「Ord」と一致するもの

 スローイング・スノーがついに初来日公演を行う。

 スローイング・スノーことロス・トーンズ。90年代のブリストル・サウンドを今日的に蘇生させるにとどまらず、自らもレーベル運営を行ってその新しい価値観を提示し、他のフックアップにも余念ないこの男は、まさにいまUKのクラブ・カルチャーの突端を走ろうとしている才能のひとつだ。
 Pitchfork、Guardian、Dazed、Fact、Resident Advisor、XLR8Rなど大手メディアが早くからその動きを追いかけ、マッシヴ・アタックとジェイムス・ブレイクをつなぐUKの超大型ルーキーとして注目してきたその姿を、われわれはついに初来日公演でうかがうことができる。新世代のトリップホップが列島に木霊する瞬間を見逃すことなかれ!

■UNIT / root & branch presents
- Special Showcase in Tokyo -
THROWING SNOW (Houndstooth)

Pitchfork, Guardian, Dazed, Fact, Resident Advisor, XLR8Rなど大手メディアが早くからその動きを追いかけ、マッシヴ・アタック~ビヨーク~ジェイムス・ブレイクといったイギリス音楽の系譜に続く超大型ルーキー、全世界が注目する逸材スローイング・スノーの初来日公演決定! これぞ新世代のトリップホップ!

Live: THROWING SNOW (Houndstooth)
Guest Live: agraph, mergrim (moph records, PROGRESSIVE FOrM, liquidnote), submerse (Project: Mooncircle)
DJ: Ametsub

2014.09.26 (FRI) @ 代官山 UNIT
Open/ Start 24:00 ¥3,000 (Advance), ¥3,500 (Door)
Information: 03-5459-8630 (UNIT) www.unit-tokyo.com
Supported by P-VINE RECORDS
You must be 20 and over with photo ID.

Ticket Outlets: ぴあ(P: 242-392), ローソン (L: 72714), e+ (eplus.jp), Clubberia (www.clubberia.com/ja/store/), diskunion Club Music Shop (渋谷, 新宿, 下北沢), diskunion 吉祥寺, TECHNIQUE, DISC SHOP ZERO, JET SET TOKYO and UNIT
*ローソン/e+(8.30 発売)、ぴあ(9.3 発売)

■THROWING SNOW (Houndstooth)
ロンドンを拠点にスローイング・スノーの名前で活動するロス・トーンズ。彼はダブステップ、UKガラージ、ハウスからフォーク、パンク、ハードコア、メタル、そしてレゲエなど様々な音楽を聞いて影響を受けてきた。彼の音楽には心地の良い温かさと、光沢感のある冷たさが共存している。2010年にHo Tepレーベルからデヴュー・シングルをリリースし、その後はゴールド・パンダなどのリミックスを手がけてきた。ジャイルス・ピーターソンやベンジBの強力なサポートもあり、多くのラジオ番組にも出演してきた。 2011年にはDominoやNinja Tuneのような大手レーベルからリミックスの依頼が来るようになった。リリースもSuperやSneaker Social Club、Local Actionなどから続けてきた。2012年には大手音楽サイトのXLR8Rにポッドキャスト用のDJミックスを提供。2013年にはニューヨークで開催されたRed Bull Music Academyへの参加も好評だった。インターネット上でDJのプレイを生中継する人気サイトBoiler Roomにも何度も出演を果たし、ボノボ、アトモス・フォー・ピース、ジョン・ホプキンスなどの前座を務めてきた。またレーベル・オーナーとしても他のアーティストのリリースに協力している。Left Blank(レフト・ブランク)とA Future Without(ア・フューチャー・ウィズアウト)の共同オーナーでもあり、Vessel, Wife, Visionist, Lorca, Memotone, Young Echoなどが駆け出しの頃のリリースを手掛けていた。ヴォーカリストAugustus Ghostとの別プロジェクト、Snow Ghostsもここか
らリリースもしている。2014年には待望のアルバム『モザイク』に先駆けて『Pathfinder EP』を先にリリース。イギリスの現代のミュージシャンの中で最もユニークなアーティストとの一人としてデヴュー・アルバム『モザイク』は数多くの大手メディアから大絶賛された。
www.facebook.com/throwingsnow www.throwingsnow.co.uk

■agraph
牛尾憲輔のソロ・ユニット。2003年からテクニカル・エンジニア、プロダクション・アシスタントとして電気グルーヴ、石野卓球をはじめ、様々なアーティストの制作、ライブをサポート。ソロ・アーティストとして、2007年に石野卓球のレーベル "PLATIK" よりリリースしたコンビレーション・アルバム『GATHERING TRAXX VOL.1』に参加。2008年12月にソロユニット "agraph" としてデビュー・アルバム『a day, phases』をリリース。石野卓球をして「デビュー作にしてマスターピース」と言わしめたほどクオリティの高いチルアウト・ミュージックとして各方面に評価を得る。2010年11月3日、前作で高く評価された静謐な響きそのままに、より深く緻密に進化したセカンド・アルバム『equal』をリリース。同年のUNDERWORLDの来日公演(10/7 Zepp Tokyo)でオープニング・アクトに抜擢され、翌2011年には国内最大の屋内テクノ・フェスティバル「WIRE11」、2013年には「SonarSound Tokyo 2013」にライブ・アクトとして出演を果たした。一方、2011年以降は "agraph" と並行して、ナカコー(iLL / ex. supercar)、フルカワミキ(ex. supercar)、田渕ひさ子(bloodthirsty butchers / toddle)との新バンド、LAMAのメンバーとしても活動。2014年4月よりスタートしたTVアニメ「ピンポン」では、劇伴を担当。その他、REMIX、アレンジワークをはじめ、CM音楽も多数手掛けるなど多岐にわたる活動を行っている。
www.agraph.jp

■Ametsub
東京を拠点に活動。昨年は山口の野田神社で、霧のインスタレーションを交えながら坂本龍一と即興セッション。TAICOCLUBの渋谷路上イベントにてパフォーマンス。Tim HeckerやBvdubといったアーティストの来日ツアーをサポート。夏にはFLUSSI(イタリア)、STROM(デンマーク)、MIND CAMP(オランダ)といった大型フェスへ招聘される。アルバム『The Nothings of The North』が世界中の幅広いリスナーから大きな評価を獲得し、坂本龍一「2009年のベストディスク」にも選出されるなど、現在のシーンに揺るぎない地位を決定付ける。スペインのL.E.V. Festivalに招かれ、Apparat, Johann Johannson, Jon Hopkinsらと共演し大きな話題を呼ぶ。最新作『All is Silence』は、新宿タワーレコードでSigur Rosやマイブラなどと並び、洋楽チャート5位に入り込むなど、大きなセールスを記録。FujiRock Festival '12への出演も果たし、ウクライナやベトナム、 バルセロナのMiRA FestivalへActressやLoneと共に出演。今年はTychoの新作をリミックス、Plaidと共にスペイン発、Lapsusのコンピに参加。秋にはArovaneやLoscilらの日本ツアーをサポート予定。北極圏など、極地への探究に尽きることのない愛情を注ぐバックパッカーでもある。

■mergrim (moph records, PROGRESSIVE FOrM, liquidnote)
兵庫県出身の音楽家、光森貴久によるソロ・プロジェクト。電子音楽レーベルmoph records主宰。これまでにアルバムをソロ/ユニット/ライブ・リミックス盤などで4枚リリース。downy、川本真琴、miaou、smoug等のリミックスの他、YMOのカバー集「YMOREWAKE」、またXperia™アプリ "Movie Creator" やGRAN TURISMO 6に楽曲提供。また、Sound & Recording MagazineにてCubase記事を短期連載やムック本への執筆なども行う。ライブも都内を中心に精力的に活動。SonarSound Tokyo, DOMMUNE, EMAF TOKYOなどにも出演。打楽器奏者Kazuya Matsumotoとのパフォーマンスは電子音楽の域を越えていると評判。海外ツアーも2011上海、北京、2012ベルリン、ロッテルダム、ミュンヘンなどを敢行。最新作はPROGRESSIVE FOrM x mophより ”Hyper Fleeting Vision” をリリース。7月にはそのリリース・パーティを13人の演奏家を迎え行い、成功を収めた。そこで出会った仲間とともに ”THE MERGRIM GROUP” を結成。更なる躍進へ望む。
www.mergrim.net www.mophrec.net

