「You me」と一致するもの

interview with Tomggg - ele-king


Tomggg
Butter Sugar Cream【初回限定お菓子の箱盤】
Faded Audio

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Tomggg
Butter Sugar Cream【通常盤】
Faded Audio

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ElectronicDream PopJ-Pop

 音楽をつくる仲間たちがスカイプを通じて集まってきて、互いの音を聴かせあったり、作業工程を見せ合ったり、他愛ない話をしたりというコミュニケーションは、インターネットの黎明期にあっては夢のひとつだったのかもしれないけれど、いまではそうしたことを当たりまえのようにできる環境が、次々と次代のプロデューサーたちを育んでいる。インタヴューの最後になってほほえましく語られた、彼らのささやかな音楽コミュニティの話をきいたとき、日本ではなかなか根づきにくいとされるUSのインディ音楽カルチャーのスタイルが重なってみえるような気がした。友だちの家でライヴをやる、いつでもやる、仕事や生活と両立してやる、音楽やそのアーティストに興味がなくとも親密な場所であればいっしょに楽しむ……芸能としてしか音楽の活動場所を築きにくい日本ではなかなか難しいけれど、そうした生活レベルの楽しみ方も音楽の尊いあり方のひとつだ。モニター越しではあるが、ネット環境の飛躍的な進化とともにそれは思いのほか一般化されているといえるのではないか──。

 Tomgggといえば、歴史的なネット・レーベル〈maltine(マルチネ)〉からのリリースや、kazami suzukiのイラストのインパクト(サンリオと吾妻ひでおのハイブリッドだそうな……)、ラブリーサマーちゃんや禁断の多数決などのリミックス仕事も相俟ってか、ネットを主なステージとして、オタク、機材系ギーク、サブカル、ポップ・シーンをスタイリッシュに縫合する、時代性にあふれた若手プロデューサーのひとり……といったイメージを勝手に抱いていたが、今回話をきいて、案外本質はそんなところにないのかもしれないという気持ちがした。
 いやいや、そうした印象が事実であることもたしかだと思うけれど、それだけではただわれわれが時代を人格化するのに適した一体のハイプを見つけだしたというに過ぎない。彼がもっと素朴に音楽行為を愛好するカルチャーの末端にいるということ、「アタマ10秒でつかまないと生き残れない」などという世知辛いプロデューサー意識と同時に、たとえそれが売れようが売れまいが、確実に音楽が生きることを楽しむためのきっかけになっているということに、格別な親しみを覚える。初の全国流通盤となる今作EPが「お菓子」をひとつのコンセプトとするものであり、それを自身が「生きていく上で絶対必要なごはん……以外の食べ物」として音楽と結びつけて語るのは、だから、不必要・不健康なもの、奢侈といった自滅自嘲的な意味ではけっしてなくて、生きる主体として必要な栄養だという認識からだろう。表題曲“Butter Sugar Cream”は音の言葉のカロリーや凝り方のわりには存外素直な、そして素直すぎるよろこびの表現なのだ。

※インタヴューのラストでティーザー音源をお聴きいただけます

■Tomggg / トムグググ
1988年生まれ、千葉を拠点とするプロデューサー。公募型コンピレーション「FOGPAK」や自身のsoundcloudなどインターネットを中心に作品を発表、これまでのリリースに〈Maltine Records〉からのEP『Popteen』がある。2014年は禁断の多数決やラブリーサマーちゃん、Porter Robinsonのリミックスなどを手掛け、カナダのトラックメイカーRyan Hemsworthとの楽曲制作も話題になった。2015年3月〈Faded Audio〉より『Butter Sugar Cream』を発表。

すごく強く、音楽では食えないという思いがあったもので──いまもですが。

音大を出ていらっしゃるんですよね?

Tomggg(以下、T):そうなんです。

しかも、国立音大ってかなりガチだと思うんですが。

T:ガチで、しかも作曲を学んでいたという──(笑)

そうそう(笑)、作曲科なんですよね。それっていったい、どういう動機で何を目指して入る学科なのかなって。

T:そうですね、専門がコンピュータ音楽ってもので、アカデミックなほうのコンピュータ音楽になるんですが。具体的に言えばMax/MSP(マックス・エムエスピー)やらマルチ・チャンネルのスピーカーやらを使って、サウンド・プログラミングを行ったりしていました。もともとの入学の動機は、作曲もしつつ、そこの学科では録音とかPAとかっていうエンジニアリングもやっていたので、そういうことを学べたらいいなということだったんです。

エンジニアリング。ではゆくゆくは何か、音楽に関わる仕事をしたいなという気持ちがあったわけですか。あるいは、職業作曲家として?

T:作曲家……というほどのことを思っていたわけではなくて、もうちょっと裏方のことでしょうか。

へえー。16、17歳くらいの年ごろの少年の夢というと、裏方というよりは、ギターを手に、もっと前に出て行ってやるんだっていうほうが順当なような感じもしますけど(笑)。

T:ええ、ええ。

具体的にそういう道へ進もうと思いはじめたのはいつ頃なんですか?

T:えっと、すごく強く、音楽では食えないという思いがあったもので──いまもですが。

ハハハ! さすがシビアな現実認識が骨身に沁みた世代でいらっしゃる。

T:(笑)──でも、そんななかでも、実際的に職業にできるものは何かって考えたときに思いついたものですね。

なるほど。音楽に憧れる最初のきっかけがあったと思うんですが、それはどんなものなんでしょう?

T:小っちゃい頃はクラシックとかをやっていたんですけど、中学……高校生のときかな? 父親が何百枚も入るCDラックを持っていて、60~70年代のロックとかハードロックが多かったんですが、それを1日に1枚聴いていくっていう作業をずっとやっていて。


父親が何百枚も入るCDラックを持っていて、60~70年代のロックとかハードロックが多かったんですが、それを1日に1枚聴いていくっていう作業をずっとやっていて。

おお。いま図らずも「作業」って言葉が出ましたけれども。

T:そうそう(笑)、まあ、僕が中学くらいのときはBUMP OF CHICKEN(バンプ・オブ・チキン)とかL'Arc-en-ciel(ラルク・アン・シエル)とかって邦楽のロックを聴いていたんですが、その原点って何? って考えたときにこのへんのロックだろうと思って、父親のCDラックをひたすら聴いていたんです。うちにはパソコンとかなかったので、音楽の情報はほぼそこからのみという感じでしたね。

へえー。いちおう認識としては、好きなもののルーツへと遡るという行為だったわけですね。具体的に名前出ます?

T:いや、ほんとにディープ・パープル(Deep Purple)とかツェッペリン(Led Zeppelin)とか(笑)。父親はそのへんが好きみたいですね。

ハードロックなんですねー。メタルとかいかず。

T:そうですね。オールディな感じで。で、気になっていったのがキング・クリムゾンで。

あっ、そうつながるんですね。プログレにいったんだ。

T:聴いてすごくびっくりして。1曲のなかにあんなに詰め込んじゃっていいんだって気づいて。

ああ、なるほど。『宮殿』からですか?

T:そうですね、『宮殿』から入り……。あとは、父が棚に年代順に並べていたので(笑)。

(一同笑)

かつA to Zで入れてますね、それは(笑)。

T:それは曲をつくるひとつのきっかけになっているかもしれません。

なるほど、そうするとTomgggさんの音楽のわりと構築的な部分に理由がつく感じがしますね。

T:そうかもしれないですね。それまでは、ちゃんとつくられた曲というとクラシックだけしか知らなかったので。モーツァルト、ベートーベン……完成されているものですよね。でもキング・クリムゾンとかは別次元で変なものがつくられているという感じを受けて、でも同時にそこにこそ強度があると感じました。

ツェッペリンとかも、プログレに連なるようなところはありますよね。牧歌的なハードロックというより。……すごく思弁的だったり。

T:そうですよね。あと、クラシックのようにすっきりとした音じゃなくて、もっとノイズにまみれたものを聴きたくなってしまったところもあります。でも、音はノイジーでも美しく完成されていて。

クラシックはクラシックでお父さんのコレクションがあったりしたんですか?

T:そんなになかったですね。ピアノの先生に教えてもらったりです。

おっ。やはりピアノされてたんですね。そこで弾いてたのは……

T:古典的なものですね。

なるほど、印象派とかではない?

T:そこまで……いってなかったですね(笑)。印象派にたどりつくのは音大に入ってからです。

でも、古典よりとっつきやすくないですか?

T:うーん、そうでもなかったですね(笑)。

なるほど。Tomgggさんは2000年だと12、3歳くらいですかね。クラシック以外ではどんなもの聴かれてました?

T:SMAP(スマップ)とかですかね。テレビから流れてくる音楽です。

なるほど、お父さんのアーカイヴに手を出しはじめたのはその後ですか?

T:中学は、ほぼ音楽には興味がなかったんです。だから高校からですかね。陸上部に入っていて……しかも砲丸を投げていたという激ヤバなストーリーがあるんですが……。

ハハハ! それはヤバいですね。人はいつ砲丸に向かうんですか(笑)。

T:どこも人が多かったので、人のいないところを探したら砲丸だったというか(笑)。フォームはよかったらしいです。

フォームね(笑)。Tomgggの音楽を語るときのキーワードになるかもしれませんね。


空間に興味を持った理由のひとつが、音楽のなかにどれだけの音の情報を詰め込めるかということだったんですよ。

と、紆余曲折あって音大進学となるわけですが、「電子音響音楽と空間表現」ですか。ホームページのプロフィールかなにかで拝見したんですが、それが修論のテーマだったと。これはいったいどんな研究なんでしょう。

T:ヨーロッパのラジオ局からはじまって、現代音楽が盛り上がって、カセットテープやレコード……いわゆる電子音響、電気的に音楽が録音できるようになって。それ以降、音楽に何ができるようになったのかということをひたすら研究していました。そこでのひとつキーワードとしては「空間」。空間を使って作曲ができるかということを試みた人たちがいて、それがすごくおもしろかったんです。

部屋一個ぶん使うくらいの音響装置とかエフェクターとか、そういうもののことですか?

T:そういうのもありますけど、たとえば、お客さんとステージという関係を前提とすると、音楽が前から鳴ってくることが普通のことのように感じられますよね。でも後ろから鳴ってもいい。そういうことが可能になったんだという研究があって、それは具体的に何をしているかというと、たくさんスピーカーを使っていたりってことなんです。電気的な装置を使って、それをどこまで拡張していけるのか。そういうことをひたすらやりましたね……。

へえー。じゃあ、ハンダゴテが出てくるような研究というよりも、もう少しコンセプチュアルで抽象的なものについて考えていたわけですね。かたや、裏方でエンジニアやるってなると、ハンダというか、装置の中身の話にもなっていくと思うんですが。

T:そうですね……、サウンド・プログラミングをやって、ってくらいなんですが。自分でエフェクターをつくったりはしましたけどね。

では、その頃に学んだものはいまのTomgggの音楽に大きく影響を与えていると思いますか?

T:そうなんでしょう。空間に興味を持った理由のひとつが、音楽のなかにどれだけの音の情報を詰め込めるかということだったんですよ。2チャンネルのステレオの中だと、詰め込める周波数が限られているんですね。でも、そのスピーカーを増やしていけば、詰め込める量が増えていくじゃんってことに気づいて。

ははあ……、個数の問題なんですか。

T:どうなんですかね(笑)。2個よりも4個のほうが音を詰め込めるんじゃんって考えました。で、いろんなところから音がしたら、もっと表現も広がるなというふうに発展していったりとか。

なかなか頭が追いつかないのですが……。恐縮ながらすごく具体的なところでどういうことをやったという例がないですか?

T:そうですね(笑)、たとえばヘッドホンで聴いたときに音が左、右、左、右って音が移動するように聴こえるエフェクトがあるじゃないですか。あれをもっとぐるぐる回したいとか。

おお、音をぐるぐる回すってのは、それこそツェッペリンがすごく早くにやってたやつじゃないですか?

T:あ、ほんとですか。いちばんはじめが誰かわからないけど……。


大学を卒業すると同時にそういう研究はスパっと終わりにして。次にどんな音楽をやろうかというときにインターネットかなと思いました。

おお、何かつながったということにしましょうよ(笑)。ぐるぐるやったりしてたわけですね。ご学友というか、まわりの人はどんなことをやっていて、いまどんな仕事に就いているんですか?

T:まわり、何やってましたかね。MVとか映像が流行りだしたころだったので、それこそ「映像と音の関係」とか。ミシェル・ゴンドリー(Michel Gondry)とかいろいろ出てきましたし。

ああ、なるほど。真鍋大度さんだったりを目指すとか。こうしてお話をきいてくると、サブカルチャー的な部分との接点はありつつも、かなりハイブローなものからの吸収が大きいですよね。先日MiiiさんやLASTorderさんのお話をうかがったばかりなんですが、たとえばMiiiさんなんかがギークとしてのアイデンティティを持ちながら〈maltine(マルチネ)〉に接近していくのはよく理解できるんですよ。Tomgggさんはどうして〈Maltine〉なんでしょう?

T:本当に飛び石というか、大学を卒業すると同時にそういう研究はスパっと終わりにして。次にどんな音楽をやろうかというときにインターネットかなと思いました。imoutoid(イモウトイド)っていう、むかし〈maltine〉にいたアーティストがすごく好きだったんです。ああいう感じでやりたいなという。それでいろいろやっているうちにつながったというか。

なるほど! 音源を送ったりしたんですか?

T:いえ、そういうわけではなかったんですが、卒業してからずっと、インターネットの音楽ってどんな感じだろうって思って探ってたんですね。潜伏していた時期があるんですが、たとえばRedcompassくんがやっているFOGPAKっていうコンピのシリーズとか、そういうところと接点を持ったという感じです。何曲か送りました。

Redcompassさんも、いろいろなものをつないでいる方ですね。

T:そうですね。そうしているうちにtomadさんから連絡をいただいて。ボーエン(bo en)がはじめて来日するときに、リリパで出ませんかというふうに声をかけてくれたんです。もちろん、出ます出ますということで(笑)、それでここまできている感じです。

なるほどー。たとえば、とくにドメスティックなこだわりのない音楽をされている方だと、海外の好きなレーベルから出したいって気持ちもあったりすると思うんですが、そういうこともなく?

T:そうですね……、ネットを探っていたといってもとくに〈maltine〉以外に見えていたわけじゃないです。あんまりたくさん知らなかったかもしれませんね。

そうなんですね。tomadさんがつなげたものって、音楽というよりもヴィジュアルとかスタイルとか風俗とか、そのなかでのふるまいとして音楽もあるというか。そういうもの込みでのネット・カルチャーですよね。

T:ええ、ええ。

〈maltine〉がなくてもアルバムをつくってました?

T:ネット・レーベルがすごく流行っていたころだったので、僕も友だちと「やってみるか」っていうことになったりもしたんです。でも結局それもふるわず。

そうなんですね! 音源はタダだから経済的に成功してやるというような野心はあんまりないでしょうけど、わりとみんながネット・レーベルというものに夢をみた時期だった……?

T:そうですね、僕についていえば、関わってみたかったという感じでしょうか。


音楽をつくるなら歴史にアーカイヴされる必要がある、って思っちゃうんです。

なるほど。同時にパッケージの必要性とか、あるいは「アルバム」「シングル」ってかたちで音をまとめる意義も自然と問い返された時期だったと思います。〈maltine〉からの3曲入りの「Popteen」は、どういう意識です? アルバムとかシングルとか。

T:アルバムでもシングルでもないですね。ふるいかたちを借りればEPということになると思いますけれども。3曲くらいあればまあ、かたちにはなるかなというところで(笑)。2曲だとまとまりにかけますし。3曲だと「集団」だなって感じがします。

今回の『Butter Sugar Cream』は4曲+リミックスというかたちですよね。このサイズ感って、じゃあアルバムですか?

T:うーん、そうですね……。これでやっとひとつのものだぞという感覚が生まれましたかね。

へえー。まあ、10数曲入っていたりするじゃないですか、プラケに入ったCD、アルバムってものは。

T:10数曲あると聴かないんですよね(笑)。

ハハハ。そのへんはある種のユーザビリティみたいなものへの配慮もあるとか?

T:自分の制作ペースとかもあるんですけどね。僕、1曲をつくるのがけっこう大変なんで……。

寡作なんですね。音づくりに手間ひまをかけるから? アイディアが出てくるまでの問題?

T:どっちも……ですね。『Butter Sugar Cream』も結局10月くらいからつくりはじめて、2月のあたまくらいにやっとできたので。繰り返し聴くのに耐えられるかってことをよく考えます。

なるほど。

T:PC上では、何度もあたまから聴き返しつつつくるわけですから、それに耐えられるかというのは自然にイメージするところですね。「これ、つまんないな」っていうのは何度も寝かせました。

私は「俺の歌を聴け」世代というか。グランジとかが直撃で、ロックがまだまだ洋楽のメインストリームだったんですが、そこではもうちょっと「俺の歌」が優先されていたと思うんですね。客が何度も聴けるかどうかなんて知ったこっちゃなくて、まずそれが我(おれ)の音楽だってことが大事というか。そのへん、Tomgggさんとかは真逆で、すごいユーザー視点なんですねー。

T:ああー、なるほど。僕の大学の先生が「中毒性」ってことをよく言っていて。その言葉が今回の作品のお菓子のパッケージにもぴったりだなと思うんですが、何回聴いてもまた聴きたくなる、そういうものをつくれるかどうかってことを考えていましたね。それから、音大出だからだと思うんですけど、音楽をつくるなら歴史にアーカイヴされる必要がある、って思っちゃうんです。

ああ、はい。

T:音楽史っていうものがあって、そのなかにレジェンドな曲が配置されていて、それは何百年間も聴かれる曲で。……そういう思いも底にはあるのかなあって。

なるほど。いま、それこそネット環境だと、音楽はタイムラインのなかで一瞬で消費されたりして、そのスリリングなスピードがつくる側にもおもしろさを生んでいたりもしますよね。そんななかで何百年も残るものを目指すというのは、何か、Tomgggというアーティストのスタンスを知る上で見逃せないところかもしれませんね。

T:そうかもしれませんね(笑)。

このお菓子みたいなジャケだって。一回開ければ終わりでしょう(※)? それまた、替えのきかない一回的なものとして永遠に残ろうとするものだって解釈できますよね。


※市販の菓子のパッケージのように、ボール紙でできたジャケットを破るかたちで開封する

T:これは本当にお菓子のパッケージのイメージなんです。入口がお菓子、中身がCDという。お菓子だと、結局は中身が食べられて外側も捨てられちゃいますけど、音楽はなかなか消えない。

すごくきれいに考えられてる。それに、音楽の歴史を意識しているっていうのは、なにか貴重な証言をいただいた気がします。

T:それほど意識するというわけでもないんですけどね。でも俯瞰して見ちゃうというか、そういうところはどうしてもありますね。


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(歌詞のオーダーについては)甘いものを食べてる……部屋の中でひとりでお菓子を食べているというイメージでやってほしいと言ってたんです。



そこでこの『Butter Sugar Cream』ですが、甘味三段活用。もう、甘いぞーってタイトルですね。ワン・ワード?

T:ワン・ワードでいいと思います(笑)。

ハハ、この甘いものの三段重ねは、ご自身の音への自己評価なんですか?

T:ああー、なるほど、そうですね……。「バター・シュガー・クリーム」って言葉自体は、この歌詞をつくってくれた辻林(美穂)さんが使っていた言葉なんですよ、歌詞のなかで。僕としては、甘いものを食べてる……部屋の中でひとりでお菓子を食べているというイメージでやってほしいと言ってたんです。

あ、そこまで明確にディレクションされてたんですね。

T:そうですね。けっして相手がいないかたちで、甘いものを楽しんでいる状態というか。で、実際にできた詞のなかの「バター・シュガー・クリーム」って言葉がとてもよかったので、タイトルとして使うことにしました。あと、「シュガー・バター」だとウェブで検索したときにノイズが多そうなんですけど、「バター・シュガー・クリーム」だったらこれしか引っかからないし。

ハハハ。「バブルガム・ベース」なんて言ったりもしますけど、まあ、バブルガムとはニュアンスがちがうにせよ、「バター~」もポップで甘いってとこは共有してると思うんですね。そこで、ポップとか甘いとかって感覚が目指されているのは何なんですかね?

