D.A.N. EP SSWB / BAYON PRODUCTION |
D.A.N. POOL SSWB / BAYON PRODUCTION |
「D」の文字だけがあしらわれたジャケットは、この3ピース──D.A.N.の矜持と美意識をミニマルに表現している。東京を拠点として活動するそれぞれまだ二十歳そこそこの彼らは、ポーティスヘッドといえば『サード』からの記憶がリアルタイム。あきらかに本作「EP」のジャケットからは『サード』やトリップホップ的なものへの共感が見てとられるが、あのベタ塗りのビリジアンをぼんやりとした靄の奥に沈めたのは、彼らと、たとえばウォーペイントとを結ぶ2010年代のフィーリングだ。
甘やかな倦怠とサイケデリア、同時に清潔でひんやりとした空気をまとったプロダクション、芯に燃えるような音楽的情熱。……倦怠が微弱な幸福感と見まちがわれるような、クールで起伏の少ない現代的感情の奥に、凍ったり燃えたりするための燃料源が音楽のかたちをして揺れている。ひたすら反復しながら、しかしそれによってトランシーな高まりを期待するのでもない“Ghana”などを聴いていると、現代の純潔とはここにあるのだとさえ言いたくなってしまう。
よく聴くとすべて日本語で、詞は押し付けられることなく、しかし引くこともなく耳裏に流れ込んでくる。ことさらヨウガクともホウガクとも感じることなく、たとえば〈キャプチャード・トラックス〉や〈4AD〉の新譜を聴くように聴けて、かつ「東京インディ」というひとつの現代性の表象をリアルに感じとることもできる。なるほど世界標準とはこういうことなのだと思わせられる──それはまずよそ様ではなく自分たちのリアルへの感性の高さを条件として、表現として外のシーンへと開かれている。〈コズ・ミー・ペイン〉の感動から、さらに時計の針は進んでいる。
前置きばかり長くなってしまったが、東京を拠点として、いままさにインディ・シーンを静かに騒がせようとしているこの3人組の音と言葉を聴いていただきたい。時代性についての言及が多くなってしまったが、音のトレンドも汲みながら、スタイリッシュな佇まいも強く持ちながら、しかし根本にあるのは本当にウォーペイントに比較すべきオーソドックスなギター・バンドの魅力でもある。あまり考えず構えず、何度も何度も再生ボタンを押せる作品だ。これがデビューEPということになるが、ウォッシュト・アウトの「ライフ・オブ・レジャー」しかり、ある意味ではすでにフル・アルバムに等しい価値と象徴性を持っていると言えるかもしれない。これをリリースしてしまったことが、彼らの壁になりませんように──。
■D.A.N / ダン
東京出身、21歳の3人組。メンバーはDaigo Sakuragi(Vocal,guitar,synth)、Jinya Ichikawa(Bass)、Teru Kawakami(Drum)。ライヴ活動を通じて注目を集め、2015年には〈フジ・ロック・フェスティバル〉の《Rookie A Go Go》に出演するなど活躍の幅を広げている。同年7月には、自身らの自主レーベル《Super Shy Without Beer》通称《SSWB》を立ち上げ、Yogee New Waves、never young beachを手掛けるBAYON PRODUCTIONのバックアップの下、初の公式音源『EP』をリリースした。9月には配信限定でファースト・シングル「POOL」も発表されている。
僕は前からトリップホップが好きで聴いていたんです。(市川)
■ジャケットをもらって最初に思ったのが、「うわーポーティスヘッドだなー」っていう(笑)。みなさん的に、いまポーティスヘッドなんですか? それとも3人の音楽体験の深いところにあるものなんですか?
川上輝(以下、川上):ジャケに関しては、音楽的なところとはあんまり関係ないかもしれないですね。
■でも何がしかの影響はある?
川上:影響はありますね。ありますけど、ジャケに関してはヴィジュアルでもう、かっこいいなと思いました。
桜木大悟(以下、桜木):どういうジャケットが好きか、って話し合ったときに、サード(ポーティスヘッド『サード』、2008年)がすごくいいなと。
市川仁也(以下、市川):最初に店頭に並んだときにインパクトがあって、かつシンプルなのがいいって思ったんです。ポーティスヘッドの「P」って書いてある『サード』はその点でずっと頭に残っていて、「こういうのもいいんじゃない?」って案を出して、そこからより膨らんでいって。
■ジャケットってひとつの勝負をするところでもあるじゃないですか? そこに自分たちを主張したくてたまらないってもののはずなのに、「Dだけ?」みたいな。ある意味では最強の主張かもしれないですけどね。メッセージとかスタンスを感じるいいジャケだなと思いました。
話を戻しますと、ポーティスヘッドって、いま来てる感じなんですか? それとももっとパーソナルなものです?
