「Ord」と一致するもの

XXXTentacion - ele-king

 XXX(エックスエックスエックス)テンタシオンとジミー・ウォポが相次いで撃たれて亡くなった。20歳と21歳。前者はこのところアメリカのヒップホップにおいて高まっていた世代間の確執では中心人物とも言える存在で、しかし、そのことと撃たれたことは関係がなかったらしい。後者も同じくで、強盗か何かに撃たれたらしく、メジャーと契約を交わしたばかりというタイミングだった。このふたりの死から導き出されるのはヒップホップとか文化に関する話題であるよりは、やはりアメリカの銃社会にまつわる議論に終始するべきだろう。警察とのトラブルではないので、ブラックライヴスマターの案件ですらない。
 実は紙エレキング用に5月の時点で書いた原稿にXXXテンタシオンにも触れていて、そのときにはドレイクやミーゴスと対立するXXXテンタシオンをケンドリック・ラマーが支持するのかしないのか曖昧なままにしてあったんだけれど、訃報が伝わった直後にケンドリック・ラマーどころか「どれだけ君にインスパイアされたかわからない」というカニエ・ウエストやディプロ、ジューシー・Jやマイリー・サイラスなど多くのミュージシャンたちが彼の才能に賛辞を惜しまないツイートをアップする事態となっている(意外とマンブル派ではなくJ・コールのようなリリカル派からリアクションが多い。マンブル・ラップというのは何をラップしてるのか内容がわからないと揶揄されているラッパーたちのことで、フューチャーやミーゴスが代表とされる)。もしかすると黒人版ニルヴァーナのような存在になったかもしれないことを思うと、それなりに納得はするものの、一方で、白人の男の子をステージ上で絞首刑にするという映像表現や妊娠中のガールフレンドに暴力を振るい、その映像をバズらせて喜んでいたことは彼の死に同情できないという声を多く呼び寄せる事態にもなっており、彼の才能の是非についてはXXXテンタシオンが生きていて、彼自身の活動によって証明する以外に方法はなかったとも思う。この3月にはビルボードで1位を獲得したというセカンド・フル・アルバム『?(Success&Victory)』もケンドリック・ラマーと同じく僕も5回ほど聴いてみたけれど、そこまでの作品には思えなかったし(大ヒットした“Sad!”より“Moonlight”の方が良かった気が)、やはり昨年、オーヴァードーズで亡くなったリル・ピープ同様、ロックになったりラップになったりというスタイル(エモ・トラップ)は興味深いものの、これまでのラップのスタイルに取って代わる「叫び」を体現したという評価はやや早計な見解ではなかっただろうか(叫んでいるときはラップじゃないし)。
 ちなみに紙エレキングの記事でXXXテンタシオンはスポティファイから削除されたと書きましたが、正確にはレコメンド機能から外されただけで、聴くことは可能のようです。(三田格)


R.I.P. Jalal Mansur Nuriddin - ele-king

 2018年6月4日、ジャラール・マンスール・ナリディンが亡くなった。
 ジャラール・マンスール・ナリディンは、1944年7月24日、ニューヨークに生まれ、ブルックリンのフォート・グリーンで育った。米軍への入隊、その後ウォールストリートの銀行で速記の仕事をした後、ラスト・ポエッツとしてデビューすることになる。このグループのメンバー構成の変遷は、やや複雑なのだが、ジャラールの立場を知るためにも、簡単に整理しておく。
 まず、ファースト・アルバム『The Last Poets』(1970)が発表される前に、最初期のメンバーであるガイラン・ケイン、デヴィッド・ネルソン、フェリペ・ルシアーノが脱退している(なお、脱退した三人はThe Original Last Poetsというグループ名で1971年に『Right On!』というアルバムをリリースする)。その結果、ラスト・ポエッツは、アビオドゥン・オイェウォレ、ウマー・ビン・ハッサン、ジャラール(当時の名義はアラフィア・プディム)、コンガ奏者のニリージャ、の四名で、ファースト・アルバムを発表することになった。しかし、ポリティカルな姿勢を堅持するアビオドゥンが、まず脱退する。そして、セカンド・アルバム『This Is Madness』(1971)発表後には、ウマーが脱退した(ニリージャもこのころには脱退していると思われる)。
 こうして、ひとり残されたジャラールは、ラスト・ポエッツの新メンバーとしてスリアマンを迎え、『Chastisment』(1972)、『At Last』(1973)、など数々の作品を発表し、1994年まで活動を続けた。つまり、ラスト・ポエッツとして最も長く活動したのが、ジャラールなのである。しかしながら、1997年に再結成されたラスト・ポエッツに、ジャラールの名前はなかった。ウマーとアビオドゥンのふたりだけが「ラスト・ポエッツ」を名乗ったのである。このふたりに言わせれば「ポリティカルな姿勢を崩さない自分たちこそがラスト・ポエッツだ」ということになるだろうし、ジャラールとしては「辞めたお前たちが名乗るな。自分こそがラスト・ポエッツだ」と叫びたかったのではないか。
 再結成されたラスト・ポエッツに自分の名前がない……。この事態に直面したジャラールは、直接行動に出る。新しいラスト・ポエッツのふたりの元を訪れたジャラールは、ウマーに対して「スリアマンを殺したのはお前だ」「これはスリアマンの分だ」「これでお前の声は死ぬんだ」と言いながら、長い針でウマーの喉元を突き刺した……とされている。
 このエピソードは、ラスト・ポエッツの初期メンバーやプロデューサーへのインタヴューを元に構成されたドキュメント・ノベルで紹介されているものだ。その名も『The Last Poets』(オランダ語の原著が2004年、英訳2014年)と題されたドキュメント・ノベルの作者、クリスティン・オッテンによれば、ジャラールは本書に関する取材の申し入れを断ったらしい。そのため、これはあくまでウマーとアビオドゥンのふたりが語る「事件」に過ぎず、真偽のほどはわからない。ただし、長い針でメンバーの喉を突いたというエピソードには、なにか異様な迫力を感じずにはいられない。
 切り裂くようなジャラールの声には、激しい怒りを行動に移してしまうような危うさがあり、それが彼の魅力でもあった。内面の葛藤をドライな肉声に乗せる際の緊張感。それこそが、ジャラールの比類ないライミングの源泉だったのかもしれない。