T:なんですかね、「カワイイ」を横にズラした感覚っていうんでしょうか。「カワイイ」を言い過ぎてしまうというか。手に余る感じをわりとポジティヴに表現してるんじゃないですかね。

ははー。それはなんか、咀嚼したい回答ですね。なるほど。しかしそもそもクリムゾンとツェッペリンからはじまって、行き過ぎたカワイイまでいったわけですか(笑)。

T:ははは。やっぱり、遠回りしたほうがおもしろいなっていうのはあります。ルーツがそのまま出るよりも。それから、たとえばノイズっていうものは一部の人にしか楽しまれないものだと思うので、せっかくならいろんな人が聴く場所でやってみたいという気持ちもありますね。お菓子ってみんな好きですよね。漬物とか、限られたひとの嗜好品みたいなものよりもそっちをやりたい。子どもも大人も食べられるようなものを使って発信したいです。

ということは、Tomgggさんの目指している音楽性は、Tomgggさんの考えるレンジ、リスナー層の幅に対応しているものだと。

T:そうですね。なんだろう、生きていく上で絶対必要なごはん、以外の食べ物。本当は食べなくてもいいもの、動物としてじゃなくて人間として必要な食べ物。お菓子ってそういうことですね。

ああ、人はパンのみにては……バター、シュガー、クリームなしには生きられないと。

T:重要ですね(笑)。

なるほど。ですけど、あえて反論するなら、たくさんのひとが快適で楽しめる感じの甘さであるには、『バター・シュガー・クリーム』はちょっと毒なくらい過剰に甘すぎませんか?

T:でも思いっきり濃くしないと。薄い甘さじゃ広がらないだろうなって思います。やっぱり10秒聴いてグッとくるかこないかの世界──インターネットってそういう場所だと思うんですけど、プレヴューで10秒、20秒、30秒って飛ばして聴かれるようなときに耐えられる甘さにしなきゃいけないわけですよね。


思いっきり濃くしないと。薄い甘さじゃ広がらないだろうなって思います。

(担当さんに向かって)……いまのミュージシャンって、ほんと大変ですね。

T:自分もそうだし、みんなもそうだと思うんですよね。

マジで絶句しましたよ。俺の歌を聴くまで待つとか、そんな悠長なことをいっていられないんだ。むしろ、あっちはお客様ってくらいの意識があるというか。

T:そうですね、自分もやっぱり聴く立場だし。SoundCloud(サウンドクラウド)とかも日々更新されるじゃないですか。時間をそんなに取れないから、こことこことここだけ聴く、みたいな。

盤を買いにレコ屋さんに行って掘ってきたりってするんですか?

T:サンクラ……ですね。それこそ高校生の頃はディスクユニオンのプログレ館に行ったりとかしてましたけど。

ハハハ。でもその頃は、ひととおり紙ジャケの再発ものがバンバン出ていて、聴きやすいし買いやすかったんじゃないですか? 解説も新しくついてるし。

T:そうですね。たしかに再発で新しく知るきっかけになったり。

そうですよね。プログレ館まで行くんなら、聴いてたのはイギリスのバンドとかだけじゃないんじゃないですか? アレア(Area)とか。

T:アレア聴いてましたね。もちろんヨーロッパからですけど、イタリア系も聴いて。オザンナ(Osanna)最高、みたいな。

ハハハ! マジですか。ジャズとか、ちょっとクラシックにも寄ってきますしね。頭おかしい合唱みたいのでアガったりとかしませんか。

T:どうですかね、マグマ(MAGMA)みたいのもやってみたいですけどね。

いいですねー。バーバーヤガッ、つって。それぎりぎりカワイイなのかな(笑)。

T:ははは。

でも訊いてみたかったんですよね。グロッケンとストリングスを禁止したら、Tomgggさんはどんなものをつくるんです?

T:やっぱひたすらマグマみたいになりますかね(笑)。ひたすら繰り返して……すげー盛り上がる、みたいな。

あははっ!

T:やっぱりいまのスタイルは、グロッケンとかストリングスでメロディをつくるっていうところなので、それを禁じられるとメロディをつくれないだろうから、ひたすら繰り返すっていう方向になるだろうなあ……。

いまもそういう方向がないこともないですけどね。カワイイをひたすら横すべりさせていって……

T:大袈裟な展開と音づかいにする。

ははは。そういえば、アナログな音への憧れとかないんですか? ヴィンテージなシンセとか。

T:ああー。はっきり言ってしまうと、シンセにそこまで憧れがなかったりもするんですよね。

ラスティ(Rusty)が好きって言っておられましたっけ。彼なんかはそういう憧れがちょっと逆に出てるのかなって感じもしますが。彼の音楽はどんなところが好きなんです?

T:はじめて聴いて、カッコいいなーっていうのがきっかけです。この感じがほしいなって。

音のカロリー高いですよね(笑)。

T:そうそう!

情報量も凝縮されていてね。逆に、チルな感覚ってないんですか?

T:僕は、重ねるというか、足し算で音楽をつくっていくタイプなんで、どちらかというとカロリー高めにはなりますかね。はじめの、スピーカーを増やして情報量を過密にするという話ではないですが。

ああなるほど、じゃ北欧シンフォニックみたいにね、異常なエネルギーで過剰な情報量をさばいていくかんじのポップス、やってほしいですね。

T:ははは、いいですね。

ポストロックとかは通ってますか?

T:そうですね、多少。ポストロックというかわかりませんけど、ゴッドスピード・ユー!・ブラック・エンペラー(Godspeed You! Black Emperor)とかはカッコいいですよね。

ええー。なんだろう……素っ裸になったりしなきゃ。

T:いやいや、そんなストイックだったりはしないんですけど。あとはドンキャバ(Don Caballero)とか。

ええー! そうか、お話を聞いていると、意外に底に沈んでいるものがハードコアですね。手数の多いドラミングとかは、まあ、情報量ですかね。

T:ああ、ドラムがメロディみたいになっていますよね(笑)。好きですね。

なるほどなー。バターとシュガーとクリームの成分がわかってきました。


もともと人の声を切り取ってきてるわけなんですが……。ただ、ヴォーカルに還元したくないんですよね。

でも、じゃああの甘さっていうのは仮面?

T:甘い餅にくるむみたいな感じ。どんな中身でも、食べちゃえばわかんないでしょっていう(笑)。

ハハハ。でも甘いものは本当に好きなんでしょう? 戦略的な意図だけで劇甘メロディを入れている、ってわけじゃないですよね。

T:好きですよ。やっぱりそこは、たくさんのメロディがあったほうが楽しいなって思いますし。

うーん。なんか、食えないやつですね、ほんと。

(一同笑)

ご自身のピアノを生かしたいというような気持ちはないんですか? 作曲技法ってことではなくて、生音として取り入れたいというような。

T:そうですね、自分の曲をこのままバンドに変換できたりしないかなってことは考えたりするんですけどね。あまり生音に関心があるというようなことではないですね。

おお。そうか、譜面が書けるんですね?

T:書けますね。

ということは、バンドに手渡すということもできますね。それはそれで、おもしろい展開が考えられそうですね。この作品も2曲めとかにヴォーカル・サンプルが入っているわけですが、あれはトラックを渡してその上で歌ってもらうってことじゃなくて、声のデータをもらってつくっているんですか?

T:はい。素材としてもらって、それを打ち込んでます。

ボーカロイド以降の感覚ってあります?

T:そうですね。でもボーカロイドっていうよりも、僕はコーネリアスが好きなので、コーネリアスのヴォーカルの使い方ってあるじゃないですか? あれをどうにか僕なりのかたちでやってみたいという感じなんです。

一見、人間性みたいなものをばらばらにしてるような。

T:ええ、ええ。声らしき断片みたいなものがあって、声かどうかは一瞬わからないんですけど、やっぱ声でした、みたいな感じ。そういうイメージですね。

では、生の声への信仰があるのかどうかってあたりをうかがいたいんですけども、どうですか。生のヴォーカルのほうが尊いっていうような。

T:生の声のほうが言葉になるっていう感じはあるんですけどね。メッセージが強く出ますよね。ボーカロイドだとただ音色になる部分もあると思うんですけども。

ああ、なるほど。Tomgggさんのこの声の使い方は、声を音色にする方法論ではないんですか?

T:声を音色にしてるんですけどね……なんだろう、もともと人の声を切り取ってきてるわけなんですが……。ただ、ヴォーカルに還元したくないんですよね。

人が能動的に歌うものにしたくないという? 歌い手が歌う歌にはしたくない?

T:そう、メロディではあるんですけど、ヴォーカルを切り取ってきたときには、無機質な状態のほうがやっぱりおもしろいって思います。

なるほどなあ。人が歌う歌って、その人の人間性の限界みたいなものも出ちゃったりするじゃないですか。よくも悪くもとにかく情報量がノイジーで。……でも、そういう人間性みたいな部分がいらないわけじゃなくて?

T:そう、人間性もほしいんだけど、無機質さもほしいって感じですね。やっぱり、録音された素材はそれ以上広がりようがないじゃないですか。その状態を保ったままつくるというか。

そこには人格とかキャラクター性はない?

T:僕の曲だと認識されやすくなるためのひとつのキャラクター性ではあるかもしれないですね。持ち味というか。そういうものは生まれているかもしれません。どの曲にもちょっとずつ混ぜ込んであるんですよ。


ライヴでは前でぴょんぴょん跳ねているのが楽しいんですけどね。

なるほど。一方で、歌詞もきっちりついている“Butter Sugar Cream”ですが、これはさすがに「歌い手性」みたいなものも出ているかと思います。これは、「女の子ヴォーカルを歌わせる」っていうような意味でのプロデューサー意識はありました?

T:そうですね、さっきも少し触れましたけど、この曲は歌詞をつくるのにもけっこう口を出しているんです。あと、歌い方も指定してつくったものですね。いろいろ歌詞があって、最後「消えたりしない/溶けたりしない」って繰り返すのはぜったいやりたいと思っていました。

へえ、それは──?

T:あの音色でこんな言葉を入れたらおもしろいだろうなって。「歴史にちゃんと残るんだ」っていう気持ちにリンクするなという気持ちもありました。

ああ、なるほど、かなりコンセプチュアルなんですね。誰かシンガーを引っぱってきて歌わせたいという思いはあります? この作品でもフェニックス・トロイ(Phoenix Troy)さんがラップで参加されていますけど、トラックを提供して歌い手を歌わせるというふうに仕事を発展させていきたいというような。

T:そうですね。この2曲はうまくいったなとは思うんですけど、まだまだ発展はできるなと。

彼にラップを入れてもらったのはなぜですか?

T:これは、あちらからアプローチがあって。それで、こういうリリースがあるからそのなかに入れましょうっていうふうになりました。「お菓子がモチーフなんだ」みたいな話をして(笑)。

へえー。ボーエンさんもそうですけど、なんかそういう、日本人みたいな人たちいますよね。たんにインターナショナルだっていうことじゃなくて、日本人めいた人。

T:ははは。

しかし、Tomgggさんって、自身がすでに歌ってるというか、トラックがものすごく歌うでしょう?

T:そうですかね(笑)。

だから誰かに歌ってもらう必要がないようにも思うんですよね。こうやって歌い手と仕事をして、変化した部分もあったりしますか。

T:広がりましたね。いろんなメロディを重ねていくなかで、独自性のある声も出てくるし、さらにそこに自分の音が重なることで情報が増えるなっていう気持ちはあります。

Tomgggさんの場合、そもそもの夢の方向が裏方を向いていたわけですけど、裏から糸を引っぱって踊らせるっていうプロデューサー志向が、かなり若い人のなかで強いような印象があるんですよ。そのあたりはどうですか?

T:ははは、でもライヴでは前でぴょんぴょん跳ねているのが楽しいんですけどね。記号的なオモテというか、前に出てくる出演者でもあるというところはほしいはほしいですよ。

ああ、ぴょんぴょん跳ねてるっていいですね! 2曲めは、指をぱちんってやる音がサンプリングされてたりもするじゃないですか。ああいうのも不思議な空間性を生んでますよね。

T:音楽的に使わないであろう音色ってあると思うんですけど、それが普通の音楽に持ち込まれたらどうなるかっていうのを意識することはありますよね。エレクトロニカとかのモチヴェーションに近かったりするかもしれないですけど。ライヴでも、最近は曲と曲の間に雑踏の音を入れたりとかしはじめてます。


足、太い女の子が好きな人が聴く音楽になってほしいですね。

いまのスタイルだと、ある種箱庭的に、すべての要素を自分自身の手で決定してつくってるわけですよね。ジャケットのイラストはkazami suzukiさんで、〈Maltine〉からのEPでもお馴染みの方なわけですけれども、最初のころからすでにけっこうご活躍の方だったんですか?

T:どうなんだろう。〈Maltine〉のときが最初なんですけど、あのときはtomadくんが見つけてこられたんですよね。Tumblr(タンブラー)にいい感じの人がいるって(笑)。……やっぱりそこにはtomadがいるという。

ハハハ! すごい、さすが名プロデューサー。つなげますね。だってすでにTomgggさんの音と切り離せないようなものになってるじゃないですか。

T:そう、もうキャラクターが生まれているんで(笑)。

Tomgggさんから見て、kazamiさんの作品の客観的な評価はどんな感じですか?

T:なんていうか、ロリっぽい感じだとは思っていて。僕の曲──声のサンプルもそうなんですけどね。そういうオタクくささみたいなものが絵のなかに凝縮されていると思いました。やっぱり、本人も吾妻ひでおがどうとかって言ってましたしね。

ええー、そうなんですか。なるほど。……足、太いですよね。

T:そう。そう、足、太い女の子が好きな人が聴く音楽になってほしいですね。

ハハハ! またニッチなところに投げましたけども(笑)。いや、でもこれはもっと概念的な太さだとも思うんですよね。実際に太いってだけじゃなくて。

T:ええ、ええ。

この輪郭の崩れた感じとか。

T:カロリーを感じますね(笑)。

ハハハ、そうそう(笑)。どうです、こういう絵は詳しいほうですか?

T:いやー、詳しくはないですけど、でも実写とか写真とかそういうものよりはぜったいイラストがいいとは思っていたんです。

へえー。もし彼女に頼まなかったらどんなジャケになってたと思います?

T:どんなジャケになってましたかね(笑)! アクの強いイラストがよかったので……見つけてきてもらってすごくよかったですね。それから今回も思ったんですけど、キャラクターって重要だなと思いました。

キャラクターですか。

T:やっぱり強いです。どこにいってもついてくるものというか。逆に言えばどこにでも連れていける感というか。これ俺だよっていう感じで。

音楽性とか人格も宿っちゃいそうな……

T:それはあると思います。

それはおもしろいですね。可愛くてコンパクトな情報の運び屋になる。この絵をみるとTomgggさんの音が思い浮かびますからね。

T:いい出会いをいただいたんだと思います。最初は「ポムポムプリン」とかサンリオ系のキャラクターが好きだったみたいですよ。

へえー。

T:それがあるとき吾妻ひでおに出会って……

ハハハ。すごいなあ。でもサンリオもいま総選挙とかやってますからね。

(一同笑)

ポムポムプリンもセンターとらなきゃって、世知辛い時代ですよ(笑)。吾妻ひでおのほうにいってよかったんじゃないですかね。


ソウルフルな女性ヴォーカルはやりたいという気持ちもあるんですよ。

さてヴォーカルのほうですけど、tsvaci(ツバシ/辻林美穂)さん。彼女もまた音楽を専門的に学ばれてる方ですよね。プロとしてのお仕事もけっこうされている。

T:そうですね、まだ事務所には入っていないようなんですけども。いろいろ呼ばれてやってますよね。出会いは、tofubeats(トーフビーツ)が去年のいまぐらいだったか、ラジオでミックスを流したことがあって、そのなかに入っていたのがtsvaciさんの“You know…”っていう曲だったんですけど、それがよさそうだなって思って声をかけたんです。それから何か月も経ってやっと曲ができましたという感じだったんですけど(笑)。

戦略的に選ばれているのかもしれませんが、ロリっぽいものは素朴に好きなんですか?

T:うーん、いちばんイメージしやすかったんですよね。自分の音から。

ああ、音との相性ということですか。個人的な嗜好として好きな女性ヴォーカルの名前は挙がります?

T:やくしまるえつこに衝撃を受けて。

ああ、それは大きいですね。

T:太くてゆたかなアルトとかが素材としてあったとしても、それはピッチを変えてケロケロさせちゃうかもしれません。音に合わないから。

ハハハ、なるほど。じゃあ時代にチューニングしてるみたいな部分もあるのかもしれないですね。自分の趣味だけでやるとしたら別ってことですか?

T:うーん、どうでしょう。でもソウルフルな女性ヴォーカルはやりたいという気持ちもあるんですよ。

へえー。フェニックス・トロイさんとかも、グライムとか、あるいは白人ラッパーとかの雰囲気ではないですもんね。

T:自分のトラックに乗せたらギャップがあってすごいおもしろそうだなって思って。ほんとに、相手に合わせるんじゃなくて、こっちのやり方に合わせてもらうつもりでトラックを渡しました。

なるほどー。ちなみに男の人の声はケロケロさせなくてよかったんですか(笑)?

T:ははは、あれはあのまま乗せましたね。

男の人の声はケロケロさせたらどうなるんですかね。ていうか、女の子の声があふれていますけど、男の人の声ってなにかおもしろい展開ないんですかね。

T:はいはい(笑)、やっぱプログレやるしかないんじゃないですか。オペラを登場させるしか。

ハハハ! つながったー。男声合唱やるしか(笑)。

T:声で音圧を高めなきゃ。

挑戦はつづきますね。


放課後の部活というか、みんな社会人で、働いてるんですけど、土日は曲をつくって。

ちなみに〈PCミュージック〉とかはどうですか? 熱かったですか。

T:すごくグッときましたよ。雑な感じというか、軽率な感じというか。

はは、軽率な感じということなんですな(笑)。

T:ははは、このまま行っちゃうんだーみたいな感じですかね。雑なんだけど、何か新しいものを提示しているっていう、そういう気分を共有できました。

雑さは織り込み済みの評価なわけですね。雑っていうのは……ヴェイパーウェイヴみたいな露悪性があるわけではなくて、ただ雑、っていう感じ?

T:そのへんですかね。新しさと、あとはミックスの感じにも不思議な印象を受けてます。好きになりましたね。

〈Maltine〉の中ではとくに仲のいいアーティストって誰になりますか?

T:三毛猫ホームレスとかですかね。

素敵ですね! なんでしょう、楽理系というか、そういう部分での共感もあるんですかね。

T:あとはHercelot(ハースロット)とか。テクニカルな感じの人たちでしょうか(笑)。スカイプで作曲講座みたいなものが展開されてたりするんですよ。

いいですねー。

T:三毛猫、芳川よしの、Nyolfen(ニョルフェン)とか……、スカイプで日々会話してます。

つくってるときのPCの画面を全部見せるみたいな感じですか。内輪でしか公開しないもの?

