「You me」と一致するもの

 ヒップホップという音楽には、アーティストたちが自分たちをヒップホップに縛り付けることによって、それ自体の強度や結束を固め、シーンの中の人間にしか理解できない、暗号化された言葉を用いる音楽として発展してきた側面がある。その暗号化こそがヒップホップの強さとして機能するのだが、ともすればその暗号は、読み解かれることがなく、忘れ去られてしまう危険性も備えている。では5lackの場合はどうだろうか。

 ここ最近の5lackの活動を追っていると、彼は自分がもともといたシーンを飛び越えていこうとしているかのように見える。2020年東京オリンピック・パラリンピックのキャンペーンCMに起用されたり、今年のフジロックでは野田洋次郎のソロ・プロジェクトであるイリオンのステージにゲスト出演したりするなど、最近の彼はシーンの外、あえて言えばオーヴァー・グラウンドな領域に飛び込むことに躊躇がないようにも見える。
 しかし、5lackは自らのシーンをないがしろにするようなことはしない。彼は先月末に、自身やブダモンクを始めとするおなじみの面々がレジデントを務めるパーティー「ウィーケン」を復活させたり、最新シングル『フィーリン29』ではコージョーをフィーチャーしたりしている。シーンの外に出ていくからといって、シーンと決別する必要はないということだ。
 彼が自分たちのシーンを「人柄だけ」で築き上げてきたのではないということは、彼のソロ作や、シック・チームのサウンドを聴けばよくわかるだろう。かつて、そしていまもなお「人柄だけじゃミュージックって思わない」と歌い続ける5lackは、まさにその言葉を体現するように、シーンの奴らとドープでタイトな音楽を作り上げているのだ。そして、その言葉はシーンの外においても例外ではなく、どこのどんな場所においても、5lackは妥協しない。それはどこに飛び込むか、という点においても、だ。
 わかる奴にはわかる。しかし、わからない奴にもそれは魅力的で、ディグるべきもののように見える。5lackが作り出してきたものには、そのような魅力がある。

 ここまで長くなったが、本題である。5lackは、10月15日にWWW Xにて、自身初のロングセット・ワンマンライヴを開催する。公演は約1ヶ月先の話であるが、公開されている情報はまだ少ない。
 唯一公表されているのは、mabanua bandとのバンド編成を含めたロングセットになるということだけだが、それだけで充分だ。多くを語らずとも、このライヴが最高の体験になることはわかっている。
 昨年の9月以来およそ1年ぶりとなる5lack with mabanua bandとしてのライヴは、日本のヒップホップ・シーンとだけでなく、ケンドリック・ラマーやアンダーソン・パークといった、USのヒップホップ・シーンとの共振を感じさせてくれるものになるだろう。それは、彼らがともにヒップホップを生音バンドでやっているから、という単純な話ではない。5lackもケンドリック・ラマーもアンダーソン・パークもみな、同世代の人間だからこそ共振することのできる、新しい音に対する貪欲な意識を持っているのである。バンド・サウンドによるヒップホップというスタイルも、新しい音への意識があるからこその選択の結果だ。彼らの作り出す音は、これまで存在してきたヒップホップの音を、確実に更新しているのである。

昨年9月26日にウィーケンでおこなわれた5lack with mabanua bandのライヴ映像

 先日、KOHHがフランク・オーシャンの新譜に参加し話題となっていたが、5lackも我々にそのようなサプライズを用意してくれるのではないか、とつい妄想してしまう。しかし、そんな妄想をしている場合ではない。現実は迫っている。呆けている間に5lackのワンマンライヴのチケットは売り切れてしまうだろう。我々は1ヶ月後に5lackの現実を目撃しなければならない。(菅澤捷太郎)

Mark Pritchard × Thom Yorke - ele-king

 古くはリロードやグローバル・コミュニケーションとして、近年ではハーモニック313やアフリカ・ハイテックとして知られるテクノのヴェテラン、マーク・プリチャード。このたび、5月にリリースされた本人名義としては初となるアルバム『Under The Sun』から、トム・ヨークがヴォーカルで参加した "Beautiful People" が12インチとしてシングル・カットされ、同時にMVも公開された。ポーランドの映像作家 Michał Marczak が監督を務める同MVでは、トム・ヨークの顔が照射された旅人が荒れ果てた大地をさまよい歩いていく様子が描かれている。

 ちなみに、マーク・プリチャードとトム・ヨークが交流するのは今回が初めてではない。レディオヘッドは2011年に『The King Of Limbs』をリリースした際、同作収録曲のリミックスを様々なアーティストに依頼し、12インチのシリーズとして展開しているが(それらはのちに『TKOL RMX 1234567』としてまとめられている)、マーク・プリチャードもそこに招かれたひとりである。1アーティスト1曲ずつという並びのなか、マーク・プリチャードのみがハーモニック313名義とソロ名義で2種類のリミックスを提供している。レディオヘッドあるいはトム・ヨークにとって、マーク・プリチャードというタレントはそれだけ別格の存在なのだろう。

 なお、今回シングル・カットされた "Beautiful People" のB面には同曲のインストゥルメンタル・ヴァージョンが収録されている。バイ・ヴァイナル!

OG from Militant B - ele-king

愛すべき日本のレゲエミュージック 2016.8.19

完全に久しぶりぶり~な感じのOGですがバイブス変わらず俺なりのチャートをお届け!
今回のテーマは"愛すべき日本のレゲエミュージック"と題し、終わりたくない夏!
初のオール日本人の楽曲を挙げました。やっぱ言葉の意味も分かるし、それがレゲエのリズムに乗ったら最高なの間違いなし!
You Tubeはほぼ無かったのでCD、レコードをゲットしたり俺のプレイで楽しんでくれ。
そして日本が今とんでもない方向に進もうとしてることは誰もが分かるから、音楽で俺らは繋がろう。
そして広げよう!踊るのは楽しいぞ!と

最後に私事なんですが7月にBrand New Mix TAPE "Hawkeye Dub"をMASTERED HISSNOISEよりリリースしました。

テープという媒体ながら多くの方に手にとってもらって嬉しいです。
俺はいつでも絶好調!だからパーティーにも遊びきてね。
そんなノリをキープしてリリースパーティーのお知らせ!

