「Ord」と一致するもの

Sound Patrol - ele-king

夏といえばダンスの季節です。いくつか注目のシングルをピックアップしてみました。ワクチン接種が進んでいるUKでは来週19日からクラブが通常営業を開始するとのことですが(問題なきことを切に願います)、たとえ緊急事態宣言下であっても、ダンス・ミュージックはいつだって我々にとってのエネルギー源であり、かけがえのない音楽なのです。

Overmono - BMW Track / So U Kno Poly Kicks

https://overmono.bandcamp.com/album/bmw-track-so-u-kno

TesselaとTrussによる期待の兄弟ユニット、オーヴァーモノ(https://www.ele-king.net/news/008102/)によるニュー・シングル。彼らの才能は、“BMW Track”を聴くとよくわかる。音数少なめのブレイクビーツ・テクノによるリズムの格好良さ。ダンサーたちを魅了すること間違いない。早送りのヴォーカル・サンプルを使った“So U Kno”に至ってはレイヴの季節にぴったり。よし、踊るぞ(どこで?)。


Eomac - Cracks Planet Mu

https://eomac.bandcamp.com/album/cracks

ベルリンからアイルランドはダブリンに移住したプロデューサー、Eomacによる〈Planet Mu〉からのアルバム。内省的で、じつに多彩な内容だが、とにかく、“What Does Your Heart Tell You?”という曲を聴いてほしい。素晴らしいでしょう?


LSDXOXO - Dedicated 2 Disrespect XL Recordings

https://lsdxoxo.bandcamp.com/album/dedicated-2-disrespect-ep

フィラデルフィア出身ニューヨークからベルリンへ、LSDXOXOによる〈XL Recordings〉からの一撃。ボルチモア・クラブおよびゲットー・ハウスの猥雑さとパワーを咀嚼した4曲入り。まずは“Sick Bitch”でも。ダンスフロアの次期スターは彼か?


One Bok - Zodiac Beats Volume 1 & 2 AP Life

https://aplife.bandcamp.com/album/zodiac-beats-volume-1-2-003

〈Night Slugs〉で知られるBok BokによるOne Bok名義でのEPで、グライム、トラップ、ドリル、ダブ、ベース・ミュージックの混合。ダンス・ミュージックだが、この虚しい夏にはぴったりの荒涼感覚が見事で、家でリスニングも楽しめる。


RP BOO - All My Life. Planet Mu

E王


https://soundcloud.com/rp_boo/all-my-life

RP BOO9月リリース予定のニュー・アルバムからの先行曲(配信で購入可)。シカゴのフットワークの重鎮、オールドスクールを意識しつつ、ディープ・ハウスに接近か。これはもう、アルバムを期待しないわけにはいかないでしょう。


Jon Dixon - The New Tomorrow EP Visions Inc

https://visionsrecordings.bandcamp.com/album/jon-dixon-the-new-tomorrow-ep

デトロイトからはアンドレスの新譜(Sweetest Pain / Sweetest Moaning)も良かった。しかし、ここはGalaxy 2 GalaxyやTimelineの鍵盤奏者でもあり、ハイテック・ジャズ・テクノのプロデューサーでもあるジョン・ディクソンの最新シングル、ソウル・ミュージックとしてのテクノをどうぞ。落ち込んでばかりの毎日でも、なんかやる気にさせます(何を?)。

Isayahh Wuddha - ele-king

 去る2020年、『urban brew』で鮮やかなデビューを飾った京都のシンガーソングライター、イサヤー・ウッダ。年末にはセカンド『Inner city pop』を発表、そして来る8月11日には早くもサード・アルバム『DAWN』をリリースする。ちょっと早すぎない? で、今回は果たしてどのような展開を見せているのでしょうか? 気になる方はぜひチェックを。

2020年代のポップ・アイコン=イサヤー・ウッダ 夜明けの3rd アルバムリリース!

京都在住、2020年5月英国WOTNOTから1st アルバムをリリース。暮れの12月には2ndアルバムリリースと破竹の勢いの鬼才SSWイサヤー・ウッダ、早くも3rdアルバム降臨。
超ポップさはそのままに、マインドフルネスなアンビエント要素が霧の様に全体を包み込んだ至高のトリップサウンド。観たままに善悪全てを肯定する気狂いトラップ風 “SAY” や、牧神の午後的変態ヒップホップ “RIPPLE” 等全9曲。
聴きどころ満載の新しい『DAWN』(夜明け)、ドーーーンッと登場!!!

本人によるコメント:
コロナが世界中で猛威をふるう事で、今まで隠されていた人間の本性、
悪や善のようなものが顕わになってきたと思います。人間の活動が停滞することでスモッグが減り、
川や空気の汚染が軽減されたことは好ましいことでした。
私はそういったもの善悪全部ひっくるめて肯定しました。
そして居なくなった猫について思いをはせました。
また2004年にイラクで人質になり殺されたバックパッカーの青年について、
私は忘れないと約束していました。人間は利益の為に自然を破壊するし、
利権やお金の為に戦争も起こす。動物たちの方がよっぽど尊い生き物だと思っていました。
しかしこの数年でその考えは変わりました。どうでも良くなったのです。
なぜなら私たち人間は、植物や虫、動物、地面に落ちている石と変わらない存在なのだと気付きました。
すべては同じで、それぞれがそれぞれの使命を持って存在しているように思います。
だから私は音楽を生み出しているのです。
(Isayahh Wuddha)

レーベル:MAQUIS RECORDS
アーティスト名:ISAYAHH WUDDHA
作品:DAWN
イサヤー・ウッダ / ドーン
発売日:8月11日(水)
品番:MAQUIS 011
定価:¥2000+tax

TRACK LIST
01. ES
02. STILLLIFE
03. SUMMIT
04. RIPPLE
05. SAY
06. HIGHER
07. YOUMAKECRY
08. SPACEDRIVE
09. HOLDONME

PV : https://youtu.be/8yvX2LWmVEI

プロフィール:

Isayahh Wuddha / イサヤー・ウッダ
京都在住の鬼才 密室ドラムマシーン・ソウルSSW。ヴィンテージ・カセットテープMTRにて制作された楽曲は中毒性あるビートと浮遊感あるメロディで聴くものをインナー・トリップの世界へ導いてくれる。英DJジャイルス・ピーターソンのラジオでプレイされ、ミュージック・マガジン 2020年9月号 特集「日本音楽の新世代 2020」 の10組に選出される。また2020年12月にリリースした2nd album『Inner city pop』はele-king Vol.26 の「ベストアルバム2020」にてベスト5に選ばれた。
未だ所在不明なサイケデリック・ヒップホップを響かせながら、2020年代ポップ・アイコン最有力アーティストである。
現在までに1st album『urban brew』(2020年 流通:WOTNOT)、2nd album『Inner city pop』(2020年 流通:ULTRA VYBE)、1st single『I shit ill』(2021年 流通:JETSET)をリリース。

Mustafa - ele-king

 アルバム・タイトルの「煙がのぼるとき」は、ムスタファことムスタファ・アーメドが属しているラップ・クルーであるハラル・ギャングの一員であったスモーク・ドーグが銃撃に巻きこまれて死亡した出来事に由来している。トロントの公営住宅で貧しさのなか育ったアーメドにとって暴力と死は日常であり、幼馴染や仲間がいつ死ぬか怯えて暮らすことでもあった。その悪い予感はいくつか現実になり、アーメドは仲間たちに哀悼の詩を詠み、このアルバムは生まれた。
 ムスタファ・ザ・ポエットの名で10代の頃からストリートで過酷な日常についての詩を発表していたアーメドは、同郷カナダのドレイクにフックアップされ、ザ・ウィークエンドの楽曲への参加などで少しずつ知られるようになり、シンガーとなったリリシストである。24分弱しかないこのデビュー・アルバムにはアコースティック・ギターやピアノがすすり泣くようなバラッドが8曲収められている。そこには仲間たちの死の記憶と悲しみが横溢し……アーメドは自身の音楽を、「インナーシティ・フォーク・ミュージック」と呼んでいる。貧しさのなかで多くの男たちがギャングになっていくような環境のなかで、アーメドはジョニ・ミッチェル、レナード・コーエン、そしてリッチー・ヘヴンズの影響を受け、フッドの日々をフォーク音楽に昇華したのである。
 フォーク・ミュージックと言っても、ジェイミーXXジェイムス・ブレイクの参加に象徴されるように、本作にはおもに音響処理において2010年代のエレクトロニック・ミュージックの手法が入っている。多くの論者が「ゴーストリー」と呼んだ初期ジェイムス・ブレイクの音響はオリジナル・ダブステップに由来するものだが、だとすれば、ダブステップにおいて暗喩的に「都市の亡霊」と呼ばれたサウンドはこの『When Smoke Rises』にまで繋がり、ついにメタファーではなくなったと見なすこともできる。アーメドにとって、本作のなかで息をしている死者たちは紛れもなく具体的に顔のある者たちのことだからだ。彼が「あまりにパーソナルでアルバムには入れないと思っていた」という “Ali” はアルバムのハイライトのひとつだが、そこでは、命の危険があるから街を離れるよう友人に懇願したアーメド自身の記憶が綴られている。「お前は街を去るべきだったんだ/俺はお前に行くように言ったんだ/安全じゃないとお前に言っただろう」。だがアリは死に、アーメドはむせび泣くように、祈るように歌を捧げることしかできない。

 しかしながらアーメドの個人的な記憶は、世界で起きていることと無関係ではない……もちろん。穏やかなアコースティック・ギターの演奏とムスタファの柔らかい歌声が寄り添う “Stay Alive” は、故郷のリージェント・パークが再開発で変わりつつあることが背景にあるという。「これらのすべての罠、これらのすべての道路標識は、お前のものでも俺のものでもない/だけど俺がお前の帝国になるから/だから生きて、生きて、生き延びてくれ」──あまりに感傷的な歌と言えばそうだが、そこにはジェントリフィケーションと経済格差によって破壊されゆく都市の風景が映りこんでいる。
 もうひとつ興味深いのは、アーメドにとってギャングスタ・ラップはギャングたちの日常をリアルに描いているという意味でつねに重要なものだったそうだが、ピッチフォークのインタヴューによれば、スフィアン・スティーヴンスの『Carrie & Lowell』がもういっぽうのインスピレーション元になったということだ。同作はスティーヴンスが複雑な関係だった母親の死に際し彼女との記憶を美しい音の連なりへと封じこめたものだったが、アーメドも友たちの死をそのようにしたかったと。「犯罪歴しか残らない者たちの記憶を、自分は結晶化できないだろうか?」と考えたと彼は語っている。
 サンファとジェイムス・ブレイクが参加した曲はゲストの音楽性にやや引っ張られているところもあるが、それでもこれは、何よりムスタファ本人の内側から生まれたものだ。ギャングスタ・ラップの厳めしいリアリティと『Carrie & Lowell』の壊れそうな繊細さが結びついて、『When Smoke Rises』は聴く者の胸を締めつけるフォーク音楽となった。公営住宅の過酷な現実の当事者でない自分が、この音楽を聞いて悲しい気持ちになることにまったくの後ろめたさがないわけでもない。自分は友たちが銃弾に倒れるようなことは経験していないし、アーメドの背景にあるブラック・ムスリムとしての生き方について知識があるとも言えない。それでも「もしお前が許されなかったら?」と仲間の死後の苦しみを悲嘆する(イスラムの信仰を背景とした) “What About Heaven” が突き刺さるのは、これがいま、自分が生きている世界で地続きに起きている悲劇についての歌だと……彼の声を聴くと直感するからだ。バラッド(民衆の詩)として、彼の個人的な悲しみはコミュニティの悲しみとなり、やがて関係ないとされている場所で生きているわたしたちの悲しみとなる。だからこのアルバムは、あまり目を向けられることのない場所で死んでいった者たちへの、文字通りのレクイエムとして鳴っている。そこでは誰もが静かに涙を流し、癒えることのない痛みに浸ることを赦されるのである。

