「You me」と一致するもの

Ground - ele-king

 「大阪で生まれた人の名字はみなオオサカなのヨ」とは大坂なおみのジョークだけれど、大阪のDJグラウンドの本名もオオサカなんだろうか(なんて)。Gr◯un土 a.k.a. Ground名義のファースト・アルバム『Sunizm』の1曲めは“Osaka Native”というタイトルが付けられ、なぜか“ソーラン節”がサンプリングされているので、ちょっと混乱もするけれど、べっとりと地を這うようなトライバル・ドラムを軸にズイズイと進んでいく曲調はちょっと癖になる。大阪というよりジャングルをふざけて匍匐前進しているような気分に近い(それとも大阪というのはそういう街なんだろうか?)。続いてシングル・カットされた“Logos”もやはりパーカッションがメインの曲ながら全体に跳ねるというよりは地に足が吸い付くようなノリで、随所に散りばめられている日本のエスニシティよりも、そうしたリズム感の重心の低さだったり、もしかすると摺り足で踊れてしまうようなところが日本を感じさせるアルバムといえる。汎アジア的な曲調の“Follow Me”や、なんとなくインドネシアあたりが思い浮かんでしまう“Lady Plants”も同じくで、なんとかして日本風を装おうとするのではなく、適当にアジアっぽいムードをごちゃ混ぜにしながら、それでいてとっ散らかったような印象を与えることもなく、じわじわと身体感覚に訴えかけてくるところが『Sunizm』はいい。スガイ・ケンや食品まつりもそうだけれど、日本的な記号を導入しながらも、それをクラブ・ミュージックとしてまとめるときに絶妙の距離感をもってミックスしているので、それこそ、去年、紙エレキングでコムアイに取材した際、無理に日本的なことをやろうとしなくても、日本的なものがサウンドに「滲み出ればいいかな」と話していた通り、グラウンドもトヨムも「滲み出させる」スキルが高いのだと思う(シャフィック・チェノフとジョイント・アルバムをリリースしたカツノリ・サワやエナはまるっきりガイジンだけど)。僕の覚えている限り、80年代以降、日本のエスニシティをポップ・ミュージックに融合させようとして、もうひとつポップ・ミュージックとしての完成度を損なってしまった先達たちとはどこかが違う。上々颱風とかね。

 DJ Gr◯un土のキャリアは長く、15年ではきかないみたいだけれど、僕は紙エレ20号でモリ・ラーの記事を書いているときにその存在を初めて知ることになった。和物のエディットで注目を集めたモリ・ラーと御山△Editというユニットを組んでいるということを知り、なんだろうと思ったのが最初。活動の範囲は広いようで、地元・大阪でDJ喫茶、ChillMountainHutteをプロデュースし、4年間営業を続け、どういう経緯なのか、南米のミュージシャンとも交流が深いらしい。デビュー・アルバムとなる『Vodunizm』は自ら主催する〈チル・マウンテン・レック〉から2015年にリリース。アフリカやアジアを溶け合わせたサウンド・スタイルはすでに確立され、これがリンスFMで大きく取り上げられたり、以後は海外活動も増えていったようである。ジェイ・グラス・ダブスやダッピー・ガン・プロダクションズといった眩しいリリースが続くブリストルの〈ボーク・ヴァージョンズ〉からリリースされたカセット『MIZUNOKUNI』では生真面目なアンビエント・ダブを聴かせ、このところのミュジーク・コンクレートやアカデミック・リヴァイヴァルではなく、しっかりとクラブ・ミュージックのサイドに立っていることを印象付ける。これに関しては新しさはないかもしれないけれど、完成度は高い。シーカーズ・インターナショナルとレーベル・メイトというだけで、そこはOKというか。ちなみに〈チル・マウンテン・レック〉からは2013年の時点で新人を中心に和泉希洋志や7FOを加えた全19組による2枚組CD『ChillMountainClassics』もドカンとリリースされている(未聴)。

 『Sunizm』の後半はスピリチュアル度がアップしていく。ベースで包まれていくような感覚が増大し、食品まつりの『EZ Minzoku』とは対照的に、エスニシティを記号として捉えるのではなく、良くも悪くもそのような音を出すことに内面も伴わせたいという欲求が強く働くのだろう。ラジオ・ノイズを使った“Koot Works”ではキューバ音楽のようなものがループされ、いわゆる南洋気分が全開で、スピリチュアルとの距離感とも相まって、どうしても細野晴臣の陰がちらつくものの、細野サウンドとは何かが決定的に違う。同じものを目指したとしてもバックボーンから何かがあまりにも違うということなのだろう。むしろ最後を飾るタイトル曲は(そのように感じる人はあまりいないかもしれないけれど)ボアダムズを完全に脱力させたような響きがあり、なるほど“Osaka Native”ではじまる意味はそこにあるのかもしれない。関西ゼロ年代は続いていたというか。

収穫の秋にジャー・シャカ祭り - ele-king

 UKサウンドシステム文化の生きる伝説、ブラック・アトランティックそのもの、ベース・カルチャーの体現者、生きているうちにいちどは体験したいジャー・シャカが今年もやって来ます。南は奄美大島から北は札幌まで、全国6箇所をツアー。毎度お決まりの科白を繰り返そう。ぜひ、体験して欲しい!!!

