演奏家たちが集い、曲によって欲しいゲスト・ミュージシャンやヴォーカリストを仲間に加えながらやりたいようにやる、自由度の高いセッション・グループ的雰囲気が濃厚だった。そしてそのアプローチは、このところ世界中で興隆している、"レア・グルーヴ"を極めて現代的に実演再生するミクスチャー・インスト・バンドの系譜に置かれるタイプのものだった。

 そのメンバーには、西海岸を代表するスカ~ロックステディ・グループ:ヘップ・キャットのヴォーカルで、俳優としても活躍するアレックス・デザートや、同じくヘップ・キャットの歌手兼鍵盤奏者デストン・ベリー、デ・ラ・ソウルやメイシー・グレイらのサポート・ギタリストでもあるコニー・プライス、ビッグ・ダディー・ケインやトーン・ロックのエンジニアでもあったスティーヴ・ケイがダブ・ミキサーとして参加するなど、その布陣を見ても趣味人たちのセッションという趣がプンプンしていたものだ。

 しかし今回の5年ぶりの新作では、グループの印象は随分変化していて、まさしく彼らの自由度の高さが実証されている。上述の4名は継続して中心構成員であり続けているものの、インスト曲主体の前作と打って変わって、今回は1曲以外すべてヴォーカル・チューン。さらに、新たにヴォーカリスト、DJとして参加した2名が、"先輩"のアレックス・デザートよりも多くの曲でマイクを握っている。
 ひとりはカリフォルニアの伝説的スカ・バンド:オーシャン11のヴォーカリスト:マリック・ムーア、もうひとりはI&Iサウンド・システムのMCで、スライ&ロビーのロビー・シェイクスピアーのいとこ、ブラック・シェイクスピアー。オーソドックスなロックステディ・マナーの歌唱を得意とするアレックス・デザートに対し、この2名がかなり"ロッカーズ"なムードを導入しているのだ。さらに1曲、スタジオ・ワン・レジェンド:ヘプトーンズのリロイ・シブルズが、同輩の名歌手フレディ・マッケイの「Picture on the Wall」でシビれる名唱を聴かせる。つまり全12曲のうち、11曲を4人のヴォーカリストで歌いまくる作品になっているわけだ。

 プロデューサーとしてクレジットされているのは、前掲のコニー・プライスとスティーヴ・ケイ、そして、数々のレゲエ・レジェンドの後ろでドラムを叩いてきたブレイク・コリーという3名のインスト・ミュージシャン。つまりここまでの流れから見る限り、要するにザ・ライオンズとはインスト・ミュージシャン主導のユニットであり、そのときどきの作品によってヴォーカリストを呼び寄せる。そして今作のコンセプトが"ロッカーズ"・レゲエ、ということなのだろう。コア・メンバーとして一定の演奏家を固定する以外はプロジェクトごとにミュージシャン、シンガー、DJを迎え入れるスタイルは、NYのイージー・スター・オール・スターズでもすっかりおなじみだが、こうした1回の企画ごとに仕切り直す集団の自由なあり方もかなり現代的なように思う。

 音の方では、徹底してヴィンテージ・レゲエのフィーリングを追求している。リズム・トラックはすべて往年の流儀でテープ録音され、ハモンド・オルガンなどの古い楽器に起因する"幸せな"ノイズは基本そのまま放置してある。アルバムは未発表ミックス等も加えた7インチ盤ボックス・セットでも発売されたが、アナログ盤用にはマスタリングも変えている。こうした、新録作品でヴィンテージ・サウンドを真剣に追求するというトレンドも、欧米の(特に比較的若い)レゲエやファンクのバンドの間ではかなり一般化してきており、その点からも、このライオンズは実に今風のレゲエ集団であると言えるだろう。

 まして、本作はブレイケストラ(Breakestra)、アロー・ブラック(Aloe Blacc)、マッドヴィレイン(Madvillain)らの誉れ高い作品を世に送り出した、ファンク、ジャズ、ソウル、アフロ・ビートなどのルーツ&ヴィンテージな感覚を30~40年の時空を超えてニュー・サウンドに再生させるスペシャリスト:カリフォルニアの〈ストーンズ・スロウ〉レーベルがレゲエに手を出す最初の作品でもある。そうした過去のストーンズ・スロウの作品に顕著だった、新しく、鮮やかな懐古趣味でもって、2013年のアメリカ西海岸よりヴィンテージ・ロッカーズ・サウンドを世に問うわけである。

MP3でスプリフは巻けないだろ
33回転の音の方がずっといい
だけど一層ナイスなのは 12インチのサウンド
トップは激しく ボトムはたっぷりしてる
このジェネレイションは ルーツに立ち返ろうとしてるのさ......
"This Generation"

 このアルバムのあちこちから、70年代中期にバーニング・スピアーの伴奏をしたブラック・ディサイプルズ・バンドのアンサンブルが、そのドラマーで映画『ロッカーズ』の主演だったホースマウスのシンコペイションが、聴こえてくる。ヴィデオを観れば、デイヴ・ワイルダーの弾くベイス・ギターも、ホースマウスの相棒だった当時のロビー・シェイクスピアーが弾いていたヴァイオリン・ベイスだ。あるいは Mr. レゲエ・ドラム=スライ・ダンバーのドラミング・スタイルだって、その激しさを強調して引用されている。
 全篇、オーセンティックなルーツ・ロック・レゲエに、ひとつまみの、それぞれに異なるオリジナルな新味を振りかけた仕上がり。そしてメロウネスが支配するヴォーカル・ラインからは、アルトン・エリスが、ケン・ブースが、フレディ・マクレガーが聴こえてきたりもする。

 マニアックさ極まって少々衒学的な瞬間もあるが、レゲエはかように豊かなレファレンスの集積であり、いまルーツ・ロック・レゲエを志向するということ自体、大なり小なり啓蒙なのだ。聴く人の世代や、これまでのレゲエ体験の多寡によって聴こえ方は大きく変わるだろうし、耳を澄ますポイントも違ってくるだろう。そのことも含め、とても奥深く、楽しいアルバムだ。
 全然イケてないように見えるかもしれないが、このジャケットのアイス・クリーム・ワゴンを改造したような車と、地べたに置かれたスピーカー。これこそが、そもそもの"サウンド・システム"なのだ! これは I&Iサウンド・システムの持ち物で、ブラック・シェイクスピアーが西海岸で実際に、このいにしえのスタイルの"移動ディスコ"を稼働させているらしい。つまり今回のザ・ライオンズは、このスピーカーから流れ出るのが似合う音の世界、ってことだ。

〈This Generation〉

〈This Generation (Dub Version)〉

〈Roll It Round〉

Mala@ele-king TV - ele-king

 今月の20日に東京でのDJを控えているダブステップのカリスマ、マーラが、ドミューンに生出演します。DJプレイは、本番でしかやらないという彼の主義のため、現場に行ってもらうしかないようですが、18日は公開インタヴューということで、喋ってくれます。盟友ゴス・トラッドも同席しての、ディープ・メディ・ミーティングといった感じになりそうです。夜7時から9時まで、お見逃しなく。ele-kingもサポートさせていただきます。たまにはdommuneにも来て下さいね。
 それで、予習。『マーラ・イン・キューバ』の素晴らしいPVを見つけたので、まだの人、ご覧下さいませ。そしてDBSに行こう。

Mala - Cuba Electronic


"Noches Sueños"--Mala featuring Danay Suárez [Official Video]


タイトル:ele-king TV Presents "MALA IN DOMMUNE"
出演:MALA、GOTH-TRAD、野田努(司会)、チクヒコウイチ(通訳)
内容:UKダブステップ界の最重要人物MALAがDOMMNEに登場! アルバム『MALA IN CUBA』で新たなる新境地を開拓! 音楽革命家MALAが主宰するレーベルdeep mediを解説!

interview with Yakenohara - ele-king


やけのはら
SUNNY NEW LIFE

felicity/SPACE SHOWER MUSIC

Amazon iTunes

 太陽、新しい、リラックス、幸せ、未来、夢、光、希望、大切なこと......言っておくけど、これは啓発本ではない。やけのはらの2年半ぶりのセカンド・アルバム『SUNNY NEW LIFE』から聴こえる言葉だ。CDのケースには、明るいリゾート地のような写真がデザインされている。ジャケには青空が見える。

 やけのはらは、ゼロ年代、さまよえる世代の代弁者として登場した。小洒落たリゾート・ミュージックとは、ある意味真逆の存在で、ささやかな、汚れた日常をロマンティックに描こうとするリリシストだ。彼の初期のレパートリー、"Summer Never Ends"(SFPのリミックス)、"Rollin' Rollin' "(七尾旅人との共作)、"DAY DREAMING"(BUSHMINDとの共作)、あるいは"GOOD MORNING BABY"といった曲は、空しい日々の、しかし小さく甘い、そして美しい物語だった。結果、2010年の真夏にリリースされた彼の『ディス・ナイト・イズ・スティル・ヤング』は、派手な宣伝もないのに関わらず、多くの人たちに聴かれることになった。
 地下より野外、夜より朝、冬より夏を、やけのはらは、好んでいる。猥雑俗悪なものより潔癖な表現を選ぶ。そのように僕には見える。『SUNNY NEW LIFE』は、それに輪をかけてドリーミーなサウンドに特徴を持つ。曲によっては、トロピカルなムードさえある。近年稀に見る脱力感もあるし、そうした軽やかさが『SUNNY NEW LIFE』の魅力だが、口当たりの良い言葉ばかりが並んでいるわけではない。春の日差しのようにうららかで、温かい音楽の背後にあるやけのはらの「思い」をお届けしよう。

僕が自分で作っててこういうのはヘンかもしれないですけど、ポジティヴに無理矢理なろうとか、ポジティヴにしていこうよみたいなこととか、強迫観念的に、狂ってるぐらい前向きになろうということを言い方を換えて言ってるような気がしますね(笑)。

ジェフ・ミルズのときに久しぶりに会ったんだよね。

やけのはら:あー、はいはい。ていうか、ジェフ・ミルズが音楽を担当した、麿赤児さんの大駱駝艦の公演ですよね。それから次の日にも何かで野田さんに会ったんですよ。

寺尾沙穂さんのライヴじゃない?