RP Boo - ele-king

 昨年の年末号でマイク・パラディナスが予告していたとおり、フットワーク初期の重要人物、シカゴのRP・ブーのニュー・アルバムが〈Planet Mu〉からリリースされる。タイトルは『Established!』で、9月17日発売。彼にとっては4枚めのフルレングスにあたる。
 同作より “All My Life” が先行公開中だが、いや、これがすばらしいトラックなのだ。こいつはアルバムも傑作の予感がひしひし、かなり期待できるんじゃないでしょうか。2021年の、絶対に聴き逃せない作品がまたひとつ増えそうだ。

interview with Koreless - ele-king

 コアレスとはいまから10年前、ジェイムス・ブレイクの次はこの人だと期待された、当時はまだ10代だったUKのプロデューサーである。あの頃はちょうど「CMYK」が出たばかりで、同時にマウント・キンビーやラマダンマンにも注目が集まり、じゃあ次は彼だろうと、デビュー・シングル「4D」を聴いた多くのリスナーが太鼓判を押したのだった。
 が、コアレスがベース・ミュージックに定住することはなかった。作品数こそ多くはないが、ひとつのスタイルに固執せず、自由奔放にリリースし続けている。なかでもとくに重要なのは、2013年に〈Young Turks〉から出した「Yugen」だ。もの悲しくも幽玄な音響を持つその「Yugen」もまた彼の才能を世に認めさせた作品で、今回のアルバム『Agor(アゴル)』の起点にもなっている。
 そもそも2011年のデビューEP1枚だけで、『ガーディアン』からは「ジェイムス・ブレイク、フォー・テットに続くのは彼だ」と紹介され、ジャイルス・ピーターソンからは「ほかの素晴らしいデビューと同様、将来も記憶に残るEP」などと讃辞を受けている。そんなシーンの寵児のファースト・ソロ・アルバムがこの度、ようやっとリリースされるとあればシーンはざわつき期待が高まるのも無理からぬことなのだ。しかも先行で発表された曲、“Joy Squad”は出色の出来とくる。

 もっとも『アゴル』には、こんなにも楽しそうな曲ばかりが収録されているわけではない。ウェールズ出身のロマン派による最初のアルバムに収録されたメランコリックなエレクトロニカ風の楽曲には、たとえば“ヨーガ”におけるビョークを彷彿させると言えばいいのか、オーガニックな響きを取り入れた叙情性に心が揺さぶられる。また、アルバムにはレイヴ・カルチャーの残響が断片化されてもいるようにも感じられる。どこまでも広がる牧草地帯、夜空の遠くからかすかに聞こえるダンス・ミュージック──1994年の夏、コーンウォールのレイヴに行き損ねたぼくたちはロンドンから西へ、羊たちが放牧されている一帯をどこまでも車で進んで、そしてコアレスの故郷、ウェールズにまで行った。山道を走ってすっかり迷子になり、ようやく辿りついた一軒のホテルでひと息入れてから眺めた星空は最高だったなぁ。
 『アゴル』は想像力を刺激する音楽であって、踊るための作品ではないが、ダンス・カルチャーの熱狂とも繫がっているようにも感じられる。たとえその音楽がアンビエントめいていたとしても、かの地のエレクトロニック・ミュージックがクラブ・カルチャーと乖離することはまずありえないのだ。しかしながら、ウェールズの田舎で暮らしながらバレアリックを夢見るというのは、まあ、あまりないことかもしれない……。我が道をいくタイプなのだろう。コアレスを名乗るルイス・ロバーツは、指定の時間よりも早く待機するような、天才と言うよりは謙虚で温厚なお兄さんだったと通訳の青木さんが彼の印象を教えてくれた。

学校の進路相談で、音楽プロデューサーになりたいと伝えたんだ。そうしたら先生から「それほど馬鹿げた考えはない」と言われたんだよ(笑)。

2011年にあなたが最初にリリースした12インチを東京のレコード店で購入しました。当時はダブステップ以降のベース・ミュージック全盛で、ぼくはBurialの次に来るような音を探していたんですが、Korelessの「4D」にそれを感じたからです。しかしあなたはその後、ベース・ミュージックとは別の方向に進みましたよね。あなたは自分の音楽の進むべき方向性についてどのように考えていたのでしょうか?

K:素敵な質問とコメントをありがとう。僕は同じことを1回以上やるということが得意じゃないのと、自分がこれから何をやるのかということが先にわかっているとすぐに飽きてしまう性分なんだ。だから自分が続けられる音楽制作のやり方は、自分がイメージしている音を作り出すのではなくて、何かしらの疑問や問いからはじめる。その疑問は技術的なものかもしれない。例えば、「このツールを極限まで使ったらどうなるんだろう?」とか。その過程で何か素敵なものが見つかるかもしれないし、「こんな曲を作ったら面白くない?」と自分に問いかけて、ただのジョークで終わることもある。
 もしくは、夜、何も考えずに何かを弾いてみるというときもある。そういうやり方をしているから僕の音楽は変わり続けているんだと思う。一度何かをやると、もう一度それをやるのが僕にとっては難しいことだから。つまらなく感じてしまうんだよ。だから音楽を作ることはゲーム感覚でやっていて、いろいろと探ってみたりしながら軽い気持ちでやっている。深く考え抜いてやっているわけじゃないんだよ。

あらかじめ求めているサウンドがあるというわけではないのですね。疑問からはじまって、それがどこに向かっていくのか様子を見ると?

K:最初から自分はこれを作りたいと思って制作をはじめても、決してその通りにはならないし、僕はすぐ飽きてしまうんだよね。でもゲーム感覚で制作をしていると、物事に対してもっとオープンになれる。だからどんなものができるかやってみて、予測していないことが起こっても、それはそれでよしとする。だから今回のアルバムの曲も同じようなサウンドの曲がひとつもないんだと思う(笑)。

ほかの仕事で忙しかったんだと察しますが、それにしてもアルバムを出すのにこれだけ(10年)かかった理由には、あなたがアルバムに関して慎重だったことが影響しているんじゃないのでしょうか? そして制作に費やす時間も必要だったと。

K:時間がかかった要因はいくつかある。アルバムを作りはじめたタイミングも比較的遅かったし、そもそもフル・アルバムを作るという予定がなかったからね。アルバムの曲のうち半分は、長い時間を要し、もう半分は2ヶ月でできた。最初の頃長い時間がかかったのは、「Yugen」をリリースした後だったから、すごくいいものにしなくちゃいけないと思って、自分に強いプレッシャーをかけてアルバム制作をしていたから。そう、ノンストップで、ものすごい量の楽曲を作ったんだ。すべてのトラックにつき何百ヴァージョンも作ったりしてね。で、数年後ニューヨークまで行ってポール・コリーという人とアルバムの音源をミックスしたんだけど、そこでアルバムは完成したと思った。自分のなかで祝杯を挙げていたくらいに。「Yugen」の4年くらいあとの話だよ。
 でもそのあとに、やっぱりアルバムは完成していないと思ったんだよ。アルバムには何かが欠けていたし、曲によっては強烈すぎるのもあった。だからやり直したんだ。この時点で僕はかなり落ち込んでいてね、すでにかなりの時間をかけていたからね。でもそこから2ヶ月で、“White Picket Fence”と“Act(s)”と“Stranger”とアルバムに収録しなかった他の音楽が次々と出来上がっていった。いままでのように自分に厳しくし、すべてに対して慎重にやるのはやめて、楽に、リラックスした感じで曲を作ろうと決めたんだ。そうしたらすごく早いペースで曲が仕上がっていった。だからアルバムが出来るまで、なぜこんなに時間がかかったのかはわからないけれど、いま話したような流れで完成したんだ。

アルバムが完成したと最初に思ってから、さらに2年間くらいかかったということですか?

K:それくらいかな? コロナの影響もあってリリースが遅れたというのもある。とにかくアルバムの半分はすごく時間がかかって、もう半分はまったく時間がかからなかった。

『アゴル』は、美しいメロディと繊細な電子音による壮大な広がりのあるアルバムですが、ジャンル名に困る音楽でもありますね。『Agor』は物語性がある、コンセプト・アルバムと受け取っていいのでしょうか? 

K:コンセプト・アルバムではないね。ジャンルに関して言うと、音楽には本当にたくさんの聴き方がある。例えば、「踊る」ということは音楽を聴く方法のひとつ。他にも体を動かしながら音楽を聴くことができる。音楽の種類によっては、座ってじっくりと聴くという聴き方もできる。スピーカーから音を流して、それ以外のすべての音を消して、音楽に集中する。また別の種類の音楽だと、そういう聴き方はまったく適していなくて、聴き流しているくらいがベストな音楽もある。

アルバムとしてのコンセプトがあるわけではなく、曲がひとつずつ独立しているということでしょうか?

K:その通りだよ。曲ごとに、そのスタート地点となった「疑問」があった。最初はアルバムというものを念頭に置いていなかったからね。僕はコンセプト・アルバムが作れるほど頭が良くないんだよ(笑)!

作中から聴こえるメランコリーは何に起因しているのでしょう?

K:僕はメランコリックな場所の出身だからね。ウェールズの田舎。ここの景色を見せてあげたいけれど、光の加減がとても奇妙なんだ。美しいところだよ。雑誌なんかでは、「壮大な場所」や「山頂を制覇する」という表現がよく使われていて、男性的で、登山的なマッチョのイメージがある。でも実際ここに住んでいると、そのイメージとはかけ離れている。ここの生活はこじんまりしていて、静かで、悲しい感じがするんだ。ここにいる僕の友人たちはみんなメランコリーな雰囲気があって、すごくシャイなんだ。静かで、引っ込み思案で、まるでホビットみたいなんだよ。そのことに今朝気づいたんだ。いま、じつはいま、1年ぶりくらいに両親の家=実家に戻って来ているんだ。今朝、散歩に出かけたんだけど、とても物悲しい、メランコリックな場所だと思った。だから音楽のメランコリーな感じはそこから来ているんだと思う。メランコリーと山の壮大な感じが共存している。それが僕の音楽に反映されているんじゃないかな。

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ピアノの先生は18歳くらいで、自宅にスタジオがある、オタク気質の人だった。シンセサイザーにめちゃくちゃハマっている人だったんだ。僕はピアノよりシンセの音に夢中になってしまった。

『アゴル』とウェールズの文化との関係について話してもらえますか? 