 ラスト・ポエッツ関連の話題が多くなってしまったが、ジャラールは、アラフィア・プディム(Alafia Pudim)やライトニン・ロッド(Lightnin' Rod)と名乗ってソロでも活躍している。なかでも、クール・アンド・ザ・ギャングを迎えたライトニン・ロッド名義でのソロ作品である『Hustlers Convention』(1973)は、ラスト・ポエッツ名義の作品と同様、サンプリング・ソースの宝庫として、ヒップホップの文脈ではいまなお特別な影響力を持っている。その後、80年代以降のヒップホップの隆盛のなかで、ジャラールは常に言及され、参照された。それにより、「ラップの生みの親」としての地位を確立していく。しかし、そうした位置にとどまることなく、ジャラールは変化し続けた。90年代に発表された作品、たとえばシングル「Mankind」(1993)を聴けば、ジャラールの「語り」がより「ラップ化」していく様相をつかむことができる。

 彼が亡くなったと知ったとき、ラスト・ポエッツの“Bird's Word”(1972年の『Chastisment』所収)という作品を思い出した。ジャラールはこの作品のなかで、その圧倒的なライミングと、心地よい声で、黒人音楽の歴史を語り上げている。そこで言及されるのは、ベッシー・スミスからルイ・アームストロング、アート・ブレイキー、エリック・ドルフィー、コルトレーンを経てニナ・シモン、サン・ラへと至る歴史だ。この歴史のなかに、ジャラールを加えるためにも、改めてジャラールと出会い直したいと思う。これまでは聴き流していた彼の声に、耳を澄ますことが、なによりの追悼だろう。

GLOBAL ARK 2018 - ele-king

 DJミクが主宰する〈GLOBAL ARK〉が今年もある。場所は奥日光の、もっとも美しい湖のほとりだ。日本のダンス・カルチャー(とりわけワイルドなシーン)を切り開いていったリジェンド名DJたちが集結し、また、海外からも良いアーティストがやってくる。ローケーションもかなりよさげ。スマホが使えないエリアだっていうのがいい。〈GLOBAL ARK〉は、手作りの昔ながらのピュアな野外パーティだが、スタッフは百戦錬磨の人たちだし、屋台も多いし、宿泊施設もしっかりあるから、安心して楽しんで欲しい。気候の寒暖差にはくれぐれも気をつけてくれよ。

Jon Hassell - ele-king

 ブライアン・イーノとジョン・ハッセルの『ポッシブル・ミュージック』がリリースされて38年が経った。「アンビエント・ミュージック」のシリーズを立ち上げて、すぐにもセールス的に行き詰まったイーノが続けさまにローンチした「第4世界(Fourth World)」というラインの起点となった作品である。ジョン・ハッセルのトランペット・ドローンをメインに「エスニック・サウンドとエレクトロニクス・ミュージックをどう融合させるか」がテーマとなり、批評的には多くの媒体で年間ベストに選ばれるほど大成功を収めたものの、イーノが続いてデヴィッド・バーンとつくった『マイ・ライフ・イン・ザ・ブッシュ・オブ・ゴースト』をジョン・ハッセルが商業主義的だと批判したことでふたりはそのまま仲違いしてしまう。「フォース・ワールド」は「プリミティヴ・フューチャリズム」を標榜したジョン・ハッセル主導のコンセプトだったため、シリーズ2作目となるジョン・ハッセル名義『ドリーム・セオリー・イン・マラヤ』をもって終了となり、二度と再開されることはなかった。しかし、昨年、〈オプティモ・ミュージック〉は『ミラクル・ステップス(Miracle Steps)』と題された14曲入りのコンピレーション・アルバムをリリース。これには「ミュージック・フロム・ザ・フォース・ワールド 1983-2017(Music From The Fourth World 1983-2017)」という副題がつけられていた。「フォース・ワールド」が終了したのが1981年。その2年後から2017年まで、36年間にわたって「フォース・ワールド」は続いていたのだと主張する編集盤である。「なんとかディフィニティヴ」みたいな発想だけど、これが実に興味深かった。オープニングはメキシコのアンビエント作家、ホルヘ・レィエスによる“Plight”(96)で、彼が得意としてきた厳かなダウンテンポでしっとりとスタート。続いてロバート・A・A・ロウとエリアル・カルマが〈リヴェンジ・インターナショナル〉の新旧コラボ・シリーズに登場した“Mille Voix“(15)やグラスゴーの新人で〈オプティモ・ミュージック〉からデビューしたイオナ・フォーチューン、ポスト・インダストリアルのオ・ユキ・コンジュゲイト、あるいはデヴィッド・カニンガムやリチャード・ホロヴィッツといった〈クラムド・ディスク〉勢にラプーンと続き、全体にやや重怠くまとめられている。〈オプティモ・ミュージック〉らしい歴史の作り方である。