■submerse (Project: Mooncircle)
イギリス出身のsubmerseは超個人的な影響を独自のセンスで消化し、ビートミュージック、ヒップホップ、エレクトロニカを縦横無尽に横断するユニークなスタイルを持つDJ/ビートメーカーとして知られている。これまでにベルリンの老舗レーベルProject: Mooncircleなどから作品をリリースしSonarSound Tokyo 2013、Boiler Room、Low End Theoryなどに出演。また、英Tru Thoughtsや仏Cascade Recordsなどのヒップホップ・レーベルのリミックス・ワークも手がける。2014年には待望のデビュー・アルバム "Slow Waves" がProject: Mooncircleとflauよりリリースされる。また、Pitchfork, FACT Magazine, XLR8R, BBCといった影響力のあるメディアから高い評価を受ける。
twitter.com/submerse soundcloud.com/submerse facebook.com/submerse submerse.bandcamp.com YouTube.com/djsubmerse

https://www.unit-tokyo.com/schedule/2014/09/26/140926_throwing_snow.php




O.N.O(THA BLUE HERB)主宰の〈STRUCT〉が本格始動 - ele-king

 O.N.OといえばTHA BLUE HERBのトラックメイカー。ここ数年は、onomono名義でDJ、あるいはプロデューサーとしてソロ活動を続けている。そのO.N.Oによって今年立ち上げられたレーベル〈STRUCT〉が、いよいよ本格始動する模様だ。

 「音/映像/文章/ソフト/ハードを問わず、未だ見ぬ素晴らしいプロダクトとコンテンツを広く世に発信するため、O.N.Oを中心に組織されたクリエイターたちによる構造体(=”STRUCT”)」──そう謳う彼らは今年3月、第一弾となる『O.N.O×SATOL』をリリース。そして、まもなく販売開始予定の第二弾『THRIVE / KEITA YANO』をもって本格始動となる。本日からはレーベルの公式サイトもオープンとなった。

https://struct-sound.jp/

 現段階ではサイトにて掲載されている以外の参加アーティストは未発表ながら、今後もワールドワイドな影響力を誇るクラブ界の重鎮から、シーンで勢いをもつ若手アーティストまで、多彩なラインナップによるリリースが控えているとのこと。

 これを記念して、9月14日(日・祝前日)に中野〈Heavysick Zero〉でダブル・リリース・パーティ〈RADICAL BEAT SESSION〉が開催される。O.N.OはもとよりSTRUCTからのアナログリリースを控えた二人組の“ドープ・トラック・マスター”THRIVEや、熱狂的なファンを持つベース・ミュージックパーティ〈MAMMOTH DUB〉を主宰するDJ DOPPELGENGERらが出演。


O.N.O / Ougenblick
Amazon

 O.N.O自身もソロ名義によるアルバム『Ougenblick』を今年6月にリリースしている。前作をリリースしてからの5年間に体験した、全国ライヴ・ツアー、2012年にTHA BLUE HERBとしてリリースされた4枚めのフル・アルバム『TOTAL』などが反映された作品だ。あわせてチェックしたい。

■RADICAL BEAT SESSION
~O.N.O 『Ougenblick』 + THRIVE 『In Confusion / STRUCT-002』 Double Release Special~

日時: 2014年09月14日(日) 23:00開演
会場: 中野heavy sick ZERO
入場料: 当日3,000円
フライヤー持参もしくは24:00までに入場の方: 2,500円

出演:
[RELEASE LIVE]
O.N.O a.k.a MachineLive (THA BLUE HERB / STRUCT)
THRIVE (STRUCT / ambivalent deviation)

[B1F DJ]
DOPPELGENGER
MIZUBATA
SEKIS&DIKE
RAW THE BACKWELL

[B2F DJ]
YAZI (BLACK SMOKER RECORDS)
BLACKOLY
DAISUKE IWANAGA (water bar)
惹蝶
DJ SIET (water bar)
VSTLE

STRUCT 公式サイト
https://struct-sound.jp/

RADICAL BEAT SESSION
https://www.clubberia.com/ja/events/226114-RADICAL-BEAT-SESSION/


TOMOKI A HE-ART - ele-king

MetroJuiceRecords、SoundChannel を経て、2014年、日本独自の突き抜けた才能を世界に発信していくレーベル、iro music を立ち上げた。国籍やジャンルの垣根を超えて、音楽を通してダイレクトに繋がることを目指し、オープンマインドにパーティ道を突き進んでいる。

TOMOKI A HE-ART classic chart 10


1
unless+w-moon / entry plug ep / MetroJuiceRecords

2
TOMOKI A HE-ART feat. V.A. / oneness ep / iro music

3
MODEL 500 / DEEP SPACE / R&S Records

4
massive attack / protection / circa records

5
jepte guillaume / voyage of dreams / Spiritual Life Music

6
moodyMANN / silentintroduction / planet e

7
A Guy Called Gerald / black secret technology / JUICE BOX

8
SADE / Lover's Rock

9
one dove / why don't you teke me

10
M / M4 / M

DJ歴 1994-2014 祝20周年!後半戦もがっつり攻めマス!!
>>DJ Schedule
[8月]
2014/08/30-31 "OVERDRIVE" @山梨 さがさわキャンプ場
[9月]
2014/09/08-15 "Transylvania Calling" @ルーマニア
2014/09/19(FRI) "Space Gathering" @広島 cafe Jamaica
2014/09/27(SAT) "IMAGINATION WORLD" @福岡 北九州 Othree Plus
[10月]
2014/10/04(SAT) "Airport Gathering 2014" @熊本 エアポートホテル熊本
2014/10/11(SAT) "amitAyus" -ノゲランズ the KANREKI 宇宙大宴会 博多編- @福岡 今泉 BlackOut
2014/10/10-13 "あそびのくに" @熊本 阿蘇山3合目坊中キャンプ場
2014/10/18-19 "Secret" @Secret
2014/10/25-26 JUNGLE FRESH MUSIC PRESENTS "GREAT HAPPINESS 2014" SUPPORTED BY ACTINGDIGITAL.LTD & BAR NICO @静岡 天子の森キャンプ場
Mixcloud : https://www.mixcloud.com/fumicronagashima/
Facebook : https://www.facebook.com/fumicro

毎日雨ばかりでモヤモヤだった2014夏。夏らしい事もあまり出来なかったフラストレーションを発散すべく10曲(順不同) (2014/08/27)


1
Age Of Broken Mind - Iso(Original Mix) - Muenchen

2
Vadz - Amphetamine(Anal Acid Mix) - Russian Techno

3
PROJECT AKC - Boing(A. Mochi Remix) - Octopus Records

4
AnGy KoRe - Acidume(Original Mix) - Spielstaub

5
SEBASTIAN MULLAERT - Chant De Paris(Original Mix) - Ovum Recordings

6
Jamez - Drum Spirit(Boshell & Cody Remix) - Repressure Recordings

7
Pascal FEOS, Frank Leicher - Bodygroove(Original Mix) - Level Non Zero Recordings

8
Hefty - Pain Relief (Original Mix) - Zenon Records

9
Brunno Santos - Get Me Higher (Original) - Muenchen

10
Alic - Supabugfix(Original Mix) - Soundmute Recordings

interview with Charles Cohen - ele-king


Charles Cohen
A Retrospective

Morphine Records/P*dis

ElectonicMinimalExperimental

p*dis online shop

 40年以上のキャリアを誇るチャールズ・コーエンというアーティストだが、決して有名ではない。昨年まで私も存在を知らなかったし、アメリカ東海岸のアヴァンギャルドな音楽シーンにかなり精通していない限り、多くの人がそうであったと思う。その理由は明確だ。彼はほとんど作曲をしないし、レコーディングもしない。即興演奏のパフォーマンスにこだわってきたからだ。
 しかもコーエンが演奏し続けてきたのはBuchla Music Easel(ブックラ・ミュージック・イーゼル)という1973年に25台程度しか生産されなかったという、まさに幻のシンセサイザー(*2013年に同メーカーから、40年の時を経てElectric Music Boxという名で復刻された)。
 Buchlaは、シンセ・マニア憧れの究極の逸品とされ、日本ではヤン富田や坂本龍一などが所有している200e Seriesという非常に高価なモジュラー・システムを製造している、Moogと並ぶパイオニア的メーカーだ。ミュージック・イーゼルはそのモバイル版とでも呼ぼうか、スーツケースに収まるトラベル・サイズのややかわいらしい楽器だ。一見するとカラフルでおもちゃのようにも見えるが、もともと鍵盤型のシンセとは全く異なるために演奏が難しいと言われている。さらに製造台数が少なかったため、思い通りに操れる者は極めて少ない。コーエンはこの独特な音色を愛し、プレイし続けてきた屈指の演奏家である(こちらの映像→ https://youtu.be/Zra0EOXRe3A で、コーエンの演奏と楽器を見ることが出来る)。
 この、孤高のパフォーマンス・アーティストを、まさに「発掘」したのが〈Morphine Records〉を運営し、モーフォシスやRa. H名義でミュージシャンとして活躍するラビ・ビアイニ。つねにエレクトロニック・ミュージックのアヴァンギャルドな側面を追求してきた彼は、コーエンが80年代に録音し、未発表のままだったテープがあることを知り、それを2013年に一挙リリースした。いま聴いても色褪せていないそのサウンドがとくにテクノ・シーン界隈で話題となり、アナログ回帰、モジュラー・シンセ・ブームも手伝って、コーエンに注目が集まったのである。