K:いま話したことと、ウェールズには壮大なイメージがあるということかな。自分でも気づいたのは、僕が作る音楽はいつも壮大になってしまうんだ。それにいつもメランコリック(笑)。それは自分でもどうしようもないことで、とにかくそういう感じにいつもなってしまう。最初はハッピーな感じの演奏をしていても、次第にメランコリーな方へ行ってしまう。毎回そうなんだよ。残念だよな(笑)!
 まあ、だからウェールズのメランコリックな感じと壮大な感じは、僕の音楽に関係していると思うよ。それからもうひとつ関係性が多少あるとすれば、ウェールズは他の世界から少し隔離されているという点かな。独立した国ではないんだけど、別の国という感じもあって、僕の音楽にもそういう雰囲気が少しあるかもしれないね。

ちなみに質者は、ウェールズに行ったことがあるそうです。1994年のことですが、車で山道で迷っていたら馬に乗った男性に会って、親切にしてもらった思い出があるとのこと。標識も英語ではない世界がイングランドと地続きにあるということが驚きだったと。それはともかく、ウェールズ特有のケルト的な世界観はあなたの作品にもあるのでしょうか?

K:僕の父親は昔、山道で馬を乗っていたから、それは僕の父親だったかもしれないね(笑)! 実家には馬が2頭いてね。最初は1頭だったんだけど、父親がドッグフード50袋と馬1頭を交換して、馬をもう1頭ゲットしたんだ。この辺の生活はいつもそんな感じなんだ。動物がたくさん周りにいてさ。1頭目の馬は山のどこかかから拾って来て、もう1頭はドッグフードか何かと交換して手に入れたんだ(笑)。家には昔、馬車があってそれを山で乗っていたよ(笑)。
 ……ケルト的な世界観についてだったね。その影響もあると思う。僕の祖父、つまり父親の父親は、ケルトの祈とう師というかエクソシストだったんだ。地元にある、とても小さな教会の神父で、彼の仕事のひとつは幽霊を追い払うということだったのさ。だから彼は古い家などを訪ねて、幽霊に語りかけたり、除霊したりしていたんだ。それ自体はケルト的ではないんだけど、ケルトの文化や歴史には魔法や神秘的な側面があって、みんなそれを話半分くらいで聴いている。そういう考え方は僕の音楽に共通するところがあるかもしれない。あとは静けさと古さ。ウェールズの山には古代の遺跡や昔からある集落などがあるからね。そういうのが背景としてあるんだけど、実際の町は、古びていて寂れている。 荒れていて、そこに居たいと思うような素敵な場所ではない。ケルト的な古代の壮大な感じと、悲しくて絶望的な感じが対照的なところなんだ。ウェールズの雰囲気をわかってもらおうと、長々と話してしまったね(笑)。

あなたの音楽に、そういったケルト的な感じは含まれていると思いますか?

K:“Black Rainbow”はいま聴くとケルトっぽい響きがあるように感じられる。あのヴィデオは弟と一緒に近くの裏山で撮ったんだけど、ヴィデオが完成してからは、曲の感じが、シンセっぽいバイクみたいな曲から、ケルトっぽい感じに聴こえるようになった。だからそういう風に聴こえることもあるかもしれない。 

サウンドのテクスチャーに拘ってますよね。エレクトロニックな響きは控え目にして、ストリングス系の音やオーガニックな響きを前景化していますよね。この狙いは?

K:アコースティックなサウンドを実際の演奏では不可能な方法で表現することに興味があった。以前、“Moonlight”というベンジャミン・ブリテンの曲をカヴァーしたんだけど、そのときもホルンの実際の音を崩壊させて、爆発させて、石灰化させて結晶化させたかった。けれど同時にその音がホルンの音であると認識できる状態にしたかった。僕はマジック・リアリズムについてそこまで詳しくないけれど、それとの関連性はあるかもしれない。ギターなどの音も同じように扱った。ギターの音として認識はできるけれど、実際に演奏するのは不可能な音。プログラミングの仕方によって、実際のギターでは出せない音にしているんだ。「Yugen」はシンセサイザーのテクスチャを追求した作品だったけれど、今回はまた別のことをトライしてみたというわけさ。

ではオーガニックな楽器を使って、オーガニックではない、非現実的な表現をしていたというわけですね。

K:そうだね。それに僕は音の精確性というものがすごく好きで、じつはオーガニックな感じが好きなタイプではない。音と音をつなげるときも計算機をよく使っているほどだよ。完璧にしたいからね。音を完璧につなげるというところに美しさを感じるんだ。そのつなぎ目が少しでもずれていると魔法は解けてしまう。アコースティックな楽器を使って数学的に完璧な流れにする。その流れが完璧に整う地点に到達すると何かが起きる。それがすごく好きなんだ。その地点に興奮する。その完璧には一切の余白がないから、「完璧に近い」じゃダメなんだ。だから、そういう完璧な状態に持っていくにはかなりの時間がかかるんだよ。

生演奏的な要素も入っていますよね? たとえば、とっても美しい曲のひとつ、“White Picket Fence”の冒頭のピアノはあなたが弾いているのですか? 

K:そう、僕が弾いた。アルバム制作の前半はすべての要素を慎重で高精度に扱っている。すべてを完璧で正確にするために膨大な時間をかけてエディットした。それが前半で、アルバムの後半は先ほども話したように時間がほどんとかからなかった。“White Picket Fence”は僕が一度だけ弾いた演奏がほぼ曲になっている。その夜、僕は落ち込んでいた。アルバムをもう一度最初から作り直さないといけないと思っていたからね。朝5時くらいにピアノの前に座って、“White Picket Fence”で使われているヴォーカルのサウンドがキーボードに入っていたからそれを片手で弾き、もう片方の手でピアノのパートを弾いた。ワンテイクでできたんだよ。自分でもびっくりした(笑)。それからベースの部分を加えて曲が完成した。だからこの曲はある意味、オーガニックな形でできたと言えるね。

その“White Picket Fence”のヴォーカルはシンセの音なんですか? 実在する人なんでしょうか?

K:その中間という感じかな。AIという訳ではないんだけど、実際に存在する人の声でもない。メロディは僕が自分で弾いたもので、声の持ち主は僕がそのメロディを作ったことを知らない。 

ヴォーカルのクレジットは非公開? 秘密ということでしょうか? 次に聞きたいのは“White Picket Fence”でとても印象的な歌を歌っているのはどなたでしょう? ということだったのですが。

K:彼女はセッション・ミュージシャンで「アー」や「イー」という匿名のサウンドを歌って、その音を貸してくれた。僕はその音をサンプリングしてシンセを通して演奏したんだ。こういうヴォーカルが気に入っている。
 僕は若い頃、イビザの『カフェ・デル・マール』(バレアリック系のコンピでもっともヒットしたシリーズ。地中海に沈む夕焼けのメロウな感じが特徴)をよく聴いていたんだけど、僕はウェールズに住んでいたから、まずそんな音楽があるなんてまったく知らなかった。なにせイビザのこと自体も知らなかったからね! 

(笑)。

K:なぜ知ったかというと、僕の叔父がロンドンからこのCDを持ち帰って来たからで、そこにはシンセのように聴こえるテクスチャのような、歌詞がないヴォーカルの音が入っていたんだ。ヴォーカルのクレジットはなし。声を楽器のように使っていたんだ。ヴォーカルもバックトラックの一部というか、そういう捉え方が好きだった。つまり、曲において、ヴォーカルというものに高い優先順位や重要性を与えるのではなく、ひととつの楽器として扱う。パーカッションと同じようなものとしてね。今回の曲でもその概念を適応させたいと思った。だからこのヴォーカルの部分はメロディなんだけど、僕がキーボードで演奏したもので、他の楽器と同じように、声も楽器として扱っている。

彼女の声はほかにも時折入って来ますが、声が表象しているのは、ある種の神聖さ、なのでしょうか?

K:天使みたいな感じなのかもしれないね。僕は直接的な何かを象徴するということはしたくない。でも無意識的にそういう意味合いはあると思う。

“Joy Squad”は本当に良い曲ですね。この曲はクラブ・ミュージックを意識して作られたそうですが、あなたがダンス・カルチャーを支持する理由を教えて下さい。

K:僕が初めてカルチャーとしての一部という認識があったのがクラブ・ミュージックだった。ウェールズに住んでいた頃は、音楽の情報が多少入って来てはいたけれど、かなり遠い地域で起こっていたことだから、関与しているという感じはなかった。10代後半、僕はダブステップのイベントをはじめて、その後グラスゴーに移ってから本格的にクラブ・カルチャーに関与する。その頃の僕にとってクラブ・カルチャーはネットに載っている情報ではなく、まわりのみんなや友だちが実際にやっていることだった。週に5回はクラブ通いしていたな! クラブに住んでいるくらいだった。18歳のクレイジーな時期で毎晩違うクラブで違う音楽を聴いて遊んでいたけど、それが自分にとってもっとも大切だった。僕は大学生だったけれど、学校よりクラブのほうが断然重要だったし、その頃の思いがあるから、僕はいまでもダンス・ミュージックをリスペクトしている。
 とにかく、自分にとってこんなに重要なことがあったんだということが信じられなかったんだ。僕はテクノについて何も知らなかったけれど、グラスゴーのRUBADUBというレコード屋さんから「これを聴いてみなよ」と言われてレコードを聴いて、その音に衝撃を受けてね、で、「こんな音楽が存在するなんて信じられない!」なんて興奮しまくっていた。絶対にこのカルチャーに加わりたいと思ったね。

“Shellshock”もかなり好きですね。キャッチーなコアレス流のポップソングだと思うんですが、では、この歌詞は何について歌っているのでしょう?

K:ごめん、僕もわからない(笑)。僕は歌詞に関してはマックス・マーティンの思想に共感していて、「歌詞は語呂がすべて」だと思っている。マックス・マーティンは有名なポップ・ソングの作曲家で、ブリトニー・スピアーズなどの音楽を作った人だ。彼の母国語は英語ではないから、曲の歌詞に関しては言葉が音としてどう響くかということのほうが大切なんだ。「Hit me / baby / one more / time」(ブリトニー・スピアーズの曲)のようにね。歌詞の意味ではなくて、言葉の形や言葉のサウンドに重きを置いている。僕もそっちに興味があるんだ。つまり、言葉の形や言葉の流れに興味がある。だから解釈や意味はその人が好きなようにしていいのさ。

あなた個人のルーツを訊きたいのですが、いつからどのように音楽の世界に入ったのでしょう? 