■JAH SHAKA Japan Tour 2018

—The Music Message!!!—
 激動する2018年!  今年も日本にJAH SHAKA降臨。年に一度のシャカ祭り開催!
 JAH SHAKAの半世紀に渡る伝道的な活動により、世界各地にサウンドシステム・カルチャーが伝播し、レゲエ/ルーツミュージックの発展に貢献してきた。
 ポジティヴなメッセージとスピリチュアルなダブサウンドの真髄を伝え続けている。
 奇跡の初来日から21年、 シャカのライヴ体験は日本でもジャンルの壁を乗り越えて支持を拡張し続けている。
 今年は東京、福岡、名古屋、大阪に加え、熱烈なアプローチを受け奄美大島に初上陸、そして17年振りとなる札幌プレシャスホールの6都市をツアーする。

【JAH SHAKA Japan Tour 2018】

▼11.16(金)奄美大島@ASIVI
SubVibes 5th Anniversary“JAH SHAKA in AMAMI”
OPEN 20:00 / START 21:00
 adv.3,500 yen (1Drink Order) / door.4,000 yen (1Drink Order)
TICKET
INFO : ASIVI (0997-53-2223)
https://www.a-mp.co.jp/index.html

▼11.18(日)福岡 @Stand-Bop
 RED I SOUND PRESENTS “JAH GUIDANCE IN FUKUOKA”
 OPEN / START 22:00~
 3,000yen +1Drink Order
 
▼11.22(木)札幌@Precious Hall
exrail×JAH SHAKA JAPAN TOUR support MAWASHI RECORD
 OPEN / START 23:00~
Special adv.3,500yen adv.4,000yen w/f 4,500yen door.5,000yen

▼11.23(金)東京@UNIT
JAH SHAKA DUB SOUND SYSTEM SESSIONS
 OPEN / START 23:30~
 adv.3,300yen door 3,800yen
TICKET
PIA (0570-02-9999/P-code: 130-029)、LAWSON (L-code: 70793)、
e+ (UNIT携帯サイトから購入できます)
RA

▼11.24(土)名古屋@JB'S
JAH SHAKA JAPAN TOUR 2018
 OPEN / START 22:00~
 adv.3,800yen
TICKET:https://l-tike.com/

▼11.25(日)大阪@Creative Center OSAKA
JAH SHAKA OPEN TO LAST
 OPEN 15:00 / START 16:00 Close 21:00
 adv.3,000yen door.3500yen *共に別途1ドリンク代金600円必要
TICKET
ローソンチケット : Lコード 56812
チケットぴあ : Pコード 132316
イープラス
PeaTiXチケット

Total Info : JAH-SHAKA-JAPAN

★JAH SHAKA
 ジャマイカに生まれ、8才で両親とUKに移住。'60年代後半、ラスタファリのスピリチュアルとマーチン・ルーサー・キング、アンジェラ・ディヴィス等、米国の公民権運動のコンシャスに影響を受け、サウンド・システムを開始、各地を巡回する。ズールー王、シャカの名を冠し独自のサウンド・システムを創造、'70年代後半にはCOXSON、FATMANと共にUKの3大サウンド・システムとなる。'80年に自己のジャー・シャカ・レーベルを設立以来『COMMANDMENTS OF DUB』シリーズを始め、数多くのダブ/ルーツ・レゲエ作品を発表、超越的なスタジオ・ワークを継続する。
 30年以上の歴史に培われた独自のサウンドシステムは、大音響で胸を直撃する重低音と聴覚を刺激する高音、更にはサイレンやシンドラムを駆使した音の洪水 !! スピリチュアルな儀式とでも呼ぶべきジャー・シャカ・サウンドシステムは生きる伝説となり、あらゆる音楽ファンからワールドワイドに、熱狂的支持を集めている。heavyweight、dubwise、 steppersなシャカ・サウンドのソースはエクスクルーシヴなダブ・プレート。セレクター/DJ/MC等、サウンド・システムが分業化する中、シャカはオールマイティーに、ひたすら孤高を貫いている。まさに"A WAY OF LIFE "!

Jah Shaka 参考映像:
Jah Shaka - Deliverance & Kingdom Dub (Dub Siren Dance Style)
https://www.youtube.com/watch?v=iKJkblJIaVA

Jah Shaka japan LIVE
https://www.youtube.com/watch?v=CEikFjOcklI

Jah Shaka (RBMA Tokyo 2014 Lecture)
https://www.youtube.com/watch?v=3QNWpnwWgc4

【東京公演】
11/23(金・祝日)代官山UNITでの東京公演は、都内でも有数のクオリティを誇るUNITのシステムに加え、Jah-Lightサウンドシステムを導入、オリジナルスピーカーと楽曲を武器に活動するJah-Lightはセレクターとしても参戦!パワーアップしたJah-Light Sound System+UNIT SOUND SYSTEMでジャー・シャカが理想とするフロアーが音に包まれる空間が創造される。
Roots Rock Reggae, Dubwise!
"LET JAH MUSIC PLAY"

King of Dub
JAH SHAKA
DUB SOUND SYSTEM SESSIONS
- An all night session thru the inspiration of H.I.M.HAILE SELASSIE I -

2018.11.23 (FRI) @ UNIT
feat. JAH SHAKA

Selector: Jah-Light

Jah-Light Sound System +UNIT Sound System

JAH SHAKA SHOP by DUBING!!
Food:ぽんいぺあん

open/start: 23:30 adv.3,300yen door 3,800yen
info.03.5459.8630 UNIT
https://www.unit-tokyo.com

ticket outlets:NOW ON SALE
PIA (0570-02-9999/P-code: 130-029)、LAWSON (L-code: 70793)、
e+ (UNIT携帯サイトから購入できます)
RA

