「You me」と一致するもの

Gábor Lázár - ele-king

 マーク・フェルやラッセル・ハズウェルなどとコラボレーション・アルバムをリリースし、そのうえロレンツォ・セニの〈プレスト!?〉からアルバムを発表しているなど、現在のエクスペリメンタル・ミュージック・シーンにおける(隠れた?)キーパーソン、ガボール・ラザールが〈シェルター・プレス〉からソロ・アルバムをリリースした。〈シェルター・プレス〉は、フランスはブルターニュを拠点として、個性的な電子音楽/エクスペリメンタル・ミュージック作品をコンスタントに送り出しているレーベルである。

 それにしても「危機の表象」とは、なんとも意味深なアルバム・タイトルではないか。じっさい、その名が示すように、本アルバムにおいては、どの曲もグリッチされたテクノの残骸が高速に展開していくわけである。となれば、この「危機の表象」とは、グリッチ・サウンド/ノイズのことだろうか。それを示すかのように、アルバム全曲に“クライシス・オブ・リプレゼンテーション”と共通の名前が付けられており、それぞれ「#」記号のあとに、1から8までがナンバリングされている(“クライシス・オブ・リプレゼンテーション #8”はCD盤ボーナス・トラック)。
 じじつ、このアルバムの各トラックは、ノイズ・モチーフが反復され、そしてそれが少しずつ壊れていく構成になっている。まるでグリッチ・ノイズ・サウンドの実験報告のような構成である。エラーの生成がリズムとなり、刺激的な電子ノイズ・サウンドを生成・展開していくのだ(ちなみにマスタリングはラシャド・ベッカー)。

 一聴して分かるように、本作は、SND/マーク・フェル直系のサウンドである。しかしグリッチが、新奇性やフェティシズムの対象ではなく、手法として「当たり前のもの」として存在している点に注目したい。オートマティックでありながら、じつに流麗にコンポジションなされているのである。「無意識」をコントロールするかのように。
 むろん、これはガボール・ラザールだけの特質ではない。たとえばリー・ギャンブル、イヴ・ド・メイ、ロレンツォ・セニなど、新世代エクスペリメンタル・テクノ・アーティスト全般の特徴といえる。彼らはテクノ・アーティストでありながら、同時に(90年代末期から)00年代初頭のグリッチ・サウンドに多大な影響を受けている世代なのである。じじつリー・ギャンブルは〈エディションズ・メゴ〉のマニアだという。
 そう、この10年代初頭においてエクスペリメンタルな電子音響/テクノを創りだしているアーティストたちは、テクノという形式を愛しながらも、しかしそれがグリッチというエラー・ノイズで破壊されていくさまから始まっている。いわば、あらかじめ引き裂かれた「表象の危機」の世代。その「危機」への感覚は、グリッチ以降を生きる者を貫通する意識/無意識ではないかと思う。
 前提となるべき条件がすでに壊れていること。この『クライシス・オブ・リプレゼンテーション』において生成するグリッチ・ノイズは、壊れた時代・世代における(無)意識の発露とはいえないか。私には、この精密で整ったグリッチ・サウンドに、今の時代特有の引き裂かれた無意識と、しかし、その意識を「引き裂かれたまま」統御しようとする強い欲望=意志が感じられてならないのである。

 また、アートワークを手掛けるのは ソフィア・ボダ(Zsófia Boda)。彼女の作品もまた「壊れていることが前提」という時代のアトモスフィアを感じさせる(https://zsofiaboda.tumblr.com/)。こちらも必見だ。


Rebound Tenderness No.2

Carl Craig - ele-king

 いまデトロイトはクラシックを志向しているのだろうか? 先日のジェフ・ミルズに続いて、なんとカール・クレイグまでもがオーケストラとのコラボ作をリリースする。4月28日に日本先行で発売される彼の新作『Versus』には、昨秋デリック・メイをフィーチャーしたアルバムを発表しているフランチェスコ・トリスターノのほか、「スピリチュアル・アドバイザー」なる名目でモーリッツ・フォン・オズワルドも参加している模様。カールとモーリッツのコンビといえば、大胆にカラヤンを解体して再構築してみせた『ReComposed』が思い出されるが、しかし「スピリチュアル・アドバイザー」って何? モーリッツってば、もしかしてスピってるの? これは買って確かめるしかない。

C A R L  C R A I G

クラシック・テクノからモダン・クラシックへ
テクノ史を塗り替えた名曲群がオーケストラで蘇る。
フランチェスコ・トリスターノも参加した
スペシャル・プロジェクトが待望のリリース決定!

 デリック・メイによって見出されデトロイト・テクノ第2世代としてシーンに登場し、様々な名義でテクノ史を塗り替える斬新な作品を世に送り出してきたプロデューサー、カール・クレイグが、オーケストラとコラボし、自身の名曲群を蘇らせたアルバム『Versus』のリリースを発表した。
 本プロジェクトには、新進気鋭の指揮者、フランソワ=グザヴィエ・ロト率いるレ・シエクル・オーケストラとフランチェスコ・トリスターノが参加しているほか、世界で最も長い歴史を持つクラシック・レーベル〈ドイツ・グラモフォン〉の『ReComposed』シリーズでも、カール・クレイグとの強力なタッグを見せたモーリッツ・フォン・オズワルドがスピリチュアル・アドバイザーとして名を連ねている。

 本作の発端となったのは、2008年にパリでおこなわれたコンサートである。カール・クレイグとレ・シエクル・オーケストラとのコラボレーションで、カール・クレイグの名曲“Desire”、“Dominas”、“At Les”、“Technology”、“Darkness”、“Sandstorms”、さらにはスティーヴ・ライヒの“City Life”やブルーノ・マントヴァーニ“Streets”がすべて交響曲として演奏され、2回のスタンディング・オベーションと4回のアンコールが起こるなど、賞賛を浴びた。

 クラブ・カルチャーと伝統音楽の融合は今では真新しいことではないだろう。しかし、これほどまでに見事にふたつが溶け合い、テクノの高揚感とオーケストラの壮大なサウンドスケープが相乗的なシナジーを生み出しているのは、カール・クレイグの秀でた音楽性を証明している。

 カール・クレイグのトラックをオーケストラ用に編曲したのは、クラシックとテクノの両シーンで活躍する天才ピアニスト、フランチェスコ・トリスターノである。トリスターノはこれまでにも、自身のアルバム『Not For Piano』でジェフ・ミルズやデリック・メイ、オウテカのピアノ・カバーを発表するなど、クラシックとダンス・ミュージックを繋ぐキーパーソンとして活躍し、アルバム『Idiosynkrasia』のプロデュースを依頼するなど、カール・クレイグとも親交が深い。本作では、編曲のほか、自身のオリジナル曲も2曲(“Barcelona Trist”、“The Melody”)提供している。また2008年のコンサートで、フランチェスコ・トリスターノとともにステージに加わったモーリッツ・フォン・オズワルドもスピリチュアル・アドバイザーの肩書きで本作に貢献している。

 『Versus』は、変形、再融合、再解釈のアプローチを通じて、カール・クレイグがまったく新しい表現方法を追求する意欲的なプロジェクトである。

重要なのはオーディエンスの概念を変えることや人々を驚かせることだけじゃなくて、音楽について、そして世界における音楽の位置づけとオーディエンスについての型通りの考えを吹き飛ばすことだ。煽動するんじゃなくて、新鮮で新しい議論によってね。
- Carl Craig

エレクトロニックとクラシックのコラボレーションは数多くあったが、これは本当の意味で、精神と精神の音楽的出会いだ。我々が目指したのはオーケストラのアレンジをエレクトロニックの派手さで装飾するのではなく、異なるジャンルの間で会話を生み出すことだった。
- Francois-Xavier Roth

音楽とは整理された音にすぎないということを、もうずっと前にジョン・ケージが教えてくれた。第一にピアノとは装置であり、音の源のひとつであり、ぼくがそれを使う方法はテクノの作曲方法に明らかな影響を受けている。
- Francesco Tristano