NHK yx Koyxen - ele-king

 もうそろそろ20年になろうかというコーヘイ・マツナガの歩みを眺めていると、「浪費」や「放蕩」といった単語が思い浮かんでくる。1998年に〈Mille Plateaux〉からデビューを果たした彼は、これまでに Koyxeи や NHK bs、NHKyx や NHK'Koyxeи といった名義を使い分け、メルツバウやセンセーショナル(元ジャングル・ブラザーズ)、ショーン・ブース(オウテカ)やハイ・プリースト(アンチポップ・コンソーティアム)、あるいは SND といった多様な個性たちとコラボレイションをおこない、〈Tigerbeat6〉や〈Raster-Noton〉、〈Skam〉や〈Pan〉といったエレクトロニック・ミュージックの名門レーベルからリリースを重ねてきた。ややこしい名義を使い分け、様々なレーベルを未練なく渡り歩いていくその姿は、リリースを重ねるごとに意識的に何かを捨て去っていこうとしているかのようにも見える。その「使い捨て」感は曲名にも表れていて、彼のアルバムには "587" や "367"、"629" といったよくわからない数字が並んでいる。

 多作な彼による膨大な作品群は、大きくエクスペリメンタルなものとフロア・オリエンテッドなものに分別することができる。昨年の12インチ「Hallucinogenic Doom Steppy Verbs」に続いて〈Diagonal〉からリリースされた本作『Doom Steppy Reverb』は、後者に属するものだ。
このアルバムの内容は、一言で言ってしまえば「ダンサブルなテクノ」ということになるのだけれど、本作にはどこか徹底して覚めた態度、あるいは極端に冷え切った何かがある。極めて身体的・機能的でありながらも、EDMのような下品さとは決して相容れない享楽性。インテリジェントな香りもそこはかとなく漂ってはいるが、それもとっつきにくい類の高尚さとは無縁である。ここにはただ淡々とした、だが強靭なテクノ・トラックが並んでいる。

 かつてブリアルが登場してきたとき、なんて冷たいダンス・チューンを鳴らすのだろうと思ったものだが、本作を聴き終えた後に襲ってくる戦慄にも似た不思議な余韻は、初めてブリアルの音楽に触れたときの感覚に近い。実際、"1073+Snare" や "1038 Lo Oct Short"、"Y" や "1048" といったトラックには、ダブステップ以降のリズム感覚・音響感覚が具わっている。
 だが、ブリアルの音楽には荒廃したロンドンの情景が強く刻み込まれていた。NHK yx Koyxen 名義のこのアルバムには、そういった情景を連想させる要素が一切ない。あるいは仮にそういった要素が含まれているのだとしても、それは決して具体的な都市や人間の断片などではなく、世界のどこかの、もしかしたら存在するかどうかさえわからない、ある閉じられたフロアの抽象的な情景だ。
 ただ踊り、ただ飲み、ただ吸い、ただ遊び尽くす。これは「いま」という時間を意図的に使い捨てていくための音楽である。たとえば "1082 S" の残響音が鳴らしているのは、そのような空虚な「いま」の痕跡なのではないだろうか。このアルバムを聴いていると「蕩尽」という言葉すら使いたくなってくる。

 フロアで床を見つめながら、あるいは天井を見上げながら、何も考えずに踊り続ける。そこに大きな意味などはなく、ただ過ぎ去っていく現在だけがある。その享楽を彼はベルリンのシーンのなかで見つけてきたのだろうか? 一体、この音楽の先には何があるのだろう?
たぶん、何もない。低俗でもなければ高尚でもない、どこまでもストレートなこの踊るためのテクノ・アルバムは、ただ「いま」という時間を消費し、虚無を見つめる。

 B.D.は常に「東京」を意識してきた。そして、それは今も変わらない。彼の新プロジェクトが、そのことを証明しているのだ。
 前作から約3年ぶりとなる今回のプロジェクトは、ドメスティック・アパレルブランド、BACKCHANNELとハード・ディガー・プロデューサー、Mr.Itagaki a.k.a. Ita-cho、そしてB.D.のコラボレーションによる、スペシャル・アイテム・ボックスとしてのリリースとなる。このボックスには全楽曲をMr.ITAGAKI a.k.a.Ita-choがプロデュースしたEP『BORDER』(全11曲)と、その他にCAP、TOWELが同梱されており、そのデザインはB.D.の前作『BALANCE』でのアートワークで注目を集めた、KANTOが担当している。また、今回のEPはCD単体でのリリースは予定されていないとのこと。
 アイテム・ボックスのリリースは9月23日(金)であるが、それに先駆けWEBサイトと、本作に収録されている「Guidance」、「Iranai feat.OMSB」のMVが公開されている。これを見れば、B.D.が「東京」のアンダーグラウンドを更新し続けていることを再認識出来るだろう。スペシャル・ボックスは追加生産なしの数量限定アイテムということで、入手困難になることも予想されるが、マスト・チェックなEPをぜひ手に入れてほしい。

(以下、「Guidance」「Iranai feat.OMSB」のMVです。)


「BACK CHANNEL × B.D. × Mr.Itagaki a.k.a. Ita-cho BORDER SPECIAL BOX SET」

価格:¥10,000+tax
発売日:2016.9.23

タイトル:BORDER
アーティスト:B.D., Mr.Itagaki a.k.a. Ita-cho
レーベル:GREEN BACK

Track List
1.Mezame
2.48Tricks
3.Guidance
4.Seventh Heaven
5.16deep
6.Fly Wire
7.Iranai feat.OMSB
8.Lemon
9.Groovy Line
10.Better Days
11.Next Door
All Tracks Produced by Mr.Itagaki a.k.a.Ita-cho