T:そうそう、新曲をそこで批評しあったり。

楽しそう。オープンにしないのは、ショーではないという感じなんですかね。

T:うーん、そうですね。放課後の部活というか、みんな社会人で、働いてるんですけど、土日は曲をつくって、そういうところに集まる……。

いいですねー。部活の楽しさもあるし、テクニカルな交歓もある。

T:テクニックは……それぞれお互いのやり方を見ながらも、実際のところそれほどテクニックに興味がなかったりもするんですよね。音圧とかもみんなわりと、どっちでもよくて(笑)。

そうですか。それはほんとに……尊いというか。歴史に残る残らないという尺度とはまた別の次元で生きている音楽の例ですね。

T:そういう自覚があるわけではないですけど、そうかもしれませんね。歴史には残りたいですよ(笑)。



Jamie xx - ele-king

 先日、ロメアのレヴューで野田が「UKからは何年かに1枚の素晴らしいハウスのレコードが出る」なぞと、調子こいてわめいていたそのアルバムこそ、6月3日発売予定のジェイミーXXのソロ・アルバム『イン・カラー』のことなのであった。
 ele-kingの2014年の大きな過ちのひとつは、ジェイミーXXの傑作シングル「 Girl / Sleep Sound 」を紹介しなかったこと。



 この美しいハウス・トラックは、アルバムの2曲目収録されている。
 vol.16の取材で、ジェイミーXXは彼にとっての最初が影響が「DJシャドウ、RJD2、そしてプラッド」と明かしている。すごく納得のいく話だ。DJシャドウ(ネタをディグする男)+プラッド(デトロイティッシュUKテクノ)、そしてUKガラージにベース・ミュージック……。
 言っておくけど、ジェイミーXXとは、ザ・XXというポップ・バンドのメンバーで、アンダーグラウンドのスターではない。そんな青年が、来日時にディスクユニオンでレアグルーヴを1時間以上も掘り続けるっていのは、本当にUKらしい。
 
 現在、ジェイミーXXとフォー・テットとのラジオでのDJプレイが公開されている。なんと、ジム・オルークやNHKコーヘイまで入っているぜよ! 

Jamie xx
In Colour(イン・カラー)

Young Turks / Hostess
6月3日発売予定


Amazon

Young Fathers - ele-king

 『ホワイト・メン・アー・ブラック・メン・トゥー』(白人は黒人でもある)、アルバムのタイトルからして、充分に挑発的だ。
 いま話題のエジンバラの3人組、ヤング・ファーザーズ、昨年彼らが出した『デッド』は、FKAツイッグスをおさえての、まさかのマーキュリー最優秀アルバム賞を受賞。その授賞式で、まったく喜びを表に出さなかった冷めた態度も話題になった。
 『ホワイト・メン・アー・ブラック・メン・トゥー』──この言葉について一瞬でも人が考えてくれたら良いと思った、vol.16の取材にメンバーのグレアム・ヘイスティングスはそう答えてくれた。

 ポップ・ミュージックとは本来、幅の広い多様な音楽を意味するものだったと彼は語る。ネットの普及によって、リスナーの印象を確保するため、むしろ同じような内容の幅の狭い音楽がポップ・ミュージックになっていると鋭い意見を述べる。いわく「5時半に仕事を終えて、運転して帰宅途中の人たちなどには、人生の狭い価値観ではなく、幅広い文化を提供すべきだ。俺たちは、ポップ・ミュージックにそういう意味を込めている」

 おわかりのように、ヤング・ファーザースが“ポップ”にこだわるのは、キャッチーであるとか、商業的であるとか、大衆に迎合するとか、わかりやすいとか、そういう意味ではない。ポップこそが多様性に満ちた世界であるべきだ、という意味である。
 また、このアルバムには、彼らのエジンバラでの経験が詰められている。
 前作とは打って変わって、ラップはほとんどない。モータウンがベルリンで録音されたような……いや、止めておこう。

 前口上が長くなったが、ヤング・ファーザースの注目の新作、『ホワイト・メン・アー・ブラック・メン・トゥー』をたっぷり試聴してくれたまえ。

https://noisey.vice.com/blog/young-fathers-white-men-are-black-too-album-stream

 『ホワイト・メン・アー・ブラック・メン・トゥー』は、今週4月4日(土)、ボーナストラックを追加収録し、いよいよリリースされる。ぜひ、ele-king vol.16掲載のインタヴューも読んでいただきたい。

ヤング・ファーザーズ
White Men Are Black Men Too

BEAT RECORDS / BIG DADA

Amazon


interview with D.L - ele-king

MixCDFunkJazzHiphop

『FREEDOM JAZZ FUNK“Everything I Dig Gonna Be Funky”』
Track List
01. LES DEMERLE / A Day In The Life
02. PLACEBO / Balek
03. LES DEMERLE / Moondial
04. PLACEBO / Humpty Dumpty
05. PAUL HUMPHREY / Do The Buzzard
06. LEMURIA / Hunk Of Heaven
07. BILLY WOOTEN / Chicango (Chicago Land)
08. WENDELL HARRISON / Farewell To The Welfare
09. MANFREDO FEST / Arigo
10. LES DEMERLE / Underground
11. PLACEBO / Bolkwush
12. JAZZBERRY PATCH / Jazzberry Patch
13. SOUNDS OF THE CITY EXPERIENCE / Getting Down
14. MANFREDO FEST / Jungle Kitten
15. IVAN BOOGALOO JOE JONES / Confusion
16. LES DEMERLE / Aquarius
17. HOT CHOCOLATE / What You Want To Do
18. THE WOODEN GLASS featuring BILLY WOOTEN /Monkey Hips & Rice
19. BOBBY COLE / A Perfect Day
20. ROY PORTER SOUND MACHINE /Out On The Town Tonight

 いまやヒップホップのみならず、ファンクやレアグルーヴ、そして、和モノDJとしても活動し、ファンですらBuddha Brandとしての活動を忘れてしまうほどに、DJとしての圧倒的な存在感を見せつけているD.Lが老舗レーベル〈Pヴァイン〉と組んで、今冬、ミックスCD『FREEDOM JAZZ FUNK』をリリースした。「Everything I Dig Gonna Be Funky」=俺のディグったものすべてがファンキーになるとの副題のついたこのCDは、〈Pヴァイン〉が誇る極上の音源をミックスしたというだけにとどまらない、D.Lにしか生み出せない太くファンキーなグルーヴに溢れた特別なものに仕上がった。ヒップホップやレアグルーヴ、フリーソウルのリスナーにはおなじみの名曲たちがD.Lの手により、そのイメージを一新しかねないほどのサウンドを手に入れている。4月、その第2弾となる『FREEDOM JAZZ FUNK “Mellow Storm”』がリリースされるのを目前に、まずは“Everything I Dig Gonna Be Funky”と刻まれたこの驚くべきミックスCDについてじっくり話をきいた。

■D.L / ディー・エル
Illmatic Buddha M.C's、Buddha Brandのキーマンとして90年代の日本のヒップホップ・シーンに旋風を巻き起こす。2005年の改名以前はDev Large名義でMC、プロデューサー、DJ、執筆業など多岐にわたる分野で活躍。レコードディガーとしても定評があり、ヒップホップはもちろん、Soul、Funk、Jazz、Rock、日本の歌謡曲まで貪欲にレコード探求を続ける。

フリーダム・ジャズ・ファンクっていう言葉が浮かんできて、じゃこれで作ろうって感じになってって。

柳樂:まずこれはどういうコンセプトで作られたのかっていうところから、はじめてもいいですか。

D.L:気づいたら、こうなっていました。コンセプトは無かったんです。無かったっていうか、いろいろ緻密に、どういうのにしようか、こういう楽曲があるよ、こんなのもあるよみたいなことを言ってるときに、フリーダム・ジャズ・ファンクっていう言葉が浮かんできて、じゃこれで作ろうって感じになってって。曲ありきで、曲からいろいろこうイマジネーションが膨らんでった感じなんです。

柳樂:たとえば、キーとなる曲はどういう曲ですか?

D.L:もともとビリー・ウッテン(Billy Wooten)の“イン・ザ・レイン”を入れたかったんですよ。“イン・ザ・レイン”をいちばん最後に入れようみたいな感じで。でも、もうそれ無くなっちゃったんで、次の作品に入れると思うんですけど、このアルバムで言うとやっぱプラシーボ(Placebo)とレス・デマール(Les Demerle)、そうだな、そのへんが、すごく絶対入れたいものだなって。やっぱり最初の4、5曲めくらいの間に入れて、試聴機にかかったときにそこで引っかかるようなものになったらいいなと思ってたんです。

柳樂:プラシーボが3曲で、レス・デマールが4曲入ってますもんね。

D.L:そうなんです。この2組をピックアップしたかったんです。あとアイヴァン・ブーガルー・ジョー・ジョーンズ(Ivan Boogaloo Joe Jones)のこの“コンフュージョン(Confusion)”とか、ジャズベリー・パッチ(Jazzberry Patch)とか、そのへんのジャズ色が強いと思ってるんで。

柳樂:このミックスCDを何回も繰り返し聴いたんですけど、とくにびっくりしたのがレムリア(Lemuria)で、ぜんぜんイメージが違いますね。

D.L:あーそうですね、たしかに。

柳樂:D.L.さんの昔のインタヴューで「メロディアスで軽くないやつがいい」とかって、そういう軽くなくてファンキーでちょっと重いものが好きだみたいな話をされているんですよ。でも、レムリアって軽くてメロウな印象があったんですけど、ここに入っているレムリアはまったく印象が違ってて。だから、「こんなんだったっけ?」と思って何回も聴いたんですけど。プラシーボとかもそうですね。今回この並びで、このミックスでぜんぜん曲の印象が変わったのかなと。どういうイメージで作ったんですか?

D.L:最初から最後までだーっと行っちゃうのもおもしろくないので、2ヵ所か3ヵ所、パッと変えるところを作ろうと思って入れたのがレムリアと、マンフレッド・フェスト(Manfred Fest)。そこがすごい変わるところだったんですよね。あと、なんて言うのかな。これはあくまでも〈Pヴァイン〉が持ってるグレートな音楽の中で作った74分20曲っていう感じなんで、たぶんいつも出してる自分のミックスCDのときは、もっと究極にどういう音を出したいかっていうところで引っ張ってくるので、そういった意味でちょっとは違うかもしれないですね。もしかするとレムリアはこの選曲には、自分の『ゲットー・ファンク(Ghetto Funk)』シリーズだったら入らなかったかもしれない。
あと個人的に思ったのがやっぱり1曲目のこれ(“ア・デイ・イン・ザ・ライフ(A Day In The Life)”を死ぬほど聴いてたんですけど、具体的にこの作業に入るまで、作曲者がジョン・レノンとポール・マッカートニーだなんてぜんぜん知らなくて、これはすごいびっくりしましたね。たぶんそう思ってる人も多いんじゃないかな。まだ原曲は聴いてないんだけど、ジョン・レノンとポール・マッカートニーの。どういうものなのか。ただ、こっちのこればっかり聴いてるから、あの、たぶんわかんないだろうな、原曲聴いたとき。そんな気がしますね。

柳樂:ちなみに、このへんのレス・デマールとかプラシーボとかって、なんかサンプリングとかもされてるんですか?

D.L:自分は、してないです。

柳樂:ご自分でサンプリングネタとして使われる曲とかも入ってるんですか?

D.L:いや、あのね、いっつもそうなんですけど、なるべく使った後に入れるかなんかで、使おうと思ってるのは入れないときが多かったですね、いままで。〈ビクター〉で、前に2枚ほどやったのがあるけど、あれも使おうと思ってるのは入れなかったです。

柳樂:普段のDJで使う曲が多いですか?

D.L:ぜんぜん多いですね。都内でやるときはかけてます。最近は、地方に行くときは和モノの、頭のおかしいムード歌謡しかかけないで45分とか1時間半とかなんで。

柳樂:D.L.さんいま和モノですよね。このあいだディスクユニオンの和モノのセールで整理券1番だったらしいですね? 並んでるんだいまだにって思って。

D.L:でも、もっとすごい人たちがいますよ。DJじゃない、一般のおじさん。50いくつだって言ってたけど、ずーっと高校生のときに聴いてた昭和40何年の音楽を聴いてるって人。あそこ行きました? 新宿の昭和歌謡館(ディスクユニオン)。

これ、全部■■■■にしてるんですよ。

柳樂:行きましたよ。

D.L:異常ですよね。入った瞬間から。

柳樂:階段から異常ですよね。

D.L:うん、そうそう。

柳樂:いま和モノがいちばんやばいですもんね。

D.L:やばいですね。だからおれ和モノのコンピもやりたいんだよね。めちゃくちゃかっこいいのあるから。名盤解放同盟とか、〈Pヴァイン〉から出てたやつはCDも廃盤で高いんですよね。やりたいなぁ。

柳樂:ははは。僕もしばらくD.L=和モノっていうイメージがあったので、今回のジャズ・ファンクのミックスCDは逆に新鮮でしたね。

D.L:そうですね。こういうのも普通に聴くんですけどね。

柳樂:でもずっと和モノでまぁかなりプレイされて、けっこう長いじゃないですか。なんか和モノずっとかけてきて、逆にそれでこういうレアグルーヴの掛け方が変わったり、発見があったりみたいのってあります? ちょっと変わり種のジャズ・ファンクみたいなのも多いじゃないですか。プラシーボみたいなのも。

D.L:そうですね。

柳樂:そのへんって、カウント・バッファローズ感っていうか猪俣猛感っていうか、石川晶感っていうか。そういう普通のUSのジャズ・ファンクと違う感じのグルーヴみたいなものが、このミックスにはあるのかなっていうのを感じたんですよ。

D.L:たしかに、そうですね。プラシーボというよりも、マーク・ムーラン(Marc Moulin)とか変なのいっぱい入ってるじゃないですか。あっちから聴いてからプラシーボに行ったほうなんで、自分のDJではよくありがちなメインストリームのジャズ・ファンクとか70年代のUSモノじゃない感じは、モロしてましたね。そういった意味でカウント・バッファローズとかめちゃくちゃなことしてるから好きなんですけど、ある種似たものを感じていたと言えばそうですね。

柳樂:なんかその感じなのかわかんないですけど、ザラザラした感じっていうか、ちょっとアンダーグラウンド感って言ったら違うかもしれないですけど、すごい太くて尖った感じがあって。全体的に。

D.L:これ、そうとうやばいミックスしてるよね。もうほとんどヒップホップなんですよ。楽曲は全部ジャズだけど。あと、これ、全部■■■■にしてるんですよ。

柳樂:!?

D.L:●●●●した上で■■■■■ってて。だからよく言われるんですよ。なんか太いですよね、あんな太かったっけなぁって。

柳樂:なるほどね、なんか音がすごいなと……

D.L:いままでありがちだった作り方のミックスCDではないんですよ。なんでそうなったかっていうと、MUROのやつ聴いたんですけど、すごい良かったんで、自分のはもっとアンダーグラウンドにできないかなっていうのがあって。

柳樂:そうですよね。だから僕がいちばん聴きたかったのは、レムリアとボビー・コール(Bobby Cole)が、そんな曲じゃなかったじゃんっていうことなんですよ。ボビー・コールはなんか、こういうミックスCDに入る感じの曲じゃないじゃないですよね、どちらかというとフリー・ソウル系で、もうちょっとライトな、爽やかな。

D.L:そうですね。

柳樂:だけどすげー粗いし音も太いし、これどうなってんだろうって思って。どういうミキサーをどういじったらこうなるんだろうなって思って。

D.L:じつはそういう強い▲▲▲▲▲になってるんですよ。だいたいいままで『ゲットー・ファンク』みたいなミックスCD って3日かかったのはほとんどないんですよ。これは全部合わすと5日くらいいってるかな。

いままで『ゲットー・ファンク』みたいなミックスCD って3日かかったのはほとんどないんですよ。これは全部合わすと5日くらいいってるかな。

柳樂:でもいままでそんなやり方したことないですよね。『ゲットー・ファンク』とか『テキサス・デス・ロック(Texas Death Rock)』とかでも。

D.L:そうですね。毎回こんなすごいのできればいいんですけどね。でも悲しいのは、誰も知らないんですよ。こんなすごいことをやってるって。もしかしたら音がちょっと怪しいなって思ってても、まさかここまで絵を描いてこうなんだなって思う人はいないんで。

柳樂:すごいなぁ……

D.L:このCDに入っても入らなくてもいいんですけど、■■■■を作ってもらうときに、その■■■■が変わる瞬間に、前のDJがいて後ろの前のレコードをひねりつぶすくらいズドンとくるつくりにしてくださいと言うんですよ。だからその、どの状態でもどこに行っても、誰の順番の後でも先でも、あ、絶対この曲かかっちゃうと前の人がかわいそうだなとか後の人かっこつかないだろうなっていう作りにしてくれってよく言います。だから全曲そういう感じになってるんです、本当に。

柳樂:たとえばそれはどういうところだったりします?

D.L:太いとこですね。いちばん太いところさらに太く。ちょっと困っちゃうのは、実際たとえばプラシーボの“ハンプティ・ダンプティ(Humpty Dumpty)”、これとか、なんて言うのかな。■■■■のほうがすごい太すぎるので、アルバムで▽▽▽▽▽▽▽の方をかける前に俺のをかけちゃうと▽▽▽▽▽▽▽のほうがつぶれちゃう感じになっちゃうんですよ、すごすぎて。すごいイコライジングしてもなかなか合わないものになってしまってて、最近出た■■■■に対して、やりすぎると困っちゃうななんて。かけれなくなっちゃって。それはもう、また▽▽▽▽▽▽▽のやつを■■■■作ろうかななんて思ってるんですけどね。

柳樂:ちなみにこれまではどうしてたんですか?

D.L:まぁ普通にできる範囲でちょろっとイコライザーとかいじるくらいで、他にできることは無かったと思いますね。

柳樂:じゃあ本当にそれですごい変わったんですね。

D.L:そうですね。あの、たとえば、うーんどうだろうな。クボタタケシってわかります? あいつとか、あの、DJのときにCDも多用するんで、たとえば坪井くん(illicit tsuboi)が作った曲とかもいつもヘビー・ローテションで入ってて、ああいう感じでそういうプレイをする人は、自分で加工したものを自分リミックスでかけるんでしょうけど、俺はそういうのやらなかったから。DJ Krushとか(DJ シャドウの)“オルガン・ドナー(Organ Donor)”の、すごい、もうなんだろうな、空爆にあってしまったようなすごいドラムのやつかけてて、こういうのいいな、なんて昔思ってたんですけど、まぁ、ああいうのを、こんどはいいなって思うんじゃなくて■■■■でかけちゃおうかなとか思ってるんですけど、なんかそういうことができたらいいな。

細かく叩くとすごい埃が出てくる危ないミックスCDです。

柳樂:じゃあ、でもご自分でDJするときのためにリミックスとかはされない?