市川:僕は前からトリップホップが好きで聴いていたんですけど。
桜木:僕も仁也の影響で意識して聴くようになったんですけど、それはわりと最近。聴き直してますね。
川上:僕もです。
■リアルタイムじゃないですよね?
桜木:ぜんぜんちがいますね。僕らが生まれたくらい。
■ちょうど2、3号前の『ele-king』で、ブリストル特集をやったんですよ。ベースミュージックなんかを中心に、リヴァイヴァルのタイミングではあると思います。そういう時代感がどこかにあったりでもなく?
桜木:自然とじゃないですかね。音楽から抜けるというか、そういう流れとはまたちがうのが好きなんじゃないかみたいな。作曲をしているときにふと出てきて、「うわぁ、めっちゃこれじゃん!」みたいな。
市川:「いま何がやりたいんだろう? 自分たちがどんな音楽を作りたいんだろう?」って模索していたときに、「あっ、これ」みたいにビビっときて。まんまこれをやろうってやったわけじゃないんですけど。
川上:やっと理解できるようになったっていうところはあるかもしれない。まじめに音楽をやってきて、行き詰まって、「俺は何をやりたいんだろう?」って思っていたとき、そういうのを聴いたら「かっこいいじゃん」ってちゃんと認識できるようになったと思います。
ある程度やっていたんだけど、「これじゃないかもしれない……、この音楽をやる意味は何なんだろう?」みたいな。(川上)
■そんなに若いのに、もうすでに行き詰まりがあったと(笑)。私は、なんとなく自分と同じ世代なのかなという感覚で聴いていたんですけど、実際は皆さんとひとまわりも歳が離れているんですよね。しかも結成は去年でしょう? 同級生的な感じですか?
市川:僕と大悟が小学生からの同級生で。僕らはバンドを高1くらいからはじめて、そのときに輝と知り合ったんです。僕と輝はバンドを別で組んでいたんですよ。
川上:彼らの幼なじみで高校からはじめたバンドがふたつあって、その片方に仁也がいて、そのバンドのドラムが抜けて、たまたまそのとき僕が出会って入って、高校から大2くらいまでそのバンドをずっとやっていたんです。
でも、ある程度やっていたんだけど、「これじゃないかもしれない……、この音楽をやる意味は何なんだろう?」みたいな。
市川:先がないというか。
川上:奇をてらうことにバンドで徹していたというか……。
■たしかにそれは行き詰まりっぽいですね(笑)。ひとの名前を借りるのは嫌かもしれないですけど、だいたいどんな音楽をやっていたんですか?
桜木:ニューウェーヴでした。完全に。ポスト・パンク……ギャング・オブ・フォーとか。
■奇抜な格好をして冷蔵庫をぶっ壊したりとか?
市川:それはないです(笑)。フリクションっぽいのとかやっていましたね。
桜木:あとはナンバー・ガールとかザゼン・ボーイズとか。
川上:高校生のとき、ナンバガはみんなめちゃくちゃ聴いていた。
桜木:僕らの青春です。
■ポスト・パンクって、2000年代はじめに盛大なリヴァイヴァルがあったわけで、たしかに皆さんから遠い存在でもないかもしれないですね。しかるに桜木さんのバンドはどうなんですか?
桜木:もともとアジアン・カンフー・ジェネレーションとか、エルレ・ガーデンとかそういうのが好きで、中学生のときに音楽をはじめました。高校生のときもそのままの流れで、日本語ロックっていうのかな。そういうのをずっとやってました。
■曲もずっと作っていたんですか?
桜木:そうですね。くるりとかそういうのをマネしながら、やっていました。
■なるほど。D.A.Nはミニマルとも謳われていたりしますけど、そこにギターがすごく色を乗せるじゃないですか? エモーションというか、情緒というか。そのへんの感覚というのはきっと桜木さんなんですね。
桜木:はい。
■いざこの体制になったのは去年ということですか?