WEB:https://border.grbk-killaturner.com


■B.D.(Rapper)
10代よりソロ活動を皮切りにキャリアをスタートさせる。
IKB(池袋)や渋谷宇田川町を地場にTHE BROBUS (B.D.,BAZOO,DWEET,HASSY THE WANTED)を結成。2枚のアルバムをリリースする。
解散後再びソロに転向し「THE GENESIS」をリリース。その活動と平行してTETRAD THE GANG OF FOUR(NIPPS,B.D.,VIKN,SPERB)を結成。またNIPPSとB.Dが中心となりアンダーグラウンドの雄が集結したTHE SEXORCISTが誕生。変態キャンペーンを合言葉にその活動に大きな注目を集める。そして2013年末にはユニバーサルミュージックよりメジャーアルバムとなる「BALANCE」をリリースするなど、精力的な活動を続ける「東京の」ラッパーである。KILLATURNER名義で制作したDJ MIX「KILLA SEASON」が各方面より高い評価を得て現在はDJとしての活動も行う。
https://www.grbk-killaturner.com/

■Mr.Itagaki a.k.a.Ita-cho (Producer)

digger producer,beatmaker dj,vinyl dealer,vintage blaxploitaition & vintage kung fu poster dealer
ヒップホップのレコードを世界一売った店の元バイヤーとして、100タイトルを越えるエクスクルーシブ盤の制作やクラシックタイトルの再発などの仕事で評価を受ける。
海外への買い付けでもアメリカ,ヨーロッパなどで掘りまくるハードディガー。数多くのジャパニーズヒップホップ作品のプロデュースワークでも知られる。
DJプレイでは各地にて黒いバイブスに裏付けされた幅広いジャンルの選曲で玄人筋から評価を得ている。
2006年のオリジナルアルバムに続き、09年にビクターエンターテインメントよりリリースされたP&P records音源を使ったオフィシャルMIX CはUKチャートでNo.1を獲得した。
作品のジャケットデザインを始め、アパレルブランドのアートワークディレクションもこなす。元調理師でK.O.D.Pのメンバー。
https://thevinylpimp.com/

■Back Channel

1999年、東京でアンダーウェア・メーカーとしてスタート。ブランド名は「裏ルート」という意味を持ち、現在ではテキスタイル、シェイプ、ファンクションの融合をコンセプトに、トップスやボトムスにアクセサリーといった幅広いメンズコレクションを展開している。ストリートを背景に、高品質マテリアル、高性能ディテールをとことん追求し、シーズン独自の世界観でオーセンティックなアパレルを表現。また、近年では本格アウトドア・ブランドとのコラボレーションも実現し、アウトドア愛好家も納得するハイクオリティなプロダクトを数多く発表。着る人の雰囲気や個性を最大限に引き出すことを意図した、洋服作りを続けている。
https://www.backchannel.jp/

Tyondai Braxton - ele-king

 2000年代のバトルズ、すなわちタイヨンダイ・ブラクストンが在籍していた頃のバトルズは、リズムの面でもテクスチャーの面でも、そして何よりバンドであるということの最大の武器であるアンサンブルにおいても、あの時代に唯一、世界に対して戦争を吹っかけていたバンドだったのではないかと思う。当時、グライムやダブステップの強度に太刀打ちできるロック・バンドがどれだけいただろうか。かれらのアイデアにどれほどユーモラスな要素が垣間見られたとしても、リスナーはそれを「いま」という状況のなかでどこまでもシリアスに受け止めざるをえない――バトルズはそういう強制力を持つバンドだった。

 ミニマル・ミュージックを経て、ファンクを経て、パンクやハードコアを経て、クラブ・ミュージックを経て、ポスト・ロックを経た後の世界で、ロックという文脈のなかで何ができるのか。様々なアイデアがほぼすべて出し尽くされてしまった時代に、ロックという文脈のなかで何をすべきなのか。バトルズはそういう「いま」鳴らされるべきサウンドに極めて意識的なバンドだったし、そしてそれを実行する技術があった(いまさらわざわざ言及する必要はないかもしれないが、バトルズは、各々長いキャリアを積んだメンバーが一堂に会したいわゆる「スーパー・バンド」である)。

 そのエクスペリメンタリズムの中核を担っていたのがタイヨンダイ・ブラクストンであったのは間違いない。1作目の『History That Has No Effect』(2002年)やパーツ&レイバーとのスプリット『Rise, Rise, Rise』(2003年)などのタイヨンダイの初期作品を聴くと、まさに彼の音楽的欲動こそがバトルズというバンド全体の「コミュニズム」(と、共同作業のことをあえてそう呼んでみる)を突き動かしていたのだろうと思えてくるし、実際、彼が脱退した後のバトルズはかつて自らが担っていた戦争性・状況性から背を向け、ひたすらジャム・バンドとしての成熟を目指しているように聴こえる。

 バトルズ在籍中に発表された2作目『Central Market』(2009年)はストラヴィンスキーなどに触発され、現代音楽とポップとの共存を見事に達成してみせた意欲作ではあったが、いまだバトルズの昂奮冷めやらぬ時節に鳴らされたそのオーケストラ・サウンドは、聴き手に「なぜいまこれなのか?」という疑問を生じさせるものでもあった。徹底的に作り込まれた細部は確かに耳の肥えたリスナーたちの想像力を強く刺戟するものではあったが、全体としてはロック・ミュージシャンがオーケストラルなクラシックを導入したときの「あちゃー」という感覚の拭えないアルバムでもあった(タイヨンダイ本人は自身がロック・ミュージシャンであるという意識など微塵も持ち合わせていなかっただろうが)。

 だから3作目『HIVE1』(2015年)でのミュジーク・コンクレートへの軌道修正は正解だったと思う。おそらくはフィリップ・グラスとの交流が転換点となったのだろう。打楽器とモジュラー・シンセによって織りなされる最先端のリズムとテクスチャーは、2015年のタイヨンダイ・ブラクストンがソロ・アーティストとして表現しうる、そのすべてがぶち込まれた作品だった。

 そして、本作である。このEPは一言で言ってしまえば、『HIVE1』の延長である。だがそれはアルバムの単なる焼き直しではない。ここには、『HIVE1』の先へ突入しようというタイヨンダイの音楽的欲動が明確に表れ出ている。細かく刻まれたサンプル・ヴォイスに電子音が絡みつく "Oranged Out" は、タイヨンダイ・ブラクストンという音楽家のアイデンティティの更新を宣言しているかのようだし、規則的なビートの上を泳ぐシンセが印象的な "Hooper Delay"、シンセのみで白昼夢を演出してみせる小品 "Fifesine"、日本盤『HIVE1』にボーナス・トラックとして収録されていた "Phono Pastoral"、打楽器の躍動性にそのテクスチャーとしての可能性をもぶち込んだ "Greencrop" と、どの曲も実験的でありながらどこかエロティックでもある。この官能性は『HIVE1』にはなかったものだ。それに、銃規制団体を支援するという本作の制作目的も、いまの合衆国の状況を鑑みると非常にタイムリーである。タイヨンダイはこの2016年に、かつてとは異なる手法で「いま」という時代や状況に応答しようとしている。


