「Ord」と一致するもの

interview with ERA - ele-king

 僕は2013年に『街のものがたり』というインタヴュー集をまとめた。僕はこの本でステレオタイプではないラッパー像を提示したかった。ラッパーといえば、不良で、社会から隔絶されて、虐げられて……。ではなくて、自分の身近にいる普通の青年が歌うラップを紹介したかったのだ。不良のラップも大好きだけど、市井の青年たちの感性から生まれた言葉は、僕にとって説得力がある。なぜなら僕自身が何者でもない、街の景色の一部のような人間だからだ。


Era - Life is Movie
HOW LOW

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 その『街のものがたり』にも登場してもらったERAが、今年7月に約3年ぶりのアルバム『LIFE IS MOVIE』をリリースした。これまでのERAのイメージといえば、都市を「しゃらり」と疾走する、軽やかでスタイリッシュな姿だった。しかし本作の彼は泥臭い。「決まった仕事もdropして / lifeをうまく積み上げられない / 何度も見たはずなのに / そっから先が上手くやれない」と彼は歌う。このラインはERAの暮らしの中から自然と出てきた言葉だという。僕はこのラインに2015年の「街のものがたり」を感じた。

 なぜ『LIFE IS MOVIE』という作品を世に送り出したのか、それを訊きに僕は久しぶりに彼に会いに行った。

■ERA / エラ
2011年にアルバム『3Words My World』でデビュー。ラディカルなトラックとリリカルな歌詞が話題となり、さまざまなシーンで絶賛された。2012年からは自身のレーベル〈How Low〉を主宰。同年セカンド・アルバム『JEWELS』をリリースし、さまざまな客演参加等を経て、2015年、3枚めとなる『LIFE IS MOVIE』を発表した。

今までとは違うことを

今回のアルバムは自宅で制作されたんですか?

ERA:そうです。

2012年に発表された前作『JEWELS』から約3年ですね。

ERA:同じ年の12月にIDEALというユニットの作品を出したんで、本当はその後にソロでアルバムを出したかったんです。あのときは、自分のレーベル〈HOWLOW〉を立ち上げたり、tofubeatsさんに“夢の中まで”という曲でフィーチャリンしてもらったり、すごくいい流れがあって。だからそこに合わせてアルバムを完成させたかったんですけどね。

制作が滞った理由は?

ERA:トラックが思うように集まらなくて。あとやる気はあったんですけど、僕自身のマインドが本格的に制作する感じじゃなかったんだと思います。

どういうことでしょう?

ERA:自分のレーベルからアルバムを出すのがけっこう大変だったんです。やることが多くて。アルバムをレコーディングしながら、リリースの仕方を考えなきゃいけなかったりとか。最終的にWDsoundsに宣伝を手伝ってもらったんですが、それが決まったときは正直かなり気が楽になりました。アルバムの制作もようやく本腰を入れられるようになったというか。やっぱりひとりではあれもこれもできないです。そもそもジャケットからして、夏に出すアルバムぽくないですよね。

あはは。でも今作はリリース時期こそ夏ですが、“サマーアルバム”という感じではないですよね。

ERA:そうですね。

『JEWELS』はとてもダークなアルバムでしたが、今回は一転して明るい作品ですね。希望に満ちてるというか。

ERA:『JEWELS』ってそんなに暗いアルバムだったかなあ? 僕としてはそんなイメージはないんだけど、すごくいろんな人から言われるんでそうなんだろうな(笑)。

ERAさんは「リリックにはいろんな意味が込められてる」とインタヴューとかで発言をされていたので、“Planet Life”の「もし拳銃があれば」とか、そういうインパクトの強いラインを聴くとリスナーはどうしても勘ぐってしまうんですよ(笑)。

ERA:『JEWELS』はすごくストイックに制作した作品なんです。そのせいで、あの頃の自分はいろんなことに対してナーバスになっていました。“Planet Life”の「もし拳銃があれば」というフレーズは、そういう中から生まれた言葉で本当に深い意味はないんですよ。

今回の制作はあまりナーバスにならなかったんですね。

ERA:はい。あと、このアルバムではちがうことをやりたかったんですよ。『3Words My World』と『JEWELS』に関しては、自分の言葉が一辺倒だと思うところがあって。表現の幅みたいなものを見せたかったんです。「ひとつの事柄を歌っていても言葉にはいろんな意味を持たせる」っていうのも今回はあまりありません。

「LIFEの中の4小節 / 実際それで全部だから」と歌っていますしね。

ERA:はい。『LIFE IS MOVIE』は『3Words My World』『JEWELS』の延長線上にあるけど微妙にちがうことを歌ってます。この微妙にちがうというのがすごく重要なんです。たくさんある引き出しの中から、いままでとはちがう部分を見せてる感じですね。


ソウル感のあるリリック

なるほど。たしかに、いままでの作品では“I’m Talkin’”の「back againしたってことは少しは変われたってことさ」みたいなフレーズは出てきませんよね。

ERA:「自分のリアルな生活感を歌いたい」という思いがアルバムを作りはじめの頃からぼんやりとあって。“I’m Talking”とかは、まさに僕のリアルな部分が出てる曲。ソウル感っていうか。

“ソウル感”とは?

ERA:経済的困窮の中から生まれるハングリーさみたいなものです。USヒップホップのリリックにはよくあるけど、日本でこの“ソウル感”を出せる人はあまりいないと思う。今回のアルバムは、それを見せることでオリジナリティが出せたかなと、うっすら感じています。とはいえ、自分もアメリカの人たちほど困窮しているわけじゃないけど(笑)。

その意味では“I’m Talkin’”には生々しいほどのソウル感が出ています。

ERA:自分はパートタイム的な仕事をやってるんですけど、まあ続かなくて。辞めて次の仕事を探しては、その職場の上司とぶつかったり。そんなことの繰り返しで、本当にうまくいかないなあって感じでしたね。

あの歌詞はすごく2015年の日本を感じさせるものだと思います。すごく貧しいわけではないけど、未来を感じさせてくれない感じというか。そんな状況で「lifeをうまく積み上げられない」と焦ったりしませんか?

ERA:焦りよりかは、「自分はなんでうまくいかないんだろう」って思いのほうが強かったですね。

失意、みたいな。

ERA:そうですね。

先ほど「ちがうことをやりたかった」と話していましたが、今回のようなリリックを書くことにしたのはなぜですか? ちがう表現はほかにたくさんありますよね?

ERA:今回みたいなことを歌うと思うことが、自分をより良くすることなのかなって。

どういうことでしょうか?

ERA:作品を作りながら自分が自分に救われてたようなところがあって。アルバム作りっていうのは、歌詞を声に出して歌うことで少しずつ進んでいくわけですが、その過程を経るごとに自分が少し復活するような感覚があったんですよ。

もしかして“I'm talkin'”の「病んだ俺にはmedicineが必要」というのは、そうやって作品を作ることだったんですか?

ERA:そうです。


自分が聴いて気分が上がるような作品

先日テレビで映画監督の細田守さんのドキュメンタリーをやっていて、そこで彼は「映画を作るとか観るとかっていうことは、“世界に希望を持ってますよ”ってことを表明するような行為でさ、(現実は)そうでないにも関わらずね。そのときの自分は幸せじゃないかもしんないけども“人生は幸せなものかもしんない”ってことを大声で言ってるようなもんなんだよ。それは幸せじゃない人だからこそ、それを作ったり言ったりする権利があるってことだよ」と話されていたんです。

ERA:自分がこのアルバムを作っていたとき、暗い音楽は聴いてませんでしたね。入り込みすぎちゃって聴けないというか。むしろ明るい音楽を聴いて力づけられてましたね。そういう感覚が当時の自分にフィットしてたんです。そこは意識してたかもしれません。あんまり暗い感じというよりは、自分が聴いて気分が上がるような、そういう作品にしたいという気持ちがありました。

『LIFE IS MOVIE』というタイトルはどのように決まったんですか?

ERA:アルバム制作の半ばから終わりにかけてくらいなんで、けっこう遅いです。今回の作品で、いちばん最初にできた曲が“Left, Right”なんですけど、その段階ではアルバムの全貌はまだぜんぜん見えてなくて。具体的に何かのきっかけで決まったというよりは、制作の中で徐々に固まっていったような感覚かな。

タイトル・トラックの“Life Is Movie”ができあがったのも後半ですか?