やけ:そうです、そうです。

ジェフ・ミルズのときに行って、「あれ、やけのはらに似てるひとがいるなー」と思って。あまりにも似てるなーと。そしたら本人だった(笑)。

やけ:あれは、友だちが劇に出てたから。

「何でここにいるの?」って。

やけ:野田さんはおかしくないですよね、ジェフ・ミルズだから。僕はジェフ・ミルズだから行ったんじゃなくて、友だちが出るのに興味があるから行ったんですけど。

しかも2日連続で会ったからね。びっくりしたよね。ずっと会ってなかったから。実際、前のアルバムから今回のアルバムまで長い年月が経ったんだけれど。

やけ:そんな、そこまでは(笑)。10年とかじゃないんで(笑)。えっと、前が夏なんで2年半。

2年半かぁ......。そうだよね。なんか、『THIS NIGHT IS STILL YOUNG』の頃がすごく昔に思えない?

やけ:それは僕もあります。いろんなひとたちにとっても3.11があったんで、やっぱりそれ前後っていう考えがあるんだろうし。自分のなかでも、同じ世界の同じ時間のつながりのなかですけど、そのときの雰囲気というか感情ってまた違うものとしてあるイメージがありますね。

今回の『SUNNY NEW LIFE』は、『THIS NIGHT~』を出した後から考えられていたものなの?

やけ:考えてました。なんていうか、ラッパーとしてガツガツとアルバムを出していこうって感じじゃないんですけど、『THIS NIGHT~』で自分なりのラップ・アルバムを1枚作れて、やっと作り方がわかったというか、いちおうできるってなって。ただ、早く作れるタイプでもないので、そのうちできればいいやっていうのだと、5年か10年かわからないけど、なかなかできないだろうなっていうのもあったし。
 もともとの気持ちとしても、DJのほうが自分の性格には向いてると思っていて、そういうのは自分のライフ・ワークとしてずっとできるかもしれないし。でも声出してラップして、っていうことはいろんな状況や自分の体力とか気持ちとかにしろ、できるタイミングにできるだけやりたいなっていうのもあったので。気持ち的にはすぐ作りたいぐらいの感じで思ってたというか、最初は「2011年に出します」って言ってましたね。
 そこに震災があって、いろんな面でドタバタしたりっていうのがあって、作業も止まるわっていうか、2011年は早かったっていうか。思うようにできず。まあ、なんやかんやで多少時間経ったなっていうか。イヴェントにはいろいろ出たのはあるんですけど。そんななかで2年半経ちましたが、気持ち的には早く出したいっていうのはありましたね。

サンダルはいつやめたの?

やけ:30歳ぐらいじゃないですか。大人になったんじゃないですか。

あれはやめようと思ってやめたの?

やけ:うーん、覚えてないですけど、なんですかねえ。ある日、「この靴キレイだしいいなー」と思って、わらしべ長者的に。靴をいっぺん履き出すと、現代人は恐ろしいもので、もう靴のない生活には戻れないですよ。

なんで(笑)?

やけ:いやいやいやいや、ちょっともうそういうのは。

逆に、あの頃ってなんでつねサンダル履きだったの?

やけ:よくわかんないです。ラクだったんじゃないですか?

最初会ったときのインパクトっていうのがサンダルに集約されているところがあって。だって、真冬に、横浜から渋谷までサンダル履いたまま来てラップするひとって、それまで知らなかったからね。

やけ:そういう感じで書いてましたよね。そのときに「スポーツシューズではなく、サンダルを履く彼の......」っていう風に書かれていたのを覚えています。

やけのはらと言えば、冬でもサンダルっていうイメージだったのにね。

やけ:そこまでいくと極端じゃないですか(笑)?

上はダウン着ているのに、足がサンダルというね(笑)。でも、今回のアルバムもそういう意味では、変わらないというか、やけのはららしいなっていう風には思ったけど。もちろん変化はあるけど、「彼ならこういうときこういうこと言うだろうな」っていう。

やけ:そう言ってもらえるのは嬉しいですね。

[[SplitPage]]

だからこの曲は、自分の思うドリーミー・ミュージックの好きな音をぜんぶ集めて。これは頭でけっこう作って、コーラス、ウクレレ、かわいいシンセとか、ハープの音とか。自分の好きなドリーミー・ミュージックで、こういうのが入ってるのが好きだなっていう要素を箇条書きにしていって、ぜんぶ集めたんですよ。


やけのはら
SUNNY NEW LIFE

felicity/SPACE SHOWER MUSIC

Amazon iTunes

それにしても最初のアルバムは完成まで時間がかかったね。

やけ:大きな問題は、ライヴを当時はまだできなかったことですね。DJをバックにラップするっていうのがなんか、まずしっくり来なかったっていうか。それがドリアンくんに出会って、キーボードとだったら1DJ1MCぐらいの人数で、音楽的にもイヴェントとしても自分にとってやりやすかったし、自分なりのライヴができるって。それが、すごく大きいですね。モチベーションとかいろんな意味とかでも。そのことに気がつくのが、すごい遅いんですけど(笑)。
 で、いまはライヴができる楽しさがあって。DJも楽しいんですけど、それとはまた別の、新しい曲を作りたいとかアルバムを作りたいとか意欲が湧いてく来るというか......、自分が好きなレーベルで、楽しくコミュニケーションしながらできているので、普通に次のアルバムを作りたいなと思いました。僕が野田さんにはじめて会ったときから6年ぐらい経ちますよね。そのとき僕にはライヴの手段がなかったから。

DJしかやってなかったもんね。

やけ:ライヴがない状態で、日々の仕事っていうとヘンですけど、DJとかリミックスとか日々の時間でやることもいろいろあるなかで、なんか行くアテのないラップ曲を10曲作るとかってなかなか難しかったというか、機会があるときしかできないというか。

温かい作風だとは思うんだけど、今回のアルバムには、他方では、やけちゃんの問題提起や主張がより際立っているようにも感じたのね。その辺をひとつひとつ話していければなっていう風に思ってます。

やけ:こういう感じがもともとの自分の素っていうか。いまの感じが素に近いっていうのは、僕も思ってる し。野田さんは最初から俺のサンダルを気にしてるようなひとだったから。サンダル感はこのアルバムとは違うかもしれないけど(笑)。物質に対する考え方とか世のなかの情報とか、物事に対する僕の感覚みたいなものをサンダルってタームで野田さんが捉えてくれたんだと解釈して(笑)、そういうのはこっちのほうが入ったりしてるっていうか、そういうのを僕らしいって言ってくれたのなら、自分もそうだと思う。

もう、とにかく、何とか、ある種の前向きさみたいなものを打ち出したいわけでしょう?

やけ:そうですね。ぜんぶそうですけどね。

思春期な感じを残しつつ。

やけ:思春期? あー、そこはちょっと違います。言ってる意味はわかるんですけど。たしかに、ファーストのときは青春を意図的に入れてますが、このアルバムではそういうところを排除したつもりなんですよね。大人になっていくっていうことが裏テーマだったので。

でも大人になってもYOUNGでいたいっていうのじゃないの?

やけ:いや、このアルバムに関しては、なんだろう、大人を受け入れるみたいなものが裏テーマなんですよ。

今回のアルバムっていうのはさ、結果的には、すごくポジティヴな雰囲気を前に出しているじゃない?

やけ:うーん、僕が自分で作っててこういうのはヘンかもしれないですけど、ポジティヴに無理矢理なろうとか、ポジティヴにしていこうよみたいなこととか、強迫観念的 に、狂ってるぐらい前向きになろうということを言い方を換えて言ってるような気がしますね(笑)。
 今回は、新しさとか生活とか、統一したテーマで作りました。そして、「年を取っていく」とか「暮らしていく」とか、「大人になる」......。「暮らしていく」っていうのは時間が経過していくから当然年を取るわけで。そこが裏テーマだったんですけど、それは誰にも指摘されてないですね。「大人になりましょう」っていうのを言ってるんです。

それにしても、何故、ここまでムキになって前向きさを打ち出したの?