 そして今回、ついに初来日ツアーが実現。モーフォシスと共に三都市を回る。これに先駆け、貴重なインタヴューが実現したので、ぜひこのユニークなアーティストについて知り、そしてこの機会に演奏を体験してもらいたい。

70年代、私はたくさんのエレクトロニック・ミュージックを聴いていました。実際にいくつものシンセサイザーを弾いて試してもみました。その頃にモートン・サボトニックの『Silver Apples of the Moon』という作品を聴いたんです。これを聴いたときに、これこそが自分の求めているサウンドだと思いました。

まず伺いたいのが、あなたが演奏される稀少な楽器、Buchla Music Easelとあなたの関係についてです。これだけ珍しい楽器を、どういう経緯で「自分の楽器」として演奏し続けることになったのですか?

CC:70年代、私はたくさんのエレクトロニック・ミュージックを聴いていました。実際にいくつものシンセサイザーを弾いて試してもみました。その頃にモートン・サボトニックの『Silver Apples of the Moon』という作品を聴いたんです。これを聴いたときに、これこそが自分の求めているサウンドだと思いました。サボトニックのようになりたいというわけではなくて、音色が自分の好みだったんです。でも、彼が何者で、どんな楽器を使っていて、どうやってそれを入手すればいいのか分かるまでに数年かかりました。何とか突き止めてブックラ氏本人に手紙を書いたんですが、1年待っても返事が来ませんでした(笑)。もう一度手紙を書いて、カタログを送って欲しいと頼んだら、やっと届いたのです。

当時は、普通に買えるものだったんですか?

CC:ブックラ氏から直接譲ってもらうしか方法はありませんでした。

でも、注文すれば誰にでも買えたんですか?

CC:いやぁ……(笑)。なぜ欲しいのか、どんな音楽をやっているのか説明して、本人が納得しないと譲ってくれなかったようですね。色々な説があって、私にはよく分かりませんが。

でも手に入れられて、それからずっと使い続けるほどの魅力は、どんなところにあるんですか?

CC:実は私も、手に入れてからしばらくは使い方がよくわかりませんでした。あまりに他のシンセサイザーとは勝手が違っていたので。ですから、手に入れてからも他の楽器を使いながら、ときどき戻って試行錯誤して……ということを繰り返していました。それなりにお金を投資した楽器でしたからね、そう簡単に諦めるわけにもいかなくて(笑)。でもそうしているうちに、だんだんとどんな楽器なのかがわかってきた。そして、わかればわかるほど、Music Easelは私がやりたいことがすべて出来る楽器だということに気づいたんです。一度理解出来たら、実はとてもシンプルでした。だから、他のどの楽器よりもこれを使い続けているんです。

ちなみに、他にはどんな楽器を試してみたんですか?

CC:MoogやE-muなど、いろいろ演奏してみましたよ。

でも、つねにシンセサイザー、電子楽器を演奏してこられたんですね?

CC:そうです。私はもともと、演劇のサウンド・デザイン、サウンド・エフェクトを仕事としてやってきたので、劇場という環境で抽象的な音を鳴らすことが好きなんですよ。演劇プロダクションにおいて、ミュジーク・コンクレート的な音作りを試していました。私がそれらを学んでいた学校で、初期の巨大なMoogのモジュラー・システムを購入しました。誰も使い方が分からなかったのでほとんど使われていなかったんですが(笑)、私はそれまでに自分がやってきたことのお陰で、初めて触れた瞬間からすぐに使い方が分かったんです。シンセサイザーとの付き合いはそこからですね。

他のインタヴューで、あなたは主にフィラデルフィアのフリージャズのシーンで活動されてきていて、とくにサン・ラーとセシル・テイラーに影響を受けていらっしゃると書かれていたんですが、それがあなたの音楽的なバックグラウンドですか?

CC:はい。間違いなくバックグラウンドのひとつですね。もっと若い頃は、プログレッシヴ・ロックなども好きでしたし、もっと抽象的な音楽も聴いていましたが、ジャズのより冒険的な側面に触れてから、すっかりのめり込んでしまいました。ジョン・コルトレーンのレコードを聴いたときに、「音を演奏している」と思ったんです。単なる音符でなく、音楽表現としてサウンド作り出していると。サン・ラーは、フィラデルフィアを拠点に活動していたので、何度もライヴを見たことがあります。実は、シンセサイザーを生演奏しているのを初めて見たのはサン・ラーのコンサートでした。それまでスタジオ機材としか考えていなかったので、彼が最初のきっかけとも言えますね。セシル・テイラーは、彼のワークショップに参加したこともあり、非常に影響を受けた人です。彼も、ジャズ・ミュージシャンですが、(コルトレーンと同じように)「音を作り出す」演奏家でした。(音を使って音符を弾くのではなく)音符を使って音を作り出す人。

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実は、シンセサイザーを生演奏しているのを初めて見たのはサン・ラーのコンサートでした。それまでスタジオ機材としか考えていなかったので、彼が最初のきっかけとも言えますね。セシル・テイラーは、彼のワークショップに参加したこともあり、非常に影響を受けた人です。

あなたはずっとフィラデルフィアを拠点にされているんですか?

CC:そうです。

フィラデルフィアにはそのような実験的、あるいは冒険的な音楽のシーンが常にあったのでしょうか?

CC:拡大と収縮を繰り返していますね、一定の周期で。大学院でニューヨークに行っていたこともあったんですが、中退することにして、同じ頃にフィラデルフィアの劇場でサウンド・デザインの仕事を紹介してもらったので、戻って働きはじめました。新しい劇場で、スタジオには4トラック・レコーダーがあったので、それで色々と実験をしはじめたわけです。

それ以降はフルタイムの音楽家として活動されてきたんですか?それとも「本業」のお仕事は続けていらした?

CC:ええ、サウンド・デザインの仕事はずっとやっています。その後はテンプル大学でずっとやっていました。素晴らしい仕事でしたよ。

あなたの音楽に対するアプローチで非常に興味深いところは、作曲や録音をほとんどせず、即興パフォーマンスに完全にフォーカスしていらっしゃるところです。録音をされていた時期もあったようですが、どうしてそういう活動方針になったのですか?

