「You me」と一致するもの

Gay Disco/House - ele-king

 ハウス、ハウス、ハウス……。これだけイーヴン・キックが鳴らされる時代なら、ゲイ・カルチャー界隈が盛り上がるに決まっているのです。というわけで、アンドロジニックなダンス・トラックをいくつか紹介。

Annie feat. Bjarne Melgaard / Russian Kiss



 コラムでも書いたけれども、それはまさにいま、たったいま起こっているのだ。僕はアメリカ大統領選があった2012年ごろがピークだろうなーと思っていたけれど、先日のソチ五輪をきっかけにして、おもに欧米のLGBT活動家がロシアのアンチゲイ法(「伝統的ではない関係性」を促進するのを禁じるとする法律で、「ホモセクシャリティの助長」が罰せられる)に対抗して、ゲイ・ライツを高らかに訴えている。たぶん、LGBTの歴史上でも最大の波が来ていると言っても過言ではないと思う。
 ノルウェーのエレポップ・アイコン、アニーはホモセクシュアル・アートも手がけてきた現代アート畑のビャーネ・メルガードを呼んで、なかなかラディカルなヴィデオとともにシンセ・ポップとしてプロテスト・ソングをドロップ。「ロシアのキスのために拳を振れ」。けれどもハーヴェイ・ミルクの70年代サンフランシスコの政治活動がそうだったように、この闘いには愛が溢れていて、それはゲイだけではなくあらゆるはみ出し者に捧げられている。「Show your love for the lovers, the others, the fighters, outsiders, people like you」。そう、あなたのようなひとたちのために。ポップでセクシーで、そして決意に満ちたダンス。

Pet Shop Boys feat. Panti Bliss / The Best Gay Possible - Oppressive Dance
Mix



 ペット・ショップ・ボーイズがここまでダイレクトに政治的な振る舞いをするのは珍しいのではないか? しかも、楽曲の上で、だ。アイルランドのドラァグ・クィーンのパンティ・ブリスによるホモフォビアについてのスピーチ(こちら、日本語字幕あり)にハウス・ビートをつけたトラックで、どこか切なげでフワフワしたヴォーカルはなるほどPSB。パンティ・ブリスの発言も非常にわかりやすくていいけれども、その上でどうしてもダンスせねばならないところにゲイ・カルチャーの底力を覚える。というか、PSBがそれを堂々と背負う日がついに来たのかと思うと感慨深い。

Hercules & Love Affair / Do You Feel the Same?



 そして真打登場。さあ、四半世紀前の薄暗いダンスフロアにタイムスリップしよう。そこにはセックスとドラッグの匂いが充満している。この先行シングルでは、得意のディスコのグルーヴで耳元に囁く……「あなたもそう思うでしょ?」
 もちろんだとも!! 新たなゲイ・アイコンの座へと登りつめたジョン・グラントも参加するアルバムは5月。すべての機運が熟している。

Friendly Fires & The Asphodells - ele-king

 夢見るロック・バンド、フレンドリー・ファイアーズ、そしてUKテクノ番長所属のジ・アスフォデルス(アンドリュー・ウェザオール+ティモシー・J・フェアプレイ)の共作が出ます。3月31日、フレンドリー・ファイアーズの自主レーベル〈Telophase〉からそのシングル「Before Your Eyes/Velo」が限定リリースされます!
 レコーディングはウェザオールのショーディッチにあるスタジオとフレンドリー・ファイアーズのフロントマン、エドのファリンドンのスタジオでおこなわれ……、そしてミキシングにはコニー・プランク(クラウトロックの父)がかつて所有したデスクを使用するという懲りよう。
 インディ・ロックとDJカルチャーの溝を埋めるというのは、エレキングのテーマでもあるので、実に興味深く、嬉しいニュースです。
 なお、フレンドリー・ファイアーズは2011年のセカンド・アルバム『パラ』に続くニュー・アルバムを現在制作中だそうです。


「Before Your Eyes」試聴:

Marii (S/LTD) - ele-king

女3人でパーティ「S」をオーガナイズしています。
次回は3/29(sat)、ゲストにKABUTO(CABARET/LAIR)を迎えて開催します!

DJスケジュール
29th Mar 2014 S@KOARA
25th Apr 2014 JACARANDA@M

Sblog :https://ameblo.jp/s-3djs/

Soundcloud : https://soundcloud.com/mariiabe

むいしきにダンシングできる10曲を選んでみました。
のどに詰まった魚の骨、満員電車でひっかかった私のカバン、よく覚えていないけど気になるアノヒト。
地面におちてゆくID。すべてむいしきの仕業。今夜はどこかへ遊びに行こう、そんなときに踊りたい10曲。
(順不同)

むいしき10トラック


1
Cola&Jimmu - Enigmatic - Herakles Records

2
French Fries - Smoke Wine(Goldffinch Remix) - Dirtybird

3
A Man Called Adam - Que Tal America?(Robert Mello's Filter Edit) - Other Records

4
Jon Kwest - That's Love(Love Movements) - ?

5
Guillaume&The Coutu Dumonts - Indigo Shower - Oslo

6
Point G - Braka - Point G

7
Madteo - Insider - Morphine Records

8
Beat Freak feat.Maria - Loop Trick Original Mix - King Street Sounds

9
Enrico Mantini - Dont't Think About It - Traxx Underground

10
Thomas Schumacher - You got me(Onno Remix) - Get Physical Music

talking with downy & Fragment - ele-king


downy - 第五作品集『無題』リミックスアルバム
Felicity

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 昨年11月に、活動休止期間を経て9年ぶりの新作アルバムを発表した“ポストロック”・バンド、downy。これまでと同じように無題で発表されたこの第五作品集は、しかし、名をもたず語らないことのうちに含みこんだ情報や熱やスキルを大きく増幅させている。音は緊張感に満ち、同時に、生活と音楽とをより広く長いスパンから見直す時間を経たことで迫力のある余裕や深みさえ生まれている。
 今月、その第五作品集がリミックス・アルバムとなってリリースされた。〈術ノ穴〉主宰のFragmentをホストとし、セルフ・リミックスも加えれば14組もの豪華な顔ぶれが参加、それぞれのdowny解釈を発展させている。
 〈術ノ穴〉はご存知のとおりヒップホップからロックまで、またアイドルやアートにまたがる仕事も多数手掛け、アンダーグラウンドをフリーフォームにつないでいるレーベルだ。彼らとdownyとの邂逅を人によっては少し意外に感じるかもしれない。だが、以下の対談をお読みいただければその思いも氷解するだろう。downyのファンとしてリスペクト全開に本作を語るFragment──その言葉は、かつて彼らが夢中になったというdownyの活動とともに、そこに広がっていたジャンルレスなシーンをも浮かび上がらせた。このリミックス盤の価値はその点にもあるといえるだろう。「GOTH-TRADといっしょにやっていたりとかLITTLE TEMPOとか、THA BLUE HERBとの2マンとか、54-71とか、あのあたりの感じとDJ KRUSHとかも僕らには同じように見えていたんですよ」(Kussy)。それは2000年代初頭のクラブ・シーンの一端を思い起こさせるリアルな証言であり記憶。彼らが受けたインパクトまでがまざまざと伝わってくる。本作は、そうした記憶がなぞられ、敬意をこめて再構成されることで、単なるリミックス・アルバムという域を超える存在感を生んでいる。downyの表面をなでるのではなく、その存在や来し方を愛をもって掘り起し、自分たちの現在をミックスしていく──とても幸福な作品であり、リミックスということの意義自体までもを考えさせる逸盤ではないだろうか。
 それでは蛇足ながら、頭から尾まで、単体でも愛聴すべき素晴らしいトラックが並んでいるということを申し添えつつ、以下の対話へのリードとしたい。3月某日、小春日和の下北沢にて、暖気を引き連れて東京入りしたdownyの青木ロビン、そして彼を迎えるFragmentのkussy、deii、各氏に話をきいた。

とにかく僕らのほうはdownyのファンだったわけで。(kussy)

(この日上がってきたばかりのサンプル盤を手に取りながら)

青木:やったね。

kussy:うれしいなー。

青木:デザインもいいよね、この赤がいい。

中には歌詞なんかも記載されているんですか?

青木:“十六月”だけ入っていますね。──これは9年前にできているんだよ。9年前にすでにあったメロと歌詞。

deii:そうなんですか!

kussy:へえー!

アルバムの方には収録されていないですもんね。そうしたことも追々うかがっていきたいんですが、まずはどうしてこの新作(第五作品集、2013年リリース)のリミックス・アルバムの企画が生まれたのか、Fragmentのおふたりと組むことになったのはどうしてなのか、というところからお訊きしたいと思います。

青木:俺から話そうか。まず、ふたりとは沖縄で会ったんです。ライヴがあって。自分としては、また音楽をはじめようかどうしようかというタイミングだったかな……どうだったっけ、俺、音楽やるって言っていたっけ?

kussy:噂的なものはあった、という感じですかね(笑)。3年くらい前になりますか?

青木:そうだね。

deii:震災の頃かな。

青木:うん、その年だね。彼らのライヴがあって、そのオーガナイザーが僕の知り合いだったんです。で、その方を通して、彼らから会ってみたいという連絡があったので、「行く行く」と(笑)。ボロボロの居酒屋でね。

kussy:飲んだっすね(笑)。とにかく僕らのほうはdownyのファンだったわけで、全盛期にはライヴも行きまくっていたし、音源もすごく聴いていて。ツイッターとかでも、ことあるごとに「downyのフレーズ、やっぱかっこいいわー」みたいなことをつぶやいていたんです。そしたらオーガナイザーのキムさんがロビンさんと仲のいい方で、ロビンさんをこっそり誘っていてくださって……。

青木:あれは、こっそりなんだ?

kussy:そうですよ。まさか、ロビンさんに会えるなんて思ってもみないですし。沖縄に住んでいらっしゃるらしいということは知っていましたけど、あれは本っ当に焦りましたね……!