 こんなことを言ってもしかたがないのだけれど、本作を聴くとやっぱりどうしても、いまのこのタイヨンダイがまたあの3人とやったらどうなるのだろう、と思わずにはいられない。本作のような官能的エクスペリメンタリズムが、あの圧倒的なバンド・サウンドと共存することができたら……本作はそんな夢想と余韻を与えてくれるEPである。

Arto Lindsay - ele-king

 ノー・ウェイヴから実験音楽、ブラジル音楽まで――DNAやラウンジ・リザーズ、アンビシャス・ラヴァーズの一員として、あるいはカエターノ・ヴェローゾやマリーザ・モンチのプロデューサーとして、そしてもちろんソロ・ミュージシャンとして、これまでさまざまな音楽的試みをおこなってきたアート・リンゼイ。このたび彼の来日公演が東京・代官山の晴れたら空に豆まいてにて開催される。同公演は、晴れたら空に豆まいての10周年記念企画の一環として、8月29日から5日間にわたって開催される。
 8月29日と30日には青葉市子、31日には山木秀夫、9月1日にはBuffalo Daughter、9月2日にはジム・オルークをゲストに迎える。ミキシングはzAkが担当(2日を除く)。
お土産付きの3日間通し券および5日間通し券もあり。
 また9月5日には大阪公演(@CONPASS)、6日には広島公演(@CLUB QUATTRO)、8日には京都公演(@METRO)も開催される。5日と6日には青葉市子、8日にはクリスチャン・フェネスをゲストに迎える。

『代官山 晴れたら空に豆まいて 10周年記念』
ARTO LINDSAY/アート・リンゼイ JAPAN 2016

presented by 晴れ豆インターナショナル
-
2016年8月29日(月)〜9月2日(金)
於:代官山 晴れたら空に豆まいて
-
8/29 mon.
ARTO LINDSAY x 青葉市子 – 第壱夜
live mix by zAk
-
8/30 tue
ARTO LINDSAY x 青葉市子 – 第弐夜
live mix by zAk
-
8/31 wed.
ARTO LINDSAY x 山木秀夫
live mix by zAk
-
9/1 thu.
ARTO LINDSAY x Buffalo Daughter
live mix by zAk
-
9/2 fri.
ARTO LINDSAY x Jim O’rourke THANK YOU SOLD OUT
-
すべて open 19:00 start 20:00
-
フロアは畳敷きです
整理番号順のご入場です
-
イープラスのみにて取り扱い ←こちらをクリック!
晴れ豆での一般予約は行いません
-
前売 ¥6,000-/¥6,500- (お土産なし/お土産つき)
当日 ¥6,500- (お土産なし)
-
お土産は、アーティストによるオリジナル・デザイン
完全限定生産・非売品です
-
優先入場・お土産つきの通し券のみ、晴れ豆にて承ります
*5日通し券 ¥25,000-(お土産つき)
*3日通し券 ¥16,000-(お土産つき)~日付を必ずご指定ください
*ご来店初日にまとめてお支払いください
-
企画・主催・問い合わせ
代官山 晴れたら空に豆まいて/晴れ豆インターナショナル
03-5456-8880
-
協力:commmons、前田圭蔵
-
-
-
アート・リンゼイ Arto Lindsay
1953年5月28日アメリカ・バージニア州生まれのアーティスト/ミュージシャン/プロデューサー。
1977年にニューヨークでDNAを結成し、翌年ブライアン・イーノによるプロデュースのもとで制作されたコンピレーション・アルバム「No New York」に参加。
1978年にはジョン・ルーリー率いるグループLounge Lizardsに参加し、80年代にはピーター・シェラーとAmbitious Loversを結成し、アルバムを3枚リリース。
その後プロデューサーとしてCaetano Veloso、Gal Costa、Marisa Monteなどの作品に関わり、また坂本龍一、David Byrne、Laurie Anderson、Animal Collective、Cornelius、UA、大友良英など数多くのアーティストと共演。
またMathew Barney、Vito Acconci、Rirkrit Tiravanijaなど数多くの現代アーティストとのコラボレーションも行う。
現在12年振りとなるソロ名義の新作を制作中。

Bon Iver - ele-king

 この10年において、インディ・ロック・シーンが発見したもっとも巨大な才能だったのかもしれない……ジャスティン・ヴァーノン、彼のボン・イヴェールとしての新作『22, A Million』が9月30日にいよいよ発表される。もちろん<ジャグジャグウォー>からだ。前作『ボン・イヴェール、ボン・イヴェール』(11)から、カニエ・ウェストやジェイムス・ブレイクとのコラボレーション、ポストロック・バンドのヴォルケーノ・クワイアでの活動、数々のプロデュース・ワークに地元町でのフェスティヴァル開催、そして初来日公演と何かと話題はあったものの、やはりボン・イヴェールとしての新作は重みが違う。

 彼が主宰するフェスティヴァルでは新作が全曲プレイされたが、インターネット上でも正式に2曲が発表されている。実験的なジャズとヒップホップの大胆な導入、アンビエントとドローンへの関心、ゴスペルとフォークへの忠誠……そうしたものが彼自身のエモーションで繋ぎとめられているかのような絶大なインパクトを持った、新作への期待を否応なく煽る2曲である。アルバムのクレジットにはヴァーノンの音楽仲間たちを中心に膨大な人数が記されており、もはやボン・イヴェールが山小屋のフォーク・ミュージックから遥か遠くまで来たことを証明している。ボン・イヴェールというプロジェクトを通してヴァーノンが、様々な音楽ジャンルや形式や、そこに関わる人間たちの力を借りて、新しい音楽的コミュニティを模索し創りあげようとしているように思えてならないのだ。