やけ:やっぱり震災は大きかったですし、震災だけじゃなくて原発だったり、そういう3.11で起こったこと以外の経済や、それによって気にするようになった社会のシステムだ ったりとか。たとえば僕がもともと感じていた資本主義社会やグローバリゼーションに対する違和感みたいなものが、よりいっそう気になったり。さらには自分が知っている範囲よりも広い、社会や世界の構造だったり。
 で、世界の構造を生む、貨幣の制度に対する個人ひとりひとりの気持ち。たとえばそんなに紙幣をいっぱい集める満足感を、市民はそこまで憎しみ合いながらも得る必要があるのか、とか。物質なんかにしても、そういうものが本当に必要なのか、とか。自分にもともとあった、ダサイ言葉だけど(笑)、消費社会に対する距離感や違和感みたいなものが、よりいっそう震災を経た社会や世界では自分が知りたいと思ったりとか。
 で、よりいっそう違和感であったり、豊かさの形だったり、何に喜ぶべき??「べき」っていうのもおかしいんですけど、たとえばこういうものを得てこういう暮らしをするのが幸せだっていうことに対 して、ひとりひとりの多様性がもっとあっていいんじゃないか、とか。
 そういう意味で、「新しさ」は、自分に対して言ってるっていうのもあるし、リスナーのきっかけになってくれたら嬉しいみたいな意図もあるし。なんですかね......あれ、僕、何言おうとしてたんだっけ(笑)?

(笑)今回が明るいアルバムになった理由は3.11にあるっていう話かな。

やけ:そう、それで社会のシステムがその前に戻ろうみたいになっているけど、変えようよっていう。何が本当に必要でどういうものを美しいと思うかなんかを、もう一度ちゃんと捉え直したりしようと。みんなが思わされている世界の認識も、デッサンし直して新しいのにしようと。そういう意味での「新しい」。戻るんじゃなくて、流れをリセットしたほうがいいんじゃないかって。リセットっていうか、新しい発想。たとえば音楽産業なんかで言っても、「あの時代のああいうのに戻ろう」とかそういうことよりも、新しい形を模索しようって。

「90年代をもう一度」ではなくて......。

やけ:社会には意外とそういうムードがある気がするんですよね。3.11を経ても。

いまは、むしろ「明るくなれ」って言うほうが難しいことだと思うのね。

やけ:「SUNNY」っていうのは「明るくなれ」って感じでもないんですけど......、なんだろうなあ。

『SUNNY NEW LIFE』っていうのはさ、言葉としては空振りしかねないというか。世のなかの絶望感に対して、もっと希望を持とうと言ってるわけでしょう?

やけ:まあそうですね。

イチかバチか、でも言ってみるか、みたいな感じなの?

やけ:そんなでもなかったですけどね。だって"RELAXIN'"とかも「リラックスしていこうよ」だから。

「リラックスしろ」なんて言われたらさ、「ふざけるな」って怒るひともいるかもしれないじゃない?

やけ:いやいやだから、わざとリラックスしようって言ってるんです。

ははははは。

やけ:みんながリラックスしてたら言わないですから。そういうムードじゃないから、リラックスしようって言ってるわけです。あとなんか、ギスギスした空気感よりは、抜けた軽やかなものにしたい。

ギスギスした空気感っていうのはどこから感じるの?

やけ:いろいろですね。僕が愛する文化も落ち込んできてるし......。それがどんどんコンビニエンスになってたり、文化的なものっていうものが利便性や消費のなかでどんどん求められなくなっているというか、切り捨てられていっているように感じますけどね。

"JUSTICE against JUSTICE"という曲には憤りがあるんだけど、これは何についての曲?

やけ:これは去年の12月の選挙のときに書いたもので、まあ石原慎太郎ですね、はっきり言うと。尖閣問題。
 マチズモみたいなこととか男性性・女性性とかもいろいろ気になっていた時期で。戦争だったり、あらゆるとこにも通じると思いますし、だからべつに石原だけのことじゃないけど。もうひとつ言うならアメリカ。近年のアメリカ、というかアメリカの侵略の歴史、アメリカ人的なマッチョな発想だったり支配の歴史だったり。アメリカのこともちょっと考えてたかな、9.11とか。なんだっけ「次々と作る敵」とかは、アメリカがいろんなところを次々と侵略したり、大義名分を作って侵略するみたいなイメージで。
 これはガンジーの言葉の引用ですけど、「目には目を歯には歯をってことをしてると、ぜんぶなくなってしまうよ」と。人類の知恵は科学で核兵器を作れるんだから、このまま戦い合っていても取り返しがつかないことになっちゃうんじゃないかなって。日本人でももちろん、99.9パーセントのひとたちが戦争反対って言うと思いますよ。だけど、「中国人ってアレだよね」とか言っちゃうひともいたりとか。北朝鮮は気持ち悪いって言ったりとか。北朝鮮にいつ攻撃されるかわからないんだったら、「そこはもうやっちゃいましょうよ」みたいな、とか。そういう空気って普通にあるような気がして。

アルバムではこういう、ある意味では、すごく際立った言い方、前向きさもふくめて単刀直入に言ってるよね。

やけ:それはだから、大人になってきたり??。良くも悪くも年を取ってきて、それを受け入れるっていうのが裏テーマなんですけど。30超えた大人で、3.11で社会と日本が大変なことになってるなかで、やっぱり考えざるを得 ないですよね、それは。そういう社会構造だったり、いろんなことを。クラブとかDJとか、そういうみんなが楽しむ物事に関わることとしても。

[[SplitPage]]

激しいキックであったりとか、派手なシンセ、エッジの強い音っていうのは受け付けなくなってて。アンビエントみたいなものとか、ドリーミーなものとか、ラウンジーなものをすごく聴きたい気分だったっていうのもありますね。


やけのはら
SUNNY NEW LIFE

felicity/SPACE SHOWER MUSIC

Amazon iTunes

いまでもクラブDJやってる?

やけ:基本的に、もちろん。

どれくらいやってるの?

やけ:ここ3、4ヶ月はアルバム制作でほとんど入れてなかったですけど、基本的にけっこうやってますね。性格的にもほんとはそっちのほうが合うんですけどね。元から世界に何かを伝えたいから音楽をやる、俺が声を出すって言うよりは、何かを作りたいっていう感じで音楽を作り出しただけなんで。単純に音楽を聴くのが好きで、自分が前に出たい欲求で音楽をやってるわけでもないので。だからDJっていう距離感であったりコミュニケーションの仕方っていうのは自分の性格に合ってるなと思いますけどね。

そして、本人いわく大人になったという......

やけ:いや、なってないんですけど。その話をもっと言うと、ずっといつまでも子どもでいることがいいというか、大雑把に言うとアンチ・エイジングな風潮ってあるじゃないですか。ロリコン嗜好とか。そういうのに対するちょっとしたアンチがあるっていうか。なんか全体的に年を取ることがいけないみたいな風潮がある気がして。若いのがいい、みたいな。自分がファースト・アルバムで言いたかった「YOUNG」はそういうことでもないし。

共感できるけど、でも、そういうのもいいなあと思うときもあるし、ダメだなと思うときもあるし(笑)。

やけ:でもそれはいいんじゃないですか。なんていうか、振る舞いですね。直接的な、服とかそういうことよりも、精神構造、世界認識とか、そこが誤解されたイヤな子どもっぽさみたいなものまでもアリみたいになっ ちゃってるような気がするというか。そういうのに対する対する違和感とか。大人っていうのも象徴的な概念ですけど、それがじつは裏テーマであったんですよね。

去年やけちゃんと飲んだときに、1枚CDをくれたよね。『7泊8日』ってやつ。

やけ:あー、はい、友だちです。VIDEOTAPEMUSIC。僕も曲に参加してますね。それが出たぐらいのときで、たまたま持ってたんで。

やけちゃんのアルバムにも似たような感覚があると思ったんだよね。コンセプトとしてはさ、虚構でもいいからユートピアみたいな感じがあるじゃない?

やけ:ユートピアというのはちょっと違うけど。

やけのはらがディストピアを表現するとは思えないから。

やけ:それはそうですよ。自分のテーマはずっと「SUNNY」だし、内に行くエネルギーより外に行くエネルギーだし、ヴェルヴェッツよりビーチ・ボーイズなんですけど。なんだろうな、VIDEOTAPEMUSICの音楽はそこが良さですけど、フィクションじゃないですか。そういうところよりは、もうちょっ と地に足つけて、僕は本当の生活のことを言ってるんですけどね。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドも生活のことを言ってると思うんだけど。

やけ:でもさっきの話で言うディストピア志向じゃないですか。僕のいちばん好きだったり、僕がやりたいことは、ヴェルヴェッツではなくてビーチ・ボーイズなんです。ビーチ・ボーイズのほうがファンタジーなんですけど。

いまビーチ・ボーイズをやるっていうのは、どうなんだろうね。それ相応の気持ちが必要じゃない?

やけ:なるほど、そういう意味での空振りってことだ。

何故ビーチ・ボーイズなの?

やけ:それはだから難しいですよ。それはたぶん、自分がいちばん最初に音楽を好きになったときから、音楽の聴き方でどういうとこ ろを聴いてたかっていうと、反抗とか興奮というよりも楽しくなりたいとかだったと思うんで。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドもビーチ・ボーイズも両方好きっていう風にはならないんだ?