 『ミラクル・ステップス(Miracle Steps)』にはハッセル自身が86年リリースの『パワー・スポット』に収めていた「Miracle Steps」も再録され、これがコンピレーションのタイトルにもなっている。そして、このことがきっかけとなったのか、〈ECM〉からの『Last Night The Moon Came Dropping Its Clothes In The Street』以来、9年ぶりとなるハッセルの新作『Listening To Pictures』がこのほどリリースされた。どうやら純然たる新作のようで、81歳になって〈ワープ〉傘下に新たなレーベルを立ち上げたものだという。演奏スタイルも、これまでのバンド形式からスタジオでミックスを繰り返すなど『ポッシブル・ミュージック』と同じ方式に回帰し、もしかするとクレジットはされていないけれど、ブライアン・イーノが参加しているのではないかという憶測も飛び交っている(だいぶ前に和解はしたらしい)。一応、演奏はギターにリック・コックス、ドラムにジョン・フォン・セゲム、ヴァイオリンにヒュー・マーシュが柱となり、エレクトロニクスにはミシェル・レドルフィを起用。ミックスマスター・モリスにサンプリングされ尽くした水の音楽家で、最近になってデビュー作が〈エディション・メゴ〉から復刻されたミュジーク・コンクレートの重鎮的存在である。また、ドラム・プログラムにはダブステップのベース・クレフからラルフ・カンバーズの名も。これまでライ・クーダーと組んだり、アラブ音楽に接近したりと、それなりに多種多様なアプローチを重ねてきたものとは違い、やはり音響工作の面白さが前面に出ていて、海外のレヴューでOPNを引き合いに出していた人が何人かいたのもなるほど。言われてみるまでそうは聞こえなかったけれど。

 オープニングから意表をついている。コード進行がある(笑)。わかりやすいジャズみたいだし、それがだんだんとドローンに飲み込まれていく。“Dreaming”は見事な導入部をなし、続いてダブステップを意識したような“Picnic”へ。接触音の多用はアルヴァ・ノトを思わせ、ノイズとピアノのオブスキュアなアンサンブルへと連れ去られる。アフリカン・ドラムを駆使した“Slipstream”は『ポッシブル・ミュージック』を坂本龍一が『B2ユニット』風にリミックスしたようで、同じく“Al-Kongo Udu”もノイジーな音処理はダブステップ以降のレイヤー化された美意識を優先させたものだろう。ジュークを思わせる”Pastorale Vassant”は……たしかにOPNっぽいかもしれない。“Manga Scene(マンガ・シーン?)”ではテリー・ライリーのオルガン・ドローンが原型をとどめずに流れ出すなかをムード・ジャズ風のトランペット・ソロが響き……いや、これが本当にジョン・ハッセルなんだろうか。連続性はもちろんあるんだけれども、ここまで変貌できるとはやはり驚きである。プロデュースもジョン・ハッセル本人なんですよ。『絵を聴け』と題されたアート・ワークはマイルス・デイヴィスの『ビッチズ・ブリュー』や自身の初期作を飾ったマティ・クラーワインの手になるものだそうです。

DUBFORCE - ele-king

 ダブフォースは、MUTE BEATのオリジナルメンバー、DUB MASTER X(MIX)、屋敷豪太(Dr)、増井朗人(Trb)を核とするダブ・バンド。WATUSI(Ba)、會田茂一(Gt)らも参加している。いとうせいこうもメンバー入りを表明しているというが、とにかく、ジャパニーズ・ダブの黎明期から場を積んできた強者たちによる、むちゃくちゃ年季の入ったダブ・バンドである。
 もちろんレゲエ/ダブに年齢なんて関係ない。ダブフォースは7月10日、渋谷クラブクアトロの30周年記念イベントに出演する。この島国に流れ着いたベース・ミュージックの発展型をぜひ多くの人に聴いて欲しい。
 また、バンドは初の7インチ・アナログレコードの発売も控えている。詳しくは彼らのホームページを見てください。
https://www.dubforce.tokyo/

@SHIBUYA CLUB QUATTRO

日程:7月10日(火)
場所:渋谷クラブクアトロ
時間:Open19:00 / Start20:00
料金:
前売り 4,000円(+Drink Charge)
当日 5,000円(+Drink Charge)
チケット発売日:4月21日(土)
チケットぴあ:0570-02-9999(Pコード:114-300)https://t.pia.jp(オンラインチケット購入はこちら)
ローソンチケット:0570-084-003(Lコード:70652)https://l-tike.com(オンラインチケット購入はこちら)
e+:https://eplus.jp(オンラインチケット購入はこちら)

チケット取扱店
HESHDAWGZ(03-3475-3475)
HMV record shop 渋谷(03-5784-1390)
HMV record shop 新宿ALTA(03-5362-3360)
Dub Store(03-3364-5251)
JET SET 下北沢店(03-5452-2262)/ ※4/22より取扱い
REDPOT(048-854-0930)