ははは! では、ステージじゃないところでの青木さんの印象はどうでしたか?

kussy:いやもう、俺らは固まってたし、酔っ払ったりもして、ただただ当時の熱い思いを伝える一方でしたね(笑)。

青木:はははは。

kussy:どれだけ好きかっていう。

青木:それで仲良くなって、翌日ライヴを見せてもらって、何か機会があったらいっしょにやりましょうという話をしたんだよね。

kussy:機会があればリミックスとかやらせてくださいよ、みたいなことをこちらから一方的に言っていたんです。

青木:そして、いざ、ということではじまったね。

なるほどー。でも、好きであればあるほど、リミックスという行為への責任というかプレッシャーは甚大なものになるんじゃないですか?

kussy:ははは、たしかにね(笑)。


曲作りってリミックスに近くない? (青木)

最初に、こんなふうにしたいというような構想はありました?

kussy:そうですね、とくにプレッシャーのようなものがあったわけでもなくて、いつもどおりにやればいいと思っていました。とにかく、愛はあるんで。それだけわかってもらえればいいなというところでしたね。……(自身らによるリミックスが)実現すると思っていなかった部分もありますし。

青木:有言実行だから。

ははは!

kussy:なんか、断れなくなるほど強く売り込んでしまったかもしれないですけど(笑)。

その「愛」の部分はこの盤のどんなところに反映されていると思います? リミキサーの選定なり段取りなり、あるいはコンセプトの部分ですとか、感じるところがありますか?

青木:愛はちょっとわかんないですけど、リミックスというのはやったことがなかったので、とにかくアドヴァイザーとしていろいろな相談に乗ってくれたのはありがたかったです。それこそ、どんな頼み方をすればいいのかといったことから、曲順とか、音の渡し方とか、逐一訊いて実行に移すという流れがありましたね。忙しいなか、親身によくやってもらえました。

曲順というお話が出ましたが、アルバムとはぜんぜん違っていて、完全に再構築されていますよね。アタマの“十六月”も未収録曲です。これは、どこかにリミックス以前の「オリジナル」が存在しているわけですよね?

青木:そうです。

それ自体はどういったかたちで世に出るのでしょうか。

青木:それは出ないですね。アルバムからあぶれた曲なんですよ。それで、手法を変えて組み直したんです。

オリジナルがあってリミックスがあるわけですが、オリジナルが聴けない場合、「リミックス」と「別テイク」との差は何なのか。そのへん何か意識されていたことはありますか?

青木:なんでしょうね、曲作りってリミックスに近くない? 俺たちはまたけっこう特殊な作り方をするので、何とも言えないんですが。「これで出す」って決めた瞬間に、はじめて尺もふくめて曲が確定するという感じなんです。レコーディング中はひたすら変わりつづけるというか、頭がサビになったりとかね。

kussy:たしかにdownyはそこが他のバンドと大きく違うかもしれないですね。このまえ裕(青木裕)さんと話したんですけど、そのときに曲の作り方なんかをいろいろ訊いたんですが、「ぜんぜん変えてしまう」というようなことを聞きました。

青木:もらった音は俺もすごく変えちゃうからね。

kussy:ですよね。それはかなり特殊なんじゃないかなと思いました。

青木:変えるというかやり直すというか。もともとのトラックにエフェクトをかけて音程が変わって、むしろそれをギターでやり直すとか。いいノイズが乗っているのをハットでやるとか。

kussy:ははは。


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着地点の予想がつくものにはしたくなかったんですよね。 (kussy)


downy - 第五作品集『無題』リミックスアルバム
Felicity

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青木:だから、つねに自分たちの曲をリミックスしている感覚はあるね。“十六月”はその継続のなかで形作られたもので、だからオリジナルといえばオリジナルかもしれません。CDとして出すタイミングがひとつのリミットになっているというか。

kussy:俺らも途中経過に参加している感じでしたよね。どれがオリジナルかということはあまり意識しない状態から作りました。あくまで素材として接していて。

青木:うん。ほぼ素材だけで渡していたからね。

なるほど。ちなみに“十六月”というイメージや意味をめぐってはどうですか?

青木:意味は……ないっすよ。

ええっ(笑)、ないんですか。

kussy:俺らもないっすね(笑)。音だけというか。

ははは。ビートにはずいぶんと隙間を持たせていますよね。ちょっとジャジーに仕上がっていて。

kussy:すごくヒップホップにしようと思って。

青木:かっこいいよね!

kussy:着地点の予想がつくものにはしたくなかったんですよね。声の使い方にしても、スクラッチしてみるのがいいかなって。ロビンさんの声こすったらおもしろいなというふうには思いました。それくらい、素材として使わせてもらう感覚でしたね。

downyの音世界には、すべてが心象風景として立ち上がってくるような、インナーな圧力をものすごく感じるんですが、Fragmentのリミックスはそれを文字どおり脱構築するというか。「素材」という視点の、ある意味でのドライさがすごく特徴的だと思います。

青木:お願いしたかったことが具現化されていましたね。たしかに、解釈もヒップホップだし。

そのあたりでは、olive oilさんだったり、やけのはらさんだったりの参加も目を引きますね。やけのはらさんのあの本当に元のグルーヴやテンションを脱臼させる手つきとか。

kussy:あれもよかったですよね。

青木:オリーブくんも完全にオリーブくん節だよね。

kussy:そうですね。リミキサーをどうするかという話のときも、僕がオリーブくんを提案しようとしたら「もう頼んである」って言われたんですよ。

青木:〈zezeco〉で同じイヴェントでライヴをしたり、あとはMission Possible(olive oil×ILL-BOSSTINO×B.I.G.JOE)。来沖した際に紹介してもらったりというつながりがあったりもしたんだけど、downyとして何かをお願いするのは初めてですね。

kussy:本当に「olive oil」でしたね。

青木:もはやオリジナルだよね(笑)。

人選にあたっては、シーンを見渡してというようなバランス感覚も働いているんでしょうか。それともより感覚的な部分を優先されたのでしょうか。

kussy:たとえばオリーブくんに関して言えば、彼のスタンスというか、あのブレなさに、完全にdownyと近いものを感じてました。勝手にですけど。音としてもそうですね。俺らからしてみればDownyのことも好きだし、olive oilのことも好きだし、尊敬しているし、迷いないところです。

青木:素晴らしい。

kussy:はい(笑)。いろんなトラックメイカーがいて、いい人もたくさん出てきているんですけど、そういうことよりはdownyに愛がある人選がいいんじゃないかなと思っていましたね。「売る」ということを考えたら、もう少しいろいろあるんでしょうけど。


あの曲のドラムがすげぇなっていう話をしていて。 (deii)
リミックスとなるとどうしても変拍子は厳しいんですけど、チャレンジしてみたいなと思った。 (kussy)

Fragmentさんは“十六月”の他に“㬢ヲ見ヨ!”にも取り組まれていますが、どうして“㬢”だったんです?

deii:あの曲のドラムがすげぇなっていう話をしていて、そこを俺らなりにどう崩せるかな、という思いがあったんですよね。ちょっと挑戦してみたいなと。

kussy:リミックスとなるとどうしても変拍子は厳しいんですけど、チャレンジしてみたいなと思っちゃったことがいちばんの理由ですね。オリジナルのなかでもいちばんすごい曲だと思ったし、「やってみたい」って言ったら「いいよ」ということにもなって。

青木:なんか、挙手制だったよね(笑)。

kussy:ロビンさんも、最初は「カブってもいいじゃん」って言っていましたよね。最終的にうまく収まりましたよね。

青木:よく選んだなって思ったよ(笑)。あれ(“㬢ヲ見ヨ!”)はみんな選ばないだろうなっていう曲だったから。

といいますと?

青木:本当に難しいと思うし、うわずみだけ取って四つ打ちにするというようなイージーすぎるやり方だと成立しないだろうし、あのぐしゃぐしゃした感じも残さなきゃいけないだろうしね。

グルーヴを削いでハーシュノイズを注ぎ込んで、むしろあの曲の内側に渦巻いていたものを外に出したというような印象を受けました。

kussy:そこを汲み取るというよりも、いかにロビンさんに「おっ」って言ってもらえるかということを考えていたように思いますね。好奇心というか。

なるほど! それはいちばんのモチヴェーションかもしれませんね。ちなみに「㬢」って漢字読めました?

kussy:いや、読めなかったですね。

──私もです(笑)。あのリミックスはまさに、読みを知らない状態のあの字をビートとノイズで組み直したらこうなるのかよ、みたいな仕上がりだと思いました。

kussy:そう言えばよかった(笑)。いや、オリジナルが本当に熱すぎるから。

青木:いやいや、出来上がったの聴いてすぐ電話したよ。「超かっけえ!」って。

kussy:僕らはロビンさんの電話がくるまで、マジで緊張しましたけどね……。

ああ、それは緊張するでしょうね……。あとは、「ア」音を大事にされているなとも思って。ヴォーカルのなかから、あの部分を抜いたのはどうしてです?

青木:あ、それ俺も訊きたい。「兄弟」とかもね。

そうそう! そこも気になりました。「兄弟」って言葉が鮮やかに切り取られていて。

青木:ヤバイよね(笑)。なんでそこやったんや!? って。

(一同笑)

deii:両方ともいちばん耳に残る部分ではありましたから。

kussy:音としておもしろいかどうかというところの判断ですよね。

青木:まあ、ちゃんと歌詞が聞き取れる部分があのへんしかないということもあるよね(笑)。だいたいが何を言っているかわからないからさ。

そんな(笑)。わたしには、このジャケットのアートワークの赤も、あの「ア」のイメージで感じられますけどね。「㬢」の「ア」の。

kussy:ああ……。

青木:ジャケ、かっこいいよね。あのリミックスは、僕らが“十六月”をやらないなら、ぜひ1曲目にしたいと思っていたくらいなんですけどね。僕らはバンドでやっているんで、途中に入れ込むと音が引っ込んじゃうというか。そういうこともあったので、まあ、オープニングというようなところで、最初に入れましょうということになったんです。


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普通のリミックス・コンペとはちょっとちがう空気感でしたね。 (kussy)


downy - 第五作品集『無題』リミックスアルバム
Felicity

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なるほど。そのあとはちょっとニカ寄りなセクションといいますか、アンビエントな流れが続きますね。AmetsubさんやGeskiaさんも、他の人にはできない仕事をされていて、downyの旋律的な素晴らしさというような部分もとてもロマンチックに引き出されていると思いました。このあたりも印象深いです。曲の配置についてはどんなやりとりがあったんでしょうか?

青木:いったん僕がタタキを出しました。オリジナルの曲順でもいいんじゃないかって思ったんですけど、流れを考えるとこうなりましたね。みんなそれぞれにインパクトを持っているので、それを消したくなかったです。よかったんじゃないかな。

kussy:そこはロビンさんに言われたまま、変わってないですね。もうコレでしょうという感じで。話の蒸し返しになりますけど、“十六月”をどこにもってくるかということだけでしたね、協議したのは。

青木:リミックス・アルバムを謳っているわけだから、ケツがいいんじゃないかと思ったんですよね、最初は。なんか自分たちが一発目というのもおこがましいなと(笑)。

kussy:いや、絶対アタマでよかったですね。

いちリスナーとしてもそう思います。ところで、今回は「コンペ」という枠も取られていますよね。このアイディアは誰の提案によるものなんですか?