ERA:はい。“Daylight”とかも最後のほうです。アルバムのタイトルが決まってからは、そこに寄せて歌詞を書いたり、曲順を決めたりしました。

1曲めのタイトルがいきなり“Endroll Creator”なのですごく驚きました。映画なのに、最初からエンドロールの話かよって(笑)。

ERA:たしかにそうですね(笑)。じつはこれ、もらったトラックに付けられてた仮タイトルをそのまま使いました。響きもカッコイイし。けっこうそういうの多いんですよね。

トラックの仮タイトルにインスパイアされてリリックを書きはじめるラッパーの人、多いみたいですね。

ERA:うん。この曲はまさにそのパターンです。

今回は客演にDown North Campの面々が参加していますね。

ERA:フィーチャリングのラッパーについては、Down North Campとかそういうところはとくに意識してなくて、自分がカッコいいと思う人たちに声をかけました。

今回はERAさんが所属するグループ・D.U.O.のOIさんが参加していませんね。

ERA:そうですね。スキットとかで参加してもらおうと思ったんですけど、うまくハマる曲がなかったんですよね。いっしょにやりたかったんですけど。


映画の最後

曲順はどのように決めましたか?

ERA:かなり考えましたね。最初はぜんぜんちがう曲順で“Life Is Movie”が最後の曲だったりもしたんです。じつはこのアルバムには、ゆるいストーリーが設定されてて。あの曲のサビで歌っている「クラッシュする交差点~」というのは、ストーリーのラスト・シーンなんです。主人公が車に轢かれて死んじゃう。

なんで主人公は死んでしまったんですか?

ERA:事故っす(笑)。

いや、そういうことじゃなくて(笑)。

ERA:映画の最後ってそういう感じじゃないですか。

突然起こった理不尽な悲劇、みたいな。でもそれのほうが逆にリアリテイがあるかも。

ERA:まあストーリーはザックリとした感じなんですけどね(笑)。

ちなみに“Life Is Movie”の最後のライン「Peaceすぎたら~」はどういう意味なんですか?

ERA:これはストーリーとは別個で自分自身のことですね。2014年の夏に“Soda Flavor”という、今回のアルバムにも入れた曲を配信でリリースしたんですが、この頃はパーティ感を出そうとしてたんですよ。でもそこにこだわりすぎると、曲が弱くなっちゃうというか、自分に嘘をつきすぎてる感じがしたんですよ。

自分のキャラに合わないことを無理してやっても仕方がない、と。

ERA:そういうことです。

ラストの“Daylight”はすごく明るい曲ですね。

ERA:ストーリーとしては“Life Is Movie”がラストなんですが、アルバムとしては“Daylight”で終わるのがすごく美しい感じがしたので、この並びにしました。たまにエンドロールの後に5分くらいおまけが付いている映画があるじゃないですか? この曲はそんな感じですね。

では、仮にERAさんが映画が撮るとしたら、どんな作品がいいですか?

ERA:高校生くらいのやつが学校に通いながらラップするような青春ものがいいですね。そういうのは昔からやってみたいと思ってます。たぶんやれないと思うけど(笑)。

なるほど。それを聞くとやはりERAさんの中には一貫した美意識があるように感じられます。『3Words My World』や『JEWELS』で表現された街の描写は映画のワン・シーンみたいでした。ラリー・クラークの“Kids”みたいな。

ERA:ああー、そんな感じかもしれない。

では最後に好きな映画は?

ERA:いろいろありますけど、普通に『2001年宇宙の旅』とかですかね。あと自分がラップはじめるモチベーションが高まったという意味では『ハッスル&フロウ』は外せないです。あの映画、主人公たちのやる気がハンパないんですよ(笑)。あのハングリーさはすごく上がりましたね。

interview with New Order - ele-king

なぜニュー・オーダーなのかと言われたらわからないけど、みんな精神的な繫がりを感じているようだ。ぼくたちの音楽は凄くエモーショナルだから、人生で何か困難に直面したとき、ぼくたちの音楽に気持ちの慰めを見出すことができるのかもしれない。あと、人を惹き付ける物語がこのバンドにはある。


New Order
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 新作はダンス・アルバムであり、エレクトロニック・サウンドに戻っているという前評判を耳に入れて、いざシングル曲“レストレス”を聴いたら、どこがダンスでエレクトロニックなんだよと思ったコアファンもいるかもしれない。しかしご安心を。“レストレス”はアルバムの1曲目だが、2曲目以降にはそれが待っている。“ブルー・マンデー”から『リパブリック』までのニュー・オーダーを特徴付けるエレクトロニック・サウンドは引き継がれ、ある意味アップデートされている。
 ちなみに、“レストレス”のシングル盤のリミキサーはアンドリュー・ウェザオール。ファンはここで名曲“リグレット”を思い出すだろう。あの切ないメロディとエレクトロニックのマンチェスター的折衷……これ、これ、そう、これだよ、俺たちのニュー・オーダーが帰ってきたのだ。

 ジョイ・ディヴィジョンの最初の2枚、いや3枚、まあ……3枚の重要なシングル盤を加えると6枚……は、いま聴いても、リスナーが「重荷を背負った若者」ではなくなっても、あらためて歴史を切り拓いた音楽だったと思う。本当に、よくもまあこんな作品をあのセックス・ピストルズとあのザ・クラッシュの後に作れたものだ。社会や政治というよりは内面という曲の主題(彼らが社会や政治に無関心だったわけではないが、作品にはパンクにはなかった深い内省があった)、そしてその革新的音響(マーティン・ハネットの天才的録音)、ピーター・サヴィルの革命的アートワーク(ジャケの紙質までこだわっていた)、それらすべてをひっくるめて永遠のクラシックだ。『アンノウン・プレジャーズ』のアートワークがインディ・ロック・Tシャツにおける最高の地位になっていることに異論もない。

 で、ニュー・オーダーとは、その永遠のクラシックを作った後の、当時のロックのセオリーで言えば中心人物を失った後の、10番のいないサッカーチーム、4番バッターとエースのいない野球チーム……みたいなものだったが、それでも世界レベルで最高の結果を残すチームになりえた。作る曲すなわち作品でもって常識をひっくり返し、そして、そのとき、おいてけぼりにされた若者の内面はダンスへと向かったのである(しかも作品によっては、あの頃のぼくたちからもっとも遠かった太陽と海へと、そう、向かってしまったのである)。
 そんなことをつらつらと思えば、バーナード・サムナーの自伝『ニュー・オーダーとジョイ・ディヴィジョン、そしてぼく』に記されているように、たしかにぼくたちの人生はニュー・オーダーとともにあったのだろう。初めて『ムーヴメント』に針を下ろしたときのこと、“ブルー・マンデー”に心底震えた夜、耳にたこができるほどあらゆる場所で聴かされた“ビザール・ラヴ・トライアングル”や“パーフェクト・キッス”、あるいは“ワールド・イン・モーション”や“ラウンド・アンド・ラウンド”のリミックスEP、そして異性(同性)と別れ出会う度に聴かなければならない“リグレット”……、その他いろいろ、ぼくたちはニュー・オーダーの切ない歌とエレクトロニックな楽曲の向こうにそれぞれの時代を思い出す。

 ほがらかなメロディの“ラヴ・ヴィジランティス”は、NYエレクトロを思い切り吸収した『ロウ・ライフ』のオープニング曲で、クラブ・サウンドを我がモノとしながらアルバムはしかし古風にはじまるというひねくれ方は、なるほど、いかにも英国風と言えるだろう。新作『ミュージック・コンプリート』にもそれは引き継がれている。
 ちなみに『ミュージック・コンプリート』のバッキング・コラースには、インディ・ロック・ファンにはお馴染みのデニス・ジョンソン(プライマルの“ドント・ファイト・イット〜”の人です)が参加しているが、ラ・ルーも歌っている。たしかに新作には、イタロ・ディスコ(コズミック)めいた箇所がいくつかある。バーナード・サムナーのドナー・サマー趣味がここにきて噴出したのかもしれない。ほかに話題としては、ケミカル・ブラザースのトム・ローランズが3曲参加していること、イアン・カーティスのヒーローだったイギー・ポップが1曲参加していることも挙げられる。

 ニュー・オーダーは、いくつかの困難を乗り越えてここまで来ている。彼らの人生から滲み出るものが、ニュー・オーダーの背後にはある。それは泥臭さである。電子機材が普及してからの華麗なるモダンデイ・ポップ・ミュージックの先駆けだが、その音楽には普遍的なエモーションがあり、だからこんなにも多くの人から、世界中の人たちから、そして新たにまた、内面が敏感な世代から愛され続けているのだろう。
 『ミュージック・コンプリート』は、ピーター・フック脱退後の、新生ニュー・オーダーの最初のアルバムだ。しかも〈ミュート〉からのリリース。例によってバンド名もタイトルも記さないピーター・サヴィルのアートワークにも、思わずニヤっとしてしまう。
 ニュー・オーダーが最初に輝いた10年はサッチャー政権時代であり、それを思えば『アンノウン・プレジャーズ』のTシャツは巷でさらに増殖するかもしれない。まあニュー・オーダーに限らずだが、昨年のモリッシー、先日アルバムを出したPiLなど、あの時代のUKのミュージシャンたち、いい歳した連中は、いまもなおエネルギッシュで、しかも新たな輝きを見せはじめている。さまざまな話題性を含めて、今回は注目の新作なのである。

ダンス・ミュージックをやっているけど、いまどんなサウンドが流行っている、といったことは一切考えずに作った。自分たち独自のことをやった。ダンス・ミュージックが一時期から細分化され過ぎて、作っていて拘束着を着せられているように感じた。「このジャンルはこのサウンドでこのビートじゃなきゃ駄目」といった縛りが多すぎるって。

実はあなたの自伝をライセンスして、ニュー・オーダーの新作のリリースに合わせて刊行する予定でいます。そもそも自叙伝を書かれた理由は何だったのでしょうか? 