桜木:はい。去年の夏ごろだったような気がするんですけど。
■そうするとみんなで同じ方向を見ていたというよりは、もう少し偶然的にいまの音楽ができあがっていると。
川上:前にやっていたバンドが2年くらい前に同じタイミングで解散したんです。「このメンバーでやる意味」とかそういうことを考えてましたね。
■けっこう考えますね。
川上:この音をこいつが出してるみたいな。そのあたりの信頼関係が揺らいでいたというか。「こいつが出している意味があるのか?」とかって考えていたから。それで話し合って解散して、1年くらいひとりでやったりとか、他のバンドで活動したりもしてました。そういう考える時期があって。それで大3くらいに、結局バンドをやりたいってなったんです。そしたら6人くらい集まったんですよ。
市川:去年の1月とかですね。
川上:そこでまた直面したのが、やっぱり音が多すぎるってことで(笑)。いままでとはまったくちがう面白いことをやりたかったから──ドラムがふたりいたりとか。
桜木:当時はツイン・ドラムが流行っていたんです(笑)。パーカッシヴなものを作りたいという意味でツイン・ドラムだったんですけど。ポーティスヘッドとかもいるじゃないですか? レディオヘッドもそうだし。トクマル・シューゴさんも普通にドラムを叩いてましたから、それに影響されて「いいんじゃない?」みたいな。
音楽をずっとやっていきたいって気持ちがあるからこそ、話し合いが何回もあったと思います。「自信を持っていいものを作るには、お前とじゃない。他のやり方が合っているんじゃないのか?」みたいなのを。(川上)
■なるほど。いろんな試行錯誤があったと。
川上:がっつりふたりともドラマーだったから、音がぶつかり合いまくって(笑)。お互いすごく気を使わないといけないというか、どこまでやっていいかわからないので……。それを考えている時点で前といっしょだな、みたいな。その時点でもう自由にのびのびと創造できないというか。そんなこんなで3ヶ月くらい曲ができなくて。それが去年の1月から4月くらいにかけてですね。もう、ずっと「どうする?」って話し合って。
桜木:いわゆる産みの苦しみとは別で、幼なじみだったので変な情とかもあったし。抜けていった3人のうちふたりも小学校からの同級生で、「何かちがうな」と思ってもはっきり言えないんですよね。言えないわけじゃないんですけど、情が介入していたというか……。
■6人もいれば、なんというか、それはもう社会ですもんね。サステナブルなものにするのは難しいですよね。
川上:それで踏み切って、7月に「もうさすがに決めよう!」ってデッカい話し合いがあって。
■その話し合いのエピソードもそうですけど、けっこうコンセプトをカチッと固めてるバンドだなって感じまして。一瞬、「なんとなくやってます」とか「意味とかないです」みたいな、そういう態度がこのアンビエントでダウナーな音楽性のうしろにはあるのかなと感じるんですけど、実際すごく決められている。
たとえば資料の文言──「このドライな3人で、無駄のない柔軟な活動を目指す」とか(笑)。
川上:それ僕が書きました(笑)。
■「いつの時代でも聴ける、ジャパニーズ・ミニマル・メロウを追求することをテーマにする」とか。
川上:それっぽく書いたんですよ(笑)。
■いやいや、そういうのって「べつに何も考えてないですよ」って言うのもアーティストのひとつの態度じゃないですか? それに対して、このゴリっと考えてる感じが新鮮だったというか。コンセプチュアルなバンドなのかなと思ったんですけどね。
桜木:これに関して言えば、野心が全面に出てます。
■すごくいいことなんじゃないですか。ロックなんてけっこう伝統的にみんなうつむいてたし、インタヴューなんて「はっ?」みたいなところがありましたけども。でも、ギラギラしてないのにしている感じが(笑)。
川上:音楽をずっとやっていきたいって気持ちがあるからこそ、話し合いが何回もあったと思います。「自信を持っていいものを作るには、お前とじゃない。他のやり方が合っているんじゃないのか?」みたいなのを、みんなうすうす感じていて、3人になる前に、それをはっきりと言おうという話し合いが最後にありました。本当に食っていきたいって思っていたので。
■そういう意味での野心ですか。ちょっと意地悪な質問をあえてすると、皆さんが本当に「ドライで無駄のない柔軟」なひとたちだとすれば、そう言わないと思うんですよね。これはそうでありたいという意思であって、実際は逆というか、ぜんぜんちがうみたいな意識があったりします?
桜木:ものすごく熱いです、自分。
ゴチャゴチャしてたりとか、あったかい音楽とか大好きですけど、自分たちが音楽をする上での美意識っていうのをひとつ決めてやっているんです。(桜木)
■ぜんぜん冷たくないんだ(笑)。
市川:6人のときの苦い経験があったので、ドライに、本当にいいものを作るために、同じ方法論でやるために、という意識というか。
川上:そう言っておいたほうがいいと思うんですよ。その謳い文句を。本当にそう思うし。
■それは自分たちにとって?
川上:外からの見え方とかそういうものを考えると。
■なるほど、戦略的な部分でもある。……なんか、ロック・ヒーローとかってどっちかというと「ウエットで無駄が多くてガチガチに凝り固まっている」ものだったりするじゃないですか(笑)。そういうのは自分たちのクールとはちがう感じなんですかね?
