「Ord」と一致するもの

bar italia - ele-king

 イケてるヤツはディーン・ブラントを聴いているが、今年はバー・イタリアも聴いている。

 今年ももう1ヶ月を切り、年末の締切やライヴの準備などに忙殺されながらも今年を振り返るとバー・イタリアが記憶に鮮明に焼きついている。

 2020年にファースト・アルバムをリリースしてから約3年の活動期間ですでに4枚のアルバムをリリースしている多作なバー・イタリア。前作『Tracey Denim』でばっちり心掴まれた方が多いと思うが今年2枚目のアルバム『The Twits』ではまた趣が違ったツボをついてきた。
 ファースト・アルバム『Quarrel』、セカンド・アルバム『Bedhead』は共にディーン・ブラント主宰のレーベル〈World Music〉からリリースされていてギターや露骨な切り貼り、ミックスに至るまでまんまディーン・ブラント節の2枚だった。そんな2枚から2年を置いて今年5月に〈Matador Records〉からリリースされた『Tracey Denim』 は路線変更も含め素晴らしいアルバムだった。言っちゃあなんだが、これは予算とミキシング・エンジニアがかなり大きいと思う。ドラム・サウンドはタイトで、ギターやメロディも愛らしさを残しつつはっきりしていて、全体として格段に聴きやすくなっていた。
 『The Twits』でもマルタ・サローニの腕が光る。前作から続投となったプロデューサー、エンジニアのマルタ・サローニ。ホームページを見ていただくとおわかりいただけるだろう、若手ながらすごいディスコグラフィの持ち主。サンファやウェスターマンのアルバムからも感じる耳心地良い音量感とバランス感覚がバー・イタリアのようなバンドに持ち込まれると化学反応を産む。

 『The Twits』のレコーディングは『Tracey Denim』リリース前にはすでに済んでいたらしいが、すでに趣の違ったサウンド。ギターのサム・フェントンとジェズミ・フェミのバンド、ダブル・ヴァーゴに若干寄った感じだがニーナ・クリスタンテのヴォーカルが入るとやはりバー・イタリア。彼女の声は唯一無二でバー・イタリアの核を担っている。
 アルバム通して多出するコンプで潰し切ったドラムが危なっかしいが愛らしいギターと相性がいい。

 気だるく不穏で不機嫌そうなかっこいいバンドは腐るほどいるが僕がバー・イタリアを好きな理由は大胆さだ。すごく嫌な言い方だが、こういう雰囲気はセルフ・プロデュース的で、既出の似た類のバンドのペルソナをいかに恥ずかしげもなく演じ切るかで決まる(とたまに思う)。途中で恥ずかしくなっても飲み込まれて拗らせてもあらぬ方向に行ってしまう。ピッチフォークなどのレヴューや批評があまりよくないのもそういうところを疑われてる感じがある。が、“worlds greatest emoter” と “my little tony” で僕の疑いは晴れた。言い過ぎかもしれないがこういうダンサブルな曲をシングルで出すということに「僕ら大きい会場でもやります! やらせてください!」という気概を感じる。

 今作のなかでも僕が抜けて好きな曲が “glory hunter” だ。これはもう感覚でしかないのだけど、曲の中に3人いる。気がする。特に頭のツイン・ギターにニーナが歌うところを聴くとボーッと三つ影が浮かび上がってくる。これはバー・イタリアの魅力のひとつだと思っていて、メディア露出が極端に少ないバンドなのに3人の関係性が伝わってくるというか曲に滲み出ている。こういう表現ができるってことはやはり本物なのかもしれない。

 アルバムを4枚出しているのに次出るアルバムがどうなるのかこんなにハラハラするバンドも珍しいと思う。いまいちばんイケてるバンドがどう化けるのか楽しみでならない。

Tujiko Noriko - ele-king

 おもに〈Mego〉~〈Editions Mego〉からのリリースを中心に、00年代から活躍をつづける電子音楽家、ツジコ・ノリコ。その5年ぶりの日本ツアーが決定している。最新作『Crépuscule I & II』をもとにしたライヴになるそうで、京都、東京、福岡の3都市をめぐる。東京公演ではベルリンの映像作家 Joji Koyama がAVを手がけるとのこと。詳しくは下記より。

Tujiko Noriko Japan Tour 2024

1/09 Tue at Soto Kyoto
https://soto-kyoto.jp

1/11 Thu 18:30 at WWW Tokyo w/ Joji Koyama LIVE A/V
https://www-shibuya.jp/schedule/017371.php
TICKET https://t.livepocket.jp/e/20240111www *限定早割販売中

1/13 Sat at Artist Cafe Fuokuoka
https://artistcafe.jp

tour promoter: WWW / PERSONAL CLUβ

薄明かりのサウンドスケープ。エレクトロニカの伝説、フランス拠点のTujiko Norikoが5年ぶりの日本ツアーを開催。東京公演ではベルリンの映像作家Joji KoyamaとのライブA/Vを披露。

2001年のデビュー以来00年代のDIYなサウンドスケープのムーヴメントから生まれたエレクトロニカを始め、アートを軸とした電子音楽シーンで映像含む数多くの作品をリリースし、映画、パフォーマンス、アニメーション、インスタレーションの音楽制作含む数々のコラボレーションを果たして来たTujiko Norikoが、本年明けに老舗Editions Megoからリリースした映像作家Joji Koyamaとの大作『Crépuscule』(薄明かり)を基にしたライブを携え、京都、東京、福岡を巡る5年ぶりの日本ツアーを開催。

https://www.instagram.com/koyama_tujiko/


Tujiko Noriko

フランスを拠点に活動するミュージシャン、シンガーソングライター、映像作家。2000年、Peter RehbergとChristian Fenneszが彼女の最初のデモテープを発見し、アルバム『少女都市』でMegoからデビュー。アヴァンギャルドなエレクトロニカ周辺で高い評価を受け、Sonar、Benicassim、Mutekなどのフェスティバルに招かれ、世界中で演奏活動を行う。これまでにEditions Mego、FatCat、Room 40、PANから20枚のアルバムをリリースし、高い評価を得ている。2002年のアルバム「Hard Ni Sasete」はPrix Ars ElectronicaでHonorary Mentionを受賞。