 カール・クレイグ注目の最新作『Versus』は、4月28日(金)日本先行リリース! iTunesでアルバムを予約すると収録曲“Sandstorms”がいちはやくダウンロードできる。

label: INFINÉ / PLANET E / BEAT RECORDS
artist: CARL CRAIG ― カール・クレイグ
title: Versus ― ヴァーサス
release date: 2017.04.28 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-546 定価 ¥2,200(+税)
国内盤特典:ボーナストラック追加収録 / 解説付

special talk : Unknown Mortal Orchestra × Tempalay - ele-king


Unknown Mortal Orchestra
Multi-Love
Jagjaguwar / ホステス

Indie Rock

Amazon Tower HMV iTunes


Tempalay
5曲
Pヴァイン

Indie Rock

Amazon Tower HMV iTunes

 去る2月27日。US屈指のサイケデリック・ポップ・バンド、アンノウン・モータル・オーケストラの来日公演が開催されました。当日フロント・アクトを務めた若き日本のバンド、Tempalay(テンパレイ)は、まさにそのUMOに刺戟されてバンドをスタートさせたという経緯があります。となれば、これはもう対面していただくしかないでしょう! というわけで急遽、渋谷 duo MUSIC EXCHANGE の楽屋にて特別対談を敢行しました。以下がその記録です。夢の邂逅をどうぞお楽しみください。

僕たちはUMOを知ってから、3人でもこういうサイケみたいな音楽ができるってことに気がついて、やってみたいと思ったんです。 (竹内)

ルーバン・ニールソン(Ruban Nielson、以下RN):今回のイベンターが「Tempalayも前座に入れていい?」って連絡してきた時に、前座のバンド全部を聴いてみたけど、Tempalayがいちばん良かったよ。

Tempalay:うわー!!!

小原綾斗(ギター。以下、小原):センキュー! あははは(笑)。

RN:他のバンドとは明らかに違ったからね。

竹内祐也(ベース。以下、竹内):僕らはアンノウン・モータル・オーケストラ(以下、UMO)が好きでTempalayというバンドをはじめたんですけど、最初に作った曲(“Band The Flower”)を聴いてもらってもいいですか?

RN:オーケイ、もちろんいいよ。

小原:“FFunny FFrends”をパクってます。(と言いながらスマホで曲をかける)

RN:(流れた曲を聴きながら)うわあ! 2年前に俺の友だちが「日本人のバンドで“FFunny FFrends”みたいな曲を書いたヤツらがいるよ」と言って送ってきた曲を聴いていて、その時はTempalayの曲だってことを知らなかったけど、今初めて気づいたよ(笑)。

竹内:ウソだ(笑)! なんでなんで?

(一同笑)

小原:スゲえ……

RN:ニュージーランドの友だちはどうやって見つけたのかはわからないけど送ってきてくれて、すごくカッコいいと話していたんだ。教えてくれてありがとう(笑)。ドラムの音が素晴らしいね。これは2年前に作ったの?

竹内:そうそう。たぶん2年前ですね。

RN:いいね。クールだよ。これからまたアメリカに来る予定はある?

竹内:去年は行ったんですけど、これから先に行く予定は決まってないので、連れて行ってください(笑)。

RN:オーケイ、もちろん。本当にカッコいいよ。

竹内:僕たちはUMOを知ってから、3人でもこういうサイケみたいな音楽ができるってことに気がついて、やってみたいと思ったんです。ミント・チックス(The Mint Chicks)からUMOになった時に、3人でそういう音楽をやろうと思った理由はあるんですか?

RN:今のバンドはすごく長い期間をかけてどんどん形になっているような感じなんだ。これはよく知られていることかもしれないけど、最初は俺しか曲を書いていなくて、それをネットに上げたらいろんなブログが載せてくれたんだ。それで、当時は『ピッチフォーク』が「いろんなブログを見て、新しい音楽を見つけよう」という感じで、たまたま取り上げてくれたんだよね。そしたら一気にいろんな人たちやレーベルから連絡が来たんだ。その頃はジェイク(・ポートレイト)と俺の弟と一緒に仕事をしていたんだけど、パソコンで「『ピッチフォーク』に載っているこれ、俺なんだけど」って見せたら、「お前バンドやってるなんて言わなかったじゃん!」って言われて。「誰にも言ってないんだよ」と言ったら、「お前のバンドはあるの? ないなら組む?」という話になって、それがジェイクとバンドを組むきっかけだったんだ。そこからレーベルとも契約して、ライヴ・ツアーにたくさん行ったらどうなるか見てみようと思ってUMOを始めたんだよ。ジェイクはいまだに一緒にやっているけど、これだけツアーをやっているとドラマーがみんな疲れて辞めていっちゃうんだよね(笑)。アンバー(・ベイカー)という新しく加わったメンバーが5人目のメンバーかな。

藤本夏樹(ドラム。以下、藤本):えっ、あの女性の方ですか?

通訳:女性の方ですね。

Tempalay:へえー!

RN:今はキーボードのクインシー(・マクラリー)が加わって4人組なんだ。

藤本:ホイットニー(Whitney)のドラマーは?

通訳:ホイットニーのジュリアン(・エーリック)は(UMOの)最初のドラマーですね。

RN:できれば今の4人組が最終形態になればいいと思っているよ。ただ自分のバンドにいろいろな人が加わって、それぞれが別のバンドを組むというのも面白いと思うんだ。いま話したジュリアンがやっているホイットニーとは一緒にツアーを回ったし、前のドラマーのライリー(・ギア)はもう新しいバンドを始めているし、そういう流れも面白いと思うよ。

小原:“FFunny FFrends”が、最初に作ってSoundCloudに上げた曲ですか?

RN:そうだよ。

竹内:そうかー。じゃあ今の4人だったら、ルーバンがやりたいと思っていることが実現可能なのでしょうか?

RN:そうだね。多分実現できると思っているし、彼らと一緒にバンドをできていることは本当に恵まれていると思っているよ。俺は自分の曲をただ演奏してくれるだけのバック・バンドは嫌で、メンバーそれぞれが自分のアイデアを持ち込んだり、特にライヴの時に自分の特徴を出してくれたりするような人が欲しかったんだ。(今のメンバーは)それぞれそういうことをやってくれるし、普通のバンドよりメンバー間で音の交流をいつもやっているから、本当に恵まれていると思う。

小原:(ルーバンが着ているシャツを見て)ちなみに『ストレンジャー・シングス』(ネットフリックスで公開されているテレビドラマ)が好きなんですか?

RN:ああ、そうだね(笑)。自分を気持ちよくさせてくれるようなTシャツを着たいと思っているんだけど、『ストレンジャー・シングス』を観た後に興奮して、eBayで買ったよ(笑)。(小原の着ているTシャツを見て)君が着ているのはコミックの方の『キリング・ジョーク』のジャケットに似ているよね。

小原:『キリング・ジョーク』大好きです、はい(笑)。ところで、今まで聴いて育った音楽とか、影響された音楽についてお訊きしたいですね。

RN:俺の父親がジャズのミュージシャンだったから、小さい頃からジャズやラテンの音楽を聴いていたね。その父親の影響でマイルス・デイヴィスやスティーヴィー・ワンダーとかを聴くようになったんだ。若い頃はよく東海岸のヒップホップが好きで聴いていて、特にウータン・クランはすごく好きだったね。UMOはビートルズから影響を受けていると思われることが多いんだけど、19、20歳くらいまで(ビートルズを)聴いたことがなかったんだ。だから、どちらかと言うと(ビートルズは)自分としては「新しいバンド」という感覚で聴いているんだよね。あとは昔のパンクものでバズコックスとか、ポストパンクのワイヤー、ギャング・オブ・フォー、PiL、ラモーンズとか、あの辺りはぜんぶ聴いていたね。このバンドを始める時はその要素をごちゃまぜにしたような感覚でやっていたよ。

小原:逆に最近聴いている音楽はなんですか?

RN:最近はサンダーキャットが好きだね。

竹内:ああ、最高。サンダーキャットはヤバいですよね。

小原:“Tokyo”って曲があるじゃないですか。

RN:あるね! その新しい曲の歌詞のなかに、歯医者へ行ったら悟空の人形のおもちゃがあって、その悟空のせいで人生が狂った、みたいなことが書いてあったね(笑)。

小原:サンダーキャットさんとは繋がりがあるんですか?