 公式サイトではTシャツ付やジャケット付も選べる形でプレセールが始まっている。話題作が続く2016年だが、もちろん本作もハイライトのひとつとなるだろう。

22 (OVER S∞∞N) [Bob Moose Extended Cab Version]

10 d E A T h b R E a s T ⚄ ⚄ (Extended Version)


Bon Iver / 22, A Million
Jagjaguwar



22, A Million Tracklist:

1. 22 (OVER S∞∞N)
2. 10 d E A T h b R E a s T ⚄ ⚄
3. 715 - CR∑∑KS
4. 33 “GOD”
5. 29 #Strafford APTS
6. 666 ʇ
7. 21 M◊◊N WATER
8. 8 (circle)
9. ____45_____
10. 00000 Million

SOUL definitive 1956 - 2016 - ele-king

21番目の「笑っていた」で泣いてしまった。「あなたがアメリカの黒人だったら殺されるかもしれない23の状況(23 Ways You Could Be Killed If You Are Black in America)」という動画のことだ。合衆国で無抵抗の黒人が警官に殺害され続けていることに抗議するため、ビヨンセやリアーナ、アリシア・キーズといった錚々たる顔ぶれが集結し、それまでに殺害された23人が殺される直前に何をしていたかを淡々と語っていく動画である。21番目に登場する被害者は、単に「笑っていた」というだけで殺されてしまった。もう本当にどうしようもないくらい悲惨だ。
2016年はビヨンセの年である。黒人であることと女性であること、政治の問題と恋愛の問題を同時に気高く歌い上げる彼女の姿は、昨年のケンドリック・ラマーと同様、ポピュラー・ミュージックの歴史に深く刻み込まれることになるだろう。何がすごいって、元デスティニーズ・チャイルドだよ。90年代に誰がこんな姿の彼女を想像できただろうか。
だが落ち着いて考えてみると、いまの彼女の力強い姿は当然の帰結なのかもしれない。なぜなら彼女の背後では、われわれが想像するよりもはるかに大きな川がこれまで一度も途切れることなく脈々と流れ続けていたのだから。かつてアミリ・バラカ(リロイ・ジョーンズ)はその川を「変わっていく同じもの(the Changing Same)」と名付けた。
ブラック・ミュージックは刹那的で、うつろいやすいと言われる。そのときそのときで新しいスタイルが生み出され、聴衆はそれを次々と消費しては捨てていく。こう書くとただむなしいだけのように感じられるかもしれないが、それはつまり、ブラック・ミュージックが各々の時代の社会情勢と相互に作用し合っているということでもある。公民権運動があった。ヴェトナム戦争があった。LA暴動があった。イラク戦争があった。それらはみな一本の大きな本流へと注ぎ、2016年という河口まで流れ込んでいる。直接的なメッセージが歌われているかどうかだけが重要なのではない。楽器が、リズムが、音色が、歌声そのものが、20世紀後半の合衆国の歩みに呼応しているのだ。
サム・クックがいた。ジェイムズ・ブラウンがいた。ディアンジェロがいる。ビヨンセがいる。『ディフィニティヴ』シリーズ最新作は、「ソウル」である。

SOUL definitive 1956-2016
河地依子



Amazon

第1章:1950年代~ ソウルの黎明期
p7 Sam Cook / p8 James Brown & The Famous Flames / p9 Ray Charles / p10 歌姫たち / p11 ドゥーワップの系譜 / p13 ニューオリンズ / p14 その他の先達

第2章:1960~ ソウルの躍進
p16 The MIracles / p17 デトロイト~Motown / p19 Stevie Wonder / p20 Marvin Gaye / p21 Supremes / p22 The Temptations / p23 For Tops / p26 The Jackson 5 / p27 Invicuts / p31 Chaimen Of The Board / p32 メンフィス~Stax / p33 Otis Redding / p37 その他の南部 / p38 Atlantic / p42 Wilson Pichett / p43 Aretha Franklin / p44 シカゴ~Chess / p46 Okeh / p47 その他 / p49 Ike & Tina Turner

第3章:1964~初期のファンク
p52 James Brown / p54 Sly & The Family Stone

第4章:1969~ファンクに火が点いた
p56 Sly & The Family Stone / p57 James Brown / The JB's / p58 P- Funk / p63 Ohio Playersおよび関連作 / p65 オハイオその他 / p67 The Isley Brothers / p68 Earth, Wind & Fireおよび関連作 / p71 東海岸(NY/NJ) / P73 西海岸 / p76 デトロイト / p78 Isaac Hayes / p79 The Bar-Kays / p80 The Meters / p81 Allen Toussaint および関連作 / p82 その他の地域 /

第5章:1971 ~ニュー・ソウル
p84 Marvin Gaye / p85 Curtis Mayfield / p87 Donny Hatherway / p88 Stevie Wonder / p92 番外編:「言葉」のアルバム

第6章:1972~ソウル百花繚乱
p94 Al Green / p95 メンフィス~Hi / p98 メンフィス~Stax / p101 Bobby Womack / p102 その他 / p104 Philadelphia International / p105 フィラデルフィア / p110 The Stylistics / p111 その他 / p112 Buddah / p113 ニューヨーク / p116 Brunswick/Dakar / p117 Barry White / p118 西海岸 / p121 西海岸~Motown / p124 デトロイト / p126 Prince / p127 その他

第7章:1979~ エレクトロ時代の洗練
p129 Michael Jackson / p130 Chicおよび関連作 / p132 Rick Jamesおよび関連作 / p134 Jazz→→→Funk / p135 ニューヨークその他 / p137 Zappおよび関連作 / p139 オハイオその他 / p140 Princeおよび関連作 / p142 Reggie Griffinおよび関連作 / p143 ミシガン / p145 Solar / p148 西海岸その他 / p150 その他の地域 / p152 Go-Go / p154 ニューオリンズ / p155 シンガーたち:旧世代 / p162 Luther Vandrossおよび関連作 / p163 シンガーたち:新世代 / p167 シンガーたち:英国 /