渋谷/Coco-isle (3770-1909)
代官山/UNIT (5459-8630)
下北沢/DISC SHOP ZERO (5432-6129)、
新宿/Dub Store Record Mart (3364-5251)、ORANGE STREET (3365-2027)

……………………………………………………………
info.
▼UNIT
info. 03.5459.8630
UNIT >>> www.unit-tokyo.com
Za HOUSE BLD. 1-34-17 EBISU-NISHI, SHIBUYA-KU, TOKYO

※再入場不可/No re-entry
※20歳未満入場不可。要写真付身分証/Must be 20 or over with Photo ID to enter.
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★Jah-Light
2002年、自身のスピーカーシステム構築を決意。
そこから約2年半の製作期間を経て、2004年"Real Roots Sound"をテーマに
"Jah-Light Sound System"をスタート。都内を中心に各地にて活動中。
2007年、自身のレーベル"LIGHTNING STUDIO REC."を立ち上げ、
1st Singleとなる"Independent Steppers (12")"をリリース。
2012年、新レーベル"DUB RECORDS"からリリースされた1st 10"singleでは、
A.Mighty Massa / Warriors March、B.Jah-Light / Diffusion "といった
コンビネーションプレスで純国産ルーツを世界に向けて発信。
2014年7月、10周年を迎えるにあたりサウンドシステムの増築と共に、
ニューシングル"Jah-Light / The Wisdom 12" (JL-02)"をリリース。
2015年、"DUB RECORDS"からの2nd 12"single "Indica Stepper(DR-002)"をリリース。
サウンド活動も14年目に突入し、オリジナルスピーカーと楽曲を武器に
"絶対に現場でしか体感できない空間"を目標にさらなる新境地に向けて進行中!

twitter:@jahlightss
FB:@jahlight.s.s
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▼Total info.
https://www.facebook.com/JAH-SHAKA-JAPAN-116346262420022/


TREKKIE TRAX CREW - ele-king

レーベル6周年イベントに向けた10曲

TREKKIE TRAX 6th Anniversary

2018年10月26日(金)23:00~5:00
Glad & Lounge Neo

【価格】
前売り 3,000円(1D別)/当日 3,500円(1D別)

【出演者】

■Glad
813 (From Russia)
TENG GANG STARR
Amps
Carpainter (Live)
Cola Splash
gu2
iivvyy
Masayoshi Iimori
Ryuki Miyamoto
TREKKIE TRAX CREW

■LOUNGE NEO
Elevation (From USA)
Hojo b2b Persona (From Taiwan)
EGL
has
isagen
HAKA GANG
Native Rapper
Maru feat. Onjuicy
Miyabi

■Lounge: TREKKIE TRAX : Branch
Allen Mock
FIREMJ.
fuishoo
Herbalistek
kai shibata
niafrasco
Oyubi
UTAKICHI
Zepto

VJ : mika / Rio / hyahho
Photo : Toshimura
Food : 新宿ドゥースラー

【プロフィール】
TREKKIE TRAX CREW

TREKKIE TRAXは2012年に日本の若手DJが中心となり発足したインディーレーベルである。
これまでのテンプレートに囚われない様々な音楽を世界に向けて発信することを指針とし、全国各地で活動しているトラックメーカーとともに楽曲リリースを行っている。

レーベル発足よりこれまで50作品を超えるリリースをリリースし、その楽曲のクォリティの高さは日本だけでなく、世界中から賞賛を受けている。
これまでSkrillex, Diplo, Major Lazer, Porter Robinson, Mija, RL Grime, Djemba Djemba, Carnage, Wave Racerなど名だたるDJ達からサポートを受けており、2015年に開催されたULTRA JAPAN 2015ではメインフロアにて多くの楽曲がプレイされるだけでなく、レーベルから2名のアーティストが出演した。

またレーベルの総決算としてリリースされた「TREKKIE TRAX THE BEST 2012-2015 (CD)」が世界最大の音楽メディア「Pitchfork」へレビュー掲載されスコア【7.2】を獲得するほか、Skrillexが主宰する「NEST HQ」での特集記事やMini Mixのリリース、LuckyMe Recordsがホストを務めるRinse.fmのプログラムでのレーベルが特集ほか、「BBC Radio 1Xtra」や「Triple J Mix Up」でも楽曲がプレイされるなど各国のメディアに大きく取り上げている。

2016年にはレーベルのコアアーティストと共に3都市6公演のアメリカツアーを成功させるほか、Porter Robinson & Madeon - Shelter Live Tourのアフターパーティーにも出演を果たした。
他にもアメリカ・テキサス州で開催された「South by Southwest 2016」への出演やPC Music、Lido、DJ Paypal、Muchinedrum、Addison Groove、DJ Sliinkなどその他多くのアクトの海外公演のサポートを務めるほか、アメリカ・中国・韓国などでもツアーを行い多くの世界中のファンを熱狂させている。