K:僕の母親は看護師の仕事をしていたから夜遅くまで仕事をしていた。父親は園芸の仕事で外仕事が多かった。だから僕は放課後の時間を近所にある祖父母の家で過ごすことが多かったんだ。祖父母の家には古いピアノがあって、僕はいつもそれを弾いていた。祖母がピアノのスケールを教えてくれて、それが最初だった。
 その頃から曲を作るようになった。とてもシンプルでばかばかしいものだけどね。そうしたら、ピアノのレッスンを受けさせてもらえることになって、ピアノの先生は18歳くらいで、自宅にスタジオがある、オタク気質の人だった。シンセサイザーにめちゃくちゃハマっている人だったんだ。僕はピアノを習いに行っていたけど、そこにあったシンセの方に興味があった。たしかNovation Super Novaだったと思う。90年代のシンセサイザーだよ。それをいじって遊んでいて、「ヒューーーン」というすごい変な音を出して「すごいカッコいいー!!」と驚いていた。彼のスタジオにはシンセがたくさんあったから僕はそれに夢中になった。彼は本当は僕にピアノを教えるはずだったのに、僕はピアノにはお構いなしに、シンセの音に夢中になっていたよ(笑)。だからいまでも僕はあまりピアノが上手くない。それが一番最初のきっかけだね。
 そしてその後に、叔父が僕の家にパソコンをくれて、そこに音楽制作のソフトウェアが入っていた。Cakewalkという昔のソフトだよ。それを使って僕はまた馬鹿げた曲を作っていた。その時点でも僕はあまり音楽を聴いていなかったから、音楽の種類についてもあまり知らなくて、かなり普通の、愉快な曲を作っていたよ(笑)。でもそのときから曲を作るのはすごく楽しいことだと思っていて、それはいまでも思っているよ。

影響について訊かれることは好まないかもしれませんが、あなたの世界に入るひとつのとっかかりとして知りたいので訊きます。もっとも大きな影響は何でしょう?

K:最初のほうで話したことに戻るんだけど、僕の音楽のもっとも大きな影響というのは、音楽を作る前に自分が最初に考える技術的な疑問だと思う。もしくは、自分がやってみたいと思う楽しい試み。僕は音楽を聴くけれど、音楽ついての自分の様々な考え方を融合させるというような高度な技はできないんだ。だから音楽を制作する過程でワクワクするようなことに出会したり、新しい試みをやってみて結果として出来たものに対してオープンであるということが、自分が作る音楽のサウンドにおけるもっとも大きな影響だと思う。
 でも具体的な影響としては、『カフェ・デル・マール』の黄昏感のあるエレクトロニックな音楽。そういうメランコリックで壮大でバレアリックな雰囲気は昔から僕の一部になっていると思う。それから10代の終わりの頃にダブステップにハマってからは宇宙的な雰囲気が好きで、そういうサウンドが影響になっていた。最近ではクラシックをよく聴いていて、とくにベンジャミン・ブリテンに興味がある。
 ベンジャミン・ブリテンは誤解されがちというか、近代クラシックの作曲家としてあまり名が挙がらない。彼の音楽は古風で退屈なものとされていて、近代クラシックの時代の人なのに、ロマン派の音楽を作っていたからモダンではないと思われていた。彼の音楽はいつもメロディックで、それは彼にもどうすることができなかったことなんだと思う。僕もそういうところがあるから。耳障りな音楽を作ろうとしても、それがどうしてもできないんだよ(笑)。彼のそういうところが好きなんだ。
 それから彼の音楽には何かとてもダークなところがある。とてもスイートな音楽のなかにもね。何か合わない感じがする。そういうダークな感じがすごく好きなんだ。同世代の作曲家の多くから聴き取れるようなわかりやすいダークな感じではなく、彼は当時の人たちにとっても古臭いと感じられるような音楽を作っていて、それはロマンティックな響きの音楽だった。でもそこには何か、微妙に間違った感じが含まれている。何か計算が合わないというか、しっくり来ないというか…そういうダークな雰囲気にすごく興味をそそられるんだ。最近はブリテンの音楽について考えることが多かったから、“Moonlight”のカヴァーを作ったんだよ。もちろん、それ以外にも僕はたくさんのエレクトロニック音楽を聴くからその影響はあるだろうね。

ところなぜ海洋学に進んだんですか?

K:実際に学んだのは造船工学。いろいろな種類の船の構造や設計について学んだ。僕はティーンエイジャーの頃、音楽プロデューサーになりたかった。だから学校の進路相談で、自分の進路として音楽プロデューサーになりたいと伝えたんだ。そうしたら進路課の先生から「それほど馬鹿げた考えはない」と言われた(笑)。「その職業を選べないことはないけれど、私はお勧めしません。あなたは数学が得意で、船が好きでしょう?」と言った。たしかに僕は子供の頃から船に乗ったりして楽しんでいた。先生はこう続けた「だから船を作る技術者になればいいじゃない?」だから僕は「じゃあそれでいいです」と言ってその道に進んだ(笑)。
 大学に進んで造船工学を専攻したけれど、あまり面白くはなかった。大学に進学して良かった点は、大学がグラスゴーにあったからグラスゴーに移ることができたということだった。グラスゴーに行ったら膨大な量の素晴らしい音楽に出会うことができたから。
 つまり、造船工学を専攻したのは進路課の先生のアドヴァイスからなんだ。(音楽で成功していなければ)いまでもそういう仕事をしていたかもしれない。僕が最初にレコードを出したときは、船の桟橋で仕事をしていたからね。その仕事をしながら、空いている時間にギグをしたりしていたんだ。

ちなみに“Lost In Tokyo”という曲名の由来は、本当に東京で迷子になったからなんですか? あるいはあなたのなかの東京のイメージ?

K:東京で迷ったことは何度もあるよ(笑)。すごく面白い体験だった! あの曲を作ったのはかなり若い頃だからいまの僕なら、こんなにナイーヴなタイトルは付けないけれど、当時の僕は日本のことが大好きだったからこのタイトルにしたんだと思う。いまでも日本は大好きだけど、僕はもう少し大人になったし賢くもなったから、いま思うと曲のタイトルとしてはベストじゃないのかなと思ったりもする(笑)。

日本で迷っている外国人をしょっちゅう見かけるので、良いタイトルだと思いますけれど。

K:言っておくけど僕が迷ったのはGoogle Mapsがなかった頃だからね(笑)!

Korelessという名義にはどんな意味が込めらているのでしょうか?

K:16歳か17歳の頃、ギグをやることになって、名義をすぐに思いつかないといけなかった。そのときに思いついた名義でそれがいまでも続いているというわけなんだ。だからとくに意味はない。名義についての質問はよく受けるんだけど、これから話すことはいままでに話したことがない。
 きっかけとしては、当時、名義を考えているときにいろいろな言葉の文字の順序を入れ替えて考えていて、アイスランドのオーロラ(aurora borealis)という言葉を入れ替えたり変化させたりしているうちに、Korelessという言葉ができた。ギグ用のポスターを翌日には印刷しないといけないという状況だったから、即座にそれを名義にした。そう決めてから、その名義でずっとやって来ている。
 名前をつけるのは難しいことだといつも思う。名前は長い間続くものだしね。実はアルバムの制作が遅れたのもそれが大きな理由になっていて、作業中のトラックに馬鹿げた仮の名前を付けていたんだけど、正式な名前をつけるときに、すでにその仮の名前が定着していたから別の名前に変えるということができなかった。言葉は僕の得意分野じゃないんだ(笑)。

The World of My Bloody Valentine
マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界

極限にまで到達したロック・サウンドの軌跡──
マイ・ブラッディ・ヴァレンタインがなしえたこととは

インタヴュー
ディスクガイド
『Loveless』から広がる宇宙
ティーンエイジャーの自我の溶解
“愛無き” を愛することを学ぶ
etc

第二特集
New Generation of Indie Rock and Post Punk in the UK
UKインディー・ロック/ポスト・パンク新世代

The World of My Bloody Valentine issue

photos by Kenji Kubo
ケヴィン・シールズ、その人生を大いに語る(杉田元一+坂本麻里子)

■ディスクガイド
(イアン・F・マーティン、大藤桂、黒田隆憲、後藤護、ジェイムズ・ハッドフィールド、清水祐也、杉田元一、野田努、山口美波、与田太郎)
This Is Your Bloody Valentine
Ecstasy
Geek! / The New Record By My Bloody Valentine / Strawberry Wine / Sunny Sundae Smile
You Made Me Realise
Feed Me With Your Kiss
Isn't Anything
オフィシャル・インタヴュー(粉川しの)
ティーンエイジャーの自我の溶解(イアン・F・マーティン)
Glider
Glider Remix
Tremolo E.P.
Loveless
オフィシャル・インタヴュー(小野島大)
“愛無き” を愛することを学ぶ(ジェイムズ・ハッドフィールド)
Ecstasy And Wine
m b v
オフィシャル・インタヴュー(黒田隆憲)
EP's 1988-1991
オフィシャル・インタヴュー(黒田隆憲)
Experimental Audio Research
Patti Smith, Kevin Shields
Brian Eno With Kevin Shields
Hope Sandoval & The Warm Inventions
轟音の向こう側の素顔(黒田隆憲)
あの時代の不安定な生活のなかで(久保憲司)

■『ラヴレス』から広がる宇宙
ロック編(松村正人)
テクノ編(野田努)
アンビエント編(三田格)
実験音楽編(松山晋也)

第二特集「UKポストパンク新時代」
〈ラフ・トレード〉が語る、UKインディー・ロックの現在(野田努+坂本麻里子)
断片化された生活のための音楽(イアン・F・マーティン)
ディスクガイド(天野龍太郎、野田努、小山田米呂)
活況を見せるアイルランド・シーン(天野龍太郎)
新世代によるクラウトロック再解釈とドライな「歌」(天野龍太郎)
世界の中心は現場にあって、広がりはインターネットによってもたらされる(Casanova)

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訂正
このたび は弊社商品をご購入いただきまして誠にありがとうございます。
『別冊ele-king マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界』において、
p185上段のBlack Midiのジャケット写真が、
中央部を拡大したまま(トリミング・ミスのまま)印刷されていました。
謹んで訂正いたしますとともに、
お客様および関係者の皆様にご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。

ISSUGI & DJ SHOE - ele-king

 なぜいま ISSUGI か──というのは紙エレ最新号に記したのでぜひそちらをお読みいただきたいが、その巻頭ロング・インタヴューで少しだけ仄めかされていたミックス・アルバムが、ついに7月28日にリリースされる。福岡の DJ SHOE とのコラボで、タイトルは『Both Banks』。
 NYのグワップ・サリヴァンや GRADIS NICE & DJ SCRATCH NICE との曲をはじめ、MONJU としての新曲や PUNPEE のリミックス、さらにはフリースタイルまで、さまざまな音源を堪能することができる嬉しい内容だ。これは、聴こう。間違いないから。

ISSUGIがDJ SHOEとのコラボで放つミックスアルバム『Both Banks』のリリースが決定!
GWOP SULLIVANやGRADIS NICE & DJ SCRATCH NICEらによるISSUGIやMONJUとしての新曲、さらにPUNPEE "Pride" feat. ISSUGI (16FLIP Remix)、Freestyleなど多数のエクスクルーシヴを収録!