CC:実は録音もしてきたんですよ、仕事としては。ダンスや演劇のための音楽は録音していました。でも、自分の作品としてリリースするということに関しては……私にはたくさんのミュージシャン友だちがいますが、その多くがレコードを作っても売れませんでしたし、聴く人がいなかった。「チャールズ、頼むから僕のレコードをもらってくれ」なんて言われたりしてね。それでは何だか悲しいので、出したいと思わなかったんです。
 でも、いまは状況が違います。私がかつて録音した音楽も聴いてもらえているようですし、新たに作曲をして作品にしてもいいかなと考えるようになりました。

それは大変興味深いお答えですね。一般的には、今の時代は録音作品を作っても売れなくなってきたので、音楽ビジネスはよりライヴ・パフォーマンスにシフトしてきていると言われています。

CC:それも事実のようですね。私自身、パフォーマンスを重視してきましたから、それがもっとも満足を得られる音楽活動だと思っています。優れた録音作品を完成させるには、根気を必要とします。楽曲が出来上がってから、それを完成形に仕上げるまでの作業や編集に多くの時間を要するからです。私はとても怠け者で短気なので、それが出来なかったんです。でも、現代のデジタル技術を使えば、プロダクション行程に時間を取られすぎることなく、即興演奏を作品化することが可能になったと思うので、やっとそれをやる気になってきたんですよ。マルチ・トラックのテープに録音していた時代には、ポスト・プロダクションは非常に骨の折れる行程でした。今はそうではなくなったので、だいぶ(録音に対する)態度を改めました。
 それに、アーカイヴ音源(〈Morphine Records〉から発売された『The Middle Distance』、『Group Motion』、『Music For Dance and Theater』、『A Retrospective』)の成功のお陰で、作品を出しても無視されることなく、誰かに買ってもらえるんじゃないかと思うようになりました(笑)。ですから、いまは前向きな気持ちです。

なるほど。それと関連して伺いたいと思っていたのが、音楽とテクノロジーについてのあなたのお考えです。一方であなたはとても古風なシンセサイザーをずっと演奏し続けてきていらっしゃるわけですが、その一方で音楽制作の技術は凄いスピードで進化してきています。新しいシンセサイザーもたくさん作られましたし、いまはソフトウエアでも無限の音が作れるようになった。

CC:そうですね。本当に驚くべきテクノロジーが存在しています。

録音に際してはそういう技術も使っていらっしゃいますか?

CC:デジタル・エフェクトは使います。私はアナログ信奉者というわけではないので、アナログだけとか、デジタルだけとか、こだわるつもりは全くありません。私は、自分が実践する上で最適だと思う技術を使うようにしています。アナログの楽器を使い続けているのは、私にとって使い心地が良く満足のいく結果が出せるからで、それを変える必要性を感じないからです。これまで培ってきたテクニックとアイディアがあれば、やりたいことは全て出来るのです。もし限界を感じるようなことがあれば、他のものに変えようという日が来るかもしれませんが、今のところは間に合っています。(操作に対する)反応が良く、シンプルなところ、選択肢が限られているところがいいんです。現代の楽器の問題点は、選択肢が多過ぎるところ。何を選べばいいのか分からなくなってしまう。
 Music Easelには23個のノブしかありません。4~5つの基本構成要素と、オシレーターもひとつしかありません。そう聞くと、何もできないように感じますが、各パラーメーターでコントロール出来る範囲はとても大きい。私は、その方が自分の表現力が発揮出来ます。

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オウテカを例に取ってみましょう。私をよく知る友人などから、「チャールズ、きっと好きだから聴いてみた方がいいよ!」と薦められて、実際に聴いてみました。そして気に入りましたよ、最初の30秒くらいは。でも、ビートが入って来ると興ざめしてしまうんです。

お話を伺っていると、あなたにとってのMusic Easelはクラシックやジャズのミュージシャンが生楽器をマスターする感覚に近いように感じます。彼らのような演奏家は、例えば一度ベーシストになると決めたら、一生その楽器と付き合っていきますもんね。

CC:練習もしなくてはいけないですしね。練習した人には、楽器が報いてくれるものです。現代の電子楽器は、特定のタイプのミュージシャンが特定のタイプの音楽を作るようにデザインされています。こうした楽器は、私も実際に使ってみましたが1~2年すると限界が見えてしまう、もうそれ以上探求する深みがなくなってしまうんですね。その点でも、Music Easelは知れば知るほど深みが出て来る楽器。それに、私は単純にこの楽器のサウンドが大好きなんです。

これも別のインタヴューで読んだんですが、あなたは音楽をほとんど音楽を聴かれないとか!?

CC:ははは。そうなんです。それを言うとみなさんショックを受けるようですけどね! 聴かないといっても、絶対聴きたくないと耳を塞ぐわけではないですよ。定期的に新しいものを手に入れて聴くことを楽しみとはしていないということです。そのミュージシャンと個人的なつながりがあるか、友だちに強く薦められない限りは。ただ座って、45分間なりのまとまった時間を人の作った音楽を聴くことに費やすのが、私には長く感じます。そこまで時間を割けない。音楽にどっぷりと浸かりたいとき、没頭したいときは自分で演奏する方が好きです。

それでも、これまで聴いたり見たりした中であなたが感銘を受けたミュージシャンにはどんな人がいるのか、非常に興味があります。そういう人はいないですか?

CC:ランダムなものしか聴いていないですね。セシルとサン・ラー以外は、私を本当に感動させた人は思い浮かばないです。
 例えば、オウテカを例に取ってみましょう。私をよく知る友人などから、「チャールズ、きっと好きだから聴いてみた方がいいよ!」と薦められて、実際に聴いてみました。そして気に入りましたよ、最初の30秒くらいは。でも、ビートが入って来ると興ざめしてしまうんです。一番最近、人に薦められて気に入ったレコードは、デムダイク・ステアというグループのものでした。それほど最近でもないかもしれませんが……彼らのレコードは楽しんで聴きましたよ。

〈Morphine Records〉のラビ・ビアイニと出会って、アーカイヴ作品がリリースされてからは、世界各地のフェスティヴァルなどに出演されるようになり、だいぶ周囲の環境が変わりましたよね?

CC:自分でも信じられません。ゼロの状態から、いきなりフェスティヴァルなどに呼ばれるようになって。まったくこんなことが起こるとは想像したことすらありませんでしたよ。本当にすべてラビのお陰です。こんなにいろんなところに呼んでもらえたのは。自分でも、これからこんなところやあんなところでプレイするんだ、と口で言っていながら、自分でも信じられないくらいです。日本で演奏する日が来るなんて……いまだに信じていませんよ(笑)。実際に行って、ステージに上がるまでは実感が持てないです。私にとっては、すべてが全く新しい体験です。演奏することが好きですし、新しい人と出会うことも好きです。移動することは少々大変ですけどね。日本なんて遠いところまで、いままで行ったことがありませんから。

恐らく、あなたを聴きに来るオーディエンスもこれまでとはだいぶ違うのではないかと思います。

CC:まったく違いますね。

違うというのは、私もそうですが、いわゆるダンス・ミュージック、テクノ系のリスナーが、最近ではよりエクスペリメンタルな電子音楽に興味を持つようになったと思うんです。そういったタイプのフェスティヴァルにも……

CC:私のような実験的なアクトを混ぜるようになった(笑)。それは、とてもいいことだと思いますよ。テクノには、素晴らしいサウンドがたくさん使われてきました。音楽的なスタイルとしては、私がそれほど熱中するものではありませんが、サウンドそのものは素晴らしいものがたくさんあります。とくにテクノは、多くの人の耳をより抽象的な音にも開かせた。テクノは、エレクトロニック・サウンドの美しさを多くの人に気づかせた。その功績はとても大きいと思います。共通の美意識を持つことで、(スタイル的な)境界線が薄れてきましたね。かつては、DJとパフォーマンス・ミュージシャンの間には大きな隔たりがありました。でも、いまはだんだんとなくなってきている。だんだんと統合されてきて、両方をやる人も増えてきています。私は、それはとてもいいことだと思います。私は、それまで隔たれていた音楽が統合されていくこと、混合されていくことは歓迎します。

今回が、日本を訪れることも初めてなんですね?

CC:初めてです。日本といえば、「禅」についての本は読んだことがあります(笑)。私の親友が数年間日本に住んでいたことがあって、話はたくさん聞きましたが、私にとっては神話のような感じで。日本の文化にはかねてからとても感銘を受けてきたので、本当に訪れるのを楽しみにしています。

あなたの演奏が完全に即興であることを考えると、その場所であるとか、周囲の環境に少なからず影響を受けるのではないかと思いますが、いかがですか?

CC:まったくその通りです。環境のすべてから影響を受けます。周囲から聞こえるちょっとした雑音、見聞きした情報など、全てが何らかのかたちで音楽表現に表れます。例えば、酔っ払いの、暗くて不機嫌な客ばかりの会場だったら、どうしてもそういう音楽になってしまうでしょうし、ハッピーでクリエイティヴで、冒険心のあるお客さんに囲まれていたら、それに相応しい音楽になります。

それでは、あなたにとって未知の環境である日本のパフォーマンスがどんなものになるか、益々楽しみですね。ツアーの成功をお祈りします!ありがとうございました。

CC:ありがとう。私もとても楽しみにしています。


※奇跡の来日公演!