MORE INFO: https://www.club-quattro.com/shibuya/

DJ Koze - ele-king

 ストリングスがうなり、フルートが戯れ、そこにシンプルなリズムが慎ましやかに寄り添う何やら壮大なオープニング“Club der Ewigkeiten”(“クラブ・永遠”)で荒野に夕日が沈むと、2曲め“Bonfire"で聞こえてくる聴き覚えのある声のサンプリングに思わず頬がほころぶ。それは、僕がその声の主=ジャスティン・ヴァーノン(ボン・イヴェール)のたんなるファンだから……というのはもちろんあるが、それだけではなく、そのハウス・トラックにまぶされた色彩感覚や柔らかな透明感の可憐さにときめくからだ。ヴァーノンがかつて孤独を滲ませた歌が、しかしここではメロウなソウルとなってベースのグルーヴと呼応する。3曲めはエディ・ファムラーのエフェクト・ヴォーカルが気だるく重ねられる“Moving in a Liquid”。リズムはシャッフルしている。続いてアトランタのアレステッド・ディベロップメントをフィーチャーして、90sヒップホップの空気をたっぷり持ちこんだファンキーな“Colors of Autumn”……ここでもリズムは横に揺れている。緩やかに。この曲が流れる頃には、僕は、それにきっとあなたも、すっかりこのアルバムに心を許している。これは目の前の風景の美しさに意識を奪われること、たったいま流れるグルーヴィーなサウンドに身を任せることに疑いのない人間が作ったダンス・ミュージックだと肌で感じるからだ。だからこそ、次のトラックはダンス音楽ですらなくてもいい。ビートレスのフォーク・ソング、よく歌うギターと鳥のさえずりに合わせてホセ・ゴンザレスが優しい声を聴かせる。「ハニー、ハニー」……。

 とにかくヴァラエティ豊かなトラックが78分ぎゅうぎゅうに詰めこまれている。DJコーツェのオリジナル・フルとしては5年ぶりとなる本作だが、このドイツのベテランは、当然その間にも数々のシングルやリミックス、ミックス・アルバム、それに数えきれないDJプレイを披露してきた。夜から夜へ、ときにはスタジオやベッドルームへ、それからまた夜へ。その日々がそのまま封じこめられているかのようだ。『ノック・ノック』の軸足にはしっかりとハウスがあるが、しかしもう片足は彼らしいロマンティックな感覚のもとで様々な土地の様々な時代を自由に行き来する。70年代風のソウル、ブレイクビーツ、アフロ・ポップ、フォーク、シンセ・ポップ、ディスコ、アンビエント。00年代は〈KOMPAKT〉のイメージが強いコーツェだが、自身のレーベル〈Pampa〉からのリリースとなった前作辺りからより幅広い音楽性を見せている。もともとヒップホップDJで様々なジャンルをミックスするのを得意としていたこともあるだろうが、それにしてもこの引き出しの多さには驚かされる。なかでもラムチョップのカート・ワグナーを招聘した“Muddy Funster”などは人選からして意外だが、陶酔感の強いアブストラクトなドリーム・ポップがそこでは展開される。かと思えばボーズ・オブ・カナダをよりチャイルディッシュにしたようなブレイクビーツ“ Baby (How Much I LFO You) ”や“Lord knows”もあるし、多くのひとがコーツェに期待するであろう激バウンシーなフィルタード・ハウスのシングル“Pick Up”もある。
 ゲストの多彩さ、音楽性の多様さは間違いなくこのアルバムの魅力だが、それはたとえば政治的な意味でマルチ・カルチュラルでなければならないといった大上段に構えたテーゼからではなく、いろいろな要素が入っていたほうが気持ちいいからという生理的欲求から来ているように感じられる。理屈抜きにダンスフロアにはいろんな種類のひとが踊っていたほうがいいし、いろんな音楽が鳴っていたほうがいいというような大らかさ。文字通りのDJミックス。
 だがバラバラになっていないのは、さっき書いたようなコーツェらしい色彩感覚によるところが大きいのだろう。ジャケットのように淡くサイケデリックな色合いで統合されていて、しかもそれは、よく聴けばごく細い筆で隅々まで丁寧に塗られている。『ノック・ノック』を、あるいはコーツェを聴いていて感じる胸の高鳴りは、昨日まで図画工作の時間で使っていた12色入りの絵の具の代わりに今日からこれを使っていいぞと48色入りを渡された子どもが抱くそれと似ている。それでいて実際出来上がった絵は、職人が手がけた確かなものなのだ。
 コーツェのトラックはよくカレイドスコーピック、つまり万華鏡的だと評される。その通りだと思う。幾何学的な美は様々に姿を変えていくが、それはつねに温かく優しい色を携えている。いずれにせよ『ノック・ノック』はよく出来たファンタジー世界で、そこに身体と意識を預ければ最高のトリップが約束されている。レイジーでカラフルな夏がもうすぐやって来る。