バーナード・サムナー(BS):自伝のなかでは、まさにそこのところも語っている。ぼくの音楽はぼくがこれまで生きてきた人生がもとになっている。子供時代、そして青春時代の経験や記憶だ。それはジョイ・ディヴィジョンにおけるぼくの音楽的貢献にも間違いなく繫がっている。ぼくが子供時代、そして十代を過ごした環境の雰囲気が表れている。自分に「音楽を作りたい」と思わせてくれた、自分の原点だ。
 それとは別に、新しい音楽との出会いについても触れている。ぼくが15歳、16歳のときに影響を受けた音楽について語っている。あとマンチェスターについても語っている。マンチェスターで生まれ育つのがどういう感じか、という。正確にはサルフォードという街でぼくは育ったんだ。サルフォードというのはマンチェスターに隣接した街で、マンチェスターから西に向かって進むといつの間にかサルフォードに入っている。マンチェスター首都圏のなかでもとくに工場が密集した工場地帯だ。そういう街でぼくは育った。それが後に自分の音楽にどう影響したかということを自伝のなかで語っている。

わかりました。さて、『ミュージック・コンプリート』は、大雑把に言って、ニュー・オーダーとはこういうバンドなんだという、自己確認するアルバムであり、原点回帰的なところもあるアルバムだと感じました。つまり、ニュー・オーダーらしいニュー・オーダーのアルバム、最初に聴いた瞬間に、「あ、ニュー・オーダー」と思うしかないアルバムというか。いかがでしょうか?

BS:ありがとう。

あなた個人にとって「ニュー・オーダーらしさ」とは何だと思いますか?

BS:……。何だろう。ファンの人たちに訊いたほうが上手く答えられるんじゃないかな。ライヴの後、ファンの人たちと会場の外やホテルで会ってサインとかする際によく言われるのは、「貴方の音楽と出会って人生が変わりました」、または「貴方の音楽は自分の人生を彩るサントラです」だ。彼らの心に深く刺さっているのがわかる。なぜニュー・オーダーなのかと言われたらわからないけど、みんな精神的な繫がりを感じているようだ。ぼくたちの音楽は凄くエモーショナルだから、人生で何か困難に直面したとき、ぼくたちの音楽に気持ちの慰めを見出すことができるのかもしれない。それがひとつある。
 あと、人を惹き付ける物語がこのバンドにはある。イアン・カーティスのこともそうだし、イギリスにおけるインディ・レーベルの台頭に大きく関わっていたことも大きい。〈ファクトリー・レコード〉の物語をひとつとっても面白い。すでに2本の映画が作られたくらいだ。〈ファクトリー・レコード〉のトニー・ウィルソンの生き様を描いた『24アワー・パーティ・ピープル』とイアン・カーティスの生き様を描いた『コントロール』だ。こうやって2本の映画ができるほどの興味深い歴史があるということも人びとがニュー・オーダーに惹かれ、共感し、そこに慰めを見出す所以なんじゃないかな。

ピーター・フックが脱退したとき、バンドは事実上解散したと思いますし、あなた自身にも再結成するプランはなかったと思います。しかも、バンドにとってベースラインはトレードマークでした。それがどうして、このように新しいアルバムを完成させ、発表するまでになったのでしょうか?

BS:まず……、彼不在でライヴを幾つもやるところからはじめた。その前にはっきりさせておきたいんだけど、彼はバンドを自ら辞めたのであって、決してぼくたちがクビにしたわけじゃない、ということ。

(笑)。

BS:そのことで彼にはずっと文句を言われっぱなしだからね。

そもそも彼はなぜ脱退をしたのでしょうか?

BS:もうやってられない、と思ったのだろう。おそらくぼくと彼が性格的にそりが合わなかったことが要因だった。彼はかなり対抗心を燃やしてくる性格で、でもぼくはそうじゃない。むしろ、そういうのが苦手だった。だって、同じチームなんだから、同じ目標に向かってみんなで力を合わせて頑張るのが当たり前だと思っていた。でも、同じチーム内で自分に対して対抗心を燃やしてくる人がいたら、それはチームにとっても良くないと思ったし、ぼくとしてもすごく嫌だった。
 それと、彼がぼくにやって欲しいと思っていたことをぼくがやらなかった、というのもあったと思う。彼は常時ツアーに出たいと思っていた。でもぼくはまだ幼い子供もいて、家族と離れるのが嫌だった。バンドに対して決してめちゃくちゃなことを要求しているは思わない。でも彼はそれが気に入らなかった。ぼくと彼は全く違うタイプの人間だったということに尽きると思う。考え方も懸け離れていた。それが限界に達していたのだろう。彼もぼくにうんざりしていたし、ぼくも彼にうんざりしていた。
 彼は、ぼくだけじゃなく、みんなを自分の思い通りにしたかったんだと思う。いまは自分のバンド、フリーベースでそれができるようになった。他のメンバーはおそらく彼の言う通りに動いてくれるのだろう。でもニュー・オーダーでそれをやろうと思っても無理だ。

そこからどうやって、彼抜きでニュー・オーダーを続け、このように新しいアルバムを完成させ、発表するまでになったのでしょうか?

BS:彼不在でライヴをやりはじめた頃は、正直多少の不安もあった。しかも彼はプレスに対して「俺抜きでは絶対に上手くいかない」と言い張ったんだ。「自分がいないニュー・オーダーはフレディ・マーキュリーのいないクイーンのようだ」ってね(笑)。「やったところで大失敗するだけだ」って。
 つまり、「俺は去るけど、せいぜいみんなで失敗すればいい」というのが彼の態度だった。「俺抜きで続けるなんて不可能だ」ってね。だから最初は多少の不安もあった。人びとがどう反応するかわからなかったから。でも、いざライヴをやってみると観客の反応は素晴らしく、世界各国で最高のライヴをいくつもおこなうことができた。新作の制作に取りかかるためにスタジオに入った頃には、すでに3年半ライヴをやってきていたから、彼がいないことに慣れていた。だから全く問題にはならなかったよ。

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曲作りでいちばん難しいのはいいメロディを書くことだ。ビートを作るのはさほど難しいことではない。いまではネット上でビートを買うことだってできるわけだからね。


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ジョイ・ディヴィジョンのときはポストパンク、ニュー・オーダーのときはディスコやエレクトロ、『テクニーク』のときはアシッド・ハウスとセカンド・サマー・オブ・ラヴなど、あなたはわりとムーヴメントとともにアルバムを作ってきたと思うのですが、『ゲット・レディ』以降は、音楽文化自体が、ムーヴメントなき時代に突入したました。そういう時代の変化と、ニュー・オーダーのやり方がズレはじめたと感じたことはありますか?

