「You me」と一致するもの

R.I.P. Cecil Taylor - ele-king

 セシル・テイラーが亡くなった。

 4月5日にブルックリンの自宅でピアニストにして詩人は息を引き取る。89歳だった。最高気温は7度くらいだろう。寒くて雨がちだったこの日、家族のほかに彼を見送ったのは、サキソフォン奏者のエヴァン・パーカーと〈Cadence〉レーベルの主宰者ロバート・ラッシュだという(『ガーディアン』紙電子版)。巨漢のパーカーが共演したライヴは数え切れないし、ラッシュは最後のアルバムを作った人だ。1956年に出された最初の作品『Jazz Advance』から62年の時間が流れたのである。

 少し暖かくなったニューヨークの街では今ごろ、彼の音楽に励まされた人たちが記憶を紡ぐ催しを準備していることだろう。私もここでその試みに加わりたいと思う。

 3年前に彼がオーネット・コールマンの葬儀で演奏した音を聴きながら、これを書いている。2015年6月27日、場所はマンハッタンの西ハーレムにあるリバーサイド教会である。シャルトルの大聖堂を模したゴシック教会の高いドームに響くのは金属的なハイトーンだ。これが倍音を含んでちょっとハープシコードみたいに聞こえる。年を追うごとに南方に向かい、カーニヴァル的になっていったオーネットを送るセシルのピアノは、対照的に大都会の森厳な杜で鳴っているのである。ある種の「同志的」な共感が伝わってくるのと同時に、大きく距離をとった天空の眼を思わせる。骨に響き、脳幹を貫くすばらしい演奏だった。そう感じるのは、決して同じ時代を生きた者たちだけではないだろう。

 1929年のクイーンズ生まれ。この地区でニューヨーク万博が開かれたのは10歳の時である。セシルは根っからのニューヨーク人なのである。モンクやローチ、それにロリンズもそうだった。音楽は「街の気流」だ。どれほど孤独な音楽実験も、「自然」を志向するサウンドも、人びとの間で生まれる。実はモンクが産声を上げた1917年から1930年のロリンズまで13年間しかない。意外なのはロリンズの方がセシルより1歳若いこと。そしてオーネットはテキサス州フォートワースで生を享けたが、ロリンズと同い年だということだ。マイルスはセシルの3つ年上なだけ。何が言いたいのかって? つまりバップからフリーまで、すべてがこの街の蒸気と暗がりの中で一気に群がり起こったのである。

 訃報を伝える内外のどんな記事も「フリージャズの先覚者」という。オーネットの時もそうだった。そんな見出しを眼にすると「ああ、人はそうやって棺桶に蓋をされるのか」と思う。「棺桶」にもいろいろある。藝術の棺桶、ジャズの棺桶、フリーの棺桶、現代音楽の棺桶。そして立派な墓が立つ。20世紀の殿堂という墓穴に入れられて、それで一丁上がりである。

 セシルは、移民の缶詰のようなクイーンズ区の北東部で黒人ミドルクラス家庭の一人っ子として生まれた。「イミグラントでいないのは日本人くらいかな」と友人はいう。6歳でピアノを始め、後にボストンのニューイングランド音楽院に学んでいる。ボストンは批評家のナット・ヘントフが多民族エリアの縁でジャズに酔い痴れた街である。これはバイオグラフィーじゃない。エリントン、ミンガス、マイルスと続く自意識が絡み合うその足跡だ。そして「主流派のジャズクラブから追放された彼は」と『ガーディアン』紙でローラ・スネイプスは書いている。皿洗いやクリーニング屋(!)でどうにか喰いつないだという。民族混淆の下水道のような新宿2丁目の洗濯屋稼業で凌いだ身としては、実になんとも汚水が眼に染みてしょうがないのである。

 『Jazz Advance』の“You’d be so nice to come home to”には、セシルの自意識が辿ったこういう泥道が伺える。「ニューヨークの溜め息」ヘレン・メリルが歌うメロディーを弾くピアノはギクシャクと路地を曲がりくねって即興に突入していくのである。こういう捻れを振り払うように『Conquistador!』や『Unit Structures』の構造的土石流が押し寄せただろう。私には1980年代のFMPに残された稠密な集団即興が今でも耳に轟いている。

 オーネットへの葬送曲が、セシル・テイラー自身によるセシルへの挽歌のように聞こえないか。カテドラルの空間を昇っていくその何本もの音の線が、ラヴェルのヴァイオリン・ソナタが秘めた爆発的な繊細さを思わせるのである。そこから洩れてくる声は弔いの儀式にふさわしくない。「すべての棺桶をこじ開けろ」と私に囁くのである。

Moodymann - ele-king

 なんと、ムーディマンが6月に新作LPをリリースする。タイトル含め、アンプ・ドッグ・ナイト(アンプ・フィドラー)が参加していること以外はまだ何も明かされていないが、先行シングルと思われる12インチ「Pitch Black City Reunion / Got Me Coming Back Rite Now」はすでにリリース済み。いや、これ、むちゃくちゃかっこいいです。売り切れる前にレコ屋へ急げ!



Daniel Avery
Song For Alpha

Phantasy Sound / ホステス

TechnoArtificial Intelligence

Amazon Tower HMV iTunes

 化けた。そう言うべきだろう。
 タイトルとは裏腹にアシッドきらめくダンス・レコードだった2013年の前作『Drone Logic』から一転、ダニエル・エイヴリーのセカンド・アルバム『Song For Alpha』は、全篇にわたって幽遠なアンビエント・タッチのシンセを導入している。このアルバムを覆っているのは、かつて「リスニング・テクノ」や「アンビエント・テクノ」と名指されていた類のサウンドである。前作にその要素がなかったわけではないが、本作ではそれが大々的に展開されている。
 この変化に関してエイヴリー本人は、「DJ以外の活動も含めて、自分のアーティストとしての全体の活動の影響を、スタジオのなかに取り入れたものなんだ」とオフィシャル・インタヴューで語っている。以前は何よりもまずクラブでプレイされることに曲作りの基準があった、と彼は言う。しかし『Song For Alpha』はそれとは異なる方位を見据えている。