◆DOGEAR RECORDSの中心的存在MONJU、そしてBudamunk、5lackと共にSICK TEAMのメンバーであり、近年はBES & ISSUGIとしてもアルバムをリリースするなどソロでの活動だけに留まらず仲間たちとともに様々な作品をリリースし続け、またビートメーカー/DJ名義である16FLIPとしての活動も各方面で高く評価されているラッパー、ISSUGIのミックスアルバム『Both Banks』のリリースが決定!
◆今回タッグを組むのは福岡を拠点に活動し、これまでのISSUGI作品にも参加しているDJ SHOE。今作はISSUGI自身の作品に加えMONJUやSICK TEAM名義での作品、さらには客演ワークスなどISSUGI関連の楽曲からもDJ SHOEがセレクト。
◆エクスクルーシブとしてISSUGIと幾度となくセッションしてきたNYのプロデューサーGWOP SULLIVANやISSUGIとは各々でジョイント・アルバムを発表し、数々の楽曲を世に送り出してきたNY在住のプロデューサーGRADIS NICE & DJ SCRATCH NICE、DOGEAR RECORDSの同胞でもあるCRAM、EL moncherie(弗猫建物)のプロデュースによるISSUGI名義の新録曲(弗猫建物のVANYとMASS-HOLEが客演)を筆頭にアルバムが待たれるMONJUとしての新曲(Prod by 16FLIP)、福岡の逸材 "DJ GQ" との楽曲、PUNPEE名義で2017年に発表された "Pride" feat. ISSUGI(Prod by Nottz)の16FLIP Remixを始めとするリミックス楽曲、"Red Bull RASEN Episode5" でのISSUGIヴァース(Prod by C.O.S.A.)、さらにFreestyleなどを収録。GWOP SULLIVANやBES、KOJOE、YUKSTA-ILL、ILLNANDES、OYG、FREEZ、ILLSUGI、Eujin KAWI(弗猫建物)によるシャウトアウトも収録。これが常にDJと共に動いてきた "ISSUGI" のHIPHOP MIXTAPE。

[作品情報]
アーティスト:ISSUGI & DJ SHOE
タイトル:Both Banks
レーベル:P-VINE, Inc. / Dogear Records
発売日: 2021年7月28日(水)
仕様:CD/デジタル
CD品番:PCD-94042
CD定価:2,640円(税抜2,400円)

[トラックリスト]
01. Both Banks - ISSUGI & DJ SHOE
 Prod by GWOP SULLIVAN
02. J.studio Freestyle - ISSUGI & DJ SHOE
 Prod by GRADIS NICE
03. Welcome 2 PurpleSide (16flip Remix) - BES & ISSUGI
 Remix by 16FLIP
04. Navy Nubak - ISSUGI & GRADIS NICE
 Prod by GRADIS NICE
05. ONE RIDDIM (16flip Remix) – ISSUGI
 Remix by 16FLIP
06. INCREDIBLE / INCREDIBLE (DJ SCRATCH NICE Remix) - MONJU
  Prod by 16FLIP | Remix by DJ SCRATCH NICE
07. Soul on Ice (DJ GQ Remix) – ISSUGI
 Remix by DJ GQ
08. Freestyle2 - ISSUGI & DJ SHOE
 Prod by GRADIS NICE
09. Woowee ft Vany, MASS-HOLE - ISSUGI & DJ SHOE
 Prod by EL moncherie
10. The Lord ft BES, ISSUGI & KOJOE – CRAM
 Prod by CRAM
11. Conqcity Freestyle (Top of the head) - ISSUGI x JJJ
 Prod by JJJ
12. Spitta ft Febb - ISSUGI & GRADIS NICE
 Prod by MASS-HOLE
13. Intersection - 16FLIP & DJ SCRATCH NICE
 Prod by 16FLIP & DJ SCRATCH NICE
14. RASEN Freestyle (ISSUGI verse) – ISSUGI
 Prod by C.O.S.A.
15. Callback - BES & ISSUGI
 Prod by DJ FRESH
16. Czn'Pass (Endrun Remix) ft ISSUGI / Czn'Pass ft ISSUGI - ILLNANDES & ENDRUN
 Prod by ENDRUN
17. This for ma.. - ISSUGI,仙人掌
 Prod by KOJOE
18. Special - SICK TEAM
 Prod by BUDAMUNK
19. Sheeps - BES & ISSUGI
 Prod by DJ SCRATCH NICE & GRADIS NICE
20. NL - ISSUGI & DJ SHOE
 Prod by GRADIS NICE & DJ SCRATCH NICE
21. D.OGs - ISSUGI & DJ SHOE
 Prod by CRAM
22. WARnin' Pt.2 - MONJU & KOJOE
 Prod by KOJOE & ShingoBeats
23. 首都高MIDNIGHT ft ISSUGI & MuKuRo (Blooky Jeeky Remix) – KOJOE
 Remix by Blooky Jeeky
24. Midnite Move ft 仙人掌 - ISSUGI & GRADIS NICE
 Prod by GRADIS NICE
25. 踊狂 (16flip Remix) - SICK TEAM
 Remix by 16FLIP
26. Pride (16flip Remix) ft ISSUGI – PUNPEE
 Remix by 16FLIP
27. ON FiELD (DJ SCRATCH NICE Remix) - ISSUGI
 Remix by DJ SCRATCH NICE
28. In The City – MONJU
 Prod by 16FLIP
29. Now or Never – ISSUGI
 Prod by DJ SCRATCH NICE

#14 taken from "Red Bull RASEN Episode5" © Red Bull Media House
#26 Licensed by SUMMIT, Inc. PUNPEE appears courtesy from SUMMIT, Inc.

[ISSUGI - PROFILE]

NORTH TOKYOの誇るラッパー/ビートメーカー/プロデューサー。MONJU、SICKTEAMのメンバー。
ISSUGIは今日も新たな扉を開き、景色を変えて行く。16FLIPは狼煙をあげ、光をプリズムのように輝かせて行く。地下から揺らめく光は彼らの日々の生活を鮮烈に浮かび上がらせる。AUTHENTIC CHAMPION SOUNDが揺らしに来る。常に全力で向き合い、ラップ、ビートメーク、DJ、スケートと日々を共にし、アンダーグラウンドからスタイルを突き上げる。今日も地図と歴史に新たな印とページを増やし続けてる。日本のHipHopの歴史上この男が居たのと居ないのでは、埋められない確かな違いがそこにうまれたはずだ。DOGEAR RECORDSをMONJUと共にREPRESENT。

Worked with:
仙人掌, Mr.PUG, 5lack, Budamunk, BES, SEEDA, KOJOE, JJJ, KID FRESINO, FEBB, C.O.S.A., MASS-HOLE, YUKSTA-ILL, DJ SCRATCH NICE, GRADIS NICE, CRAM, ILLSUGI, YOTARO, GQ, DJ SHOE, ENDRUN, ILLNANDES, 弗猫建物, Devin Morrison, Roc marciano, Evidence, Tek of Smif-n-wessun, Twiz the beat pro, Roddy rod, Gwop sullivan, DJ FRESH, Illa J, DJ DEZ, Khrysis, John robinson, Eloh kush, Al B smoov, Mr.Brady, Planet asia, Georgia Anne Muldrow & More Artist.

https://issugi.lnk.to/j2lNj9yz

[DJ SHOE - PROFILE]

1983 / HIP HOP /
八代発~大阪経由~福岡親不孝通りを拠点とするリアルDJ。持ち味であるヘッドバンキング、スクラッチ、2枚使い、独特の "間" はオーディエンスを巻き込み、首を縦に振るようになる。その腕と熱さ故にアーティスト・ヘッズからのプロップスは高く、現場での存在感もさることながら、近年ではISSUGIによるプロジェクト "7INC TREE" を始め、数々の楽曲にスクラッチで参加。2021年には「EL NINO MIX TAPE」のMIXを任せられ、自身名義では「DAY BY DAY (Remastered)」をリリース。向こう側に聴こえる鳴りを体現し続けている。毎月 第1火曜 G.M.M at STAND-BOPを主宰。今夜もFEELすれば、堅い握手と乾杯は必ず。

Stijn Hüwels + Tomoyoshi Date - ele-king

 漢方医でありアンビエント作家として知られる伊達伯欣がベルギーの音楽家/ギタリスト、スタン・フヴァールとの共作の第二弾となるアルバム『遠き火、遠き雲』をフランスのレーベル〈laaps〉からリリースした。前作『Hochu-Ekki-Tou』も極めて静的な作品だったが、今作もまたあの凛とした静寂は継承されている。アルバムには短歌の歌人、一ノ関忠仁による詩の朗読もある。それは原爆に関する詩ではあるが、現在においても力を持っている。なんでもこの朗読は、18年前に闘病中だった歌人と当時はまだ研修医だった伊達が病院で出会い、病室で録音したものだという。それが今回の1曲となり、アルバムのタイトルにもなった。ぜひ聴いてみてください。

Stijn Hüwels + Tomoyoshi Date
遠き火、遠き雲’ (A Distant Fire, A Distant Cloud)
Laaps
https://laaps-records.com/album/a-distant-fire-a-distant-cloud

Courtney Barnett - ele-king

 メルボルンのシンガー・ソングライター、コートニー・バーネットが3年ぶりのニュー・アルバム『Things Take Time, Take Time』をリリースする。現在先行シングルとして “Rae Street” が公開中。彼女らしいオルタナティヴ・サウンドは健在で、ヴァースでの日常の描写を経てからのコーラス、「たしかに時は金なり。でも金は友だちじゃない」にはグッとくる。ほかの曲も気になります。発売は11月12日とまだ少し先だが、楽しみにしていよう。

コートニー・バーネット、ニュー・アルバムを11/12に発売!
第一弾先行シングルとミュージック・ビデオを公開!