青木:どうだろう、やったことのない取り組みではあって。

kussy:僕らをつないでくれた沖縄のキムさんが、沖縄にもいいビートメイカーがたくさんいるとおっしゃっていて……

青木:あ、そうだね。キム側から言われたのかも。沖縄でリミックス・コンペをやってみたいというようなオファーがあったんだけど、まあ沖縄だけというのもないだろうということで〈felicity〉に相談したんだよね。それでやってみようということになった。

おもしろいですよね。それでBO NINGENのタイゲンさんが大賞ということになったわけですが、選考理由などを教えていただけますか?

青木:全部で120くらい応募があったんですよ。上がるたびにちょこちょこ聴いてはいたんですが、なかには同じ人が3つくらい送ってくれていたりもして……

kussy:普通のリミックス・コンペとはちょっとちがう空気感でしたね。これだけ同業者が反応するっていうのもめずらしいと思いますし。

青木:結果、プロばっかりが残ってしまったんですが。

kussy:こんなにプロばっかりが応募するというのもなかなかないことだと思うんですよね。そこが本当にすごいなあって。

青木:プロっていうかね。外国の人もけっこういたなあ。でも、裸で素材を渡すっていうのは、けっこう恥ずかしいことでもあるんですよ。

deii:ははは!

青木:ネタバレするしね(笑)。そういうことで応募してくれたりもしたのかな。音だけ聴こうということで。

kussy:あんなバラで聴けることはないですからね。

そう考えるとたしかにレアな機会でもありますよね。で、プロデューサー・タイプの方が多いなか、タイゲンさんは普段けっこう重心低めなサイケ・ロックをやっている方でもあるわけで、その意味では曲に対する理解やアプローチが他の方と異なっていたりするのかなと思われるんですが、そのへんも大きいのでしょうか。

kussy:たしかに、バンドの人のリミックスだと感じましたね。

青木:正直なところ、まったく選べないくらいのレベルでたくさんの素晴らしい応募があったんですよね。もう誰が何点というような世界ではなかった。でも、やっぱり受賞者を決めなければいけないという立場からすると、インパクトのあるものを持ってこなければならなくなるんですよ。音圧なんかもふくめて。最終的に15曲くらいに絞っていったんですが、インパクトのあるものは選考の対象にしやすいです。どうしても。レーベルの人なんかも入れてそれぞれ3~4選を持ち寄ったんですが、タイゲンくんは全員が挙げていましたね。ロックだし単純にものすごくかっこよかったです。

kussy:そうですね。

青木:僕、面識は一度もないんですよ。


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僕らの思うクラブ・ミュージックへのリスペクトを、リミックスというかたちで表現できたらいいなということが出発点にはあります。 (kussy)


downy - 第五作品集『無題』リミックスアルバム
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インパクトはすごくありましたよね。インダストリアルな感じで。一方で次点といいますか、特別賞がふたつありますね。

青木:本当は大賞だけを音源化するつもりだったんです。だけど、本当にもう、誰が入っても遜色ないというくらいに接戦で。可能なかぎり入れるとして、あと2曲選べるならどうするかというところで選ばせてもらいました。みんなに聴いてほしいですね。

他の収録者と違うなと思う点なんですが、やはり公募というだけあって、すごく攻めている2曲ですよね。

青木:そうですよね。やっぱり攻めているものが残りやすいかもしれないです。

deii:アピールしようという気持ちがあるもの、ですよね。

munnraiさんなんかも、LAビート・シーン的な、すごく錯綜した構築物という感じで。

kussy:結果として自分たちですでにリリースのある人たちが残っていますよね。べつにわざわざそういう人をプッシュしたわけではないんです。

GuruConnectさんも徹底的にミニマルで。

kussy:あれもかっこよかったですよねー。

青木:ここをこう取ってくるんだ、っていう驚きがあったよね。よくもわるくも素材をそのまま残しすぎている人が多かったなか、際立っていました。俺はそんなふうにツイートもしましたからね。もっともっとぶっ壊してほしい、って。でも、リミックスってなんぞやというところをそれぞれが出してくれているので、そこは見てもらいたいですね。

リミックスとは何か、と。

kussy:僕らからすれば、オリジナル・アルバムを聴いてもらうためのひとつの手段というところもありますね。とっかかりというか。もしかしたらolive oilが好きで、でもdownyは知らなかったという人もいるかもしれないじゃないですか。……こういう言い方は、ちょっとアレかな。俺たちは原曲がいちばんかっこいいと思っているから、それを壊したり別の魅力を引き出したりできたらいいなというところはあるんですけど、最終的にはオリジナルをちゃんと聴いてねという気持ちです。

青木:僕はクラブ・ミュージックに影響を受けているので、そのことも伝えたいし、そういう人たちがバンドとしての僕らの音に触れる機会が増えればいいな、ということも思います。僕なんかがシーンを云々するという大きなことはできませんけど、いろんな音楽があるということを伝えられたらなと。
僕らは、活動を休止する前はクラブでのライヴが多かったんですよ。映像を使ったりすることをふくめていまは珍しいことではないんでしょうけど、本当に、半分はライヴハウスじゃないところにいた。だから僕らの思うクラブ・ミュージックへのリスペクトを、リミックスというかたちで表現できたらいいなということが出発点にはあります。Fragmentのふたりに会ったこともビビッとくるものだったし。
あとは、ハラカミ(レイ・ハラカミ)さんが言ってくれたんですよ。このリミックスという話をもっとずっと巻き戻していくと、ハラカミさんの言葉があります。亡くなった直後にふたりに会ったのかな。

kussy:ハラカミさんが亡くなる1週間前にちょうどイヴェントでお会いしていて。ロビンさんのお店でライヴをされていたんですよね。

青木:そのときにハッパをかけられたんですよ。いい加減にアルバム出せやって。俺も出すからと(笑)。それで、「出したら何か得があるんですかね」って返したら、「俺がリミックスしてやるよ」と言ってくれて、ああ、そういうやり方もあるのかと思ったんです。まあ、今回の話とは関係ないんですが、リミックスという方法を意識したのはそのときが初めてでしたね。

kussy:それ、聴いてみたかったですね……。


あの当時は本当にワクワクして。少しでも何かを吸収しにいこうという気持ちでしたよ。 (kussy)

踊れるということも大事だけど、「やべぇ」がもっと大事っていう時代だったよね。 (青木)

今回はタイゲンさんが大賞を獲られたわけですが、素朴に、バンドというスタイルについてはどんなふうに思われていますか? この10年ほどはプロデューサーの時代だったと思いますし、downyも奇しくも活動を休止しておられました。

青木:レーベルからバンドの音源はリリースしているんだよね?

kussy:そうですね。もともと俺らは楽器もできなくて、そういうところからサンプリングへ入っていくわけなんですけど、バンドへのコンプレックスやあこがれはありますね。バンドが好きだし、もう、ただファンだというだけです。ヘッズなんで。バンドもたくさん聴いてきたし、downyのライヴだって、GOTH-TRADといっしょにやっていたりとかLITTLE TEMPOとか、THA BLUE HERBとの2マンとか、54-71とか、あのあたりの感じとDJ KRUSHとかも僕らには同じように見えていたんですよ。だからバンドがとくにどうというよりは、あの思春期に体験したアンダーグラウンドへの思いですかね……。

青木:いい時代だったよね。いまがどうだという意味ではなくて。

kussy:インターネット前というか。もちろんインターネットはあったんですけど、いまのような状況ではなくて。あの……空気感ですね。なんというか、説明できないんですけど(笑)。とにかくあこがれたし。

〈術の穴〉での活動というのは、その時代のポストを担うものでもあるんでしょうか。

kussy:もっとポップなものも、好きなんですけどね。そういうものもやっていきたいし。

deii:音楽を作りはじめたころがその時代だったんで、いまkussyが言っていたようなシーンや空気をいちばん吸収した世代なんですよ。

kussy:その影響を受けたやつら、聴いていた世代がこのコンピに入っているんですよね。たとえばtofubeatsくらいの若い世代だと、失礼だけどdownyを知らないということもあると思います。いや、彼は知っているかもしれませんけど──

ポスト・インターネット世代、というあたりの人々が物心つく前の話だと。

kussy:このコンピに関しては、僕らと同じように影響を受けて、downyに対する愛を持った人が集まったほうがいいかなと思ったんです。アンダーグラウンドなクラブ・シーンにいれば、少なからずdownyとかBLUE HERBとかDJ KRUSHなんかにはダイレクトに影響を受けているわけで。彼らを知らない世代についてどうこう言うわけではないんですけどね。

アンダーグラウンドなシーンについてのタテの流れはたしかに感じます。歴史性というか。いまは圧倒的にヨコになりますから。

kussy:そうですね。新宿〈Liquid〉の感じとか。

青木:〈Organ Bar〉とか行ってね。ちゃんとお客さんがいたんだよね。

kussy:あの当時は本当にワクワクして。少しでも何かを吸収しにいこうという気持ちでしたよ。

青木:踊れるということも大事だけど、「やべぇ」がもっと大事っていう時代だったよね。

kussy:そうですね(笑)。いま思い出してもすごくワクワクする。downyはあの頃俺らが好きだったものの本当に中心にいたんで……。ライヴにVJがいることはいまは当然のようにもなっていますけど、俺らの映像とか今回のジャケも担当してくれているlenoは、それこそdownyのお客さんが3人とかの時代にそのひとりだったわけで(笑)、そういう流れはすごくありますね。だってskillkills(GuruConnect)とかBO NINGENとか、一般公募で参加してくれないですよ、普通。

そのお話が聞けてよかったです。

kussy:俺ら、10年間レーベルをやっているんですけど、もともとはFragmentだけを出していくつもりが、bugficsっていうバンドなんかもリリースするようになって、じつはラッパーとかの前にトラックメイカーとバンドしかいないっていうような時期があったんです。だから、ジャンルということでの線引きはほとんどなかったですね。


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リスペクトしあっているからこそ、勝ちたいというか、あっちの度肝を抜くものを作りたいと思うんだよね。その繰り返しでしかないという感じはしますけどね、人柄うんぬんと音楽というのは。 (青木)


downy - 第五作品集『無題』リミックスアルバム
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〈術ノ穴〉は狭い意味での音楽的共通性で成立しているわけではないですよね。こんな機会ですし、青木さんからFragmentの活動に対して、あらためて一言いただけませんか?