9/4 Charles Cohen / Morphosis Japan Tour 2014 @ Conpass
https://www.conpass.jp/5611.html

9/5 Gash feat Morphine Rec @ Mago
https://club-mago.co.jp/pick-up-party

9/6 Future Terror @ Unit
https://www.unit-tokyo.com/schedule/2014/09/06/140906_future_terror.php

いくたびでも - ele-king

 鈴木昭男と恩田晃、年齢も出自もちがうふたりはともに場と記憶にまつわる音を探究しつづけるサウンド・アーティストとしてつとに知られており、世界をマタにかけて活動を行ってきた、というより、世界は無数の場所の折り重なりなのだから場を探りつづければいきおいマタにかけざるを得ないともいえる。サイト-スペシフィック(Site-Specific)とは決まった場所に在ることであり、音楽では特定の場所に設置したサウンドアート作品を指してそう呼ぶことが多いですが、たとえば恩田晃はある場所でカセットに録った音を「演奏」することで、場所と記憶、過去の時間と現在時を音のなかに重畳しきわめて特異に響かせる。鈴木昭男については多言を要すまい。自然と語らいのなかでの音を探りつづけた彼の耳は音楽の制度と因習にとらわれず、アナラポス――糸電話の糸をバネにかえた、スプリング・リヴァーブをむきだしにしたような自作楽器――などを制作し、聴取行為を行為芸術にくりこみ、音楽とは別の音の体系を手ずからつくりあげるようである。

 ふたりには何度か共演歴があり、そのひとつはモントリオールの〈Oral Records〉から今年『ma ta ta bi』になった。「マタタビ」とは「股旅」であり「また旅」であり、場を求めさすらうふたりの音楽人生になぞらえたのだと思うが(そういえば恩田さんが日本に地を踏むのは5年ぶりだそうだ)、ふたたび、いや三度、四度といわず、彼らにとって出会いは旅路の交錯であり、場から場へ移る過程の途上であり、いくたび目かの出会いへのさきぶれであり、演奏は終わっても音に終わりはない。彼らが去った後はその場さえ変わってしまうようだ。いや変わったのはこっちの耳のほうだったか。
 9月20日はマタタビの日ですね。

●公演詳細
鈴木昭男/恩田晃 デュオ・パフォーマンス

日程:2014年9月20日(土)
会場:17:00 開演:17:30
会場:原美術館ザ・ホール 東京都品川区北品川4-7-25 Tel 03-3445-0651
出演:鈴木昭男、恩田晃
チケット:4,000円(入館料・税込み)

お申し込みは以下より
原美術館 詳細ページ
https://www.art-it.asia/u/HaraMuseum/sHYBk6enGT7UOAatlmQr/

Burial Hex - ele-king

 今年のはじめごろ、ブリアル・ヘックス(Burial Hex)が初めてLAでショウをおこなうとのことでEBMやミニマル・ウェーヴなんかのパーティをガンガン推している寝床から、近所のハコ、〈コンプレックス〉に観に行った。かなりキモかっこ良かった。90分近い、終始スーパー・ラウドなロングセットを飽きさせず……いや、途中のドローン・パートで一服していたけれども、充実したパフォーマンスであった。いったいどこからこんなに湧いてきたのか、ショウに群がるLAのゴス女子は不思議とメンヘラ感が薄い。カリフォルニアの気候とゴス、情熱的なラテン系女子とゴス、自然な調和をみせる光と影かな、などとゴスな衣装に包まれるたくさんの谷間やケツを目で追っていたから妙に満足しただけかもしらんが。

 話がだいぶ逸れた。アメリカ中西部のド田舎、ウィスコンシン州マディソンを拠点に活動する暗黒電子音楽家クレイ・ルビー(Cray Ruby)ことブリアル・ヘックスに僕はデビューから現在に至るまで毎度、黒くてぬるっとした感銘を受けている。ホラー・エレクトロニクスと形容されるクレイのサウンドはインダストリアル、儀式音楽、アンビエント、フリー・インプロヴ、サイケ・フォーク、ネオクラシカル、コズミック・シンセジス、ブラック・メタル、といったアンダーグラウンド・ミュージックに湧き出る黒い泉の水にディスコの油を加えて完成させたエリクサーである。その完璧な配合は錬金術師クレイにしかおこなえない。書いていることがだいぶ中2じみてるな。クレイいわくブリアル・ヘックス(埋葬された呪い)は地底深くに隠されたある種のエネルギー・サイクルであり、それはヒンドゥー教の宇宙論において循環するとされる4つの時期の最終段階、万物が破滅にいたる終末の状態を表すそうだ。カリ・ユガ(Kali Yuga)である。なんのこっちゃ。

 ブリアル・ヘックスのサウンドを単なる中2で終わらせないのは、そのオカルトな思想体系や芸術的探求心のズブッズブなドープさ、それにギリギリ悪趣味にならない完璧なバランスで成立する比類なきトラックの完成度にある。
 サイキックTVやメルツバウのリリースでもお馴染み、ノイズ/ゴス系大御所レーベル、〈コールド・スプリング(Cold Spring)〉から前回ココでレヴューした『惑わしの書(Book of Delusion)』に引きつづき、12インチや7インチ、テープなどのキラーなトラックだけを集めたコンピレーション・アルバム『心霊の護り(In Psychic Defense)』(同名タイトルの12インチも存在するので注意)が発売された。これがまた名曲揃いで、購入後にディグりがいのある音源だ。それに、毎度毎度僕のお気に入りの映画のシーンを持ってきては勝手にミュージック・クリップにしてやがるのも気になりやがるのだ。前作、『惑わしの書(Book of Delusion)』のタイトル・トラックではフェリーニのローマだし、

 今作に収録される“ハンガー”にいたっては僕もその昔自分のバンドのライヴで濫用していたマヤ・デレンの『ディヴァイン・ホースメン(Divine Horsemen)』だし! おまけにリリックはランボーの詩だし、

 ラストの“ザ・タワー”はデレク・ジャーマンの『セバスチャン』だし……

 このトラックは収録されなかったが、“ザ・ナイト”のリリックはリルケの詩だし、

 今作に収録される7インチにカットされたトラック“ファンタジー”はピュンピュン系のアシッド嫌いの僕でも聴き入るほどキモかっこいい名曲だ。ぜひダンスフロアで聴きたい。

 かつてのニノス・ドゥ・ブラジル(Ninos Du Brazil)のニコ・ヴァセラリとクレイのコラボレーションであったアート・インスタレーション、『I hear a shadow』の共鳴から連なる暗闇からのズンドコの誘いはこんな現代だからよく響くのかもしれない。CDなんで手に入りやすいと思います。

第22回:フットボールとソリダリティー - ele-king

 夏休みにうちの息子を初めてフットボール・コースに通わせた。
 これはブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンFCという地域のクラブが運営している小学生向けのコースで、夏休みとかイースター休みとかには必ずやっているのだが、働く親には送り迎えがたいへん不便な時間帯に行われているので、これまでうちの息子は通えなかったのである。

 が、今年はどうにか送り迎えの都合がつくことになり、フットボール狂のうちの息子は喜び勇んでコースに行ったのだが、初日からどんよりした顔つきで帰って来た。
 「どうしたの」
 「ジャパーンはシットだって言われた」
 ああ。と思った。グラウンドに彼を送って行ったときに、それはちょっと思ったのである。子供たちのほとんどは、ブライトン・アンド・ホーヴのキットを着ていた。地元クラブ運営のコースなので当前である。少数派として、チェルシーやマンUなどの定番人気クラブのキットを着ている少年たちもいたが、日本代表のキットなど着て行ったうちの息子はマイノリティー中のマイノリティーだ。しかも、そのチームがまた、どちらかと言えば強くないことで有名である。そりゃからかわれる標的にはなるだろう。
 「明日は日本代表のは着たくない」
 「ほんなこと言ったって、あんたブライトン&ホーヴのキット持ってないじゃん」
 「ウエストハムのキットを着る」
 「いや、それもブライトンじゃ超マイノリティーだよ。強いわけでもないし」
 「ウエストハムなら何と言われてもいい。“僕のチーム”だから」

               *****

 ある日、食事中にうちの息子が、妙に青年っぽく潤んだ瞳で言った。
 「こないだ、父ちゃんとロンドンに行った時、ウエストハムのリュックを背負って行ったんだ。地下鉄を降りて、プラットフォームを歩いていたら後ろから男の人がいきなり僕のリュックをパンチした。で、彼は言ったんだ。『ウエストハム・フォー・ライフ』って」
 わたしは黙って聞いていた。あれほど熱っぽく、しかし静かな息子の微笑は見たことがなかった。8歳児があんな顔するのかよと思った。