■第一弾先行シングル「レイ・ストリート」ミュージックビデオ
https://www.youtube.com/watch?v=NUXvlpS0TvE

[Pre-order + Listen]
https://smarturl.it/CBJP

オルタナティヴ・ロック界を代表するアーティスト、コートニー・バーネットは、3年ぶりの3枚目となるニュー・アルバム『シングス・テイク・タイム、テイク・タイム』(Things Take Time, Take Time)を11月12日に発売することを発表し、早速、第一弾先行シングル「レイ・ストリート」(Rae Street)をミュージック・ビデオと共に公開した。

作曲に2年以上をかけ、その後2020年の終わりから2021年の初めにシドニーとメルボルンでプロデューサー/ドラマーのステラ・モズガワ(Warpaint, Cate le Bon, Kurt Vile)と一緒に録音された『シングス・テイク・タイム、テイク・タイム』は、彼女にとってまたもやブレイクスルーとなる作品となった。これは、彼女が最もクリエイティブでリラックスできた、そしてこれぞまさしくハッピーなコートニー・バーネットと言える作品だ。彼女のプライベートな世界を垣間見ることができ、愛、再出発、癒し、自分自身の新たな発見等々、てらいなくそのようなテーマを扱っている楽曲が収録され、これまでで最も美しく、そして彼女自身にとって一番身近なアルバムとなった。

アルバムのオープニングを飾る第一弾先行シングル「レイ・ストリート」は、現代のスピード社会と対峙しながらも、小さなコミュニティの日常生活が繊細にスケッチされた、穏やかなミッドテンポのエッセイで、美しいトーンを奏でている。 特に以下のフレーズが印象的だ「time is money; and money is no man’s friend」(時は金なりだけど、お金は友達じゃない)。それは決して独りよがりで自己満足な台詞ではなく、コートニーの手による哀愁を帯びた歌詞は、激しく驚くほど生き生きとしている。穏やかに物事を見つめながら行動を起こすことで、日々の何気ない日常の中で失いがちな、人々がお互い触れ合えるような道を切り開いていく。そんな驚くべき叙情的な作品だ。

彼女にとって、人生のとりわけ楽しい時期に録音された、ディープでパーソナルな内容がコラージュのように散りばめられたこのサウンドは、彼女が聞くものに大きな影響力を及ぼす画期的な女性シンガーソングライターであること、その地位が間違いのないものであることを示している。そして彼女の実力が1人のミュージシャンとして、まさに今ピークを迎えようとしており、そして新たなフェーズに入ったことを示すものに仕上がっている。

[前作情報]
https://trafficjpn.com/news/cb/

■商品概要

アーティスト:コートニー・バーネット(Courtney Barnett)
タイトル:シングス・テイク・タイム、テイク・タイム(Things Take Time, Take Time)
発売日:2021年11月12日(金)
品番:TRCP-300 / JAN: 4571260591639
定価:2,400円(税抜)/ 解説・歌詞対訳付
ボーナス・トラック収録
Label: Marathon Artists

Tracklist
01. Rae Street
02. Sunfair Sundown
03. Here's The Thing
04. Before You Gotta Go
05. Turning Green
06. Take It Day By Day
07. If I Don't Hear From You Tonight
08. White A List Of Things To Look Forward To
09. Splendour
10. Oh The Night

+ボーナス・トラック

[Pre-order + Listen]
https://smarturl.it/CBJP

■プロフィール
オーストラリア出身のシンガーソンングライター。自身が設立した〈MilK! Records〉より発売したEP「How To Carve A Carrot Into A Rose」(2013年)は、ピッチフォークでベスト・ニュー・トラックを獲得するなど、左利きのギター・ヒロインから紡ぎ出されたリリカルな作品は世界的な注目を集め、デビュー・アルバム『サムタイムス・アイ・シット・アンド・シンク、サムタイムス・アイ・ジャスト・シット』を2015年3月にリリース。グラミー賞「最優秀新人賞」にノミネート、ブリット・アウォードにて「最優秀インターナショナル女性ソロ・アーティスト賞」を受賞する等、世界的大ブレイクを果たし、名実元にその年を代表する作品となった。2018年5月、全世界待望の2ndアルバム『テル・ミー・ハウ・ユー・リアリー・フィール』をリリース。2019年3月、2度目の単独来日公演を東名阪で開催。同年フジロックフェスティバル’19に出演。2020年2月、地元豪メルボルンでのライヴ盤『MTV アンプラグド(ライヴ・イン・メルボルン)』を発売。2021年11月、3rdアルバム『シングス・テイク・タイム、テイク・タイム』を発売。
https://courtneybarnett.com.au/
https://twitter.com/courtneymelba
https://www.instagram.com/courtneymelba/

 『映画:フィッシュマンズ』がいよいよ上映される。映画ではバンドの歴史が語られ、ところどころその内面への入口が用意され、そして佐藤伸治についてみんなが喋っている。3時間ちかくもある長編だが、その長さは感じない。編集が作り出すリズム感が音楽と噛み合っているのである種の心地よさがあるし、レアな映像も多かったように思う。また、物語の合間合間にはなにか重要なひと言が挟み込まれていたりする。要するに、画面から目が離せないのだ。
 フィッシュマンズは、佐藤伸治がいたときからそうだが、自分たちの作品を自己解説するバンドではなかった。したがって作品解釈には自由があるものの、いまだ謎めいてもいる。レゲエやロックステディだけをやっていたバンドではないし、なによりも世田谷三部作と呼ばれる問題の3枚を作ってしまったバンドだ。いったいあれは……あれは……佐藤伸治があれで言いたかったことは何だったのだろうか。だから膨大な取材によって作られたこの映画は、解釈に関してのヒントにもなるわけだが、まあしかし、まさかフィッシュマンズの映画が観れることになろうとは思いもよらなかったわけで、そのこと自体考えてみればすごいことです。しかも、現時点ですでに28都道府県36館での上映が決まっている。これはもう、快挙としか言いようがない。作ったほうも上映するほうも。
 それにしても、何故いまこの映画が生まれたのだろう。『映画:フィッシュマンズ』は何を意図して、どんな思いをもって作られたのだろう。映画をプロデュースした坂井利帆氏、監督を務めた手嶋悠貴氏が話してくれた。取材をしたのは3月30日。まだ春先で、上映館も都内ぐらいしか決まっていなかった。フィッシュマンズを求める声や熱気が全国からふつふつと湧きはじめる、まだ数ヶ月も前のことである。

ぼくが知りたいことは、もしかするとフィッシュマンズを聴く多くの人たち、これからフィッシュマンズに出会うたくさんの人たちが知りたいことじゃないかなと。リアルタイムで体感できなかった世代としては、どうやってあの途轍もない音楽が生まれたのかを知りたいという欲求があったんだと思います。

どのようにこのプロジェクトがはじまったのか、ことのはじまりから教えてください。

手嶋:2018年の夏頃に坂井さんと、一緒のプロジェクトをやっていたんです。そのときに「フィッシュマンズってご存じですか?」って訊かれて、「知ってますけど、どうしたんですか?」って答えたら、フィッシュマンズで映画をつくりたいんですけど……ってボソッと言われて。「ぜひやりましょう!」と伝えたんです。それがはじまりですね。

坂井さんが言いだしっぺだったんですか?

手嶋:そうですね。最初は冗談かなって思ったけど(笑)

おふたりはそれ以前からお仕事をされていたんですね。

坂井:はい。もう10年くらいです。私は主に日本で撮影した映像を国内や海外メディア向けに発信する映像制作をしていまして、以前勤めていた会社のプロジェクトで何度もご一緒していたので、監督のお人柄と映像制作の腕は存じあげてましたね。
 2018年の春くらいにフィッシュマンズの映画を作りたいと、本作の企画を思いつきました。口に出すと実現に近づいて夢って叶うんだよっていう話があるように、「私フィッシュマンズの映画を作りたいんだよね」って周りに言いはじめたのがこの頃です。そしたらたくさんのクリエイターの方が、みんなやりたいっておっしゃってくださるなかで、手嶋さんが「ぜひやりましょう」って言ってくださった。フィッシュマンズは私にとって宝物なので、宝物をさらけ出してお預けできる人柄と映像制作の力があるとても信頼できる方でしたし、実際に、映画を実現するための具体的なご提案をいろいろとしていただきました。クラウドファンディングも手嶋さんのご提案でした。そこからは毎日のようにお電話したり、いろいろ相談しています、いまだに(笑)。

3時間という長さを感じさせない出来というか。ぼくは2回観たんですけど、わりとあっという間の感覚で、それは監督さんの編集力のなせる業なんだろうなと思いました。

手嶋:ありがとうございます。僕ひとりの力ではないですけど(笑)。

坂井さんに訊くんですけど、なんで2018年にフィッシュマンズの映画を作ろうと思ったんですか?

坂井:(笑)。そうですよね。91年からフィッシュマンズのファンだったんです。デビュー当時から大好きだったんですよ。もちろん聴かない時期もありましたが、いろいろなときを経て客観的にフィッシュマンズを見たときに、佐藤さんが亡くなられてからも変化し続けている様子やライジング・サンで何万人の観客の前でクロージング・アクトを務めていたりとか、夢のような世界が2018年には広がっていて。

佐藤さんが亡くなって、最初のライヴをSHIBUYA-AXでやったときに公園通り沿いに若い子たちが「チケット譲って下さい」というプラカードを持っている光景を見て、フィッシュマンズってこんなに人気あったんだって(笑)。

坂井:そうなんですよ。クアトロがいっぱいにならないような時代を見ていたので、どんな社会現象が起きているんだろうっていう興味がまずありましたね。しかも、主にソングライティングをされていた佐藤さんが亡くなられて、フロントマンを失くして人気が出るってどういうこと? っていうところからフィッシュマンズのストーリーを感じたんです。
 タイミングとしては、自分のキャリアの過渡期とも重なっていて、映画会社に勤めた経験も経たことで映画という作品コンテンツを表現の場としてすごくビュアで魅力的に感じました。ずっと残っていくものなので。このような経緯で自主映画を作ってみたいと思ったときに、対象となるものは自分の揺るぎない情熱を傾けられるものじゃないといけないと人から言われて。それを自分にとってはなんだろう? と考えたときに、自分にはフィッシュマンズしかなかったんです。

2018年っていう時間は坂井さんのなかでのタイミングだったんですね。

坂井:はい。それを思って、茂木さんにご相談をしたときにちょうど2019年の闘魂2019のライヴを計画されていたんです。茂木さんも佐藤さんが亡くなられて20年の節目のライヴを撮影し、残しておきたいというお気持ちがあって。思いが重なったのが2018年の春だった。それから、茂木さんに手嶋さんを紹介したのが夏ですね。そして、どうすればいまの時代に自主映画を実現できるかを考え「クラウドファンディング」を通じてファンの方たちにお力添えをいただくことにしたのです。

手嶋さんはその話を受けてお返事されたということなんですけど、フィッシュマンズのことは?

手嶋:もちろん知ってました。けど、深くは知らなかったですね。ただ、不思議なバンドという印象を持っていました。フィッシュマンズの音楽は良く聴いていたけど、深く掘り下げるというところまではしていなかったですね。何か触れてはいけないような感覚がずっと無意識に働いていたので。

映画の話を引き受けようと思った理由は?