青木:ええ(笑)、一言ですか! 僕はとにかく、いまもう一度ミュージシャンに戻ろうとしている最中なので、偉そうなことは言えないですね。ただ、ジャンルとかの垣根を超えていくところを見たいとは思います。いいものが見たい。レーベルをやっていれば、お金を出して宣伝すれば売れるということもあるだろうし、素晴らしいのにあぶれさせているアーティストもいるだろうし、いろんなことに気づくんじゃないかと思います。そのあたり、いいツールがあったらいいですよね。レーベルがそのひとつのきっかけになっていけば最高だし。ライヴァルであり戦友というかね。
 コラボレーション自体も自分にとってははじめての経験だったんです。それもひとつの財産だなと思いますよ。昔だったら絶対にやっていないだろうな……。

Deii:ああー。

kussy:ははは!

青木:「はあ? リミックスってなんや」みたいな(笑)。

以前のインタヴューでも、音楽を離れて生活を見直すなかで、あらためて見えてくる音楽のかたちがあったというようなことをお話しされていましたよね。それがすごく印象深かったんです。そうした時間、9年の時間を経たいま、逆に青木さんのことは当時に比べてどのように見えるんですか?

青木:あ、それは訊いてみたい。

kussy:俺らとしては、めっちゃ作り上げているわけじゃないですか、青木ロビン像を(笑)。あのステージの上の青木ロビンしか知らないわけなんですよ。その後初めて目にするのがあの居酒屋でだったという衝撃。

青木:しかも、俺にはとんでもないヒゲもじゃの仲間がいるんですけど、その方といっしょのときでしたからね。だいぶ出来上がっていたし(笑)。

kussy:いやほんと、こんなに気さくに話してくれるのかって思いましたしね。

青木:よく言われるよ。

kussy:ライヴでもほとんど話されないし……

青木:MCはしたことないかも、というレベルですね。

kussy:ちょっと怖い人なのかな、とか。孤高の存在というふうに勝手に作り上げていたんですよね。あのときに比べたら、そりゃ「ロビンさんも人間じゃん」ってふうに思っちゃいますよ! 当時は、みんなでワイワイ飲むっていうようなことをしてたんですか?

青木:お酒は好きだったけどね。

kussy:でも、ピリピリしているような空気感がライヴからは感じられましたからね。

青木:ピリピリはしてたね。でも自分ではフランクな方だと思っていたけどなあ。そうじゃないと、ライヴとかに呼ばれないよ(笑)。

kussy:はははは!

コミュニケーションは取れなきゃ、という(笑)。

青木:うん。ただ、まあ感覚は変わったんだろうね。他人に委ねてよくなるようなところは委ねようと思ったし。

そういえば、音楽を離れてメールの書き方から学んだんだ、とおっしゃっていましたよね。社会というものにあらためて一から向き合ったというお話が心に残って。

青木:みんな、ほんとにちゃんとしたメールをくれるんだよ。すごいなって。同じ、音楽で飯食ってるのに、俺はそういうことをやっていなかったなと思ってね。

そういうところなんでしょうかね、「ピリピリ」しなくなったというのは。

青木:でも、だからって絵文字とか送られてもいやだよね(笑)。

kussy:ロビンさんが!? はははは!

(一同笑)

kussy:裕さんが絵文字にはまっているらしいですけどね(笑)。でもこの前、裕さんと話していたんですけど、当時はメンバー間でもピリピリしていたって聞きました。

青木:でも、よくしゃべるし、仲はよかったんだけどね。裕さんもずっと笑いを絶やさないというか、移動中なんかも、車中がずっと笑いに包まれている……、ただ、リハとか、楽器を持つタイミングではそれが変化するかもしれない。お互いがもっと音楽をよくしようとして緊張するというか。そういうピリピリはあったと思います。対バン相手でもそう。呼んでくれてありがとうって思うし、リスペクトしているんだけど、ある意味での勝ち負けは気にしたいというか。それはたぶん、これからも同じなんじゃないかと思いますけどね。まだ再始動後に対バンをしていないだけで、きっとスイッチが入る瞬間があると思うから。いい緊張感を残しつつやれればいいでしょうね。


いざ聴いたらいままででいちばん尖ってる作品だった。 (kussy)

本当に、そのとおりだと思います。10年の変化というところでおうかがいしたんですが、『第五作品集』そのものは、作品単位としてどのように聴かれましたか?

kussy:俺は本当に全作を聴いてきているんですよ。そしてこの9年の間に、実際に会わせていただいたりもしているわけで、人柄という点ではある意味で「丸くなった」部分があるんだろうなということも知っていました。だから、新しいアルバムについては、正直なところこわくもあったんですよね。……すげえピースになってたらどうしよう、みたいな。「あの頃」のまま、好きだったdownyでいてほしいなという勝手なファン心理もあるわけで。

青木:うん。

kussy:それで、いざ聴いたらいままででいちばん尖ってる作品だったという。もっとさらに緊張感のある作品をブランク後に出してくるということに本当に度肝を抜かれましたね。

青木:プレッシャーはあったからね。ハードルが上がっちゃっている。

kussy:そうですよね。だから……。……ただただ、かっこいいっすっていう思いです。そうだよね?

deii:うん。

青木:ミュージシャンはみんなそうだよ。コミュニケーションだからさ。人間と人間、ミュージシャンとミュージシャンだから、こっちが「オイッ」って居丈高にしていてもどうしようもない。リスペクトしあっているからこそ、勝ちたいというか、あっちの度肝を抜くものを作りたいと思うんだよね。その繰り返しでしかないという感じはしますけどね、人柄うんぬんと音楽というのは。

kussy:うん。そうですね。

青木:だから、Fragmentもいままで通りこっちを驚かせるものを作ってほしい。
それと、時間がなくてみんなの名前を挙げられなかったのがとても気になっているんだけど、参加いただいた方、みな本当に素晴らしかったです。それを最後に言っておきたいと思います。


downy - 曦ヲ見ヨ!Fragment remix

Cossato (LifeForce) - ele-king

Life Force - Flower War - 2014.3.29.Sat @ Sad Cafe STUDIO (Harajuku)

これからリリースされる曲と最近リリースされたお気に入りの10曲を挙げてみました。順不同。それからチャートに挙げてますがAsusu(Livity Sound)が3月末初来日です。

https://lifeforce.jp
https://soundcloud.com/cossato
https://www.facebook.com/CossatoBeat
https://soundcloud.com/lifeforce/life-force-radio-observatory-14

GEZAN USツアー日記 2/21〜3/13 - ele-king


下山(GEZAN)
凸-DECO-

ツクモガミ/BounDEE by SSNW

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 紙エレキングにて、下津光史(踊ってばかりの国)とマヒトゥ・ザ・ピーポー(GEZAN)との対談をやったのが2月18日、そのときにマヒトゥは、「明後日からUSツアーに行ってくるんすよねー」と言った。「本当に行けるかはまだわからないんですけどね」と付け加えた。え? それってどういうこと? と思っていたら、ものすごい強引な速度で物事を進めたらしく、バンドはまんまと海を渡ったのだった。以下、GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーのツアー日記である。彼の見てきたアメリカをある程度は共有できるほど、とても面白いエッセイなので、ぜひ読んでください。(野田)

※GEZAN YOUTUBE
https://www.youtube.com/user/GEZAN13threcords

■2/21(fri)空港

3週間にわたるアメリカツアーに向けて韓国で乗り継ぎ、NEW YORKをめざす。1週間前の北海道でのライヴの際、航空券を光の速さでおとしたので今回はパスポートごと破れるほどの握力で握りしめている。にん
機内で韓国のぼっちゃんがきゃんきゃんわめいてる。キムヨナがフィギュアで金メダルをとれなかったというコリアンショックが永久歯一本もない彼の神経系全般を鋭利に駆り立てているのだろう。
窓から太平洋にいびつな銀色の斑点をみた。くらげの大群だろうか、真っ黒な夜の海にできた水疱瘡の深夜3時。

13時間後、到着
税関でギターのイーグルが七味唐辛子の説明を身振り手振りつたない英語で説明していた。あやしいものでは無いと小指につけて舐めてみせる。まったく伝わっていない。「what's this?」とビッグダディはイーグルの瞳をのぞきこむ。戦え、デコ助。

ぼくは歯磨き粉をとられた。
そんなこんなでアメリカにきたのだ。

■2/22(sat) NY

GEZAN USツアー日記

レンタカー屋まで我々を運ぶインド人タクシーの運転手は100%ランチにカレー食べたのだろう。車内にプーーンと匂いが充満している。

当然のことだけど、たくさんの人種がNYにはいる。日本では日常のなかなか感じることは少ないけど、アメリカでは当然のように生活の中に"ちがい"が組み込まれていた。
差別も自由もこういった感覚からはじまるのだなー。みとめたり、はじいたり。

この日、空き日に飛び込みでライヴをさせてくれる箱に直接かけあいに夜のNYの市街にでた。
当初20本あったライヴが3本に減ってしまったからだ。
しかも泊まる場所も決めずにとりあえずNEW YORKにきてしまっただよ。なんも予定がないからっていってぐだぐだ鼻くそほじってるほど牧歌的になれないのでとりあえず週末のクラブへ。

踊りたくてはちきれそうなヤンキーの欲望が渦巻くNYのludlowストリートへ、ポリスの乗っている馬がたらす糞を後始末をせず道路の真ん中を闊歩していく。
街中がネタ臭いのに、何を取り締まっているのだろう?
馬にのって人より高い位置から星の数を数えているのだろうか。

■2/23(sun) NY @pianos

NYのpianosは流行に敏感なだけの若者が集まり、流行りの四つ打ちで腰をくねらすNYのライヴbarといった印象。
ここが下山のアメリカ初ライヴの地となる。
ピーランダーゼットというアメリカ在住の日本人バンドのフロントマンイエローさんがスケジュールに穴のあいた下山のために急遽ねじこんでくれたイベントだった。
対バンは、才能のないビョークが勘違いをこじらせたようなシューゲイザーと、全員下をむいたいじめられっこ更生目的バンドと、顔だけパティ・スミスのおっさん弾き語りなど、涙が出るほどダサかった。バンドってなんてカッコワルイのだろう。
昼間、楽器屋にもいったが、腕に炎の刺青で脇毛まで金髪のハードロック親父がピーナッツ食いながら接客してくれて、チーム下山は苦笑いしながら店内を物色した。NYはそれを強く感じさせるシャープな空気をまとっていた。

ロックがワルくて尖っていた時代なんて思い出だよと言われんばかりに、打ち込みに群がるヤンキーの尻をみながら、かつてCBGBでこすれあったRAMONESやTELEVISION、JOAN JETの涙が蒸発する音をきいた。