やけ:いや、音楽で言ったらヴェルヴェッツも好きですよ。だけど、自分の素でそういうトーンのアルバムには行かない。ジャケットが黒一色にはやっぱりならないっていうか。

まあ、そりゃそうだよねえ。

やけ:いや、そりゃそうかはわかんないですよ。次のアルバムは意外とゴシックな感じで(笑)。

わはははは。だったら、そもそも、やけのはらって名前が矛盾してるよね。

やけ:ビーチ・ボーイズみたいなものが好きなひとがいるとして、そういうのをいま風にやってますみたいなひととは、たぶんまた全然違います、それは。

ワイルドサイドのビーチ・ボーイズ(笑)。

やけ:砂糖だけしか入ってないのは、やっぱヤなんですけど、ドリーミー・ミュージックっていうのは、ちょっとありました。磯部(涼)さんなんかは「けっこうエキゾだね」って言ってて、自分はラウンジ・ミュージックっていうのはもちろんあったけど、エキゾっていうのはまったくそういう認識を持っていなかったから、それは意外だったんですけど。自分のなかではラウンジ・ミュージック、ドリーミー・ミュージックっていうイメージっていうか。

やっぱり『7泊8日』とも近いと言えるんだね?

やけ:元々好きなラインだし、友だちだし、会う前から彼は僕の音楽を聴いてくれてたり、音楽に求めているものが近かったんで、けっこうすぐ仲良くなって、今回のアルバムに参加してもらって、大事な役割を果たしてくれてますね。
 ただ、僕としても、こういう音楽のトーンっていうのは昔から地で普通に好きだったっていうか。だから新機軸って言うよりは、逆にバック・トゥ・ベーシックっていうか。
 これを作ってる2、3年はUSインディとかにも興味なくなったし、新譜で興味あるラインとかもほとんどなく、逆に世界や歴史のことなんかに興味があったり、音楽でも古いほうに遡ったり。新譜もまったく聴いてないわけではもちろんないですけど。
 前のアルバムのほうが、そのときのトレンドなんかをちょっとぐらい取り入れようかなとか、そういうのがあったから、今回はもうちょっと素ですね。最後の最後になってトラップに興味持って、何曲かドラムがちょっとトラップ風なんですけど。かなり何でもないオールド・ミュージックだったり、自分の素で好きなトーンって感じ、かなあ。

アルバムの冒頭は、ウクレレか何かを弾いてるの?

やけ:あれはただのサンプリングです。簡単なコード弾きのやつを、ちょっとピッチ変えて2コードにして。だからこの曲は、自分の思うドリーミー・ミュージックの好きな音をぜんぶ集めて。これは頭でけっこう作って、コーラス、ウクレレ、かわいいシンセとか、ハープの音とか。自分の好きなドリーミー・ミュージックで、こういうのが入ってるのが好きだなっていう要素を箇条書きにしていって、ぜんぶ集めたんですよ。

[[SplitPage]]

つねに一貫してグッド・タイムは描きたい。人生にグッド・タイムしかないっていう嘘はつきたくないけど、グッド・タイムしか表現したくないっていうのはありますね。バッド・タイムの何かを曲にしたいっていうのはないし。


やけのはら
SUNNY NEW LIFE

felicity/SPACE SHOWER MUSIC

Amazon iTunes

やけちゃんが言うラウンジ・ミュージックっていうのはどういうイメージ?

やけ:部屋で鳴ってて気持ちよくなるってことですかね。それ以上にも以下にも最終的には着地しないっていうか、あんまり意味性を持たせてもわからないし。

具体的に言うとたとえばどんなの?

やけ:うーん、なんですかねえ。それこそ、アンド・ヒズ・オーケストラとか名前に入っているような古いものとか。ジェントル・ピープルの元ネタみたいなものとかですよね。やっぱりレコード世代なんで、古いよくわからないラウンジっていうか「その他」とか買ってましたね。だから音楽を聴いて高揚したいとかより、自分の中でもいろんな耳のチューニングはもちろんありますけど、たぶん音楽聴いて楽しくなりたいんじゃないですか、自分は。
 僕、起きてから寝るまでずっと音楽聴いてるんですよ。気候とか自分の気持ちとかに合わせて、うちでひとりDJをずっとしてるんです。ひとによっては「聴くぞ」っていうときにだけヘッドフォンで聴いたりするじゃないですか。でも僕は、なんだろう、つねにぜんぶムード・ミュージックとして捉えてると言えば捉えてるっていうか。言葉が入っちゃってはいますけど、自分が昼に聴きたいトーンはこんな、っていうか。

"HELTER-SKELTER"も曲名とは裏腹な......。

やけ:"HELTER-SKELTER"って「混乱してる」って意味ですよ。ジェット・コースター。

のんびりしてるじゃん。

やけ:ああ、まあまあ。でもジェット・コースターの名前ですけど、元々の意味は「混乱してる」って意味ですよ、これは。これが震災のあとの曲ですよ。「どうしよう」っていう。

でも、音楽がけっこうのどかに感じたんだよね。

やけ:いや、これ全然のどかじゃないですよ! いちばんリリカルな曲ですよ。感情がいちばん入ってるというか。もうだって、「このまま あのときのままではいられないよ」「この夢の続きは一体どんな風?/フキダシの中の言葉をなんにする?」ですよ。君は何を思うんだってことですよ。フキダシのなかの言葉っていうのは比喩で、漫画のひとの横にこうフキダシがあるみたいなイメージで、それに対して何を思うんだっていう。
 こんな日々をどうやって受け入れるんだ、どう消化するんだ、それを「混乱している」、"HELTER-SKELTER"って言ってるんですよ。消化できないっていう。

でも聴いた感じはまったくそういう風に思わなかったので、逆に言えばそれはやけのはらの狙い通りっていうことでもあるわけでしょう?

やけ:まあたしかにそうですね。この曲は、このアルバムのなかではヴェルヴェット・アンダーグラウンドみたいなアレンジでも成り立つような歌詞というか、意味の曲であるわけだから。ちなみに、もちろん沢尻エリカとは何の関係もないですってことは、書いといてください。

とにかく、ドリーミーなものを心がけたっていうのはいい話だね。

やけ:心がけてもいるし、元々好きだし、気分的にもそういう......あ、震災の後にけっこう思ったことですね。それがさっきのマチズモとかインスタントなんかの話に繋がるんですけど、年齢もあるのかもしれないけど、激しいキックであったりとか、派手なシンセ、エッジの強い音っていうのは受け付けなくなってて。アンビエントみたいなものとか、ドリーミーなものとか、ラウンジーなものをすごく聴きたい気分だったっていうのもありますね。
 とくに震災の後とかは、直接的にその後にやったリミックスはぜんぶノンビートにしちゃって。ほとんど低音入ってない曲とか。気分的にもそういうムードだったっていうのはありますね。まだこれ(アルバム)は、揺り戻しがあってビートをそれなりに入れたっていう。でもノンビートの曲もあるし、けっこう一時期のノリだと危なかったですね。声入ってるのに1曲ぐらいしかリズムがない、みたいな(笑)。

おおー、それも聴きたかった。クラウド・ ラップみたいな(笑)。

やけ:いや、それだとさらに素なんで、そういうのはもっと年取ったときに取っときます。そこまで行っちゃうともう戻せないんで。

最後から3番目の曲("BLOW IN THE WIND")でさ、「普通じゃないものにいまも夢中さ」ってあるけど、その「普通じゃないもの」って何のこと?

やけ:いや、それはだから難しいんですよね。わざと危ない言葉だからそのままで言ってるんですけど。多様性ってことですね。

難しいことを言うねー。

やけ:いや、ぜんぶで一貫して言ってるんですけど、「小さな声をなかったことにするな」みたいなこととか、「はみ出る感情や生き方を楽しもうよ」とかだったり。自分が聴きたいのは誰かの代理ではなくて。まあこれも安易な言い方にまとまっちゃいますけど、誰かの思惑で決められた何かに流されるんじゃなくて、自分の好きなものを自分で決めたりとか。こういう言い方をするとカッコいい風に聞こえてしっくり来ないな。 うまく言えないけど、つねに一貫したテーマとしてあるというか。
 たとえばその時代の大多数の感情や音楽がこうだからって言って作るんじゃなくて、そこからやっぱり零れ落ちるそのひとなりのエネルギーであったり形であったり、表現だったり。そういうのに対する愛着っていうのはすごくあるし、そういうのが聴きたい、したい。っていうのはあると思いますね。

やけのはらって、家のなかで考えて作るって言うよりは出かけて行って作るようなイメージをずっと持っててさ。前作のときのPVでも、江ノ島の海辺でみんなで遊んでるのを使ったじゃない? イヤミったらしいぐらい楽しそうな映像をさ(笑)。

やけ:なんですか、「イヤミったらしいぐら楽しそう」って(笑)。パンチラインですね。言葉としてエッジが効いてた(笑)。でも、いまの気分だったらあんなことはできない。

でも、「外に出よう」って感じはまだあるでしょう?

やけ:それはでも、実際のことでも観念的なことでも、もっと世界を知ろうってことは言ってるんですけど。最後の("where have you been all your life?")がまさにそういう曲ですよ。最後の曲のことがあんまり言及されないんだよなあ。

いや、話がまだそこまで行ってないから(笑)。じゃあさ、アルバムの後半、"JUSTICE against JUSTICE"以降っていうのがさ、希望を見ようとしているよね?

やけ:それはでも、"D.A.I.S.Y."って曲ですかね。"BLOW IN THE
WIND"って曲は文化のことを歌ってるんですけど、これはむしろ寂しさを伴ってる感じがしますけどね。「普通じゃない」っていうのも、これは不毛さを愛していくってことで、だからこの曲は、そういう意味では意外とブルーなんですよね。

なるほどね。まあメランコリックな曲でもあるからね。でもこの"D.A.I.S.Y."はさ、「やけのはら、どうしちゃったんだろう」ぐらいのさ、人生肯定感じゃない(笑)?