D.L:ぜんぜんしなかったですね。あ、でも、■■■■作って以降は、いろいろ出てないのをやってるんだけど。KrushさんがMUROとやってる、“チェイン・ギャング(Chain Gang)”って曲、■■■■にしたから、よくかけてますね。

柳樂:そっか、ずっとプレイは基本■■■■ですもんね。

D.L:そうですね。あとそうだな、もっと本当はね、ちゃんとグルーヴよりのものをやりたいって考えたときもあったんだけどね、なんて言うのかな。MUROがやったフリー・ソウルのやつにけっこうもう好きなのが入っちゃってて、何曲か、2曲くらい、被ってるのあるかもしれないけど、あまりに向こうと合うともう意味ないから、そういうのはあえてやめようって入れなかったんですけど。あれはもうすごいいい選曲で、むちゃくちゃ、さすがだよな……

柳樂:MUROさんを意識してたんですね(笑)。

D.L:普通に考えると、あのキング(・オブ・ディギン)が3枚出した後に俺がやると人気ないなで終わっちゃうのかも知れないけど。けっこう、もうすごいガチガチかっこいい曲入ってるから、MUROがやると。だからハチマキしましたね、心で。それで、こういうものができたって感じですね。買える人はこの時期タワーで買えるから、逃さないでくれと言いたいんですね。こういうのなかなか作らないと思うから。

柳樂:そうですよね。

D.L:細かく叩くとすごい埃が出てくる危ないミックスCDです。あ、それちょっとかっこいいね。

柳樂:ははは。ザラッとしててちょっとスモーキーな感じで。

D.L:はい、そういう感じもありつつ。買ったリスナーの方は自分で叩いて埃を出してくださいと。

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あのね、すごい好きなのはね、また〈グルーヴ・マーチャント〉ですけど、なんかいちばん最初に浮かぶのはいつもそれなんですけど、

D.L: そういえば、ぜんぜん話が違うんですけど、びっくりするくらいすごい女の子がいるんですよ、ヤマハのエレクトーン・コンクールに出た女の子が、ビリー・ウッテン(Billy Wooten)の曲を弾いたんですよ。ビリー・ウッテンがその子のすごいプレイをYoutubeで見て驚いたっていう。俺はこの子をプロデュースしたいなって思ったんですよね、連絡とって。ジャズの曲だけどヒップホップ的アレンジで何か足してって何かやりたいなと。

柳樂:これ、すごいっすね。

D.L:こんな女の子が。しかもこの曲だもんね。音なりだすと、凍っちゃうくらいすごい。

柳樂:上原ひろみだってヤマハのコンクールがはじまりですもんね。

D.L:この人と、なんかできないかな。

柳樂:それ最高じゃないですか。

D.L:連絡つかないかな。このYoutubeに上げてるのがたぶんお母さんなんですよね。アカウント名がそんな感じで。それでメール送ってみたんですけど、返事こないですね。見てないっぽいなと。

柳樂:ヴィジュアル的にもおもしろかったですもんね。エレクトーンだから、めっちゃ足踏んでるし。そもそもコンクールの雰囲気が、何も期待させない感じがいいですよね(笑)。

D.L:そう、逆にね、なんだよすごいじゃんって気になっちゃうもんね。まったく期待させないあの感じ。

柳樂:のど自慢大会で突然フリースタイルはじめるみたいな感じですもんね。突然何か起きちゃったみたいな感じで。これは、ここで呼びかけましょう!
ちなみになんか、ジャズで好きな曲を3つ挙げるとどんな感じですか?

D.L:あのね、すごい好きなのはね、また〈グルーヴ・マーチャント〉ですけど、なんかいちばん最初に浮かぶのはいつもそれなんですけど、あの、オドネル・リーヴィ(O'donel Levy)『ブリーディング・オブ・マインド(Breeding Of Mind)』に入ってる“ウィーヴ・オンリー・ジャスト・ビガン(We've Only Just Begun)”。ピート・ロックが使ってたけど、あれすごい好きですね。うーん、なんだろう、あ、ボビー・ハッチャーソン(Bobby Hutcherson) “レイン・エヴリィ・サーズデイ(Rain Every Thursday)”。ドーナツ盤が、めちゃくちゃ太いんですよ。70年代に出てるのにありえないくらい太くて、で昔からかけてたんですけど、これすごい好きですね。あとなんだろう。あれはもしかしたらジャズ・ファンク、ジャズじゃないかもしれないけど、“ザ・ダーケスト・オブ・ライト(The Darkest Of Light)”、“ラファイエット・アフロ・ロック・バンド(Lafayette Afro Rock Band)”の。すごい好きですね。

柳樂:やっぱヒップホップなセレクトですね。最近のジャズで好きなバンドいたりしますか?

D.L:そういえば、レコードで買ってそれいまだにかけてるんだけど、日本のジャズバンドで、ベースがすごい太くて、なんだっけな、あのグループ。大阪のグループで……4年くらい前に買ったんですよ。ヴィレッジヴァンガードの、イチオシみたいな感じでしたね。アナログは限定でネットで売ってて、普通のとこでは売ってなくてそこで買ったんだけど、それすごいかっこいいんですよね。

柳樂:Indigo Jam Unit(インディゴ・ジャム・ユニット)?

D.L:そう。かっこいいんですよ。ベースが効いててすごいかっこいい音してて。一回観に行きたいなって思ってるんだけどね。

柳樂:Indigo Jam Unitって、年齢的には普通にBUDDHA BRANDとか聴いてたりしそうですよね。

D.L:そうなんですかね。

柳樂:たぶん。僕もそうですけど、世代的に先にヒップホップがあってからジャズじゃないですか。たとえば、アメリカのジャズ・ミュージシャンでもいまはピート・ロックが好きとか、もうそういうやつらばっかりで。

D.L:あ、そうなんだ。

柳樂:ロバート・グラスパーとかだと、「いまのジャズ・ミュージシャンにどういう音楽聴けばいいかレコメンドしてくれ」って言うと、「J・ディラ全部と、スラム・ヴィレッジ!」とかそんな感じ。みんなヒップホップを子どもの頃に聴いてて、で大人になってから学校行ってジャズ勉強して、でそのあとジャズやりながらヒップホップっぽい音楽もやってるみたいなやつがすごい多くて。たぶん日本だったら、リスナーとしてMUROさんとかD.LさんとかのそういうミックスCDも聴いてて、いまはジャズもやって、みたいなそういう人、絶対多いですよ。黒田卓也さんって世界的なトランペッターがいるんですけど、彼はDJスピナがすごい好きで、とりあえずアメリカ行ったときに、ニューヨークで、スピナのイベントがあったから行ったとか言ってましたよ。

D.L:そうなんだ。みんな影響うけてるんですね、ヒップホップに。

柳樂:だからジャズ・ミュージシャンとかで人間発電所聴いてましたとか、自分でアルバム作って最後にD.Lリミックス入れたりとかそういうやつ絶対いますよ。

D.L: 機会があればやりたいなぁ。

柳樂:しかし、Indigo Jam Unitとかも普通にチェックしてるのが、すごいっす。

ロックは10年以上ずっと、いつかこの俺がデスロックって呼んでるジャンルをフリー・ソウルみたいにしてやるって思ってたんですよ。

D.L:ヴィレッジヴァンガードに行って、あれ、なんだこのベースって言って、ちょっと待ってってずーと聴いてて、あ、もうやばい買ってくって言って。最初、しょうがないからCD買ったんですよ。それで、読んだら郵便でレコード買えるって言うんで、なんだそっちも買うハメになるじゃないかよって言ってる間に買って、CDはもうあんまり聴いてないんですけど、レコードばっかり聴いて。両方買っちゃいました。

柳樂:どん欲だなぁ。和モノとファンク以外だとどういうの買います? いまだにいろんなジャンル買う感じですか?

D.L:買います。でもね、昔は「曲作ろう」と思って買ってたんで、このエレピのこの音が好きとかこのドラムが好きとかそういう感じで買ってたんで、そういう使わないレコードがどんどん増えてって、これはドラムのハコ、これはベースのハコ、これはシンセのハコって、ぜんぜん曲なんて作りやしないから、もうそういう買い方やめよっかなって。作ろうと思えばすごいの作れるんだけど、出すタイミングが時代が変わってきちゃって、90年代頭とか、いま買っとけば、あとで曲出してリクープできるとか思ってたけど、もう絶対できないんで。だから、うーんダメだなぁってなってきちゃって。

柳樂:それ、やばいネタだけ貯まってるっていうことですか?

D.L:うーんそうなんだよね。ぜんぜん使わなくなっちゃってるからね。いちばんそれで使わなくなっちゃっててやばくてやろうとしてるのが、ロックですね。もうロックは10年以上ずっと、いつかこの俺がデスロックって呼んでるジャンルをフリー・ソウルみたいにしてやるって思ってたんですよ。キーボードがよく聴こえるとか、ブレイクが多めとか、ファンキーに聴こえるとか、そういうのデスロックって呼んじゃってます。

柳樂:そっか、ロックのミックスCD出してますもんね。

D.L:あ、そういえば、俺、メタルのDJもやるんですよ。

柳樂:マジっすか。それは、どういう……?

D.L:それはね、年に2回か3回やってる……。

柳樂:どこでやるんですか。

D.L:〈Organ Bar〉です。

柳樂:へー。

D.L:クボタタケシもいっしょに回してますね、メタルを。あと近藤くんっていうデザイナーの。BB、えーとブラックベルトジョーンズDCっていうんですけど。BBJDCかな。あと、ファンクのDJの黒田さん。黒田さんは、ドーナツ盤でメタルを集めてるんですよ。だからドーナツ盤でメタルをかけるの。

メタルはメタルのマナーに則ってメタルの人になりきって当時の熱さを思い出すみたいなのじゃないと意味ないんで。

柳樂:メタルは何が好きなんですか。

D.L:俺が担当するのは、ジャパニーズ・メタルの時間って感じで、Loudness(ラウドネス)とか44 Magnum(44マグナム)とかEarthshaker(アースシェイカー)とか、いろんなそういう、恥ずかしいものをかけるのが大好きなんですよ。

柳樂:それを、ヒップホップっぽい感じで繋ぐんですか?

D.L:いやクボタはね、すごいヒップホップっぽくかけるんですよ。ビッグビート2枚がけとか。そういうのつまんないから俺は違うんですけどね。メタルはメタルのマナーに則ってメタルの人になりきって当時の熱さを思い出すみたいなのじゃないと意味ないんで。

柳樂:メタル・マナーのDJってどういうスタイルなんですか。

D.L:いや、高校くらいのときは、藤沢のギター・クリニック・スクールに44 Magnumの人が来てて、そのギターを観に行ったりしてた頃の視線でかけますね。その頃の視点でディープ・パープルをかけるとか、オジー・オズボーンをかけるとか、そういう感じですね。

柳樂:やっぱギターを大事にする感じで。

D.L:そうですね。

柳樂:そこやっぱ太いとかじゃないんですね。

D.L:違いますね。うるさいって感じですね。ギターをうるさく。

柳樂:ラウドな感じで。

D.L:そうですね、そうなんですよ。ほんとみんなそこですね。黒田さんもそうなんだけど、高校くらい……ヘビメタ・ブームだったときに、聴いてたメタルを俺たちがかけるみたいな感じで。30年振りにみたいな。

柳樂:メタルはメタル・マナーでかけるって発言やばいですね。かっこいい。

D.L:ダメなんだよ、メタルなのにヒップホップ的にかけちゃうのって。トリックとかやっちゃうんだよ、メタルで。ガーチキチキ、ガーチキチキとか。ぜんぜんダメで。そういうのはやっちゃダメなの。すごい上手くても、ヒップホップを通った人がやるメタルと違うんで。ヒップホップが無かった頃から最初にメタル聴いてた人たちは。

“ウォーク・ディス・ウェイ”とか。なんだろね、偽物っぽく聴こえてた。どっちかっていうと“ロック・ボックス”のほうがもっとロックだった。

柳樂:やっぱもとは当時普通に流行ってたメタルとかがお好きで?

D.L:そうですね。トップ40系から入ってメタル行って。アメリカ行って最初に、アメリカン・トップ40とかヘビメタが流行ってましたね。LAメタルとか。それが93年、4年くらいで、その時にもうランDMCの“サッカー・M.C.’s(Sucker M.C.'s)”とか出ちゃったから、並行して聴くようになって、それ以降、そっちばっか聴くようになって。だからメタルのほうが先でしたね、じつは。

柳樂:そういう話を聞くと、“ウォーク・ディス・ウェイ(Walk This Way)”でエアロスミスとランDMCが共演した時代のことも納得できますよね。

D.L:そうですね。あの頃はぜんぜんよく聴こえなかったんですけど、“ウォーク・ディス・ウェイ”とか。なんだろね、偽物っぽく聴こえてた。どっちかっていうと“ロック・ボックス”のほうがもっとロックだった。エディ・マルティネス(Eddie Martinez)のギターのソロが入ってて。あれはロックだと思ったけど。ビースティ・ボーイズがきて、なんかアリだなって思いましたね。レッド・ツェッペリン使ってたり。あと“ファイト・フォー・ユア・ライト(Fight For Your Right)”。どっちかっていうとロックの曲に聴こえちゃった、ラップの曲よりも。あれがすごい開いた感じですよね。

柳樂:やっぱビースティってけっこう衝撃的だったんですね。

D.L:もうニューヨークにいて、白人と思えないくらいレッド・アラート(DJ Red Alert)もみんなかけてましたね。あれはたぶん、ラッシュの力でしょうけど。ランDMCとマンツーマンでライブをやらせたり、ラジオとかも回ってたみたいだから、すごい、“ホールド・イット・ナウ、ヒット・イット(Hold It Now, Hit It)”っていう曲があるでしょ。「ホールドナウホールドナウ」っていう。あれがもう、ランDMCの“ヒット・イット・ラン(Hit It Run)”と“ホールド・イット・ナウ”が、五分五分のタイミングで必ずローテションで組まれてて、すごい流行ってましたね。『レイジング・ヘル(Raising Hell)』もすごい売れてたけど、だんだんビースティの『ライセンスト・トゥ・イル(Licensed To Ill)』のほうがすごい人気になっちゃって。でも、俺たちはそのへんの曲にはあんま反応しなくて、俺たちが反応してたのは、“スロウ・アンド・ロウ(Slow And Low)”でしたね。たぶん80くらいしかないピッチの。ウォーーーっていう、「let it go, let yourself go」っていうあのやつですね。あれをラジオだとWBSより、Kiss FMよりもっとちっちゃいWNEWっていう小さいラジオ局があって、そこのGhetto DJみたいなやつがいて、ナイス&スムース(Nice & Smooth)のアルバムをプロデュースしたオウサム2(Awesome 2)なんですけど、そいつらがかけてるすごい人気ないラジオ番組があって、夜中2時からやってて、そこでそれがかかってて、それを毎週みんなチェックしてたんですよ。ビースティはそっちだなって感じでやってて。

柳樂:小さい番組はやっぱりそういうディープな曲を。

D.L:そうなんですよ。あともう1つ、DNA&ハンクラヴっていうDJの番組があって。そっちはね、ウルトラ・マグネティックMC’s(Ultramagnetic MC's)のいちばん最初のシングルをリリースしてる会社をやってたんですよ、DNAインターナショナルって。そこでは、「あのpeter piper picked papersって言ってる曲聴いたか、あんなのワックだぜ」ってランDMCの“ピーター・パイパー(Peter Piper)”をディスってる曲があって、それをかけてて。自分たちもそのほうがかっこいいなって思ってて、でも世の中はもう間違いなくランDMCを推してるんですよ。確実にランDMCが8:2くらいで優勢なんだけど、その2くらいのもわもわってしてる人たちはそっちのラジオを聴いて、絶対いいこっちのほうがいいって言ってた、そんな感じでしたね。

〈プロファイル〉が実際とてつもない、〈デフジャム〉なんかよりビッグなレーベルだったって知らないと思うんですよね。

柳樂:その頃いちばん好きなヒップホップって何でした?

D.L:ヒップホップで、なにかな。〈プロファイル(Profile)〉がすごい流行ってたんですよ。プロファイルっていうレーベル。だから〈プロファイル〉系のものはすごい好きでしたね。ぜんぜん流行ってなかったけど俺が好きだったのはドクター・ジキル&ミスター・ハイド(Dr.Jeckyll & Mr.Hyde)の“ファースト・ライフ(First Life)”って曲とか、あとディスコ・フォー(Disco Four)。ディスコ・フォーはね、何のため、why、was I born、nah mean、ガキの頃からのクエスション、なんだっけなあの曲。それで使ってる曲なんだけど、“ザ・キング・オブ・ヒップホップ(The King Of Hip Hop)”って曲。〈プロファイル〉ばっかり聴いてましたね。

柳樂:D.Lさんに〈プロファイル〉のイメージってあんまないですね。

D.L:あの、なんて言うのかな。いま日本にいる人、あの頃18くらいだった人はいま40いくつだろうけど、そのときニューヨークに住んでなかったんで、たぶん、〈プロファイル〉が実際とてつもない、〈デフジャム〉なんかよりビッグなレーベルだったって知らないと思うんですよね。すごい、毎週ラジオからかかる新曲のやばいのって〈プロファイル〉だったんで。渋谷の、いまもうなくなっちゃったけど、駅降りるとフリーマーケットみたいになってたんですよ、昔。そこでニューヨークのラジオを誰かがたぶん送って、それを日本でダビングして売ってたんですよ。今日はWBS、来週はKissのとか、日付違いで、けっこう何十本もあって、わけのわかんない人がやってたんですよ。そういうので聴いてたら多少はわかるけど、そういうので聴いてなかったらほとんど入らないから、〈プロファイル〉がすごい流行ってたのはたぶん知らないと思うんですよね。〈スリーピング・バッグ(Sleeping Bag)〉とかもすごい流行ってたし、ジャンパー作るくらい流行ってたし、なんて言うのかな、その時期そのタイミングで、ピークだったように見えるレーベルっていっぱいあるんですよね。〈ワイルド・ピッチ(Wild Pitch)〉もそうだし。

柳樂:へー。

D.L:これあの、ぜんぜんこの話と違うんだけど、ウルトラマグネティックMC’sの〈ワイルド・ピッチ〉の“トゥー・ブラザーズ・ウィズ・チェックス(Two Brothers With Checks)”のときに、日本におれ、ウルトラ呼ぼうと思って仲良くなってて、そのビデオの中に出てるんですよ。野球やるシーンで、〈ワイルド・ピッチ〉の社長と奥さんと息子と。で、1人足りなかったんでおれが入って、ホームベースのところで、一塁はこの人、二塁はこの人、三塁はこの人、ホームベースはこの人みたいな感じで、そこで野球っぽいことをやってるシーンがあるんだけど、そういうのちょっと出てる。
まぁ、いま何を言おうとしたかって言うと、〈ワイルド・ピッチ〉もいまもう無いし、本当にあったのってくらい誰も覚えてない、何でもないレーベルなんですけど、当時は、あの、宣伝にTシャツを作って配ってたり、宣伝用のレコードジャケットのサイズの段ボールを道路脇の柱にホッチキスで止めたりして、ビギーの宣伝だぜみたいにやったり、ストリート・プロモーションみたいなことやってたんですよ。で、俺たちみたいなのは、それを剥がして持って帰っちゃうみたいな(笑)。日本ではレーベルもあんまそういうことやんないなって帰ってから思ったけど、あっちではしょっちゅうやってましたね。
ステッカーがあとすごいいっぱいあって、もう、もちろんそれはもう〈ワイルド・ピッチ〉も〈プロファイル〉も〈デフジャム〉もどこでもそうなんだけど、なんで12インチの宣伝ごときにこんな2パターンも3パターンもステッカー作っちゃうのかなって、わけんねーなってくらいいろんなステッカーを貼って、流行ってない頃から貼っちゃって、あたかもすごい流行ってるって勘違いさせながらラジオですごいプッシュするんで、それがすごい蔓延してく……みたいなやり方とか。(O.C.の)“タイムズ・アップ(Time's Up)”のときのステッカーもそうだけど──こういうなんか、手のやつなんですけど、それなんか流行る前からいろんなとこに貼ってあって、何なんだろうこれ「タイムズ・アップ」、時間だぜみたいなタイトルで何なんだろ何なんだろと思ってたらぐあーっと来て。そういうのやってましたね。すごいお金かけて、それがプロモーションになるのかわかんないけどやっちゃってましたね。

12インチの宣伝ごときにこんな2パターンも3パターンもステッカー作っちゃうのかなって、わけんねーなってくらいいろんなステッカーを貼って、

あと、渋谷のシスコの、当時プロモでがんがん売れるからどんどんプロモの12インチをとってくれとってくれってきてて、シスコのレコード送る担当やってたんだけど、当時のマンハッタンとかブルックリンとかクイーンズに、その街の、まぁなんて言うのかな、プロモ盤を一挙に握ってるような、怪しいガキとかが一杯いて、そいつらから2ドル50とかでプロ盤買えるんですけど、「4枚しか売っちゃダメだって言われてるから4枚しか売れないよ」って言ってるやつに「倍の5ドル出すから倍の10枚くれ」って言うとそいつらも金がないから「お前に売るけど内緒だぞ」みたいな感じで10枚くらい売ってくれるんですよ。でそれをシスコで日本に送って、クボタが日本で受け取ってニューヨークは俺がやるみたいな感じでずっとやってた時期があったんだけど、そういう感じで、お金を持ってるから日本人に売っちゃうっていうのはあんまりよくないけど、実際イギリス人と日本人しかがっつり買わなかったから、日本に流れた当時のプロモ盤っていうのはそういうふうにやってたんですよね。でそういうふうにプロモ盤をいっぱい持ってる彼らは、レコードも持ってるけど、そいつの家とかに行くとそれといっしょにステッカーを束でいっぱい持ってたんですよね、いろんなタイプの。それももらって日本に送っちゃってたんですけど、なんかね、プロモのやり方とか、昔はそんな感じだったんですよね。

柳樂:すげーなんかストリートの、地道なっていうか。

ある日、レコードを買いに行ってそのあと歩いてたらクール・キース(Kool Keith)がいて、電柱に登ってて、ウルトラ・マグネティックって書いてあるステッカーを貼ってて……一生懸命。

D.L:うん、本当そうだったね。もうストリートの地道のどうのこうのって話でいちばん狂ってるのが、ニューヨークで、ジャマイカ・アヴェニューっていうところがあって、クイーンズの。まぁジャマイカ人がけっこういてジャマイカの風俗とかもあったからそこはジャマイカ・アヴェニューって感じで呼んでたんだけど、そこである日、レコードを買いに行ってそのあと歩いてたらクール・キース(Kool Keith)がいて、電柱に登ってて、ウルトラ・マグネティックって書いてあるステッカーを貼ってて……一生懸命。何やってんだって言ったら、お前ジャパニーズだなって下りてきて、ぜんぜん面識ないのに「お前と俺はこうやってステッカー貼ってるときに会うから、女紹介してくれ」みたいな、すごすぎて(笑)。最初にクール・キースと話したのはそれだったんだよね。で、実際あの、“トゥー・ブラザーズ・ウィズ・チェックス”のビデオのときに、当時の、まだ誰も知らなかったウエダカオリと、●●の彼女だった人ふたりを連れてったんで、よく見るとライヴのシーンで日本人の女が二人いる。よく見るとカオリちゃんと、チッチっていう……。

柳樂:カオリちゃん?