第8章:1988~ ニュー・ジャック・スウィング→ヒップホップ・ソウル→ビート革命
p171 Guy / p172 Teddy Rileyおよび関連作 / p174 Uptown / p174 Jam & Lewisプロデュース作、Perspective作品 / p178 LA & Babyfaceプロデュース作、Laface作品 / p181 New Editionおよび関連作 / p183 Foster & MacEloryプロデュース作 / p185 LeVertおよび関連作 / p186 Motown / p189 Def Jam/OBR / p191 Keith Sweatおよび関連作 / p192 R. Kellyおよび関連作 / p193 Dallas Austin関連作 / p194 セルフ・プロデュースの人々 / p196 Timbalandおよび関連作 / p199 その他 / p207 我が道を行く人々 / p209 英国バンド / p211 シンガーたち:英国

第9章:1995~ ネオ・ソウルとR&B(1)
p213 D'Angelo / p214 ネオ・ソウル / p219 R&B / P220 Destiny's Child / p223 ゴスペル /

第10章:2000~ネオ・フィリー
p226 Jill Scott / p227 ネオ・フィリー

第11章:2001~ネオ・ソウルとR&B(2)
p233 Alicia Keys / p234 R&B / p242 ネオ・ソウル / p244 Anthony Hamilton / p252 番外編:Bruno Marsおよび関連作 / p253 レトロ・ソウル / p257 全方位型 / p260 ゴスペル / p261 英国 /

第12章:2005~ エレクトロ~アンビエント~ドリーム
p264 Riahnna / p265 ダンス、ポップ / p267 アンビエント、ドリーム /

第13章:~2016 新世代プロテスト
p272 Beyonce / p273 新世代プロテスト


コラム
p35 「全盛期のレヴューのライヴ盤」
p90 「ブラックスプロイテーションのサントラ」
p100 「社会的な目的の慈善ライヴ」
p169 「反アパルトヘイト・アーティスト連合」
p224 コラム「ファンクの復活」
p230 「銀幕の中のアーティストたち」
p231 「ザ・ルーツの暗躍」
p258 「トリビュート盤」
p262 「相次ぐヴェテランの復活劇」

p274 索引

interview with Gonjasufi - ele-king


Gonjasufi
Callus

Warp / ビート

PsychedelicBluesRapRock

Amazon

いまの日本でこの音楽を聴くと、“汚さ”に違和感を覚えるだろう。すっかりお馴染みのシティポップ・マナー、これをやっておけば誰からも嫌われないだろうというネット時代の倦怠、保守的で、品性が良いだけのkawaii国では、ドレッドヘアーの汚らしいラッパーの歪んだサウンドは、まず似合わない。
 逆に言えば、小綺麗な日本のシーンに居場所がない人にとっては、ゴンジャスフィの『カルス』から広がる荒野は心地良いだろう。汚さ……というものがなくなりつつある世界において、西海岸の(異端児)ラッパーは、4年ぶりの新作で、照りつける太陽と砂漠のような怒りをぶつけている。トム・ウェイツが幻覚剤を通して西海岸のビートを摂取したような、錆びたサンプルで歌うブルース歌手、悪夢と人生を賛歌するような、いろいろな感情が入り混じったなんとも魅惑的なアルバムである。ぜひ、聴いて欲しい。こんなサウンドもありなんだと、ひとりでも多くの人に知ってもらえたら幸いだ。

俺はオバマに投票するね(笑)。トランプになっても、ヒラリーになってもダメだ。いまのアメリカは、解決すべきものがたくさんあると思う。TVやインターネットがなければ、もっと良い世界になるはずなんだよ。

2010年にあなたに取材したとき、あなたは「政治は大嫌いだし、政治にはいっさい関わりたくないと思っている」と話してくれました。11月に大統領選を控えていますが、今回は支持したい候補者がいなくて困っている人が多いと聞きました。

ゴンジャスフィ:たしかに選択肢はないな。俺はオバマに投票するね(笑)。トランプになっても、ヒラリーになってもダメだ。いまのアメリカは、解決すべきものがたくさんあると思う。戦争もそうだし、人種間の緊張感もそうだし、メディアに大きく左右されている部分もあると思うね。TVやインターネットがなければ、もっと良い世界になるはずなんだよ。皆、自分の判断ができる。政治には、いまだに関わりたくないね。ファック・ノーだ(笑)。

この4年、いったい何をされていたのですか?

ゴンジャスフィ:体調をくずしていたから、そのリカバリーに1年くらいかかったんだ。その治療で強い薬を摂ったしていたから、死にそうにもなってさ。で、そこからまた回復しなければならなかったし、手術やいろいろ大変だったんだ。

ヨガのほうはいかがですか?

ゴンジャスフィ:ヨガはもう2年くらい教えていない。引っ越したのもあるけど、いまのヨガ業界にもウンザリしていたんだ。ヨガ講師がインスタグラムをやったり、そこで人気になるのも良いケツをしたヨガ・インストラクターだったり、ヨガは「人からどう思われるか」ではないのに、外見を気にしたり、ステータスでヨガをやっている奴が多いんだよ。ヨガとは何なのかを本当にわかっていない。ヨガを教えてはいなくても、ヨガを好きなことは変ってないけどね。

どこか、他の文化圏への旅行をされた経験などの影響はありますか?

ゴンジャスフィ:ギリシャに行っていくつかショーをやったけど、それ以外はアメリカを出ていない。あまりこれといった影響はないな。これからの予定は、12月にヨーロッパに行くんだ。そのあと、来年もツアーがある。もう1枚、春に出したいと思っているレコードがあるから、その準備もしないといけなくてね。〈ワープ〉からリリースされるんだけど、それもGonjasufiのレコードなんだ。

では、どのようなきっかけがあって本作は制作されていったのでしょうか?

ゴンジャスフィ:制作をはじめたのは2013年、いや、2011年だな。ヴェガスで制作をスタートしたんだ。曲のなかには、2004年にサンディエゴで作りはじめたものもある。ギター・パートが出来ていて、あとから1年くらいかけてセッションで発展させていったんだ。

通訳:音楽制作は2011年からずっと続けていたのですか?