RN:LAのケンドリック(・ラマー)とも繋がりがあるようなジャズ・ミュージシャンは好きなんだ。カマシ・ワシントンとサンダーキャットは、自分たちが出たフェスで俺らの演奏が終わった後に楽屋に来てくれて、そこにはフライング・ロータスもいて、それまで彼らとは会ったことがなかったけど彼らの音楽は大好きだったから、思わず興奮してしまったね(笑)。そこで一緒にハッパを吸って楽しんだんだけど(笑)、そこから仲良くなったんだ。もしかしたら俺たちがこれから作るアルバムで、サンダーキャットに1曲参加してもらえないか提案するかもしれないんだよね。

竹内:特ダネじゃないですか。

RN:俺は10代の頃から音楽オタク並みにいろんな音楽を追っていたんだけど、今は自分が音楽を作る側になったのと、常に音楽に囲まれた生活になっていることもあって、あえて新しい音楽を無視することもよくあるんだ。ひとりの人間が「新しい」と呼ばれているものを発見するまでって時間がかかると思うんだよね。だから自然と友だちのバンドの音楽を聴くことが多くなっている。テーム・インパラ、マック・デマルコ、コナン・モカシンといった自分と繋がっている人たちの音楽を聴くことのほうが多いかな。ただLAのサイケ・シーンとかヴァイナル・ウィリアムス、モーガン・デルト、あとはダーティ・プロジェクターズなんかも好きなんだけどね。発見するまで時間がかかるようになったね。

小原:モーガン・デルト大好きです。

RN:そうなんだ。年越し(ライヴ)を一緒にやったよ。

竹内:インディペンデント(サン・フランシスコのライヴ・ハウス)でですか?

RN:そうだね。

竹内:去年SXSWでTempalayのライヴをした時に、インディペンデントへ行きましたよ。

RN:本当? いいね。昔KING BROTHERSと一緒にツアーをしたときに「すげえ」って言葉を教えてもらったり、ギターウルフと4、5回一緒にやったりしたね(笑)。

小原:ところで、レコーディングはハッパを吸いながらやるという記事を読んだことがあるんですが……

RN:いや、食べるほうが多いね。そのほうがゆっくりキマるし。

(一同笑)

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オタク並みに色んな調整を追求していくのもいいんだけど、行き過ぎるのはあまり良くないってことだね。大切なのは正しく演奏するということで、それを忘れちゃいけないんだ。 (ルーバン)

小原:ひとつ発見したことがあるんですけど、UMOの“From The Sun”という曲は、逆再生しても同じように曲が流れますよね?

RN:え、本当? 気づかなかったよ(笑)! いいね、今度試してみたいな。

小原:これです。(“From The Sun”の逆再生ヴァージョンをかける)

RN:これが逆再生? ははは(笑)。戻ったら自分でもやってみるよ。どうして逆回転することになったのかわからないね(笑)。

小原:たまたまです(笑)。ところで僕はルーバンのギターの音が大好きなので、ルーバンのあのギターの音を出してみたいです。

RN:ありがとう! (小原持参のギターを指しながら)このギターはたぶん合うと思うよ。僕がよくやっているのは……(ギターを弾きながら)アドナインスコード、メジャーコードだね。あとはこんな感じでマイナーのコード。今のが俺の音のすべてだね(笑)! 君なら全部できるよ(笑)!

小原:センキュー! キマります(笑)。

RN:あとはこんな感じでネックとボディをプッシュして……

竹内:たしかに映像で見たことあります。プッシュするのはネック? ボディ?

RN:その両方だね。ネックとボディをプッシュするんだ。

小原:(弾きながら)これけっこう力いるな……

RN:俺は慣れちゃっているからわからないけど、そんなに力はいらないよ。立っているほうがやりやすいと思う。

小原:ギターがかわいそうなんですけど……

RN:俺はいつも半音下げのチューニングで弾いているんだけど、弦のテンションが下がっているからよりやりやすいんだと思う。ジミ・ヘンドリックスのチューニングだね。

小原:ああー。ジミ・ヘンドリックス大好きです。サンキュー。後でギターを見せてもらってもいいですか?

RN:もちろんいいよ。

小原:僕は以前ニューヨークで、まだ3人でやっている頃のUMOを見たんですよ。その時にエフェクター・ペダルをパチパチやっていて……

RN:今はちょっと入れ替わったものを使っているんだよね。

小原:自分で(エフェクターを)作っている?

RN:そうだね。

小原:(自作エフェクターを)ください(笑)。

RN:じゃあアメリカでツアーを一緒に回った時に、かな。(笑)

Tempalay:うおーい!!!

小原:スゲー、スゲー! センキュー!

RN:俺らを見たのはどこの会場か覚えている?

小原:ブルックリンのウィリアムズバーグ・ミュージックですね。でも対バンがいなくて、DJなどの出演者が多いイベントでした。

RN:自分でもあまり思い出せないな……

小原:3ピースでしたね。『II』のアコースティック・ヴァージョンみたいな青いジャケのEP(『ブルー・レコード』)があるんですけど、そのツアーの時でしたね。

RN:ああ、思い出したよ。

小原:僕は涙しました。

RN:本当に? 僕も泣いたよ。

Tempalay:ははは(笑)。

竹内:音源のローファイな質感をライヴでそのまま再現するのは難しいと思うんですけど、ライヴの時はどんな質感の音を出したいと思っていますか? ライヴだからダイナミクスをつけるとか、そういう意識はしているんですか?

RN:ライヴではなるべくライヴなりの音に変えようと思っていて、特にヴォーカルを歪ませるということをすごく意識している。ジェイクとオタク並みに話し込むことがよくあるんだけど、プリアンプを多めに使うことがあるね。プリアンプを通すことによってヴォーカルの歪みをもらってよりアナログ的な音にする、ということをやっているよ。(バンドを)長く続けていて機材にお金をつぎ込めるようになってきたから、プリアンプの量を増やしたりすることができるようになってきていて、今よく使っているのはJHS 500シリーズのニーヴ(Neve)・コンソールという種類のペダルで、それを通すことで独特の歪みを作っているんだ。

小原:メモりたい(笑)。

竹内:こんなに教えてくれるとは思わなかったね。ライヴではヴォーカルの音にいちばん気をつけているということですか?

RN:そうだね。でもヴォーカルだけじゃなくて、みんな音全体に気を使っている部分もあるし、自分もギターのペダルは時間をかけて調整しているよ。たとえば今回のツアーのシンセサイザーは、アルバムで実際に使ったものを持ってきているんだ。コルグの700とか、ローランドのRS-9とか昔のアナログ・シンセなんだけど、それを自分で少し改造して使っている。本当は昔のフェンダー・ローズなんかを持ち運べれば最高なんだけど、それはまだ現実的じゃないね。ジェイクもずっとベースの音を調整しているし、みんなそれぞれ音に気を使ってつねに改善しようとしているよ。ただ、ヴォーカルはアンプを通していないから、プリアンプを使うことで調整しやすいということがあるかな。

無意識で舞い降りてくるようなものがいちばんいいアイデアだったりするから、そういうところを解放してあげるといいんじゃないかな。意識的に何かをやろうとするとうまくいかないよね。 (ルーバン)

RN:初めてアンバーとライヴをやったのがカナダのフェスだったんだ。もちろん彼女は俺たちの作品を聴いていたけど、その直前に数時間しか練習する時間がなくてね。しかも会場に行ったら機材が全部届いていなくて、自分たちの機材がない状態だったんだ。それで、前の出番のバンドの(ドラム・)ペダルだけ変えたり、自分も人からギターを借りたり、全員知らない人たちの楽器を弾いたんだ。シンセも小さいデジタルのものだったし、その場でやらなくちゃいけなかったんだけど、そのライヴがすごく楽しかったんだよね。つまり言いたいのは、オタク並みに色んな調整を追求していくのもいいんだけど、行き過ぎるのはあまり良くないってことだね。大切なのは正しく演奏するということで、それを忘れちゃいけないんだ。