やけ:え、でもそんなこと言ったら"GOOD MORNING BABY"とかもそうじゃないですか! 曲名は、デ・ラ・ソウルの"デイジー・エイジ"が何かの言葉の頭文字になっていて、その法則を踏襲したというか。だから、"D.A.I.S.Y."は"DAYS AFTER INOSENT SWEET YEARS"の頭文字ってことにしたんですけど。だから、これもじつはブルーだからこそ、ですよ。
 あと、"D.A.I.S.Y."って、いろんな意味がありますよね。『2001年宇宙の旅』でコンピュータが歌った"デイジー・ベル"っていうのは、はじめて電子合成のロボットが歌った曲だし。でも、映画だとあのコンピュータが最後に歌った曲なんですよね。それで壊れてなくなっちゃって。希望の象徴だったり、でもアンビヴァレントなブルーな匂いもするじゃないですか。『2001年宇宙の旅』での使われ方なんか。

あるいは、ヒッピーというかフラワー・チルドレンというか。20世紀的な理想主義だよね。

やけ:そうですね。でも「デイジー」みたいなこととか、ヒッピー的なタームでそういう物事の象徴となってた時代、60年代、70年代のほうが未来に対しての希望みたいなものが、何て言うか、無邪気だった感じがあるじゃないですか。無邪気に本当に希望を信じていたような。僕はもちろん生まれてないんで、後から触れての印象ですけど、未来に対して希望があった時代の象徴って気がして。そういうのが気分にあったというか。

それを敢えていま言ってみたかったっていう感じ?

やけ:いや、難しいっす。いろんな自分の知ってる情報やニュアンスのなかでしっくり来たっていうか。ニュアンスや感覚の捉え方の話なのでうまくは言えないですが。でも前のアルバムも音ができてないときからPVは"GOOD MORNING BABY"って決めてたし、このアルバムもじつは前からこの曲になるんだろうな、って1、2年前からそう思ってました。

新しい恋をしたとか(笑)?

やけ:恋は関係ないです。ラヴ・ソングはできないっすよねえ。タイトルだけ"I LOVE YOU"って曲入れましたけど。観念的なラヴ・ソングだったらいいですけど、本当に女性との直接的なラヴ・ソングっていうのは人生で一度も作れたことがないかもしれないですね。そういうのはちょっと、今後のテーマに取っておいて。昔、野田さんが「やけちゃんはラヴ・ソングやったらいいよ」って言ってくれて、心のなかにはラヴ・ソングに対する想いはいろいろあって。

やけのはらは場面の描写が好きだよね。なんか、男と女というよりも、もっとがやがやしている感じがする。

やけ:それは性格ってことになっちゃうと思うんですけど、つねに一貫してグッド・タイムは描きたい。人生にグッド・タイムしかないっていう嘘はつきたくないけど、グッド・タイムしか表現したくないって いうのはありますね。バッド・タイムの何かを曲にしたいっていうのはないし。

これがやけのはら人気の秘密なんだよ(笑)。

やけ:いや、これが性格なんですよ。映画なんかでも、あんまり楽しくない映画とかイヤなんですよね。それはDJで培ったものがあるのかもしれないのと、自分も人間なんでそういうのがゼロとは言えないですけど、自己陶酔してるタイプのミュージシャンじゃないと思うので、例えば「苦労してるオレを見てもらう」みたいなことって発想としてないっていう。

だからっていうか、"デイジー"は、今回のアルバムの象徴的な曲なわけだよね?

やけ:この曲は大事でしたね。ぜんぶの曲で同じことを言ってるとも言えますが、この曲では、ぜんぶまとめて言ってるってとこもあるので。結局ひと言でまとめると、「楽しく生きましょう」とかそういうことなんですけど(笑)。

[[SplitPage]]

絶望っていうかまあ、音楽やりながらもどうしようってときに、夜中4時ぐらいに近所の公園でタバコ吸いながら「うーん、だいじょうぶかな、20年後ぐらいに野垂れ死んじゃうかなー」とか(笑)、けっこうマジメに思って泣きそうになったりとか。


やけのはら
SUNNY NEW LIFE

felicity/SPACE SHOWER MUSIC

Amazon iTunes

やけのはらは、決して順風満帆にここまで来ているわけじゃないよね。

やけ:まず、ファースト・アルバムが30歳とかですからね。

ある意味では苦労人というか。

やけ:まあ、生活的に貧しかった20代前半とかもありますが。ただ、べつに苦労って気はなかったですよ。苦労っていう実感はないですね。

絶望を味わったことはあるわけでしょう?

やけ:わかんないです。そのころは、絶望っていうかまあ、音楽やりながらもどうしようってときに、午前4時ぐらいに近所の公園でタバコ吸いながら「うーん、だいじょうぶかな、20年後ぐらいに野垂れ死んじゃうかなー」とか(笑)、けっこうマジメに思って泣きそうになったりとか。
 それはいまでもそうですけど、そういうところを何かに合わせてしまうんだったら、野垂れ死ぬわ、ぐらいの感じがやっぱりあったんで。けっこう現実面でそう思ったっていうか、笑い話じゃなくて、ガチで浮浪者みたいな生き方も視野に入れつつぐらいの感じっていうか。べつにいいです、もうなんか。それだったらもう死にます、野垂れ死にます、みたいな。

説得力のある話だね。午前4時にさ、何もやることのない青春っていうのが良いよね。

やけ:何もやることがなかったわけではないけど(笑)。

そういう未来の見えなさのなかで生まれた前向きさなわけだね。

やけ:それはそうだと思いますけどね。だから、いちおう知恵を練ったんじゃないですか。性格的に月から金の普通の仕事はできないと。CDとか出しつつも音楽はやってる。じゃあ音楽でもっと収入を上げようとか、DJやるにしろ何やるにしろ、もっと細かいところから積み重ねる、もっとこうして良くしていこう、楽しんでもらおう、とかだったり。ここをもっとこうできるようになって、音楽のクオリティを上げよう、とか。

知り合った頃は、DJとしてはすでに人気あったからなあ。

やけ:DJはひとりでできたから。なんとなくやれてしまったというか。
 同い年の旅人くんとかを見ると僕なんか全然遅いなと思いますよ。上京してきて18、19で音楽で身を立てるみたいな思いがあって。すごい偉いなと思いますよ。僕にはそういう気持ちがぼんやりしかなくて、性格もあるし、横浜っていう都内近郊が地元だったので、音楽はしたいけどガツガツとミュージシャンになるためにデモ・テープを送るとかそういうのもできずに。デモ・テープとか絶対送りたくないとか思ってたんで。誰かに出させてくれって言わせたい、自分からデモ・テープを送るなんてそういうことはダサいって思ってたんで。僕はそういうところで判断が遅くて、ボンヤリしてましたね。ファースト・アルバムが30歳ですからね。

素晴らしいじゃない、それは(笑 )。

やけ:性格なんですよ。ひとつひとつのことを、こういうのがいいらしいって言われても、「ほんとっすか?」みたいな感じでつねに疑ってかかるタイプなんで(笑)。だからひとつひとつがすごい時間かかって。

じゃあ、最後の曲("where have you been all your life?")について、なぜこの曲を最後にして、そしてどうしてこの曲が生まれたのかを。

やけ:うーん......まず直接的に言うとタイトルからできたんですけど。年上の友だちの結婚式で、引出物のトート・バッグに「where have you been all your life?」って書いてあって。なんかいい言葉だなと思って。オールディーズの曲名なんですが、なんかこの言葉が引っかかってて、そこから連想してできたというか。街を歩いているときにふっとフレーズが出てきて、あのタイトルで「あなたは何したいの」みたいなことを問いかけるっていうのが面白いかなと思って作ってた感じですね。
 でもどっちだったかな、「your」か「my」かどっちか忘れたんですけど、英語で「やっと会えましたね」みたいな意味になるんですよね(註:「where have you been all my life?」で「どうして君ともっと早く巡り会わなかったの?」の意)。そこらへんが面白いな、と思って。だからいろんなことがあったり、世界や生活のなかで自分にしっくり来る楽しいことをやっていきましょう(笑)、それのために知恵を絞って街に出たり、いろんな世界と友だちになろう、街に出よう、そういう曲ですね。

リスナーに呼びかけるっていうか、こういう直接的に語りかける曲っていうのも、俺久しぶりに聴いたような気がしたんだよなあ。

やけ:マジですか。まあ自分に言ってる的なところもあるんですけどね。なんかボンヤリしたりするじゃないですか、生きてるなかで。まわりから望まれていることと違ったりとかね、そういうこともありますし。自分がいちばんやりたいこと 、好きなこと、いちばん大事なひとを考えるとか、そういうのがいいんじゃないかって。暮らしっていう意味で見ても、物質面で見ても、いろいろなひとつの作法、もの。どこに住んで何をする、そうしたことひとつひとつもある種思想ですし、自分ももう一度しっくり来るものを見つけたいですし。みんな本来のしっくり来るものを見つけるのがいちばんいいんじゃないかと思うので。
 それは前も言ったんですけど、答が出る前に「こういうのがしっくり来ますよねー」みたいな押し売りの波とかがやっぱりすごく多いような気がするので。生き方、場所、ものとか、いろんなことですけど。

[[SplitPage]]

音楽はしたいけどガツガツミュージシャンになるためにデモ・テープを送るとかそういうのもできずに。デモ・テープとか絶対送りたくないとか思ってたんで。誰かに出させてくれって言わせたい、自分からデモ・テープを送るなんてそういうことはダサいって思ってたんで。


やけのはら
SUNNY NEW LIFE

felicity/SPACE SHOWER MUSIC

Amazon iTunes

今回さ、アルバムのジャケットにひとを載せなかったのはなんで?