日本国内ではm-floのTaku Takahashiが局長を務める日本最大のクラブミュージックインターネットラジオ「Block.fm」にてクルーのandrew, Carpianter, Seimeiによる「Rewind!!!」のホストを務める。
またHyperdub Label Showcaseへの出演を筆頭とする来日アクトのサポートや、Nina Las Vegas、Lucky Me Records所属のJoseph MarinettiやDeon Customのアジアツアーの主催、自身のレーベルの全国ツアーなど積極的に自主企画を行うほか、アパレルブランド「THE TEST」のコラボなどその精力的な活躍は今後の日本のユースシーンを牽引する今最も注目すべきレーベル、DJ集団と言える。

https://soundcloud.com/trekkie-trax
https://twitter.com/trekkietrax
https://www.trekkie-trax.com/

King Coya - ele-king

 やはりマーラの存在は大きかったのだろう。サウンドそれ自体のおもしろさや強度はもちろんだけれど、彼の功績はディプロや M.I.A. 以後、ベース・ミュージックの新しい聴き方を用意したことにもある。以前からあった世界各地の民族音楽を、それそのものとは異なる角度から、つまりはダブステップ以降のベース・ミュージックの文脈において消化するという体験。それは受容法の更新でもあるがゆえに、「似たようなことはすでに誰それが十年前からやっていた」というテンプレートは著しくその効果を減退させることになる。

 ブエノスアイレスのレーベル〈ZZK〉は、近年はニコラ・クルースの活躍でその名を耳にすることが多いが、もともとはコンピレイション『ZZK Sound Vol.1』(2008年)でディジタル・クンビアを世に知らしめたレーベルである。コロンビアにルーツを有するクンビアがアルゼンチンでクラブ・ミュージックへ昇華されるというそもそもの経緯からして興味深いわけだけれど、そのシーンを牽引してきた同レーベルが設立10周年を迎えるこの年に、当時の活気を思い出させるようなアルバムを送り出してきた。

 キング・コジャことガビー・ケルペルは、本名名義で2001年に発表したフォルクローレのアルバム『Carnabailito』が〈Nonsuch〉によってライセンスされたことで注目を集めた、ブエノスアイレスのプロデューサーである。そのケルペルがフロアを志向し、大胆にエレクトロニクスを導入したプロジェクトがキング・コジャで、上述の『ZZK Sound Vol.1』への楽曲提供を経て、翌2009年にはフル・アルバム『Cumbias de Villa Donde』を発表している。IDMやアンビエント的な発想も導入するなど、ディジタル・クンビアに留まらないその多様な表現は、トレモールらとともにアルゼンチン音楽の新世代として脚光を浴びたわけだが、その後トム・トム・クラブやアマドゥ&ミリアムなどのいくつかのリミックス・ワーク、あるいはバルヴィーナ・ラモスとの共作を除けば、リリースは長いこと途絶えていた。そんな彼が9年ぶりに発表したソロ・アルバムが本作『Tierra de King Coya』だ。

 結論から述べると、フォルクローレとベース・ミュージックとの融合がこのアルバムの肝になっていて、そういうと以前とさほど変わりないように思われるかもしれないけれど、たとえば冒頭“Te digo Wayno”の中盤で乱入してくるベースに体現されているように、低音の鳴らし方がマーラ以降を感じさせる作りになっている。ほかにも、クドゥーロを独自に咀嚼しながらダークな雰囲気を演出する3曲目“Algo”(ラップを務めるのはケルペルの妻であり、〈ZZK〉からのリリースもある歌手のラ・ジェグロス)のように、前作とはまた異なる形でおもしろい試みが多くなされている。どことなく M.I.A. を想起させるヴォーカルが印象的な6曲目“Pa que yo te Cure”も、ナスティさを携えながらまったくといっていいほど下品さは感じさせず、ケルペルのさじ加減のうまさを堪能することができるし、最終曲“Icaro Llama Planta”でリズムと上モノが醸し出す不思議なムードは、リスナーを酩酊の境地へと誘うこと請け合いである。

 随所で顔を覗かせる笛のためだろう、アルバム全体としては前作以上にフォルクローレ色が強まっている感があるものの、それに負けじと低音のほうもぶんぶん度合いを増していて、この10年のあいだにダブステップ以降のベースが世界各地へ浸透したことを改めて教えてくれる。やっぱりジャイルス・ピーターソンの先見性はずば抜けていたというか、かつて彼がキング・コジャのファースト収録曲をモー・カラーズとサブトラクトのあいだに挟んで繋いでみせたのは、ある種の予言だったのかもしれない。とまれ、ブエノスアイレスのヴェテランによるこのカムバック作は、いわゆるグローバル・ベース~グローバル・ビーツの成熟を知るのにうってつけの1枚と言えるだろう。