映画、ダンス・パフォーマンス、アニメーション、アート・インスタレーションなどの音楽を手がけ、著名なミュージシャン、Peter Rehberg,、竹村延和、 Lawrence Englishらとコラボレーションしている。2005年には初の映像作品「Sand and Mini Hawaii」と「Sun」を制作し、パリのカルティエ財団や東京のアップリンクなどで国際的に上映された。2017年、Joji Koyamaと共同脚本・共同監督した長編映画「Kuro」はSlamdance 2017でプレミア上映され、Mubiでも上映された。2020年から21年にかけて、彼女の音楽作品はレイナ・ソフィア美術館で開催された展覧会「Audiosphere」(主要な現代美術館で初めて、映像もオブジェも一切ない展覧会)に出品された。

2020年にはサンダンスとベルリン国際映画祭で上映された長編映画「Surge」の音楽を担当し、2022年にはla Botaniqueでプレミア上映されたミラ・サンダースとセドリック・ノエルの映画「Mission Report」の音楽を担当した。

Joji Koyamaとの最新アルバム『Crepuscule I&II』をEditions Megoからリリースしている。

https://twitter.com/tujiko_noriko

ディスコグラフィー

'Shojo Toshi' 2001 (Mego)
'Make Me Hard' 2002 (Mego)
'I Forgot The Title' 2002 (Mego)
'From Tokyo To Naiagara' 2003 (Tomlab)
'DACM - Stereotypie' with Peter Rehberg 2004 (Asphodel)
'28' with Aoki Takamasa 2005 (Fat Cat)
'J' with Riow Arai 2005 (Disques Corde)
'Blurred In My Mirror' with Lawrence English 2005 (ROOM 40)
'Melancholic Beat' 2005 (Bottrop-boy)
'Solo' 2006 (Editions Mego)
'Shojo Toshi' 2007 (Editions Mego)
'Trust' 2007 (Nature Bliss)
'U' with Lawrence English and John Chantler 2008 (ROOM 40)
‘GYU’ with tyme. 2011/12 (Nature Bliss/ Editions Mego)
‘East Facing Balcony’ with Nobukazu Takemura 2012 (Happenings)
‘My Ghost Comes Back‘ 2014 (Editions Mego/ p*dis)
'27.10.2017' with Takemura Nobukazu 2018 (Happenings)
‘Kuro’ 2018 (pan)
‘Surge Original Sound Track Album’ 2022 (SN variations/Constructive)
‘Crepuscule I&II’ 2023 (Editions Mego)
‘Utopia and Oblivion’ 2023 (Concept compilation album from Constructive)


Joji Koyama

ベルリンを拠点に活動する映像作家、アニメーター、グラフィック・アーティスト。短編映画、アニメーション、ミュージックビデオ(Four Tet、Mogwai、Jlinなど)は国際的に上映され、ロンドン短編映画祭や英国アニメーションアワードで受賞。2015年には初の短編ビジュアルストーリー集「Plassein」を出版。Tujiko Norikoと脚本・監督を務めた長編映画「Kuro」はスラムダンス映画祭でプレミア上映され、MUBIで世界中に配信された。様々なメディアやコンテクストで活動し、最近のコラボレーションには、絶賛されたアルバム「Crépuscule I&II」に基づくTujiko NorikoとのツアーライブA/Vプロジェクトがある。

jojikoyama.com
instagram.com/jojikoyama
twitter.com/jojikoyama



Tujiko Noriko - Crépuscule I & II [Editions Mego / pdis]

まだEditions Megoになる前のMegoの初期、過激な作品群の中に思いがけない作品が登場しました。PITA、General Magic、Farmers Manualなどの歪んだハードディスクの中から、全く異なる種類のリリースが現れたのです。コンピュータで作られたものでしたが、よりソフトな雰囲気、雲のような音、そしてメロディーさえもありました。それは日本人アーティスト、ツジコノリコの記念すべきデビュー作『少女都市』(2001年)であり、彼女のキャリアをより多くの人々に紹介しただけでなく、Editions Megoの門戸をより幅広い実験的音楽形態に開くことになりました。

電子的な抽象性、メロディー、声、そして雰囲気というツジコノリコ特有の合成は、彼女の神秘的な言葉の周りを音が優しく回り、歌として構成された感情的な聴覚実験の連続へと変化していくため、他の追随を許さないものです。彼女はMegoからのデビュー作以来、ソロ作品やコラボレーションを重ね、また女優や監督として映画界にも進出するなど、進化を続けています。

PANから2019年にリリースされたサウンドトラック『Kuro』以来の新作となる本作では、映画というメディアが彼女の音楽に与えた影響を聴くことができ、視覚的な記号が手元にある刺激的なオーディオに呼び起こされます。インストゥルメンタルのインタールードは、タイトルと一緒に映画の風景を思い起こさせ、映画の形式を再確認させます。これは、深い人間的な存在感を持つ合成音楽です。内宇宙の幻想的な領域を彷徨う人間の心が、通常はそのような人間的な傾向を崩すよう促す機械を通して、絶妙に表現されています。その温もりと静寂、そして夢のような空間が、ツジコノリコという作家の個性であり、この『Crépuscule』は、その力を見事に証明しています。

「Crépuscule(薄明かり)」というタイトルこの音楽の夢遊病的な性質を見事に表現しており、夜行性の変化が広い意味での静寂を呼び起こします。「Crépuscule I」は短い曲のセレクションで構成され、「Crépuscule II」は3曲の長めの曲で構成され、これらの曲とムードが呼吸するためのスペースを提供しています。本作は、リスナーが彼女の目を通して世界を見ることを可能にし、機械に人間味を与える彼女の巧妙な手腕により、穏やかな不思議な世界がフレーム内にフォーカスされています。

Track listing:

Disc 1
1 Prayer 2′ 22”
2 The Promenade Vanishes 6′ 18”
3 Opening Night 4′ 30”
4 Fossil Words 8′ 10”
5 Cosmic Ray 3′ 26”
6 Flutter 4′ 18”
7 A Meeting At The Space Station 11′ 38”
8 Bronze Shore 6′ 46”
9 Rear View 3′ 22”