BS:ダンス・ミュージックに関しては多少あったね。ダンス・ミュージックが細かく区分化され過ぎてると感じた。ディープ・ハウスにファンキー・ハウスにアシッド・ハウス……という具合にジャンルが細分化され過ぎてしまって、ダンス・ミュージックの曲を書こうと思っても、まずどのジャンルに当てはまるかを考えなきゃいけないような気にさせられた。音楽はそうあるべきじゃないのに。
 今度の新作でもダンス・ミュージックをやっているけど、いまどんなサウンドが流行っている、といったことは一切考えずに作った。自分たち独自のことをやった。ダンス・ミュージックが一時期から細分化され過ぎて、作っていて拘束着を着せられているように感じた。「このジャンルはこのサウンドでこのビートじゃなきゃ駄目」といった縛りが多すぎるって。
 あともうひとつ感じたのは、ぼくたちは“ブルー・マンデー”でダンス・ミュージックにおけるパイオニア的存在だと見られていたのもあって、常に人がこれまで聴いたことのない音を出すことを期待されていた。でもそれって不可能なことなんだ。「新しい車輪を毎回発明しろ」と言っているようなものだ。それもあってダンス・ミュージックから少し距離を置こうと思ったんだ。ギターを核とした作品を作った。『ゲット・レディ』にしても『ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール』にしてもダンスの要素が薄れ、ギターが前面に出たアルバムになった。ギターで曲を作るときというのは、サウンドをそんなに気にせず歌をそのまま書けばいい。ギターの音は所詮ギターの音であって、ベースにしてもドラムにしても同じだ。サウンドのことをあれこれこだわる部分は少なく、単刀直入な作業だ。当時はそれが凄く新鮮だった。
 ジョニー・マーとやったElectronicの3作目、つまり最後のアルバムがギター中心のアルバムだった。その後の『ゲット・レディ』もギターが前面に出たアルバムだった。その後の『ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール』は少しエレクトロニックの要素もあったけど、ギターが主だった。その後ぼくはサイド・プロジェクトのバッド・ルーテナントで『ネヴァー・クライ・アナザー・ティア』というアルバムを出して、それもギター・アルバムだった。
 という流れがあって、もう十分ギター・アルバムはやったと思って、エレクトロニックなサウンドに戻るのにちょうどいま機は熟したと感じた。やりたくて飢えていたんだよ。ぼくだけじゃなく、スティーヴン(・モリソン)やジリアン(・ギルバート)もそう感じていたんだと思う。たとえるなら、ある食材を長い間全く口にしていなかったと想像してみて欲しい。チョコレートとか。で、ある時思い立ってまた口にしてみたら、美味しくてしょうがないと思うよね。それと同じで、今回またシンセサイザーを多用したことは、まるでおとぎの国にいるようだった。テクノロジーの進化がまた、制作をさらに面白いものいしてくれた。前はやりたいことがあってもそれを上手く音にすることができないこともあった。ジョイ・ディヴィジョンや初期のニュー・オーダーでは、持っていたシンセでかなり苦労をした。やりたいことがあっても、当時のシンセには限界があった。シンセそのものよりも、シーケンサーやコンピュータのテクノロジーがいまほど進んでいなかったから。それがいまはできるようになった。いまは音楽をまるで粘土遊びのように扱うことができる。曲やサウンドを粘土や石膏のように自在に形作ることができるようになった。それがすごく面白いと感じる。

アルバムのなかのジョルジオ・モロダー的なミニマルなビートに関しては、スティーヴン・モリスがファクトリー・フロアのような若いバンドに触発されたところがあるようですが、あなた自身がUKの若いクラブ・ミュージックに触発されることはありますか?

BS:う〜ん……ないかな。

なるほど。では、シングルのリミキサーで、たとえばですが、ジェイミーXXのような、クラブ系の若いタレントを起用することは考えませんでしたか?

BS:彼に限らず可能性はいくらでもあると思っている。リミキサー選びはこれからの作業になるから、いまからじっくり時間をかけて才能ある人を選びたいと思っている。ただ、いまの時代、可能性や選択肢が多すぎるというのも、それはそれで困ったものなんだよね。ニュー・オーダーの初期の頃はリミックスをお願いする人にしてもひとり、ふたりくらいしか選択肢はなかった。でも、いまは何百と優れたリミキサーがいる。いまの段階ではまだ話せないけど、いろいろ進めているものもあるよ。

マンチェスターの新しいシーンには関心がありますか? 

BS:さっきも若いクラブ・ミュージックに触発されることは「ない」って話をしたけど、ぼくの場合、音楽のインスピレーションは自分の内側からくるもので、外から受けるものではないんだ。最初に自伝の話をしたときにも話したけど、ぼくという人間の生い立ちから来るものなんだよ。

ニュー・オーダーの曲にはダンスもありますが、メロディアスな曲調もバンドを象徴していると思います。“レストレス”なんかは、ぼくには“リグレット”を彷彿させわけですが、あの当時“リグレット”は、サマー・オブ・ラヴが終わった感じをとてもよく表していました。そのセンで考えると“レストレス”にも時代が描かれているのでしょうか?

BS:おかしなもので、本来エレクトロニックなアルバムを作るつもりだったのに、アルバムの1曲目にアコースティック調な曲を持ってきたんだよね。まあ、それもニュー・オーダーらしいよ。矛盾だらけのバンドだ。「こうする」と言っておきながら、違うことをしてしまう(笑)。今回もエレクトロニック・アルバムだって言うのにアコースティックな曲で幕を開ける。なんでかって聞かれたら、これがシングルだからだろう。これまでもシングル曲を1曲目にしてきたことが多い。そして、君が言うように非常にメロディアスな曲でもある。
 曲作りでいちばん難しいのはいいメロディを書くことだ。ビートを作るのはさほど難しいことではない。いまではネット上でビートを買うことだってできるわけだからね。あるいは勝手にビートを作ってくれるプラグインだってある。当然、独自のサウンドのビートを作ろうと思ったら、もっと難しくなるわけだけどね。“ブルー・マンデー”のような独特のビートを作ろうと思ったら。それでもいちばん難しいのはいいメロディを書くことだと思う。曲を書く上でいちばん苦労する部分だ。で、今回いちばん意識した部分でもある。全員が今回いいメロディに重点を置いて曲作りをした。どの曲にもいいメロディが不可欠だと思った。
 “レストレス”は、我々がいかに慢性的な消費社会になってしまったかってことを反映している。大量消費ついて考えていたんだ。本当の意味では何も我々を満たしてくれないって。何かを買っても、数日間は満たされた気持ちになるかもしれない。でも、すぐにまたもとに戻ってしまう。だったら何が自分を幸せにしてくれるのかって疑問に思った。お金では買えないもので自分を幸せにしてくれるものは何かって。この曲は消費者主義に対するぼくなりの所見を述べている。消費者主義を批判しているわけではない。誰もが消費者はわけで、ぼく自身も一消費者だ。つい先日もApple Watchを購入したばかりだ。立派な消費者さ。でもふと考えたんだ。個人のみならず、社会全体をより幸せに、より満たしてくれるものは何か?って。
 現代社会において、日々の生活のなかで満たされる気持ちがどんどん欠けてしまっているんじゃないかって思うんだ。それは我々が消費することに取り付かれていることに起因しているのではないかって。例えば大量消費とは無縁の熱帯の島で暮らしている人たちに比べたとき、彼らのほうがずっと満たされた生活を送っている。例えば日本の何処かの島ないしは沿岸の漁村に住む人たちは非常に素朴な生活を送っている。消費者主義とは無縁の彼らのほうが幸せなんじゃないかなって思うんだ。(この曲は)批判しているわけではないし、所見というよりも、むしろ疑問に近い。「何が我々を幸せにしてくれるのか」「何が我々の生活をより幸せにしてくれるのか」「いかにして我々は嘗てあったものを失ってしまったのか」という。大きな疑問だね。

そうした資本主義の行き過ぎてしまっているような社会状況に関連した歌詞は今回のアルバムの大きなデーマのひとつと言えるのでしょうか?