竹内:いいこと言うねえ。

小原:エフェクターの回路についてアドヴァイスが欲しいです。

RN:まずディストーションを最初に置いて、真ん中は空間系のリヴァーブとディレイ、モジュレーター系は最後のほうに持っていくのがいいかな。一般的にはそういった構成が多いよね。

小原:じゃあ意外とスタンダードなんですね。

RN:そうだね。

小原:サンキュー。曲作りのアドヴァイスもいただけたら嬉しいです。UMOの曲の作り方、知りたいです。

RN:そうだなあ。ある本を読んだんだけど、自分にとっていちばん大切なライヴで悪い演奏をしてしまって、誰もいないようなド田舎での10人くらいのライヴでいちばんベストなライヴができたという話が書いてあったんだ。ライヴでも曲作りでも、意識的に気にしないということがすごく大切なことだと思う。今まで学んできたことや培ってきたさまざまな技術があると思うんだけど、ある意味それに無関心でいるというか、それを気にしてしまって何かを表現しようとすると自分のエゴが出てきてしまうから、そういうような曲を書いていたら良いものは生まれないと思う。たぶん、無意識で舞い降りてくるようなものがいちばんいいアイデアだったりするから、そういうところを解放してあげるといいんじゃないかな。意識的に何かをやろうとするとうまくいかないよね。それは作曲においても当てはまるんじゃないかな。

竹内:いいこと言うなあ。

小原:お酒は好きですか?

RN:ああ、今もけっこう二日酔いだよ。

Tempalay:ははは(笑)。

RN:お酒はよく飲むんだ。でも、アンバーはまだ24歳でバンドでいちばん若いんだけど、彼女は他の誰よりも飲むんだよね。彼女の出身地のケンタッキー州はバーボン発祥の地だからね(笑)。自分たちもけっこう飲んだくれだと思っていたんだけど、彼女はもっとタフなんだ(笑)。ちなみに昨日の夜はロボットレストランに行ってきたよ。

竹内:おおー。2年くらい前にも行っていたよね?

RN:2年前はロボットレストラン自体には入っていなくて、その近くまで行って写真を撮ったんだ。実際には行かなかったんだよね。それを想像で曲にしたんだ(笑)。今回行ったのが初めてだったね。

小原:想像なんだ(笑)。

RN:でも今回は楽しかったよ。

小原:じゃあライヴの後に乾杯しましょう。

RN:おお、いいね!

小原:センキュー! 最後にサインを貰ってもいいですか?

RN:たぶん来年の後半にツアーをするから、もし本当に一緒に回るならちゃんと話したほうがいいよね。

竹内:本当?

RN:ああ、本気だよ。

小原:センキュー!

RN:いい出会いだね。(ペンを渡されて)ギターに書こうか(笑)?

竹内:それ、めっちゃ嬉しいじゃん。

小原:好きなところに書いてください。たくさん絵を描いて!

竹内:イタリアの古いビザール・ギターなんだよね。

RN:クールだね。これ好きだよ。

竹内:ルーバンはライヴ前に飲まないんですか?

RN:俺はいつもステージで(酒を)飲んでいるよ。感覚を忘れないようにね(笑)。

Tempalay:ははは(笑)。

RN:(ギターを渡して)これでいいかな?

小原:センキュー! やったぜ。

【イベント情報】

●3/18 (土) 東京 渋谷WWW
Tempalay『5曲』リリース・パーティ & Jerry Paper来日東京公演
OPEN 18:00 / START 18:30
TICKET: adv. ¥3,500 (D別) / door. ¥4,000 (D別)
LIVE: Tempalay / Jerry Paper (from LA) / ドミコ (OA)

※各プレイガイドにてチケット発売開始

●3/26 (日) 大阪 アメリカ村CLAPPER
Tempalay『5曲』リリース・パーティ & not forget pleasure4
OPEN 17:00 / START 17:30
TICKET: adv. ¥2,500 (D別) / door. ¥3,500 (D別)
LIVE: Tempalay / オオサカズ / Klan Aileen / DIALUCK

※各プレイガイドにてチケット発売開始

【リリース情報】

Tempalay
New EP 『5曲』
Release: 2017.02.15
PCD-4549
¥1,500+税
https://p-vine.jp/music/pcd-4549

[Track list]
1. New York City
2. Austin Town
3. ZOMBIE-SONG feat. REATMO
4. CHICAGO in the BED
5. San Francisco


Unknown Mortal Orchestra
Multi-Love
Jagjaguwar / ホステス

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Tempalay
5曲
Pヴァイン

Indie Rock

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Sleaford Mods - ele-king

 グラマラスなファンタジーや甘美な逃避、あるいは癒される家庭料理のような音楽が人気の現イギリスにおいて、苦く塩辛く喉にイガイガ引っかかる、容赦なく辛辣で露悪でノイジー、しかもコミカルな地声で気を吐くユニークなアクトのひとつであるノッティンガム発のデュオ:スリーフォード・モッズ。それをパンクと呼ぶ人間もいるし、ポエトリー(ジョン・クーパー・クラーク)とUKヒップホップ(ザ・ストリーツ)の融合と称する者もいる。いわゆる「ロック・セレブ」のなかでSMファンを探せば、イギー・ポップとスティーヴ・アルビニというタフな面々が名乗りをあげている。
 逆に言えば浮いているということで、政治家から単調な仕事、ヒップスターにロック・スターまでモダン・ライフにこびりついたクソを容赦なく指摘しディスるゆえに一種の「鬼っ子」として煙たがられているフシもある。そんな彼ら──2005年にジェイソン・ウィリアムソンの宅録ソロとして始まり、試行錯誤の末にジェイソン(ヴォイス)&アンドリュー・ファーン(ビート)のデュオ体制を確立──がプロパーなスタジオ・アルバムとしては4枚目になる本作『イングリッシュ・タパス』(自主制作でネットやCD-R流通の初期作品まで含めれば9th)にまで漕ぎ着けたことに、それだけでも一種の感慨を抱いてしまう。
 「漕ぎ着けた」なんて、大袈裟な……と笑う人もいるかもしれない。だが、彼らに最初のブレイクをもたらした『オースティリティ・ドッグス』(2013年)をリリースした〈Harbinger Sound〉は、地元ノッティンガムの市バス運転手という「表」の仕事のかたわら、スティーヴ・アンダーウッド(SMのマネージャーも兼任)が自宅を拠点にしこしこ運営してきたDIYレーベル。それを思えば、どこまでもローカルでパーソナルな声が、「ポップ」あるいは「ラジオ向けのヒット」という意匠にすり寄ったり持ち味を中和することなく全国区に届いた、これは稀な例のひとつと言っていいと思う。
 ちなみにイギリスにおける『ET』の全英チャート成績を見ると、前作『キー・マーケッツ』(2015年)よりも1ランク下がった初登場12位という結果になった。ストリームやYoutube再生回数といったバブルも「売り上げ」として換算されカウントされる現在のUKチャートに、おそらくスリーフォード・モッズ側もさほど執着はないのだろうと思う。しかし上昇し続ける人気と注目度に反して今作での初のトップ10入りを逃したのは、おそらく同じ週に発売されたエド・シーランの新作『÷』とそのマッシヴな波状効果(おかげでシーランの過去2枚もアルバム・チャートのトップ5に返り咲いている)の影響だ。シーランが世界的なポップ・スターであるのを考えれば、当然の話かもしれない。とはいえ、人畜無害を絵に描いたようなシーランとその巨大なファン層=静かなる多数派が、スリーフォード・モッズという異分子を安々と押しつぶした──いまのイギリスを象徴する構図だよなあ、などとつい深読みしたくもなる。
 アルバムに話を戻そう:〈ラフ・トレード〉移籍第1弾として昨年発表された、いわば「予告編」に当たるEP『T.C.R.』の表題曲はベース・ラインにニュー・オーダーやザ・キュアーが思い浮かぶ「インディ・ポップ」とすら呼んでいい作風だった。彼らにとっては新境地であり、この飄々とした自嘲トーンがアルバムを方向付けるのか? と思ってもいた。しかし『ET』は、『キー・マーケッツ』でのサウンド&音楽面でのストイックさを押し進め、歌詞も歌い手の外側だけではなく内側にも広がる闇を飲み下し凝縮したものへとシフト・チェンジしている。彼らの進み方は「三歩進んで二歩下がる」型だと思っているが、これまででもっともタイトでフォーカスの絞れた成長作であると同時に、ビターでダウナーな余韻を残す1枚にもなっている。 
 過去のアルバムのように「イントロ」的なオープニング・トラックで軟着陸するのではなく、のっけから本編に突入=“アーミー・ナイツ”の乾いたスパルタ・ビートがムチのようにうなる展開にも変化は感じる。この曲も含めた冒頭3曲は、小気味良くシンプルなビートといいシンガロングしやすいコーラスやポゴ誘導型シャウトといい、いわば「王道なSM節」を性急にたたみかける。リリックにしても、過剰にシビアなジム文化を軍隊教練に重ねる①、成功を妬むイギリス人気質を自らも含めてクサしノスタルジアを断罪する②、ポスト・トゥルース時代を嘆くごとき③と、リアリティをスパッと切り取る観察眼とそこに皮肉なコメディを見出す筆舌は健在だ。
 だが、ここから先の展開こそ意外でスリリングだと思う。作品中盤〜後半にも、軽快なビートが引っ張る掴みの良い楽曲はいくつか含まれている。とはいえ、ミッド・テンポ〜スローな“メッシー・エニウェア”、“タイム・サンズ”、“ドレイトン・マナード”、“カドリー”、“B.H.S.”、“アイ・フィール・ソー・ロング”といったいわゆる地味めなトラックの堂々巡りに円環するグルーヴやダビーな反響、そしてフィルム・ノワールを思わせる閉塞感は、本作にサイコソマティックな内省の絵も浮かび上がらせる。
 「うるせぇ! オレはパラノイアなんかじゃねぇよ!」のモノローグからはじまる“タイム・サンズ”は、しかし通勤という判で押されたルーティンを重〜い二日酔いを引きずりながらこなす苦痛と、それを癒すための酒のグラス(=時間が砂になって落ちていくガラスの砂時計もだぶる)という悪循環を見つめる視線がうそ寒い。「スパー(コンビニ・チェーン)への買い出しは火星へのトリップ気分」の傑作なコーラスに笑いつつもやがて泣けてくる“ドレイトン・マナード”には、ビールでもウィスキーでもドラッグでもなんでもいいからハイになり頭を空っぽにすることを求めるキャラが出てくる。彼は酔った勢いで破れかぶれになって“メッシー・エニウェア”のようにトラブルを起こし、夜が明けると共に訪れる後悔が“タイム・サンズ”のサイクルをまたはじめるのだろう
 その“ドレイトン・マナード”のヴァースには、「21歳だった頃、クラブで〝(酒やクスリで)無茶したってどうにかなるだろ? オレたちは実験用モルモットなんだし〟と笑っていた/でもいま気づいたのは:モルモットから成長できた連中はほんのわずかに過ぎなかったってこと」という箇所がある。現在46歳であるジェイソンにとって、若き日のケアフリーで「なんでも来い!」な無邪気さと、25年経っても社会の実験台あるいはハムスターのように回り車をカラコロ走り続ける自分の姿が本質的に同じであることを認めるのは、痛かったはずだ。