Leslie Winer & Jay Glass Dubs - ele-king

 ユーチューブにアップされている「ポップ・ミュージックの歴史まとめ」みたいな動画を見ていると、題材によってはそれなりに同じような時間をかけて同じものを見ているはずなのに、こんなにも違って見えているのかということがわかって、なかなかに面白いし、音楽について誰かと話をすることの無力さを再確認させてくれる。ヒップホップでいえば、昨年は若い世代が盛んに2パックをディスったり、聴いたこともないという発言が相次いで揉めに揉めていたけれど、意外と多かったのが「知らない方がいいサウンドをつくれることもある」というヴェテランたちの意見で、歴史とクリエイティヴを秤にかければクリエイティヴに軍配があがり、退廃をよしとするのはなかなかに潔いなとも思わされた。あるいは、この数年、再発盤の主流となっているのがプライヴェート・プレスの発掘で、実はこんなサウンドがこんな時期につくられていたというスクープの効果みたいなことも「再発」の意味には多く含まれている。これは言ってみれば、歴史というのは世に出て多くの人の耳に届いたものを限定的に歴史扱いしているだけで、そのことと実際のクリエイティヴには確実なエンゲージメントは保障されていないということでもある。それこそ再発盤が1枚出るたびに歴史が書き換えられていくに等しい思いもあるし、ポップ・ミュージックの歴史というのは勝ったものの歴史でしかなく、それによって隠蔽されてきたものがあまりに多すぎるとも。なんというか、もう、ほんとにグラグラになっているんじゃないだろうか、歴史というものは。

 ギリシャを拠点とするジェイ・グラス・ダブスことディミトリ・パパドタスは事実とは異なるダブ・ミュージックの歴史的アプローチ、つまり「ダブ・ミュージックの偽史」をコンセプトに掲げ、これまでに7本のカセット・アルバムをリリースしてきたらしい(ちゃんとは聴いてない)。この人が昨年のコンピレイションや「ホドロフスキー・イン・デューン・イン・ダブ」などという空恐ろしいタイトルのシングルに続いてレズリー・ワイナーと組んで、なるほどダブの偽史をこれでもかと撒き散らした見本市のような6曲入りをリリース。レズリー・ワイナーというのがまたよくわからない人で、アメリカのファッション・モデルとしてヴァレンティノやディオールと仕事をしていた人らしく、ゴルチエをして「初のアンドロジーニアス・モデル」と言わしめた人だという。彼女がそして、ウイリアム・バローズやバスキアと知り合ったことでファッション業界から離れ、ミュージシャンへと転向してロンドンに移ってZTTからデビューした後、ジャー・ウォッブルとつくったアルバム『ウィッチ』(93)はトリップ・ホップの先駆として後々にも評価されるものになる(その後はレニゲイド・サウンドウェイヴを脱退したカール・ボニーと活動を続け、ボム・ザ・ベースのアルバムで歌ったりも)。つまり、ダブ・ミュージックの偽史を標榜するパパドタスにとっては彼女が格好のコラボレイターであったことは間違いなく、なるほどレイヴ・カルチャーの到来とともにどこかで迷子になったダブ・インダストリアルのその後をここでは発展させたということになるだろうか。

 アンビエント・ドローンあり、レイジーなボディ・ミュージックにウエイトレス紛いとスタイルは様々。ダブという手法はジャマイカを離れ、イギリスのニューウェイヴと交錯した時点で、偽史として構築するしかないものになっていたとも思えるけれど、それにしてもここで展開されている6曲は歴史の闇を回顧しているようなサウンドばかり。どこに位置付けられることもなく、これからも迷子のままでいることだろう。それともジェイ・グラス・ダブスにはダブステップを経た上でここにいるというムードもありありなので、ことと次第によっては自分のいる場所に歴史を引き寄せてしまうことも可能性としてはないとは言えない。まあ、ないと思うけど。ちなみにアルバム・タイトルの『YMFEES』は“Your Mom’s Favourite Eazy-E Song”の略だそうです。なんでイージー・E?

Laibach - ele-king

 米朝、と言っても桂ではありません。昨夜の首脳会談、ふたりの満面の笑みからはきな臭い匂いが漂っています。いったい裏でどんな取引を交わしたのやら……。
 そんな米朝首脳会議を記念して、〈Mute〉所属のライバッハが朝鮮民謡のカヴァー曲を発表しています。7月14日からは、彼らが北朝鮮でライヴを催すまでを追ったドキュメンタリー映画『北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ』の公開も控えています。聴き手に考えることを促すスロヴェニアのバンド=ライバッハは、いまどんなふうにあの会談を捉えているのでしょうか。
 いやしかしきな臭い。じつにきな臭い……。

ライバッハ、歴史的な米朝首脳会談の開催を記念し、朝鮮民謡“アリラン”のカヴァー曲を発表。
ドキュメンタリー映画『北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ』は、7/14より公開。

ライバッハは、シンガポールでおこなわれた米朝首脳会談を記念して、朝鮮民謡“アリラン”のカヴァー曲を発表した。

https://youtu.be/w_PCdJ3Dn9E

ライバッハと北朝鮮の関係は、2015年8月15日の北朝鮮「祖国解放記念日」に、北朝鮮政府がライバッハを招待したことから始まる。1980年にスロベニア(旧ユーゴスラビア)で結成して以来35年、革新的な表現活動をおこなってきたインダストリアル・ロック・バンドが北朝鮮の大切な記念行事に招待されたことは、それも初めて招待した外国のミュージシャンが彼らだということは、世界中に衝撃をあたえた。

ライバッハによる“アリラン”のカヴァー曲は、朝鮮民謡“アリラン”と、北朝鮮で広く親しまれている“行こう白頭山へ”を融合させたもので、平壌クム・ソン音楽学校のコーラス隊が参加している。後に、彼らは南北統一を祈願して、韓国の全州でもコンサートをおこない、北朝鮮と韓国の両国で演奏した最初のバンドとなった。