やけ:うーん......具体的にひとを載せたくなかったわけではないですが、たとえばまた同じような感じで女のひとが載るっていうのは続編っぽくなるので絶対ヤだなっていうのはありつつ、まあ流れですね。信藤三雄さんの写真なんですが??〈トラットリア〉とかピチカート・ファイヴで信藤さんがやってたことっていうのは好きだったし。で、大人になって、〈トラットリア〉や信藤さんがやって来たことが当時よりも見えてきて。
 そうしたら、僕の前のアルバムをなぜだか信藤さんが気に入ってくれてて。それでお会いする機会もあって、面識もできた流れもあって、今回のアルバムを作ったスタジオが信藤さんの事務所の近所で、スタジオに遊びに来てくださって。で、世間話のなかで見せてもらった信藤さんがiPhoneで撮った写真なんです よ。これはただの記録みたいな感じで信藤さんが撮った写真なんだけど、なんかピンと来て、写真をお借りして使わせてもらったっていう。

どこにピンと来たの? 青空?

やけ:雰囲気です。ムードですね。

これはどこなの?

やけ:沖縄です。

沖縄なんだ。いいねぇ。やけちゃんは間違っても沖縄なんか住めないからね。

やけ:え、なんで?

俺と同じように、東京で生きて東京で死のうぜ。

やけ;僕は意外とレイドバックしたところで死んでいくつもりです。

どこで(笑)?

やけ:いや、わかんないですけど。

そんな~、やけのはらのクセに。

やけ:いやでも、都市生活に対するアンビヴァレントな気持ちは感じ取れるんじゃないです か、このアルバムからは。

はい、むちゃむちゃ感じ取れますね。じゃあ、そろそろ最後の質問にしたいんだけど。"SUNNY NEW DAYS"みたいな曲は、どういうときに作ったの?

やけ:これはアルバムの最後で、「もう作るぞ」と思って作ったっていうか。近所の公園で歌詞を書きました。

シンプルな歌詞だけどさ、これはアルバムのコンセプトが固まってから?

やけ:完全にそうですね。ちなみに「新しいニュースペーパー」って言葉はSAKANAの曲から引用してるんですが。えーっと何て曲でしたっけ? ......、"ロンリーメロディ"。

へえー、そうなんだ。

やけ:あの曲ほんっと最高ですよね。あの曲の歌詞はほんとにすごい。なんでしたっけ、「わたしの歩き方が遅すぎるのなら/どうぞ置いていってください」。その「歩き方が遅すぎるのなら、どうぞ置いていってください」っていうようなラインは、ほんと文明社会に対する違和感みたいなところもある曲なんですけど。あの曲はほんと素晴らしい。あの曲の影響はあるかも。あの曲とアルバムでやろうとしてたことの感じは近い。

ああ、SAKANAとやけのはらの共通する感覚ってあるかもね。

やけ:厭世観みたいな意味で近いところはあると思いますよ。世界に希望を求めてるけど、じつはあんまり信じてない、みたいな。

ああー、なるほどね、厭世観。都会のなかで暮らしながらの厭世観みたいな。

やけ:だから諸手挙げてキレイな世界、先へ進んでいこうみたいなカラっとした感じは実は全然なくて。だからこそ無理矢理そうしてるっていうか。

(笑)たしかにブライアン・ウィルソンも、彼の複雑な人生を考えるとね。あの明るさっていうのは。

やけ:しかもあれだけグチャチャな人生を生きているブライアン・ウィルソンがいまでも一応元気で音楽やりながら生きてるっていう。

interview with Jesse Ruins - ele-king


ジェシー・ルインズ
A Film

Lefse Records / Pヴァイン/ Tugboat Records

Amazon

 「日本人ということはわかっているが、 女の子か男の子かは定かではない。ただ、彼らの音楽は圧倒的に素晴らしい」──『ガーディアン』はジェシー・ルインズのデビューにそのような賛辞を送っている。同紙いわく「性のサインを持たない、不定形で、中性的な音楽」、ゆらめくジェンダー、そのドリーム・ポップは、想像癖のあるリスナーの関心を集めている。
 顔の見えない男女の写真もミステリアスなイメージを膨らませた。彼らは東京にこだわってはいるが、トゥーマッチな情報世界からは静かに身を引いている。いまごろはモノレールに揺られながら夕日を眺めていることだろう。ちょっとしたファンタジーだ。言葉を主張しない歌が、黄昏に響く。

 以下のインタヴューを読めば、チルウェイヴとは何だったのかがよくわかる。その正体、その真の姿、それはブロガー文化が最初に純粋な高まりを見せた2009年の、ほとんど瞬間的に成立したデジタル民主主義がもたらしたひとつの成果だった。ジェシー・ルインズはその恩恵を受けた日本人のひとりである。
 僕がジェシー・ルインズを好きな理由のひとつは、彼らがインディ・シーンの動きに敏感で、自分たちでもDIYでやっているところにある。
 彼らは、とくにUSのインディ・シーンに触発されている。3年前はチルウェイヴにどっぷりハマって、そしていまがある。彼らはそういう自分たちの経験や気持ちを決して隠さず、いつでもざっくばらんに話してくれる。ジェシー・ルインズが生まれる土台となった〈コズ・ミー・ペイン〉は、カセットテープとアナログ盤しか出さない。日本では、おそらくその手では、唯一のレーベルだ。

 ジェシー・ルインズは、2011年に〈コズ・ミー・ペイン〉からカセット作品を出すと、2011年12月、ロンドンの〈ダブル・デニム〉から7インチ、2012年にはブルックリンの〈キャプチャード・トラックス〉からミニ・アルバム「ドリーム・アナライシス」をリリースしている。
 このたび、西海岸の〈レフス〉から出る『ア・フィルム』が正式なファースト・アルバムというわけだ。バンドのメンバーはサクマ(Nobuyuki Sakuma)、ヨッケ(YYOKKE)、ナー(Nah)の3人だが、ほとんどはサクマがコントロールしている。

 3人は、物静かで、シャイだが、わりと気さくな人たちである。週末の夜、下北沢のレコード店で待ち合わせをした我々は、店を出ると人通りの少ない通りの、若者で賑わっている値段の安いカフェに入った。生ビールを注文して、それからスパゲッティー、フラインドポテト......。

「Gorilla vs Bear」という『ピッチフォーク』の次ぐらいに影響力があったサイトでしたね。最初は〈フォレスト・ファミリー〉から連絡がありましたね。「すぐに出したい」って。多いときは毎週違うレーベルからオファーが来てました。毎日違う話が来るので、ジェシー・ルインズのメールアドレスを載せるのは止めましたね。

ジェシー・ルインズはどうやって結成されたの?

ヨッケ:もともとは完全に佐久間君のソロでしたね。〈コズ・ミー・ペイン〉を立ち上げたときに、ファロン・スクエア(Faron Square)、エープス(AAPS)、そして、佐久間君のナイツ(Nites)があったんですね。最初はその3組でスプリットを作ろうと思ったんですけど、それでは面白くないからコンピレーションにしようと。でも、コンピレーションを作るには曲数が足りない。で、それぞれがソロを作れば2倍になるから、なんとかなるだろうと(笑)。

はははは、その話憶えているよ。

ヨッケ:そのときに佐久間がジェシー・ルインズという名義を作ったんです。そのときは......、なんて言うんだろう、アンビエント、ドローンじゃないけど、ディスコ・パンクも混じって、雑多なものでしたね。

いま流行のインダストリアル調な感じもあったよね。

サクマ:最初は、別名義の名前を考えただけで、インダストリアルもそんなに意識してないけど、作ったらあんな感じなったんです。

"If Your Funk"という曲ですね。

サクマ:メロディもなにもない曲ですよね。

サクマ君のなかには新しいアイデアがあったの?

サクマ:いや、何もない。ただ、コンピのために名前を作っただけ。どちらの曲もナイツ名義で良かったんです。コンピのときは、名前を考えただけです。

『CUZ ME PAIN COMPILATION #1』だよね。

サクマ:はい。2010年ですね。

ヨッケ:6月? 8月? 夏ぐらいだったよね。

サクマ:2010年の年末に、ザ・ビューティとスプリットでカセットを出そうとなって、「じゃあ、ジェシー・ルインズでやろうかな」と。ザ・ビューティにとってもそのときのメインは、ファロン・スクエアだったんですね。その次にアトラス・ヤング名義でもやってて......ややこしいんですけど、ザ・ビューティという名義は優先順位で言えば、いちばん下だったんですよね。僕は、ナイツ名義だったから。だから、自分たちのメインではない名義で何かをやろうという、単純な発想ですね。俺はその頃は、DJやるのもナイツ名義だったし。

なるほど。

サクマ:で、そのカセットを出したのが2011年の1月だったんです。それを瀧見(憲司)さんが買って、そこからザ・ビューティが出てくる。そのあと、僕も、春ぐらいかな、"ドリーム・アナライシス"という曲を作って、それが「Gorilla vs Bear」とか、海外のサイトに載って、そこからですね、海外のレーベルからオファーがやたらたくさん来るようになったのは。

どうして載ったんですか?