自分にとってテクノというのは、ヒプノティックな、逃避できる音楽だと思っているんだ。DJとしてのゴールというのは、自分にとって、フロア全体でみんなが手をあげて楽しむというような状況よりも、目を閉じてそのセットにはまっているような状況を作り出すことなんだ。 (オフィシャル・インタヴューより)

 目を閉じてそのセットにはまっているような状況――つまり彼はフロアだけでなくベッドルームのことも考えるようになったということだろう。とはいえ、その変化は必ずしもダンスの放棄を意味するわけではない。なんといっても彼は、アンディ・ウェザオールやエロル・アルカンから祝福を受け、『Fabriclive』や『DJ-Kicks』といった名ミックス・シリーズに抜擢されるほどのDJである。とうぜん本作にも“Sensation”や“Quick Eternity”といった機能的なトラックは搭載されている。しかし、それらはあくまで全体に緩急をつけるためのいちアクセントにすぎないように聴こえる。ためしに目を閉じてこのアルバムが奏でるサウンドに耳をすましてみてほしい。きっと思いもよらないさまざまな情景が浮かび上がってくるはずだ。ノスタルジックなシンセだけではない。打撃音や金属音など、『Song For Alpha』で鳴らされている細やかなノイズの数々は、私たちリスナーを想像の彼方へと運び去っていく。

 これはまさに、かつて〈Warp〉が「アーティフィシャル・インテリジェンス」シリーズで試みていたことではないか――そう考えると、本作が90年代前半のテクノ黄金期の諸作を彷彿させる音色/音響で埋め尽くされていることにも納得がいく。『Song For Alpha』を聴いていると、デトロイト・テクノやそこから影響を受けたリロードやB12、あるいはプラスティックマンなどのサウンドを思い浮かべずにはいられない。“Citizen // Nowhere”なんて『Incunabula』~『Amber』の頃のオウテカのようだ。つまりこのアルバムは、その企図としても結果としても、いまという時代のなかで「アーティフィシャル・インテリジェンス」を標榜・実践しているのである。

デトロイトのテクノはもちろんだけど、だけど同じくらい〈WARP〉なんかの1990年代のテクノ・サウンドからも影響もうけているよ。あとは同時にエレクトロニック・ミュージックだけではなく、ブライアン・イーノとかウィリアム・バジンスキーとか、アンビエントや実験音楽なんかにももちろん影響はうけているよね。自分にとって、それぞれ同等の価値がある音楽なんだ。テクノだけではなく、そういう音楽からの影響も同レベルだと言えると思うんだ。 (オフィシャル・インタヴューより)

 バジンスキからの影響は、冒頭の“First Light”やインタールードの“TBW17”、“Embers”などのビートレスなトラックに表れ出ている。とはいえ、どれほどウェイトレスなシンセが全体を覆い尽くしていようとも、本作はいわゆるアンビエントのアルバムではない。たとえば、リッチー・ホウティンを思わせる“Clear”や“Diminuendo”、“Glitter”などのミニマルなキックやハットは、どう考えてもダンスを希求している。ようするに、そのようなふたつの志向の交錯にこそ本作の肝があるということだ。
 機能性と想像性の共存という点において、本作にもっとも大きな影響を与えているのは、やはり、エイフェックス・トゥインである。“Stereo L”や“Slow Fade”のアシッドの使い方はプラスティックマン的であると同時にどこかAFXを想起させるし、“Projector”のハットなんてまるで『Selected Ambient Works 85-92』のようだ。じっさい、エイヴリーはオールタイム・フェイヴァリットにエイフェックスの『85-92』を挙げている。「あのアルバムはずっと聴いているんだ。本当にパーフェクトなアルバムなんだ」と彼は語る。

初期のエイフェックス・ツインの感覚がまさにそうなんだけど、あとは〈WARP〉のやっていたエレクトロニック・ミュージックなんかは、マシン・ミュージックでもあるんだけど、同時に人間味を感じる音楽だったと思うんだ。それにすごく影響を受けていて、機械が作る音楽なんだけど魂があるような、そういった音楽にこそ自分としては“繋がり”を感じることができるんだ。 (オフィシャル・インタヴューより)

 このような『Drone Logic』から『Song For Alpha』への変化は、90年代初頭に起こったテクノの旋回――ダンサブルなアシッド・ハウスから想像力豊かな「アーティフィシャル・インテリジェンス」へ――をそのままなぞっているかのようである。しかし、ではなぜエイヴリーは、いまこのような転身を遂げなければばらなかったのだろうか。

 時代が要請した。
 結局はそういうことになるのだろう。
 近年は、多角化する以前の〈Warp〉のサウンドを継承しようと試みる〈Central Processing Unit〉が頭角を現してきたり、エイフェックスなど90年代初頭のサウンドを取り入れたバイセップが高い評価を受けたりする時代である。ダニエル・エイヴリーのこの『Song For Alpha』もまた、そのような時代の無意識を的確に捉えた作品だと言うことができる。
 いったい「アーティフィシャル・インテリジェンス」とはなんだったのか。あるいは、いったいエイフェックス・トゥインとはなんだったのか――ダニエル・エイヴリーのこの新作は、いま改めてそれを考える機運が高まっていることを仄めかしているのである。

Gang Gang Dance - ele-king

 ギャング・ ギャング・ダンスといえば、ゼロ年代NYのアンダーグラウンド・シーンにおいてアニマル・コレクティヴと並んでひときわ異彩を放っていたバンドである。世界中のさまざまな音楽の要素を取り入れながら巧みに実験精神とポップネスとの融合を試みていた彼らだけれど、前作『Eye Contact』が2011年だから、あれからもう7年ものときが流れていたのだ。そんな長きにわたる沈黙を破り、来る6月22日、ついにGGDが新作『Kazuashita』をリリースする。先行公開された新曲“Lotus”を聴く限り、その折衷的なスタイルはいまなお健在の様子で……ところで「カズアシタ」って何?