BS:アルバムを通してひとつの大きなテーマがあるわけではない。歌詞に関して言うと、ぼく自身のことを歌っていると思われることが多いんだけど、必ずしもそうではないんだ。架空の人物や架空の人物たちについて書いた、自伝的でない曲を書くことだってある。人間関係についての歌にしても、ぼくの実体験というよりも、作り話であることだってある。
 今作の曲にしても歌詞の内容は多岐にわたっている。自分の歌詞を解説するのは好きじゃないんだ。自分の歌詞を聴いた人が、その人なりの解釈を加えることで、聴き手側も関与する、曲を介した双方向の対話になったほうが、ただ聴き手が受動的に曲を聴くだけよりもいい。それに、ぼくの歌詞は抽象的なことが多い。そもそも音楽はもっとも抽象的な芸術的表現だ。絵画における抽象画が登場する以前から、音楽は常に抽象表現だった。人びとはいくつかの和音を組み合わせたり、旋律を書く、あるいは太鼓のリズムを作ることで音楽を表現した。言葉などを使って具体的な何かを示しているわけではない。完全な抽象芸術だ。
 実はアルバムのタイトルを『アブストラクト(抽象的)』にしようかとも考えたんだ。なかなかいいタイトルだといまでも思う。でも実際、曲に歌詞をつける段階で、書き手としては抽象的であることを諦めなければいけなくなる。言葉で曲に意味をつけなければいけない。さらにはそれを聴き手が解釈をする、ということを念頭に書かなければいけなくなる。最初の頃はそこにかなり抵抗があった。ニュー・オーダーの初期の頃。自分のことを語るのが苦手だった。自分が何を考えているのか人に知られるのが嫌だった。自分だけの大切な逃げ場所だったから。でも、バンドのシンガーになったことで、自分の殻から出ることを強いられた。だから最初の頃は非常に曖昧な歌詞を書いた。ぼんやりとした表現をすることで真意をわざと隠した。いまでも自分の歌詞はそういう要素を引きずっていると思う。いまは、表現はより明瞭になったかもしれないけど、想像上の物語だったり、架空の人のについて書くようになった。ちょっとした短編小説のようにね。

バンドとしてもアルバムを完成させるのにとにかく集中して力一杯取り組んだ。作業に費やした時間も長かった。クリスマスでも週に50時間働いた。仕上げの1ヶ月は週に70時間働いた。それくらい大変な作業だったけど、そこまで頑張ったからこそ出来たアルバムには凄く満足しているよ。

シンガーという話が出ましたが、『ミュージック・コンプリート』を聴いてもうひとつ思ったことがあります。あなたは以前よりも歌がうまくなっているんじゃないかということなんですが、ご自身ではどう思いますか?

BS:ミュージシャンとしてもシンガーとしても常に成長していると思う。音楽をやってれば、必ず何か新しいことを学ぶ。だからいつだって成長し続けている。だからこれだけ長くミュージシャンを続けられているんだと思う。学校に通っていたときと違ってね。
 学校は大嫌いだったよ。学校で教そわる科目も嫌いだったし、先生も嫌いだった。つまらないと思ったし、だから勉強する気になれなかった。学校で教えてることがたわいもないものにしか思えなかったから、知識として得ることができなかった。それに比べて音楽は興味をそそられた。音楽のことを学ぶ過程にも興味が尽きなかった。ぼくをはじめ、バンドの全員が独学で音楽を身につけた。他のミュージシャンを聞いて学んだり、彼らのことを読んで学んだり、実際に自分たちでプレイすることで学んできた。人から教わるのではなく。全て独学で覚えた。その辺りがクラシックのミュージシャンたちとは違う。
 決して彼らが間違っていて自分のほうが正しいと言ってるわけじゃない。そうやって独学で習得する部分がぼくとしては気に入っている、というだけ。いまでも学ぶことはたくさんある。そしてぼくはヴォーカリストだ。昔と比べて、ヴォーカリストであることに慣れて自信が持ててきたといのはある。ニュー・オーダーの初期の頃はヴォーカリストであることが苦痛だった。そもそもヴォーカリストになんてなりたくなかったわけで。イアンが亡くなったからそうするしかなかった。でもいまは、自分がシンガーという事実を受け止めて、やるべきことをやると割り切っている。……それでも難しいけどね。
 いつも、曲が先にでき上がるんだ。今作では3つのグループに別れて曲作りをした。スティーヴンとジリアンは彼らのスタジオで曲作りをして、トムとフィルはスティーヴンとジリアンと共同で作業することもあれば、トムの家で自分たちで作業することもあった。ぼくもスティーヴンとジリアンのスタジオまで行って彼らと作業することもあったけど、かなりの時間をいまいる自宅のこの部屋で過ごした。すごく狭い部屋をスタジオとして使っているんだ。邪魔されることなく作業に集中できる。一つのスタジオに全員が集まって作業する代わりに、そうやって今回は曲作りを進めた。そこでできた曲やアイディアをみんなで持ち寄るんだ。ぼくが発案したアイディアを誰かが発展させることもあったし、他の人のアイディアをぼくがさらに発展させることもあった。正直、凄く集中力を要した張り詰めた制作プロセスだった。「凄く楽しんで作ることができた」とは決して言えない。というのも、ニュー・オーダーにとって重要なアルバムになるとわかっていたから。バンド内で起きた変化を経て、バンドの歴史においても節目となる作品だった。それだけに、バンドとしてもアルバムを完成させるのにとにかく集中して力一杯取り組んだ。作業に費やした時間も長かった。クリスマスでも週に50時間働いた。仕上げの1ヶ月は週に70時間働いた。それくらい大変な作業だったけど、そこまで頑張ったからこそ出来たアルバムには凄く満足しているよ。バンド全員が満足している。

トム・ローランズは3曲で参加していますが、彼が関わることになった経緯について教えて下さい。あなたは彼のどんなところに期待をしたのですか?

BS:ケミカル・ブラザーズとは、ぼくが個人的に参加した「Out Of Control」がこれまでもあったし、トムもニュー・オーダーと“Here To Stay”で共演している。これまでも何度か一緒に仕事をしたことがあったし、ケミカル・ブラザーズのふたりと考えも似ていると思っている。自然と噛み合う。だから今回もトムに何曲かプロデュースを依頼したいと思った。あまり保守的な人には依頼したくないというのもあった。勢いのあるトラックに関してはとくに。もちろんトム自身も好きなものがはっきりしているから、アルバム全部をお願いするつもりはなかった。結果的に2曲を手がけてもらうことになった。ケミカル・ブラザーズの音楽は非常に革新的で進歩的で、畳み掛けてくる迫力がある。だから今回彼が手がけた曲に関してはそういう彼ならではのテイストが反映してもらいたいと思ったんだ。

KAMATAN (仙台PANGAEA) - ele-king

今日のレコードバッグ

MITSUKI (MOLE MUSIC) - ele-king

「不変推、推増即正」

注目のD.A.N.“夏の終わりの”新曲配信 - ele-king

 あまりにみずみずしく、また、あまりに堂々たるインディ・ロック──「ジャパニーズミニマルメロウ」を掲げる若き3ピース・ユニット、D.A.N.のデビューEP『EP』がすばらしい。リリース・パーティを10月に控え、さらなる活躍に期待が高まる中、新曲1曲が配信限定で発表されるとの報が寄せられた。
 「夏の終わり」に合わせた曲だということだが、長雨が野分の風とともに暑気を振り払ったかと思えば、ふたたび夏の名残りが戻ってきそうな予感のこの頃、9月の終わりをもってようやく、わたしたちはこの曲とともに夏を惜しめるかもしれない。

フジロックのルーキーステージにも出演、いまだセールスが伸び続けている全員まだ21歳の3人組D.A.N.ですが、夏の終わりに合わせ新曲を1曲、配信限定で9月30日にリリースします。
デビューepとはまた一味違う、D.A.N.の新たなセンスが伺えるとてもポップな楽曲です。
都会の夜に合うアーバンな世界を持ち、かつバレアリックなチル効果もあり、涼しくなったまさに今この季節に聴いてほしい最高に気持ちのいい1曲です!
今作は最近ライブでもサポートしてくれている、トロピカルなマルチミュージシャン"小林うてな"嬢がシンセとスティールパンで参加しています。
また、REC&MIXエンジニアは前作に続き、葛西敏彦さんが手掛けています!間違いありません!
そして、この新曲のリリースに伴い、デビューep『ep』と併せた形でリリースパーティーを開催します。
10/19、場所は渋谷WWW、ゲストアクトに、U-zhaan × mabanua、submerseという強力なメンツが揃いました。

■リリース情報

D.A.N.
digital single『POOL』

発売日:2015.09.30(wed)
価格:¥250
発売元:SSWB / BAYON PRODUCTION

itunes
https://itunes.apple.com/jp/album/ep/id1004255038

D.A.N.
桜木大悟 (Gt,Vo,Syn)
市川仁也 (Ba)
川上輝 (Dr)

Guest Player
Utena Kobayashi (Syn,Steelpan)

Engineer
Toshihiko Kasai

○Message
誰にでも大切な記憶の「プール」がある。
その記憶の貯水池が「溢れる」瞬間を見つめた、新曲「POOL」。
夏の終わりの虚無感とともに訪れる記憶の走馬灯。
瑞々しい記憶や切ない記憶、すべての記憶が絡み合い溢れ出して、頭の中を心地よく漂っていく。

誰にでもある大切な記憶の「プール」。
当たり前のように 側にあるひと時、
宝物のような 幸せなひと時、
胸を擦り剥いて 眠れないひと時、
目を見れない 恥ずかしいひと時
その一枚、一枚の記憶の断片が折り重なる広大な貯水池。

いつの間にか化粧された記憶ばかりが溢れていき、胸がいっぱいになる。
ありのままの自分を探し求めてその「プール」を泳ぎ続ける。
きっと愉快でしあわせな桃色の記憶だってあるはずだから。
私たちはそんな記憶の「プール」を泳ぐ生きものだ。

D.A.N.