別に名前や形なんてどうでもいいから狂いたいやつだけこいとわたしはおもったのでした。そして、そのまま皮膚づたいに共振する夢をみた。
そこに国境はみえなかった。みえないものはないものとおなじだ。
体温だけ信じよう。ぷーぱ

■2/24(mon) 無題

GEZAN USツアー日記

何もすることがない日があると天上ばかりみて、その染みが顔にみえてくるあたりからパズルのピースが変形してくる。それはそのままこころのかたち。
この日泊まったホテルはインド人が夜な夜なパーティをしているヘンテコな場所で、壁づたいに聞こえる音楽はブラストビートに呪文が乗っかったような、とても常人のきくものとは思えない。廊下や階段を埋めつくすカレーの匂いでぼくら、太古の彼方までぶっ飛んだ。
逃げ出すようにテラスにでて空をみたらカモメがみゃーととんでいる。どこの空もたいしてかわらないが、NYの空は雲までラッセンの書く絵のようにはっきりとした輪郭と影で描かれている。食のようにここまで大味にされるとゲンナリしてくる。

ぼくのワビとサビをカエシテ。

GEZAN USツアー日記

■2/25(tue)Brooklyn NY@don pedro

2/25日は夕方にごそごそと起き出してブルックリンの街てくてく歩いた。若いやつが街ごとジャックして好き勝手遊んでるかんじ。壁にしきつめられたグラフティがしのぎあって、その絵ずらだけでも体温2、3度あがる。てかもう描くとこないんじゃない?なんて思うけど。
DIYのライヴスペースには看板もなにもなく、パーティの音は倉庫の奥からどこどこと、無許可に街中が震えてる。風営法と戦う暇があれば抜け道みつけて命がけで遊べよと日本で思っていたけど、それをまるごと体現したような街なみだった。にゃーご
無意味な遊びにたましいを売ってる人ってなんだかピタっとグルーヴがあったりする。グラフティやってる友達、じぶんにも何人かいるけど、アートなのか? 落書きなのか? なんて議論入り込む隙間なんかないのよね。
壁の保有者に捕まったら、警察か、言い値でどんだけもふっかけれられるギリギリのリスクのところにいながら、顔を露出させるわけでもなく、金にかえれるわけでもなく、淡々と火花を散らす街遊びにはオトコノコのロマンがある。
ロマンが理由なら倫理はあっても、法律なんか一切関係ないのよねー。

そのブルックリンのDON PEDROで飛び込みでライヴがきまった。2時間後にだって。にゃー。低体温に寝ぼけていた細胞が逆立ってくのがわかる。音楽よりまえに動物には瞬発力があった。ぼくが怖いのは速度だし、憧れるのも速度だ。
その中に真っ白い国をつくりたい。0.1秒の世界に国をつくりたい。各々が血と精液とセメントで各々の王冠をつくって、家来ひとりもいなくとも王様として、昨日というコトバと未来というコトバを忘れた国家をつくりたい。

ライヴかましたら次の日もブルックリンの別の店GRAND VICTORYでライヴきまった。このかんじ。意志や個人ではない。ただの石になって転がるだけのこのかんじー。
いちばんいらないジブンという勘違い。

■2/26(wed)Brooklyn@grand victory

この日は飛び込みでライヴが決まったgrand victoryへ、前日告知にも関わらず、important recordの声がけやPee lander ZのYELLOWさんの呼び込みでわりとフロアがうまっていた。中にはDEER HOOHのさとみさんや、RAMONESのジャケットをかいていたジョン・ホルムストルムも来ていた。

箱PAとやや揉めながらもライヴ終了。
さとみさんとイベンターのemiはこの後もクラブに踊りにいくそうだ。水曜の23時からのこのフットワークの軽さがこの街の、欲望に貪欲でクールな音楽シーンを支えている気がした。というか、スタートが9時、10時は当たり前。ライヴハウスで働いてるニンゲンのための遊び場なのなー。
一緒にいきたかったが、ground stのタコス屋でいかれたインド人とギターウルフの話で盛り上がってしまっていけなかった。それもまた出会い。
この日、別の箱でDEERHOOFのグレッグが、次の日、BLACKDICEのラストライヴがあるらしい。こちらもライヴでいけないが、高揚感がうずまいた街のその中で溺れるのがただただ気持ちよかった。

このブルックリンも金持ちに建物ごと買われたりと少しづつ遊び場を侵食さへているようだ。
別に場所を守るなんていう発想はなく、追われたら場所をかえながらパーティをつづけるだってー。
別に文化でも芸術でもなく、もっと野蛮でただぶっ飛んでいたいだけの欲望の金粉が、ブルックリンのナイトクルーザーの目からは溢れていた。キラキラしてた。
それはそれは眩しくてなんだかうれしくなった。

■2/27(thu)Brooklyn @don pedro

GEZAN USツアー日記

ステイ先のシェアハウスのレゲエ好き三姉妹と遊んでたら1がおわった。ライヴもしたらしいけど、記憶が ナイ。

GEZAN USツアー日記

■2/28(fri) New Blanswick

NYから車で2時間半、New Blanswick NJのCANDY BARRELへ。
田舎町の突き抜けた高い空が車窓からみえる。歩く若者も一気にファッションが無頓着に、ださくなった印象。充満したいなたさが民家の地下に流れ込み、ぞろぞろと人が集まってくる。
NYのおしゃれ風から一変した、ナードなオタク臭と音楽愛がとても心地よかった。
10人でシェアしているらしい家の地下にステージを組んだだけなので、音漏れもひどいが、道行く人は誰も気にしていない。
下山のステージもフロアモッシュの嵐で荒れた。時代や流行りなんか知ったことかと、反応するこの街のフラストレーションがロックのすべてだった。2時間ばかり離れただけなのに、ひとつの街にある、独立したひとつの表情があった。昔、ネットがはりめぐらされる前の日本がそうだったように、田舎独特の文化と匂い。この街はださい。最高にださい。
ぼくにはとても健康的に思えた。
BARをはしごした後、プロモーターのパットの家でパーティは朝までつづく。
BLACK FLAGやALLなど、好きなのレコードを聞かせあって、合唱!ぶち上がってるキッズやおっさんたち、アルコールは一瞬も途切れない。日本もアメリカもかわらない。最高な音楽の前ではノーボーダーでそこでは皆こどもだった。
寝不足のまま、街をでる。

さよならまたくるよと別れる。その後、車の中に静寂がつづいたのはみんなさみしかったからだろう。

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■3/1(sat) Pensylvania

この日はNBからさらに車で2時間、ペンシルバニアにむかう。空腹に耐えきれずケンタッキーでフライドチキンをたらふく食べたあと、到着したhouse venueのガレージでのフードコートの家庭的なやさしい味に、チーム下山は満腹の限界ラインをはるかに更新し、爆発的な大和スマイルをママにぶちかました。家庭料理がいちばんおいしいです。
お水くれっていったら水道水をパッと渡してきた。飲んでみたらおいしくて、そうか日本て飲めないよなーなんて久しぶりに母国のおかれた不幸を思った。
NB同様、一軒家の地下にある、排水管などがむきだしになった場所にステージを組んだベースメントスタイルで、お客さんは家の玄関でお金を払ってぞろぞろと地下に集まってくる。これに集まってくるヒトたちがまたNBよりさらにいなたい空気をだしていて、地下の暗がりには掃き溜めハードコアの匂いでぷんぷん充満していた。やることなくて暇なんだろうな。
14、15才くらいのキッズが1バンド目から客席で喧嘩しだして、下山もギラギラピカーーん、緊張が絡み合うステージだった。物販も飛ぶように売れる。助かる。うれしー。
夜は、GHOSTSTARSというErese erataやAIDS WOLF直系のいかれたNEW WAVEバンドのDEVのヒッピー・コミューンのようなうちにお邪魔した。
「おい、このバンドは知ってるか?」「このバンドはどうなんだ?」と溢れんばかりに音楽を放り込んでくるKIDSの音楽愛にはやはり胸が熱くなる。ぞろぞろとルームメイトが集まり、卑猥な匂いのするパーティへなだれこむ。音楽を聞かせあってベッドの上で跳ねまわるのは、それは、まだおれがギターを触ったこともない頃からチーム下山でやってきたことなんだ。
聞かせたものの中では54-71やskillkillsへの反応がよかった。部屋にはられたアメリカ国旗が逆をむいている。こういうアンチキッズはバカっぽくておもしろい。
朝はまわりの教会にひとりで散歩にいって、霧をのんで、昼は大切なひとのお墓まいりをした。
GHOSTSTARSとのさよならがまたさみしい。別れの言葉は短い方がいい。二日酔いのゆるやかな眩暈がすでにこの毎日を懐かしくさせた。また、あおー。

■3/2(sun) NEWWARK mojomain

GEZAN USツアー日記

NEW WARKという街のMOJO MAINについて、BARの扉をあける。五秒後に「米は好きか?おれのつくる米を食え!」イタリアのシェフ、ガス(58)からGUMBOがたらふくだされる。スピード感がすごい。それがまたたまらなくおいしくて、今回のツアーの中で断トツにおいしい米料理だった。DR JHONのGUMBOのはなしなどをしながらガスの米への愛をきく。うんうん。伝わったよGOD FATHER。

ライヴはFUGAZIやNIRVANA直系のUS オルタナなメンツで正直古臭かった。でもみんなキモチのいい奴らだった。
Tシャツをライヴがはじまる前から対バンがぞろぞろと買いにきてくれて、きょうという日をいい日にしようという挨拶なのか、ツアーバンドへの応援なのかわからないが、清々しいキモチになった。
モノにお金を払うという敬意の表し方があることデータ社会になっても忘れてはいけないようにおもう。ひとにおもいをつたえるのはそんなに簡単なことじゃない。うまくあつらえたコトバなんかクソだぜ。痛みをともなったコミュニケーションしましょう。恋みたいだ。

夜はとても冷たい雪がまわりをつつみだし、寒波が流れ込んできたことをガスにきく。
本日二食目のGUMBOをご馳走になり、店をでる。ここから次なる目的地、アトランタまでは車をとばして13時間、雪道なら20時間はかかるという。
6日連続でライヴしてきて、宿無しの窮屈な箱詰め車内の20時間ドライヴにチーム下山は白目で泡をふいた。

■3/3(tue) 無題

ひたすらまっすぐの雪道。窮屈な車内で窓から葉のない木々が流れていくのを永遠にみた。
20時間のドライヴは過酷だ。
白目も水銀色。
デリで買った毒々しい色のグミがこれでもかと外れ、殺気だつ。