Disc 2
1 Golden Dusk 12′ 50”
2 Roaming Over Land, Sea And Air 23′ 58”
3 Don’t Worry, I’ll Be Here 18′ 45”

INFO https://www.inpartmaint.com/site/36264/

 2024年2月に東京および大阪での公演を控えるワンオートリックス・ポイント・ネヴァー。そのスペシャル・ゲストとして、なんとなんと、ジム・オルーク石橋英子の出演が決定! オルークは最新作『Again』にも参加していたわけだけれど、ここ日本でついに彼らがおなじステージに立つ、と。
 またこのアナウンスに合わせ、『Again』収録曲 “Nightmare Paint” のMVが公開されている。監督はアンドリュー・ノーマン・ウィルソン。目から出る光線でCDを焼く? なんとも印象的な映像なので、こちらもチェックしておこう。

DJ HOLIDAY - ele-king

 今年日本でも公開されて話題になった映画『ルードボーイ』、UKにおいて先駆的かつもっとも影響力のあったレゲエ・レーベルの〈トロージャン〉の物語である。で、この映画のヒットもあってか、このところ日本でも60年代、70年代のスカ、ロックステディ、アーリー・レゲエが静かに注目されているという。そんな折に、DJ HOLIDAYがまたしても〈トロージャン〉音源を使ったミックスCDをリリースする。
 〈トロージャン〉には膨大な量の音源があるわけだが、DJ HOLIDAYはそのなかから、クリスマス〜年末年始という、人恋しいこれからの季節に相応しいラヴリーな20曲を選んでいる。ロックステディの女王、フィリス・ディロンとアルトン・エリスによる甘々のデュエット曲“Love Letters ”からはじまるこの『Our Day Will Come』、有名曲のカヴァーも多く、きっといろんな人が楽しめるはず。ハードコア・バンド、Struggle for Prideのフロントマンとはまた別の表情の、珠玉のレゲエ集をどうぞお楽しみください。

DJ HOLIDAY (a.k.a. 今里 from Struggle for Pride)
Our Day Will Come : Selected Tunes From Trojan Records
TROJAN/OCTAVE-LAB

フォーマット:CD
発売日:2023年12月20日 (水)

TRACK LIST
1. Phyllis Dillon & Alton Ellis / Love Letters
2. B.B Seaton / Lean On Me
3. B.B. Seaton / Thin Line Between Love And Hate
4. Louisa Marks / Keep It Like It Is
5. Lloyd Charmers / Let's Get It On
6. John Holt / When I Fall In Love
7. Merlene Webster / It's You I Love
8. Slim Smith / Sitting In The Park
9. Pat Kelly / Somebody's Baby
10. Alton Ellis & The Flames / All My Tears
11. Derrick Morgan / Tears On My Pillow
12. Judy Mowatt / Emergency Call
13. The Heptones / Our Day Will Come
14. The Paragons / Maybe Someday (Oh How It Hurts)
15. Rudies All Around / Joe White
16. The Gaytones / Target
17. Ken Boothe / Why Baby Why
18. Ken Boothe / Now I Know
19. Owen Gray / I Can't Stop Loving You
20. Derrick & Naomi / Pain In My Heart /


〈TROJAN RECORDS 〉
イギリスに移住したジャマイカ人、リー・ゴプサルが1967年に設立した、イギリス初のレゲエ・レーベル。もともとは彼と同じように、移民としてイギリスで暮らすジャマイカ人たちのためにジャマイカ音楽を発信していたが、その音楽は労働者階級の白人にも浸透し、ある意味、その後のUKベース・ミュージックの下地を作っていく。リー・ペリーをはじめ、ジャマイカの一流アーティストたちによる名盤は数多く、また、アートワークも格好いいので、いまでも人気のレーベルであり続けている。