Bliss Signal - ele-king

 今、音楽の先端はどこにあるのか。むろん、その問いには明確な答えはない。さまざまな聴き手の、それぞれの聴き方よって、「先端」の意味合いは異なるものだろうし、そもそも音楽じたいも現代では多様化を極めており、ひとつふたつの価値観ですべてを語ることができる時代でもない。
 だが、少なくともこれは「新しいのでは」と思えるという音楽形式がごく稀に同時代に存在する(こともある)。たしかに、その場合の「新しさ」とは、「歴史の終わり」以降特有の形式の組み合わせかもしれないし、音響の新奇性かもしれないが、ともあれ今というこの情報過多の時代において音楽を聴くことで得られる「新鮮な感覚」を多少なりとも感じられるのであれば、それは僥倖であり、得難い経験ではないかとも思う。
 聴覚と感覚が拡張したかのようなエクスペリエンスとの遭遇。例えば90年代から00年代初頭であれば、池田亮司、アルヴァ・ノト、フェネス、ピタなどの電子音響のグリッチ・ノイズから得た聴覚拡張感覚を思い出してしまうし、10年代であれば、アンディ・ストットやデムダイク・ステアによるインダストリアル/テクノのダークさに浸ってしまうかもしれないし、近年では今や大人気のワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの新作や音楽マニア騒然のイヴ・トゥモアの新作が、われわれの未知の知覚を刺激してくれもした。
 ここで問い直そう。ではワンオートリックス・ポイント・ネヴァーらの新譜においては何が「新しい」のか。私見を一言で言わせて頂ければ、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーもイヴ・トゥモアもノイズと音楽の融解と融合がそれぞれの方法で実践されている点が「新しい」のだ。ノイズによって音楽(の遺伝子?)を蘇生し、再生成すること。彼らのノイズは、旧来的な破壊のノイズではなく、変貌の音楽/ノイズなのである。そう、今現在、音楽とノイズは相反する存在ではない。
 その意味で、2018年においてインダストリアル/テクノとメタルが交錯することも必然であった。むろん過去にも似たような音楽はあったが、重要なことはインダストリアル/テクノ、ダブステップ、グライムの継承・発展として、「インダストリアル・ブラック・メタル」が浮上・表出してきたという点が重要なのである。ジャンルとシーンがある必然性をもって結びつくこと。それはとてもスリリングだ。

 ここでアイルランドのブラック・メタル・バンド、アルター・オブ・プレイグスのリーダーのジェイムス・ケリーと、UKインスト・グライムのプロデューサーのマムダンスによるインダストリアル・ブラック・メタル・ユニットのブリス・シグナルのファースト・アルバム『Bliss Signal』を召喚してみたい。彼らのサウンドもまた音楽の「先端」を象徴する1作ではなかろうか。いや、そもそも「Drift EP」をリリースした時点で凄かったのが、本アルバムはその「衝撃」を律儀に継承している作品といえよう。
 アルバムは、闇夜の光のような硬質なアンビエント・ドローンである“Slow Scan”、“N16 Drift”、“Endless Rush”、“Ambi Drift”と激烈なインダストリアル・メタル・サウンドの“Bliss Signal”、“Surge”、“Floodlight”、“Tranq”が交互に収録される構成になっており、非常にドラマチックな作品となっている。ちなみにリリースはエクストリーム・メタル専門レーベルの〈Profound Lore Records〉というのも納得である。なぜなら同レーベルはプルリエントの『Rainbow Mirror』をリリースしているのだから。
 メタル・トラックもアンビエント・トラックもともに、ジェイムス・ケリーの WIFE を思わせるエレクトロニックなトラックに、マムダンスの緻密かつ大胆な電子音がそこかしこに展開されるなど、ブラック・メタリズムとウェイトレスなポスト・グライムが融合した音楽/音響に仕上がっており、なかなか新鮮である。もしもこのアルバムが2016年に世に出ていたらポスト・エンプティ・セットとして電子音楽の歴史はまた変わっていたかもしれないが、むろん「今」の時代にしか出てこない音でもあることに違いはない。

 ロゴスとの『FFS/BMT』などでも聴くことができた脱臼と律動を同時に感じさせる無重力なビートを組み上げたマムダンスが、すべての音が高速に融解するような激しいメタル・ビートの連打へと行き着いたことは実に象徴的な事態に思えるのだ。これは00年代後半にクリック&グリッチな電子音響が、ドローン/アンビエントへと溶け合うように変化した状況に似ている。そう、複雑なビートはいずれ融解する。ただその「融解のさま」が00年代のように「静謐さ」の方には向かわず、激しくも激烈なノイズの方に向かいつつある点が異なっている。エモ/エクストリームの時代なのである。
 いずれにせよブリス・シグナルのサウンドを聴くことは、この種のエレクトロニックな音楽の現在地点を考える上で重要に違いない。彼らの横に Goth-Trad、Diesuck、Masayuki Imanishi による Eartaker のファースト・アルバム『Harmonics』などを並べてみても良いだろうし、DJ NOBU がキュレーションした ENDON の新作アルバム『BOY MEETS GIRL』と同時に聴いてみても良いだろう。
 今、この時代、電子音楽たちは、メタリックなノイズを希求し、ハードコアな冷たい/激しい衝動を欲しているのではないか。繰り返そう。ノイズと音楽は相反するものではなくなった。そうではなく、音楽との境界線を融解するために、ただそれらは「ある」のだ。それはこの不透明な世界に蔓延する傲慢な曖昧さを許さない激烈な闘争宣言でもあり、咆哮でもある。「今」、この現在を貫く音=強靭・強烈なノイズ/音楽の蠢きここにある。

Drexciya - ele-king

 再評価がとまらない。なぜドレクシアはかくも海の向こうで称賛され続け、幾度も蘇生を繰り返すのだろう? 昨年から故ジェイムス・スティンソンのリイシューや未発表音源の発掘が相次ぎ(ジ・アザー・ピープル・プレイスジャック・ピープルズなど)、ジェラルド・ドナルドも活発にリリースを重ねている(ドップラーエフェクトXORゲイトなど)。あるいは、スティーヴン・ジュリアンやアフロドイチェらの新譜には如実にドレクシアからの影響が表れ出ている。
 そのような流れを踏まえてのことだろう、去る10月16日、ロンドンの音楽メディア Resident Advisor がドレクシアにかんするヴィデオ・エッセイを公開した。
 これがまた非常に良く練られたドキュメンタリーで、ドナルドをはじめ、DJスティングレイジェフ・ミルズらが音声で登場、それどころかスティンソン本人の肉声まで登場するから驚きだ(出典は、彼が他界する直前の2001年12月2002年5月に収録されたインタヴュー)。
 90年代の最重要盤といっても過言ではない『The Quest』、そのブックレットに記された決定的な神話、サン・ラーやリー・ペリー、ジョージ・クリントンなどのアフロフューチャリズム、YMOやクラフトワークの電子音楽、イジプシャン・ラヴァーのエレクトロなどについても説明されており、コドゥウォ・エシュンにも触れるなど最後までぬかりはない。船から女性が投げ捨てられるシーン、あるいは海中遊泳や惑星の映像など、視覚面でもとても丁寧に作り込まれている。素晴らしいドキュメンタリーです。