川上:その譬えから考えると、本来の姿はそうであるけど、言っているのはそれ(ドライで柔軟で無駄がない)だったらよくないですか?
■あー、ギャップがある方が?
川上:それが逆だとなんか……
■「熱い」と言っているのに「冷たい」みたいなやつよりもってことですか(笑)?
川上:そうですね。それが逆だとなんか変じゃないですか。
桜木:ゴチャゴチャしてたりとか、あったかい音楽とか大好きですけど、自分たちが音楽をする上での美意識っていうのをひとつ決めてやっているんです。
川上:かなり幅広く書いているつもりですね。
■音楽的な部分以外でも?
市川:ジャンルをまたぐっていうだけじゃなくて、姿勢もというか。こういう姿勢も持っているというのを出して。音楽というのはそのときの趣味もありますし、変わっていくものだとは思うんですけど。
■あとは「スーパー・シャイ」みたいなことも標榜されていますけれども(笑)。「あ、シャイであることっていまはカッコいいんだ!」みたいなことを感じましたね。
桜木:それは、この缶バッチ(「Super Shy」と書かれたバッジ)からとったんですよ。
■あ、そうなんですか? どれどれ……そのまんまじゃないですか!
桜木:これ古着屋さんに置いてあったやつで。
■えー。でもグッときましたよ。自分たちを「スーパー・シャイ」だと思います?
川上:それは何も考えないで決めたので、突っ込まれてもって感じですね(笑)。
■本当ですか? シューゲイズとかって、あのクツ見つめる感は、シャイっていうんじゃなくて、コミュニケーションをシャットダウンする感じじゃないですか。けど、シャイであるならば繋がれる可能性がある……ビールを飲んだりとかすれば(笑)。そういう、拒絶じゃない熱さみたいなものはどこかに感じます。
桜木:ただ、ビールというものは、いろんな言葉に置き換えられると思うんです。音楽もそうだし、何かのきっかけとかアクションだけで「スーパー・シャイ」から解き放たれるというか。
■ペダルを踏むみたいな感じで。
桜木:僕はそういうふうに解釈していますけど、そんなに深い意味はないですよ。後付けですから(笑)。
■いやいや。そうだったとしても、つい深読みたくなるのは、音楽にそれだけの厚みがあるってことだと思いますけどね。それに、それぞれのコンセプトも提起的ですよ。いろいろ語りたくなってしまう。
どこかしらウォー・ペイントだったり、ポーティスヘッドだったりジ・XXだったりとかに似ているもの出てきた、みたいなことはあります。でもそれは、「これはカッコいいよね」って出てきたものが、結果的に似てたって感じですね。(市川)
■さて、好きなバンドにウォー・ペイントの名も挙がってましたけど、すごくそれも感じますね。
桜木:ウォー・ペイント大好きっす。
川上:超好き。ちょうどいいところをホント突くんですよね。
■めっちゃくちゃわかります。でも不思議じゃないですか? ウォー・ペイントって日本でそこまでは盛り上がっていなかったし。
市川:僕らホント好きですよ。一時期ずっと聴いていました。
川上:「自分たちと同じじゃないか」って勝手に思ってます。
■私もすごく好きなんですけど、D.A.N.はめちゃくちゃウォー・ペイントだと思いました。
川上:ウォー・ペイントが日本人だったらぜったいに話が合うと思います(笑)。
■日本にはD.A.Nがいるからウォー・ペイントはいいか、というくらい、似たものを感じますね。ウォー・ペイントって、なんの時代性も象徴していないというか。ひたすらいいバンドなんですよ。だから真似するときに「チル・ウェイヴです」、「フットワークです」とかならマネしやすいですけど、「ウォー・ペイント」ですっていうのは難しい。本当に好きなんだなと思いましたね。
川上:ウォー・ペイントを特別に意識しているとかはとくにないですね。「これだ!」という感じに決めていることはないというか、決められたくはないというか。何にでも溶け込むものでありたいので。
市川:曲を作っているときでも「これよくない?」ってなって作っていくと、そこにどこかしらウォー・ペイントだったり、ポーティスヘッドだったりジ・XXだったりとかに似ているもの出てきた、みたいなことはあります。でもそれは、「これはカッコいいよね」って出てきたものが、結果的に似てたって感じですね。
■きっと彼女たちもそういうモチヴェーションなんだろうなって思うんですよね。うしろにジョン・フルシアンテがいたりするじゃないですか? ああいうちょっとしたギターのテーマみたいなものが、ときどき聴こえる感じとか──「冷たいけど熱い」みたいなところも似てるかなと思うんですけどね。
自分たちのなかの「熱さ」についてもうちょっと聴きたいんですけど、どのへんだと思いますか?