■イヴェント情報

D.A.N. release party "POOL"

2015.10.19 (mon)
at 渋谷WWW

ACT
D.A.N.
U-zhaan × mabanua
submerse

開場19:00 / 開演19:30
前売¥2,800 / 当日¥3,300(ドリンク代別)

問い合せ:WWW 03-5458-7685

チケット
一般発売:9/12(土)
チケットぴあ【P:276-621】/ ローソンチケット【L:76011】 / e+ / WWW・シネマライズ店頭

○D.A.N.
2014年8月に、桜木大悟(Gt,Vo,Syn)、市川仁也(Ba)、川上輝(Dr)の3人で活動開始。様々なアーティストの音楽に対する姿勢や洗練されたサウンドを吸収しようと邁進し、
いつの時代でも聴ける、ジャパニーズ・ミニマル・メロウをクラブサウンドで追求したニュージェネレーション。
2014年9月に自主制作の音源である、CDと手製のZINEを組み合わせた『D.A.N. ZINE』を100枚限定で発売し既に完売。
6月11日に開催の渋谷WWW企画『NEWWW』でVJ映像も取り入れたアート性の高いパフォーマンスで称賛を浴びる。
そして、トクマルシューゴ、蓮沼執太、森は生きているなどのエンジニアを務める葛西敏彦を迎え制作された、
デビューe.p『EP』を7月8日にリリース。7月にはFUJI ROCK FESTIVAL '15《Rookie A Go Go》に出演。

○U-zhaan × mabanua (ユザーン・バイ・マバヌア)
タブラ奏者 U-zhaanとドラマーmabanuaによるプロジェクト。
レイ・ハラカミ氏の「ユザーンがmabanuaくんとやるのをちょっと観てみたいなー、おれ」という軽い勧めにより結成。
音源リリースは未だないにも関わらず、UNIQLO CMへの楽曲提供や、FUJI ROCK、KAIKOO、りんご音楽祭など全国のフェスにも多数出演。

U-zhaan
ザキール・フセイン、オニンド・チャタルジーの両氏にタブラを師事。yanokami、UA、HIFANA、七尾旅人、SUPER CAR、
大橋トリオ、小室哲哉など多くのアーティストの作品にタブラ奏者として参加している。
憧れのミュージシャンはレイ・ハラカミ。1stアルバム『Tabla Rock Mountain』が発売中。
https://u-zhaan.com/

○mabanua
ドラマー、ビートメーカー、シンガー。Chara、くるり、大橋トリオ、DJ BAKU、COMA-CHI、TWIGY、Eshe、Chet Fakerなどの作品のプロデューサー、
ドラマー、リミキサーとしても活動。またGoogle、キユーピー、UNITED ARROWSなど数々のCM音楽の制作や、
フジテレビ系アニメ「坂道のアポロン」「スペース☆ダンディ」への楽曲提供など、あらゆるシーンで奮闘中。
https://mabanua.com/

○submerse
イギリス出身のsubmerseは超個人的な影響を独自のセンスで 消化し、 ビートミュージック、ヒップホップ、
エレクトロニカを縦横無尽 に横断するユニークなスタイルを持つ DJ/ビートメーカーとして知られている。
SonarSound Tokyo2013、Boiler Room、Low End Theoryなど国内外の人気パーティーに数多く出演。
また、Pitchfork、FACT Magazine、XLR8R、BBC といった影響力のあるメディアから高い評価を受ける。
昨年ファーストアルバ ム『Slow Waves』を、今春最新EP 『Stay Home』を flau/Project Mooncircleよりリリース、ロングセラーを続けている。
https://soundcloud.com/flaurecords/sets/submerse-stay-home
https://soundcloud.com/submerse/slow-waves


無為こそ過激 - ele-king

俺のラップはファッションではない、パッション
怒り 絶望 喜び 希望 色んなそん時がつまってんだ まだ科学じゃ解明できない
一瞬の爆発を秘めている 目にできないから絵にもできない その時その場所じゃなきゃ分からねぇ……──ギンギラギン

 いちばん最後に見たTAMUくんのラップは方南通り裏のスナックでカラオケマイク持ちだしたとき、ではなくて、他のメンバーも来てタクシーで池袋〈BED〉に向かいMONJUが出演する前にマイクを持ち出してフリースタイルをキメだしたやつだったかな、あの時はバッチリキマってたなぁ。いやちがうな、二木くんが高円寺でDJしてるってのを聞いてちょうど卓球BARで飲んでたんで遊びに行ったらマイクを持ち出してフリースタイルはじめた時だな、その時はあんまりキマってなかったなぁ……

 飲んだときの会話で引っ掛かってるのが「自分が描いてきた作品を個展として見せてみたい、その後はぜ~んぶ売ってしまいたい」って言ってたことだったけど、そのパッションという言霊は今週末に結実するんだな。

 あんとき聴いとけばよかったなぁ、見とけばよかったなぁ、ってことになる前に。
 さよならだけが人生だ……

■TAMU 個展 「anmaorenikamauna」xREFUGEE MARKET
2015 9/12(sat)~9/13(sun)
Open15:00~Close22:00
@Time Out cafe & Diner[LIQUIDROOM 2F]
Adv 1000円/1D

〈DJ's〉
PUNPEE
16flip
YODEL
WATTER
CHANGYUU
COTTONDOPE
K.K.K.K.K.
qroix
slowcurv
babysitter
illcommunication

and more

<VJ>
VIDEOBOUILLON www.videobouillon.com


THE BELIEVABLE MEDIA IS AROUND US

DownNorthCamp 1st ALBUM REC初日、皆が新しいリリックをキックする。
あいつだったらどんなラップを乗せるのだろう。

「言いたいこと好きなだけ言えるよ。
まだまだまだまだ…」
TAMUのリリックが頭をよぎる。

描き溜められた作品達に込められた残りの「言いたいこと」を今放出することで、
CPF×DNCのプロジェクトに全員参加した形になればと思い、個展を開催します。

由来となったanmaorenikamauna@docomo.ne.jpは、現在使われておりません!

問い合わせ先:
Dogear Records
Time Out Cafe & Diner 03-5774-0440
LIQUIDROOM 03-5464-0800

https://www.timeoutcafe.jp/news/150912000887.html


第33回:パンと薔薇。と党首選 - ele-king

 それはある晴れた夏の日のことだった。
 鬱気質であまり明るい人間ではない筈のうちの連合いが、爽やかな笑顔を浮かべてロンドンから帰って来た。癌の検査で病院に行って来た男が、また何が嬉しくてこんな陽気な顔で帰ってきたのだろうと訝っていると、彼は言った。
 「ロンドンがいい感じだったよ」
 「いい感じって?何処が?」
 「いや全体的に」
 と言って口元を緩ませている。
 「なんか、昔のロンドンみたいだ。俺が育った頃の、昔のワーキングクラスのコミュニティーっつうか、そういう息吹があった」
 相変わらずわかりづらい抽象的なことしか言わないので、具体的にどんな事象が発生したのでその「息吹」とやらを知覚したのかと問いただしてみると、こういうことだった。