L’Rain - ele-king

 ブルックリン育ちのミュージシャン兼キュレーターのロレインことタジャ・チークは、3作のアルバムを通じて、彼女が「approaching songness(歌らしさへの接近)」と呼ぶ領域間で稼働してきた。その音楽は、記憶と連想のパリンプセスト[昔が偲ばれる重ね書きされた羊皮紙の写本]で、人生のさまざまな局面で作曲された歌詞とメロディーの断片が、胸を打つものから滑稽なものまで、幅広いフィールド・レコーディングと交互に織り込まれている。それはつねに変化し、さまざまな角度からその姿を現す。ニュー・アルバム『I Killed Your Dog』の “Our Funeral” の冒頭の数行で、チークはオートチューンで声を歪ませて屈折させ、息継ぎの度に変容させていく。焦らそうとしているわけではなく、一節の中に複数のヴァージョンの彼女自身を投影させるスペースを作り出そうとしているのだ。高い評価を得た2021年のアルバム『Fatigue』のオープニング・トラックは、「変わるために、あなたは何をした?」との問いかけではじまっている。ロレインは確かな進化を遂げながら、その一方でチークは、これまでの作品において、一貫性のある声を保っているのだ。ループするギター、狂った拍子記号、糖蜜のようににじみ出る、心を乱すようなドラムスなど、2017年の自身の名を冠したデビュー盤でみられた音響的な特徴は、『I Killed Your Dog』でも健在だ。同時にロレインは、これまでよりも人とのコラボレーションを前面に打ち出している。今回は、彼女とキャリアの初期から組んできたプロデューサーのアンドリュー・ラピンと、マルチ・インストゥルメンタリストのベン・チャポトー=カッツの両者が、彼女自身と共にプロデューサーとしてクレジットされているのだ。チークが過去の形式を打ち破ることを示すもっとも明白なシグナルは、気味が悪くて注意を引く今作のアルバム・タイトルに表れている。『I Killed Your Dog』の発売が発表された際のピッチフォークのインタヴューでは、これは彼女の「基本的にビッチな」アルバムであり、リスナーの期待を裏切り、意図的に不意打ちを食らわせるものだと語っている。また他のインタヴューでは、最近、厳しい真実を仕舞っておくための器としてユーモアを利用するピエロに嵌っていることに言及している。これは、感傷的なギターとピッチを変えたヴォーカルによる “I Hate My Best Friends(私は自分の親友たちが大嫌い)” という1分の長さの曲にも表れている。(念のため、実際には彼女は犬好きである。)
 メディアは、ロレインの音楽がいかにカテゴライズされにくいかということを頻繁に取り上げている。だが、チークが黒人女性であり、予期せぬ場で存在感を発揮していることから、これがどの程度当たっているのかはわからない。その点では、彼女には他のジャンル・フルイド(流動性の高い)なスローソン・マローン1(『Fatigue』にも貢献した)、イヴ・トゥモア、ガイカやディーン・ブラントなどの黒人アーティストたちとの共通点がある。「You didn’t think this would come out of me(私からこれが出てくるとは思わなかったでしょ)」と、彼女は “5to 8 Hours a Day (WWwaG)” で、パンダ・ベアを思わせるような、幾重にも重ねられたハーモニーで歌っている(「この歌詞の一行は間違いなく、業界へ向けた直接的な声明だ」と彼女はClash Musicでのインタヴューで認めている)。
 『I Hate Your Dog』 では、チークがこれまででもっともあからさまにロックに影響された音楽がフィーチャーされているが、彼女のこのジャンルとの関係性は複雑なものだ。最初に聴いたときに、私がテーム・インパラを思い浮かべた “Pet Rock” について、アルバムのプレス・リリースにはこう書かれている──2000年代初期のザ・ストロークスのサウンドと、若い頃のロレインが聴いたことのなかったLCDサウンドシステム──これには、一本とられた。
 彼女の初期のアルバムと同じくシーケンス(反復進行)は完璧で、各トラックを個別に聴くことで、その技巧を堪能することができる。これは、トラックリストに散りばめられたスキットやミニチュアに顕著で、アルバムのシームレスな流れに押し流されてしまいがちだ。33秒間という長さの “Monsoon of Regret” は、微かな焦らしが入ったような、混沌とした曲であり、“Sometimes” は、アラン・ローマックスがミシシッピ州立刑務所にループ・ペダルをこっそり忍び込ませたかのような曲だ。
 “Knead Be” がアルバム『Fatigue』の言葉のないヴォーカルとローファイなキーボードによる1分間のインタールードで、ヴィンテージなボーズ・オブ・カナダのようにワープし、不規則に揺れる “Need Be” をベースにしている曲だと気付くには、注意深く聴き込む必要がある。この曲でチークは、そのトラックに沈んでいたメロディーの一節を、小さい頃の自分に、物事がうまくいくことを悟らせる肯定的な賛歌へと拡大した。ただ、その言葉(「小さなタジャ、前に進め。あなたは大丈夫だから」)はミックスの奥深くに潜んでいるため、歌詞カードを見ないと、何と歌っているのか判別するのが難しい。
 初期の “Blame Me” のような曲では、チークはひとつのフレーズのまわりを、まるでメロディーの断片が頭の中に引っかかってリピートされているかのようにグルグルと旋回する。『I Killed Your Dog』では、何度かデイヴィッド・ボウイの “Be My Wife” のようなやり方で、一度歌詞を最後まで通したかと思うと、またそれを繰り返して歌う。あらためて聴き返すと、彼女が足を骨折した後に書いたバラード調の “Clumsy(ぎこちない・不器用)” ほどではないが、歌詞は、その歌詞に出てくる問いかけ自体に回答しているかのように聴こえる。“Clumsy” では曲の最後に、冒頭で投げかけた問いへと戻る。「想像もつかないような形で裏切られたとき、(自分が足をついている)地面をどのように信頼しろというの?」
 彼女はまだ、答を探り続けているのかもしれない。
 終曲の “New Years’ UnResolution” は、チークがアルバムを「アンチ・ブレークアップ(別れに反対する)」レコードと表現したことを端的に表している。この曲でも、歌詞がループとなって繰り返されるが、今回はその繰り返しの中で、歌詞が大きく変えられているのだ。彼女はその言葉には、別れた直後と、かなりたってから、後知恵を働かせて書いたものがあると説明している。バレアリックなDJセットで、宇多田ヒカルの “Somewhere Near Marseilles -マルセイユ辺り-” と並べても違和感のない、ダブ風のキラキラと揺れる光のようなグルーヴに乗せて、チークは、陰と陽のような、互いを補いあう2つのヴァースを生み出している。

ひとりでいるのがどんな感じか忘れてしまった
雨を吐いて 雪を吐き出す。
日々は、ただ古くなっていく
何も持たないということがどんなものか知っている?
どんなものかは知らないけれど
あなたは今夜ここに来る?
私から電話するべきか あるいは無視するべき? 私は……する
恋をするということがどんな感じか忘れてしまった
太陽を飲み込んで 雪を吐き出す
日々は、古くはならない。
何かを持っているということがどんなことか知っている?
ふたりともそれを知っている。
ただ真っ直ぐに私の目を見て
あなたから私に電話するべきか あるいは私を無視するべき? あなたは……する

 彼女はいまや、人生を両側から眺めることができたのだ。


L’Rain - I Killed Your Dog

written by James Hadfield

Across three albums, L’Rain – the alias of Brooklyn-raised musician and curator Taja Cheek – has operated in an interzone that she calls “approaching songness.” Her music is a palimpsest of memories and associations, interleaving fragments of lyrics and melodies composed at different points in her life, with field recordings that range from poignant to hilarious. It’s constantly shifting, revealing itself from different angles. During the opening lines of “Our Funeral,” from new album “I Killed Your Dog,” Cheek contorts and refracts her voice with AutoTune, morphing with each breath she takes. It isn’t that she’s playing hard to get, more that she’s making space for multiple versions of herself within a single stanza.

“What have you done to change?” asked the opening track of her widely acclaimed 2021 album “Fatigue.” L’Rain has certainly evolved, but Cheek has maintained a consistent voice throughout her work to date. Many of the sonic signatures from her self-titled 2017 debut – looping guitar figures, off-kilter time signatures, phased drums that ooze like treacle – are still very much present on “I Killed Your Dog.” At the same time, L’Rain has become a more collaborative undertaking: She’s quick to credit the contributions of producer Andrew Lappin – who’s been with her since the start – and multi-instrumentalist Ben Chapoteau-Katz, both of whom share producer credits with her this time around.