 またある時、息子は言った。
 「母ちゃんは実用的なことを教えてくれるけど、父ちゃんは人生について話してくれる」
 「例えば、どんな?」
 「僕たちは一度このクラブをサポートすると決めたら一生変えないんだとか、そういうこと」
 要するにフットボールである。
 うちの息子がウエストハムのサポーターである理由は、ロンドン東部で生まれ育った連合いのローカル・クラブがウエストハムだったからであり、彼の「ウエストハム・フォー・ライフ」はいわば世襲のものである。フットボールには「世襲」だの「帰属」だのといった風通しの悪いコンセプトがつきまとう。そもそも、「○○・フォー・ライフ」などという思い込みの迸りは限りなく愛国精神じみているし。フットボールがウヨク的と言われる所以だろう。

                *****

 『Awaydays』という映画があった。例によってこれも日本には輸入されていないようだが、『This Is England』のフットボール版と言われた映画で、1979年の英国北部の若者たちを描いた作品である。

サッチャーが政権に就いた年の灰色の北部の街で、ちょうど『This Is England』の主人公ショーンがナショナル・フロントに惹かれて行ったように、『Awaydays』の主人公はフーリガニズムに惹かれて行く。『Awaydays』もサブカル色が強く、ここに出て来る北部のフットボール・フーリガンたちは、いやにモッズである。アラン・マッギーが初めてグラスゴーのライブハウスでオアシスを見た時の印象を、「そこら辺を破壊して暴れ出しそうな不良のモッズが隅に陣取っていた。はっきり言ってビビった」と語っているのを読んだことがあるが、モッズにはどうしたって地方のヤンキーという側面がある。この流れを現代に汲んでいるいるのが、スリーフォード・モッズだろう。ああいうおっさんたちは、ブライトンの職安の前に行くとけっこういる。
 『Awaydays』はポストパンク・ミュージックをふんだんに使い、フーリガンたちがワイヤーやマガジンを聴いていたり、主人公の部屋にルー・リードのポスターが貼られていてたりするのだが、これは連合いの世代の人びとに言わせれば、「フーリガンはポストパンクじゃなくて、ディスコかジャズ・ファンクを聴いていた」という時代考証的な矛盾があるらしい。
 が、本作の主人公は、もともとおタクっぽいレコード・コレクターで、田舎のヤンキー文化には溶け込めなかった。そういう青年が何故かフーリガンたちの世界に憧れ、自ら飛び込み、やがてグループの中で最も凶暴なメンバーになるというのは、面白い構図だ。ポストパンクとフーリガンは相容れない世界だったとしても、その境界を飛び越えて行った人もいた筈だ。
 男子が暴れたくなる理由はホルモンの暴走とかいろいろあるんだろうが、この映画では、閉塞や孤独やノー・フューチャーな感じ、禁じられた同性愛などの対極にあるものへの渇望。が満たされない故に疾走する行為として描かれている。そして、あの徒党感。「族」を描く映画には欠かせない、「横並びに共に立っている」という感覚である。それはうちの息子が駅でウエストハムのリュックをパンチされた体験を語る時の、潤んだ微笑でもある。


              *******

 過日。
 若き左派論客オーウェン・ジョーンズがガーディアン紙ですすり泣いていた。この人はダイハードな左翼ライターとして有名で、左派のわりには全くヒューマニティーを感じさせないほど沈着冷静、皮肉屋で残酷。眉ひとつ動かさずにバサバサと右派を斬る人なのだが、その彼が『Pride』という新作映画を見て「僕はすすり泣いた」などと新聞に書いている。
 同作もサッチャー時代の話らしい。炭鉱労働者たちのストライキをサポートするために同性愛者コミュニティーが立ち上がる。という実話ベースの話だそうで、これを見てあのオーウェン・ジョーンズが泣いたというのである。
 「サッチャーが殺すことができなかった伝統がある。それは英国人のソリダリティーだ。どれほど彼女が個人主義の鉈を振り下ろしても、この伝統だけは殺せなかった」
 と彼は書く。うーむ。これも「横並びに共に立つ」というアレだよなあと思った。

 思えば、例えばこのアラフィフのばばあが育って来た時代から現代まで、西洋文化にかぶれた日本人にとっても、ソリダリティーというやつは最もダサいもので、憎むべきものであった。個人主義こそがクールで、おまえはおまえで俺は俺。群れる奴らは弱いとか、団結はおロマンティックなバカどもの幻想だとか言われてきた。わたしなんかも、すっかりその洗脳にやられて生きて来た老害ばばあである。

 最近、UKでは頻繁に「サッチャー」という言葉を耳にする。ひとつのキーワードになっていると思うが、この国で育った人間たちは今つらいのだと思う。組合は駄目、フーリガンは駄目、福祉国家は駄目(この駄目というのは、禁止という意味ではない。「もはやお話にもならないもの」ということ)、人間が結束することを全て駄目化する形で庶民は分割統治されてきた。自力本願が花開く上昇の時代ならそれでも良い。が、人が支え合わなければ生き残れない下降の時代になっても個人主義という基本は変わらない。それでもソリダリティーに惹かれてしまう者は、それこそ左から右にジャンプするしかないというか、ポストパンクからフーリガンに飛び込むしかなかったのだ。
 けれどもそこはやはり人間が繋がることが駄目化された社会なので、『Awaydays』でも主人公のひとりは自殺するし、もうひとりは「やっぱ結束なんてクソだよな」とフーリガンを抜ける。『Pride』のほうだって、炭鉱労働者たちが現実にどうなったかを考えると「勝利」みたいなハッピーエンドではないだろう。が、きっと人間のソリダリティーを否定しない形で終わった映画だからこそ、オーウェン・ジョーンズのような人まで泣いたのではないか。 
 ソリダリティーはいいことなんだよ。と言ってくれる人はこれまでいなかったから。

 サッチャーからはじまった個人主義の果てにあった修羅の如きブロークン・ブリテンに、きっとみんな疲れているのだ。だからちょっとソリダリティーとか言われたら泣いたりする。
 アホか。
 ゲット・リアル。
 とはわたしはもう思わない。
 次の時代は、意外とそういうところからはじまるかもしれないからだ。

interview with Rustie - ele-king


Rustie
Green Language

Warp records / ビート

CrunkHip HopElectronic

Amazon Tower HMV iTunes

 上半身裸の男が壁をよじのぼる光景はなんともクレイジーだった。ラスティが故郷であるスコットランドのグラスゴーでギグをやるといつもこんな感じらしい。やはり素晴らしいミュージシャンを生み出す街と、パーティを楽しむ人びとはセットなのである。
 インタヴューでも本人が触れているグラスゴーのレコード店であるラブ・ア・ダブはレーベル運営もしている。そのうちのひとつ〈スタッフ・レコーズ〉から2007年にリリースされたEP「ジャクズ・ザ・スマック」がラスティのデビュー作品だ。ダブステップの重さとヒップホップの軽さが混在したリズムと、エレクトロの暗いメロディが彼のスタートになった。
 翌2008年にはブリストルのヤンキー・ダブステッパーであるジョーカーとコラボレーションしたシングル「プレイ・ドゥ / テンパード」を〈カプサイズ〉からリリース。現在、ラスティもジョーカーもその類希なメロディ・センスで人気を集めているが、そのスタイルの原型はこのシングルに見出される。
 ここ日本でも注目されるようになったのは、〈ワープ〉と契約してリリースされた2010年の「サンバーストEP」からだ。イントロの“ネコ”で流れるヒロイックな、というかヒーロー映画で流れても違和感のない大胆な構成は、ダンス・ミュージックの領域ではかなり特異なものだった。翌年のファースト・アルバム『グラス・ソーズ』はそれをさらに押し進め、より複雑なリズムとカラフルな音色で彩られている。
 今回のセカンド・アルバム『グリーン・ランゲージ』では、いままでのラスティの作品でありそうでなかったラッパーやシンガーの客演も聴き所のひとつだ。とくにダニー・ブラウンとの“アタック”が素晴らしい。トラップ直球のリズムとハスキーで噛み付いてくるようなラップと、それに劣らない鮮烈なフレーズ が随所でリスナーを刺激する。自分以外の主役を引き立たせられるプロデューサーとしても彼は着実に進化を遂げているのだ。
 前作からの3年に間にラスティはDJとしてツアーで世界を飛び回っていた。来日も果たし、アメリカも周り、冒頭にあるように故郷のグラスゴーのフロアも大いに湧かせた。その間に作られたのが本作『グリーン・ランゲージ』だ。最近の活動の様子から、自身のルーツまで多くのことをラスティは語ってくれた。

いまの時代は以前のように、ずーっと耳を傾けたり集中しなくてよくなってる。そういう意味では俺の音楽はそれを反映してるのかもね。

あなた自身の生活のなかで、今年の夏は、去年の夏とどのように違っていますか?