GANG GANG DANCE

7年の沈黙を経て復活!!!
最新アルバム『KAZUASHITA』のリリースを発表&新曲公開!
秋には超待望の来日も!

アニマル・コレクティヴやLCDサウンドシステム、バトルズなど、その後ヘッドライナー級アクトへと成長する才能を生み出しまくった2000年代初頭のニューヨークにおいて、音楽とアートの境界線を破壊し、一際異彩を放った尖鋭的音楽集団ギャング・ギャング・ダンスが7年の沈黙を破り再始動! 待望の最新アルバム『Kazuashita』のリリースを発表し、新曲“Lotus”を解禁! さらに秋には2009年のフジロック以来となる超待望の来日公演も計画されている。詳細は後日発表予定。

Gang Gang Dance - Lotus (Official Audio)
https://youtu.be/ZIvCVYX__9c

リジー・ボウガツォス、ブライアン・デグロウ、ジョシュ・ダイアモンドを中心に2000年代前半に結成されたギャング・ギャング・ダンス。初期作品が当時ニューヨークで勢いのあった実験的音楽シーンの中で高く評価され、2008年8月8日にはボアダムズによる88 Boadrumで指揮を任され、その直後にリリースされた傑作『Saint Dymphna』で一躍カルト・バンドの域を超え、盟友アニマル・コレクティヴと共に、シーンの中心的存在となる。その後〈4AD〉との契約を経て『Eye Contact』をリリース。自身の作品をリリースした以外にも、若くしてこの世を去ったグラフィティ・アーティスト、ダッシュ・スノーやネイト・ローマン、ティンチー・ストライダー、ボアダムズなどとのコラボレートも知られる。

ポスト・ロックからエレクトロニカ、インダストリアル、シューゲイズ、サイケ、エクスペリメンタルなど、ありとあらゆるリズムとスタイルをひとつに纏め上げ、そこにリジー・ボウガツォスのシャーマニックなヴォーカルが加わることで、鮮かでトライバルな異世界へと誘う唯一無二の音楽で、多くに影響を与えてきた彼らが、7年もの沈黙を破って完成させたのが最新作『Kazuashita』。本作は、デグロウによってプロデュースされた作品で、ニューヨークのスタジオやアートスペースでレコーディング・セッションを何度か行ったのち、BOADRUMで出会ったドラマーのライアン・ソーヤー、アリエル・ピンクとのコラボでも知られ、本作ではプロダクションの一部とミキシングを担当したホルヘ・エルブレヒトと共に作品を完成させた。アルバムのジャケット・アートには、アメリカの若手アート・フォトグラファー、デヴィッド・ベンジャミン・シェリーの作品が起用されている。

ギャング・ギャング・ダンス7年ぶりの最新アルバム『Kazuashita』は6月22日(金)に世界同時リリース! 国内盤CDには、ボーナストラック“Siamese Locust”を追加収録し、解説と歌詞対訳が封入される。輸入盤LPの初回限定プレス盤はカラー・ヴァイナル(レッド)仕様となる。またiTunes Storeでアルバムを予約すると、公開された“Lotus”がいち早くダウンロードできる。

label: 4AD / Beat Records
artist: Gang Gang Dance
title: Kazuashita
release date: 2018.06.22 FRI ON SALE

[ご予約はこちら]
beatink.com: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=9602
amazon: https://amzn.asia/6ppXWDA
iTunes Store: https://apple.co/2GOpQWb

[Tracklisting]
01. ( infirma terrae )
02. J-TREE
03. Lotus
04. ( birth canal )
05. Kazuashita
06. Young Boy (Marika in Amerika)
07. Snake Dub
08. Too Much, Too Soon
09. ( novae terrae )
10. Salve On The Sorrow
11. Siamese Locust (Bonus Track for Japan)

Terekke - ele-king

 現在、80年代から90年代初頭前後のニューエイジ再評価が進んでいる。例えばオランダのレーベル〈ミュージック・フロム・メモリー〉が再発見(リイシュー)したジジ・マシンなどが音楽ファンに広く受け入れられている状況である。また、日本人環境音楽家の(故)吉村弘のファースト・アルバム『ミュージック・フォー・ナイン・ポスト・カード』を、ヴィジブル・クロークスのスペンサー・ドローンと〈ルート・ストラタ〉のマックスウェル・オーガスト・クロイによるレーベル〈エンパイア・オブ・サイン〉がリイシューするような流れも生まれている。海外では80年代の日本産アンビエントは「ファッショナブル」な存在になっていた。

 これは長年歴史化されていなかった80年代の電子音楽やニューエイジを再評価するムーヴメントといえるが、おそらくは80年代にはまだ幼少期だった世代が長じて自分が子供のころに耳にした音楽とムードが似ているレコードを掘り始めたからではないかとも思う。いわば新時代のレア・グルーヴである。だからこそ実は「ジャンル」に限定されてもいない。じじつ、〈ミュージック・フロム・メモリー〉は『アウトロ・テンポ:エレクトロニック・アンド・コンテンポラリー・ミュージック・フロム・ブラジル 1978-1992』というブラジルの知られざる電子音楽のコンピレーション・アルバムや、高橋邦幸の初期作などもリイシューしている。ジャンルというより共通する音の質感を重視する姿勢だ。音楽マニアからの信頼が厚いのも頷ける。

 ゆえに〈ミュージック・フロム・メモリー〉では旧作のリイシューのみに留まらず、新作アルバムのリリースも追求されている。たとえばジジ・マシン、ジョニー・ナッシュ、ヤング・マルコらによるガウシアン・カーヴや、スペインのニューエイジ・コンポーザーのスーソ・サイスの新作アルバム『レインワークス』のリリースなどである。そして今回、〈ミュージック・フロム・メモリー〉が送り出した「新作」作品がニューヨークのテレッケことマット・ガードナーのアンビエント作品『インプロヴィゼーショナル・ループス』である。昨年〈L.I.E.S.〉から『プラント・エイジ』を出して話題になった人で、〈L.I.E.S.〉では最初期からシングルをリリースしてきたプロデューサーだ。この『プラント・エイジ』もまた天国的なミニマル・ダブ・トラックを収録した傑作であった。対して本作『インプロヴィゼーショナル・ループス』は、ノンビートのアンビエント作品である。夢のような微睡の音響が続くアルバムだ。