 本作は、なにも「おっさんの嘆き」が詰まった作品ではない。しかしジェイソンが音楽業界における年齢差別(彼が若いバンドをこきおろすと、「おっさんは黙れ!」、「嫉妬は醜い」等ケナされるらしい)をこぼしているように、中年男性はこういう風に案外もろくて、メンタル/アイデンティティ面で危機を抱えているのかも……という疑念は、自分の周囲からもよく感じてきた。子持ちで50歳を越えたいまもクスリ仲間とクラブに向かい、ヘロヘロになる「失われた週末」を繰り返すレイヴ系オヤジとか。生来のシャイさを克服すべく酒に空元気をもらい、しかし毎回度を越えて酔っぱらい単なる傍若無人な迷惑野郎に変身してしまう中年とか。20近い年齢差のある若く可愛いガールフレンドをゲットしたものの、彼女の感情的なアップ/ダウンの激しさやドラマに翻弄されケンカ沙汰が絶えない者とか。みんなよく体力が持つよな、と感心させられる。
 レクリエーションをどう過ごそうが当人の勝手だし、楽しいからやっている&最低限の節度を守っていれば結構。しかしそうした一見無茶な飲み方・食い方や懲りない振る舞い──「オレはまだイケてる、若い連中と張り合える」型のブラフと言ってもいい──には、ある種の悲壮感も漂う。イギリス人のなかにも「酒は百薬の長」とばかりに飲酒を「セルフ・メディケイション(自主服薬)」と称して言い訳する/正当化するフシはある。ただ、飲んでいたはずが飲まれていた、ストレス発散のはずがストレス発生源になっていた、というシャレにならない状況に陥りあれこれ苦悩する中年男性たちを見ていると、彼らの潜在意識には一種の地雷が内蔵されているのだろうか? とすら感じることがある。基本的にはその地雷を踏まないように動いているわけだが、でも、地雷があるのであれば──爆発をどこかで欲してしまう妙な衝動も生まれるだろう。
 過去の歌詞からも窺えるが、先だってのele-king取材でも、ジェイソンは若い頃に酒やドラッグといったエクセスにハマっていたことを話していた。去年から禁酒しているだけあって、改宗者の常である「バカだったよな、オレ」型の反省が取材の場でもつい顔を出してしまうようだ。が、それを聞いていてこの人はセルフ・メディケイションからセルフ・エデュケイションに移行したのだな、と感じた。ヤケになって地雷原に踏み込むこともできるが、地雷のメカニズムを知りその所在を割り出し、解体するか不発弾として終わらせることもできるのだ。面倒くさいが、彼は後者の道を選んだようだ。

 素面じゃ面白くないだろうとか、有名なラフ・トレード西店前での2014年のパフォーマンス映像──歌おうとした矢先に、マイクを乗っ取ろうとフラフラ寄って来たちょっとおかしい通行人を「失せろ!」とジェイソンが一喝──のように、剥き出しの怒りや苛立ちをブチまけるカタルシスがSMだ、という考え方もあるだろう。しかし、かつての彼らが映画『プレデター』の特殊部隊のように「見えない敵」やジャングルを相手にするフラストレーションから誰彼構わずペイントボールを発射していたのだとしたら、『ET』はエイリアンの恐ろしさを悟った『プレデター』の後半でのシュワルツェネッガーの姿勢=より正確に標的を選定し見定め、弾丸を無駄にせず的中させようとするサヴァイヴァーのマインドを感じさせる。そこに失意や疲労感が聞こえるとしたら、おそらく、酩酊やドーパミンに押されたマッチョな悪夢から醒めたところ、起きたら現実もまた悪夢だった……という認識があるゆえではないだろうか。

 “B.H.S.”という曲は、British Home Storeという名の88年の歴史を誇る庶民向けデパートが小売り業界の名うての富豪に買収劇のコマとして使われた末に潰れ、従業員たちの年金がパーになったスキャンダルを背景にしている。今朝、近所のショッピング・センター街に行く用事があったのでついでに見にいったところ、昨年9月に閉店したにも関わらずBHS旧店舗はまだテナントが見つからないまま、お店の立ち並ぶ通りにみっともない隙っ歯を作り出していた。
 この曲のコーラス部の「オレたちはBHSみたいに沈んでいく/いい身体をしたハゲタカみたいに業突く張りな連中に監視され、ついばまれながら(We're going down like B.H.S./While the abled bodied vultures monitor and pick at us)」というフレーズを聴くたび、「B.H.S.」が「N.H.S.(National Health Service:イギリスの国民保険サーヴィス)」にだぶってしまう。2012年のロンドン・オリンピック開会式で総合ディレクターを務めたダニー・ボイルは、第二次大戦後イギリス社会の最大の功績のひとつとしてNHS制度を讃える場面──おそらく、世界中のオリンピック観衆には意味不明なシークエンスだったと思うが──をわざわざ挿入した。そこから5年経ったいま、NHSは予算から人員からベッド数まで、様々な不足で危機に見舞われているという。本作のジャケットに映り込んだ空が真っ黒なのも、不思議はない。