手嶋:直感です。でも坂井さんから映画の話を受けた後、2週間ぐらいその話題がなくて(笑)。坂井さんに「フィッシュマンズの件どうなりましたか?」って訊いたら、「本当にやってくれるんですか?」って言われて(笑)「本気ですよ」って言った記憶があります(笑)。僕のなかでは、何が起こるかわからないけど絶対やるべきだと。直感で確信していましたので。

そこからフィッシュマンズについてリサーチをはじめるわけですよね。どうでしたか? 手嶋さんのなかでフィッシュマンズというバンドは。もちろんそれは映画で表現していると言ったらそれまでなんですけど。

手嶋:2018年の7月に話をもらって、撮影がはじまるのは2019年の2月なんですけど、2018年の12月くらいまでは、ひたすらフィッシュマンズについて調べていました。自分で一冊の本を作っちゃうくらい。世に出てる書籍や残っている映像を片っぱしに集めて。もちろん、楽曲も毎日聴いて。でも、調べれば調べるほど、フィッシュマンズのことがわからなくなったんですね。しかも佐藤さん、取材とかで本当のこと言わないじゃないですか。いつも嘘をつくというか(笑)。譲さんに聞いて後で知ったんですけど、取材とかで本当のことを話そうとすると佐藤さんから止められたって(笑)、本当のこと言っても面白くないからと(笑)。
 フィッシュマンズの楽曲を聴くとそこに流れている空気や風景が何となく「わかる!」という感覚は、彼らの音楽を聴いたことのある人だと理解してくれると思うのですが、フィッシュマンズを映画で表現する立場としては、それだと何も掴みどころがなくて不安になるというか。本当は掴む必要もないんでしょうけど……、ただ、僕はどうしても知りたかった。あの途轍もない音楽と佐藤伸治の歌詞の世界はどうやって生まれたのかを。だから2018年の12月時点では、映画のタイトルを『フィッシュマンズのすべて』と勝手に付けました。
 ぼくが知りたいことは、もしかするとフィッシュマンズを聴く多くの人たち、これからフィッシュマンズに出会うたくさんの人たちが知りたいことじゃないかなと。リアルタイムで体感できなかった世代としては、どうやってあの途轍もない音楽が生まれたのかを知りたいという欲求があったんだと思います。
 だから、知れば知るほどわからなくなったフィッシュマンズを探しにいくような撮影でしたね。なのでインタヴューは時系列通りにおこないました。例えば茂木さんに明学での出会いからデビューまでの話を訊いたら、そこで出た言葉たちを次は譲さんに訊く。そして譲さんから出た言葉を茂木さんの言葉と合わせて、ハカセさん、小嶋さんにも訊く。もちろん、同じ質問も訊いていきます。そうすることで、各個人が持っている当時のさまざまな風景が見えてくるんです。そのようなやり方で繰り返し繰り返しおこなって、どんどん現在に向かっていくという感じ。インタヴューは1対1なのですが、編集するとあたかも彼らが会話しているような。そのような狙いで撮影をおこなっていました。気づくと撮影期間は1年もかかってしまいましたけど(笑)。

その取材時間が相当かかったんですね。1〜2回ではなくて、その都度その都度。

手嶋:茂木さんをはじめ他のメンバーの皆さん、出演者の方々も相当大変だったと思います(笑)。下手すると朝の10時くらいから夜の22時まで、ずっと、質問攻めにされるわけですから。

坂井:思い出の地とかに閉じ込められてね。

しかもその膨大な撮影から実際に使われるカットってものすごい限られているわけで……大変だったんでしょうね、編集も。

手嶋:ぼくひとりの力だとできなかったですね。

坂井:いまは3時間に収まってますが、その前までは5〜6時間あったんですよ。

手嶋:まずは撮影したインタヴューをすべて文字に起こしてもらったんです。それを構成の和田くんに時系列で並べて欲しいってお願いをしました。和田くんはすでに僕がやりたいことを理解してくれていましたので、かなり助かりました。そして和田くんが纏めてきた言葉たちを編集の大川さんがタイムラインに並べてくれました。それが7〜8時間ぐらいだった記憶があります(笑)。和田くんと大川さんが作業しているあいだ僕は膨大な過去映像をひたすら観て、入れるべき映像を探していました。

坂井:ここで佐藤さんがこういうMC喋ってるとかね。

手嶋:大まかに編集の下準備ができたところで、僕と大川さんで編集作業に入りました。たしか2020年の5月頃だったと思います。初めは7〜8時間あったものを5時間にして、3時間にして、また4時間に戻ってっていうのをひたすら、ふたりでやり続けましたね。ある程度、形になったと思ったら和田くんに確認してもらい、構成の話やアイデアを出し合っていく。そこからまた大川さんと作業して。それをひたすらずっと繰り返して、ようやくできたと思った後に、どうしても僕が入れたい言葉たちがあって、粘りに粘り最終的に編集が終わったのが今年の1月後半でした。

けっこうぎりぎりだったんですね。

手嶋:けっこうぎりぎりでした。ぎりぎりまでやってましたね。

坂井:ありえないぐらいの仕事量でしたよね。頼んだ私が申し訳なくなるぐらいの仕事量で。とにかく、本当に真摯に作品に向かい合ってくださいました。

手嶋:ぼく、2回も倒れているので。

え? 

手嶋:ひたすらフィッシュマンズと向かいあってたら、編集しながら頭がおかしくなってきたりして。どんなに向き合っても正しい答えなんてないじゃないですか。でも、クラウドファンディングでファンの方から頂いたチャンスでもありますし、茂木さんとも「これが最初で最後。嘘偽りなく、フィッシュマンズのすべてを話す」という約束をしていましたので、みなさんに対しても自分に対しても絶対に後悔させる形にはしたくないというか。
 そのなかで、プロデューサーの坂井さんから尺は2時間くらいで収めないと上映回数の問題も出てくるので、せめて2時間半尺でお願いしますと。これは当然のご意見なんですけど、2時間半にまとまるわけがないっていうのがぼくの思いで。勝手にいろいろ追い込まれていましたね。当時は(笑)。

坂井:そこは本当に難しい課題でした。とても大きな課題でしたね。

2時間でまとめられなかった理由はなんでしょう?

手嶋:撮影で茂木さん含めてみなさんからいただいた本当の言葉たちを2時間で収められる自信がぼくにはなかった。誤魔化して、ちょっとおもしろい感じにまとめた2時間の映画にしちゃうと絶対にフィッシュマンズを裏切ってしまう。勝手にぼくが責任を感じているだけかもしれないんですけど、誤魔化してはいけないという思いが強かったんだと思います。それで、2本立てにしてはどうだろうかとかいろいろ考えたりもしたんですけど(笑)、それもなんか違うかなと。で、坂井さんに「ごめん。もう2時間無理! なんとか3時間でいけないかな?」って相談をして。

なるほど。そぎ落として、編集して、そのぎりぎりが3時間になったと。

坂井:ぎりぎりまで200分(3時間20分)でしたもん。もう、頼むよって(笑)。ようやく3時間に収まったのは、昨年の12月くらいです。映画の興行を考えると3時間以上というのは非常に難しいということもあるのですが、それよりも元々、フィッシュマンズの映画を作るという話を茂木さんとしたときに、いまは海外でもフィッシュマンズが注目されているので、映像というコンテンツにして英語に翻訳をすることで、新しい人たちにフィッシュマンズを届けることができるのではないかと話していたのです。映画という映像作品にすることで、広げられることが絶対あると思っていたし。元々そういう思いを持ってはじめたプロジェクトだったので、尺が3時間以上になるという話をもらったときにはすごく悩みました。自分が海外の全然知らないバンドの3時間ドキュメンタリーを観るというのは、すごくハードルが上がってしまうので。
でも、手嶋さんも編集の大川さんも、真摯に映像素材と向き合って3時間の尺がないと伝えきれないとおっしゃっていたので。お二人がそこまで仰いているものを、決まった枠(尺)に当てはめようとすると、よい結果にならないことは明確でした。誠実に向きあっているからこそナレーションを入れて省略すようなことはいっさいしないというのは最初から監督がこだわっていましたし。だから、もう私は黙るしかないと(笑)。最後は納得しました。それでも3時間は切って欲しいうところは最後にお願いしましたけど。

ナレーションを使わなかったのでなんでなんですか?

手嶋:ぼくが単純に嫌いだから。作為的なものに感じてしまう。仕事ではよく使いますけど、ナレーションを使うとまとめるのがすごく早い。ただそうするとすごく作為的になって、コントロールしちゃう。コントロールしちゃうと、今回フィッシュマンズをはじめた最初のコンセプトから逸脱してしまうというか。主役は彼らなので。もちろん佐藤伸治という絶対的な存在がいるんですけど、そこに第三者の声を入れると完全にフィクションになってしまうのでそれは絶対にやりたくないなって頑なに決めてた。

坂井:ナレーション抜きで90分に収める、そしてすべてを語り尽くすっていのは物理的に無理ですよねって。

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調べれば調べるほど、フィッシュマンズのことがわからなくなったんですね。しかも佐藤さん、取材とかで本当のこと言わないじゃないですか。いつも嘘をつくというか(笑)。譲さんに聞いて後で知ったんですけど、取材とかで本当のことを話そうとすると佐藤さんから止められたって(笑)。

フィッシュマンズの描き方って時代背景もあるし、いろんな描き方があると思うんですけど、今回はバンドのインサイドストーリーに徹していますよね。それはまずは監督ご自身がバンドのことを知りたいと思ったというのがモチベーションだったということですが。

手嶋:そうですね。あとは10年後20年後にフィッシュマンズを知った人たちがフィッシュマンズのメンバーたちはどういう人たちだったんだろうか、あの途轍もない音楽はどうやって生まれたのだろうか、ってことをピュアな気持ちで掴めるヒントになればと。残すべき音楽ですし、ぼくら世代よりもまだ先の世代の方々にも聴いて欲しい音楽ですので。

例えばフィッシュマンズは90年代のバンドだし、90年代の東京の風景を出すという手もあったと思うんです。いろんな事件もあったし、そういうことをやらなかったのはなにか理由があってですか?

手嶋:最初から頭になかったですね。ぼく自身も90年代を生きてた人間ですけど。今回はフィッシュマンズという人たち、彼らの音楽を描くことだけに集中したかったんです。インタヴューを重ねながら気づいたのですが、みなさん佐藤さんのことを探していて。こちらから敢えて質問しなくても佐藤さんの話をしてくださるんですよね。僕も佐藤伸治をずっと探し続けてました。でも、それは言葉に出して大きく言えない空気というか、ムードというか。だから佐藤さんをみんなで見つける映画でもありつつ、同時に彼らがどのように音楽を作ってきたかっていうことを描けば、90年代の風景も自ずと見えてくるんじゃないかなと思いました。フィッシュマンズの音楽のようにこちらもストイックにやらないと。茂木さんにも「遠慮しないで、やりたいようにやっていいんだよ、フィッシュマンズはそんなに綺麗なバンドじゃないんだから、手嶋くんが思うようにやってくれたら」って背中を押されたのも心強かったですね。

なるほど。佐藤伸治がどんな人間だったのかが浮かび上がるような作品になっているのかなと思います。彼のニヒリスティックなところも垣間見れるとぼくは思ったし、よしもとよしとも君は青春映画として観ることもできるみたいなことを言ってましたけどね。

坂井:嬉しいですね!

手嶋:そういう見方もあるんですね。

バンドのひとつの青春。それはひとつの見方としてまっとうな見方ですよね。大学生のサークルのなかで生まれたバンドが世のなかに揉まれていってっていう成長物語じゃないですけど、そういう要素がありますよね。

坂井:それはすごく嬉しいです。観る人たちがいろいろと感じて欲しいですからね。こういうものっていうことをこちら側から発する作品であるべきではないと思っているので。

ぼく個人としては、『空中キャンプ』以前の映像を観れたのがすごく嬉しかったですね。観たことなかったから。

坂井:“MY LIFE”とかすごくないですか?

ところどころにああいう貴重な映像がありますね。ただもっとも驚いたのは、欣ちゃんが高校生じゃないかくらいに見た目が若かったっていうことですけどね(笑)。

坂井:本当に(笑)。

それに佐藤伸治のノートが出てくる場面も良かった。とくに、「わかりづらいことをわかりやすくする」という言葉がさりげなく出てくる。手嶋監督さんの意図としてはどういう風に物語を見せようと思われたんですか? 