 アルバムには全8曲が収録されているが、“Another”、“Wav1”、“Ambien”などで聴かれるように、柔らかく桃源郷的な音世界を基調とする構成となっている。それらはまるで夢の中へと誘われるような催眠誘発効果も高い。一方、“Arrpfaded”や“l8r h8r”などのトラックは、電子音のアルペジオによって微かな緊張感を生んでいる。その意味ではアルバム・トータルで「陶酔と覚醒」を同時に引き起こすような効果も感じられた。

 いずれにせよ、ここまで濃厚なニューエイジ/アンビエントの「新譜」は稀ではないか。その意味ではビートは入っていないものの、音の本質は『プラント・エイジ』とそれほど差はないともいえる。成層圏的というか、天国的というか、重力から自由になったような感覚があるからだ。どうやら彼がニューヨークの「ボディ・アクチュアライズド・センター」のヨガ・クラスでの体験をもとに作られたという、まさにニューエイジなトラックらしいのだが、シンプルながら実に端正な仕上がりのアンビエント・トラックでもある。アナログ機材で作られたというトラックは、とにかく気持ち良いのだ。身体に「効く」アンビエントの逸品といえよう。

Loyle Carner - ele-king

 昨年デビュー・アルバム『Yesterday's Gone』を発表し、一気にUKを代表する若手MCとなったロイル・カーナー。自身でトラックメイキングもこなす彼が、クウェズやトム・ミシュといったいまをときめくプロデューサーたちの助力を得て紡ぎ出したあのメロウネスは、グライムともトラップとも異なるヒップホップのあり方を提示するオルタナティヴなものだった。その若き才能が来る5月、日本で初めての公演をおこなう(この初来日を記念して『Yesterday's Gone』の日本盤もリリース)。本国では数千人規模のキャパでもすぐにソールドアウトしてしまうそうなので、この機会は見逃せない。5月17日、渋谷WWWにてそのパフォーマンスを思う存分堪能しよう。

Hostess Club Presents
Loyle Carner

2018/5/17(木)渋谷WWW
Open 18:30 / Start 19:30
Ticket:¥4,500(税込 / 1 Drink別途)
https://ynos.tv/hostessclub/schedule/20180517.html
主催:イーノス / WWW
制作・招聘:イーノス

※未就学児(6歳未満)のご入場をお断りさせていただきます。
※カメラ・ビデオテープレコーダー・カメラ付携帯電話などによる出演アーティストの撮影、録音は禁止致します。
※会場内・外で発生した事故・盗難について主催者・会場・アーティストは一切責任を負いません。

BBC SOUND OF 2016に選出されたUK期待のラッパー、ロイル・カーナーのデビュー・アルバムが遂に日本盤化!

BBC Sound Of 2016ノミネート! さらに本作は2017 年のマーキュリー・プライズにノミネート、2018 年のBrit Awardで2部(British Break-through Act / British Male Solo Artist)、NMEアワードでは 最優秀ブリティッシュ・ソロ・アーティスト賞を受賞するなどUKではすでにブレイクしているMC、ロイル・カーナーが満を持して日本デビュー!

●キング・クルールとは同級生! アデルやエイミー・ワインハウス、ケイト・ナッシュが卒業した名門BRIT SCHOOLを卒業!
●俳優としてのキャリアを持ち、イヴ・サンローランの男性用香水の広告モデルも務めた。

artist: Loyle Carner (ロイル・カーナー)
title: Yesterday's Gone (イエスタデイズ・ゴーン)
label: Virgin EMI UK / Hostess
format: CD
cat no.: HSU-10186
pos : 4582214517896
発売日: 2018/4/4 (水)
価格: 2,400円+税
※日本盤はボーナストラック、歌詞対訳、ライナーノーツ付(予定)

サウスロンドン出身、アデルやエイミー・ワインハウス、ケイト・ナッシュを輩出した名門BRIT SCHOOL を卒業し、キング・クルールとは同級生でもある。2014 年にデビューEP をリリース、2015 年にはジョーイ・バッドアスのUK ツアーのサポートに抜擢、更
にはグラストンベリー・フェスティバルにも出演を果たすなど早くから話題に。またヒュー•スティーブンスがホストを務めるBBC RADIO 1 の番組でカニエ・ウエストのカバーを披露するなど、メディアからも注目を浴び、BBC SOUND OF 2016 に選出。そして2017年にリリースされた本作にはKwes やTom Misch など若き才能がフィーチャリングで参加。UK初登場14位を記録し、 Independent 誌で2017年度の年間ベスト・アルバム第1位を獲得。The Sunday Time では9 位、NME では12 位と多くの媒体で年間ベスト上位を獲得した。更に2017年度のマーキュリー・プライズにノミネート、2018年のBrit Award で2 部(British Break-through Act / British Male Solo Artist)にノミネートされている。ミニマルなビートにゴスペルやジャズなどをサンプリングしたメロウな楽曲の数々はグライムのジャンルを飛び越え、UK では既にブレイクを果たしている。

Dego / 2000Black - ele-king

 言わずもがな、90年代から今日にいたるまでUKのドラムンベース~ブロークンビーツ・シーンを支えてきた4ヒーローのディーゴが来日ツアーを決行します。近年は自身の主宰する〈2000ブラック〉からのみならず、フォルティDLの〈ブルーベリー〉やフローティング・ポインツの〈エグロ〉からも作品を発表、昨年はセオ・パリッシュの〈サウンド・シグネイチャー〉からカイディ・テイタムとのコラボ『A So We Gwarn』をリリースするなど、その横断的かつ精力的な活動は最近の南ロンドン・ジャズの盛り上がりとも呼応していると言っていいでしょう。今回のツアーでは東京、京都、大阪の3都市を巡回。一部の公演ではマーク・ド・クライヴ=ロウや沖野好洋も出演します。ゴールデンウィークはこれで決まりですね。