©VFS FILMS / TRAAVIK.INFO 2016

またライバッハが北朝鮮で奇跡のコンサートをおこなうまでの悪戦苦闘の1週間を追ったドキュメンタリー映画『北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ』が、7月14日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開する運びとなっている。彼らが所属する〈MUTE〉レーベルの創始者ダニエル・ミラーも北朝鮮ツアーに同行し映画に出演している。

「ユーモラスで異形、示唆に富みながら時折現実を超えた社会主義の世界へどっぷりと入り込んでいく」 ――MOJO

映画公式HP:https://kitachousen-rock.espace-sarou.com/

いまから35年以上前、当時ユーゴスラビアの工業の町トルボヴリェで結成して以来、ライバッハはいまでも中央や東ヨーロッパ旧社会主義国出身としては、世界的に最も評価の高いバンドである。ユーゴスラビア建国の父チトーが亡くなったその年に結成され、ユーゴスラビアが自己崩壊へと舵を切るのとときを同じくしてその名を知られるようになる。ライバッハは聴くものを考えさせ、ダンスさせ、行動を呼びかける。

最新アルバム『Also Sprach Zarathustra』(2017年)

[Apple Music/ iTunes] https://apple.co/2ENp7CL
[Spotify] https://spoti.fi/2sVQtj1


www.laibach.org
www.mute.com

John Coltrane - ele-king

 すでにご存じかと思いますが、ジョン・コルトレーンの未発表スタジオ録音アルバムがリリースされる。6月29日、55年前に録音されていたという『ザ・ロスト・アルバム』が世界同時発売されるということだが、ソニー・ロリンズが完な言葉でこのリリースを言い表している。いわく「これはまるで、巨大ピラミッドの中に新たな隠し部屋を発見したようなものだ」
 つまり、こんなところに宝があったと。
 それはニュージャージーのヴァン・ヘルダー・スタジオにおける1963年3月6日のセッションで、コルトレーン史におけるもっともクラシカルなメンバー──ジミー・ギャリソン、エルヴィン・ジョーンズ、マッコイ・タイナーという黄金のカルテットによる。この録音のマスターはリリースの時期を見計らっていたインパルス・レーベルが管理していたが、70年代初頭に保管費用の節約のための破棄のひとつとなったという。
 ところが、コルトレーンは同じテープを後に離婚する妻のナイーマにも預けていた。それがなんと、彼女の家族にまだよい状態のまま保管されていたのだった。これがようやくレーベルのもとに戻ってきたことで今回のリリースが実現した。
 まだコルトレーンが脇目もふらずフリー(スピリチュアル)に突き進む手前の、彼がその美しいメロディを吹いていた頃の演奏だ。彼の作品でももっとも人が親しみやすい『バラード』『゙ョン・コルトレーン・アンド・ジョニー・ ハートマン』と、そして精神の旅に出かけた『至上の愛』のあいだに位置するアルバム。7曲のうち2曲は、未発表のオリジナル曲。デラックス・エディションには別テイクまで収録した2枚組。
 55年を経て見つけられたとんでもない埋蔵物である。ぜひチェックして欲しい。



ジョン・コルトレーン
ザ・ロスト・アルバム(通常盤)

ユニバーサル・ミュージック
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ジョン・コルトレーン
ザ・ロスト・アルバム(デラックス・エディション)

ユニバーサル・ミュージック
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interview with Dego - ele-king


Dego & Kaidi
A So We Gwarn

Sound Signature

FunkJazzBroken Beat

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 4ヒーローの“Universal Love”(1994年)はいま聴いても、いやいや、いま聴くとなおさら、その曲に込められたジャズのフィーリングと、ジャングルと呼ばれたレイヴ・ミュージックとの結合というアイデアの素晴らしさ、完成度の美しさに感心させられる。そして、その金字塔からおよそ25年ものながい歳月が経っているが、ディーゴは、たったいま現在にいたるまで、ほとんど休むことなくコンスタントに作品を出し続けている。彼がすごいのは、どの作品もクオリティが高いとかそういうことよりも、そこに必ず新しいチャレンジ(実験)があるということだ。ディーゴのような人は、それこそ70年代のサウンドにレイドバックすることは簡単なのだろうけれど、彼はそうした焼き直しには走らない。昨年セオ・パリッシュのレーベルからリリースした『A So We Gwarn』にも、古き音楽を継承しつつもそれだけでは終わらない、何か新しいセンスを混ぜるというディーゴの姿勢が見て取れる。
 アンダーグラウンドでコツコツとずっとやってきているアーティストがいまは若い世代からも評価されている。ディーゴやカイディ・テイタムのような人が、カマール・ウィリアムスやジョー・アーモン・ジョンズのような世代からリスペクトされているのはじつにいい話だ。UKジャズ(ではないジャズ)のシーンの厚みを感じるし、この音楽が人の生き方に関わるものであることを教えてくれる。短期集中連載「UKジャズの逆襲」の最終回は、去る5月上旬に来日した、エレクトロニック・ミュージックの方面からUKジャズを革新させた大先輩に出てもらうしかない。

若い世代が俺たちを知ってくれているのはとてもいいことだね。普通に考えたら古い音楽は消え去っていくものがサイクルだと思うから、それでもまだ自分の音楽が聴かれているのは素晴らしいことだよ。

つい先日は2000 Black名義の新作を出しましたね。で、去年はDego & Kaidiとしてセオ・パリッシュの〈Sound Signature〉からアルバムを出しているし、もちろんそこからもEPも出しているし、ほかにも〈Eglo〉からもEPを出したりと、なんか最近むちゃ精力的ですね。