The most obvious signal that Cheek is breaking with past form on her latest release is in the album’s lurid, attention-grabbing title. As she told Pitchfork in an interview when “I Killed Your Dog” was first announced, this is her “basic bitch” album, pushing back against expectations and deliberately wrong-footing her listeners. She’s spoken in interviews about a recent fascination with clowns, who use humour as a vessel for hard truths. In this case, that includes a minute-long song of gooey guitar and pitch-shifted vocals entitled “I Hate My Best Friends.” (For the record, she loves dogs.)

Media coverage frequently notes how resistant L’Rain’s music is to categorising, though it’s hard to say how much this is because Cheek is a Black woman operating in spaces where her presence wasn’t expected. In that respect, she has something in common with other genre-fluid Black artists such as Slauson Malone 1 (who contributed to “Fatigue”), Yves Tumor, GAIKA and Dean Blunt. “You didn’t think this would come out of me,” she sings on “5 to 8 Hours a Day (WWwaG),” in stacked harmonies reminiscent of Panda Bear. (“That line is definitely a direct address to the industry,” she confirmed, in an interview with Clash Music.)

“I Hate Your Dog” features some of Cheek’s most overtly rock-influenced music to date, although her relationship with the genre is complicated. According to the press notes for the album, “Pet Rock” – which made me think of Tame Impala the first time I heard it – references “that early 00’s sound of The Strokes and LCD Soundsystem that L’Rain never listened to in her youth.” Touché.

Like her earlier albums, the sequencing is immaculate, and it’s worth listening to each track in isolation to appreciate the craft. That’s especially true of the skits and miniatures scattered throughout the track list, which can get swept away in the album’s seamless flow. The 33-second “Monsoon of Regret” is a tantalising wisp of inchoate song, reminiscent of Satomimagae; “Sometimes” is like if Alan Lomax had snuck a loop pedal into Mississippi State Penitentiary.

It takes close listening to realise that “Knead Be” is based on “Need Be” from “Fatigue,” a one-minute interlude of wordless vocals and lo-fi keyboards that warped and fluttered like vintage Boards of Canada. Here, Cheek takes the wisp of melody submerged within that track and expands it into a hymn of affirmation, in which she lets her younger self know that things are going to work out – though her words of encouragement (“Go ’head lil Taja you’re okay”) lurk so deep in the mix, you’d need to look at the lyric sheet to know exactly what she’s singing.

On earlier songs such as “Blame Me,” Cheek would circle around a single phrase, like having a fragment of a melody stuck in your head on repeat. Several times during “I Killed Your Dog,” she runs through all of a song’s lyrics once and then repeats them, in the manner of David Bowie’s “Be My Wife.” Heard again, the words sound like a comment on themselves – no more so than on the ballad-like “Clumsy” (written after she broke her foot), when she returns at the end of the song to the question posed at its start: “How do you trust the ground when it betrays you in ways you didn’t think imaginable?” It’s like she’s still grasping for an answer.

Closing track “New Year’s UnResolution” – which best encapsulates Cheek’s description of the album as an “anti-break-up” record – also loops back on itself, except this time the lyrics are significantly altered in the repetition. She’s explained that the words were written at different points in time, both in the immediate aftermath of a break-up and much later, with the earned wisdom of hindsight. Over a shimmering, dub-inflected groove that wouldn’t sound out of place alongside Hikaru Utada’s “Somewhere Near Marseilles” in a Balearic DJ set, Cheek delivers two verses that complement each other like yin and yang:

I’ve forgotten what it’s like to be alone
Vomit rain spit out snow.
Days, they just get old.
Do you know what it’s like to have nothing?
I don’t know what it’s like.
Will you be here tonight?
Should I call you or should I ignore you? I will...
I’ve forgotten what it’s like to be in love
Swallow sun spit out snow
Days, they don’t get old.
Do you know what it’s like to have something?
We both know what it’s like.
Just look me in the eye.
Should you call me or should you ignore me? You will...

She’s looked at life from both sides now.

様々な話題作・注目作が公開された2023年を振り返り、さらには公開が待たれる2024年の注目作の数々を情報通たちが厳選して紹介。

見逃してしまった2023年の重要作に改めて出会い、見逃せない2024年の注目作に備えよう!

目次

対談 ハリウッドの現在、そして映画の未来 町山智浩×宇野維正
Pick Up Review
 ただ走る映画――『レッド・ロケット』 上條葉月
 #MeToo ムーヴメントに連なる重要作――『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』 児玉美月
 スクリーンの向こう側にも楽園などなかった――『Pearl パール』讃 高橋ヨシキ
 ハラスメント加害者の視点――『TAR ター』 戸田真琴
 配信で絶大な人気を保つアダム・サンドラー――『バト・ミツバにはゼッタイ呼ばないから』 長谷川町蔵
 令和のグラインドハウス映画―― 『プー あくまのくまさん』 ヒロシニコフ
 昼メロ世界が描き出す映画とドラマの複雑な隔たり――『別れる決心』 三田格

アンケート 2023年間ベスト&2024年の注目作
 伊東美和/宇野維正/大久保潤/大槻ケンヂ/片刃/上條葉月/カミヤマノリヒロ/川瀬陽太/北村紗衣/木津毅/児玉美月/堺三保/佐々木敦/佐々木勝己/侍功夫/品川亮/柴崎祐二/城定秀夫/高橋ターヤン/高橋ヨシキ/田野辺尚人/月永理絵/てらさわホーク/戸田真琴/Knights of Odessa/中沢俊介/夏目深雪/ナマニク(氏家譲寿)/西森路代/長谷川町蔵/はるひさ/樋口泰人/ヒロシニコフ/藤田直哉/古澤健/堀潤之/町山智浩/真魚八重子/三田格/三留まゆみ/森直人/森本在臣/柳下毅一郎/山崎圭司/吉川浩満/涌井次郎/渡邉大輔