川上:精神的な部分だけど熱さはありますよ。僕はサッカー選手をとてもリスペクトしているので。すごく学ぶことが多いです。
■えっ、そうなんですか!
川上:姿勢についてとか、「音楽をやっているひとたちはみんな見習った方がいいんじゃないか」って思います。やっぱり彼らはつねにサヴァイヴァルなので。
■そうですよね。チームの戦いという意味ではなくて個人のという意味ですか?
川上:はい。チームとかはバンド全体のことになってきますよね。いろんな部分で似ていると感じるので、僕は音楽とサッカーがイコールだなと思っています(笑)。本気でそう思ってます。
市川:僕は自分がいいと思えるものを作るっていうところです。そこをとにかく追求していきたいし、そこができないならやっていても意味がないし。……音楽が本当に好きなんで。そこだけは絶対に曲げたくないというか。まずいいものを作るっていうところです。
川上:お互いをリスペクトしながら高め合える3人でやっているのがこの音楽ですから。そこはつねに基本ですよね。
[[SplitPage]]メンバーの中の想像を超えたいんです。ベースだったらベースで。(市川)
D.A.N. EP SSWB / BAYON PRODUCTION |
D.A.N. POOL SSWB / BAYON PRODUCTION |
■バンドのなかでそれぞれご自身が何かいいものを作るっていうときに、具体的な行動としてはどういうことになります?
市川:ケミストリーを見せるというわけじゃないですけど、3人が集まって、いいところが出て、それがかけ合わさったときに、想像もできなかったようなものができて──それをいろんなひとに聴いてもらいたい。そのためにメンバーの中の想像を超えたいんです。ベースだったらベースで。最初大悟がひとりでデモを作るんですけど、そのときに大悟が想像しうるベースを弾いても意味がないというか……。そこの想像を超えて、かついいものじゃなきゃダメだと思っているし。でもつねにそこで納得できないというか、ずっと追求しながら作っています。
■めっちゃうねりますよね、ベース。冷たいなかの熱さって言ったときに、あのうねりは熱さの要因のひとつかなって思いますね。あの感じは、自分の好きな音楽が出てきている感じですか?
川上:そうですね。個々のパートは自分で考えてます。だから本当に3人で曲を作っていると思います。
桜木:いちばん重要なのは歌ですね。
■歌を最初に持ってくるんですか?
桜木:曲によるんですけど、基本は歌だと思ってます。
■そこは信念がありそうですね。熱いところっていう質問についてはどうですか?
桜木:熱いところが僕はわからなくて。
川上:すべてに情熱を注いでいる気持ちはあるので、どこがどうっていうのはないかな。
桜木:でも、じつは僕は自分のことをめちゃくちゃ冷たいと思っていて。
■パーソナリティがってことですか?
桜木:そうです。
■安直に評価するわけではないですけど、さっきおっしゃっていた昔好きだったというバンドは、どちらかというと熱い気もしますね。それは自分の冷たさが逆に呼び寄せるようなものだったんですかね?
桜木:うーん、熱さ……、難しいですね。
■たとえばドリーム・ポップだと、ベッドルームなんかがその背景になっていたりしますよね。でも、対するにこのアー写なんかは、すごくストリート感があります(※冬の涸れたプールで撮影されたもの)。
D.A.N. - POOL
でも、ストリートじゃなくて「そうかぁ、プールかぁ」と思って。ここにはすべてがある、ってくらいいい写真だと思いました。……で、これだって冬っぽさとプールっていう冷たいものの掛け合わせなのに、やっぱり先ほどからのお話も実際の音も、ただ冷たいっていうんじゃ説明できない熱を感じるんですよね。
音について言えば、削ったり、引き算したりっていう考え方なんですよ。(川上)
川上:音について言えば、削ったり、引き算したりっていう考え方なんですよ。ひとつひとつ音が重なっていく感じは熱さかもしれないですけど。エモさとか。ひとつひとつ音が増えていって、じりじり上げていく感じは。
桜木:アンサンブルが感情のコードというか重なりというか、それで自分の内面が高まったりするから。
川上:そこから音がひとつだけになるところとかも、繊細なものだというか……、ひとつひとつの音に意味があるかどうかを突き詰めてやっているので。
桜木:冷たさとか熱さというよりも、どちらかというと静と動という気がする。静と動と緩急、緊張と緩和とか、そっちな気がする。
■すごく心象風景というか世界があるバンドだなって思うんですね。すごくファンキーな部分もあったりしながらも、黒さというものとは別ものというか。それもウォー・ペイントと共通するかもしれないですね。あの感じが好きで……。ボディが先にあるような音楽っていうよりも、なんか精神みたいなものに触れて美しいなって思う感じ。
それぞれがそれぞれのパートに責任を持っているというお話でしたが、持って来るのがメロディなんですか?