ディーゴ:最後にLP(『he More Things Stay The Same 』)をリリースしてからは、シングルのリリースをけっこう多くこなしたよ。昔はアルバム・リリース後の2~3年ぐらいは時間の猶予があったけど、いまの時代はみんなが多くのリリースを見込んでるから、コンスタントにリリースしないといけないんだ。それから俺は、自分の世代に限らず若いオーディエンスに自分の音を届けたかったから〈2000 Black〉以外の、信用できる違ったファンを持ったレーベルからもリリースをするように心がけたんだ。カイディとのアルバムもそういった意味で、広く自分の音楽を知ってもらえる素晴らしい機会になったと思う。

いまロンドンの若いジャズ・シーンが脚光を浴びていますが、ジョー・アーモン・ジョンズやカマール・ウィリアムスのようなUKジャズの若い世代に取材をすると、シーンの先駆者のひとりみたいな感じで、あなたやカイディ・テイタムの名前が出てくるんですよね。自分自身でも、そういう実感ってあります?

ディーゴ:彼らが俺たちを知ってくれているのはとてもいいことだね。普通に考えたら古い音楽は消え去っていくものがサイクルだと思うから、それでもまだ自分の音楽が聴かれているのは素晴らしいことだよ。正直いうと、若いアーティストとじっさい何かを一緒にやることはほとんどないんだけれど、自分のバンドの若いアーティストに対しては、自分のやっていることを見せたり、経験を語ったり、アドヴァイスをしたり、彼らがこのインディペンデントな音楽業界で活動できるようにナビゲートするのがいま自分にできるいちばんいいことだと思ってるからね。
例えばアーティストがどこかのレーベルからオファーをもらって悩んでいるって相談があったときに、「なぜこのレーベルから出したいか?」とかいろいろ質問を投げかけたりもするね、それを「止めた方がいいよ」とは言わないように、できる限り真剣に向き合えるように言葉を添えたりはするよ。

若い世代のアーティストを取材してて面白いなと思ったのが、彼らの影響を受けたアーティストのなかにロニー・リストン・スミスやロイ・エアーズ、マイゼル・ブラザーズなんかの70年代ジャズ・ファンクが混ざっていることなんですね。カマール・ウィリアムスなんかは世代的に10代前半はカニエ・ウェストとか聴いていた人なんですが、10代後半になって、ドナルド・バードとか70年代のジャズ・ファンクをとにかく聴きまくったと。で、それって、あなたやカイディなんかと同じじゃないですか(笑)。

ディーゴ:それに関してはいろんなケースがあると思うよ。人によっては3年前に出たレコードを「オールドスクール」と呼ぶこともあるし、逆に古い音楽がポピュラーになっていることだってある。もちろんまわりでそういう音楽をみんなに聴くようなメンタリティを促している人もいると思うし。俺の意見を言うと、たとえば俺がまだ20代でクラブやライヴを見に行っていた頃、そこでレコードをかけていた上の世代は自分たちが影響された音楽をかけていたんだ。で、そのまま俺がキャリアを積んで自分がDJをするときは自分が影響された音楽をプレイしているから。そんな感じで知識やメンタリティが受け継がれてるんじゃないのかな? それが自然に起きているだけだと思うよ。とくにヒップホップはサンプリングを軸にした楽曲が多いから、元ネタを掘ったりして知識を増やしているだろうし。

「ブロークンビーツ」という言葉がここ数年でまたよく使われるようになっているのですが、あらためて言うとこのジャンルは何なんでしょうか?

ディーゴ:いや、正直俺もいまだにわからないな。そもそもこの言葉で俺たちの音楽を括られるのは好きじゃないからね。ただ他の誰かが勝手に名前につけてひとつのカテゴリーに押し込もうとしているだけさ。ただ言えるのは、これまで「ブロークンビーツ」と呼ばれていた自分の仲間のアーティストは、元々ほかのジャンルからやって来たヤツらなんだ。ドラムンベースやテクノのプロデューサー、ソウルやジャズのミュージシャン。そういうやつらが集まって同じ哲学の下で「新しい音楽」だけをやる集団だったんだ。
当時はパトリック・フォージやフィル・アッシャーが「INSPIRATION INFORMATION」というパーティで60年代~70年代の音楽をたくさんかけてたから、俺は彼らとは違う方向を追求した方がいいなと思った。だから俺は、J ディラやURの新譜をかけたり、彼らと同じように、自分のプロダクションに力を入れていたんだよ。
DJをやっていたらわかるかもしれないけれど、自分のかける10~20曲のセットのなかで普段とはまったく違う「クセ」のある曲もかけたりするよね? それがその日のセットの違いを作れるような。自分やカイディはそんなような音楽を目指して制作に没頭していたんだ。正直カイディの曲だって、言ってしまえばジャズ・ブギーなサウンドだし、ロイ・エアーズだってジャジーなディスコ、はたまたラテンとかで括れると思う。でも、誰かがいちど聴いたらこれはロイ・エアーズだ! ってわかるのと同じで、知らない曲でもフレーズを聴いただけでディーゴだ、カイディだと思ってくれるようなサウンドを追求していたんだ。ひとつのジャンルで括れないオリジナルなサウンドこそ、みんなが言う「ブロークンビーツ」の本当の真髄なんだと思う。

それこそカイディとの共作のアルバム『A So We Gwarn』も本当に素晴らしいものでしたが、このタイトルはどう言った意味なんでしょうか?