◆DEGO / 2000BLACK Japan Tour 2018◆

ロンドンのクラブ/ソウル・ミュージック・シーンを牽引してきた巨匠、DEGOの来日ツアーが決定!
自身が主宰するレーベル、〈2000BLACK〉でブロークンビーツ/ニュージャズの潮流を生み、デトロイトのTHEO PARRISHと共に現代ブラック・ミュージックのグルーヴマスターとして君臨。
昨年はTHEO PARRISHのレーベル、〈Sound Signature〉から盟友KAIDI TATHAMとの共作アルバム『A SO WE GWARN』を発表しスマッシュヒットを記録する。
飽くなきビートの追求とスピリチュアルな音楽へのこだわり、音楽への深い愛情を反映した21世紀のハイブリッド・ソウル・ミュージックを生み出し続ける。

今回の日本ツアーでは、東京のハウス・ミュージックを代表してシーン賑わせている「Eureka!」@Contact、京都のclub Jazzシーンを引率してきているMETROで開催される「Do it JAZZ! 」、そして大阪公演はDEGOの盟友、沖野好洋と共にCIRCUS OSAKA & CATSでプレイする。

◆DEGO / 2000BLACK Japan Tour 2018ツアー日程
【東京】 05.04 (FRI) CONTACT https://www.contacttokyo.com/
【京都】 05.05 (SAT) CLUB METRO https://www.metro.ne.jp
【大阪】 05.11 (FRI) CIRCUS OSAKA https://circus-osaka.com/

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【東京公演】
Eureka!
■日時
2018年5月4日(金)
Open 22:00~
■会場
Contact

■料金
¥3,500 on the door
¥3,000 with flyer
¥2,500 GH S member
¥2,000 under 23
¥1,000 before 11PM

■出演
Studio
Dego (2000Black / Sound Signature)
Mark de Clive-Lowe (CHURCH / Mashibeats) -Live-
Yoshihiro Okino (Kyoto Jazz Massive / Especial Records)
Midori Aoyama
sio

Contact
Kamma & Masalo (Brighter Days)
Endo Nao (CMYK)
hiroshi kinoshita
Ozekix (shaman / Weld)
I-BEAR’ (The Guest House)

Foyer
haraguchic (FreedomSunset)
Souta Raw
Kirioka (CMYK)

Contact
B2F Shintaiso Bldg No.4 , 2-10-12 Dogenzaka, Shibuya-ku, Tokyo 150-0043 Japan
+81(0)3 6427 8107

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【京都公演】
Do it JAZZ! × DEGO / 2000BLACK Japan Tour 2018
■日時
2018年5月5日(土)
22:00 open/satrt
■会場
京都CLUB METRO

■料金
前売¥2,500 ドリンク代別途  当日¥3,000 ドリンク代別途

[前売]
チケットぴあ (Pコード:111-916) 、ローソンチケット (Lコード:55077)、e+ (https://bit.ly/2Dlsxrk)

※前売りメール予約:上記早割チケット期間以降は、前売予約として、ticket@metro.ne.jpで、前売料金にてのご予約を受け付けています。前日までに、公演日、お名前と枚数を明記してメールして下さい。

■出演
DEGO (2000BLACK/4hero,from UK)

LIVE :
T.A.M.M.I & NOAH

DJ:
Masaki Tamura (DoitJAZZ!)
Kazuhiro Inoue (DoitJAZZ!)
SOTA (Back Home / Rokujian)
Torei (SYN-C / SND)
and More!!

■お問合せ:京都 CLUB METRO
WEB:https://www.metro.ne.jp
TEL:075-752-4765

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【大阪公演】
DEGO / 2000BLACK Japan Tour 2018
■日時
2018年5月11日(金)
23:00 open/satrt
■会場
CIRCUS OSAKA & CATS

■料金
Door 2,500+1D Adv 2,000+1D

■出演
DEGO (2000Black | from UK)
YOSHIHIRO OKINO (Kyoto Jazz Massive)
QUETSA
NiSSiE
AKEMI HINO (SiiNE)

Dance Showcase:
NEW UK JAZZ DANCE TEAM
Irven Lewis・Michito “MITTO” Tanabe & Peri
(Elements Jazz Collective & Co )

■お問合せ:CIRCUS OSAKA
TEL : 06-6241-3822
https://www.circus-osaka.com/

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DEGO (2000BLACK, UK)
ロンドンに生まれたDEGOはサウンドシステムや海賊放送でのDJ活動を経て90年に〈Reinforced Records〉の設立に参加、4HEROの一員として実験的なハードコア・ブレイクビーツのリリースを開始。やがて4HEROはDEGOとMARC MACの双頭ユニットとなり、タイムストレッチング等、画期的な手法を編み出し、ドラム&ベースのパイオニアとなる。傑作『PARALLEL UNIVERSE』(94年)、『TWO PAGES』(98年)以降、4HEROはD&Bのフォーマットから脱却し、『CREATING PATTERNS』(01年)、『PLAY WITH THE CHANGES』(07年)で豊潤なクロスオーヴァー・サウンドを打ち出す。DEGOはTEK9名義でダウンテンポを追求する等、オープンマインドかつ実験的な制作活動は多岐に及び、98年に自己のレーベル、〈2000Black〉を始動、ブロークンビーツ/ニュージャズの潮流を生む。KAIDI TATHAMらBUGZ IN THE ATTIC周辺と密に交流し、DKD、SILHOUETTE BROWN、2000BLACK各名義による共作アルバムを制作。11年には1st.ソロ・アルバム『A WHA' HIM DEH PON?』を発表、ジャズ、ファンク、ソウルへの深い愛情を反映した傑作となる。その後も精力的な活動を続け、12年に『TATHAM, MENSAH, LORD & RANKS』を発表。14~15年、盟友KAIDIとの共作をFaltyDLの〈Blueberry〉、FLOATING POINTSの〈Eglo〉、THEO PARRISHの〈Sound Signature〉等から立て続けにリリース。15年にはDEGO名義の2ndアルバム『THE MORE THINGS STAY THE SAME』を〈2000Black〉から発表、21世紀のハイブリッド・ソウル・ミュージックとして喝采を浴びる。そして17年にはかねてから試行錯誤を重ねてきたライヴ活動をDEGO & THE 2000BLACK FAMILYとして本格化し、名門Jazz Cafeでの公演を成功させる。またDEGO & KAIDIのアルバム『A SO WE GWARN』を〈Sound Signature〉から発表、ルーツに深く根差しながらも未来のビートへの飽くなき探求を続け、UKブラック・ミュージックの新しいスタンダードとなる。
https://www.2000black.com/
https://www.facebook.com/2000blackrecords
https://twitter.com/2000black_dego
https://soundcloud.com/2000black