※ドレクシアについては紙エレ22号のアフロフューチャリズム特集でもとり上げていますので、ぜひそちらもご参照ください。

Time Grove - ele-king

 ジャズがすごいのはUKだけではありません。いまイスラエルでも独自のシーンが大きな盛り上がりをみせています。
 アヴィシャイ・コーエンとともに〈Blue Note〉からもリリースのあるピアニスト、ニタイ・ハーシュコヴィッツ。そして、フリー・ザ・ロボッツなどLAシーンとも接点を有し、この夏〈Stones Throw〉からアルバムを発表したばかりのリジョイサー。
 これまでも両者はコラボを重ね、ともにテルアビブの名門レーベル〈Raw Tapes〉から作品を発表してきた仲でもありますが、そんな彼らを中心に結成された新たなグループ、タイム・グルーヴのデビュー・アルバムが10月24日に発売されます。CDが出るのはなんと日本のみ。卓越したプレイヤーとプロデューサーたちによって紡ぎだされる極上の音楽をご堪能あれ。

イスラエルのジャズ&クラブシーンを代表するミュージシャンが集結!!
ジャンルを超越した最高のグルーヴを聴かせる、Time Groveのデビュー作が完成!!

日本企画限定CD(輸入盤CDは、ございません。)

ジャズ・ピアニストのニタイ・ハーシュコヴィッツと、バターリング・トリオのリジョイサーを中心に結成されたプロジェクト、タイム・グルーヴの全貌が遂にこのアルバムで明らかになる。イスラエルから登場した、いま最も注目すべき才能溢れるミュージシャンとプロデューサーたちが作り上げた音楽。真に自由度の高い、開かれた音楽とはまさにこのこと。(原雅明 rings プロデューサー)

Time Grove :
Amir Bresler – Drums,
Sefi Zisling – Trumpet,
Eyal Talmudi – Saxophone, Clarinet,
Rejoicer – Keyboards,
Nitai Hershkovits – Piano, Keyboard,
Yonatan Albalak – Guitar, Bass

アーティスト:TIME GROVE (タイム・グルーヴ)
タイトル:More Than One Thing (モア・ザン・ワン・シング)
発売日:2018/10/24
FORMAT:CD
BARCODE:4988044042285
規格No.:RINC44
LABEL:rings
税抜販売価格:2,130円
税込販売価格:2,300円

Tracklist :
01. TG THEME
02. SECOND ATTENTION
03. JUNGLE BOURJOIS
04. INDOPIA
05. PIANO BUBBLES
06. SIR BLUNT
07. TALEK
08. NEZAH
09. A_L_P
10. ROY THE KING
11. LATRUN

Amazon / Tower / HMV / disk union

Gottz - ele-king

 とどまるところを知らない KANDYTOWN からまた新たな一報です。同クルー内でもひときわ強烈なインパクトを放つMCの Gottz が、本日ソロ・デビュー・アルバムをリリースしました。MUD をフィーチャーした“+81”のMVも昨日公開済み。いやもうとにかく一度聴いてみてください。フックがあまりにも印象的で頭から離れなくなります。Neetz、Ryugo Ishida(ゆるふわギャング)、Yo-Sea、Hideyoshi(Tokyo Young Vision)らが参加した『SOUTHPARK』、これは要チェックです。

KANDYTOWNのラッパー、Gottz の MUD をフィーチャーした“+81”のMVが公開!
その MUD や Neetz、Ryugo Ishida(ゆるふわギャング)、Yo-Sea、Hideyoshi(Tokyo Young
Vision)らが参加した待望のソロ・デビュー・アルバム『SOUTHPARK』がいよいよ本日リリース!

 KEIJU as YOUNG JUJUやDIAN、MIKI、DJ WEELOWらとともに結成したグループ、YaBasta として活動し、IO や Ryohu らを擁するグループ、BANKROLL と合流して KANDYTOWN を結成。16年リリースのメジャー・デビュー・アルバム『KANDYTOWN』でも“The Man Who Knew Too Much”や“Ain't No Holding Back”、“Feelz”といったライブでも定番な楽曲で猛々しいラップを披露して注目を集め、グループとしての最新曲“Few Colors”でもラップを担当。また IO や YOUNG JUJU、DONY JOINT、MUD といったメンバーのソロ作品にも立て続けに参加し、大きなインパクトを残してきたラッパー、Gottz(ゴッツ)! KANDYTOWN 内でも一際目立つアイコン的な存在でもあり、ラッパーとしてだけでなくモデルとしても活躍し、BlackEyePatch のコレクションやパーティに出演したことも話題に!
 その幅広い活動からソロ・リリースの待たれていた Gottz の正に待望と言えるソロ・デビュー・アルバム、その名も『SOUTHPARK』から KANDYTOWN の仲間でもある MUD が参加し、自己名義アルバムのリリースも話題な KM がプロデュースした先行曲“+81”のミュージック・ビデオが公開! Reebok CLASSICがサポートしており、BAD HOP や YDIZZY、Weny Dacillo らの映像作品にも関与してきた KEN HARAKI が監督を担当している。
 そしてその MUD や Ryugo Ishida(ゆるふわギャング)、Yo-Sea、Hideyoshi(Tokyo Young Vision)が客演として、KANDYTOWN の Neetz や FEBB as YOUNG MASON、Lil’Yukichi、KM がプロデューサーとして参加した『SOUTHPARK』がいよいよ本日リリース!