鼎談 「観たい映画を観るだけだから」――2023年総括&2024年の展望 柳下毅一郎×高橋ヨシキ×てらさわホーク

2024年の注目作
 2024年注目アクション映画 高橋ターヤン
 2024年の注目ホラー映画 伊東美和
 2024年注目のSF映画 堺三保
 2024年注目のアメコミ映画 てらさわホーク
 2024年公開予定 ヨーロッパ映画注目作 渡邉大輔
 アジア映画2024年注目作 夏目深雪

対談 反=恋愛映画の2023年 佐々木敦×児玉美月

*レコード店およびアマゾンでは12月15日(金)に、書店では12月25日(月)に発売となります。

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
12月15日発売
amazon
TOWER RECORDS
12月25日発売
TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
ヨドバシ・ドット・コム
HMV
honto
Yahoo!ショッピング
7net(セブンネットショッピング)
紀伊國屋書店
e-hon
Honya Club

【P-VINE OFFICIAL SHOP】
SPECIAL DELIVERY

全国実店舗の在庫状況
 ※書店での発売は12月25日です。
丸善/ジュンク堂書店/文教堂/戸田書店/啓林堂書店/ブックスモア
紀伊國屋書店
三省堂書店
旭屋書店
有隣堂
くまざわ書店
TSUTAYA
大垣書店
未来屋書店/アシーネ

interview with Lucy Railton - ele-king

 ルーシー・レイルトンのライヴではひとつの音を構成する複数の「聴こえない音」がある。それが突如可聴域にあらわれる。増幅されたバイオリンの旋律が会場の壁や床、観客の手元にあるビールグラスに共振することで、モノフォニックな音のハイフンが生まれ、不安定な声部連結が起こる。またあるときはノンビブラートで演奏する持続音から汽笛のようなハーモニクスがあらわれて空間と調和する——弦楽の特定帯域を加減すると別帯域にあった潜在的な音が幽霊のように漸進してくる現象と似ている——その西洋音楽の語彙だけではとらえきれないライヴの数ヶ月後、ルーシーから新作が届いた。

「実験音楽」という用語はまさに「市場」を目的としたものであり、カテゴリーとはそのためのものに過ぎないと思います。

TW:MODE(https://mode.exchange/)3日目のソロ・ライヴとても印象に残りました。まず、日本滞在中のことなどお伺いできればと思います。

LR:今回の日本での旅では、とても素晴らしい時間を過ごすことができました。フェスティヴァルの主催者であるロンドンの33-33と東京のBliss Network、そしてベアトリス・ディロンYPYカリ・マローンスティーヴン・オマリー、エイドリアン・コーカーという素晴らしい仲間たちと東京で過ごしました。それから、藤田さん(FUJI||||||||||TA)の田舎にある自宅を訪問し、自然のなかで彼の家族と静かな時間を過ごすことができました。日本に来たことはありましたが、今回は特別でした。

TW:新作『Corner Dancer』は何かしらのコンセプトに基づいているのでしょうか。それとも音楽的直感を起点として作られたのでしょうか。

LR:今回はさまざまなアプローチをとりました。私はときに構造、空間、美学について明確なアイデアを持っていて、多くの意味を持つ身近な素材から音のイメージを構築していくこともあれば、表現の衝動から自由に音楽を作ることもあります。また、私の音楽は自分がいま感じていることを表しているので、このアルバムは私が昨年経験してきた様々な状態をトレースしたものでもあります。

TW:作曲をするとき特定の音色または音響を想定していますか。その場合、演奏行為の結果を確認しながら進めていくのでしょうか。

LR:このアルバムを作りながら、私は音楽を作るときに様々なアプローチを取るのが心地よいことに気づきました。私の音楽家としての存在は多岐に渡るので、創作に対する方向性も興味も多様です。スタジオでもステージ上と同じように、アイデアや表現を即座に伝達するような演奏をすることもありますが、そういうときはあなたが言うように特定の音響を探求しているのかもしれません。アルバムの楽曲 “Rib Cage” や “Held in Paradise” では、私にとってまったく新しいプロセスで作業しています。新しい美学や形、色、アイデンティティに取り組んでいます。ほかの創作と同様、究極的には展開するイメージ、あらわれる声、形成される形への執着です。チェロだけを使って作業をすることもありますが、この楽器は私にとって非常に馴染みのある音で身体の経験です。チェロは私の血であり故郷であり古い友人と話しているようなものなので、創造性が別の意味を帯び、深く個人的で古いものと繋がろうとする試みになります。

TW:作曲をする際に典拠、文脈は重要ですか? 文脈は時代と共に再解釈されていく面もありますが。

LR:私は音の抽象的な同一性、音そのもの、そして音の由来となる歴史的、物語的背景双方に関心がありますが、どちらか一方が重要というわけではありません。私のチェロは所有している楽器の中で最も高価なものですが、今回のアルバムではiPhoneで録音した(チェロの)音も聴くことができます。日本製のBOSS SP-303デジタル・サンプラーとエフェクト、GRMのツール、壊れた弓の毛、Buchlaのサンプル、アーカイブ録音によるチーターの声などを使っています。私は音のエネルギーとキャラクターに夢中になっていて、それは私の創作方法の道標にもなります。ほとんどの場合、音そのものに直接心を奪われ、その音がどこから来たかよりも音自体の物語りに耳をかたむけています。

TW:超低周波音(周波数100Hz以下の音)を楽曲に使用することと、近年の音楽再生環境やエンジニアリングの変化は関係していますか?