Kamasi Washington - ele-king

 待望の、という言葉がこれほどふさわしいニュースもそうないでしょう。〈ブレインフィーダー〉から放たれた『The Epic』で一躍ときの人となったカマシ・ワシントンが、3年ぶりとなるセカンド・アルバム『Heaven and Earth』を〈ヤング・タークス〉からリリースします。前作も3枚組の大作でしたが、今回も「Heaven」というパートと「Earth」というパートから成る荘厳な作品となっている模様。サンダーキャットロナルド・ブルーナー・ジュニアテラス・マーティンライアン・ポーターなど、仲間たちも勢ぞろい。いまかつてないほどの賑わいを見せているジャズ・シーンですが、そのなかでもこれは聴き逃すことのできない重要な1作となるでしょう。



KAMASI WASHINGTON

新世代ジャズ黄金期の象徴、カマシ・ワシントン
待望の最新アルバム『HEAVEN & EARTH』がリリース決定
新曲2曲のフル音源&短編映像解禁

サンダーキャット、テラス・マーティン、ロナルド・ブルーナー・ジュニア
キャメロン・グレイヴス、ブランドン・コールマン、マイルス・モーズリー
パトリース・クイン、トニー・オースティンら豪華ミュージシャンが参加

私の心が宿る世界は、私の心の中にある――この考えがアルバム『Heaven and Earth』を作るインスピレーションとなった。私たちが経験する現実は、我々の意識が作り上げたものに過ぎないが、そもそも我々の意識は、その経験をもとに現実を作り上げる。私たちは自らの宇宙の創造者であると同時に、自らの宇宙の創造物でもある。本作における『Earth』のパートは、私が“外向き”に見る世界を表現している。つまり私が存在している世界である。『Heaven』のパートは、私が“内向き”に見る世界、つまり私の中に存在している世界を表している。私が何者であるか、そしてどんな選択をしていくのか。その答えは、それら2つの世界の間にある。
- カマシ・ワシントン

新世代ジャズ黄金期の象徴として、特別な存在感を放ち続けるカマシ・ワシントンが、2015年のデビュー作『The Epic』に続く、待望のセカンド・アルバム『Heaven & Earth』を6月22日(金)にリリースすることを発表した。2時間半にも及ぶ本アルバムは『Earth』盤と『Heaven』盤の2枚組で構成されており、本日の発表に合わせて『Earth』盤収録の“Fists of Fury”、そして『Heaven』盤収録の“The Space Travelers Lullaby”の2曲が先行配信され、イギリス人アーティスト/監督のJenn Nkiruによる鮮やかな短編映像がそれぞれ公開されている。

Fists of Fur (from Earth)
https://y-t-r.co/spacetravelerlullaby

The Space Travelers Lullaby (from The Space Travelers Lullaby)
https://y-t-r.co/fistsoffury

『Earth』と『Heaven』の2部構成となっている本作を通じて、カマシは現実世界と宇宙とを衝突させ、その心理に迫る。世界の構造についての自身の考えをさらに探求した本作では、現状の世界的混沌に対する彼の考察と、彼が抱く未来へのヴィジョンが探求されている。

なお今回公開された“Fists of Fury”と“The Space Travelers Lullaby”の短編映像は、今後公開が予定されているという映像企画に着想を得て制作されている。

本作のレコーディングのため、カマシは自身のバンド、ザ・ネクスト・ステップと、新世代ジャズ勃興の出発点と言えるザ・ウェスト・コースト・ゲットダウンをロサンゼルスのヘンソン・スタジオに召集し、『Heaven & Earth』を構成する16曲をレコーディングした。作曲と編曲はカマシが行い、新たなオリジナル楽曲はもちろんのこと、ビーバップのレジェンド、フレディ・ハバードの“Hubtones”、さらに伝説の映画『ドラゴン怒りの鉄拳』のテーマ曲のカヴァーや、バンド・メンバーのライアン・ポーターによる曲も含まれる。

また本作には、サンダーキャット、テラス・マーティン、ロナルド・ブルーナー・ジュニア、キャメロン・グレイヴス、ブランドン・コールマン、マイルス・モーズリー、パトリース・クイン、トニー・オースティンなど豪華な面々を含む多数のミュージシャンが参加している。

カマシ・ワシントン待望のセカンド・アルバム『Heaven & Earth』は、6月22日(金)世界同時リリース! いずれも特殊パッケージ仕様のCDフォーマットと4枚組LPフォーマット、デジタル配信でリリースされる。

なおカマシ・ワシントンは、2018年8月18日(土)にサマーソニックへの出演が決定している。

SUMMER SONIC 2018
https://www.summersonic.com/2018/

label: Young Turks / Beat Records
artist: Kamasi Washington
title: Heaven and Earth
release date: 2018.06.22 FRI ON SALE

商品情報はこちら
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=9597

Tracklisting

Earth
1. Fists of Fury
2. Can You Hear Him
3. Hub -Tones
4. Connections
5. Tiffakonkae
6. The Invincible Youth
7. Testify
8. One of One

Heaven
1. The Space Travelers Lullaby
2. Vi Lua Vi Sol
3. Street Fighter Mas
4. Song For The Fallen
5. Journey
6. The Psalmnist
7. Show Us The Way
8. Will You Sing