 自分が行くべき病院の場所を知らなかった連合いは、ヴィクトリア駅前のバスターミナルに立っていた。おぼろげにこっち方面のバスだろうなあ、と思いながらバス停のひとつに立っていたおばちゃんに「○○病院に行きたいのですが」と話しかけると、「ああ、それならこのバス停だよ。○番のバスに乗って、11番目、いや待てよ、12番目かな、のバス停、左側に大きなガソリンスタンドと貸倉庫が見えて来るから、それをちょっと過ぎたところでバスを降りて、道路を渡ったら煙草屋があるから、そこの角を右に曲がって100メートルぐらい歩いたら云々」とやたら詳しく説明をはじめ、「ああ、でも、アタシそのバスでも家に帰れるから、一緒に乗って、あなたがバスを降りる時にまた教えてあげる」と言ったそうだ。それを聞いた連合いは感心し、「いやあ、今どき、こういうローカルな知識のある人にロンドンで会えるなんて新鮮です。今の世の中はソーシャル・ディヴァイドが進んで、気安く人に話しかけれらない」と言うとおばちゃんは言ったそうだ。
 「いや、ロンドンは変わるんだ。昔のようなコミュニティ・スピリットが戻って来るんだよ」
 おばちゃんはそう胸を張り、
 「あなた、ジェレミー・コービンって知ってる?」
 と唐突に言ったらしい。
 「ああ。すごい人気ですよね」
 「彼はもう30年もイズリントンの議員だった人だよ。ロンドンっていうとすぐウエストミンスター政治って言われるけど、ロンドンのストリートを代表する政治家だっているんだ」
 バスに乗り込んでもおばちゃんは連合いの隣に座ってコービン話を続けたそうだ。
 「俺はジェレミー・コービンの言うことは全て正しいと思うけど、それと政党政治とはまた別物だから……」
 と連合いが言うと、後ろの席に座っていた学生らしい若い黒人女性が
 「私、実はジェレミーを支持するために労働党に入りました」
 と言い、脇の折り畳み式シートに座っていた白髪の爺さんも
 「ゴー、ジェレミー」
 とこっそり親指を立てていたそうだ。
 「ひょっとしてこれはコービン・ファンクラブのバスか何かですか?」
と連合いが言うと、乗客たちがどっと大笑い。みたいなたいへん和やかな光景が展開され、病院近くのバス停で降りるときにはおばちゃんがまた懇切丁寧に病院までの道筋を教えてくれ、病院に着いてからも心なしか受付のお姉ちゃんも看護師もみんな気さくで親切で、ロンドンがきらきらしていたというのだ。
 「それ、天気がよかったからじゃないの?」(実際、天気がいいと英国の人々は明るい)
 とわたしは流しておいたが、ロンドンであんなポジティヴなヴァイブを感じたのは数十年ぶりのことだと連合いは力説していた。

 それが日本に発つ前日のことで、2週間帰省して英国に帰って来てみれば、SKYニュースの世論調査で党首選でのコービン支持が80.7%などという凄い数字になっていた。
 今年の総選挙で英国の世論調査がどれほどあてにならないかということが露呈されたとはいえ、さすがにこれでコービンが労働党の党首に選ばれなかったら裏でトニー・ブレアたちが何かやってるだろう。

 しかし、たったひとりの政治家がストリートのムードまで変えてしまうというのはどういうことなのだろう。

 わたしも日本語のネットの世界ではけっこう早くからコービン推しをしてきたひとりだと思っているが、正直なところ、「どうせ彼が勝つわけがない」という前提はあった。
 ここら辺の気もちは、立候補当初から彼を全力で支援してきた左派ライター、オーウェン・ジョーンズも明かしているところで、彼も「3位で終わるだろうと思っていた」と書いている。しかも、コービンの立候補を知った時の最初のリアクションは「心配だった」と表現している。彼のいかにも政治家らしくないキャラクターが、「反エスタブリッシュメント」のシンボルとしていろいろな人々に利用されはしないかと思ったという。
 オーウェンとコービンは10年来の友人だ。いわゆる「レフトがいかにも行きそうなデモや集会」でしょっちゅう会っていたからだ。拙著『ザ・レフト』にも書いたところだが、「草の根の左派の運動をひとつにまとめてピープルの政治を」というのは、ここ数年、英国でずっと言われて来たことだ。が、オーウェンは「まだ自分たちにはその準備ができていない」と思っていたという。それがコービンの党首選出馬によって数週間のうちに現実になって行くのを見ると、左派にとっては「嬉しい誤算」というより、「へっ?」みたいな戸惑いと怖れがあったのだ。

 ビリー・ブラッグもその複雑なところをFacebookに吐露している。
「労働党の党首選には首を突っ込まないつもりだった。党員ではなく、支持者として見守るつもりだった。党内の人びとに決定させ、自分はその結果を見て労働党を支持するかどうか決めようと思っていた。コービンが立候補した後でさえ、気持ちは変わらなかった……(中略)……だが、僕の気が変わったのは、トニー・ブレアが『自分のハートはコービンと共にある、などと言う人はハート(心臓)の移植手術を受けろ』と言った時だった。僕は労働党にハートのない政党にはなって欲しくない」

           *******

 月曜日にBBC1の「パノラマ」というゴールデンアワー放送のドキュメンタリー番組で、ジェレミー・コービンの台頭について特集していた。今週の土曜日に党首が発表されるというのに、そこまでやるかというぐらいにアンチ・コービンな内容の番組だった。
 BBCは労働党のブレア派と繋がりが深いとは言え、またこれは露骨な。と驚いたが、メディアがこうした報道をやればやるほどコービン人気はうなぎ上りに盛り上がる。

 英国民を舐めちゃいかん。
 ここは昔パンク・ムーヴメントが起きた国だ。
 「それはダメ」「それだけは絶対にいけない」と言われると、無性にそれがやりたくなるのである。

           *******

 コービンに関する不安は、わたしもずっと継続して持っている。
 過去20年間UKに住んで、これだけ大騒ぎされ、まるで新興宗教の教祖のようにもてはやされている政治家を見たのは、トニー・ブレア以来だ。ブレアはあの通りギラギラとエゴが強力で、もともとロックスターを目指していた人だから、ほんとに教祖になったつもりでパワーをエンジョイできた。が、コービンのような「我」のない普通の人がいきなり国中のピープルから教祖にされたら悲劇的に崩壊しそうな気がするからだ。

 けれどもコービンについて熱く語る若い人たちや地べたの労働者たちを見ていると、ここに至る流れは確かにあったと、それを止めることはできなかったと思わずにはいられない。
 例えば昨年は『パレードへようこそ』という映画の思わぬ大ヒットがあり、英国では北から南まで国中の映画館で観客がエンドロールで立ち上がって拍手していたそうだが、あの映画でもっとも印象的なのはストライキ中の炭鉱の女性たちが有名なプロテストソング「パンと薔薇」を歌うシーンだ。


 私たちは行進する 行進する
 美しい昼間の街を
 100万の煤けた台所が
 数千の屋根裏の灰色の製粉部屋が
 きらきらと輝き始める
 突然の日の光に照らされて
 人々が聞くのは私たちの歌
 「パンと薔薇を パンと薔薇を」

 私たちは行進する 行進する
 私たちは男たちのためにも戦う
 彼らは女たちの子供だから
 私たちは今日も彼らの世話をする
 暮らしは楽じゃない 生まれた時から幕が下りる時まで
 体と同じように 心だって飢える
 私たちにパンだけじゃなく 薔薇もください   
               “Bread and Roses”


 ネットに投稿されている誰かが描いたコービンのイラストに、彼が胸に一輪の薔薇をつけている画像がある。(今ではそんなこたあ誰も覚えてないように見えるが)英国労働党のシンボルも実は一輪の赤い薔薇だ。昨日と今日にかけて、わたしは11人の英国人に「薔薇って何のこと?」と尋ねた。ひとりは「愛」だと言った。もうひとりは「モラル」だと言った。そして残りの9人は「尊厳」だと言った。

 日本で左派が「お花畑」と呼ばれることがあるのはじつに言葉の妙というか面白いが、パンが手に入りにくくなる苦しい時代ほど、人間は薔薇のことを思い出す。

 今週末、英国でついにその薔薇が再び咲くかもしれない。
 長いこと人気のない温室でしか咲かなかったその薔薇が、風雪にさらされる場所に咲いても大丈夫なのか、どうすればわたしたちはそれを枯らさずにいられるのか、これからが本物の正念場だ。

HOUSE OF LIQUID - 15th ANNIVERSARY - ele-king

 目下注目のバンド、ゴートの今年出したアルバム・タイトルが『リズム&サウンド』、そう、ベルリンのミニマルにおけるひとつの頂点となったベーシック・チャンネル(レーベル名であり、プロジェクト名)の別名義からの引用である。ボクは、そして彼に、つまりゴートの日野浩志郎に、ベーシック・チャンネルのふたりのうちのどちらにより共感を覚えるのかと訊いたら彼は「モーリッツ」と答えたのだった。(もうひとりのオリジナル・メンバー、マーク・エルネトゥス派かと思っていたので、この答えはボクには意外だった)
 モーリッツ・フォン・オズワルドは、トリオとして、今年は、アフロビートの父親トニー・アレンの生ドラミングをフィーチャーした新作『サウンディング・ラインズ』をリリース、相変わらずのクオリティの高さを見せたばかりだ。注目の来日となる。

 なお、共演者には、先日素晴らしいアルバム『Remember the Life Is Beautiful』を出したばかりのGONNO、そして、日本のミニマリスト代表AOKI takamasaとベテランのムードマン

9.18 fri @ LIQUIDROOM
feat. dj
Moritz Von Osawld
GONNO (Mule Musiq, WC, Merkur, International Feel)
MOODMAN (HOUSE OF LIQUID, GODFATHER, SLOWMOTION)
feat. live
AOKI takamasa (Raster-Noton, op.disc, A.M.) and more to be announced!!