■3/4(tue) Louisuvile @modern cult record

ケンタッキー州のルイスビル、街にはいるなりシルバニアファミリーのような家々と雑貨屋や本屋がならぶかわいい街だった。学生が多いのかも。
「HATE ケンタッキー love ルイスビル」とかかれたTシャツを着た店員さんのいる店でガンボをたべる。ケンタッキーの中だが他の場所と一緒にするなという街の自己主張なのかなあ。大阪をおもう、京都にあるような。
その一角にあるmoderncult recordでのライヴ。店内には世界各国のサイケ、ノイズ系のLPがならぶセレクトショップで風通しがよかった。下山のも何枚か納品する。acid mothers templeやBORISのLPは中でも目立つ。
ライヴにはWILKOやジム・オルークバンドなどで叩くTIM BARNESさんがきてくれて、この街のはなしをした。田舎町ではあるが、もともとSLINTをはじめDRAG CITY RECORDまわりのバンドなどを多く輩出した街で、近年元気がなかったが、NYからTIMさんが住みだしてから活気が出てきたと現地の日本人から聞いた。
パニック・スマイルやナンバー・ガール、モーサム・トーベンダーを輩出した福岡のように、かくじつに強力な個性を打ち出していく独特の筋をもった印象があった。こういった地方がスターをちゃんと生み出せる地盤があるアメリカは懐が深くもなる。変化こそあれど大きくみると、未だ東京に進出しなきゃどうにもならない日本の盲目さにはげんなりする。

ライヴ終えて、みんなが寝たあと、ぼくはDAVID PAJOのみていた空をみながら街を夜道をてくてく散歩した。とおくまで歩きすぎたのか、通りを越えると急にゲットーな匂いと鋭い目つきをかんじる。後に出会った友人にきくと、どんなハートフルな街にも治安の悪い地域があって、そこにはディーラーの売買が盛んに行われてるそうで、銃声の聞こえない日はないそうだ。
人種や生活クラスが多用すぎて自由を認めなきゃ窮屈なんだろうな。この国は。

■3/5(wed) Atlant @GA

車で8時間、アトランタは出会った人びとから一番治安悪いから気をつけろといわれてきた街で、今回のパーティの主催はKIDSのラリークラークとのコンビでも知られるハーモニー・コリン監督の『spring breakers』で3日連続双子でセックスするという狂った役を演じたATL TWINS だった。
気温もあたたかく、街自体はロック好き、タトゥー好きといった感じでボインで活気があって良かったが、パーティピーポーの楽屋の荒れ方はなかなかジャンクだった。泡吹いてるやついたし。すぐに二人組でトイレに消えてくし。
ライヴはDARK SISTERというM.I.A直径を思わせる2人組がよかった。楽屋にはGROUPHOMEのタグなんかをかいてるライターがいてイーグルがぶちあがってた。
おれはこういうスカしたパーティ野郎が嫌いなので、陰気なイタリア女と木のしたでうどんのおいしさを説いて1日を終えた。

■3/6(thu) 無題

GEZAN USツアー日記

この日は2日前に「ギグするか?」と連絡がきたので時間にして13時間。熱意にこたえるべく一晩でぶっ飛ばすことになった。しんどいわ!
つくなり日本のことをわんわん聞いてくる、話をきくとアニヲタだった。下山の音に反応して連絡きたんちゃうんかい!というキモチが拭えず、ライヴブチかました後はマザコンの引きこもり黒人ラッパーと携帯の恥ずかしい画像を無言でみせあって一日をおえた。

■3/7(fri) NewBedford @no problemo

GEZAN USツアー日記

街につく、ラジオをやっているベイリーという男の企画でbarでのライヴだった、らしい。
頭が沸騰していてこの日はほとんど何も覚えておらず。
ブログあきてきた。

■3/8(sat) Roadiland providence@ the parlor

この街はLightning boltがいることで知っていた。
lightning boltは街の廃墟を占拠してはパーティを組んで、警察や金持ちの買収や圧力があっては場所をかえ、パーティをつづけてきたDIYの王様で、プロビデンスの皆が誇りにおもってる感じがぷんぷん伝わってきた。町おこしの立役者的側面も。
なっるほどー、そういうわけで日本でライヴする時もドラムやアンプだけでかくメインのスピーカーまで持ち込むのか。昔、梅田シャングリラであふりらんぽやマゾンナ、ボガルタと対バンをみたが、フロアで箱のシステムを全く使わず、他のバンドよりだいぶ小さな音でアホみたいに叩きたくってたあの謎を思い出す。謎とけた!どこでやっているときも彼らにとっては廃墟と同じDIYセットでやりたいのだなー。敬意がぐぃいーんとあがる。

街をあるく。らんらん歩く。
ラヴクラフトという作家のお墓があるときいていたので、お墓まで案内してもらう。インスマウスの影のはなしを思いだしながらお墓の前でお昼寝した。
他の下山のメンバーはTシャツが売り切れたのでフリマで1ドルで手に入れたマドンナのTシャツにGEZANとタギングしているみたい。
ぼんやりと薄い月をみながら、アメリカではじめての深呼吸をした。キレイな街だった。
ゆっくりと月が三次元を手にいれて、霧がはれたところで目が覚めて皆の元にもどる。

■3/9(sun) 無題

一度NEWYORKを経由してテキサスオースティンへむかう。ツアー最後のSXSWへ。
我慢しきれなくなって、ゴーゴーカレーNY支店でカレーを胃にぶちこみ、空の旅へ。
24時、テキサスについたが宿がない。とりあえず空港の自販機の裏でチーム下山、ミノムシのように固まって眠った。
でっかい掃除機の低音で目をさます。

最悪の目覚め。

■3/10(mon) Austin SXSW

GEZAN USツアー日記

オースティンはとにかく暖かい。27度もあるそうでみーんな半袖だった。
リストバンド交換所で長い行列を並びながら、YOSHIKI(CHIBA JAPAN)もここを並ぶのかと想像していた。いや、YOSHIKIならヘリで皆の頭の上を飛び越えていくんだろうなー。どこかにヘリおちてないかな。ほしいな。
とりあえず宿がないので、受け付けに誰か紹介しろとダメ元でいったら黒髪ロングを気に入ってくれたのか、マダムな友人を紹介してくれた。
いってみたら豪邸で、オースティンの山々の景色をハンモックにゆられながらバカンス気分爆発、胃袋破裂しそうなくらいピザを食べて、死んだように眠った。
それにしてもロックのうまれた国だからなのか、空港や街のいたるところにサイケ調のギターのモニュメントがあって、ロックを誇りに思っているんだなあとしみじみ感じた。そんな街ぐるみのイベントの公式フライヤーにFUCKin MUSICだなんてコトバがのるくらいだから、エネルギーにたいして敬意がある。
無菌国家・日本じゃとうていあり得ないだろうなあー。踊らせるものへの敬意なんて、このダサい国には。

■3/11(tue) Austin SXSW @liberty

GEZAN USツアー日記

街のいたるところでベースがなっている。水着一枚のおねーちゃん、ドレッド、ラスタマンなにーちゃん、ブリーフ一丁のおじいちゃん、歯のないボインのニューハーフ、様々な人種の様々なファッションが入り乱れた祭りが、BARで、屋上で、野外のテントで、360度サラウンドに鳴っている。共通しているのはとにかく楽しんでやろうというギラギラしたエネルギーだ。
道を歩いていたらBo Ningenの一団にあった。お互い初のアメリカでのライヴね。ここで会えたのはなんだかうれしい。
比較的バンドが多そう通りにあるthe LIBERTYという場所でライヴをする。街中が洗濯機のように流動する中で、足をとめ、フロアがいっぱいになっていく。アメリカのそのフィーリングと速度感はアドレナリンリン・心地いい。
本日二本目のQUANTUMにいくとGEZANの名前がないと言われた。「NO WAY!! ふざけんなよ」とかけあったら明日でした。12日のAM12時と表記されてるのを11日の24時にいってしまったのだ。てへ☆
ぼくたちバカだネって話ししてたら横でひったくり犯が取り押さえられボコすかやられてた。こっちのひとらは加害者に容赦ないのう。顔からケチャップがぴゅーぴゅーでてた。
気分をかえて、クラブが連立する一角で黒い音にまみれ気が遠くなるくらいヒップホップをのんだ。
家に帰って吐いたゲロが七色をしていた。これがオースティンの色だ。

GEZAN USツアー日記

■3/12(wed) Austin SXSW@liberty ,QUANTUM

前日よりさらに人がわちゃっと増え、カフェからどこんどこん鳴らされる低音に音漏れなんてコトバは似合わない。もはや街自体を鳴らしてる。テキサスのコンクリートの床もボロボロの壁も、いきた音を浴びてうれしそう。土の中でテキサス育ちのジャニスジョップリンも白骨顔でにっこり。
呼吸しない街は朽ちていくだけ。人もモノも同じ。磨いてるだけじゃ表面のメッキが光沢するだけだもの。

the LIBERTYの野外テラスでライヴ、テキサスロックシティの波にのまれて歪んだな夢をみた。
QUANTUMに移動してレゲエシステムのようなつくりの黒い箱でやりきった下山、アメリカツアー最後のライヴ。どこもわりとそうだったけど物販の売れ方が気持ちえかった。
思えば出発前、3本に減ってしまっていたライヴは飛び込み含め17本にまでふえた。ここでは書けないようなこともいっぱいおきた、し、おこした凸凹ツアー、まあなんだか生きてる感じでした。ナムナム

手刷りDIYTシャツも完売して荷物も軽くなったところで踊りにいく。
3週間分のつかれは、狂った夜のさらさらと流れる静脈にまぜて、ライターで火をつけて、低音の肌触りとともに喧騒にながした。
渦の中で溺れる、溺れながら呼吸の仕方をおもいだす。魚だったころみていた夢はきっとこんな泡だらけのプリズムした夢だったのだろう。


下山(GEZAN)
凸-DECO-

ツクモガミ/BounDEE by SSNW

Amazon iTunes

■3/13(thu) Austin SXSW

SXSW3日目の今日は音楽散策だけ。
the MAINでの LOU REED tributeのショーケースでblack lipsをみる。ジャンクでポンコツなビートルズみてるみたいで笑ってもうた。いつか対バンするな。きっと。
LOU REEDの“run run run”をカバーしてた。もはや当たり前のことだけど、改めてLOUの存在の大きさを現行のバンドのその影響をみていておもう。
踊ってばかりの国の下津が騒いでたのでChristopher Owensをチラッとみる。わー、下津好きそう。曲はいいけど、うたが痩せっぽっちで個人的な好みではなかった。前日に下山の前に出てたオーストラリアのMT WARNINGの方が人間力がズシンと残ってる。
FAT POSSUMから出してるfelice brothersをred7で。最高にグッドアメリカンで、身体いっぱいに喜びをあびる。好奇心と実験心をうたうボブディラン。SXSWベストアクト! というかFAT POSSUMはほんとうにアメリカの良心だな。愛してまーす。