LR:それらのトラックは再生システムに依存しているため、サブ周波数を聴くことができるのは一部の人だけかもしれません。なのでこれは少し意地悪なトリックです。私は音楽が大きな空間、劇場やクラブ、洞窟などで演奏されることを想像しているので、多くの人にとって聴こえない音であるにもかかわらず、サブ周波数を使用しています。私は、サブ周波数の物理的な影響と私たちの生理的な反応に興味があり、そういった感覚を呼び起こすためにサブ周波数を使用しています。そして、私のミックスダウンの方法は少々型破りで、ときに完全にアンバランスで奇妙なものですが、それによって挑戦的なリスニング体験を生み出すので、私にとっては非常に魅力的です。

Lucy Railton ‘Blush Study’ from album 'Corner Dancer'

チェロは私の血であり故郷であり古い友人と話しているようなものなので、創造性が別の意味を帯び、深く個人的で古いものと繋がろうとする試みになります。

TW:サブ周波数に関連してもう少しお伺いできればと思います。音の現象といいますか、聴こえない音が聴こえるというような音のパラドックスに関心があるのでしょうか? “Suzy In Spectrum ”では完全四度を繰りかえし聴いているうちに様々な倍音が聴こえてきました。

LR:もちろんチューニング・システムを扱う音楽家として、音の現象学は私がやっていることの大部分を占めています。『Suzy In Spectrum』では、和音(とその倍音)を分析しパラメーターの選択によって設計されたハーモニーを生成するスペクトル変換ツールを使っています。つまりある意味では、チェロの和音から自然な倍音(これを「現象」と呼ぶこともできますが)を聴いていることになるわけですが、それに加えて合成された和声素材を聴いていることにもなります。これを音の中のゴースト、背景のフェード、オーラのように扱っています。

TW:ライヴ・パフォーマンスでは演奏をする環境だけではなく、オーディエンスにも影響を受けますか。

LR:そうですね、ライヴでは空間にこだわります。ライヴ会場のWall&Wall(http://wallwall.tokyo/)はドライな音の四角い空間で、素晴らしい音響システムがあることは知っていました。とてもシャープで構造的なサウンドを会場に持ち込みたかったし、クラブスペースで予想される大音量に逆らうような音量を工夫しました。音のステレオイメージを美しくする一方、会場全体をとても静かにしなければなりませんでした。私はそのようにして人々を近づけるのが好きです。そうすることで自分がどこに誰といるのか、どのように聞いているのかを感じ取ることができます。

私は「巨匠」や「専門家」にはあまり興味がありません。伝統は厳格さや俗物主義につながるものであり、私は創造する上でこのふたつの要素にアレルギーがあります。

TW:主要楽器ではないツールやソフトウェアを使って作曲をする際に困難やジレンマを感じることはありますか。またどんな楽器であれその特性や性質を知っておく必要はありますか。

LR:私の楽器であるチェロに関しては、非常に規律ある技術的立場から取り組んできました。もう30年も演奏しているので、どのように音作りのツールとして使うかは熟知していますし、チェロの音の可能性を探求することはやめたというか、もう十分に知っていると思います! チェロに比べれば多くのことに関して私は初心者ですが、ほかの楽器の技術やプロセス、テクノロジーにおける新しさや好奇心が、私の創造性の多くを駆り立ててもいます。私は「巨匠」や「専門家」にはあまり興味がありません。伝統は厳格さや俗物主義につながるものであり、私は創造する上でこのふたつの要素にアレルギーがあります。私は慣れていない方法も自由であると感じる場合は採用しますし、創造の妨げになるようなことがあれば直ちにその道具を使うのをやめます。例えば“Held in Paradise”では、ヴァイオリンを膝の上に置き、チェロのような持ち方でシンプルなコードを弾いています。チェロであそこまで高い音域を弾くのは技術的に難しいので、ヴァイオリンという選択肢が高音域を自由に演奏することに役立ちました。これは私が困難にどのように対処しているかを示す好例です。私は苦労するのではなく、創造的になるための流動的な方法を見つけるようにしています。テクニカルで複雑なメソッドには興味ありませんが、そういったことも時間が経つと出来るようになったので、実際は簡単に作業できるものだけを使っていると思います。

TW:ジャンルというのは普段意識することがない一方で、音楽史上厄介かつ複雑な問題でもあります。そこであえてお伺いしたいのですが「実験音楽」がひとつのジャンルにもなった現在、音楽における実験とは.……?

LR:その用語はまさに「市場」を目的としたものであり、カテゴリーとはそのためのものに過ぎないと思います。私は、声を使ったりクラシック音楽の解釈を通じて実験しているオペラ歌手たちに会ったこともありますが、私はそれを文字通りなにか新しいものを探求しているという理由から「実験的」であると言います。ジャズのドラマーがシンバルで新しいサウンドを実験することも同じく重要です。民俗の伝統や古代の宮廷音楽に根ざす人びとも同様に実験していました。実験なしにはなにもはじまりません。問題なのは、ほとんどすべての音楽が実験的であるのに、なにがほかのジャンルと実験音楽を分けるのでしょうか? その質問には正確に答えることはできませんが、このラベルを付けられている私が知っている音楽家たちは、そのこと自体あまり気にしていないと思います。私たちは新しいことに挑戦し、自分を追い込む個人であるという考えがアーティストの特性だと思いますし、これをやっていないなら何をしているのでしょう?

TW:最近はどんな音楽を聴いていますか?

LR:今週は. . . . Tirzah『trip9love...??? 』、Wolfgang von Schweinitz『Plainsound Study No. 1, Op. 61a』、 Kendrik Lamar 『Mr. Morale & The Big Steppers』、Matana Roberts 『Coin Coin Chapter Five in the Garden』、Ellen Arkbro and Johan Graden『I get along without you very well』。

Alvvays - ele-king

「聞いたよ、帰ってきたんだって」フィードバックのノイズの上でモリー・ランキンがそうやって歌いはじめるとそこにあった時間の隔たりが消えたような感じがした。まるで子ども時代の友だちと久しぶりに会ったときみたいに思い出といまとがあっという間に繋がる。