Gottz "+81" feat. MUD (Official Video)
https://youtu.be/Y15eBPsYL5g


[アルバム情報]
アーティスト: Gottz (ゴッツ)
タイトル: SOUTHPARK (サウスパーク)
レーベル: P-VINE / KANDYTOWN LIFE
品番: PCD-27039
発売日: 2018年10月17日(水)
税抜販売価格: 2,700円
https://smarturl.it/gottz-southpark

[トラックリスト]
1. +81 feat. MUD
Prod by KM
2. Makka Na Mekkara
Prod by Lil’Yukichi
3. Don't Talk
Prod by Lil’Yukichi
4. Count It Up (PC2)
Prod by Lil’Yukichi
5. Kamuy
Prod by KM
6. Move! feat. Hideyoshi
Prod by KM
7. Summertime Freestyle
Prod by YOUNG MASON
8. Raindrop
Prod by KM
9. The Lights feat. Ryugo Ishida, MUD
Prod by Neetz
10. Neon Step - Gottz, Yo-Sea & Neetz
Prod by Neetz
Guitar : hanna
* all songs mixed by RYUSEI

[Gottz プロフィール]
同世代の KEIJU as YOUNG JUJU や DIAN、MIKI、DJ WEELOW らとともに結成したグループ、YaBasta のメンバーとして本格的に活動を開始し、IO や Ryohu らを擁するグループ、BANKROLL と合流して KANDYTOWN を結成。15年にソロ作『Hell's Kitchen』をフリーダウンロードで発表し、16年にはKANDYTOWNとして〈ワーナー・ミュージック〉よりメジャー・デビュー・アルバム『KANDYTOWN』をリリース。

MR TWIN SISTER - ele-king

 ツイン・シスターが、「ミスター」を冠して、ミスター・ツイン・シスターと改名してから2枚目、改名前を入れると3枚目となるアルバムをリリースする。つまり、ドリーム・ポップのエースが帰ってきた!
 しかしヒプノゴナジック・ポップ、ドリーム・ポップ、チルウェイヴ、すなわち現実逃避ポップという巨大な流れは終わることをしらない(あったり前だよね。もうほんと、逃避したい)。ミスター・ツイン・シスターはそのジャンルにおけるいわば玄人好みめいたポジションにいるわけだが、新作は、ジャジー・ヴァイブにクラブ・ミュージック的アプローチも大幅に取り入れ、かなりの洗練化が果たされている。うん、これ、かなり良いんじゃないだろうか。パソコン音楽クラブが好きな人たちも好きになりそう。

MR TWIN SISTER
Salt
PLANCHA
※ボーナス・トラック4曲収録
※解説・歌詞・対訳: 清水祐也(Monchicon!)
2018.11.09 (CD) | 2018.10.25 (Digital)
https://www.artuniongroup.co.jp/plancha/top/releases/artpl-107/

Mr Twin Sister - Jaipur

Mr Twin Sister - Tops and Bottoms

はてなフランセ - ele-king

 みなさんボンジュール。
 今日は昨今フランスの音楽業界で話題をさらっている兄妹をご紹介したく。
 日本の芸能界でも芸能一家は多いが、フランスでも芸能一家は結構いる。筆頭はジェーン・バーキンとその子供たちだろうか。セルジュ・ゲンズブールとの娘シャルロット・ゲンズブール、映画監督ジャック・ドワイヨンとの娘ルー・ドワインヨン。フランスのプレスリーと言われたジョニー・アリデイとその子供たちもこちらでは大メジャー。歌手シルヴィ・ヴァルタンとの息子で、父の路線を継ごうと頑張る(が大変微妙な)歌手ダヴィッド・アリデイ、実力派女優ナタリー・バイとの娘で女優のローラ・スメット。日本でもそれなりに地名度のある俳優ヴァンサン・カッセルの父は、フランスでは有名な俳優だったジャン=ピエール・カッセルで、妹はホリシーズという名義で歌手をやっている。階級&コネ社会のフランスでは、親のコネ&階級が物を言う。両親が業界人であれば、親に連れられて撮影現場やステージなどにも親しんでいる。それに名付け親が業界の大物だったりすることも多い。そのような環境に育った子供たちには、千載一隅のチャンスを頼りにオーディションを受けたりするより業界に入るチャンスも回って来やすいというもの。本日の主役のふたり、兄でラッパーのロメオ・エルヴィスと妹で歌手のアンジェルも芸能一家出身だ。一家はベルギー人なので厳密にはフランスの芸能一家ではないし、それほど有名でもないが、父がミュージシャン、母が女優の家庭だそう。それほど有名ではないとはいえ、フレンチ・ラップの伝説MCソラーは父の仕事仲間で、家族ぐるみの友人でもあるらしいので、立派な業界人と言えよう。
 では兄のロメオ・エルヴィス(25歳)のことをまず。このコラムでもフレンチ・ラップのことを度々取り上げているが、フランスではここ数年ラップがシーンの最重要ジャンルとなっている。そしてなかにはフランス語圏のベルギー勢も多い。そのなかでも思春期の子供から大人やインテリにも評価を得ているひとりがロメオ・エルヴィスだ。大人は眉をしかめるバカ&マッチョ&下品路線のコドモ向けラッパーたちとは違い、ウィード系でひねったユーモアに満ちたロメオ・エルヴィスの世界観は、評論家にも受けがいい。