D.L:DJ Kaoriです。日本人の女よんでくれって言われたから。そうそう。

柳樂:マジで。クール・キースが電柱登ってたってのもやばいですね。

D.L:登ってたし、他の、普通のプロモーションをやる子どもたちがステッカーを貼るかのように自分もやってたみたいな感じで。すごいですよ。そんなもんだったんですよね。やつらもきっと契約金とかもぽーんと入るんだろうけどすぐ使っちゃってぜんぜんお金なくなるから自分でそういうことやってるって感じで。

柳樂:へーすげー。そっちにいないと本当そんなのわかんないですもんね。

D.L:そうですね。

柳樂:すごいアンダーグラウンドだったんですね。

D.L:そうですね。そのビデオのときに、結局そのカットすごすぎて写んなかったんだけど、クール・キースがシマウマ柄の超ハイレグみたいになってる怪しいパンツはいて、背中にピンク色の空気ボンベみたいのしょってて、裸で変な帽子かぶって、すごい感じで出てきてライヴとかやったんだけど、あんまりかっこよくなかったんだよ、正直。で、そこカットされてたね。もう、ウルトラのメンバーもみんな凍っちゃってて。1人だけ、やっぱ狂ってるんだよね。

柳樂:狂ってますね

D.L:もうね、クール・キースはベルヴューっていう精神病院に入院してた時期があったり、頭おかしい時期があったんですよ。でも、日本に来たときも頭すげー悪くて。BUDDHA BRANDでクール・キースのオープニングみたいなライヴやったときが1回あって。ロックバンドの54-71のバックの演奏になぜかクール・キースが入るみたいなアルバムが出てて。そのときに、ポルノ映画ほしいから、ポルノ買いに行こうって言われて、それは付き合わなかったんだけど、子どもがミニカーを欲しいって言ってるから連れてってくれっていうんで中野のまんだらけに行ったんです。その時に、3000円くらいの、べつにそんな高くないミニカーをずーーっと30分くらい眺めててずーーっとなんか言ってて「これを買ってってやらないと、俺のポルノのお土産はけっこうあるから子どもに何も買ってかないと怒るから、買ってってやりたいけど俺はもっとポルノを買いたいからこれを買う自信はないなぁ」とかずっと言ってんだよ独り言。で、また買わずに他のとこぐるって回ってまたそこ戻ってまたこうやってこれを買わないとどーのこーのって、結局買わないで帰ったんだけど(笑)。やっぱ変態なんだよね。自分のポルノのお土産はけっこう買ってったのに、子ども用のお土産は結局買わなかったんだよ。

柳樂:狂ってますね

D.L:もっとすごいのがね、楽屋で俺と話してるときに、白人のアメリカ人の女がここにクール・キースいるからってのを聞きつけて楽屋に来て。俺はクール・キースと真剣な話してたんだけど、女が横に来てハーイって言いはじめたら、こっちで話してるのに、もう顔はほとんど女のほうばっか向いてて、だんだん話がつじつまが合わなくなってきて、もういつの間にか横に女が座ってきちゃって、もういいやインタヴューみたいな感じになっちゃって、いやインタヴューじゃないや、このビジネスのトークはまた今度にしよう、明日でもいいから。こっちが忙しくなったから、こっちでちょっと話するからみたいな感じになっちゃって。めちゃくちゃでしょ、これやっぱ変わってないな、昔のあーゆー感じで、色気違いだなって感じで……

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気づけば予定の時刻を超過していた。ミックスCDの話から、メタルDJ、そしてネットで見つけた新たな才能、アメリカでのヒップホップのプロモーションや親交のあったクール・キースの話まで、振れ幅の広い、ディープな話の連続だった。ちなみにここに掲載できた話題は半分にも満たない。いま、D.Lがとてつもなく危険なDJになっていることを我々の手ではここまでしかお伝えすることはできない。もし、そのさらなる答えが知りたければ、D.LのDJの現場に足を運んでほしい。そこにはファンク/レアグルーヴを自分の流儀でプレイするDJの究極の姿を見ることができるはずだ。

KiliKiliVIlla - ele-king

 ここ数年、全国の各地域それぞれのスタイルで育っているシーンが独自のネットワークで活動を広げている。そこに集う新しい価値観とユニークなサウンドを持ったアーティストを書き下ろしの新曲でコンパイル。数年後に振り返った時、このコンピレーションがその時代にとっての『C86』や『Pillows & Prayers』になるかもしれない。
 1970年代後半から1980年代前半、多くの自主レーベルが活動を開始したこの時期、新しく、しかしマイナーな音楽を愛好する同志が情報を交換し、コミュニケーションの場として機能していたのがファンジンだった。インターネット経由でどんな情報にもアクセスできるいまだからこそ、音楽をテーマに志しを同じくする者が集える場所をファンジンとして作ってみようという試みだ。
 80年代から90年代、シャープな絵柄と巧みな人物造形でロック・バンドを描いた名作『緑茶夢』、『おんなのこ物語』の作者、森脇真末味へのメール・インタヴューが実現!
 いまアメリカで最も注目されてカセット・レーベル、〈バーガー・レコーズ〉の創設者のインタヴューも収録!

 レーベル・コンピレーション第一弾、4月22日発売決定!
 1,000部限定、KiliKIliVilla初のファンジン付きレーベル・コンピレーション
 ファンジン、CDを豪華ケースに収納の特殊パッケージ
 タイトル:「While We're Dead.」~ The First Year ~
 品番:KKV-004FN
 値段:2,500税抜
 安孫子真哉プロデュース、全13バンド書き下ろし新曲を収録。

 収録アーティスト
 01.Laughing Nerds And A Wallflower/NOT WONK
 02.リプレイスメンツ/SEVENTEEN AGAiN
 03.SILENT MAN/THE SLEEPING AIDS & RAZORBLADES
 04.Littleman/SUMMERMAN
 05.The sunrise for me/over head kick girl
 06.FINE/Homecomings
 07.Tornade Musashi/CAR10
 08.I ALWAYS/MILK
 09.それはそれとして/Hi,how are you?
 10.All Time Favorite/odd eyes
 11.レイシズム/Killerpass
 12.The Sun Wind In Summer Zeal/SUSPENDED GIRLS
 13.Douglas/LINK

 ファンジン著者一覧
 インタヴュー
 ショーン・ボーマン(バーガー・レコーズ)インタヴュー
 森脇真末味インタヴュー

 レヴュー
 下地 康太(DiSGUSTEENS, Suspended Girls)
 オニギリギリオ(WATERSLIDE)
 与田太郎(KiliKiliVIlla)

 対談
 安孫子真哉&角張渉(カクバリズム)

 エッセイ
 安孫子真哉(KiliKiliVIlla)
 中村明珍
 snuffy smiles
 卓洋輔(Anorak citylights)
 庄司信也(YOUTH RECORDS・factory1994)
 谷ぐち順(Less Than TV)
 よこちん(DYENAMiTE CREW)
 五味秀明(THE ACT WE ACT)
 伊藤 祐樹(THE FULL TEENZ)
 久保 勉(A Page Of Punk)
 橋本康平(over head kick girl)
 しばた(FÖRTVIVLAN)
 山崎周吾(DEBAUCHMOOD)
 林 隆司(Killerpass)
 藪 雄太(SEVENTEEN AGAiN)
 はっとりたけし
 SUMMER OF FUN

 https://kilikilivilla.com/post/114722201604/news-2015-03-27

 https://kilikilivilla.com/

Dasha Rush - ele-king

 水滴のような電子音楽。〈ラスター・ノートン〉からリリースされたダーシャ・ラッシュのアルバムを聴いたとき、そのようなことを感じた。彼女はロシア人のエレクトロニクス・ミュージックのプロデューサーである。モスクワで育ち、現在、フランスで暮らしている。同時に世界中を飛び回る人気DJでもある。
 ダーシャ・ラッシュのサウンド・コンポジションは、ダンス・ミュージックとエクスペリメンタル・ミュージックの境界線を曖昧にする。このアルバムも同様だ。聴く人をはぐらかし、夢の回廊へと誘うサウンドが16曲も収録されている。音の光と音の水滴を、その肌に感じさせてくれる音楽/音響とでもいうべきか。ロシアで水とくれば、どこかタルコフスキー的なイメージだが、ことはそう安易ではない。聴くことと無意識が混然一体となり、イメージとサウンドが融解する。そんなリスニング体験が本作にはあるのだ。

 まずはダーシャ・ラッシュの音楽的経歴を振り返っておこう。最初の公式リリースは2004年に自身のレーベル〈ハンガー・トゥー・クリエイト〉から発表した12インチ・シングル「アンタイトルド・ハンガー」である。2004年暮れには、ダンス・ミュージックにフォーカスを当てた〈フルパンダ〉を〈ハンガー・トゥー・クリエイト〉のサブ・レーベルとして設立。同レーベルから2005年に12インチ・シングル「フルパンダ」を、2006年にファースト・アルバム『フォームス・アイント・フォーマット』をリリースした。いくつかのシングル・リリースを挟み、2009年に〈ハンガー・トゥー・クリエイト〉からセカンド・アルバム『アイ・ラン・アイロン・アイ・ラン・アイロニック』を発表。どの作品もテクノの機能性とエクスペリメンタルな音響処理が融合した作品であった。
 ダーシャ・ラッシュのルーツはテクノにあるという。じじつ彼女は、世界中で人気DJとして活躍している(日本のドミューンでも見事なプレイを披露したことを覚えている人も多いはず)。12インチ・シングルのリリースも活発である。しかし、その音が機能的なダンス・ミュージックのクリシェに陥っていない点が重要なのだ。トラックの中心が水の流れのように流れ、はぐらかされ(歯車の流れを内側から変えていくように)、音の深層は官能的な表面性へと転換される(音のカーテンに触れているように)。リズムとサウンドは構造的に分断せずに空気のように融解していくのだ。それはビートの効いたトラックでも、エクスペリメンタルな作風の曲も変わらない彼女の強い個性に思える。
 近年でもLars Hemmerlingとのユニット・ラダ(LADA)においては、ダーク・アンビエントな音を展開し、〈ソニック・グルーヴ〉や〈ディープ・サウンド・チャンネル〉からリリースされたソロ・シングルでは、インダストリアル/アンビエントなトラックをリリースしている。
 2015年にネット上にアップされている彼女のスタジオ・ライヴを観てみよう。テクノを基調にしつつも、そのアンビンエンスな音響美学にさらに磨きがかかっているのがわかるはずだ。

 そして、〈ラスター・ノートン〉からリリースされた待望の新作は、エクスペリメンタルな作風とレーベル・カラーのマリアージュが実現している傑作に仕上がっている。これまでのアルバムやトラック以上にテクノ的機能性は控えめで、サウンド・デザイナー、ダーシャ・ラッシュの個性が全面に出ているのだ。アルバムのテーマは不眠と眠りがテーマという。CD盤には豪華なブックレットが付属され、そこにダーシャによる世界各地の写真に詩が添えられている。音とヴィジュアルと言葉によって、自身のアートや思想を表現しているように思える。

 同時に、これほどに音の温度・色彩・光の濃度が変化していくような不定形な感覚に満ちた音楽も稀だ。ピアノ、ビート、電子音、微かなノイズ、アンビエント、そして彼女のポエトリー・リーディングなどが霧のように交錯し、不可思議な浮遊感を漂わせている。何回聴いても聴ききった気がしない。夢に宙吊りにされる感覚。それゆえ思わず繰り返し聴いてしまう悦楽。
 最初に書いたように、そのサウンドは水滴のようだ。ピアノのアルペジオもビートも電子音のアンビエンスも滴り落ちる水滴のように透明で不安定な優雅さがある。また、深海から光を見上げるような感覚もある。さらにはビートには、闇の中のバレエのステップのようなリズムも感じる。

 私は、そんな彼女の音を聴いていると20世紀初頭の芸術運動を想起してしまう。ダーシャ・ラッシュは形式の安定性を揺るがし、言葉や表現の意味をずらしていく。そうしてフォームとフォームを結合させていく。ダダ、未来派、シュールリアリズムのように。じっさいダーシャ・ラッシュは教会や劇場などでジャンルを越境するようなコンサートのプレゼンテーションを行っているという。本作のために作られたティーザー映像にもどこか無声映画時代の映像を感じる。

 2015年。20世紀が終わり、21世紀に突入し、既に15年が経過した。いよいよもって20世紀的な経済構造や社会構造が限界と終局を迎えつつある時代である。それは終わりの始まりの時代といえる。
 インダストリアル/テクノ以降のエクスペリメンタル・ミュージックは、そのような時代の無意識を敏感に察知し、20世紀初頭のモダニズムへと回帰している。それが円環的な回帰なのか、終局の反復なのかはわからないが、20世紀の総括を無意識に求めているという点は事実だろう。世界中でリミテッド・リリースされているエクスペリメンタル・ミュージックは、その無意識を敏感に察知している。たとえば、〈エントラクト〉からリリースされているカフカの病床での手紙やメモを即興演奏で音響化したジョセフ・クレイトン・ミルズ『ザ・ペイシェント』は、カフカと即興演奏を接続させていくことで、ドイツ/文学/無声映画/音響と20世紀の芸術の歴史を越境させている傑作であった。また。AGFのエレクトロニクス・ミュージックにおけるダダイズム的な旺盛創作なども例に上げていいだろう。もちろんアンディ・ストット=〈モダン・ラヴ〉のサウンド/ヴィジュアル運動も、である。

 ダーシャ・ラッシュの新作も同様だ。彼女はシュールリアリズム的なイメージを援用することで、20世紀の芸術運動を21世紀の音楽に内包させている。これは反復やノスタルジアではない(じじつ、だれもその時代に生きていたわけではない)。文化・芸術を、ここで総括させるという無意識の発露であり、終わりからの始まりを示す重要な兆候といえる。そしてその本質にあるのは不安の発露だ(彼女は形式の円滑な作動を内側から優雅に壊す)。このダーシャ・ラッシュの新作は、そんな私たちの無意識=不安に作用するアルバムなのである。だからこそ水滴のような音で私たちの不眠と夢の領域を曖昧にするのだ。睡眠へのステップ。不安。闇。光。水滴。まさに夢の回廊のような稀有な作品である。

Jam City - ele-king

「雑草は、静かにその庭に乱入するのだ」
ジャック・ラザム

 彼らがあらかじめ悲観的だったことを君がまだわからないと言うのなら、僕は君の首根っこをつかまえて、目の前にOPNの『レプリカ』のジャケを叩きつけてあげよう。終わりなき複製空間のなかで君が手にした鏡に映る骸骨こそ、そう、君自身の姿だ。2012年にジャック・ラザムがジャム・シティ名義で発表した『Classical Curve』を思い出して欲しい。君はあのとき、J.G.バラードの小説の主人公のように、都会の夜の、大企業のビルの巨大なエントランスのぶ厚いガラスにバイクごと突っ込んだ。中庭の植物が暗闇のなかの不気味な生き物のように見える。ジャンクメール、ジャンクフード、ジャンクワールド、ジャンク・ミュージック……カーテンを閉めて無料のオンライン・ポルノ動画を見ている、ピンク色の空の下……

 エレキングのvol.16の巻頭ページに、僕はどうしてもジャック・ラザムの最新写真を載せなければならなかった。トレンチコートを着て、彼は墓場の真ん中につっ立っている。いわばゴスだ。コートには、彼自身の手製のパッチワークが見える。腕には「 LOVE IS RESISTANCE(愛は抵抗)」という言葉が巻かれている。胸には「PROTEST & SURVIVE(抗議して生き残れ)」と書かれている。僕は思わず笑ってしまった。
 笑って、そして押し黙ったまま、ジャム・シティのセカンド・アルバムを聴き続けた。タイトルは『庭を夢見る』。ヒプナゴジックなイントロダクションを経て、ノイズとビートとシンセ音と、アンビエントとベースと、さまざまなものが混じり合い、やがてラザムの物憂げな歌が入って来る。

 この世界には狼が入り込んでいて
 その牙を午後の布団カバーに食い込ませてる
 でもこれは彼には初めてのことじゃない 
“A Walk Down Chapel”

 チルウェイヴと呼ばれるものもインダストリアルと呼ばれるものも、逃避主義であることに変わりはない。ダーク・サウンドもまた然り。EDMも、テクノも、ハウスも、ダブステップも、ダンスを通じてエクスタシーを得るという体験においては同じものであるように。
 もともとポップ・ミュージックそれ自体が夢の劇場だ。過酷な現実から逃れたいがために人は音楽を聴く。それを政治的無関心と括るのは乱暴だろう。
 『庭を夢見る』は、そういう意味で掟破りの1枚だ。ここには、逃避でも快楽でもなく、「ステイトメント」がある。それはパンク・アティチュードと呼ばれうるものかもしれない。『Classical Curve』は音響/ビートの作品だったが、ラザムは今作においてそこに言葉と歌を加えている。
 それが望まれたものだったのかどうかはわからない。バイクごと突っ込まれて粉々になったガラスのように、衝突して、砕け散ったUKガラージの、インダストリアル・シンセ・ファンクを期待していたかもしれない。『庭を夢見る』はクラブ・フレンドリーなアルバムとは言えない。
 しかし、ここには望みはしなかったが逃れがたい感動があるのだ。



 歌のなかでラザムは「僕らはアンハッピー(不幸)なのか?」と繰り返す。vol.16のインタヴューで、「これはファレル・ウィリアムスの“ハッピー”への回答なのか」という問いに対して、「そうではない」と彼は答えた。そう捉えてもかまわないけど、僕はファレルが大好きだとラザムは語っている(このインタヴュー記事はぜひ読んでいただきたい。階級社会について、ブレイディみかこと同じ意見を彼は述べている)。
 アルバムは、しかしアンハッピーではない。僕の大きな間違いは、ビートインクからコメントを急かされたとき、深く聴き込みもせずに、これを「メランコリー」などと表現してしまったことだ。

 少し前まで僕はコンピュータを操る子供だった
“Today”