The Caretaker - ele-king

 秀逸なアンビエント作品で知られるザ・ケアテイカーの新作『Everywhere at the End of Time - Stage 4』が4月5日、自身のレーベル〈History Always Favours the Winners〉からリリースされた。今作は2016年に始動した6連作の4作目で、2018年にシリーズは完結するとのこと。「ele-king vol.21」における2017年の年間ベストでは、去年発表されたシリーズ前半3作をまとめたコンピレーション『Everywhere at the End of Time Stages 1-3』が選定された。


 この機会にこの作家の経歴をざっと振り返ってみたい。ザ・ケアテイカーとはジェイムズ・リーランド・カービーによる記憶と時間をテーマにしたプロジェクトだ。カービーは多くの名義を持つ作家だ。V/Vm名義ではハードコア・テクノやグリッチ・ノイズの作品を90年代から発表。ザ・ストレンジャー名義では2013年に〈Modern Love〉から傑作『Watching Dead Empires in Decay』をリリースしたことも記憶に新しい。また本人名義でもアンビエント(時にポストクラシックとも呼ばれる)作品を多数発表しており、これらの作品の多くはは自身のレーベル〈History Always Favours the Winners〉からリリースされている。
 カービーはイングランドのマンチェスターから車で20分ほど離れた街ストックポート出身で、現在はポーランドのクラクフに在住。彼の作品のアートワークの多くは、同じくストックポート出身でベルリン在住の画家、イヴァン・シールが手がけている。地元が近いアンディ・ストットやデムダイク・ステアとも交流があり、最近では2006年に録音され2017年にリリースされたV/Vm『Brabant Schrobbelèr』のミックスをデムダイク・ステアのマイルズ・ウィテカーが担当している。
 その作品はアンビエントやノイズのリスナーだけではなく、ダンスミュージックのファンも魅了してきた。海外ではフライング・ロータスをはじめとするミュージシャンたちも彼のファンであることを公言している。

ツイッターでザ・ケアテイカーに言及するフライング・ロータス


 日本における紹介者としては、評論家の阿木譲が積極的にカービーの作品をとりあげており、本人と直接連絡も取り合っているようだ。三田格はV/Vm時代からその活動に注目しており『裏アンビエント・ミュージック 1960-2010』(INFASパブリケーションズ、2010年)でカービーに言及し、ザ・ケアテイカー名義の『Patience (After Sebald)』(2012年)の評がウェブ版「ele-king」には掲載された。(筆者は「ele-king Vol.20」(2017年)のダンス・ミュージック特集で、カービーの『The Death of Rave』(2014年)における「レイヴの死」の表象について思想サイドから考察を行っている。)
 ザ・ケアテイカー名義では1999年に第一作『Selected Memories From The Haunted Ballroom』を発表。「ザ・ケアテイカー(The Caretaker)」とはスティーヴン・キング原作(1977年)でスタンリー・キューブリックが1980年に映画化した『シャイニング』から着想を得ている。この第一作目のタイトルにある「The Haunted Ballroom(取り憑かれた社交パーティ舞踏室)」とは、ジャック・ニコルソン演じる主人公が誰もいないはずのボールルームで、パーティを楽しむ大勢の幽霊(あるいは記憶)たちに遭遇するあの場面を指しており、「ザ・ケアテイカー(管理人)」とはそのシーンで主人公が出会うかつてホテルの管理人(彼も幽霊、あるいは記憶)を務めていた登場人物からとられている。