ゴンジャスフィ:前作が出た後から、ずっとレコード制作はしていたんだ。でも、2012年に病気になって、そこから制作のスピードが遅くなっていった。で、2014年にまた作業を再開して、トラックを仕上げはじめて、2015年にアルバムを完成させた。あと、音楽活動は常にやっていたんだけど、音楽業界からは離れていたね。業界がイヤになってね。でも、音楽そのものへの愛が変わったことはない。あのジェイ・Zの一件があってから(2013年、ジェイ・Zがゴンジャスフィの曲をサンプリングした)、早くレコードを出せとまわりりがうるさかったんだ。でも俺自身はその準備が出来ていなかった。金のために音楽はリリースしたくなかったし、そんなことしたら、音の出来の悪さにがっかりするリスナーも出てくるだろうしね。

元キュアーのパール・トンプソンが参加していますが、1980年ぐらいのUKのポストパンク、しかもゴス的な感覚というか、ノイジーでダークな衝動を感じましたが、いかがでしょうか? 

ゴンジャスフィ:そういった音楽からも影響は受けているよ。最近もよく聴いているんだ。最初は、自分でギターとドラムを演奏して作っていたんだけど、ギターの部分が自分ではうまく表現できなくてフラストレーションがたまっていた。指が思うように動かなかったんだ。そこで、彼に依頼することにしたのさ。

通訳:あなたはこのアルバムの方向性をどのように考えていますか?

ゴンジャスフィ:ただただ、俺は正直なアルバムが作りたかった。俺の中身がそのまま表れている作品をね。あと、音的にはダークでディストーションの効いた作品を作りたかったというのはあったな。それと、痛みが表現された作品。俺は、フェイクな内容なものを作ることは避けたかったんだ。ララララ~なんて、エレヴェーターで流れているような音楽は作りたくなかった(笑)。まあ、作ろうと思えば作れるぜ(笑)。めちゃくちゃ良いR&Bレコードを作れる自信はある(笑)。絶対に金になるだろうな(笑)。

いま、痛みを表現したかったとおっしゃいましたが、強いて言うなら、今回は怒りのアルバム? 苦しみのアルバム? 

ゴンジャスフィ:選べないな。どっちもだよ。いまだに怒りはあるし、苦しんでるし(苦笑)。

通訳:どんな怒りや苦しみを未だに抱えているのですか?

ゴンジャスフィ:子供を育てる環境もそうだし、金銭問題もそうだし、自分のまわりのことすべてさ。俺はミリオネア(金持ち)じゃないからな。でも、レコードには愛もつまっている。ネガティヴなエナジーを音楽を作ることによってポジティヴに変えているんだ。

“Afrikan Spaceship”や“Shakin Parasites”のようなインダストリアルなビートからはマーク・スチュワートを思い出したんですが、お好きですか?

ゴンジャスフィ:誰? わからないから答えられない(笑)。ははは。

通訳:ポップ・グループの人ですよ。

ゴンジャスフィ:ホント知らないんだ。

たとえば“Carolyn Shadows”や“The Kill”など、今回のアルバムの重苦しさ、こうしたエモーションの背後に何があったのかを教えてくれますか?

ゴンジャスフィ:難しい質問だな。どの曲にも同じアプローチで望んだし、同じ感情が込められていると思う。俺のソウルが込められているんだ。それがブルースってもんだろ? そのソウルは、“ファック・ユー”でもあるし、“アイ・ラヴ・ユー”でもある。そのふたつは紙一重だからな。
 で、何があったんだっけ……"The Kill"の歌詞を振り返ってみるから、ちょっと待っててくれよ。あれは……正直わかんねえな。歌詞を書いているときって何も考えないんだ。俺って説明出来ないんだよ。そのとき感じている痛みだし、それを振り返ること自体も痛みなんだ。母親と話しているときも説明を求められて、俺、ぶちぎれるんだよ(笑)。ゴッホにだって、何でその絵を描いたのかなんて訊かないだろ(笑)? そこから何を自分が感じるかが大切なんだ。いちいち説明を求められると、気が滅入るんだよ。俺の母ちゃんは、俺の大ファンだけどな。両親とも仲は良いけど、母ちゃんの方が近い。「この曲が好き」とか、毎日メールしてくるしな(笑)。でも、はいはいって感じで流すんだ(笑)。
 母親はサンディエゴに住んでいるから、俺は年に2、3回くらい帰るようにしてる。子供が俺の子供しかないから、彼女を孫に会わせるのは大切だと思って。母親って好きなんだけど、ずっとはいれない。わかるだろ(笑)? 俺の人生初のコンサートは8歳で、衣装も全部母ちゃんががデザインしてくれたんだ。頑張れと楽屋の前で励ましてくれた。観客席からも応援してくれている姿が見えたし、彼女は俺のすべてだな。この話をしていたら、泣きそうになってきたよ(笑)。

[[SplitPage]]

どの曲にも同じアプローチで望んだし、同じ感情が込められていると思う。俺のソウルが込められているんだ。それがブルースってもんだろ? そのソウルは、“ファック・ユー”でもあるし、“アイ・ラヴ・ユー”でもある。そのふたつは紙一重だからな。


Gonjasufi
Callus

Warp / ビート

PsychedelicBluesRapRock

Amazon

あなたは、スーフィーやトルコなど、中東文化を取り入れるのも早かったと思うのですが、今日の音楽の世界では、わりとそれはひとつのトレンドにもなっています。苛立ちはありますか?

ゴンジャスフィ:いいことだと思うぜ。知られることで音楽も広がるし、受け入れられるのはいいことだと思う。

通訳:トレンドを追うこともありますか?

ゴンジャスフィ:いや、きらいだな。君はどう?

通訳:私はたまにのってしまいますね。

ゴンジャスフィ:いまは何の流行にのってるんだい?

通訳:グリーンスムージーとか(笑)?

ゴンジャスフィ:ははは! 出た! 俺はパープルじゃないと飲まないね(笑)。ベリーが入ってるから美味しいんだ。グリーンは激マズ。ファック・ノーだな。マジで無理(笑)。芝生なんて入れやがってさ。とくに胃が空っぽの時は無理だな(笑)。

政治的に言えば、今日ではイスラムへの偏見はさらに増しています。そうした偏見への怒りは、今回の作品の主題にはありますか?