 ハイパー大量消費社会がディストピアにしか見えなくなったとき、ドリーム・ポップと政治的抗議は、不可分になりうるのだろうか。チルウェイヴと路上での直接行動は適合しうるのだろうか。部屋のカーテンに火をともせと彼は歌う。矛盾を受け入れろ。アルバムの言葉は彼と同世代、つまり若者に向けられている。“Crisis”は、おそらく4年前の暴動に関する歌だ。

 君はマイ・ガール
 君を破壊者と呼ぶ人もいるだろう
 だけど悲しみだけじゃ君は満足できないんだ
“Crisis”

 シニシズムというものがここにはない。望みはしなかったが逃れがたい感動と僕は先述したが、アホみたいな言葉に言い換えれば、それは彼の純真さである。僕がぼんやりとしている間に、こうして君は、空からひとつそしてまたひとつ星が消えていくことを知った。壊されて、砕け散ったコンクリートがジャケットの上に散らかっている。何を取り戻すべきかは、ラザムにはわかっている。庭だ。美しい心が絶え間なく悲鳴を上げている。星々が消えていくのを見るためだけに生きているのではないと、この夢想家は歌っている。このアルバムは新しい商品ではない。論理的なネクストだ。
 庭を夢見る──なんて暗示的なタイトルだろう。

interview with The Wedding Mistakes - ele-king


Wedding Mistakes
Virgin Road

ElectronicaDream PopBreakcore

Amazon

 音楽をやることがけっしてイケてることにはならない時代に、それはむしろ本来的な自由さを取り戻しているともいえるかもしれない。格好よかろうが悪かろうが、カネになろうがなるまいが、やりたいからやるというあり方がデフォルトになった世界のほうが、音楽に多様性を生むという意味ではすぐれている。音楽不況というが、それは旧来的な産業システムにおける話であって、いまインディの層はかつてなく豊かだと言うこともできる。
 音楽の自由さを広げている要素はそればかりではない。情報環境の変化もある。ここに登場するような彼らにとって、そもそもアルバムをつくるということは盤をプレスすることではなくなっている。いまとなっては目新しいことではないが、彼らが「ファーストが出て……」などと語るときの「出る」というのは、ネット上にまとまった音源がアップされるというだけのことだ。それが「ジャケ」を持ったアルバム作品として当然のように認識されるようになったのが2000年代なかば、いわゆる「ネットレーベル」の流行以降。なんら資本の影響を受けることなく、かつレーベルというかたちを通してキュレーションされることで、シーンをもつくり得る力を持った作品たちが山のように登場し、主役になる時代の幕開けである。そして、それこそがThe Wedding Mistakesたちが生まれてきた場所でもある。MiiiとLASTorder、それぞれ独立してキャリアを持つふたりのプロデューサーによって結成されたこのユニットの背景には、ネットレーベルの風雲児たる〈Maltine Records(マルチネ・レコーズ)〉などの存在がある。同レーベルの古参であるMiiiはもちろんだが、今作のアートワークを手掛けたおじぎちゃん(セーラーかんな子とのDJユニット、ぇゎモゐとしても活動)を彼らに結びつけたのも〈マルチネ〉のtomadだという。そして、すこし離れたシーンで活動しながらも、それらに寄せるシンパシーはLASTorderも変わらない。社会全体としていい時代かどうか知らないけれど、世知辛くはあっても音楽的には二重に自由な環境を彼らはのびのびと泳いでまわっている。

 配信のみで昨年発表されたThe Wedding Mistakesのアルバム『Virgin Road』がフィジカル・リリースされた。そう、商業性のあるステージやフィジカルが流通する場所との行き来も自由である。インタヴュー中、ふたりの口から洩れた「逆にっていうのが嫌い」という考え方が印象的だった。過剰な情報空間において、メタなふるまいによってではなくまっすぐに喜びを得たいという気持ちには、切実に共感を抱く。ポスト・インターネットの感性だからこそつかめる純真さが、そこには顔をのぞかせている。Miiiのギークなブレイクコア、LASTorderの正統派にして抒情系の「ニカ」、音楽的にはさまざまな対照を持っているが、彼らはそうした地平に生まれたドリーミーなミュータントとして、ミューテイトするウエディングとして、明るい音響を築き上げている。

インタヴューのラストでティーザー音源をお聴きいただけます

■The Wedding Mistakes / ウエディング・ミステイクス
MiiiとLASTorderにより2013年に結成されたユニット。2014年11月にリリースされたデビュー作「Midnight Searchlight EP」はiTuensエレクトロニックチャート1位を記録。2015年2月にファースト・アルバム『Virgin Road』をリリース。
https://theweddingmistakes.com/virginroad/

LASTorder
2013年に発表したファースト・アルバム『Bliss in the loss』はタワーレコードでも大きく展開されロングセラーを記録。今年の7月には〈PROGRESSIVE FOrM〉よりセカンド・アルバム『Allure』をリリース。数々のリミックス制作も行う。

Miii
10代から楽曲制作を行い、〈Maltine Records〉の古参としてイベントには毎回出演、2枚のソロ作品を残す。日本屈指のハードコア/ベースミュージック・レーベル〈Murder Channel〉からファースト・アルバムを6月にリリース。東京女子流、夢見ねむ(でんぱ組inc.)等の公式リミックスも手がける。

中学生くらいのときは、ちょうどミクシィとかが出はじめたときだったんですよ。ミクシィはミクシィ・レヴューっていうのがあって。(Miii)

(『ele-king vol.15』を差し出しながら)お若いおふたりですが、紙の音楽雑誌を読んでいた記憶とかってあったりするんですか?

Miii(以下、M):『DTMマガジン』を買って読むくらいですね。

おお、本当に実用的な読み方というか。

M:そうですね。音楽専門誌みたいなものを読んでいなくて。

LASTorderさんはどうですか?

LASTorder(以下、L):『サンレコ(サウンド&レコーディング・マガジン)』。

やっぱりおふたりとも機材よりなんですね(笑)。

M:機材を眺めて、「コレめっちゃほしい!」みたいなことを、ずっとやっていましたね。

ははは、いまは「今月このアルバムを聴かなきゃ」ってことを紙で確認するような感じはないですかねー。

M:でも、ディスク・レヴューのコーナーがいちばん好きなんですよね。

なるほど、それはわかりますね。興味はどっちかというと邦楽よりでした? 洋楽よりでした? ……まあ、そういうふうに括ることの是非はおいといて。

L:俺は邦楽よりだったかな。

M:中学生くらいのときは、ちょうどミクシィとかが出はじめたときだったんですよ。ミクシィはミクシィ・レヴューっていうのがあって、そういうのを見るのが好きでした。

それはアマゾン・レヴューみたいなものの黎明にあたるようなものですかね?

M:そうですね。新譜情報もインターネットで探していました。

あー。やっぱりそこは隔世の感が(笑)。だから、隣は何を聴く人ぞってね、「今月聴くべきアルバム」というような認識を、みんなで共有してるわけじゃないですよね。「今月はレディオヘッドの新譜がある」とか(笑)。

M:じゃないですね。

なるほど。それでは雑談はこのあたりにしまして。おふたりはそれぞれソロ活動がスタートなわけですけれども、そもそも畑違いなアーティストであるという印象があるんですよね。The Wedding Mistakesって名義は、「ふたりのウェディングがミステイクだ」というような意図があるとか?

M:名前は雰囲気というか語感でつけたものなんですが、最終的にそういうものだったのかと思わなくもないですね。ふたりでやろうとなったのも、そもそもは僕がLASTorderに声をかけたんですけど、かたやネット・レーベル、かたやCDをリリースしているという、ぜんぜんちがうところにいたので。

L:あとジャンル的にも。

M:そうそう。だからそこをくっつけたらおもしろいなというのはありましたね。

かたやネット・レーベル、かたやCDをリリースしているという、ぜんぜん違うところにいたので。(Miii)

「異なったものの出会い」という認識はあったわけですね。LASTorderさんはどうでしょう?

L:エレクトロニカで同い年くらいのトラックメイカーって俺のまわりにすくないので、ネット・レーベル周辺には若いひとが多いから、友だちになってみようという感じで。ツイッターで近づいたりとかイヴェントに行っていたりしていたら、「いっしょに作ろう」って急に言われた感じですかね。

なるほど。それぞれのジャンルに固有の文法があると思うんですけど、おふたりは互いにそれほど共有してはいないと思うんですよね。それで、自然と制作上の役割もちがってくるような気がするんですが、ふたりの役割分担というと、LASTorderさんがウワモノ、Miiiさんがリズムみたいにすごくザックリで考えていいんですかね?

M:まさにその通りですかね。

お互いの役割について、何か話し合いみたいなものはあったんですか?

M:デモが送られてきて、それに展開をつけたり、ドラムをこっちで足したり変えたりして返して、それにまたレスポンスがくるみたいな形もある。初めから上とビート、つまり僕がビートを送って、それにメロディを付けて戻してくるみたいなパターンもありますね。最初はデモがあって、ふたりでそれを伸ばしていくことがメインでした。

それぞれに対して期待した役があると思うんですが。

M:僕は綺麗だけれど割れている……エレクトロニカというか、ノイズよりの音楽がすごく好きでした。それを自分でやるには限界があったので、LASTorderに打ち込みとかウワモノとかで耽美な雰囲気を出してもらって、そこに僕が壊れたビートをのっけたいという願望がありました。それから、LASTorderはちゃんとメロディが書けるひとなので、そういうところも求めていますね。

メロディね! 特徴ですよね。あと、“ハー・ミステイクス(Her Mistakes)”とかではヴォイス・サンプルがフィーチャーされているじゃないですか? ああいうのってLASTorderさんなんですか?

L:そうですね。

とにかくメロディを作るのが好きなので、メロディをのせることは、毎回、無意識的にしちゃっていますね。(LASTorder)

へえー。HMVさんの無人島に持っていく俺の10枚、みたいな企画(無人島 ~俺の10枚~)を覚えていらっしゃいます? おふたりがそれぞれアルバムを挙げていらっしゃいますよね。あれをちらっと拝見しまして。LASTorderさんご自身の曲は、全体としてはエレクトロ・アコースティック志向というか。

L:はい、そうですね。

で、この無人島リストを見ますと、ジュディ・シル(Judee Sill)からはじまって、ベン・フォールズ(Ben Folds)からモリコーネ(Ennio Morricone)、Shing02さんにテリー・ライリー(Terry Riley)まで入っていますね。まずポップ職人的なものに惹かれてるんだなって思ったんですよ。そしてそういうものを志向しつつもミニマルなものに引き裂かれるという。

L:その通りです。全部言われちゃいました(笑)。

ハハハハ。そのポップ職人というところをもうちょっと訊きたいんですけれども。さっきの、メロディが強いという話とも重なってくると思います。目指しているようなアーティスト像もそのへんに?

L:目指しているアーティスト像はぼんやりしていますが、とにかくメロディを作るのが好きなので、メロディをのせることは、毎回、無意識的にしちゃっていますね。

無意識的な感覚なんですか?

M:それ、わかる。彼からは、どんな曲にも何かしら主旋律っぽいのがついて返ってくるんですよね。

なるほど。ポップ・ソングってフォームを、コンポーザーとして作っていきたいという意識なんですか?

L:たぶんそうだと思います。

そうすると、エレクトロニカという流れのなかだと、また少し変わっているというか。

L:エレクトロニカと言わせていただいているんですけど、そこまでエレクトロニカをやっていることでもないっていうか。

そういう感じもしますけどね。コキユ(cokiyu)さんとも親和性があるのがわかりますし、活動されている領域もそういうところなんだなっていう。ところで、ジュディ・シルなんて本当に深くて知性的な声だったりしますけど、ここでの“ハー・ミステイクス”のヴォーカル・トラックって、ある意味その真逆みたいな、薄さを持った音だと思うんですね。そういう声や音に対する憧れはあるんですか? ジュディ・シルが好きなら本来逆なような気もしますけど。

L:憧れはたしかにあるんですよね……そういう薄い感じには。でもそういうやり方や、ピッチを上げて散らす感じの音は、やり飽きているというか。ちゃんとした声を入れたいと思っていたりはするんですよ。

へぇー!

L:けっこう手持ちのものがないというか、機材とかが少なかったりとかしてなかなかできないんですけど……。自分で声をかけて誰かの歌を録るということもあまりないですし。

肉声ヴォーカルへの、一種のアンチというわけではなく? 

L:そうなんです。アンチとかではないですね。

なるほど、正直でいらっしゃいますね。では、ボカロとかはどうですか?

L:ボカロとかは通らなかったんですけど、もし出会っていたらいまごろはバリバリPな感じになってたかもしれない(笑)。最近はそんな気もしてきた。でも偶然、ぜんぜん聴かなかっただけっていう。

ははは、素通りしちゃったわけですね。

ボカロとかは通らなかったんですけど、もし出会っていたらいまごろはバリバリPな感じになってたかもしれない(笑)。(LASTorder)

L:どこかで避けていたのかもしれないですけど。

M:僕もボカロはぜんぜん通ってないんですよ。やっぱり、意外と流行っているといえば流行っているけれど、触れないでいいといえば触れないでいいというか。聴かなくても意外となんとかなるという感じですね。

すごくフラットに考えてみれば、ボーカロイドっていうのはただの音声ソフトというか、シンセサイザーなわけじゃないですか? しかもけっこう魅力的で使いやすい。でも、それを通らないっていうときには、暗にその奥にある何かを否定しているんじゃないですか?

M:ニコニコ動画のボカロPのカルチャーとして、ということですよね、たとえば。

そうそう(笑)、ちょっと意地悪な質問ですみません。一概には括れませんけれども、彼ら「P」のようなプロデューサーの音やあり方に対するおふたりの感想や評価がどんなものなのか、すごく興味があります。どうでしょう?

僕はもともと音ゲーとかから入って、なんだかんだでネット・レーベルにたどり着いたんですよ。(Miii)

M:いろいろありますけど、僕のイメージ的には、RPGとかで別の大陸に行くともっと強いモンスターがいるという感じですかね。物語を進めて行くと強いモンスターが出てくるという感じ……同人とかボカロの界隈ってそういうイメージがあります。僕はもともと音ゲーとかから入って、なんだかんだでネット・レーベルにたどり着いたんですよ。それぞれが別の島だけど、それぞれに大ボスというか、めちゃくちゃ強い、上手いひとがいて。で、その奥にも上手いひとがたくさんいる。 だけど、自分がそこまでたどり着くために経験値が足りないし、パワーもないという自覚もあって。避けているというとあれなんですけど、あまり交わらないようにしています。だからアーティストとして尊敬しているひとはいます。同年代にかめりあって子がいるんですけど、彼は同人とかボカロとかの流れのひとで、メロディも作れるし、過激でとんがっているもの作れるみたいな。そういう人材が、あっちにはいっぱいいるんですよ。そういうのは向こうのカルチャーにいないと得られないのかな、というのはあります。

なるほどなあ、“あっち”は分母がでかいし、エネルギーもあると。あと、音っていうよりも歌詞だったりイラストだったりも重要だし、それがいわゆる集合知ってやつでできあがるという、時代性としての鋭さもありますよね。LASTorderさんは、あちらの界隈を音楽というよりもカルチャーとして見ている感じですか? L:僕はそっちの界隈とも繋がりがなくはなくて、初音ミクのリミックスをやってみたりもするんですけど、みんなやっぱり……、言っていいのかわからないけれど……

言うだけいっときましょう。

L:お手軽に曲がひとつできるじゃないですか? 歌があって歌詞があってって。だからもっと手間をかければよくなるものがいっぱいあると思います。サウンド面ですぐれたひともいれば、ソング・ライティング面で優れているひともいたり、歌詞はそんなに詳しくないですけど上手いひともいるんでしょうね。ソング・ライティングが上手いひとが、サウンドも歌も全部お手軽に自分でできちゃうからそれですぐに作品を出せちゃう。いろんな可能性がいっぱいあります。ニコニコ動画を見たりしていると、ぜんぜん再生数が少ないやつでも歌がよかったりすることもあったりするし。

聴いているところは「生のヴォイスか」とか、そういう音質みたいなものじゃなくて、メロディとかですか? 

L:そうですね。

だったら必ずしも人格があり、美しい深みを持った人間の声である必要もない、と……ジュディ・シルとか書かれていると、声とか人間の歌礼賛なひとなのかなってちょっと思ってしまうので。

L:聴くぶんにはって感じですね。作っているときに、そうやって意識することはまったくないです。

なるほど。LASTorderさんとかが、ひとの声をどういうふうに考えているかに興味があったんです。

L:じつはそんなに……。何か考えるようにします。

M:ハハハハ!

子どもがパンク・ミュージックにハマるみたいなものですかね。ちょうどブレイクコアがあって、いまだに生きながらえているのがすごくおもしろくて。(Miii)

いやいや。逆に興味深かったです! いろんな思いがあって、生の声を避けているのかなと思ってたものですから。しかるに、Miiiさんのほうもおうかがいしたいと思うんですけれども、Miiiさんはもうなんというか、ブレイクビーツですよね(笑)。

M:そうなんですよ。

おふたりともルーツがはっきりとわかる。そういう意味でもおもしろいです。たとえば、同じようにMiiiさんの「無人島~」のリストを参照させていただくと、ヴェネチアン・スネアズ(Venetian Snares)はもちろんとしてナース(Nurse with Wound)とかworld's end girlfriend(ワールズエンド・ガールフレンド)も入ってましたよね。だからノイズ志向もあるんですけど、かといって、中村一義とか七尾旅人なんかはすぐれたポップ・ソングの作り手でもある。だから、ドリーミーなものやメロディ的なものにも憧れがありそう。

M:そうですね。楽器ができないので、そういうアーティストさんには純粋に憧れがあるし、中村一義とか七尾人は中学高校時代にめっちゃ聴いていたので、普通に大好きなんですよ。やっぱりメロディもすごいし、歌詞もめちゃくちゃいいし。

そしたら、いかにもバンドとかはじめそうですけれども?

M:あー、なんか……

L:ひと付き合いができないんでしょう?

M:ハハハハ。

そんな(笑)。ドライなツッコミが入りましたね。

M:その通りです。

なるほど。ひとりベッドルームでプロデューサーをやることを選んだと。

M:あと、バンドとかをやる以前にパソコンがあって、それで調べてなんとなく曲も作っていたから、「それでよくない?」みたいな感じでしたね。

なるほど。あと、やっぱり音ゲー的なものってブレイクビーツだったり、ブレイクコアだったりっていうものとの親和性が高いですよね?

M:そうだと思いますよ。曲が1分とか2分とか短いじゃないですか? そのなかで、ひとをどれだけ惹きつけるかという要素を考えなくちゃいけないし、だからこそ展開が突拍子もなくなるというか、変な感じになっていくんだろうなと思います。

音楽メディアがカバーしている範囲の外に独特のシーンがあって、独特の進化をしていますよね。ところでブレイクビーツってなんであんなに死なないんですかね? ずーっとありますよね。

M:ブレイクコアが全盛期だった2006年くらいってちょうど中学生だったんですけど、日本人でもいいアーティストがたくさん出ていて、そのへんがいちばんおもしろかったです。それこそヴェネチアン・スネアズみたいなちゃんとした音楽というか、レヴューの対象となるようなヤバいアーティストから、著作権完全無視のマッシュアップとか、本当にヒドいアーティストもたくさんいたけど、その全体がかっこいなという感じがあって。とくに〈マルチネ〉の初期も、いまでは「スカム」期みたいに言われるけれど、当時は「すげぇかっこいいことをやってる」と思って聴いていたので。自分にとってはそういうルーツというか、子どもがパンク・ミュージックにハマるみたいなものですかね。ちょうどブレイクコアがあって、いまだに生きながらえているのがすごくおもしろくて。

そういうカオスみたいなものに若い心が共鳴してシーンが盛り上がっていた感じはよくわかりますけどね。

M:いま聴いてみても、変なドラムンベースを入れていたりとか、BPMが200のものとかを普通にやっているんですよね。なんだかんだカッコいいなと思っていまも見てます。

メロディを信じるしかないという感じだったので。音楽に話せる知り合いができたのも最近なんです。(LASTorder)

なるほど。LASTorderさんはどうでした?