ラスティ(以下、R):そこまで大きな違いはないけど……。アルバムがリリースされるし、プレスや色々準備があるから、去年よりは忙しくしてる。去年はここまで忙しくはなかったと思うな。それくらい(笑)。

5年前と現在とでは?

R:5年前って2009年だよね? 初めてワープと契約した年だ。だから、自分にとっては新たなスタートって感じの年だった。2007年が初めて作品をリリースした年だったけど、ワープと契約したことでまた気分が変わったんだ。

5年前といまじゃ全然違いますか?

R:全然。当時はリミックスを沢山やったりしてたな(笑)。

通訳:当時より、自分のスタイルが確立されていたり、自信がついていたりはしますか?

R:そうだね。自信はついてると思うし、スタイルも出来てきてると思う。前よりも作業の経験を積んでるし、音楽制作の流れもベターになってきた。ミュージシャンとして、いまのほうがハッピーでもあるよ。

通訳:5年前は何歳だったんですか?

R:25。あ、26かな。いま31歳だから。

通訳:31歳! 見えませんね。欧米の人にしては珍しく若く見えます(笑)。

R:ベビー・フェイスだから(笑)。25歳のときはそれが嫌だったけど、いまはいいかなって思ってる(笑)。

さて、まずはニュー・アルバム『グリーン・ランゲージ』について聞かせてください。アルバムの完成には時間がかかりましたね?

R:まあね。制作には2年かかったよ。理由のひとつは、『グラス・ソーズ』のあと、半年間ハード・ドライヴがダメになってしまって、しばらく曲を作れなくてさ。それがなければ1年半で完成していたのかも。あまり自分を急かして作りたくなかったっていうのもある。自分が満足いくものを作りたかったからね。俺は完璧主義者なところがあって、ひとつひとつを納得できるものにしつつ作業を進めたかったんだ。」

通訳:思ったより長くかかりました?

R:少しね。自分の中では完成は1年後くらいのつもりでいたから。でも忙しくて。ツアー中に作らないといけなかったし。

今作はタイトルやフラミンゴのジャケットから察するにテーマとして自然があるようです。自然をテーマにした理由は?

R:自然や宇宙、動物にはいつもインスパイアされてるから。だから普通なことだったんだ。

通訳:動物は飼っていますか?

R:前は猫を飼ってたけど、もういない。子供の頃の話だよ。いまはちょっといいかな(笑)。

通訳:はは(笑)。アルバム・ジャケットはなぜフラミンゴなんですか?

R:自然や動物をカヴァーにしたかったんだ。だからそれを友だちに伝えてアートワークの制作を頼んだらあのデザインが返ってきた。

通訳:アルバムのテーマと繋がったものを頼んだってことですよね?

R:そうそう。タイトルは鳥の言語っていう意味だしね。だからアルバム・カヴァーはそれと関係あるものにしたかったんだ。で、たくさんあった選択肢のなかであのアートワークが一番それと繋がりを感じたから選んだ。『グラス・ソーズ』もクリスタルだったしね。あれはもっと人工的でアニメーションっぽかったけど、今回はそこからちょっと前進してリアルになっているのもいいと思う。

あなたはPCやネットがカジュアルな世代で、私たちはデジタル情報化社会に生きています。よくよくあなたの音楽は、そうした今日の情報化社会の反映に喩えられますが、あなた自身もそう思いますか?

R:人がそう言うのもある意味理解は出来る。俺は集中力がなくて、3、4分以上の曲を作れない。オンライン・メディアみたいにピンポイントというか、必要なものだけをサッとって感じ。いまの時代は、前みたいにずーっと耳を傾けたり、集中しなくてよくなってる。そういう意味では俺の音楽はそれを反映してるのかもね。

“ワークシップ”や“レッツ・スパイラル”のように壮大な曲がありますが、あなたはドラマチックな展開が好きですよね? ミニマルな人生は嫌いだから?

R:いや、シンプル・ライフも好きだよ。忙しいときは、そこから離れて何もない場所に行きたくなったりもする。あまり質問の答えになってないかもしれないけど(笑)。ドラマとかパッション、エモーショナルなものを音楽に入れるのは好きだね。曲をエキサイティングにしたいから。綺麗な曲もすごく好きだけど、やっぱり人を引き込むくらいエキサイティングなものを作るのが好きなんだよね。

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俺にとってトラップっていうのはヒップホップ・ミュージックなんだ。スリー・シックス・マフィアとかグッチ・メインとか、そういうトラップは好きだね。

表題曲“グリーン・ランゲージ”はピアノのアンビエント曲でラストにふさわしい曲ですね。あなたがアンビエントを作るのは意外でした。これはアルバムのコンセプトとどのような関係があるのですか?

R:「グリーン・ランゲージ(Green Language=鳥の言語)」っていうのはスピリチュアルだから、それが反映されてるんだと思う。だからこのトラックがああいった雰囲気を持っているのは自然なことなんだ。

通訳:アンビエント・トラックはよく作ったりするんですか?

R:うん、作るよ。ドラムのないトラックとか、クラシックっぽい音楽も作る。そこにいろいろ加えてもっとエキサイティングにしていったり、サンプルしたり。

『グラス・ソーズ』をより発展させたのが『グリーン・ランゲージ』なのでしょうか? 

R:うーん。発展でもあるし、新しいチャプターのような作品でもある。全く違うわけじゃないけど、やっぱり違いはあるよ。『グラス・ソーズ』はもちろん反映されているし、要素も繋がりはある。だけど、エナジーみたいなものが違うね。

『グラス・ソーズ』をいまでも聴きますか?

R:DJのときだけ。一度作り終わってリリースすると、俺は自分の音楽って聴かないんだよね。2、3年経たないと聴く気になれないかも(笑)。

通訳:それは何故? 変な感じがするんですか(笑)?

R:いや、心地良くないとかそういうわけじゃないんだ。ただ前に進みたいからだよ。

作曲のときもラップトップをメインで使用するそうですね。前作よりも多様な音のシンセが使われていますが、機材環境に変化はありましたか?
 
R:いや、そんなに。作るときよりもレコーディングのときの方が色々使ったかもしれないな。ツアー中にレコーディングしたから、色んな場所でそこにあるものを使ってレコーディングしたよ。でも基本はラップトップ。特別なものは使ってない。とくに変化はないよ。

レディーニョとの“ロスト”や“ドリーム・オン”においてR&Bトラックを披露していますね。今回はどうしてヴォーカル・トラックに挑戦したのでしょうか?

R:ヴォーカルの入ったトラックが好きだから。それだけだよ。『グラス・ソーズ』でもやりたかったんだけど、チャンスがなかった。でもずっとやりたいことだったんだ。構成もヴォーカルやメロディの入ったものが好きだしね。

先行発表された“アタック”では、トラップを連想させるビートにダニー・ブラウンのラップが最高にマッチしています。あなたの作るラッパーのためのトラックと、ヒップホップのトラックメイカーの作る曲はどこが違うと思いますか?

R:そうだな……。ラッパーのために作るトラックとそうでないトラックの違いなら。ラッパーのために作るときは、そこまでハードに作業しなくてもいい。ラッパーやヴォーカリストがリードをとってくれるから。メインのフォーカスはラッパーだから、バックグラウンド・ミュージックを作るような感じで作るんだ。でもインストとなると、初めから面白いものを意識して作らないといけない。インストだけで聴く価値のあるものをね。メロディが主役だからさ。ラッパーやヴォーカリストがいなくても、インスト・トラックとしていいものを作らないといけないから、もっと注意が必要なんだ。

ハドソン・モホークとルナイスによるプロジェクトのトゥナイトはトラップに焦点を当てていますが、あなたの作品でもトラップのリズムを聴くことができます。やっぱ好きなんですか?