ゴンジャスフィ:そうだな……もちろんそれがテーマになっているものもあるし、すべての曲に入っている。“Maniac Depressant”は、宗教や人種に関しての怒りが歌っているし、“Krishna Punk”も、人びとの関係について歌っている。アメリカ全体の問題がこのアルバムではテーマになっているんだ。

“Krishna Punk”は曲調も一風変わっててユニークですが、歌詞には、たとえばなにが綴られているのでしょうか?

ゴンジャスフィ:この曲では、“組織”についてが歌われているんだ。歌詞を思い出してみるから待ってくれよ。「共同体を崩し……世界を救え。組織を消して、テレビをなくせ。そうすれば自由になれる」そんな感じだな。俺たちが組み立ててきてしまったものを崩せ、みたいな内容。フリースタイルさ。俺にとっては、フリースタイルで歌う方が簡単なんだ。昔からやってきたからな。サンディエゴやLAのアンダーグラウンドは皆そうなんだよ。

『カルス』というタイトルは、どこから来たのでしょうか? そこにはどんなメッセージが込められていますか?

ゴンジャスフィ:自分の心臓の周りにスペースを作っているんだ。世界からの攻撃から自分を守っているのさ。俺というより、世界が俺の心に“たこ”を作った。でもそれは美しいことでもある。純粋なものをを守ることが出来るからね。俺は、敵を近くに置いたりはしない。近くに置くのは家族だけ。同時に、俺は悪から逃げることもしないんだ。それよりも、向こうが目を背けるまでじっと見ていたい。あと、悪というのは男のエナジーだと最近気づいたんだ。神は女性のエナジー。男は命令して何かをさせようとするけど、女は全体を見てバランスをとろうとする。男にはマッチョなエゴがあるんだ。神は男という考え方は、捨てるべきだね。

“Your Maker”や“Prints Of Sin”のようにヒップホップ・トラックを発展させたような曲もありますが、今回の作品のなかにフライロー周辺からの影響はありますか?

ゴンジャスフィ:ないね。彼と俺の音楽に近いものは何もない。でも、彼自身のことは大好きだけどな。彼は俺の人生を変えたし、借りがたくさんあるんだ。まわりの奴らが俺にビビっていたときも、スティーヴ(フライロー)は温かく接してくれた。サウンドの影響はないけれど、やりたいことをやるという彼の姿勢には確実に影響を受けているね。彼も繊細だし、俺も繊細。人生短いんだから、大胆にいかないと。人間皆繊細だし、自信もない。でも、その氷を崩していかないといけないんだよ。

前回の取材で、「ジミは世界いち最高にクレイジーなマザー・ファッカー野郎さ」とあなたは話してくれましたが、とくに今回はその影響が強いと思いますか?

ゴンジャスフィ:ジミは前ほどは聴いていない。でも、俺は彼の演奏を見てから、演奏と歌をすぐにはじめたんだ。彼はいまだに大きく影響を受けているし、彼のあの特有のリズムとあのリズムと同時に歌うことが出来る才能は、本当に素晴らしいと思う。あれは、やろうと思うとすごく大変なんだ。あの時代にそれをやったのもすごいし、しかも左利きでもある。あれは神だな。彼とマイルズ・デイヴィスとプリンスの3人はそう。デイヴィッド・ボウイもそうだな。

あなたがジミ・ヘンドリックスのアルバムでいちばん好きなのは、『Axis: Bold As Love』ですか?

ゴンジャスフィ:そうだな……『Axis: Bold As Love』だと思う。

通訳:それは何故?

ゴンジャスフィ:わからないけど、俺が聴いてきた経験でそう思うんだ。この質問はいままで聴かれたことがなかったから、すぐにはわからない。ジミ・ソングだったら、“Voodoo Child”だな。

前作のときと違って、現在カリフォルニアでは大麻は合法です。こうした状況の変化は新作にどのように関係していますでしょうか?

ゴンジャスフィ:もちろん制作中は吸ってたさ。体調も崩していたから、薬としても使っていた。でも、いまは吸ってないんだ。半年は吸ってないね。1、2年やめようと思ってる。実は、『A Sufi and a Killer』のときはほぼ吸ってなかったんだ。今回は、スロー・ソングのときはだいたい吸ってた。でも、いまは酒も飲まないし、飲むとしてもビール6缶を3ヶ月で飲み終わる程度。酒を飲むとリカバリーに時間がかかるし、身体が拒否するんだ。サンディエゴに帰ったときに一杯飲んだりはするけど、それも5ヶ月に1回とかだしな。ワインも好きだけど、カミさんが妊娠してるし、いまは飲んでない。俺、長生きしたいんだよ(笑)。いまは子供がいるしな。子供が産まれるまでは、40歳くらいまで生きれればいいと思ってたけど、いまは80歳まで生きないと(笑)。60歳になって腹が出て、シワだらけになったとしても、俺はシャツを脱いで上半身を見せるぜ(笑)。女がどう思うかなんてどうでもいい。じゃなきゃ、いまだってヒゲをはやしてはいないしな。ないほうがハンサムって言われてるんだ(笑)。でも、カミさんはありのままの俺を愛してくれているからそれでいいのさ。

あなたはヨガのインストラクターですが、多くの人はヨガをやるべきだと思いますか?

ゴンジャスフィ:全員やるべきだ。それに、子供や身体障害者、病人たちにはタダで教えるべきだと思うね。学校のカリキュラムやリハビリ、刑務所のプログラムに取り入れるべきだと思う。俺の娘もやってるし、平和な気持ちを得るには必要なものだと思うから。週3~5回はやりたいね。このレコードの売上金で、ジョシュア・ツリーにヨガ・スタジオを作ろうと思って。ただし俺は、ヨガで金もうけしようとは思わない。ただ、ヨガを広げたいだけなんだ。

いま世界は転換期を迎えていますが、このような時代に、「ぼくたちに何ができる」と思いますか?

ゴンジャスフィ:ヨガさ(笑)。インターネットとテレビを消して、自然に注目すること。人に合わせるんじゃなくて、自分自身を持ち、自分が受けた恩恵をまた別の人に送り、親切の輪を広げていくことだね。世界や周りを変えるより、まず自分を変えればいい。皆がそれに集中すれば、世界なんてすぐに変わるさ。

通訳:ありがとうございました!

ゴンジャスフィ:ありがとう。またな。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316