サクマ:僕が送ったんです。「Gorilla vs Bear」に。mp3のサイトで、〈フォレスト・ファミリー〉というレーベルもやっているんですけど、そのときは『ピッチフォーク』の次ぐらいに影響力があったサイトでしたね。テニスを発掘したのもそのレーベルでした。最初は、〈フォレスト・ファミリー〉から連絡がありましたね。「すぐに出したい」って。それから、多いときは毎週違うレーベルからオファーが来てました。

それはすごいね(笑)。

サクマ:すごかったですね。毎日違う話が来るので、ジェシー・ルインズのメールアドレスを載せるのは止めましたね。それで、〈レフス(Lefse)〉からアルバムを出したいというオファーをもらったんですけど、曲数がぜんぜんなかったので、「いますぐに出せない」と言ったら「マネジメントをやりたい」と言われて。海外事情もわからないので、手助けしてもらえたら嬉しいということで、マネジメント契約を交わしました。UKの〈ダブル・デニム〉から7インチを出すのはそのあとですね。

そのEP、「A Bookshelf Sinks Into The Sand / In Icarus」が出たのは?

サクマ:2011年の12月です。

そのときに『ガーディアン』が新人コーナーで取りあげたんだ。

サクマ:ちょうどリリースのときですね。〈ダブル・デニム〉の人から「来週ぐらいに『ガーディアン』に載るから」って言われて。

あれはびっくりしたよね。あのアー写が良かった。NAHちゃんも格好良かったよ。

ナー:梅ヶ丘で撮ったヤツ(笑)?

顔が写ってないの。あれは想像力を掻き立てられるものがあったと思うよ。

サクマ:そこまで考えていないけど、そのときは顔は出さないほうが良いなとは思った。何人だってわからないほうが面白いだろうし、受け手に勝手に想像してほしかった。

ジェシー・ルインズという名前が良かったよね。音楽と合っているというか。女の子の名前でしょう?

サクマ:男の子の名前です。

ナー:女の子は、JESSIEなんです。

ああ、そうか。海外からのメールって、オファー以外ではどんなメールがあった?

ヨッケ:amazingが多かったよね。

サクマ:あとは、brilliantとか。そういう単純な感想ですね。でも、やっぱ、そういう感想よりも、業者みたいな人から「ツアーを組みたい」とか、「曲を使いたい」とか、それが異様に多かった。

ヨッケ:個人ブログへの掲載許可みたいな内容のメールも多かったよね。

それそれ、それがまさにチルウェイヴというムーヴメントの正体だよね。インディ・ミュージックをブログで紹介するということのピークがチルウェイヴだったんだよね。

サクマ:そうですよね。

ヨッケ:それは無茶苦茶あったと思います。

だから、コズ・ミー・ペインが日本のチルウェイヴの代表みたいな言い方は当たっているんだけど、それはどういう意味かと言うと、そうした、2010年ぐらいのインディとブログ文化との連動にアクセスしていたっていう意味で、チルウェイヴなんだよね。音楽性で言えば、ウォッシュト・アウトとコズ・ミー・ペインがそこまで重なっているとは思えないし......。そもそもサクマ君の音楽的なルーツって何なの?

サクマ:ハードコアや、ポスト・ロック。

[[SplitPage]]

とにかく退廃的で、ずっと夕方みたいな感じの音楽をやろうと思ったんです。だから、描きたいのは、雰囲気ですね。


ジェシー・ルインズ
A Film

Lefse Records / Pヴァイン/ Tugboat Records

Amazon

自分の音楽制作に影響を与えたものってある?

サクマ:いまでも昔の音楽に影響を受けているわけではないんですよね。常に新しい音楽のほうが好きなんで、新しい音楽に影響受けてます。

音楽を意識的に聴きはじめた当時の影響は?

ヨッケ:それ、俺も知りたい(笑)。

サクマ:とくに何かひとつのアーティストがすごい好きだったという感じではないんですよね。あー、ジョン・オブ・アークは好きだった。シカゴ音響派は好きでした。20歳とか、大学時代でしたね。でも、いまもハードコアは聴いてます。高校生のときは好きだったから。

ヨッケ:コズ・ミー・ペインはみんな趣味がバラバラなんですよ。僕はアヴァランチーズが好きだった。レモン・ジェリーとか。サンプリング・ミュージックが好きでしたね。

ナー:私は、2004年~5年にイギリスに留学してたんですよね。

ま、まさかリバティーンズ・ギャルだった!?

ナー:その世代の後のもっとアングラなバンドばかり観ていました。ただ、私は、UKロックからの影響のほうが大きかったですね。日本に帰ってきたらは、どんどん古いほうに興味がいって、ゴシック・パンクとか、ポジパンとか......ヴァージン・プルーンズとか、80年代の音を探したり。

すごい(笑)!?

ナー:クリスチャン・デスとか。

はははは。

ヨッケ:ホント、みんな趣味が違っているんですよね。

UKから帰ってくると、何かやらなきゃっていう気になるよね(笑)。

ナー:ホントにそう。私も、帰ってすぐにイヴェントはじめた(笑)。

はははは。ところで、〈ダブル・デニム〉から出たときには、ジェシー・ルインズの音楽の方向性は固まっていたの?

サクマ:「Gorilla vs Bear」に音源を送ったときには、もう「これだ」という感触はありましたね。

〈ダブル・デニム〉の次は、2012年2月の〈キャプチャード・トラックス〉からの12インチ『ドリーム・アナライシス』だよね。

サクマ:〈ダブル・デニム〉からのリリース前に、〈キャプチャード・トラックス〉からオファーがあったんです。同時に3つのオファーがあったんですよね。そのなかで〈キャプチャード・トラックス〉はインディのレコードを買ってる人間からしたら特別なレーベルだったんです。

『ドリーム・アナライシス』のときはもう3人だった?

サクマ:ライヴは3人でした。ただ、ヨッケはまだサポートだったので、メンバーは最初は2人でしたけど。ライヴをやりたかったんですよね。

ナー:コズ・ミー・ペインが梅ヶ丘でやっていたパーティに友だちに連れて行かれたんですよね。それで知り合って。

サクマ:ナーは僕がこういう人がいいなって考えてた理想像に近い人だった。あと、メンバーにするなら、もともと友だちじゃないほうが良いなというのもあったんです。コズ・ミー・ペインの周辺じゃないところにいる人が良いと思っていた。

共通する趣味は何だったんですか?

サクマ:わからなかったですね。2~3回会ってから、誘った。

ヨッケ:2011年の夏前ぐらいだったね。

サクマ:初ライヴは2011年の12月でしたね。〈ダブル・デニム〉からシングルが出て、すぐぐらいでしたね。渋谷のラッシュというところでした。夏前から半年弱くらい3人でスタジオ入ってひたすら練習してました。

ヨッケはドラム経験者?

ヨッケ:いや、それが初めてでした(笑)。

サクマ:俺もぜんぜんバンド経験がなかったし、彼もドラム経験ないし、彼女だけがバンド経験があった。でも、彼女もヴォーカルは初めてだった。だからもう、素人バンド(笑)。

サクマ君とナーちゃんの2人で録音した最初の曲は何だったんですか?

ヨッケ:『CUZ ME PAIN compilation #2』の曲(Hera)じゃない?

サクマ:基本的には僕が曲を作っているんですが、一緒に作っているってことはないですね。曲を作って、ヴォーカルを入れてもらう。だから......これは言っていいのかな......。

ナー:はははは。

ヨッケ:ああ、そういうことか。

ええ、意味ありげな、なにが「そういうことか?」なの(笑)?

サクマ:どうしようかな......。

ナー:はははは。

サクマ:正直に話すと、彼女のヴォーカルを入れたのは今回のアルバムが初めてです。〈ダブル・デニム〉や〈キャプチャード・トラックス〉からの音源は、実は僕が曲も作ってヴォーカルをやって完パケまでやっている。女の人の声になっていますが、実は僕の声を加工して、編集したものなんです。ただ、そこをずっと隠していたんです。あたかも彼女が歌っているように。

『ガーディアン』でも「androgynous(中性的)」とか、「we have no idea whether Jesse Ruins is a boy or a girl(ジェシー・ルインズが男の子なのか女の子なのは我々は知らないが)」って紹介されていて、やっぱそこは、すごく引っかかるところだったんでしょうね。

サクマ:まあ、わかる人にはわかったと思いますけどね。ただ、その編集した声と、実際の彼女の声が似ているんですね。すごい偶然なんですけど。だから、ライヴを聴いている人には、本当に彼女が歌っていたんだと思っている人もいたと思います。

へー、面白い話だね。それでは、今回の『ア・フィルム』は3人のジェシー・ルインズにとっての最初の作品でもあるんだね。

ヨッケ:とはいえ、ほとんどがサクマ君が作っていますけどね。僕は録音を手伝ったり、1曲だけアレンジを担当して、マスタリングを手伝った。

[[SplitPage]]

ぜんぜんバンド経験がなかったし、彼もドラム経験ないし、彼女だけがバンド経験があった。でも、彼女もヴォーカルは初めてだった。だからもう、素人バンド(笑)。


ジェシー・ルインズ
A Film

Lefse Records / Pヴァイン/ Tugboat Records

Amazon

ジェシー・ルインズが描きたいものは何でしょう? 何らかのムードやアトモスフィアを描きたいのかなと思っているんだけど。

サクマ:海外のサイトでは、よくM83と比較されるんですけど、好きですけど、ぜんぜん意識したことない。モデルにしているようなアーティストがいるわけでもないんです。最初のイメージとしてあったのは、ソフィア・コッポラの映画と『ツイン・ピークス』の雰囲気が混ざった感じでしたね。

ヨッケ:ソフィア・コッポラは音楽の使い方がうまいですからね。ニュー・オーダーとかストロークスとか。

エールとか?