Roméo Elvis x Le Motel - Nappeux ft. Grems

 このかっこいいんだか悪いんだかわからないMCネームは実は本名だ。ロメオはファースト・ネームでエルヴィスはミドルネーム。業界人か音楽好きの田舎者が付けそうなキラキラネームだ。そこそこ男前だが、それよりもダルダルな雰囲気と自虐ネタの方が目につく。ロメオ要素もエルヴィス要素もあまりないロメオ・エルヴィスは、本名であるそのMCネームとのギャップがインパクトを与えている。とはいえ、フランスではitモデルになりつつあるガール・フレンド、レナ・シモンとのイチャイチャをインスタグラムで披露しまくるあたりはロメオ感が出ているかもしれないが。この色男がラップを始めたきっかけは、美大の学生時代に友達のLe Motelにビートを作ってもらったところから。2013年には初のEPをリリース。ベルギーでは、同じブリュッセルのバンド、l’Or du Commun(ロール・デュ・コマン)にフィーチャーされたりして少しずつ注目を集め始めたが、2016年までラップ1本で食べていくことはできなかった。スーパー・カルフールのレジ係のバイトを辞めたのは2016年になってから。ここフランスでは2017年リリースの「Moral 2」あたりから注目され始めた。2017年は小さなものから大きなものまでフェスを制覇し、今年の11月に行われるパリの殿堂オランピア劇場でのライヴはすでにソールド・アウトだ。
 対する妹のアンジェル(22歳)は、音楽学校でジャズ・ピアノを習った後、パパのバンドに参加したり、ブリュッセルのカフェでライヴを行ったりして音楽の道へ。お兄ちゃんの曲に参加するなどしてバズった後、2017年10月に発表した最初のオリジナル曲「La Loi de Murphy(マーフィーの法則)」が、youtubeでいきなり100万ビュー超え(現在は1200万ビュー超え)を獲得した。

 徹底的についてない1日を、キュートでポップで間抜けに歌う。この肩の力の抜け具合と自虐ネタは兄妹ふたりの共通要素だ。「道を聞いて来たから親切に教えてあげたら、ヘタクソなナンパだった。バカのせいでトラム(路面電車)に乗り遅れた。ばあちゃんに銀行の順番譲ってあげたらクッソ時間かかるし。セキュリティドアに押し込んで閉じ込めりゃよかった」と絶妙なあるあるネタに、適度な毒舌が織り込まれている。金髪のかわい子ちゃんと毒舌と自虐。黄金のトライアングルである。続くシングル「La Thune(カネ)」では「みんなカネのことばっか考えてる。カネにしか勃たない。インスタに写真載せなきゃ。じゃなきゃなんで撮んの? でもそれってなんのため? 結局独りぼっちなくせに。人がどう思ってるかばっかり気にして」とSNSに振り回される虚しさをディスった後に「でもほんとはあたしもそのひとり」と自分を落とすことも忘れていない。こちらも現在600万ビュー超え。この2曲の大ヒットでアンジェルは2018年の夏フェスを制覇した。妹はお兄より歩みが早い。そのロメオ兄ちゃんとのデュオをドロップしてすぐ、つい先日待望のファースト・アルバムをリリースした。

Angèle feat. Roméo Elvis - Tout Oublier

 おそらく子供の頃から絶対美形だったはずなのに、前歯の抜けたブサイクな幼少期写真をジャケットにしたセンスはさすがだ。
 フレンチ・ポップ、シャンソンにはいくつかのパターンがある。例えばエディット・ピアフ・タイプ。歌唱力高く情念たっぷりに愛の歌を歌う。スタイルはアップデートされているが2018年現在もこれは健在。次にジェーン・バーキン型。センスあるプロデューサーが作り上げた、歌はへたっぴだが雰囲気は抜群のパリジェンヌ。そして日本でも80年代に少し名前の売れたリオのパターン。奇抜で突拍子も無いエキセントリックなポップがこのタイプ。自らのアートを突き詰めて誰も追いつけないところまでいく、アヴァンギャルドの女王、ブリジット・フォンテーヌもいる。もちろんそれらの型に必ずしも当てはまらないけれど、王道フレンチ・ポップ感を漂わせるアーティストもいる。だがアンジェルは、フレンチ・ポップの王道からあえてズレてDIY感を前面に出すことで、いまっぽさを強く印象付けたのだ。それこそが、彼女を2018年フレンチ・ポップ界のど真ん中にライジングスターとし押し出した要因だ。このパリジェンヌ幻想を一切寄せ付けない新世代フレンチ・ポップや、ダルダルでスモーキーなフランス語ラップが、日本で受ける日が果たして来るのだろうか。そんなことになったら、個人的にはとっても面白いと思うのだが。

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