 覚醒を経て戦略を少々変えたSMは、今後どうなるのだろう。本作のヒットによってイギリスにおいては人気の面での最初のピークを迎えたと言えるし、知名度の広がりに伴いコア・ファンだけではなくグレー・ゾーンの聴き手も増えてくるタイミング。実際、知人の友人には「四文字言葉で罵りまくっててすげえ。最高!」とSMにうっぷん晴らしを求めるだけのファンもいるというし(中学生じゃあるまいし)、ジェイソンが否定しているにも関わらず彼らに付いて回る「政治的なアクト」や「労働者階級の声」なるレッテルを作品そのものをちゃんと聴かないまま鵜吞みにし、SMのリアルさを問う声も出てくる(ストレート・エッジじゃあるまいし)。こうした状況に、イギリスにおいてオイ!パンクがたどったのに似た展開を想像できてしまうのには軽く目眩すら感じる(たぶん、筆者の杞憂ですが)。

 “ジョブシーカー”のコーラスを合唱し拳を突き上げ、“ツイート・ツイート・ツイート”のUKIP批判に溜飲を下げるのも、もちろんOK。が、モッシュの汗が拭われビールの泡が消え嗄れた喉の痛みが去った後も、本作に描かれる様々な闇は残る。ブレクシットも、トランプも、簡単には去らない。だったら、腹をくくって長期戦の準備をはじめるしかない──常にリアリストであり続けてきたSMにはその点が見えている。『ET』はいささか重いアルバムだが、それは嘘をついていない音楽だからだ。

 昨年7月、世を去ったウッドマンがのこした音源の発掘を日々進める虹釜太郎氏と〈WOOD TAPE ARCHIVES〉主宰のhitachtronics氏による「ウッドマンを聴く会」が来る18日、神楽坂のNotre Musiqueに「北極ブギー vol.1」と称してお目見えする。主旨はいたってシンプル、よほどのウッドマン好きでも聴き逃したにちがいないカセット時代の名曲迷曲凄曲の数々をかけ聴きかけ聴きまた聴くこと。タイトルはウッドマンの未発表のフル・アルバム『Alaska2』冒頭の「北極ブギーdub」より拝命。Vol.1と掲げるだけに2弾、3弾と陸続するのを願ってやまないが、月あけて翌月の2日には空間現代のジョウバコである京都の「外」で「ウッドマンを聴く会」の出張版ともいえる「無機むき音楽研究所とゾンビサントラ解剖とウッドマンという謎」をふくむ2デイズ・イベントもあります。前日のエイプリルフールには「パリペキン未解決事件となぞ音楽」と題し、24年前にオープンしたレコード店パリペキンをふりだしに〈360°records〉、〈drifter〉、〈radio〉などのレーベル運営をとおし音(楽)のおおいなるナゾに併走しつつそのナゾを深めつづける虹釜太郎の足跡をたどるトークとゲストライヴがおこなわれるという。さらにとってかえす道中の伊勢では4日には多士済々によるトークとウッドマンの楽曲をもちいたDJイベントも。
 はたして事件はぶじ解決するのか迷宮に入るのか、予断を許さないが、ネット時代の整然としたアーカイヴにはあらわれない、歴史の地層にはしる断層と切断面を体感すべく、ぜひ会場に足をはこばれたい。 (松村正人)


■ ウッドの坩堝presents『北極ブギー vol.1』
2017年3月18日(土)15:00~20:00
神楽坂Notre Musique
No Charge (要ドリンク代/カンパ希望)
出演:虹釜太郎 / hitachtronics
※WOODMAN’s LABEL Sound Only.


■ 虹釜太郎の「パリペキン未解決事件」2days
2017年4月1日(土)、4月2日(日)
両日ともに開場:16:30 開演:17:00
料金:前売り2,000円、当日2500円
ウェブ予約(https://soto-kyoto.jp/0401-0402reservation/

4月1日
パリペキン未解決事件となぞ音楽

第一部 
ゲストライヴ:buffalomckie

第二部
パリペキン前史~未解決なこと~音楽をめぐる難題~
なにがアウトサイダーか~これからも記憶から消えたままかもな音楽と音と音楽家について

第三部
謎音楽の夕べ
トークゲスト:buffalomckie

4月2日
無機むき音楽研究所とゾンビサントラ解剖とウッドマンという謎

第一部 
ゲストライヴ:bonnounomukuro

第二部 
無機むき音楽研究所(忘れられた音楽)

第三部 
ゾンビ映画サントラ解剖サンプル

第四部 
ウッドマンのカセットレーベル【wood】と【japonica】と北極ブギー
トークゲスト:bonnounomukuro、hitachtronics
(New Masterpiece)
※4月2日資料協力:ウッドの坩堝 WOOD TAPE ARCHIVES


■ 北極ブギウギ全員集合
2017年4月4日(火)19:30~
伊勢2NICHYOUME PARADAISE
Charge: 1,500円

第1部:ウッドの坩堝トーク
第2部: WOODMAN楽曲使用でのDJ
出演:虹釜太郎 / takuya / bonnounomukuro / hitachtronics / buffalomckee
食料:再生▷

WOOD TAPE ARCHIVES
https://woodtapearchives.tumblr.com/
https://woodtapearchives.bandcamp.com/


https://soto-kyoto.jp/

Heroes - ele-king

 デヴィッド・ボウイの黄金期を1970年代とするなら、その最後の栄光の日々を彼はベルリンで送っている。コカインと水だけで生きていたと揶揄されるほど荒んだアメリカ時代に見切りを付けたとき、ボウイはロンドンに戻らず、西ドイツへと向かった。実現しなかったとはいえ、クラフトワークにツアーのフロントアクトをオファーし、ノイ!を愛聴し、旧友イーノが訪ねたクラスターの城に興味を覚え、そして彼はあらたな拠点としてベルリンを選んだ。やがて『ロウ』というタイトルの、スーパースターが企てた、ヒットパレード音楽からのもっとも過激な離脱が生まれた。
 『ヒーローズ ──ベルリン時代のデヴィッド・ボウイ』は、ドイツ人・ジャーナリストが描く、1976年から1978年までのデヴィッド・ボウイのドキュメント、物語、記録、解説、だ。ルー・リードは行ったことがない街の幻想を『ベルリン』として描いたが、ボウイはイギー・ポップを連れて、壁に囲まれたその歴史的な街に実際に住んだのだ。
 そこは1920年代の、ワイマール時代の幻影を残しながら、しかし大戦後東西に引き裂かれた街だった。時期はパンク台頭前夜、ドイツの左翼運動の転機となった「ドイツの秋」と重なる。また彼の地においてはデヴィッド・ボウイは、ベルリンの集会に出席したミシェル・フーコーが、深夜、フランス現代思想をドイツで出版する版元の編集者に連れられていった有名なゲイ・バーの常連だった。歴史のうねりを感じながら、デヴィッド・ボウイは、この時代の彼の圧倒的な名曲、先駆的なサウンドと素晴らしい言葉を持った“ヒーローズ”を描き上げている。
 本書は、ワールド・ミュージックを取り入れた『ロジャー』でベルリンから旅立つまでの濃密なときを数々の文献をもとに再構築しながら描き、ドイツ人ジャーナリストは、デヴィッド・ボウイとは何者であり、ベルリンとはいかなる場所であったのかを考察する。
 デヴィッド・ボウイのベルリン3部作こそ好きだ、というファンは必読。

ヒーローズ──ベルリン時代のデヴィッド・ボウイ
トビアス・ルター 著/沼崎敦子 訳
Amazon


■目次

INTRODUCTION

1 地獄から来た男
THE MAN WHO CAME IN FROM HELL

2 ボウイ教授のキャビネット
THE CABINET OF PROFESSOR BOWIE

3 『ロウ』、あるいはスーパースターの医療記録
LOW, OR A SUPERSTAR’S MEDICAL RECORDS

4 新しい街、新しい職
NEW CAREER, NEW TOWN

5 崖っぷちのパーティ
THE PARTY ON THE BRINK

6  デヴィッド・ボウイを見たかい?
DID YOU SEE DAVID BOWIE?