Open/ Start 23:00
Advance 3,000yen, Door 3,500yen (with Flyer 3,000yen), 2,500yen (Under25, Door Only)
Ticket Outlets: PIA (273-309), LAWSON (71728), e+ (epus.jp), DISK UNIOIN (Shibuya Club Music Shop/ Shinjuku Club Music Shop/ Shimokitazawa Club Music Shop/ Kichijoji/ Ochanomizu-Ekimae/ Ikebukuro), JET SET TOKYO, Lighthouse Records, TECHNIQUE, clubberia, RA, LIQUIDROOM
※ 20歳未満の方のご入場はお断り致します。年齢確認のため、顔写真付きの公的身分証明書をご持参ください。
You must be 20 and over with photo ID.
Information: LIQUIDROOM 03-5464-0800 https://www.liquidroom.net

9.19 sat @ 大阪 心斎橋 CIRCUS
出演:Mortitz von Oswald, DJ Yogurt (Upsets, Upset Recordings), SEKITOVA
Open/ Start 22:00
Advance ¥2,500, Door ¥3,000 共に別途1ドリンク
Information: 06-6241-3822 (CIRCUS) https://circus-osaka.com

モーリッツ・フォン・オズワルト・トリオ
サウンディング・ラインズ


Pヴァイン

Amazon


VOGUE FASHION'S NIGHT OUT - ele-king

 OPN, Rezett, Joy Orbison……。過去のコレクションや主催イベントにおいて、Sk8ightTingとToby Feltwellが率いるファッション・ブランドC.Eはカッティング・エッジなアーティストたちを迎えてきた。今回その歴史に新たな精鋭が加わることに。
 その名はOndo Fudd。説明不要のカルチャー・アイコンWill Bankhead主催の〈The Trilogy Tapes〉からのシングル「Coup D'État」で知られる彼だが、そのキャリアで特筆すべきことはCall Super名義での活動だろう。Special RequestやAkkordのリリースで知られる〈Houndstooth〉から去年リリースされたアルバム『Suzi Ecto』は、彼のテクノやハウス、IDMへの深い造詣が、ベース・ミュージックとも有機的に絡み合った新世代の到来を告げるような一枚だ(今回が初来日)。
 イベントはVOGUE FASHION'S NIGHT OUTにてC.Eが期間限定で出店するショップが会場となる。入場料無料で年齢制限もないので、新しいサウンド&ヴィジョンに飢えている全世代の方々、今週末は迷うことなく会場へ!

VOGUE FASHION'S NIGHT OUT

2015.9.12 (Sat)
18:00 - 22:00

会場:
CAV EMPT SHORT TERM RETAIL EXPERIMENT at BEAUTY&YOUTH UNITED ARROWS
3F, 2-31-12 Jingumae, Shibuya-ku, Tokyo 150-0001
東京都渋谷区神宮前 2-31-12 ユナイテッドアローズ原宿本社ビル 3F
https://goo.gl/maps/5ER8Q

DJs:
Ondo Fudd (The Trilogy Tapes)
1-Drink
Toby Feltwell (Cav Empt)

連絡:
03-3479-8127
www.cavempt.com
www.beautyandyouth.jp

■ Ondo Fudd
Call Superという別名義でも知られるOndo FuddことJR Seatonは、現在はベルリンを拠点に活動するUK出身の音楽プロデューサーである。Will Bankheadが主宰するUKのインディペンデントレーベル「The Trilogy Tapes」から昨年2月に発表した<Coup d'Etat>はカルト的な人気を誇る。来る9月25日にはCall Super名義でニューEP<Migrant>を「Houndstooth」よりリリース予定。
https://soundcloud.com/the-trilogy-tapes/sets/ondo-fudd-coup-detat-ep

■ Toby Feltwell
英国生まれ。96年より「Mo'Wax Records」にてA&Rを担当。
その後XL Recordingsでレーベル を立ち上げ、Dizzee Rascalをサイン。
03年よりNIGO®の相談役として<A Bathing Ape®>や<Billionaire Boys Club/Ice Cream>などに携わる。
05年には英国事務弁護士の資格を取得後、東京へ移住。
11年、Sk8ightTing、Yutaka.Hと共にストリートウエアブランド<C.E>を立ち上げる。
https://www.cavempt.com/

■ 1-Drink
TECHNO、HOUSE、BASS、DISCOの境界を彷徨いながら現在にいたる。 DJユニット"JAYPEG"を経て現在は個人活動中。 ときどき街の片隅をにぎわせている。
https://soundcloud.com/1-drink

■C.E (シーイー)
デザイナー:Sk8ightTing (スケートシング)
ディレクター:Toby Feltwell (トビー・フェルトウェル)

Sk8ightTing がToby.F、Yutaka.H の2 人と共に2011 年にスタートさせたストリートウエアブランド。Philip K. Dick の著書『UBIK』に登場する女性のタトゥー“Caveat Emptor”(ラテン語で“買い手が品質の危険性を負う”の意)がブランド名の由来。シーズンテーマはありません。

2013年3月、2014年9月にはMercedes-Benz Fashion Week TOKYO内のイベントVersus Tokyoにおいて映像と音楽を用いたプレゼンテーションを発表。同年2014年12月にはロンドンのTete Britanで開催された、Late at Tete Britanでもプレゼンテーションを行いました。

www.cavempt.com

まわるまわる! - ele-king

 オープン・リール・アンサンブルをご存じだろうか。オープンリールを楽器として「奏でる」この奇妙なオーケストラは、音の楽しさにくわえ、視覚的なライヴ・パフォーマンスも傑出しており、坂本龍一の〈commmons〉からデビュー作を出したのち、ISSEY MIYAKEのパリコレクションのために曲を書き下ろすなどの商業的な仕事のほか、オープンリールを解析した世紀の奇書『回典 ~En-Cyclepedia』の刊行や、飽かずあらたなコンセプトや挑戦をみせるライヴ活動など、持ち前のエクスペリメンタリズムをフル「回転」させながら、このたびセカンド・アルバムを発表した。リード・トラックのPVがついに公開、というニュースが届いたので、ぜひ観て(聴いて)いただきたい。ついでにいろんなライヴ映像なんかも上がっているはずなので、クルージングしてみてはいかがだろう。ついついと、この回転の渦から出られなくなるかもしれないけれど──。
 後日、ele-kingではインタヴューも大公開!

■Open Reel Ensembleの2ndアルバム『Vocal Code』から、錯視(目の錯覚)の効果を利用したMV「空中特急」が公開!!

9月2日(水)発売! Open Reel Ensembleの2ndアルバム『Vocal Code』から、錯視(目の錯覚)の効果を利用したMV「空中特急」が公開された。

旧式のオープンリール・デッキと現代のコンピュータをドッキングさせた圧倒的なパフォーマンスで世界中を熱狂させているOpen Reel Ensemble。”声”をテーマした今作では、七尾旅人、森翔太、Babi、Jan(GREAT3)、神田彩香、クリウィムバアニー等、豪華ゲスト陣が集め実験的ポップスに挑んだ意欲作。

今作のリード曲であり、中心メンバーの和田永が歌う楽曲「空中特急」のミュージックビデオは、錯視(目の錯覚)の効果を利用した映像となっている。映像はメンバーの吉田匡、吉田悠が監督、編集を担当。オープンリールを楽器として扱いメディア・アートの世界でも注目を集めるワンアンドオンリーな存在の彼らならではのユニークなミュージックビデオが公開された。


Open Reel Ensemble - 空中特急 short version (Official Video)

真ん中にある黒い点を目を離さずに見続けると
静止していた「空中特急」の世界が動き始めます。
※錯視の効果には個人差があります


■Open Reel Ensemble
Vocal Code
2015/09/02 release
PCD-25180
定価:¥2,500+税
https://p-vine.jp/music/pcd-25180

01. 帰って来た楽園 with 森翔太
02. 回・転・旅・行・記 with 七尾旅人
03. 空中特急
04. ふるぼっこ with クリウィムバアニー
05. Reel to Trip
06. 雲悠々水潺々
07. Tape Duck
08. アルコトルプルコ巻戻協奏曲 with 神田彩香
09. NAGRA
10. (Life is like a) Brown Box with Jan
11. Tapend Roll
12. Telemoon with Babi

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