手嶋:“ゆらめき IN THE AIR”を最後に使うことだけは決めていました。あとは、フィッシュマンズが結成から現在に至るまでどのように歩んできたのかという軸と、佐藤伸治はどういう人間だったのかという軸を融合させるかだけ考えていました。佐藤さんも言っていましたけど、「10年後20年後も聴ける音楽を俺はやっているつもりだ」って。実際に10年後20年後も聞ける音楽の力。それに目を背ける事なく映像で紡いでいけば、必然とフィッシュマンズの映画になるんじゃないかと。だから、作為的に何かやってやろうというよりは、とことんフィッシュマンズと向きあっていくことだけをやってきたという印象です。

もしぼくが作るとしたら『空中キャンプ』を特別視したろうから。『空中キャンプ』の曲をもっとかけて欲しいと思ってしまうくらいだから(笑)。

坂井:“BABY BLUE”とかはちょびっとだからね。あれじゃ物足りないわけですよね(笑)。

そう! あれはもっと聴きたかった(笑)。

坂井:“BABY BLUE”は名曲ですからね……。

あれはファンが一番好きな曲のひとつだから!

坂井:(笑)。スタッフみんながそれぞれに思い入れのある曲を持っているので、「“ずっと前”は入らないんですか?」とか、編集途中でスタッフに訊かれることもありました。それぞれみんなが思い入れがあるから。それを受け止める監督は大変だったと思います。

ファンの思い入れの強いバンドだから、それは大変ですよ。だけどぼくは“Long Season”のところで奥多摩にロケに行ったところは感動しまたよ。あのシーンはクライマックスとしてあまりにもよくできすぎてるというか。

坂井:雨降ってね(笑)。

しかも、橋が壊れてて雨降ってて。

手嶋:あれは本当に皆さんにご迷惑をおかけしたというか。

坂井:譲さんと奥多摩に行くっていう日の前日に台風あったんです。地元の役場の方に、濁流がすごいので撮影なんかできませんと言われてしまって。それで撮影を1ヶ月伸ばしたんです。満を持して望んだ再撮影で、さらにまた雨ですっていう。でもやるしかない。譲さんも嫌がってました。「ぼくここ苦手なんだよね」と言いながら。撮影前にも、一回中止になっているし、濁流を心配するくらいなら「もう、代々木でいいじゃない?」とか、ご提案をいただいたりしたのですが。監督が奥多摩にこだわったんです。監督の狙いです。

すごい(笑)。

手嶋:あれは自然とそういう流れになっただけですよ(笑)。単純に譲さんに重要なことを訊きたかったから、雨であろうが、あの場所に行って話をしてもらいたかった。まあ雨と寒さで無理させてしまう形になってしまいましたけど(笑)。でも、あの撮影が終わったあとに譲さんから「ここまでやってくれたから、ここまで喋れたし、1日〜2日で終わるようなものでもなく、しつこく何度も付き合ってくれたから、安心したよ、本当に感謝しかないよ」と言っていただけたのは、忘れられないですね。

あのシーンはグッときましたね。また、奥多摩のシーンの映像の色味がすごく綺麗でした。『Long Season』のジャケットそっくりというか。

手嶋:あの場所を見つけるのがすごく大変でした。(マネージャーだった)植田(亜希子)さんも憶えてなくて。植田さんに「ここです!」と言われて、グーグルマップで見たら違ったんです。だから自分で探して、撮影日の朝早くに撮影部を連れて、豪雨のなか、ぼくが見つけていた場所をロケハンしたんです。それでやっとあの場所(※ジャケットに写っている場所)を見つけて撮影出来た。後から分かったんですけど、『LONG SEASON』の撮影で奥多摩に2回行ってるんですよフィッシュマンズ。1回目はジャケットの撮影で、もう1回はヴィデオ撮影で。もう昔のことなのでみなさん記憶が曖昧になるのは仕方ないですよね。

坂井:でも、ジャケットにも写っている同じあの岩がいまもあったのはすごいですよね。

では最後に、もういちどあらためて訊きます。佐藤さんが亡くなってからさらにバンドの名前が大きくなった。これは映画を作らなければと思ったと。これは、もっと言うと、どういうことでしょうか? まだ知らない人たちに向けて、作らないといけないと思ったということ?

坂井:実際の佐藤さんのステージを観たことがない世代の人たちに知って欲しいという気持ちもありましたし、サブスクが浸透した現代で、海外に音が届いてる状況を客観的に見て、フィッシュマンズをより多くの方に発掘してもらうきっかけに、映画がなると思いました。

フィッシュマンズをまだ知らない人たちにも、こういうバンドだったんだよと教えてあげたいと?

坂井:映画を作る上で恐怖というか心配はありました。最初の頃に茂木さんと植田さんに映画のご相談をしたときに、もしかしたら、いままで作り上げてきたものを壊してしまうかもしれないけど良いですか? と確認をしました。いままでおふたりが作りあげて、人気が出てきたものを壊してしまう可能性があるかもしれないけどいいですか? と訊いたんです。そこで言われたのが、「いいんだよ。フィッシュマンズは元々売れないバンドだったんだから、壊すものなんて何もないよ、そこには」と。これですごく気持ちが軽くなった。そこから、「よしっ作ろう!」って覚悟を決めたんです。

なるほど。

坂井:フロントマンを失くしてもバンドを続けるのはよっぽどのことじゃないとやらないじゃないですか。それを茂木さんが実際にやられていて、さらにそれによってファンがすごく増えている。もちろんフェスが増えている等の背景もあるんですけど。それにしてもこの現象はいったい何なんだろう? きっとそこには何らかの理由があるだろうと。

不思議ですよね。ぼくもこの前の闘魂に行って思ったんですけど、客層が若いんですよ。

坂井:そう!

リアルタイム世代がもっといるのかと思ったら、若い子ばかりなんですよ。特殊ですよね。

坂井:わたしの記憶のなかのフィッシュマンズは知る人ぞ知るバンドというイメージのまま。ところが、先日この映画の試写会を開催した際に会場前に貼られたポスターを見て、20代くらいの、いまどきのおしゃれな女の子3人組が「あれぇ〜フィッシュマンズやってんだ〜」って話している現場を目撃しちゃったんです。とても驚いてしまって。

それはすごい(笑)。

坂井:すばらしいことだと思ったんですけど、そこにあらためて不思議なものを感じました。もちろん茂木さんの思いとか、植田さんやメンバーの方の頑張りは絶対的にあるんですけが、それだけじゃない何かがあるんです。フィッシュマンズの音楽には。そしてきっといまの世のなかにも必要とされているものなんです。なので、この音楽の背景にあるストーリーを伝えたいし、映画を通じて伝えられることがあるじゃないかなぁと映画の可能性を楽しみにしています。映画をきっかけにさらに音楽に興味を持っていただけたら嬉しいですし。もちろん海外の人にも届けたいし。とにかくこのまま色褪せていくべき音楽ではない。

けっきょく映画のタイトルを『映画:フィッシュマンズ』にしたのは変化球はいらないなっていうことですか?

手嶋:ぼくのわがままでそうさせてもらって。このタイトル以外、絶対にないという感じというか。茂木さんにもタイトルは「フィッシュマンズ」でいかせてもらいますってお伝えして、「わかった!」って(笑)。この映画は「フィッシュマンズ」です。

(3月30日、渋谷にて)

【あらすじ】
90年代の東京に、ただ純粋に音楽を追い求めた青年たちがいた。彼らの名前は、フィッシュマンズ。プライベートスタジオで制作された世田谷三部作、ライブ盤『98.12.28 男達の別れ』をはじめ、その作品は今も国内外で高く評価されている。

だが、その道のりは平坦ではなかった。セールスの不調。レコード会社移籍。相次ぐメンバー脱退。1999年、ボーカリスト佐藤伸治の突然の死……。

ひとり残された茂木欣一は、バンドを解散せずに佐藤の楽曲を鳴らし続ける道を選ぶ。その想いに仲間たちが共鳴し、活動再開。そして2019 年、佐藤が世を去ってから20年目の春、フィッシュマンズはある特別な覚悟を持ってステージへと向かう――。過去の映像と現在のライブ映像、佐藤が遺した言葉とメンバー・関係者の証言をつなぎ、デビュー30周年を迎えたフィッシュマンズの軌跡をたどる。

佐藤伸治 茂木欣一 小嶋謙介 柏原譲 HAKASE-SUN
HONZI 関口“dARTs”道生 木暮晋也 小宮山聖 ZAK
原田郁子(クラムボン) UA ハナレグミYO-KING(真心ブラザーズ) こだま和文

監督:手嶋悠貴 企画・製作:坂井利帆
配給:ACTV JAPAN/イハフィルムズ
2021/日本/カラー/16:9/5.1ch/172分     
©2021 THE FISHMANS MOVIE

<公式HP> https://fishmans-movie.com
<公式Twitter> https://twitter.com/FishmansMovie
<公式Facebook> https://www.facebook.com/fishmansmovie
<公式Instagram>https://www.instagram.com/fishmansmovie/

7月9日(金)より全国公開
以下、現在上映が決まっている都道府県/劇場です。

都道府県劇場名公開日
東京新宿バルト97月9日(金)公開
東京渋谷シネクイント7月9日(金)公開
東京アップリンク吉祥寺7月9日(金)公開
東京池袋シネマ・ロサ7月9日(金)公開
東京T・ジョイPRINCE品川7月9日(金)公開
神奈川横浜ブルク137月9日(金)公開
千葉T・ジョイ蘇我7月9日(金)公開
大阪梅田ブルク77月9日(金)公開
京都T・ジョイ京都7月9日(金)公開
京都アップリンク京都7月9日(金)公開
福岡T・ジョイ博多7月9日(金)公開
石川シネモンド 7月10日(土)公開
愛知センチュリーシネマ7月16日(金)公開
宮城チネ・ラヴィータ7月16日(金)公開
鹿児島鹿児島ミッテ107月16日(金)公開
大分 別府ブルーバード劇場 7月16日(金)公開
群馬 シネマテークたかさき 7月17日(土)公開
長野 上田映劇 7月17日(土)公開
富山 ほとり座 7月17日(土)公開
広島 サロンシネマ7月23日(金)公開
北海道サツゲキ 7月23日(金)公開
福島 フォーラム福島7月23日(金)公開
山形 フォーラム山形7月23日(金)公開
沖縄 桜坂劇場7月24日(土)公開
愛媛 シネマルナティック7月24日(土)公開
大分 日田シネマテーク・リベルテ 7月26日(月)公開
栃木 小山シネマロブレ7月30日(金)公開
熊本 Denkikan7月30日(金)公開
佐賀 シアターシエマ8月6日(金)公開
静岡 静岡シネ・ギャラリー 8月14日(土)のみ上映
新潟 シネ・ウインド8月14日(土)公開
栃木 宇都宮ヒカリ座8月20日(金)公開
長崎 長崎セントラル劇場8月27日(金)公開
東京 立川シネマシティ近日公開
岩手 盛岡ルミエール近日公開
宮崎 宮崎キネマ館近日公開

【配給に関するお問い合わせ】
イハフィルムズ contact@ihafilms.com

【宣伝に関するお問い合わせ】
とこしえ info@tokoshie.co.jp

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