桜木:はい。自分です。
■そのデモを聴きながら、自分がどうアプローチするかを決めるんですか?
市川:はい。
■完成したデモを示すわけじゃないってことですね?
桜木:僕はぜんぜんそういうのが作れなくて、曖昧な状態で渡すことが多いです。
■そうするとこの3人だからこそ、意味のある繋がりのなかで音ができていくということですね。
川上:バンドってそうじゃないですか。
■──ということをさんざん感じたんですね。
川上:本当に感じました。全部指示していたら3人の意味がないのでね。
やっぱりひとりひとりがすごく独立した表現者なんですよ。(桜木)
■なるほど。D.A.N.って、バンドというべきかユニットというべきかわからないんですけど、ひとりのアーティストのような不思議な感触があるんですよね。バンドで3ピースっていうと、それぞれの役割も決まっていれば音楽のフォームまで想像できそうな感じですけど、そこがすごくアメーバ状ですよね。
桜木:やっぱりひとりひとりがすごく独立した表現者なんですよ。自分が全部曲を作ってデモを投げても、自分でどうアクトするかだと思うから、こういうふうに演じてくださいって与えたところで、自分が持っていたイメージとちがうものが出てくる。それがおもしろいと思えるふたりなんですよ。
川上:指示してやってもらいたいんなら、スタジオ・ミュージシャンを呼んでシンガー・ソングライターとしてやればいいだけの話で。
桜木:あと、いまサポートで入っている小林うてなも、自分が尊敬できるひとです。
■たとえば2曲めなんて、それこそリズム・トラックが曲のメインだとも言えるじゃないですか? ああいうのは川上さん的に、何を投げられて何を打ち返したものなんですか?
川上:感覚的に打ち返しているだけですね。
桜木:“ナウ・イッツ・ダーク”は弾き語りで作ったんですよ。
川上:歌はかなりフォークだったんですけど、すごく変わりましたね。リズムの最初の「ドッツカ」は、僕がこうしたいってあれをずっとやってて、つまんないなってなって、じゃあ途中から変えようっていう感じです。後半でBPMが上がるんですけど。あそこに繋げるための間のところはかなり悩みました。「ドンツクツクツクタン」が出てくるまでだいぶかかりましたね。まぁ、でも全部僕が出てくるまで何も言うこともなく、あーだこーだ「これはちがうな」みたいな。でも、ふっと「あっ、それだ!」っていうのが来る。それが来るまで、ずっとスタジオに入るまでです。
「ドンツクツクツクタン」が出てくるまでだいぶかかりましたね。(川上)
桜木:僕らの曲作りって、量だと思っていて、とにかくたくさん出して、やる。そうすると自分が想像できなかったものがふっと出てくるタイミングがあったりとか、「これなんじゃないか?」みたいな。
川上:質がいいものをやるには量を出すしかない。
■あ、ほらまた出た。熱さっていうか、体育会系ではぜったいないのに、体育会系思想が出てきた。……こだわってすみません!