あんまり期待してなかった分、逆に満足して、チキンを食らって飛行機にのった。SXSW、世界最大のショーケースでいくつかのステキに出会えたのは嬉しかった。お客さんより関係者のためのフェスという感は否めないけどね。
垣根をこえて、世界中の好奇心が渦になればいい。オワリ

DJ Tsukasa (WarmRoom) - ele-king

不定期でWarmRoomというパーティーを福井で開催中!!!!!
ジャンルを問わず夜に合いそうな10曲選んでみました!!
3/27 Mole×MOLE @Church Guest/Mitsuki(MOLE Music)
DJ/Tsukasa、Tomoharu、masAaki

最近かけるちょっと古い曲


1
Manzel - Midnight Theme - Dopebrother

2
Penny Goodwin - Too Soon You're Old - Freesound Records

3
Quantic & Alice Russel - Here Again - Tru Thoughts

4
Vincent Montana JR - That's What Love Goes - Philly Sound Works

5
Terence Parker - Your Love - Seventh Sign

6
Cultural Vibe - Ma Foom Bey - Easy Street

7
Terry Callier - Love Theme From Spartacus - Talkin' Loud

8
Ashford & Simpson - Don't Cost You Nothing - Warner BROS.

9
Hard Meat - Free Wheel - Warner BROS.

10
Syrup - Sweet Shop - Compost

INNA (LifeForce / mixer) - ele-king

今年はLife Force21周年、mixer10周年ですのでいろいろおもしろいパーティを企画しています。
3/29には初来日のLivity SoundのAsusuを迎えて、原宿のスタジオ会場、2フロア、Asadaサウンド、Mixerのインスタレーション空間でスペシャルなパーティがあります。ぜひ遊びにきてください。

3/29 Life Force "Flower War"
@Sad Cafe Studio Harajuku
DJ: Asusu(Livity Sound from Bristol),
Shhhhh, MaNA, Inna, Cossato, pAradice, Ginji
more info- https://lifeforce.jp

inna soundcloud- https://soundcloud.com/innamixer

Inna "On Repeat" Feb2014 Chart


1
Hazylujah - How Can You Hide From What Never Goes Away - Meda Fury
https://soundcloud.com/meda-fury/sets/hazylujah-how-can-you-hide

2
Charles Cohen - The Middle Distance - Morphine Records
https://soundcloud.com/experimedia/charles-cohen-the-middle

3
Archie Pelago - Lakeside Obelisk - Archie Pelago Music
https://soundcloud.com/archiepelago/ap003-archie-pelago-lakeside

4
Vtgnike - Dubna - Other People
https://soundcloud.com/experimedia/vtgnike-dubna-shop-excerpts

5
Georgia - Like Comment - Meakusma
https://meakusma.bandcamp.com/album/like-comment

6
Joakim & Bambounou - Fructose EP - Sound Pellegrino
https://soundcloud.com/soundpellegrino/sets/joakim-bambounou-fructose-ep

7
SH2000 - Untitled Works - Volking Music
https://volking.biz/

8
Co La - Soft Power Memento - Hands In The Dark
https://soundcloud.com/experimedia/co-la-soft-power-memento-album

9
Rachael / DJ Sotofett - Okada/So-Phat Riddimix Is Junglized - Hotline Recordings
https://www.youtube.com/watch?v=nC1wPnZgtUI

10
Chapelier Fou - Protest (Dimlite's re-ça va pas Remix) - Ici D’ailleurs Records
https://soundcloud.com/dimlite/protest-remix

11
Metome - Objet - Schist
https://metome.bandcamp.com/album/objet

interview with Ana Tijoux - ele-king

ラテンアメリカは、自立のために絶え間ない闘いを繰り返し、非植民地化のために必死で生きている。私たちの微笑みを壊す、キャピタリズムの沈黙の支配を前にしながら。


Ana Tijoux (アナ・ティジュ)
Vengo(ベンゴ)

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 ラテン・ヒップホップといえばマイアミやニューヨーク、ロサンゼルスのラテン系ルーツを持つアーティストたちによるスペイン語のヒップホップを思い浮かべる人のほうが多いのではないだろうか。それも間違いではないが、すべてではない。ここでは、いままで大々的に語られることがなかった、反米運動やグローバリズムに抵抗するために確立されたラテンアメリカのアンダーグラウンド・ヒップホップついて説明したい。
 2000年代初頭、ブラック・パンサー思想を継承するキューバのフェスティヴァル、「ブラック・オーガスト」は、エリカ・バドゥ、ザ・ルーツ、モス・デフ、コモン、ファット・ジョーらを含む米国のアーティストたちとキューバやラテンアメリカのアーティストたちが参加し、国を越えたアーティスト同士の交流を目的にした、伝説的なイベントだった。その動きに触発され、2005年からラテンアメリカじゅうのアンダーグラウンド・ヒップホップのアーティストを集めた、サミット的フェスティヴァル、『クンブレ』がベネズエラで始動する。同国では前大統領のウーゴ・チャベス政権による、ゲットーでのヒップホップを媒介にした教育や社会活動が政策を行っており、クンブレもその一環だった。そして、ドミニカ共和国、アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、チリ、プエルトリコなどラテンアメリカ全域に『ヒップホップ・レボルシオン(ヒップホップ革命)』と呼ばれる大きなムーヴメントが広がり、2010年ごろまで活発化していた。

元大統領チャベス政権のヒップホップ政策により生まれた、ベネズエラのオクマレ・デ・トゥイという村の少年たちによる、ヒップホップ・クルー、ムーチョクモの曲〈Nuestra Juramento(俺たちの誓い)〉。
ベネズエラでは、現大統領、ニコラス・マドゥロ政権への反体制デモが起こり、紛争状態と米系大手メディアは報道する。一刻も早く同国の混乱が治まることを願うばかりだが、そんな今でこそ、表向きに報道されていなかったチャベス政権の活動を伝えるこのビデオを紹介したい。

 そんなラテンアメリカ全域を巻き込んだムーヴメントの功績により、メッセージと高い音楽性を持つヒップホップ・アーティストが着実に増え、現在ではメジャーとアンダーグラウンドの垣根もなくなりつつある。
 プエルトリコのデュオ、カジェ13はヒップホップ、レゲトンを自在に操り、ポップ・シーンを股にかけるメジャー・アーティストの代表といえる。2013年末に発表されたミュージック・ビデオ、「Multi_Viral」は、ウイキ・リークスのジュリアン・アサンジとレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのギタリスト、トム・モレロがゲスト参加した曲であり、パレスチナのベレンを舞台に、ビデオ撮影が行われた。もちろん、そこには反キャピタリズムのメッセージが込められている。

カジェ13「Multi_Viral」。カジェ13の戦闘的ラップと、ジュリアン・アサンジの朗読、トム・モレロのロックギターが炸裂。

 メジャーに君臨しながらも、プエルトリコの米国からの独立のために活動し、大胆なメッセージを放つ彼らは、ラテンアメリカのみならず、世界中に刺激を与えている。

 また、英国のDJジャイルズ・ピーターソンは、かねてからキューバの首都ハバナのアーティストたちと組んだプロジェクト「ハバナ・クルトゥラ」の活動を2009年から継続しているが、そこには、ヒップホップ・グループのロス・アルデアーノスやドブレ・フィロのビートメイカー、エドガロ・プロドゥクトー・エン・ヘフェら硬派なアーティストたちが参加している。

エドガロ・プロドゥクトール・エン・ヘフェ「VIDA」

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グラミーにノミネートされただけでも、嬉しくて狂いそうだった。だっていままでに、ノミネートされたチリ人アーティストは私でふたり目だったし、決してメジャーではないチリの文化やヒップホップを世界に知らしめるための扉が開いたと思った。


Ana Tijoux (アナ・ティジュ)
Vengo(ベンゴ)

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 ラテンアメリカのコンシャス・ラップが、もはやマニア向けなものではないことを示すのが、チリのMC、アナ・ティジュの活躍だ。
 ジャイルズ・ピーターソンのレーベル、ブラウンズウッド・レコーディングスのコンピレーション、『Brownswood Bubblers』にも曲が収録され、アルゼンチンの鬼才音楽家、グスターボ・サンタオラージャが率いるグループ、バホフォンド・タンゴ・クラブの『Supervielle』や、ウルグアイのシンガー・ソングライター、ホルヘ・ドレクスレールの最新作『Bailar en cueva』にも参加し、コロンビアを拠点とする英国人DJ、クアンティックとコラボレーションしたEP「Entre Rejas/Doo Wop(That Thing)」を発表するなど、さまざまなジャンルのアーティストからのラヴ・コールを受けている。

 米国グラミーのラテン・オルタナティヴ部門で、2作目『1977』(2011年)と3作目『ラ・バラ』(2012年)で、二度もノミネートされていることも、彼女が注目を集めるきっかけとなった。だが、アナは明らかに先進国の音楽界でトップになることをゴールとはしていない。

 筆者は2011年に、アナにインタヴューする機会を得たのだが、それは彼女のアルバム『1977』がグラミーにノミネートされたロサンゼルスでの授賞式直後だった。惜しくも受賞は逃したが、彼女にとって、それは重要な問題ではないというように、こう言った。

「グラミーにノミネートされただけでも、嬉しくて狂いそうだった。だっていままでに、ノミネートされたチリ人アーティストは私でふたり目だったし(2000年にロックバンド、ラ・レイが同部門でノミネート)、決してメジャーではないチリの文化やヒップホップを世界に知らしめるための扉が開いたと思った」

 グラミーで、アナがラップする機会を得たことには深い意味がある。というのも、米国の新自由主義に踊らされた、アウグスト・ピノチェトが1973年に起こしたチリの軍事クーデターにより、フランスに亡命した活動家の両親から1977年に生まれた女性こそが、アナ・ティジュだったからだ。アナの一家は、ピノチェト政権崩壊後の1993年に、チリへと戻った。発言や表現の自由を得た現地の若者たちのあいだで、産声をあげたヒップホップに、彼女は魅せられていった。
 だからこそ、米国の、世界中から注目される音楽の祭典で、彼女の抵抗のライムが響き渡ったことは、歴史的な出来事だったのである。