7 ヒーローズ
HEROES

8 さらばベルリン
GOODBYE TO BERLIN


結び 彼は今どこに?
CODA: WHERE IS HE NOW?

Coldcut × On-U Sound - ele-king

 これは事件です。サンプリング・ミュージックのパイオニアにして〈Ninja Tune〉の設立者であるコールドカットと、UKダブの巨匠にして〈On-U Sound〉の創始者であるエイドリアン・シャーウッドがコラボしました。これは昂奮します。夢の共演とはまさにこのこと。もはや説明不要のこの二組は、Coldcut x ON-U Sound という名義で5月19日にアルバム『Outside The Echo Chamber』をリリース。現在、リー・ペリーやジュニア・リードをフィーチャーしたトラック“Divide And Rule”が先行公開されています。これは昂奮します。


Coldcut x On-U Sound

ヒップホップとレゲエのスピリットをUKに持ち込み
その後の音楽シーンを一変させた先駆者がまさかのコラボ!
歴史的アルバム『Outside The Echo Chamber』から
リー・スクラッチ・ペリー参加曲“Divide and Rule”を公開!

コールドカットのマッシュアップは〈ON-U〉からヒントを得たんだ。
〈ON-U〉がなければ〈Ninja Tune〉も存在していなかったよ。
- Matt Black (Coldcut)

サンプリング・カルチャーのパイオニアにして〈Ninja Tune〉を主宰するコールドカットと、UKにおけるダブ/ポストパンク勃興の象徴にして、〈ON-U Sound〉を主宰するエイドリアン・シャーウッドが、驚きのコラボ・アルバム『Outside The Echo Chamber』を発表し、リー・スクラッチ・ペリー、ジュニア・リード、エラン・アティアスが参加した新曲“Divide and Rule”を公開した。

Coldcut x On-U Sound - 'Divide and Rule feat. Lee ‘Scratch’ Perry, Junior Reid and Elan'
https://www.youtube.com/watch?v=t1HtUqJ4zSk

10曲のオリジナル楽曲に加え(国内盤にはさらに1曲を追加収録)、6曲のダブ・ヴァージョンを収録した今作には、リー・スクラッチ・ペリー、ジュニア・リードのほか、ルーツ・マヌーヴァやチェジデック、セシル、メジャー・レイザーのメンバーとしても活躍したスウィッチの新たなプロデューサー・コレクティヴであるウィズ・ユー、トドラT、など、グローバルなミュージシャンやヴォーカリストが集結し、ロンドン、ラムズゲート、ジャマイカ、ロサンゼルスでレコーディングされている。

ジャマイカ移民が持ち込んだサウンドシステム・カルチャーによって、1960年代から徐々にUKに根付き始めたレゲエ・ミュージックは、ザ・クラッシュのジョー・ストラマーやセックス・ピストルズのジョン・ライドンらパンクスたちの心を掴んだことによって、70年代後半以降の音楽シーンに大きな影響を及ぼしたことはよく知られている。当時の社会情勢に対する反抗的な姿勢ともリンクした大きなうねりの中で、その象徴的存在だったのが、エイドリアン・シャーウッドが1981年に立ち上げた〈ON-U Sound〉だった。エイドリアンは、その輝かしいキャリアの中で、ザ・スリッツのアリ・アップやポップ・グループを率いるマーク・スチュワート、PiLのキース・レヴィンらが集結したニュー・エイジ・ステッパーズをプロデュースするなど、当時のパンク/ポストパンク・バンドとジャマイカの伝説的アーティストを繋ぐ重要なキーマンとしての役割を果たしている。このムーヴメントはいっときのトレンドでその役目を終えることなく、マッシヴ・アタックの登場をはじめ、その後の音楽シーンに様々な痕跡を残している。

この重要な時代の節目を肌で感じながら、エイドリアン・シャーウッドとはまた違う歩みを辿り、UKシーンのその後の発展に多大な影響を及ぼしたのが、コールドカットである。ターンテーブルのみで制作した87年リリースのデビュー曲“Say Kids, What Time Is It?”はその画期的なサンプリング手法が世界に衝撃を与え、同年リリースされたエリックB&ラキムのリミックス“Paid in Full (Seven Minutes Of Madsnes - Coldcut Remix)”によって、一気にその名を轟かせる。彼らはラップをレイヴァーたちに紹介し、またヒップホップとアシッド・ハウスを融合し、エレクトロニカやブレイクビーツといったより多様性のある分野で先駆的存在となった。90年代には〈Ninja Tune〉を設立し、〈Mo’ Wax〉主宰のジェームス・ラヴェルや、DJシャドウらとともにトリップ・ホップやアブストラクト・ヒップホップと名付けられたムーヴメントの礎を築いていく。

ダブ、ロック、レゲエ、ダンス・ミュージックを独自のアプローチで融合させ、革新的なサウンドを追求していたエイドリアン・シャーウッドは、80年代中盤に入ると〈Tommy Boy Records〉と親交を深める中で、メリー・メルやKRS-1が活躍し、絶頂期にあった当時のNYブロンクスのヒップホップ・シーンを目の当たりにする。その時期に出会ったタックヘッドのスキップ・マクドナルドとダグ・ウィンビッシュは、ヒップホップ・レーベル〈Sugar Hill〉のハウスバンドのメンバーであり、グランドマスター・フラッシュの“The Message”や“White Lines”といったヒップホップの金字塔のリズム・セクションを担当しており、〈ON-U Sound〉の長年のコラボレーターとなった。

レゲエとヒップホップのスピリットをUKに持ち込み、それぞれが独自のキャリアを重ねるなか、型破りな姿勢で繋がっているこの両者のコラボレートは、その気になればいつでも実現する可能性があった。しかしコールドカットが今年デビュー30周年を、〈ON-U Sound〉が昨年35周年を迎え、混乱の政治情勢が続くこの2017年は、彼らがコラボレートし、音楽史にまた新たな歴史を刻むにはこれ以上ないタイミングとも言えるだろう。

コールドカットが〈Ninja Tune〉設立以前に立ち上げたレーベル〈Ahead Of Our Time〉からリリースされるコールドカットと〈ON-U Sound〉のスペシャル・コラボ・アルバム『Outside The Echo Chamber』は、5月19日(金)世界同時リリース! 国内盤にはボーナス・トラック“Beat Your Chest feat. Roots Manuva”を追加収録し、国内盤限定のスリーヴケースとコールドカットのジョン・モア、マット・ブラック、そしてエイドリアン・シャーウッドの3人が、彼らの出会いや、パンク、ポストパンク、レゲエ、ヒップホップなどそれぞれの音楽的背景を語ったスペシャル・インタヴューを掲載したスペシャル・ブックレットが封入される。iTunesでアルバムを予約すると公開された“Divide and Rule feat. Lee ‘Scratch’ Perry, Junior Reid and Elan”がいちはやくダウンロードできる。

label: Ahead Of Our Time / Beat Records
artist: Coldcut x ON-U Sound
title: Outside The Echo Chamber

cat no.: BRC-548
release date: 2017/05/19 FRI ON SALE
国内盤CD: スリーヴケース+スペシャル・ブックレット付き
ボーナス・トラック追加収録 / 解説書封入
定価: ¥2,400+税

【ご購入はこちら】
amazon: https://amzn.asia/4nWz8zX
beatkart: https://shop.beatink.com/shopdetail/000000002154
iTunes Store: https://apple.co/2mHpzbZ