市川:おもしろいのが、たとえば僕が曲を作っているときに、輝のドラムだったり、大悟のギターだったり、自分のベースだったり、曲の展開で「あっ、絶対にいまのだ」ってなってると、ふたりも同じことを思っていたりとか。
川上:でもひとりでもダメだったら通らないですけどね。
市川:いま作っているやつもかなり時間がかかってます。
■なるほど。フォークを解体するっていうのは、ひとつの本質的な特徴なのかもしれないですね。たとえば、よく比較されるYogee New Wavesとかって、やっぱりフォークのスタイルって一応しっかりとあるわけじゃないですか。でも、なんかそういうふうに日本語が乗っているわけじゃない。かと言って、どうでもいいですってわけでもなくて、ちゃんと日本語がきこえる。
そういうことって、先にあるものを崩すところから生まれてくるのかなって感じもしましたね。
市川:大悟が持って来た曲のイメージとかを、みんなでまずはバラバラに解体して、それから再構築。
川上:けっこう曖昧だから、やりながら固まってくるみたいな。みんなで徐々に同じ方向に向いて来るみたいな感じですよね。性格も出ているでしょうね。パッと出してじっくり考えるみたいな。いろんなパターンも試すし、そういうのをやっているからこそ、予想だにしない展開も生まれると思います。
市川:セッションとかして、「いまの感じいいじゃん」ってなったときも、いったん大悟が家に持ち帰って曲に対するイメージみたいなものをつけて、またスタジオに持って来てみんなで聴いて。
川上:そこからまた考えるけどね(笑)。
市川:で、またそれを崩して、組み立てて。
川上:そうやってみんなが考えているって気持ちがあるんですよ。3人で戦っている感じがあって、俺だけで戦っているって感じはないですね。
3人で戦っている感じがあって、俺だけで戦っているって感じはないですね。(川上)
■バンドだから、ひとつにはアンサンブルっていう戦い方があると思うんですけど、皆さんにはもうちょっと、曲とかコンセプトっていう戦い方を感じますね。
川上:技術だけあってもぜんぜんよくないじゃんっていうのもたくさんあるし、そういう問題じゃないと思うから。
桜木:技術に関しては、それは手段だから。それよりは目的が最優先で。
■そのあたりは、ミュージシャンシップというよりは、もっとアーティスト性みたいなものを感じさせるバンドだなって思います。
せっかくいま歌詞の話も出てきたので、お訊ねするんですが、「ジャパニーズ・ミニマル・メロウ」と謳っていますけど、ここで「ジャパニーズ」ってわざわざ言うのって、みなさんにとって大事なことなんですか?
川上:「ミニマル・メロウ」をオウガ(・ユー・アスホール)さんが先に言っていまして、「先に言われた!」っていうのが僕たちの中にあったんです。
桜木:まさに僕らのもやもやを簡単に形にしてくれたと思って。
川上:「作品のインフォメーションを作るから何か送って」って言われて、僕たちは「ジャパニーズってつけるか」って思って。まぁ、日本語で歌っていることは意識していると思います。
もともと僕は、D.A.N.をはじめる前からずっと、海外でライヴをしたいとか生活をしたいとか、世界規模で音楽をやりたいと思っていたんですよ。(桜木)
■1曲めとかはクラウトロックっぽい反復性はありますよね。どちらもイメージ的に近くはないですが、共通性があるのかもしれないですね。……しかし、「先に言われた感」があったと。
桜木:すごく悔しかった。
■なるほど(笑)。皆さんの音楽って、とくに邦楽って感じでも洋楽って感じでもなくて、すごく自然に海外の音楽を聴いてきた経験が溶け込んできたものだなって感じるんですよ。だから、なんでそういう言い方をわざわざするんだろうなって。ということは「ジャパニーズ」ってことにこだわりがあるのかなと、ちょっと思ったんです。
桜木:もともと僕は、D.A.N.をはじめる前からずっと、海外でライヴをしたいとか生活をしたいとか、世界規模で音楽をやりたいと思っていたんですよ。YMOとかもリスペクトして。自分のその日本人っていうアイデンティティがなければ、どんなに海外志向なサウンドを出したところで外国人からしてみたら、「そんなのいくらでもあるじゃん?」って思われちゃうというか。
■シニカル。でも、そうですね。
川上:だからこそ、日本人としてのっていうところを大事にしたい。
桜木:たぶん、日本人が無理に歌う英詞って、あっちのひとにしたらすごく気持ち悪いと思うんですよね。だったら素直に日本語で歌った方がおもしろいじゃんって思う。
■ある意味ではすごくイエロー・モンキーであるということを、自覚し過ぎるくらいしてるんですかね。
市川:表現的にも、英語と日本語どっちが喋れるといったら日本語だと思って。だったら日本語で表現した方がより伝わりやすいし、自分が思っている表現ができる。
川上:自分たちも意味を感じながらできるし。
自分の歌詞はサウンドがいちばん大事で。(桜木)
■D.A.N.をパッと聴いたときに、いかにも英語で歌っていそうな感じじゃないですか? そんなことありません?
桜木:もともと僕は英語で歌っていたんです。
■そうなんですか。その詩は誰が?
桜木:自分でデタラメな英語を書いていたんですよ。それがすごく恥ずかしかったというか、自分は何をやっているんだってなりました。これじゃ意味ないって。
■といって、意味とかメッセージ性を押し出すものかといえば、ぜんぜんそういうフォーク性もないしね。
桜木:自分の歌詞はサウンドがいちばん大事で。言葉の響きだったりとか、イントネーションとかリズムとか、サウンドに寄り添う形で。それがいちばん重要なんですけど。あとは耳に入ってきたときに、おもしろいワードだったりとか、そういうものを意識してます。ただ、歌詞に関しては自分はまだ冒険中というか。
■歌詞ではないですけど、1曲めはギンズバーグを引用していますよね。あれはビートニクへの何かしら思いがあるんですか?