ディーゴ:意味としては「This is how we behave」(これが私たちの行動です)「This is what we do」(これは私たちがやることです)なんだ。そこで自分たちがUKのダンス・ミュージックでどんな立ち位置なのか、どんな考え方を持っているか表現したいと思っていたんだ。もともと自分もカイディもジャマイカなどのカリブ海からの移民の子供としてのルーツを持っていて、国籍はイギリスだけど「ブリティッシュ(英国人)」とも言えないし、「ジャマイカン」とも言えない微妙な立場なんだ。だから自分たちのルーツに即してカリビアンのリズムを取り入れてみたりアートワークにも自分たちのルーツを表現した内容になっているね。

いつの時代もアートはリッチな方面から生まれてこないし、貧乏だったり何かが足りなかったり、追い込まれた状況からクリエイティヴィティが発揮される。だからいまのロンドンの状況はすごく難しいと思う。

すこし話がそれますが、いま東京はオリンピックを目前にして再開発が進んでいます。あなたが〈Reinforced Records〉をやっていた頃のロンドンも現在ではかなり風景を変えていますが、それがあなたの音楽活動にどのような影響を与えていますか?

ディーゴ:もちろんこの20年でスタジオや家は何度か変わったりもしたよ。ロンドンは不幸にも物価が上がってる関係もあって、クリエイティヴィティが失われつつあると思うな。その影響でたくさんの人がベルリンやバルセロナ、リスボンに移ったりするのを見てきたし、逆に資本家や投資家みたいな人がたくさんロンドンに移ってきて、ビジネスのことに偏りすぎてしまっている気もするね。やっぱりいつの時代もアートはリッチな方面から生まれてこないし、貧乏だったり何かが足りなかったり、追い込まれた状況からクリエイティヴィティが発揮されると思う。だからいまのロンドンの状況はすごく難しいと思う。

音楽の聴かれ方も変わりましたよね。サブスクリプトやデジタルで聴くようになって、音楽のあり方も変化しました。こうした環境の変化をどういう風に受け止めていますか?

ディーゴ:それには逆らうことができないよね。恐ろしい状況だけど、受け入れていくしかないと思う。いまの時代、音楽自体に価値がなくなってしまっているし、それが音楽産業の大きな問題でもある。インターネットが広がりをもたらしたけど、音楽の「リアル」な価値は減ってしまったかもしれないね。

そのなかで自分自身でポジティブな出来事はあったんでしょうか?

ディーゴ:ポジティヴだって!? そんなことは本当に少ないかもしれないね、希望を言うなら、さっき君が名前を挙げたような若いアーティストが正しいメンタリティを持って新しいことに挑戦して状況を変えてくれてくれることかも。強いて言えばレコード会社がいろいろと牛耳っていた時代から個人で自由に音楽を発信できる時代になったけど、それにもいい部分、悪い部分あるし。でもやっぱり、本当に素晴らしいアーティストが評価されにくい時代になってしまったよ。それは悲しいよ。

ちょうどいまヒットしているチャイルディッシュ・ガンビーノの“ディス・イズ・アメリカ”のヴィデオについてはどう思いますか?

ディーゴ:このとても悲しいヴィデオは今年を象徴する内容になっているよね。こういう社会的メッセージを持ったものは、かつての音楽やジャーナリズムではよくあったことだったと思う。俺はボブ・マーリーやチャック・D、ザ・スペシャルズなんかを聴いて育ったけど、この20年ものあいだに何かが起こって社会に混乱を与えたり、仲間に迷惑をかけている問題があっても、もうほとんどの人が気にしないようになった。現在は恐ろしい組織や警察なんかがこれらを押さえ込んだり、あることをなかったことにしようとしている状況が起きている。だからチャイルディッシュ・ガンビーノのヴィデオは大歓迎だけど、いろんな人に理解してもらう頃には抽象的になって、メッセージ性が薄まったり、2日前の誰かのタイムラインでの投稿のように、すぐに忘れられたりする可能性が高いだろうね。

では、BlackLivesMatterなんかはどう思っているの?

ディーゴ:AmeriKKKa(アメリカ)やその他のほとんどがつねにレイシズムだし、それはしばらくの間続いてしまうだろうね。BlackLivesMatterの連鎖とそこから生まれた教育は、いくつかの希望を生み出してはいると思う。歴史はすべてを教えてくれるけど、結局は分裂と征服のための地獄みたいなもんだから、権力者はそれを教えることを拒むんだ。人種か社会階級か、経済か……。平凡な人はみなエリート階級の奴隷だけど、(BLMのような社会運動を見ていると)政治のシステムがいち早く崩壊することを望むことがあるかもしれないよ。

なるほど。では、今後のリリース予定やスケジュールなんかを教えてください

ディーゴ:レーベルのファミリーでもあるMatt LordのEPを控えているよ。それからカイディのEPもね。ただし、彼のアルバムが先に出てからリリースしようと思ってる。あとはそろそろ自分のソロのアルバムもスタートしようかなと考えているよ。

ちなみにけっこう長く日本に滞在していますが、友だちがたくさん多いんですね。自由時間は何をしているんですか?

ディーゴ:食べて、食べて、食べまくることかな(笑)。あとはたまに買い物とか。ときどき日本の友だちとフットボール(サッカー)もしたりするね。

はははは、今日はどうもありがとうございました。アルバムを楽しみにしています。

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