アナ・ティジュのアルバム『1977』に収録された同名曲。トム・ヨークがお気に入りとTwitterで発言して話題になった。

「私は母国で政治のために闘った両親の娘であることを誇りにしている。日々の会話のなかや、育て方にも彼らのポリシーが現れていた。私がヒップホップを選んだのは、言葉を書くことが大好きで、それをリズムに合わせることも、音楽そのものも好きだから。そして何よりも自分のメッセージを的確に表現できるから。私にとって音楽はセラピー、エネルギーであり、感覚、怒り、羞恥、喜び……つまり、すべての感情をひとつにするもの」

 アナ・ティジュの2作目の『ラ・バラ』は、ピノチェト政権末期の1990年3月にチリで公布された教育基本法により、教育の民営化が進み、学生や教員たちにとって不利な状態が続いていた状況を打開するため、2011年に学生運動が激化した頃に制作された。デモの参加者はのべ120万人以上。中心となるのは中高生を含む学生たちだ。
 同アルバムのシングル・カットされた曲、“ショック”は、不正を繰り返す権力者たちへの怒りと、世の中を変えようと立ち上がる者たちへの惜しみないリスペクトを込めた曲だ。それは、クーデターや大惨事といった衝撃に便乗し、復興や改革の裏に入り込む資本主義にメスを入れる、カナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインの著書『ショック・ドクトリン』にインスパイアされ作られたという。“ショック”のプロモーション・ヴィデオは、実際に占拠されている学校で撮影され、主人公は、運動に参加している学生や関係者たちの姿だ。衛星テレビ局アルジャジーラでも、アナの勇気ある行動は大きく取り上げられ、“ショック”はチリの学生運動に欠かせないテーマ曲となった。

アナ・ティジュ 『ショック』のPV(日本語字幕付き)

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私のなかで、南とは北からの度重なる圧力に立ち向かう抵抗の力だと意識している。ラテンアメリカとアフリカの歴史は非常に似通った部分があり、それは音楽的にも交差している。アフリカはすべての母だと意識しているし、それを拒むのは、私たちの歴史を拒むことになる。

 そして、3月9日にリリースされた最新作の『ベンゴ』(「私はやってきた」の意味)は彼女の決意とともに出現したアルバムといえる。リリックは、グローバリズムやキャピタリズムに抵抗する姿勢を示しているのはもちろんだが、前作よりも、ルーツやコミュニティの大切さ、自治、環境問題や女性の人権についてを深く物語っている。
 まさに南からの声明ととれる同作について、アナ・ティジュが、メール・インタヴューに答えてくれた。

「アルバムタイトルとなった同名曲“ベンゴ”はその構想の段階からメロディもメッセージも、とても自然な形で生まれた。友人たちとの日々の会話のなかで、私たちのアイデンティティについて語ってきたことが原点となった。この曲は、アルバムの根幹について要約しているものだと思ったの」


Ana Tijoux (アナ・ティジュ)
Vengo(ベンゴ)

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 アルバムのアートワークには、メキシコ革命の戦士やサパティスタ民族解放軍の乳飲み子を抱えた女性、チリを含む南米を拠点にする先住民族マプーチェの老女、そしてアナの子どもの頃と重なる少女の姿が描かれている。闘い続ける女性たちの姿が並んだ、素晴らしいイラストだ。

 「チリ人アーティストのパブロ・デ・フエンテが手がけた。最終的にこのイラストのコンセプトはほとんど彼が決めたものだけど、事前に私たちは人生やこのアルバムに収録された曲について語り合い、それを彼がイメージして描き上げた。だからこそすごく美しいものになったの」

 今作は、南のルーツを感じさせる音がふんだんに入っているのが特徴だ。アンデス地方のフォルクローレで使われるケーナやチャランゴのざわめきと、太いパーカッションの振動や、美しいクラシックやジャズの旋律と交わり、豊かなバンドサウンドとなっている。そこに載せられた鋭いライムが聴く者の心に突き刺さる。

「ラテンアメリカ由来の楽器を加えたのは、ずっと前から自身に問いかけてきたテーマからだった。私たちのルーツに回帰するためには、どうやって音楽で向き合えるのかを模索した結果だった。このプロジェクトに、かつて共演したことがなかった異なるジャンルの演奏家たちが参加し、経験を共有できた。そのプロセスは、実に豊かでパワーに満ちたものだった」

 学生運動が沈静化したように見えるチリの現況だが、先住民の土地利権問題などは根本的には解決していない。同国の状況について、アナはこのように語る。

「チリは現在欠陥を抱えた困難な状況にある。それは恒久的に信頼性を失ってしまった状態なの。いままでの不当な歴史で受けた、数々の深い傷口を広げたまま、なんとか確立している場所。政府が誠意を持った解決に向かって動いていないあいだに、この複雑な怒りを込めた私たちの隔たりは大きくなっていくいっぽう。ラテンアメリカは、自立のために絶え間ない闘いを繰り返し、非植民地化のために必死で生きている。私たちの微笑みを壊す、キャピタリズムの沈黙の支配を前にしながら」

 本作で、白眉といえるのが、ラテンアメリカとアフリカを意識したリリックが印象的な〈Somos Sur〉(「私たちは南」)だ。

「私のなかで、南とは北からの度重なる圧力に立ち向かう抵抗の力だと意識している。ラテンアメリカとアフリカの歴史は非常に似通った部分があり、それは音楽的にも交差している。アフリカはすべての母だと意識しているし、それを拒むのは、私たちの歴史を拒むことになる」
 さらに、同曲に参加する、パレスチナの血を引く、英国人MC、シャディア・マンスールの畳み掛けるようなラップに圧倒される。シャデイアはアラブ圏初の女性MCとして知られている。
 「シャディアのラップを聴いたときに、強烈な印象を受けた。彼女の力強い言葉のなかに、絶え間ない熟考を読み取った。私は彼女と何かやらなければいけないと心に誓った。私たちは以前から交流はなかったものの、最初にコンタクトをとったときから、瞬発的に理解しあうことができた。私たちの世界へ向ける目線は同じであり、彼女は素晴らしい音楽家である以上に、人生の同志であると感じる」

 言葉と音をしっかりと握りしめ、地上にやってきたアナ・ティジュ。彼女の南からの視線は、きっと日本のリスナーの心を打つだろう。

「このアルバムに命を吹き込むため、共有するために、招いてくれるところにはどこへでも行きたい。日本でも『ベンゴ』が発売されたことに感謝している。私の友人たちでもある米国のヒップホップのアーティストたちは、日本でツアーしたこともあるんだけれど、リスナーが真摯で、ブラック・ミュージックやヒップホップ文化の背景にも理解があるって感動してたの。心からあなたたちの大地を訪れたいし、あなたたちの文化を知りたい。そして音楽と言葉によってもっと近づきたい」

カタコト - ele-king

 カタコトって何者? 快速東京のメンバーがいるとかいないとか?
 YANOSHITの言葉を借りれば「♪カタコトのカは快調~/カタコトのタは体調/カタコトのコは好調~/カタコトのトはトウチョウ~?」(“Man In Da Mirror”)とのことで、あるいは『bounce』誌のインタヴューによれば「カタコトっていうのは概念なんですよね。いわば宗教……ですよね」(MARUCOM)とのこと。ううん? まあ彼らがそう言うのであればそういうことなのだろう……。

 とにかく。カタコト、超待望のファースト・アルバムである『HISTORY OF K.T.』をプレイすれば、このヤングでギャングなボーイズが何者かなんてことはどうでもよくなってしまう。『HISTORY OF K.T.』はとんでもなくゴキゲンでグルーヴィで──もっとも重要なことに、底抜けに楽天的だ。
 だってこのご時世に「♪安心なのさ/安心なのさ/安心なのさ/安心なのさ~」(“からあげのうた”)なんてだれが歌えるのだろう(とはいえもちろん「こんなループに乗せて歌う日本の平和な音楽」というアイロニカルな一節は無視すべきではない)? ふざけたおしすぎて意味不明で笑かしてくれる謎のブックレットやスキットにはいったいどんな意味が? ……つまり、カタコトにしか表現できないへんてこな抜けの良さ=大衆性が、アルバムにはぎゅうぎゅうに詰まっている。
 元気の良さとふざけっぷりはティーンだった頃のオッド・フューチャーの悪ガキどもと同じくらいだ。でもカタコトは露悪的な猟奇趣味じゃない。というよりは、橋元さんが書いているように(https://www.ele-king.net/review/live/003305/)「コミカルな妖怪たち」あるいはオバケみたいな「はっきりした正体不明さ」でもって肯定的な開放感をめいっぱい呼び込んでいる。

 “Man In Da Mirror”にはビースティ・ボーイズとB級ホラー映画が、VIDEOTAPEMUSICを迎えた“リュックサックパワーズ”にはローファイと裏山の冒険が、“G.C.P”にはファンクとパンクが、“魔力”にはサイケデリックと超能力が、“からあげのうた”には童謡が、“Starship Troopers”にはアシッド・フォークと昆虫採集が、“ピアノ教室の悪魔”には学校の怪談とゲームボーイがそれぞれひしめきあっている。そして、どの曲にも映画と食べ物とヒップホップへの愛が詰まっている。それは、何かの間違いでそういったものをぜんぶ洗濯機に投げ込んで回してしまって、ぐっちゃぐちゃのかっちかちのぴっかぴかの一塊の何かとして取り出されたような、ストレンジで強引なラップ・ロックとして形成されている。

 もちろん僕らをそわそわさせるあの名曲“まだ夏じゃない”も、ゴキゲンでキュートなお宝探し冒険譚“Gooonys”もパワーアップして再録されている。とくに“Gooonys”は最高だ。カタコトというバンドをよく表している。
 YANOSHITはここで「心が未だにTeen-age/もしかしたらと思った大人が大冒険」なんてヴァースをぶちかましていて、RESQUE-Dのフックは「鎖繋がれてるモンスター」「悪餓鬼6人集めて映画にすれば大人が感動する」といった具合だが、果たしてカタコトはティーネイジャーの心を持った大人なのか、それとも「悪餓鬼」なのか、はたまた鎖に繋がれた「モンスター」なのか? もしも「モンスター」だったとしたら大変だ。いまに鎖をぶっちぎって僕らに襲いかかってくるかもしれない……。

 『HISTORY OF K.T.』は愉快痛快な一撃だ。スチャダラパーとRIP SLYMEの王座を奪うのは、もしかしてカタコトなんじゃないの? そんなことまで想像させるだけのポップネスとユーモアがきらきらと炸裂している。

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