The Caretaker - Selected Memories from the Haunted Ballroom

 そのサウンドの特徴は、端的に説明すれば、レコードのクラック・ノイズのカーテンの向こうから聴こえてくる過剰なエフェクトが加えられた78回転レコードのサンプリング・ループである。また、このプロジェクトのコンセプトには、ザ・ケアテイカーという存在は認知症を患っているため、過去を正しく思い出すことができない、という設定がある(ちなみにカービー本人は認知症を患ってはいない)。『Everywhere at the End of Time』のシリーズ前半である1−3作は「Awareness」(「Consciousness」と同じく「意識」も指すが同時に「気づき」も含意する)がテーマで、4作目以降は「Post Awareness」、つまり「気づき」が及ばない領域におけるより混沌としたサウンドスケープが展開されていくそうだ(この連作では同様のサンプリング・マテリアルが違ったアレンジで各所に何度も現れてくる。それを認知症の設定と関連づけて「ele-king vol.21」の年間ベスト評で筆者は考察した)。なお、今シリーズを最後に、ザ・ケアテイカーとしてのプロジェクトは終了することをカービーは既に発表している。
 『Everywhere at the End of Time』をテーマにした2017年12月のライヴでは、ザ・ケアテイカーとそのライヴのヴィジュアルを手がけるウィアードコア(Weirdcore。エイフェックス・ツインとのコラボレーションでも知られる)がステージに現れた。ステージ上にはソファーが二つ、コーヒー・テーブルが一つ、マイクスタンドが一つ、コート掛けが一つ、ウィスキーが一瓶。そのどれもがヴィンテージ調である。爆音で音楽が流れ、ステージ上空の大きなプロジェクターに映る映像と大量のスモークがそれを彩る。その一方でふたりは機材を操作する行為は一切行わない。ただソファーに腰掛け、ウィスキーと会話を楽しんだ後、黙って回想に耽り、ザ・ケアテイカーはたまに立ち上がると曲に合わせて歌うふりをするだけ……、という強烈な「パフォーマンス」が披露された。ちなみに過去のライヴで、カービーはバニー・マニロウやブライアン・アダムスをアンコールで熱唱し(ジョークなのだろうが、これがなかなか良い)、V/Vm名義では豚の仮面を被りステージ上を豪快に動き回っていた。
 先日の『Stage 4』のリリースと同時に、2017年に発表された『Take Care, It's A Desert Out There...』も再発された。もともと同作は、ポーランドの音楽フェスティバルであるアンサウンドがロンドンのバービカン・センターでその年の12月に開催したイベントにザ・ケアテイカーがライヴ・アクトとして出演した時に無料配布されたもので(先ほど紹介したライヴはこの時のものだ)、マンチェスターに拠点を置くディストリビューター/ウェブ上の販売店であるブームカットから後ほど発売された。
 同作は今年の2月に日本語訳版が刊行された『資本主義リアリズム』(堀之内出版、2018年)の著者である批評家故マーク・フィッシャーに捧げられている。フィッシャーとカービーの親交は10年以上に及び、ザ・ケアテイカー名義で発表された『Theoretically Pure Anterograde Amnesia』(2005年、CD は2006年。なんと6枚組である)のライナーノーツを担当したのはフィッシャーだ。このライナーノーツの結びの言葉である「気をつけろ、外は砂漠なのだから……」から件の2017年作のタイトルはとられている。その文章と、英誌『Wire』2009年6月号に掲載されたフィッシャーによるカービーへのインタヴューは、彼の著作『Ghosts of My Life: Writings On Depression, Hauntology And Lost Futures』(Zero Books、2014年)に収録。本書において、フィッシャーはカービーをブリアルと並べて考察し、もはや未来が輝いていない現代を描いた作家として大きく評価した。
 フィッシャーは2017年1月に自らその命を絶つ。享年、48歳。晩年はうつ病を患っていた。彼の死に対して、コード9やサイモン・レイノルズをはじめとする多くのミュージシャンや批評家たちが哀悼の意を表してきたが、カービーはこの作品を発表するまで沈黙を通してきた。『Take Care, It's A Desert Out There...』の売り上げはイギリスのメンタル・ヘルス支援団体Mindへ送られるという。本作のCDには、並んで街を歩くフィッシャーとカービーの後ろ姿の写真がプリントされている。
 同様のジャンルで活動する他のミュージシャンたちに比べると、日本におけるザ・ケアテイカーをはじめとするカービーの作品の認知度はあまり高くはないかもしれない。しかしイギリスをはじめとする欧米の電子音楽のリスナーからの支持は大きく、その背景にはその独自なサウンドだけではなく、フィッシャーの文章による力や、その活動の方法なども影響しているのかもしれない。カービーはインディペンデントでの活動に重点を置くプロデューサーだ。基本的に毎回少数しか作られないLP(すぐにソールドアウトになる)とデータでのみ作品はリリースされる(新作のLP盤を手に入れてみたいという方は、彼のフェイスブック・ページで事前に発売日が発表されるのでチェックしてみてください。現時点ではアップル・ミュージックやスポティファイに彼の主要作品はなく、過去作の大半は〈History Always Favours the Winners〉のバンドキャンプのページで入手が可能だ。『Theoretically Pure Anterograde Amnesia』を購入すると、フィッシャーによるライナーノーツのPDFファイルも付いてくる。 
 「残念ながら、未来はもはやかつてのようなものではない」。カービーは2009年の自身名義のアルバム・タイトルでそう述べている。カービーはこの現代をどう見ているのか。ザ・ケアテイカーはなぜ記憶について語るのか。マーク・フィッシャーはどのようにこれらの作品を聴いていたのか……。そんなことを考えながら、認知症を患った記憶の管理人と、それを操るジェイムズ・リーランド・カービーの恐ろしく奇妙で美しいサウンドに耳を傾けてみてはいかがだろうか。

DJ Taye - ele-king

 DJテイがビートを作り、同時にラップをはじめたのは11歳のとき、つまり小学時代のことだった。16歳になると彼は地元のクルー、故DJラシャド、DJスピン、トラックスマン、DJアールらのTeklifeに最年少メンバーとして加入する。

 シカゴのジューク/フットワークが発見されてから、そろそろ10年が経とうとしている。昨年はジェイリンの素晴らしい『ブラック・オリガミ』があって、今年はまずはDJテイの『スティル・トリッピン』というわけだ。DJテイの名は、OPNが3曲も参加したDJアールの『オープン・ユア・アイズ』でもクレジットされているが、わりと早いうちから〈ハイパーダブ〉がEPを出しているので、Teklife期待の若手がいよいよ同レーベルからの初アルバムを発表ということでシーンでは盛り上がっている。

 DJテイは、18歳のときに最初のアルバムを自主で出しているのだが、そのタイトルは『オーヴァードーズ・オン・テックライフ』という、若気の至りに尽きるタイトルを冠している。そして今回は、『スティル・トリッピン』、「まだぶっ飛んでるぜ」というわけだ。
 とはいえ、『スティル・トリッピン』は23歳の若さにまかせてぴょんぴょん跳びはねるというよりは、音楽的にじっくり聴かせる側面を持ち合わせているアルバムだ。ヒップホップ色も強く、ことトラップからの影響も見せてはいる。もちろん、ここ10年で発展したシカゴの革新的なダンスのビートはある。
 しかしたとえばカナダの女性シンガー、オディール・ミルティルをフィーチャーした“Same Sound”における優雅なソウル・テイスト、テンポを落とした“9090”や“Anotha4”におけるドリーミーな叙情、ニュージャージーの女性DJ、UNiiQU3を招いての活気溢れる“Gimme Some Mo”、女性シンガーのファビ・レイナをフィーチャーしたチルアウト・トラックの“I Don't Know”……。
 アルバムには多様性があり、DJペイパルやDJメニーたちに混じって、シカゴのダンスバトルには女性陣もいるんだよと言わんばかりに女性たちも参加し(サンプリングではなく実演として)、早熟なDJテイの音楽的な才能はいろんな意味で光っている。なかでも“Trippin”は最高の出来の曲のひとつ。

 うーん、日本語の「フットワーク」という文字がデザインされたジャンバーも格好いいです。そしてフットワークらしいすばしっこい動きを見せる“Need It”や“I'm Trippin”──。
 「トリップ」という言葉には、もちろん「旅をする」という意味も含まれているわけだが、じっさいにこうしてロンドンの〈ハイパーダブ〉から新作がリリースされているのであり、シカゴのフットワークはいまも世界を旅行中なのだ。シカゴがこの「旅」を止めたことはない。ハウス・ミュージックが生まれたときからずっと、シカゴはいまもなお、アンダーグラウンド・ダンス・ミュージックの王国である。

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