L:僕はシーンに憧れたりとかっていうことが逆になかったんですよ。

淡々とひとりで?

L:だからメロディを信じるしかないという感じだったので。音楽に話せる知り合いができたのも最近なんです。小中高なんて、友だちとは音楽の話なんてまったくしていませんでしたからね。自分が不勉強で周りの状況に疎いということもあるので、最近はひとから教えてもらって勉強させてもらってます。

最近はツイッターのタイムラインで音楽を聴くという感じで、スピードや情報の広がり方・受け取り方が以前とは大きくちがっていると思うんですが、2005年とかってまだそういうものが出てきているわけでもないですよね。当時、情報へはどうやってアクセスしていったんですか?

M:何をやってたかな……。IRCチャットっていう……

やっぱり、みんなちょっとしたオタクなんですね。

M:そうそう。僕は完全にそっちでした(笑)。

L:そういうのあったよね(笑)。

M:だから、いまでいうラインみたいな感じですかね? チャンネルっていう部屋みたいなものが用意されていて。

L:疎いけど、さすがにチャットはわかるよ!

M:そういうチャットがギークっぽくなったものがあって、周りでチームを組んだりして、たわむれたりって感じでしたね。

年齢層は若いひとばっかりなんですか?

M:多いのは20代とかでしたよ。

じゃあ、Miiiさんはちょっと早熟な感じ?

M:そうですね。僕が12、13歳のときでそのなかではいちばん若かったと思います。

ちなみに部活は(笑)?

M:部活は……、中学のときは吹奏楽部でした(笑)。

おっと! 楽器ができるじゃないですか!

M:それが、チューバだったんですよ(笑)。

L:ハハハハ!

それは潰しがきかねぇ(笑)。

M:「チューバをやっていました」って言っても、周りは「チューバ……?」みたいな感じなので(笑)。

LASTorderさんは何部だったんですか?

L:バスケ部でした。

そうなんですか? じゃあリアルが充実していらっしゃる?

L:バスケってそんなにイケてないですよ。普通に運動しているくらい。高校は帰宅部でした。

音楽を作りはじめたのはいつぐらいなんですか?

L:ピアノを4歳くらいのときにはじめて、なんか鍵盤で曲を作っていた記憶はボヤッとあるんですけど、ちゃんとDTMをはじめたのは高2くらいです。

おお、クラシックの素養もあると。ピアノで弾いて好きなった作曲家というとどんなあたりですか?

L:ピアノを弾いているときはぜんぜんおもしろくなかったんですよ。なんでこんな難しいのを弾かなきゃいけないんだって感じで。“ラ・カンパネラ”(フランツ・リスト)とか練習してたんですよね。そこからあまり好きになれずに、10歳から12歳のときはロック系が好きでした。でも、自分で曲を作るようになってから、あのときに練習していた曲がどんなだけすごかったってわかったんですよ。雰囲気的にはドビュッシーとかサティとかに魅かれますね。

じゃあ何というか、ギークと……

M:ギークとメインストリームでしょう? だってコピバンとかやってたんでしょう?

L:コピバンやってたね。

M:僕はやってないからさ。

へぇー! それって素敵なウェディングじゃないですか。ストーリーとしても、いいですね。

M:最初はバックグラウンドとか何も知らなくて、ただ「いい曲だね」って思っているだけだったんですよ。ふたを開けてみて、普段は絶対に出会うことのない遭遇だったんだとわかりました(笑)。 [[SplitPage]]

極端にポップになるか、わかりづらくなっちゃうかばかりで。そうじゃない「ごっちゃ感」を2013年のなかでやりたかった。(Miii)



ハハハハ。なるほど。いろいろと見えてきたようですごくうれしいんですが、ではこのアルバムについて。今回はフィジカルで出るということですが、バンドキャンプでのリリースが2014年ということでいいですかね?

M:そうですね。

実際の制作年でいうといつぐらいの曲から入っているんですか?

M:2013年の6月くらいからの音源ですね。

じゃあ出会ったタイミングくらいにできた曲もあるんですね。以前から温めていたそれぞれのネタみたいなものもあるんですか?

M:それもあるんですけど、最終的にお互いでちょっとずつ手を加えてウェディング~の曲にしました。

その頃というと、ダンス・ミュージック界隈で盛り上がっていたのは……ジュークとか?

M:そうですね、旬のてっぺんみたいな感じですかね。僕はずっとダブステップとかブローステップとかが好きで、自分でもつくったりしてましたけど、ジュークは進んでやることはなかったです。でも、たとえばウエディングで曲をつくるときに、「試しにジュークっぽいことやってみようか」っていうようなやりとりはありましたし、そのくらいの距離では時流についていっていましたね。

なんか、自分たちの趣味をひたすらかたちにしましたっていうよりも、ある程度2013年っていう時代性のようなものも意識しているように感じるんですが。このころどんなものを聴いてました? あるいは、このアルバムでこんなことをやりたかったという目的なんかがありましたら教えてください。

M:僕がやりたかったのは、world's end girlfriendがいま僕らの年代だったとしたらどんなことをやるだろう……ってことですかね。あんなバランスのアーティストっていまあまりいないような気がするんですよ。もっと極端にポップになるか、もっとわかりづらくなっちゃうかで。それこそ〈ロムズ(ROMZ)〉系の存在もいないですし。そういう「ごっちゃ感」を2013年のなかでやりたかったということは、なんとなくあるかもしれません。

へえ、なるほど。

M:なので、当時聴いていたダブステップだったりの要素はちょこちょこ入れていたりしますし、ポストロックっぽいものも入れてみたり──

おお?

M:当時は下火だったとは思いますけど。

そう思いますよ。へえー! なんでだろ、ウエディングを紹介する文章で、ときどき「ポストロック」って言葉を見かけるんですけど、わたしそこだけはよくわからないんですよね。

L:それは、君の責任だよね。最初にポストロックみたいなこともやりたいとかって言ってたから、それがプロフィールとかに残っちゃって。

いや、突っ込んでるんじゃなくて、そんなルーツがあるんならおもしろいなと。だって、この10年もっともダサい音楽だったわけじゃないですか……その、個々のバンドの話じゃなくて、一時代前のものがいつだっていちばんダサいみたいなとこがあるから。

M:ははは! いや、でもたしかにこの10年間下火だったから出してきたかったっていうような気持ちはあったんですよ。

L:でも結局、やってみたらとくにポストロックにならなかった。

ははは! いや、そうですよ。どこまでをポストロックと呼ぶかですけど、去年は10年選手たちがけっこういい新譜を出してきたり、シガー・ロスも幻のファーストが国内盤で出たりね。また見直されて、カッコよくなるんじゃないかと思いますから。

M:僕はゴッドスピード(Godspeed You! Black Emperor)とか好きだったんです。

おお、なるほど。復活してますね。

M:2012年の新譜(『'Allelujah! Don't Bend! Ascend!』)はあんまりピンとこなかったですけど……。

L:まあそうやってポストロックだなんだ、って言ってて最初につくったのが、このアルバムの1曲め(“Preface”)なんですけどね。次につくったのが5曲め(“So Hot”)。それで俺は、ポストロック……やんなきゃいけないの? って思って、“Her Mistakes(ハーミステイクス)”のもとを渡したんです。「ぽい」やつを渡そうと思って。で、これで好きにやって、って。

M:そうだねー。

L:それで、無理やりギター入れたりして。

ああ! ギター入ってますよね。そういうことだったんだ。

M:そういうことじゃないっては思いつつ(笑)、でもポストロックって言葉は入れたくて、でもしばらくして消えていきましたね。僕たちのなかで関係なくなった(笑)。生音でやるという意味でなら、いまでも興味なくはないんですが。

なるほど(笑)。謎が解けました。ではもとの質問に戻ると、LASTorderさんは2013年に何を聴いていました?

L:僕は坂本慎太郎さんとか──、あれ? 2013年じゃないですかね? ずーっと聴いていました。 (※ソロ1作めは『幻とのつきあい方』2011年、2013年リリース作はシングル「まともがわからない」)

へえー、そうなんですか。

L:僕自身はまだあまりクラブ・ミュージックに接近してはいない時期でした。

たとえばTofubeatsさんだったりSeihoさんだったりは「対日本のポップ・シーン」っていうようなわりとデカいスタンスがありますよね。〈マルチネ〉という共通項もあるので、とくにトーフさんなんかはそれほど縁遠いアーティストではないと思うんですが、そういうスタンスはあまりThe Wedding Mistakesにはなさそうですね。この作品はどんなところに向かって放たれたものだと思います?

M:うーん、それこそ、僕が中学生当時エレクトロニカとかを聴いて衝撃を受けた、あのインパクトを持ったものになればいいなと思いました。10年経ったいまでもその頃の影響がみんなにウケたらすごくおもしろい……というか、いまその頃の音とか記憶ってウケるのか? みたいな。

ははは、リヴァイヴァルっていうより、自分的にはルネッサンスみたいな?

M:はは、そうかもしれないですね(笑)。

彼は彼の世界がすごくあるので、彼から出てきたものは僕はあまり突っつかないんです。(Miii)

LASTorderさんは? そのへんの感覚はふたりのあいだで共有されているものなんですか?

L:そう……かもしれない。

M:彼は彼の世界がすごくあるので、彼から出てきたものは僕はあまり突っつかないんです。そのほうがおもしろくなるんだろうなって思っていました。

L:できちゃったものを、ずらっと並べていくという感じもやっぱりあったので、どんな相手に向かって投げかけたものかというと、あまり顔は浮かばなくて。

わりとカジュアルなものなんですね。いつかふたりでつくったものがアルバムになるんだろうなっていう思いはありました?

L:あまり思っていなかったかもしれない。

M:曲がたまったからそろそろ出そうかという部分もあったと思います。そこもアルバムのおもしろさではありますよね。貯まってきたからそろそろ出そうか、といってパッケージしただけでもそれなりのものに見えてしまったりする。だからこそ、CD盤と同じように、ジャケットをおじぎちゃんにお願いしたりとか、リミックスを入れたりとか、しっかりと外枠を固めるようなことはやりました。

ああ、フィジカルはないけどフィジカルの盤みたいに、っていうのは意識されたわけですね。ところで、曲名は後づけかもしれないですけど、全体をとおして眺めると、なんとなく「ウエディング」ってコンセプトを立てているようにも感じられるんですね。そういうテーマ性はどうです? 意識してました?

L:文字、タイトル部分は僕が担当しました。僕としては、(この作品における)音についての方向性がまだもうひとつ見えてきていない気がしていたので、目に見える部分だけでも統一感を出したいなと思って。

M:アルバム・タイトルはすごく悩んだんです。そのとき「ヴァージン・ロード」ってすごくおもしろくない? って話になって。ウエディング・ミステイクスでヴァージン・ロードって、なかばギャグですよね。

ははは、ミステイクなのにねーって(笑)。

M:そうそう、そんなノリですよ。

なるほど、では曲名も、曲ひとつひとつにあらかじめ付与されていたものじゃないんですね。できたあとに加えられた物語というか。

M:そう……ですね。

「結婚」って、近代以降は自由恋愛とセットで考えられてきたものだったりもするじゃないですか。でも、いま必ずしも憧れるような響きは持っていないというか、そうロマンチックなものではないと思うんですね。「婚活」とか少子化問題とかいろいろ出てきて。だから「The Wedding Mistakes」ってその意味でもちょっと批評的にきこえるというか。なんなんですか、「ウェディング」って?

M:うーん、そうですね。「永遠の愛」とかって、めっちゃ誓いづらいと思うんですよ。結婚式とか神父さんまでいたりして、いちおう儀式的にやったりしますけど、しんどいものでもあると思うんですよね。恋愛は3年しかつづかないとかも言うし。結婚って、僕個人としてはロマンチックなものだと思うし、好きな制度ではあるんですけど、正直、矛盾したものもいっぱい抱えているよなとも感じます。「結婚は人生の墓場」なんていう人もいるわけで。だから、僕的には理想だったりするけど、そううまくはいかないよなっていう皮肉が含まれているかもしれません。

L:……。

ははは! Miiiさん、質問に対して噛み砕いて考えてくださったんですよね? ありがとうございます。LASTorderさんの沈黙は、Miiiさんの見解への違和感?

L:いえ、そんなに重く考えていたのねという……驚きです。 (一同笑)

L:僕にとっては結婚ってまだまだ遠いことで。

M:それは、そうだけど。

L:「永遠の愛」って口から出てくるとは思わなかった。ノリかなって……。

M:ああ、そう、ほんとには誓えないから、儀式として誓っておいて、じつのところはノリみたいな。でも、まだ当事者じゃないからあんまり言えないけど。だからユニット名に「ウエディング」って単語を入れるのはおもしろいというか意外というか、言葉選びとして気にした部分ではあります。

「逆に」っていうのが嫌い。(LASTorder)

はい、はい。その、結婚なにかヘンだなってところが一般的に共有されているから気になる名前なんでしょうね。でも最初に名前きいたときは、それこそウエディング・プレゼント(Wedding Present)とかから来てたりするのかなって思って。ギター・ポップ寄りなユニットなのかと思いました。ぜんぜんちがいましたね。

L:そうですね。ギター・ポップ……。あと、それこそ渋谷系みたいなものはあまり知らないというか、聴かないよね?

M:そうだねえ。

L:それから、シティ・ポップとか。

おお、トレンドじゃないですか。でも、いま渋谷系を標榜する人たちはむしろ90年代のJポップを掘ったりしてるんじゃないですか? まあ、標榜してるわけじゃないかもしれないですけど、それに当たるような人は。

L:僕は90年代のJポップなら大好きですよ。

あ、そうなんですか?

M:僕も、最近のちょっとアーバンな感じのノリのものとかはあんまり聴かないかもしれません。シティ・ラップとか。

えっと、「シティ・ポップ」って言葉でどういうものを指してます? そもそもが曖昧な言葉のようですけど、でも荒井由実とか、あるいははっぴいえんどとかを指しているのか、いまのバンドを指しているのか、よくわからなくて。

M:そうですね、最近のバンドとかのことですかね。もともとのシティ・ポップとか、アーバンな感じのものに憧れて、それが音になっているんだろうなって思うんですが、僕自身は東京生まれだけど「アーバン」な生活圏ではなかったので、そのへんの憧れにはそもそも疑いがあるというか。最終的には田舎に住みたい思いもあるし……。僕らくらいの年齢だと、そもそもその時代のこと知らないじゃないですか?

なるほど。いまの人は、その見たこともないなかば架空の都会性を、逆におもしろがるようなところがあるんだと思いますけどね。昔はもっとベタに憧れたかもしれないですけど。

L:その「逆に」っていうのが嫌い。

おおっ。

L:ヴェイパーウェイヴとかもそういうところありますよね。「逆におもしろがる」って……それって……なんなの。

M:それは、僕もわかるなあ。「逆に」っていうのは、いっこ上に立とうとしてるわけでしょ? そんなふうに考えなくても、90年代なら90年代で、いいものがあればそれは聴けると思うんですよ。それこそ中村一義とか僕は大好きですし。僕も、そういう感覚を無視した掘り返し方はしたくないですね。

中村一義は、「逆に」の思考をすべて吹き飛ばしてきた人だと言えるでしょうね。

M:ああ、そうかもしれません。

「逆に」っていうのは修羅の道で、いちどそれを言いだすとさらに上の「逆に」が際限なく出てくるから、超頭がいいか、それをはね飛ばす強さがないと死んじゃいますね。それでも行ってやろうというのもまたひとつの極道かなって思いますけど。ただ、「逆に」が嫌いだって言えるのは……ちょっと感動しました。

L:僕が普段から90年代の後半のJポップが好きって言っているのは、それは、実際に体験しているからなんです。幼稚園とか小学校の低学年の頃とかに、月に2回レンタル屋さんに連れていってもらって、ランキングの上位10位を借りてきて、それをダビングしてずっと聴くっていう毎日だったんです。本当に心から鈴木亜美とか好きなのに、いま同い年の人とかに「(鈴木亜美)いいよね」って言って、「いいよね」って返してもらったりしても、何かちがう感じがいつもするんです。そう言っている目線が。

同い年の人とかに「(鈴木亜美)いいよね」って言って、「いいよね」って返してもらったりしても、何かちがう感じがいつもするんです。(LASTorder)

M:あー! わかった。言ってることしっくりきた。

なるほどー。

L:「あー、亜美ね!」って言われるときの……。たぶんそのときに「逆に」の感じが働いているんだと思うんです。

M:あー! うんうん。

L:こっちは逆もなにも……

ははは! マジだっていう。

L:そう。バカなの、俺? って思っちゃう……。

(一同笑)

L:ちょっと、共有できてるのにできてないみたいなところがすごくあるし。単純に、トラックがよくできてるとかっていうような見方をしてたりもするんだろうけど。それに、……まあ、いいや。

(笑)いやいや、話しましょうよ。

L:僕、あゆ(浜崎あゆみ)と宇多田(ヒカル)の同時発売の日とか、ちゃんと並んでますから。 (※浜崎あゆみ『A BEST』、宇多田ヒカル『Distance』の同時発売。2001年)

ああ、えっと……、ふたり同学年ですよね。Miiiさん何歳ですか?

M:13、4年くらい前ですかね? 8歳とかですね。

おお。そのころ何がいちばん熱かったです?

M:うーん、Jポップとかは聴いてなかったですね。ゲームやってました。

なるほどね。音ゲーとかも。

M:そうですね、いろいろやりましたけど、『beatmania(ビートマニア)』を買って。それが原体験といえば原体験ですね。

うーん、Miiさんはじつにルーツがはっきりしてますね。

L:俺は原体験はポケビ(ポケットビスケッツ)だよ。

M:それはさすがに、僕もテレビは観てた。

ああ、音楽というか芸能というか、テレビから出てきたものですね。そういう記憶は少なからず影響しているんでしょうね。

そのころからコラージュ──いまで言うネットの雑コラ感っていうか──はちょっと流行っていて、でもおじぎちゃんのはちょっとそういうまわりのものとはちがう感じがして。(Miii)

さて、先ほどもちょっと話題に上がりましたが、ジャケットのデザインがおじぎちゃんさんなんですよね。とても素敵なんですが、おふたりともアニマル・コレクティヴ(Animal Collective)とか好きだったりします?

M:いや、好きっていえるほどはわからないですね。

なるほど。初期の作品のアートワークをアグネス・モンゴメリ(agnes montgomery)という人がやっているんですが、その人の作品のポスト・ヴェイパーウェイヴ・ヴァージョンって感じがするんですよね、おじぎちゃんさんのジャケは。

M:へえー。

コラージュなんですが。感性にも似たものがあるなと思うんですよ。

M:当時おじぎちゃんが自分のタンブラー(Tumblr)にどんどん画像を上げていたんですよ。コラージュでした。そのころからコラージュ──いまで言うネットの雑コラ感っていうか──はちょっと流行っていて、でもおじぎちゃんのはちょっとそういうまわりのものとはちがう感じがして。統一感というか、テーマみたいなものがあって、そのなかで色調とかも合わせてくる感じ。そこに自分たちの音に合ったイメージを持っていたんです。〈ROMZ〉のジョゼフ・ナッシング(Joseph Nothing)の、目の切り抜きがたくさん散りばめられているジャケット、あの気持ち悪いけど美しいという感じに衝撃を受けたんですけど、あれを見たときのことを思い出したんですよ。そういう、僕の源流にあったイメージとかインパクトが刺激されたというか……。それでお願いしました。

へえー。それこそコラージュはメタな編集作業でもあると思うんですけど、おじぎちゃんさんのとかアグネスのとかは、もっと肉そのものというか、そういうものを信じている感性なのかなと思いました。

M:やっぱり、ちゃんと考えられていたり、まとまっているものが好きなので、「できるだけ意味をなくそう」みたいなものとか、そういう感じのコラージュにはピンとこないというのが正直なところですかね。

なるほど、イルカとか、ヘンな塑像とかね(笑)。

M:あー。シーパンク(Seapunk)は……、嫌いじゃないですけども。

L:俺、髪を青くしてたことある。

え?