 カナダのインディ・ポップ・バンド、オールウェイズの久しぶりの来日公演、エンヤの “The River Sings” を出囃子にちょっとかしこまって、だけどもリラックスしてステージに現れたオールウェイズはそんな風にライヴをはじめる。昨年、5年ぶりにリリースされた素晴らしい3rdアルバム『Blue Rev』のオープニング・トラック “Pharmacist”、この曲以上に今回のライヴをはじめるのにふさわしい曲はきっとないだろう。2018年以来のジャパン・ツアーだ。東京からはじまって名古屋、大阪、そしてまた東京、今日の追加公演の会場となった神田スクエアホールの空気もあっという間に暖かなものに変わっていく。その名の通りスクエアホールは四角く天井が高くて、それが体育館や地元の小さなホールを思わせなんだか余計にノスタルジックな気分になる。
 2分と少しで曲が終わってMCなんてなくバンドはちょっとぶっきらぼうに次の曲に入る。続くのは同じく3rdから “After The Earthquake”、最初のギターのフレーズできらめくように空気が揺れる。そうして “In Undertow”、“Many Mirrors” と2分台、3分台名曲たちが次々に繰り出されていく。ハンドマイクに持ち替えしゃがみこみエフェクトをかけながらモリーが歌う “Very Online Guy”、1stアルバムに戻って “Adult Diversion”(この曲を聞くといつも口元に手をやったあのジャケットが浮かんでくる)、全ての曲に心の奥底をなでるような力強くも美しいメロディがあって、ギターとシンセサイザーのフレーズと相まり目の前の光景がノスタルジックなものに変わって行く。そう、待ち望んでいたものがここにはあるのだ。

 それにしてもオールウェイズはイメージする以上に不思議なバンドだ。 およそインディ・ポップと呼ばれるバンドとは思えないくらいに、シェリダン・ライリーのドラムが力強く主張し、アレック・オハンリーのギターがかき鳴らされ、強度はあるのに1曲1曲が短くて、4分に到達することはほとんどない。曲が終わった後も軽いやりとりだけで余韻を残さずすぐに次の曲にいってそれもなんだかちょっとパンク・バンドみたいだなと思った。いままでまったく結びついていなかったけれど開演前にSEでバズコックスの “You Say You Don't Love Me” が流れていて、あぁ『Blue Rev』のオールウェイズにはこの要素が確かにあるなって思ったりもした。素晴らしいメロディを持っているというのは両者に共通していることだけど、オールウェイズは、さらにそこにシンセとコーラスがあってそれがインディ・ポップの部分を大きく担っているのかもしれない。確かに存在するパンク・スピリットを胸にシューゲイザーに寄せてキラキラと水面の光が反射するインディ・ポップを奏でたみたいなバンド、この日のオールウェイズはそんな印象で、まったく一筋縄ではいっていなかったけど、でも全体として出てくる音はとても優しく幸福感がまっすぐに入ってきた。それがなんとも不思議で淡々と幸せな時間がずっと流れていっているようなそんな感じがした。

 だが、やはり全ては曲の良さに集約されるのかもしれない。中盤の “Tom Verlaine”、“Belinda Says” の素晴らしい流れ、アーミング奏法でギターが鳴らされ、浮遊感が体を駆け巡る。モリー・ランキンのヴォーカルは地に足を着けその中心に存在し、ケリー、シェリダン、アビー、3人のコーラスが陶酔感をプラスする。楽曲の真ん中に歌があるからこそ、こんなにも輝きが拡散されていくのだろう。それは決して神秘的なものではなくて、とりとめなのない日常に接続しそれ自身を輝かせるようなもので、そこにきっと淡さと幸福感が宿っている。

 アンコール、リクエストに応えるみたいな形で “Next of Kin” が演奏される。そうして間を置き、ツアーの感謝の言葉が述べられた後に演奏された “Lottery Noises” は曲自体が美しい余韻のように思えて、心が満たされていくのを感じた。そうやってまた日常に帰っていく。明かりがついてパッツィー・クラインの “Always” に送り出されて会場を後にする。外はもちろん夜空だったけどそれもなんだか違って見えた。


Alvvays Japan Tour 2023 at Zepp Shinjuku Setlist 11/28/23

Alvvays Japan Tour 2023 at Kanda Square Hall Setlist 12/01/23

Alvvays Japan Tour 2023 at Zepp Shinjuku Setlist 11/28/23

Alvvays Japan Tour 2023 at Kanda Square Hall Setlist 12/01/23

Element - ele-king

 日本のダブ・レーベル〈Riddim Chango〉が、サブレーベルとして新たに〈Parallel Line(パラレル・ライン)〉を始動させる。より実験的な方向に寄ったダブをリリースしていくそうで、まずは第一弾、エレメントの12インチが発売される。すでにイギリスのNoodsラジオでプレイされたり、ドン・レッツから高い評価を得たりしているとのことだ。チェックしておきましょう。

Cat No: LINE001
Element “Nine Mall EP”
発売日: 2023 年12月13日
Format: 12 インチレコード & デジタルリリース
Tracks:
A-1 Element feat. I Jahbar “Chicken Gravy Shorts”
A-2 Element “Chicken Gravy Dub”
B-1 Element “Nine Mall”
B-2 Element “Martian Gravity”

過去13 作品に渡り、オルタナティブなダブ、ダンスホールをリリースし、世界中のDJ、サウンドシステムからサポートを受けてきたRiddim Chango Records がよりエクスペリメンタルなダブにフォーカスしたサブ・レーベルとしてParallel Line をスタート!

第1 作のNine Mall EP はレーベルを手がけるElement によるテクノ/エクスペリメンタルなダンスホール/ダブの4 曲を収録。2022 年にブリストルの前衛レーベルBokeh Versions と共同でリリースしたAndromeda EP に続きDuppy Gun MCs のI Jahbar を客演に迎え、アブストラクト/SF ダンスホールチューンのChicken Gravy Shorts とモジュレーション・ディレイを多用した強烈なダブワイズChicken Gravy Dub をA 面に収録。

B 面ではPulsar のインダストリアルなドラムサウンドを使用したテクノ・ダンスホールNine Mall とレゲトン/デムボウのリズムを取り入れたオブスキュアでメランコリーなダンスホールMarian Gravity を収録。

マスタリングには国内レゲエアーティストの多数を手がけるE-mura、レーベルのロゴは1-Drink(石黒景太)、アートワークはAki Yamamoto が担当。

Robert Hood & Femi Kuti - ele-king

 強力なコラボレイションの登場だ。デトロイトのロバート・フッドとフェミ・クティによる共作がリリースされる。2019年11月27日、ジェイムズ・ブラウンへのトリビュートとして、フランスのTV番組のためにパリで共演した際に録音されたもので、フッドがエレクトロニクスを、クティがサックスを担当している。計30分ほどの7つのトラックを収録。180g重量盤、フッドの主宰する〈M-Plant〉から、明日12月8日リリースです。

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