サクマ:『ヴァージン・スーサイド』ってよく言われるけど、『ロスト・イン・トレンスレーション』です。「Gorilla vs Bear」に送った音源は、あの斜陽な感じと、それから『ツイン・ピークス』のダークな感じを出したくて作りましたね。

ヨッケ:インダストリアルなM83みたいなことを言われたんですけど、ニュー・オーダーの影響を受けているのがM83なんで。

ああ、そうか、ニュー・オーダーって映画から知っているんだね。

サクマ:とにかく退廃的で、ずっと夕方みたいな感じの音楽をやろうと思ったんです。

はははは。

サクマ:だから、描きたいのは、雰囲気ですね。

そうだよね。歌はあっても、言葉がないもんね。そこはすごく徹底しているというか。

ナー:ライヴをやっているときも、自分でも無茶苦茶エフェクトをかけていますからね。

アルバム最後の曲なんかは、ヴェルヴェットみたいだけど、もっと抽象的だよね。ああいう文学性はないしね。

サクマ:もともと歌い上げている音楽は好きじゃないんで。歌が中心にある音楽が好きじゃない。音が部分としてあるほう好きなんで。シンセと歌メロは同じなんです。

声も楽器のひとつという言い方は昔からあるんだけど、それとも違っているかなーと思うんだけど。あと、8ビートじゃない。ほとんど8ビートだよね。

サクマ:そこは気にしていない。わからないから。僕がそれしかできないってだけなんです。打ち込み能力がないんです(笑)。ただ、もし能力があったとしても複雑なことはやらないかと思いますね。

ニュー・オーダーの"ブルー・マンデー"よりもジョイ・ディヴィジョンのほうが好きなんでしょ?

サクマ:ああ、そうですね。僕はジョイ・ディヴィジョンのほうが好きです。意識してなかったけど。

ヨッケ:8ビートだから僕が叩けたっていうのもあるね(笑)。

はははは。

サクマ:中学生用のバンドスコアですね。

いま日本のロック・バンドって、なんであんなにみんなうまいの?

ヨッケ:真面目なんだと思います(笑)。ドラムは過去にやったことがまったくなくて、YMOの"CUE"という曲があるんですけど、最初はあの曲の坂本龍一の叩くストイックなドラムのコピーからはいりました(笑)。

ナー:初めて知りました(笑)。

はははは、練習した?

ヨッケ:練習はしませんでしたが、研究はしました。

サクマ:うまくなくても良いんですよ、僕は。自分たちがスタジオ・ミュージシャンみたいにうまかったら、面白くないと思うんです。

『ア・フィルム』というタイトルにしたのは?

サクマ:収録曲が、映画のタイトルや登場人物の役目などを文字って付けているんですよ。完全に自己満足の世界ですね(笑)。最初は、タイトルは「ジェシー・ルインズ」でいこうと思っていたんですけど。

それいいじゃん!

サクマ:でも、『ア・フィルム』のほうがリスナーが勝手に想像できるかなと。曲もそんな作り込んでないんです。もう、ばーっと作った感じ。作り込んでしまうのが嫌なんです。

ヨッケ:2ヶ月以内でぜんぶ作ってましたからね。

海外ツアーの予定は?

サクマ:今年はそれが目標ですね。『ドリーム・アナライシス』のとき、ツアーの話は2回くらいあったんですけど、中止になりましたから。アルバムが出るんで、今年はやりたいな。日本国内のツアーはします。

ライヴはいまのところ何本くらいやってるの

ヨッケ:20本ぐらいかな。多いときは月に2回はやっています。

サクマ:次のライヴでは4人組になるかもしれないね。

新メンバーが?

ヨッケ:ドラマーが入って、僕がギターその他を担当するっていう。

レーベル的には新しい動きはある?

ヨッケ:コズ・ミー・ペインの新しいコンピレーション、『#3』を出します。

良いですね。コズ・ミー・ペインは、さっきのチルウェイヴの話じゃないけど、ブログ文化で支えられながら、フィジカルではアナログ盤とカセットのみという、そこもチルウェイヴの人たちと同じだったよね。

ヨッケ:そこは自分もひとりのリスナーとして、そうでないと嬉しくないというか、残るものにしていというのがありましたね。ネット・レーベルが全盛ですけど、僕らがそれやったらすぐ終わっちゃう気がするんですよね(笑)。やっぱ、アナログやカセットみたいに、手間暇かけてやるからこそ、続ける気になるというか。そういうのが単純に好きなんです。

サクマ:お金ないんですけど(笑)。

ヨッケ:お金ないんですけど(笑)。

 サクマは、コールド・ネーム名義でも最近、カセット・レーベルの〈Living Tapes〉から作品を出したばかり。また、ジェシー・ルインズの視聴はココ→https://soundcloud.com/lefse-records/jesse-ruins-laura-is-fading

■5月26日『ア・フィルム』リリース記念のパーティがあります!5/26(sun) at 渋谷Home
Cuz Me Pain
-Jesse Ruins "A Film" Release Party-

OPEN 18:00予定

Live
Jesse Ruins
Naliza Moo
and more...

1 2

Chart - JET SET 2013.04.08 - ele-king

Shop Chart


1

Poolside - Only Everything (Scion Audio Visual)
アルバム『Pacific Standard Time』には未収録の2曲!!昨年夏にフリーデータ配信されていた大人気音源が10インチ・リリース。

2

Haim - Falling (Polydor)
人気爆裂L.a.3姉妹バンドのUkメジャー第2弾。オリジナルに加えて、Psychemagik、Duke Dumontによるリミックスも収録!!

3

Sign Of Four - Hammer, Anvil, Stirrup (Jazzman)
大人気Greg Foat Groupに続きJazzmanから登場した脅威の新人。電子音が飛び交うサイケデリック・ファンクからエレクトリック・サンバまで、凄すぎます!!

4

Suff Daddy x Ta-ku - Bricks & Mortar (Melting Pot Music)
Melting Potでも随一の人気を誇るSuff Daddyと、J Dilla追悼ビート集が話題を席巻/即完売も記憶に新しいオージー・ビートメイカーのTa-kuによる奇跡的コラボ!

5

Sweatson Klank - You, Me, Temporary (Project Mooncircle)
名門Alpha Pupからのリリースでもお馴染み、西海岸ビーツ・シーンのパイオニアTakeによるベース通過以降の新プロジェクトSweatson KlankがメガヒットEpに続く1st.アルバムを完成です!!

6

Tame Impala - Mind Mischief (Modular)
2012年ベストの声も高かった傑作アルバム『Lonerism』収録のドファンキー・サイケ・ポップを、DucktailsとFieldという間違いなしの2組がリミックス!!

7

Justin Timberlake - 20/20 Experience (Rca)
先行シングル"Suit & Tie"や"Mirror"が世界的なヒットを記録しているJustin Timberlakeですが、約7年ぶりとなるスタジオ・アルバムが遂にヴァイナルで登場! ※ゲートフォールド・ジャケット仕様。

8

Disclosure - White Noise Feat Alunageorge (Pmr)
ご存じ『Face Ep』と『Latch』が連発メガヒットしたベース・ハウス最強人気デュオDisclosureがなんと、Tri Angleの新星デュオAlunageorgeのAluna FrancisをFeatした話題盤です!

9

Owiny Sigoma Band - Power Punch (Brownswood)
Brownswoodからのハイブリッド・アフロ・プロジェクト!!高い評価を受けた2011年のファーストに続く2枚目のアルバムが到着です。

10

A Tribe Called Quest - Beats, Rhymes And Life -ア・トライブ・コールド・クエストの旅- (Transformer)
結成秘話から各メンバーの現在の心境まで綴った貴重な映像も多数含むB-boyのみならず全ミュージック・フリーク必携の1枚! セル版のみの豪華特典満載! 本編97min.+特典映像78分のフル・ボリューム映像作品!

DJ MASA a.k.a conomark - ele-king

これからもずっと好きであろうアルバムあげてみました。2013年もどうぞよろしくです!
twitter ID:conomark
Facebook ID:Masatake conomark Koike

all times best


1
Chico Hamilton - The Dealer - Impulse!

2
The Tony Williams Lifetime - Turn It Over - Polydor

3
Niagara - Niagara - Mig

4
Art Blakey - Holiday For Skins - Blue Note

5
V.A - The Garage Years - 99 Records

6
NEU! - NEU! - Gronland

7
Herbie Hancock - Dedication - CBS/SONY

8
The Watts 103rd Street Rhythm Band - In The Jungle Babe - Warner Bros

9
WAR - Young Blood - UA

10
Donny Hathaway - Live - Atco
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316