L:なんか、Seihoさんのイヴェントで、髪を青くしていったら安くなるやつがあったから。

(一同笑)

M:あー! あったかも。ウルトラデーモン(ULTRADEMON)のリリパとかかな。

ははは! 懐かしい。動機が安いなあ。LASTorderさんはジャケットとかアートワークについてディレクションした部分はあるんですか?

L:俺は……、ないかなあ。でも俺は俺でおじぎちゃんを見つけていたんですよ。それで、よくよくきいたらけっこう近いところで活動していて。それで、何かいっしょにできないかなと思っていたら、なんとなくあちらも似たことを思っていたみたいで。

へえ。

L:だから、だいたいさっきの説明と同じなんですけど、ちゃんと意味のあるものを感じるなと思って、共感するというか。

ふたりはけっこうバラバラなんだなと思いましたけど、同じようなところもあって、おじぎちゃんというのはそれを理解する補助線のような気もしてきました(笑)。

L:「こうしてください」ってふうにとくに注文していないんです。

M:そう、音源を送ったくらいで。

L:ウエディング・ドレスじゃないけど、そういう雰囲気の花のイメージがきて、あらためて、「ああ、自分たちはThe Wedding Mistakesなんだな」って思いました。

わたしもこの感じ、とても好きですね。

ソロの音はあまりゆがませたくないので……。だから、どちらかというと自分の音を押しつけている感じです。(LASTorder)

さて、このユニットは一時的なものなんでしょうか? 期間限定のコラボみたいな。

M:えっと、正直な話、僕らが出会ったのが大学2年か3年のときで、もう卒業になるんですね。だからこの先忙しくなるだろうし、とりあえず1年半くらいやって、1枚2枚作品をつくって、楽しかったねって感じで終わろうと思ってたんです。だけど、こんなふうにリリースしてくれるところも見つかって、いまはちょっと長期的にやろうかというふうに思ってます。

L:俺も……、続けたいし、次はもっと作り込んだものをつくりたい。もっと、さらにいいものをって思える感触がいまのところあるので、まだやっていくつもりですね。

自分ひとりだとやれない部分が相手の中に見えているということですかね。

L:それがはっきりしたし、それを言いやすくなりました。

お互い評をもっと訊きたいですね。相手から盗んだ能力とかないんですか?

L:盗んだ能力は……ないですね。

M:(笑)

でも、データをもらってるわけだから、ある意味では盗み放題ですけども。

L:いや、データはこちらから渡すだけで、それを全部あっちが加工するんで……。

M:でも、たまにあげてんじゃん。こっちのも。

ははは!

L:でも、わざわざそれを解体したいという感じではないです。ソロの音はあまりゆがませたくないので……。だから、取り入れるということはなくて、どちらかというと自分の音を押しつけている感じです。

Miiさんは?

M:僕も押しつけられているということに関してはとくに何も、というかもっとやってくれって思ってるし、彼には自分の世界観がしっかりとありますから。僕は知識を体系的に取り入れて、それをどう生かしてブレイクコアとかの方程式で壊すかっていうようなことをやっていたので、LASTorderからもらった素材をどういじるかっていうところに熱量があるんですよね。だから彼から送られてきたものについては全面的に信頼しているし、もし何かやろうとするなら、彼に言うんじゃなくて、自分で解体してどうかしたいって思います。  このアルバムでいえば、2曲め“ドラマティック・ビヘイビア(Dramatic Behavior)”とかは展開が突拍子もないんですけど。これははじめの1分半くらいの音をもらって、それをどう壊したらおもしろいかなって考えて、ジュークぽい低音を入れたりとか、最終的にゆがんだブレイクビーツを突っ込んでみたりとかしました。それはこっちで全部やったことなんですけど、そしたらすごく喜んでくれたし、ライヴでやってもすごくハマる曲になって。

LASTorderからもらった素材をどういじるかっていうところに熱量があるんですよね。(Miii)

ああー!

M:そのときくらいから、こっちでどうやるかというスタンスができあがっていった気がします。

たしかに2曲めは、ふたりともの個性がケンカするわけじゃないけどはっきり出てきてぶつかり合ってますよね。ほか、手ごたえのあった曲はどのへんです?

M:“スルー・オール・エタニティ?(Through All Eternity?)”とかもそうですかね。好き勝手やっている感じです。

ああ! Miiiさんの面目躍如! って感じの曲ですね。

M:そうそう、そうです!

で、LASTorderさんのメロディ性がより効いてくる。

M:当時はまだサウンドクラウド(SoundCloud)に曲を上げつつ、ライヴもやりつつっていう感じだったので、1曲めがまずサンクラに上がっていて、次に“ハー・ミステイクス(Her Mistakes)”が上がって、次、急にベースが入ったらおもしろいと思って。それで“スルー・オール・エタニティ?(Through All Eternity?)”を作ったんです。だから、特異点でもあります。

なるほど。では、この中にヴォーカルが入ったりなんて展開は今後考えられますか? すでにふたりともそれぞれのやり方で“歌っている”人たちではありますが。

M:歌は……考えてます(笑)。でも、そっちはまた別の方法論になりますから。デジタルでアルバムを出した後に『ミッドナイト・サーチライト・EP(Midnight Searchlight EP)』っていうEPをつくったんですけど、そっちは1曲だけがっつり歌ものが入ってるんですよ。でもそれはわりと僕らのいつものスタイルじゃなくて、僕が歌詞とかもつくって、編曲をふたりでやったっていう曲なんです。それで、ちょっと色合いとしては今回のアルバムとちがうものになってるんですね。だから歌をやったらまたちがったおもしろさが出てくるかもしれないと思っていて、次はそうなるかもしれないですね。

歌ものって……R&B寄りなものとか?

L:というよりは、Jポップというか。

M:Jポップだけど、ちょっと毒というか、エグみのあるものを混ぜるので、おもしろい感じになるかとは思います。

L:そうですね……。でも、そういうものもやりつつ、また今度アルバムをやるとなったら、それはそれでちゃんとやりたい。歌ものかどうかというより、もっとちゃんとつくったものをやる。

ああ、ポジティヴな展開が期待できそうで、素晴らしいです。

歌をやったらまたちがったおもしろさが出てくるかもしれないと思っていて、次はそうなるかもしれないですね。(Miii)

ライヴはどんなふうにやってます? バースとウワモノで分かれて、けっこう即興的なかたちでふたりがセッションするんですか?

M:そこは僕の力不足もあって……、即興的に合わせるっていうのはまだできていないんですよ。鍛えたいところなんですけど。

おお、じゃそんなふうにやってきたいなって思いはあるんですね。……チューバ、やったらいいじゃないですか(笑)。

M:チューバかあ……!

(一同笑)

そこからすでにベースだったんですね。

M:いま思えば(笑)。

どうですか? ライヴについては。

L:いまライヴで悩んでいるような部分が大きいのはたしかですね。僕ひとりではそれほどライヴをしないので……。

M:月1回くらいがちょうどいいペースかと思いますけどね。

L:月1より、もうちょっとやったほうがいいんじゃない? CDを出したことで、CDを手に取ってくれた人がライヴに来たらいいなと思うし。

ちなみに、CDはタワレコさん渋谷だったら何階に置かれたいです?

M:いまは4階(クラブ系など)に置いていただいているんですよね。希望するとしたら……そうだなぁ、たとえばJポップのフロアとかにも置かれたいですね。

L:Jポップって、邦楽のロックのバンドとかも同じフロアにある? 

M:うん、いっしょなフロア。

L:じゃあ、ちょっと置かれたいです。でも4階に置いてくれるのはうれしい。

6階(エレクトロニカなど)とかは?

M:ああ、それもうれしいです。多義的なというか、ハードコアっぽい要素すら入っている作品なので、いろんな聴かれ方をしてほしいし、いろんなひとに聴いていただきたいですけどね。

もちろんそうだと思うんですけども、たとえばインターナショナルな展開は考えていないのかなと思いまして。べつにウエディングは特殊なキャラクターで売っているというわけではなくて、普通に国内外関係ない音楽のつくり方、発信をしてるように感じるので、海外レーベルから出したいみたいな気持ちがないのかなと。

M:海外でも認められればうれしいなというくらいで。あんまり詳しくはないんです。

L:海外でウケるのかどうかっていうのは知りたい。でも、海外の人たちにウケそうなもの、って思って作ってないから……。

なるほど。今日は意外にドメスティックな一面というか実像を見れてよかったです。なんか、とても自然なスタンスでいまという時代に音楽をつくっているなって思って。

M:そうですね、でも自分で聴いていて、日本人ぽい音楽なんじゃないかって思ってます。うまく言えないけど、日本人っぽい感情の出し方、つくり方。

自分で聴いていて、日本人ぽい音楽なんじゃないかって思ってます。うまく言えないけど、日本人っぽい感情の出し方、つくり方。(Miii)

ああー。抒情性みたいな部分とか?

M:海外の音楽って、もっと音とかリズムとか一個一個の要素が太くて、それ全体でグルーヴをつくったりするところがあるという感じがします。こっちは、いろんな情報を配置するだけで、あとは聴くほうがその中から何を聴くのかを選んでいるというか……。だから、叙情みたいなものもそこから選んで聴き取るのかもしれないし。そういう意味ではメッセージといえるようなメッセージはないかもしれないというか。そこには多義的な、いろんな情報の層があるだけで。

ああー、たくさん神様がいる国、みたいな。八百万の。仏様もいっしょくたみたいな。

M:歌詞とかの情報量も多いし、情報の海があるだけって感じ……。つくる側の目線で言えば、自分は「この音だ」っていうのをドーンと出すのは正直なところ得意じゃないし、どんな音を足していったのかということもわりと感覚的で、理屈にもとづいたものではないし。

なるほど。

M:感覚的な話になってしまいましたが……。

いえいえ、音楽ですからね。言葉で言えれば音楽である必要もないし。ではリミキサーのHercelot(ハースロット)さんついておうかがいして終わりましょうか。

M:そうですね、もう、すごく好きなアーティストで、高校のころから崇拝していて。この曲(“Marriage for Dance”)については、トイポップみたいな可愛い要素をたくさん入れていただきましたけど、ご自身は「ロムズ・チルドレンだ」って言ってるくらい〈ROMZ〉が好きな方で、このリミックスはそういう人にお願いしなきゃ収まらないっていう思いはありました。

LASTorderさんは?

L:俺は……、というか、Hercelotさんにお願いしようと言い出したのは俺で。

M:そうですね。それを聴いて、たしかにそうだって思ったんです。

不思議ですね(笑)、ほんとにふたりは、バラバラで凸凹で、でも妙にシンクロしてる。ヘンなウエディングですよ。


BACON present EMILIO at Otsuka DEEPA - ele-king

 みなさん、映像コレクティヴBacon(ベーコン)をご存知でしょうか? 彼らのページにも表れているように、ポスト・インターネット的感覚が感じられる洗練されつつも混沌としたデザインはかなり強烈。去年開催されたファッションブランドC.Eのプレゼンテーションで、絶大な人気を誇るレーベル〈The Trilogy Tapes〉所属アーティストのRezzettによる音楽とともに投影された映像もBaconによるものです。そんな彼らが4月4日土曜日、イタリアより現代音楽の奇才Lorenzo Senniを招き、大塚のDeepaにてパーティを開催します。Baconのページにアップされている日本、韓国のポップスからレフト・フィールドなダンス・ミュージックを横断するミックスのアーカイヴを聴く限り、どんなイベントになるのかは当日現場に着くまで想像すらできません。1Drink、Gonbuto、BRFらDJ陣も参加。少しでも気になったら是非現場へ。

■BACON present EMILIO
2015/4/4(Sat)
@ 大塚DEEPA
Door: 1500yen(w1D)
Open/Start: 23:00

[main floor]
Lorenzo Senni(live)
1 Drink
Gonbuto
Brf
Youpy(live)
Carre(live)

[lounge floor]
Pootee
Oboco
Stttr
Strawberry Sex

※20歳未満の方のご入場はお断り致します。年齢確認のため顔写真付きの公的身分証明書をご持参願います。(Over 20's Only. Photo I.D. Required.)
Info : bcn.index@gmail.com

https://bacon-index.tumblr.com
https://otsukadeepa.jp

Bacon(ベーコン)

インターネットを中心に、映像制作やVJ、アパレルの発売など多岐にわたる活動を続ける謎の集団。

Lorenzo Senni(ロレンツォ・セニ)

1983年生、イタリア育ちのミラノ在住の音楽家。大学で音楽学を学び、プログラミングを駆使しながらも主にアナログ機材を用いた即興的かつ実験的な演奏を得意とする。近年は90'sハード・トランス・サウンドから強い影響を受けダンス・ミュージックを独自に解釈した楽曲を多く制作しており、新たなサウンドスケープの潮流を作り出すことに成功。自らレーベル「PRESTO!?」を主宰し、2012年にはEditions Megoから「Quantum Jelly」、2014年にはBoomkatから「Superimpositions」をリリース。それぞれが英FACT Magazineの50 Best Albums of 2012、2014にランクインするなど世界各国のメディアからも高い評価を受けている。

ムーン・デュオのインタヴューでも言及されている、彼らのもうひとつのホーム、〈セイクリッド・ボーンズ〉は、USアンダーグラウンドの2000年代から現在を語る上で重要なレーベルのひとつでございます。ゾラ・ジーザス(Zola Jesus)やクリスタル・スティルツ(Crystal Stilts)などはよくご存知かもしれませんね。レーベルのベースにあるのは、ムーン・デュオやサイキック・イルなどどっぷりと振り切れたガレージ・サイケですが、ゾラやクリスタル・スティルツをはじめ、ラスト・オブ・ユース(Lust Of Youth)やゲイリー・ウォー(Gary War)など、2010年前後のトレンドでもあったシンセポップやニューウェイヴ/ポストパンク・マナーが、やはりトレンドであった独特のローファイ文化と結びつき、さらにもうひとつトレンドであったインダストリアルやシューゲイズまで巻き込んでいったことは、このレーベルの鋭さを証すものでしょう。
彼らがマイナーでカルトなサイケ集団のようなたたずまいにもかかわらず、諸トレンドの奇妙な合流地点となっていたことは、次の10枚を眺めてみてもよくおわかりになるかと思います。じつにおかしな、そしてキュートなレーベルでございます。


Pharmakon - Abandon

NY出身の可憐な少女、マーガレット・チャーディエットによるファーマコンのデビュー・アルバム。絶叫、グロ、オカルティズム、ノイズ……こじらせすぎた女子による、振り切れすぎたエレクトロニクスは、ゲテモノとアートの狭間で凄まじい緊張感と違和感を放ちながら、ギリギリの官能を現出させてみせる。このジャケ同様、狂気のライヴ映像は閲覧注意!

Crystal Stilts - Delirium Tremendous

そもそもは〈スランバーランド(Slumberland)〉からのデビュー作『オールライト・オブ・ナイト』で脚光を浴びたオサレなバンドだったが、当時ネオ・シューゲイズなどと目されたあの淡麗なフィードバック・ノイズやポストパンク・マナーの影にはドロドロとアンダーグラウンドの血が流れていたのだろう。このサード・フルにはドラッギーなフォークやカントリー色までうかがわれる。

Lust for Youth - Perfect View

スウェーデンはコペンハーゲンの現在を象徴するレーベル、〈Posh Isolation〉を主宰するHannes Norrvideによるユニット。その持ち味であるスマートなダーク・ウェイヴには、皮肉やパロディではなしに、若いいらだちやポジティヴな攻撃性が感じられて清々しい。本作は2010年前後のシンセ・ポップ・リヴァイヴァル群のなかでも、ひときわナイーヴな美しさを放っている。

Amen Dunes - Through Donkey Jaw

本作の隣には、〈キャプチャード~〉と双璧をなす2000年代のローファイ・コロニー、〈ウッジスト(Woodsint)〉のウッズ(Woods)を並べずにはいられない。2014年の新作ではよりクリアに「歌」を取りだしてみせたエイメン・デューンズことデイモン・マクマホンだが、より混沌とした本作の、こだまのようにのんきで音響的なヴォーカルには、どこか神聖ささえ宿っているように感じられる。

Blank Dogs - On Two Sides

2000年代後半のUSインディを語る上で絶対に避けては通れない重要レーベル〈キャプチャード・トラックス〉主宰のマイク・スニパーによるユニット、その記念すべき〈トラブルマン・アンリミテッド〉からのファースト・アルバム。なんとセカンド・プレスからは〈セイクリッド~〉からも出ていたのだ。ダム・ダム・ガールズなど当時トンガっていたガレージ、ポストパンクから、シューゲ・カタログの発掘・リイシューにも余念ないブルックリン・アンダーグラウンドの雄。

Zola Jesus - Stridulum EP

ゴシックや〈4AD〉再評価の機運が高まる2010年前後のシーンに颯爽と現れた才媛。無機質なビートと不穏なノイズが構築するダーク・ウェイヴに、ケイト・ブッシュに比較されるヴォーカル。幼少から学んだというオペラの素養は、どこかトラウマチックで険のある彼女のアルトを艶めかせ、かつフラジャイルな魅力を加えている。本作はデビュー・フルの後のEP。ジャケももっともコンセプチュアルだ。

Gary War - Horribles Parade

世間的にはサード・フル『ジャレッズ・ロット(Jared's Lot)』が有名だろうか。アリエル・ピンクのバックも務めていたグレッグ・ダルトンによるセカンド・アルバム。激渋ジャケとは裏腹に、ファズとフィードバック・ノイズが効きつつも、〈キャプチャード・トラックス〉と同時代性を共有するローファイぶりがコミカルかつ愛らしい、アリエルの初期カタログを思わせるようなスキゾ系ポップ。

Psychic Ills - Hazed Dream

タイトルどおりヘイジーなサイケデリック・フォーク。ドリーミーというにはドープな空間性、〈リヴェンジ(Rvng Intl.)〉からのリリースにもうかがわれる、遠くアンビエントやドローンに接続していくような音響、ブルージーな楽曲、絶対に跳ねないヴォーカル。NYを拠点とし、現在は3人編成で活動。〈セイクリッド~〉らしさを構築する存在のひとつだ。

The Men - Open Your Heart

NYのなんともストレートなガレージ・サイケ・バンド。サーフ、ガレージ・パンクを軸に、かすかにメタルやハードコア的な要素も聴き取れるが、特筆すべきはそのポップ・センス。ぺなぺななプロダクションに愛唱すべきメロディが乗る。本当、憎めない。リリース量でも〈セイクリッド~〉において無視できない存在である。スタジオ・アルバムらしい完成度を求めるなら『トゥモロウズ・ヒッツ』を。

Slug Guts - Playin' In Time With the Deadbeat

プッシー・ガロア(Pussy Galore)やバースディ・パーティ(Birthday Party)の影響も色濃い、オーストラリアの“サバービア”・バンド。本作は2枚めのフル・アルバムとなる。参照点は渋いものの、絶妙に垢抜けないことを仮に「ぜつあか」と呼ぶなら、彼らはまちがいなくぜつあかマスターである。しかしそれが愛らしい……と思わせられるのは、そう、このレーベルの呪いである。

プラいち!- David Lynch - Eraserhead: Original Soundtrack Recording

言わずと知れた鬼才映画監督。彼が音楽制作も行うことはすでに周知のことだが、〈セイクリッド~〉からサントラもふくめなんやかやと7タイトルもリリースしているというのはなかなか本質的な事実! メジャー・リリースだと見え方もずいぶんと変わっていたのではないだろうか。

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