R:EDMのトラップに関してはわからないけど、俺にとってトラップっていうのはヒップホップ・ミュージックなんだ。スリー・シックス・マフィアとかグッチ・メインとか、そういうトラップは好きだね。

ダンス・ミュージックの多くにおいてフレーズのループがじょじょに展開していくパターンが多いですが、あなたのトラックは部分的にメロディが使い分けられており、ポップ・ミュージックの構成に似ています。従来のダンス・ミュージックとはなぜ違ったスタイルを取るのでしょうか?

R:さっきも言ったように、俺の曲は短い。ダンス・ミュージックでは7分間のトラックなんかもあるよね? でも俺はそこまで長いトラックだと退屈してしまうんだ。もっとグッと引き寄せられるような音楽が好きなんだよ。DJするときもそう。素早く集中したエナジーで、次から次に進む方が得意だね。

その曲構成も含め、 あなたの曲の多くはリズムもとてもユニークですが、その反面、フロアでDJがどのようにそれらの曲をミックスするのか想像するのが難しいです。DJのために曲を作ることはあまり意識していないのでしょうか?

R:DJのことはあまり考えない。自分が聴きたいと思う音のことだけを考えてるよ。俺自身もDJだけど、あまり長いトラックはかけない。俺はそういうDJセットが好きなんだ。

自分の曲がEDMと呼ばれたら違和感は覚えますか?

R:自分ではそうは思わないけど、人っていつも新しい言葉を作って何かしら呼びたがるし、別に気にはしないよ。もう慣れたね。そういうのは言葉に過ぎないから。

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もちろんグラスゴー出身だしグラスゴーが好きだけど、そこまでアイデンティティは強くないね。

今年の7月から8月にかけてアメリカをツアーしていましたが、現場での反応はいかがでしたか? 

R:そう。2、3日前に帰って来たばかりなんだ。すごく良かった。最高だったよ。新しいトラックへの反応も良くて、昔のトラックでも盛り上がってくれたよ。

通訳:アメリカとイギリスで受けいられ方が違ったりするのでしょうか?

R:そうだな……。イギリスの方がもっと違うジャンルにハマってると思う。いまイギリスではハウスがきてるんだ。ハウスとかディープ・ハウスとか。アメリカではそこまで流行ってはない。アメリカでは俺の音楽をかけるとフロアはクレイジーなるけど……。イギリスもそうではあるんだけど、もっとハウス寄りのものに反応がある気がする。

あなたは数年前にグラスゴーからロンドンへ引っ越していますが、生まれ育った地元のシーンやあなたのバックグラウンドについても教えてください。少々前の話なのですが、僕は2001年の9月から1年間グラスゴーに住んでいました。シティ・センターにあるクラブ、ステレオで行われた前作『グラス・ソーズ』のリリース・パーティにも行ったんですが、大変盛り上がっていましたね。DJブースの前で人が重なり合い熱狂するなか、自身の曲とベース・ミュージックのチューンを混ぜ合わせ、ハドソン・モホークの“フューズ”をラストにかけていたのが印象的でした。グラスゴーは現在も特別な場所なのでしょうか?

R:あの夜はすごく楽しい夜だった。グラスゴーは人もいいし、勢いもあって、みんなパーティが好きなんだ。楽しい時間を過ごすのが好き。だからたくさんのバンドやDJが、ここでプレイするのが好きだって言ってるよ。グラスゴーのオーディエンスは熱いからね。

ジャックマスターやスペンサーなどの実力派のDJたちの活躍も目覚ましいですが、近年のグラスゴーのシーンについてどう思いますか?

R:昔に比べてより多くの人がシーンに関わっていると思う。〈ラッキー・ミー〉とか〈ナンバーズ〉はいまも忙しくしているよ。でも悪いことじゃないんだけど殆どのアーティストがロンドンに引っ越していたりで、全体的にちょっと静かになったかな。だから前より面白くないんだ。ハウスだらけでちょっと退屈……。でもそれらのレーベルの作品には面白いものが多いよ。でも最近のグラスゴーのシーンは前ほどエキサイティングではないかな。

通訳:グラスゴーで育ったことは、自分の音楽にやはり影響していますか?

R:シティ・センターのレコード店、〈ラブ・ア・ダブ〉でレコードを買ったりしてたから、影響はあるよ。テクノ、エレクトロ、ヒップホップとか、色々なタイプの音楽が揃っててそれらに影響を受けたんだ。すごく折衷的で、ディスコ、シカゴ・ハウス、ロックやパンクもあった。だから、全ての種類の音楽から影響を受けることが出来たんだ。

『ピッチフォーク』などメディアからは、「グラスウェイジアン(グラスゴー人の意)」や「グラスゴーのラスティ」と出身地を強調されることがあります。自分自身がスコットランド人であることやグラスゴー出身であることを意識しますか?

R:いや、そんなに。自分がスコットランド人だってことはあまり意識してない。国家主義者でも何でもないからさ。もちろんグラスゴー出身だしグラスゴーが好きだけど、そこまでアイデンティティは強くないね。

グラスゴーにあってロンドンにないものは何ですか?

R:グラスゴーはヴァイブが違うんだ。独自のユーモア・センスがあって、人がもっとフレンドリー。他人によく話しかけたりね。ロンドンに比べると、そういうエナジーが漂っていると思う。

現在契約している〈ワープ〉が輩出したエイフェックス・ツインやボーズ・オブ・カナダなどのプロデューサーからあなたは大きな影響を受けたそうですが、改めて彼らの魅力について教えてください。

R:エイフェックス・ツインよりはボーズ・オブ・カナダに影響を受けてる。エイフェックスはもちろん好きだけど、そこまで大きな影響ってわけじゃないかも。影響ではボーズの方が大きいね。ボーズ・オブ・カナダのメロディやクールな音楽に魅了されたんだ。自分が初めて聴いたワープのアーティストだと思う。2002年くらいだったかな? 音の質感が単純に美しかったのをいまでも覚えてる。

通訳:ボーズ・オブ・カナダはいまでも聴きますか?

R:去年のニュー・アルバム『トゥモローズ・ハーヴェスト』は聴いたよ。良い作品だね。でもやっぱり聴くのは昔のものが多いかな。『ミュージック・ハズ・ザ・ライト・トゥ・チルドレン』(1998年)とか『ゴーガッディ』(2002年)とかね。

音楽をはじめたきっかけは何ですか? そこからどのようにダンス・ミュージックと関わるようになるのでしょうか?

R:作りはじめたのは2002年。その前からDJはやってたんだけど、フルーティー・ループスのコピーを手に入れてから、それを使って音楽を作るのに中毒的にハマったんだ。15歳のときヒップホップが大好きだったからスクラッチの仕方やターンテーブルを勉強したくて、使い方を教えてくれる人を常に探してた。だけど、みんな幅広いダンス・ミュージックにハマっててさ。彼らが教えに俺の家にくる度ににそういった音楽のレコードをもってきてかけくれたんだ。だから、俺もダンス・ミュージックに興味を持つようになったわけさ。

お兄さんから作曲用音楽ソフトを貰い、お母さんのレコード・コレクションからいろいろ学んだそうですね。ミュージシャン、ラスティのレコードはあなたの家族のレコード棚にはあるのでしょうか?

R:そうなんだよ。親のレコードからも影響を受けてる。プログレッシヴ・ロックの影響なんかはそこからだね。俺のレコードは実家のレコード棚にあるよ(笑)。母親も気に入ってくれいてるよ。まだニュー・アルバムは聴かせてないんだけどね。

KAKU - ele-king

東京出身 アメリカ・ミシガン州在住のDJ/トラックメーカー 。
BUSHMINDの実兄。1990年頃からDJを始め、1997年アメリカに活動の場を移す。デトロイトの音楽シーンで活動する唯一の日本人として現地で数々のライブ、DJを行う。

KAKU / LIVE AT DETROIT 2000
2014/8/27 on sale
himcast.com

KAKUインタビュー
https://www.himcast.com/2014/08/kaku.html

Chart


1
Substance - CR 18

2
Deep Chord - DCV 08

3
Convextion - Matrix 1

4
Deep Chord - DCV 09

5
Brooks Mosher - Coming Back ( Kevin Reynolds Remix )

6
Echo Inspectors - Lunar Shadows ( Luke Hess Deep Labs Remix )

7
Mosaic - Mcspl 05

8
Bluetrain - Factory Dubs

9
Strange Attractor - Phono 01

10
Kevin Reynolds - Anonymous Room At The Corridor Of Last Night
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