[TRACKLISTING]
01. Vitals feat. Roots Manuva
02. Metro
03. Everyday Another Sanction feat. Chezidek
04. Make Up Your Mind feat. Ce’Cile
05. Aztec Riddim
06. Kajra Mohobbat Wala feat. Hamsika Iyer
07. Divide and Rule feat. Lee ‘Scratch’ Perry, Junior Reid and Elan
08. Make Up Your Mind feat. Elan
09. Robbery feat. Rholin X
10. Livid Hip Hop
11. Beat Your Chest feat. Roots Manuva *Bonus Track for Japan
12. Vitals feat. Roots Manuva (Dub)
13. Everyday Another Sanction feat. Chezidek (Dub)
14. Make Up Your Mind feat. Ce’Cile (Dub)
15. Kajra Mohobbat Wala feat. Hamsika Iyer (Dub)
16. Divide and Rule feat. Lee ‘Scratch’ Perry, Junior Reid and Elan (Dub)
17. Robbery feat. Rholin X (Dub)

 アンダーグラウンド・ミュージックとテクノが好きで、ネットからは見えない世界がどれだけ豊穣かを知りたくて、東京に住んでいながらbonoboに行ったことのない人はこの機会にどうぞ。2017年3月18日土曜日、同所にて第4次ヒロポンFEVERが開催されます。
 レーベルacting pressをベルリンで主催するPLO Man、韓国拠点のミステリアスなトラックメーカ−、S.O.N.S.、KO SAITO、MARI SAKURAIらが出演。
 bonobo名物、畳ラウンジ、そして、アンビエントスペースのなかではdiscogs市場のおかしさ、資本主義の無益性、などを話し合うそうです。
 真夜中、酒をがばがば飲みながらdiscogsを見ていて、翌日目が醒めたらPAYPALで何枚も買ってしまっていた……という苦い経験はレコードファンならありますよね。もう止めようもう止めようと思いながら、見覚えのないレコードが海外から到着したときの恐怖……ホント、どこまで金を吸い取られるんでしょうか。勘弁して欲しいです。

JAMES VINCENT McMORROW - ele-king

 アイルランドはダブリン生まれのシンガー・ソングライター、2014年の『ポスト・トロピカル』が欧米のみならず日本でもヒット、つい先日も新作『WE MOVE』をリリースしたばかりのジェイムス・ヴィンセント・マクモローが来日する……ていうか、来週ですよ、来日公演は。
 ボン・イヴェールに対するダブリンからの回答というか、フォーキーかつエレクトロニックな、現代のブルーアイド・ソウルの美しい音楽をお見逃しなく~。



●JAMES VINCENT McMORROW来日公演
2017/3/15 (Wed)
Shibuya WWW
OPEN 18:30 START 19:30
スタンディング 前売り:¥5,500(ドリンク代別)
[お問い合わせ]
SMASH 03-3444-6751
[公演詳細]
https://www.smash-jpn.com/live/?id=2642


ジェイムス・ヴィンセント・マクモロー/ウィ・ムーヴ
James Vincent McMorrow / We Move

now on sale
PCD-24581
定価:¥2,400+税
★日本盤ボーナス・トラック2曲収録
Amazon

The Other People Place - ele-king

 2001年9月3日。ドレクシアの片割れであるジェイムズ・スティンソンは、ジ・アザー・ピープル・プレイス(以下、TOPP)という含みのある名義でソロ・アルバム『Lifestyles Of The Laptop Café』を発表した。当時がどういう状況だったかと言うと、もちろんあの9•11の直前なのだけれど、とりあえずそのことは措いておこう。
 この年は〈ビート〉が〈Warp〉のライセンス盤を出しはじめた年で(前年までは〈ソニー〉がその役割を担っていた)、オウテカを皮切りに、春から初夏にかけてプラッドやプレフューズ73、スクエアプッシャーのアルバムが次々とリリースされている(BRC-34BRC-37BRC-38BRC-40)。TOPPの『Laptop Café』は、UKではトゥー・ローン・スウォーズメンの『Further Reminders』(7月16日)とブロッサムステイツの『Claro』(9月17日)の間に発売された作品で、どちらもちゃんと〈ビート〉から日本盤がリリースされている(BRC-39BRC-48)が、なぜかTOPPだけ日本盤が制作されなかった。詳しい事情はわからないけれど、おそらく単純に「売れない」と判断されたのだろう。その時点ではTOPPの正体が明かされていなかったことも影響したのかもしれない。しかし当時はドレクシアのどの作品も日本盤など出ていなかったので、仮にTOPPがスティンソンのプロジェクトであると公表されていたところで、『Laptop Café』のライセンス盤が制作されていたかどうかはあやしい。この国におけるドレクシアの評価は、他のデトロイトのアーティストに比べてあまりにも低い。

 翻って、海の向こうでのドレクシアの評価は圧倒的だ。ヨーロッパで「デトロイト」を代表するアーティストと言えばURでありムーディマンであり、そしてドレクシアである。エイフェックスもウェザオールもミラ・カリックスも、口を揃えてドレクシアを褒め称えている。つい先日もグラスゴーのジャックマスターが『ガーディアン』でドレクシアへの情熱を表明したばかりだ。今回『Laptop Café』がリイシューされるに至った背景にはまず、そういう適正なドレクシア評価がある。
 じつはこの『Laptop Café』は長いこと入手困難な状態にあった。Discogsでは昨年6月の時点で、2万5千ユーロ(約300万円)もの値が付けられたコピーが出品されていたという。そのことに苛立ったあるひとりのコレクターが〈Warp〉に再プレスを嘆願したことで、このたびめでたくリイシューの運びとなったわけだけが、かのレーベルがいま再びこのアルバムを世に送り出した理由はおそらくそれだけではない。いま海の向こうでは静かにエレクトロがトレンドになっている。そのリヴァイヴァルの波こそが今回の再プレスを後押ししたのだろう。〈Clone〉も同じことを考えていたようで、4月にはTOPPが残した唯一のEP「Sunday Night Live At The Laptop Cafe」がリイシューされるし、ドレクシアのラスト・アルバム『Grava 4』も年内に再プレスされる見込みとなっている。
 そんな海外での動きとは裏腹に、日本ではやはり今回のリイシューに際してもライセンス盤が制作されることはないようだ。ヴァイナル・オンリーだからしかたがないと言えばそうなのかもしれないが、しかしTOPP唯一のアルバムであるこの『Laptop Café』は、ふだんドレクシアになじみのない人たちにこそぜひ手にとってもらいたい作品である。というのもこのアルバムでジェイムズ・スティンソンは、ドレクシア名義の作品からはなかなか連想することのできない、ぬくもりのあるサウンドを響かせているからだ。

 大西洋に投げ捨てられた奴隷たちの子孫であるところのドレクシアは、かつて次々とダークでハードな「復讐」の音塊を世界へ向けて投擲していったが、それとは対照的にスティンソンはこのアルバムで、スウィートかつロマンティックであることに徹している。ここにいるジェイムズ・スティンソンはアフロフューチャリズムの戦士ではない。『Laptop Café』が奏でるのは、日々の営みのなかに見出される小さな喜びや悲しみ、慈しみのたぐいだ。何なら「愛」という言葉を使ったっていい。しっかりと時を刻む808のドラム・パターン、ぶんぶん響くベース、その上を漂うはかないメロディ。そのすべてがリスナーの涙腺を刺戟する。こんなにも温かくて、切なくて、愛おしいエレクトロが他にあるだろうか。デザイナーズ・リパブリックによるインターネット時代の疲労を予言したかのようなアートワークも素晴らしい。はっきり言ってどの曲も非の打ち所がないが、嘘だと思うならまずは“Let Me Be Me”を試聴してみてほしい。「復讐」の物語を紡ぎ続けたひとりの戦士の、どこまでも無垢な願いを聴き取ることができるはずだ。
 このアルバムで彼は、なぜ戦闘服を脱ぎ捨てなければならなかったのか。彼はなぜ「let me be what I wanna be」と囁かなければならなかったのか。その望みが叶えられることはあったのか。「The Other People Place」とはいったいどういう場所だったのか。いまとなってはもう、誰もその真実を知ることはできない。
 2002年9月3日。ジェイムズ・スティンソンは心臓の合併症により長い眠りについた。それは『Laptop Café』がリリースされてからちょうど1年後のことだった。今年で彼が亡くなってから15年が経つ。この国における彼の評価が少しでも上昇することを願って。

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