桜木:僕はYoutubeで見ていてサンプリングしたんですけど、あれはリズムがおもしろかった。だからなんとなくサンプラーに入れてて、スタジオでセッションしているときに、適当に流したらおもしろかったから使った。
川上:あの曲は最初にビートができてギターが乗って、「あたまに(リーディングを)入れたらおもしろいんじゃん?」ってなって流して。
桜木:ちょっとポエトリー・ラップみたいなのもおもしろいなと思って。ビートと言葉の揺らぎがいいと思ったから。
市川:あのことばの意味を出したいというよりは、言葉のフローじゃないですけど、流れがいいねってなって、決まっただけなんです。だから、わざわざ意味として主張したいものはないですね。
■なるほど、あれはビートなんですね。ビートニクというより(笑)。チェコかどっかのライヴ音源みたいですけど、わたしもあの詩をぜんぜん知らなくて、でも「ガーナ」って曲名でしょう? これって何なんだろうと思って(笑)。
川上:「ガーナってどうよ?」って言ったら「いいじゃん。響きおもしろいね」みたいになって(笑)。
桜木:曲名はあだ名なんです。
川上:曲名はみんなでぽっと決めますね。
■なんかすごくコンセプチュアルなのに、そこはすごい感覚的っていう(笑)。いいですね。
川上:僕はアフリカといえばガーナだと思ったので。
市川:“ガーナ”の音は土着的だし、「ガーナっぽいね」って言ってたらガーナになりました(笑)。
■カンみたいなのがありつつ、ガーナで、チェコでビートニクみたいな(笑)。
桜木:ガーナって言っている前はバスキアって言っていたんですよ。それで、「バスキアってタイトルは恥ずかしい」と(笑)。
■あはは!
川上:セッションの終わりくらいに、バスキアって呼ぶのが恥ずかしくて、仮でガーナって呼んでいたらガーナになった(笑)。
人生、楽しいですけどね。(市川)
■その柔構造がいいですね。個人的には、曲がメッセージを発しているとお説教を受けているみたいな気持ちになっちゃうので、いやぁ、なんて心地よい詰まりすぎない音楽なんだろうって、D.A.N.にはすごく思うんですよね。そういうひとたちなんでしょうね。
川上:そうだと思います。
■世代で括る気はないんですけど、一応ゆとりと言われているひとたちよりもちょい下ですよね。
桜木:がっつりゆとりです。
川上:さとり世代って言われているんだよね(笑)。
市川:人生、楽しいですけどね。
■日本がこのあと右肩上がりになることなんて絶対にないってわかっているんだけど、最初からそういうところに生まれたからわりとハッピー、みたいなね。
桜木:そういう意味か。なるほど。
川上:「恵まれてる国だから」みたいなとこですよね。
■そうそう。私もそういう雰囲気はすごくわかるので、なるほどなと思うんですけど。
さて、このバンドにおけるソウルってところも訊きたかったんですけど、ヴォーカルとかもソウルフルに思えて、じつはあれは黒いって感じじゃないですよね。むしろトム・ヨークとかね、あのファルセットはそういう感じがするんですけど。なんか原点にファンキーなものとかソウルなものとかあるんですか?
川上:いろいろ好きなんですけどね。
桜木:ファルセットですか?
■新しいR&Bの流れとかもあるじゃないですか?
桜木:うん。それはものすごく影響を受けてます。
■なるほど。
川上:ディアンジェロの歌い方とかね。
■音楽はどこで買っているんですか?
桜木:友だちのパソコンからデータでもらっているかな(笑)。
川上:彼はけっこう掘ってる。
■レコード屋さんとか行きますか?
桜木:僕がわりとふたりに流していることが多いかな。下北沢のオトノマドってレコード屋さんとかですね。
■どういうものが置いてあるんですか?
川上:「見たことねぇ!」みたいなのばかりでおもしろい。
桜木:フォークとかもあるし、ソウルやファンクもあるし。フュージョンとかジャズとか、ブリストルとか。あとエレクトロとかアンビエントもあるし。クラウトの実験的なものだったりとか。中古もあるし、新品もあるし。
市川:セレクトショップみたいなね。
桜木:そことかはわりと見たりしていますね。あとは友だちに「最近何を聴いてんの?」って聴いたりとか、そういうのですね。
■なるほど。やっぱり根本はインディ・リスナーなわけですね。そしてそういうところに、D.A.N.も置かれる音だと思いますよ。アルバムも楽しみにしています。